新年度が始まり、高校生になっても一向に衰える気配がない藤井聡太六段の人気。それに伴って、師匠である杉本昌隆七段の姿や発言をメディアで目にする機会も増えています。
弟子が可愛くて可愛くて仕方がない様子の杉本七段に好感を持っている人は多いと思います。僕もその1人。
その師弟が今年3月8日、公式戦で初めて戦って(王将戦1時予選)話題を集めましたが、当の対局について杉本七段自らが記した自戦記が「将棋世界」2018年5月号に掲載されました。一読し、弟子への優しい思いと勝負師としてのプライドが滲み出る文章に、何とも心温まる気分になりました。
ふだんは「藤井君」と呼んでいる弟子を、文中、師匠の心境のときは「藤井」、勝負を争う棋士の心境のときは「藤井六段」と区別して表記。
そして、病気のファンとの出会いや30年前に亡くなった師・板谷進九段への感傷、奨励会退会を余儀なくされた弟子たちへの思いなど、温かい気持ちがいろいろ綴られます。
そして、病気のファンとの出会いや30年前に亡くなった師・板谷進九段への感傷、奨励会退会を余儀なくされた弟子たちへの思いなど、温かい気持ちがいろいろ綴られます。
同時に、「絶対に勝ちたい」という強烈な意志がビシバシと伝わってくるのもこの自戦記のユニークなところ。
千日手後の指し直し局、後手番になった杉本七段は四間飛車を採用するのですが、それは今まで、藤井六段との研究会でほとんど指さなかった戦法だからだというのです。つまり、弟子にとっては経験値が少ない一方、自分にとっては〈棋士になれた原点〉と言うほどよく知る戦法を選ぶことで、少しでも有利に進めようとしたわけです。
結局、藤井六段が仕掛けた攻撃への対応を誤った杉本七段は、すでに広く報じられた通り、負けてしまいます。その敗戦後の心境を明かす次のような箇所が、また素晴らしく感動的でした。
〈対戦相手の藤井六段に感謝した〉
〈「ひどい内容で申し訳ない」と言いたかった〉
〈いつも通り、この上なく悔しく、そして「もっと研究せねば」と思った〉