裏切り

2009年08月08日

錯乱

僧「それじゃ、この人たちをむざむざ死なせるだけだ」
工夫「おとなしくしてたって、結局は殺されるだけだ。奴らが正しいのか?俺達は人間じゃねぇのか?!」
僧「人間が虫けらと違うのは、考える力を持っていることだ」
工夫「じゃあ俺達はどうしたらいいって言うんだ?!」
僧「待つのだ」
僧の言葉を無視して闘おうとした工夫は、搾取者に撃ち殺される。
僧「闘うことは正しい。しかし勝つ望みもなしに無駄死にするのは、愚かな者のすることだ」


僕はある時、錯乱した。
本当に暴れださずには、いられなくなった。
前年の学祭公演のビデオを部活全員で見た後の指導部会議。
三年生の女子たちは楽しそうだった。
公演での自分たちの活躍に、苦笑しつつも満足しているようだった。
それはそれで構いはしなかった。
問題は、その最中、彼女たちは画面を指差しながら、イチイチ自分たちの失敗やカッコ悪さに笑い転げていたことだ。
アタシ、下手!だの、何これカッコ悪い!だの・・・。
確かに技術的には褒められたものではなかっただろう。
反省はいい。
自覚して、明日からまた努力してくれるのなら、それは十分なこと。
しかし何といっても後輩も一緒だったのだ。
しかも三年生のことをはっきり舐めてかかっている後輩たちの前で、自分から自分達を馬鹿にして見せているのである。
どうしてそんな恥知らずな真似が出来るのか?
どこまでナメられれば、気が済むというつもりなのか?
下から軽蔑の目で見られること悔しさ、情けなさ、そんな自覚が彼女たちにはてんで欠けていた。
実際、稽古中でも、返事しない後輩に対して、結局自嘲的に放任している様子が、すでにあからさまだった。
僕は激昂した。
思い切りのインパクトまで計算して、というよりそれはもう、抑え切れない憤怒の当然すぎる結果として!僕はそれまでの指導部ノートを彼女たちの前で引き裂いた!
どうして自分から卑下されるようなことをそんなにヘラヘラと出来てしまうのか、その無責任ぶりと、単純な愚かさ加減を徹底的に罵倒してみせた。
女子たちは三人とも悔し泣きした。
僕は一方的にまくし立てるだけまくし立てて、後は部室のドアを乱暴に叩きつけて、その日は帰った。
一か八かの賭けとも言えた。
これで少しは自覚してくれるか。
明日からはもっと真剣に、必死に、殺るか殺られるかくらいの意気込みで稽古に望んでくれないか・・・・・。
しかし結果はまたしても空しいものだった。
彼女たちは、やはり変わりようもなく、稽古で終始怒鳴り散らし、生意気な後輩たちと真剣勝負?いや喧嘩?しているのは、結局僕独りだった。
裏切りと失望には、もう慣れっこだった。
僕にとってはつかの間の錯乱なんて・・・わびしいウサ晴らしに過ぎなかったかも・・・しれないのだ。







kohe000 at 12:26|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年07月26日

嘘吐き

僧「じゃあ、嘘を言ったの?」
少女「本当のことは、あなたが知ってるわ」
僧「嘘を言っていいのかな?」
少女「あなたが助かれば、それでいいのよ」
僧「よくない・・・嘘を言ったかもしれないよ」
少女「あなたは嘘なんかつかないわ。私と一緒よ、嘘なんか大嫌い!・・・もう絶対嘘言わないわ。一回だけなら私、嘘つきにはならないでしょう?」
僧「一度言った嘘は、嘘である限り、いつまでも嘘として残る。決して消えて無くなってしまうものじゃないんだ」
少女「じゃあ、一生嘘つきになっちゃうの?」
僧「そうだ」


僕と、反抗的な後輩たちとの抗争は、どうなってしまったか・・・。
唐突な終焉だった。
尻切れトンボの馬鹿馬鹿しさだった。
僕を"見限る"宣告をした二年生の男子たちは結局、全員辞めてしまった。
同級生の女子だけを残して。
泣いて在籍を懇願した女の子たちを、軽々と振り切って・・・。
「これからは影ながら彼女たちを見守っていきますよ」
あるOBにヘラヘラしながらこんなことを言ったらしい。
いい気なものだ。
テキトーな、軽薄さのみだ。
奴らに責任感などはなかった。
文句だけを垂れて、不貞腐れていただけなのだ。
実際、稽古はほとんどサボっていたし、そのくせもったいぶって、まるでこちらを牽制するかのようにダラダラと籍だけは残していたし。
威勢のいいことを口にするだけの人間ほど信用出来ない。
言葉でなら、何とでも格好はつけられる。
いくらでもご立派な理想を語れる。
「自分たちが上に立ったら、先輩たちみたいにはしないで、もっといいクラブにしますよ」
そんなことを散々吹いていた輩が、稽古はいつもほとんど後輩に任せて自分たちは顔すら出さない。
要するにキツい稽古が嫌になっていただけの不満分子。
確たる決意も覚悟もない、口からデマカセの野次馬止まり。
僕は呆れるより、ただただ蔑み、唾棄し、とうに見限って、その上をいく自棄にとどまっていた。
とっとと辞めてくれた方が、と願いつつ余分なシゴキも辞さない悪意の固まりになってでも、己が足場を保ち続けることに終始していた。
実際、早くいなくなってほしかった。
自分を軽蔑しているような奴らと、もはや共に頑張っていこうなどという先輩としての心の広さなど、孤独な戦いをかろうじて行っていた僕に、あろうはずがなかった。
僕は卑小で、厭らしい、腐りかけた指導者だった。
そんな自分を心底嫌悪しつつも、僕は生き残るための卑怯さに、その汚れの泥濘に、のたうちまわるしかない、嘘つきだった。
奴らと変わらない、傲慢な嘘吐きだった。




kohe000 at 12:55|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年07月22日

悪に漬かって・・・

僧「私に悪を為す者を私が懲らしめれば、二度としなくなるかもしれません」
老師「懲らしめなければ、どうなるかな?」
僧「好きなことをしていいのだと、思うでしょう」
老師「そうだな、だが、もうひとつ。悪に報いるには、すなわち善をもってす。その心も教えるのだ」


青天の霹靂だった。
大袈裟ではなく、僕にとっては生活も、人生観も、一変しそうな現実だった。
あれほど順調と思われていた後輩との信頼関係。
それが当事者から一方的にズタズタにされるとは・・・それも、ありえない傲慢な反逆として宣言されるとは・・・。
僕は心底動揺した。
そのため焦り、はやったあげく、同輩との関係すら、ギクシャクさせてしまった。
僕は同輩との団結をアピールした。
最後まで頑張ることを皆で誓い合ってほしかった。
けれど賛同者は、一人もなし・・・。
みんな、冷ややかだった。
いや、たかが部活くらいで、大仰な僕の要求に、恐らくは辟易しているようだった。
しかし僕は同輩からまで裏切られたと感じてしまった。
指導の立場になるにあたって、さらに同輩は欠けていき、僕はますます孤立を意識してしまった。
後輩たちは案の定、思うようには動かない。
あからさまな反抗的態度ではないにしても、四年生と比べて、明らかに侮蔑を込めたような醒めた応対・・・。
おまけに新入部員も入らなかった。
例年なら10人は下らないはずなのに、その年から急に、わずか6人そこそこだった。
稽古から活気が消えた。
何せ指導する先輩ばかり10人以上もいて、後輩はせいぜい3、4人・・・。
僕はますます焦った。
毎日が苛立ちと、喪失感と・・・自己否定への戦い、いや見苦しいあがき、でしかなかった。
こんな部活になるわけがなかった。
こんな先輩になろうなんて思わなかった。
厳しい稽古を耐え抜いて、やっと辿り着いた栄光?の座が、こんなみじめで、やりきれない廃土だったなんて・・・信じられるものではなかった!
僕は後輩を憎んだ。
裏切り者の後輩たちを憎悪し、傍観者でしかない同輩たちを見限っていた。
こんな僕に、何の希望が、いかなる人間らしさが、あったろうか・・・。




kohe000 at 12:30|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2009年07月21日

宣告

僧「先生・・」
老師「何だ?」
僧「いつ首を斬られるのですか?」
老師「もうお前から奪うものはない」
僧「でも先生、私は・・・何も失っていません」
老師「お前には分からんのか?」
僧「(奪われた)巻物は返ってきました」
老師「疑いを知らぬお前の無邪気さは、二度とは戻らんだろう・・・」


しかし僕は迂闊だったのだろうか。
まったく呑気な怠慢人間だったのだろうか。
あっという間に二年生は過ぎようとしていた。
いよいよ部活においては、主軸の先輩として、後輩への指導を任される立場に立とうとしていた。
が、そんな矢先の予想もつかない内部分裂?・・・・
元々僕の代は、はかないものだった。
同期は男女合わせて17人もいたというのに、一年の終わりには8人に減っていた。
しかも10人いた男子が、たったの3人に・・・。
そしてほとんど残っていた女子の一人が、ある時先輩に噛み付いた。
よりにもよって、年間の締めくくりとなる学祭の舞台終了後、一年生への三年生(指導部)の扱いが不当だとして、記念撮影や打ち上げやらを一人でボイコットしてしまった。
同期の女子は泣いた。
一年生は逆に事態を把握しきれずにキョトンとしていた。
まったくもって、そいつの独りよがり、としか思えない勝手な行動だったのだ。
けれどそれまでの体育会系的な部活内部においては、ありえない反逆行為だった。
みんな、動揺した。
打ち上げの感動など、全然ない、シラけたムードだった。
僕は裏切られた想いだった。
後輩が可哀相、などとハネ上がった、完全なスタンドプレーにしか見えなかった。
そのくせ化粧は派手で、いつも毅然とした長身の美形だったせいか、一年生からの支持はかなりあった。
それどころか、三年の男子からさえ・・・いやそもそも四年の男子の一人とどうとかこうとか・・・・ろくなウワサしか耳に入らない・・・。
僕は、うんざりだった。
せっかくの僕の聖域を、高飛車女の気まぐれで汚されてしまった気分だった。
こんな無残な気持ちで、頑張ってきたたこの一年間を終了することになろうとは・・・。
だが、これだけではなかった。
むしろこんなものは、他愛ない序章にすぎなかった。
打ち上げ後の二次会で、一年生の一人が僕に言った。
「先輩たち、誰も頼りになりませんねぇ」
信頼し合ってると確信していた後輩からの、それはまさに"宣戦布告"、いや"死刑宣告"だった。

kohe000 at 13:19|PermalinkComments(0)TrackBack(0)