IDSA(米国内科学会)(2012年9月18日訂正)(米国感染症学会)のA群溶連菌による咽頭炎のガイドラインが10年ぶりに改訂されていました。
ざっと見たところ、
・迅速検査陽性または培養陽性例のみ抗菌薬治療せよ
・アレルギーがなければペニシリンかアモキシシリンを使え
というところが強調されているようで、前のバージョンと大きな変わりはなさそうだなという印象です(キャリアの扱いとかは前のガイドラインがどうだったか未確認)。
Strep throatと言えば、Centorの基準のCentor先生ですが、ACP(米国内科学会)のホームページの中に、つい最近のCentor先生のレクチャー資料がアップされていました。
内容は「Strep throatとオレ」的な30年間の変遷の話で非常に面白いです。
中でも面白かったのは、2002年のIDSAのガイドラインの記述に関して、
Pharyngitis guideline– Reassure 0 + 1– Test 2, 3 & 4– I become enraged with this quote(私は激怒した。かの引用に)
どんな引用かと言いますと、
Clinical Infectious Diseases 2002・ “We must conclude, therefore, that the algorithm based strategy proposed in the ACP-ASIM Guideline would result in the administration of antimicrobial treatment to an unacceptably large number of patients with nonstreptococcal pharyngitis.”
という部分です。
ちなみにCDCとAAFPの推奨では
Pharyngitis Guideline (CDC & AAFP)– Reassure 0 + 1– Test 2– Test or treat 3 + 4
という感じで、3点以上では場合によっては検査なしで治療も奨めています。
なぜこんな結論の違いが産まれてしまったか?
・ACPは外来で診療する医師にフォーカスを当てているから、患者の治療に明確にプライオリティがある・IDSAはより社会的な部分にフォーカスを当てていて、抗菌薬への耐性化を心配していると
と分析しています(あいつらバイ菌のことしか考えてねぇ、と思っているかどうかはわかりませんが)。
この件に関しては、個人的にはCentor先生寄りの考え方です。
IDSAは咽頭炎で抗菌薬治療の対象にするのはあくまでA群溶連菌(GAS)のみとしていますが、これはリウマチ熱の予防を治療の目的の主眼に置いているからです。GASも基本的には無治療で軽快することが多いが、ほっとくとリウマチ熱を起こしてしまうので、治療しましょうということです。他にC群やG群溶連菌も咽頭炎を起こすものの、リウマチ熱とは関連しないし、GASと同様に抗菌薬なしでも治るからこれらは治療しないし、治療しないから検査もしないという考え方です。
これに対して、Centor先生は最近、GASだけでなく、GCSやGGS、Fusobacteriumも治療対象にした方がよいのではないかと主張しています。
米国を含む先進国ではリウマチ熱は非常に稀になっていて、NNT(Number Needed to Treat)を考えると、果たして本当にリウマチ熱の予防を主眼とするのに意味があるのだろうかということです。
FusobacteriumはLemierre症候群の原因菌として有名ですが、果たして本当に咽頭炎の原因になるかどうかはまだわかっていません。が、案外多いのではないかとCentor先生は主張しています(Fusobacteriumは嫌気性菌なので、通常の培養では検出が困難です。PCR検査で検出された症例で咽頭炎の原因だったのではないかという報告がいくつかあります)。
頻度としてはリウマチ熱よりもLemierre症候群の方が多いそうで、リウマチ熱の予防を考えるならLemierre症候群の予防を考えた方がよいのではないかということです。
また、GCSやGGSも扁桃周囲膿瘍の原因になることもあり、これも治療対象にした方がよいだろうと述べられています。
現時点では、GAS以外の迅速検査がありませんが、BMJ 2000;320:150-4ではCentorスコア3点以上の人を対象にしていて、50%がGAS、25%がGCSで、残りの25%はFusobacteriumと予想しているそうです。Centor基準のスコアの高いものがGCSやGGSによる咽頭炎の予測にも役立つのではないか?ということです。
Centor先生はrecent unpublished studyでもいろいろと検討なさっているそうで、Centorスコア3点以上の80%以上は細菌性なのだから、3点以上は検査なしで抗菌薬を使った方がいいのだ!と主張なさっています。
未発表データが根拠であり、若干論理の飛躍があるようにも思いますが、大雑把にまとめると
・IDSAはGAS以外の細菌は臨床的意義がよくわからないからとりあえず治療対象にはしないという立場
・Centor先生は、臨床的意義は確立していないが、はっきりとしたことが分かるまでは治療対象にしておいた方が安全だろうという立場
のようです。
で、自分はどうしているかというと、現時点ではどちらがよいかともはっきりとしたことが言えないですから、こういう時は中庸の立場をとっておいた方がハズレが少ないだろうということで、
Centor基準またはMcIssacの基準で
・1点以下は検査なし、治療なし
・2〜3点は溶連菌迅速検査陽性例のみ治療
・4点以上は抗菌薬治療
という立場をとっています。
さて件の2012年のガイドラインには
さて件の2012年のガイドラインには
In emergency department practice, a 4-factor algorithm predicted a positive result of GAS throat culture with an accuracy of 32%–56%, depending on the number of required clinical features present [22].However, use of this diagnostic strategy would result in treatment of an unacceptably large number of adults with nonstreptococcal pharyngitis.
またもこのような記載があり、激怒されてしまいそうです。
trivialなツッコミですが、冒頭はIDSA(米国感染症学会)でしょうか。