中央アルプス 越百山~南駒ヶ岳       平成28年11月3日ー4日 
                                                   橘(単独)


 以前から気になっていた仙涯嶺と擂鉢窪避難小屋を踏破すべく、2日間で行け
そうな様々なルートを調査するが、どれも大変なアルバイトだ。しかもアルバイト
をしても1銭の収入にもならない。(当たり前だが) 色々思案の末、初日に
急登を11時間も歩く擂鉢避難小屋を諦め、初日はお馴染みの越百避難小屋にお
世話になり、二日目に長躯南駒ヶ岳を回って、北沢尾根という急そうな尾根を
下山するコースを思いつく。最初はツエルトビバークで泊地を自由に設定できる
案も考えたがこの寒さでは本当のビバークになってしまいそうなので止める。


 2日、仕事を終えスーパーで買い物をし、家で炊事をして暫く仮眠して家を出
たのは21時過ぎだった。単独なので止めようと思えばいつでも止められるので
不思議な感じだ。しかし止める理由が思いつかないので出発することにする。
(風邪でもよかったが)高速道を乗り継ぎ、中津川ICを降りて伊那川ダムに着い
たのは午前2時過ぎだった。さすがに一人酒盛りする元気もなくそそくさと車内
ベッドをこしらえて眠りにつく。外は小雨で明日はどうなるのだろう。


 翌3日。目を覚ますとまあまあの天気だ。今日の日程は越百小屋迄なのでゆっく
りと準備して自転車を押して出発する。(730)この自転車は帰りの林道歩き
を短縮する用である。越百山分岐を通り越し、南駒ヶ岳方面に20分ほど歩いた
地点に自転車をデポする。さあ越百小屋へ出発だ。この時点ではまだかすかに
稜線まで上がって越百山付近でツエルト泊で距離を稼ごうという甘い考えも残って
いた。スマホGPSなどで遊びながら第一の水場、第二の水場を越え、気が付いたら
水とビールでザックには合計5。2リットルの液体が入っていた。そこに万が一を
見越してのアイゼンとピッケルの重みも加わり、ありえないような重さとなって
いたが本人は寝不足もありそれに気づかず、ただ黙々と今夜のねぐらを探して
登っていた。約6時間でコスモ小屋に到着。(1400)
DSC_0930



 あれ、鍵がかかって
いる。これは大変だ。小屋の横でツエルトを張ろうかと思っていたら、中から先客
がドアを開けてくれた。なんとも言えない気分だ。幸い真面目そうな青年だった
ので安心する。以前の我々(?)のように宴会目的でこの神聖な避難小屋に入られ
たら真面目な登山者には大迷惑な話だ。小屋では特にすることもないので、ラジオ
を聴いたり早々と晩飯を作ったりとしながら日没を待つ。買って間もないBDのヘッド
ラをザックから出してみたらなんと電気が付いている。一体いつから着いていた
のか? しかも何となく暗い。これでは明日の早立ちに役に立ちそうにないので
慌ててまだ薄明るい外に出て電池交換をする。誤点灯防止にしていたはずだがと
不思議に思うがよくわからない。夜は相当な冷え込みで風も小屋を揺するように
強く、こんな状況では快適にビバークできるはずがない。というか下手をすると低
体温症で死ぬ。あー越百小屋は天国だと山の神様に感謝する。感謝しながらも
明日の行動予定につき悩む。もう明日は下山日だ。越百山でもピークハントして
帰ろうか。いやいや当初計画通り朝3時起きで4時発で暗い中を南駒ヶ岳目指して
突進だ。様々な思いがシュラフの中で交錯する。


 翌4日。4時起床。まだ外は風がきつい。こんな中を歩くのは嫌だ。もう少し寝よう。
 そのうち若者は目を覚まして朝飯を炊いている。うーんお茶のいい香りだ。しかし
体がシュラフから出ようとしない。越百山ピークハントに決定!という安易な選択に
辿り着く。のんびり朝飯(棒ラーメン)を作りながら、空木へ縦走する若者を見送る。
 さて、ラーメンも食ったし、越百やまへとザックに水と行動食をほり込み小屋を出た
瞬間、彼方に聳える南駒ヶ岳に目を覚めさせられた。山がワシを呼んでいる。ワシ
は何をしとるんじゃ。早く全装備を担いでいかねば! 大急ぎで小屋に戻り、デポ
していたその他諸装備をザックに詰め込む。慌て過ぎて最後に財布と鍵を入れた
貴重品ケースを小屋に忘れかけるほどの忙しなさ。自分でも呆れる。いざ出発!
DSC_0946(630)DSCF1256
DSCF1253






ここからは時間との勝負だ。幸い10時間も寝たせいか、昨
日よりは体調もよいようだ。
 とりあえず雪か霜か分からないが上部が白く輝く越百山を目指して、
ダークダックスの「雪山賛歌」を歌いながら駆け足で登る。昨日に晩飯
の鶏鍋を完食し、余分な水も捨てたのでザックもやや軽い。
 1時間で越百山頂到着。なるい山頂だが、その分
風が強い。ザックから目だし帽を取り出しかぶり、ついでにオーバー手袋も装着する。
 休憩もそこそこに眼前に立ちはだかる仙涯嶺を目指して出発。風が強いが天気は
快晴で嬉しくてしょうがない。コースタイム通り1.5時間で仙涯嶺到着。
DSCF1261DSCF1268DSCF1263





写真も
そこそこに出発して南駒ヶ岳を目指す。ここからは急な登りもあり、ややしんど
かった。仙涯嶺付近もやや慎重を要する痩せ尾根だが、落ちたら終わりという雰囲気
でもない。逆に岩場の位置関係か、風が遮断されてビバーク適地もそこそこにある。
 そして、やっとのことで南駒ヶ岳頂上に到着。(10:40)出だしが遅れたが、
まあまあのコースタイムで到着できたので病気持ちでもまだまだ頑張れると自信を
取り戻す。それにしてもザックの肥やしとなったアイゼンとピッケルが重い。どこか
で使いたかったが最後まで重しになってくれた。頂上付近で同宿の青年と再会し、
互いの健闘を称えあう。うーん、いい瞬間だ。この時期に単独でこの山域に入るのは
本当に山好きな人なんだろう。
DSCF1270DSCF1269DSCF1276
DSCF1278




 さて快晴の頂上で祝杯でもあげたいところだが、早本日は下山日だ。今日中に神戸
まで帰らねばならないので早々に下山開始。(11:00)下山は頂上から西に伸びる
北沢尾根を選択する。岩に赤ペンキもマークしてあり、そう迷うような尾根ではないが
頂上から出だしの200mほどは巨岩帯を縫って歩かねばならないのでうっすらと
雪のついた岩で足を滑らすと巨岩に嵌まって骨折は間違いない。ここが今回の最大の
難路であった。人も少ない山域で行動不能となれば日没までにヘリ救助を要請しないと
大変だ。一晩くらいは寒気の中でビバークもできるが体力も消耗してますます状況は
悪くなる。恥ずかしいことではあるが、命には代えられない。そんなことを考えながら
、そんな状況にならぬよう、慎重を期しながら下降する。ある程度高度を下げると
やがて樹林帯となり、連れて気温も上昇する。やがて目だし帽もオーバ手袋も熱くなり
外し、代わりに熊鈴を装着して音を出しながらやや単調な樹林帯の急斜面をひたすら
降りる。途中で登って来られた二人パーティに合い、聞くと擂鉢避難小屋迄行くとのこと。
 この単調な急な樹林帯を良くぞと感心する。下山でも単調で大概にしんどい。
 やがて単調な下降にも飽きたころ、人工物の送受信機(?)が現れ、そこからまた
だらだらと下降させられ、やっとのことで林道に降り着く。(16:00)
 やれやれ、ヘッドラを出さなくて済んだ。ヘッドラ下降なら間違いなく疲れは倍増だ。
 ここで終わりかと思いきや、下り口(逆からなら登り口)から林道が3方向へ伸びて
おり、どれを選べば伊那川登山口まで辿り着くやらわからない。ここから約2時間の
歩きで駐車場のはずだがどっちかいな?とりあえず一番道の良いのを選ぶと谷に降りて
ダムに着いてしまった。これはおかしいと登り返し、反対方向へ伸びる林道を歩く。
 やがておかしな方向へ行きだし、ここでやっと地図とスマホGPSを立ち上げて
真剣に歩くがなんかおかしいのでまた戻り、三つ目の林道を歩きだすとやっと正しい
方向へ向かいだした。道標も何もないので疲れた下山者は必ずここで試練を与えられる
だろう。まだ明るくてよかった。これでヘッドラ下山だったらと想像すると背筋が
寒くなる。(30分のロス。日没後なら∞)
 やがてデポしてあった愛車のマウンテンバイクを発見し、そこからは歩行1.5H
を約10分で降りる。なんとか日没前に下山出来てほっとして、今回の山旅は終わった。
DSCF1296





NOTES:

 ・サイト「天気と暮らす」では直前まで二日ともC評価で登山不適だったが、  
  来てみると初日B、二日目Aだった。どうも信用性に疑問がわく。小屋に
  同泊の方の意見も同じだった。今後はあまり情報を鵜呑みにせず自分で
  考えよう。そもそもあれだけの山数での判定は、かなり大ざっぱで機械的で
  あると考えられる。
 ・最初は稜線直下でビバークでとも考えたが11月の寒気は半端でなかった。
 ・出会った登山者でピッケル持参は私だけだったのでややオーバースペックな
  装備だった。11月後半なら必携か。
 ・最近やたら黒い色の装備がよく売れる。黒い手袋、黒い目だし帽、黒いズボン、
  黒いスパッツ、ザックやテントの中で黒いものばかりですぐ行方不明だ。名前も
  書けない。黒い装備に何の意味があるのか。メーカーはよく考えてもらいたい。
 ・BDのヘッドランプが初日にザックの雨蓋で点灯していた。帰りに車に
  ザックを放り込むとまたもや雨蓋で点灯していた。もちろん誤操作防止は
  しているので、構造上の欠陥(ボタンが大きすぎてザックの中で長押し
  状態となり再点灯してしまう)と思われる。次に買い換えるときは
  ペツルを選ぼう。細かい構造の違いだが単独行では命に関わる。
  また、このような欠陥商品は売るべきでも買うべきでもない。
 ・今回スマホのLINEと地図ロイドで遊びながら(助けられながら?)
  登ったが熱中しすぎると肝心な時に電源喪失になりかねない。緊急用に7日間
  電池の持つガラケーを再度持参することも考えよう。やはりガラケーの実力
  は捨てがたい。
 ・久しぶりに単独で初冬の2865mの山を縦走したが、ひごろ如何にメンバー
  の力を借りて登っていたかが身に染みて分かった。改めて自分の実力を認識
  できた。(初心者にすね毛の生えたレベル位)
 ・最後に天候の運を少し残しておいてくれたT姉に感謝致します。