3月31日(シダレ・北の丸公園)
芽吹き前の落葉樹林や雑木林に姿をあらわし、可憐な花を咲かせ、2ケ月ほどで地上から姿を消してしまうカタクリやセツブンソウ、イチリンソウなどの春植物のことを、「スプリングフェメラル」といってるそうだ。直訳すると「春のはかない命」ということになる。白金自然教育園では落葉樹林の枯葉に埋もれ、カタクリの花が心細げに、うつむき加減に咲き出していた。去年より半月も早い顔見せだったが、6枚の反り返った淡い紫の花が、時折吹き抜ける風におびえたように揺れていた。春先の陽炎のようにおぼろではかなげだが、本命のイチリンソウはまだその気も見せていないのが残念至極だった。
「花かい」じゃなかった「はかない」っていえば、近頃まったくはかなくなったなあ。「儚ない夢」とか、「美人白米」とか、警察の取調べにも「ゲロ」しなかったとか、靴を「履かない」、なんかとはちゃうでえ、酒を飲みすぎて吐く、そう、その「吐かない」である。しばらく酒を断っていたことがあって、数年前から友人と会うときに限って飲むようになったが、しばらくはどうも後で胸がむかついたんである。それがいまはどうだ、いくら飲んでも大丈夫、眠くなるのは防ぎようがないけれど、すっかり錆びつきナマクラだった豪刀が刀鍛冶でよみがえったような按配なのだ。最初は疑心暗鬼だったのが、いまや一路邁進陰陽師ってところだが、心配ご無用、驚くほどその機会は少ないんだよねえ。
「儚い夢」として消え去っていった物も幾つかあるが、いまさらどうしようもないのがゴルフだろうか。シングルプレーヤーに手が届きそうになりながら挫折したし、ホールインワンも出来なかった。なにより口惜しいのは72歳でエージシューターになりそこなったことである。まだ、その年になっていないじゃあないか、っていわれればその通りだけど、72歳うんぬんはあっちへ置いといて、ゴルフも止めちまったんだからどうしようもない。クラブセットが三組も残っているけれど、愛着はあれ邪魔でしょうがないし、この処置だって大変だからなあ。
はかない夢を見果てぬ夢に置き換えれば、まだチャンスがかろうじて残っているのが、競馬で蔵を立てるってことだろうか。今年秋から3連単が導入されるから、一攫千金の夢は灰燼に帰したわけでもない。夢も希望も残っていて、わずかながら「チボー家の人々」の一員に仲間入りできるチャンスは残されているわけだ。なんていってる本人が一番あてにしてないんだけど、こんなアホ話の一つぐらいはあったって罰は当たらないんじゃないかなあ。