(毛越寺の浄土庭園で、浄土へ行きかけた社長です。これは法勝寺復元模型をつくっているところです。)
前号の3月18日から少しご無沙汰してしまいました。
この間に季節はすっかり春に移り変わりましたね。
工場の窓から見える桂川の河原を一面の黄色にしていた菜の花も、もうそろそろ終わりそうです。
今日は、奥州藤原氏が築いた黄金文化の名刹｢毛越寺(もうつうじ)｣についてのお話です。
奥州藤原三代の黄金文化を建築物で見ると、
初代 清衡(きよひら)は、金色堂で有名な「中尊寺」を、
二代 基衡(もとひら)は、三代の中で最も大規模な「毛越寺」を、
三代 秀衡(ひでひら)は、「無量光院」を建てました。
ちなみに大河ドラマ「義経」で、義経が身を寄せて父とも慕っているのは、高橋秀樹演じる３代目秀衡。
毛越寺はそのお父さんが建てたものですから、義経が奥州に身を寄せていた間には、毛越寺の壮大な伽藍や美しい浄土庭園を訪れたのではないでしょうか。
｢義経｣のタイトルバックの最後に、碧く鏡のように美しい池をたたえた、神秘的な庭園が映ります。
そしてその池の中へと、白馬が水辺をかけていくシーンがありますが、これが毛越寺の浄土庭園です。
現在の毛越寺には、創建当時の主な建物は残っていません。
でも美しい浄土庭園と、その中に礎石等の遺構はほぼ完全に残されています。
失われたものをもう一度再現したい、となれば「古建築復元模型」の出番です。
昭和４３年、さんけいは「毛越寺復元模型」を制作させていただきました。
模型制作に当たって監修をされたのは、東大名誉教授の故・藤島亥治郎(ふじしまがいじろう)先生です。(★１)
また毛越寺といえば庭園も重要な要素になります。平安時代につくられた庭で、これほどよく残っているところは、ほとんどないそうです。
庭園の方は、当時奈良国立文化財研究所にいらっしゃった、森蘊(もりおさむ)先生の監修です。(★２)
昭和43年といえば今から37年前ですから、現在のさんけいのスタッフで毛越寺復元模型の制作に直接関わったのは社長だけです。
社長の話の中で、以前から時々「毛越寺」の名前が出てくるので、思い出深い模型だったんだろうと思っていました。
毛越寺をつくった時のことを社長に聞くと クスクス笑いながら「あの時はなあ、毛越寺の庭の池で溺れそうになったんや・・・」
えっ！？？？
――その日、社長と京都科学(うちの親請けさんです)の営業のN氏は、毛越寺庭園の大泉が池に浮かぶ船の上にいました。
この二人は往年の名コンビで、全国の博物館の古建築模型をつくるため、調査や打合せにしょっちゅう二人で日本中を飛び回っていました。
毛越寺復元模型は、建物は残っていないので、藤島先生が復元設計された図面を元につくります。
庭園ももちろん正確な図面が基本になりますが、現地を見ることができる場合は、実際に現地も見にいきます。
そう、二人はその調査の最中だったのです。
池のほとりに古い木の船があったので、お寺の許可を得て、船に乗って池から庭園全体を見てみよう、ということになりました。
うららかないいお天気で、浄土庭園には他にも女子学生など何人かの人がいました。
二人が船に乗り込んで漕ぎ出すのを見て、周りの人たちは何事が始まるのかとこちらを見ています。
女子学生たちが、船遊びをうらやむような会話をしているのが聞こえてきます。
そんな風に見られるのを少し心地良くも感じながら、庭園の様子を確認したり写真を撮ったり、のどかに調査は進んでいました。
ところが突然！船の底から水がもこもこと湧き上がるように入ってきたのです！！
かなり古そうな船だったので、ひびでも入っていたのでしょうか。
慌てて持っていたハンカチやタオルで押さえて止めようとしましたが、見る見るうちに水はどんどん入ってきます。
靴下や着ていた服も脱いで、とにかく詰められるものは全部漏れてくるところに詰め込んで、どうにか岸に戻ってきました。
さっきまでうらやましそうな女子学生の視線を浴びて、意気揚々と船に乗っていたのに、
突然船が沈没しそうになって、大慌ての一部始終をすっかり見られて、クスクス笑われてしまって・・・
なあるほど、これは忘れられない模型ですよね。
平泉に行く機会があれば、是非模型と浄土庭園、見てみたいです。
(★１)
藤島先生は明治32年岩手県盛岡市生まれで、平成2年に103歳で大往生されるまで、生れ故郷の平泉研究をライフワークとされ、他にも大阪四天王寺の実物復元の設計をされるなどの偉大な業績を残された方です。
さんけいでは毛越寺の他にも、彦根城復元模型を制作した時など何度もお世話になっています。
(★２)
さんけいが初めて森先生にお世話になったのは、昭和40年に奈良の平城宮の模型をつくらせていただいた時です。
それ以来、色々な模型でずいぶんお世話になり、親しくさせていただきました。
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＿＿＿ 今日ご紹介した模型 ＿＿＿
毛越寺復元模型」 縮尺1/50 サイズ 4300×3900(��)
1968(S43) 3月制作
（納入先 株式会社京都科学）
【展示施設】
平泉文化史館
平泉の歴史と文化を紹介する資料館で、中尊寺門前にある平泉レストハウス内にあります。
〒０２９−４１０２ 岩手県西磐井郡平泉町字坂下10-7
ＴＥＬ （０１９１）４６−２０１１〜２０１３
ＦＡＸ （０１９１）４６−２０８８
