コロッケ事件
コロッケ事件
さてそろそろクラブハウスに出掛けようかと身支度をしていると、
外からハイヒールの小気味良い音が聞こえてきて、
私の部屋の前で鳴り止んだ。
やもせずインターホンが数回鳴り、
私は茶色のペンキで綺麗にコーティングされた、主成分は鉄であろうと思われるドアの真ん中より少し上側に付いてある魚眼レンズのような覗き穴から外を見回して見た。
しかし誰もいない。
よくよく見ても誰も確認できない。
悪戯かと思い軽くため息をついてもう一度覗いてみると、
覗き穴の下の方からもじゃもじゃの黒いものが上がって来るではないか。
更に外から押し殺してはいるが甲高く耳触りな音も聞こえてくる。
徐々に視界を埋め尽くす黒いもじゃもじゃ。
それに伴いボリュームを増す甲高い声。
意を決して固く閉ざされたドアを両の手で思いっきりこじ開けた。
次の瞬間!
「イテ。」
木原だった。
頭を押さえた木原の横には通りすがりにも会った事の無い女性が二人立っていた。
うずくまる木原を好奇な目でみつめる二人。
うまく状況を把握出来ないでいる私は、
とりもあえず台所に行き、何も入っていない冷蔵庫の中身を二三回確認した後、風呂釜の栓をそこにそっと入れたのを覚えている。
動揺収まらぬ中、木原がスックと立ちあがり私に耳うちをしてきた。
「この娘ら、今日駅前でナンパしてきた娘やねん。今から俺の部屋でコロッケパーティーするから一緒に食べようや。」
断る理由など何も無かった。
皆無だった。
お腹は減ってなかったけど満たされてはいなかったから・・・
木原の部屋に行けばきっと何かが満たされるはずだ!
と、そう思い矢継ぎ早に木原の部屋へと向かった。
部屋に着くなり大きな買い物袋を下ろす女の子二人。
スーパーの袋からは大量のメークイーンが転がり落ちてきた。
数えてみると計20個のジャガイモ。
それを次々と慣れた手つきで鍋の中に入れ湯がき始めた。
嫌な予感はしてたんだ。
気づくと目の前には山積みのコロッケが。
単純計算で一人8個は食べないといけない量が、三人座れればやっとという大きさのテーブルに我が物顔で乗っかっていた。
私はもちろんたじろいだ。
海老反った。
体を目一杯使ってアピールした。
俺はノータッチよ!と。
そんな私を後目に黙々とコロッケをほうばり続ける木原。
彼はヤル気だった。
まあわからんでもない。
残したらバツが悪いし、
その後のことも考えての行動だろうけど・・・
そんな彼の気迫に押されてか私もコロッケを食すことにした。
せめて5個は食べてやろうと。
コロッケを箸で掴み上げ口の中に無造作に放り込んだ。
サクサクとした衣の触感。噛んだ瞬間立ち上るジャガイモの良い香り。
これは結構いける!
二口、三口ほうばった後私は何か妙な違和感がこのコロッケに存在することに気づいた。
このコロッケなんと肉が入っていない!
て言うかジャガイモだけ!
ジャガイモ潰して揚げただけ!!!
マクドポテトコロッケバージョン!!!!
こんなん一個食って胸焼け必至。
私はウーロン茶をがぶ飲みしながらようやく2個程食べてギブアップ。
木原はと言うともう6個は食べていた。
ジーンズのウエストのボタンを外して更に貪り食っていた。
そんな木原を見て、
「わー!うれしい!」
などと人の気もしらないこのジャガイモ100%コロッケを作った主がのたまう。
彼女の友達もコロッケを食べてコメントを言った。
「始めて作ったにしちゃ上出来よね!」
「・・・」
「・・・」
ぐーの音もでない私。
「ゴホッ!ゴホッ!」
もはや咳き込むほどの限界に達してしまった木原。
しかし彼の箸が止まる事は無かった。
食べきる!という目標以外の目標に向かって突っ走っていた。
しかしまだ20弱のコロッケがテーブルには残されていた・・・
続く