1:2013/02/21(木) 23:55:01.83 ID:


明日は、というか日付が変わればもう憂の誕生日だ。


いま、私と憂はウチの台所にいる。
夕食を済ませて別の作業に取り掛かっているところだ。

憂「純ちゃん、まだかな?」

梓「さっき今から出るってメールあったから、そろそろ着くんじゃない?」

受験もひと段落したことだし、憂の誕生日は日付が変わった瞬間にお祝いしよう!!と純が言い出した。
なぜか平沢家ではなく私の家で、という事になったのは構わないけれど、言いだしっぺは家の用事が出来たとかで遅れてくるそうだ。
明日は明日で平沢家で菫と直も呼んで誕生会をする事になっている。憂のご両親もご一緒に。あ、あとさわこ先生も。
唯先輩は大学はもう春休みなんだけど、必修の集中講義があって来週にしか帰れないらしい。
和先輩は留学の準備が忙しくて3月にならないと帰らないとか。
仕方ないよね、と憂は少しさびしそうに言っていた。


憂「あ、ピンポン鳴ったよ」

梓「ホントだ。ちょっといってくるね」

平沢憂


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361458501

2:2013/02/21(木) 23:57:17.86 ID:
□ □ □


純「おっまたせ~」

憂「純ちゃん、お疲れ様~。あれ?梓ちゃんは?」

純「梓はトイレに行ってくるって、ケーキ作ってるの?」

憂「えへへ。作りたくなっちゃって。そしたら梓ちゃんがクッキーも作ろうって」

純「主役が作るお菓子か、いやありがたいねぇ」

梓「しみじみしてないで純も手伝いなよ」

純「うおっ、いつの間に!びっくりしたじゃん」

憂「あはは」

つまみ食いしながら三人でケーキとクッキーを作り、お風呂に入って、リビングでまったりとしていたらなんだかんだともう12時前。
そろそろだね、と皆で顔を見合わせると不意に電気が消えた。

 「うっわ!」「きゃっ!」「わわっ」

急に真っ暗になった空間に驚いて声をあげる。

梓「ブ、ブレーカーかな?ちょっと見てくるよ」

二人に大丈夫だからジッとしててねと声をかけて私はソファから立ち上がった。
携帯のライトを点けて足元を照らし、ついでに時間を確認する。

――日付が変わるまで残り3分。

暗闇の中「気をつけてね」という声を背に、急いで部屋をあとにした。


3:2013/02/21(木) 23:59:01.78 ID:
□ □ □


しばらくすると梓は無事ブレーカーを直したらしく、部屋が明るくなった。
ようやく闇に眼が慣れてきたか、というところだったので戻ってきた光に思わず目をつぶる。

憂「電気ついてよかったね」

純「そうだね、ほんと驚いたよ」

同じく眼をしぱしぱさせている憂とホッと一息つく。
眼を細めたまま壁の時計を見ると、ちょうど長針と短針が12で重なった。



4:2013/02/22(金) 00:00:04.04 ID:
□ □ □


  パンパンパンパンッ!!


    「「「「うい、誕生日おめでとう!!!!」」」」




5:2013/02/22(金) 00:02:09.06 ID:
□ □ □


ドアを開けて戻ってきた梓ちゃんに「おかえり」を言おうとしたら、クラッカーの音と同時に「おめでとう」の声が四人分。


ん?四人?!


憂「お、お姉ちゃん!和ちゃん!?」

唯「ういー、おめでとう~」

和「お誕生日おめでとう、憂」

憂「え、な、なんで二人とも、え?え?」

頭が追い付かなくて目を白黒させている私をお姉ちゃんはにっこりと抱きしめてくれて、それでも混乱している私の頭を和ちゃんが撫でる。

いつもの抱擁と慣れた手の平。

視線を梓ちゃんと純ちゃんに送れば、二人もホントだよ、という顔をしていて。
そんな皆の温もりと優しさに、ようやくその存在を実感した私は、宙に浮かんだままの手をお姉ちゃんの背中に回した。
そのままお姉ちゃんの肩に顔をうずめてこぼれそうになった気持ちをおさえる。
それでもやっぱり想いは溢れてきてしまったけれど。
お姉ちゃんは何も言わないで少しだけぎゅっとする腕の力を強めてくれた。
和ちゃんもずっと頭を撫でてくれていて、私は久しぶりの感触にただただ甘えていた。



6:2013/02/22(金) 00:04:53.82 ID:
□ □ □


憂「もう二人ともびっくりしたよ!」

唯「えっへん、サプライズ大成功だね!!」

和「憂が驚きすぎてこっちが驚いたわ」

さっきまで唯先輩に抱き着いていた憂は、もうすっきりしたような笑顔で先輩達と話していた。
目元がまだ少し赤い、しっかりしてるけどちょっと泣き虫なんだよね。
唯先輩の肩はきっと湿っているだろう。

隣りに立つもう一人もその光景を見て嬉しそうにしている。

純「うまくいったみたいね」

梓「うん。よかった」

純「妬けるくらいだよ、まったく」

梓「はは、ちょっと敵わないよ」

純「まあね」


第一志望の受験の終わった翌日、梓から憂の誕生日に唯先輩と和先輩を呼びたいんだけどどうしよう、と持ちかけられた。
先輩の手配は梓に一任するとして、とりあえずお泊りしようと言い出すのは私の方が適任だろうと買って出た。
まあ、この時点では先輩たちが来れるかどうかもわからなかったんだけど、幸い二人とも快諾してくれた。
あとはどうすれば憂に驚いてもらえるのかと試行錯誤して決行されたのが今日の作戦だった。

私は急用が出来たから遅れると、先輩方と落ち合って梓の家に一緒に行く。
先輩たちには梓の家の別室(ご両親が留守だったのでそこで、という事になった)で待機してもらう。
時間になったら和先輩にブレーカーを落としてもらい、梓がリビングからいったん出る。
そうして先輩達と一緒に十二時きっかりに戻ってくる。

完璧とは言えないかもしれないけど懸命に考えた策は一応成功したようだ。



7:2013/02/22(金) 00:16:53.64 ID:
□ □ □


憂「でも、お姉ちゃん講義があるんじゃなかったの?」

唯「実は土曜日まであるんだよねぇ」

梓「えっ」

純「ど、どうするんですか?!」

和「始発で戻れば間に合うんですって」

憂「お姉ちゃん…!」

唯「でへへ、今日も終わってから急いできたんだよ~」

梓「そうだったんですか…」

憂「の、和ちゃんは?三月にならないと帰れないって」

和「私も今日提出しないといけない資料があるから唯と同じ始発で戻るわよ」

純「ええー…」

梓「なんというかご協力ありがとうございます…」


8:2013/02/22(金) 00:38:33.92 ID:

唯「いやあ、かわいい妹と後輩のためならどうってことないよ!」

和「そうよ。それに高校最後の誕生日は祝ってあげたかったし」

憂「お姉ちゃん、和ちゃん…」

唯「そうだ!来るときは誕生日プレゼント買う時間がなくって、ちゃんとしたのは今度あげるから」

純「唯先輩、ギー太持ってきてたんですね」

唯「もちろん!じゃあ、あずにゃんもよろしく!」

梓「はい!準備オッケーです」

純「あら、梓もいつの間にかむったん構えてるし」

唯「いっくよー。ハッピバスデーうーいー」ジャカジャカ♪

 ~~♪

 「「「「ハッピバースデートゥーユー♪」」」」ジャーン

憂「あ、ありがとう!お姉ちゃん、和ちゃん、梓ちゃん、純ちゃん!!」

梓「私と純の分は今日の憂の家での誕生会でね」

純「楽しみにしといてよ!」

和「私も帰ってくる時にあげるわね」

憂「うん!みんなホントにありがとう!」



9:2013/02/22(金) 00:52:12.84 ID:
そんなこんなで盛り上がっていたけれど、先輩たちは始発に乗るとの事で寝る準備にとりかかる。
徹夜してもいいとは思ったけど、唯先輩は授業があるしそういうわけにもいかない。
私の部屋に布団を敷き詰めどうにか5人寝る場所を作ると、純は端の方に横になるやいなや寝てしまった。

いやいや、寝付き良すぎでしょ…。

寝てしまった純のそばから、私、憂、唯先輩、和先輩の順で毛布にもぐる。

唯「あずにゃん今日はありがとね」

梓「…何のことですか」

和「こうして私達を呼んでくれて」

梓「わ、私は別に何も」

憂「梓ちゃんが二人を呼んでくれたんだよね。純ちゃんもだけど、ありがとう」

梓「だから別に、ただ、憂が笑ってないと調子が狂うというか、」

唯「ほうほう」

和「なかなか言うわね、梓ちゃんも」

憂「梓ちゃん…」

あ、あれ、なんかすごいこと言ったっけ?
三人からあれこれ言われ、恥ずかしいやらなにやらで顔があつくなって(多分)ニヤニヤしている唯先輩達の声に顔を背ける。
すると、梓ちゃんこっち向いてよと憂に捕まえられた。

…主賓の命令には逆らえない。

身体ごと憂に向けると、えへへと抱き着かれた。


10:2013/02/22(金) 00:54:30.75 ID:

梓「う、憂?!」

憂「梓ちゃんには助けられてばっかりだね。お姉ちゃんの誕生日の時も和ちゃんの誕生日の時も」

和「クッキー美味しそうだったわ」

唯「そうだ、ケーキはちゃんとロウソク点けた?っていうか憂だけずるい!えい!二人まとめてぎゅーだ!」

梓「ちょ、唯先輩まで?」

憂「お、お姉ちゃん、ちょっと腕ゆるめて」

唯「えー、やだー」

和「純ちゃん、こんな騒ぎの中よく寝れるわね」

和先輩、突っ込む所はそこではないと思います。
憂も唯先輩をどけてくれるのかと思いきや、よいしょと器用に私とクルリと位置を交換した。

梓「えっ」

唯「わーい、あずにゃんだー」

憂「わーい」

梓「な、何で私が真ん中に?!」

和「梓ちゃん、こうなったらもう逃げられないわよ…」

両側からの平沢姉妹に困惑している私に和先輩のやれやれという空気を感じる。
いや、助けて下さいよ!

そんな私の事はお構いなしで平沢姉妹はぎゅうぎゅうと体温を分けてくる。
…あ、なんかもうどうでもいいかな、と憂の方を見た。
すると、カーテンの隙間から少しだけ入る月明かりと暗い部屋に慣れてきた目で、その表情がなんとなく見えた。

ああ、そうだ。今の、今みたいな笑い顔がとても好きなんだ。
まるで、小さな花が咲くような。
唯先輩と似てるけど違う柔らかい表情。心地のいい声。
なんて、ぼうっと眺めていたら、梓ちゃん、もう眠たい?と声が聞こえた。

眠い、のかな。…うん。きっと眠いんだ、ねむいからこんなふうにおもうんだ。

そう思考が薄れていくなか、おやすみ、ありがとうと両側から囁かれた声に、ふわりと満開の花が見えたような気がした。




11:2013/02/22(金) 01:04:09.03 ID:

□ □ □


憂「梓ちゃん、寝ちゃった」

唯「うん」

和「静かにしてあげないと起きちゃうわよ」

憂「そうだね…」

唯「おや、憂もおねむみたいだねぇ」

憂「…そうかも」

唯「よしよし」

憂「えへ…」

唯「ほら、和ちゃんも」

和「えっ。…よしよし」

憂「…おやすみなさぃ」


12:2013/02/22(金) 01:06:07.81 ID:


□ □ □


唯「憂も寝ちゃったね」

和「私達もそろそろ寝ないと。始発に乗らないといけないのよ?」

唯「うう、そうだった…」

和「乗っても寝過ごさないようにしないと」

唯「…気をつけます」

和「で、梓ちゃんに抱き着くのはもういいの?」

唯「あずにゃん分はたまったから、今度は和ちゃん分なのです」

和「そういうとこは変わらないのね」

唯「えへへ、ね、和ちゃん。前に変わることは悪いことじゃないって言ってたよね」

和「…言ったわね」

唯「うんとね、こういう風にみんなで楽しく変わっていけたらいいなって思うんだ」

和「そうね」

唯「そしたらさ、もっともっとよく、なれる、よね…」

和「ゆい?」

唯「…Zzz」



13:2013/02/22(金) 01:19:12.27 ID:


人の腕にしがみついてきたかと思えば、言いたいことを言って満足したのか唯も眠ってしまったようだ。
…まったくこの姉妹は。
まあ今さら何を言っても仕方ないので、携帯に手を伸ばして目覚ましをセットする。
三時間くらいは寝れるだろうか、完全に寝てしまっている幼なじみがちゃんと起きてくれるといいんだけど。
さて、私も寝ないと。
久しぶりに月を介さずに隣りにいる唯に直接おやすみと告げ、憂にももう一度おめでとう、と小さく声をかけた。
そうして右手を包む温もりに引きずられるように私も意識を手放した。




14:2013/02/22(金) 01:20:22.25 ID:

おしまい!




→→もっとけいおんを読む←←