山スキー

宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー山スキー

山行日
山域、ルート
宝剣岳 サギダル尾根 千畳敷カール
活動内容
冬期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー
メンバー
藤本、長谷川、三浦 (記録)

宝剣岳

宝剣岳は中央アルプス (木曽山脈) 主稜線上にある2931mの山である。冬でも雪を寄せ付けずに聳立する鋭い岩峰は千畳敷を代表する峰である。北側には木曽駒ヶ岳があり、宝剣岳の北側で東に分岐した稜線は伊那前岳に繋がる。この伊那前岳の稜線と主稜線が千畳敷カールを形成している。南側で分岐した主稜線は三沢岳へと繋がっている。

宝剣岳と千畳敷カール。千畳敷駅から撮影。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
宝剣岳と千畳敷カール。千畳敷駅から撮影。

千畳敷カールとバックカントリースキー

駒ヶ岳ロープウェイによるアクセスの良さもあり、宝剣岳と伊那前岳を含む千畳敷カールは山スキーが盛んである。少し足を伸ばせば木曽駒ヶ岳1や三沢岳もあり、多彩なルートを描くことができる。いくつかのバックカントリールートは駒ヶ岳ロープウェイのウェブサイトで紹介されている。

サギダル尾根

サギダル尾根は信州駒ヶ岳神社を末端とし、宝剣岳の南側の主稜線に繋がる尾根である。冬季アルパインクライミングのルートとして人気があり、短めのルートで難易度も高くなく初心者向けバリエーションとしてガイドブックなどで紹介されている。登攀に時間がかかりすぎて21時間行動になってしまった昨年の奥穂南稜2の反省を踏まえて短めのクライミングルートということでサギダル尾根のクライム&ライドを計画した。

サギダル尾根。千畳敷駅から撮影。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根。千畳敷駅から撮影。

1月にサギダル尾根を登攀し千畳敷カールをスキー滑降するクライム&ライド計画がもちあがり、メンバーの都合を合わせて山行予定を2月とした。しかし、山行予定日の前日に大量の降雪が予想されたため、雪崩のリスクを考え延期とし、3月に再計画となった。

山行直前、駒ヶ岳ロープウェイのウェブサイトに、千畳敷カールの滑走は控えてください、との記載を見つけた。事前に問い合わせたところ、スキー滑降について制限はしておらず雪崩に気をつけて、とのことだった。駒ヶ岳ロープウェイが千畳敷カールをスキー場として管理する4月より前は、管理できないため口も出さないというスタンスらしい。千畳敷カールには1週間程度降雪がなく、雪崩のリスクは低いと判断し山行を決行した。

宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー山スキーの山行記録

菅の台バスセンター駐車場からバスとロープウェイを乗り継いで、しらび平経由で千畳敷駅に行ける。混雑時は臨時バスが出るようでバスは3便目だった。次からはルートの渋滞を避けるため、早起きして並んで始発に乗った方が良さそうだ。

サギダル尾根の登攀は、千畳敷駅から信州駒ヶ岳神社の祠まで行きそこから左側に歩き始める。シールは使用せず最初からアイゼン登行した。最初の岩稜帯は左の雪原を登れば簡単にまける。まいた先に見える岩稜帯の末端がサギダル尾根の取り付きである。ハイマツを開始点とした。先行にいた3パーティの順番待ちは2時間近くかかった。朝は晴れていたが、順番待ちの間に少しずつ雲が出始めた。

サギダル尾根取付きに向けて信州駒ヶ岳神社からアイゼン登行。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根取付きに向けて信州駒ヶ岳神社からアイゼン登行。
サギダル尾根取付き。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根取付き。
サギダル尾根取付き。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根取付き。
サギダル尾根取付き。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根取付き。

1P 藤本

ハイマツのある尾根の先にある岩稜帯に向けて登った。岩稜帯に乗り上げるのが核心か。アイゼンやアックスをかける場所が少なくていやらしい。なんとか登りきり、その先のスラブ状の岩の上部にあったワイヤーでピッチを切った。

2P 長谷川

スラブ状の岩を馬乗りで乗っ越すと2mほどのナイフリッジの雪稜になる。ナイフリッジの先は、最初藪がうるさいがすぐに快適な雪壁になる。そのまま雪壁を登り高度を上げて行くとサギダル尾根の頭に到達した。終了点はハイマツでとった。

サギダル尾根の頭の終了点。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根の頭の終了点。
サギダル尾根の頭の終了点にて写真撮影。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根の頭の終了点にて写真撮影。

サギダル尾根の頭につくとすっかり天候は悪化し、雪がパラついてきた。最短で降りられる滑降ルートであるサギダル尾根の北側のルンゼを選択した。サギダル尾根の頭から右側の稜線を進み、最初に右手に見えるルンゼである。ドロップポイントは比較的広く滑走準備には支障ない。到着して思い出したが、このルンゼは2013年の木曽駒ヶ岳北面1の翌日に滑降したことがあった。

滑降準備を整えてルンゼにドロップする。雪はパックパウダーで安心しておりられた。最初の狭く急なところを抜けると千畳敷カールのボトムまでの滑降ラインが見通せるようになる。快適に飛ばしてあっという間に千畳敷駅に到着した。

千畳敷カールにドロップ。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
千畳敷カールにドロップ。
千畳敷カールをスキー滑降。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
千畳敷カールをスキー滑降。

無事山行を終えた達成感と安堵感で満たされつつ記念写真を撮影して、ロープウェイとバスで下山した。サギダル尾根も千畳敷の滑降もお手軽で短めのルートだが、満足できる山行だった。

千畳敷駅まで滑降して記念撮影。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
千畳敷駅まで滑降して記念撮影。
サギダル尾根の登攀ルートとスキー滑降ライン。オレンジが登攀ルート、赤が滑降ルート。 宝剣岳 サギダル尾根 冬期アルパインクライミング 千畳敷カール バックカントリー 山スキー
サギダル尾根の登攀ルートとスキー滑降ライン。オレンジが登攀ルート、赤が滑降ルート。

参考記録

  1. 木曽駒ヶ岳 北面ルンゼ 山スキー 2013年4月
  2. 奥穂高岳 南稜 残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー 2022年5月

北穂高岳 東稜 残雪期アルパインクライミング 北穂沢 バックカントリー 山スキー

北穂高岳 東稜 残雪期アルパインクライミング 北穂沢 バックカントリー 山スキー

山行日
山域、ルート
北穂高岳 東稜 北穂沢
活動内容
残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー
メンバー
藤本(L)、三浦(記)

北穂高岳

北穂高岳は北アルプスの3106mの山である。穂高連峰の主稜線上にあり、北穂高岳の北側は、大キレットを経て南岳、中岳、大喰岳、槍ヶ岳へと稜線がつながる。南側の稜線は涸沢岳から奥穂高岳、西穂高岳へと繋がっている。涸沢カールから望める代表的な山の一つであり、岩稜帯が露出した南稜と東稜は涸沢の景色を特徴づける重要な要素である。西の飛騨側は、上高地の名ガイド上條嘉門次が「飛ぶ鳥も通わぬ」と称した滝谷と呼ばれる峻厳な岩壁であり、クライミングの名所となっている。涸沢カールと滝谷に囲われ穂高連峰のアルパインな景観を形成している。

涸沢ヒュッテから見た北穂高岳。右側が東稜、左側が南稜で東稜と南稜の間が北穂沢。
涸沢ヒュッテから見た北穂高岳。右側が東稜、左側が南稜で東稜と南稜の間が北穂沢。

北穂高岳と山スキー

北穂高岳の山スキー/バックカントリーのルートとしては北穂沢1が最もよく滑降されている。涸沢から積雪期の一般道である北穂沢から登頂し、山頂から北穂沢にドロップできる。涸沢からは見ることができない槍ヶ岳の素晴らしい展望が山頂から比較的容易に望めるルートである。その他、北穂は南面や滝谷が度々滑降されている。

北穂高岳東稜

北穂高岳東稜は北穂高小屋から南東方向に伸びる尾根である。頭は北穂小屋、末端は涸沢カール内にある。ゴジラの背と呼ばれる切り立ったナイフリッジの岩稜帯が核心であるものの、難易度は高くなく容易な涸沢からのアプローチもあってバリエーションクライミングの入門ルートとして人気がある。スケール感のある涸沢カールと横尾本谷右俣カール、槍ヶ岳へと続く長大な主稜線の景色を楽しみながら登攀出来ることもこのルートの魅力の一つである。

北穂高岳 東稜 残雪期アルパインクライミング 北穂沢 バックカントリー 山スキーの山行記録

涸沢ヒュッテを出発し、北穂東稜を登攀し北穂に登頂、北穂沢スキー滑降し涸沢ヒュッテ経由で上高地に下山する計画である。当初は北穂の滑降ルートとして南面を計画していたが、雪が少なく岩の露出が多かったので北穂沢滑降とした。

壮絶な工程を終えた前日だったが、涸沢ヒュッテで十分な休養を取れた。0:30に起床し2:00にヘッデンの明かりを頼りにアイゼンで歩き始める。シールは涸沢ヒュッテにデポしていった。

北穂沢の下部を詰めて、ゴルジュの上側から東稜の南側、雪が繋がっているコルから取り付いた。そこそこ斜度があるのでジグを切って登った。稜線に乗り上げるとトレースがくっきりついていたので、自分たちよりも末端側から取り付いたパーティが多いようだ。

北穂東稜の取付き。北穂沢のゴルジュの上から右側の雪のつながっているコルに乗り上げた。
北穂東稜の取付き。北穂沢のゴルジュの上から右側の雪のつながっているコルに乗り上げた。

稜線に乗り上げるごろ、空が白くなり始め周りの景色が見えるようになった。涸沢カール側には2日前に滑降予定だった直登ルンゼ2や過去滑降した吊尾根北面ルンゼ3、前穂北尾根67のコル1がはっきりと見える。振り返ればグラデーションのかかる夜明け空に、こちらも以前に滑降した槍ヶ岳と横尾尾根4が望める。過去の山行を振り返りつつ、今から挑む行程に期待を寄せる印象的な時間だった。岩稜になるゴジラの背に至るまでの北穂東稜は、比較的緩やかな雪稜で景色を楽しみながら歩くことができた。完全に夜が明けてからゴジラの背の取り付きに到着した。

夜が明けるころ東稜に乗り上げた。背景に前穂北尾根が見える。
夜が明けるころ東稜に乗り上げた。背景に前穂北尾根が見える。
夜が明けるころ東稜に乗り上げた。常念岳から日が昇った。
夜が明けるころ東稜に乗り上げた。常念岳から日が昇った。
夜が明けるころ東稜に乗り上げた。常念岳から日が昇った。
夜が明けるころ東稜に乗り上げた。常念岳から日が昇った。
奥穂高岳と前穂高岳。過去滑降した直登ルンゼ、吊尾根北面ルンゼ、前穂北尾根67のコルが見える。
奥穂高岳と前穂高岳。過去滑降した直登ルンゼ、吊尾根北面ルンゼ、前穂北尾根67のコルが見える。
大キレットを経て南岳、横尾尾根、槍ヶ岳。
大キレットを経て南岳、横尾尾根、槍ヶ岳。

1P 藤本

ゴジラの背手前の小さなピナクルを開始点とした。ゴジラの背の左側から取りついてリッジに乗り上げるように登った。最高地点のピナクルでビレイ。ロープが屈曲してコールも届きにくそうなルートなのでピッチを短めにした。

北穂東稜開始点。ゴジラの背手前の小さなピナクルを使った。
北穂東稜開始点。ゴジラの背手前の小さなピナクルを使った。
北穂東稜1Pの終了点でビレイする藤本さん。
北穂東稜1Pの終了点でビレイする藤本さん。
北穂東稜1Pの終了点でビレイする藤本さん。
北穂東稜1Pの終了点でビレイする藤本さん。

2P 三浦

最初は高度感のある岩のリッジをクライムダウン気味に進む。その後岩のリッジの間にある狭い回廊状の雪稜を歩き、雪稜の右側の雪壁にトレースが降り始める地点にあったピナクルでビレイした。背負ったスキーが引っかかり少々動きにくいが、なんとか支点を構築し藤本さんを迎える。

北穂東稜2P終了地点からゴジラの背でビレイする藤本さんを振り返る。
北穂東稜2P終了地点からゴジラの背でビレイする藤本さんを振り返る。

3P 藤本

最初は斜度のある雪壁のクライムダウン。アイゼンを蹴り込んで慎重に足場を作って下った。10mほど下ると斜度が緩くなったところにある岩が終了点となった。そこからはロープを解除し雪の斜面をトラバースして再び稜線に乗り上げる。コルでロープをしまいクライミングのピッチは終了。

コルからは北穂小屋めがけて雪壁の登りになる。階段状のトレースがあるので特に難しくない。最後の乗越を超えると急に平らになって北穂小屋が視界に入った。達成感と素晴らしい景色で自然に笑顔になる。藤本さんとグータッチで互いの検討を讃えた。

ロープをしまい北穂小屋に向けて階段状の雪壁を登る。
ロープをしまい北穂小屋に向けて階段状の雪壁を登る。
北穂小屋に到着して記念撮影。
北穂小屋に到着して記念撮影。
北穂小屋に到着して記念撮影。
北穂小屋に到着して記念撮影。

北穂小屋のテラスでたっぷりくつろいだ後、滑降準備をして北穂沢に向かう。デブリが多いが、きれいな雪面を探して滑った。長い滑降ルートで足がパンパンになる頃に涸沢ヒュッテに到着。登ったゴジラの背と滑降した北穂沢を眺めながらコーラで乾杯した。

北穂沢を滑降。
北穂沢を滑降。
北穂沢を滑降。
北穂沢を滑降。
涸沢ヒュッテまで滑降し乾杯。
涸沢ヒュッテまで滑降し乾杯。

涸沢ヒュッテにデポした荷物を回収して、名残惜しさを感じつつ4日間遊んだ穂高連峰から下山開始。涸沢ヒュッテから下はメローな斜面を気持ちよく滑り、本谷橋手前の下りでスキーを脱いでアプローチシューズに履き替えた。

本谷橋からは河童橋に向けて、スキーとブーツとロープの重さにバテ気味になりながらもひたすら歩く。

岳沢登山口まで降りてくると4日間かけて奥穂を経由して同じ場所まで無事戻ってきたことに感慨深くなる。次第に観光客が増えてくると下界に戻った実感が湧いてきた。4日間で経験した壮絶な行程と観光地の穏やかな雰囲気や安堵感を対比して涙が出そうになりつつこの山行を終えた。

河童橋に下山して4日間の山行終了。
河童橋に下山して4日間の山行終了。

関連記録

  1. 北穂沢 前穂北尾根67のコル スキー滑降 2012年4月
  2. 奥穂高岳 南稜 残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー 2022年5月
  3. 前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ スキー滑降 2015年5月
  4. 槍ヶ岳~横尾本谷右俣 スキー滑降 2011年5月

奥穂高岳南稜 残雪期アルパインクライミング

奥穂高岳 南稜 残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー

山行日
-
山域、ルート
奥穂高岳 南稜
活動内容
残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキー
メンバー
藤本(L)、三浦(記)
登攀装備
シングルロープ8.5mm x 50m、カム、ナッツ、スリング、ハーネス、アックス2本

奥穂高岳 南稜 残雪期アルパインクライミング バックカントリー 山スキーの山行記録

奥穂高岳

奥穂高岳は北アルプスの3190mの山である。日本第3位の高峰、北アルプスの最高峰であり、北アルプス南部の盟主とされる。圧倒的な質量感のある峻厳な岩塊そのものを山体とする姿は盟主と呼ぶに相応しい風格だと思う。奥穂高岳は私が初めて本格的な登山を経験した山でもある。中学生の夏休み、山好きな両親に連れられて運動靴で岩場をよじ登っていったのを覚えている。個人的に最も思い入れがある山である。

奥穂直登ルンゼとバックカントリー

奥穂高岳はバックカントリースキーの対象としても人気が高く、最もよく滑降されるルートは直登ルンゼ1, 2だろう。直登ルンゼは、その名の通りザイテングラードから奥穂山頂に向けて一直線かつダイレクトに突き上げるルンゼである。名前から登攀ルートとして開拓されたと想像され積雪期には登ることもできる3が、今日ではスキー滑降ルートとして語られることがほとんどである。日本第3位の高峰山頂からスティープなルンゼにダイレクトにドロップできる非常に魅力的なラインである。その他、奥穂の山スキーのルートとしては扇沢も度々滑降されている。


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奥穂高岳と直登ルンゼ。中央右のピークが奥穂高岳で、山頂から直線的に落ちる顕著なルンゼがスキー滑降ラインの直登ルンゼ。左のピークは前穂高岳。5月5日北穂東稜から撮影。

奥穂高岳南稜

奥穂高岳南稜は岳沢から南稜の頭に向けて突き上げる尾根である。ウォルター・ウェストンと上条嘉門次が1912年に奥穂高岳を初登したクラシックルートであり、無雪期、積雪期問わずアルパインクライミングのルートとして人気がある。トリコニーと呼ばれる3つの岩峰があり、上高地や岳沢からその特徴的な姿を望むことができる。


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岳沢から望む奥穂高岳と奥穂南稜。左端のピークが奥穂高岳でその右下に見える3つの岩峰がトリコニー。

岳沢~涸沢間の移動

岳沢と涸沢間の移動は山屋や山スキーヤーの課題と考えている。積雪期に一般縦走路を使って岳沢から涸沢へ移動するのであれば、最短で岳沢~奥明神沢~前穂~吊尾根~奥穂~奥穂山荘~涸沢、となるが直線距離のわりには長丁場である上に、積雪期の吊尾根は一般縦走路にしては難易度が高い。一方で、山スキーであればより合理的なルートが選択肢になる。岳沢~奥明神沢~前穂~吊尾根北面ルンゼ滑降~涸沢のルート4は一つの解であろう。しかし吊尾根北面ルンゼはかなりの急斜面でありながら、岳沢からアクセスするとドロップポイントに行くまで滑降ラインの状況は確認できないため、容易なルートとは言い難い。そこで別解として以前から温めていたのが、岳沢~奥穂南稜登攀~奥穂~直登ルンゼ滑降~涸沢のルートである。登攀と滑降を含み、アルパインクライミングと山スキー両方の経験者のみに許された合理的なルートだと思う。

4月の大山5に続きアルパインクライミングとスキーを合わせた山行ということで、奥穂南稜をスキーを担いで登攀し、直登ルンゼを滑降するという以前から温めていた計画を実行した。しかし、奥穂南稜を完登したものの時間がかかり過ぎ、奥穂山頂に23時着、直登ルンゼ滑降は諦め、21時間行動の末、25時半に疲労困憊で奥穂山荘に逃げ込むという結果に終わった。

山行記録

5月2日 奥明神沢滑降

あかんだな駐車場から始発のバスで上高地入りし、岳沢登山口から歩き始めた。下部には雪は全くなく、シールを使えたのは2050m付近から。この日は奥明神沢を登り、前穂高岳山頂からダイレクトに滑降できる前穂高沢6を滑る予定だった。気温が低めだったので行けるところまで、ということで岳沢小屋に不要な荷物をデポして奥明神沢を登り始めた。しかし、次第に稜線に雲がかかり始め雪も降り出したので、2600m付近でスキーに履き替え、登ってきた奥明神沢を滑ることにした。昨日降雪があったおかげでパウダーだが、古く硬くなったデブリに底付きするため見た目より滑りにくい。なんとかこなして岳沢小屋まで滑り降りた。


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奥明神沢を登行。両側の岩壁が迫力ある。

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奥明神沢をスキー滑降。パウダーだが古く硬くなったデブリに底付きして見た目より滑りにくい。

5月3日 奥穂高岳南稜登攀

4時半岳沢小屋発で奥穂南稜の取り付きに向けて歩き出す。取り付きは尾根の末端を右に巻いて詰めたところから。先行パーティは尾根左手から、後続は自分達のさらに右側から取り付いたようだ。


toritsuki01
南稜取付きまでに向けて登行。明け方の上高地の景色が素晴らしい。

toritsuki02
奥穂南稜取付き。左下の尾根末端を右に巻いて詰めたところから取付いた。先行は尾根の左側から、後続は自分たちのさらに右側から。

1P 藤本
ハイマツを開始点にして、岩壁に取り付く。最初の岩壁がかなり悪く、何度かテンションかけながら無理矢理フォローで登った。


nanryo1P
奥穂南稜1Pの最初の岩壁。テンションをかけつつ無理やり馬乗りになって何とか超えた。

2P 藤本
緩いハイマツ帯。抜けると雪稜に出た。取り付きで見えた2パーティは先行し姿はもう見えなくなっていた。取り付きで時間をかけ過ぎたか。

2Pの後、先行のトレースを使わせてもらい雪稜をフリーで登る。右手には明神岳、左手にはコブ尾根の迫力ある岩壁だった。景色を堪能しながら登って行った。しばらく登るとトレースは一旦尾根の右側に移り、雪庇を乗っ越して再度尾根に乗り上げていた。雪庇直下のハイマツを開始点にして再びロープを出す。


nanryo2P
奥穂南稜2Pの後の雪稜をフリーで登る。振り返ると霞沢岳の素晴らしい景色が望めた。

3P 藤本
雪庇の乗っ越しはグサグサ雪の垂直な雪壁で、前爪を何度も蹴り込んで足場を作って登る。雪庇を越えると広めの雪稜。


nanryo3P
奥穂南稜3P最初の雪庇の乗っ越し。再びロープを出してグサグサ雪の垂直な雪壁を超える。

4P 三浦、5P 藤本
徐々にハイマツと雪が少なくなり岩稜帯になってくる。


nanryo5P
奥穂南稜5P。次第にハイマツと雪が少なくなり岩稜帯になってくる。右側の岩壁は吊尾根。間近で見ると迫力がある。

6P 三浦
1峰チムニーの手前まで。このあたりはほぼ岩場の登攀。

7P 藤本
チムニーの間を歩いて抜けて一旦右側の岩壁を上がってから、左の岩壁に乗り移る。


nanryo7P
奥穂南稜7Pのチムニー入り口。チムニーは歩いて抜ける。突き当りで一旦右の岩壁に乗り上げてから左の岩壁に乗り移る。

8P 藤本
1峰頂上に向けて岩稜帯を登り頂上から先はナイフリッジを歩く。背負ったスキーのテールが岩に引っかかり歩きにくい。


1pou
奥穂南稜1峰を抜けてナイフリッジを歩く。日没が迫り陽が傾いてきた。

9P 三浦
1峰2峰のトラバースから2峰終了点まで。雪面のトラバースの後、トレースは2峰の岩場を登っていたが、トレースの右側の雪面をそのまま登ると2峰を巻いてトレースに再び合流できた。錆びた残置ハーケンでビレイ。

時刻は18:30、薄暗くなってきた。ヘッデンをつけロープを解除して南稜の頭に向けて歩き始めた。トリコニーから南稜の頭までは、ほぼ簡単な雪稜で1~2時間と思っていたが結局4時間近くかかった。疲労の上、思ったより岩稜帯が多く全くペースが上がらない。風が出てきて途中で寒くなり、ピナクルにセルフビレイしてザックに入れていたダウンを着込み厚手のグローブに交換する。

南稜の頭到着が22:20、寒いので写真だけ撮ってから吊尾根の縦走路を山頂に向けて歩き、23時奥穂山頂到着。この辺りで雪が降り始めた。直登ルンゼ滑降も、この日の目的地の涸沢ヒュッテも諦め、奥穂高岳山荘までの下降路を降る。途中マチガイ尾根に迷い込んだりしてここでも時間がかかり、結局奥穂山荘に25時半到着となった。疲労困憊で寒さに震えながらも無事着いたことに安堵し、倒れ込むようにロビーで横になった。


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奥穂南稜の頭22:20到着。
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奥穂高岳山頂23時到着。

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奥穂高岳山荘25時半到着。疲労困憊で寒さに震えながらも無事着いたことに安堵。

5月4日 奥穂山荘から涸沢ヒュッテへ滑降

寒くてほとんど寝られなかったが、宿泊客が動き始める朝4時ごろ起きた。この日は涸沢ヒュッテを出発し滝谷D沢滑降の後、登り返してまた涸沢ヒュッテに戻る予定だった。すでに奥穂山荘にいて滝谷D沢はすぐそばだが、疲れは全くとれておらず滝谷滑降どころか外に出る気力すらないので、風が弱まるまで奥穂山荘で時間を潰すことにする。睡魔と寒気と時間を持て余しつつ過ごし、11時ごろになると風が弱まったので、涸沢ヒュッテへ降りることにした。前々日の降雪が猛烈なストップ雪になり、滑るとデロデロ雪崩れる状態だったがなんとか涸沢ヒュッテまで滑降した。


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奥穂高岳山荘から涸沢ヒュッテまで涸沢カールをスキー滑降。

涸沢ヒュッテには風もなく暖かだった。壮絶だった行程を振り返りながら、安穏な涸沢の空気に浸るのは心地良かった。1日遅れながらも無事目的地に着いたことに感謝し、穏やかな陽のあたるテラスで乾杯した。


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暖かく穏やかな涸沢ヒュッテのテラスで乾杯。中央に見えるのは奥穂高岳。

残雪期奥穂南稜のコースタイム

奥穂南稜登攀の残雪期の標準的なコースタイムは、岳沢小屋から南稜の頭まで5時間から長くても10時間程度のようだ。それに対して自分達は18時間かかっている。大きくルートを外れた訳でも大きなトラブルがあった訳でもない。取り付きのピッチには時間がかかったが、それだけではコースタイム5~10時間が18時間にはならない。

ここまで時間がかかったのは小さい要因が積み重なったことが理由だろう。2人とも積雪期無雪期問わず奥穂南稜を登攀したことがなかったため、ルートファインディングに時間がかかったりロープを出して登るピッチが多くなったこと、背負ったスキーが岩場で引っかかり動きが制限されたこと、スキーが重くて行動が遅くなったこと、足首の自由が効かないスキーブーツでの登攀に時間がかったことなどが要因と思われる。結果的に奥穂南稜登攀~直登ルンゼスキー滑降を実行するには力量不足だったと言わざるを得ない。しかし経験を積んでいつか成功させたいと思う。

岳沢~涸沢間の移動

奥穂南稜登攀~直登ルンゼ滑降は、岳沢から涸沢へ移動するルートとして温めてきた山行だった。逆に涸沢から岳沢へ移動するルートとしては、直登ルンゼ登行~扇沢滑降のルート3があるが、扇沢滑降は雪崩や落石、ノド部の滝の露出のリスクが高い。他のルートとして吊尾根北面ルンゼ登行~前穂高沢滑降、アルパインクライミングとスキー滑降を含む前穂北尾根登攀~前穂高沢滑降が考えられる。いつか挑戦したい魅力的なルートだと思う。


関連記録

  1. 奥穂高岳直登ルンゼ スキー滑降 2011年5月
  2. 奥穂直登ルンゼ 白出沢 スキー滑降 2012年5月
  3. 奥穂高岳 直登ルンゼ~扇沢 山スキー 2018年4月
  4. 前穂高岳 吊尾根 北面ルンゼ スキー滑降 2015年5月
  5. 大山北壁弥山尾根東稜 残雪期アルパインクライミング、行者谷 山スキー 2022年4月
  6. 前穂高岳 前穂高沢 バックカントリー 山スキー 2014年4月
  7. 北穂高岳東稜 残雪期アルパインクライミング 山スキー 2022年5月

乗鞍 山スキー

乗鞍 山スキー

令和2年2月23-24日

岡島家

 

2/23(天皇誕生日) 雪

前日に入山予定であったが低気圧の通過で全国的に悪天のため、入山を一日遅らせた。今日は冬型で風雪が強く、スキー場の駐車場でしばらく時間待ち。
リフト終点12:00出発。2200m付近にてテント泊14:00

 

2/24() 快晴 地吹雪

出発5:30、位ヶ原上部2600m付近の便所小屋7:30、肩ノ小屋8:30

朝日岳9:30引き返し、天場11:30、スキー場駐車場14:00下山

 

乗鞍は2007年の年末に金田さん、野上さん、迫田さん達と来て以来であった。あの時は大雪で位ヶ原へ上がる途中でホワイトアウトとなり、地図と磁石を必死に見ながらなんとか車道の目印のポールを見つけ、ツアーコースに戻ることができた。丁度、槍平で大きな雪崩遭難が起こった時だった。

乗鞍はスキー場から直ぐに上がれる安易なイメージがあるかも知れないが、位ヶ原から上は視界がないと行動できない。また、樹林限界を越えると風除けも無く、車道沿いの便所小屋と、肩ノ小屋の脇ぐらいしか落ち着いて休めるところが無い。今回は快晴で視界無限大であったが、前日の大雪は強風で舞い上がりブリザードとなり、最高峰の剣ヶ峰手前は脚を払われそうな危険な風のため朝日岳で引き返した。

 展望はすばらしい。北方は左手から白山連峰、正面は笠と槍穂高が一望でき、前穂の北尾根がはっきりと認められる。南側の御嶽も至近距離に見える。

 

位ヶ原からの下りでスキーで転んでズッコケている処に芦田さん達が上がってきた。予定どおり出合えて安心した。上部の様子などを話してそれぞれの方向に向かう。

スキー場に下山してから仰ぐ乗鞍頂上は先程にも増して猛烈な雪煙が上がっていた。

追記 
スキーシールの糊が乾いて板に張り付かなくなったら、幅広の両面テープ(5cm幅で絨毯固定用)がよい。安上がりで楽に張れる。


入山ツアーコース位ヶ原2

ツアーコースから位ヶ原




ブリザード位ヶ原

位ヶ原から肩ノ小屋





朝日岳剣ヶ峰
朝日岳から剣ヶ峰






芦田さん

芦田さんに撮ってもらう






両面テープ


シールとビンディングの調整


  




元年の黒部源流の春山

元年の黒部源流の春山  令和元年 5月3日~5日

岡島×2+娘、浦本

 

5/3(憲法記念日) 快晴

新穂高7:30-鏡平13:00

蒲田川左俣は初めての山域でした。これまで穂高や槍に向かう右俣ばかりであった。笠ヶ岳の穴毛谷の荒々しい景観が広角で間近に迫り、滝谷とはまた違った迫力である。小池新道に入る手前の下抜戸沢付近や奥抜戸沢は巨大なデブリの山となっている。

 昨年の11月に大西さん達と槍ヶ岳に行ったとき、西鎌から鏡平が手の届く様な近くに見え、次は鏡平に泊まって黒部源流の山を登ろうと決めていた。この時期は鏡平の小屋や池は雪の下で、樹々も大半は雪に埋もれており、槍から穂高のパノラマを遮るものが無い。

 6テンを張ってメシの準備をしようと、ガソリンコンロに火を点けようとするが、気化したガスが出てこない。ノズルの詰まりかと思ってニードルで突くが貫通しない。分解してガソリン臭い管を口で吹いて詰まり個所を調べると、どうやら本体の火口付近のプレヒート部分の管が詰まっている。無理に使用してガソリンが炎上して火事になっても危ないので、残りのEPIガス2缶で燃料計画を考える。ガス缶2ケを使い切ったら、非常用のメタ1箱でお湯を作ることは可能である。

3泊4日で三俣小屋にベースを置いて、鷲羽と水晶を登る計画である。皆で相談したところ、燃料を心配しながら水晶まで行くのは止めて、ここから鷲羽岳の往復に変更することに変更する。余談であるが、松濤昭の「風雪のビバーク」はラジウス(石油コンロ)の故障が発端である。

ガソリンもガスもヘッドが詰まって使えなくなるかも知れないので、非常用のメタとロウソク、ライターとマッチの携行を奨めます。メタやライターは長期間放ったらかしておくと可燃ガスの気が無くなるので、昔ながらのロウソクとマッチが壊れることも減ることも無く安心。

 そして、コンロは山に行く前に点検すること。今までは山に入る前にガソリンコンロは家で燃焼テストをしていたのに、今回に限って確認しなかった。怠慢をこいた時に限ってトラブルである。

 

5/4(みどりの日) 快晴

鏡平 発4:30-鷲羽岳10:30~11:00-鏡平 帰着17:00

早朝の雪が未だ硬いうちに出来るだけ距離を稼ぐ。三俣蓮華あたりまでは、ひょっとして水晶岳も行けるかも知れないとの楽勝感が沸く。しかし9時頃を過ぎると雪が腐りだしてスピードが出ない。鷲羽から水晶までは楽そうだが、帰路に黒部源流を登り返して更に三俣蓮華を登るのは無理やな、と鷲羽岳を登りながら悟る。

三俣に着いた頃から双六・三俣周辺をヘリが旋回して騒々しくなってきた。まだ山小屋は締まっているので荷揚げのヘリではない。樅沢岳の北面をヘリがホバーリングしている。事故があった様子だ。ヘリはレスキュー隊をデブリの斜面に降ろして、一旦立ち去った。しばらくして再びヘリが飛来し、ホバーリングして直ぐに西鎌尾根を越えて飛び去った。ピックアップできた様だ。

黒部源流は元の静寂に戻った。鷲羽岳の登山者は意外と少なく、頂上は4人の男女のグループだけであった。黒部五郎の方は殆ど人の気配が感じられない。
 天気が崩れる心配も無いので、日暮れるまでにベースキャンプに帰ればよい。

 

5/5(こどもの日) 快晴

鏡平 800 - 新穂高 下山1200

下山はスキーで滑降するので、雪が緩むまでゆっくり出発する。所々バーンで硬いが振子沢で滑りやすい。下るほどデブリが増えるので林道に出る辺りからスキーを脱いで担ぐ。デブリ地帯を抜けたらワサビ平辺りまで再びスキーを履いて平地滑走。

雪が無くなり今シーズンのスキーは終了。山菜採りに商売替えして、コゴミを摘みながら新穂高へ。今度は薬師か黒部五郎にスキーを持って行きたい。
 追記。平湯バスターミナルの温泉は営業中止したのでご注意。 
DSC06900.JPG DSC06906.JPGDSC06915.JPG  DSC06975.JPG
 入山          抜戸岳からのデブリ     鏡平への急登を終えて      アタックの朝
 
DSC07003.JPGDSC07009.JPGDSC07029.JPGDSC07033




 弓折岳付近        鷲羽岳遠望 左が双六岳  三俣蓮華岳から鷲羽へ    黒部川の源

CIMG0509DSC07046.JPGDSC07054.JPG




 鏡平BCを見下ろす    BC撤収         滑降


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