October 05, 2018

労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱




労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱
ブレイディみかこ 著
光文社新書


全世界を驚かせた2016年6月の英国国民投票でのEU離脱派の勝利。
海外では「下層に広がった醜い排外主義の現れ」とする報道が多かったが、英国国内では「1945年以来のピープル(労働者)の革命」と評す向きも多かった。
世界で最初に産業革命を経験し、最初に労働者運動が始まった国・イギリス。
そこでは労働者たちこそが民主主義を守ってきた。
ブレクジットは、グローバル主義と緊縮財政により社会のアウトサイダーにされつつある彼らが、その誇りをかけて投じた怒りの礫だったのだ。
英国在住、「地べたからのリポート」を得意とするライター兼保育士が、労働者階級のど真ん中から「いつまでも我慢しない」彼らの現状とその矜持の源流を、生の声を交えながら伝える。


自身はブレクジットでは排除される側であるイギリスへの移民であり、夫はまさにブレクジットに賛成した労働者階級という、この問題をリポートするにはうってつけの著者が書くべくして書いた本。

日本で伝え聞く分には、事前情報では明らかに残留派が優勢で、しかも経済的な常識から考えれば残留一択と思われていたブレクジット。

離脱派が勝利したあの時は、遠く離れた国の人間であっても驚いた。

あの時、あの前後、英国の市民の間で何が怒っていたのか
離脱に票を入れたリアルな白人労働者階級たちへのインタビュー
労働者階級たちはどんな政治的背景と立ち位置にあるのかのレポート
そして、英国労働者階級100年の歴史を振り返り、ブレクジットが起こるべくして起こった結末だと導く

あの時、本当のところでは何が起こっていたのか、かなりの核心に迫っている。

実際、移民への危機感や内向きな価値観もあったとは思う。
本当の意味で「離脱」を求めていたと言うよりは、何でも自分たちの好きなように政治を動かし、低所得層を排除していく上層階級たちへのカウンターとしての投票。

そういう意味合いが強かったんだろうということが、勝つと思っていなかった労働者たちへのインタビューから伝わってくる。


実際に英国社会で移民として生きている著者が書くあとがきが、ブレクジット国民投票の残した傷を生々しく伝える。

移民側から見ると、表面では移民に優しく接してくれていた隣人の白人労働者たちが、自分たちを排除する離脱に票を投じたと知ることになる。
ブレクジットさえ無ければ、穏やかに笑いあうことが出来た隣人同士に植え付けられた猜疑心。
まさにそれは開けられてしまった「パンドラの箱」。

選挙に勝つための地固めとしてブレクジット国民投票を行い、選挙どころかブレクジットに負けて退陣したキャメロン元首相は、本当に余計なことをしたとしか言いようがない。
結果から見てしまえば、労働者階級に溜まったマグマを読み違えたとしか、言いようがない。


しかし、労働者階級とか、支配階級とか、階級って存在の痕跡が残る国イギリス。
その階級という意識が残っているのは、歴史の闇であり、面白さ(不謹慎)でもある。

同じく長い歴史を持つ日本に、そこまで色濃くは階級制度の名残がないことを思うと、ちょっと不思議な感じがする。



know_the_base at 20:25│Comments(0) まじめな本 

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