2006年07月

2006年07月29日

厚労相は米国産牛肉を「立場上」食べるらしい。


【PJ 2006年07月29日】-- アメリカ産牛肉の輸入再開が27日に正式決定された。1月に特定危険部位の混入が発覚してから、約半年ぶりの輸入再開である。

 アメリカ・カナダ産牛肉の安全性については、食品安全委員会によって様々な危険性の評価がなされてきた。昨年12月に「輸出国による検査プログラムの遵守を前提とすれば、輸入牛肉と国産牛肉の危険性の差は非常に小さい」という結論が報告されたのを受けて、輸入が再開された。しかし、1月にずさんな検査が明らかになり、輸入が再び禁止されていた。今回の輸出再開の決定は、検査体制を改めて確認したことによるものである。

 27日の川崎二郎厚生労働大臣の記者会見では、記者から「ご自身はアメリカ産牛肉を召し上がりますか」と問われ、「立場上食べる」と答える一幕があった。

 大臣が体を張って食品の安全性をアピールするようになったのは、いつからか。私が記憶する限りでは、カイワレ大根がO-157中毒の原因食品であるという誤った発表を訂正したときに、菅直人厚生大臣(当時)がカイワレサラダをテレビカメラの前で食べたのが最初である。その後、BSEに感染した国産牛が見つかって全頭検査を開始した後には、武部勤農林水産大臣(当時)主催の国産牛肉試食会があった。

 今回の輸入再開でも、厚生労働大臣や農林水産大臣が牛肉を口にする映像が見られるかも知れない。だが、誤報であったカイワレ大根騒動や全頭検査で安全性を確認した国産牛のBSE問題と、今回の輸入再開とでは状況が異なる。日本の消費者はアメリカ産輸入牛肉の安全性を確信しているわけではない。テレビや新聞のインタビューでも「できれば食べたくないですね」と答える人が目立つ。このような不信感が渦巻く中で大臣がアメリカ産牛肉を口にしても、一般消費者の目には「勇気ある(無謀な)大臣」としか映らない。

 今、政府に求められているのは、わかりやすいセレモニーなどではなく、輸入再開を決めた理由について、消費者が納得できるような説明をすることである。「由らしむべし、知らしむべからず」の時代ではない。【了】


kobayashi_ryouichi at 07:27|Permalinkclip!PJ opinion 

2006年07月26日

インターネットの隙間の町で。


【PJ 2006年07月26日】-- 東北総合通信局は、光ファイバーやADSLなどの高速通信網が整備されていない地域で、高速無線技術「モバイルWiMAX」の実証実験に今年10月から着手する。既に有線高速通信網に接続している公共施設に無線基地局を設置し、半径数キロ圏内での無線高速通信技術の確立を目指すとしている。

 私事で恐縮だが、今から2年ほど前、定年を迎えた義父母が田舎暮らしを始めた。時間がゆっくり流れているような漁村の片隅に居を構え、過疎化の進む集落で近所の人たちと楽しく暮らしているようである。高齢者というと、コンピューターやインターネットとは無縁のイメージを抱きがちであるが、それは昔の話。退職記念に職場から贈られた義父のノートパソコンにはデジタルカメラで撮りためた孫たちの写真が詰まっているし、ドローソフトで作った年賀状に住所録データベースとリンクさせて宛名を印刷したりしている。送ってくる携帯メールには、絵文字や顔文字が満載である。

 田舎に住むと、市街地との時差が生まれてくる。朝は日の出とともに目を覚まし、夜は8時ごろにはもう布団に入っている。数年前までは、朝8時に起きて夜12時過ぎに就寝していた義父も、すっかり田舎時間に慣れてしまっている。こうなってくると、電話で直接話す機会はだんだんと減っていく。仕事から帰ってほっと一息ついて8時ごろに電話をかけるのはなんとなくためらわれるし、逆に義父母も、朝早く電話をかけるのは遠慮している様子である。今は、携帯のメールでよくやり取りをしている。気を使わずに連絡ができるのがいいと言っている。

 義父母の住む地域には、光ファイバーもADSLもない。引っ越した直後は、ダイヤルアップでパソコンをつないでいた。だが低速のため、孫たちの写真が添付されたメールを受信するのも一苦労で、すぐに携帯の写真つきメールへと変わった。ネットで日本全国の酒の肴を買っていた義父も、見たこともない果物を買っていた義母も、ふるさと小包に乗り換えた。「田舎の豊かな暮らしを見せ付けてやろう」と始めた写真つきのブログも、すっかり放置されている。

 インターネット技術が日進月歩の最先端の技術であることは間違いないが、その最先端技術を介して日々の挨拶や他愛もない世間話も行き交っている。インターネットが日常生活に根付き、コミュニケーションの手段として欠かせなくなっているが、コミュニケーションを欲しているのは都会にすむ人々だけではない。むしろ、過疎地の高齢者たちこそ、切実にコミュニケーションを求めているのではないだろうか。

 無線通信網ができるらしいことを義父にメールしたら、「SKYPEもできるのかな」と返事がきた。3歳の孫と65歳のおじいちゃんが、テレビ電話で話ができるようになるのは、もうすぐ。【了】


kobayashi_ryouichi at 05:26|Permalinkclip!PJ news 

2006年07月25日

山本圭一氏の罪と罰--反社会的行為を考える


【PJ 2006年07月25日】-- 極楽とんぼの山本圭一氏が、社会人野球の親善試合のために滞在していた函館市で未成年者と飲酒し、淫らな行為をしたとして函館西署に事情聴取を受けた。同氏が出演していたテレビ番組は放送が中止され、芸能プロダクションからは事情聴取が明らかになった直後に解雇されている。

 これまでのマスコミ報道では、1)函館市内の飲食店で、山本氏を含む野球チームメンバー3人と、未成年女性4人とが酒を飲んだ。2)山本氏は、酒を飲んだ後で未成年女性をホテルの自室に誘い、淫らな行為に及んだ。3)その女性は函館西署に被害届を出し、同署は山本氏から任意で事情を聞いた----ことが明らかになっている。被害届を出した女性は、山本氏の淫らな行為が同意の上ではなかったと主張しており(山本氏は否定)、淫行が強姦に当たるかどうかが今後の焦点のひとつである。

 山本氏の行為は、未成年者飲酒禁止法違反(罰則規定なし)、北海道青少年保護育成条例違反(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、加えて、もし同意の上での淫行でなかったとすれば刑法違反(強姦罪、3年以上の有期懲役)の疑いもある。

 山本氏に対してはきわめて厳しい社会的制裁が行われており、特に、所属プロダクションの解雇はタレントにとっては社会的抹殺に等しい制裁である。しかし、任意の事情聴取が行われただけで逮捕状も請求されていない段階での、このような制裁は適当であろうか。法に定められた罪刑とは無関係に社会的制裁の強弱が決められるのなら、それはリンチでしかないように思える。

 有名人が、その知名度を利用して見ず知らずの未成年者と酒を飲み、ホテルに連れ込むなどという行為が、反社会的行為であることは間違いない。倫理的、道徳的に許される行為ではない。だが、反社会的行為だからといって、際限なく制裁を与えることもまた、反社会的行為である。【了】


kobayashi_ryouichi at 12:14|Permalinkclip!PJ opinion 

高校の共学化は必要か?男女共同参画で


【PJ 2006年07月25日】-- 2001年3月、宮城県教委は「男女共同参画社会の基礎作り」と「少子化社会に向けた高等学校の再編」のために、すべての県立高校を共学化する方針を示した。現在、仙台市以外の地域にある県立「別学」高校では共学化が進んでいるが、2007年度以降に共学化予定の仙台市内の県立高校では反対運動が起こっている。

 仙台市内には、仙台第一、仙台第二、仙台第三、宮城第一女子、宮城第二女子、宮城第三女子の6つの男女別学校があり、「ナンバースクール」と呼ばれる県内屈指の進学校である。多くの県立高校では入学者数が定員を下回り、統廃合・共学化による効率的な学校運営が求められているが、ナンバースクールの人気は高く、共学化による財政上のメリットはない。このため、県教委は「男女共同参画」を共学化の目的として前面に押し出している。反対派は「共学化によって共同参画が進むとは限らない」と反論し、共学化を巡る議論は共同参画のあり方へと中心を移しつつ平行線をたどっている。

 2005年10月の県知事選では、一律共学化を見直すことを公約とした村井嘉浩・現知事が当選した。しかし、選挙後に県議会が全会一致で共学化推進の請願を可決し、共学化の決定権を持つ県教委が共学化推進を再確認したことを受けて、「判断を重く受け止め、了承する」と知事が発言し、県政レベルでの共学化の議論には一応の決着がついた。

 しかし、仙台第一OBの梅原克彦仙台市長は「(一律共学化は)宮城県の教育史に残る汚点だ」と発言し、西澤潤一・首都大学東京総長を会長とする仙台第二高校同窓会も共学化撤回の請願を行うなど、有力OBからの反対意見も絶えない。

 来年4月には、ナンバースクールの先陣を切って仙台第二の共学化が予定されている。今年5月には共学化関連予算の執行停止を求める裁判が提起され、6月にはナンバースクール在校生らによる1500人規模の反対デモが行われるなど、反対運動も正念場へと差し掛かっている。【了】


kobayashi_ryouichi at 06:01|Permalinkclip!PJ opinion 

富田メモは靖国参拝反対派の「錦の御旗」か。


【PJ 2006年07月25日】-- 昭和天皇がA級戦犯の靖国合祀に不快感を持ち、合祀以降参拝を中止した、という内容の故富田朝彦・元宮内庁長官のメモが20日、明らかになった。政府・与党がメモに関する積極的な発言を控える一方で、野党をはじめ、首相の靖国参拝中止やA級戦犯の分祀を求める勢力からは、メモの内容を高く評価する発言が相次いでいる。

 戦後の象徴天皇制の中で、天皇は政治的沈黙を守り続けてきた。沈黙を続けてきた昭和天皇の心境がうかがえるという点で、今回のメモが歴史的価値を持つことは言うまでもないが、その政治的利用は象徴天皇制の根幹を揺るがしかねない問題であり、厳しく批判されなければならない。

 しかし、天皇の政治利用を監視すべきマスメディアの多くは「靖国をめぐる論議に影響を与えそうだ」と政治利用を容認すると、とられかねない締めくくりをしている。さらに、ある全国紙のニュースサイトでは「天皇陛下も参拝しない靖国に総理大臣が行くべきだというのは矛盾している」「天皇の言葉を次の総理候補も真剣に考えて、靖国神社問題の新しい解決のあり方を考えるべきだ」という海外の大学教授のコメントを紹介している。このコメントは、明らかに天皇発言の政治利用ではないか。

 靖国問題は、日中・日韓関係、宗教と戦争責任とが複雑に入り組み、9月の自民党総裁選挙では争点のひとつに数えられるなど、ますます混迷の度を深めている。しかし、この混迷は冷静な長時間の議論を通じて解決すべき問題であり、富田メモを「錦の御旗」として振りかざして性急な解決を目指しても、将来に禍根を残すその場しのぎの解決にしかならない。【了】


kobayashi_ryouichi at 05:59|Permalinkclip!PJ opinion