July 02, 2012

悲鳴伝

悲鳴伝


生きることは戦いだ。
戦いである以上、当然、負けることもある。


悲鳴伝
講談社ノベルズ 西尾維新 著


その悲鳴が聞こえたのは、日本時間で2012年10月25日、午前7時32分。
7時32分31秒から54秒までの23秒間。

全世界に、全人類に届いた悲鳴。

形容しがたい、名状しがたいその悲鳴を聞いた人間のうち、1/3は絶命してしまった。
鼓膜でなくはなく精神を破壊され−絶命してしまった。

人類は、2/3に削られてしまった。


それから半年後。
13歳の中学生・空々空(そらから・くう)は、飢皿木(きさらぎ)診療所の診察室でカウンセリングを受けていた。

自分はなぜ、周囲とズレてしまうのか。
自分はなぜ、怒りも悲しみも何も感じないのか。
そして、なぜ、周囲に合わせて怒りを感じたような、悲しみを感じたような、そんな演技を続けているのか。

空々空は、自分自身でも「わけのわからない」自分を抱えて悩んでいた。

だが、その特異な個性は、ある組織に見出されてしまう。

地球撲滅軍。
「地球と戦う。」と言う、何も知らない人間からしたら荒唐無稽な戦いを続けてきた組織。
地球撲滅軍にスカウトされた夜、空々空は家族を地球撲滅軍の戦闘員・剣藤犬个(けんどう けんか)によって斬殺されてしまう。
いや、家族だけではない。通っていた中学校は中に居た中学生も先生も一緒に跡形も無く焼失し、空の携帯に名前の入っていた人間はひとり残らず殺されてしまった。

強制的な天涯孤独、それは空々を地球と戦うヒーローにする為の通過儀礼。

だが、そんな過酷な状況、異常なる惨状と向き合っても、空々の心は揺れない。
怒らず、悲しまず、動じず、今、自分が生き延びる為にどうしたら良いのか、その為に考え、動く。
それこそが地球撲滅軍の欲した個性。
地球と戦うヒーローに必要不可欠な能力。

そして空々は生き延びるため、たった今、家族を寸刻みにした女性・剣藤と奇妙な共同生活をすることになる。


西尾維新史上、最長巨編。
最長巨編にして、新たなる英雄譚。


ネタバレしないで、感想を書くぜ!!

さて。

確かに長いけど、まぁ、長いというか、本として厚いけど、でも、長さは感じませんでした。

あっと言う間の読了。

集中した。没頭した。夢中になった。面白かった。

「地球」とか「人類を1/3にした大いなる悲鳴」とかの大きな風呂敷は、主人公が置かれる状況に正当性を与えるための単なる設定。
アンチクライマックスな西尾維新らしいストーリー展開で、大きいような、小さいような、それでいてエンターテイメントな愛と友情のヒーロー物語でした。

原作者の西尾維新自身があとがきで書いているように、世の中には「間違っているけれど、事情があって正しいとされていること」っていうのが沢山あって、地球撲滅軍というのはその集大成のようなモノとして描かれている。
関わる人間が多いほど、持つ歴史が長いほど、その間違いというのは訂正しがたく、その間違いを訂正したときに困る人間は多く、正しいとか間違ってるとかいう次元を超えて動き続けてしまう。
それは、人間社会の縮図。

そんな人間社会の縮図に巻き込まれながら、ひとり別枠の視点を持つ主人公が生き延びるために時に戦い、逃げる。

「それは間違ってる。」と、分かっている主人公・空々。
「間違ってるのかも。」と感じているのにに自分の今までを否定できないで「間違っていない。」と思い込むヒロイン・剣藤。
そして「間違ってますけど、それが何か?」と突き抜けてしまったラスボス。

その境遇と、考え方の違いが、最後の悲鳴へと3人を導く。


会社も、国も、宗教も、人間社会ってのは色々な歪みや間違いを抱えて、それさえも飲み込んで回っている。

でも、コレの困ったトコは、外から見ているだけではその歪みや間違いが分からないってトコ。

一度は中に入ってみないと、ソレが分からない。
でも、中に入ってしまうと、その歪みや間違いに染まってしまい、ソレを歪みや間違いと認識できなくなってしまう。
染まらなければ分からない、染まってしまうと分からない。

きっと中学生ってのは、何となく周囲のことが理解できるようになって、自分が所属する社会の歪みや間違いに気付いてきてる。けど、でも、染まりきっていない。
だから、歪みや間違いが許せないし、受け入れられない。そんな時期なのではないだろうか?

このレビューを書いていて、この作品は「裸の王様」とイメージが重なった。

「王様は裸だ!」と叫んだ少年はきっとヒーローだったんでしょう。
でも、王様にとっても、側近たちにとっても、仕立て屋にとっても、親にとっても、迷惑な少年だったでしょうね。

て、コレはこの本の感想から大分ズレちゃったな。


know_the_base at 06:06│Comments(0)TrackBack(0) 日記 | 楽しい本

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔