(2012年9月8日-10日)
メンバー T(記),I
上の廊下を目指すも台風の直撃に合い、赤木沢のみしか登れなかった2011年のリベンジのため、I君と再度上の廊下遡行計画を立てた。昨年の赤木沢ではアルプスの沢の冷たさを認識し、今年は4万円をかけ、沢登り専用の靴、シャツ、ネオプレーンの上下・靴下を揃え防寒対策を完璧なものにして黒部ダムへ向かう。(昨年の装備は、普通のクライミングシャツ、スニーカー・足袋・サワーサンダルとなめた装備であった。)今回は天気にも恵まれ、且つ川の水量も少なく、日程も大幅に取っていたため入山前から成功のイメージしか頭になかったが、結果自分の体調不良で途中下山しパートナーに迷惑をかけた。猛省。今後は体調をまず良くし、改めて山に向かいたいと思う。
9/8(土) 当初扇沢への入山だけの予定であったが、平の渡しを渡った場所に無人避難小屋があるため、そこまで先に入ってしまおうということで12:30扇沢発のトロリーバスに乗る。
(水量が全くない黒部ダム 奥に赤牛岳を望む)
(ダムが枯れていても観光放水は続く。。。)
しかしながら、平の渡しまで4時間歩くまでですでに息が切れてしまう。去年の夏、自律神経失調症になり、寝不足や深酒の翌日は、急な動悸やめまい、手の痺れが発作的にでるようになった。今年の正月の中央アルプス、春の鹿島槍と山の中で体調が悪くなることはなかったが、今回は初日から動悸がひどい。感覚的に言うと、走ってもいないのに、走った時のような心拍を感じる感覚。ほとんど上り下りのない平の渡しに到着する最後の水場では、休憩後立つこともままならなかったが、初日は寝不足のため体調が悪いのかと考え、そのまま入山する。
平の渡しもダムの低水位でひどく下まで降りなければならない。
無人避難小屋は壁もなく屋根があるだけの本当に簡素な小屋だったが、屋根の下にテントを張り初日の大休息を行う。(水はないため、平の小屋で補給する必要あり)
9/9(日) 朝から体調が良くなく、先行するI君に追いつけない。そんなに早いペースで歩いているわけでもないのに、早く歩こうとすると息切れがひどい。また昨日の二の舞か?
木道がいたるところにかけられているがしっかりしている。
奥黒部ヒュッテには9:00前に到着し、ほとんどコースタイムで着いた。ヒュッテに到着後少し休んでいると体調も回復してきた。まだ朝が早いのと明日から雨が降るという予報だったため、広河原まで行ければ行ってしまおうと入渓を決める。
手前は東沢、奥が上の廊下
早速沢装備に身を固め、上の廊下へ向かう。何年か前に入渓したことのあるI君の話では水は少ないとのこと。初めて入渓した自分も、この水量なら楽勝で抜けれるんじゃないかとこの段階ではタカをくくっていた。
エメラルドグリーンの水。水の冷たさも新品沢装備のおかげであまり感じない。
少し進んだ右岸にある滝。近場にあれば登攀対象だろうが、上の廊下全体のなかでは登攀対象からはずれてしまう壁。
下の黒ビンガ。写真で見るより圧倒的に大きかった。
下の黒ビンガを超えた場所。ここなら増水時も上に逃れることができそうだと、ビバークの候補地にする。
口元のタル沢までは、腰もしくは胸下くらいまでの徒渉でロープは一回もだすことはなかった。
タル沢向かいのCS滝
タル沢。口元のタル沢出合にて飯を食べ入渓準備をする。
13時過ぎ 口元のタル沢先のゴルジュ。左岸から攻める。ここまでは非常に順調だった。水の冷たさもほとんど感じなかった。
泳ぎの巧いI君にリードをお願いする。なぜか今までの水に比べて、このゴルジュの水は非常に冷たかった。
左岸沿いにI君が泳ぎ一旦左岸の上に上がる。このとき、25mロープが足りなくなってきたためビレイのために自分も左岸沿いに腰まで入りビレイを続ける。(もう一つ持ってきていた30mロープを最初から25mロープにつなげるべきだった。)I君が左岸を岩伝いに突破できないか確認してくれている間に、ビレイ中の自分が冷えてしまった。最終的にI君が左岸から飛び込み右岸側に流されながらたどり着くも、ロープが足りないため自分は益々上流へビレイのために突っ込むが、水が首下まで来ており、呼吸をするのもつらい。腰まで長いこと使っていた上に首までつかった時に、沢水のあまりの冷たさに恐怖を覚えた。右岸側に上がったI君を確認し、自分側のロープを引っ張ってロープが足りないことを伝えると、I君がシュリンゲをつないでロープの長さを伸ばしてくれてなんとか腰までの水位の場所へ戻ってこれたが、体が冷え切ってしまい震えが止まらない。自分の位置からザックに置いていた30mロープまでまだ距離があるため、片手でハーケンを打ち、ロープを仮止めし、岸に上がる。
ここから少しパニックになった。岸から上がったのに体温が戻らない。今まで沢の水につかっていても上がれば体温が戻ってきていたが、今回はなぜか戻らず、着ている沢用のスーツの濡れで益々体温を奪われる感覚を覚える。寒さで心臓が止まるんじゃないかと本気で焦り、来ていた上着を全て脱ぎセーターや換えのシャツを着ると少しはましになったが、それでも寒さで吐きそうになる。体温が戻らないと死ぬんじゃないかと思いつつ、体温が上がらないので焦りに焦る。あまりにも体温が戻らないため低体温症の前触れかと思い、手をたたくのすら恐ろしい。そうこうしているうちに体の中から温めれば良いというアイデアを思い出し、プリムスのヘッドを出して沢の水を沸かし飲むとようやく体温が戻ってきた。少し安心する。対岸で待っているI君には声が届かず、しきりに泳いで来いと合図を送ってくれるが、もう一度首まで水につかると死んでしまうと本気で不安になり、逆に戻ってきてくれと合図を送る。
ロープを回収し、こちらへ戻ってくれる前のI君。手前に打ったハーケンが見える。
リードで突っ込んでくれたI君には悪いと思ったが、これ以上進めないと正直に話す。寒さのせいで、小屋まで帰れるかどうかも不安だったが、I君がいたため気持ち的には落ち着け、なんとか奥黒部ヒュッテまで戻る。
帰りは流れに沿って下るため、登るよりも楽に下りれた。
I君が自分の体調の悪さと、濡れたものを乾かすため小屋泊まりを提案してくれる。15年以上山登りをしたがお金を払って有人小屋に泊ったのは初めてだった。山の中で畳の上で寝ることができ且つ風呂も入れた。小屋泊まりの快適さが初めて分かった。
9/10(月) 自分の体調が悪いため、下山しようということでその日のうちに扇沢まで戻る。下山時も体調が戻らずI君に追いつけない。息切れと動悸がひどく、今後アルパインクライミングができなくなるんじゃないかと不安になるが、とにかくなんとか下山できた。
下山日も快晴。この天気の中下りることに罪悪感を感じる。。。
下山。次一緒に行ける日はいつになるだろうか。。。
岩登りのルートであれば自分の技量を磨けば行けるルートは増えてくる。冬山では、荷物の重さに耐え、クライミング技術がありラッセルができればそこそこのルートに行ける。しかしながら、根本的に体調が悪ければどんなに易しいルートやシングルピッチの岩でも挑戦することすらできないことが重々わかった。
今後は下界でクライミングやトレッキングを行い、どういうときに山で調子が悪くなるかをとりあえず見極めたいと思う。自律神経失調症の発作が山の中で起こると自分も苦しいが、一緒に行ってくれたパートナーに迷惑がかかる。今回I君には本当に申し訳ないことをした。また一緒に登れるようになるために、まずは体調を治すことに努めます。
寒くて風邪でもひいたのかと思っていました。