滝谷D沢 - 荷継沢 - 白出沢 バックカントリー 山スキー 滑降
- 山行日
- 山域、ルート
- 穂高岳 滝谷D沢 - 荷継沢 - 白出沢
- 活動内容
- バックカントリー 山スキー
- メンバー
- 藤本、三浦
滝谷
滝谷は北穂高岳西側の岩場である。北穂高岳を中心とし、南岳小屋から北穂高岳、涸沢岳を経て涸沢岳西尾根の蒲田富士までの範囲が滝谷上部稜線になる。滝谷下部にはナメリ滝、雌滝、雄滝があり、最終的に蒲田川右俣谷に注がれる。蒲田川右俣谷上部は飛騨沢とも呼ばれる。
滝谷は、上高地の名ガイド上條嘉門次が「飛ぶ鳥も通わぬ」と称したように、非常に鋭く切り立った岩場であり、剱岳と共に日本を代表するクライミングの名所となっている。また、滝谷は「岩の墓場」とも呼ばれ、落石が多いことでも知られる。
滝谷のバックカントリー、山スキー
滝谷のバックカントリースキーのルートとしては、滝谷の北からA沢、B沢、C沢、D沢、E沢、F沢と6本の沢となる。いずれの沢を滑降したとしても下流にナメリ滝と雄滝があり雪が途切れるため、そのまま右俣谷 (飛騨沢) までスキーで滑り降りることはできない。滝を懸垂下降するか、滝の手前から滝谷源頭の稜線まで登り返す必要がある。
滝谷D沢
滝谷D沢は滝谷の6本の沢の内の一つで、涸沢槍のコル (D沢のコル) に突き上げる。源頭を涸沢岳北面とする北向きの沢である。他の滝谷の沢と一つに合流した後、ナメリ滝と雄滝を経て右俣谷に合流する。2022年5月に滝谷D沢をスキー滑降し、E沢と涸沢岳西尾根を登り返し涸沢ヒュッテに戻るという計画を立てたが、前日の奥穂南稜登攀に時間がかかり過ぎて断念している1。
荷継沢
荷継沢は白出沢の支流である。涸沢岳西尾根にあるF沢のコルを源頭とし、白出大滝の上流で白出沢と合流する。涸沢岳西尾根北面の滝谷F沢とは反対側の南面に位置する。一般登山道はなく、登山やスキー滑降のルートとして使われることは少ない。
白出沢
白出沢は右俣谷の支流であり、奥穂高岳と涸沢岳を源頭とする沢である。新穂高から続く登山道があり、穂高岳山荘や奥穂高岳に登るための最短ルートであるとともに、涸沢や穂高岳山荘から新穂高へ下山するバックカントリー、山スキーの滑降ルート2, 3, 4としても重要である。一方で落石の危険もあり、過去に3回スキー滑降したが度々落石を目撃した。実際2013年には落石による死亡事故も発生している。ヤマケイオンラインによれば、2020年以降崩落により通行止めだったそうだ。古くからある登山道ではあるが、ザイテングラードのような「超メジャー」な登山道と比べると不安定なのかもしれない。2022年に修復され2023年5月現在は通行可能になったようだ。下部にある白出大滝を高巻きするため、ルートは荷継沢をトラバースする。
滝谷D沢滑降のルート計画
前年に断念した滝谷D沢滑降を遂行すべく、山行計画を立てた。今回は新穂高から入山し槍沢、横尾尾根、横尾本谷を経由し涸沢ヒュッテで宿泊5して滝谷D沢滑降を狙う計画のため、滑降後新穂高に下山できるルートにしたかった。滝谷下部の滝を懸垂下降してそのまま飛騨沢出会いまで下山するルート、滑降後に滝谷F沢を登り返して穂高岳山荘経由で涸沢ヒュッテに戻り翌日白出沢から下山するルートなどが候補に挙がった。しかし、滝谷を懸垂下降できるか行ってみないと状況が分からないし、涸沢ヒュッテに戻る場合は行程が1日長くなり予備日がなくなることが懸念事項だった。そこで滝谷D沢滑降後、F沢を登り返し荷継沢経由で白出沢を滑降して新穂高に下山する、最もシンプルで懸念が少ないルートを選択することにした。
滝谷D沢滑降後、F沢を登り返して、荷継沢と白出沢から下山するルートは雪さえ繋がっていればなんとでもなるだろう。それでも残る懸念は、近年の雪不足により滑降ルートの雪が繋がっていないことだった。特に滝谷D沢と荷継沢は最近の滑降記録がなく、正直行ってみないと分からない状態だった。雪が繋がっていない場合の懸垂下降に備えて、ロープやハーケンを装備に加えた。ロープがあってもセルフビレイや支点がとれる場所があるのか、懸垂下降の準備中に誤って装備を落としてしまわないか。他にも横尾本谷右俣下部は雪が切れていて涸沢と合流できないのでは、2013年の落石事故以降の滑降記録がほとんどない白出沢は滑降できるのか、など、不安を抱えたままの山行開始となった。
滝谷D沢 - 荷継沢 - 白出沢 バックカントリー 山スキー 滑降の山行記録
7:30涸沢ヒュッテ - 10:30穂高岳山荘 - 11:00涸沢岳 - 12:30滝谷D沢のコル - 14:10滝谷D沢F沢出会い - 16:30滝谷F沢のコル - 17:40荷継沢白出沢出会い - 21:35右俣林道出会い - 23:00新穂高温泉
滝谷D沢の状況チェック
滝谷D沢は飛騨沢と槍ヶ岳山頂から目視できた。飛騨沢からはノドで雪が繋がっているか確認できなかったが、槍ヶ岳山頂からは雪が繋がっていることが確認できた5。これで滝谷D沢の雪が切れていることへの不安が一つ解消されて少し気が楽になった。
涸沢槍のコル (D沢のコル) へ
北向きのD沢が緩んでから滑降するため、比較的遅めの7時に涸沢ヒュッテを出発し、穂高岳山荘と涸沢岳山頂を経由し涸沢槍のコルを目指した。
穂高岳山荘でハーネスを装着し、まずは涸沢岳山頂へ向かう。涸沢岳山頂までは安定したルートで順調だった。涸沢岳からコルへの下りは、一般登山道ではあるものの鎖場でその鎖が雪に埋まっており緊張を強いられる。セルフビレイを取りながら慎重に下ったため、時間がかかった。
涸沢から涸沢槍のコルに登る最短ルートは涸沢カールをコルに向けて直登するルートのようだ。斜度はあるがピッケルとアイゼンがあればフリーで登れる4。ただし経験上涸沢岳からの落石が多く、このルート選択には慎重になる必要がある。
滝谷D沢スキー滑降
滝谷D沢は涸沢槍のコルからドロップするが、コルの最低点の他、3mほど涸沢岳側に登った位置からもドロップできそうだ。直線的でラインが見やすそうなコル最低点からドロップすることにした。コル直下では5mほど雪が途切れてガレ場になっており、誘発する落石を避けるため、1人ずつ雪のある位置までアイゼンのままガレ場をバックステップでクライムダウンした。クライムダウンした位置は斜度があるのでギアを落とさないよう慎重にスキーに履き替えた。
滝谷D沢の雪は緩んでいたが、落石も発生していた。雪が緩むには遅い時間の方が良いが、落石を避けるためには早い方が良かったのかもしれない。聞こえてくる落石の音に緊張しながらのドロップとなった。ルンゼ内は狭く斜度があり、雪面は落石だらけで湿雪スラフが発生する状況の中、ジャンプターンで高度を落としていった。滑降したと言うより、落石を避けられそうな尾根のキワを繋いで下山した感覚だった。絶え間ない人頭大の落石を気にしながらF沢出会いまでの標高差700m、緊張と恐怖の滑降はとてつもなく長時間に感じられた。
滝谷F沢登り返し
滝谷F沢は最も南に位置する沢で、滑降した滝谷D沢とは2250m付近で合流する。この地点はA沢とも合流する。落石を避けるために尾根の末端でアイゼンに履き替えてF沢登行を開始した。
F沢も落石が酷くく、上部に注意しながら落石を避けつつ一刻も早く滝谷から脱出したい一心で登っていった。稜線直下まで落石は続き、登行中は最後まで気が休まることはなかった。F沢のコルに到着すると、無事滝谷から脱出できたことに安堵し自然と笑顔になった。
荷継沢スキー滑降
荷継沢に雪があるのはF沢のコルから目視できたが、稜線から雪は繋がっていなかった。涸沢岳西尾根を涸沢側に50mほど歩き、ガレ場とハイマツ帯を降りると雪のある位置までアプローチできた。
スキーに履き替え荷継沢の滑降開始。滝谷のような極度の緊張感からは解放されてリラックスして滑降できた。しか下部の雪面にはデブリや石が多く我慢の滑降となった。荷継沢の末端のブッシュ帯を超えると白出沢に合流した。
白出沢スキー滑降
白出沢に合流してすぐに白出大滝を高巻きする登山道を示すリボンが見つかった。高巻きは雪が切れているため、スキーを脱いでスキーブーツのまま下ったが、所々残った雪を踏み抜いて歩きにくい。高巻きは小さい尾根を超えて隣の隣の沢へ下っており、脆い岩場の下降路には鎖が設置してあった。ここでも落石を誘発しそうなため1人ずつ下った。
鎖場を降りた先は雪があり、ヘッデンを装着し再びスキーを履いてデブリの中をスキーで下降した。雪がなくなる1700mまで降った時にはすっかり日が暮れていた。スキーをザックに固定し、暗闇の中藪漕ぎで登山道を探すがなかなか見つからず、結局2時間迷いに迷った後登山道に合流した。無理にスキーで下降しないで雪が繋がっているうちに登山道に合流しておいたほうが楽だったかもしれない。
登山道に合流してからアプローチシューズに履き替え新穂高に向けて歩いていった。歩きやすい登山道だが、藪漕ぎに疲れた体には長く感じた。16時間行動の末、23時に無事下山し3日間の山行を終えた。
関連記録
- 奥穂高岳 南稜 残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー 2022年5月
- 奥穂高岳直登ルンゼ スキー滑降 2011年5月
- 奥穂直登ルンゼ 白出沢 スキー滑降 2012年5月
- 涸沢槍 白出沢 山スキー 2013年5月
- 飛騨沢 槍沢 山スキー 2023年5月
- 前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ スキー滑降 2015年5月