一番伝えたい思いを、告げられない言葉の代わりに『君達』に託すから
せめて、この腕いっぱいの・・・






中で作業をしていた店員がこちらに気付いて声をかけてきた。
もう少し一人で選びたかったのだが・・・気付かれた以上、相談を持ちかけるしかない。
「どのようなものをお探しですか?」
それは自分は聞きたい質問だ。
・・・とは流石に口にできず。
彼にしてみれば珍しく曖昧な微笑みを返しただけで、また、下を向いた。
「どのような方ですか?」
「はい?」
思いも寄らぬ尋ね方に、思わず顔を上げてしまった。
「どのような方に贈られるのでしょうか?」
優しげな声のトーンからは想像もできない、口元と顎に髭を蓄えた体格の良い40半ばの男が、礼儀正しく目の前に立っていた。
「和装が似合う・・・キリリとした顔立ちの・・・美しい、細かいところまで気配りができる素晴らしい女性・・・でしょうか?」
自分で言いながら・・・柄にもなく照れてしまう。
こんな風に、見知らぬ人間に対して彼女のことを語ったことはあっただろうか?
尋常ではない記憶力の持ち主である彼、見知らぬ人間は愚か見知った人間に対しても覚えがない。
つまりは間違いなく・・・ない。
「分かりました、少々お待ち下さい。」
そう言って、男は全く迷うことなく次々に目的のものを手に取り、あっという間に両手いっぱいの束を作り上げた。
ランダムに持った筈なのに、男の手の中でとてもバランスの良い一つの作品と言うに相応しいモノが完成している。
くるくるっと透明フィルムで巻き、手元にはリボン。
メインを引き立てる為の上品な色合い。
出しゃばらず、引き過ぎず。
彼女そのものだ。
ものの3分。
完成品は彼の腕の中に収まっていた。
支払いを済ませ、店を出ようとした彼の背中に、男の柔らしいトーンの声が追いかけてきた。
「きっとお似合いだと思いますよ。年に一度の彼女の記念日が、素敵なものになりますように。」
一瞬、ピクッとして立ち止まり。
杉下右京は振り向いて笑った。
「ありがとうございます。」






時間が無い。
いつもは暇なのに、今日に限って。
元凶は隣の課長だ。
薬物一斉取り締まりで抑えた売人が思いのほか大物だったらしく、意気揚々と押収品を段ボール3箱分、持って来た。

『いつもの様にヨロシク、今日中ね』

そっちは言うだけ、やるのはこっちだ。

『いつも暇なんだから、仕事できて良かったじゃない』

昨日か明日であれば喜んでやれたのだが。
とにかく言われた通りに片付けて。
部屋を出ることはできたのは、既に深夜と言っても良い時間だった。
怒ってる・・・絶対に。
記念日大好きのアイツのことだ、今日をすっぽかしたら・・・多分、彼は彼の上司の二の舞になるだろう。
街路樹を擦り抜けて、一直線に走る。
まだ【今日】は終わっていない。
急げば間に合う筈だ。
・・・でも・・・手ぶらって・・・どうよ?
そう悩んだ瞬間、目に入った店の扱う商品が『こういう時』にうってつけのもの。
迷うことなく方向をアッサリ変えて、駆け込んだ。
「いらっしゃいませ。」
不思議と落ち着く声。
奥から自分と同じくらいか、それより少し上の男が一礼してきた。
「あっ・・・。」
勢いよく入ったものの何をか考えている訳ではなく。
急に場違いなところに入ってしまった気がして、思わず回れ右をしそうになった。
「どういったものをお探しですか?」
「どういったものって・・・あっ!」
口籠り掛けた所で、彼はふ・・・と思い立つ。
「えっと・・・出来るだけゴージャスに!いかにもって感じで・・・一目見ただけで喜びそうな・・・あ、でも・・・そこまでじゃなくても良いかな?」
最後の方はほぼ独り言に近い。
「少し、お待ち下さい。」
ブツブツとまだ呟き続ける彼に微笑みながら、急ぐ様子に合わせて手早く、でも丁寧に最後の仕上げであるシルクの紅いリボンを引っ張り出した。
衣擦れの音が心地良い。
きゅ・・・と固く結ぶ。
手渡された結構重みのある手土産は、普段は縁の無い優しい香り。
「よし・・・っ!」
亀山薫は肩にそれを担ぐと、また走り出そうとする・・・後ろで男の声が聞こえた。
「間に合うと良いですね、結婚記念日に。」
「・・・ありがとうございますっ!!」







花を貴方に。