大峰 岩本谷 2020年6月24日 S川、橘(記)
30年前の大峰のエアリアマップには点線で登下降が示される、稲村が岳への
最短ルートである岩本谷へやっと訪れることができた。あり難いことにネットの
普及により、どんな沢でもたいていの所は遡行の記事が出てくる。最早、現地まで
行かずともバーチャルで遡行しているような感覚で、実際に遡行するのは脳内に
刻み込まれた滝の出現状況を実際に体験して追認するような感覚だ。実際、
有名ルートでは誰かの頭に着けたカメラを通して自分も其処を歩いたような錯覚?
に満足できることがあるだろう。文明の発達はもろ刃の功罪を生み出す。
よくないこととは思いながら、ネットの記事を頭に入れて臨んでしまった。
前夜10時、JR西宮駅に集合して14年目の古車にザックを押し込んで洞川
渓谷へと車を走らす。ナビに適当に目的地を設定したら、着いたのはモジキ谷の
取り付きで、暗い3桁国道をクロモジ尾の方へ暫く戻る。世界遺産のおかげか、
年々このあたりへ来る道路も整備され、トンネルなどを突っ切って約2時間少しで
来ることができた。30年前なら吉野の辺りから暗い山縁を縫う3桁国道を延々と
崩落の恐怖に怯えながらそこだけで2時間はかかっていた。遠い昔の話だが。
クロモジ尾の橋の袂に到着し、早速入山前夜祭を行う。話題は尽きることが無い。
翌5時起床6時半発。久しぶりの沢装束に身を包み、いざ出発。天候は曇り、
時々晴れ。今日一日は持ちそうだ。適当な所から沢に入り、眠さもあり黙々と歩く。
歩きながらネットで見たような滝が次々と現れ、興ざめする。ネットは便利なのだが。
スケールは小さいが、あまり人が入っていないためか苔の蒼さは素晴らしい。
出てくる滝も巻きは全くなく全てノーザイルで直登できる。これは楽しい。
なんか右足がよく滑るなと見てみたら、6年前に自分でフエルトを貼り直し、
本日の初お披露目となった沢靴のフエルトが知らぬ間に全部剥がれて取れていた。
アイヤー、アイヤー(北島三郎調で)これからまだ沢は続きそうだし、これは
叶わんと言うことで肩にあったダイニーマのスリングを二本犠牲にし、底のとれた
沢靴に固く巻いて滑り止めとする。2千円分のダイニーマとも今日でお別れかと
嘆くうち、神のお恵みか林業用の細ロープが流木に巻き付いて留まっているのを
発見。早速ナイフをだし、数メートルを頂いてダイニーマの代わりに巻き付ける。
やれやれこれでまたこの2本のダイニーマに体重を乗せられる。苔むした
沢に癒されること約3時間で源頭部らしき所に到達する。ここから大日キレット
までドンピシャで達するのには若干緊張が強いられるが、S川君の持ってきた
山っぷ?が威力を発揮し、我々の現在地を的確に示してくれる。私の装備した
スマホの地図ロイド?は月末によるデータ容量切れで地理院地図がダウンロード
できず?反応がしなくなってしまった。このあたりよく分からんが月末にスマホ
GPSに頼って登山するのはやや危険だと感じた。
源頭部で水が無くなってから、傾斜が急に増し、ひーひー言いながら登る。
(ワシだけか?)赤テープがないのはあり難く、自分でルートを探す楽しみが
残されている。(GPSを見ながらではあるが。。)そうこうするうちに
大日の尖塔が見え隠れしだし、やがて遂に直下にあるCSにぶち当たる。この
岩が落ちてきたら大変だが。藪漕ぎ3時間弱でやっと登山道に出、そこから
約20分歩いて稲村岳頂上展望台に着く。何度来ても眺めのよいところだ。
無粋な立て看板だけが興ざめだが。。(内容はあえて伏せます)
コーヒーを沸かし、至福の時間を過ごしてから下山に取り掛かる。別の単独の
登山者から岩本谷は降りられますかと尋ねられたが、登りでも文明の利器に
頼ったので、下りなら地図だけでまともに下りるのはかなり大変ではと話す。
さて、心配したクロモジ尾への下りの分岐点は登山者が増えているためか
明瞭になっており、所どころにある(どうでも良い所に多い)赤テープに導かれ
ながら高度を下げていく。最後、尾根を外れ、進行左側にそれて下りていく箇所が
やや要注意で、見落として真っすぐに行くとすぐ道が薄くなる。後戻りできない人は
要注意だ。やがて林業用の目印テープが多くなり、目出度くクロモジ橋の袂に
下りる。下りは約3時間。午後3時半。汚れた身体(精神はやや清められたが)を
洗い流すため、温泉も考えたが、どうせ入ってもこの暑さではまた汗が吹き出て
来るだろう、ということで帰り道の適当なところより沢に戻り、沐浴とする。
男同士で良かった良かった。(変な意味と違いますよ) 浮いた温泉代は
各自家人への手土産とする現地名物柿の葉寿司となって、目出度く喜ばれることと
なった。目出度し。目出度し。
同行のS川君、有難うございました。又行きましょう!
追記:ヒルは見かけなかった。魚影も見当たらず(残念)。