1:2011/07/04(月) 17:48:42.21 ID:
※注意!!
・気まぐれ更新になると思います。

・カップリング要素は薄め。

・多少のシリアスを含みます。

・自己理論全開でお送りします。

・佐天さんは無能力者に決まってるだろ、という方は戻る推奨です。

・下記の続編です。
佐天「ベクトルを操る能力?」

佐天涙子


http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305818816/

2:2011/07/04(月) 17:49:10.06 ID:

簡単なあらすじ
○第一章「Turning Point(日常の変化)」
「ベクトル操作」という能力者になった佐天涙子。
だが、できることといえば、スプーン曲げくらい。
その程度では、日常に変化などあるワケもなく、無能力者であったときと大差ない生活を送っていたのだが……。

○第二章「Who are you?(非日常との邂逅)」
噂話をしていたら、本当に目の前に現れたレベル5の第一位、一方通行。
え? その第一位が私に能力開発をしてくれる? マジで?
かくして、一方通行による能力開発がなされることになる。

・第三章「Overline(彼女の目的)」
順調にステップアップをしていた佐天の前に現れたのは、完全反射(フルコーティング)と名乗る少女。
原点超え(オーバーライン)? クローン? 一体、何の話!?
その出会いは、佐天を非日常へと誘うこととなった。

・第四章「Real Ability(最悪の相手)」
完全反射をあっさり撃破した一方通行。
だが、それは自分を佐天から引き離すためのトラップであった。
消えた佐天涙子を捜索することにした一方通行であったが、彼の前に現れたのは……。


3:2011/07/04(月) 17:49:36.87 ID:

登場人物
●佐天涙子
ある日、ベクトル操作の能力に目覚めた元レベル0。
いろいろあって、一方通行による能力開発を受けることに。その結果レベル2~3程度にまで成長。
現在、行方不明中。主人公にも関わらず。

●一方通行
学園都市最強のレベル5。
同じ能力を持つ佐天涙子の能力開発をすることに。
やたら面倒見がいい。家事もレベル5。

●完全反射(フルコーティング)
佐天涙子のクローン体。
『原点超え(オーバーライン)』シリーズの試作品。
オリジナルよりスレンダー。作者の趣味です。

●打ち止め
御坂美琴のクローン体。
製造番号20001号。
出番は少なめ。

●番外個体
御坂美琴のクローン体。
現在、引きこもり中。
原因は不明? 正直、見切り発車なので今後どうなるかは>>1も不明。

●黄泉川愛穂
上条当麻の通う高校の体育教師。
寝起きが悪い。
一方通行の成長を父親のような目で見てたりする。

●芳川桔梗
絶対能力進化計画に携わっていた研究員の1人。
昼夜逆転生活をしているニート。


24:2011/07/07(木) 18:08:27.24 ID:

佐天が誘拐されてから3日が経過した。
捜索はというと、あまりうまく行ってはいなかった。
完全反射のいた研究所は当然のようにもぬけの殻になっており、大した情報を得ることもできなかったのだ。


一方「チッ」


さすがに一方通行は焦っていた。
それにもう丸3日動きっぱなしになる。
適宜休憩は取っているが、疲れはたまりつつあった。
肉体的な疲労もあるが、精神的な疲労が大きい。


完全反射「大丈夫?」

一方「オマエに心配されるまでもねェよ」


顔色が多少悪いことを心配したのか完全反射が尋ねてくる。
彼女も共に捜索を手伝っていた。
共に行動し、こちらの動きを逐一報告するためなのかとも思ったのだが、今のところそのような様子は見受けられない。
むしろ、懇親的に捜索を手伝っている。
一方通行とは異なった視点からの意見もあったが、それでも得られた手がかりはゼロ。
行く先、行く先何もないと、こちらの動きを読まれているようで気味が悪い。


一方(クソが……)


内心にあるのは、好転しない状況への焦り。
こうしている間にも、佐天がどのような状態になっているか分からない。
捜索のために、土御門に協力を要請しようと思ったこともある。
しかし、土御門は日本にはいなかった。
どうやら、ロンドンにいるらしい。
こんなときに外に出ているのは学園都市の陰謀なのだろうか?
と、ついそんなことを思ってしまう。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
問題は、一方通行がこれだけ捜索しているにも関わらず、何の手がかりも得られないということなのだ。
暗部と関係のありそうな施設もいくつか回った。
それでも出てこないということは、今回の件は暗部と関係のないことなのかもしれない。


25:2011/07/07(木) 18:08:56.01 ID:


完全反射「ねえ。さすがにそろそろ休んだ方がいいんじゃない?」

一方「あァ?」

完全反射「もうこんな時間だしさ」


そこで、今更ながら日が落ちていることに気づいた。
時計を確認すると、時刻は午後8時。
完全下校時刻も過ぎているため、辺りには2人以外誰の姿も見当たらない。
少々根を詰めすぎたのかもしれない。
こんな時間も分からないような状態では、大した成果を得られないのも仕方がない。


一方「……そォだな」


この3日、戦闘はまったくなかったので、バッテリーはほぼ満タンの状態。
能力を使って頭をすっきりさせようかとも思ったが、演算ミスをしてもつまらないのでやめておいた。
完全反射の言っていた、佐天と樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を繋ぐ機械の調整はいつごろまでかかるのだろうか?
もう既に終わっている?
あるいは、まだまだ時間が掛かるのか?
どちらにしろ時間はあまり掛けられない。
現在おかれている状況は、打ち止めが木原数多にさらわれた時に似ている。
違うことといえば、黒幕の正体がつかめていないこと。
それに、佐天の生死が確認できていないこと。
この2点が大きく違う。


一方(いや、佐天は生きてる。じゃねェと、さらった連中は俺と戦うリスクだけを被ることになっちまうからな)


佐天を殺してしまっては、一方通行の神経を逆撫でするだけにしかならない。
そんな事態だけは相手も避けたいに違いない。
ただ、完全反射も知らない他の事情というものが気になる。
それ如何では、殺しても問題ないということになってくる可能性もある。
どちらにしろ分からないことが多すぎる。
結局、今日もなんの成果も得られなかったことになる。
いや、得られなかったと思っていた。
カツンと、背後で物音がするまでは。


26:2011/07/07(木) 18:09:22.02 ID:


一方「?」


さきほど辺りを見回したときには誰もいなかったはずだ。
だが、音のした方を見てみると、そこには1人の少女がポツンと立っていた。
その少女は、まるで最初からそこにいたかのように佇んでいる。
その姿を確認した瞬間、一方通行の中にあった疲れは吹き飛んだ。
頭の中がクリアになって行くのを感じる。


完全反射「え?」


突然現れたことにびっくりしたのか、完全反射が驚きの声をあげている。
その少女は顔見知りであった。
サラリと流れる長い黒髪。
見覚えのある中学校の制服。
顔は機械に覆われ見えないが、隣にいる完全反射に雰囲気が良く似ている。
そう。
佐天涙子本人の登場だ。


一方「よォ。ひさしぶりじゃねェか」

佐天「……」


一方通行の呼びかけに返答はない。
彼女の頭には、頭が1回りも2回りも大きく見えるような機械が装着されている。
あれが完全反射の言っていた『樹形図の設計者』の残骸なのだろう。
あの大きさになると重量も相当なものになるはずだ。
だが、そんなことは関係ない。
なにしろ、佐天はベクトル操作の能力者だ。
むりやりレベルを引き上げられていることを考えれば、バランス維持程度は容易いだろう。
問題は、どのくらい能力者としてのレベルが上がっているのかということになる。


一方(ふざけやがって)


そう思わずにはいられない。
辺りはシンと静まり返り、ピリピリとした空気が流れていた。


27:2011/07/07(木) 18:09:47.88 ID:


一方「オマエは離れてろ」


こうして自分たちの前に現れたということは、調整が済んだと考えた方がいい。
レベル5のベクトル操作能力者。
それも、自分以上の能力を行使するということも念頭に置かねばならない。
そうなると、完全反射はお荷物だ。


完全反射「言われなくても。私じゃ適わないだろうし」


そう言って、そそくさとその場を離れる完全反射。
一応、彼女も自分の立場というものを理解しているらしい。
これで一方通行と樹形図の設計者という1対1の状況が出来上がったことになる。
佐天が現れてから1,2分が経とうとしているが、今のところ動きはない。
2人の距離は50m前後。
音速を超える速度を出せる一方通行からしてみれば、一瞬で詰められる距離ということになる。
もっとも、それは向こうも同じだろうが。


一方(完全反射の時と同じよォにできりゃ楽なンだけどな)


後ろに回って反射を相殺し、血流操作でノックダウン。
あるいは、樹形図の設計者を破壊してもいいだろう。
それができれば、佐天を傷つけることなく救い出せることになる。
だが、完全反射というクローンで、反射の強度が自分と同等であるということを考えると、自分以上の反射を持っているという可能性も捨てきれない。
その場合は、攻撃手段がなくなってしまう。
反射同士が触れ合った場合、強度の強い方がそのまま残るからである。
弱い方は反射自体が打ち消され、無防備になってしまうのだ。
かといって、あまり時間をかける訳にもいかない事情がある。
樹形図の設計者と繋がれることによって、佐天にどれだけの悪影響が与えているか分からない。
心身に深刻な障害が出る前に手を打たねばならない。


一方(よし……)


うだうだと考えていても仕方がない。
先手必勝だ。


28:2011/07/07(木) 18:10:34.36 ID:

先に動いたのは一方通行だった。
未だに佐天に動きがないことを確認すると、チョーカーに手を伸ばし、スイッチをONにする。
これで、学園都市最強の能力者としての力を十分に発揮できる。
そこから一方通行のとった行動は単純なものだった。
完全反射と戦ったときと同様に、音速を超えるスピードで佐天の後ろに回ったのだ。
同じ方法ではあるが、奇襲としてはこれが一番成功率が高い。
そして、そのまま右手を佐天に向かって伸ばした。
が、


一方「―――ッ!?」


グルンと佐天の頭が、一方通行の動きに対応して動いた。
完全反射と戦ったときは、2人とも反応すらできていなかった。
だが、反応できただけで、回避や反撃は間に合っていない。
どうやら、振り向き様に拳を放とうとしているが、こちらが触れるのが先になりそうだ。
一方通行の右手が、佐天に装着されている樹形図の設計者に伸び、触れる。
それだけで、佐天は解放できるはずだった。


一方「!!」


音速を超える動きに対応されたことにも驚いたが、樹形図の設計者に触れた瞬間にも2つ気づいたことがあった。
1つは、樹形図の設計者にも反射が適応されていること。
これは、衣類などのように体の一部であるという認識がないと適応できない。
この大きさの外部装置にまで反射を適応させることは、一方通行にも不可能だ。
そして、もう1つは反射の強度に関してだ。              ・ ・
佐天の展開している反射の膜は、一方通行や完全反射に比べて弱い。
相殺するのに、1秒程度といったところだろうか?
これならば、一方通行が一方的に攻撃ができることになる。
完全反射の膜を相殺するのに2秒ほど掛かることを考えると、レベル5というのは誇大広告だったのかもしれない。
とにかく、反射の“範囲”に関しては一方通行の上を行くが、“強度”に関しては及ばない。
いくら反射の範囲を広げても、強度が弱いならば、佐天が一方通行に勝つことなど不可能だ。
樹形図の設計者はどれほどの脅威となるのかという心配も杞憂だったのだろう。
さっさと、佐天を救い出してしまおう。

―――と、一方通行は油断をしてしまった。
普段の彼ならば、そんなことは有り得ないことなのだが。


29:2011/07/07(木) 18:11:23.21 ID:

だから、佐天の反撃にも避ける素振りを見せなかった。
タイミングからすると、反射を相殺するよりも早く佐天の反撃を受けることになる。
だが、それがどうした?
結局、反射と反射がぶつかってしまえば、衝撃は霧散してしまうのだ。
避けることに演算能力を費やすくらいならば、一刻も早く樹形図の設計者を破壊することに力を注いだ方がいい。
そうして、一方通行は特に避けることもなく、佐天の反撃が一方通行の反射に接触した。
その瞬間、


一方「がァッ!?」


ゴキンという音と共に、一方通行の首がブレた。
こめかみの辺りに、重い一撃が加えられる。
一度、地面に一方通行の体が叩きつけられ、そのまま2,3m地面を滑ってやっと静止した。
何が起こったのか、一方通行には理解できなかった。
ダメージ自体は佐天の一撃だけで、それ以外は反射がちゃんと適応されている。
いや、佐天の攻撃にも反射は適応されていた。
では、何が起こったのか?


一方「ぐっ……。何をしやがった?」

佐天「……」


もちろん佐天は答えない。
それどころか、登場してから一言も言葉を発していない。
一方通行は、ふらつく頭を押さえながら佐天に相対しなおす。
さきほどの現象を説明できる仮説はある。
だが、それが果たして実行可能なのだろうか?
今度はそれを確かめる必要がある。


佐天「……」


そんなことを考えていると、今度は佐天の方が動いてきた。
ダメージを負っていると判断し、追撃に出たのだろう。


30:2011/07/07(木) 18:12:10.88 ID:

佐天の方は、死角に回るようなことはしなかった。
それが機械的な判断なのか、そんな小細工をする必要もないと考えたのかは分からないが、一方通行の正面から攻撃を仕掛けたのだ。
攻撃の手段は蹴り。
鋭いハイキックが一方通行の首筋目掛けて放たれた。
一方通行は、そのムチのような鋭い蹴りを腕でガードするのが精一杯だった。
いや、ガードできただけでも十分怪物と言えるだろう。
なぜなら、佐天もまた音速を超えて動いているのだから。


一方「ぐっ!!」


ギシギシと腕に衝撃が加わる。
威力としては、普通の蹴り程度だ。
音速で移動してきたことにより加えられたはずの破壊力は霧散してしまっている。
だが、防御できたとはいえ、このお互いに手の届く距離では分が悪い。
一度、バックステップで佐天から距離を取る。


一方(ハッ、なるほどねェ……)


大体何が起こったのかは理解できた。
反射を相殺さえずに、相手に攻撃を加える方法。
分かってしまえば単純なことだった。
以前にも、同じようなことをする相手がいたではないか。
“反射の膜に触れた瞬間に攻撃を手前に戻す”
つまり、佐天は木原数多と同じことをしているだけなのだ。
ただ、いくつか異なる点は存在する。
木原数多が一方通行の思考パターンを読んでいたのに対して、佐天はそんなことを考える必要はない。
反射によって攻撃が止まってしまうのだから、それから引き戻せばいいことになる。
また、相手の反射によって引き寄せられるのと同時に、自分の反射によっても引き付けられる。
これなら、一方通行とわずかにでも拮抗させられるだけの反射を持っていれば可能となる攻撃方法となる。
木原のように、イチイチ一方通行の思考を読み取る労力はいらない。
だが、この方法には問題点が1つだけあった。
それが『威力』の問題だ。
相手に触れている状態からの攻撃では、破壊力を出すことは到底できない。
その上、相手に押し込むのではなく、引き戻さなければならないのであれば、その難易度は跳ね上がる。
では、佐天はなぜ一方通行を吹き飛ばせるほどの威力を出すことができたのだろうか?


31:2011/07/07(木) 18:12:38.87 ID:

答えは簡単だ。
佐天は、『ベクトル操作』の能力者なのだ。
静止している状態からでも、大きなベクトルを操作することが可能なのである。
ただし、自分にもその威力が返ってくるので、あまり大きなベクトルを操作する訳にはいかないという弱点は存在する。
大きすぎるベクトルを使うと、今度は自分までダメージを負ってしまうことになる。


一方(その上、機械でタイムラグなしで攻撃してンじゃ、こっちが操作する暇もねェって訳か……)


多少なりともタイムラグがあるのならば、攻撃を反らすことができる。
だが、ほぼ触れた瞬間に攻撃を引き戻されるのでは反応できるはずもない。
佐天の反応速度を見る限り、そういった面も補助しているのだろう。
勘に頼って操作をすることも考えられるが、少しでもタイミングが狂えば、音速を超える威力のダメージを受ける可能性もある。
この威力では、かすっただけでも気絶してしまう。
結論から言うと、佐天の攻撃は受けるか、避けるしかないということになるのだ。
反射するという選択肢は、なくなったと考えた方がいいだろう。


一方(クソッ!! どォすりゃいい? 何か打開案はあるか?)


お互いに睨みあった状態のまま、頭を高速回転させる。
こうしている間にも、能力を使える時間は刻一刻と消費されていく。
能力使用時間は、残りおよそ25分。
すばやく救出できればと思っていたが、思っていた以上に厄介な相手だということを思い知らされた。
打開策の1つとしては、佐天がやったことを一方通行も実行すればいいといわれるかもしれない。
しかし、一方通行に佐天と同様のことができるだろうか?
というのも、こちらが攻撃している間に、相手から攻撃を受けてはならないという制約条件が付くのだ。
ダメージを受けたら、その演算を続行することは不可能だ。
また、攻撃が通ったとしても問題が発生する。
一方通行の目的は、佐天を救出することであり、佐天にダメージを与えることではない。
つまり、こちらの攻撃を通し、佐天を気絶、あるいは、樹形図の設計者を破壊するまでをノーダメージで実行しなければならない。
概算にはなるが、攻撃を通すまで0.7秒、樹形図の設計者を破壊するまで0.3秒ほど掛かる。
だが、先ほどの反応速度を見るに、反撃までの時間は0.5秒程度。
どう足掻いても、実行は不可能だ。
では、どうすればいい?
一方通行の額から、汗が一筋垂れた。


81:2011/07/16(土) 22:17:50.40 ID:

そこからの戦いは一方的だった。
どちらが優勢かといえば―――


一方「がァァァッ!!」


言うまでもなく佐天が優勢だった。
右手、左手、右手……と機械的に繰り出される拳が、容赦なく一方通行に突き刺さる。
一撃一撃はガードしているため、大きなダメージはないが、連打されるとバカにならない。
確実にダメージは蓄積していた。


一方(クソッ!! このままじゃジリ貧だ。何か打開策を練らねェと!!)


そのためには考える時間が欲しい。
超速の中での戦いでは、相手の攻撃に反応することと、能力を使うことで精一杯だ。
となれば、一度距離を離すのがベスト。
行動を取ると決めてしまえば、あとは実行するだけ。
有り得ないスピードの右ストレートが放たれるが、なんとかそれに合わせて後ろに飛び退く。
距離は20mほどだろうか?
稼いだ時間で換算すると、0.05秒ほどの距離である。


佐天「……」


何かを警戒しているのか、佐天はすぐには追撃してこない。
その場に、わずかながらの静寂がおとずれる。
だが、休んでいる暇はない。
一方通行は頭をフル回転させている。
この隙に逆転の一手を練らなければ、待っているのは敗北なのだ。


一方(どォする……)


様々な案が出ては、それを却下していく。
実行可能かつこの場を逆転できる戦略はあるか?
バッテリーという名の制限時間は刻々と近づいている。


82:2011/07/16(土) 22:18:48.40 ID:

お互いに動きがなかったのは、わずか5秒。
先に動きを再開したのは佐天だった。


佐天「……」


足元のベクトルを操作し、一方通行との距離を一気に詰める。
まだ、打開策は見つかっていない。


一方「チッ!!」


となれば、できることは時間稼ぎだ。
近づいてくる佐天から距離を離すように上方へと飛んだ。
背中に4つの竜巻を接続させ、一定の高度を維持する。
そんな一方通行を追跡するため、佐天は同じように背中に2本の竜巻を接続させ、強く地面を蹴った。
が、姿勢制御に慣れていないのか、一方通行ほどのスピードは出せないでいる。


一方(この隙に、―――ッ!?)


その瞬間、佐天が一気に加速した。
背中に接続させる竜巻の数を4本にして姿勢を安定させたのだ。
一方通行以上のスピードがでていることは間違いない。
その証拠にぐんぐんと2人の距離が縮まってきている。


一方「スピードはアイツの方が上か」


これ以上の逃亡は無意味だと考え、一方通行はその場で静止した。
近づいてくる佐天に対して、構えを取る。
構えといっても、相手の動きに対応できるよう両手を前で構えただけである。
しかし、振り返ってみると、佐天の方もわずかながらの距離を取って止まった。
空中戦に自信がないのだろうか?
……そんなはずはない。
そもそもあの戦い方ならば、地上であろうと、空中であろうと関係ない。
では、なぜ静止した?


83:2011/07/16(土) 22:20:38.27 ID:


一方(待てよ? アレなら……)


そのわずかながらの時間止まってくれたおかげで、佐天を救える可能性を思いついた。
思いついたというほど大層な作戦ではないが、実行する価値はある。
問題はタイミング。
この作戦には、多少肉を切らせなければならない。
一方通行であろうとも、一撃で成功する可能性は限りなく低い。
どう実行するか考えていると、佐天の方に動きがあった。


佐天「……」


佐天がゆっくりと左手を上げる。
上空に向かって手のひらをかざしている。
一方通行の位置からだと、夜空に浮かぶ月を鷲づかみにしようとしている風に見える。
一体なんのつもりなのだろうか?


一方「?」


周囲に不自然なベクトルの変化は確認できない。
となれば、ブラフか?
その行動に意味のあるとは思えない。
だが、それが樹形図の設計者が導き出した答えならば、何らかの意味が含まれているはずだ。
では、何を意味しているのか?
答えは、すぐに明かされた。


一方「―――ッ!?」


その瞬間、


―――月が眩く発光した。



84:2011/07/16(土) 22:21:47.08 ID:


一方「なン……だと……?」


正確には、それは月が発している光ではなかった。
その現象を一方通行は知っている。
というよりも、その現象を発生させたとこがある。

『高電離気体(プラズマ)』

空気が圧縮されることにより生まれた、摂氏1万度を超える高熱の塊が発生していた。
直径はおよそ5mほど。
以前の自分の作ったものに比べれば大きさは1/4程度だ。
だが、


一方「バカな……」


納得できない。
なぜプラズマを作ることができる?
こんな不確かな『風』の発生しているにも関わらず。
実際に経験したことだが、風の操作によってプラズマを作ることは非常に集中力を要する。
わずかに風の向きが変わっただけで再計算が必要となり、それに失敗すればプラズマは霧散してしまう。
絶対能力進化実験の際には、学園都市中の風車を回転させられたことにより破綻させられてしまった。
だが、目の前の少女は風の流れを完璧に把握している。
こうしている今も、2人で計8本の竜巻が背中に接続されている。
その竜巻が生み出す風はランダムであり、とても人の身で対応しきれるものではない。
そうなると、そんなことを可能にしているのは、


一方「樹形図の設計者……」


ありとあらゆるパターンを想定し、齟齬が発生する度に再計算を瞬時に行っているのだろう。
つまり、こちらが風を操っても意味をなさない可能性が高い。
たとえ外からの妨害があろうとも、それを再計算に組み込まれて終了だ。
そして、気づいたことがもう1つ。
それは樹形図の設計者のことではなく、佐天涙子本人の特性だった。


85:2011/07/16(土) 22:22:45.98 ID:

佐天の特性。
それは、『ベクトル操作タイプ』ということだ。
そもそも、ベクトル操作には2つの使用方法に分類することができる。
攻撃性たる『ベクトル操作』と、防護性たる『反射』だ。
前者の『ベクトル操作』は、操作の方向性や始点、大きさなどといったものを、その都度計算しなければならないので難易度は高い。
しかし、後者の『反射』は、一度基礎ができてしまえば、いつでも同じように能力を使用することができる。
だから、『反射』から佐天に教えたのであったが、その実、彼女は『ベクトル操作』の方が向いていたという話だ。
樹形図の設計者の補助を受けた佐天のベクトル操作は、一方通行のそれを完全に上回っている。
代わりに佐天は、反射の強度が弱いという弱点があるが、状況が不利であることには変わりない。
確かに予兆のようなものはあった。
レベルアッパーを使用した際に佐天が初めてできたのは風操作であったし、能力が目覚めた当初はスプーン曲げしかできていなかった。
これが、『反射タイプ』となると、レベルの低いうちにできることが光の反射であったり、音の反射であったりする。
つまり、そもそものスタートがまったく異なってくるのだ。
このことに一方通行が気が付かなかったのも仕方がない。
何しろ『ベクトル操作』を使える能力者は、まだ2例目。
それに、たとえこのことを知っていたとしても、まずは身を守らせるために反射から覚えさせた可能性も高い。


一方(だが、なンでプラズマなンだ?)


圧倒的な破壊力を誇るプラズマではあるが、一方通行には通用しない。
どんなに高温の熱源だろうと、一方通行の反射の前には無意味なのである。
相手もそこは重々承知のはずだ。
それとも、その攻撃が通用しないというデータが存在しないのだろうか?
それならそれで構わない。
隙の大きい今のうちに、やれることをやっておこう。
ここから逆転するには、手の届く位置に移動しなければならない。


一方(危険は承知の上だ。さすがにアレは反射を貫通できねェだろォしな)


確信はない。
プラズマにまで反射を通過されたら、それこそ跡形も残らない。
だが、その可能性は低いと見ていた。
プラズマほど複雑な計算式を要する攻撃が反射を貫通できるのであれば、最初から遠距離攻撃を仕掛けてきているはずなのである。
ならば、プラズマは無視して構わない。
今は近づくことだけを考えればいい。
しかし、そんな思考を読んだかのように、一方通行が移動を開始する前に佐天が左手を振り下ろした。


86:2011/07/16(土) 22:24:20.46 ID:


一方「チッ!!」


思わず体が硬直する。
プラズマが放たれたという恐怖からではなく、先に動かれたという焦燥からだ。
マズい。
そのプラズマのせいで、佐天を見失ってしまった。
プラズマの直径はおおよそ5m。
身長160cm前後の佐天の姿など悠々飲み込める大きさだ。
風は大きく乱れていて、どこにいるか探知できない。


一方「仕方ねェ……」


どちらにしろ、相手も自分と接近しなければダメージは与えられないはずなのだ。
つまり、このプラズマはあくまで囮。
一時的に姿をくらませて、死角から攻撃してくるという戦法なのだろう。
それならば、それに合わせてこちらも対応すればいい。


一方(どこからくる?)


プラズマが迫ってくる。
もっとも、すでにプラズマなどに気を払ってはいない。
一方通行は、周囲に気を張り巡らせていた。
必ず佐天は死角から来るはずだ。
上か?
あるいは、下からか?


一方「―――ッ!?」


神経を集中させていた一方通行が佐天を捉えた。
予想通り佐天は死角から現れた。
ただ、死角といっても、一方通行の心理的死角から。
つまり、一方通行の真正面であるプラズマの中から現れた。


87:2011/07/16(土) 22:26:06.37 ID:


一方「あ、が……」


気が付いたときには、地面に叩きつけられていた。
まともに一撃を喰らってしまった。
拳か蹴りかも分からなかった。
上空から地面に叩きつけられたダメージはないが、それでもかなりの深手を負ってしまった。
口の中で血の味がする。


一方(ちくしょう……)


口の中に溜まった血を地面に吐き捨てると、のろのろと立ち上がる。
体がぐらぐら揺れている。
芯にダメージをもらってしまったせいだろう。
しかし、真正面というのは完全に思考の外だった。
というのも、未だに佐天が全身を反射させているという違和感を拭いきれていないのだ。
そのせいで、無意識に真正面からくるという選択肢を潰してしまっていた。
その結果がこのザマである。


佐天「……」


そんな一方通行をあざ笑うかのように、佐天は音もなく地面に着地する。
構えを取っているところを見ると、まだ一方通行は戦闘可能であると判断しているのだろう。
あるいは死亡するまで戦うことを止めないのかもしれない。
バッテリーの時間はまだ十分あるとはいえ、既にこちらは満身創痍。
対する佐天はというと、未だダメージ1つない状態。
その上、未だに佐天の反射に対して何もできないでいる。
どちらが有利かなど問うまでもない。
どう見ても敗色は濃厚だ。

―――だが、それがどうした?


一方「……ハッ!! まだ終わってねェだろォが。俺がオマエに勝てねェなンていう幻想はブチ殺してやる」


あのヒーローのように。


108:2011/07/19(火) 00:53:05.13 ID:


一方「あ、ぐっ……」


佐天の容赦ない拳が次々と一方通行に突き刺さる。
顎、首、脇腹など、人の急所と呼ばれる場所に連打を受けていた。
ガードはもうしていない。
それはなぜか?
一方通行も攻勢に出たからである。
攻勢に出たといっても、攻撃は反射によって遮られ、佐天にダメージらしいダメージは与えられていない。
そして、反射を突破する前に的確な反撃を受けているのだ。
その結果、佐天の攻撃はまともに一方通行に通っていた。


一方「がァァあああああああああああああああああああああああああああ!!」

佐天「……」


しかし、それでも一方通行は立っている。
攻撃の手を弛めることもしない。
何も破れかぶれになってこんなことをしている訳ではない。
一方通行が思いついた作戦というのは、簡単なことだった。
いや、作戦とすら呼べないかもしれない。
それは、佐天の反射の膜に触れた瞬間に手を引き戻すというもの。
要するに、現在こうしている佐天や木原数多と同じことをしようとしているだけなのだ。
勝算はある。
反射を通過させるために0.7秒かかるなら、反射同士が触れ合う前から演算を始めればいい。
ただ、そのタイミングが早すぎたり、遅すぎたりするから失敗してしまうのだ。
もっとも、口で言うほど簡単なことではない。
時間を重ねるごとにシェイクされていく頭で演算を行わなければならないのだ。
最初のうちは0.7秒でよかった演算時間が、わずかずつではあるが遅延していっている。
樹形図の設計者を破壊するのに掛かる時間を0.3秒としても、0.2秒しか誤差は許されていない。
この戦いは、先に破壊に掛かる時間を0.5秒以上にされたら負け。
その前に、樹形図の設計者を破壊できたら勝ち、という構図になっていた。
それも、ダメージを一撃受けるごとに再計算を必要とするハンデ付き。
0.2秒。
普段の一方通行にとっては十分な時間だが、その0.2秒が果てしなく遠い。


109:2011/07/19(火) 00:54:37.54 ID:


佐天「……」


佐天は、攻撃の手を弛めることをしなかった。
一方通行の攻撃に対して、的確に反撃し、機械のような正確さで急所に拳を叩き込んでいく。
今の佐天は機械と一体化しているといっても過言ではないのかもしれない。
一方通行が0.7秒要する反射を通過させるための演算を、佐天は0.6秒で完了させていた。
もっとも、樹形図の設計者には、一方通行の反射に対するデータが入っているため、タイムラグなしで正確に攻撃をしている。
ただ、何事もデータ通り行ってはいっている訳ではなかった。


一方「おおおおおおおおおおァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


計算では、既に一方通行は戦闘不能の状態になってもおかしくはないはずなのである。
そもそも、一方通行は打たれ強くはない。
今まで反射を盾に生活してきたのだから仕方がない。
反射がなくなったのが2ヶ月ちょっと前ということを考えると、そこまで打たれ強くなったということは考えにくい。
しかし、現に一方通行は立ち続け、攻撃を繰り出している。
彼も自分が不利だと分かっているはずだ。
が、


佐天「!?」


かすかに触れられたような気がした。
ほんの一瞬ではあるが、生命線である樹形図の設計者に触れられた。
反射の膜を通過して?
有り得ない。
戦闘中に反射の傾向を解析し、先読みをするなどという芸当ができる訳がない。
その上、こんなボコボコにされている状態なのだ。
普通の人間にできるはずがない。
いや、もしかして、目の前にいる男は人間じゃないのだろうか?
―――分からない。
それに、なぜここまで必死になって戦っているのだろうか?
―――分からない。
彼の目的は?
―――分からない。
学園都市最高のスーパーコンピュータでも答えがわからなかった。
人の心だけは、機械で測ることができない。
『誰かを助けたい』という単純な気持ちでさえ。


110:2011/07/19(火) 00:55:56.80 ID:

そこから先は、時間との戦いだった。
触れられたのが一瞬であったものが、0.1秒になり、そして0.2秒に達した。
しかし、まだ破壊できない。
ダメージのせいで、破壊するのに必要な演算時間が掛かりすぎているのである。


一方「諦めてたまるかよォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
意味などない。
そうしていないと意識が飛んでしまいそうだ。
既に体は限界を突破している。
自分でも立っていられるのが不思議なくらいだ。
こうしている間にも、2発、3発と拳が体に喰い込んでくる。
だが、手を止める訳には行かない。
思考を止める訳には行かない。
光の住人を闇から引き上げるために。
自分の失敗を取り返すために。
そして、何より佐天涙子のために。


一方「がァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


そして、最後の体力を振り絞って繰り出した攻撃が、佐天に届く。
0.1秒、0.2秒経過。
―――0.3秒が経過した瞬間、バキンという軽い音と共に樹形図の設計者は砕け散った。
同時に佐天の反撃をまともに受けてしまい、数mほど地面を転がって行く。
地面にうつ伏せに倒れたままわずかに顔を上げると、その場で佐天が崩れ落ちているのが見える。
やりきったのだ。


一方「ハァッ、ハァッ、ハァッ……。ギャハハッ!! あのクソ野郎なンかと似たよォなこと言うのも気に喰わねェが―――」


まだ立つのには時間が掛かりそうだ。
だが、それでもいいだろう。
一方通行は、満身創痍の体で笑いながらこう叫んだ。



一方「オマエの能力を開発してやったのは誰だと思ってやがンだ!!」




111:2011/07/19(火) 00:57:16.04 ID:


完全反射「まさか本当に勝っちゃうとはねぇ……。あ、立てる?」


いつの間に近づいてきたのか、完全反射がそう問いかけてきた。
勝てるとは思っていなかったらしい。
体に力を入れてみる。
節々は痛むが、これなら自分で歩けそうだ。


一方「……あァ、大丈夫だ。杖を持ってきてくれ」

完全反射「オッケー」


特に文句を言うでもなく、完全反射は杖を取りに走っていった。
最初に戦っていた場所からは多少移動している。
佐天を発見したのが、第7学区。
現在地が……、おそらく第10学区だろう。
移動しながら戦ったせいで、学区をまたいでしまったらしい。
……杖を盗られていなければいいが。
まあ、戦闘時間が10分ちょっとだったことを考えれば、そんな短時間放置しておいたくらいで盗まれるようなものでもない。
それに、清掃ロボに撤去できる大きさでもない。
さて、それよりもこれからどうするべきだろうか?
まずは、佐天を医者に見せなければならないかもしれない。
短い時間だったとはいえ、樹形図の設計者につながれていたのだ。
どんな副作用があったものか分からない。
とすれば、あのカエル顔の医者に見せるのがベストだろう。


一方「世話かけさせやがって」


文句をいいながら、上半身を起こし立ち上がる。
ともかく、佐天に異常が起こっていないか確認することにしよう。
脳波や生体電気の異常がないかどうかくらいなら自分でも確認できる。
ふらつく体にムチを打って、佐天への元へと近づいていく。
電極のスイッチは入れたままだ。
そうしなければ、まともに立ち上がることもできない。
バッテリーは十分以上ある。
戦いが終わった今ケチケチすることもない。
そう戦いは終わった。

―――はずだった。


112:2011/07/19(火) 00:59:10.90 ID:


佐天「ぅ……」


佐天に近づいていくと、そんな呻き声が聞こえた。
樹形図の設計者を破壊したとはいえ、そのフレームのようなものが未だに頭に付いている。
おそらく、それが痛むのだろう。
苦しそうな表情をしている。


一方「オイ。大丈夫かよ?」


なんとか佐天の元にたどりつき、手を伸ばした。
だが、手が触れる前に佐天の方に動きがあった。


一方「あ?」


佐天が両目をゆっくりと開けたのだ。
うつろな目でこちらを確認し、上半身を起こした。
まるで操られているかのような動きをしている。
待て。
操られている?
そういえば、樹形図の設計者の他に洗脳装置があったはずだ。
それはどうした?
樹形図の設計者と一緒に破壊したのだろうか?
その答えをはじき出すより一瞬早く、佐天の手刀が振るわれる。
・ ・ ・ ・
その瞬間、一方通行は後方へと飛んだ。

その手刀は、一方通行の肌を僅かにかすめた。
吹き飛ばされた訳ではない。
自分で後方へと飛んだのだ。
着地のことも考えていなかったので、地面を何回も転がってやっと動きが止まる。
ようやく止まったときには、全身が汗でびっしょりになっていった。
何が起こったのか?
手刀が反射を通過した。
……いや、それだけならまだいい。
今の攻撃の目的は別にあった。
危うく、血を逆流させられるところだった。


113:2011/07/19(火) 01:01:09.15 ID:


一方「なンなンだよそりゃ……。まだ終わりじゃねェってのかよ」


辛うじて回避に成功した一方通行が、軋む体を起こす。
視界に入ってきたのは、上半身を起こしていただけの佐天がゆっくりと立ち上がるところだった。
さきほど後ろに飛んだ際に蹴り砕いたコンクリートの破片が、いくつか佐天に刺さり血が流れている。
かすり傷程度だ。
もっとも、一方通行に佐天の心配をしている余裕などない。
今の佐天は、樹形図の設計者も破壊され、反射が全身に使われていない。
にも関わらず、一方通行の反射を通過し、あまつさえ、血流操作をしようと試みている。
それは完全に佐天の今の実力を示していることになる。
『反射』を捨て、『ベクトル操作』に特化した戦闘スタイル。
それが本来の佐天の持ち味であるとでも言うかのように。


一方「ハッ!! いいねェ!! そンくらいやってもらわねェと開発してやった身としてはガッカリだからなァ!!!」


今の状態では、まともに移動することすら困難だろう。
演算速度も反応速度も著しく落ち込んでいる。
ということは、まともに佐天とぶつからなくてはならない。
頭が掻き回され、佐天の戦力を分析することもできない。
まともに戦える状態とは、到底いえなかった。
だが、それでも分かっていることが1つだけあった。
それは、佐天の頭に付いた部品を破壊できれば、今度こそ全て終わるということ。


一方「それだけ分かってりゃ十分だろォがよォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


佐天目掛けて駆け出す。
もはや真っ直ぐに走ることもできない。
それでも走る。
佐天が手刀を構えるが関係ない。
次の一撃で全て終わるのだから。
近づいていく。
5m、4m、3m、2m……。

……そして、『救う』ための一方通行の右手と『壊す』ための佐天の右手が交差した。


114:2011/07/19(火) 01:02:23.33 ID:

私は夢を見ていた。
夢の内容は一方通行さんについて。
あの人は見た目は怖いけど、本当は優しくて、面倒見がいい。
頼りがいがあって、ちょっといじけやすいところがかわいい人。
……だと思っていた。
でも、今、目の前にいる人物はそうじゃなかった。
『鬼』
そう形容するのが一番だろう。
手当たり次第に、御坂さんを殺して行く。
時には八つ裂きに。
時には内側から破裂させ。
電車で下敷きにしたこともあった。
そして、そのたびに高笑いをする。
ギャハハハハ。
ギャハハハハ。
ギャハハハハ。
私なんかがいくら大声を出しても、止まることはなかった。
そもそも、私なんか視界に入ってなかった。
そんな光景をもう何度みただろうか?
気づくと、また最初に戻りループしている。
そんな悪夢。
目をつぶっても、まぶたなんてないかのようにその光景が見える。
これは一方通行さんじゃないって思うたびに、目の前の『鬼』は否定する。


一方「これが俺だ。殺すのが俺の本能なンだよ」


ギャハハハハと。
それでも、私は否定できる材料を探し続けた。
心に何か引っかかっていたから。
そして、見つけた。
そうしている間にも何万人御坂さんが殺されたか分からない。
けれど、見つけた。
目の前にいる『鬼』にこう問いかける。


佐天「打ち止めちゃんや番外個体さんは?」


目の前の『鬼』は答えない。
そこで私は夢から覚めた。


115:2011/07/19(火) 01:03:38.26 ID:


佐天「ぅぁ……?」

一方「やっと起きやがったか……」


目を覚ますと、目の前には一方通行さんがいた。
辺りが暗くて顔はよく見えないが、たしかに一方通行さんの声だ。
なぜか消え入りそうな声でそんなことを言っている。
それに一方通行さんの右手は私の頭に向かって伸びていた。
あれ?
私も一方通行さんに向かって手を出しているみたいだ。
首の横に手を伸ばしてるけど、何してたんだっけ?
なぜかその右手が濡れてベタベタして気持ちが悪い。
そもそも、私はなんでこんなところにいるんだろう?


一方「……オマエもやりゃできるじゃねェか」

佐天「え? ちょ!?」


そう言うと、一方通行さんが私にもたれかかってくるように倒れこんだ。
何? 何? どういうこと!?
混乱している頭を働かせるが、良く分からない。
完全に力が抜け切っている。
なんとか引き離そうと力を入れると、そのまま一方通行さんは地面に倒れこむ。


佐天「……い、一方通行さん?」


ジワリと一方通行さんが倒れている辺りのアスファルトの色が変色していくのが分かった。
灰色から赤へ。
それが何を意味するのか理解するのに少々時間を要した。


佐天「い、嫌ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


交差した佐天の一撃は、一方通行の首の動脈を掻き切っていたのだ。
最悪なことに、チョーカーから伸びた電極のコードと共に。


―――そこで私は気絶してしまい、結局どうなったのかはまだ知らない。


                    第四章『Real Ability(最悪の相手)』 完


152:2011/07/25(月) 21:48:58.47 ID:


佐天「う……」


目を覚ますと、そこには見覚えのない天井があった。
窓からは光が差し込み、白い部屋を一層白く見せている。
既に昼を回っているようだ。
ここはどこだろう?


佐天「ええと……」

完全反射「あ、起きた?」


声のした方に視線を向けると『私』がいた。
いや、違う。
この子は私のクローン。
名前は完全反射(フルコーティング)だっただろうか?
ぼんやりとする頭を一生懸命働かせる。


佐天「ここは……」

完全反射「病院だよ。第7学区の」

佐天「―――っ!!」


その瞬間、思い出した。
悪夢を見ていたこと。
目が覚めると、一方通行さんが目の前にいたこと。
そして、一方通行さんが血を流しながら倒れたことを。


佐天「あ、一方通行さんは!?」


顔を真っ青にしながら、傍らにいる少女に問いかける。
しかし、少女は視線を逸らし答えない。
まるでそれが答えであるかというように。


153:2011/07/25(月) 21:50:15.82 ID:


佐天「そ、そんな……」

完全反射「私が駆けつけたときには、2人とも血まみれになって倒れてたから……」


応急処置はやったんだけど、と言葉を切る。
完全反射が黙ってしまったせいで、その部屋は静寂に包まれてしまった。
その静けさを打ち消すかのように、コンコンとドアがノックされた。
頭の中が真っ白になりかけた佐天だったが、それで我に返った。


佐天「あ……。ど、どーぞ……」

冥土返し「失礼するよ?」


入ってきたのは、いつぞやの件でお世話になったカエル顔の医者。
手に持ったカルテの角で額を掻きながら部屋に入ってきた。
部屋の空気などお構いなしのようだ。


冥土返し「調子はどうだい?」

佐天「あ……。多分、大丈夫です……」

冥土返し「元気がなさそうだけど本当に大丈夫かい?」


元気がないのは当たり前だ。
事実を確認するのが怖い。
怖い?
一方通行さんが死んだことが?
それとも、私が一方通行さんを殺したことが?
分からない。
今、自分の心の中を覗けたら、きっとそこは混沌で渦巻いているに違いない。


佐天「だ、大丈夫です……」


それでも、精一杯虚勢を張って答えた。
それが通じたかどうかは分からないが。


154:2011/07/25(月) 21:51:07.63 ID:


冥土返し「そうかい? それじゃ、君の状態について簡単に結論から言わせてもらうよ」


幸いというかなんというか、カエル顔の医者はそれ以上の追求をしてこなかった。
はい、お願いしますと続きを促す。


冥土返し「昨日は意識が戻らなかったから入院してもらったが、かすり傷以外は特に問題ないね。脳波にも異常は見られないよ」

佐天「そうですか……」

冥土返し「あまりうれしそうじゃないね?」


今は自分のことよりも一方通行さんのことが気に掛かってしまっている。
それを差し置いて、自分だけ能天気にうれしがることなどできない。
そんな佐天を見ていられなかったのか、完全反射が代わりにカエル顔の医者に問いかけた。
もちろん、内容は一方通行についてだ。


完全反射「……第一位はどうなりました?」

冥土返し「気になってるだろうと思ってね。それを伝えに来たのさ」

佐天「……」

冥土返し「もうそろそろ目を覚ますころだと思うよ」

佐天「え?」


それはまったく予期していない答えだった。
佐天が気絶した時点で相当の血の量が流れていた。
この子がどれくらいで駆けつけたかはわからないが、病院に着くまでには死んでいてもおかしくない。
そんな状態だった人間がもうすぐ目を覚ます?
気休めで言っているのだろうか?


完全反射「ほ、本当ですか?」

冥土返し「やれやれ。君たちは良く分かっていないようだから言っておくけどね?」

佐天「な、何ですか?」


冥土返し「生きてこの病院に入った以上、死ぬわけがないだろう?」



155:2011/07/25(月) 21:51:54.21 ID:


佐天「あ、一方通行さぁぁぁあああああん!!!」

一方「うるせェ……」

冥土返し「君は行かなくていいのかい?」

完全反射「ここは水を差しちゃマズイ場面でしょ」


カエル顔の医者につれられて、少し離れた病室に入るとそこには上半身を起こした一方通行がいた。
首には白い包帯が巻かれているが、それ以外に外傷は見当たらなかった。
障害も起こっているようには見えない。
それとも、そう見えないだけで足が動かなくなっていたりするのだろうか?


一方「心配ねェよ。ちっと貧血で倒れただけだろォが」

完全反射「いやいや、貧血って量じゃなかったよね?」

佐天「で、でもそれなら何で……?」


急激な失血をすると、脈拍が弱くなり、血液の循環が止まりやすくなる。
3分間以上脳に血液が行かなくなると脳細胞の破壊が始まり、なんらかの障害が残る可能性が非常に高くなる。
確かそんなことを授業で聞いた気がする。
いや、障害の有無以前に、あの血の量なら失血死してもおかしくなかったはずだ。


冥土返し「応急処置が良かったんだろうね」

佐天「応急処置……ってこの子の?」

冥土返し「そうだね。初め見たときはビックリしたけどね?」

完全反射「ははは……」

一方「どンな応急処置してたンだよ……」

冥土返し「患部を擦っていたのさ。それもすごい勢いで」


一方・佐天「「は?」」



156:2011/07/25(月) 21:52:45.52 ID:


一方「オイ。オマエ本当は殺そうとしてたンじゃねェよなァ?」

完全反射「ち、違うって! 私の能力のこと知ってるでしょ!?」

佐天「え? 能力って……」


完全反射の能力は、『反射』に特化したベクトル操作。
しかし、反射しか使えないという訳ではない。
わずかながらではあるが、ベクトル操作も可能。
その条件が、『自分で発生させた運動ベクトル』のみ操作可能というものらしい。
私は初耳だったけど。


完全反射「それで患部を撫でて、血液を循環させてたんだよ。おかげで手が血でベトベトになっちゃったけどそのくらいはね」

冥土返し「傷口は多少広がっていたけれど、失血しすぎるよりは良かったね」

佐天「そ、そうですか」


そこでやっとホッと一息ついた。
かなり緊張していたものだから、思わず地面に座り込んでしまった。
なんとも情けない。


完全反射「だ、大丈夫?」

佐天「う、うん。……ってそういえば、なんでこの子がここにいるの!?」

完全反射「今更!?」

冥土返し「その辺りについては僕も聞かせてもらいたいね?」

一方「オマエは関係ねェンじゃねェのか?」

冥土返し「調整用の機材が必要になるかもしれないだろう?」

一方「……チッ」


一言で一方通行さんを丸め込んでしまった。
今更だけど、このお医者さんも相当スゴイ人なのかもしれない。


157:2011/07/25(月) 21:53:58.98 ID:


完全反射「―――ってところかな」

佐天「……」


私の記憶のない時間の経緯を聞いていたが、信じられないような内容だった。
私が一方通行さんと正面から戦っていた?
よくそれでかすり傷程度で済んだものである。
それに『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は凄いものというイメージはあった。
けれど、私と一方通行さんを互角にするほど演算能力があるとは思わなかった。


一方「レベル5に達してたかもしンねェな」

佐天「ええっ!?」

完全反射「それが目的の1つだったみたいだし当然だね」


少しの時間とはいえ、レベル5の力を手にしていた……らしい。
実感は全くない。
少しくらいレベル5の世界のことを覚えていたかった気もする。
多少の対価なら……、


一方「どンな障害が起こるか分からねェンだぞ?」

佐天「や、やだなー。冗談ですって~」


考えを読まれてたっぽい。
そんなに顔に出てたかな?
気をつけなければ……。
あ、それと完全反射は敵ではなくなったそうだ。
理由は良く分からないけど、そういうことらしい。
ところで住む場所とかどうするんだろう?


158:2011/07/25(月) 21:54:37.02 ID:

ふと、カエル顔の医者の方に顔を向けると、妙に難しい顔をしているのに気づいた。
何か気になる点でもあるのだろうか?


冥土返し「……君は早急に身体を調整する必要がある」


腕組みをしながらそうつぶやく。
彼の頭の中では、調整に必要なものが取捨選択されている最中だった。
妹達と同じ調整器具で大丈夫なのか、といった疑問を次々と頭の中で処理している。


完全反射「ま、元々試作品ってことだし、あんまり丁寧には作られてないからねぇ」


自嘲気味に首を振る。
クローンは総じて寿命が短い。
その程度の知識はあったので、私は思わず黙り込んでしまった。
こういうときなんと言えばいいのか分からない。


冥土返し「彼と少し話したら調整を始めるから、彼女の病室で待っていてくれ」

完全反射「は~い」

佐天「えと、私は……」

冥土返し「君もまだ本調子じゃないだろう? 少し休んでいなさい」

佐天「わ、分かりました」

完全反射「よし。じゃ行こっ、お姉ちゃん!」

佐天「え!? お、お姉ちゃん!?」

完全反射「『お姉様』って言われるのヤなんでしょ~?」


お姉ちゃんって呼ばれるのもむず痒い気もするけど……。
そんな風にして、一方通行さんの病室を後にしたのであった。


159:2011/07/25(月) 21:55:28.04 ID:


冥土返し「あの様子なら、2人は大丈夫そうだね?」

一方「……そォみてェだな」


ドアを閉めても、わずかながら佐天と完全反射の声が聞こえてくる。
あれだけムダに元気なら、後遺症の心配もいらないだろう。


冥土返し「君はしばらく安静にしているんだよ? まだ完治している訳じゃないんだ」

一方「分かってる」


激しい運動はできないだろうが、それでも日常生活には問題ないとのことだ。
どちらにしろ、日常的に杖を突いている身としては激しい運動などできない。
かといって、能力を使っていれば、激しい運動をしても問題ないだろう。


冥土返し「退院は今日中にしてしまうかい?」

一方「……そォだな。打ち止めも心配してるだろォしな」

冥土返し「ふむ。それにしても、彼女たちは元気だね?」


ドアの向こうからは未だに2人の声が響いている。
その場で話し込んでいるようだ。
「お姉ちゃん」や「コーちゃん」といった言葉がかすかに聞き取れた。
まったく平和なものである。


一方「まだ、何も終わってねェっていうのに……」


ポツリとつぶやいたその独白は、白い病室に吸い込まれていった。


209:2011/08/05(金) 17:15:13.08 ID:


御坂「おっ邪魔しまーす」

白井「あら、お姉様」

初春「御坂さん、こんちにはー」


御坂美琴、白井黒子、初春飾利の3人は風紀委員(ジャッジメント)第177支部にいた。
土曜の午後は授業も特に入っていないため、支部に集まるのが習慣になりつつあった。
だが、そこには欠けている顔が1つ。
佐天涙子がここ数日顔を出していなかった。


御坂「また佐天さん来てないけど、何かあったのかしら?」

白井「そういえば、そうですわね」


今までにも、顔をあわせない日が長く続いたこともあった。
しかし、そのときには、なんらかの用事が入っているなどの連絡が届いていたのだが今回は違った。
御坂が最後に佐天に会ったのは、公園で能力の話をした時だ。
あれから何の連絡も受けていなくては、心配になるのも当然だ。
まさか、またレベルアッパー事件のときのように何かに巻き込まれたのだろうか?
そんな空気が御坂と白井の間に流れる。


初春「あれ? お2人には話してませんでしたっけ?」


と思ったのだが違ったようだ。
ただ単に、初春が伝え忘れていたというだけの話らしい。
怪我?
病気?
それとも、旅行?
御坂は、長い間顔を出せないような原因を浮かべていく。
初春の顔から察するに深刻そうなものではない。
とすると、旅行あたりが妥当だろうか?


初春「第一位から直々に能力開発をしてもらっているそうですよ」



210:2011/08/05(金) 17:15:42.28 ID:


白井「あらまあ。そうでしたの?」

御坂「―――っ!?」


その一言は、白井や初春にとっては、何でもない一言だった。
だが、御坂美琴にとって、第一位、『一方通行』という名前には特別な意味が存在する。
“虐殺者”
そう呼ぶのが妥当か。
絶対能力進化計画で、“妹達”と呼ばれる御坂美琴のクローンを1万人以上も殺害してきた悪魔。
忘れがたい悪夢を見せ付けられた男なのだ。


御坂「な……。なん―――」


どうして?
いつから?
疑問が溢れてくるのに、うまく言葉が繋がらない。


初春「それで学校の代わりにそっちに行ってるんですよ」

白井「確かに第一位の方から直々に教われば、成長も早いかもしれませんわね」


そうだ。
佐天はあの一方通行と同じ能力を持っている。
それだけで目を付けられてもおかしくない。


御坂「う、初春さん! 佐天さんが今どこにいるか分かる!?」

白井「お、お姉様?」

初春「え、えーと。め、メールで聞いてみましょうか」


どうしてもっと早く気が付かなかったのだろうか?
初めて能力を聞いたときから、もっと警戒しておくべきだったのだ。
一方通行という存在に。


211:2011/08/05(金) 17:17:33.52 ID:


白井「大丈夫ですの、お姉様? 顔色が悪いですわよ?」

御坂「大丈夫……、大丈夫よ」


口ではそう言っているが、到底大丈夫には見えない。
御坂は顔面蒼白になって、今にも倒れそうな勢いだ。
メールを待つ時間が果てしなく長く感じる。


初春「あ、返ってきました」

御坂「―――っ!!」


その瞬間、正直なところ御坂はホッとしていた。
メールに返信できるような状態ならば、まだ大事には巻き込まれてはいない。
まだ無事である可能性は高いのだ。
それに、よく考えてみればおかしいことだらけだ。
あの“一方通行”が佐天の能力開発をすると言うはずがないではないか。
佐天を危険視しているなら、正面から手を打ってくるはずだ。
何しろ、あの男は学園都市の第一位。
わざわざ小細工をする必要性など皆無なのだから。
そうなってくると、佐天に手を出してきたのは、一方通行と同じ能力ということで目をつけてきた研究者かその辺りだろう。
危険度でいえば、格段に一方通行に劣る。
今現在も無事ならば、保護する手立てはいくらでもあるだろう。
―――だが、そんな御坂の予想は裏切られた。


初春「……え? 入院?」

御坂「え?」


そうだ。
何を甘いことを考えている。
相手は、2万人のクローンを生み出して虐殺させるような研究者かもしれないのだ。
もはや一刻の猶予もない。


御坂「きっとあの病院よ! 早く行きましょ!」

初春「は、はいっ!」



212:2011/08/05(金) 17:18:08.57 ID:

その頃、佐天はというと、


佐天「お姉ちゃん……。お姉ちゃんか……」

完全反射「悪くないでしょ?」


その“虐殺者”である一方通行に病室を追い出され、自分の病室に戻ろうとしているところだった。
御坂が懸念しているような事態にはなっていなかった。
いや、既に終わってしまったというべきだろうか?


佐天「ま、それでいっか」


『お姉様』と呼ばれるよりは、断然『お姉ちゃん』の方がいいが、まだしっくりこない。
しっくりこないのは、呼称がではなく、突然自分とそっくりな妹ができたことに関してかもしれないが。


完全反射「うんうん。よろしくね、お姉ちゃ~ん」

佐天「う……」


にっこり微笑まれるが、なんとも奇妙な感覚だ。
この鏡を見ているような違和感だけは取り除けないかもしれない。
なんか恥ずかしい。


佐天「そ、それじゃあ、私はなんて呼ぼうかな~」

完全反射「え?」

佐天「ほら、完全反射(フルコーティング)ってちょっと長いじゃん?」

完全反射「確かにねぇ」


それになんか固いし。
これから仲良くやっていこうというのだから、もっと親しみを込めた愛称にするべきだろう。


213:2011/08/05(金) 17:18:42.07 ID:

結局、『フーみん』と『コーちゃん』でコーちゃんに決定した。


完全反射「コーちゃんねえ……」

佐天「うんうん。よろしく、コーちゃん」

完全反射「う……」


あれ?
まったく同じ反応をどこかで見た気がする。
……気のせいか。


完全反射「っと、あんまり廊下で騒ぐのもあれだし、病室に戻ろっか」

佐天「ん、そうだね」

完全反射「あれ? お姉ちゃん、携帯なってない?」

佐天「あ、本当だ」


本来なら病院は携帯などの電源を切っていなければならない。
けれど、この病棟ならば心配はいならない。
ここは携帯の使える病棟なのだ。
ファミレスに喫煙席と禁煙席があるように、病棟でも携帯OKなところとNGなところに分かれている。
というか、携帯がダメな病棟は常に圏外になるようになっているとか。
って、そんなことより携帯を確認しよう。


佐天「あれ? 初春から?」

―――――――――――――
From:初春
件名:最近
このごろ連絡もないですけど
どこにいるんですか?
御坂さんたちもすごく心配し
てますよ?
―――――――――――――

そういえば、一方通行さんのところにお世話になって以来、初春たちに連絡してなかったかも。


214:2011/08/05(金) 17:19:24.08 ID:


完全反射「友達?」

佐天「そ。初春って親友から」

完全反射「友達……かぁ」


さて、どう返信するべきか。
レベルがメキメキ上がったこととかは……、書かなくていっか。
会ったときに驚かせたいし。
となると、あんまり心配はかけたくないけど、ある程度正直に答えるべきだよね?

―――――――――――――
To:初春
件名:実はさー
ちょっとケガしちゃって入院
しちゃったんだよね。
ま、そんなに大きなケガじゃ
なかったから心配はいらない
よん♪
―――――――――――――

佐天「ん、こんなところでしょ」


送信っと。
これなら大騒ぎってことにもならないでしょ。


完全反射「ねえ、お姉ちゃん」

佐天「ん? 何?」

完全反射「私にも友達ってできるかな?」

佐天「え?」


そうだ。
コーちゃんは私のクローンなんだ。
初春たちに紹介してもいいものなのだろうか?


215:2011/08/05(金) 17:20:15.74 ID:


冥土帰し「まったく君たちは。病室で待っていてくれと言っただろう?」

佐天・完全反射「「あ」」


カエル顔のお医者さんが病室から出てきた。
一方通行さんとの話は終わったらしい。
そんなに長い間ここにいだのだろうか?


冥土帰し「まあいいけどね? 君は病室に戻っていなさい。最後に検査をして、異常がなければそのまま退院だ」

佐天「分かりました」

冥土帰し「それじゃ、完全反射くんは僕に着いて来てもらおうか?」

完全反射「は~い」


たしか調整をするって話だったはずだ。
一体どんな調整をするのだろう?
ちょっと想像ができないな。


完全反射「じゃあ、まったね~。お姉ちゃん」

佐天「うん」


そう言って、コーちゃんはカエル顔のお医者さんの後について廊下を歩いていってしまった。
私も病室に戻ることにしよう。
……あれ?
そういえば、さっき初春に送ったメールの返信がまだない。
てっきり、初春のことだから、ケガを大げさに捉えた感じのメールが返ってくると思ったんだけど。


佐天「ま、いっか」


ほんのちょっとだけ寂しい気もするけどね。


216:2011/08/05(金) 17:21:11.31 ID:

でも、どうやら初春たちは私の想像以上のケガを負ったと思っていたらしい。
というのも、


御坂「佐天さん大丈夫!?」

初春「さ、佐天さん!!」

白井「お、お姉様!! もう少し落ち着いてくださいまし!!」

佐天「……はい?」


ベットに横になって数分もした頃。
廊下が騒がしいと思っていたら、その音がだんだんと近づいてきて、いきなりドアが開けられた。
そこに顔を向けると、御坂さん、白井さん、初春のいつもの顔ぶれがそろっていた。
この3人を見るのもいつぶりだろうか、などということを考えている暇もなかった。
いきなり激しい剣幕。
正直、テンションの差についていけない。
特に御坂さんの興奮ぶりはすごかった。


御坂「だ、大丈夫なの!? 入院って!!」

佐天「あー、えー? ど、どうしたんですか、御坂さん?」

御坂「どうしたもこうしたもないわよ!! 佐天さんが入院したって―――」

佐天「初春のメールには大したことないって書いたはずなんですけど」

御坂「え?」

白井「そうでしたの?」

初春「はい。その前に御坂さんが飛び出しちゃったので、お伝えする暇がなかったんですけど……」

御坂「な、なんだ……。良かった……」


そういえば、御坂さんは一方通行さんと……。
そう考えると、御坂さんがここまで取り乱すのも仕方ないのかもしれない。
すごく友達思いのいい人なのだ。


217:2011/08/05(金) 17:24:11.05 ID:


初春「それで、なんで入院なんてしたんですか?」

佐天「あ……。実は、階段から落ちちゃってさ」


なんとも古典的な言い訳。
しかし、他になんと言えばいいのだろう?
コーちゃんの話をする?
それとも、私が操られて一方通行さんと戦った話?
とてもではないが、言えるような話ではない。
ここは、怪しまれてもこれが一番無難な気がする。


白井「それはまあ災難でしたわねえ」

初春「佐天さんはおっちょこちょいですからね」


なるほど、初春は普段私のことをそう思ってる訳か。
これは後で、スカートをまくるというお返しをしなければなるまい。
しかし、うまく誤魔化せたので良しとしておこう。


御坂「……」


あ、御坂さんは信じてないっぽい。
くっ、なかなか手ごわい。
いや、待てよ?
御坂さんには真実を話してもいいかもしれない。


佐天(御坂さん。後でお話があります)

御坂(……ん。分かったわ)


とりあえず、この場はこれでOK。
今の一言で、御坂さんも私がどんなことを知ったのかおおよそ把握できただろう。
となれば、久々に会ったのだから、検査の時間までゆっくりおしゃべりでもすることにしよう。
なるべく一方通行さんの話を避けて。


218:2011/08/05(金) 17:24:57.57 ID:

まあ、そんな意気込みも空しく終わった訳ですが。
え? なぜかって?
それは、


初春「それで、佐天さんは第一位にどんなこと教わったんですか?」

佐天「……ははは」


どうやら、初春は空気を読んでくれないらしい。
というか、この話題になることはある意味避けられなかった訳ですけどね。
どう説明したものだろうか?


御坂「そうね。私も聞かせてもらおうかしら」

白井「ですわね。一体どんなことを教わったのか聞きたいですの」


む?
御坂さんも聞きたいと?
そういうことなら断る理由もないけど。


佐天「ええとですね……」

初春「わー。楽しみですね」

白井「そうですわね」

御坂「……」


3人とも興味津々といった様子で耳を澄ませてくる。
御坂さんは、ちょっと他の2人とはベクトルが違いそうだけど。
それにしても、どこから説明したものか。
うーん……。
一応、順を追って最初の出会いから説明するべきかな?
うん。
そうしよう。
最後の辺りをうまくごまかせるように気をつけておけば大丈夫だろう。


251:2011/08/10(水) 15:38:36.09 ID:


佐天「―――って感じかな」


一方通行さんのところにお世話になって5日くらいまでのところを簡潔に説明してみた。
もちろんコーちゃんの話は省略してある。
御坂さんに説明するとしても、初春と白井さんにはどうするべきなんだろう?
ちなみに、話を聞いていた3人の反応はというと、


初春「れ、レベル2強ですか……」

白井「短時間ですごいですわねえ」

御坂「た、確かに……」


こんな感じだ。
さすがに驚いている。
でも、まだ甘い。
本人である私ほど驚いている人もいないだろうからね!


初春「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

佐天「うん? いいよん♪」


2つ返事でOK。
精密検査受けてないけど、ちょっとくらい能力使っても大丈夫だよね?
ええと……。


佐天「あ、あれ?」

白井「どうかしたんですの?」

御坂「どうかしたの?」


お、おかしい。
試しにちょっと能力使っただけなのに……、


佐天「ひじまで反射できるようになってる!?」



252:2011/08/10(水) 15:39:08.01 ID:


手首くらいまでしか範囲のなかった反射が、いつの間にかひじの辺りまで使えるようになっている。
い、一体いつの間に……?
3人には見えてないから良く分かっていないようだ。


佐天「もしかして、後遺症?」

御坂「え?」

佐天「あっ!? い、いえ! なんでもないです!」


思い当たるのが、事件の影響くらいしかない。
といっても、その記憶はないんだけどさ。
なんだか、能力の発動もスムーズになっている気がするし。


初春「すごいです、佐天さん!」

白井「これが反射ですのね……」

佐天「で、でしょー?」


腕を突っついてくる初春と白井さん。
変に顔に出さないように気をつけないと。
突っ込まれても困るし。
というか、ボロがでないうちに帰ってもらった方がいいかも?


佐天「……あ! そ、そろそろ、検査の時間なんですよ!」

白井「? 階段から落ちただけで検査をしますの?」


うわ、墓穴った。


佐天「ちょ、ちょっと頭から落ちちゃいまして!」

初春「そ、それ大丈夫なんですか、佐天さん?」



253:2011/08/10(水) 15:39:35.52 ID:

逆に心配かけちゃったかも、と思ったときには後の祭り。
でも、なんとか説得には成功したみたいで、3人には帰ってもらった。
御坂さんは、初春と白井さんと別れた後にもう一度ここに来るそうだ。


佐天「しかし、コーちゃんのことはどう説明したものかなー……」


天井を見上げながら、ひとり言。
会わせないって選択肢もあるけど、それもなんだか嫌だ。
1人だけ仲間はずれにしているみたいで。


佐天「仕方ないのかな?」

御坂「お待たせ」

佐天「あ、御坂さん」


呟いたのと、御坂さんが病室に入ってきたのはほぼ同時。
この早さだと、病院の入り口辺りで引き返してきたのかもしれない。
正直、まだ心の準備ができてないんですけど。


佐天「え、ええっと……」

御坂「佐天さんはどこまで知ってるのかしら?」


どこから説明しようか迷っていると、御坂さんからそう聞いてきた。
単刀直入すぎはしない?
ちょ、ちょっと目が怖い……。
でも、どこまで知っているのかと聞かれたら、


佐天「……大体のことは聞きました」

御坂「―――っ!!」


予想はしていたのだろうけど、それでも御坂さんは動揺しているように見えた。


254:2011/08/10(水) 15:40:02.49 ID:


御坂「……そう。そこまで……」

佐天「はい……」


『絶対能力進化計画』と呼ばれる実験が行われたこと。
そのために御坂さんのクローンが2万体作られたこと。
そして、一方通行さんにその半数近く近く殺されたこと。
これは、ほぼ私の知っていることの全てだった。
私の話を聞いていた御坂さんの顔は、当然のように暗い。
こういうとき、どんな風に声をかければいいのか分からない。
どうするのが正解なのだろうか?


御坂「……佐天さん」

佐天「は、はいっ!」


悩んでいると、御坂さんから沈黙を破ってきた。


御坂「それを知っててなんでアイツなんかと一緒にいるの?」

佐天「……」


責め立てるような声色ではなかった。
どちらかというと、“怒り”や“恨み”といった感情よりも、“疑問”の念が強いのだろう。
もちろん、私としてもこの問いは想定していた。
だけど、明確な答えを出せた訳ではない。
確かに、私がこのことを知ったのはつい最近のことだ。
これを知った後も、一方通行さんに能力開発をしてもらっていたという訳ではない。
しかし、ここでそれを言っても始まらない。
だって、私はもう一方通行さんを怖がったり、恐れたりしていないのだ。
私が一方通行さんと仲良くすることは、御坂さんにとってみれば裏切りのように映るかもしれない。
何しろ自分に悪夢を見せた男と自分の友人が仲良くしているのだ。
御坂さんもどうしていいのか分からなくなるだろう。
だから、私は、正直に自分の気持ちを伝えることにした。
御坂さんの視点ではなく、『私』、佐天涙子の視点で。


255:2011/08/10(水) 15:40:29.10 ID:


佐天「御坂さん。1つ聞いてもいいですか?」

御坂「……何?」

佐天「絶対能力進化計画って中断されたんですよね? それって何でですか?」

御坂「え?」


こんなことを聞かれるのは予想外だったのだろう。
御坂さんは、かなりキョトンとした顔をしている。
こんなことを聞いたのも、私の話の前にまずは御坂さんの話を聞いておきたかったからだ。
どんなドラマがあって、『実験の凍結』という結末に至ったのか、私は知らない。
一方通行さんが心変わりしたのか、あるいは、なんらかのエラーが生じたのか。
それが、御坂さんの目ではどのように映っていたのか確認しておきたかった。
だが、


御坂「―――すけてくれたのよ」

佐天「……え?」

御坂「助けてくれたのよ。あのバカが一方通行を倒して」


その答えは、私の想像を超えていた。
御坂さんが言うには、学園都市最強の第一位を倒した人がいると言う。
たしかに一時期そんな噂が流れたこともあった。
それも、レベル0の無能力者が倒したなんて尾ひれが付いているくらいだから信用に値しない都市伝説だとも思っていた。
けれど、それが本当だった?
だとしたら……


御坂「樹形図の設計者はもうその時には壊れてたから、どこにエラーがあったかも分からず、そのまま実験は凍結ってことになったのよ」

佐天「……それじゃ、御坂さんはその『ヒーロー』さんに相当感謝してるんですよね?」

御坂「まあね。どうやって恩を返せばいいか分からないくらいにはね」


やっぱりだ。
やっぱり御坂さんも……。


256:2011/08/10(水) 15:40:57.23 ID:

御坂「……でも、それが佐天さんと一方通行が一緒にいるのに何か関係あるの?」

佐天「ありますよ。というか、最初に聞いて良かったです」

御坂「?」


眉を寄せる御坂さん。
確かに御坂さんにとって、その『ヒーロー』さんと一方通行さんは繋がりようがない。
けれど、私にとってはその事実が重要なのだ。
御坂さんが、誰かに助けられたという事実が。


佐天「御坂さんにはまだ話してなかったことがあるんですけど―――」

御坂「……うん」

佐天「実は、私が入院したのは階段から落ちた訳じゃないんですよね」


さすがに、もう気づいたいたとは思うけど。
だからと言って、何が起こっていたかは知らないはずだ。
何も言わない御坂さんに私は続ける。


佐天「実は、私、さらわれちゃってたみたいなんですよ」

御坂「……え?」

佐天「それを一方通行さんが助けてくれたんです」


だから、



佐天「御坂さんにとって、実験を止めてくれた人が『ヒーロー』なら、私にとっての『ヒーロー』は一方通行さんなんですよ」



それが私なりの答え。


257:2011/08/10(水) 15:41:30.98 ID:


御坂「え?」


さらわれた挙句に洗脳され、目が覚めたときには、目の前に血まみれの一方通行さんが立っていた。
危うく、私が一方通行さんを殺してしまうところだったのだ。
つまり、私が加害者で一方通行さんが被害者。
御坂さんの場合とまったく逆の立場。
そんな私の気持ちを御坂さんは理解してくれるだろうか?


佐天「もちろん本意じゃないですけど、一方通行さんを殺してしまうところでした」

御坂「あ……。な……」

佐天「覚えているのは、ずっと悪夢を見せられていて、目が覚めたら一方通行さんが目の前にいたってことなんですよ」

御坂「そんな……」

佐天「感謝しても、感謝しきれませんし、謝っても、謝りきれないと思うんです」


御坂さんの反応は薄い。
伏し目がちに私を見てくるだけで、肯定も否定もしなかった。
私は続ける。


佐天「たしかに、一方通行さんは、過去に酷いことをしてきたかもしれません」

御坂「……」

佐天「でも、今でも一方通行さんが同じような人間だとは限らないですよね?」


『今』の一方通行さんを御坂さんは知らない。
打ち止めちゃんや、番外個体さんを守っている一方通行さんを。
そして、あの人の中に宿る“優しさ”を。


佐天「許せとはいいませんけど、過去を悔いて、もう一度やり直そうとしている人を私は見捨てたりできません」


でなければ、私は、私を許せなくなる。


258:2011/08/10(水) 15:42:08.93 ID:

私は、レベルアッパーを使った。
能力にあこがれて、自分の努力を放棄して。
ズルはいけないと思った。
1人で使うのは怖かった。
だけど、それでも能力というものにあこがれた。
けれど待っていたのは、自分を信じていた人を裏切ってしまったという結果。
それを初春や御坂さん、白井さんは許してくれたのだ。
だから、私も人のことを許したい。
その人が、本気で更生したいと思っているならば。
たしかに、一方通行さんのやってきたこととは、私の場合とレベルが違うかもしれない。
御坂さんは優しいから自分のことを責めたのだろうし、相当苦しんだのだろう。
でも……。
でもそれは、一方通行さんも同じじゃない?
自分の過ちに苦しみ、過去を後悔し、苦しんだんじゃないだろうか?
でなければ、打ち止めちゃんや、番外個体さんを身近なところに置いておく理由が分からない。
それに一方通行さんが昔から変わっていないならば、私を助けた理由も分からない。
命を張ってまで、私なんかを助けようとした理由が。
だから、



佐天「私は、私なりに一方通行さんを信じてみたいんです!!」



人に価値観を押し付けられるのではなく、自分の見方で。
“過去”を見るのではなく、“今”を見て。


259:2011/08/10(水) 15:42:52.90 ID:


御坂「……」


相変わらず、御坂さんは微動だにしない。
こんな話を私の口からするには、酷だったかもしれない。
それでも、御坂さんは友達でいてくれるだろうか?


御坂「……佐天さん」

佐天「は、はいっ!!」


今の私は、被害者の家族に加害者を許せと言っているようなものだ。
けれど、そんなことはもちろん自覚している。
割り切って考えることはできないし、しようと思ってもできるものではない。


佐天「……」

御坂「……ゴメン」

佐天「え? あっ!?」


そう言うや否や、御坂さんは病室を飛び出していってしまった。
止める暇もない。
それだけ、さっきの言葉は御坂さんを苦しめてしまったのだ。
御坂さんのことを考えている振りをして、自分のことばかり考えてしまっていた。
できれば、御坂さんと一方通行さんが仲直りしてくれればいいとも思った。
だけど、そんな未来は有り得ないのだろうか?


佐天「そんなのって……」


悲しすぎる。
だって、そうなったら私は、一方通行さんか御坂さんのどちらかを選ばなければいけなくなってしまう。
2人とも、あんなにもいい人なのに。
もしそうなったら、私は果たして2人のうちのどちらかを選べるのだろうか?
今の私には、到底分からない問いかけだった。


287:2011/08/13(土) 17:39:25.49 ID:


御坂「はぁっ、はぁっ……」


御坂美琴は、佐天の病室から逃げ出した。
途中で看護士に止められるのも構わず、走り続けた。
自然に行き着いた場所は屋上。
まだ本格的な寒さがきていないとはいえ、11月の空気はひんやりとしていた。
でも、そのくらいでちょうどいい。
今の自分は少しヒートアップしすぎている。


御坂「……っふぅ」


大きな息を吐いて呼吸を整える。
すると、次第に思考能力が回復してきた。
同時に、今までの自分がどれだけ冷静でなかったかも理解できた。

―――逃げ出してしまった。
佐天と向き合うこともせずに。
理由は、彼女の一言が胸に突き刺さったから。
だが、それは佐天と一方通行が師弟関係にあるからという問題だけではない。
もっと単純なこと。


御坂「私は―――」


落下防止用の柵に手をかける。
そうでもしないと体がふらついてしまう。
様々な思いが顔を出しては、次々と色を変えていく。
“困惑”、“疑念”、“恨み”、“怒り”、……そして“後悔”。
御坂の頭の中は混乱していた。
ガチャリと背後で屋上のドアが開いたのも気が回らないくらいに。
だから、最初分からなかった。


「ざまァねェな、オリジナル」


その声が誰のものだったか。


288:2011/08/13(土) 17:40:19.85 ID:


御坂「―――っ!!」


一瞬の間をおいて、その声の主を思い出し振り返る。
雪のように白い髪。
鋭く光る赤い瞳。
どう見ても一般人には見えない威圧感。
忘れられるはずがない。
なぜなら、その男は御坂にとって見たくもなかった相手。


御坂「一方通行……」


屋上の入り口には、杖をついた一方通行が立っていた。
悪夢の発端である“虐殺者”の男が。
首に包帯を巻いていることと、杖を突いていることが以前と異なっている。
さきほどの佐天の言葉がフラッシュバックする。


佐天『一方通行さんを殺してしまうところでした』


一方通行がダメージを受けているところを見て、やっと実感できた。
“あの”一方通行を殺しかけた。
それがどういうことを意味しているかを。
御坂の背筋に冷たいものが走る。


一方「…………」

御坂「…………」


一方通行は、それ以上言葉をかけてはこない。
対する御坂は、沸騰しそうになる思考をなんとか押しとどめていた。
もっとも、いつ飛びかかるか分かったものではない。
屋上にいる2人の間に緊張が張り詰める。
そこがいつ戦場になってもおかしくはなかった。


289:2011/08/13(土) 17:42:43.43 ID:


御坂「どういう意味か聞いてもいいかしら?」


先に沈黙をやぶったのは御坂だった。
感情を押し殺したような低い声が、彼女の口から漏れる。
怨念や憤怒といった感情が言葉からだけでも窺えるほどだ。
一方通行はというと、御坂ほど気構えている様子はない。
なんでもないような口ぶりで、こう続ける。


一方「どォいう意味も何も言葉の通りだろ」


一方通行の視線は、御坂美琴を捉えてはいなかった。
フェンス越しに、飛行船をぼんやりと眺めているようだ。
それが余裕のあらわれなのかどうなのかは分からない。
御坂美琴は、実験外の一方通行の素性をほとんど知らない。
それもそうだろう。
一方通行に出会うきっかけになったのが、あの実験だったのだから。


御坂「もしかして、おちょくってるのかしら?」


額に紫電が走る。
一方通行に電撃は通用しない。
それでも、この男にケンカを売られて買わない道理はない。
むしろ、こうして今も飛びかかっていないのが、不思議なくらいだ。
そんな御坂の反応にも関わらず、一方通行は続ける。


一方「目を逸らしてるンじゃねェよ」

御坂「なっ!?」


まるで、御坂美琴という人間を見抜いるかのように。
その一言は、まさに今の彼女の核心に関わるものであった。


290:2011/08/13(土) 17:43:36.75 ID:

御坂の心の中に渦巻いていたもの。
それは、佐天が一方通行と接近しているということ……がメインではなかった。
その事実よりも御坂の心に深く突き刺さっていたのは、


佐天『実は、私、さらわれちゃってたみたいなんですよ』


という佐天の一言。
もちろん、そのことに御坂美琴はなんの責任もない。
御坂の知らないところで佐天が巻き込まれたのであり、その事件の阻止、あるいは解決を彼女に求めるのは筋違いだろう。
しかし、そうは考えられなかった。
『目を逸らしてしまった』
佐天涙子から。
つまり、一方通行と同じ能力から。
それがどれだけ危険な能力で、どんな事件に巻き込まれるかといったことは想定できたはずだ。
学園都市で、一方通行と佐天涙子の2人しかその能力を持っているものはいないということも聞いた。
にも関わらず、そこで考えるのを止めてしまった。
注意を促すこともしなかった。
それ以上、過去の記憶を思い出したくなかったから。
だから、病室からも逃げ出した。
結局、目を逸らした。


御坂「あ、アンタは……」

一方「…………」


相変わらず、一方通行は御坂と目を合わせようとしない。
それなのに、御坂はこの男に全て見透かされているような感覚を受けてしまう。
だが、それ以上にこの男の狙いが読めない。
何が目的なのか?
一体、佐天涙子に何を見出したのか?
それが分からない。


御坂「どうして―――」

冥土帰し「一方通行」


御坂の言葉を区切るように、カエル顔の医者が屋上のドアを開けてあわられた。


291:2011/08/13(土) 17:44:18.52 ID:

一瞬、御坂がいることに驚いたようだが、気を取り直すと一方通行にこう告げる。


冥土帰し「検査結果が出た。おおよそ、予想通りのようだけどね?」

一方「そォか……」


ほんの一言、二言言葉を交わしただけで、会話が終わってしまった。
御坂には、何を話しているのか理解できない。
さきほど、佐天が検査をするといっていた。
それで悪い結果でもでてしまったのだろうか?
それほどまでに、時間が経過していたとでもいうのか?


一方「オリジナル」

御坂「…………あ」

一方「付いて来い」


それだけ言うと、一方通行は踵を返して出口へと向かう。
今の御坂の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
自分でも正常な判断ができているとは思えないし、どうすればいいかも分からない。
そんな状況に追い込まれてしまっていた。


冥土帰し「いいのかい?」

一方「コイツに説明した方が、色々とやり易いからな」

御坂「…………」


大人しく御坂は一方通行の後に付いて行くことにした。
この男が自分に見せたいもの。
それは一体何なのだろうか?
その時点では、まったく想像もできなかったし、そんなことを考える余裕もなかった。


292:2011/08/13(土) 17:45:13.39 ID:

連れてこられたのは、とある病室。
といっても、普通の病室ではなかった。
異彩を放っているのは、病室の真ん中に置かれた巨大な機械。
御坂はその機械に見覚えがあった。


御坂「これって……」


学習装置(テスタメント)。
“妹達”の資料でしか見たことはないが、そう呼ばれている機械にそっくりだった。
これが一体どうしたというのだろうか?


冥土帰し「それじゃ開けるよ?」

「はーい」

御坂「え?」


そこに誰か入っていたらしい。
いや、それだけで驚いた訳ではない。
御坂はその声には聞き覚えがある。


「ふーっ。この中って意外と暑いねえ」

御坂「佐天……さん?」

「ん?」


そこにいたのは、佐天涙子だった。
なぜ彼女が、学習装置などに入っているのか?
その答えはすぐに分かった。


完全反射「あ、超電磁砲かぁ! 私は、完全反射。お姉ちゃん共々よろしくね♪」


ここに御坂の混乱は最高を極めることになった。


293:2011/08/13(土) 17:47:06.36 ID:

御坂が冷静さを取り戻すのには、多少の時間がかかった。
今日だけでも、かなりの問題が彼女に降って湧いたのだから仕方もない。


完全反射「―――ってところかな」


今回の事件のあらましを完全反射から聞いている間も、ほとんど口を開くことはなかった。
想像してすらいなかった単語が、次々と出てくる。
原点超え(オーバーライン)。
樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)。
そして、完全反射(フルコーティング)。
佐天のここ数日が、どれほど凄まじいものだったかを示している。
『絶対能力進化計画』並みの過酷さだったのかもしれない。


御坂「そうだったんだ……」


そんな事件があったにも関わらず、御坂は何も知らなかった。
佐天が一方通行に能力開発をしてもらっているということを知ったのも今日だったのだ。
自分が目を逸らしたせいでこうなってしまったと、彼女は本気で思っていた。


御坂「ははは……。何やってるんだろ、私」

一方「…………」


一方通行は、屋上を出てから一言も話していない。
部屋に入った際に、カエル顔の医者から受け取ったデータをめくっているだけだ。
それでも、御坂の言葉は耳に入っているのだろう。
若干だが、苦々しい顔をしている。


御坂「……ありがとう」


その消え入るような言葉は、どこに、どんな意味で向けられたものだったのかは分からない。
だが、それは確実に少年に届いていた。


294:2011/08/13(土) 17:47:53.92 ID:


御坂「今回はアンタに預けるわ」


感謝の意を告げると、妙にさっぱりとした表情で御坂がそう続けた。
決して一方通行に対する“恨み”や“怒り”が消え去った訳ではない。
もちろん、自分でこの問題を解決したいし、それによって佐天を救いたい。
だが、御坂自身が知っていることは少なすぎる。
だから、まずは自分なりに情報を集めるところから始めなければならない。
そうすることで、佐天の安全を確保できればいいが、今は、一方通行の近くにいるのが一番安全であるという結論を下した。
自分では万が一の場合守りきれない、と。


御坂「それじゃ私は行くから」

一方「……待て」


部屋を出て行こうとする御坂を一方通行が静止する。
これ以上何か伝えることがあるのだろうか?


一方「佐天は俺が預かっていいンだな?」

御坂「……その方が安全でしょ」

一方「どォだかな……」


相変わらず、顔を逸らしたまま苦々しい顔をしている。
一方通行には、未だに御坂に対する罪悪感が拭いきれていなかった。
先ほどから目を合わせないのはそのためなのだろう。


御坂「佐天さんを守ってあげて欲しい。アンタならそのくらいの力はあるでしょ」

一方「……ンなもン答えるまでもねェな」


だから、はっきりと一方通行は御坂美琴に一言だけ告げた。


295:2011/08/13(土) 17:48:22.32 ID:










一方「断る」









296:2011/08/13(土) 17:49:10.64 ID:


御坂「え?」

完全反射「へぇ……」


一瞬、耳を疑う。
さっきまでの流れなら、「任せろ」とか「あァ」なんて返事が返ってくると思っていた。
しかし、実際に帰ってきた言葉は、「断る」の一言だけ。


一方「ある程度戦えるよォにはしてやる。だが、俺も暇人じゃねェからな。そこから先はアイツ次第だ」


突き放すように告げる。
今回は、あくまでサービス。
準備が整っていなかったから助けただけ、とでも言うように。


御坂「そんなの―――」

一方「ンなもンいつまでも面倒を見切れる訳ねェだろ。守れなかったときに、オマエから責められるのはゴメンだ」


今の彼には、守るべきものが多すぎる。
その全てを守りきれるかどうかは、彼にもわからないことなのだ。
それに、と前置きして一方通行は続ける。


一方「オマエの“友達”なンだろ。俺に頼るンじゃねェよ」


一方通行が苦々しい顔で放ったその一言に、御坂は何か感じるものがあった。
そうだ、自分は何を弱気になっているのだろうか?
それでも、学園都市が誇る超能力者の第3位か?
御坂は、心の奥に沸々と何かが燃えるものを感じていた。
ただし、それは屋上で一方通行に抱いたものとは意味合いが大きく異なる。


御坂「……そうね、そうだった。さっきのは忘れて」


それだけ言うと、御坂はその病室から立ち去ることにする。
結局、一方通行と御坂が視線を合わせることはなかった。


328:2011/08/17(水) 22:13:38.30 ID:

午後5時。
頭の精密検査を終える頃には、日も落ち始め、街灯に明かりがともり始める時間になっていた。
精密検査の結果はというと、まったくの異常なし。
人体に異常のあるレベルでの後遺症は見られないとのこと。


佐天「はぁ……」


そんな中、私はというと、病院のロビーで待ちぼうけをくらっているところだった。
一方通行さんと、コーちゃんの検査もすぐ終わるということで2人を待っているところなのだ。
夕方という時間帯もあり、病院にいる人は少ない。
面談の終了時間が近いということもあるのだろう。
ボーっとした頭で、病院を出て行く人を目で追いかける。
気分は果てしなくブルー。
数時間前に御坂さんに酷いことを言ってしまったからだ。
……これから私は、どうするべきなんだろう?
そんな問いが頭に浮かんでは、解決されずに消えていく。
もうずっとそんな感じだ。
ハムスターの滑車のようにくるくるくるくる回転しっぱなし。
こんなの私らしくないのは分かってるんだけど……。


佐天「どうすれば……」

完全反射「お姉ちゃーん」


声に反応して振り返ると、コーちゃんが近づいてくるのが分かった。
一方通行さんが一緒でないことを考えると、まだ時間が掛かっているのだろう。
コーちゃんは、きわめて明るい調子で私に近づいてきた。


完全反射「どうしたの? 何か悩み事?」

佐天「……うん。まあ、そんなところかな」

完全反射「相談にのろうか?」


同じ顔なのに対照的なテンション。
この悩みをコーちゃんに相談してもいいのかな?


329:2011/08/17(水) 22:14:23.28 ID:


完全反射「ま、学習装置で入力されたことくらいしか答えられないと思うけどね」


内容は決して軽くないはずなのに、サラッとそう告げるコーちゃん。
辛かったりはしないのだろうか?
そう思ったが、コーちゃんから力になってくれるって言ってくれたのだから断る理由もない。
そういう理由で断ってしまった方が、逆に傷つけてしまうかもしれないし。


佐天「……うん。実はね」

完全反射「うんうん」


いや、なんかこれは楽しんでる反応だ。
気を使ったのがバカみたいだ……。


佐天「実は、御坂さんに酷いこと言っちゃって」

完全反射「それって、『絶対能力進化計画』のこと?」

佐天「そ。一方通行さんのことをね……」


詳しい事情はコーちゃんも知っているので、そこから先は省いた。
それを察してくれたのか、「うーん」という可愛らしい声を出して唸っている。
こうして、相談できる相手がいるだけ私は幸せなのかもしれない。
御坂さんや一方通行さんには相談できないし、初春や白井さんなんてもっての他だ。
そうなると、自然にコーちゃんだけが頼りになる存在となる。
2人で考えれば、何かいい案も浮かんでくるかもしれないし―――


完全反射「さっき、超電磁砲と第一位が話してたけどそれは関係ある?」

佐天「な、なにぃ!?」


それは先に言っておいて欲しかった。


330:2011/08/17(水) 22:15:08.26 ID:


完全反射「お姉ちゃんをどう守るかって話だったっぽいんだけどね」

佐天「……ぁ」


御坂さんは、どうして一方通行さんと話をする気になったのか?
もしかして、私のせいだろうか?
私が、弱いせいで負担をかけてしまった?
憎い相手に会わせてしまった?
それじゃ私のしたことは……


完全反射「お姉ちゃんが気にすることはないんじゃない?」

佐天「え?」

完全反射「超電磁砲が勝手に接触しただけでしょ? 結局、2人が会うことに変わりはなかったんだよ」

佐天「そうかもしれないけど……」


2人がどんな気持ちで会話したかなど、私が分かるはずもない。
分かるのは、2人とも辛かっただろうということだけ。
なぜなら、自分の暗い過去をまともに見なければならなかったから。


佐天「そ、それで、結局どういう話でまとまったの?」

完全反射「んー……。それぞれの方法でお姉ちゃんを守るって話でまとまった感じかな」

佐天「……そっか」


一方通行さんは、一方通行さんなりに。
御坂さんは、御坂さんなりに。
つまり、2人は手を結んだとは言えないまでも、同じ方向を進んでくれたのだ。


佐天「って、私を守るってどういうこと?」

完全反射「ハハハ……。それ今更言うこと?」



331:2011/08/17(水) 22:16:34.56 ID:


佐天「あ、もうこんな時間か」

完全反射「うわっ、もう真っ暗じゃん」


さらに詳しい話をしているうちに、時刻は午後6時をまわっていた。
事件はまだ解決していないということ。
そのために、一方通行さんと御坂さんが立ち上がってくれたことなどを聞いていたのだ。
正直な話、私は2人にすごい迷惑をかけているんじゃないだろうか?


完全反射「だろうねえ~」

佐天「うっ……」


そのニヤニヤ顔でいうのは止めて欲しい。
こういうところは私っぽくない。
一体、誰の影響を……、って番外個体さんがこんな顔で笑ってたかも。


佐天「そういえば、コーちゃんは誰に頼まれて一方通行さんと戦ったの?」

完全反射「それは言えないんだよね。『言いたくない』じゃなくて、『言えない』」

佐天「? 知らないってこと?」

完全反射「いや、知ってるよ。でも、言えないの」


要領を得ない。
つまり、どういうこと?


完全反射「学習装置でそういう風にプログラムされてるからね」


なにげない一言に思わず息を呑む。
学習装置で頭に情報を入力したという話は聞いていたが、そんなことまでできてしまうのか。
そう考えると、目の前にいる自分そっくりの少女が、急に異質なものに見えた。


332:2011/08/17(水) 22:19:20.08 ID:


完全反射「お姉ちゃんの頼みだし、聞いてあげたいんだけどね」

佐天「あ、うん。変なこと聞いてゴメン」


いいよ、と気にした様子もなく首を横に振るコーちゃん。
その時、ちょうど病院のロビーには私たちしかいなく、2人とも口を閉じたため音が途切れた。
遠くの方で車の走る音がわずかながらに聞こえてくる。
あとは、受付の人が事務作業をしている物音くらいだ。
なんとなく気まずい雰囲気。


一方「待たせたな」

佐天・完全反射「「あ……」」


そんな静寂を破ったのは、後から来た一方通行さんだった。
杖を突きながらゆっくりと近づいてくる。
その後ろには、カエル顔のお医者さんも付いてきている。


冥土帰し「検査は全て終了。異常は特に見当たらなかったよ。少しは安心したかね?」

佐天「は、はい」

冥土帰し「君は、少し特殊な状況にいるからね? 病院で匿ってあげてもいいけど、一方通行と一緒にいた方が安全だろう」

佐天「はい。……え?」


前半は理解できた。
さっき、コーちゃんから聞いたばかりの内容だ。
私が狙われているということを、今更疑ったりしない。
もうさらわれた訳だし。
ただ、後半の方が……。


一方「心配すンな。黄泉川に話は通してある」


いや、そういうことではなく。


333:2011/08/17(水) 22:37:43.19 ID:


佐天「つまり……、一方通行さんのところに住め、と?」

一方「そォいうことだ」

完全反射「私もお世話になってるから心配はいらないよ。部屋の数はちょっと足りないかもしれないけど」


完全に想定外だ。
たしかにその方が安全だっていうのは分かるんだけど。


一方「オマエをある程度使えるようにしてやる」

佐天「え? ……使えるように?」

完全反射「戦えるようにするってことでしょ」


なるほど。
これからは、自分の身は自分で守れということか。
それに、能力開発の続きという意味もあるっぽい。
コーちゃんも一緒にやるのかな?


一方「そォいう訳だ。もォここには用はねェ。さっさと帰るぞ」

佐天「あ、はい」

完全反射「はいは~い」

冥土帰し「気をつけて帰るんだよ?」


カエル顔のお医者さんに別れを告げ、暗くなり始めた道を3人で歩き出す。
コーちゃんと一緒にはしゃいでいたため、去り際にカエル顔のお医者さんが言ったことは聞こえなかった。


冥土帰し「後、1週間しかないんだからね」


という一言を。


―――タイムリミットまであと1週間。

                       第五章『Is it over?(それぞれの戦い)』 完


349:2011/08/19(金) 23:26:47.71 ID:


佐天「何これ……」


3日間。
今までそれを長いと感じたことはなかった。
たった3日間では何も変わらない。
でも、能力開発を受けて、たった5日間でレベル2以上の能力を得られたことを考えれば、3日と言うのは、かなり長い期間なのではないかと思う。
何しろ、その5日間という時間の半分以上だ。
そう考えると、1日、1時間というのもバカにできない。
一方通行さんにお世話になってからそう感じるようになった。
なぜこんな話をしているのかというと、それにはもちろん理由があるからだ。
3日という時間が何を示しているかと聞かれれば、今の私はこう答えるだろう。
私がさらわれていた期間である、と。
話にしか聞いてはいなかったが、最後に見たカレンダーの日付から4日ほど経っていることを考えればそれは一目瞭然だ。
昨日は病院に泊まったので、さらわれていた時間はほぼ3日間ということになる。
ここまで、『3日』という言葉を強調してきたが、それがどんな意味を持つのか分かってもらえるだろうか?
そう。
この3日で、ある事柄が大きく変化してしまったのだ。
一一一の新曲が出たわけでもないし、誰かがケガをしたというわけでもない。
いや、まあ、私と一方通行さんはケガしたんだけど。
とにかく、それ以上の衝撃的な事実が、今、私の目の前で繰り広げられているのだ。


番外個体「こっち向いてよ、あーくん」

打ち止め「は、離れなさーい!! ってミサカはミサカは色々裏技を使ってみるけど、全然効果がない!? ち、ちくしょー」

一方「うぜェ……」


ソファーに座っている一方通行さんにもたれかかる番外個体さん。
それを引き剥がそうとしている打ち止めちゃん。
番外個体さんの頬はほんのちょっと朱に染まっている。
4日前には考えられなかったような光景だ。


佐天「な、何があったんだ……」


私は愕然としながら、そう1人呟いた。
後ろでコーちゃんが笑っていたらしいが、その時の私はそれどころじゃなかった。


350:2011/08/19(金) 23:27:58.01 ID:

あれは、30分ほど前のこと。
病院から黄泉川先生のマンションに到着したのは、午後6時半ごろ。
辺りはすっかり暗くなり、街灯が道を照らすような時間になっていた。
コーちゃんと他愛もない話をしているうちに到着したので、それほど歩いたという感じはしなかった。
エントランスからエレベーターを使い、部屋のある13階へ。
そこまでは、何の変哲もなく普通の光景。
異変があったのは、部屋のドアを開けた瞬間だった。
私がドアを開けた瞬間、何かが飛びかかってきたのだ。


番外個体「おっかえり~、あーくん」

佐天「えっ? ええっ!?」


番外個体さんだった。
「あーくん」って誰?
というか、なんで私は熱烈なハグをされてるの?


番外個体「あれ? あーくんじゃないじゃん」

佐天「……ナニコレ?」

完全反射「そういえば、お姉ちゃんは知らないんだっけ?」


番外個体さんは、私のことなんか見ていないで、誰かを探しているようだった。
まずは離れて欲しい。
なんとかコーちゃんに手伝ってもらって引き剥がす。
すると、番外個体さんは目当てのものを見つけたらしい。


番外個体「あ! あーくん見っけ!!」


視線の先には……一方通行さんしかしない。
『アクセラレータ』だから、『あーくん』?
番外個体さんって、『第一位』とか呼んでなかったっけ?
そんな疑問を解消する前に、番外個体さんが一方通行さんに向かって飛びかかった。


一方「……チッ」


それを見て軽く舌打ちすると、一方通行さんは首のチョーカーのスイッチを入れたのだった。


351:2011/08/19(金) 23:32:14.14 ID:

そして現在に至る。
はっきり言って、「どうしてこうなった」以外の言葉が浮かんでこない。
最後に番外個体さんを見たときには、布団にくるまっていたはずだ。
それがどうしてこうなる?


完全反射「それがねぇ……」


コーちゃんの話を要約するとこうだ。
私がさらわれて、まずは一方通行さんがコーちゃんから情報を引き出した。
敵の狙いやどこの研究所から来たか、などetc。
そして、いざ私の捜索に出発というときになって、番外個体さんが部屋から出てきた。
その時、開口一番言ったのが、「吹っ切れた」だそうだ。
そこから一方通行さんが抱きつかれ、押し倒されのコンボをまともに受けてしまったとか。
コーちゃんがいなければ、どうなっていたかも分からなかったらしい。


完全反射「あの時の第一位の顔は見ものだったよ」


ククク、と笑いながら言う。
どんな顔をしたのか激しく気になるが、一方通行さんの名誉のためにも聞かないことにしよう。
ともかく、それから番外個体さんの猛烈なアタックが始まったらしい。
打ち止めちゃんがいるもの気にせず、あるいは黄泉川さん、芳川さんの前でも色々したそうだ。


完全反射「まあ、主なところじゃ、抱きついたり、腕を組んだりって感じだけど」


むー。
なんかカチンとくる。
私がさらわれてたのに、話の上ではまったく慌てた様子がないからだと思う。
多分。


完全反射「どうだろうねえ?」


また、コーちゃんはクククと笑った。
何がそんなに面白いのか分からない。


352:2011/08/19(金) 23:34:34.12 ID:

番外個体さんを引き剥がしているうちに、黄泉川先生が帰宅したので、夕食にすることになった。
ちなみに、黄泉川先生には用事があってこられなかったということにしてある。
芳川さんは詳しい事情を知っているようなので、コーちゃんから色々と話をしたそうだ。
当人は、現在この場にはいない。
また、部屋で何やらやっているらしい。


黄泉川「それで、結局どういう用事だったじゃん?」

佐天「ハハハ……」


笑ってごまかす。
黄泉川先生は、気が回るのでこれ以上の詮索はしてこないだろう。
視線を逸らすようにコーちゃんの方に向いてみる。
すると、皿の上に乗った魚を突っついているところだった。


完全反射「それにしてもスゴイよねえ……」

打ち止め「何が? ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり」

佐天「いや、コレでしょ」


夕食は、例の炊飯器で作った魚の煮物。
どうやったら、炊飯器でこんな風に作れるんだろうか?
ちょっと気になる。


黄泉川「むしろ、ナベとかフライパンで作る方が難しいじゃんよ」

一方「それはオマエだけだ」


瞬時に突っ込まれる黄泉川先生。
「え? そうじゃん?」とまじめな顔で聞いてくるが、首を縦に振る以外の選択肢は思いつかなかった。
ここまで一言もしゃべっていない番外個体さんは、ずっと一方通行さんの方を見ていた。
……というか睨んでいた。
一方通行さんは気にしていないみたいだったけど。


353:2011/08/19(金) 23:36:21.25 ID:

妙に緊張した夕食を済ませ、リビングでくつろいでいると1つ重要なことに気づいた。


佐天「そういえば、着替えとかないじゃん」


前回泊まったときは1日だけということもあり、番外個体さんの服を借りたのだが、今回はそうもいかない。
何しろいつまでここにいるか分からないのだ。
そうなると、ずっと番外個体さんの服を借り続けるという訳にも行かない。
コーちゃんはどうしているのだろうか?


完全反射「私? 私は、研究所に置きっぱなしになってたのを持ってきて使ってるけど」


じゃあ、私も……って、サイズが微妙に違うんだった。
コーちゃんは私よりも胸のサイズが―――


完全反射「なんか失礼なこと考えてない、お姉ちゃん?」

佐天「き、気のせいじゃない?」


こういうときは妙に勘が鋭い。
しかし困った。
そうなると、一旦家に取りに戻るべきなんだろうけど、そういう訳にも……。
さすがに、ノコノコ出て行って2回も同じことを繰り返す訳にもいかないし。


一方「そンくらいなら取ってきてやる」

佐天「ええっ!? 一方通行さんが!? こ、困ります!!」

一方「あン?」


さすがに、下着なんかを男の人に持ってきてもらうのはどうかと思う。
一方通行さんなら、なんの反応もなく持ってきてくれそうだけど、それはそれでなんかプライドが傷つく。
色々とゴタゴタがあった結果、最終的には番外個体さんが取ってきてくれることになった。
本当にご迷惑をおかけします……。


354:2011/08/19(金) 23:38:48.27 ID:


完全反射「それじゃ、お風呂に入ろっか」

佐天「え?」


番外個体さんが出発してちょっとした頃、コーちゃんがいきなりそんなことを言いだした。
いや、お風呂はいいよ?
でも、私の着替えまだないんですけど。


完全反射「お姉ちゃん、ここ数日お風呂入ってなくない?」

佐天「んなっ!?」


言われて見れば。
今の今まで気にしていなかったが、さらわれていた期間、私はお風呂に入っていたのだろうか?
……入っていたらいたで嫌だけども。
視線を下に向けると、制服が少し破けていたり、埃が付いていたり。
どうしてこんな格好で気にならなかったのか不思議なくらいだ。
仮にも女の子なのに。


完全反射「それだけ汚れてれば、洗ってるうちに帰ってくるでしょ」

佐天「そ、それもそうかな?」

黄泉川「風呂はもう沸いてるから、先に入るといいじゃんよ」

佐天「あ、すみません」


ペコリと頭を下げ、脱衣所へと向かう。
そして、その後をコーちゃんが付いてくる。


佐天「……なんで付いてくるの?」

完全反射「一緒に入るからに決まってるじゃん」


黄泉川先生の口癖だよね、それ。


355:2011/08/19(金) 23:42:20.24 ID:


完全反射「ふっふふ~ん♪」


妙に上機嫌な口ずさみが、隣から聞こえてくる。
汚れた服を脱ぎ、脱衣ガゴに放り込んでから浴室に入ると、すでにコーちゃんがお湯につかっていたのだ。
一緒に入るっていうのは本気だったのか。
まあ、どうせ体から洗うから、先にお風呂入っててもいいけどさ。
諦めたように軽くため息をつき、浴室に入って頭からお湯をかぶると、まずはシャンプーで髪を洗い始める。
うわ、結構ボサボサになっている。
これはちょっとショックかも。


完全反射「いっそのことショートヘアにしちゃうっていうのは?」

佐天「う~ん。でも、ショートの方が手入れするの面倒だって聞いたことあるよ?」


「そうなの?」という気のない返事を軽く聞き流し、一度お湯で泡を流した。
これは何度かシャンプーをかけないとダメっぽい。
シャンプーに手を伸ばし、シャカシャカと再び頭を洗い始める。


佐天「でも、こうしてコーちゃんと一緒にお風呂に入るとは思わなかったなぁ」

完全反射「そうかな? 私はそんなことなかったけどー」


どう考えても初めて会ったときは敵という感じだった訳だし。
立ち位置的にはベジータ辺り?
一方通行さんが悟空だとすると、私はクリリンくらいにはなれてるのかな?


完全反射「いやいや。あの人が悟空なら、私は天津飯くらいだよ」


学習装置というものには、ドラゴンボールのデータが入力されているのだろうか?
研究者たちがどんなデータを入れているのかちょっと気になる。


完全反射「ふふ~ん♪」


相変わらず、浴室内にはコーちゃんの口ずさんでいる謎の曲が流れていた。


356:2011/08/19(金) 23:43:18.68 ID:


完全反射「それにしても、お姉ちゃんって胸大きいよね」

佐天「そ、そうかな?」


体を洗い終わり、コーちゃんと交代に浴槽に入るとそんなことを言われた。
脈絡がなくもない……のかな?
最後に測ったときは、確か79くらいだったはず。


完全反射「え? それならデータ上は私とそんなに変わらないはずなんだけど……」


こうして目測で比べてみると、たしかに私の方が大きかった。
ちょっとだけだけど。


完全反射「自覚なしか……」

佐天「たしかに、ここのところ胸が突っ張ってるような感じはしてたけど」


もにゅもにゅ。
あ、勘違いしないで欲しいけど、浮かんでるアヒルのおもちゃを触ってるだけですからね?
これは打ち止めちゃんのかな?


完全反射「いいよねぇ、お姉ちゃんは。これからも大きくなりそうで」

佐天「だ、大丈夫! コーちゃんもこれからだって!」

完全反射「く、くそぉ! 勝者からのお慰みなんていらないもんっ!」


理不尽にも、体を洗っていたスポンジを顔に投げつけられた。
ううう……。
こればっかりは私のせいじゃないと思う。


完全反射「同じDNAのはずなのに……」


そんなことをいいながら、胸に手を当てるのは止めて欲しい。
なんか私まで悲しくなってくるから。


357:2011/08/19(金) 23:45:32.62 ID:

長いお風呂を終え、浴室から出ると、番外個体さんはもう帰ってきていた。
カゴに置いてあった着替えを身につけ、リビングに戻ると、一方通行さんがテレビを見ているところだった。
他には誰もいないようだ。
番外個体さんはどうしたんだろう?


佐天「お先に失礼しました」


一声かけると、一方通行さんはテレビを消し、こちらに向き直った。
え? な、何?


一方「そう警戒すンな。これからの方針を話すだけだ」

佐天「は、はい」


顔に出やすいのか、ここのところ考えていることがバレすぎじゃないだろうか?
これでは、将来ポーカーはできないかもしれない。


一方「方針って大したもンじゃねェが、これからも能力開発を続ける」

佐天「え? あ、はい」


てっきり、安全を確保するための手段を講じるのかと思っていた。
それっぽい研究所を潰したりとか。
いや、それじゃ攻撃的すぎるか。


一方「能力開発と並行して、実戦訓練も始める」

佐天「実戦訓練?」

一方「ちょうどいい相手もいることだしなァ」


ちょうどいい相手……、ってコーちゃんのことだろうか?


358:2011/08/19(金) 23:48:29.27 ID:


一方「能力は使えるか?」

佐天「は、はいっ!」


意識を両手に集中させる。
よし。
ひじまで能力が使えるようになっているのは変わっていないようだ。
反射もきちんと適応されている。


一方「…………なるほどな」

佐天「な、何がですか?」

一方「いや、気にすンな」


こう言われて、気にならない人っていないと思う。
何かマズかった点でもあるのか気になる。
もう能力切ってもいいのかな?


一方「今日はどこまで維持できるか確認するだけにしとくか」

佐天「ま、またですか?」


たしかここに来た初日もそんなことをさせられた気がする。
維持するのも結構つらいんですけど。


一方「手ェ抜くンじゃねェぞ」

佐天「ど、努力します」


その後、30分ほど反射を維持することができて、その日は解散ということになった。
明日からは、どんなことをするのだろうか?
昨日から色々あってかなり疲れていたので、用意されていた布団に飛び込むように横になって意識を落とした。
人の家とは思えないほどぐっすりと眠れたことには、自分でも驚きだ。


376:2011/08/22(月) 22:10:55.43 ID:


「うおあああああああっ!?」

佐天「―――っ!?」


疲れてぐっすりと眠っていた私は、謎の悲鳴(?)によって目を覚まさせられた。
あわてて上半身を起こし、周囲で何が起こっているのかを確認する。
って、こんなこと前にもあった気もする。
以前と違うのは一点。
それは、隣で同じようにコーちゃんがきょろきょろしていることだった。


完全反射「あー、またかぁ……。こればっかりは慣れないなぁ」


苦笑いを浮かべながら、頭を掻くコーちゃん。
きっと、ここ数日の目覚ましもコレだったのだろう。
打ち止めちゃんと番外個体さんは別の部屋。
私たちが使っている部屋は、元々は一方通行さんの部屋だったらしいけど、一方通行さんがソファーを使うということで使わせてもらうことになった。
追い出すような形になって、ちょっと心苦しい。


佐天「っと、そんなこと考えてる場合じゃないか。さっさと着替えないと」


パパッと着替えを済ます私とコーちゃん。
見分けが付かないかもしれないということで、私が私服、コーちゃんが制服を着ることにした。
着替え中に一方通行さんが乱入してくるようなことはなかった。


佐天「ま、そんなに私のガードも甘くないもんね」

完全反射「どういうこと?」

佐天「まー、色々とね」


きょとんとするコーちゃんを尻目に、部屋を出て行く。
まずは、朝ごはんでエネルギー補給。
きっと、今日も激動の1日になるはずだ。


377:2011/08/22(月) 22:11:30.70 ID:

朝食は……まあ普通だった。
番外個体さんを除けば、だけど。


番外個体「あーくん♪」

一方「その呼び方ヤメロ。あとくっつンじゃねェ」

打ち止め「もーっ!!」


まだ、番外個体さんは直ってないみたいだ。
あれはもしかして、壮大な嫌がらせなのだろうか?
もしそうならば、時々こっちを見て睨むのを止めて欲しい。
黄泉川先生はニヤニヤしながら食事を取っているが、どう思っているのか気になる。


佐天「止めなくていいんですか?」

黄泉川「別にいいじゃんよ? 馬に蹴られて死にたくはないし」

完全反射「そんなまた……」

黄泉川「避妊だけはちゃんとすれば別に構わないじゃん」

佐天「ブッ!?」


思わず味噌汁を噴出しそうになる。
なんてことを言うんだ、この教師は……。
私の顔を見て、ニヤニヤしながらこんなことを言う。


黄泉川「んん~っ? 佐天はどうやって子供作るか知ってるじゃん?」

佐天「しっ、知りません!!」

芳川「セクハラよ、愛穂」


おや、珍しい。
めったに姿を現さない芳川さんの登場だ。


378:2011/08/22(月) 22:12:12.01 ID:


佐天「おはようございます」

芳川「あなたが佐天涙子ちゃん……でいいのかしら?」

佐天「そうです」


一度会ったことがあったはずだけど……。
って、そうか。
今はコーちゃんと一緒にいるから見分けがつかないのか。
そのまま、芳川さんはコーちゃんの方に目を向ける。


芳川「ふむ……」

完全反射「…………うぅぅ」

佐天「どうかしたの?」


芳川さんの値踏みするような視線から、私に隠れるように逃げるコーちゃん。
この2人にも、私が知らないところで何かあったのだろうか?
コーちゃんは、完全に芳川さんに苦手意識を持っているようだ。


完全反射(実は、ここに来てからちょっと絡まれてさ)

佐天(絡まれた?)


小声で耳打ちをしてくる。
しかし、コーちゃんに絡む芳川さんというのは、ちょっと想像しにくい。
というか、芳川さんとはそんなに話したこともないし、どんな人なのかも良く分かってはいないんだけど。
一体、どんな話をしたのだろうか?


完全反射(と、とにかく、あの人は苦手なんだよね……)


むぅ……。
どんな絡み方をしたんだろうか。


379:2011/08/22(月) 22:12:49.08 ID:

朝食を済ませると、黄泉川先生が出勤し、能力開発の時間となった。
打ち止めちゃんと番外個体さんを部屋から追い出すのに一悶着あったが、ここでは省略させてもらおう。
大体想像できると思われるので。
ともかく、そんな感じで午前9時ちょっとから、一方通行さんの講習が始まった。


一方「始めるぞ」

佐天「はいっ! お願いしまーす!」

完全反射「私は?」

一方「オマエはここにいろ。別にいなくても構いやしねェが、その方が手間が省ける」

完全反射「ほいほいっと」


仲良く2人でソファーに座る。
前回ってどこまでやったっけ?
たしか、“範囲”の授業で、両手に反射ができるようになったんだったかな?


一方「まずは、オマエの認識を改めることから始める」

佐天「はい? 認識を?」

完全反射「どういうこと?」

一方「コイツは『反射』よりも、『ベクトル操作』に適正があるみてェだからな」

完全反射「ああ。なるほどね~」

佐天「ベクトル操作?」


2人で勝手に納得しないで欲しい。
私たちの能力って『ベクトル操作』じゃなかったっけ?
『反射』よりも、『ベクトル操作』の方が向いてるって、つまりどういうこと?


一方「まずはその辺から説明するか」



380:2011/08/22(月) 22:13:21.93 ID:

一方通行さんの説明によると、“ベクトル操作”の能力の使い方には、主に2種類あるらしい。
それが、『ベクトル操作』と『反射』。
『ベクトル操作』は攻撃的なもので、『反射』は防護的なものだと簡単に説明された。
なんだか、分かったようで分からない感じだ。


一方「樹形図の設計者が出した答えだ。間違いはねェだろォな」

完全反射「だねぇ。私は、『反射』の方が得意だけど」

佐天「つまり『ベクトル操作』ってどういうことができるんですか?」

一方「風操ったり、物を飛ばしたり……、まァ大抵のことはできる」


風の操作の方は実感があるが、それ以外となるとまだピンとこない。
大抵のことができるって言われてもねぇ……。


完全反射「それで、どうやってお姉ちゃんの能力開発をするつもりなの?」

一方「今までと基本は変わらねェ。簡単に理論を説明して、後は実践するだけだ」

佐天「が、がんばります」


ともかく、今までの『反射』から『ベクトル操作』を主軸とした能力開発をするということなのだろう。
覚えることはたくさんあるが、自分の身を守るためにも頑張らねばなるまい。
気合を入れていこう。


一方「それじゃァまずは―――」

佐天「は、はいっ!」

一方「反射の使い方の復習からだな」


んんっ?
違うことやるんじゃなかったの?


381:2011/08/22(月) 22:13:59.71 ID:


一方「反射を使う際に重要な3つのポイントは覚えてるだろォな?」

佐天「えっと、“強度”、“範囲”、“種類”ですよね?」

一方「そォだ」

完全反射「へぇ……。感覚でやってたけど、確かにそうかもねぇ」


コーちゃんも結構アバウトだな。
よくそれで一方通行さんに対抗できたものだ。


一方「ベクトル操作の基本もそれと大体同じだ」

佐天「え? そうなんですか?」

一方「ただ、考え方が多少変わってくる」


その異なる部分が、『反射』と『ベクトル操作』の違いなのだそうだ。
『ベクトル操作』の基本要件は3つ。
“種類”、“範囲”、そして“方向”。
この3つを正確に実行することが、ポイントということだ。


佐天「“強度”じゃくて、“方向”ですか……」

一方「『ベクトル操作』と『反射』で一番違うのは、そこじゃねェけどな」

完全反射「え? そうだっけ?」

一方「あンまり意識はしねェけどな」


じゃあ、どこが一番違うんだろう?
“範囲”か“種類”?


一方「一番の相違点は“手動”ってことだ」


ええっ!?
まさかの4つ目!?


382:2011/08/22(月) 22:14:34.34 ID:


一方「『反射』は、一度張っちまえば、設定をイチイチ変える必要はねェ。だが、『ベクトル操作』は違う」

佐天「ふむふむ」

一方「基本的には、種類の指定、操作範囲の指定、操作方向の指定というプロセスを踏んで能力が発揮される」


何を操作するか決めて、それをどれだけの量、どっちに向かって操作するかという順序があるそうだ。
なんかこれだけを聞くと、反射より全然難しそうなんですけど……。
ちゃんと使えるかな?


一方「心配すンな。慣れればいちいち考える必要もねェし、手順を省略することもできる」

佐天「ええっと……」

完全反射「例えば、目の前からすごい勢いでボールが飛んできたらどうする?」

佐天「そりゃ避けられれば、避けるけど」

完全反射「端的に言えば、それと同じことなんだよね」

佐天「???」


つまり、ボールが飛んでくるという『危険の認識』。
ボールを避けるという『行動の決定』。
そして、実際に避けるという『行動の遂行』という3つのプロセスをする必要があるということだそうだ。
『ベクトル操作』を使うときにも同じ順序で考える必要があり、まずは、操作するベクトルの種類の指定が始めに来る。
次に、どれだけの量のベクトルを操作するかという種類の指定、そして、それをどちらの方向に操作するかという手順を踏む。
この一連の流れの計算に失敗すると、ベクトルの操作に失敗してしまう。
先ほどの例では、飛んでくるボールに対して、避けようという動作が思いつかなければ、ボールの直撃を受けてしまう。
また、思いついても行動に移せなければ、同じ結果になってしまう。


一方「要するに、能力のONとOFFがきっちり区別される」

完全反射「反射の場合は、ONにしたらそのままで良かったんだけどね」

佐天「はぁ……」


ということは、演算に失敗したら直撃するってことだよね?


383:2011/08/22(月) 22:15:07.18 ID:


完全反射「そんな不安そうな顔しなくても心配いらないと思うよ?」

佐天「え?」

完全反射「実際に必要なのは感覚だし。テキトーにやってみれば、案外簡単にできるもんだって」


随分と簡単に言ってくれるじゃん。
私はそこまで楽天的には―――
いや、まあ、たまにはなるかな? うん。


一方「まァ、今のオマエなら『反射』だけでも十分戦えるだろォな。実戦経験があればだが」

佐天「『反射』だけでも……」

一方「昨日見た感じじゃ、レベルは3強ってところかァ?」

完全反射「4にはいってない感じかー」


レベル3?
私が?
マジですか?


一方「まず、オマエに『ベクトル操作』を使えるよォにしてやる」

完全反射「そしたら、私との実戦訓練ってことになるね」

佐天「わ、分かりました!」

一方「時間もねェし、さっさと始める」

佐天「え? あ、はい!」


時間がない?
まあ、確かにさらわれてからじゃ遅いけど、一方通行さんにはまた違った焦りがあるような気もする。
気のせいかな?


419:2011/08/27(土) 22:49:11.92 ID:


佐天「それで、何から始めるんですか?」


『反射』の授業では1つ1つ積み重ねでやっていったけど、『ベクトル操作』の場合は?
全部1つの流れでやるということらしいから、最初から実践訓練かな?
あんまり自信ないなぁ。


一方「最初はこれからだ」


そう言って、一方通行さんが取り出したのはピンポン玉。
特に変わったところは見当たらない。
それをどうするんだろう?
素手で卓球をやれとか?


一方「コイツを真上に打ち続けてもらう」

佐天「素手でですよね?」

一方「当たり前だ」


でも、それって結構簡単じゃない?
能力使わなくても出来そうな気がするけど……。
すると、そんな怪訝な顔をしている私をみて、コーちゃんがこう言った。


完全反射「で? まだ続きがあるんでしょ?」

佐天「え?」


いや、まあそりゃそうか。
ま、目をつぶってとかじゃなければ―――


一方「目をつぶってやってもらう」


マジですか……。


420:2011/08/27(土) 22:49:42.60 ID:


一方「そンなには難しくねェから安心しろ。真上に打ち上げられりゃ、多少の誤差があっても修正できるはずだ」

佐天「いや、でも、いきなりそれはレベル高くないですか?」

完全反射「んー、そうでもないんじゃない?」

佐天「いやいや」


そりゃコーちゃんはある程度できるからでしょー。
あんまりハードルを上げないで欲しいんだけど……。
できないと恥ずかしいし。
というか、まだベクトル操作とかできるか分からないもん。


完全反射「だって、風を操作する方が何倍も難しいよ?」

佐天「え? ま、またまたー。そんなはずないでしょー?」

一方「いや、ソイツの言う通りだ」


一方通行さんが補足する。
風の操作は、カオス理論の絡む複雑な計算式が必要なんだとか。
それを少ない範囲であるとはいえ、操作できる時点でそこそこのベクトル操作はできて当然なのだそうだ。
一番の問題は、それを私が認識できていないこと。
能力を使う上で重要なのが『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』。
それを強固なものにするのが、自分に能力が使えるという『認識』という訳。
この2人の話も、そういう意味では能力開発をしていると言えるらしい。
薬も電極も使っていなくても、だ。
そう言われてみれば、「私にもできるんじゃないか?」とか思えてくる。


完全反射「ね? できそうでしょ?」

佐天「た、確かに……」


自分でも単純だと思えなくもないが、周りの人に簡単だと言われるとそう感じてしまうことは良くあること。
目隠しをしたまま、ピンポン玉を真上に打ち続ける。
元々、風操作ができているだけに、このような心理状態になってしまえば、あとはどうなったかお分かりだろう。


421:2011/08/27(土) 22:50:25.46 ID:


打ち止め「おっひるだよーん、ってミサカはミサカは部屋に突撃してみたりー」


お昼になったところで、打ち止めちゃんと番外個体さんが昼食を作って部屋に入ってきた。
午前中の成果は上々。
私に『ベクトル操作』というものがどんなものかを染み込ませるための開発は、無事成功したと言ってよかった。
先生方の評価は、


一方「方向の指定がまだまだ甘ェけどな」

完全反射「2,3回落としたもんね」


2人の求める水準はちょっと高すぎるんじゃない?
いつボールが落ちてくるか分からないから、緊張しっぱなしだったし。
でも、分かったことが1つ。
一方通行さんの言っていた種類の指定、操作範囲の指定、操作方向の指定というプロセスはそこまで難しくはないということ。
もちろん、正確にやろうとすれば難易度は格段に上がるが、そういったことを気にせずやる分には問題はなさそうだった。
というか、番外個体さんは一方通行さんにくっつき過ぎ。
部屋に入って、即、一方通行さんの隣を陣取っていた。


番外個体「見てみて~。これミサカが作ったんだよ~」

一方「うぜェ……」


何かを言おうとして止める。
こういうときなんていえばいいのか分からない。
「離れて」とか「くっつき過ぎです」とか?
なんか私が言うのもおかしい気もするし……。
そんなことを考えているうちに、一方通行さんが自分で番外個体さんを引き剥がしていた。
コーちゃんがそっちではなく、私を見て笑っていたのにはちょっと納得いかない。
昼食は、番外個体さんが作ったという焼きそば。
ナスが入っていたのがちょっと気になったが、なかなかおいしいかったのは事実だ。


一方「午後は実戦訓練をする」


こんなことを言うのはなんだけど、一言くらい番外個体さんに感想を言ってあげてもいいと思う。
まあ、相手が誰でも絶対言わないんだろうとは思うけど。


422:2011/08/27(土) 22:51:08.65 ID:

バタバタとした昼食が終わり、午後には実戦訓練ということでリビングにあるテーブルやソファーなどを部屋の端に寄せることから始まった。


佐天「それで、具体的に実戦訓練って何するんですか?」


手を動かしながら、一方通行さんに質問する。
『実戦訓練』という意味合いからも、多少手荒なイメージが先行してしまう。
殴り合いとかじゃないといいんだけど。
っていうか、このリビング広っ!?
テーブルとソファーどかしたら、かなりのスペースできたんですけど!?


一方「外で実際に戦うのが手っ取り早いンだが、まずは下準備だな」

佐天「“まず”!?」

完全反射「うわっ!? あぶなっ!! いきなり手離さないでよ、お姉ちゃん!!」


つまり、最終的には外で誰かと戦うってこと!?
思わぬ発言に、コーちゃんと一緒に運んでいたソファーから手を離してしまった。
ドスンといい音がして床に落ちる。
危うくコーちゃんの足の上に落ちるところだった。


一方「その為にも効率的な戦闘訓練をする」

佐天「ダメだ、聞いちゃいねぇ!!」


どんどん話を進める一方通行さんについていけない。
この前まで普通の女子中学生だった私はついていけない。
しかし、一方通行さんやコーちゃんはまったく動じていない。
それどころか、部屋の中の家具を動かすのを手伝ってくれていた打ち止めちゃんすら涼しい顔だ。
なんだか疎外感。


一方「オマエの生存率を上げるためだ。這い蹲ってでも付いて来い」


分かっていたことだけど、一方通行さんの方針はスパルタすぎる気がする。


423:2011/08/27(土) 22:51:45.22 ID:

家具を大体移動し終えて、広いスペースを確保できると、


一方「よし、それじゃかかってこい」


などと意味の分からないことを一方通行さんが言い出した。
かかってこい……?
それって、どんな日本語だったっけ?
んんっ?
もしかして、殴りかかって来いって意味?


佐天「えーと、誰が?」

一方「オマエに決まってンだろォが」


「誰のための訓練だと思ってるンだ」と怒られた。
いや、私のための訓練だっていうのは理解してるつもりですよ?
でも、首にあるチョーカーのスイッチまで入れてるのはなぜなんでしょうか?
完全にやる気まんまんじゃないですかー。
スパルタってレベルじゃない。
悟空がヤムチャをイジメるレベルの虐待だと思う。


打ち止め「さ、さすがにそれはやりすぎだと思うかな? ってミサカはミサカはあなたのやる気に若干引いてみたり」

番外個体「そこに痺れるぅ!」

完全反射「いやいや、ないでしょ」


外野もこっちの見方っぽい。
ブーイングを受けている一方通行さんと言えば、大きなため息をついている。


一方「オマエらちっとは考えろ。全力で殴りあっても、俺なら全部威力を相殺できンだろォが」

佐天「あ」


レベル5になると、そこまで可能なのかっ!


424:2011/08/27(土) 22:52:12.75 ID:


完全反射「そんなことまでできるんだ」

一方「まァな。1人相手ぐらいなら余裕だろ」

佐天「す、すごい……」


ただ単に反射するだけでは、殴った側にダメージが発生してしまう。
しかし、一方通行さんは、そういったダメージすら与えないように威力を相殺するというのだ。
正確に言うと、相殺じゃなくてベクトルの分散らしいけど、あんまり良く説明はしてくれなかった。
というか「できないだろ」みたいに鼻で笑われた。
ちょっと悔しい。


一方「納得できたンなら、さっさとかかって来い。能力使える時間も無限じゃねェンだ」

佐天「は、はい!」


見よう見真似で構えを取ってみる。
ボクシングのファイティングポーズってこんな感じだったかな?
なんだか自分でも違和感のある構えです。


完全反射「ちょっと重心が高いよ、お姉ちゃん」

佐天「え? あ、うん」


重心が高い?
分かったフリしたけど、よく意味が分からない。
そもそも、重心って何?


一方「オマエは膝が伸びきった状態ですぐに行動に移せンのか?」


どうやら「膝を軽く曲げておけ」という意味だったらしい。
だったら、そう言ってくれればいいのに。


425:2011/08/27(土) 22:54:23.15 ID:

そんな感じで、実戦訓練以前の問題だったので、戦闘のための基本事項から状況判断などの行動マニュアルから叩き込まれることになった。
正直なところ、覚えることが多すぎて、ちゃんとできるかどうかちょっと怖い。
それでも、夕方になるまでにはなんとか形にしていった……と思う。


一方「まだまだだなァ……」

佐天「ぬぅ……」

完全反射「素人にいきなり周囲に気を配れって言っても無理でしょー……」


一方通行さんの求めるレベルが高すぎるのだが、コーちゃん的には及第点らしい。
私の戦闘スタイルは、「近づいて攻撃したら、すぐに相手から離れる」というヒットアンドアウェイというものにさせられた。
なんでも、私の防御力には心配な点が多すぎるとのことで一撃離脱方式の方がリスクが少ないのだとか。
構えはそのままでいいとのことだったのだが、拳は握らず手刀で戦闘を行うようにといい含められた。
戦うときは、常に腕周りに『反射』を適応させておき、攻撃の瞬間にだけ『ベクトル操作』に切り替える方針をとった結果だ。
それだと、能力を使える時間は限られてくるが、とっさのときにダメージを受ける確率が下がるとのこと。
ちなみに、


佐天「武器は持っちゃダメなんですか? 前はバットとか使ってたんですけど」


と聞いたら、「いつまで無能力者の気分でいるんだバカ」的なことを言われた。
『ベクトル操作』という能力を持った時点で、人も殺せるくらいなんだからと脅された。
もっとも、一方通行さんの過去を知っているだけに、笑うことはできなかったが。


一方「今日はこのくらいにしておくか」

佐天「あ、ありがとうございました」


夕食前にお開きになったのだが、その時点でもうかなりヘロヘロな状態。
以前の能力開発は、頭だけのものだったのに比べ、今日からは実戦訓練が追加されたことで、肉体的なきつさもある。
ただ、リアルに強くなっているという実感が得られているような気はする。
実際に、動きはまだまだ素人に毛の生えた程度だが、戦闘スタイルができたことで生存率は格段に上がっているのだとか。
そこまで急激に強くなってるのかって聞かれたら微妙だけど。


426:2011/08/27(土) 22:55:33.41 ID:

黄泉川先生の帰宅を待って夕食をとると、昨日と同じようにコーちゃんとお風呂に入って疲れを癒した。


佐天「だーっ、疲れたー!!」

完全反射「これからはこんな毎日になるんじゃない?」


部屋のベットに倒れこむと、隣にいたコーちゃんがくすくすと笑ってそう言った。
でも、それが事実なのだから現実は残酷だ。
明日からは、午前中に能力開発。
午後に実戦訓練を行っていくと通告されたのだ。
初日だけでいっぱいいっぱいなのに、これから私は果たして耐えられるのだろうか?


佐天「うー……」

完全反射「マッサージしてあげよっか?」

佐天「うん、お願いー」

完全反射「オッケー」


うつ伏せになった私に跨るコーちゃん。
背中からマッサージを始めてくれる。
これはかなり気持ちいいかも。
しかし、それでも不安の種は消えない。


佐天「こんな調子で大丈夫かな、私」


ぽつりと弱音を吐く。
こんなの私らしくないと思うけど、それくらい先が見えない。
まるで、初めて能力を得られたときのような感覚。


完全反射「んー。ま、大丈夫じゃない? お姉ちゃんだし」

佐天「あはははっ。なにそれ~」


根拠のない励ましだったが、その一言だけでかなり軽くなった気分だった。


455:2011/08/30(火) 23:21:24.15 ID:

【幕間】


「お、おい! 例の計画は大丈夫なんだろうな!?」


薄暗い部屋の中には2人の男がいた。
片方は、白衣を着た中年の小柄な男。
そしてもう1人は、いかにも軽薄そうな若いピアスをした男が向かい側に立っている。
慌てているのは、ピアスの男。
白衣の男は、体が何十センチも沈みそうなソファーに悠然と座っている。
どうやらその場所は白衣の男の自室のようだった。
暖炉や鹿の剥製など、如何にもな装飾が部屋の到る所に施されている。
白衣の男は、変わらない調子でピアスの男を見据えこう続ける。


「計画にはなんの支障もない。慌てる必要がどこにある?」

「んなこといってられる状況かよ!? アンタ現状わかってんのか!?」


ピアスの男の興奮は治まらない。
今にも白衣の男に掴みかからんばかりの剣幕だ。
何しろ状況が状況だ。
計画は早くも失敗しかけ、それどころか自分たちの命まで危うい。
しかし、ピアスの男は白衣の男に怒鳴りかかってはいるが、焦っているようには見えない。
この逆境をひっくり返せるだけの秘策があるのか、または―――


「くそっ! 俺はもう降りさせてもらう!」

「今更そんなことができると思うのかね?」

「ああ。できるさ」


今まで余裕な顔色だった白衣の男の眉が少しつりあがった。
ピアスの男が、室内に飾ってあった猟銃に手をかけたのだ。
銃口を白衣の男に向けながら、震える手で引き金に指をかける。


「こ、これで俺は見逃してもらえる」


顔には引きつったような笑みが浮かんでいた。


456:2011/08/30(火) 23:22:43.46 ID:


「止めておいた方がいいぞ」

「うるせえ!!」


白衣の男の制止に耳を貸さず、ピアスの男は引き金を引いた。
その瞬間、ドンという大きな音が室内に響く。
しかし、白衣の男は倒れない。
今までと何も変わらず、涼しい顔をしていた。
それもそのはずで、銃弾は白衣の男を襲っていなかったからだ。


「がっ……」


逆に、ピアスの男が崩れるように床に倒れこむ。
床にはおびただしい量の血液が、水たまりのように広がっていった。


「ふん。この部屋の銃には鉛が詰めてあるというのに」


鉛が詰められた銃の引き金を無理やり引いたため暴発したのだ。
白衣の男を狙った猟銃が、ピアスの男自身を襲ったことになる。
だが、ピアスの男はまだ生きているようだ。
かすかながら息をしている。


「しぶとい男だ」


裏切ったピアスの男を生かしておく理由もない。
白衣の男はポケットから短銃を出すと、床に倒れているピアスの男に銃口を向けた。


「あの世で計画の成就を願ってくれたまえ」


そう言って、容赦なく引き金を引いた。
その途端、銃が暴発し、白衣の男の手首から先が吹き飛んだ。


457:2011/08/30(火) 23:25:26.18 ID:


絹旗「まさかコメディ映画とは超予想外ですね。良作の臭いがプンプンします」


佐天が一方通行と共に能力開発をしている頃、一度行ったら二度と行けないような奥地にある映画館に1人の少女がいた。
絹旗最愛。
元『アイテム』の構成員で、暗部が解体されてからは新『アイテム』の一員として行動している少女だ。
現在は、新『アイテム』に所属しているとはいえ特にすることもない。
今までのように、電話の女から命令されることもなくなっていた。
だが、行ってもいないロシアの事後処理で、ここ数日かなり忙しい日々を送っていた。
『アイテム』中で唯一ロシアに行きそびれた彼女は、腹いせに浜面を殴ることでストレスを解消していたのだが、それも限界にきた。
ストレスの限界といっても、映画にいけないという禁断症状のようなものだと思ってもらえればいい。
見たい映画があるのに、それを見に行くこともできず、その結果、いくつも良作の気配が漂う作品を見逃してしまっていた。
もっとも、彼女の選ぶ映画が良作である確率は、それほど高い訳ではないのだが。
そんな彼女は、現在映画のパンフレットを片手にワナワナと震えていた。
見ていたのは「地獄のマッドサイエンティスト」という今時そんなタイトルないだろというほどC級映画の臭いが漂う作品。
今日の映画の記念すべき1本目だ。
最初のうちはシリアスなシーンが続いていたのに、気が付けばコメディな内容に変わりつつあった。


絹旗「と思ったら、今度はまた超シリアスなシーンですか」


画面から緊迫感がピリピリと伝わってくるような場面に差し掛かる。
かと思えば、またオチはギャグテイストで締めるという監督が酔ったまま書いたような脚本であった。
絹旗は思わず大きなため息を吐いた。


絹旗「もう先の展開も読めちゃいましたし、超駄作決定です」


そこそこ大きな声のひとり言を発する。
他に客がいないのをいいことにやりたい放題できるのが、この映画館の利点の1つでもある。
そのあとも、シリアスなんだかコメディなんだか分からないような内容が続いて、その映画は終わっていった。


絹旗「軸が超ぶれ過ぎですねえ。あれがシリアスな笑いってやつでしょうか?」


今見た映画の感想を口に出すと、今まで持っていたパンフレットを隣の席に置き、次に上映されるパンフレットを手に取った。
映画館の座席に深く座って足をパタパタと動かしている様子は、遊園地に向かう車にのった子供のようにも見える。
暗部に浸かっていた彼女も、未だ12歳の少女なのだ。


458:2011/08/30(火) 23:27:08.45 ID:

2本目の映画は『異種生物世界一決定戦』というタイトルで、吸血鬼やら宇宙人やらゾンビやらがプロレスのリングで戦うというものだった。
吸血鬼が狼男にブレーンバスターを極めていたのは、妙にシュールな画だった。


絹旗「超純粋な肉体勝負ってことなんですかね?」


1本目よりは期待ができそうだと、絹旗の直感は告げていた。
だが、あらかじめ買っておいたMサイズのジュースを一口飲んだところで、館内に誰か入ってくるのがわかった。


絹旗(超珍しいですね。私以外に分かってる人がいるなんて)


仲間がいると分かり少しうれしくも思ったが、やはり他の人がいると勝手気ままにできないというのはデメリットだ。
一緒に見るという選択肢もあるが、好みが異なると、また面倒くさいことになる。
つまり、浜面程度の分かってない人間を連れてくるのが正解なのだろう。
自分の面白いと思っているものが、他の人にも認められるとうれしいものなのだ。
一方で、一緒に見る相手として映画の感想をポツポツといってしまう絹旗は最悪な部類に入る。
良いことを言っている内はまだいいが、細かいところを突いた痛い一言を隣で言われると、途端に一緒に見ている側も冷めてしまう。
この悪癖を治さないと、彼女の趣味を理解してくれる人物を見つけるのには苦労するだろう。
閑話休題。
館内に入ってきた人物は、すぐには座席に座らなかった。
映画に集中していたので、特に注意を払ってはいなかったのだが、どうやら映画が目的ではないらしい。


絹旗(ってことは目的は私ですか。超面倒くさいことにならなければいいんですけど)


スクリーンでは、ゾンビ対透明人間というマッチが行われていた。
やけに血色のいいゾンビがパントマイムをしているようにしか見えない。
場面が進む間に絹旗を発見したのか、侵入者は大きな足音を隠す様子もなく近づいてきた。
その人物が絹旗の手の届く範囲まで来ると、何も言わずに隣に腰掛ける。


絹旗「映画館では超静かにしてください」

「相変わらずだねえ、絹旗ちゃんは」


と、聞き覚えのある声が隣の席から聞こえてきた。


459:2011/08/30(火) 23:28:17.72 ID:

今日は鬱憤を発散すべく一日中映画館に引きこもるつもりだった。
好きな映画を飽きるほど見るという最高の日になる予定だったのだ。
しかし、今、絹旗の隣にいる人物はそんな最高の気分をぶち壊すには十分な人物だった。


絹旗「今更あなたが何の用ですか?」

黒夜「つれないねえ」


黒夜海鳥。
かつて絹旗と同じく『暗闇の五月計画』の被験者だった少女。
2人は、一方通行の思考の一部を無理やり植えつけることで、能力の向上を図るという実験を受けたのだ。
しかも、同じ窒素を操作するという類似点もあった。
だが、2人は明確に区別される。
それは、一方通行の防護性に特化したのが絹旗ならば、攻撃性に特化したのが黒夜という点が大きく異なる。
『反射』の演算パターンを元に窒素を身に纏うという絹旗。
『ベクトル操作』の演算パターンを元に窒素を操作し、槍という武器にする黒夜。
根本は同じ能力であったにも関わらず、2人の能力の方向性はまったく異なるものとなっているのだ。
黒夜とは、『暗闇の五月計画』が破棄されてから会っていない。
それがなぜ、今になって絹旗の目の前に現れたのだろうか?


黒夜「ちょっと絹旗ちゃんに仕事を手伝って欲しいと思ってさ」

絹旗「お断りします」


即断。
理由は簡単。
黒夜海鳥は、実験の後、絹旗と同じように暗部に身を置いていた。
その黒夜から、こんな時期に持ちかけられる話で自分に得となるような話であるはずがない。
せっかく暗部から抜けられたのに、また学園都市の闇に戻るつもりはサラサラなかった。


黒夜「仕事内容は、一方通行と浜面仕上について」

絹旗「―――っ」


この一言を聞いてしまうまでは。


460:2011/08/30(火) 23:29:39.82 ID:


絹旗「それで、一体どういう内容ですか」

黒夜「まあまあ。そう慌てんなよ、絹旗ちゃん」


結局、2本目の途中で映画館を後にし、近くの喫茶店に入ることにした。
他に客もいないため映画館の中でも良かったのだが、絹旗が話に集中できないということで移動したのだった。
こちらの喫茶店も特に繁盛しているようには見えない。
周囲に目配りすると、黒夜が続きを話し始めた。


黒夜「仕事って言っても、そんなに複雑なことじゃない。ただ単にある『部品』を守るだけなんだよねえ」

絹旗「はい? それが一方通行や浜面と何の関係があるんですか? 超意味不明なんですけど」

黒夜「そいつは単純明快な話。一方通行がその『部品』をぶっ壊しに来るんだよん」

絹旗「んなっ!?」


注文したアイスコーヒーのストローを噛みながら、なんでもないように言う黒夜。
だが、その一言が何を意味するか分からない訳ではないだろう。
何しろ、一方通行を敵に回すほどの『何か』が学園都市にはあるのだ。
しかも、それを守るということは、真っ向から一方通行と敵対しなければならないことを意味する。


絹旗「超正気ですか?」

黒夜「勝算はある。けど、100%じゃない」

絹旗「……私がそこに必要だと?」


黒夜は元々群れるタイプの人間ではなかったはずだ。
それが、こうして絹旗を頼りにしてくるということは―――。


黒夜「いや、私の生存率を上げるため」

絹旗「オトリ!? 私を超オトリにする気ですか!?」


461:2011/08/30(火) 23:31:42.45 ID:

何事かと顔を出してきたマスターに手を振って応えると、絹旗は若干冷静さを取り戻した。
そう単純な話ではないだろう、と。
だが、


黒夜「ま、せいぜい頑張って盾になってくれ」

絹旗「……それで私が手伝うって言うとでも?」


あまりにも酷い扱い。
一方通行を打倒する要という訳でもなく、ただ単に自分の生存率を上げるために協力して欲しいと言っているのだ。
絹旗には、一方通行に対する因縁もあるので、確実に一泡吹かせられるという確証を得られるのなら協力してもいいかと思ったのだが、これでは話にならない。
2人で瞬殺されてTHE ENDだ。
しかし、黒夜の提案と違い、話はそう単純ではないらしい。


黒夜「絹旗ちゃんが協力しなくちゃならない理由は逆さ」

絹旗「逆?」

黒夜「その『部品』を守らないと、浜面仕上が狙われることになるんだからねえ」

絹旗「……あの超バカなだけのチンピラが狙われるような理由でも?」

黒夜「心当たりはないのねえのか? ん? 絹旗ちゃん」


心当たりはある。
ここ数日で嫌というほど関わった『素養格付(パラメーターリスト)』。
学園都市の闇に深く関わり、だからこそ、浜面仕上が生き残れた交渉材料。
あれがあるからこそ、絹旗たちアイテムは解放されたのだ。


絹旗「……超詳しい話を聞かせてもらいましょうか」

黒夜「そうこなくちゃねえ」


かくして、絹旗最愛は再び闇に踏み込むこととなる。
今度は、彼女が『アイテム』を守るために。


462:2011/08/30(火) 23:32:09.33 ID:









―――その翌日、学園都市が回収した全ての「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」の残骸が眠る施設に大能力者が2人配置された。








479:2011/09/04(日) 22:35:31.25 ID:

一方通行さんのところに戻って4日目の午前中。
この日まで、私は近接戦闘の基礎や簡単な組み手を行ってきたが、今日から次のステップに移ることになった。


一方「次のステップは外で実戦訓練だ」

佐天「ええっ!? もう!?」

完全反射「うん。いいんじゃない?」


階段を5段飛ばしくらいにして今日まで来たが、今回はまた10段くらい階段を一気に登っている気がする。
昨日、初めて一方通行さん以外を相手に、コーちゃんと組み手をしたばかりだというのに。
ちなみに、コーちゃんとの組み手では、うまく力を合わせてくれたので、一応形にはなっていたような気はする。
反射同士が触れ合うと相殺されるという特性を活用して、攻撃を受け流したり、うまく寸止めしたりって具合に。
コーちゃんは全身に反射が適応できるのに対して、私は両手だけしか反射ができないので、いっぱいいっぱいだったけど。


一方「具体的には、暴走能力者やスキルアウトなンかと戦ってもらう」

佐天「ちょ、ちょっとまだ早すぎません?」

完全反射「そいつらいちいち探すの? 時間かかんない?」

一方「ウチにはそンなやつらばっかり相手にしてるやつがいるだろォが」

完全反射「あー。黄泉川に頼んで、警備員についていくのか」

佐天「スルー!?」


分かっていることではあったけど、こういうときには何を言ってもやらされるハメになるんだよねー……。
でも、暴走能力者とかスキルアウト相手ってすごく危険なんじゃ?


完全反射「大丈夫、大丈夫。昨日の感じなら、よほどのことがない限り死にはしないから」

一方「だそうだ」


つまり、よほどのことがあったら死ぬってことだよね?
かなり不安なんですけど。


480:2011/09/04(日) 22:36:12.88 ID:


一方「いいか? 実戦訓練をやっておかなきゃならねェ理由は2つある」

佐天「2つ? 1つは……経験を積むためですよね? 実際に戦うとなったときに体が固まったりしないように」

一方「そォだ。もう1つは、戦いながら相手を分析するためだ」

佐天「分析?」


実際の戦闘の際に重要なのは、相手がどういう能力(あるいは武器)を持っていて、その敵の実力がどの程度の力なのかを測ることなのだそうだ。
どんなにすばらしい能力、武器を持っていても、それを扱うのが実戦経験もない普通の子供だったら、倒すのは容易い。(一方通行さんはそうでもなかったらしいけど)
逆に、弱い能力、武器を持つ相手であっても、それの特性を活かし、常に自分の力を最大限に発揮する人間は強い。
それを見誤って、相手を表面上で判断してしまうと、大怪我につながりかねないということだ。
また、これにはもう1つ利点がある。
それは、実際に戦うか、逃げるかといった判断材料にもなる。
その時々の状況にあわせて、本当に戦うべきなのか、あるいは、逃げるべきなのかを判断しなければならない。
特に、相手が高位能力者の場合や殺傷可能な武器を持っている場合には、この判断が重要になってくる。
だから、戦っている最中に相手の力量を測ることは、自分の生存率を高めるにつながるのである。


一方「もっとも、今から行くところじゃ『逃げる』なンて選択肢はねェけどな」

佐天「ですよねー」

完全反射「でどうすんの? 素直に黄泉川に話しても、連れて行ってくれるとは思えないんだけど」

一方「心配すンな。こいつを使う」


トランシーバー?
それって……


一方「こいつで警備員の無線を傍受すりゃ位置は分かンだろ」

佐天「ほ、本気ですか?」


警備員が向かうってことは、そこにいたら一緒に捕まっちゃうんじゃ……。


一方「制限時間は、警備員のやつらが到着するまでだからな」


そんなに簡単に言わないで欲しい。


481:2011/09/04(日) 22:36:59.49 ID:


佐天「一方通行さん」

一方「……なンだ」

佐天「……これどうするんですか?」


無線の傍受を始めて、わずか5分後、最初の事件がさっそく発生した。
第10学区のコンビニにて、強盗が入ったとのこと。
能力、武器の有無は不明。
始めはこんなもんだろと現場に向かったのは良かったのだが、


一方「まさか、もう警備員が到着してるとはなァ」


到着したときには、すでにコンビニは包囲されていた。
なんか、もう突入して事件解決じゃない? という雰囲気が漂っている。
さすがに、私たちがこの包囲を破って突入するのは無理がある。
私たちというのは、一方通行さんとコーちゃんと私の3人だ。
打ち止めちゃんと番外個体さんはお留守番。


一方「警備員舐めてたわ。この早さは異常じゃねェの?」

佐天「……で、どうするんですか?」

完全反射「これじゃ、他のところでも無理なんじゃない?」

一方「そォだな……」


珍しく当てが外れたというような顔をして、辺りを見回す一方通行さん。
黄泉川先生は別の現場にいるようだ。
近くには見当たらない。


一方「付いて来い」

佐天「え?」


そう言って、一方通行さんが向かったのはとある細い路地だった。
何するつもりなんだろ?


482:2011/09/04(日) 22:38:11.50 ID:

何も言わずに、一方通行さんを先頭に私、コーちゃんの順番で路地を進む。
事件の起こっている現場からはどんどん遠ざかっていた。
かと言って、黄泉川先生のマンションに向かうようなルートでもない。


佐天「一方通行さん。こんなところで―――」

「だ、誰だ!!」


何をするつもりなのかを尋ねようとした瞬間、前の方から声が聞こえてきた。
一方通行さんとは明らかに違う声色の男みたいだ。
こんな入り組んだ細い路地で何をしているんだろう?


一方「2人か。まァ、練習にはちょうどいいだろ」

佐天「は、はい?」

完全反射「どうやら、強盗のお仲間さんっぽいね」

佐天「は? マジで?」


強盗の主犯の逃走を手助けするためにいるサポートの男が2人。
2人は、逃げるべきか取り囲まれたもう1人を待つべきか悩んでいる。
そんな時、一方通行さんは首筋に手を当て、チョーカーのスイッチを入れると、その2人に背を向けるようにこちらを向いた。


一方「ヒントぐらいはくれてやるから1人でやってみろ」

佐天「え、えぇー……」


ちらりと奥を見ると、臨戦態勢に入った2人が懐から警棒を取り出す。
ん? あれ?
どう見ても、威圧感が一方通行さんより薄い。
これならなんとかなる……かも?


佐天「や、やってみます」


というか一方通行さんが怖すぎるだけだったり。


483:2011/09/04(日) 22:38:54.69 ID:


一方「ってワケだ。オマエら程度、このガキ1人でお釣りが来ンだろ」

佐天「ちょ、挑発しないでくださいよ!」


一方通行さんと立ち位置を入れ替える。
そうすることで、私が2人の前に立つことになった。
見たところ、2人の体格はそれほどいいという訳ではない。
1人はサングラスをかけ、もう1人はニット帽をかぶっている。
武器を持っているところを見ると、無能力者なのだろう。
また、挑発されたにも関わらず、2人の顔には笑みが浮かんでいた。


強盗A「ハッ! 違いねえ! そこのお嬢ちゃんは上玉だしなぁ!」

強盗B「そんなモヤシ野郎じゃなくて、俺たちと楽しいことしようぜぇ!」

佐天「あ、すみません。タイプじゃないんで」

完全反射「うわー、直球……」


つい、うっかり素で返してしまった。
正直、2人のサングラスとニット帽はないわ。
どうみてもセンスが悪いし。


強盗A「ふ、ふざけんな!!」

強盗B「舐めやがって!!」


当然、そんな反応を返されて、2人が黙っている訳もなく、一直線にこちらに向かってくる。
動きは一方通行さんよりも全然遅いが、模擬戦とは違い、「殴られれば痛い」という当たり前の事実の前に足が竦んでしまう。
2人が、どんどん近づいてくる。
どうしよう。
どうすれば?


一方「とりあえず、反射使っとけ」


私は、反射的にその言葉に従った。


484:2011/09/04(日) 22:40:03.10 ID:

腕に反射を適応させる。
これでひじから先はダメージを受けることはない。
2人の男がさらに近づいてくる。
前にいるサングラスの男は、既に警棒を振りかぶっている。
―――よし、間に合う。
腕で頭を庇うようにガードを固める。


強盗A「がぁっ!? て、手がぁっ!?」


振り下ろされた警棒は、私にダメージを与えることはなかった。
代わりに、サングラスの男の手首が青黒くなり、警棒を取り落とす。
抵抗しない私を前に、振り下ろす威力を弱めたのだろう。
でなければ、骨折していてもおかしくはなかったはずだ。
ともかくこれで1人目。
ここ数日の模擬戦闘で、ある程度まで体を動かせるようになっている。
それを実感できる一合だった。
これなら行けるかも!


一方「30点」

佐天「……き、厳しい」


どう反応すれば良かったんだろう?
後ろにいたニット帽の男に目を向けると、一度私たちから距離を置いていた。


強盗B「ッチ、能力者か」

佐天「まだまだ見習いですけどね!」

一方「相手に余計な情報やるンじゃねェよ」

強盗B「どんな能力を使ったか分からねえが、頭を庇ったってことはそこは弱点なんだろ?」

佐天「げっ」


あっさりばれてしまった。
点数低い理由はこれか。


485:2011/09/04(日) 22:41:06.91 ID:


強盗B「こいつでお前の能力ごとぶち抜いてやる」


ジャキという音と共に取り出したのは……拳銃!?
いや、それはマジでやばいですから!!
日本でそんなの携帯していいはずないでしょ!?
というか、警棒の次が拳銃ってどうなの!?


一方「さァて問題です」

佐天「こんなときに!?」

一方「この場合、どォいう対応をすればいいでしょォか?」

佐天「それを今ここで!?」


全身に反射を適応できない。
拳銃の弾の速度に対応できない。
この2つの時点で、どう考えても詰んでいる。
導きだされる答えは私の死。
そうならないためにも、なんとかしなければならない。


強盗B「くらえ!」


引き金が手をかけている。
もう時間がない。
パニクっている時間すらない。
こうなったら―――


佐天「てぇぇぇえええええええい」

完全反射「なぁっ!?」


両手を前に突き出し、ニット帽の男に突撃!
ちょっと距離あるけど、なんとか―――
その瞬間、ガァンという耳を劈く大きな音が路地裏に響き渡った。


486:2011/09/04(日) 22:42:01.62 ID:


強盗B「がぁぁぁっ!!?」


私が分かったのは、男の拳銃が爆発したことだけ。
どうやら、弾を反射して、それが拳銃に命中したっぽい。
拳銃が爆発して発生した破片が、ニット帽の男の手に突き刺さり血を流している。
もう戦えるような状況ではないはずだ。
かなりヒヤッとしたけど、これで2人目も撃破。


佐天「ど、どんなもんだい!」

一方「50点」

完全反射「危なすぎ。死にたいの?」


辛辣なコメントを頂きました。
でも、さっきよりは点数上がってる。
ここまで命張っても50点とか。


一方「そっちを見てみろ」


ついと指を指した方向には、サングラスの男が倒れていた。
手には、警棒が握られている。
それもさきほどとは逆の手に。


佐天「あ……」

一方「片手を潰したくれェじゃまだ甘い。戦闘不能にするまで安心はすンな」


そういいながら、ニット帽の男にも一撃を加え気絶させる。
先ほどまで痛みに苦しんでいたうめき声がまるで嘘のように大人しくなってしまった。
流れるような手際に、思わず見ていることしかできない。
これが、実戦経験の差なのだろうか?
ともかく、これでなんとか終わり―――


一方「こいつらを引き渡したら次行くから休憩しとけ」


……にはならないようだ。


487:2011/09/04(日) 22:43:40.57 ID:


一方「何が悪かったか分かるか?」

佐天「えーっと……」


なんとか生き残れはしたものの、かなりギリギリのラインだった。
下手したら、ヤバいケガをしててもおかしくない。
というか、いきなり拳銃を出すとかどんだけ……。


一方「まず、サングラスのやつは、防御じゃなく攻撃で迎撃するべきだった。動きも単調だったしなァ」

完全反射「“頭が弱点”ってバレちゃってたしねぇ」

一方「それに、戦闘不能にしてなかったのは大きなミスだ」

佐天「う……」


そんな余裕なかったし。
ビビっちゃって足が動かなかったのはダメだよなぁ……。


一方「次にニット帽は―――」

完全反射「無茶しすぎ!! あれじゃいくつ命があっても足りないよ!」


怒られた。
やっぱり結果オーライじゃやっぱりダメだよね。


一方「その場に固まってたり、後ろに下がるって選択肢よりはマシだ。前に出た分だけ、手に当たる確率は高くなるからな」

佐天「あー……」

一方「ああいう時は、物陰に隠れるか何かを盾にするのが正解だ」


そ、それでも良かったのか。


488:2011/09/04(日) 22:44:17.76 ID:


一方「そろそろいいだろ」

佐天「や、やっと終わり……」

完全反射「おつかれ~」


その後、もう2件ほど事件を(裏から)手助けして、今日の能力開発は終了した。
最初ほど危ない場面は起きなかった。
やっぱ、拳銃を使うのが異常なんだって。
というか、もうこれって能力開発ってレベルじゃないと思うけど!?
……いや、能力の使い方を学んでるって意味じゃ能力開発か。
最近、一方通行さんの考え方に近づいているような気がして怖い。
今は、3人で黄泉川先生のマンションに向かって帰っている途中だ。


一方「後は、場数を踏んで判断能力を上げれば、そう簡単に死ぬことはなくなるはずだ」

佐天「まだやるのかぁ……」


思わず戦々恐々。
でも、今日戦った人数は4人だったけど、その全員を倒せるような実力を持っていることに私自身が一番驚いていた。
つい、2~3週間前は普通の女子中学生だったのに、だ。
能力者になったという実感がやっと持てた気がする。


一方「能力に溺れるなよ? あンま人のことはいえねェけど」

完全反射「なんでも、覚え始めが一番危ないんだからね?」

佐天「う……。……はい」


自分の両手を眺めていると、見透かされたように苦言を呈される。
能力が能力だけに、暴発してしまうと自分の命が危ないのは重々承知している。
その扱いには慎重にならなければならない。
でも、


佐天「能力者かぁ」


そう呟かずにはいられなかった。


489:2011/09/04(日) 22:45:14.97 ID:

その日の夜。
騒がしい夕食を終えると、一方通行は今日のダメ出しをこれでもかと言うほどしてやった。
時間がない中で、佐天は良くやっている方だと思う。
しかし、今の力では彼女自身の身を守れるかどうかは分からない。
レベル3クラスの能力者ならなんとかなるかもしれない。
だが、レベル4クラスが相手になると、まだまだ経験不足と言わざるを得ない。
そのことを十分に理解させるための実戦訓練。
今日は高位能力者の相手はいなかったが、拳銃を持った相手というのを経験できたのは大きい。
これから攻め込まねばならないところは、そんな敵ばかり出てくるようなところなのだ。


一方「さすがに駆動鎧(パワードスーツ)相手には苦戦するだろォけどなァ」


黄泉川家の住人が寝静まった頃、一方通行はリビングのソファーで横になって1人呟く。
今では、そこが彼の寝室であり、ベットになっていた。
とはいえ、眠るために横になっている訳ではない。
視線を天井からテーブルへと移し、そこにある携帯電話へと目を向けた。
それを計ったかのように、静まり返った一室に携帯電話の呼び出し音が鳴り響く。


一方「今日も時間通りか」


一方通行は、ある人物から電話が掛かってくるのを待っていたのだ。
ゆっくりとした動きで、携帯電話を手に取る。
ディスプレイには、予想通りの人物の名前が表示されていた。


一方「もしもし」

冥土帰し『こんばんは、だね? 一方通行』

一方「今日も『変化なし』だ」

冥土帰し「そうかい?」


カエル顔の医者からの電話。
内容は、完全反射の様子について。
ここ数日まったく同じやり取りから始まり、終了していた。
少し違ってくるのは、この後、少し気になる点を向こう側からいくつか尋ねてくるという程度であった。
―――今日までは。


490:2011/09/04(日) 22:45:55.59 ID:


一方「―――って感じだ」

冥土帰し『ふむ。まだ問題はなさそうだね? そのまま目を離さないように頼むよ?』

一方「他に用がねェなら切るぞ」


いつもなら、ここで会話は終了し、電話を切る。
それ以上こちらから話すことは特にないからだ。
しかし、今日は違った。


冥土帰し『こんな状況だと、君はあの時を思い出すかい?』


意味深な問いかけに、一瞬眉をひそめる。
こういった余計な会話をするのはあの医者らしいが、少し何か違った雰囲気を感じる。
もっとも、このような無駄な会話に正直に答えてやる義理はない。


一方「……さァな」

冥土帰し『色々な意味であの時と同じ状況だから、仕方ないかもしれないけどね?』

一方「今日は随分とおしゃべりだな」


この医者の何でもお見通しという口調が気に喰わない。
脳裏にかすめたのは、1つの転機。
自分が黒から灰色へと変わったある夜のこと。


一方「用がねェンなら切るぞ」

冥土帰し『今日は、こちらかも君に伝えたいことがあるんだけどね?』

一方「…………見つけたのか?」


一方通行は、その一言だけ冥土帰しに問いかけた。


491:2011/09/04(日) 22:47:08.84 ID:

一方通行から冥土帰しに頼んでいた内容はただ1つ。
黒幕の現在の居場所の探索だ。
佐天が連れ去られたとき、自分1人の力では彼女を探し出すことができなかった。
ましてや、佐天の能力開発をしながらの捜索では、相手の尻尾を掴むこともできないだろう。
そこで、カエル顔の医者に黒幕の居場所をつきとめてもらうことにしたのだ。


冥土帰し『正確に言うと、探し出したのは僕じゃないんだけどね?』

一方「……超電磁砲か」

冥土帰し『その通り』


たしかに、人間1人を探すことに関しては、一方通行よりも御坂美琴の方が優れているかもしれない。
それにその男は、自分と同様に御坂の恨みの対象でもあることになるのだから、どれほど気合が入っていたかは測り知れない。


冥土帰し『だが、問題が1つ』

一方「もったいぶってンじゃねェ。結論だけ完結に言え」

冥土帰し『研究所が2つ見つかったんだ。おそらく、片方はダミーなんだろう』

一方「分かってンなら調べりゃいいじゃねェか」

冥土帰し『そうしたいのは山々だが、戦力が足りない。ハズレを引いたら、また逃げられるだけだからね?』


なるほど、と一方通行は頭の中で呟く。
つまり、御坂美琴1人では両方を叩ききれないから、自分が出て行って潰して来いという意味なのだ。
なんとも回りくどい言い回しをしてくれる。


一方「御託はいい。場所はどこだ?」

冥土帰し『察しが良くて助かるよ。場所は、第7学区の桐生バイオテクノロジー研究所と第23学区の宇宙資源開発研究所だ』

一方「で? 俺はどっちを潰せばいい?」

冥土帰し『君は、第7学区の方を頼む』

一方「ハッ! そこの研究員もついてねェな」



492:2011/09/04(日) 22:49:26.97 ID:

その後、攻め込む時間の話を少しだけした。
たった5分足らずの会話だけで、第7学区の研究所の命運は決定したようなものだ。
それだけ一方通行は、圧倒的な戦力を誇っている。


一方「そンなところだろ。切るぞ」


要件は全て終わり、通話を終了しようとした時だった。
カエル顔の医者は一方通行に、ある疑問を投げかける。


冥土帰し『彼女たちはどうするつもりだい?』

一方「…………」


『彼女たち』というのは、もちろん佐天涙子と完全反射の2人のことだ。
この2人を連れて戦場に向かうという選択肢などあるはずがないのだが、


冥土帰し『いざというときに、君が近くにいなくて大丈夫かい?』

一方「…………」

冥土帰し『期限まではまだ2日あるが、以前だってそれで痛い目を見たんだろう?』

一方「……そォだったな」


痛い目を見た記憶。
それは、一方通行が最も深刻なダメージを負った過去。
学園都市最強の超能力者にそんな外傷を与えたのは誰か?
上条当麻?
木原数多?
答えはNO。
エイワスでも、ましてや番外個体でもない。
その男はただの人間だった。
能力者ですらない。

男の名前は“天井亜雄”。

量産型能力者計画(レディオノイズ)計画及び絶対能力進化計画に加担していた男である。


493:2011/09/04(日) 22:50:26.89 ID:


冥土帰し『彼はミサカネットワークの構築にも1枚噛んでいた。あまり舐めてかからない方がいいね?』

一方「分かってる。油断はしねェよ」

冥土帰し『それならいいんだ』


一方通行が天井の存在に気づいたのは、佐天に樹形図の設計者を付け、自分の前に姿を現したときだった。
レベル5クラスの研究成果を自分を殺害するために投入する。
どう考えても、一方通行への恨みがある人間の仕業とみて間違いない。
わずか3日という期間では、まともに実験することもできなかっただろう。
それほどに作り出したレベル5に自信があり、また、逆に一方通行を恐れていたことになる。


冥土帰し『ああ、そうだ。君に1つ注文だ』

一方「まだあンのかよ?」

冥土帰し『彼も僕の患者だ。殺すことは赦さないよ?』

一方「お優しいことで」


そのまま通話を終了し、携帯をテーブルの上に戻す。
決戦は明日、午前9時。
万が一の場合に備え、今のうちから佐天たちをどうするかを検討しなければならない。

そう。
特に、完全反射が敵となった場合の処置を。


―――完全反射の頭に埋め込まれたウイルス発動まであと2日。


                       第六章『Change(新しい認識)』 完




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