仕事

2009年08月22日

個室

僧「真の目的もなく、命を投げ捨てることは、間違っている」
坑夫「ここで死ぬよりはマシかもしれんよ」
僧「死にはしない。苦しくても、それに耐え抜けば、道は開ける」
坑夫「俺達みんな、あの山の呪いで死んだ坑夫のように、一人一人順に死んでいくんだ」
僧「人の生死を決めるのは、そんな迷信ではない。それは運命だ」
坑夫「・・・」
僧「迷信に屈することは、不幸な運命を、自分から作り出すことに他ならない」


翌月、僕はまた情報誌からバイト先を見つけた。
今度は芸能関係の編集プロダクション。
ところが配属されたのは、ある視聴率調査の会社。
僕はまったくのデータマンにされてしまった。
「三年は辛抱してくれよ」
編プロの社長はそう言っていたらしいが、なるほどこれが世間というヤツかと、僕は一応?勉強になった。
本当に三年経ったら希望する雑誌の編集をやらせてくれるのかどうか、何の確証もないままに、毎日黙々と数字や活字に向かっている外注扱いの同僚たち。
昨今の派遣差別みたいなものは全然なく、僕が鈍感だったのか、まだまだバブル前のノンビリな世であったのか、とにかく職場の雰囲気は可もなく不可もなく・・・つまりどうにもこうにも退屈な仕事でしかなかった次第で・・・。
僕は二日で飽きた。
別にサボったりはしなかったが、ほぼ一、二時間ごとに襲ってくる猛烈な睡魔には、どうにも耐え難い思いを抱え込んでいた。
そんな時、僕はトイレに直行する。
フラフラにさえなりかかる頭を何とか支えて一人、個室で鈍重なる体を回復させる。
仮眠していたわけではない。
携帯電話もまだ普及していなかったから、気を紛らわすものなんて、全然ない。
僕はただただ時間をやり過ごしていたのだ。
慌しいオフィスビルにあいて、唯一の静寂と安穏を吸引出来る、貴重な個人タイム?に隠れ潜んでいたのだ。
一体自分はこんなところで何をしているのか、これから何をしようとこんな所で時間を潰しているのか・・・。
三年なんてとても待てなかった。
それ以上に、やはり会社だのビジネス社会だのの、無味乾燥的な空気が、根っからの偏屈自閉人?である僕には、耐えられる代物ではなかった。
結局ここも一月で辞めてしまった。
確か日給四千円ちょっと・・・。
よくまあ、生活していたものだ。





kohe000 at 12:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年08月21日

経済?

老師「闇雲な戦い方では、か弱い娘にも負けるぞ」
僧(少年時代)「申し訳ありません、先生」
老師「自分を責めることはない・・・何を怒っておる?」
僧「自分自身です」
老師「その理由は?」
僧「臆病だから、です」
老師「おお、なぜそう思った?」
僧「昨日、友達と市場へ行って、五人の巨漢に襲われました。私は怖くて何も出来ませんでした」
老師「少年二人に、巨漢が五人だ。どうすべきであった?」
僧「友達を助けるべきでした」
老師「それは英雄的な行為だ」
僧「やはり私は臆病ですか?」
老師「臆病とは、弱点をかばう知恵。勇気とは、長所を生かす知恵」
僧「・・・」
老師「人の中には、臆病者と英雄が共存する。臆病者と英雄を分けても、意味はない。人はそのどちらにも成り得るのだ」


新入生歓迎イベントが終わり、5月の連休が過ぎてから、ようやく僕は新しいバイト探しを始めた。
どのみち最初から社員として雇ってもらえるアテなど全然ない。
頼みはアルバイトニュース、そしてフロムA。
僕は編集者のバイトをとにかく探した。
文芸科なんてところにいたというだけの、まったくいい加減なる選択だった。
編集者とかなら、どうにかやれそう・・・確信などなかった。他に何の技術も資格もない身には、あてずっぽう以外の何ものでもなかった。
なぜ、映画やテレビ関係の製作スタッフみたいなバイトを求めなかったのか?
よく分からない。
結局、集団作業の猥雑な?匂いに、やはりどこか敬遠せずにはいられないものがあったのか・・・。
それ以上に、当時の僕はすでに作家志望だった。
だからその準備としては雑誌の編集者あたりが一番適当ではないか、単純にそう思ってしまったわけだ。
そしてこんな僕でもすんなり雇ってくれたのが、ある経済誌。
ほとんどミニコミ誌レベルだったが、どういうわけか経済なんてものとはおよそ無縁な経歴の僕を、たった一度の面接で採用してくれた。
高齢の社長と、その奥さんと、若い編集者の・・・たった三人の会社。
僕はひと月で辞めてしまった。
編集者としての仕事ウンヌン以前に・・・やはり経済なんてガラでは、完璧になかった。
それでも最初のバイト代だけは、ちゃっかりもらって・・・確か日給五千円。
AV男優でも、最低一日でもらえる・・・貴重な五千円だ。

kohe000 at 12:59|PermalinkComments(2)TrackBack(0)