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 シュールレアリスムの系譜(1) シュールレアリスムの歴史と手法 ダダからシュールレアリスムへ

 
シュールレアリスムの系譜(2) シュールレアリスムの主要画家リストと詳細記事へのリンク・リスト



 今回はルネ・マグリット(Rene Magritte 1898−1967)の1回目です。
マグリット
・マグリットの2、3、4回はこちら

 ルネ・マグリット(2) 意外と苦労人、マグリットのパリ時代の作品

 ルネ・マグリット(3)マグリットのルノワール時代から野獣時代とその周辺の作品たち

 
ルネ・マグリット(4) 最終回 マグリットの晩年の作品集


・マグリットのHPはこちら

 http://www.renemagritte.org



 マグリットは、ベルギーのシュールレアリスムの画家で、前回のポール・デルヴォーの1歳年下です。二人は、ベルギー・シュールレアリスムの双璧を成す存在です。

 3分でわかるポール・デルヴォー(1) マグリットと双璧をなすベルギーのシュールレアリスト、デルヴォーの生涯と作品

 3分でわかるポール・デルヴォー(2)自分の好きなものを並べてシュールな世界を作ったデルヴォーの作品集

 3分でわかるポール・デルヴォー(3) デルヴォーの人生後半の作品群


 マグリットは、絵画は詩的であるべきであり、さらに、詩とは不思議な感情を呼び起こすものである、と考えていました。

 デルヴォーが自分の好きなものを並べて不思議な世界を構築しているのに対し、マグリットは「見えている現実の裏側」に固執し、だまし絵的な手法を使って現実と非現実の狭間を見るものに提示して見せます。

 たとえば、1928年の作品「The False Mirror(偽りの鏡)」(下)では、目は現実の世界を本当に映し出しているのか?という疑問について問いかけています。もしかしたら、青い空は目に映っているだけで、本当は存在しないかもしれません。
1928 The False Mirror
 下は1928年の作品「The Lovers (恋人たち)」です。二人の人物がキスをしていますが、その顔は布で覆われており、真の姿は見えません。

 たとえ、あなたが好きになり、キスをする相手だとしても、本当の姿をあなたが目にすることは決してないのです。あなたの恋人の真の姿はベールの中に隠されており、あなたが感じることのできるのは唇の感触だけなのです。その唇の感触だって怪しいものです。本当は唇じゃなくてイモムシとかナマコかもしれません。
1928 The Lovers II
 1927年から1928年に描かれた作品には、顔がベールで隠されているものが複数存在します(下)。
1928 The heart of the matter
1928 The invention of life
1928 The Lovers
 1912年、マグリットが13歳の時、母親が行方不明になりました。

 二週間後、数マイル離れたサンブル川の河川敷で母親の遺体が発見されました。入水自殺でした。
    母親はナイトガウンを着ていましたが、川に流されているうちに脱げてしまい、身体は裸でした。一方、脱げたナイトガウンは、首に絡みつき、顔を覆い隠していました。

 幼い頃見たこのショッキングな光景は、マグリットの心に焼きつき、これらの絵のアイデアの源泉になっていると言われています。

 ただ、最近の研究では、この話もかなり眉唾くさいと思われているようです。確かに、子供が母親の屍体発見現場に居合わせるかと言われると、それはないような気もします(自殺は事実です。母親はそれまでにも何度も自殺未遂を繰り返していて、寝室に閉じ込められていました)。



 下の作品は1929年の「The Treachery of Images(イメージの裏切り)」です。

 このパイプの絵の下には「これはパイプではない」と書かれています。マグリットによれば、「これは、パイプのイメージ(絵)であって、パイプそのももではないから『これはパイプではない』のだ」そうです。よく言えば禅問答的ですが、普通に考えれば、まぁ小学生レベルです。
 
 この絵画は、フランスの哲学者ミシェル・フーコーによって、1973年の「これはパイプではない」という著書の中で詳しく論考されて有名になりました。(よく、マグリットが哲学に影響を与えたと言われますが、実際にはフーコーの著作に扱われているだけです)
 
 フーコーによれば、15世紀以降の西洋絵画は二つの原理に支配されてきました。1つ目は「言語記号と表象記号の分離の原理」、2つ目は「類似と肯定との等価性を定立する原理」です。

 まあ、平たく言えば「絵に文字による説明は入れない(絵と文字の説明は両立しない)」ことと「絵に描いたものは、現実の世界の似たものを示しているという暗黙の了解」です。

 たとえば、すごく猫に似ている絵があれば、「これは猫だ」という説明がなくても誰でも「猫だな」って思いますよね?そういう暗黙の了解のもとに絵は成り立っているのです。これを小難しくいうと「類似と肯定との等価性を定立する原理」になります。


 フーコーによれば、マグリットの「イメージの裏切り」という作品は、この西洋絵画の2つの原理を根本から覆してしまっています。 

 まず、絵の中に絵を説明する文が入っています。これは1つ目の原理を無視しています。さらに、これはパイプではない、という説明は、2つ目の原理をも無視しています。2つ目の原理にのっとれば、パイプに似たものを描いたら、それはパイプでないといけないのです。 

 いかがですか?なんだかどうでもいいことをグダグダ言っているだけだという気がしませんか??

    もし、興味があればフーコーの「これはパイプでない」を読んでみてください。理論的に破綻しているところもありますがオススメします。
1929 The Treachery of Images
 下は1937年の作品、「Not to Be Reproduced(複製禁止)」です。この作品は、マグリットのパトロンであるエドワード・ジェームスのために制作されました。
 
 エドワード・ジェイムズは、後ろ姿で描かれていますが、鏡に映ったジェームズも後ろ姿で、完全に複製されてしまっています。

 一方、マントルピースの上の本はきちんと映っています。この本は、ポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」です。

 残念ながら私は読んだことがありませんが、ウィキペディアによれば、捕鯨船に密航したピムは、遭難し、漂流しているうちにジェイン号に救出されます。
 その後、南極探検に向かいますが、白いものを異常に怖がる原住民によってジェイン号の乗組員はみんな殺されてしまいます。
 なんとか逃げ延びたピムは不思議なものを目撃する、という中途半端な終わりかたをする小説だそうです。

    白いものを異常に怖がる原住民 というところに異常に興味をそそられますね。
1937 Not to Be Reproduced
 下は1945の作品「Rape(陵辱)」です。

 この作品には3つの解釈があります。
 1つ目は、 母親の死を描いているとするもので、母親の裸の遺体が顔だけガウンで覆われていたことから、顔の部分がなく、裸体になっているとするもの。

 2つ目は、男性が若くてきれいな女性を見るときには、絶対裸も想像しているという、男の性(さが)を表しているとするもの。
    え?、自分も男どもに裸を想像されているのかと思うとゾッとする?うーむ、
男の性ですから。

 3つ目は、女性の首の部分が男根をあらわし、顔である女体に首である男根が突き刺さっている状態、つまり、文字通りレイプしている状態を示すとするものです。

 マグリットは、自分の絵画には象徴的なものは用いていないし、みんなが解釈するような意味があるわけではないと言っています。まあ、普通はそうでしょうね。
 でも、勝手に解釈することは絵を見る楽しみの一つでもあるので、勝手に解釈させてもらいましょう。 

    私の説は、目が胸のように飛び出していて、鼻の穴がヘソのように一つで、陰毛のような口髭の生えている女がマグリットの知り合いに実際にいた、というものです。どうでしょう?この説は? 
1945 Rape
 下は1946年制作の「The Son of Man」です。こちらはマグリットのセルフ・ポートレートです。

 「この人物の顔はリンゴで隠れている。私たちの見ているものは、いつもその背後に何かを隠している。私たちは、いつも隠れているものに興味を持ち、それを見たいと思うものだ」とマグリットは言っています。

 その通りですね。人間は隠れているもの、隠されているものに興味を持ちます。それは、目に見えるものだけに留まらず、様々なゴシップなどの事柄に関しても言えることです。

 隠れているものは、白日の下にさらされると、タネを知ってしまった手品のように、いきなり色褪せてしまいます。隠れているから神秘的で好奇心を掻き立てられるんですね。
1946 The Son of Man
 マグリットの絵には帽子をかぶった人物がたくさん出てきます。この帽子をかぶった人物が初めて登場するのは、1926年の「The Musing of a Solitary Walker」(下1枚目)です。
1926 The Musing of a Solitary Walker
 そのほかにも多くの作品に登場します。
1928 The Mysteries of the Horizon
1953 Golconda
1956 Ready-Made Bouquet
 ちなみに、上の最後の作品でこちらを向いている女性は、ボッティチェッリが1482に描いた「プリマヴェーラ」(下)のなかの花の女神フローラです。大物ヤクザの刺青みたいです。
Botticelli-primavera
 帽子にスーツは当時の一般的なビジネスマンのスタイルです。デルヴォーの作品にも同様の人物が出てきます(下)。
1940 The Man in the Street
 また、青いリンゴもマグリットが多用するモチーフです。青いリンゴは、見えるものと見えないものの葛藤を意味すると言われています。
1952 The Listening Room
 下の作品は1950年の「Empire of Light(光の帝国)」です。
    この作品では、上空には抜けるような青空が広がっているのに、地上には夜の帳が降り、明かりが灯されているという不可思議な世界を描いています。
1950 Empire of Light
 「Empire of Light(光の帝国)」には、他のバージョンも存在します。
Empire of Light2
Empire of Light4
 下の作品は、1953年の「The wonders of nature(自然の不思議)」です。この作品には2人の人魚が登場します。ただ、一般的な人魚とは逆に、マグリットの人魚は上半身が魚、下半身が人間なんです。
1953 The wonders of nature
 この作品のマーメイドの背後には、海によって切り取られた空が船の形になっています。これは、同年の作品「Seducer(女たらし)」(下)を背景に用いたものです。
1953Seducer
 マグリットは、上半身が人間で下半身が魚のマーメイドについて、1934年にすでに描いています(下)。

 砂浜で寝ているのでしょうか?それとも、死んで浜に打ち上げられたのでしょうか?どちらにしても気持ち悪いです・・・。上半身と下半身が入れ替わるだけでこんなに気持ち悪くなるものなんですね・・・。釣りをしていて間違って釣れちゃったら一日中ブルーです。

    マグリットのマーメイドはえら呼吸です。したがって水中でしか生きられません。でも、下半身は人間なので速くは泳げないはずです。バタ足で泳いでいるんでしょうか?それとも、海の底を歩くの?
1934 The collective invention
  下は1956年の作品「Sixteenth of September(9月16日)」です。

 本来木で隠れているはずの月が前面に来ています。見えるはずのものが隠れて見えない、隠れて見えないはずのものが見える、というのはマグリットの常套手段です。

 この手法がさらに進化すると、下2枚目(1965年制作の「Le Blanc Seing 」)に見るようにSchusterのフォークのような構造になり、遠近法が破壊されてしまいます。

 ちなみに、Schusterのフォークとは、この作品の前年(1964年)にSchusterが考え出した不可能立体(下3枚目の画像)です。
1956 Sixteenth of September
1965 Le Blanc Seing
Schuster fork
 さらに、隠れてものが見えない、隠れているものが見える、という両方を一度に両立した作品が 、1933年と1935年に描かれた「The Human Condition」です。

 この作品の中では、キャンバスが背景を隠し、かつ、そこに描かれた絵が隠れているものを見せる形になっています。
    キャンバスによって隠されている部分が、本当にキャンバス上に描かれているものと一致するとは限らない、というところがミソです。 
 1933 The Human Condition
1935 The Human Condition II



 ルネ・マグリット(Rene Magritte 1898−1967)は、1898年、ベルギーのエノー州、レシーヌで生まれました。本名をルネ・フランソワ・ギスラン・マグリットと言います。

 父親のレオポール・マグリットは、洋服やテキスタイルを扱う裕福な商人でした。母親のレジーナ・ベルタンシャンはお針子でした。マグリットは長男で、二人の弟がいます。

 1910年、マグリット一家はシャトレに引っ越し、それを機にマグリットは絵画教室に通い、油彩画を描くようになりました。

 1912年、マグリットが13歳の時、母親がサンブル川に身を投げ、自殺してしまいました。遺体は、二週間後数マイル離れた河川敷で発見されました。母親は裸体で、着ていたガウンは顔に巻きついていたとされています。

 1913年、14歳のマグリットはシャルルロワに引っ越しました。この年、高校に入学し、生涯の伴侶となるジョルジュエット・ベルジュと出会っています。

 高校卒業後、マグリットは1916年、18歳でブリュッセル美術学校に入学し、ベルギー象徴主義の画家、コンスタン・モンタルド(Constant Montald)に師事しています。

 一方。デルヴォーも、1920年にブリュッセル美術学校でモンタルドに教わっています。しかし、二人の作品からは先生の影響はほとんど感じられません。

 下2枚はモンタルドの作品です。
Constant Montald1
Constant Montald2
 マグリットは、最初から私たちがよく知るスタイルの作品を描いていたわけではありません。

 初期(美術学校を卒業した1918年から1924年頃)のマグリットはキュビズムもしくはCubo-Futuristスタイルの絵を描いていました。

 下はマグリットの1921年から23年までの作品です。
1921 Bathers
1921 Portrait of Pierre Broodcoorens
1922 The Model
1923 Donna
1923 Georgette at the Piano
1923 Modern
1923 Self portrait
1923 Three nudes in an interior
 マグリットは、1922年、24歳の時にキリコ「愛の歌」を見て感動、シュールレアリスムに目覚めました。

 今回は長くなってしまったので、この続きはまた明日です。


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