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2012年07月05日

超三結の原理

超三結、正確には「超三極管接続」ですが、これは1990年代に上条信一氏(※)が発明した真空管アンプ回路です。ダーリントン回路に似ているようですが、完全なオリジナル回路でVer.1からVer.5ぐらいまであって海外でも評価の高い回路です。日本人技術者ってスゴっ!この方式を使うと安いPentodeのmT管でも高価な三極管のような良い音がでるのだそうな。初段に真空管では無くトランジスタを使う回路が多いようです。

(※ 上条氏は今年2012年4月6日にご逝去されました。心からご冥福をお祈り申し上げます。)

ザックリ言うと超三結というのは、三極管で出力用五極管の P-G 帰還を行い、五極管の高出力を生かしたまま三極管並みの音質を出す出力段にしてしまうというアイディアです。

で、この回路を試作してみようと思ったのですが、色々な解説サイトで調べても動作原理が中々理解できません。原理を理解せずに製作するとだいたい失敗するものです。というわけでブログで書いてみようかと。ブログに書くことで難しい原理でも割と理解できちゃうんですよね。あらやだ不思議。

以前、三極管の原理で動作原理を書きましたが、超三結に関しては三極管の三定数というのを理解しておく必要があるので、おさらいです。
プレート、カソード、グリッドををれぞれ P、K、G とします。基本的に K から P に電子が飛び、P から K へ電流が流れるわけですが、その流れ具合を G にかかる電圧によってコントロールするというのが原理です。



K に対する P の電圧が高ければ、より多くの電子が引き寄せられるので、大きな電流が流れます。当然、P から K へ流れる電流 IP-Kと P-K 間の電圧差 VP-K には比例関係が成立し、その比例定数が内部抵抗 rp (Ω) です。

VP-K = rp IP-K

ま、オームの法則ですね。内部抵抗が大きければ電流変化に対する電圧変化が大きい事になります。さらに G とK 間の電圧差 VG-Kに応じて IP-Kが変化するので、これにも比例定数があります。

IP-K = 比例定数・ VG-K

この比例定数を 相互コンダクタンスといい gm で表します。 gm が大きいほど入力信号変化に対する電流変化が大きくなります。単位はシーメンスというらしい。

そして、同じようにG とK 間の電圧差 VG-Kと P-K 間の電圧差 VP-Kにも比例定数があり、これを一般的に 増幅率 μ といいます。

VP-K =  μ VG-K

ま、増幅率というぐらいなので、 μ が大きいほど増幅効果が高いということはわかりますね。実際のロードラインは左下がりになるので増幅率は目減りしますが、仮に負荷抵抗が内部抵抗に比べて十分高ければ、ロードラインは限りなく水平に近づき、増幅率は限りなく μ に近づく事になります。つまり、この増幅率はある定電流上での真空管の最大電圧増幅性能ということになります(ロードラインが水平なので電流の変化は無い)。

結局、理論上、内部抵抗と相互コンダクタンスの積が増幅率になるので、これらの比例定数には以下の関係が成り立ちます。

μ = gmrp

これらを真空管特性曲線上で示すと、以下のようになります。これはEL34三結の220V 100mA動作点の場合の三定数です。



グリッド-カソード間電圧(バイアス)が-10Vから-15Vまで5V変化すると電流は100mAから50mA、電圧は220Vから270Vに変化します。つまり内部抵抗は

rp = μ / gm = 50V / 0.05A = 1kΩ

ということになりますね。初号機ロードラインで250V 70mA動作点の内部抵抗が910Ωだったので、だいたいあってる。

ここで、超三結 Ver.1 の出力段はだいたい以下の様になってます。



出力五極管の P から G1 へ三極管を使って負帰還を掛けていて、この三極管を「帰還管」と呼びます。へー。帰還管のカソード側信号入力には2SC系のトランジスタか5極管といった高インピーダンスの定電流信号源(図中SIGNAL)が繋がります。

帰還管の動作を超三結によく利用される6BM8のTriodeユニットで考えてみます。帰還管のプレート-カソード間電圧が130V、2mAの電流が流れているとします(ちょっとズレてるけど下図中赤矢印)。グリッドバイアスが -1V になっているので、この時の Rk は以下になります。

Rk = 1V / 0.002A = 500Ω

内部抵抗に関係なく、0V の時は0mAですから原点を通ります。帰還管のプレート電位は一定として、ここで流れる電流が 2.4mA に変化したとします(青矢印)。電流変化によってグリッドバイアス VG-K

VG-K = IP-K ・ Rk = 0.0024A × 500 = 1.2V

つまり -1.2V になります。



また、P - K 間の電圧はグラフからみると155Vぐらいなので、帰還管のP - K 間電圧は155Vになります。プレート側電位が一定であるとすると、カソード側の電位が下がるしかありません。自動的に出力5極管の P - G1 間電圧が 155Vとなるように5極管の IP-K が流れようとします。

なんか、帰還管によるカソフォロ(カソードフォロア)で出力管をドライブしてるみたいに見える。しかし、帰還管のカソード電圧変化はあくまでも初段からの電流性信号の変化によるものであるはずです。

このグリッド入力電圧の変化と電流変化の比例関係は三極管と同じく、五極管の相互コンダクタンス gm によります。 gm が大きければ大きいほど、帰還電圧変化に対する電流変化が大きくなりますね。

また、この状態では出力五極管のプレート電位はわかりませんが、結果的に五極管のプレート電圧を帰還管の内部抵抗と、帰還管カソード抵抗で分圧された電圧が出力五極管のグリッド G1 に帰還される事になります。

帰還管の内部インピーダンスを Zi、カソード側インピーダンスを ZKとすると、出力五極管のグリッド G1 にかかる電圧 VG1 は以下になります。

VG1  = VP ZK / ( ZK + Zi)

Ziに対して ZKが十分大きければ、出力管で増幅した電圧をそのまま帰還させる事になり、もし、内部抵抗が 0 だとすると、五極管の電圧増幅はほぼ 1 倍になっていきます。つまり電圧増幅ゲイン(増幅量)がゼロになる。実際には三極管にも内部抵抗が必ずあるので、1倍になる事はありませんが。

結果的にどうなるかというと、通常、五極管は下の特性曲線の通り、三極管と比べると電圧入力に対し非常に小さい電流変化と非常に大きい電圧変化による電力を出力し、負荷抵抗をドライブする性質の球です。



これに三極帰還管で深い P-G 帰還を掛けることによって出力五極管の内部抵抗を低減し、電圧増幅ゲインを大幅に下げる代わりに出力電流量を上げ、まるで三極管のような電流成分の多い出力電力を生み出すことになります。トランスやスピーカを駆動するのはコイルに電流を流すことで発生する磁力なので、同じ出力電力であっても電流成分が多いほどスピーカの駆動力が高くなるのでしょう。たぶん。 

こんな感じの理解でいいのかなと思います。 とりあえず手持ちの6BM8と定電流管に6AU6を使った回路を作ってみた。



アウトプットトランスはこの形式ではおなじみの東栄変成器 T-850 の二段重ねで、一次二次とも並列にしてみた。ステレオにするなら左右で60mAあれば十分。動作電圧が270Vなので、220Vを整流すれば良いでしょう。定電流管に 6EJ 7 を使った上条氏の回路だと、帰還管の P と出力管の P、K と Gの接続が直結になっているのだけど、他の事例を見ると抵抗を入れて帰還電圧をかさ上げしているようなので、それぞれに15Ωと300Ωを入れてみました。

さて、気長に部品集めを開始しよう。

------- 追伸 -------

このエントリは年明けぐらいから書き起こし始めた物で、本来アンプ製作編を完成してからアップしようと思っておりましたが、先日4月6日に上条信一氏がご逝去されたという訃報を偶然知り、氏の追悼ということで理論編だけでも先にアップする事にしました。まだ製作途中でもあり超三結の音色は経験しておりませんが、この回路をご教授頂けた事に大変感謝いたします。上条さん、ありがとうございました。

-------- 追記 --------

先日、超三結アンプが完成しました。結局初段は6AU6ではなく、6AK5を使いましたが思った以上の音質でビックリしています。


改めて上条氏に感謝したいと思います。なお、本回路はOFF後のONに関する保護回路が着いておりませんので、OFF直後にONすると6BM8のプレートに過電流がかかって真空管を破損する恐れがあるため、この回路をそのまま参考にする事はお勧めしません。

保護回路に関しては上条氏のHPを参考にするといいと思います。




koichiise at 16:30│Comments(2)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 真空管アンプ 

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この記事へのコメント

1. Posted by Cheap Chic Audio   2013年01月14日 09:45
プレートとグリッドの15Ωと300Ωは帰還電圧のかさ上げではなく寄生発振の予防のためではないですか。
2. Posted by ibucho   2013年02月04日 07:45
>Cheap Chic Audioさん
なるほど、寄生発振ですか。そうかもしれません。

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