(「かくれインフルエンザ」よりも「隠れインフルエンザ」と表記されることが多いようなので,修正しました。2018年1月10日修正。)

最近はPCRや迅速検査などが利用できるようになり,従来典型的と考えられていたインフルエンザ(急に高熱がでて,全身筋肉痛や関節痛,咳,鼻汁,咽頭痛などを伴う)の病像よりも軽症のインフルエンザが見つかるようになってきました。
こうした軽症のインフルエンザを巷では「隠れインフルエンザ」と称することもあるそうです。

ただ,「隠れインフルエンザ」の人を早期に見つけて早期に治療して何かよいことがあるかどうかはまだわかっていないのが現状だと思います。

PCR検査,ウイルス抗原検査,血清抗体検査,ウイルス培養で確定したインフルエンザ症例が母集団とすると,軽症(subclinical:疾患定義を満たさないもの)は25.4〜61.8%もあったそうです。それどころか「全く無症状」の人も5.2〜35.5%もあったそうで,意外と不顕性感染が多いのかもしれません(Emerging Infect Dis. 2016;22:1052–6.)。

軽症インフルエンザも重症化する前に治療すべきだ!という考え方もあるかもしれませんが,どんどん軽症の範囲を拡大していくと,全く無症状の人まで検査して治療しなければならなくなってしまいます。

無症状の不顕性感染の人をどうやって見つけるのか?流行シーズン中は国民全員に毎日迅速検査をやりますか?到底意味があるとは思えません。どこかで線を引かなければなりません。

そもそもインフルエンザ重症化のリスクがない人にとって,タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬の効果は有症状期間を平均約1日間短縮する程度しかなく,入院や重篤な合併症は減らさないと言われています(Cochrane Database Syst Rev. 2014;4:CD008965.)。

無症状,軽症患者は典型的なインフルエンザ患者に比べてウイルス排泄期間は短く,軽症患者は典型的なインフルエンザ患者と比べて早く治ると言われています(CLIN INFECT DIS. 2017;64:736–42.)。

抗ウイルス薬を使わなくても早く治る人に対する軽症インフルエンザを早く見つけて抗ウイルス薬で治療するメリットはかなり小さいのではないかと推測します。

抗ウイルス薬を使うと他者への伝播が減るのではないか?という考えもあるかもしれませんが,典型的なインフルエンザでさえ,以下のようにウイルス排泄期間が短縮するかどうかはまだ決着がついていないようです。
・抗ウイルス薬はプラセボと比べてウイルス排泄期間を短縮させた(Lancet Infect Dis. 2014;14:109–18.)。
・抗ウイルス薬はウイルス排泄期間を短縮させなかった(CLIN INFECT DIS. 2010;50:707–14.)。
・抗ウイルス薬の使用は家庭内接触者の発症減少と関連しなかった(J INFECT DIS. 2015;212:391–6.)。

インフルエンザの流行に対してこれら無症状,軽症患者が及ぼす影響はまだよくわかっていません(Public Health Rep. 2009;124:193–6.)。

インフルエンザ以外のウイルス性気道感染症なら人にうつしてよいという道理もありませんし,感染対策上は軽症インフルエンザもインフルエンザ以外の呼吸器ウイルスも変わりないのでは?と思います。すなわち,ウイルスの種類によらず「咳エチケット+手指衛生」が大事です。

ここまではインフルエンザ重症化のリスクがない人について述べました。
では重症化の高リスクの人についてはどうでしょうか?
高リスクの人についても,筆者が知る限り軽症の段階で治療してどうなるか?の質の高いRCTはないと思います。ただ,高リスクの人については,軽症に限りませんが,

・オセルタミビル:(観察研究のシステマティックレビュー,Ann Intern Med 2012; 156:512–524)
- 死亡リスク減少(オッズ比0.23; 95% 信頼区間, 0.13〜0.43)
- 入院リスク減少(オッズ比0.75;95%信頼区間,0.66〜0.89)

・ザナミビル:(RCTの二次解析,Arch Intern Med 2001;161:212-217)
- 抗菌薬を必要とする合併症43%減少

など,死亡や入院リスクを低減させる可能性が示唆されており,軽症のうちに治療しておく,という戦略は一定の合理性があるかもしれません。

というわけでまとめると,健常人の「隠れインフルエンザ」はわざわざ見つけようとしない方が悩みが少なくていいんじゃないかと思います。