【秘境のビックウォール挑戦への過程】
2019年 春、秘境の地 大峰山系七面山(標高1624m)の南壁にとんでもないフリールート(450m)が完成した。
その噂は、某ブログだけでなく、Rock&Snow084 2019年夏号に掲載されてからは、各所から登攀記録を目にした。
そのころの僕は、2020年に人生の長期休暇として、アメリカのロングトレイルを歩き、ヨセミテでクライミングを楽しむ予定としていた。しかし、世界を蝕むコロナウイルスにより、延期に次ぐ延期で、夢と挑戦は儚くも散っていた。そんな中、七面山のフリールート化は、後光がさすような気持ちであった。
ただ、この壮大なチャレンジを誰かとしたいな。という気持ちはあれど、誰か一緒にいってくれる人いないかな。と他力本願的な気持ちであった。
その気持ちが通じたのか、OKDさんから「七面山行きたいね。」と声がかかる。
そして、8月には岩瀬さんと3人で挑戦することに。
それからは、これまでに経験したことのないビックウォールに対して、1年をかけてコツコツとトレーニングして、半年以上かけて食生活のコントロールをした。
しかし、2021年3月OKDさんは仕事の都合で、コンスタントにトレーニングをすることが難しくなったこともあり、挑戦を断念することとなった。
何度か説得したが、決意は固かった。
岩瀬さんも思うところはあったと思うが、僕としては、この挑戦を成し遂げるために、気持ちを切り替えて、5月下旬~6月上旬に是が非でも行こうと思った。
5月中旬になると、例年より20日ほど早い梅雨入りで「5、6月のロングホープは諦めるしかないか。」と思い、アプローチの偵察山行に切り替える段取りをしていた。
当日が近づくにつれて、なぜか晴れ予報に。
内心、「え?これ行けるんちゃう?岩瀬さん偵察山行のつもり満々だけどいいかな?でも、もうちょっと練習してから行きたいな。でも、ここを逃すと秋になるし、(その秋に)天候不良で撤退になったら、今年何も残らんよな。努力はしてきたし、挑戦してみたい。」といろいろな感情が巡りつつ、パートナーの岩瀬さんにlineをしてみる。
話し合いの結果、当日までに天候の急変はあるかもしれないが、
初日を楊枝ヶ宿(BC)への移動+アプローチの偵察山行、
2日目アタック+BC泊、
3日目下山
という計画でいくことになった。
今回の山行により、アプローチ・下降路に関する不明瞭さはなくなったと思いますので、岩瀬たの記録も合わせて、ご参照下さい。
以下、登攀記録です。
【メンバー】
岩瀬た、林(記)
【装備】
・ヘルメット 各自
・ハーネス 各自
・ビレイ機 各自
・PAS 各自
・8.9mmx60mシングルロープ x1
・3mmx60m PEロープ x1(撤退時懸垂下降ロープ回収用)
・クイックドロー短 x8
・クイックドロー長 x6
・アルパインドロー60cm x2
・スリング60cm x2(予備)
・カラビナ x2(予備)
・スリング120cm x2(終了点用)
・環付カラビナ x6(終了点用)
・プルージック
・食料合計600g
・水分合計2.7L(凌駕粉末入り)
・応急処置セット(テーピング、ビニール手袋、塗り薬)
・ロープナイフ 各自
・アプローチシューズ 各自
・ウィンドブレーカー 各自
・ヘッドライト 各自
・ツェルト x1
・16Lザック x1
【当日の行程】
2021.05.30(日)
03:00 起床・朝食
04:00 楊枝ヶ宿 出発
04:35 下降点(着)
04:56 アプローチ開始
05:40 取付到着
06:06 1P目登攀開始 岩瀬
06:50 2P目 林
07:20 3P目コンテ 終了
07:40 4P目 林
08:25 5P目 岩瀬
09:15 6P目 林
09:50 7P目 岩瀬
10:20 8P目 岩瀬
11:50 9P目+10P目コンテ 林
12:50 11P目開始 岩瀬
13:40 12P目終了→コンテ
13:45 七面山山頂
14:20 下降点着 30分程休憩・ギア整理
15:30 楊枝ヶ宿 到着
登攀時間:およそ7時間30分
【天候】
快晴、微風
取りつき時点ではミドルウェアを着ていたが、3P目以降は半そで。
【岩の特徴】
岩質:不明、チャート?脆くて、浮石は多め。
南向きにあるが、10時台に陽がさしたが、その後は日陰。
夏以降は陽があたる?3日間を通して、みていたが南壁は影っていた。
【詳細】
アプローチの詳細は、岩瀬さんの記録参照。
前日の偵察で確認したコルで、ロウト状のガレたルンゼを歩いて下りれるところまでいく。
勝手に勇者の剣と名付けた倒木を立てた場所を目印に、西側にトラバースしながら進んでいくと、白テープなどが散見される。
そのころには岩壁が目前に。
そのまま、岩壁を沿っていくと、long hopeの基部に到着(偵察の甲斐もあって、下降を開始して45分程で到着)。
予定していたアプローチが1時間以上早く完了して、ホッとすると2人は静かに雉うちにでかけた。
1P目 5.10-(52m)B12 岩瀬 OS
とうとう始まったが、染み出しがひどく、使えそうなホールドもスタンスもかなり悪そう。
そして、微妙なランナウトが続き、グレード以上の恐怖感を味わう。
さらに、52mのロングピッチのため、ロープがでるわ、でるわ。
ビレー解除のコールがかかった時に残ったロープの長さにゾッとした。
フォローのぼくも、濡れて、何度か手が抜けることがあったが、無事に抜ける。悪かったー。
振り返ると、一番怖かったのはここだったかも。笑
2P目 5.8 (48m) B9 林 OS
濡れているが、ホールドもスタンスもガバのため登れる。
烏帽子岩で、もしものために小雨の降る中でもトレーニングをしていたため、1P目以上の恐怖感はなかった。岩瀬さんもすんなりあがってくる。
3P目 コンテ30m
露出した岩やブッシュをてがかりに抜ける。あえてグレードつけるとしたら、5.6くらい?
4P目 5.11‐ (45m) B12 林 OS
アプローチから1、2P目をこなした後で、身体もだいぶ温まっていたので気合が入る。
気合が入るとなぜか、雉うちに行きたくなる。とりつきでも雉をうったが、ビレイ点から離れたささやぶの中で再度雉うちに専念する。反省点は、笹でおしりを拭かない方が身のため。
気を取り直して、リスタート。階段状のラインを右上していくと、目の前にフェイスが表れる。
細かいホールドとスタンスでバランスをとりながら進む。核心超えた!と思ったが、1,2歩上がらないとクリップをさせてくれない。なんとも、面白いほどにドSなランナウト。
無事にロングホープの核心の1つ目をオンサイトしたことにホット一息。
フォローの岩瀬さんは、ザックを背負いながらも、安定した登りで核心に迫る。慎重に手をだして、安定してノーテンで抜けてきた。フォー!!強い!笑
「フォローだからいけたんですよ。ランナウトにいつからそんなに強くなったですか!」と謙遜の言葉。
僕からしたら、ザック(6,7㎏)を背負って、ノーテンで登ってきた方が異常だけどな。
5P目 5.10+(40m)B10 岩瀬 OS
勢いついた岩瀬さんだが、5P目リード。
ちょっとだけ傾斜が強くなる場所でいったりきたり。あそこが悪いのか。悪そうな場所を抜けた後に「フォローしんどいと思います。」と。
4P目をオンサイトして自信がついているとは言え、歩荷に弱い僕としては不安がよぎる。基本的にはガバで進んでいくが、急にめぼしいホールドがなくなる。これであがるのかと、必死に足をあげて突き進む。息も絶え絶えにあがりきる。感想としては、フォローはしんどい。
6P目 5.10 (30m)B12 林 OS
岩の弱点をみつけながら、S字にトラバースをしながら進んでいく。とても楽しいが、ロープスケール以上に、長く感じ、アルパインヌンチャクやクイックドロー(長)の使用場所を考えさせられる。
7P目 5.10‐(25m)B8 岩瀬 OS
出だしが悪いが、すっきりとしたストレートライン。このロングルートの中で一番短いクライミングピッチ。フォローでいきながら、馴染み深いピッチスケールに安堵する。
8P目 5.11‐(50m) B16 岩瀬
つるべであれば、僕が登る順番であるが、以前から核心ピッチを1人1ピッチこなすことを話していた。むしろ、計画などを一生懸命たててくれた岩瀬さんにこそ、リードトライして欲しいと思っていた。最初は自信なさそうであったが、スタートしてから気持ちの変化があったのか、7P目で合流すると、「やってもいいですか?」と。もちろん、断る言葉は用意していない。
岩瀬さんの「じゃ、行きます。」と言った後に、背中を両手でトンとたたいて送り出す。
この8P目は、途中でピッチをきることができ、ピッチをきると10c程のルートが連続する形になっているらしい。
1つ目の核心(3,4P目間)は細かいスタンスとホールドで繊細な登りでスルりと超えていく。2つ目の核心で、何度もいったりきたりをくりかえす。ビレイ点からも姿が見えており、緊張が伝わってくる。ついに、「行きます!」とコールがあり、豪快なボルダームーブで抜けていく。そのあとも、微妙に悪いらしく、慎重に登り進めて見事オンサイト!すごい!!ここにきて、まさかのオンサイトグレード更新!すごい集中力と粘りだった。
ただ下からみていた僕は、「あれはフォローは無理や。」と悟った。笑
フォローでスタート。最初の核心は難しいながらもいけるやろ。と踏んでいたが、左足がかけてあえなくフォール。ガーン。気を取り直していくと、すんなり超えられた。
2つ目の核心は、ムーブを繰り出したい気持ちは山々だが、ザックを背負った状況でこれはきつい。敢え無く再フォール。フォールしたおかげで、ムーブの体勢が作れたため、なんとかあがる。
空身でリードしていても行けてたかどうかわからない。
終了点で出迎えてくれた岩瀬さんは、どこか得意げで、幸せそうだった。このピッチは岩瀬さんの得意系の課題だったと思う。ベストマッチ!!
9P目 5.10(45m)B16 林 OS
出だしのハングを超えて、フェイスにあがりやや右上する。ルートが長く、最後はロープが重たい。核心ピッチを超えたことと、先ほどフォローでフォールしたこともあり、確実に進みたい気持ちと、景色をゆっくり楽しみながら登った。が、それにしても時間をかけすぎた。
10P目 コンテ(25m)B2
2本のFIXロープをガイドにセルフをとりながら進む。
着いた先には、神々しく輝く金属プレート。二人とも、にんまり。
足元には、赤みを帯びたショウジョウバガマが群生しており綺麗だった。
11P目 5.10‐(48m)B15 岩瀬
クライミングとしては感動のフィナーレとなるピッチ。
出だしが微妙に悪いが、あとは最後に高度感も頼みながら、ずんずんピークに突き上げていく。
終了点手前もなんだか考えさせられたが、分かればすんなりと超えられた。
12P目 コンテ(10m)B1
一歩が悪い。ホースほどのグラグラの木の根っこをつかみ、左上にある大木をとりにいく。無茶苦茶怖かった。岩瀬さん曰く、直登ではなく、右側に岩の露出があってそこを足掛かりにあがると、なんでもなかったと。。。なんやねん。
何はともあれ、、、
七面山南壁 long hope 完登!
しかも、チームオンサイト!やったー!!
そのまま、コンテで上がっていくと、七面山(東峰)山頂に到着!
いままでは解放がありすぎて、樹林帯に入って、そんなに展望はよくないけど、何とも言えない高揚感で胸がいっぱいだった。
その後は、東峰から楊枝ヶ宿に向かって歩き、下降路のコルにおりる。
そよ風が心地よい青空の下で、しばらくその場に座って余韻に浸った。
夕食は、ビールとおつまみを2人で分け合いながら、焚火をして過ごした。
最高の思い出と経験になった。
【考察】
・普段の山行から綿密な計画を練る岩瀬さんだが、今回の下調べは特にすごかった。
ブログ・雑誌・登山大系・人伝いの話から、大峰奥駆道のセクションハイク歴をもとに、行ったことあんの?と思わせるくらいの計画を立ててくれた。また、山行中もズボラな僕とは違い、確実な行動指針を示してくれた。
当たり前や!と言われること承知だが、山に行く前の計画と準備段階が、一番重要と感じた。
・アプローチ問題を前日に解決できていたため、その後のクライミングも焦らず、集中して取り組むことができた。
1、2P目以外は、染み出しもなく、好条件でのクライミングとなった。
9P目以降は、景観を楽しむことや確実性をとったため、ダラダラとした登りとなったが、時間・水・食料・体力など余力を残して登攀することができた。
・クライミング能力としては、高グレードを登れることに越したことはないが、それぞれの長いピッチ、その連続性を考えて、クライミング中のレストの技術は必要となってくると感じた(2人とも、不動岩タイコ5.11cが登れていたことが大きかったと口を揃えた)。
また、ローカルエンデュランスや、歩荷クライミングなどの基礎体力の向上が必要。
・ロングルートであるため、重量管理をシビアに考え、食事・水分量をはじめ、持っているギアの中で可能な限り軽量化を図った。
・軽量化を意識するあまり、今回は8.9mm 60mシングルロープ1本で行くことにした。
敗退する時はPEロープと連結させたロープを垂らして、1本懸垂でおりた後にPEロープを引くと回収できるという方法にした。
⇒本来であれば、ダブルロープもしくはツインロープでいくことがいいと思います。もしよろしければ、コメント欄などにご意見をください。
・食事・水分については、それぞれで必要な分としていた。
重さ問題もあるため、食事は2人で600g程度、水分は合計3L未満になるようにした。
食事は、岩瀬さんはプロテインバー3本とナッツ類(およそ1146kcal)、林はえい羊羹2本、粉飴1袋、マグオン2つ、トレイルバター2つ(およそ966kcal)とした。
水分については、「凌駕スマッシュウォーター」という必殺アイテムを駆使したグリセリンローディングを取り入れた。グリセリンについてや、ローディング方法については、詳細は省くが、振り返って考えると効果は抜群であった。
実際の水分摂取量は、行動時間を短縮することもできたことも誘因にあると思うが、2人で1.7Lであった。
以上、山行報告でした。
____________________________________________
今回の山行とは、毛色の違う話になるが、振り返ってみると、緊急事態宣言中の山行は必ずしも、すべての人に受け入れられるものではなかったと思う。
あの人は。どういうつもりなのか。周りのことを考えていない。だとか、、、
山をやらない人からしたら、否定的な意見もあると思う。
このロングホープを通して感じたことは何事にも変えがたい経験となったと同時に、よく言われる山の言葉は嘘だと感じた。
「山は逃げない。」
僕は、アメリカに行くことができない日々を悶々と過ごしている。
行くと決めて、準備を進めていた段階から、周りに話をしていたこともあり、「(職場に)まだおるん?」とか、冷やかしをうけることもある。とても切なくなる。
今回OKDさんは、七面山のロングホープに行きたかったと思う。仕方のない理由だったかもしれないけど、僕たちの山行を支えてくれて、アドバイスをしてくれて、直近では壮行会をしてくれたことや、激励の言葉をくれたことには、感謝しかない。
話はかわるが、5年前、僕の知り合いは熊本の震災で死んだ。震災の影響で、生活環境が大きく変わったことが死因となった。その人は、底抜けの明るさで周りを照らす太陽のような人だった。その人を見るとなぜかみんなが笑顔だ。いつでも会えると思っていた人が突然いなくなる。やろうとしていた夢や野望はそこで潰えた。
コロナに限らず、年齢、仕事、健康、ライフイベント、天候などを理由として、職業クライマーでもなければ、絶好の機会を逃すことは容易にあり得る。
そういう意味では、「山は遠ざかる。」と思う。
だから、僕はここぞというチャンスを逃したくない。
「チャンスば、つかんでいけよ。(チャンスをつかめよ。)」と、その人が言ったように。
そして、一生懸命やっている人や物事については応援したい。
2018年6月に神戸山岳会に入会して、ちょうど3年経った。
会員のみんなや、その他の人々と様々な山行をともにしたが、山が与えてくれた感動を仲間と共有できる今が1番楽しいし、心が満たされている。
人の思いを人がけなす世の中ではなく、人の思いを人が支える世の中であって欲しいと思う。
have a nice climbing.
2019年 春、秘境の地 大峰山系七面山(標高1624m)の南壁にとんでもないフリールート(450m)が完成した。
その噂は、某ブログだけでなく、Rock&Snow084 2019年夏号に掲載されてからは、各所から登攀記録を目にした。
そのころの僕は、2020年に人生の長期休暇として、アメリカのロングトレイルを歩き、ヨセミテでクライミングを楽しむ予定としていた。しかし、世界を蝕むコロナウイルスにより、延期に次ぐ延期で、夢と挑戦は儚くも散っていた。そんな中、七面山のフリールート化は、後光がさすような気持ちであった。
ただ、この壮大なチャレンジを誰かとしたいな。という気持ちはあれど、誰か一緒にいってくれる人いないかな。と他力本願的な気持ちであった。
その気持ちが通じたのか、OKDさんから「七面山行きたいね。」と声がかかる。
そして、8月には岩瀬さんと3人で挑戦することに。
それからは、これまでに経験したことのないビックウォールに対して、1年をかけてコツコツとトレーニングして、半年以上かけて食生活のコントロールをした。
しかし、2021年3月OKDさんは仕事の都合で、コンスタントにトレーニングをすることが難しくなったこともあり、挑戦を断念することとなった。
何度か説得したが、決意は固かった。
岩瀬さんも思うところはあったと思うが、僕としては、この挑戦を成し遂げるために、気持ちを切り替えて、5月下旬~6月上旬に是が非でも行こうと思った。
5月中旬になると、例年より20日ほど早い梅雨入りで「5、6月のロングホープは諦めるしかないか。」と思い、アプローチの偵察山行に切り替える段取りをしていた。
当日が近づくにつれて、なぜか晴れ予報に。
内心、「え?これ行けるんちゃう?岩瀬さん偵察山行のつもり満々だけどいいかな?でも、もうちょっと練習してから行きたいな。でも、ここを逃すと秋になるし、(その秋に)天候不良で撤退になったら、今年何も残らんよな。努力はしてきたし、挑戦してみたい。」といろいろな感情が巡りつつ、パートナーの岩瀬さんにlineをしてみる。
話し合いの結果、当日までに天候の急変はあるかもしれないが、
初日を楊枝ヶ宿(BC)への移動+アプローチの偵察山行、
2日目アタック+BC泊、
3日目下山
という計画でいくことになった。
今回の山行により、アプローチ・下降路に関する不明瞭さはなくなったと思いますので、岩瀬たの記録も合わせて、ご参照下さい。
以下、登攀記録です。
【メンバー】
岩瀬た、林(記)
【装備】
・ヘルメット 各自
・ハーネス 各自
・ビレイ機 各自
・PAS 各自
・8.9mmx60mシングルロープ x1
・3mmx60m PEロープ x1(撤退時懸垂下降ロープ回収用)
・クイックドロー短 x8
・クイックドロー長 x6
・アルパインドロー60cm x2
・スリング60cm x2(予備)
・カラビナ x2(予備)
・スリング120cm x2(終了点用)
・環付カラビナ x6(終了点用)
・プルージック
・食料合計600g
・水分合計2.7L(凌駕粉末入り)
・応急処置セット(テーピング、ビニール手袋、塗り薬)
・ロープナイフ 各自
・アプローチシューズ 各自
・ウィンドブレーカー 各自
・ヘッドライト 各自
・ツェルト x1
・16Lザック x1
【当日の行程】
2021.05.30(日)
03:00 起床・朝食
04:00 楊枝ヶ宿 出発
04:35 下降点(着)
04:56 アプローチ開始
05:40 取付到着
06:06 1P目登攀開始 岩瀬
06:50 2P目 林
07:20 3P目コンテ 終了
07:40 4P目 林
08:25 5P目 岩瀬
09:15 6P目 林
09:50 7P目 岩瀬
10:20 8P目 岩瀬
11:50 9P目+10P目コンテ 林
12:50 11P目開始 岩瀬
13:40 12P目終了→コンテ
13:45 七面山山頂
14:20 下降点着 30分程休憩・ギア整理
15:30 楊枝ヶ宿 到着
登攀時間:およそ7時間30分
【天候】
快晴、微風
取りつき時点ではミドルウェアを着ていたが、3P目以降は半そで。
【岩の特徴】
岩質:不明、チャート?脆くて、浮石は多め。
南向きにあるが、10時台に陽がさしたが、その後は日陰。
夏以降は陽があたる?3日間を通して、みていたが南壁は影っていた。
【詳細】
アプローチの詳細は、岩瀬さんの記録参照。
前日の偵察で確認したコルで、ロウト状のガレたルンゼを歩いて下りれるところまでいく。
勝手に勇者の剣と名付けた倒木を立てた場所を目印に、西側にトラバースしながら進んでいくと、白テープなどが散見される。
そのころには岩壁が目前に。
そのまま、岩壁を沿っていくと、long hopeの基部に到着(偵察の甲斐もあって、下降を開始して45分程で到着)。
予定していたアプローチが1時間以上早く完了して、ホッとすると2人は静かに雉うちにでかけた。
1P目 5.10-(52m)B12 岩瀬 OS
とうとう始まったが、染み出しがひどく、使えそうなホールドもスタンスもかなり悪そう。
そして、微妙なランナウトが続き、グレード以上の恐怖感を味わう。
さらに、52mのロングピッチのため、ロープがでるわ、でるわ。
ビレー解除のコールがかかった時に残ったロープの長さにゾッとした。
フォローのぼくも、濡れて、何度か手が抜けることがあったが、無事に抜ける。悪かったー。
振り返ると、一番怖かったのはここだったかも。笑
2P目 5.8 (48m) B9 林 OS
濡れているが、ホールドもスタンスもガバのため登れる。
烏帽子岩で、もしものために小雨の降る中でもトレーニングをしていたため、1P目以上の恐怖感はなかった。岩瀬さんもすんなりあがってくる。
3P目 コンテ30m
露出した岩やブッシュをてがかりに抜ける。あえてグレードつけるとしたら、5.6くらい?
4P目 5.11‐ (45m) B12 林 OS
アプローチから1、2P目をこなした後で、身体もだいぶ温まっていたので気合が入る。
気合が入るとなぜか、雉うちに行きたくなる。とりつきでも雉をうったが、ビレイ点から離れたささやぶの中で再度雉うちに専念する。反省点は、笹でおしりを拭かない方が身のため。
気を取り直して、リスタート。階段状のラインを右上していくと、目の前にフェイスが表れる。
細かいホールドとスタンスでバランスをとりながら進む。核心超えた!と思ったが、1,2歩上がらないとクリップをさせてくれない。なんとも、面白いほどにドSなランナウト。
無事にロングホープの核心の1つ目をオンサイトしたことにホット一息。
フォローの岩瀬さんは、ザックを背負いながらも、安定した登りで核心に迫る。慎重に手をだして、安定してノーテンで抜けてきた。フォー!!強い!笑
「フォローだからいけたんですよ。ランナウトにいつからそんなに強くなったですか!」と謙遜の言葉。
僕からしたら、ザック(6,7㎏)を背負って、ノーテンで登ってきた方が異常だけどな。
5P目 5.10+(40m)B10 岩瀬 OS
勢いついた岩瀬さんだが、5P目リード。
ちょっとだけ傾斜が強くなる場所でいったりきたり。あそこが悪いのか。悪そうな場所を抜けた後に「フォローしんどいと思います。」と。
4P目をオンサイトして自信がついているとは言え、歩荷に弱い僕としては不安がよぎる。基本的にはガバで進んでいくが、急にめぼしいホールドがなくなる。これであがるのかと、必死に足をあげて突き進む。息も絶え絶えにあがりきる。感想としては、フォローはしんどい。
6P目 5.10 (30m)B12 林 OS
岩の弱点をみつけながら、S字にトラバースをしながら進んでいく。とても楽しいが、ロープスケール以上に、長く感じ、アルパインヌンチャクやクイックドロー(長)の使用場所を考えさせられる。
7P目 5.10‐(25m)B8 岩瀬 OS
出だしが悪いが、すっきりとしたストレートライン。このロングルートの中で一番短いクライミングピッチ。フォローでいきながら、馴染み深いピッチスケールに安堵する。
8P目 5.11‐(50m) B16 岩瀬
つるべであれば、僕が登る順番であるが、以前から核心ピッチを1人1ピッチこなすことを話していた。むしろ、計画などを一生懸命たててくれた岩瀬さんにこそ、リードトライして欲しいと思っていた。最初は自信なさそうであったが、スタートしてから気持ちの変化があったのか、7P目で合流すると、「やってもいいですか?」と。もちろん、断る言葉は用意していない。
岩瀬さんの「じゃ、行きます。」と言った後に、背中を両手でトンとたたいて送り出す。
この8P目は、途中でピッチをきることができ、ピッチをきると10c程のルートが連続する形になっているらしい。
1つ目の核心(3,4P目間)は細かいスタンスとホールドで繊細な登りでスルりと超えていく。2つ目の核心で、何度もいったりきたりをくりかえす。ビレイ点からも姿が見えており、緊張が伝わってくる。ついに、「行きます!」とコールがあり、豪快なボルダームーブで抜けていく。そのあとも、微妙に悪いらしく、慎重に登り進めて見事オンサイト!すごい!!ここにきて、まさかのオンサイトグレード更新!すごい集中力と粘りだった。
ただ下からみていた僕は、「あれはフォローは無理や。」と悟った。笑
フォローでスタート。最初の核心は難しいながらもいけるやろ。と踏んでいたが、左足がかけてあえなくフォール。ガーン。気を取り直していくと、すんなり超えられた。
2つ目の核心は、ムーブを繰り出したい気持ちは山々だが、ザックを背負った状況でこれはきつい。敢え無く再フォール。フォールしたおかげで、ムーブの体勢が作れたため、なんとかあがる。
空身でリードしていても行けてたかどうかわからない。
終了点で出迎えてくれた岩瀬さんは、どこか得意げで、幸せそうだった。このピッチは岩瀬さんの得意系の課題だったと思う。ベストマッチ!!
9P目 5.10(45m)B16 林 OS
出だしのハングを超えて、フェイスにあがりやや右上する。ルートが長く、最後はロープが重たい。核心ピッチを超えたことと、先ほどフォローでフォールしたこともあり、確実に進みたい気持ちと、景色をゆっくり楽しみながら登った。が、それにしても時間をかけすぎた。
10P目 コンテ(25m)B2
2本のFIXロープをガイドにセルフをとりながら進む。
着いた先には、神々しく輝く金属プレート。二人とも、にんまり。
足元には、赤みを帯びたショウジョウバガマが群生しており綺麗だった。
11P目 5.10‐(48m)B15 岩瀬
クライミングとしては感動のフィナーレとなるピッチ。
出だしが微妙に悪いが、あとは最後に高度感も頼みながら、ずんずんピークに突き上げていく。
終了点手前もなんだか考えさせられたが、分かればすんなりと超えられた。
12P目 コンテ(10m)B1
一歩が悪い。ホースほどのグラグラの木の根っこをつかみ、左上にある大木をとりにいく。無茶苦茶怖かった。岩瀬さん曰く、直登ではなく、右側に岩の露出があってそこを足掛かりにあがると、なんでもなかったと。。。なんやねん。
何はともあれ、、、
七面山南壁 long hope 完登!
しかも、チームオンサイト!やったー!!
そのまま、コンテで上がっていくと、七面山(東峰)山頂に到着!
いままでは解放がありすぎて、樹林帯に入って、そんなに展望はよくないけど、何とも言えない高揚感で胸がいっぱいだった。
その後は、東峰から楊枝ヶ宿に向かって歩き、下降路のコルにおりる。
そよ風が心地よい青空の下で、しばらくその場に座って余韻に浸った。
夕食は、ビールとおつまみを2人で分け合いながら、焚火をして過ごした。
最高の思い出と経験になった。
【考察】
・普段の山行から綿密な計画を練る岩瀬さんだが、今回の下調べは特にすごかった。
ブログ・雑誌・登山大系・人伝いの話から、大峰奥駆道のセクションハイク歴をもとに、行ったことあんの?と思わせるくらいの計画を立ててくれた。また、山行中もズボラな僕とは違い、確実な行動指針を示してくれた。
当たり前や!と言われること承知だが、山に行く前の計画と準備段階が、一番重要と感じた。
・アプローチ問題を前日に解決できていたため、その後のクライミングも焦らず、集中して取り組むことができた。
1、2P目以外は、染み出しもなく、好条件でのクライミングとなった。
9P目以降は、景観を楽しむことや確実性をとったため、ダラダラとした登りとなったが、時間・水・食料・体力など余力を残して登攀することができた。
・クライミング能力としては、高グレードを登れることに越したことはないが、それぞれの長いピッチ、その連続性を考えて、クライミング中のレストの技術は必要となってくると感じた(2人とも、不動岩タイコ5.11cが登れていたことが大きかったと口を揃えた)。
また、ローカルエンデュランスや、歩荷クライミングなどの基礎体力の向上が必要。
・ロングルートであるため、重量管理をシビアに考え、食事・水分量をはじめ、持っているギアの中で可能な限り軽量化を図った。
・軽量化を意識するあまり、今回は8.9mm 60mシングルロープ1本で行くことにした。
敗退する時はPEロープと連結させたロープを垂らして、1本懸垂でおりた後にPEロープを引くと回収できるという方法にした。
⇒本来であれば、ダブルロープもしくはツインロープでいくことがいいと思います。もしよろしければ、コメント欄などにご意見をください。
・食事・水分については、それぞれで必要な分としていた。
重さ問題もあるため、食事は2人で600g程度、水分は合計3L未満になるようにした。
食事は、岩瀬さんはプロテインバー3本とナッツ類(およそ1146kcal)、林はえい羊羹2本、粉飴1袋、マグオン2つ、トレイルバター2つ(およそ966kcal)とした。
水分については、「凌駕スマッシュウォーター」という必殺アイテムを駆使したグリセリンローディングを取り入れた。グリセリンについてや、ローディング方法については、詳細は省くが、振り返って考えると効果は抜群であった。
実際の水分摂取量は、行動時間を短縮することもできたことも誘因にあると思うが、2人で1.7Lであった。
以上、山行報告でした。
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今回の山行とは、毛色の違う話になるが、振り返ってみると、緊急事態宣言中の山行は必ずしも、すべての人に受け入れられるものではなかったと思う。
あの人は。どういうつもりなのか。周りのことを考えていない。だとか、、、
山をやらない人からしたら、否定的な意見もあると思う。
このロングホープを通して感じたことは何事にも変えがたい経験となったと同時に、よく言われる山の言葉は嘘だと感じた。
「山は逃げない。」
僕は、アメリカに行くことができない日々を悶々と過ごしている。
行くと決めて、準備を進めていた段階から、周りに話をしていたこともあり、「(職場に)まだおるん?」とか、冷やかしをうけることもある。とても切なくなる。
今回OKDさんは、七面山のロングホープに行きたかったと思う。仕方のない理由だったかもしれないけど、僕たちの山行を支えてくれて、アドバイスをしてくれて、直近では壮行会をしてくれたことや、激励の言葉をくれたことには、感謝しかない。
話はかわるが、5年前、僕の知り合いは熊本の震災で死んだ。震災の影響で、生活環境が大きく変わったことが死因となった。その人は、底抜けの明るさで周りを照らす太陽のような人だった。その人を見るとなぜかみんなが笑顔だ。いつでも会えると思っていた人が突然いなくなる。やろうとしていた夢や野望はそこで潰えた。
コロナに限らず、年齢、仕事、健康、ライフイベント、天候などを理由として、職業クライマーでもなければ、絶好の機会を逃すことは容易にあり得る。
そういう意味では、「山は遠ざかる。」と思う。
だから、僕はここぞというチャンスを逃したくない。
「チャンスば、つかんでいけよ。(チャンスをつかめよ。)」と、その人が言ったように。
そして、一生懸命やっている人や物事については応援したい。
2018年6月に神戸山岳会に入会して、ちょうど3年経った。
会員のみんなや、その他の人々と様々な山行をともにしたが、山が与えてくれた感動を仲間と共有できる今が1番楽しいし、心が満たされている。
人の思いを人がけなす世の中ではなく、人の思いを人が支える世の中であって欲しいと思う。
have a nice climbing.