「滝谷出合~滝谷第四尾根」
C沢とD沢を分ける長大な尾根で縦走路から見れば
滝谷最奥に位置しており思いのほか複雑な内容から
最も滝谷らしいクライミングができるルートとして
知られている
初めての挑戦は敗退 (2021年7月20-22日)
新穂高温泉を 未明1:30 に出発して初めに現れる
雄滝でルーファイミスをして大格闘、
落口に抜けたのは夕方の 16:30
それより先には得体の知れない
スノーブリッジやナメリ滝、小滝群
ここは「滝谷」落石が頻繁におこる危険地帯
先に進みビバーク可能な場所があるのか不明
だったので無念の敗退を決意
懸垂で数ピッチ下降して滝谷出合に戻れたのは
21:30
20時間行動
翌日に南岳新道、大キレット経由で北穂高へ移動
3日目にクライムダウンをしてドーム中央稜を
登ったが何か釈然としない
直後 2021年9月の地震 で穂高の岩稜は至る所で
崩壊、登攀ルートは大きく様相を一変した
今回はそれを承知の上でのリベンジ
通常は縦走路から「C沢」を下って取付くが
やはり最下部「滝谷出合」から完登したい
想いが強い
一度「滝谷」に踏み入れるとそこは「岩の墓場」
容易には進ませてもらえない上、敗退も困難
武者震いがする ...
以下、山行記録です
_____________________
■ メンバー
藤本 (L) (記)
吉澤
■ 装備 (主な物)
[共同]
ダブルロープ (8.5㎜ × 50m 2本)
カム
(エイリアン × 3・キャメロット #0.3-#3 2セット)
ナッツ 1セット
ハーケン (クロモリ × 7枚・軟鉄 × 2)
[個人]
ハンマー (アックス兼用)
軽アイゼン
荷物を極限まで軽量化して2人で分担しても
1人当たり約12㎏になった
■ 行程概要
9/12
曇り
3:00 新穂高 入山
6:00 滝谷出合
7:00 雄滝取付
11:00 雄滝落口
16:00 オセロ岩
19:00 スノーコル下部
20:00 ビバーク
21:00 就寝
9/13
晴れ時々雨
4:00 起床
5:30 行動開始
6:30 第四尾根取付
21:30 縦走路
23:00 北穂高テン場
24:00 就寝
9/14
晴れ
5:00 起床
6:30 行動開始
涸沢経由で上高地へ下山
■ 行動詳細
9/12
3:00 新穂高 深山荘 (駐車地)
直前に40℃近い高熱を出し
(コロナ、インフル共に検査は陰性) 体調は万全とは
言えない
病み上がりで呼吸が苦しく脂汗をかきながらも
順調に進む
6:00 滝谷出合
「雄滝」その更に奥「滝谷ドーム」が見える
登攀具を装着してゴーロ帯を進む
一昨年7月はすぐに雪渓やスノーブリッジが現れて
その処理に手こずったが、
今回は全くなくサクサクと雄滝に着いた
F1 雄滝
藪を漕ぎモンキークライムで直上
ロープ50mいっぱいに伸ばしピッチを切った
※ 前回はここからルーファイミスをして
右に伸びる踏跡?を辿り切り立った崖に出て
長い格闘が始まった
↓ ※ 前回のルート
3P、吉澤
更に直上すると直ぐに樹林帯が開けてきて右に
トラバースする様に尾根を歩く
少しコンテで歩きコーナーの立木でビレイ
その先は水の湧き出る草付のルンゼを少し高度を
下げながらトラバースして落口手前の立木で
ピッチを切った
難しくはないが中間で気休め程度の支点しか
取れない上、ワンミスが許されない
4P、藤本
立木を乗り越えると完全に谷底まで崩壊した
小さいルンゼが現れる
上から垂れ下がった枝にスリングを巻き付け支点を
取りその細い枝の末端を左手で掴みながら右足を
目いっぱい伸ばし軟弱な部分を崩し落とすと
凄まじい音をたてて大小の石が落ちて行く
右手をいっぱいに伸ばし気休めのマイクロカムを
決めじわっと右足に乗り込んで行く 突破した...
11:00 雄滝落口
前回は16:30 着
順調だが貯金はすぐになくなるので先を急ぎたい
F2 無名滝
ここは水線右から容易に上がれる
F3 ナメリ滝の前衛滝
水線の右も左も簡単ではないがロープを出せば
登れそうだが時間がかかりそうだったので右岸巻き
で脆い側壁をトラバースした
外傾した岩棚に大小の石が無数に堆積しており
所々では踏んだ足元が大きく崩壊してなくなる
掴んだホールドもまさかの剥がれる...
地獄の様な音を立て、
火薬の様な臭いを残し、
遥か下で粉砕された石が砂ぼこりをあげている
超絶に恐ろしくハーケンでセルフを取り抜けた
F4 ナメリ滝
1P、吉澤
一段上がった左岸からカムで支点を取りボルダー
ムーブで乗り越えて行く
2P、藤本
※ 写真なし
ナメの左岸側を登る
支点が取れずランナウトするがフリクションは
何とかあるので思い切って上がって行く
3P、15m 吉澤
支点が取れずミスが許されない
相当に怖かったと思う
ナイス!
その後はゴルジュと言うほどではないが V字谷 が
狭まった部分のゴーロ帯を行く
この頃からガスが立ち込めてきて遠くまでの
視界がなくなり不安を誘う
16:00 オセロ岩
暫くしてオセロ岩 (平たい巨岩) がある
出合 (A沢~F沢) に到着
適泊地のスノーコルまでは標高差500m
GPSを慎重に確認してB沢から侵入してC沢へと入る
ここからはウキウキの浮石パラダイス!
足元が荒れており気が抜けない
なかなか前進できず疲労困憊
C沢は長く途中で日没
ヘッデン行動開始
19:00 スノーコル下部
漸くスノーコル付近まで来た
ヘッデンを最強にしても
「大スラブの登り易い手前のハイマツ帯」が
見えない
仕方なく最奥まで進み、確保をしてもらい
ボロボロの薄気味悪い濡れた悪そうなスラブに
取付いた
スノーコルまで半分ほどの所まで浮いた岩を
落としながら騙しだまし支点を取り辿り着いた
しかしその後が悪い
スラブは全面濡れており足元も側壁も岩が
浮いている
マイクロカムをセットして軽く引くと
クラックが開く
ハーケンを打つとクラックが開く
仕方なく浅効きで支点を固め取りして前進すると
足元を滑らせて1枚ハーケンが飛び下の
マイクロカムと堆積した岩で静止した
「ヒヤッ」とした...が
気持ちを落ち着かせ少し前進
ただこの先が見えず支点が取れなさそうだった
のでハーケンを2枚打ちジワリとクライムダウンと
ロワーで降ろしてもらった
20:00 ビバーク決定
スノーコル下部
スノーコルを目前にしてビバーク
天気予報は好転して星空が出ている
耐えられるほどの気温 10℃前後
安全とは言えないが落石の通り道を避けられる
最善の場所に座り乾いた服に着替え温かい物を
胃袋に入れた
寝転べるほど広くはないので膝を曲げて座り
シュラフを頭からかぶり寒さをしのいだ
17時間行動
21:00 就寝
9/13
4:00 起床
20~30分寝ては寒さで起きた
体勢も悪いので腰や尻が痛い
少しはリカバリーができたか
穏やかな朝
簡単に朝食をすませ登攀具を装着
見上げるとC沢の下降路
「第四尾根」に取付く場合には一般的にここを
下降するがかなり悪そう
※ この山行の直後にここで滑落事故があり一人
亡くなられている
ご冥福をお祈りいたします
5:30 出発
前夜に登ったスラブ
無理をしなくて良かった
さすがに明るいと見渡せる
「登り易い手前のハイマツ帯」のラインも見える
本来、目指していたスノーコル (適泊地)
1張りが限界
尾根上の手前にもう1ヶ所あるがここより更に狭い
6:30 「滝谷第四尾根 (10P)」取付
1P、フェース Ⅲ 吉澤
何となくのラインを登って行く①
岩はそこそこ安定している
残置支点は少ない
2P、フェース Ⅲ 藤本
何となくのラインを登って行く②
岩はそこそこ安定している
残置支点は少ない
3P、おおまかな岩のAカンテ Ⅲ 吉澤
快適
フォローで
4P、水平リッジからつるっとしたBカンテ Ⅳ+
藤本
快適
フォローで
5P、水平リッジ Ⅰ 吉澤
※ 写真なし
6P、急なCカンテ Ⅲ+ 藤本
快適
次のピッチの凹角を少し登った所でピッチを切った
バチ効きのキャメロット3番と
甘目のエイリアン2ヵ所で支点を構築
7P、ピナクル脇にのびる凹角 Ⅲ 吉澤
交代してカム3番をリードに渡した為、
ビレイ支点はプアプロ2ヵ所のみ
「ラクッ!」
落石を避けようとして身を反転
セルフに体を預けるとカム2ヵ所共に抜け、
真っ逆さまに
何とか自分のビレイ器で止まった... (反省)
その後、ピナクル左に抜けピッチを切ったが
本来は右に抜ける方が正解
8P、バンドを左に行ってフェース~
凹角内のクラック Ⅳ 藤本
ピナクルを乗り越えて、
左に行くルートなどは見あたらず
その先は切り立っている崖
直上できそうなラインを辿る
全ての岩が脆く大量に石を落としながら登った
途中に錆びた残置ハーケンが2、3枚
抜口は狭いチムニー
その上には大きなテラスがあった
更に上を見上げるとあと10mほどで
「ツルムの頭」があり取付いたがこれが異常に脆い
階段状になっているが全ての石が浮いており中間で
何とかキャメロット3番を決めてピークへ
しかし懸垂支点などはない...
仕方なく恐る恐るクライムダウン
通常ここは登らないのか?
トポには、
「ツルムの肩に出てコルに懸垂下降する」
と書かれている
「ツルムの頭」の3mほど下の側壁にぼろい
懸垂支点があったが、どうやってそこに行くの?
という場所...
もしかすると以前は容易だったが崩壊した?
悩んだあげく新しく懸垂支点を作る事にした
どの岩も信用できそうになく慎重にリスを選んで
「ツルムのコル」へ懸垂下降
コルから振り返ると、上からは見えなかった場所に
多くのスリングがかけられた懸垂支点があった
この頃から大粒の雨が降り出してきた
相方が「C沢を懸垂下降できるのでは...」
敗退の選択肢を口にする
「えっ!?」
でも前進
9P、クラック~チムニー Ⅳ+ 藤本
↑ 9P目 のCSを乗り越えたテラス
トポに書かれているルートは左から回り込んだ
クラックの事だろうがどの岩も今にも崩壊しそう
チムニーのどでかい岩でさえ見るからに不安定
正面のフェース中間部に残置ハーケンを発見
そこを直上する事に
1段ボルダームーブで上がりハーケンを打つと
岩がバカッと剥がれ轟きながら谷底へと
落ちていった
5m以上ほどの巨大なフレークがあり、
足をかけると動いた!
そのラインは諦めロワーダウン
雨足が強くなり寒さで体が震える
辺りは暗く日没も近い
しかし焦りは禁物
勇気を出し左のチムニーへ
0ピンだけは効いている
超絶に悪い...
支点が取れない
脆いので岩を強く掴めないし強く踏めない
何とかチムニーの抜口にあるCS下まで辿り着いた
そのCSはガバ
掴んで這い上がろうとしたらガサッと動いた!
岩が落ちたら直撃をくらい引きずり込まれる
仕切り直し信用できないカムを2ヶ決めCSを
触らない様に体を真横に倒す様なムーブで
突破した...
10P、急なDカンテを2つ越える Ⅴ 吉澤
9P目はもう少し先に終了点があった
ロープが屈曲する為、ピッチを切りリグループ
残すは最後の核心、ハング越え
※ 写真なし
雨は止んだが辺りは真っ暗
二人とも疲労困憊...
すぐ下には傾斜しているがビバークができそうな
草付きがあったので無理をせず翌日に抜ける
選択肢も考えた
できれば安全地帯に抜け2日連続のビバークは
避けたかったが判断はリードをする相方に任せた
ヘッデン装着
前進!
歩荷したままでは流石に登れそうになかったので
空荷で登る事に
0ピンが信用ならない上にハングを越えた先に
支点がない恐怖
思い切って乗り越えた
ナイス!
その先にもう1段壁がある
残置支点がありテンションをかけながらも抜けた
よっしゃー!
ロープいっぱいに伸ばし
「ビレイ解除」のコール
抜けた!
フォローなので安全ではあるが1本のロープは
相方のザックを荷揚げ
これを押し上げながら自分も登って行くのは
滅茶苦茶しんどい...
ロープを目いっぱい張ってもらうが伸びてなかなか
乗り越えられない
全身パンプ、乳酸たまりまくり
スリングあぶみを作りあの手この手で突破!
11P、吉澤
※ 本来「第四尾根」は10P だが疲労もピークにきて
おり真っ暗なので簡易にビレイをして直上
ロープいっぱいに伸ばしピッチを切った
12P、藤本
更に直上すると「ついに」縦走路に出た!
21:30
穂高岳山荘でテン泊
翌3日目はジャンダルム経由で西穂高岳
新穂高に下山予定だったが一番近い場所
「北穂高岳のテン場」を選択
23:00 北穂高岳テン場
内臓系が弱ってるのか食欲がなく
少しドライフルーツだけを口にした
17時間半行動
24:00 就寝
9/14
5:00 起床
6:30 下山開始
穏やか ^^
人がいる
幸せ...
おでんとコーラ
たまらん!!
色々と反省する点もあったが、
経験を積めた事も多い
宿題を回収する事ができて納得の山行でした
今後、挑まれる方へ
かなり崩壊してますのでくれぐれも
お気をつけ下さい
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以上、山行記録でした
山は遊びの宝庫や!!
[筆者が書いた関連記録]
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大峯奥駈道 スピードハイク
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黒部源流域 山スキー
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槍、穂高滝谷 山スキー
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甲斐駒ヶ岳 黄蓮谷右俣 アルパインアイス
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剱岳 大脱走ルンゼ 山スキー
・ 2022年5月2-5日
前穂高岳 奥明神沢
奥穂高岳 南稜
北穂高岳 東稜
登攀 山スキー
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黒部川源流域 山スキー 釣行
・ 2022年4月2日
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・ 2022年3月2日
大山北壁 天狗沢 アルパインアイス
・ 2022年2月1日
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・ 2022年1月19日
御在所岳 1ルンゼ中又 アルパインアイス
・ 2021年9月13-15日
穂高岳 屏風岩 雲稜ルート
前穂高岳北尾根
アルパインクライミング
・ 2021年7月20-22日
穂高岳 滝谷 アルパインクライミング
・ 2020年9月29-30日
槍ヶ岳 アルパインクライミング