「菌血症を伴う肺炎球菌肺炎で単独療法よりも併用療法の方が予後がよい」ことを支持する研究として
Baddour LM, Yu VL, Klugman KP, et al. Combination antibiotic therapy lowers mortality among severely ill patients with pneumococcal bacteremia. Am J Respir Crit Care Med 2004;170:440–4. doi:10.1164/rccm.200311-1578OC
がしばしば引用されます。まあ,確かに重症患者については併用療法の方が予後がよかったという結果なのですが,なぜか「マクロライド併用がよい」という主張に読み替えられることがしばしばです。

本文の結果のところに書いてありますが,併用の内訳は以下の通りです。
The most frequent combination therapies prescribed were beta-lactam/macrolide (14), vancomycin/beta-lactam (12), beta-lactam/aminoglycoside (7), vancomycin/other antibiotic (4), beta-lactam/quinolone (4), double beta-lactam therapy (2), beta-lactam/ chloramphenicol (2), beta-lactam/trimethoprim-sulfamethoxazole (1), and clindamycin/quinolone (1).
47例の併用療法のうちベータラクタム+マクロライドは確かに最も多い14例なのですが,他はバンコマイシン+ベータラクタム(12例)とか,ベータラクタム+アミノグリコシド(7例)とかなんです。これでマクロライド併用がよいと結論づけるのはちょっと無理があると思います。

また,この研究は「前向き研究で示されている」と「前向き研究」という部分が強調されがちですが,以下の前向き研究のサブグループ解析という位置づけだと思います。全体では単独療法と併用療法で予後に有意差はありません。
Yu VL, Chiou CCC, Feldman C, et al. An international prospective study of pneumococcal bacteremia: correlation with in vitro resistance, antibiotics administered, and clinical outcome. CLIN INFECT DIS 2003;37:230–7. doi:10.1086/377534
http://cid.oxfordjournals.org/content/37/2/230.full 
最初から「重症例で併用療法の効果を検証する」というプロトコールだったのかどうかわかりませんので,探索的に仮説を提唱することはできると思いますが,「たまたまそうだった」可能性は十分あると思います。
サブグループ解析で強い結論を導き出せないことの例としては週刊医学界新聞のこちらの記事がとてもわかりやすいです。
もっとも,他の観察研究でもマクロライド併用が死亡率を下げる可能性は示唆されていますので,重症肺炎の初期治療でベータラクタム+マクロライドもしくはベータラクタム+フルオロキノロンという併用療法を否定するつもりはありませんし,おそらくやった方がよいと思います。でも菌血症を伴う肺炎球菌肺炎だとしても重症でないものにまでこれを適用するのはちょっとやりすぎではないかなぁと思ってしまいます。

この辺りの議論は「侮れない肺炎に立ち向かう31の方法」にまとめましたので,興味のある方はご覧いただければと思います。