高岳堂Blog

上方落語を愛す

2016年01月

けさのABCラジオ「日曜落語なみはや亭」は、昨年末の「第2回なみ1グランプリ」の模様から、桂慶治朗「子ほめ」と笑福亭呂好「寄合酒」。
慶治朗「子ほめ」は、褒め方を訊いたあと、伊勢屋の番頭とのやり取りは割愛して、子どもが産まれた竹やん宅での実践。
呂好「寄合酒」は、品物奪取の件りを割愛して料理の段から。鯛、かんてきの火おこし、数の子、ねぎ、棒だら、鰹、味噌摺り。調理方法や「心得事」は、きょうびの若い女の子でも同様のトホホがあるかも知れない。
いずれも制約のある持ち時間に苦労しているが、うまくまとめている。落語会の前座仕様として活用できる。

けさの文化放送「志の輔ラジオ 落語DEデート」のゲストは、LanguageのボーカリストKaori。
落語は、1982年6月に新宿末廣亭で収録の八代目橘家圓蔵「堀の内」。圓鏡から圓蔵を襲名する直前の高座。
なんと言ってもその勢いには恐れ入る。めまぐるしいギャグの速射は、志の輔師言うところの「革命」だったのだろう。噺の時代設定は限定できないが、考証には頓着せずに「おもしろいことを言う」を優先しているように思える。「ハリケーン落語」とでも呼ぼうか。
サゲは「鏡洗ってら」。

けさのABCラジオ「ラジオわろうてい」は、先週から続く桂春團治師「親子茶屋」の後半。親旦那がミナミに行ってから。
親旦那所望の「狐釣り」に対して、若い芸妓は「嫌やわ、そんな子どもみたいな遊び」と言う。「古くさい」ではなく「子どもみたい」。
「そっちへ行ったら落とされる」の直前から、策略は露見しているぞとばかりのニヤリとした口ぶり。辛辣さはなく、冗談のわかる寛容の姿勢。
ナマで観る所作の美しさや流麗さは、師ならではのものであったろう。

ABCラジオ「第114回上方落語をきく会」の夜の部は、桂南天師がネタおろし三席の「しごきの会」の趣向。後見が桂文珍師と桂ざこば師。
開演は5時半からで、放送は6時から。

まず南天師は「秘伝書」。
マクラでは「野々村」「甘利」の時事ネタで軽くジャブ。桂南光師に入門して25年。内弟子時代の失敗あれこれ。
噺では、秘伝書の値段を2,980円から2,500円、2,000円とダンピング。このあたり、師のセンスのセリフ。購入者は2,000円をかなり惜しむ。
比較的軽めの噺と言えるかも知れないけれど、意外性の連続は客席の気をよく惹いている。

桂文珍師は「粗忽長屋」。
冒頭と半ばで、直前の「秘伝書」を引用するのは老獪のテクニック。いわく「しごきの会に出る方法。南光さんの弟子になること」、「言葉を知らんでも生きていける方法」。
基本は東京の型も、冒頭に下座を入れて上方風に。行き倒れの現場はミナミの法善寺近く。サゲは「どっちかがアンドロイドでしょう」。
上方では馴染みがない噺で、あまりのシュールさが新鮮に感じられるのだろう、よくウケている。

南天師の二席めは「立ち切れ線香」。出囃しのときに陰で伊藤アナが演目を告げるなり、思わず「おっ」と声が出た。
若旦那の座敷への乱入時の勢い、番頭の落ち着き(煙草を喫う間の長さは、ラジオでの無音状態は放送事故になりはしないかと思うほど)で、一気に噺の世界に引きずり込まれる。好適の若旦那であろう。
途中セリフの行き違いなどがあった。本人も自覚して「ちょっと落ち着かせてください」とつい漏らしてしまったけれど、懸命さは伝わってきて心中で声援する。本人評価は及第に達するかどうかであろうと、そもそもニンには似合わない噺だと思うが、上方落語屈指の大ネタへの挑戦の心意気に賛辞を送りたい。今このときにこの噺を演る意味は必ずある。今後の師のエポックとなるかも知れない。
「雪」は内海英華姐さん。

中入り後は桂ざこば師で「笠碁」。
マクラで実生活での囲碁アマ初段の腕前の話。まったく知らないより実感が滲み出ていると思われる。南天師の高座に一切触れないのは、一門の優しさか。
東京の碁仇は旦那同士だが、これは質店の旦那と達っつあん(立場はわからない)で、より人情味が深い。内心を番頭やおかみさんに明言するのも上方的な演出と言える。内面を隠し続ける東京版も趣き深いが。

大トリは南天師の「火焔太鼓」。東京ネタが続く。
マクラで「立ち切れ線香」の錯誤を反省し、三席めに至って「気が楽になった」と吐露しているのは正直なところだろう。
太鼓の形状を詳細に説明。元奉公人の主人・太兵衛と内娘のおさよの関係性も説明。丁稚はあくまで従業員で姻戚関係なし。
購入希望者は鰻谷・住友吉左衛門で、武士でないのが大坂的。たまたま住友の屋敷にいる蔵屋敷の役人が不安要素。
最後は夫婦愛が昇華する。サゲは「どんどんようなると思てたんや」。「立ち切れ」の呪縛から解放された弾け方。

終演後、南天師とラジオ番組をやっている土谷多恵子が祝いに駆け付ける。
南天師が音頭をとって大阪締め。
三代澤アナと伊藤アナが緊張からか昼の部からトチリを散発したが、演者は尚更だろう。
無事、長丁場のイベント終了。

ABCラジオ「上方落語をきく会」の昼の部と夜の部の間の放送は、昨年末の「第2回なみ1グランプリ」に出場した若手落語家7人が順繰りに出てくる「上方落語 若手噺家図鑑」。
進行はABCの北村アナと笑福亭鉄瓶、小佐田定雄先生。各人の「なみ1」の時の一部録音や師匠に関わる「師匠自慢グランプリ」でエピソードなど。
まず桂咲之輔。コンテスト時は「いらち俥」。
桂春之輔師にまずつけてもらった一席のあと、次に桂梅團治師に出稽古に行くように言われ、次に春團治一門では習わない「東の旅」の稽古に桂米左師への出稽古を勧められる。一度春團治師に稽古を希望した折り当時体調不良で叶わなかったが、数日後春之輔師の稽古中に快復したのでと「寄合酒」の稽古を受けた、とのこと。嘉門達夫に声が似ている。
次は笑福亭呂好。コンテストは「寄合酒」で。
笑福亭呂鶴師の稽古は、2〜3分毎に切って3ヶ月くらいかけて完成させる。呂鶴師は、映画「あずみ」以来上戸彩の大ファン。稽古場に上戸彩の水着のポスターが貼ってある。レストラン「ミュンヘン」が贔屓で、忘年会で「ミュンヘン」から別店の「ミュンヘン」へのハシゴが2年連続あった、とのこと。
当初の命名案は、宝塚出身だから「呂宝」。当時、同音の名前の取的による不祥事があって変更。
次に桂優々。コンテストでは「運廻し」。
桂雀々師は汗かき。クリーニングから帰ってきた黒紋付きを着て、野外で「地獄八景亡者戯」を演ったとき汗の塩で白く変色。が、稽古時では汗はかかない。有名人との交遊の幅が広い。
スポーツ好きで、高校野球でショート(遊撃)を守っていたので、同じ音から。
次は桂慶治朗。コンテストは「子ほめ」。
桂米團治師からの稽古ネタは3年で10本。初めて観た「親子茶屋」に感銘を受けて入門志願。8日後に命名。「若旦那」の「天然」キャラ披露は聞き覚えがあるもの。
次に桂ぽんぽ娘。録音はマクラ。ネタは新作「引き出す女」だったよう。
桂文福師のエピソードは、「フレッシュ」「優しさ」「信念」と言い換えれば聞こえはよいが、裏腹な実態のオンパレード。一門の教え「三本のや」は「野外・山奥・安いギャラ」、など。
次は桂あおば。コンテストでは「ハンカチ」。
桂ざこば師は「とにかく優しく、懐が大きい」。入門時に厳命されたのは「嘘つかんこと」と「警察の厄介にならないこと」。「アホな」失敗が多く、他門ならば破門でもおかしくないが許してもらっている、という。
最後が桂華紋。「道具屋」でグランプリ獲得。
桂文華師とは大学が同じ。師の「替り目」が逸品。芸人になるまで呑めなかったが、酒の席は避けられないと練習し、馴れず当時は乱れることもあった。
年に三回師弟で酒を呑む機会があり、ある正月、四合また四合と呑んで、機嫌がよくなり「その一升瓶が空いたら帰したる」ですべて空き、そこへ林家染二師からの電話があって「兄さん、どこにいてまんの。ほな二人で行きますわ」と終電で田辺から天王寺まで行った、とか。

きょうはABCラジオ「第114回上方落語をきく会」の生中継。「ABC創立65周年記念」と銘打った一大イベント。
昼の部の出演は、桂華紋、桂佐ん吉、桂吉弥、桂文華、笑福亭三喬、笑福亭鶴光。夜の部は「南天しごきの会」と称して、桂南天、桂文珍、桂ざこば。年に一度のお祭りといった趣き。特に「しごきの会」は28年ぶりの企画ということで、期待が高まる。
ひょっとけさに積雪があれば、某所に雪かきの手伝いに行かねばならなかったので、そうなると昼の部はまず聴くことができず、随分と心配したがきのうからの雨はずっと雨のままで、10時頃にはすっかりあがったくらい。雑事を済ませて、準備万端ラジオに向かう(と言ってもスマホの前だが)。

まず昼の部のトップは(劇場でのトップは桂ぽんぽ娘らしいが。放送に入っては)桂華紋「阿弥陀池」。
事前の「なみ1グランプリ」で優勝してこの位置を獲得した華紋は、実に落ち着いて安定感がある。短いキャリアにしてはかなり上手い。注目すべき新人だ。
「阿弥陀が行け」と「糠に首」のシャレでは会場から手がくる。ということはサラの客が多いということか。

桂佐ん吉は「おごろもち盗人」。
マクラで少々ウケが足りなかったが、最後の小咄でドッときてひと安心。
盗人の財布を探り出して、すぐ「あ、五円」と言うのは、直前に「一円札が三枚と細かいのとで五円」の振りがあるため、細かい見方をすれば自然とは言えない。
盗人の態度が豹変する振幅が激しいほどおもしろい。

桂吉弥師は自作の「ホース演芸場」。
園田競馬場の近くにあるホース演芸場で修行する落語家・桂小骨を狂言回しにした噺。
噺の合間に宮川左近ショウ、フラワーショウ、暁伸・ミスハワイ、かしまし娘、ジョウサンズのテーマソングを披露。どれも口ずさめるのは年齢。
劇場の頭取が小骨に諭す話を含め、ある意味で人情噺。サゲ時点で小骨は71歳で、来年三代目ざこばを襲名という設定。

中トリが笑福亭鶴光師で「善悪双葉の松」。
旭堂南鱗先生から譲り受けた講談ネタ「名刀捨丸の由来」が基という。師が得意とする分野の地噺。地の文で緊張させておいて、一息の緩和で笑いを取る。
舞台が上州で、地のセリフの大部分が東のイントネーション。「ガリガリの歌丸」などのギャグは、東京拠点の師の感覚から生じたものだろうか。
早いセリフ廻しのときにやや上滑りするきらいがあった。

中入りの間に鶴光師のインタビューで指摘があったが、「阿弥陀池」「おごろもち盗人」「善悪双葉の松」と泥棒が出てくる噺が三つ続くとは。

中入り後の桂文華師は「近日息子」。
師の得意ネタ。以前聴いたときに大笑いしたものだ。
おもしろいのが、脇道に逸れた近所の人たちの会話。「イチコロ」と「トンコロ」、「世話方」と「枚方」、「床下」と「橋下」、「寝巻き」と「う巻き」、「ちゃんちゃら、おかしいわ」と「ふふん、天ぷら食いたいわ」、「ホース」と「ソース」、「いやみ」と「悔やみ」とエスカレート。これはやはりナマで聴くものだ。

トリが笑福亭三喬師「崇徳院」。
熊五郎が仕事に行っていたところは天下茶屋。謝礼は、当初が借金の棒引きと百円。のちに追加で蔵付きの五軒の借家。探索場所は風呂屋30軒・散髪屋36軒。
最後の散髪屋に飛び込んで来た棟梁が、本家の話を述べる段で「瀬をはやみ」を開陳したとき会場が沸いたのは、やはりサラのお客が多かったのかしらん。
サゲでは「暴れたらうちの商売道具の鏡が割れる、割れる」と、鏡は結句割れない。

最後の三喬師のインタビューでは、先日の桂春團治師の「お別れの会」で笑福亭仁鶴師が弔辞で「春團治師に初めて声を掛けてもらったのが『ABCラジオ上方落語をきく会』出演時で、『くっしゃみ講釈』を誉めてもらった」と述べたことを披露。

きょうのNHKラジオ第一「キャンパス寄席」の出演は、おとぎばなし、スパローズ、サンドウィッチマン、春風亭百栄。
百栄師は「コンビニ強盗」。
職務に忠実な店員と気弱な強盗とのやり取り。それぞれの演劇的な使命達成を目指していくと、小ネタ材料はたくさんあるだろうし、噺がより拡がる余地はあると思われる。多くの人に認識の度合いが高いコンビニ店の風景は、コントや漫才の材に採られることも多いけれど、ひとりで演る落語ならではのトリックを仕掛けることも可能だろう。

きょうのNHK Eテレ「日本の話芸」は、笑福亭三喬「初天神」。
まさにタイムリーなネタ。三喬師は手練れたもの。
いろんな演り方があるだろうが、あまり聴きなれないセリフがいくつか。
「きびしょ」は、言葉自体はいまや死語になっていると思われる。急須のことをこう言うが、昭和初期生まれの人くらいしか使わないだろう。
「サーカス団の人買い」も、「サーカス団」はさておき、「人拐い」などは昭和30年代生まれあたりの人なら夕暮れ時の遊びを諌める文句として記憶にあるだろうが、イマドキのセリフではない。
寅ちゃんが飴をしゃぶりながら歌うのが「ラバウル小唄」「麦と兵隊」「伊勢佐木町ブルース」。
みたらし団子を舐めながら注意を促す中に「安もんの砂糖使(つこ)てんな。台湾の砂糖を使え」。
噺の時代設定がいつであるか、セリフから考証するのは難しい(「ラバウル小唄」と「麦と兵隊」か「伊勢佐木町ブルース」のいずれかをカットすれば、ある程度の整合性はとれると思うが。「台湾の砂糖」を活かすならば「伊勢佐木町ブルース」のカットだろう)。
一方で、そんな些細なことは気にしないでもよいのだろうと思う。「空気感」や雰囲気が伝われば、まずはよい。テーマは親子のふれあいだろうから。

けさのABCラジオ「日曜落語なみはや亭」は、昨年末の「第2回なみ1グランプリ」でグランプリを獲った桂華紋の「道具屋」。
事前の検品は、ノコギリ、電気スタンド、花瓶、お雛さん、短刀。
入門5年の28歳で、若手なのに声は大人びて、安定感がある。どことなく吉朝師の口振りに似ているところもある。
ゲストは三遊亭王楽。
トリイホールで5日間連続のひとり会をやるという告知。客演に桂文珍、桂南光、桂きん枝、月亭八方、桂米團治の各師を招くという。ゲスな見方をすると、前売り3,500円・当日4,000円でも、会場のキャパが小さいので、ゲストのギャランティの占める割合が大きく、実入りは多くないと思われる。それでも敢行するのは、フランチャイズではない大阪で、かつて志ん朝師が大阪の基盤としていたトリイホールで、5日間連続で、やる意味合いを考えてのことだろう。プロデュース力があると言えよう。

けさの文化放送「志の輔ラジオ 落語DEデート」のゲストは、女優の長谷部香苗。映画「さらば あぶない刑事」の宣伝。
落語は、昭和36年9月6日のニッポン放送の音源で、三代目三遊亭金馬「転宅」。
「しのようじん (火の用心)」や「さむしいだろう(寂しいだろう)」などの訛りが江戸の味。
泥棒の名は「鼠小僧の流れをくむ、兎小僧のぴょこ助」で、鉄火な姐さんは「蝮のお政の身内、毛虫のお玉」。
姐さん宅には、二階に柔術の先生二人がいて、裏は警察の合宿所。旦那が置いていった金高が五万円といい、微妙な時代背景。
泥棒は男前のいい声で、声色のメリハリが明瞭なのがこの師匠の特徴であるが、いい声過ぎて落ち着き感が強く出て、間抜けぶりが薄い感じを受けた。

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