514:2015/08/11(火) 20:29:02.21 ID:



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◇Chapter.6 涼宮ハルヒのアタッチメント◇
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D 0.337187%
2010.08.12 (Thu) 11:45
秋葉原 牛丼専門さんぽ

ハルヒ


515:2015/08/11(火) 20:30:34.31 ID:
翌日は逆に晴天の霹靂が起きたのかと思うくらい非日常的現象はその影をひそめた。ひそめただけで俺の隣に這いよる混沌と化していただけだが。

ハルヒは相変わらず阿万音さんの父君を訪ねて三千里に熱を入れており、午前中はいつものクジ引きで2班に別れた。

そんな折、岡部さんのケータイから古泉のケータイに電話が入った。橘京子の時もそうだったが、コイツには知らぬ間に重要人物と連絡先を交換する特技があるらしい。

話によると、なんでもピンバッジ捜索の礼として飯をおごってくれるというのだ。

人に飯をおごってもらうなんて俺にとっては僥倖もいいところだが、それはそれとして岡部さんとはもう少し色々話をしたかったので俺たちは誘いに乗ることにした。

……この店、実は一度来たことあるんですよね、とは言えなかったのであった。


516:2015/08/11(火) 20:33:33.88 ID:
キョン「いやあ、なんだか申し訳ないです」

岡部「何を言う。お前たちをこれ以上タダ働きさせていたらラボメンNo.001としての沽券に関わるからな」

古泉「では、お言葉に甘えて」

キョン(この人はたしかに岡部さんだ。軽口だって俺たちの知ってる岡部さんそのものだ。だが、どこか雰囲気が違う……。なんというか、老け込んだ?)

キョン「父親捜しの件ですが、うちの未来人による未来的身辺調査は上司からNGが出たらしく、やっぱり足で探すしかないみたいです」

キョン(いったいどんな基準で査定してるんだか)

岡部「そうか……。残念だが、未来人にも都合があるのだろう。当たってもらってすまないな」

古泉「それで、僕たちを呼びつけた本当の理由をお教え願えますか」

岡部「……実はな、機関に属する少年と、魔眼の能力<チカラ>を擁するお前たちに、IBN5100のことで相談があるのだ。本当はお前らを巻き込みたくはないが……」

古泉「奇遇ですね。僕たちもそのことで丁度お話がしたかったところです」

キョン「まぁ、乗りかかった舟です。俺たちでよければ」

岡部「その前に説明しなければならないのは……、俺は。……8月13日から昨日11日へと48時間を……!」

岡部「“タイムリープ”してきたッ!!」

キョン「やっぱりそうでしたか」

古泉「推理が当たるとやはり嬉しいものです」

岡部「……やはり簡単に信じるのだな、お前たちは」フッ


517:2015/08/11(火) 20:35:36.53 ID:
岡部「もう数えるのを諦めるほどにタイムリープしている。そこで得た情報を整理すると、IBN5100はエシュロンを通じてSERNのサーバーに捕縛されてしまった俺のDメールの情報を削除するために必要らしい」

キョン(この間俺に言いかけてたIBN5100の使い道か。そんなことにホントに使えるのか?)

岡部「まぁ待て。最後まで話を聞け。SERNはIBN5100でしか解析できないプログラミング言語で機密を暗号化している。ゆえにIBN5100の入手が前提となる」

岡部「SERNにハッキングなどできるのか、だと? 心配するな。俺の友人にはスーパーハカーがいる。我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>こと、ダルだ」

岡部「ではDメールデータを削除して何がどうなるか、というと、どうやら世界線を大きく移動できるらしい。今俺たちが存在しているα世界線のアトラクタフィールドを脱出できるほどの、今まで経験したことが無い大変化だ」

岡部「アトラクタフィールドというのは……なに、もう知っている? それならば話が早い」

岡部「さて、ではなぜα世界線のアトラクタフィールドを脱出しなければならないかという話だが……。理由は二つある」


518:2015/08/11(火) 20:37:40.07 ID:
岡部「一つは、α世界線では将来的にSERNがタイムマシンを完成させてしまい、世界中のあらゆる技術やら情報やら人間の思想やらをその過去改変能力を用いて統制下に置くらしい。いわゆるディストピアだ」

岡部「例のDメールデータの削除によって、SERNがタイムマシンを完成させる未来が回避できるらしい。理屈はよくわからんが、これによって世界線を大きく移動、ディストピアの無いβ世界線へと改変できるというわけだ」

岡部「鈴羽がジョン・タイターだということは昨日伝えたな。アレはどうやら反SERN組織のメンバーで、要は世界平和のために動いているらしい」

岡部「あいつは明日あの人工衛星のような見た目のタイムマシンに乗って、1975年へIBN5100を確保しに行く。そうして俺たちに未来を託そうとしているわけだ」


519:2015/08/11(火) 20:39:38.47 ID:
古泉「大丈夫ですよ、僕らはお話についていけています。そんな不安げな顔をなさらないで」

キョン「まぁ、突然タイムトラベルだなんだと言われて驚いてるのは確かですが、Dメールの過去改変を取り消した俺たちですから」

岡部「なかなかどうして無鉄砲な逞しさじゃないか。俺は少し、臆病になってしまったのかもしれない……」


キョン「これはそのまま信じていいんだろうか。岡部さんが嘘を吐いているという訳じゃなくてな、情報源はおそらく阿万音さんなんじゃないかと思うんだが」ヒソヒソ

古泉「阿万音さんが岡部さんに嘘を吐くメリットも無いと思います。それに、一応話の筋が通っている。取りあえず全面的に信じてみましょう」ヒソヒソ


古泉「それで、二つ目の理由をお聞かせ願えますか」

岡部「……わかった。言おう」

岡部「この世界線から脱出しなければならない理由の二つ目……。それは……」



岡部「まゆりが……ッ! 椎名まゆりが……、死んだ……、いや、これから死ぬからだ……ッ!」



古泉「!」

キョン「……死?……マ、マジでかッ!?」


520:2015/08/11(火) 20:43:34.96 ID:
キョン(確かに俺たちはSOS団として色々な事件や困難を乗り越えてきた)

キョン(俺に至っては朝倉に2度も殺されかけたし、長門も天蓋領域にかなりヤバいところまで追い詰められた。古泉に至っては日常的に命がけだ。朝比奈さんだって病原菌だらけの池に飛び込んだりした)

キョン(何より、暗黒の十字架に磔となったハルヒの姿は、今でさえ思い出すだけで九曜と藤原をぶち殺したくなる)

キョン(だが、こんなにも揺るぎない死の宣告を“過去形で”突き付けられたことは、今の今までなかったんだ……)

キョン(耳を疑う話に俺は色を失った)

岡部「まゆりは、俺の幼馴染だ。かつて俺は、あいつをどこにも行かせないと誓ったんだ……」

古泉「……あなたは、椎名さんの死を目撃するたびにタイムリープを繰り返したのですね」

キョン(岡部さんの雰囲気が昨日の昼頃のソレと変わっていたのはそういうことか……)

岡部「……そうだ。どんなに過去を改変しようとしても、世界が結託してまゆりを殺しにかかってくる……」

キョン(何度試しても、大切な人の命を救えず、死ぬ……。どれほどの無力感か、俺には到底計り知れない……)

岡部「まゆりの死の回避のために、お前たちに相談しこともあったが、ダメだった……結果はすべて悲惨なものとなった……」

キョン「お、俺たちに頼んでダメだった……? えっと、具体的には何が起こって……?」

岡部「……知らないほうがいい」

古泉「まさに『タイムマシン』……。言及すべきはウェルズの原作ではなく、2002年の映画のほうでしょう」

古泉「主人公の物理学者は恋人を強盗に殺されてしまう。タイムマシンを完成させた彼は何度も過去へ行くがそのたびに別の事故に巻き込まれて恋人は死亡する。運命には逆らえない」

古泉「彼女を救えない真理を追究するため未来へタイムトラベルした主人公は野蛮な人類が世界を裏で支配する原始的な世界へと到着します。まさにディストピアが広がっていた」

古泉「そこにあるのは、天壌無窮の絶望」


521:2015/08/11(火) 20:46:57.26 ID:
岡部「だが、鈴羽は言った。世界線変動率<ダイバージェンス>1%の壁を超えることができれば……、β世界線へ到達することができれば、まゆりは助かるかもしれない、と」

キョン(1%……。話の流れからして、きっとそれはとんでもなくデカい数字なんだろう)

岡部「基本的にはSERNの下部組織、ラウンダーがラボに襲撃してくることによってまゆりは殺された。ゆえにSERNのサーバー内にある『牧瀬紅莉栖』の文言が書かれた未来からのメールという、やつらが興味を持つ存在を削除すれば、俺たちのマシン収奪に至る動機がラウンダーに発生しない、らしい」


キョン「……ラウンダーがSERNの犬で決まりか。ってことは、古泉の言う通り、想像だにしない陰謀の影が世を席巻していることになるな」

古泉「正直言って最悪の結果です。涼宮ハルヒを擁する僕たちSOS団が安易に接触してはいけない規模の相手でしょうからね。警戒を厳にするよう機関に通達しておきます」


岡部「だが、まゆりが助かる可能性は確かにそこにある」

古泉「あるいは、助からないかもしれない」

岡部「!?」

キョン「お、おい古泉」


523:2015/08/11(火) 20:49:17.07 ID:
古泉「もし現在のα世界線アトラクタフィールドを脱出しても椎名さんが若くして亡くなる収束があったら?」

岡部「ならば、またそのアトラクタフィールドを脱出するだけのことだ」

古泉「現在僕たちが所属しているα世界線のアトラクタフィールドに関する収束事項の捜索は、困難ではありますが可能ではあるでしょう。タイムリープが可能ならば猶更」

古泉「しかし、α以外のアトラクタフィールドがどのような収束条件を持っているかを覗きみようとするには、この世界の束、宇宙の法則の外側に観測点がなければ発見しようがない」

岡部「なら、俺のリーディングシュタイナーがそれになればいい」

古泉「生きながらにしてあなたは無間地獄へと身を落とすというのですか」

岡部「……まゆりは、どうしても、幸せに生きていてもらいたいんだ」グッ


524:2015/08/11(火) 20:53:27.11 ID:
キョン「いい加減にしろ古泉。意地が悪すぎる」

古泉「失礼。岡部さんの決意のほどを、真実の言葉をどうしても聞いておきたかったので」

岡部「……?」

古泉「僕たちSOS団としても、団長のご友人を運命に易々と奪われるようでは立つ瀬がありません。それにやはり、ディストピアになる将来など嫌ですからね」

キョン「まったく古泉という人間はどこまでも面倒くさい男だ。岡部さん、俺だってその、リーディングシュタイナーとやらを患っているんです。世界改変、一緒に付き合いますよ」

キョン(こういうことに対していつまでも憮然としているだけの俺ではないのだ。なんだかんだで俺という人間も変わってきたのかもしれない)

岡部「お、おお……! 未来ガジェット研究所とSOS団との共謀と行こうではないかッ! 我が望みは、世界の混沌ッ!」

古泉「そして我らが望むは世界を大いに盛り上げること。涼宮さんを中心として」ンフ

キョン(まさかこんな安っぽい牛丼屋で世界の真理に対抗するパルチザンが結成されているとは、お釈迦様でも思うまいよ。『斉天大聖』の四字がどこにも書かれていないことを渇仰するばかりだ)


526:2015/08/11(火) 20:55:52.67 ID:
岡部「それで、目下の鈴羽父親捜しに関してだが、これは世界線改変には関係ない。ただあいつが父親の正体を知りたいと言うから探しているだけだ」

古泉「それでタイムリープしてきたということは、発見できなかったのですね?」

岡部「そうだ。リープ前の明日8月13日、俺は西洋人露天商からピンバッジ制作を依頼してきたやつの情報を手に入れたが、リープして昨日8月11日に戻ってみるとその実行犯はダルだった。昨日話した通りだ」

キョン(でもそれはどういうわけか必要な因果、既定事項なんだよな……)

岡部「俺は既に機関の組織的能力が高いことを知っている。西の高校生探偵よ、またその力を貸してはくれないだろうか」

古泉「機関の力を頼っても結果は芳しくなかったのでは?」

岡部「そ、それはまゆりの件に関してだ。今回の人捜しなら問題ないかと思ってだな……」

古泉「ディストピア回避や椎名さんの運命を救うことには協力しますが、正直言って人捜しなどに人員を割けるほど機関も暇ではないんですよ」

キョン「お、おい。別に拒否するほどのことでは」


529:2015/08/11(火) 20:58:09.43 ID:
古泉「世界的規模の陰謀に涼宮さんが巻き込まれようとしている。それだけで機関が動かない理由としては十分かと」

岡部「……わかった。悪かったな、鈴羽の父親捜しは確かに俺の自己満足だ。無理に手伝ってもらう必要はない」

キョン「……それでも、きっと見つかりますよ」

岡部「……なぜそう言える」

キョン「うちの団長が、それを望んでいるからです」

岡部「……あぁ、確かにあれほどバイタリティーに溢れているソーラーガールであれば、親父殿の首根っこをひっつかんで連行してくるかも知れんな」

古泉「機関として岡部さんに直接協力することはできませんが、涼宮さん主導の捜査に対しての協力ということであれば全力で暗躍いたしましょう」ンフ

キョン「こいつは……。そのお役所的な発想はなんとかならんのか」


532:2015/08/11(火) 21:02:41.20 ID:
2010.08.12 (Thu) 14:35
晴海大橋


キョン(午後の班分けの時にハルヒはこう言った)

ハルヒ『あたしたち、そもそも阿万音さんについての情報を知らなさすぎたんだわ! だからお父様も不審がって出てこないのよ! というわけで、これから阿万音さんと全ッ力で仲良くなるわよ!』

キョン(これが例のフラグ回収だったのかどうかはわからない。もしかしたらハルヒが先天的に獲得している人並み外れた嗅覚のおかげか、あるいは人類未踏の周波数を受信するための脳内電波探信儀のおかげか)

キョン(なにはともあれ、うちの団長様はおっちょこちょい異世界人もとい未来人ジョン・タイターとの友好条約締結をお望みなのである)

ハルヒ「ほら、キョン! もっと風を切って漕ぎなさい!」

キョン(全く別件で注意したいことがある。公道での自転車の二人乗りは基本的に道路交通法違反であり、公道でなくてもかなり危ないのであって絶対にやってはいけない。どうして秋葉原のレンタサイクルショップに運悪く人数分台数が無かったんだろうね)

ハルヒ「ただでさえ暑いんだから、こんなスピードじゃサイクリングの爽快感なんて味わえたもんじゃないわ!」

キョン(背後から太陽光線を背負った熱血太陽ガールが俺の全力ケイデンスにケチをつけてきやがる。だれかー、助けてくれー)


534:2015/08/11(火) 21:04:56.57 ID:
鈴羽「ちょっと休もうか。んー、川から吹く風が気持ちいいねー!」

古泉「この辺りの運河や川はよく整備されていますね。リバーサイドロードはたまに階段があるので自転車では移動が大変ですが」

みくる「はひゅぅ……。疲れましたぁ……」

鈴羽「朝比奈みくるはよく頑張ってるよ! ホント、一緒についてきてくれてありがとう」

長門「…………」

鈴羽「長門有希はすごいね……。一切表情を変えずにスピードを維持するなんて。もしかして才能あるんじゃないかな」

キョン(北高校内サイクリング大会でもあろうものなら長門の二位入賞は確実だろうな。一位はハルヒだが)

ハルヒ「遅れてゴメンネ! こいつあんまり運動神経良くないのよ。許してあげてね」

キョン(お前と比べたらほとんどの人間が運動音痴にカテゴライズされてしまう!)

キョン「身体の構造が適応的に進化してなくて悪かったな」

キョン(さすがに疲れたな……。橋の中腹で休憩してるもんだから、地べたに座る以外には車道の縁石に座るしか選択肢がないか) ヨッコイショ

古泉「たまにはいいじゃないですか。健全な高校生男子として運動不足はあまりよろしくないかと」

キョン「いつも遊牧民族の大移動のごとく歩行訓練に勤しんでるんだからそれで充分だろ」


535:2015/08/11(火) 21:06:47.96 ID:


ファーン!


ハルヒ「!! キョン危ないッ!!」グイッ

キョン「のうわっ!!」バターン


ブロロロロロ……


ハルヒ「なんなのよあのトラック! 制限速度50km/hはオーバーしてるわ! 日本の警察はなにを油売ってるのよ! 古泉くん、ナンバープレート覚えた!?」

古泉「営業所も特定しました、早速通報しておきます」プルルルル

みくる「キョンくん、だいじょうぶ……?」

鈴羽「だ、大丈夫!?」

キョン「あ、あぁ。心配かけてすいません、ハルヒのおかげで大丈夫ですよ」

キョン(まさかハルヒのネクタイ引っ張り技がここで活かされるとはね。シャツが少し伸びちまったが、文句は言うまい。朝比奈さん誘拐事件じゃなかっただけ儲けもんだ)


536:2015/08/11(火) 21:08:50.67 ID:
2010.08.12 (Thu) 14:48
東雲運河 ゆりかもめ高架下


キョン(晴海大橋から有明の国際展示場にかけては、ハルヒ、長門、そして阿万音さんの三人によるロードレースが開催されることとなった。さっき通報しといてなんだが、通報されないことを祈る)

キョン(古泉の野郎はタクシーを使って先回りをし、ゴール地点で審判をやることになった。俺は古泉の分だった余った一台に乗って朝比奈さんと二人でのんびりサイクリングをエンジョイさせていただくぜ)

みくる「東京って大きな街なんだねー」

キョン「空地も目立ちますね。この辺の高層ビルは建設中のものも含めてすべてマンションみたいですよ」

みくる「へぇー……。いっぱい人が住んでるんだねー」

キョン(あぁ、このくらいの会話がのほほんと続く朝比奈さんと二人っきりの東京散策なら俺はエンドレスサイクリングに興じても構わないね)

みくる「キョンくん……。阿万音さんのお父さん、絶対見つかるといいね」

キョン「大丈夫ですよ朝比奈さん。ハルヒが見つけようとしてるんですから、見つからないはずがありません」

みくる「そうだといいんだけど……。うん、きっとそうだよね」

キョン(どこかアンニュイな朝比奈さんである。もしかしたら未来人でなければ理解できない感覚なのかもしれない)

みくる「きっと素敵な人なんだろうなぁ、お父さん。快活で、元気いっぱいで、みんなを笑顔にさせるような」

キョン「あの娘にしてこの父あり、と言った感じですかね。逆に全く似てない親子だったりして」

みくる「うふふ。それでもきっと、素敵な親子なんだと思います」

キョン(朝比奈さんが確信を持ってそう言っているのだ。根拠なんか必要ないまでに、きっとそうなのである)


537:2015/08/11(火) 21:10:14.46 ID:
2010.08.12 (Thu) 15:04
有明


鈴羽「お、後続も来た来た! おっつー!」ブンブン!

キョン(栗毛色のおさげ髪が夏の太陽のように眩しい笑顔をその両手と共に振りまいている。変な人だと思っていたが、なかなかどうして愛嬌のある人じゃないか)

ハルヒ「キョーン! 早くこっちに来なさい! すっごいわよ!」ブンブン!

キョン(いつから太陽系の恒星は3つに増えちまったんだろうな。新しいオモチャを発見した犬の尻尾のごとく手を振っているのは我らが団長様だ)

キョン「それで、誰が勝ったんだ?」

ハルヒ「もちろんあたしよ! そんなことより、早くこっちに来て!」グイッ

キョン「お、おい引っ張るな! って、こりゃぁ……」

ハルヒ「東京ビッグサイト! 年に二度のオタクの祭典、コミックギガマーケットが開催される、萌え文化の聖地よ!!」

キョン「これが……。圧倒的存在感だな」

キョン(なんとなく、本当になんとなくだが、今俺が居る時代のこの場所だけはハルヒを中心に世界が回っているような気がした)


539:2015/08/11(火) 21:11:57.40 ID:
鈴羽「ここはね、父さんと母さんが出会った場所らしいんだ。コミマっていうイベントの時に」

みくる「そうだったんですか。なんだか素敵ですねぇ」

古泉「ですがコミマは毎回50万人以上の来場者が全国から集まるビッグイベント。絞り込みは難しいかと」

鈴羽「ううん、いいんだ古泉一樹。それでも、あたしは一度この目で見ておきたかったから。付き合ってくれてありがとう、SOS団!」

キョン「なんだか名前の通りのことをしてるじゃないか、俺たち。コンピ研部長消失事件や阪中の幽霊騒動の一件の時みたいだな」

ハルヒ「SOS団の名前の意味はね、“世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団”、だからね! 未来永劫その頭に刻み込んでおくといいわ!」

鈴羽「あははッ! わかった、絶対忘れないよッ! どんなことがあっても忘れない。あたしは一人前の戦士だからねッ!」


540:2015/08/11(火) 21:13:18.86 ID:
ハルヒ「決めたッ! 今年のコミマにSOS団も参戦するわッ!」

キョン「なんとなくそう言うだろうと思ってたよ。まぁ、いいんじゃないか」

みくる「年に二度の大きなお祭りなんですよねぇ。楽しみですぅ」

キョン(朝比奈さんにとっては自分の世界観を大いに変革する機会となること必至だろうな……。熱を出したりしなければいいが)

ハルヒ「コミマはいつだったかしら?」

長門「第78回コミックギガマーケットは8月15日から3日間開催の予定と椎名まゆりが言っていた」

ハルヒ「そっか、まゆりもフブキも参戦するんだった! ぜひコスプレ鑑賞しないとね!」

古泉「カメラは用意してありますよ」

みくる「……ふぇ!? コミマって、コスプレするんですかぁ!?」

鈴羽「君たち、楽しそうでいいね。ホント、幸せな時代だ」


541:2015/08/11(火) 21:14:40.67 ID:
ハルヒ「……ねぇ、阿万音さん。どうしても明日、東京から出ていかなくちゃならないの?」

鈴羽「うん……。こればっかりは仕方ないんだ」

みくる「……うぅ……」グスッ

鈴羽「朝比奈みくるはやさしいね。ありがと」ナデナデ

鈴羽「さ! 第二回戦の始まりだよっ! あたしがドベなんてラボのみんなに知れたら笑われちゃうからね! ラボまで競争だ!」シャー

ハルヒ「あっ! ズルいわよ! まだ決戦のゴングは鳴っていないじゃない!」シャー

長門「……」

キョン「長門は、行かなくていいのか?」

長門「……わざと負けてあげたほうがいいと判断した」

キョン「なるほど考えたな。だが、ギリギリまで接戦して、ごく自然に負けてあげるほうがいいと思うぞ」

長門「なるほど」シャー

キョン(ちなみに勝負の結果だが、一位ハルヒ、二位阿万音さん、三位長門となり、阿万音さん的には汚名返上できたと満足していたそうだ。レース中、すべての信号が青になり、周囲の自動車は我先に横道に逸れるというネコバスも真っ青の不思議現象が起こっていたんだとかいなかったんだとか)


542:2015/08/11(火) 21:17:32.11 ID:
2010.08.12 (Thu) 20:50
末広町交差点


キョン(チャリンコ大会での汗を流した後、宿でUNOに興じていたSOS団だったが俺は見事にババをつかまされ、あいや、UNOなんだからDRAWを食らったわけなんだが、ともかく罰ゲームとしてコンビニまで菓子と炭酸飲料を買いにいくというパシリ行為を実行する羽目になった)

キョン(コンビニへ向かう途中、人通りの消えた秋葉原の街、末広町の交差点のところで見覚えのあるおさげ髪が揺れた)

キョン「あの、阿万音さん。昼間は世話になりました」

鈴羽「あぁ、えっと、―――ニャーン―――。こんな時間にどうしたの?」

キョン(この阿万音さんは俺が今まで関わってきた人類すべての中で驚愕すべき特徴を持っている。異世界人であり、未来人であり、ハルヒに言わせれば宇宙人でもあり超能力者でもあり……、)

キョン(……そしてなによりも俺の名前を“本名”で、しかもなぜか“フルネーム”で呼ぶのだッ!!!!)

キョン「よかった……。俺は歴とした日本人、いや、人間の名前を持っていたんですよね……」ホロッ

鈴羽「もしかして買い出し? 今日のお礼もあるし、手伝ってあげるよ。体力だけは自信あるからさー」

キョン(今の今まで見逃していたが、この人は世界一かわいい素敵な女性なのかもしれない)


543:2015/08/11(火) 21:20:39.21 ID:
キョン(成り行きで手伝ってもらうことにした。これから一緒にコンビニに行って、途中まで買った物を持ってくれるというありがたい提案であった。あれ、なんだろう目から汗が)

キョン(それに、この人には色々な意味で興味が尽きないからな。決して下心ではないと断言させていただこう)

キョン「岡部さんから聞いたんですが……。あ、いや、この話をする前に自分のことを説明したほうがいいかも知れません」

鈴羽「んー?」

キョン「実は、自分もタイムトラベル経験者、そん時の名前はジョン・スミスです。世界線を改変、というか、元に戻したこともあります」

鈴羽「…………」

キョン(案の定阿万音さんの挙動が静止した。あるいは、心肺も停止しているかもしれない。顔面が蒼白になり、額には夏の夜の暑さのせいではない汗がにじみ出ていた)

キョン「だ、大丈夫です! 今日の昼間わかったと思いますけど、それでも俺は普通の高校生、一般人ですし、あなたの敵じゃない」

鈴羽「そ、そうだよね……。ちょっと、いやかなりビックリしたよ、アハハ……」

キョン(混乱した面持ちで、なんとかしゃべっているという感じだ。いや、そりゃそうだろう。タイムトラベラーが自分の他にぽんぽんいられては困るはずなんだ)

キョン「それにあなたは似たような状況に昨日遭遇したはずだ、未来からきた岡部さんと会話して」

鈴羽「あぁ、うん。そうなんだけど、慣れるものじゃないよ……」

キョン(申し訳ない阿万音さん、一つだけ聞いておきたいことがあるんです)


544:2015/08/11(火) 21:22:50.62 ID:
キョン「岡部さんから、あなたが未来人ジョン・タイターであること、それから反SERN組織のメンバーで世界の平和のために動いていることを聞きました」

鈴羽「そうか、あの岡部倫太郎から。君は信頼できる人間だと判断されたようだね」

キョン(どういうわけかこの人の中での岡部さんの評価はかなり高いらしい)

鈴羽「それで、君は本当に敵じゃないんだね? その、君の経験したタイムトラベルについて詳しく教えて欲しいんだけど」

キョン(まぁ、聞くよな。うまく答えられないが……)

キョン「えっと、ずーっと先の未来からやってきた未来人の方が居まして、その人と一緒に中坊の頃にタイムトラベルして、色々とって感じです。タイムマシンもなんだか目視して確認できないようなヘンテコアイテムでして」

鈴羽「その未来人って人は、SERNとは関係ない……、のかな?」

キョン「100%無いです。どうもあの人たちが使うマシンは世界線理論を使ったものではなく、また別の理論で時間を直線的に移動しているらしいんですよ」

鈴羽「ふーん……。歴史は繰り返す、ってやつなのかな」


545:2015/08/11(火) 21:24:00.67 ID:
キョン「それで……、一つ聞いておきたいことがあります」

鈴羽「なぁに? 答えられる範囲で答えるよ」

キョン(こういう素直な人には回りくどい質問はかえって悪手だ。球種は直球ど真ん中で行こう)

キョン「……あなたは、ラウンダーですか」

鈴羽「ッ!?」

キョン(その時、阿万音さんの右手が上ジャージの腹部のポケットに差し込まれるのを俺は見逃さなかった。どうやらあそこになにかしらの護身用の武器が入っているらしい)

キョン「それとも、未来ガジェット研究所、岡部さんの味方ですか」

鈴羽「は、はぁ!? どうしてそういう質問をするのかな!? あたしは、あたしは……」

キョン(答えに困っている、というより、しりこそばゆそうにしている?)

鈴羽「……ラボメンナンバー008、だからさ」


546:2015/08/11(火) 21:29:36.85 ID:
鈴羽「あたしが未来で所属してたワルキューレっていう名前のレジスタンスの創設者は岡部倫太郎なんだ。つまり、未来ガジェット研究所の後身ってやつさ」

キョン(こうしん……コウシン……後身?)

鈴羽「あたしたちワルキューレの敵はSERN、そしてその実働部隊のラウンダーだったってわけ。正直、ラウンダーと間違われるなんてとんでもない侮辱だよ」

キョン「す、すみません……。いまいち未来のことがわからなくて……」

キョン(俺に人間心理についての心得はないが、この人は多分嘘など吐いていない。というか吐けないタイプの人間だ)

キョン(ということは、今までの古泉のひねくれた推理は放射性廃棄物と一緒に地層処分しておいて、与えられた情報を額面通りに受け取ればいいということだ)

鈴羽「あはは。いいよ、わかってる。とかく未来人ってのはコミュニケーション不全に陥りやすいんだ」

キョン「その、父親のバレル・タイターってのは……」

鈴羽「ワルキューレの初期メンバーであり、あのタイムマシンの開発者。みんなはタイターってだけで神聖視してた」

鈴羽「あたしはね、父さんの本名を知らないんだ。聞かせてもらう前に死んじゃったからってのもあるけど、万が一あたしがSERNに捕まったことを考えて母さんが教えてくれなかった」

キョン「それで2010年に寄って、お父さんに会おうとしたんですね」

鈴羽「……ううん。ホントは違う。死んだ親に会いたいなんて思うほどあたしは殊勝じゃないよ」

鈴羽「ホントは、怖かったんだ。あの人は、本当にこのあたしの父親だったんだろうかって。本当にあたしは、人間なんだろうか、ってね」


547:2015/08/11(火) 21:32:22.62 ID:
キョン「……未来じゃ、人造人間の技術でもあるんですか」

鈴羽「あはは、そんなの無いよ。そんなのがあったらもう、ワルキューレは太刀打ちできない」

鈴羽「ほら、あたしは生まれた時からこうなることが運命づけられていたから。それは母さんに言われたからだけじゃなく、世界線の収束としてそうなっている」

キョン「収束の元に生まれた、ですか……」

鈴羽「だったら、あたしの生きる意味はなんだろうってことになるでしょ? 未来が確定してるのに、どうしてあたしには意思があるのかって。どうしてあたしは時間を感じる必要があるのかって」

鈴羽「でも、この時代のこの場所で、父さんに会って話ができれば、納得できると思ったんだ」

鈴羽「あたしがこういう運命なのは、こういう理由があったんだって。ホントに父さんがこの世界にかつて存在していて、世界の支配構造の変革を企んでいたんだって確認できたら、それだけで生きる勇気が沸いてくるはずなんだ」

鈴羽「まぁ、ワルキューレの英雄、岡部倫太郎と出会えただけでも良かったんだけどね。歴史がつながってるんだって強く実感したよ」


548:2015/08/11(火) 21:34:46.63 ID:
鈴羽「それで8月9日の夜、父さんが居るって判明してたタイムマシンオフ会に潜入したんだけど、結局父さんとは会えなかった」

キョン「どうして会えなかったんです?」

鈴羽「あたしもバカだよねー。せっかく会員になって会費まで払ったのに。なぜかフェイリス・ニャンニャンと橋田至には会えたけどね」

鈴羽「背格好が近い人に手当たり次第話しかけたんだけど、誰もジョン・タイターについて真摯な考えを持ってる人は居なかった。もしかしたらこの時代の父さんもタイムマシンなんて馬鹿げてるって思ってたかも知れないし、そもそもあの会場にホントに来ていたのかもわからない」

キョン「えっと、それは阿万音さんの未来と今が変わってしまった、ということですか」

鈴羽「元々あたしのタイムマシンはタイムトラベルのたびに微妙に世界線を移動しちゃうから、そのせいで過去が変わってたのかも知れないんだよね」

鈴羽「まぁ、賭けみたいなものだったし、気にしてないよ。2010年に来たおかげで2036年では手に入らない1975年の情報も手に入ったしね。ラジ館屋上が改装工事中でビニールシートがかかっていて、かつ雨天作業中止になってる日付とかさ」

鈴羽「ちょっと残念ってだけ……」

キョン(相当気にしてるな……。そりゃそうか)

キョン「えっと……、きっと岡部さんたちがお父さんを見つけてくれますよ」

鈴羽「あはは、そうだね。そう……だよね……」

キョン(話題を変えたほうがいいな、これは)

キョン「……ワルキューレの話を聞かせてもらっても?」

キョン(これは俺の純粋な知的好奇心だった。いつか未来人に未来のことをとっくり教えてもらいたいとこの1年ずっと思っていたのだから仕方ない。それにどうやら2036年程度の科学力では発言に禁則コードを仕込むことはできないらしいしな)

鈴羽「……いいよ。このまま立ち話もなんだし、公園に寄ろうか」


549:2015/08/11(火) 21:36:25.68 ID:
2010.08.12 (Thu) 21:02
芳林公園


鈴羽「タイムマシンは、父さんから18歳の誕生日プレゼントとしてもらった。同時に世界を変える、アトラクタフィールドを脱出する使命も拝受したわけだけど」

キョン(はいじゅ……ハイジュ……拝受か。藤原某然り、未来人というのは二字熟語に特別な思い入れでもあるのかね)

鈴羽「マシン自体は3年以上前に作られてたみたいだけど、父さんはタイミングを見計らってたみたい。収束のおかげであたしは弾丸の雨の中、かすり傷一つ負わなかったよ」

キョン(世界線の収束をそういう風に利用することもできるのか)

キョン「って、18歳の誕生日ってことは、えっと、阿万音さんは西暦何年からココに?」

鈴羽「2036年だよ。あたしが生まれたのは2017年、今からだと7年後だね」

キョン(朝比奈さんの話の裏が取れたな。2036年、ハルヒの改変限界の2年後から飛んできてたわけだ)


550:2015/08/11(火) 21:38:50.30 ID:
鈴羽「牧瀬紅莉栖には気を付けて。アレこそが世界をディストピアに導いた元凶、SERN側のタイムマシン開発者なんだ。“タイムマシンの母”なんて呼ばれてた」

鈴羽「彼女は2年前、2034年に交通事故で死んだ。というか多分捨て駒として処分されたんだろうけど……」

キョン(ディストピアっつーのがいよいよ現実味を帯びてきたな……。しかし、ハルヒの世界システム改変限界の年にタイムマシンの母が死亡するとは、なにか関係があるのか? 考えすぎか)

キョン「ただ、この時代の牧瀬さんがSERNと繋がってるとは思えない」

キョン(古泉調べによると、だけどな)

鈴羽「うーん、あたしも最近はそう思うようになってるんだよねぇー。でもあの顔を見るたびに忌々しい記憶が蘇るんだ」

キョン「それに、仮にSERNでマシンを実際に開発したとしても、もしかしたら家族を人質に取られて強制的に研究させられていたのかも知れないですよ」

鈴羽「なんだか岡部倫太郎の妄想話みたいなことを言うね」

鈴羽「でもね、たとえそうだとしても、世界人類の未来を考えたら牧瀬紅莉栖は牧瀬一家と心中すべきだった。それほどまでにディストピアは最低最悪の世界なんだよ、ジョン・スミス」

キョン「……俺は未来を知らないから、余計なことを言ったかもしれません。すいません」

キョン(ディストピアにおいて、多くはルサンチマン的状況に陥る中にあってこの人は打開的な行動を取ってるんだろう。過激な思想もそのドン・キホーテ的勇気から来るものか。もしかしたらワルキューレってのは岡部さんの意志を引き継いだ騎士道妄想集団なのかもしれない)

鈴羽「ううん、いいんだ。こんな話、ラボメンには絶対できないし、君みたいなちょうどいい立場の話し相手が居てくれてよかった」

キョン「よかったらいろいろ聞かせてください。俺も未来のことを聞くのに興味が尽きません」


551:2015/08/11(火) 21:41:02.18 ID:
鈴羽「ワルキューレの仲間はみんな面白いやつばっかりだったよ」

キョン(未来人にとっての仲間か)

鈴羽「葛城新次郎。いつもあたしのことを小娘呼ばわりして気障っぽい鼻につくやつなんだけど、仲間思いのいいやつでさ……。あたしのこと、好きだったみたい」

キョン(ラボ関係の名前の中でまったく聞いたことがなかったものだけに、信じられないくらいのリアリティが俺を襲った)

鈴羽「御子柴レイ。フードをかぶるのが好きな二丁拳銃の使い手でね……。他にもたくさん仲間が居たんだけど、二度の作戦失敗で壊滅寸前まで殺されちゃった。みんな」

キョン(息を飲んだ。人が殺されて当然の日常に居た人なんだと頭ではわかってるはずなんだが、その現実の言葉が耳に入るたびに俺の心臓のキックペダルビートがいちいち早まるのを感じる)

鈴羽「母さんも殺された。あたしの目の前で死んじゃった。……わざと急所を外されて、なぶり殺された」

キョン「なっ!?」

鈴羽「……でもね。オペレーション・ブリュンヒルデ、1975年に行ってこの時代の未来ガジェット研究所にIBN5100を届ける作戦が成功すれば、未来は変わるはずなんだ」

鈴羽「死んだ仲間も、あたしが殺した人間も、母さんも、父さんも、みんな生き返って、平和で仲良く暮らしてるはずなんだ」


552:2015/08/11(火) 21:43:46.10 ID:
キョン「でも、どうしてIBN5100を届けるなんていう回りくどいことを? それこそ、SERNの幹部が赤子の頃に行って全員殺してしまうとか……」

キョン(自分でしゃべってからとんでもないことを口走っていることに気が付いた)

キョン(今までの会話があまりにトンデモなSF話だったために、つい映画を見ている、あるいはゲームをしているような気分になっていたんだと思う。そういうことにさせてくれ)

鈴羽「見た目によらず凄いことを思いつくね……。もちろん、そんな案もワルキューレで出たけど、でもそれじゃダメなんだ。結局SERNに大きな打撃を与えることはできない」

キョン「……世界線の収束、ですか」

鈴羽「さすがジョン・スミス。そういうこと」

キョン(そう言えば俺のことを本名で呼ばなくなったな。もしかしたらこれも世界線の収束か……?)


553:2015/08/11(火) 21:47:09.00 ID:
キョン「……あのタイムマシンは過去へしか飛ばないと聞きました」

鈴羽「あー、橋田至がしゃべっちゃったのかな。そう、あのマシンは不完全なんだ。それでも、あたしはまだ18、今年で19だけど、自分のミッションには自分の一生をかける価値があると信じてるから」

鈴羽「作戦に失敗したとしても、頑張って長生きすれば2036年の世界をまたこの目で見れるかもしれないしね! なんて……」

キョン「そしたら80歳、傘寿ですね」

鈴羽「あはは、そうだね。でも、少なくとも2010年にIBN5100がラボに届くことが確定するまではたとえ“死んでも”生きてないといけないんだけどね」

キョン(……この人は2000年に自分が死んだことになっていることを知らない。詳細は不明だが、これは伝えるべきか、伝えざるべきか……)

鈴羽「作戦が成功したら、多分53歳のあたしはこの時代のこの世界のどこにもいなくなる。たとえ死んでても、骨だって墓だって残ってない。だって、IBN5100によるクラッキングが実行された瞬間、あたしはβ世界線の未来で再構成されるはずなんだから」

キョン「……そうですね。きっとそうですよ」

鈴羽「……うん、そうなんだよ。そうじゃなきゃいけないんだ」


554:2015/08/11(火) 21:48:24.05 ID:
鈴羽「ありがと、ジョン・スミス。なんかスッキリした。君って話聞くの上手なのかな」アハハ

キョン(この人の屈託のない笑顔を見ていると、どうしてか申し訳ない気持ちになってしまう)

キョン「前にも言いましたけど、IBN5100に関してはきっと大丈夫です。俺たちもできる範囲で協力しますよ」

キョン(ハルヒ大明神に願掛けしとけばたいていのことは大丈夫だろ)

鈴羽「……本当にありがと。君っていいやつだね」


ハルヒ「買い出しサボってるやつのどこがいいやつなのかしら?」


キョン「ゲェーッ!? ハ、ハルヒ!?」

キョン(やばい、ハルヒには阿万音さんが未来人であるところを知られたらそれなりに不味いんだが……ってか、『ジョン・スミス』は聞かれてないよな!?)

鈴羽「やぁ涼宮ハルヒ! 君も買い出しかな?」


555:2015/08/11(火) 21:49:30.97 ID:
ハルヒ「いつまで経っても家に帰ってこないボンクラを連れ戻しにきたのよ! 団長自らがわざわざ出向いてあげたのよ、感謝しなさい!」

キョン(お冠でいらっしゃる!)

キョン「あ、いや、実はまだ買い出しが終わってなくてな……」

鈴羽「あははッ! 夫婦漫才、ってやつだっけ?」

キョン「違いますッ!」

ハルヒ「……処遇は追って伝えるわ。とにかく、コンビニ行くわよ!」グイッ

キョン「悪かったって! だから引っ張るな!」

阿万音「あぁ、あたしも手伝うよ」

ハルヒ「買い出しは二人も居れば十分だし、阿万音さんは早く家に帰ったほうがいいわ。東京の夜は危ないって聞いてるけど」

鈴羽「そう? じゃぁ涼宮ハルヒに任せるよ。あと、今はこのベンチがあたしの家なんだ。だから君たちとはここでバイバイだね」

キョン「……は?」

ハルヒ「……へ?」

キョン(俺もハルヒもあまりの告白に目を剥いた)

ハルヒ「……えっと、まさかとは思うけど、野宿してるの?」

鈴羽「お金が無くってね」アハハ


556:2015/08/11(火) 21:50:49.73 ID:
ハルヒ「キョン! 古泉くんに連絡して、もう一人分の寝室を準備させておきなさい!」

キョン「サー、イエッサー!」

ハルヒ「阿万音さん! あなた晩御飯は!?」

鈴羽「えっと、まだ食べてないけど。そこらへんに生えてる草とか虫とかを……」

ハルヒ「じゃぁキョンのおごりね。コンビニでなんでも好きなものを買っていいわよ!」

キョン「なっ!? 罰と現実的対応をうまいこと利用しやがって……」

鈴羽「えっ、そ、そんな悪いよ」

ハルヒ「あなたは今日うちに来てご飯食べてお風呂に入ってあったかい布団であたしたちと一緒に寝る義務があるの! 一切の異議を認めないわ!」

キョン「今回ばかりはハルヒに同意だ。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!」

鈴羽「えっと……。じゃぁ、お言葉に甘えて」エヘヘ


557:2015/08/11(火) 21:53:57.82 ID:
2010.08.12 (Thu) 22:50
湯島某所 談話室


キョン(コンビニ弁当と菓子類一色を買い込んだ後、阿万音さんにはハルヒに俺のことと自身のことを内緒にしておくように言っておいた。未来人がこの世にいるとハルヒに知られては多分マズいからな)

キョン(宿に戻って、阿万音さんはハルヒから小一時間説教を食らうことになった。まぁ、さもありなんと言ったところか、)


ハルヒ『あたしの友達が東京で野宿してるなんて知られたら末代までの恥だわ!』


キョン(とまで言わせた。これでこの異世界人だか未来人だかはSOS団団長にとって友人認定されたわけである)

キョン(ハルヒによって強制的に風呂に入れられた阿万音さんは、その後俺たちとまるで同級生のようにカードゲームに興じた。朝比奈さんの一個上の先輩だと思えば大した歳の差ではないからな。まぁ、朝比奈さんもホントに18歳かは怪しいところなんだが)

キョン(阿万音さんはトランプゲームをまったくと言っていいほど知らなかった。こう考えると朝比奈さんのほうがまだ現代になじんだ未来人なんだなと思ってしまう)

鈴羽「……4!」

ハルヒ「ダウトォ!」

みくる「ひぇっ」

鈴羽「えぇー!? どうしてわかったのさ!?」

ハルヒ「顔に書いてあるのよ。阿万音さんって嘘つくの下手ね」

古泉「それもありますが、全員の手持ち枚数とオープンカードから推測すれば、あなたが4を持っている可能性が低いことがわかります」

鈴羽「ぐう……。それを言われるとぐうの音も出ないよ……」

キョン「出てますよ」

長門「5」

ハルヒ「これが模範解答ね」

キョン(宇宙人のポーカーフェイスを見破るなどポアンカレ予想を解決するより困難だろう)


558:2015/08/11(火) 21:56:42.39 ID:
2010.08.12 (Thu) 23:50
男子部屋


キョン(一応古泉は阿万音さん用の個室を用意したらしいが、結局流れで女子4人は同衾することとなった。いや、もちろん布団は別だと思うが。別だよな?)

キョン「なぁ古泉。阿万音父の捜索方法についてふと思いついたんだが」

古泉「なんでしょう」

キョン「例の天王寺裕吾氏に聞く、ってのはどうだ? “橋田鈴”と繋がりがあったんだろ? もしかしたら1975年からの25年間のうちになんらかの証拠品があったりして、親父を特定してるんじゃないか?」

古泉「おっと……。今僕は同時に二つのことに驚いています」

キョン「一つ目はなんだか想像できるからな、殴られたくなかったら口にするんじゃないぞ」

古泉「わかりました。なるほど、そんな方法があったとは……。しかし正直なところ、深く韜晦しているような人物との接触は避けたいところです」

古泉「何よりラウンダーはラボを将来的に襲撃することになっている。ラボの真下で生活している彼が関わっていないわけがありません」

キョン「だが、それはまだ発生してない事件だ。今なら大丈夫だと思うんだが、明日天王寺さんに会いに行ってみないか?」

古泉「……いいでしょう。阿万音さんのお父上を発見することは、涼宮さんの願いでもありますからね」


559:2015/08/11(火) 21:57:50.24 ID:
古泉「ちなみに橋田鈴さんのお墓は池袋の雑司ヶ谷霊園にあるようですが、そちらも調べてみますか?」

キョン「……いや、いい」

キョン(わかってるはずなんだけどな……。壁一枚隔てた部屋で幸せそうに寝ている人が、目標を達成することなく、未来を変えることができないままに墓地で眠っているということを)

キョン「タイムトラベルってのは、おそろしいものだな」

古泉「そうですね。得てしてタイムトラベル作品は見る者にどん底の恐怖を与えるものです」

古泉「ですが、その分大逆転ハッピーエンドも用意しやすいのですよ」

キョン「あぁ、そうなることを聖母ハルヒに祈ろう」


560:2015/08/11(火) 22:00:45.98 ID:
キョン「それで、阿万音さん、つまり橋田鈴は、未来ガジェット研究所の味方だと考えていいらしい」

キョン「つまりだな、IBN5100確保の目的は俺たちと共有できるものと考えられる」

キョン「古泉予想の天王寺橋田問題も相当にこじれたことになってるとは思うが、それでも天王寺さんがあの阿万音さんと敵対関係だとは思えないんだよな。阿万音さんの人間的に」

古泉「そんなことを言っているといつか足をすくわれますよ。ですが、あなたの勘もなかなかのものですからね」

キョン「いつからハルヒの勘が俺に移ったんだろうな。……まさか、佐々木の時みたいに俺に能力が!?」

古泉「安心してください。あなたは記憶障害があるだけの一般人です」

キョン「…………」

古泉「それに団長直々にご友人として選ばれた存在ですから。それだけで僕は阿万音さんを信じることができます、いえ信じねばなりません」

古泉「明日、ブラウン管工房へ伺ってみましょう」



561:2015/08/11(火) 22:02:55.57 ID:
キョン「ハルヒの友人ねぇ。しかし、過去改変願望をキッカケとして異世界人と友達になるとはな……」

キョン「……なぁ、古泉。もしかしなくても、ハルヒの過去改変願望のせいで、未来ガジェット研究所を悲劇の運命に遭わせてしまっているんだろうか」

古泉「……いずれ指摘されると思っていたので反論を用意させていただいてます」

キョン「準備がいいな。反吐が出る」

古泉「まず、過去を変えたいと願う気持ちはほとんど全ての人間の中に経験的に湧き起こる願望と言って差し支えないでしょう」

古泉「実際D世界線の涼宮さんでさえ過去改変願望を所持していた。その意味で涼宮さんの場合、通常の人間的な思考が、本来あるべきではない特殊な力によって具現化してしまっただけに過ぎないと考えられます」

キョン「つまり、力に翻弄されただけ、ハルヒに罪は無い、ってことか。そんな理屈が通じるかよ」

古泉「アドルフ・アイヒマンの従順的無罪の主張には多くが耳を貸しませんでしたからね、あなたの言うことはごもっともです」


562:2015/08/11(火) 22:04:31.22 ID:
古泉「もう一つ反論です。仮にも椎名まゆりさんは涼宮さんの友人にカテゴライズされているはずです。ならば、どうして朝比奈さん系列の未来人組織が彼女の人命救助に名乗りを上げないのでしょう」

キョン「そんな未来のことなど知るか。ハルヒのために動くと言っても、たとえ大人版朝比奈さんでも世界の安定と友人の命を秤にかけた結果、見捨てているのかもしれない」

古泉「あるいは、そもそもこの現状が朝比奈さん系未来人の言う『未来』に繋がっているから。既定事項だから、かもしれませんね」

キョン「……ハルヒのせいではなく、朝比奈さんたちの世界のためにラボが犠牲になってると?」

古泉「あんまり怖い顔をなさらないでください。可能性に過ぎませんが、涼宮さんが全面的に悪いわけではない。これは確信を持って主張できます」

キョン「それは、わかるけどな、しかし……」


563:2015/08/11(火) 22:06:48.54 ID:
古泉「それではもう一つ。D世界線という、SOS団が秋葉原と本来関係を持たないはずの世界においてさえ未来ガジェット研究所は電話レンジ(仮)を開発していました。おそらくそのうちタイムリープマシン、将来的にはタイムマシンをも開発します」

古泉「一方涼宮さんは不安定ながらもシステム改変を消去するという、狙いすましたような願望を2034年に実現させているようです。つまり、涼宮さんはその神の力を消極的に発動してしまっただけであって、神の力を以って積極的に元に戻している」

キョン「お前、前にハルヒは神そのものではなく神の如き存在から力を与えられた人物だとか言ってたよな」

古泉「以前に申し上げた通り、涼宮さんの願望実現能力それ自体は縮小しています。しかし、彼女は進化していたのです。感情的能力よりも、むしろ意識的能力へとシフトしていたと言える。無自覚ではありますけどね」

古泉「ゆえに“神”なるモノが存在するとすれば、涼宮さんはソレにまんまと嵌められ、その上で自ら後始末をしたと考えられます。人間なら誰もが持つであろう感情を利用された意趣返しとして、それを意識的に処断した」

古泉「この“神”を冒涜したのはむしろ未来ガジェット研究所の知的好奇心と言う名の禁断の果実であり、それはまた因果の輪に閉じ込められた“偶然”の産物に過ぎないと言えるのではないでしょうか」

キョン「……お前、本気で言ってるのか」

古泉「理論的には。それに気持ち的にも。あのラボと涼宮さんと、どちらを感情的に選択するかと問われれば、僕は逡巡することなく涼宮さんを擁護します」

キョン「どうして発想がそう極端になるんだ」

古泉「ともかく、あの方々と付き合うのに贖罪の意識は必要ありませんよ。あなたが思い悩むことは他にあるはずです」

古泉「IBN5100を手に入れること。これは我らが団長の願いであり、未来にとっても鍵となっています」

古泉「それだけです。未来ガジェット研究所はSERNさえも操る巨大な裏社会組織に狙われている。僕たちは不必要な交流は慎むべきです、本来は」


564:2015/08/11(火) 22:09:03.12 ID:
キョン「本来は?」

古泉「今回は世界線変動によって事件をなかったことにできますからね。応用は利くと思います」

古泉「それに昼間にも言いましたが、ディストピア回避は我々SOS団としても目標にして行動すべきですが、それにはどうしてもラボの方々と協力しなければならない」

キョン「お前の話はホンットまどろっこしいな! 要は人道的道徳観にのっとってがむしゃらに行動すればいいってことなんだろ!?」

古泉「だって、そのほうがおもしろそうじゃないですか」ンフ

キョン(古泉の脳内は猛暑の影響で異常気象が発生しているらしい。明らかに思想がハルヒと同調してきている。……まぁ、嫌いじゃないけどさ)


568:2015/08/11(火) 22:48:15.46 ID:
2010.08.13 (Fri) 14:50
大檜山ビル ブラウン管工房


キョン(朝飯まで俺がおごることになった阿万音さんはバイトだからと言って早々に宿を出てブラウン管工房へと向かった。まぁ、誰かさんと違っていちいちおいしそうに食べてくれるんだ、悪い気はしない)

キョン(午前中の捜索は妙に緊張感のあるものだった。そりゃそうだ、今日こそが阿万音父捜索の打ち切り、デッドラインなのだからな)

キョン(にもかかわらず俺たちも未来ガジェット研究所もめぼしい手掛かりを手にしていなかった。あの傲岸不遜なハルヒの顔にも焦りが見えた)

キョン「さて、そんな団長様の期待に応えられるといいんだけどな」

古泉「機関の人員をこの近くに再配備しました。有事の時はすぐ動けますのでご安心を」

キョン「どうやら阿万音さんは居ないようだな」

古泉「ラジ館へ向かったとの情報が入っています」

キョン「よし、それじゃ乗り込む……か……?」

??「お兄ちゃんたちだあれ?」


570:2015/08/11(火) 22:50:53.09 ID:
キョン(お、お兄ちゃん……だと……。あぁ、うちの妹にこの子の爪の垢をペースト状にして飲ませてやりたいね)

古泉「これはこれは失礼しました。ちょっと店長さんとお話がありましてね。中に入ってもよろしいでしょうか」

キョン「こんな小さな子にそんな口調じゃ慇懃無礼だと思うがな」

??「お父さーん。お客さんだよー!」

キョン「ほらみろ。あんまり敬語使うもんだからお得意さんかなんかだと勘違いしちゃったじゃないか」

古泉「うーん、正直ブラウン管テレビは要りませんが、機関の資金で購入してもかまいませんよ。部室に備え付けても面白いかもしれません」

天王寺「おう綯! えらいなぁ、ちゃんとお客様対応ができたのか! どこぞの放浪バイトとはデキが違うなぁ~よしよし!」

綯「お父さんおひげくすぐったいよー」


キョン「どう見ても子煩悩な良きパパにしか見えないんだが」ヒソヒソ

古泉「あるいは、あの子を人質にスパイ活動を強要されているとか」ヒソヒソ


天王寺「なんだぁ、おめぇら。岡部んとこの新顔じゃねぇか。またクソうるせぇ実験でもするのか、あぁん?」

キョン(こ、こえぇーーッ!? さっきの猫なで声はなんだったんだよ!! 怖すぎるだろこのオッサン!!)

古泉「い、いえ。それとは別件でお話をしたいことがありまして」

天王寺「あぁ? なんの話だ」

古泉「橋田鈴さんのご家族について、なのですが」

天王寺「橋田……鈴……。あぁ、そういや、今日がその日だったなぁ」

キョン(その日?)


571:2015/08/11(火) 22:52:24.52 ID:
天王寺「なんだおめぇら。鈴さんの知り合いなのか?」

古泉「いえ、そうではありません。実は橋田鈴さんのご親戚という方から探偵依頼を受けましてね」

天王寺「なっ!? あの鈴さんに、親戚が居たってのか!?」

古泉「クライアントの情報は信頼するのが探偵ですが、個人的な意見を申しますとおそらくその方は親戚ではありません。遺産目当てなのでしょう」

天王寺「は、はぁ。ふてぇ野郎が居たもんだぜ。ってかお前さん、そんなちっこいなりして探偵なのか?」

古泉「僕みたいな高校生でないと調べられない事柄もあるんですよ。どんなところにも需要はあります」

天王寺「ははぁ。ブラウン管工房の前でそのセリフたぁ、兄ちゃんわかってんなぁ」

天王寺「気に入った、鈴さんについて色々教えてやるよ。但し、鈴さんに有利になるように動くんだぞ?」

古泉「もとよりそのつもりですよ。信頼していただけて光栄です」

キョン(こいつはいつから心理系の超能力者に転向したんだか)


572:2015/08/11(火) 22:54:00.73 ID:
2010.08.13 (Fri) 15:10
御徒町 天王寺家居間


古泉「わざわざご自宅にまで案内していただいてありがとうございます」

天王寺「いいんだいいんだ、俺もちょいと用事を思い出したからな」

キョン「なかなか趣のある御宅ですね」

天王寺「わかるかぁ、兄ちゃん。実ぁな、この家も鈴さんから頂いたものなんだよ。頂いたっつーか、成行きでそうなっちまったんだが」

キョン(この辺は機密じゃないのか。さて、どこからどこまでが陰謀なんだろうな)

古泉「ご自宅が橋田さんの遺産でしたか」

天王寺「あと鈴さんからもらった遺産はうちの工房にある42型のブラウン管テレビだな。生前は秋葉とかいう大地主に預からせてたらしいが」

キョン(42型ブラウン管ねぇ……長門が言ってたリフターってやつかも知れんな)

古泉「随分親しいようですね。天王寺さんは、橋田さんとはどのようなご関係で?」

天王寺「まぁ、お隣さんってやつだったんだ。初めて会ったのはよ、俺がこの街に来た時に綴……あ、いや、その、女の子をコソ泥から助けた時にな、俺を犯人だと勘違いした鈴さんが俺のことをぶん投げて……」

キョン(昔話は長くなる鉄則があるらしい)

天王寺「……とにかく、どういうわけか俺のことをえらく気に入ったみたいでなぁ、実の息子のように良くしてもらったんだよ」

古泉「素敵な思い出ですね。それからもう一つ、橋田さんは登記上西暦2000年の6月後半にお亡くなりになっているようですが、どのような状況だったかご存じですか?」

天王寺「いよいよ探偵じみてきやがったな。まぁ、茶でも飲んでくれや」


573:2015/08/11(火) 22:55:29.51 ID:
天王寺「ここで首を吊って死んでたのを俺が見つけたんだ。そんなことになる1年くらい前から精神的に不安定になってな……」

キョン(わかっていても、つらいな)

古泉「精神的に? 例えば、なんらかの組織からの脅迫行為や金銭的なトラブルなど……」

天王寺「そんなことは断じてねぇ! あの人は、あの人だけは潔白なんだ!」

古泉「えぇ、僕もそうであってほしいと願っています。ですので、どのように不安定になったか、わかる範囲で構いませんので教えていただけないでしょうか」

天王寺「……なんだかな、別人みたいに、あいや、根っこのところは鈴さんなんだが、なんというか、記憶が混濁しているようになっちまったんだよ」

キョン(記憶……?)

天王寺「自分を18歳だと勘違いしたり、あのときゃ平成11年だったが、平成22年だと思い込んだり……。まだ42、3で若いのに、最初は認知かなにかかと疑ったが、それでも自分が間違ったことを言ってることもわかってるらしくてな、痴呆じゃぁなかった」

古泉「……なるほど。もしかして、同時交差性多重人格、つまり特殊な解離性同一性障害かもしれませんね。しかもその人格は若かりし頃の自分であり、将来の自分であった」

天王寺「そ、そんな病気があるのか!?」

キョン(嘘八百もいいところだ)


574:2015/08/11(火) 22:56:49.49 ID:
古泉「民事的には十分に責任能力が無いと判断しうる病状です。これで探偵依頼の件はうまいこと煙に巻けそうですよ。ご協力感謝します」

天王寺「いやいや、こちらこそ鈴さんのことを知ってくれている人が居るってわかっただけでよかったよ。あの人は男も作らなかったしな」

キョン(阿万音さんが天涯孤独だったのは朝比奈さんと同じ理由だろうな。朝比奈さんが言うには、タイムトラベラーは滞在先で恋愛をしてはいけない、なんていうふざけたルールがあるらしい)

天王寺「その上、あの人の葬式にゃ、結局親戚らしい人は一人も来なかったんだ」

キョン「そういや、どうして橋田さんのご家族はいらっしゃらないのでしょう」

天王寺「……わからねぇ。昔一度、家族は居ねぇのかって聞いたことがあるんだが、そん時ゃ『居るけどもう会えない』とだけ言ってたな。言った後、自分でも自分の言葉を不思議がってたようだが」

天王寺「余計なことは教えるくせに、自分のこととなるとからきし秘密の多い人だった」

天王寺「実ぁな、一度俺も“探偵”に頼んで鈴さんの経歴を調べてもらったことがあったんだが、1975年以前の経歴は一切不明だって話だった」

キョン(“探偵”ねぇ……。なんとなく、取ってつけた感のある言葉選びだな)

天王寺「……わかんねぇけど、もしかしたら時代の闇が生み出した孤児だったのかもな。鈴さんのそんなところに俺は惹かれてたのかもしれない」

キョン(……?)


575:2015/08/11(火) 22:57:51.27 ID:
古泉「お茶、ごちそうさまでした」

天王寺「ついでに工房の前まで連れて行ってやるよ」

キョン「いえ、そんな申し訳ない」

天王寺「いいんだいいんだ。『巡り巡って、人は誰かに助けられ生きてる』。覚えとけよ、坊主ども」

古泉「素敵な言葉ですね。心に閉まっておきます」

天王寺「いやなに、俺もあの未来なんたら研究所に用があるんだ」

天王寺「実はな……、鈴さんから頼まれてたんだよ。この手紙を、今日この日、あのビルの二階を借りてる野郎に渡してくれ、ってな」

古泉「まるで未来予知です」

天王寺「そうなんだよなぁ。鈴さんの言うことはわけがわからねぇことばっかりだった。突然頭痛みたいのがあったと思うと、変なこと言うんだ。」

キョン(頭痛ね。記憶に頭痛と来たもんだ)

古泉「もしかしたら橋田鈴さんは超能力者だったのかもしれませんね」

天王寺「おい、あの変態白衣野郎の前でそんなこと言うんじゃねぇぞ。またヘンテコな研究でもされたら困るからな」


576:2015/08/11(火) 22:59:39.30 ID:
軽トラ車内


キョン「狭いぞ、俺と接触しないよう空間を作れ」

古泉「無茶言わないでください」

ビー、ビー、ビー

古泉「おっと、岡部さんからメールです。『阿万音鈴羽の父親は橋田至』……なんと」

キョン「あ、あのデブが阿万音さんの親父!?」

古泉「ピンバッジの件もありましたし、バレル・タイターという名前も……、合点の行くことは多いですね。実際“橋田鈴”を名乗るわけですし」

キョン(そうか、宇宙人&未来人による阿万音父捜索に対して未来人上司からNGが出たのは、もう既にそれを俺たちが実行し作戦完了していたからだったわけだ)

キョン「それにしても似ても似つかないだろ、あの体型……」


天王寺「なんだ、バイトの野郎の親父が見つかったのか?」

古泉「えぇ、らしいです。このまま東京を離れるそうですよ」

天王寺「そうか……。それでアイツ今日様子がおかしかったんだな。ったく、辞表ぐらい出せってんだ。まともに働きもしねぇでよぉ」

キョン(俺たちの宿を出たのが最後の出勤だったわけだ。だが、親父を探し出すというミッションが達成されたというのに、この虚無感はなんだろうね)

キョン(ミッションが達成されたということは、タイムマシンで1975年へ飛び立ったということと同義だろう)

キョン(……せっかく親父の正体を知ってタイムトラベルしたのに、いずれ記憶障害を起こすんだよな。後生だ。運命とやら。なんとか親父の名前だけは死ぬまで覚えさせておいてくれよ)


577:2015/08/11(火) 23:00:53.38 ID:
2010.08.13 (Fri) 16:10
大檜山ビル前


天王寺「そいじゃ、渡してくらぁ」カツ、カツ


キョン「……あの手紙の内容はなんだと思う?」

古泉「過去からの手紙、というのは非常にそそられるアイテムではあります。実際、BTTF2ではドクことエメット・ブラウンが生きている西部時代へ進むためのキーアイテムでした。ですが」

古泉「……今までの情報から推測すると、あまり良い内容ではなさそうです」

キョン「……なぁ、古泉」

古泉「僕も同じことを考えてました。急いで宿に戻りましょう」


578:2015/08/11(火) 23:05:08.67 ID:
2010.08.13 (Fri) 16:18
湯島某所


キョン「あんまり気は進まないがな」

古泉「でしたら僕だけが実行犯ということでも構いませんよ」

キョン「ここまで来たら騎虎の勢いだ、俺にも聞かせてくれ」

古泉「それではこちらをどうぞ」スッ

キョン「あぁ……。それじゃ、頼む」カチャ


??『……今は西暦2000年の6月13日です』


キョン「結構ノイズが多いな」

古泉「こんなものですよ。ちょうど岡部さんが手紙の内容を音読してくださっているようです」


579:2015/08/11(火) 23:07:15.48 ID:

岡部『結論だけ書く。失敗した……!?』



『失敗した、失敗した、失敗した、失敗した……あたしは失敗した、失敗した……』

『あたしがあたしだということを思い出したのはほんの1年前だった』

『あたしは24年間、記憶を失っていた』

『タイムトラベルはうまく行かなかった』

『修理が完全じゃなかったんだ。でも父さんは悪くない。あたしが悪いんだ』

『まっすぐ1975年に飛んでいればよかった。2010年に寄り道すべきじゃなかった。わがままを言ってる場合じゃなかった』

『これじゃ、未来は変わらない』

『IBN5100は手に入れられなかった』

『ごめん、ごめんね』

『あたしは、何のためにこの歳まで生きてきたんだろう』

『使命を忘れて、ただのうのうを生きてきた』

『許して、許して許して許して』

『岡部倫太郎、君はあのタイムマシンオフ会のあと、1975年に飛ぼうとしたあたしを引き留めた』

『引き留められたその夜に雷雨があって、タイムマシンが壊れてしまったんだ』

『もしも時間を戻せるなら、あの日のあたしを引き留めないようにしてほしい』

『ごめん、ごめんごめん』




岡部『こんな人生は、無意味だった―――――――』



581:2015/08/11(火) 23:09:37.12 ID:


キョン「……………」


古泉「……長門さんばりの三点リーダですね。いえ、お気持ちはすごくわかりますが」

キョン「状況はある程度理解していたが、実際に本人の言葉を聞いちまうと、ちょっとな……」

古泉「気休めにもなりませんが、この手紙を書いた人物と僕らの知っている阿万音さんは一応別世界の人間です。ほとんど近似した存在ですが」

古泉「これで阿万音さんが1975年に到着してすぐ施設に入っていた理由がわかりましたね。本当に記憶喪失だったとは」

キョン「結局、俺たちの親父さん探しは無駄になっちまったってわけだ」

キョン「そもそもなんで阿万音さんは記憶障害になったんだ? それも1975年に着いた途端に」

古泉「単に頭の打ちどころが悪かった、という可能性もあるでしょうが、ここは折角なので世界線的解釈をしてみたいと思います」


582:2015/08/11(火) 23:16:11.72 ID:
古泉「あの人工衛星型タイムマシンは時間移動の際多少なりとも世界線を移動してしまう代物らしいですね」

古泉「本来世界線の再構成を無視して世界線を移動する際、記憶を継続させるにはリーディングシュタイナーを発動させなければならない。しかし阿万音さんはあなたや岡部さんのような完ぺきな能力者ではなかった」

古泉「1975年にマシンが到着すると同時にこの世界線、現在僕らがいる世界線の因果律に合うよう記憶が再編成されるはずですが、昭和50年代に阿万音鈴羽という人間の脳は本来存在していない」

古泉「ゆえに“本来存在していない”という再構成が実行されるため、リーディングシュタイナーを所持していないにもかかわらず現象的には記憶の消失という状況のみが発生し、すっからかんになった脳に生存本能が働き、必要最低限+αの記憶が世界外記憶領域からダウンロードされたのだと思います」

キョン「それじゃ安全性に難ありもいいところだ」

古泉「対応処置がマシンに搭載されていたのでしょう。人工リーディングシュタイナー、あるいはアンチ記憶再編システムのような機能が」

古泉「だからこそ阿万音さんが2036年から2010年へ飛んだ際は記憶障害は発生しなかった。そして8月9日の雷雨によって破壊されていた機能はまさにここだったのでしょう」

古泉「1975年にラジ館が破壊されていないことから出現座標計算装置は直っていたようですが、人工リーディングシュタイナーはさすがの橋田至さんでも直せなかった」

古泉「また、1975年、ラジ館屋上に巨大な不審物が出現したという情報もありません。これについては、搭乗者が降車次第マシンが宇宙空間に転送されるよう予め設定していたか、あるいは事故でそうなってしまったか」


583:2015/08/11(火) 23:19:36.28 ID:
キョン「……あれ? でもどうして橋田鈴、というか阿万音さんは記憶を失っていたのに、のちの未来ガジェット研究所につながるような行動をとってたんだ?」

古泉「1975年から生活を始めた橋田鈴、阿万音さんは断片的に世界外記憶領域から記憶をダウンロードしていき、そして1999年に多くを受信するのです。24年前に、あるいは11年後に失ったはずの記憶を」

古泉「断片的な記憶というのは、近接した世界線の記憶、すなわち岡部さんが世界線改変をした一つ前の世界線での記憶」

キョン「聞いたのか?」

古泉「メールで教えていただきました。橋田鈴さんの手紙にもあった通り、8月9日、あの雷雨の日へ向けて、岡部さんはDメールを送った。阿万音さんを過去へ行かせるな、と」

古泉「つまり、時間進行的に直前の世界線の記憶は、故障していないタイムマシンで1975年に到着した後、記憶を保ったまま2000年まで生きた世界線の記憶となります」

古泉「これがデジャヴとして受信された。特に本来自分の脳が存在する未来と繋がっている事象を中心として記憶のダウンロードが発生したのでしょう」

古泉「ゆえに無意識的に天王寺裕吾氏に親しくし、物理学者となってタイムマシン研究をし、大檜山ビルを入手していたのだと思われます」

古泉「IBN5100はさすがに無意識的に入手することはなかったようです。あるいは、タイムマシンが消滅していたために換金財が無く金銭的に不可能だったか」

キョン「なんとも不安定なシステムだな、リーディングシュタイナーさんよ」

古泉「まさにエスの領域ですからね。論理武装で太刀打ちできそうにありません」


584:2015/08/11(火) 23:21:00.57 ID:
古泉「さて、この手紙を読んだ岡部さんはどのような行動に出ると思いますか?」

キョン「そりゃ、雷雨の日、つまり8月9日の自分にDメールを送り、阿万音さんが1975年へと飛ぶのを邪魔しないようにするんじゃないか。俺がハルヒの過去改変を打ち消した時のように」

古泉「次に世界線が変わった場合、岡部さんはほぼ間違いなくそのような行動を取ったのだと判断できます」

古泉「ですが、そうなると8月9日から本日8月13日までの、阿万音さんとの思い出がなかったことになる」

キョン「……となると、阿万音さんは親父の正体を突き止められないまま過去へ飛んじまうのか」

キョン「ってことは1975年時の偽名も“橋田”じゃなくなるのか?」

古泉「それはわかりません。そもそもこの世界線の阿万音さんだって記憶障害の中“橋田”を名乗るわけですから、ここだけは世界外記憶領域からのダウンロードかもしれません」

古泉「それならば父親の正体を知らずとも“橋田”を名乗ることになるかもしれませんね」

キョン「SOS団と遊んだこともなかったことになっちまうんだよな」

古泉「宇宙の彼方へバックアップされたままになるかと」


585:2015/08/11(火) 23:25:23.97 ID:
古泉「結局、阿万音さんが命を賭して我が物にせんとしたIBN5100は手に入れられなかった。そのため、あなたが以前の世界線で聞いていた秋葉幸高氏がフランス人の実業家にIBN5100を売った、という因果が消滅してしまっていた」

キョン「……なぁ、俺たちにはもう一つ手段が残ってるはずだ」

古泉「お聞かせください」

キョン「まず、岡部さんのDメール送信を止める。世界線を変えさせない」

古泉「それではIBN5100を阿万音さんが入手することはできません」

キョン「俺たちが手に入れればいい」

古泉「手段がありません。TPDDでは2006年以前にタイムトラベルはできない。IBN5100が販売停止となる1982年には到底届きません」

キョン「この世界に現存してるIBN5100は他にもあるだろ」

古泉「あったとしても故障している可能性が非常に高い。マシンとしては使い物にならず、かつ日本円にして1億以上の資金が必要です。交渉次第では数倍に膨れ上がる可能性も」

古泉「さすがに機関でも、SOS団名誉顧問である鶴屋家次期当主のスポンサー力を借りたとしても用意できません」

キョン「長門の力を借りれば、故障も直せるだろうし、金だって……」


586:2015/08/11(火) 23:26:54.84 ID:
古泉「それには機関の諜報能力とTFEIとの連携が必要となりますが、あまりにもリスクが大きい」

古泉「世の中、金さえあればなんでも解決できるということはなく、信用、人間性、社会的地位や互恵関係も必要です」

キョン「だが、IBN5100を使って1%の壁とやらを超えればすべてなかったことになる。リスクもなにも、全部なかったことになるんだ。だったらそれこそ地球をひっくり返すようなウルトラCをかましても問題ないんじゃないか?」

古泉「本当にそれしか手段がないというのであれば試さないわけにはいきませんが、他にも手段があるならば先にそちらを試すべきだ」

古泉「……老婆心ながら私見を述べさせていただくと、たとえ父親の正体がわからなくとも記憶を維持したまま1975年に飛んだほうが阿万音さんにとって幸せな人生になると思います」

キョン「……そう、だな」


587:2015/08/11(火) 23:28:30.80 ID:
古泉「もう一つ反証があります。岡部さんは度重なるタイムリープにおいて椎名さんの命を救おうとしたが、結果すべて失敗に終わった」

古泉「その世界線の中には先ほどあなたが提案したウルトラCも含まれていたことでしょう」

古泉「すなわち、僕たちが涼宮さんの願望実現能力および長門さんの情報操作を利用して椎名さんを救う、というものです。勿論、SOS団の特殊能力について岡部さんに公表することは無かったと思いますが」

キョン「なっ……!! そうか、俺が今こんな提案をしたくらいなんだから、試したはずだよな。それでも世界線の収束には抗えなかった、だと……」

古泉「それほどまでに世界線の収束は強力だということです。これでウルトラCは万能ではないことが証明されました」

古泉「たしかに世界線を変動させれば涼宮さんの能力を使いまくろうが“なかったことになる”わけですが、それはあくまで越えられればの話。獲らぬ狸の皮算用で世界を危険にさらすことはありません」


588:2015/08/11(火) 23:30:47.26 ID:
キョン「……だけどな、古泉。お前は阿万音さんの最期についてなんとも思わねぇのかよ! なんとかならねぇのか、方法はもう無いってのか? こんなのってあんまり―――――――――――――


D 0.409431%
2010.08.13 (Fri) 16:40
湯島某所


――――――――――――だッ!! ぐあぁッ!!!」ガタッ

古泉「おや、どうされました……。まさか、また世界改変ですか?」

長門「汗がひどい。タオルと水を持ってくる」トテトテ

キョン「はぁ……はぁ……。こっちの世界は長門が宿に居るのか。いつまで経っても慣れないな、これ」

古泉「それで、今度は何があったのです?」

キョン「あぁ、簡単に説明するとだな……」


589:2015/08/11(火) 23:33:31.56 ID:
古泉「阿万音鈴羽という人物が例の人工衛星の乗組員でしたか。人工衛星は8月9日に消滅したと報道されていましたが。それに、椎名さんにはそのような運命が待ち受けているとは……」

キョン「この世界線でも今日の夜亡くなるかもしれない……、その理由は収束なわけだが、正直俺にはよくわからない」

長門「飲んで」

キョン「おぉ、冷たい水か。サンキュー長門。そういや……、またアレをやるのか」

長門「」コクッ

キョン「この世界線でもハルヒの改変は俺が阻止したことになってるんだな」

古泉「そうですよ。例のD世界線……、という名称は通じますか?」

キョン「腹立たしいくらいにな」

長門「こっち向いて」

キョン「あ、あぁ……。よし、どんとこい!」ピトッ

キョン(あぁ、ひんやりしたおでこだこと……)


590:2015/08/11(火) 23:34:35.73 ID:
古泉「しかし、そのリーディングシュタイナーという能力はうらやましいですね。僕もあなたと過ごした前世の記憶を引き継げればいいのですが」

キョン「気持ち悪い言い方をするな」

長門「可能」

キョン「ん? 何が可能なんだ長門」

長門「古泉一樹の世界外記憶領域にバックアップされた世界改変直前の情報と、現在の記憶とを置換すること」

古泉「えぇッ!? 本当ですか長門さん! 是非お願いします!」

キョン「少しは遅疑逡巡したらどうなんだ……」


591:2015/08/11(火) 23:35:46.88 ID:
古泉「―――――――ッ!!! これは、いったい……。僕は、あれ、どうして……?」

キョン「生き返らせてやったぜ、あっちの古泉さんよぉ」

古泉「……つまり、長門さんの能力を用いて僕のリーディングシュタイナーを強制発動させたのですね」

キョン「理解の早さだけは感心するぜ。なんか脳みそがかゆくならないか?」

古泉「えぇ、それよりも大変不思議な気分ですね。あの世界線での出来事を覚えているのが僕とあなたと岡部さんだけだなんて」

キョン「そこか。まぁ、俺なんかは去年の冬からもう慣れっこだけどな」

長門「…………」

古泉「そう言えば提案しそびれていたのですが、TPDDを利用して今から8月9日へ向かって、タイムマシンに乗り込む前の阿万音さんに父親の正体を教える、というのはどうでしょう」

キョン「……!! 古泉にしては冴えてるじゃないか!!」

古泉「恐縮です」ンフ


592:2015/08/11(火) 23:37:59.22 ID:
キョン「長門ッ!! 朝比奈さんは今どこに!?」

長門「UPXにて開催されている雷ネットアクセスバトラーズグランドチャンピオンシップというイベントに涼宮ハルヒと参加中」

キョン「は、はぁ!? この世界線はなんでそんなわけのわからんことになってるんだ……」

キョン(雷ネット翔っつったら、うちの妹がよくテレビで見てたっけ)

長門「わたしも行きたかったが班分けの結果。仕方がない。仕方がない」

古泉「阿万音さんの父親捜しをする因果が消滅したからなのでしょうが、しかし困りましたね……。ラボのタイムリープマシンでは48時間が限度だと言いますし……」

キョン「そもそも今回に関して朝比奈さんの上司がタイムトラベルをOKしてくれるとは限らないか……」

長門「タイムリープマシンなら作れる。牧瀬紅莉栖の作業をラーニングした上で改良を施す」ヒュォォォ

キョン「……おぉ?」

長門「……完成した。二人同時に最大1975年6月XX日まで飛ばせる。受信機は不要。もちろん個人の脳が存在する時間長に適宜限定される」

キョン「……お袋の腹の中までならやり直せるってことか」

古泉「見た目はCDウォークマンにヘッドホンが二つ差さっているような感じですね」

古泉「いかに未来ガジェット研究所が地に足のついた科学的研究だったかを思い知らされます……」


593:2015/08/11(火) 23:39:02.72 ID:
長門「目標時刻は2010年8月9日、わたしたちが皇居前広場に居たタイミングでいい?」

キョン(このタイミングを指定したのはハルヒに言い訳ができるタイミングだからだ。この後ならあとは宿に帰るだけだし、別行動をとってもハルヒがむかっ腹を立てることは無いだろう)

キョン「あぁ。特大ホームランでかっ飛ばしてくれ」

古泉「いよいよ人生初のタイムトラベル……。楽しみですね」

長門「ヘッドセットを装着して」

古泉「ラジャーです!」スチャ

キョン「念願叶ってよかったな。若干気持ち悪いからテンションを下げろ」スチャ

長門「いってらっしゃい」ポチッ

バチバチバチ……

キョン「うぐっ……、う、うあぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


594:2015/08/11(火) 23:40:28.13 ID:
2010.08.09 (Mon) 20:15
皇居前広場 二重橋前


キョン「ふぬぅ!!!!」

古泉「ふんもっふ!!!」

ハルヒ「」ビクッ

ハルヒ「ど、どうしたの二人とも? 突然奇声を上げたりなんかして……。皇宮警察にしょっぴかれるわよ?」

キョン「不当逮捕もいいところだ!」

キョン「ハルヒ、すまんがどうやら東京タワーでソフトクリームを買った時に財布を落としてしまったらしい」

ハルヒ「はぁ? まったく、だらしないわねぇ」

古泉「僕もどうやら同じところに財布を置いてきてしまったようです」

キョン「というわけだ。俺たち二人は一旦東京タワーに戻る。悪いが三人は先に宿へ戻っててくれ」

ハルヒ「古泉くんもなの? 仕方ないわねぇ……」

みくる「なんだか空模様が怪しくなってきました……」

キョン「ほら、雨に打たれる前に宿に戻っとけよ」

ハルヒ「わかったわよ…...」


595:2015/08/11(火) 23:41:57.31 ID:
2010.08.09 (Mon) 20:42
秋葉原


キョン「うまいことハルヒをまけたな。それじゃそのタイムマシンオフ会とやらに行ってみるか」

古泉「場所は判明していますが、どうやら現在岡部さん、椎名さん、橋田さんの3名によって阿万音さんは尾行されているようです」

キョン「なんと、そうだったのか。鉢合わせするのもマズイか……? ってか、そうか! あの時阿万音さんは結局父親に会えていたんじゃないか!」

古泉「運命のいたずらですね。しかし、確かにあの体型の橋田さんを見て、自分の父親だと思うのは難があるかと」

古泉「……おや、阿万音さんがオフ会会場から移動したと情報が入りました。このまま1975年へ飛ぶつもりですかね」

キョン「せっかくタイムリープしてきたのに会えもしないなんて笑えないぜ」

古泉「あのタイムマシンの前で待っていればさすがに会えるでしょう」

キョン「だがどうやってラジ館に侵入する?」

古泉「それはもう、機関のマンパワーを使いますよ。皆さんよろしくお願いします」

新川「はい」

森「かしこまりました」

田丸兄弟「「了解です」」

キョン「うわっ、急に現れると心臓に悪いって」


596:2015/08/11(火) 23:43:02.18 ID:
キョン(圭一氏と裕氏は警備員服、新川さんは相変わらずタクシーの運ちゃんか。ということはどこかにタクシーも待機させてあるのだろう)

キョン(そして森園生さんは印象的なメイド服ではなく、2月に見せたあのOLルックである。夜のとばりの下りた半ば廃墟化したこのビルの中で、サプレッサー付ハンドガンでも構えさせようものならその姿はまごうことなき“機関”の一員っぽいナリである)

古泉「さすがに今回ピストルは所持していません。リスクが高いですからね。それに、そのようなものが無くても我々は充分に立ち回れます」

キョン(慢心でないことを祈ろう)

田丸裕「古泉、開きました」

キョン(制帽の下に覗く好青年顔が開錠の旨を告げる)

古泉「それでは、状況開始と行きましょうか」


597:2015/08/11(火) 23:44:31.77 ID:
2010.08.09 (Mon) 20:55
ラジ館 8F


コツコツ……

キョン(そこは元々多目的ホール、あるいは会議室といった場所だったのだろうが、外壁は見事に破壊され、樽型の人工物によって占拠されていた)

キョン「実物を間近で見るのは初めてだな……。朝比奈さんのとは比べ物にならないほどタイムマシンっぽいタイムマシンだ」

キョン「そういえば、秋葉原に来る前に朝比奈さんは、未来からこの人工衛星についてなにも報告が無かったと言っていたな」

キョン(結局それはいつものやつだったということだろう。つまり、『当時のあたしは知らなかったから教えるわけにはいかなかったんです』というテンプレートだ)

キョン(まぁ、世界線がポンポン変わる今回の騒動じゃ、仮に7月28日の時点でこれがタイムマシンだと判明していたところで何も変わらなかったんだろうけどな)

キョン(だが、変わらないなら教えなくてもいいってのは違うぜ。どうして未来組織は寄ってたかって朝比奈さん(小)をイジメたがるんだろうな……)

古泉「本物の警備員への対応は田丸兄弟に任せましょう。あとは阿万音さんが来るのを待つだけかと」

キョン「あぁ、そろそろくるだ―――」



鈴羽「動くな。動くとコイツを殺す」スッ




598:2015/08/11(火) 23:45:46.43 ID:
キョン「……!?!?」

キョン(あ、足音もなく!? いつの間に背後を取られたんだ!?)

キョン(首を軽く絞められ、目の前には少し錆びついた飛び出しナイフが突きつけられている……。またナイフなのかよ……)

鈴羽「外にいた仲間は気絶させたよ。動かれると厄介だからね」

キョン(あぁ、田丸兄弟よ、フォーエバー……。新川さんはさすがにご健在だよな?)

古泉「ッ! 落ち着いてください、阿万音さん。僕たちはあなたの味方です」

キョン(あっ、健康的なソレが俺の背中に当たっている……)ムニッ

鈴羽「もう誰も信じない。あたしに味方なんていないッ!」

鈴羽「……今すぐラジ館から出ていくんだ。そうしなければコイツは殺す」

古泉「わかりました、従います。……あとは頼みましたよ」ンフ

キョン「無茶言うな……!」

キョン(笑った、ってことは、なにか仕掛けておいてくれてるのか、古泉……)


599:2015/08/11(火) 23:46:58.54 ID:
キョン「あのー、阿万音さん? 俺のこと覚えてますよね?」

鈴羽「もちろん。昨日会った。まさか君がSERNの差し金だったなんてね……」

キョン「現代のSERNがどうやって阿万音さんを追跡するんですか、っていうのは通じませんか」

鈴羽「どうしてSERNという単語に疑問を持たない? それだけで君を敵視するのに十分な理由になる」

キョン(ジョン・タイターが掲示板でディストピアの主犯について言及していた、いやこれを言ったところで余計にこじれることは明白だな……)

キョン「聞いてくれッ! あんたはまだ2010年に寄り道した目的をまだ達成できていないはずだ!」

鈴羽「!? どうしてあたしがタイムトラベラーだと知っている!?……やっぱり君はどうあっても殺さなきゃならないらしい」

キョン(聞く耳ナッシングってか!? や、やばい……!! こうなったら……)ダラダラ


600:2015/08/11(火) 23:47:55.05 ID:
キョン「Help me、森さーーーんッ!!!」

鈴羽「!!?」ガキーン

森「今のをよく対応できましたね。それなりの腕があると御見受けしました」ブンッ

キョン(あっぶねーーーー!! どっから出したんだそのバタフライナイフ!? 俺の首まで飛ぶかと思った!!)

鈴羽「お前……、SERNの戦闘部隊員か!? ラウンダーかッ!?」

森「いいえ、わたしの所属は“機関”です。しがないメイドですよ」

キョン(この前この人『メイドは世を忍ぶ仮の姿』とか言ってなかったか……?)

鈴羽「機関……? まさか、この時代の岡部倫太郎の敵ッ!!!」

森「お手並み拝見といきましょう」シュン

鈴羽「は、早いッ! クッ!」ガキーン

森「あなたは実践経験は豊富なようですが、度胸が足りない……」グググ

鈴羽「あたしは説教が嫌いなんだよ……」グググ

キョン(ナイフvsナイフによる近接戦闘が眼前で展開されている……。で、どうするの俺!?)


601:2015/08/11(火) 23:49:44.31 ID:
森「防御時の構えがまるでなってません」ブンッ

鈴羽「きゃぁッ!!」カーン カラカラカラ……

キョン(阿万音さんのナイフが吹っ飛ばされた!)

森「今です! 離れて!」

キョン「お、おう! ありがとうございますッ!」ダッ

鈴羽「はぁ……はぁ……。絶対に、あたしの邪魔は、させない……」ギロッ

キョン「待ってくれ阿万音さん! 話を聞いてくれ!」

鈴羽「そうだね、聞いてあげようか……。あの世でねッ!」ブンッ

森「スモーク!?」

キョン(ごほっ、げほっ! しまった、このまま過去へ飛ぶつもりだ!)



鈴羽(さよなら。……ありがとう、岡部倫太郎)



キョン「待ってくれ! がほっ! お前の、あんたの父親の名前は、橋田イタ――――――ッ!!!」

森「下がって! くっ……!?」


―――――――――!!!!


キョン(金属的なシュインシュイン音と同時にどこかで放電しているようなバリバリという音が全身を襲い、周囲をブラウン運動していた煙が突然乱気流を発生させ身体を持っていかれそうになる。仄かに漂う刺激臭、なんだこれ、プールの消毒液の臭いか……?)

森「!? 消えた……」

キョン「行っちまったか……」


602:2015/08/11(火) 23:52:17.11 ID:

コツコツ……

古泉「お怪我はありませんか? 外からタイムマシンのフライトを眺めさせてもらいましたが、ちょっとしたスペクタクルでしたよ。あのキラキラしたチャフのようなモノはなんだったのか、なんにしても幻想的でした」

キョン「高みの見物たぁいいご身分だこった。こっちは森さんのお陰でなんとかなった」

古泉「お二人とも、お疲れ様です」

森「後で給金を上乗せで請求しておきますから」ニコッ

キョン「だが、どうやら親父の名前を伝えることはできなかったみたいだ」

古泉「もしかしたらそれもこの世界の収束なのかもしれませんね」

キョン「お前が言うと厨二臭くてかなわんな」

古泉「臭いと言えば、この臭いはオゾンでしょうか」

キョン「オゾン?」

古泉「とにかく、宿に戻りましょう。この時空間の涼宮さんたちが待っていますよ」

キョン「……帰れる場所があるってのは、こんなにも幸せなことだったんだな」


607:2015/08/12(水) 21:25:05.58 ID:



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◇Chapter.7 長門有希のファシーシャスネス◇
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※ファシーシャスネス:facetiousness 遊戯症


2010.08.09 (Mon) 22:30
湯島某所 玄関前




608:2015/08/12(水) 21:26:24.91 ID:
キョン「この中に何も知らないハルヒたちが居るのか……。いろんな体験をしてきた俺だが、タイムリープってやつはどうにも不思議だな」

古泉「4日前のこの日、皆さんは疲労困憊で早めにお休みになったと記憶しています。この記憶と目の前の現実が一致するなんて、不思議な現象ですね」

キョン「よかったな、よくないけど」

ガララッ

長門「……タオル」スッ

キョン「おう、長門か。悪いな、助かる」

古泉「ありがとうございます。傘は差していましたが、この雨では濡れないようにするのは大変でした」

キョン「それで長門。疲れてるところ悪いんだが、俺たちを4日後の未来へ戻してくれないか?」

長門「それはできない」

キョン「……へ?」


609:2015/08/12(水) 21:27:45.69 ID:
古泉「それは当然でしょう。タイムリープは“過去に記憶を送る”のです」

キョン「い、いやいや! 未来に送れない道理はなんだ!?」

古泉「未来へのタイムリープは結局、4日後のあなたが4日間の記憶を喪失することと同義です。そして4日後のあなたを成立させるには4日間の記憶が必要。おや、矛盾が生じてしまいましたね」

キョン「……てことはなにか。俺たちはまた8月10日から8月13日をやり直さなくてはならないのか」

古泉「少なくとも8月11日からの3日間は僕たちの記憶とは異なるものとなるはずです。夏休みが4日伸びたと思えばいいじゃないですか」

キョン「このオプティミストめ……」

ハルヒ「有希、どうしたの……って、キョン! 古泉くん!」


610:2015/08/12(水) 21:28:58.81 ID:
ハルヒ「遅い! どこでなにやってたのよ!」

キョン「すまんがハルヒ、怒るなら明日にしてくれ。もう全身くたくたなんだ」

キョン(人工衛星消失事件がまだ全国ネットで話題になってなくて助かったぜ)

古泉「遅くなりまして申し訳ありません、涼宮さん。ですが、この通り財布は見つかりましたので」スッ

ハルヒ「見つかったならよかったけど! 有希はどうしたの?」

古泉「僕たちにタオルを届けてくださいました」

長門「」コクッ

ハルヒ「……まぁいいわ。ほら、早くお風呂入って、明日に備えて寝なさい」

キョン(明日と言っても体感的には3日前なんだよなぁ……)


611:2015/08/12(水) 21:30:17.58 ID:
2010.08.10 (Tue) 00:03
湯島某所


ピカッ!ゴロゴロ…
ザーザーザー

キョン(さて、このイベントは回収しておく必要があるものなのだろうか)

キョン(やらずに後悔するよりやって後悔云々とはかの元殺人鬼こと現長門のバックアップさんの言葉であるが、しかしわからんものはとりあえずやっておくに越したことがないと思うわけで)

キョン(俺も眠いしな、早々に済ませてしまおう。どれ、やっこさんの殊勝なツラでも拝みに行くか)

キョン「おーい、誰か居るのか? 電気つけて」

キョン「居ないなら消すぞー、ってハルヒか。何してるんだ」

ハルヒ「アンタ、寝たんじゃなかったの?」


612:2015/08/12(水) 21:32:30.75 ID:
キョン(それから俺は俺の記憶通りに会話を進めた。まぁ、だいたい同じ発言の応酬になったと思う)

キョン(なんだか去年の12月に朝倉に刺された“俺”に俺が演技した時を思い出すな。もう慣れたもんだ)


ハルヒ「……後は、自分が許せない」

キョン「いつになく殊勝な発言だな」

ハルヒ「『変えたい過去が無いか』って聞かれた時に、悔しいけどちょっと心が動いちゃったのは事実よ。アンタも言ったけど、あたしにだってやり直したい過去の一つや二つくらいある」

キョン(ハルヒのやり直したい過去が、まさかジョンの正体を突き止めておきたかった、だとはな。それで俺とあんなことになっちまうなんて……)

ハルヒ「だけど……。やっぱり自分の過去はやり直したらいけないと思った。思い直したの」

ハルヒ「だって、もしやり直しちゃったら、今のあたしたち、SOS団の、みんなとの思い出が、無くなっちゃうような気がして……」

キョン「……心配するな。もしハルヒが思い出をすっかり忘れちまって、それを思い出したいっていうなら、SOS団みんなで何とかするさ」

ハルヒ「……?」

キョン「それにな、どうせハルヒはどんな世界に居ようが、飽くなき探求心と未知への渇望で頭がいっぱいなんだ。過去を変えたところで永遠に欲望は満たされないだろうよ」

ハルヒ「……ふん、よくわかってるじゃない。満足なんてしちゃったら最高につまらないわ」

ハルヒ「でもね、世界はあたしを中心に回るべきなの! あたしに隠れて出てこない不思議は、岩戸をダイナマイトで爆砕してでも引っ張り出してやるわ!」

キョン(太陽神が太陽神を社会復帰させるようじゃ世も末だな)


613:2015/08/12(水) 21:33:18.50 ID:
キョン「さて、そろそろいい時間だ。今日はお前も疲れてるだろ。早く寝ようぜ」

ハルヒ「……そうね。電気代ももったいないし」

キョン(しかし、これでよかったのかねぇ。涼宮三世如来様を焚き付けた件に関してはご寛恕を乞いたいと切に願うね)

キョン「それじゃ、おやすみ」

ハルヒ「ん」

キョン(意味深長なうなずきを後に残して女子部屋へと帰って行く我らが御本尊であった)

キョン(さて、明日はどうすっかな……)


614:2015/08/12(水) 21:34:33.44 ID:
2010.08.10 (Tue) 09:33
湯島某所


みんなへ

今日の午前中は自由行動にするわ。
疲れてるなら寝てていいし、行きたいところがあるならどうぞ。
お昼は一緒に食べましょう。

SOS団団長 涼宮ハルヒ



キョン(やはり例のルーズリーフが貼りだされたか)

キョン「ハルヒはテレビを見てないよな?」

古泉「おそらくそうでしょうね。見ていたら今頃人工衛星の消失したラジ館へ直行しているはずです」

キョン「古泉、盗聴できるか?」

古泉「そう言うと思って準備万端ですよ」

みくる「遅くなりましたけど、朝のコーヒー入りましたよぉ」

キョン「朝比奈さん、俺は幸せ者です」

みくる「これから何をやるんですかぁ」

キョン「どうやらハルヒが過去を変えるらしいので」

古泉「その様子を盗聴しようと思いましてね」

みくる「……だ、だめですぅ! 涼宮さんが過去を変えたら、いくら未来人でも手が出せなくなってしまいますぅ!」

キョン「朝比奈さん、心配しないでください。この事件は既に解決済みです」

みくる「へぇ? そうなんですか……」


615:2015/08/12(水) 21:35:21.93 ID:
岡部『ん……? きさ、あ、いや、涼宮ハルヒではないか。今日は一人か?』

ハルヒ『えぇ……。はい、これ手土産よ』

岡部『おぉ……!? おぉ、これはッ!! 知的飲料、ドクトルペッパーではないかッ!! まさかお主、ドクトルペッパリアンなのか!? そうなのか!? そうなのだな!?』

ハルヒ『そこの自販機で見たことないの買ったらクソ不味かったからアンタにあげるってだけよ』


古泉「間接キッスですね」

キョン「古泉、この家にガムテープはあるか?」

古泉「あ、いえ、僕が涼宮さんの飲みかけのドクトルペッパーを飲みたいとかそういうわけでは」

キョン「俺はその口を閉じろと言ってるんだが」

古泉「おっと墓穴でしたか」


616:2015/08/12(水) 21:36:24.52 ID:
岡部『それで、来てもらって済まないがまだ助手もまゆりも来ていないのだが……』

ハルヒ『いえ、その、岡部さんに折り入ってお願いがあるの』

岡部『……ほう、このマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真に折り入って頼みだと? ぅいーだろぅ、聞くだけ聞いてやろうではないかッ!!』


キョン(今更だがこの“鳳凰院凶真”というのは、岡部さんの真名らしい。真名がなんなのかと問われれば知らん。俺のあだ名よりかっこいいことは認めよう)

キョン「まだこの時の岡部さんはタイムリープを経験していないんだな……。実に楽しげにしゃべる」

古泉「“この岡部さん”は永遠にタイムリープをすることはありませんよ。岡部さんにとって一回目のタイムリープとなるであろう8月13日の20時頃より前である、8月13日16時40分頃に“僕たちの知っているほうの岡部さん”が世界線移動をしてきますからね」

キョン「……やばい、そろそろついていけないぞ、世界線理論」


617:2015/08/12(水) 21:41:09.85 ID:
ハルヒ『……そこの、過去にメールを送れる機械を使わせて。過去を変えたいの』

岡部『ッ、電話レンジ(仮)だと言っておろうが』

ハルヒ『もちろんタダでとは言わないわ。あたしたちがIBN5100を見つけることができたら、アンタのラボに無償で提供してあげる』

岡部『それは願ってもない申し出だが……。それで、どんな過去を変えたいのだ』

ハルヒ『昔ね、あたしを助けてくれた人が居たの。この世界の闇を照らしてくれたっていうか……、ううん、そんな大層な話じゃないんだけど』

岡部『……それが貴様の世界の始まりだった、というわけだな。なかなかにポエマーではないか』

ハルヒ『……あとでたっぷり蹴り飛ばしてあげるわ。とにかく、その人に一言でいいからお礼を言いたいのよ』

岡部『ほう、なるほど』


古泉「なるほどですね」

キョン「なるほどなぁ」

みくる「なるほどですぅ」

長門「なるほど」


618:2015/08/12(水) 21:42:20.66 ID:
岡部『本来この電話レンジ(仮)はラボメンにしか使用を許可していないのだが』

岡部『ラボメンになるためには、契約者同士による血の盟約が必要となる……。その肉、骨、血を天の杯に捧げることを誓い、盟約と言う名の洗礼を受けることにより……』クドクド

ハルヒ『長いッ!』

岡部『まったく、最後まで人の話を聞けと小学校で習わなかったのか? ともかく、貴様はラボメンに収まる器ではないと見ているが、違うか』

ハルヒ『おととい言ったでしょ、あたしはSOS団団長涼宮ハルヒであって、それ以上でも以下でもないわ』

岡部『わかっている。まぁ、うちの叔父さんも世話になって、あいや、先公なんぞをやっているのだからむしろ貴様を世話しているのか?』

ハルヒ『どうでもいいんだけど。それで、使わせてくれるの? どうなの?』

岡部『あぁ、そのくらいの内容だったらいいんじゃないか。準備してやるから待ってろ』


キョン「なんだかんだ岡部さんは人が良いんだよな」

古泉「自分は気付いていないだけで兄貴肌なところがありますね。少々コミュニケーションに難ありですが」


619:2015/08/12(水) 21:43:12.61 ID:
ハルヒ『……メール、準備できたわ』

岡部『こっちも準備万端だ。して、メールの内容は?』ヌッ

ハルヒ『お、乙女の秘密よ! 見るなバカ!』

岡部『……貴様もか。まぁ、別に構わんが』


キョン(貴様“も”?)


岡部『さぁ、放電現象が始まったら送信しろ』

ハルヒ『…………』


キョン「……なぁ古泉?」

古泉「なんでしょう」

キョン「これって、ハルヒが過去改変を実行しても“なかったこと”になってるんだよな? 俺が打消しDメールを送ったから」

古泉「いえ、この世界線ではまだ打消しDメールは送ってないのでもう一度D世界線へと改変されるかと」

キョン「……俺はまたあの世界に行くのか」

古泉「いいじゃないですか。涼宮さんとのらぶChu☆Chu!を22時間近く堪能できますよ」

みくる「キョンくん……」

長門「…………」


620:2015/08/12(水) 21:45:34.20 ID:
岡部『さぁ、始まった! Dメールを送ってくれ!』バチバチバチ……

ハルヒ『……やっぱり、やめるわ』


キョン「なにっ!?」


岡部『は、はぁ!? 貴様、ここまで準備させといて、やっぱりやめるだとぉ!?』

ハルヒ『…………』


古泉「下唇を噛んでる涼宮さんの様子が容易に想像できますね」

キョン「昨日の夜に俺の話した内容が心境の変化を促したんだろうか」

古泉「変数がそこしかないのでしたら、そうなのでしょうね」

キョン「まぁ、俺としては助かったよ。あんな世界へ二度も身を投じるのはご免こうむりたい」


ハルヒ『やっぱり、やっぱり過去を変えるのはズルい気がしたの』

岡部『貴様もクリスティーナと同じことを言うんだな』

ハルヒ『違うッ! そうじゃなくて……。あたしはまだその人にお礼が言えてないんだけど、お礼を言っちゃったらその人は本当にどこかに行っちゃう気がしたの……。あたしの手の届かない、どこかに』

岡部『…………』

ハルヒ『だから、過去を変えることでお礼を言うんじゃなくて、なんとかして今からそいつを探し出して、この手でふんじばって抑えつけて抵抗できないくらいにぎったんぎったんにして!』

岡部『おいおい、お礼を言いたいんじゃなかったのか?』フッ


621:2015/08/12(水) 21:48:02.86 ID:
ハルヒ『……まぁね。ありがと、倫太郎。岡部って呼んだらあのハンドボール馬鹿とかぶるからね』

岡部『やめろッ! 俺を“りんたろう”などと間抜けた名前で呼ぶなッ! 売れない一発屋芸人みたいではないかッ! 俺の名は、狂気のマッドサイエンティスト、ほーおーいんッ!!!』

紅莉栖『ハロー。……岡部、JKと二人きりでなにやってんの?』ガチャ

岡部『あーっと、えーっと、そのだな……』ダラダラ

ハルヒ『あら、牧瀬さん』

紅莉栖『あっ、ハルヒ……。よかった、また来てくれたんだ。一昨日はその、ごめんね?』

ハルヒ『……こっちこそごめんなさい。あたし、あなたのこと、少し誤解してたみたい』

紅莉栖『えっと……なんのこと?』


古泉「さて、この辺でいいでしょう。なかなか貴重なものを聞くことができましたね」

みくる「涼宮さん、かわいい」ウフフ

キョン「まったく、山の天気のように気まぐれなやつについていくには世界がいくつあっても足りん」


622:2015/08/12(水) 21:49:16.28 ID:
キョン「それで、この後の展開を古泉は知ってるんだろ?」

古泉「たしか、涼宮さんから電話があって、あなたと二人でラジ館の調査に行きます。ですが芳しい成果は得られず、みんなでお昼を食べた後は女性陣はまゆりさんと楽しく遊び、僕たち男性陣はIBN5100探しをします」

キョン「なんと、あのハルヒが俺をじきじきにパシリとして呼び出すのか。こいつは俺も副々々団長へと格上げかな」

古泉「電気ストーブ運搬の時も直々のお使いだったと記憶していますが。まぁ、僕たちはお昼までゆっくりしてますよ。どうぞごゆっくり」

みくる「あ、あの、涼宮さんの気持ちに応えてあげてくださいね?」

キョン「? あぁ、わかってますよ。怒らせないよう気を付けます」

長門「いってらっしゃい」


623:2015/08/12(水) 21:50:19.04 ID:
キョン(たまには速攻で出て鼻を明かしてやろう)

……

プル ピッ

キョン「あーハルヒか。これからラボに迎えに行くから待ってろ」ピッ

キョン(ふっふっふ……。お前の電話のやり口を、その身を以って教えてやったぞ)

キョン(これで今後の電話の仕方を改めてくれるといいんだが、この考え自体がダメダメ少年を更正させるために道具を貸す、未来から来た猫型ロボットの脳内に酷似しているような気もする)


624:2015/08/12(水) 21:51:46.64 ID:
2010.08.10 (Tue) 10:12
大檜山ビル前


ハルヒ「…………」イライラ

キョン(そこには仁王立ちで俺を待ち構えるN2地雷があった。助けてくれ綾波)

ハルヒ「あんたバカァ!? 電話をかけてきた相手の言葉を一切聞かないやつがある!?」

キョン(でかすぎで星雲になっちまったブーメランが5000光年彼方から飛んできやがった)

キョン「たまには鳴らない電話の気分を味わえてよかったじゃないか。あ、いや、しゃべらない電話か」

ハルヒ「あんたの将来が心配だわ……。少年更正プログラムの一環として、警官の目を盗んであの人工衛星を調査する下知状を授けるわ」

キョン(犯罪を助長する罰を課してどうする!)

ハルヒ「その前に、今牧瀬さんからおもしろい話を聞いてるのよ! アンタもあやかっときなさい!」グイッ

キョン「ひ、引っ張るなって! 牧瀬さんからおもしろい話だぁ?」

ハルヒ「そうなのよ! あの人、あの若さでアメリカの大学院で脳科学研究所の研究員をやってるんですって! そこでどんな研究が行われていると思う!?」

キョン「俺のような凡人には及びもつかない人類の英知を結集した研究をしてるんだろうな」

ハルヒ「データ化した記憶に自我を持たせる実験、その名もAmadeusシステム!!」

キョン(久しぶりにハルヒの顔面からタキオン粒子たっぷりのチェレンコフ放射が行われている。不思議現象とは縁もゆかりも無さそうな科学者トークにあのハルヒが食いつくとはね)

キョン(どうでもいいが、アマデウスっつったらモーツァルトのミドルネームだったっけか?)


625:2015/08/12(水) 21:55:53.92 ID:
2010.08.10 (Tue) 10:17
未来ガジェット研究所


紅莉栖「やっほ、キョン」


キョン(アメリカ生活者だからなんだろう、気さくに話しかけてくれる。かと言って馴れ馴れしくなく、どことなく卑屈な響きに聞こえたのは何故だろうか)


キョン「牧瀬さん、お邪魔します。なんだかハルヒが世話になったみたいで」


キョン(かと言って俺はTPO的にベストな解答を出すことができず、日本社会に普遍的である無難オブザ無難な態度を取ってしまう。多分、この人にとっては俺やその他凡庸な大多数的コミュニケーションよりも……)


岡部「年下に慕われるだけでニヤニヤが止まらないとは、助手よ、お前、まさか、後輩がいないのか? そーだろうそうだろう! なんたって飛び級セブンティーンだからな! 存分に日本の伝統、先輩後輩関係を味わうがいぃー。かわいそうな貴様に、この鳳凰院凶真のことを、凶真先輩♪ と呼ぶ権利をやろう」


キョン(まさに岡部さんやハルヒのような、とにかくぶっ込んでいくスタイルの人種に対してツッコミを入れるやりとりのほうがこの人にとってはちょうどいいんだろう)


紅莉栖「いらんわ! あと助手でもセブンティーンでもないし、別に年下に慕われたからって嬉しくなんかないんだからな!!」


キョン(マイナー好かれタイプってやつだ。際立って話しかけやすくはないが、何か言ったら的確に言葉を返すタイプ)


ハルヒ「ちょっと倫太郎! 今おもしろい話をしようとしてるんだから水を差さないで頂戴」ギロッ


キョン(面白い話にゲタゲタ笑うこともなく、つまらない話を無視するわけでもない)


岡部「ヒッ……。あぁ、俺だぁ。何ッ? 例の未知からのメールの結末を固定化しろだと? なるほど、俺が事実を認識することが世界体系の存立に関係しているのだな。わかった、すぐに向かおう。エル・プサイ・コングルゥ」ガチャ バタン


キョン(どこかの誰かさんみたいにな。あれだ、適材適所ってやつなんだ)


紅莉栖「逃げたか……」

キョン「牧瀬さん……ともにがんばりましょうね」

紅莉栖「へ? あ、うん……うん?」


626:2015/08/12(水) 21:57:28.45 ID:
キョン「それで、えっと、ハルヒの大学見学の話でしたっけ?」

ハルヒ「うーん、ヴィクトル・コンドリア大学の理論物理学専攻に進学するのも悪くないと思うのよね。タイムマシンもそうだけど、プラズマ宇宙論とか、反重力子とか、アルクビエレのワープドライブとかおもしろそう! 宇宙物理学でもいいわね」

紅莉栖「私は脳科学専攻だけどね。ハルヒが好きそうなオカルト研究会も大学にあるから色々見て回るといいわ」

ハルヒ「だから! オカルトじゃないって言ってるでしょ!!」

紅莉栖「はいはい、わかってる。科学の世界において、その時代にオカルトと笑われているものがいずれ理論体系の正統派へと変貌する事象は過去に何度も発生してる」

ハルヒ「そういうことでもないったら! もう」

キョン(こいつは不思議なものと遊びたい一心なのである)

ハルヒ「そんなわけだから、キョン。アンタ理系でがんばんなさいよ」

キョン「……まぁ、ハルヒがSOS団メンバーを大学まで一蓮托生にしようとするんじゃないかとは薄々感づいていたし、それはいいんだが、そのミトコンドリア大学ってのはどんぐらいの偏差値なんだ?」

ハルヒ「世界最高峰だけど?」

キョン「ハッハッハ、ハルヒは冗談がうまいなぁ」

紅莉栖「偏差値が日本の大学のソレに換算した場合、どの程度なのかは私も調べたことがないけど、うちの大学は研究意欲に燃える学生ならだれでもウェルカムよ」

キョン(そんな詐欺行為前提のフィッシングみたいな宣伝文句を言われてもな……)


627:2015/08/12(水) 21:59:37.91 ID:
ハルヒ「キョンの研究意欲を掻き立てるかどうかは知らないけど、紅莉栖の研究所の実験の話は聞いて損はないわよ!」

キョン(いつの間にかハルヒは牧瀬さんをファーストネームで呼ぶほど親しくなったらしい。まぁ、アメリカ的にはそれが普通なのかも知れない)

キョン「えーっと、サリエリだったか」

ハルヒ「モーツァルトよ! どうしてそういう無駄知識は豊富なのかしら」

紅莉栖「Amadeusなんだけど……」

紅莉栖「ハルヒが気に入ってくれて私も嬉しいわ。えっと、4月にSCIENCYに載った論文の内容に関係してるものなんだけど、『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』っていうタイトルでね」

キョン「あー、牧瀬さん。ハルヒの友人だからそれなりに頭がいいだろうと思って話されているところ申し訳ないんですが、俺はもう既についていけていないレベルなので、小学6年生のうちの妹でも喜びそうな現象面だけかいつまんで話していただけないでしょうか」

紅莉栖「えっ……。あ、あぁ、ごめんね?」

キョン(謝罪されるのが一番グサッと来たが、悪いのは俺の頭のほうである)


629:2015/08/12(水) 22:01:31.03 ID:
紅莉栖「簡単に言うと、“人間の記憶”っていう非常にアナログなものを“電気信号のパターン組み合わせ”っていうデジタルなものに変換することが理論上可能になったの」

キョン「えっと、デジモン、みたいな?」

ハルヒ「話を進めて!」

紅莉栖「うちの研究チームと精神生理学研究所との共同開発プロジェクトの一つとして、この理論とVR<ヴィジュアル・リビルディング>技術ってのを使って、人間の記憶をデジタルデータに変換したものをベースに動作するAIを作っててね」

キョン「AIってのは、たしか人工知能だっけか。だが、それだと情報をY/Nで引き出すだけの装置にしかならなそうなもんだが……」

紅莉栖「正直その可能性もあった。だけど、実際にやってみてわかったのは、彼女、えっと、私の記憶をベースにしたAIはプログラム外に明確な意思を持っていた。答えたくないことには答えないし、その理由が“恥ずかしいから”なんてことはしょっちゅう。嘘だって吐くわ」

キョン「へぇ、そいつは、すごいですね」

ハルヒ「すごいことなのよ! アンタ、もっと驚きなさい!」

キョン(人間というのはむしろ明確な意思を持つことを許可されない生き物なのかもしれない)


630:2015/08/12(水) 22:03:23.53 ID:
キョン(さて、これはいわゆるトンデモ現象なんだろうが、俺は長門からその正体について既に聞いている)

キョン(あの世界外記憶領域とかに関するものだろう。そのPC内に記憶を取り込んだAIが世界外記憶領域と連結することによって、人間的な自我を獲得したり、通常の脳における記憶のように動いているのだ)

キョン(タイムマシンの次は自我を持ったロボットの反乱か? こりゃシュワちゃん大忙しだな)

ハルヒ「それって理論的な解明は全く進んでないのよね?」

紅莉栖「そう。もう、現象面ばっかりが先走ってて嫌になっちゃうわ。証明できない挙動は、それはおもしろいものだけど、せめて少しでも納得できる理論をベースにしてほしいのよね。魂がどうのこうのとか言い出す変な人が沸くから」

キョン(いわゆる宗教団体とかだろう。ガリレオ的対立というのは現代でも伝統的に行われているらしい)

ハルヒ「言わせとけばいいのよ。理解される必要なんてないわ! とことんおもしろい現象を追究すべきよ!」


631:2015/08/12(水) 22:05:10.19 ID:
キョン「そのAIってのは、牧瀬さんと瓜二つなんですか?」

紅莉栖「まぁ、当然思考パターンは似ているわね。だけどおもしろいのは、“似ている”程度ということ。全く一緒じゃないわ、というか私から言わせれば全くの別人。双子の妹ってところかしら」

紅莉栖「今年の3月に私の脳から走査したデータをベースにしてるんだけど、研究のために何回か起動してるだろうから、今頃は私の知らない記憶も持っているはずだしね。と言っても自我があるかどうかはわからない。今度帰ったら彼女が独り言をつぶやけるかどうかの実験をする予定よ」

キョン(ということは、人間の牧瀬さんの自我とは別のところにAIさんは自我を形成しているのか)

ハルヒ「……なんか、さっきからアンタ、理解してないようで実は誰よりもわかってるって顔をしてるわね」

キョン「へっ? あ、いや、そんなことは」

紅莉栖「言われて見れば確かに。実はキョンってそういうセンスがあるんじゃない?」

キョン「いやいや、無いですって! 俺の脳みそは凡々たる極致ですよ!」

紅莉栖「そういう破滅的なオートサジェスション、自己暗示は精神的にも肉体的にも良くないわ。もっと自分はできる、って信じたほうがいいわよ」

キョン(まさかのスポコン精神論である)


632:2015/08/12(水) 22:11:10.71 ID:
岡部「戻ったぞ。未来の後輩は見つかったか?」ガチャ バタン

ハルヒ「あら、いつの間に居なくなってたの?」

岡部「ふっ……ついに俺は気配を完全にシャットアウトする秘儀、“なんと!?無音拳”<キャプテンカーネル>を習得してしまったらしい……」

紅莉栖「あるあ、ねーよ。それで、岡部はどこ行ってたの?」

岡部「あぁ。なんでもラジ館から人工衛星が消失したとニュースでやっていたからな、野次馬に紛れて世界体系の安定化をしにだな……」

ハルヒ「じ、人工衛星が消失!? それってホントなの倫太郎!?」ガシッ

岡部「ぐわっ、胸倉をつかむな! ええい、そんなに確かめたいなら自分の目を使ったらどうなのだ」

ハルヒ「こうしちゃいられないわ! ラジ館に突入するわよ、キョン!」グイッ

キョン「なるほど、こういうことか……って、胸倉をつかむな! こけるっ!」

紅莉栖「あっ……。ま、またね、ハルヒ!」

ハルヒ「またね! 紅莉栖!」ガチャ バタン


633:2015/08/12(水) 22:12:36.98 ID:
2010.08.10 (Tue) 10:22
ラジ館


ハルヒ「こっちの裏手なら警備が手薄ね」

キョン「扉の鍵が偶然壊れていることを願うんだな」

ハルヒ「……だめね、鍵はすべて施錠されてる」ガチャガチャ

キョン「ならお手上げだ」

ハルヒ「うーん……。あっ、キョン! 上見て! あそこの格子に鉤縄を引っかければ登れるわ!」

キョン「かぎな……、すまん、なんだって」

ハルヒ「ロープの先に鉄鉤がついてる、忍者が使うアレよ! あれがあればあたしが上から中に入って鍵を開けられるのに!」

キョン(……秋葉原には武器屋本舗という店があるぞ、というセリフが喉まで出かかったが、この世界線でも存在してるか自信が無かったことと、もしカギナワとやらが手に入った暁にはハルヒが少年院世界線へと飛ばされるのではないかと心配になったので、俺は出かかったセリフを満を持して飲み込んだ)


634:2015/08/12(水) 22:14:03.92 ID:
2010.08.10 (Tue) 12:10
湯島某所


キョン(1時間も粘ったハルヒだったが、暑さに根を上げたのかようやく梃子が作用した)

キョン(まぁ、肝心な実物が消えちまったんだ。頑張って中に入ったとしても得られるものは少なかろう)

ハルヒ「でもどうやってあんなでっかいものが一夜にして消滅したのかしら」モグモグ

キョン(ちなみに昼飯は肉の万世のカツサンドを土産として宿に持ち帰った。確かに旨いが、財布がヤバい)

古泉「どこのプレスも報道してませんが、ある筋からの話によると、実は在日米軍のヘリが秋葉原上空を雷雲に紛れて飛行していたそうです」

ハルヒ「そうなの!? そっか、暗闇と豪雨に紛れて横田基地へ持ってったんだわ! パーツごとに分解して本国へ送って調査研究するつもりなのね!」


キョン「また適当こいて何か起こっても知らんぞ」ヒソヒソ

古泉「なにかしら着地しておかないとまずいのでは?」ヒソヒソ


635:2015/08/12(水) 22:15:30.91 ID:
その後は古泉の予言通りだった。まぁ、実際俺はさんざ動いたからな。ゆっくり休ませてもらっても罰は当たらんだろ。涼宮大明神以外からは。

翌日8月11日になって、岡部さんがタイムリープしてくることもピンバッジ探しを依頼してくることもなかった。まだ知らないのだ、この“岡部さん”は。

俺たちが知っている岡部さんがこの世界線に来訪してくるのは、タイムリープマシンを使用していないなら8月13日の夕方になるはずだと古泉も言っていた。

8月11日はほとんど俺の記憶にある8月11日と同じものだった。変に演技する必要が無いのは助かる。

具体的に言うと、長門はラボで牧瀬さんの開発手伝いをし、ハルヒと朝日奈さんは椎名さんとフブキさんと萌え談義に興じ、ブクロという名の腐海へ突入する直前に電話で呼び戻した。こればかりは危険だと俺が判断した。

マクディに居た際に長門からハルヒに電話がかかってきたが、内容は、『岡部倫太郎がやっていたボードゲームがおもしろそうなのでSOS団の部費で購入してもいいか』だった。その後俺たちは5人でホビーショップを尋ね歩いたのだった。


636:2015/08/12(水) 22:16:43.72 ID:
2010.08.12 (Thu) 21:32
湯島某所


タイムリープから早くも3日が経過した。

今日はどういうわけか突然ハルヒが、『東京ビッグサイトにIBN5100へのヒントがあるかもしれないわ!』などと世迷いごとを言い出したのでSOS団揃ってサイクリングを決行する仕儀とあいなった。今回はちゃんと自転車の数が足りた。

俺は前回のサイクリング時、『無限サイクリングをする羽目になっても構わないね』などと言ったが、それは二度と繰り返すことがないという前提があって初めて意味を持つのであって、要はあんな苦行は三度とやるもんかと誓った。

全力で東京を駆け抜けたハルヒは気持ち良く疲れたらしく、小学生並の昏倒力によって敷布団の上で幸せな惰眠を貪っていることだろう。その横では朝比奈さんが羊を数えているらしい。

残された面々は談話室で時間を潰していた。俺と古泉は昨日仕入れてきたこの“雷ネットアクセスバトラーズ”とかいうボードゲームに興じていたし、長門は長門で神保町で買った古本を早速読破し始めていた。


637:2015/08/12(水) 22:17:34.06 ID:
キョン「ほら、それウィルスカードだろ。俺の勝ちだ」

古泉「な、なにをおっしゃいますか。それはオープンしてみなければわからないはずですよ。リンクカードであるかどうかの確率は二分の一です」

キョン「お前がシャミセンなんかできるかよ。それにそんな確率論は月にウサギがいる確率と一緒だ。ほい、ほいっと。ほら、やっぱり。俺の勝ちだ」

古泉「……もう一回、もう一回だけ、お願いします」

キョン「なぁ長門。お前自身はリーディングシュタイナーを使えないのか」

古泉「くっ!!!!」ガクッ

長門「使えない」

キョン「どうしてだ? だってお前は古泉の記憶を引っ張ってこれたじゃないか。自分のはできないのか」

長門「できない」

キョン「なぜだ」

長門「わたしが人間じゃないから」


638:2015/08/12(水) 22:19:34.80 ID:
キョン(突然ヘビーな話題を振っちまったみたいだ、と一瞬申し訳なさを感じたが、その数ミクロンの首かしげにはどことなくいたずらっぽさがあった気がする)

キョン「つまり、情報統合思念体と、世界外記憶領域ってのは根本的に別もの、ってことだな」

長門「情報統合思念体はあくまでこの世界の宇宙に広域的に存在しているに限る。一方世界外記憶領域は世界の外、無数にある宇宙の全てをオーバーラップする形で存在している。ゆえにわたし自身のリーディングシュタイナー発動は不可能」

キョン「だが、4月の時間軸分岐に宇宙人三人娘は気付いていたんだろ? あれは世界の外側から観測していたわけではないのか?」

長門「時間軸分裂については喜緑江美里が両方の分岐世界を計測することで判断できた。世界の外側から観測したのではなく、両方の世界を観測した結果」

キョン「なるほどな……。わかった、長門。お前が言い出さないのでちょっと遅くなったが、例のアレをやっちゃってくれ」

長門「例のアレ、とは?」

キョン「えっと……、あの、おでこをぴとってやるやつだよ」

長門「こう?」ピトッ

キョン「!!!! い、いきなりやるんじゃない!!」アセアセ


639:2015/08/12(水) 22:21:16.41 ID:
キョン「それで、記憶はコピペされたのか」

長門「?」

キョン(なんなんだろうな、この未知との遭遇は)

キョン「記憶だよ。俺の記憶を前にもこうやって読み取っただろ?」

キョン(と、自分で発言してようやく気が付いた。この世界線ではハルヒによる世界線改変直前の様子をライブ配信していたのであったのだから、こいつは知らないのだ。俺の記憶では本来その時間に記憶のコピペが行われるはずだった)

長門「……あなたの意図していることがようやく伝達された」

キョン「すまないな、コミュニケーション能力が低くて……」

キョン(と、自分で言って泣きたくなった。まさかあの長門にこの内容で謝罪する日が来ようとは)


640:2015/08/12(水) 22:22:30.22 ID:
キョン「ッ!」

長門「」ピトッ

長門「終わった」

キョン「……ふぅ。あと何回この緊張感を味合わねばならんのだろうね」

長門「この世界線における阿万音鈴羽の1975年以降の状態およびIBN5100の獲得の結果について、すなわち秋葉幸高氏の行動の変化について調査する必要がある」

キョン「あっ」

古泉「はっ」

キョン(完全に忘れていた……。俺としたことが、野郎二人によるIBN5100捜索と称したブラブラ冷房探訪に明け暮れていたために、本来の目的であったIBN5100の行方調査について失念してしまっていた。なんたる本末転倒)

キョン「古泉、まだ機関は動いてないか?」

古泉「……少々タイムトラベルという事象に浮かれてしまっていたようです」

キョン「明日が岡部さんの飛んでくる日だが、明日一日でなんとかなるか?」

古泉「善処します」


641:2015/08/12(水) 22:25:32.41 ID:
キョン「そう言えば、明日は“俺たち”がタイムリープした日だったな。……ということは、明日俺たちもタイムリープしなければならないのか?」

古泉「それもそれで本末転倒ですが、そうはなりませんよ」

キョン「だって世界線は変動してないだろ? 古泉がそうやって記憶を維持しているということは、だ」

古泉「そもそもタイムリープは基本的に世界線を移動できません。Dメール自体も本来世界線を移動するものではないのですが、大きく因果の流れを変えることによって現在が大幅に変更されるので世界線が移動した、ように感じるだけです」

古泉「僕たちみたいに自然な時の流れに身を任せていれば、因果の変化はドミノ倒しの一つ一つなのであって、世界線を大幅に移動することは言うまでもなく不可能なのです。それは結局通常の時間変化となんら変わりは無い」

キョン「だが、明らかに世界は変わっている。俺が知ってる出来事が起こらないし、俺の知らない出来事が起こっている」

古泉「それは因果の流れ、順序が変わっただけであって、大局的なところは変わっていないのですよ。たしかに微細な事象は僕らの記憶していた因果の流れとは異なっていますが、おそらくその微妙な違いは今日、明日、明後日と延々と続く」

古泉「つまり、その世界線を世界線たらしめる根幹となる事象自体は変わっていないのですよ。これが収束、というものなのでしょう」

キョン「そう、なのか……。つまり、俺たちのタイムリープはその収束とやらに含まれていないから、明日4日前に向けてタイムリープする必要はない、ってことだな?」

古泉「そういうことです。仮に収束だった場合、嫌でもタイムリープせざるを得ない状況になるはずですね。それはそれは恐ろしい」

古泉「また、仮に僕たちの行動によって世界線が変動していたとしても、それを頭痛として認識できるのはタイムリープ実行直前の時間平面に存在するリーディングシュタイナー保有者、つまり岡部さんだけです」

古泉「要はDメールと同じですね。そしてDメールの受信履歴がそのまま残るように、タイムリーパーは改変後世界のドミノとなって時間流に身を任せるのです」

キョン「……世界線ってのは何を基準にして変動するかしないかを決めてるんだ?」

古泉「おっと、物事の本質を突くご質問ですね。D世界線はどうかわかりませんが、α世界線におけるダイバージェンスは人間が勝手に決めた相対値でしょうから“何らかの根幹的事象”からの相対的距離を元に数値化されているはずです。さて、それは一体なんでしょうか」

キョン「……ダメだ、さっぱりわからん。俺の脳みそじゃヴィクコンなんて夢のまた夢だっつー話だ」

古泉「ヴィクコンですか。涼宮さんからしたら興味の尽きない場所でしょうね」ンフ


642:2015/08/12(水) 22:26:13.13 ID:
※以下、シュタゲ“アニメ”時系列で


643:2015/08/12(水) 22:29:02.75 ID:
2010.08.13 (Fri) 10:25
湯島某所


キョン(ハルヒたち女性陣は目を覚ますとすぐ雷ネットAB<アクセスバトラーズ>の特訓を開始した。いつから玩具販促アニメと化したんだろうな)

キョン(キリがよくなり次第、UPXへ行って腕試しをしようという計画らしい。俺はまぁ、涼めるならどこでもいいが。とにかく機関からの情報待ちってところだ)

古泉「おや、岡部さんからメールです」ピッ ピッ

キョン「ほう、なんだって?」

古泉「えっとですね……」


岡部『俺は今までに大規模世界改変を引き起こしたと考えられるDメールを打ち消すことを決意した。それによって元々IBN5100を入手していた世界線にまで戻ろうという作戦だ』

岡部『最初はフェイリスのDメール。おそらくアキバの萌に関するものだ。次に漆原るかのDメール。これはハッキリわかっている、母親のポケベルに向けて野菜を食うよう勧める内容のものを送ることでルカ子の性別を男から女に変えたのだ』

岡部『次に桐生萌郁という人物のDメール。内容はケータイの機種変とあって大したことはないが、やつには気を付けろ。ラウンダーとかいうまゆり殺しの組織の一員、というか主犯だ』

岡部『ともかく、世界線復元の度にキョン少年にリーディングシュタイナーが発動すると思うが、耐えてほしい』


古泉「とのことです」

キョン「……いろいろ突っ込みどころがあって処理しきれないんだが、まぁそれは置いておくとして、IBN5100確保のためには確かに堅実な方法だ。俺のほうはいつテレポートしてもいいように気張ってればいいってことだな」

古泉「突っ込みどころに関しては機関が裏を取りに行きましょう」


644:2015/08/12(水) 22:31:41.06 ID:
長門「通常の人間はDメールを送信した記憶を持たない。ゆえに内容不明のDメールに対する打消しメールの内容を考案する作業は非常に困難」

キョン「おぉ、長門。そういやそうか、リーディングシュタイナーを持ってる人間じゃなきゃ、受信はともかく世界改変後の送信の記憶は無くなる。世界改変をする動機そのものが消えるんだからな」

古泉「ということは、その打消しDメールを作成するには高度な推理力が必要になる、ということですね」

キョン「D世界線での場合は朝比奈さん(大)の時間遡行能力に助けてもらったわけだが……、2006年以前に分岐点がある場合は手伝えそうにないな。漆原さんの件なんてまさにそれだ」

長門「対象者に世界改変前の記憶を挿入すればいい」

古泉「なるほど、僕のように強制的にリーディングシュタイナーを発動させ、自分がどんなメールを送ったのかを思い出させるというわけですね」

古泉「まるで映画『デジャヴ』のようです。主人公は何度も、まぁ映画の演出上は一回ですが、ともかく数度タイムトラベルをし、まだ時間移動をする前の過去の自分にほんのわずかなデジャヴを誘発させる。これ自体は事件解決の鍵ではありませんが、主人公の行動を変えるキッカケとなる。まさにこのデジャヴを利用するというわけですね」

キョン「よし長門。デイリークエストに追加しておいてくれ」

長門「わかった」

キョン(その時の長門は俺にしかわからない微粒子レベルのガッツポーズを決めていた、と思う)


645:2015/08/12(水) 22:45:42.65 ID:
2010.08.13 (Fri) 13:25
UPX 雷ネットABGC会場


キョン(この情報は前から聞かされていた。最初に聞いたときはなんのこっちゃと思ったが、なるほど時間的連続体の中に身を投じていれば違和感などと言うものは皆無で、ごくごく自然な成り行きに感じられる)


長門「…………」パチ

相手A「……ま、負けました」ガクッ

観客「うぉぉぉなんだあの少女!? 眉毛一つ動かさず完勝していくーッ!?」ザワザワ

長門「……デュエルアクセス」キリッ


キョン(だが、俺は興味を持ってしまった。一体全体どうしてハルヒと朝日奈さんがここへ来て、そして何をやるのか。なのでなんとかハルヒを説得して、この日は5人で同時に行動することにした)


ハルヒ「いっけーみくるちゃん! がんばれー! 特訓の成果を見せつけるのよー!」

みくる「ふえぇー、わかりませんー」

相手B「い、いやいや、定石さえ覚えてしまえばあとは簡単でござるよwwwせ、拙者が手を取り足を取り教えてあげるでござるwwwデュフフwww」

観客「おいあれ……おっぱい……ロリ巨乳……」ザワザワ

ハルヒ「じろじろ見てんじゃないわよ! 金取るわよ!」


キョン(もちろん一昨日その存在を知ったばかりのど素人がグランドチャンピオンシップなどという大それたタイトルに出場できるわけもなく、俺たちはその脇でこじんまりと開催されていた雷ネットアクセスバトラーズ初心者講座<ビギナーズバトル>とやらに参加していた)

ハルヒ「だぁー! もう、そうじゃないったら! 帰ったら特訓よ!」

みくる「ふぇぇ」

キョン(こいつは朝比奈さんを何に仕立て上げたいんだろうね)


646:2015/08/12(水) 22:47:02.08 ID:
キョン(とまあ、そんな感じで冷房の良い具合に効いた室内で時間を潰していると、本イベントのメインディッシュであるところのグランドチャンピオンが決定したらしい)

司会「……今大会のスーパーエンターテイナーに、皆様もう一度盛大な拍手を!!!!」

??「みんなー!! 応援ありがとニャーン!!」

ウワァァァァァァ!! パチパチパチパチ!! ニャンニャン!!

キョン「って、あれはフェイリス・ニャンニャン!!」

古泉「あの方があなたの言っていた猫耳メイドさんですか。なかなか可愛らしい方ですね」

キョン(そうか、この古泉はアキバが萌えの街だった世界線のことは記憶していないのか)

キョン「なぁ、直接あの猫娘にIBN5100のことを聞いたほうが機関の諜報活動より事が早く済むんじゃないか?」

古泉「二方面作戦でどうでしょうか。まぁ、聞くことができたら、という希望的観測みたいですが」

キョン「はぁ? なに言って……って、あれ? フェイリスさんはどこ行った?」キョロキョロ


647:2015/08/12(水) 22:48:42.76 ID:
古泉「ッ! 居ました、あそこです!」

キョン「へ?……なんで走っているんだ?」

古泉「どうやら危ない連中に追い回されているようですね。これはどうやら、ちょっとやばい事態みたいです」

キョン(な、なにがどうしてこうなってるんだ? えっと、トンデモ現象とは関係なく普通に事件なのか?)

キョン「……ハルヒへの言い訳は俺が考える! 古泉、機関の力を使って全力で暗躍してくれ!」ダッ

古泉「IBN5100のため、ひいては団長のためです。任せてください、人死には出しませんッ!」ダッ


648:2015/08/12(水) 22:49:48.04 ID:
キョン「ハルヒ! ハルヒ、ここにいたか」ハァハァ

ハルヒ「なによ、どうしたの? ちょうどみくるちゃんのゲームが終わったところだけど」

キョン「なぁ、ちょっと考えてみてほしいんだ。例の椎名さんのメイド姿なんだがな」

ハルヒ「……いきなり何の話? 脈絡が無いとアンタちょっとヤバイわよ?」

キョン「いや、やばくてもいいから聞いてくれ。お前ならどんなメイドコスを提案する」

ハルヒ「はぁ?……そうねぇ、あの子フリル着せると金髪が似合いそうなのよね」

キョン「そうだな! 髪型はやっぱりポニーテールだな!」

ハルヒ「……髪型はツインテールね。それで、カチューシャをつけたいわね! 猫耳がいいわ!」

キョン「そうだハルヒ、猫耳だ。椎名さんの猫耳は何があっても守られなければならない、そうだな?」

ハルヒ「はぁ? うーん、そりゃ猫耳は神聖にして不可侵の存在だからね。アンタみたいな俗物の手からは守られなければならないわ」

キョン「よく言った、それでこそ団長様だ。悪いがハルヒ、俺と古泉はちょっと寄り道してから帰る。じゃぁな!」ダッ

キョン(これでハルヒによる言挙げは充分だろう! 慢心はないッ!)

ハルヒ「あ、ちょっと!……なんなの、アレ」


649:2015/08/12(水) 22:51:08.48 ID:
2010.08.13 (Fri) 17:25
UPX 1F 屋外


キョン(さて、この次はどうするか……)タッタッタッ

プルルルル ピッ

古泉『追手側の素性がわかりました。決勝戦でフェイリスさんに敗北したヴァイラルアタッカーズという集団で、かなり悪名高いようです』

キョン「逆恨みってことか。ぞっとしない話だ」

古泉『実行犯は下っ端、背後にはケータイを使って駒を動かしているリーダーがいるようです』

キョン「将を叩かないと永遠にイタチごっこか。古泉はなんとかしてソイツの居場所を突き止めろ。ついでに警察に突き出してやれ」

古泉『了解です。ご武運を』ピッ

キョン「……とは言ったものの、あいつらどこに……、あ、岡部さん!」

キョン「岡部さんとフェイリスさんが手を取って、あの変な服装のやつらから逃げ始めた……」


650:2015/08/12(水) 22:53:08.15 ID:
キョン「どうする、俺が走って追いかけて意味があるか……」

長門「このタイミングでフェイリス・ニャンニャン、本名秋葉留美穂のリーディングシュタイナーを誘発させる」

キョン「うおっ、長門。こ、このタイミングでか?」

長門「古泉一樹に施したような完全記憶置換は今回は推奨しない。現在世界線の記憶が消滅してしまうから」

キョン「お、おう。それはまぁ、わかる」

長門「ゆえに部分的に記憶をダウンロードするように仕込む。短時間に大量のデータを挿入すると脳出血、あるいは脳に関する疾病を引き起こす恐れがあるので、必要最低限の記憶を、その記憶と密接に結びついた言葉や場所、印象などをトリガーとしてダウンロードする」

キョン「……それって危険じゃないのか?」

長門「元々リーディングシュタイナーは人間に潜在的に有する通常の能力。リーディングシュタイナー誘発は身体能力の強化と変わらない」

キョン「そんなもんか……。だが、どうして今なんだ?」

長門「秋葉留未穂の過去改変は秋葉原の街全体に関するもの。岡部倫太郎と街中を走り回っている今ならばトリガーが多いはず」

キョン「はぁー、なるほど。とは言っても、ホントにやばそうになったら長門の力で二人を救出してくれ」

長門「わたしは古泉一樹を信じている」

キョン(長門がそういうセリフを言う日が来るとはね……。よかったな古泉、絶対教えてやらねぇ)


651:2015/08/12(水) 22:55:01.98 ID:
長門「」スッ

キョン(長門が交差点の斜向かい、NRの高架下をやおら指差した。その挙動はまるで蝶の羽ばたきのごとくふわりとしたものだった)

キョン「って、あれは岡部さんとフェイリス・ニャンニャン! ぐるっと一周してきたのか」

長門「今から断片的リーディングシュタイナーを秋葉留未穂に挿入する。許可を」

キョン「……わかった。やってくれ」

キョン(そういうと長門は突き出していた右手の手のひらを上向きにして開き、何かを柔らかく投げ飛ばすような仕草をした)

キョン(そこにはいつの間にかインディゴブルーのオーラをまとった一羽の蝶がひらひらと飛んでいた。しかしそれはまるでこの世のものとは思えない存在感で、少しでも気を抜けば見失うような透明感だ)

キョン(そしてそれは、俺の視線からしてあの猫耳メイドと重なったところで消滅した、ように見えた)

長門「これでこっちは大丈夫」

キョン「次はあの二人をちょうどいいタイミングで助けないとな」

長門「わたしたちが介入するのはあまりお勧めできない」

キョン「なぜだ?」

長門「秋葉留未穂は基本的に人に対して心を開かない。常に上辺を塗り固めている。Dメールの内容を話せる相手はおそらく、岡部倫太郎だけ」

キョン「ほう……というか、ハルヒもそうだが、どうして皆Dメールの内容を隠そうとするのかね」

長門「わたしたちにできるのは……」スッ

キョン(長門は先ほど蝶を出したマジックハンドを、またもふわりとした指差し確認用に突き出した。その指示する先には、)

キョン「って、あそこに居る紳士的な壮年男性は、秋葉幸高氏か!」


652:2015/08/12(水) 22:55:47.77 ID:
キョン(俺の記憶には秋葉幸高氏の学生時代の頃の顔しかないが、たしかに面影がある)

キョン(そうか、実の娘が大会の決勝に優勝したんだ、見に来ていてもおかしくない!)

長門「あの人なら、二人を助けた上で秋葉留未穂の心を開かせる可能性がある」

キョン「さっきからこれしか言ってない気がするが、敢えて言おう。なるほど、わかった、と」


キョン「あ、あの! 秋葉幸高さんですよね!?」タッ

幸高「あ、あぁそうだが。君は?」

キョン「えっと、フェイリスさん、いや、るみほさんの知り合いの者です。るみほさんが俺のことを覚えてるかはわかりませんが……」

幸高「そうか、なぁ君。うちの娘がどこに行ったか知らないか? さっきから探しているんだが、どこにも見当たらなくて、連絡も取れないし、なにかあったんじゃないかと不安で……」

キョン「……それが、なにかあったみたいです。今娘さんは危ない男たちに追われてるみたいで……」


653:2015/08/12(水) 23:04:37.40 ID:
プルルルル ピッ

古泉『下っ端たちは機関が発見次第足止めしていますが、どうにも数が多く、今は岡部さんがフェイリスさんと隠れ隠れ逃げ回っている状況です。ですが追い詰められるのも時間の問題かと』

キョン「……くそっ!」

幸高「いったい何が起こっているんだ。娘はどこにいる!」

キョン「古泉! フェイリスさんは今どこだ!?」

古泉『……今、昭和通り側のx番地xxの裏路地に、しまった! 行き止まりです!』

キョン「……聞こえましたか、秋葉さん」

幸高「あぁ、なにがなんだかわからないが、そこに行けばいいんだな! 黒木、すぐに車を出せ!」

黒木「用意はできております」ガチャ


654:2015/08/12(水) 23:05:44.38 ID:

ブォォン!! キキーッ!! ブロロロロロ……

キョン(なんだか新川さんみたいな執事が運転するロールスロイスが爆速でアキバの街を駆け抜けていった……)

キョン「古泉、今そっちに意外な人物が向かった。多分なんとかしてくれるだろう」

古泉『意外な人物ではありませんよ。そのドライバーは機関のメンバーでこそありませんが、新川さんとは同期の桜です。幸高氏に関する情報提供者でもあります』

キョン「マジでか」

古泉『それから、リーダーのシドの居場所が判明しました。これより本案件は収束に向かうでしょう』

キョン「そいつはよかった。ついでにそのクソ野郎の顔を拝みたいんだが、どこに行けば合流できる?」

古泉『なかなか趣味が悪いですね。いいでしょう、彼は今、先ほど申し上げた裏路地へ移動中のようです』

キョン「わかった、そこをランデブーポイントとしよう。オーバー」

古泉『ディスイズブラボー、ラジャーアウト』ピッ

キョン「長門はどうする?」

長門「わたしは宿に戻って涼宮ハルヒの監視を続ける」

キョン(監視などという言葉を使ったが、おそらくアミダクジ大会と称した朝比奈さんのバレンタインデーチョコ争奪戦の時のように機転を利かせてハルヒにうまいこと言い訳してくれるのだろう。こっちの面でも頼りになるとは鬼に金棒、宇宙人にリーディングエアーだ)


655:2015/08/12(水) 23:07:18.23 ID:
2010.08.13 (Fri) 17:40
裏路地


4℃「俺のヤバすぎるオーラがぁ、そいつを真っ黒に染め上げたいと囁くんだぁ」コツコツ

4℃「シーンの最前線に立つのは常に一人ぃ。その一人とはッ! 黒い羽根を羽ばたかせた孔雀……」コツコツ


キョン「お、おい。あんなやつがヤンキーのリーダーだってのか?」ヒソヒソ

古泉「言動は常軌を逸していますが、チーマー的カリスマ性だけはあるのでしょう」ヒソヒソ


4℃「クレイジーな舞でぇ、テメェをエレガントに沈めてやるぜぇ。漆黒に選ばれるのは、この俺だぁ」コツコツ

4℃「その目に焼き付けるがいい……。冥土の土産になぁ……」コツコツ


キョン「さて、岡部さんとフェイリスさんは幸高氏によってとっくに救出されたわけだが」ヒソヒソ

古泉「残存していたチンピラも既に警察が逮捕しています。今回は田丸兄弟ではなく、ホンモノの国家権力ですけどね」ヒソヒソ


656:2015/08/12(水) 23:08:11.76 ID:
4℃「キャキャキャキャキャキャ! 待たせたなぁ。4℃様参上!」

警官A「君、ちょっと署まで同行してもらえるかな」

4℃「あぁ? なんだぁ貴様らぁ!?」

警官B「警察だ。現行犯で逮捕する」

4℃「ケイ……サツ。え、逮捕する!? WAWAWA……」


古泉「21歳無職、鈴木功一、17時45分緊急逮捕。これにて一件落着です」

キョン「……なんだか俺の友人T君の行く末が心配になってきたんだが」

古泉「彼がファッション誌に興味を持ち始めたら機関に連絡してください」


657:2015/08/12(水) 23:11:24.75 ID:
キョン「それで、岡部さんは」

古泉「黒木さんからの情報によると、殴る蹴るの暴行を受けたため、現在は秋葉家にて傷の手当てを受けているようです」

キョン(長門よ、これでホントによかったのか? まぁ、いざとなればタイムリープすればいいか……)

キョン「そうなるとしばらく連絡は取れそうにないな」

古泉「その間に僕たちは僕たちで調べられることを調べておきましょう」

キョン「そうだな……。俺はこれから柳林神社に行く。もしかしたら元の状態に戻っているかもしれん」

古泉「わかりました。こちらは引き続きこの世界線における橋田鈴さんの遍歴を洗い出しておきます」


658:2015/08/12(水) 23:12:41.45 ID:
2010.08.13 (Fri) 18:16
柳林神社


正直ここに来たのは失敗だった。

柳林神社に到着し、豪気とは正反対の雰囲気で剣を振るっていた巫女さん、漆原さんに例のIBN5100の在り処について尋ねたところ、また来たのか、何度言ったらわかるんだという感じであしらわれてしまった。

いや、俺が要約すると漆原さんの性格がゆがんで伝わってしまう恐れがあるな……。実際のセリフは次のようなものだ。


るか『えっと……以前にも、いらっしゃいました、よね……』

るか『前にもお伝えしました通り……、そのようなものは、うちでは預かっていません……。お力になれず、申し訳ありません』グスッ



俺はIBN5100をこの場で入手するはずだった世界線からそうじゃない世界線に飛ばされたはずだ。元居た世界線に戻っていないのだからこの世界線の8月7日でもハルヒによる神社巡りは行われていたのだ。

どうも世界線移動の後遺症が俺の脳に出ているらしい。元からのデキとは言わせない。


659:2015/08/12(水) 23:14:16.09 ID:
神社に奉納されてすらいないということは、この世界線でも橋田鈴、すなわち阿万音さんによるIBN5100入手作戦は失敗した、ということなのだろうか。

それとも秋葉幸高氏の手に渡りはしたが、奉納できなくなった事情があったのか。かつて俺が聞いた、フランス人の実業家の話だ。

古泉の言うメタ的視点から推理すれば後者なんだろう。この世界線ではあまりにも秋葉家と岡部さんが関わりすぎている。

案外岡部さんが独力でIBN5100を発見して終わり、というシナリオで落ち着くのかもしれないが、その場合はうちの団長様の面目的にはどうなるんだろうな。

言いようのない安心感の上に覆いかぶさる薄皮一枚の不安を持て余した俺は、夏の夕涼みに最適であろう柳林神社を後にして鬼が出るか蛇が出るか状態の暮らし慣れた宿へと帰還することにした。


660:2015/08/12(水) 23:21:38.81 ID:
2010.08.14 (Sat) 00:16
湯島某所


キョン(不思議とハルヒから俺と古泉が何をしていたのかを問いだたされることはなかった。このSOS団三人娘は雷ネットABにドハマリしているらしく、野郎どものことは興味の外に置かれたらしい。これも長門のおかげかも知れない)

古泉「まぁ、涼宮さんのことですから明日には飽きているかもしれません」

キョン(それと岡部さんからメールが入っていた。椎名さんの死亡に関して、その命の期限が24時間伸びているらしい。つまり8月14日の20時頃が文字通りデッドラインとなったわけだ)

古泉「なぜ24時間延びたのか。これは神のみぞ知る、と言ったところでしょうか。世界外に観測点がない限りは理屈を理解することは難しそうです」

キョン「さて、古泉。それじゃ戦果を発表してもらおう」

古泉「了解です。思った通り、世界線の変更によって大幅に事象が改変されていたようです」

古泉「僕のリーディングシュタイナーを強制発動させてもらって、あなたと長門さんには頭が上がりません。こんな貴重な推理をさせてもらえるのですから」

キョン「ミステリーに超能力はタブーだったんじゃないのか」

古泉「超能力どころか世界が変わってしまうという、本来なら底抜けの禁じ手なのですけどね」

古泉「さて、良い知らせと、どちらかと言えば悪い知らせとがあります。どちらからいきましょうか」

キョン「……悪い知らせからで頼む」

古泉「了解しました」


661:2015/08/12(水) 23:26:45.31 ID:
古泉「この世界線でも阿万音さん、橋田鈴さんは2000年5月19日に亡くなっていました」

キョン「そんなッ!! ならどうして世界線が変わったんだ!?」

古泉「変わっていたのです。自殺ではなく、病死という形に」

キョン「病死……」

古泉「一体どのような病状だったのか。彼女が入院していた六井記念病院にガサ入れした結果、原因不明の進行性多臓器不全と診断されていたことがわかりました。カルテにはX線を大量に浴びた可能性についても言及されていましたが、要は現代医学では不明、ということです」

古泉「わかりませんが、もしかしたらブラックホールの特異点を通過した後遺症なのかもしれません。あの電話レンジがカー・ブラックホールを発生させていたのならば、人工衛星型タイムマシンもそのような構造である可能性が高い」

古泉「ブラックホール自体は放射線を放出しませんから外部被ばくによる幹細胞の死滅とは考えにくい。もしくは、リフターの調整がわずかにうまくいかず、特異点を裸にし切れなかったことで肉体的損傷を負ったか、細胞のガン化を促進することとなったか」

古泉「死因はともあれ、これが世界線の収束なのでしょう。世界が結託して命を奪いに来る……。アトラクタフィールドとは、死神のような存在ですね」


662:2015/08/12(水) 23:30:12.10 ID:
古泉「良い知らせのほうですが、橋田鈴さん、阿万音さんのIBN5100入手は成功していました。つまり、記憶障害になることなくミッションコンプリートしたわけです」

キョン「ホントか! そりゃ、よかった……。あぁ、きっとよかったんだ。岡部さんにメールで伝えておこう」

古泉「この世界線では、阿万音さんは当時上野の一帯に蔓延っていた犯罪者集団と交渉して『橋田鈴』の戸籍を偽造されたようです。かつてそこでニンベン師をやっていた方から冥土の土産にと教えていただきました」

古泉「ちなみに今回の事の発端である、2010年6月後半に@ちゃんねるで『秋葉原に幻のレトロPCが現れたらしい』という噂を流したのは、この方が所属していたグループの一人でした」

キョン「そいつがハルヒをアキバへ呼び寄せたのか……」

古泉「1998年3月にそうするよう依頼されていたらしいですよ、橋田鈴という人物に」

キョン「因果の輪がまるで知恵の輪みたいにこんがらがってきたな。こりゃお手上げだ」

古泉「橋田鈴は1975年には、発売直後で世間の話題をさらっていたIBN5100を、どこからか手に入れた資金によって複数台購入していました」

古泉「さて、阿万音さんの病死の後IBN5100はどうなったか。以前の推理通り、秋葉幸高氏の手に移譲されて管理されたようです。おそらく橋田鈴さんは、おいおい柳林神社へ奉納するよう幸高氏にアドバイスをしたのだと考えられます」

キョン「話がようやく繋がってきたな」

古泉「ところが幸高氏は、例の娘さん誘拐未遂事件の身代金を用意するためにフランス人の実業家に売ってしまったようです」

キョン「……フランス人の実業家!!」

古泉「よかったですね、確実にあなたの記憶の中にある、スタート地点の世界線に近づいていっているようです」

キョン「だがまだアキバは萌えを取り戻していない……。フェイリスさんが8月7日に送っただろうDメールを打消すことによって、そこまで戻れるといいんだが」

古泉「きっと大丈夫でしょう、岡部さんなら」


663:2015/08/12(水) 23:32:44.91 ID:
キョン「しかし古泉よ、やたらとフランスという単語が出てくるのはなぜだろうな」

古泉「SERNと天王寺裕吾についてはまだわかるとして、どうして秋葉氏がIBN5100を売った相手までがフランスなのかはわかりません」

古泉「ただの偶然と思うのが普通ですが……。陰謀論が現実味を帯びている現在、そうも言ってられないかもしれない」

キョン「可能性としてはなにがある?」

古泉「例えば、SERNがIBN5100を血眼で回収している。それも人を殺してでも奪い取る状態で」

古泉「そのためにラウンダーを動かしている。IBN5100は、SERNが外部からハッキングされる恐れのある唯一のアイテムですからね」

キョン「橋田鈴さんはむしろその魔の手から逃れるためにIBN5100を確保してたんだな……」

古泉「橋田鈴さんもSERNをハッキングしていたのかもしれませんね」

古泉「もしかしたらIBN5100が幻のレトロPCと呼ばれるほど現存台数が少なくなっているのはラウンダーの仕業かもしれません」

古泉「当然フェイリスさんの誘拐未遂事件もラウンダーによる自作自演。身代金よりも実際はIBN5100を取得したかった」

キョン「ディストピア構築のために?」

古泉「いえ、おそらくディストピア構築は結果であって、この時点での目的ではないと思います。つまり、タイムマシン作成が現在目標かと」

キョン「やっぱり裏でSERNを操ってる黒幕がいるらしいな。話は堂々巡りに入ってきたか」


664:2015/08/12(水) 23:35:41.30 ID:
キョン「ってことは、また明日だな……」

古泉「ここ数日はスラプスティックに巻き込まれてしまってお互い疲れているはずです。ゆっくり体を休めてください。明日何が起こるかわからないのですから」

キョン「あぁ、わかってるよ。しっかし、とんだ夏休みになっちまったもんだ」

古泉「完全な自由時間という意味で言えば、実質高校生活最後の夏休みですからね。涼宮さん的な力を考慮すれば、どんな事件が起きても不思議ではありません」

キョン「なぁ、ハルヒは来年の夏休みもこんな感じで突っ走るんだろうか」

古泉「さすがにある程度は進学のため勉学に励む日々になると思いますが」

キョン「なんだか想像できないな。受験勉強で休みを潰す団長様の姿はさ」

古泉「んふっ。同感です」


673:2015/08/13(木) 22:23:24.94 ID:



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◇Chapter.8 涼宮ハルヒのハルシネーション◇
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2010.08.14 (Sat) 8:30
湯島某所




674:2015/08/13(木) 22:24:58.43 ID:
ハルヒ「さぁ、特許記念日の本日もチャキチャキIBN5100を探すわよーッ! おーッ!」

朝日奈「お、おーっ!」

キョン(ヤバい、急性胃潰瘍が発症したらしい……。本当にハルヒがIBN5100を手に入れたらどうなるんだ? ラウンダーの襲撃? 世界線の大改変? 流血沙汰だけはご容赦願いたい)

古泉「張り切っていきましょう」

キョン(古泉のやつはどうしてこんなに能天気になっちまったんだろうな。まさか、強制リーディングシュタイナーの後遺症か?)


・・・・・・


キョン(クジ引きによる班分けはちょっとビックリする結果だった)

ハルヒ「へー、このメンバーになるなんて珍しいわね」

古泉「確率的には起きて然るべきでしょうが、確かに不思議な気分です」

キョン(その結果は、ハルヒ、古泉、俺の三人班と、朝比奈さん、長門の二人班となった)

みくる「……ひぃ」

長門「…………」

キョン(朝比奈さん、ガンバです)

キョン(しかし、これでは岡部さんの元へ相談しに行けないな……)


675:2015/08/13(木) 22:25:50.61 ID:
古泉「それで、団長。本日はどこを捜索しましょうか」

ハルヒ「そうねぇ……。研究機関が臭うわね!」

キョン「警備会社に門前払いを食らうのがいいオチだ」

ハルヒ「だったら中に入れる場所に行けばいいのよ」

キョン「……?」

古泉「なるほど、大学ですが。この時期でしたらどこの大学も僕たちみたいな高校生が見学する程度なら受け入れてくれると思います」

キョン「あー、そういやうちの親にもそんな言い訳を使ったんだった。瓢箪から出た駒だな、こりゃ」


676:2015/08/13(木) 22:27:11.33 ID:
キョン(そんなわけで俺たちは近場にあった東京電機大学へと乗り込んだ。まぁ、この大学ならギリギリ俺でも目指せる程度だしな。理系を受けるつもりはさらさらないが。ハルヒと古泉にとっては成績的には歯牙にもかけない場所だろう)

ハルヒ「わかってないわね、キョン。そんなスノビズムで大学を選ぶなんて無意味だわ! 理工系の大学は偏差値なんかより本人の研究意欲のほうが重要なのよ!」

キョン(普通ならこういう発言は負け犬のシニシズムになるんだろうが、ハルヒが言うと説得力しかない)

ハルヒ「それにこのレトロな雰囲気! いかにも日本のアカデミズムって感じね!」

古泉「初代学長の丹羽保次郎氏は発明家であり、ファックスの生みの親です。まさにこの大学は、『技術は人なり』を体現した場所と言えるでしょう」

キョン「だがあちらこちらに2年後の北千住への移設の件について貼りだされているな」

古泉「時代の流れでしょうか。さみしいものです」

ハルヒ「どうやら『未来科学部』ってのがあるらしいわ! 名前からして怪しいわね……!」

キョン(ここが岡部さんや橋田さんの通ってる大学、牧瀬さんとフェイリスさんの親父さんたちが通った大学、ついでに天王寺さんの嫁さんが通った大学、そして橋田鈴さんが学生としても教授としても暮らした場所か……)

キョン「未来ガジェット研究所はとことんこの大学に縁があるらし―――――――――――


677:2015/08/13(木) 22:29:17.83 ID:
D 0.456914%
2010.08.14 (Sat) 10:16
湯島某所


―――――――ッ!!」ブフォッ!!

みくる「だ、だいじょうぶですかぁ!? コーヒーお口に合いませんでしたぁ!?」ピィィ

キョン(あ、あれ!? 俺はなんでコーヒーなんか飲んでるんだ!?)ゴホッ!カハッ!

ハルヒ「ちょっとキョン!! いくらみくるちゃんの淹れた冷コーが不味くても飲み込むのが男ってもんでしょ!?」

みくる「ふぇぇん」

長門「味に問題はない」

古泉「大丈夫ですか。もしかして体調が悪いのでは」

キョン「あ、あぁ。すまん、ちょっと部屋に戻るわ」

ハルヒ「そんな暇ないわ! 早く準備しなさい! そろそろ倫太郎が動き出すわよ!」

キョン「は、はぁっ!? どうしてそこで岡部さんの話が……」

キョン(って、しまった! 岡部さんが世界線復元に成功したのか!)

ハルヒ「はぁ? アンタ記憶喪失にでもなったの?」

古泉「……昨日岡部さんから、明日女子高生とデートをするので、現役女子高生の涼宮さんたちにどのようなデートにすれば良いかと相談があったのですが、お忘れですか?」

キョン(なんだって世界はそんなことになってるんだ……。あぁ、あれか。女から男へと戻すっていう、人智を越えた性転換のためか。なんのこっちゃ)

キョン「古泉まで俺を健忘症扱いするな。ちょっと白昼夢を見ていただけだ」

ハルヒ「それはそれでヤバいと思うけど……」


678:2015/08/13(木) 22:31:17.59 ID:
2010.08.14 (Sat) 10:31
神田川 新幹線ガード下


キョン(ハルヒに強制連行される形で宿を出たが、アキバの街は久しぶりの姿、体感では12日振りに見る“萌え”だの“アニメ”だの“メイド”だのがゴロゴロしていた。ふぅー、この安心感)

みくる「待ってください涼宮さぁん! はぁ……はぁ……」ピョコピョコ

キョン(そしてこの朝比奈さんはどういうわけか例の猫耳カチューシャを標準装備している。今後、萌えの存在確認の指標は朝比奈さんの猫耳で代用しよう。癒されるしな)

キョン(それはそうと、どういうわけかこの世界線のSOS団は出歯亀根性まる出しでヒトのデートを尾行するというお世辞にも趣味がいいとは言えない行動を取ることになっているらしい)

古泉「涼宮さんたっての希望でしてね。岡部さんの弱みを握り、それによってIBN5100の譲渡をなかったことにしようと持ち掛けるつもりなのですよ」

キョン「ゆすりたかりの類じゃねーか。ロクなことをしねぇな」

キョン(そして古泉に関しては俺がこの世界について記憶喪失状態であることを見抜いてやがる。岡部さんから教えてもらったのか?)

キョン「……そうだ、IBN5100だ! この世界線だったら、壊れたソレが手に入るはずなんだ!」

古泉「でしたら、そう急ぐことはないでしょう。とりあえず涼宮さんに付き合いませんか」

キョン(こいつはIBN5100の重要性について岡部さんから聞いてないのか……?)


679:2015/08/13(木) 22:32:31.02 ID:
ハルヒ「……あそこ! 来たわよ! やっぱりあの巫女さん、かわいいわねぇ! ほら、尾行!」

キョン「急に引っ張るな! あと大声出したらバレるぞ!」

長門「…………」

キョン(しかし、あの漆原さんがバック・トゥー・ザ・マンるってのはいまいち実感が沸かないな……。ゴリゴリマッチョマンに変身したりするのだろうか)


紅莉栖「あれ、アンタたち……」


ハルヒ「あっ……」

みくる「あっ、えっと、研究所の……」

ダル「おほっ! あ、いやいや、僕は三次元なんかに屈しないお! やっぱりかわいいオニャノコには勝てなかったよ……」ガクッ

長門「…………」

古泉「皆さん考えることは同じようです」ンフ

ハルヒ「えっと、紅莉栖も尾行してるの?」

紅莉栖「ハァ!? だ、誰があんな厨二病男のデデデデートなんか尾行するもんですか! 私はただあいつがヘマこくようなことがあったらメールでアドバイスをしてやろうとだな!」

ダル「必至すぎるぜ牧瀬氏ェ……」

ハルヒ「……そう。そうなると、あたしの計画は失敗ね。それにこんな大人数で尾行したら足がつきそうだし」

キョン(人数はこっちのせいだろうが、まぁ確かにラボのメンバーと一緒に尾行したら握れる弱みも握れないからな)


680:2015/08/13(木) 22:35:07.19 ID:
2010.08.14 (Sat) 14:35
ゲームセンター


キョン(牧瀬さんたちと会ったことでハルヒのデートイベントに対する関心は急激に薄れたらしく、昼飯を食べた後適当にその辺のゲーセンで時間を潰すこととなった)

ハルヒ「みくるちゃんッ! 次はレーシングやりましょ! 峠と湾岸どっちがいい?」

みくる「ふぇぇ」


古泉「それで、先ほどのIBN5100の件ですが、おかしいとは思わないのですか?」

キョン「ん? なにがおかしいんだ?」

古泉「もしあなたの言う通りこの世界線がIBN5100を入手できる世界線だとして、どうして現在のSOS団は未だIBN5100を入手していないのでしょう」

キョン「……そうか。あの世界線に戻ってきたって言うなら、8月7日に俺たちはIBN5100を入手しているはずだ。……してないのか?」

古泉「目下捜索中でして」

古泉「ちなみにIBN5100については岡部さんから世界線を復元させることで入手しようと試みていると聞いていますが、それは?」

キョン「聞いた。それなのにどうして岡部さんは漆原さんとデートなんかしてるんだ?」

古泉「漆原さんから交換条件を提示されたそうです。母親のポケベルの番号を教える変わりに恋人になれ、と」

キョン「……大人しい顔して知謀家じゃないか。まさに羊の皮を被った狼だな。ルカじゃなくてマタイ伝だが」


681:2015/08/13(木) 22:38:19.49 ID:
キョン(どういうことだ……。まさか、元の世界線には戻れていない?)

キョン「なぁ古泉。ちょっと長門とお前と3人になりたいんだが」

古泉「そうですね、10分程度でしたらパッといなくなっても問題ないかと思いますが、その前にアレをどうにかする必要がありそうです」

キョン「アレ?」


長門「…………」パチパチパチパチ

観客A「なんだこりゃ……人間の動きじゃねー!」

観客B「ALL GREATとか、AUTOさんかよ……」

観客C「JKが弐寺ランカープレイとか、胸熱!」

観客D「大萌神降臨!!卡哇伊!!」


キョン(筐体ゲームコーナーの一角にできた人だかりの中には、最低限のエネルギー消費で淡々と鍵盤を弾く長門の姿があった)

古泉「さて、何人かの抵抗に遭うでしょうが無理やりにでも引きずり出しますか」


682:2015/08/13(木) 22:40:37.26 ID:
2010.08.14 (Sat) 14:44
店外


キョン「悪いな、古泉。助かった」

古泉「いえいえ。長門さんもコンボ中にすいませんでした」

長門「いい」

キョン「それで、古泉特攻隊長殿。今のお前にとっては何度目の世界改変になるんだ?」

古泉「確信できる世界改変は今まで一度もありませんでした、あなたからの報告を含めて」

古泉「涼宮さんによる過去改変は未遂に終わりましたしね。よって今回が初めてです」

キョン「なに、そうなのか? ならどうして様子のおかしい俺にフォローを入れた?」

古泉「まさに様子がおかしかったから、という理由ですよ」ンフ

キョン「世話焼き女房みたいなことしやがって」

キョン「今までの経緯をいちいち口で説明するのが面倒くさいからな、お前が本来持ってるべき記憶を呼び覚まさせてやろう」

古泉「ほう、健忘症になったのは世界のほうでしたか。これはなかなか、楽しみですね」

キョン「長門、こいつにリーディングシュタイナーを発動させてやってくれ」

長門「りーでぃんぐしゅーくりーむ?」

キョン(ボケなのかマジで知らないのか一瞬困惑したが、この長門がリーディングシュタイナーの名称を知るわけないんだったな)

キョン(その上でボケてきたのか……。段々と長門のどうでもいい部分の能力が開拓されつつあるらしい)

キョン「ほら長門。おでこを出せ」

長門「?」

キョン「あー、これも説明するのか……」


683:2015/08/13(木) 22:42:47.05 ID:
古泉「―――――――ッ、はい、到着っと。長門さん、いつもありがとうございます」

長門「いい。わたしもちょっと楽しい」

キョン「……!?」

古泉「な、長門さんがそのような言葉を口にするとは……」

長門「今回の世界改変騒動においてわたしはあまり活躍できない。それはわたしが人間ではないから」

長門「あなたから読み取った記憶の範囲でしか世界を認識できない。なので、微力ながら協力できることが少し嬉しい」

キョン「……そうか、長門も少しずつ変わってきているんだな」

古泉「なんというべきでしょうか、ずいぶん人間臭くなってきましたね。もちろん、良い意味で」

長門「褒め言葉として受け取っておく」


684:2015/08/13(木) 22:46:54.82 ID:
キョン「それで長門、今度はどんな世界なんだ?」

長門「アキバに萌えが復活した」

キョン「それは目視して確認した。ってことはだ、例の神社に行けば、じゃなかった、ロッカー会社の倉庫に行けばIBN5100はあるんだな?」

長門「現在時空平面のベータロッカーシステム社の倉庫全てを確認したが、IBN5100はいずれの倉庫にも確定的に存在しない。現在トラッキング中」

キョン「……なんてこった。まるで人参を目の前にぶら下げられて走り続ける馬の気分だぜ」

古泉「ですが、僕たちにはタイムリープマシン(長門さん印)があります。これで8月7日まで戻れば確実にゲットできるのでは?」

キョン「……いや、待て待て。そもそもどうしてこの世界線の俺たちはIBN5100を手に入れられなかったんだ?」

長門「この世界線ではフェイリス・ニャンニャンこと秋葉留未穂が柳林神社へIBN5100を奉納した事実を涼宮ハルヒに報告していなかった。わたしたちが柳林神社に足を踏み入れたのは涼宮ハルヒの勘によるもの。ゆえに涼宮ハルヒは柳林神社にIBN5100が奉納された事実を確信できなかった。よってIBN5100の存在が確定しなかったためトラッキングが実行できなかった」

キョン「なんだか難しい話だが、要はフラグが立たなかったってことか」

キョン「やっぱり俺の元いた世界線に戻ってきたってわけじゃないんだな……」

古泉「完全に同じ世界線に戻ることは不可能です。今回はそのズレが大きかったのでしょう」

古泉「つまり、ほとんど同じ世界線ではあるのですが、長門さんが先に述べたフェイリスさんの行動の一点のみが異なっており、ゆえに因果の流れが変わった世界であると」

キョン「はぁ……。そう考えたら急に疲労感が俺の身体を支配し始めたぜ」

古泉「萌えがアキバに戻って来てよかったじゃないですか」

キョン「……!! そうだ!! これで俺は、あのメイド喫茶に行けば金髪ポニーテールの椎名さんに会えるッ!!!!!!」

古泉「明日のコミケで会えると思いますよ」


685:2015/08/13(木) 22:49:18.07 ID:
古泉「ですが、僕にとっては逆に不思議ですね。秋葉原が萌えの街になっているだなんて……。正直言いまして、現実感がまったくない」

キョン「そうか、古泉の記憶はそこがスタートだったんだな。長門、もっと昔の記憶、要は俺が体感した意味での8月7日以前の世界線の記憶をミックスさせることってできないのか?」

長門「可能。世界線変更直前のタイミングと該当する世界線の記憶の合体を合わせる。今回は新規消去は行わず、バックアップデータの追加のみを行う。これを8月7日分と7月28日分の2回に渡り繰り返す」

キョン「だそうだ。どうする古泉?」

古泉「そうですね……。かなりややこしいことになりそうですが、自分の記憶があって困ることはないでしょう。是非よろしくお願いします」

長門「但し大量の記憶が一瞬にして脳に挿入されるので出血する」


686:2015/08/13(木) 22:53:13.04 ID:
古泉「―――――――――というわけで、数々の世界線の記憶を持つ超人類が誕生しました。リーディングシュタイナー保持者と同じ地平に立つということ……。まさに僕は全宇宙<コスモ>と一つになったのです」タラーッ

キョン「全記憶を消去したほうが良さそうだな。あと鼻血拭け」

長門「ティッシュ」

古泉「じょ、冗談ですよ。長門さん、ありがとうございます……」

キョン「というか、頭痛を起こしたり鼻血を流したりするくらいなら、例のナノマシン注入で改変の影響を受けずに記憶を持ち越すようにできないのか?」

長門「不可能」

キョン「なぜだ?」

長門「ナノマシンの影響を与えられるのは世界線の変更が無い場合に限る」

キョン(あー、そりゃそうか。俺がハルヒに蹴られまくった世界線から戻った時、身体の生傷は消えていたのと同じ理屈だ。ナノマシンを打ち込まれたところで、打ち込まれてない世界線に移動してしまえば記憶の持ち越しは不可能なんだろう)

古泉「とにかく、IBN5100探索をしましょう。岡部さんとの合流はデートが終わってからですね」

キョン「ハルヒにはどこまでインフォームドコンセントしていいんだ?」

ハルヒ「全部に決まってるでしょ!! 三人でなにやってるのよ! 急に居なくなって心配したんだからね!」

キョン「どぅわっ!? す、すまんハルヒ! ちょっとゲーセンの喧騒が息苦しくてな!」

ハルヒ「……そうなの? 体調が悪くなる前に早くいいなさいよね。それじゃ喫茶店でも行ってちょっとゆっくりしましょ」

古泉「喫茶店……なるほど」ピカーン

キョン(古泉が突然したり顔になった。またなにか企んでやがるな)

キョン「それで、ハルヒ。喫茶店でIBN5100について教えろってわけか」

ハルヒ「そゆことっ」



687:2015/08/13(木) 22:54:23.93 ID:
2010.08.14 (Sat) 15:07
メイクイーン+ニャン2


フェイリス「ご注文のアイスコーヒーだニャン♪ ごゆっくりニャンニャン~♪」

キョン(古泉たっての申し出によって俺たちはメイド喫茶へ来ることとなった。あいつにこんな趣味があったとはな)

キョン(現在時間平面において椎名さんは外回りでチラシを配っているらしい……。くそっ、またしてもニアミスか…...)

ハルヒ「それで、アンタたちはどこまでIBN5100について情報を仕入れたの?」ジュゴー

キョン「あぁ、それなんだがな……。えーっと、あの、なんだ。だからその、うーん……」

古泉「僕からご説明致しましょう」


キョン「お、おい。ラウンダーに狙われるかもしれない状況でハルヒに暴露して大丈夫なのか?」ヒソヒソ

古泉「なにかあったらタイムリープマシン(長門さん印)でやり直せばいいだけですよ」ヒソヒソ


キョン「不安だ……」

ハルヒ「なにひそひそ話してるのよ! 早く言いなさい!」


688:2015/08/13(木) 22:57:12.37 ID:
古泉「まず、IBN5100の在り処、というより、あったはずの場所が特定できました」

ハルヒ「ホント!? どこなの!?」

古泉「それはなんと! 柳林神社という小さな神社に、とあるレトロPC収集家が、奉納していたらしいのですよ!」

フェイリス「」ピクン

キョン(なんだ、古泉のやつ。仰々しく芝居がかりやがって)

ハルヒ「やっぱりそこに在ったのね!?……あたしに嘘を吐くなんて、あの巫女さんいい度胸してるじゃない」ゴゴゴ

キョン(へぇ、この世界線ではあの人嘘吐いたのか。そういや他の人にも嘘吐いたって随分前に言ってたが、あれは岡部さんのことだったんだな)

古泉「ところが、そこの巫女さんが去年のお正月にIBN5100を壊してしまいましてね。なにしろあれは重たいですから」

ハルヒ「えぇー!? 壊れちゃってたの!? うーん、壊れたものを手に入れても仕方ないわよねぇ……」

古泉「僕の知り合いにこういう特殊なマシンを修理するのが得意な方がいましてね、その人に頼めば直るかも知れません」

ハルヒ「ホントッ!? それじゃーさっそく柳林神社へ向かいましょう!」

キョン「待てハルヒ。話を最後まで聞け」


689:2015/08/13(木) 22:58:45.69 ID:
古泉「その巫女さんがですね、奉納品を壊したことを怒られると思ってかはわかりませんが、壊れたIBN5100を街のコインロッカーに入れて放置してしまったらしいのです」

フェイリス「ニャッ!?」

ハルヒ「えぇー……。うーん、その行為は人としてちょっと許しがたいけど、まぁいいわ。ということは、ロッカーの管理会社に問い合わせれば!」

古泉「それが、まさに先ほど問い合わせをしてみたのですが、そのようなものは自社倉庫のどこにも見当たらないとのことでした」

ハルヒ「そんなぁ!? もっとちゃんとよく探すように電話しなさい! 早く!」

キョン「待て待て。無いって言ったら仮に在ったとしても無いんだろ。ここまできたら正直お手上げだ」

ハルヒ「そんなことないわ! 痕跡があるんだから在るに決まってるのよ! きっと会社の中にIBN5100に明るい人間がいて、こっそり自分の家に持って帰って暗い部屋で一人孤独にニンマリしてるんだわ!」

キョン「その架空の人間を犯人に仕立て上げる癖、なんとかならんのか」


690:2015/08/13(木) 23:00:02.52 ID:
フェイリス「ごめんニャ、盗み聞きするつもりはニャかったんニャけど……。もし見つけることができて、直せるのなら直してほしいニャ。IBN5100」

キョン「あぁ、いえ。こちらこそ大声で騒ぎ立ててすいません」

キョン(そういや橋田鈴さんが獲得したIBN5100は実質この人の手で奉納されたんだったな。でも普通子どもに任せるか? どうして幸高氏自身で奉納しなかったんだ?)

ハルヒ「なんでフェイリスが心配するのよ。あなたもIBN5100捜索祭りに興味があるの?」

フェイリス「その……。実は神社にそれを奉納したのはフェイリスなのニャ。パパの、パパの遺言だったんだニャ……」

ハルヒ「フェイリスが持ってたの!? って、そうだったの……」

みくる「遺言……そうだったんですかぁ……」グスッ

キョン「ゆ、遺言だと!? どういうことだ、あの秋葉幸高氏は、死んだってのか!? いったいどうして……」

フェイリス「ニャニャ!? パパのこと知ってるニャ!?」

ハルヒ「どうしたのよキョン、突然取り乱して」

キョン「だって、幸高氏とは昨日……」

フェイリス「昨日? パパが死んだのはもう10年も前の話ニャんだけど……。キョン、顔色が良くないニャ! お水持ってくるニャン!」


691:2015/08/13(木) 23:02:52.60 ID:
キョン(なんてこった……。よかれと思って世界線を元に戻ってきたつもりだったが、そのせいで人が一人死んじまった、だと……)

キョン(岡部さんはこのことを知っているのか……? 知った上で世界線を改変したのか……?)

古泉「急な話で納得できないことは多いと思います。ですが、今は運命だったのだと受け入れてください」ヒソヒソ

キョン「……クソッ!!」

ハルヒ「?? なんか様子がおかしいわね……」

キョン「いや、なんでもない。ともかく、亡くなった親父さんのためだ、なんとしてもIBN5100を手に入れようじゃないか……」

ハルヒ「もとよりそのつもりだけど……」

フェイリス「はい、お水ニャン。ゆっくり飲んでニャン。もしかして、キョンはパパの幽霊にでも出会ったニャン?」

キョン「幽霊……たしかに、あれは幽霊みたいなものかもしれない……」

キョン(この世界線の俺にとっては、世界外記憶領域に保存された記憶の断片でしかないんだもんな、UPXで出会ったあの秋葉幸高氏の存在は……)

キョン(なるほど、案外幽霊なんていう存在そのものじゃないか、世界外記憶領域とリーディングシュタイナーというのは。阪中事件の時は柳の下の枯れ尾花だと否定したが、火の無いところに煙は立たぬとはよく言ったもんだ)

フェイリス「その、パパはなにか言ってた、かな?」

ハルヒ「やめなさいフェイリス。コイツに霊感なんて無いわ」

キョン「そうだな……。幸高氏は、ABGC<アクセスバトラーズグランドチャンピオンシップ>でフェイリスさんが優勝するのを見届けてましたよ。それから、ヴァイラルなんとかっていうチーマー集団の物理攻撃からあなたを守っていました」

ハルヒ「ハァ? アンタなに言って……」

フェイリス「……やっぱり、ホントにパパに会ってたんだね。ありがとう、教えてくれて」ウルッ

ハルヒ「……あんまり適当言うのは感心しないけど、今回は許してあげるわ」


692:2015/08/13(木) 23:04:07.34 ID:
ハルヒ「それで!? そのベータロッカーシステムの本社はどこにあるの!?」

古泉「横浜市の金沢にあるそうです」

ハルヒ「わかったわ、それじゃ乗り込むわよ!」

キョン「ま、待てハルヒ! 本社にあるとは限らんだろ!」

ハルヒ「もちろんそうよ! だから二手に分かれるわ! 古泉くん、ここから一番近い事業所は!?」

古泉「三田にあるそうです。山手線で言うと田町駅が最寄りですね」

ハルヒ「じゃー有希とキョンはそっちね! あたしと古泉くんとみくるちゃんは横浜まで行ってくるわ!」

フェイリス「いってらっしゃいませニャー!! フェイリスは、SOS団を全面的に応援するのニャー!!」


693:2015/08/13(木) 23:09:05.99 ID:
2010.08.14 (Sat) 15:37
秋葉原


キョン(ハルヒの采配はなにか基準があったんだろうか、それとも“直観”だったのだろうか。いずれにしても後は長門の宇宙的パワーに頼ればIBN5100が手に入るというものだ)

キョン(これで未来ガジェット研究所がSERNへクラッキングを仕掛ければ、ディストピア化は回避できる上、椎名さんの命を救うことができる。同時にどでかい世界線変動が起こるらしいが、まぁ、俺の頭は慣れてるし大丈夫だろう)

キョン(なによりハルヒの最大の目的が達成される。さすがにIBN5100が手に入らなかったからという理由で夏休みをループさせられるのは勘弁して欲しいからな)

キョン「それで長門。トラッキングは完了したか」

長門「まだ」

キョン「えらく時間がかかるな……」

長門「その前に、漆原るかにリーディングシュタイナーを誘発させたほうが良いと考える」

キョン「あぁ、そうか。フェイリスさんの時と同じか。……ん? だが、メールの内容自体は判明してるんだから必要ないんじゃないか?」

長門「岡部倫太郎に報告しているDメールの内容が虚偽の可能性がある。あるいは、そもそも自分がDメールを送ったこと自体を思い出させなければ抵抗する可能性がある」

キョン「……あのか弱い漆原さんがまさか、とは思うが、今までも25kgもある壊れたレトロPC―――しかもそれは自分が壊したものである―――をロッカー会社の迷惑を考えずロッカーにぶち込んだり、相手の弱みを握って恫喝し男女関係を強要したりしてるから、一概に否定できないか」

長門「漆原るかの現在時間平面における座標は、午前中に視認した時から追跡していたので把握している。あとは誘発させるだけ。許可を」

キョン(そういってこの宇宙人は俺のほうをわざわざ振り返り、銀河のように深遠な瞳で俺を見つめてくる)

キョン「ん、でも長門さん、長門に俺の記憶をコピペする前から漆原さんを追跡してたのか?」

長門「涼宮ハルヒが今日一日尾行する予定だったため」

キョン「そういやそうだった。それじゃ、やっちゃってくれ」

キョン(言うや否や、昨日と同じように長門の右手から一羽の蝶らしき何物かが宙へと羽ばたき、秋葉原のどこかへとふわりふわり飛んでいった)


694:2015/08/13(木) 23:10:36.83 ID:
キョン(それから待つこと3分)

長門「IBN5100のトラッキングが完了した」

キョン「それで、どうなった?」

長門「IBN5100は現在――ニャーン――、コンピ研部長氏の自宅にある」

キョン「……すまん、なんだって」

キョン(わざわざこの言い慣れてたセリフを言う必要は無かったんだが、どうしても聞き返したくなる内容だったもんだから止むを得ない)

長門「情報プロテクトが施されていて、遠隔による物質転送は不可能」

キョン(いろいろ突っ込みたいところはあるが……、今はそんなことをしてる暇はないだろう)

キョン「つまり、去年の夏の試験終わりと同じく、新幹線に乗ってその不思議空間から囚われのIBN5100を救出しに行かねばならないということか」

長門「そう」


695:2015/08/13(木) 23:19:05.77 ID:
2010.08.14 (Sat) 15:52
東海道新幹線車内


キョン(去年の夏、例の魔法円模様の直視による黄土色空間への引きこもり事件に際して、その被害者は部長氏含め8人いた。うち5人はご近所さんでなんとかなったわけだが、残りの3人は新幹線に乗って救出しに行ったことがあった)

キョン「IBN5100を求めて東京に来たのに、結局北高周辺へ舞い戻るというのもなにかの因果かね。まさか俺たちが時速300km近くで西へ移動しているとはあのハルヒでも思いつくまいよ」

長門「…………」

キョン(一応古泉には連絡しといたが……、あいつの小さな企てはこんな感じだった)


古泉『僕たちはフェイリスさんが奉納した事実を知ってましたからね、メイクイーン+ニャン2でIBN5100の話をすればおそらく自分が奉納したと名乗り出る』

古泉『それを聞いた涼宮さんは、やっぱりIBN5100はこの世に存在するんだと強く確信するはずです』

古泉『そうすれば涼宮さんはなんらかの方策を立てるでしょう。それは願望実現能力としても、あるいは』


キョン(そんなパルプンテみたいな仕込みをしなくたっていいじゃないか。まぁ、IBN5100を入手さえしてしまえばハルヒの怒髪天もふわふわウェービー程度に落ち着くだろう)

キョン「それで、長門。どうしてまた部長氏なんだ」

長門「トラッキング中、故障したIBN5100は確率の雲の上に存在していた。それが確定したのは涼宮ハルヒが架空の犯人を仕立て上げた後、秋葉留未穂の奉納の事実を耳にした瞬間だった。その犯人像が部長氏」

キョン「……結局ハルヒの仕業か。あいつの記憶の中で一番レトロPCを持ってそうな人物が部長氏だったというわけだ。あれほどIBN5100はパソコンではないと言ったはずなんだけどな」


696:2015/08/13(木) 23:21:07.07 ID:
キョン「どこから質問すべきか……。えっと、まず、確率の雲の上にIBN5100が存在する、ってのはどういう意味だ?」

長門「IBN5100がシュレーディンガー方程式の解として存在していた。要は波動関数」

キョン「東京に来てから俺の理系の成績は上がったかも知れないな。つまり、確率的に存在はするが、この地球上のどこにあるかは確定していなかった、ということか?」

長門「そう」

キョン「どうしてそんな奇怪なことになった」

長門「世界線の収束が共鳴したためと思われる」

キョン(これ以上世界の仕組みについて質問することに意味はあるんだろうか……)

キョン「えっと、長門? 世界線の収束が共鳴するってのは、どういうことだ」

長門「わたしは現在世界線以外の世界線関数を確認することができないので推測しかできない。なのでもしかしたらわたしの考えは間違っているかもしれない。それでも、いい?」

キョン(長門が古泉役をせねばならんとは、世界線とは厄介なもんだな)

キョン「あぁ、もちろんだ。頼む」

長門「……本来であれば、現在世界線におけるマクロ系は近接世界線からの揺動によって本質的孤立系とは成り得ず、事象の波動関数を収縮させ、その結果コペンハーゲン解釈となる。これがマクロ宇宙、すなわち世界線の単一性の保証となるが、今回はそのバランスが崩壊した」

長門「IBN5100に関連する事象は非常に多世界解釈の因果を背負っている。微小な世界線変動率<ダイバージェンス>変化により事象の因果律は多様化、複雑化した。それが可能となるのは、世界の外にデコヒーレンスを起こさせる観測者が存在するため」

キョン「……そんなWikiを開いて適当に目についた単語を並べたようなセリフを言われてもな」

長門「簡単に言うと、岡部倫太郎を中心とする未来ガジェット研究所がIBN5100捜索と世界線移動を同時に行ったためにIBN5100の存在が曖昧なものになった」


697:2015/08/13(木) 23:22:19.66 ID:
キョン「片手間に超常現象が発生されても困るぜ……。それじゃ、次の質問だが、部長氏の部屋にカマドウマ空間よろしく情報プロテクトがかかっているのはなぜだ」

長門「涼宮ハルヒがIBN5100を確保するために発動した」

キョン「なるほど、こういうのならばシンプルで非常にわかりやすい理由だ。局地的非侵食性融合異時空間だのジャンク情報が混在だの情報生命体が覚醒だのというおはぎとぼたもちの中間的存在みたいなものではなく、純度100%のハルヒ成分によって構成されているならば清々しいほどに安心感があるというものだ」

キョン「ちなみに部長氏は今どこに?」

長門「ホンジュラス」

キョン(……あーっと、確か中米は部長氏のご両親の実家だったか。まぁ、そういうシーズンだし、ここは驚くところじゃないのか)

キョン「なんだかわけのわからんことになったが、去年と似たような手順でカギを開錠し、宝箱の中のお宝を奪取しちまえばいいだけの話なんだよな」

長門「後は任せて」

キョン(この長門さんの頼もしい発言にすべてをゆだねて、俺はこの小さな宇宙人と擬似愛の逃避行へとまさに現実逃避しても構わないだろうか。最近忙しかったし、いいよね?)


698:2015/08/13(木) 23:24:54.48 ID:
キョン「お、富士山が見えたぞ」

長門「そう」

キョン「やっぱり富士は日本一の山だな」

長門「そう」

キョン「……なぁ、長門。その、漆原さんやフェイリスさんに誘発させたリーディングシュタイナーって、本人からしたら混乱するんじゃないか? 本来あるべきはずのない記憶が頭ん中にあるんだから」

長門「通常範囲のリーディングシュタイナーの場合、多くの人間はそれを夢、幻、あるいは記憶違いなどとして認識、処理する」

キョン「そりゃそうか。それで、岡部さんがその夢や幻の内容をピタリと言い当てれば夢じゃなくなるってわけだ」

長門「……人間は夢と現実を対立すべき概念として考える。しかし、夢、幻、デジャヴと言ったものは全て人間の脳内の化学的変化および世界外記憶領域との連結であり、現実に起こっている事象。これを非現実として切り捨てるのは人間が社会的動物だから」

キョン「……んん?」

長門「仮に夢を二人で見ることができれば、それは少なくとも二人にとっては夢ではない」

キョン(去年の5月の、ハルヒによる世界崩壊のことを言ってるのか。そりゃ、そうだな。俺が仮にハルヒに、お前にキスした夢を見たと言ったら、それはハルヒにとって夢幻ではなくなり、俺がタコ殴りにされることは物体が光より速く移動することが不可能なことと同じくらい確定的だ。今俺たちが乗車してるのは“のぞみ”だけどな)

長門「逆に通常なら現実と認識すべき事象でも、その事象へアクセス可能な人間が一人しかいない場合、社会的には妄想や幻想として処分される」

キョン「ってことは、自分の妄想を周りの人間に認識できるような、催眠術誘発装置とかがあれば、それって妄想じゃなくなるのか? メガロマニアもビックリだな」

長門「理論上はそうなる」

キョン(この一連の会話は長門にとってはただの雑談なのだろう。それを楽しいと感じてるかどうかは、そのセリフの長さや言い回しでなんとなくわかる)


699:2015/08/13(木) 23:26:51.35 ID:
長門「…………」パクパク

キョン(次から次へとシュウマイが消滅していく。非常に規則正しいモーションの反復によって、箸で持ち上げられたシュウマイズは長門の口へと放り込まれていく)

キョン(駅で飯を買うのを忘れていた俺たちは車内販売で夕食を済ませることにした)

キョン「シュウマイ弁当、おいしいか?」

長門「」モグモグ

長門「」ゴクン

長門「とても」

キョン(なんともお行儀の良いことだ。クルミ割り人形のような瞳が俺にその美味さについて訴えかけてくる)

キョン「……俺のシュウマイも食うか?」

長門「……いい」

キョン(ほんの一瞬、コンマ1secにも満たない間隙、長門は言いよどんだ、気がした。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね)

キョン「気にするな、食っていいぞ。ほら」

キョン(そう言って俺は自分の弁当に一つ入っていたシュウマイを箸で長門の弁当箱に投げ入れた)

長門「……ありがとう」


700:2015/08/13(木) 23:28:27.21 ID:
2010.08.14 (Sat) 19:52
部長氏自宅


キョン(部長氏の住まいは、可もなく不可もなく、新しいとも旧いとも言えない平凡な、三階建て半地下一階のワンルームマンションだ)

キョン(記憶の通りに存在していて嬉しい気持ちになるなんて、ついに俺は非日常に慣れすぎて日常:非日常関係が逆転してしまったらしい)

長門「…………」ガチャ

キョン(いつぞやのソレと一ミクロンたりとも違わぬ所作で開錠する長門。さて、ここまでは予想の範囲内だが)

キョン「相変わらずな部屋だな。ポスターが変わってるくらいか?」

キョン(良くも悪くもまったくもって不思議な現象は発生していないように思えることに安心する)

キョン(部長氏も俺と同じ、普通の人間、普通人だったのだと思うと、海外旅行をしている時に会う見ず知らずの日本人に親近感を覚えるソレのような感覚に陥った。海外に行ったことないけどさ)

キョン「さぁ、違法侵入であることに変わりはないが、気持ち的に素早く済ませてしまいたい。例のnbtstatの高速詠唱を頼む」

長門「今回は情報プロテクトを解除すればいいだけ。その鍵はここにある。今開錠された」

キョン「なに? 鍵ってどこに……」

キョン(と、俺の質問半ばにして長門は産業用ロボットアームのごとく正確無比に右手の人差し指で床を指し示す。そこには親戚から送られてくる蜜柑箱サイズのダンボール箱があった。こんなもん、さっきまでここに無かったと思うのだが……、あれか。開錠ってのはそういうことか)


701:2015/08/13(木) 23:30:13.79 ID:
キョン(おもむろにダンボールを開けるといわゆるレトロPCが収納されていた。そのボディには『IBN5100 portable computer』と旗幟鮮明に書かれている)

キョン「つまり、SOS団にしか手に入れらないようにハルヒが保護防壁を敷いた、ってことか」

長門「そう」

キョン「さて、俺たちはこれを秋葉原へ持っていかねばならない。まぁ、仮に盗難届が出されたとしたら“無かったものが盗まれる”という弱小オカルト雑誌に掲載される程度の不思議現象という名の空き巣が発生するわけだが、まぁなんだ。大丈夫だろ。部長氏だし」

長門「抜かりはない」

キョン(まったく頼もしい限りだ)

長門「湯島の宿へ転送する。許可を」

キョン(もはや形骸化した許可申請儀式に俺はいちいち安堵の胸をなでおろす)

キョン「あぁ、もちろんだ。やっちゃってく――――――――――――――


709:2015/08/17(月) 07:33:47.50 ID:
D 0.523307%
2010.08.14 (Sat) 20:01
湯島某所


――――――――――れッ!!!!! ぐあッ!!!」

古泉「だ、大丈夫ですか?」

キョン「は、はぁ……ッ!! くそッ、やっぱり慣れるもんじゃねえなぁ……」ズキズキ

キョン(たしかこの世界線の古泉は世界改変を間接的にも全く経験していないはずだ。ハルヒの改変も未遂に終わっているはずだしな……)

キョン「えっと、俺は突然記憶喪失になった。そして別の世界の記憶を埋め込まれているんだ」

古泉「……あなたの口からトンデモ現象が飛び出すとは、夢にも思いませんでしたよ」

キョン「とにかく、説明が面倒だから信じてくれ」

古泉「その言い方だけであなたがあなたなのだと信頼できます。それに、岡部さんからある程度お話は聞いていますよ」ンフ


710:2015/08/17(月) 07:35:17.24 ID:
キョン「しかし、どうしてIBN5100を手に入れた瞬間世界線が……。もしかして、IBN5100を手に入れたことがキッカケとなって世界線が改変されたのか!?」

古泉「……? いえ、まだ僕たちはIBN5100を入手していません」

キョン「なに? ってことは、またIBN5100がフランス人の実業家の手に渡った世界線に戻っちまったってことか?……ダメだ、考えても混乱するだけだな」

キョン「まったく、蝋で作った翼で太陽に向かってフライトしてる気分だ」

古泉「……どういうことでしょうか」

キョン「俺は、IBN5100を手に入れた。確かに、手に入ったはずだったんだ」

古泉「……ふむ」

キョン「お前に記憶の引き継ぎをする必要がある。だがその前に、この世界の状況について教えてくれ。IBN5100について」

古泉「わかりました。さて、どこから説明しましょうか……」


711:2015/08/17(月) 07:39:32.95 ID:
古泉「7月31日、我々が東京に来る丁度1週間前ですが、この日柳林神社に奉納されていたIBN5100が何者かによって盗難されていたのです」

キョン「漆原さんが男になったことでIBN5100の故障は回避されたのか。だが、なんだってそんなことに……」

キョン「ちなみに、漆原さんは男か?」

古泉「……容姿も仕草も女性にしか見えませんが、機関の調べでは戸籍上も生物学上も男性です」

キョン(……ツッコミどころがありすぎるが、正直構ってる場合じゃない)

古泉「さて盗難の犯人についてですが、それについては判明しています。僕たちSOS団はその窃盗犯と同時に、他にあるかもしれないIBN5100を5日間探していたのですが、今から3日前、8月11日に岡部さんがタイムリープしてきました」

キョン「そうか、岡部さんは世界線復元の後にタイムリープ限界の8月11日まで戻ったのか」

古泉「その岡部さんの話によると、桐生萌郁、20歳女性フリーターがホシだそうです。ですが、それは組織の陰謀の一角でしかなかった」

キョン「どういうことだ?」

古泉「IBN5100は多くの人間の手を経由した後、今はブラウン管工房店長、天王寺裕吾氏の自宅に置かれているそうです」

キョン「……ラウンダー!! ってことは、やっぱりラウンダーの目的はIBN5100の回収だったってことか!!」

古泉「そうなります。桐生萌郁をはじめとするラウンダーは、そのためにSERNに雇われているようです」

キョン(ラウンダーだろうがなんだろが、IBN5100の場所がわかってるんならあとは長門に転送してもらうだけだ)

古泉「その事実を岡部さんに聞いてからというもの、機関は息つく暇もなく緊張状態です。涼宮さんを陰謀の魔の手から死守しなければなりませんでしたからね」フゥ


712:2015/08/17(月) 07:43:24.59 ID:
古泉「8月11日の段階で岡部さんは過去改変打消し用Dメールを送った。元々携帯端末の機種変更という内容は嘘で、柳林神社のIBN5100を盗むよう指示したものだったそうです」

キョン「なるほど、それで7月31日が改変されちまったってわけか。でも打消し用Dメールを送ったならどうしてその事象が相殺されてないんだ?」

古泉「桐生萌郁の人間性によるものです。未来の自分から来た2通目以降のメール、すなわちこれが岡部さんが送った打消しDメールであり、おそらく内容は『神社に侵入するな危険』などだったと推測されますが、彼女はそれを確認するために柳林神社へ侵入した」

キョン「……確かめないと気が済まないわけだ。そりゃそうだ、あると噂されるだけでこんだけ必死に探されるようなアイテムなんだからな」

キョン(ということは、長門の蝶々は今回使っても意味が無いってことか……)

キョン「だが、それならいったいどうすればいい? どうしたら世界線が復元される」

古泉「桐生さんに絶対的な命令を出す人物がいるそうです。ラウンダーの上司、コードネーム『FB』という存在。女性らしいです」

キョン「FB……」

古泉「彼女のケータイからのDメールならば桐生さんは絶対に命令を聞く。これで世界線復元が可能となります」

古泉「そのためにはFBなる存在を剔抉しなければならない。岡部さんは、IBN5100が最終的に到達する人物こそがFBの正体だと踏んで尾行している、というわけです」


713:2015/08/17(月) 07:46:00.95 ID:
古泉「現在、岡部さんと桐生さんの2人はレンタカーを借りて御徒町の天王寺家を張っているそうです。機関の者が涼宮さんの保護任務と並行して差し入れ等で協力していますよ」

キョン(なんで岡部さんはラウンダーの桐生某と一緒に行動してるんだ……? そうか、脅して連行させてるのか、FBかどうかを判別させるために……)

古泉「どうやら他の世界線でラボがラウンダーに襲撃された際に機関と連携を取ったことがあったそうで、今回も頼っていただきました」

古泉「ちなみにその時の連携について、信じられないことに機関は作戦を失敗し、椎名さんの命を救うことはできなかったそうです。精神的な問題からか、具体的になにがあったのかは教えていただけませんでしたが……」

古泉「ともかく、天王寺家からのIBN5100の移動先が判明すればFBへたどり着けるというわけです」

キョン「……この世界線でも椎名さんは収束に殺されるのか?」

古泉「そのようです。8月16日、19時52分がこの世界のデッドラインと伺っています」

キョン「……そうか」


キョン「よくわかった。それじゃ、そろそろあっちの古泉と交代してもらっていいか?」

古泉「はぁ、よくわかりませんが、それが必要ならばお願いします」

キョン「ちょっと待ってろ、長門を呼んでくる」タッ


714:2015/08/17(月) 07:54:09.98 ID:
湯島某所 2階廊下


キョン(そういや女子部屋に入るのは初めてだな)コンコン

キョン「あー、俺だ。長門居るか?」

ハルヒ『“俺”って誰よ! オレオレ詐欺はお断りよ!』

キョン「……いちいち面倒くさいやつだな。俺だって! ―――ニャーン―――だ!」

ハルヒ『誰それ? ちょっと待って、ホントに知らない人があたしたちの部屋の前に……』

ガチャ

キョン(ハルヒが俺のセンシティブなところをシールドマシンのようにゴリゴリ削る冗談を言いかけたところで静かにそのドアが開いた。部屋の中からは思春期特有の甘ったるい香りが漂ってくる)

キョン「おぉ、長門。よかった、お前に用があるんだ。ハルヒ、ちょっと長門を借りるぞ」

ハルヒ「有希になんの用なの? 変なことさせるつもりじゃないでしょうね?」

キョン(しまった、言い訳を考えていなかった……)

長門「……彼と古泉一樹から雷ネットABの稽古をつけてほしいと頼まれていた」

ハルヒ「あー、確かに有希が団員内で一番強くて古泉くんが一番弱いから、特訓は必要かもね。有希、ビシバシ鍛えてやんなさい!」

長門「」コクッ

キョン(やはり長門はこういう時に頼りになるような自律進化をし始めたらしい)


715:2015/08/17(月) 07:57:46.76 ID:
湯島某所 談話室


古泉「―――――ッ、突然世界が変わるというのは、なかなか慣れるものじゃありませんね……」

キョン「それはさっき言った。俺が」

長門「IBN5100は先の世界線で入手に成功していた。主にわたしのおかげで」

キョン「あ、あぁ。そうだったな。ありがとう長門」

長門「別にいい」

・・・

古泉「……ご説明ありがとうございます。なるほど、この世界線でも椎名さんは亡くなってしまう、と。先の世界線と同様に」

キョン「そうだ……ん?」

キョン「ちょ、ちょっと待て。俺がさっきまで居た世界線ではIBN5100は確実に手に入って、未来ガジェット研究所のもとに届けられたはずだ! それなのにどうして椎名さんが死んでしまうんだ!? おかしいじゃないか!?」

古泉「……確かにその世界線は不思議なことになっているようです」

古泉「可能性世界線の話となってしまいますが、その世界線は岡部さんが打消しDメールを送らなかった世界です。その理由はなんだと思いますか?」

キョン「えっと……、漆原さんのお母さんのポケベルにDメールが送れなかった理由?」

古泉「技術的には達成していることが現在こうやって確認できていますので、おそらく心理的な要因かと」

キョン「……たしか、漆原さんが女から男になるって言ってたな。前の世界線では女、今の世界線では男。まさか……」

古泉「色は思案の外、と言います。あの二人がニセコイ状態からそのまま恋仲になり、椎名さん救出を諦めた世界、かもしれませんね。IBN5100によってラボ襲撃が無くなるのであれば、案外漆原さんと岡部さんは結婚して子どもまで作っているのかも」

キョン「そんなバカな! 岡部さんに限ってそんなことをするはずがない!」

古泉「その通りです。だからこそあなたはこの世界にいるのです」

キョン「あっ……、そ、そっか」


716:2015/08/17(月) 08:00:00.04 ID:
古泉「あくまで可能性世界の話。決して現実でもなければ改変世界でさえない、思考実験の上にしか成立しない世界です」

古泉「そこではIBN5100は手に入るが椎名まゆりは死ぬ。椎名さんが亡くなることは岡部さんからメールで聞いていましたね」

キョン「あぁ……。そうだった、あの人は毎回椎名さんの死亡時刻を確認しているんだった」

古泉「その後、ラウンダーは牧瀬紅莉栖を誘拐し、タイムマシン研究を強要させる。それはその可能性世界線でも阿万音さんがディストピア回避のため橋田鈴となっていることから明らか」

キョン「IBN5100が手に入ればすべて解決ってわけじゃないのか……?」

古泉「問題はまさにそれです。IBN5100はエシュロンに傍受されたDメールを削除するために必要だというだけなのです」


717:2015/08/17(月) 08:02:36.78 ID:
古泉「傍受メールを削除しただけで何故ラボが襲撃されなくなるのか。これは簡単な推理で判明します」

古泉「Dメールを傍受したことによって、過去にメールを送る技術、すなわち物理的タイムトラベルをせずに過去改変を実行できる技術の存在に気付いた未来のSERNは当然電話レンジ的な装置を開発する」

古泉「そして未来からDメールを2010年8月中旬に送信し、天王寺裕吾あたりのラウンダーのケータイへ指示を送り、ラボの電話レンジ強奪および制作に関わった人間の拉致を実行するのです。僕だってSERNの立場ならばそうするでしょう」

古泉「ゆえにIBN5100で傍受メールを消せばこの因果が発生しない。未来のSERNは襲撃命令を出さない。ラボ襲撃は回避できるのです」

キョン「なるほど、そういう理屈でラボは襲撃されていたのか……。逆に天王寺さんは命令がないと動かない人だってのがわかったな」

古泉「もしかしたら彼は、橋田鈴や未来ガジェット研究所に対して情を抱いてしまったのかもしれませんね」

古泉「ともかく、IBN5100の入手には椎名まゆりの絶対的な死の回避や牧瀬紅莉栖の拉致は含まれていない」

キョン「……いや、待て待て。牧瀬さんの拉致に関しては、IBN5100の入手で回避できるはずだ。どうしてそれができなかった?」

古泉「簡単な話です。たとえ椎名さんの死を岡部さんが一度諦めた世界だったとして、それは“本当に”諦めたと言えるでしょうか」

キョン「……?」


718:2015/08/17(月) 08:05:11.07 ID:
古泉「つまり、岡部さんは一度諦めたとしても、また同じ過ちを犯す道を歩んでしまうのです。それが世界の収束」

古泉「過去改変が上手く出来なかったらどうするか。答えは簡単です。もう一度やる」

古泉「うまく行くまで何度も過去へ戻り何度も試す。時間を遡る可能性がある限り人は必ずそうする。そうしてしまう」

キョン「……ってことは、なにか。あの人は、また、椎名さんを救うために……」

古泉「いずれタイムリープマシンを再び使用するでしょう。当然、牧瀬さんの協力を得て。そして岡部さんは、椎名まゆりの命を救うまで使い続けるはずです。もちろん、その結果は万代不易の摂理に導かれているわけですが」

キョン「……バカだ。なんてバカな世界線なんだ。バカげてる……」

古泉「具体的にどういう原因で牧瀬さんが拉致するに値する人物であるとSERNが判断することになるかはわかりません。例えば、Dメールを送って再度エシュロンに傍受されるか、天王寺裕吾が攻勢にでる……もっと他の理由も考えられそうです」

長門「あのタイムリープマシンは大檜山ビルに繋がれたSERNへの直通回線を利用してLHC<ラージハドロンコライダー>を使用している。またラボは過去にSERNへハッキングを仕掛けている。時代が変化し、それらが発覚する可能性もある」

キョン「ちょ、直通回線!? なんだってそんなもんが狙いすましたかのように……」

古泉「例えば、2034年以降のSERN関係者が2010年の夏以前にタイムトラベルしてきて回線を引いた。何故なら、ディストピア成立にはあのタイムリープマシンの略奪、そして牧瀬さんの拉致が必要ですからね。自分たちの未来を守るために“既定事項”を作っただけなのかもしれません」

キョン「……その言葉は俺たちの愛くるしい未来人にだけ使ってくれ。虫唾が走る」


719:2015/08/17(月) 08:07:26.40 ID:
キョン(結局、俺たちが秋葉原に来た8月7日の時点の世界線においても、IBN5100は手に入るが椎名さんの死の収束から逃れることはできなかったんだな……)

キョン「もう、やめよう。これ以上思考実験世界のことを考えてもしょうがねぇ。現実を見ようじゃないか」

古泉「そうですね。ですが、思考実験は僕たちに重要な示唆を与えてくれました。つまり、この世界線においてもIBN5100を入手するだけでは椎名さんを救うことはできない。ディストピア回避も不可能です」

キョン「いったいどうすればいいのか古泉には見当がついてるのか? IBN5100が必要なのは大前提だが、あとはなにが必要なんだ?」

古泉「……いえ、正直なところ掻暮見当が付きません。岡部さんの言うところによるとDメールの打消しが必要だということですが、その理由についてはもう少し推理に時間を頂きたいところです」

キョン「もしかしたら世界線の収束条件というのが関係あるのかもしれん。長門が言っていた、共鳴現象のような何かが」

古泉「収束条件……、ですか。なるほど。それを考慮して仮説を立てて見ましょう」

キョン「早ぇなおい」


720:2015/08/17(月) 08:15:45.93 ID:
古泉「一番最初に世界線を改変するモメントとなったDメールは7月28日に送られたジョン・タイター改変メールです。これによって2000年に米国の大手ネット掲示板に現れるはずだったタイターが2010年に日本のネット掲示板に現れた」

古泉「おそらく、我々は2000年タイター世界まで戻る必要があるのでしょう。ここが世界の本来あるべき姿であり、β世界線です」

古泉「まだ確定ではありませんが、β世界線であれば椎名さんは救われている可能性がある。2010年にタイターが来ないということはディストピア化しないということですからね。つまりラボも襲撃されないし、椎名さんが死ぬことによって岡部さんが延々とタイムリープすることも無くなる」

キョン「そうか、俺たちが7月28日の午前中まで居た世界へ戻ることが阿万音さんの言ってた大規模な世界線変動だってことか」

古泉「その阿万音さんの推測、すなわち2036年までにおける科学的研究の成果によれば、2000年タイター世界線が間違いなくβ世界線であることになります。αの阿万音さんが知り得ない情報の世界ですからね」

キョン「βのタイターも阿万音さんっぽい気がするな……。2038年問題のために過去に来たってんなら、まだ世界は平和だ」

古泉「そして7月28日の昼過ぎ、最初の改変によって生じた世界線、仮にこれを2010年タイター世界線と呼びましょう、この世界線では、岡部さんはIBN5100を入手することに成功していた」

古泉「この次の改変はおそらくロトくじですが、これはIBN5100とは直接関係ないでしょう。関係がある次のメールは桐生萌郁の神社強盗メール」

古泉「これによって現在僕たちがいる世界線が誕生し、IBN5100は盗まれることになった」

古泉「つまり世界は、2000年タイター世界、2010年タイター世界、そして桐生萌郁強盗世界と、3つの世界を順番に渡り歩いて来たことになります」

キョン「そして、逆方向に戻ってきたわけだ」

古泉「この3世界線がもし形而上の比ゆではなく、実際に隣り合わせの関係だったとしたら、どうでしょう」


721:2015/08/17(月) 08:18:20.26 ID:
古泉「この仮説を補う話として、椎名さんの運命の日が24時間ずつずれていることがあります。つまり、各世界線は、指標は不明ですが、世界線の収束が24時間ずれる、という一定の間隔を持っていると言える」

キョン「……そうか、いったん2010年タイター世界を経由しないと、2000年タイター世界、β世界線へは行けない。飛び越えることができないのか!」

古泉「そのような推論が導き出されます。ゆえにIBN5100を入手するだけではβ世界線へは行けない、と」

古泉「全Dメールの打消しによる原初α世界線への移動。これがβへ行くための必要条件である、ということになります」

キョン「ともかく、あとはFBとやらのケータイを利用した強盗行為の打消しだけなんだろ?」

古泉「とは言っても、β世界線において椎名さんを本当に救えるのかは行ってみないとわかりません」

キョン「……俺たちは岡部さんによる世界復元を待ったほうがいいのか?」

古泉「最後の切り札としては涼宮さんの力が挙げられますが……」

キョン「それも不確かだな……。なぁ、今から岡部さんに会いに行くことはできないか?」

古泉「張り込み中ですからね、電話のほうがいいかと」


722:2015/08/17(月) 08:20:21.48 ID:
キョン「……はい。ありがとうございました。失礼します」ピッ

古泉「やはり、岡部さんも同じ考えでしたか。IBN5100を入手するだけでは意味が無い。Dメールを打ち消す必要がある、と」

キョン「俺にできることは何がある?」

古泉「……明日のコミマに備えて英気を養うこと、ぐらいでしょうか」

キョン「そうか……」

古泉「現在、岡部さんたちはFBという人物に接触しようとしています。当然ラウンダーのメンバーによる襲撃も考えられる。桐生さんもいつ反旗を翻すかわからない」

古泉「機関はラウンダーから岡部さんを守ることに徹します。FBと接触できるように」

古泉「長門さん、涼宮さんのことよろしくお願いしますよ」

長門「もちろん」


725:2015/08/17(月) 17:49:58.93 ID:



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◇Chapter.9 古泉一樹のコギト◇
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2010.08.15 (Sun) 07:12
湯島某所




726:2015/08/17(月) 17:51:15.22 ID:
ハルヒ「みくるちゃん! 今日はなんの日?」

みくる「ええっと……、なんの日ですかぁ」

ハルヒ「日本人としてあるまじき返答ね! そこは最低でも終戦記念日と答えるところよ!」

みくる「しゅ、しゅう……?」

キョン(この年中行事大好き娘が、『靖国神社に参拝しに行きましょう!』などと言って日本国旗を両手に街宣車のごとくヤバめな歌を爆音で歌いながら大手を振って東京の街へ繰り出さないことを切に願う。死ぬほど面倒くさいことになる。色々な方面で。主に俺が)

キョン(そして朝比奈さんは現代留学歴2年目になっても相変わらず祝日やら記念日やら風習やらに疎いようだ。いつまでもそのままのあなたで居てください)

ハルヒ「で、今日はなんの日!? キョン!」

キョン「だから終戦記念日なんだろ」

ハルヒ「違うわよッ!! 今日はコミマ初日だってば!!」

キョン(小学生が横断歩道を渡る時の左右確認のような政治思想よりも、コミマのほうが宇宙規模で重要案件であることは情報フレアを観測するより明らかなことだった)


727:2015/08/17(月) 17:52:26.15 ID:
キョン「おい、古泉。ホントにこのままコミマに行って大丈夫なのか?」

古泉「ご心配なく。あとは機関に任せておいてください。既に何人か闇に葬っていますし」ンフ

キョン(俺は都合よく発症した突発性難聴のために古泉の発言の一部を聞き取ることができなかった。そういうことにしてくれ)


ハルヒ「えっと、新橋駅ってところからゆりかもめっていうのに乗り換えるみたいね」

ハルヒ「まゆりとフブキとは現地で打ち合う約束してあるから! みくるちゃんはまゆりの手作りコスで参戦するわよ!」

みくる「えっ、それ持って来てたんですかぁ!? ろ、露出が、高いですぅ」

キョン(雷ネット翔のヒロイン、キラリちゃんか……。ミニスカート、生足、……ゴクリ)

ハルヒ「コスプレ登録料は1日800円、更衣室は会議棟1階だって。なかなか良心的ね」

みくる「ひぇぇぇぇ……」


728:2015/08/17(月) 17:55:53.32 ID:
2010.08.15 (Sun) 09:54
コミマ 入場待機列


キョン「あっつ……。なんだってこんなクソ炎天下、こんな大人数がこんな場所でこんなにひしめき合ってるんだ……ロブスターのほうがまだ快適に列を作るぞ……」

古泉「脱水症状には気を付けてくださいね。はい、冷凍スポーツドリンクです」

みくる「なんだか男の人の視線が怖いですぅ……」

キョン(ちなみにこの人は今は猫耳をつけていない。コスプレ会場についてからつけるんだろう)

長門「…………」ペラッ

キョン(汗一滴垂らさず、文字通り涼しい顔で黙々と読書している姿は正に冷厳たる宇宙人である)

ハルヒ「…………」ゴクッ

キョン(そういやコイツは小6の時に親父と野球観戦行ってこういう大人数イベントがトラウマになってたんだっけか)

ハルヒ「いよいよお祭りが始まるって感じね……。この緊張感、たまらないわ!」

キョン(完全に俺の思い過ごしだったらしい)

キョン「祭りを楽しむのはいいが、ギャーギャー騒いで迷惑かけるようなことはするなよ」

ハルヒ「するわけないでしょ! コミマは自主運営の精神で成立してるのよ。参加者全員が“場”を作るの!」

ハルヒ「一人でも和を乱すようなことになれば今後の存続に関わるし、自分勝手な行動は慎むべきね! 肝に銘じておきなさい!」

キョン(なるほど、結局のところ年中行事大好き娘である点は変わらんらしい。コイツが居ればコミマさんも大喜びだろうよ)


729:2015/08/17(月) 17:56:31.58 ID:
古泉「……岡部さんたちがFBと接触したそうです」ヒソヒソ

キョン「あとはケータイを奪取すればいいってわけだ」

古泉「それが、FBの正体はどうも天王寺裕吾氏本人だったようです」

キョン「……女性じゃなかったのか?」

古泉「身分を隠すため、女性の演技をしていたのでしょう」

キョン「あ、あのハゲダルマが、女性の演技……」


730:2015/08/17(月) 17:57:32.92 ID:
2010.08.15 (Sun) 10:15
コミマ 入場待機列


ハルヒ「まだなの!? なんで列が動かないのよ!? もう開場時間はとっくに過ぎてるじゃない!! ちょっと、早く進みなさいよ!!」

キョン(前言撤回! 俺は全力でコミマをハルヒの魔の手から守らなければならないらしい!)

キョン「落ち着けハルヒ! こんだけ人間が居たら簡単に列が動くわけないだろ! 遅く来た俺たちが悪かったんだ、大人しく待ってろ」

ハルヒ「ブー! ブー! ブー!」

キョン「お前は豚か!」

古泉「まぁまぁ、そんなに急がなくてもコミマは逃げませんよ。ゆっくりと歩みを進めて参りましょう」

ハルヒ「わかってるわよ! こんだけ待たせて、不思議なものの一つもありませんでしたってんなら、タダじゃおかないからね!」

キョン「誰に言ってるんだそのセリフは」

ハルヒ「アンタ、自分は含まれてないとでも思ってるわけ? つまらなかったら罰金だから」

キョン「側杖を食うのはもうこりごりだ!」


731:2015/08/17(月) 17:58:22.79 ID:
キョン「そっちはどうなってる?」ヒソヒソ

古泉「逐次連絡が入るようにしていますが……ッ!」

古泉「……桐生さんが、FBに射殺されたようです」

キョン「は、はぁッ!?」

古泉「……そして、FBは自分の眉間を打ち抜き自害」

キョン「な、なんだって、そんな……」

古泉「……岡部さんがFBこと天王寺氏のケータイを奪取。これで事件は一件落着ですね」

キョン「……一件落着なことがあるかよ。たとえやり直せるからって、人が死んでるんだぞ……」

古泉「いえ、一件落着なのです。世界線を移動するというのは、そういうことです」

キョン「……まだ俺も青いんだろうな。そんなもん、くそくらえだと――――――――――――


732:2015/08/17(月) 18:26:54.06 ID:
D 0.571046%
2010.08.15 (Sun) 10:19
湯島某所


――――――――――――ッ!!!! あああぁぁッ!!!」ジタバタ

古泉「ど、どうされたのですか?」

キョン「はぁ……。いや、大丈夫だ。……ただの突発性記憶障害さ」

古泉「とても大丈夫とは思えない病名なのですが」

キョン「……古泉、どうして俺たちはコミマに行っていない? あんなにハルヒが楽しみにしてたじゃねーか」

古泉「涼宮さんたち女性陣はコミマに行きましたよ。僕たちは岡部さんからの話を聞いてここに残ることにしたのですが……」

キョン「それで、この世界では何が起こっている」

古泉「んっふ、あなたの様子からすると、僕はもう何度も同じことを繰り返しているようですね」

古泉「8月13日の午後3時頃、岡部さんが未来からタイムリープしてきました」

キョン(あの人は世界線復元のたびにタイムリープしてるな……)

古泉「そこでとある事実が判明しました、が……。僕の口から説明するよりも、あのラボに行って岡部さんから直接説明を受けたほうがわかりがいいかと思われます」

キョン「お前ホントにあの説明したがりの古泉か? それほどまでにこの世界線はややこしいことになってるのか」

古泉「いえ、そういうわけではありませんが……」


733:2015/08/17(月) 18:29:43.27 ID:
キョン「待て待て。この世界線ではIBN5100はラボにあるはずなんだが、ハルヒのIBN5100捜索はどうなった?」

古泉「8月7日に僕たちが柳林神社を訪れた時には既にIBN5100は何者かに奪われた後でした。これが岡部さんと牧瀬さんだったわけです」

古泉「そして8月8日に涼宮さんがラボを訪れた際、IBN5100を発見して今夏季休暇における不思議探索第一弾は終了となりました」

キョン「そんなあっさりと……」

古泉「その後涼宮さんはラボの皆さんたちと仲良くすることに気持ちをシフトさせたようでした。特に椎名さんとは仲良くなってますよ」

キョン(そう言えば、俺はこの東京旅行で8月7日に数時間椎名さんと過ごしただけで、あとはほとんどニアミスしてるんだったな……)

古泉「ともかく、ラボへ行きましょう。橋田さんと椎名さんはコミマに行っているようですから、今居るのは牧瀬さんと岡部さんでしょうか」


734:2015/08/17(月) 18:32:16.26 ID:
D 0.571046%
2010.08.15 (Sun) 10:32
未来ガジェット研究所


岡部「……お前たちか」

キョン(何があったってんだ……。まるで憔悴しきっているじゃないか……)

古泉「牧瀬さんは今どちらへ?」

岡部「御茶ノ水のホテルで休んでいる……。それで、何のようだ」

古泉「岡部さん、覚えていらっしゃいませんか? ご自分がDメールを送った日時を」

岡部「……あぁ、そうだったな。ということは、キョン少年にリーディングシュタイナーが発動したのか」

岡部「君たちにはいつも世話になっているな。まぁ、俺がタイムリープしたことでそのことはなかったことになってしまったんだが」

キョン「……俺は先ほどこっちの世界線にやってきました。それで、一体なにがあったってんです?」

キョン「この世界線まで戻ってくれば、β世界線へ移動できるはずなんじゃなかったんですか?」

キョン「そこにある、IBN5100で……」

岡部「それが、だな……」


735:2015/08/17(月) 18:34:46.13 ID:
キョン「β世界線へ移動すると、牧瀬さんが、死ぬ!?」

岡部「そうだ。俺は7月28日の昼頃、最初のDメールを送ることになる直前、ラジ館8階の従業員通路奥、倉庫のような部屋で牧瀬紅莉栖が何者かに殺されているのを見た」

古泉「……同じ話を何度もさせてしまい、申し訳ありません」

岡部「いや、いい。それはもう、慣れてる。むしろ飛んできたキョン少年に話せて俺は安堵している」

キョン「ってことは、α世界線で椎名さんが死ぬのを受け入れるか、β世界線で牧瀬さんが死ぬのを受け入れるか、二択ってことかよ……ッ!」

古泉「……いえ、事はそんなに単純な話であるわけがない。ディストピアを回避し、椎名さんを収束から救い、同時にβ世界線の牧瀬さんを救う方法がどこかにあるはずです」

岡部「あぁ、俺もそう思う。そうでなければならない」

岡部「仮に二択だとしたら、こんな二択、俺には選べない……ッ!」

岡部「……この世界線のまゆりの死亡時刻は8月17日の夜7時半過ぎだった。結局この世界線でもまゆりは死ぬ」

岡部「何をやってもまゆりは死ぬ。何かしなくてはまゆりは死ぬ」

キョン(まるで人が死ぬことに実感がこもっていない……。これが、これがタイムトラベルの弊害だっていうのかよ……)

キョン「くそっ、自分の頭の悪さに腹が立つ! おい、古泉、ちょっと来い!」

古泉「は、はい。岡部さん、失礼します」ガチャ バタン

岡部「……何かある、はずなんだ」ブツブツ


736:2015/08/17(月) 18:39:46.77 ID:
2010.08.15 (Sun) 10:40
大檜山ビル屋上


キョン「長門を召喚するぞ! そしてお前の記憶を取り戻す!」

古泉「は、はぁ。ですが長門さんは今コミマで」

キョン「知ったことか!」プルルルル ピッ

キョン「もしもし長門か? 緊急事態だ、今すぐ俺の居る所へ超特急で来てくれ!」

古泉「……涼宮さんに何もなければいいのですが」

長門「何があった」シュタッ

古泉「うわっと。……長門さん、もしかして不可視遮音フィールドを展開しながら空を飛んで、いえ、跳んで来たのですか」

キョン「今すぐ俺の記憶をお前の脳みそで読み取ってくれ! そして古泉のリーディングシュタイナーを発動させろ!」ガシッ

長門「ッ……。いきなり頭を両手で押さえるのは、失礼」

キョン「そんなこと言ってる場合じゃないんだ! 早く記憶を!」

長門「わかった……」ピトッ


737:2015/08/17(月) 18:42:38.55 ID:
古泉「――――――――ッ、どうやら最初の世界改変後の世界に到達したようですね。これであとはIBN5100を使用すれば、β世界線へ戻れる……おや、どうされたのですかお二人とも」

キョン「…………」

長門「…………」


キョン(俺たちは現在世界線で岡部さんが置かれている立場について古泉に説明した)


古泉「……なるほど、事情はわかりました。ですが、二択なんていうことは世界線理論において有り得ない。実際は無限の選択肢が広がっている、だからこそここへ到達するのが困難だったはずです」

キョン「だが、岡部さんだって世界の構成因子の一つだ。その選択が正しいかどうかなんて、やってみなくちゃわからないんじゃないのか……?」

長門「観測者効果に関して、全世界線の束を俯瞰する観測点を考慮すればジョン・ホイーラーの理屈通り全世界線を外乱も含めた量子系として捉えることができる。ゆえに観測者効果は発生しないと考えていい」

古泉「世界の意思という観点からアローの不可能性定理を考えても、それを打ち砕くには岡部さんが独裁者になればいいだけの話。唯一の観測者となり独善的な行動を取れば、選択は可能です」

キョン「なら、どうして岡部さんは俺、というか長門のタイムリープマシンと人工リーディングシュタイナーを頼らない? なりふりかまってる場合じゃないはずだろ」

キョン「48時間の制約が無いマシンならやれることは増えるだろうし、リーディングシュタイナー誘発を使って、例えば橋田さんや牧瀬さんの記憶を今までの分全部思い出させちまえば、より良い選択について議論が深まるんじゃないか?」

古泉「まず、岡部さんの様子から何度も僕たちを頼っていたことがわかります。その上で僕たちの能力の限界をある程度把握しているのでしょう」

古泉「長門さんの宇宙的パワーと涼宮さんの願望実現能力は、仮に僕たちの判断で発動させていたとしても、岡部さんたち未来ガジェット研究所側には公表していないはずです」

古泉「前にも言いましたが、これは絶対遵守です。何故なら、僕たちSOS団は現在時間平面だけでなく、2034年以降のSERNからも狙われる可能性があるのですから。最大級の秘匿性が必要となります」


738:2015/08/17(月) 18:44:38.73 ID:
古泉「そして長門さんの人工リーディングシュタイナーについて一つ仮説があります。あれは直前の世界線の記憶と現在世界線の記憶を置換するのが基本であり、それを応用して今までたどってきた世界線の、変更直前の記憶の追加が可能」

古泉「僕の場合、時間流に沿ってほぼ直線的に移動してきたにもかかわらず、前の世界線の記憶の挿入によって脳出血を起こしました」

キョン「あの鼻血は脳出血だったのか。今更だが大丈夫か?」

古泉「正確に言えば脳出血と同時に鼻血が出ただけですが。大丈夫ですよ、既にこの世界線は僕が脳出血していない世界線ですからね。傷一つありません」

古泉「さて、ところがです。岡部さんが世界線移動やタイムリープを経験した中に本来あるべきラボメンの、その厖大な記憶量を全てリーディングシュタイナーとして想起させた場合、何が起こると思いますか」

キョン「……頭が爆発するのか?」

長門「電気信号の置換と爆発的増加に神経細胞が耐え切れず死滅する。細胞膜が破裂し、浸透圧が変化することで脳全体の器官が損傷、血管が破裂。これらが一瞬のうちに起こるため頭蓋骨内部で脳が液状化する」

キョン「……酸鼻を極める状況だな、そりゃ」

古泉「長門さん、お答えいただきありがとうございます。もちろん、機関的、未来的な部分で協力できることがあれば全力でβ世界線への移動をお手伝いしましょう。それが僕たちの望むべき未来です」


739:2015/08/17(月) 18:46:10.34 ID:
岡部「……なにか策があるとでも言うのか」ガチャ

キョン「お、岡部さん……」

古泉「こう見えても僕は、それなりの推理力、洞察力を有していると自負していますのでね。必ず策が見えてくるはずです」

岡部「貴様、まるで人が変わったようだな……。そうか、そこのキョン少年から色々話を聞いたのか」


長門「あなたのケータイの受信履歴を確認させてほしい。7月28日に送信したというDメールを」

岡部「この娘は……? 長門、とか言ったか」

キョン「あ、あぁ。長門は霊感があって、メールとかの残留思念を読み取れるんですよ」ハハ

岡部「そ、そうなのか?……なら、頼む。受信日は5日前の7月23日だ」

キョン(藁にも縋る思いか……)

長門「わかった」ピッ ピッ ピッ


古泉「それでは、一つ一つ、具体的にひも解いていきましょう」

古泉「我々はこれから、死者を蘇らせる作業を始めるのです」

岡部「…………」

キョン「……」ゴクリ


740:2015/08/17(月) 18:53:12.22 ID:
古泉「まず橋田鈴、すなわち阿万音鈴羽の救出について」

古泉「収束を考えるに、彼女が1975年へ行くことがIBN5100をこのラボへ届ける唯一の方法だったのでしょう」

古泉「我々が現在居るこの世界線を成り立たせている根幹であるため、西暦2000年での橋田鈴、阿万音さんの死亡は回避不可能ということになります。他世界線での死亡を加味すれば、おそらくこれは収束」

岡部「…………」

古泉「……せめて、幸せな最期だったことを祈りましょう」

キョン「だが阿万音さんは言っていた。β世界線へ改変されれば、自分は未来で幸せに暮らしているはずだと」

古泉「そうですね。阿万音さんを救う方法はやはりβ世界線へ行くことでしょう」



741:2015/08/17(月) 18:54:19.24 ID:
古泉「続いて、秋葉幸高氏の救出について」

古泉「岡部さん、結局フェイリスさんのDメールはどんな内容だったのですか?」

岡部「あぁ。フェイリスの過去改変メールの内容……。それは、誘拐犯を装ったメールを送り、幸高氏を飛行機に乗らせないようにしたのだ。これによって幸高氏が飛行機事故で死亡する因果を回避した」

キョン「それでアキバの街から萌えが消えたのか!?」

古泉「バタフライ効果、ということで納得してください。なるほど、誘拐事件は未来のフェイリスさんによるものでしたか」

古泉「本来幸高氏は2000年に飛行機事故で亡くなるはずだった……。それがフェイリスさんのDメールによって過去改変が実行され、なかったことになった。どちらが仮初の世界であったかと言えば、幸高氏が2010年に生きている世界のほうが虚構だったのです」

古泉「それでいて幸高氏の生存はIBN5100の存在に密接に関わっている。やはり、氏が死亡していることが現在世界線を成立させていると言えるでしょう」

岡部「……いや、待て。幸高氏の死は収束ではないはずだ。収束ならば、フェイリスのDメールで過去改変が起こるはずがない」

キョン「ということは、まだ何か方法があるのか?」

古泉「……いいでしょう。考えてみましょう」


742:2015/08/17(月) 18:56:01.56 ID:
キョン「例えば、『IBN5100を絶対に手放すな』という内容のDメールを送るとか」

岡部「Dメールは不安定すぎる。それに、再度Dメールで世界線を改変することはβ世界線から離れる可能性が高く使用できない」

キョン「ならタイムリープだ。タイムリープなら世界線を改変することなく非収束事象を変化させられる」

岡部「だが、タイムリープは8月11日までしか戻れない」

キョン(なら長門印のタイムリープマシンを使えば、あるいは……!)

古泉「仮に2000年までタイムリープできたとしても、見ず知らずの小学生に幸高氏を説得できるとは思えません。次に、説得に成功したとしてどんなバタフライ効果が働くかわかりません」

古泉「それに10年もの人生をやり直すことになります。普通の人間ならば、10年もの間、自分がどのような行動を取ってきたかを完璧には覚えていないでしょうから、この地平に戻ってくる際に多少なりとも誤差が生じる」

みくる(大)「そもそもそれはわたしが許可できません」

キョン「あ、朝比奈さん(大)!!」

古泉「おや、お久しぶりです」

岡部「いつぞやの麗人……」

みくる(大)「あなたは時空断層より過去に行ってはいけない。それが既定事項でもありますし、何よりわたしたち未来人があなたを監視できなくなる」

キョン「……そんなことを言うためにわざわざここまで来たんですか」

岡部(なんの話だ?)

岡部「そ、そうか! ミス朝比奈のタイムマシンを使わせてもらえれば、あるいは!」

みくる(大)「……わたしのタイムマシンは2006年より前へは飛べません。それと、未来でもその秋葉幸高さんを救う方法は考えたけど、結論は……、あまり芳しいものではなかった」

キョン「…………」

岡部「なっ……」

古泉「わかりました、早々に結論を出したほうがよさそうです。僕たちの精神衛生上」


743:2015/08/17(月) 18:57:28.18 ID:
古泉「まず、β世界線への移動は絶対です。ここから話をスタートさせましょう」

キョン「待て! β世界線に行って、誰も彼も救えない収束があったとしたら!」

古泉「待ってください。β世界線はαとは収束が異なるはずです。2000年にタイターが来る、そしてそれは2038年問題のためであって、決して世界はディストピアにはなっていない。すなわち因果を巡って椎名さんの命が救われていることになる」

古泉「現在僕らが推理できる判断材料の中で一番希望のある存在がβ世界線です」

古泉「つまり、そういうことでしょう? 朝比奈さん」

みくる(大)「……わたしに聞かなくても、わかっているのでしょう?」

古泉「いいえ、100%自信があるわけではありませんからね。しかし、今の発言で100%になりました」

古泉「ゆえにβ世界線において、再構成される阿万音さん以外を救出する方法を考えればいい」

キョン「……だが、α世界線上でβ世界線の収束を推測するってのは、不可能に近い」

古泉「岡部さん、前に聞きましたよね。仮にβ世界線に行っても椎名さんが若くして亡くなる世界線だったらどうするか。……このことは彼から教えてもらいました」

岡部「……あぁ、そうだ。俺は、この身を地獄に落としてでもまゆりを救うと」

古泉「その気持ちがあれば、すべてを救うことができる。ひたすらアトラクタフィールドを漂流すれば、いつかたどり着くはずです。違いますか?」

岡部「…………」

キョン「精神衛生がどうのこうのと言ったやつが人を追い詰めるんじゃない」

古泉「これは失礼しました。ですが、とにかく一度β世界線へ移動しないことにはなにも始まらないとだけ、私見を述べさせていただきますよ」


744:2015/08/17(月) 18:59:15.19 ID:
岡部「なぁ、未来人。俺を、ディストピアに連れて行ってはくれないだろうか。本当にこの世界の未来がそうなる運命であると、心から信じたい」

岡部「俺はどこかで疑っているんだ。このまま時間が経てば、案外まゆりは死なず、ラウンダーも襲撃せず、ディストピアなんてちゃんちゃらおかしい未来になってるんじゃないかと」

岡部「……そんな俺のくだらない妄想を徹底的に叩き潰すために、現実を刻み込むために、未来を見せてほしい。この世界の、絶望的な未来を」

キョン(……決意、か。あるいは、儀式なのかもしれないな)

みくる(大)「……いいでしょう。この時間軸がディストピアへと突き進んでいく過程、そして2034年にSERNがタイムマシンを完成させてから2年もしないうちに誕生するディストピアについて、あなたにお見せします」

みくる(大)「ですが、パラドックスを避けるため、あなたの死後である2025年以降を見て回りましょう。長門さん、古泉くんとキョンくんを62秒間時間凍結してもらってもいいですか」

キョン(岡部さんは2025年に死ぬのか……若いな……)

長門「わかった」

キョン(タイムトラベルを見られたくないからってそこまですることはないとは思――――――)

みくる(大)「基準時間平面への帰還を確認。長門さん、ありがとうございました」

長門「いい」

古泉「お早いお戻りで」

キョン「……今の一瞬でディストピアへ行ってきたんですか」

岡部「…………」


745:2015/08/17(月) 19:00:45.22 ID:
岡部「ディストピアは、あった。たしかに、この目で見てきた。網膜に焼き付いて離れない」

岡部「日常的に人が射殺された。命令を拒否することはできない、仮に拒否した場合は死あるのみだ」

岡部「生活範囲は最低限に制限され、基本的に二人以下での生活を強制される。当然のように産児調整が行われている」

岡部「食事は常に一種の精神剤が混入されたモノが配給されていた。人間のやる気や強い情動を削ぐためのものだろう」

岡部「情報は基本的に手に入らない。娯楽も無い。娯楽と称されるものはあったが、あれは見せしめや洗脳でしかなかった」

古泉「……タイムマシンという究極の科学技術によって人類はその豊かな精神を滅ぼしてしまう。SF作品の典型的なカコトピアと言えるでしょう。核戦争が無い分、比肩すべきはジュール・ヴェルヌの『二十世紀のパリ』でしょうか」


キョン(ふいに、タクシーの後部座席で佐々木が俺を挟んで藤原に話した言葉を思い出した)

佐々木『科学技術の発展は僕の喜びとするところだからね。未来には当然未来的な希望を持っていたいんだ。この時代、世界は様々な問題を抱えている。キミの未来でそんな過去の愚行が解消されていることを望みたい。人は学び、学び続けるべき生命体だ。高度に発展した科学が人類の抱える破滅的な思想や技術を、快刀乱麻に解決していると思いたいね』

キョン(……なんとしても俺たちは、β世界線へ移動しなければならないらしい)


746:2015/08/17(月) 19:02:58.48 ID:
岡部「まゆりはいない。紅莉栖も、SERNに強制的に研究させられる日々だ。ルカ子も、フェイリスも、世界中の誰もが不幸のどん底にいた」

キョン(俺たちSOS団も将来的にそうなるんだとは想像もできないな……)

岡部「そんな中ダルは最後まで戦い続けていた、らしい。あいつ、どこに隠れていたのか、朝比奈さんの時間平面移動でも発見できなかった。それだけ厳重に世界の支配構造を破壊するための嚆矢を組み立てていたのだろう」

岡部「鈴羽の友人、いや、仲間と思われる人間が十人、二十人、三十人と死んでいった。あいつは、あんなとんでもないところからやってきていたんだな……」

岡部「やはり、このままじゃ、ダメだ……世界は、変えなければならない……」

岡部「だが、β世界線に行ったとして、俺はアイツを救えるのか……」

キョン「それこそ、朝比奈さん(大)のタイムマシンで……」

古泉「おそらく、β世界線では朝比奈さん(大)のタイムマシンは使わせてもらえないでしょう。未来人にとってメリットがない。岡部さんの利益のためだけに動くとは到底思えない」

みくる(大)「……そうね。たぶん、ディストピアを回避しているなら、わたしたちは岡部くんには協力しないと思う」

キョン(そりゃそうだ。元々俺たちの居た世界線がβ世界線なんだから、そこから移動するってことは、現状維持的な未来人からするとむしろ防ぎたい事項なはずだ)

岡部「いいんだ。あなたが俺に協力できないことはたくさんあった。何度もそのキョン少年から聞かされている」

キョン(別の世界線、あるいはタイムリープでなかったことにした記憶か……)

岡部「……少し、一人で考えさせてくれ」

みくる(大)「あなたはよく頑張りました。どうか感情的にならず、自分の信じる道を見つけてください」

古泉「……僕らは行きましょうか」

長門「ケータイを返す」スッ

キョン「ここは一時撤退か……」ガチャ


ピクッ


キョン「ん……あ、あなたは」

シーッ

キョン「あ、あぁ……。わかりました、それじゃ一旦ラボに」


748:2015/08/17(月) 19:37:14.67 ID:
D 0.571046%
2010.08.15 (Sun) 11:24
未来ガジェット研究所


紅莉栖「それで、なんだか重い話をしてたみたいだけど」


キョン「この人にはまだ話さないほうがいいのか? その、牧瀬さんが……」ヒソヒソ

古泉「まだ岡部さんの口から伝えられていないのであれば、そうでしょう」ヒソヒソ


キョン「どこから聞いていました?」

紅莉栖「死者を蘇らせる作業を始める、ってところから」

紅莉栖「まさかパパの言ってた“橋田教授”ってのが阿万音さんだったなんてね……」

紅莉栖「……また過去を変えようとしていたの? その、β世界線以外へ」

古泉「いえ、僕たちもディストピア回避が目的ですから、β世界線に改変してもらわなければ困ります」

紅莉栖「そう……利害は一致してるってわけね」


749:2015/08/17(月) 19:38:42.88 ID:
みくる(大)「話を聞かれていた、ということはわたしの正体にも気づいていますよね」

紅莉栖「えぇ……正直信じられないけど。おそらくあなたは、未来から来た未来人。それもディストピアよりもっと遠い未来から」

みくる(大)「正解です。わたしは朝比奈みくるです」

紅莉栖「えっ、あ、あなたがみくる!?」

古泉「あの朝比奈さん自身も未来から来た未来人だったのですよ」

紅莉栖「そ、そう……。未来人と聞いてそんなに驚かなくなってる自分が嫌になるわ」ハァ

紅莉栖「それで、あなたの目的はなに?」

みくる(大)「わたしの任務は涼宮さんの保護であり、同時にわたしたちの未来の安定化を図ることです」

紅莉栖「つまり、ハルヒがあなたの時代にとって重要人物なのね。きっとタイムトラベルに関する基礎理論論文でも書くんでしょう。あの娘のトンデモ物理学に対する好奇心はすごかったから」

みくる(大)「そんなところです」

紅莉栖「未来人って考えることが一緒なのね、私は岡部から聞いた阿万音さんの話しか知らないけど」


750:2015/08/17(月) 19:39:54.32 ID:
紅莉栖「これで2000年までタイムリープできるみたいな口ぶりだったことに合点がいった。つまり、その未来でも開発されてるのね? タイムリープマシン」

キョン「い、いや、あれは、ですね……」

長門「これが、それ」シュッ

キョン「お、おい長門」

紅莉栖「へぇー、ずいぶんスリムになって。CDウォークマンみたいね。ヘッドセットが二つ?」

長門「1975年6月まで飛べる」

紅莉栖「……つまり、胎児の頃から強くてニューゲーム、ってことですねわかります」


キョン「こ、古泉。宇宙的パワーをバラして大丈夫なのか?」ヒソヒソ

古泉「幸い牧瀬さんは未来的アイテムだと信じているようですので、差し当たり問題ないかと」ヒソヒソ


751:2015/08/17(月) 19:43:06.22 ID:
紅莉栖(Dメールによる過去改変は非常に不安定。バタフライ効果によって望んだ結果を得られない、あるいは得られたとしても何かを失う可能性がある)

紅莉栖(でもタイムリープマシンなら、使用者の記憶と意識次第で世界はどうとでもなる)

紅莉栖「私なら……。自分の人生の日記を分単位で正確に覚えている私なら、2000年にタイムリープして、フェイリスさんのお父さんを救って、阿万音さんの最期を看取り、IBN5100をこのラボへ届くようにしながら、2010年7月28日からの行動、つまり私がこのラボと出会ってからの行動をそっくりそのまま再現して、今に至ることができる」

キョン「!!」

紅莉栖(本当は家を出ていったパパと仲直りしたらどうなるのかを知りたい、っていう知的好奇心が一番の理由だけど……)

紅莉栖「って言ったけど、やっぱり10年分人生をやり直すのはリスクが高すぎる。私が7月28日からラボに行けなくなる可能性だって大いにあるしね。そもそもこのラボに私が参加してること自体奇跡的な確率だったわけで」

長門「その場合、わたしが代わりに未来ガジェット8号電話レンジ(仮)およびタイムリープマシンを開発すればいい。そうすればあなたが居なくても辻褄が合う」

紅莉栖「は、はぁ!?」


752:2015/08/17(月) 19:44:22.82 ID:
長門「わたしはあなたがタイムリープマシンを工作する姿を見て作り方を理解した。これをリーディングシュタイナー保有者である彼に情報伝達してもらえばいい」

紅莉栖「もしかしてあなたたちって、超が付くほどの天才?」

キョン「い、いやいや。そんなことは無いんですが……」

紅莉栖「でも、それだと8月15日から移動できないから、私が経験した7月29日からの未来ガジェット研究所における過去改変実験が始まらない。そうか、みくるのタイムマシンで彼を過去に連れていけば、7月29日以前の有希にマシンの作り方を伝達できるってわけね」

キョン「ちょっと待ってくれ! それはあくまで思考実験ですよね!? 本気で実行する気ですか!?」

紅莉栖「うっ……。ごめんなさい、良くない癖が出てたわ」


753:2015/08/17(月) 19:45:26.13 ID:
紅莉栖「でも、技術があるおかげで思案できるのはいいことだと思う。もし他になにか思いついたら、その時は力を借りてもいいかしら」

キョン「……たぶん、OKだと思います。ディストピア回避と、椎名さんの命を救うこと。これに関しては俺たちも望むところです」

紅莉栖「じゃぁ早速、ミレニアム懸賞問題や重力子の発見とか、色々聞きたいことがあるんだけど、そういうのってダメ?」

みくる(大)「……禁則事項です」

紅莉栖「まぁ、そりゃそうようね。パラドックスが発生しちゃうから。意地悪な質問してごめんね」

キョン(未来に関しての興味は、わからんでもないけどな)

紅莉栖「ありがとう、みんな。それじゃ、岡部のやつに活を入れてやらなきゃね」

古泉「それはあなたにしかできないことでしょう。何卒よろしくお願いします」

紅莉栖「言われなくてもわかってる」b

キョン(サムズアップか。頼もしい人だが……、どこかフラジルな感じがするな……)


754:2015/08/17(月) 19:47:30.00 ID:
2010.08.15 (Sun) 12:01
湯島某所 談話室


キョン(ハルヒには、長門は気分が悪くなったので先に宿に帰って休んでいる旨を伝えた)

キョン(長門が体調を壊すのは4月の風邪以来、ということになる。今回は仮病なわけだが)

キョン(ハルヒは相当に心配してくれたが、俺は大したことないから遊んでこいとだけ言っておいた)

キョン「それじゃ、朝比奈さん(大)。あなたがここに来た本当の理由を教えてください」

みくる(大)「あなたを過去に連れていく以外でこの時間平面に来るのは久しぶりですね」

キョン「ということは、またグリム童話の話ですか?」

みくる(大)「ふふっ。わたしが言ったのはディズニー映画のほうだったんだけどね。でも、古泉くんが居るこの場所だとヒントでもなんでもなくなっちゃうんだけど」

古泉「……いえ、お気になさらず。彼に理解させてはいけない事項なのであれば、ミスリードする自信はありますよ」

キョン「無駄に高性能だな」


755:2015/08/17(月) 19:48:26.91 ID:
みくる(大)「1978年の映画、とだけ伝えておけば充分でしょう」

古泉「ありがとうございます。なるほど、そういうことですか……たしかにあれは超弩級のSF映画だ」

キョン(嘘だろコイツ、これだけで何がわかったってんだ!?)

キョン「えっと、それ以外で協力してもらうことはどこまで可能ですか」

みくる(大)「まず、TPDDによる時間平面理論では今回の件に関して【禁則事項】も含めて役に立たないということ、そもそも既定事項の制約のために手を出せない箇所がいくつかあること、そして最優先すべきは涼宮さんの安全の確保、すなわちわたしたちの未来の確保であること」

みくる(大)「これらの理由から、わたしはあまりお手伝いすることはできないの……。ごめんね、キョンくん……」

キョン「あ、いえ……。そういうことでしたら、仕方ない、ですよね……」

古泉「ヒントも頂きましたし、久しぶりにお会いできて嬉しかったですよ。ありがとうございます」

みくる(大)「…………」


756:2015/08/17(月) 19:52:09.43 ID:
キョン「長門、岡部さんのケータイをいじってなにかわかったか?」

長門「あのケータイには今までに報告されていないDメールがもう一通受信されていた」

キョン「……なんだって!? ってことは、それも打ち消さないとβ世界線へは行けない……!?」

古泉「いえ、むしろ逆でしょう。そのDメールが受信されていたおかげで我々はβ世界線へ移動できる……違いますか?」

長門「そう」

キョン「ちょ、ちょっと待て。いったいどんな内容のメールだったんだ?」

長門「2010年7月28日12時26分受信、内容は文字化けしていた」

キョン「それって重要なのか?」

長門「一種の指令コード。今から牧瀬紅莉栖に7月28日昼頃に関するリーディングシュタイナーを誘発させる」フッ

キョン(そう言うや否や長門の右手から一羽の蝶が解き放たれた)

古泉「これで牧瀬さんがラジ館周辺を訪ねればかつてのβ世界線での記憶を思い出す、というわけですね」

長門「これはβ世界線への移動後、牧瀬紅莉栖が7月28日に死亡しない世界線、シュタインズゲートへ移動するのに必要」

キョン「シュタインズゲート、って、それは岡部さんの妄言じゃなかったのか?」


757:2015/08/17(月) 19:53:21.13 ID:
キョン「それを指示できるってことは、そのDメールを送ったのは……」

長門「送信者は岡部倫太郎」

キョン(この世界線ではいずれ長門の能力を岡部さんに暴露するってことなのか……?そうか、未来の岡部さんが“シュタインズゲート”と名付けたのか、牧瀬さんを救うことができる世界線を)

長門「朝比奈みくる。わたしを8月13日へ連れて行って」

みくる(大)「……わかりました。そういうことだったんですね」

長門「8月13日に戻って、岡部倫太郎がタイムリープによって無かったことにしてきた記憶に関して、椎名まゆりのリーディングシュタイナーを誘発させる。これがβ世界線へ移動するのに最重要」

古泉「ですが、椎名さんのリーディングシュタイナーを誘発させて、すなわち彼女の死の記憶を蘇らせて何の意味があるのですか? 彼女はDメールを送ったりしていない」

キョン(自分が死ぬ記憶を見せる……か。フロイト先生的には“死”の夢ってのは心の再生、新しいものを生み出すって意味だったと記憶しているが……、そうは言っても胸糞悪いのは間違いない)

長門「岡部倫太郎の意識を変容させる。それがβ世界線へ到達するための鍵」

みくる(大)「それでは長門さん、準備ができました」


758:2015/08/17(月) 19:59:22.15 ID:
キョン(未来人と宇宙人ユニットは62秒間現在時空から消滅した後、再び現れた)

長門「ミッションコンプリート」

キョン(未来人のほうはそのまま未来へ帰ってしまったみたいだ)

キョン(なんというか、俺の気付かないところでうまいこと計画が進んでいるらしい)

古泉「これでフラグが立った、ということでしょうか」

キョン「ってことは、もう俺たちにやれることはないのか?」

長門「最後に世界外記憶領域にて牧瀬紅莉栖および岡部倫太郎の記憶および意識をリンクさせる」

キョン「ど、どういう……」

長門「岡部倫太郎が世界線を変動させた瞬間、すなわちIBN5100を利用したクラッキングを開始した瞬間、世界外記憶領域に一方向流入型情報制御空間を展開する。この作業は朝倉涼子に依頼する」

キョン(一瞬その名前にビビッちまった。一応4月から朝倉涼子は長門の清く正しいバックアップになったという設定なのだが、俺への殺意は依然としてあるらしい。まぁ、あいつは確かに情報制御が得意らしいから適材ではあるのだろうが……)

長門「このタイミングであればα世界線での記憶を有する牧瀬紅莉栖の意識と、β世界線での記憶を有する岡部倫太郎の意識が混在できる。この状況下で彼らが必要と感じた情報を集積させることによってシュタインズゲートへ至る方策を思案してもらう」

キョン「大量の知識の中で無限に研究させる、ってことか……」

長門「そうではない。β世界線からシュタインズゲート世界線へ移動するための因果改変のキーアイテムを世界外記憶領域を利用して探してもらう」

キョン「キーアイテム? あぁ、αからβに行くのに必要だったIBN5100みたいな存在がそっちにもあるってのか」

長門「おそらく」

キョン(この長門でさえ推測しかできないのか……。古泉の推理も、朝比奈さんの未来予報でも、世界線改変は予測できない。どう転ぶかわかってるのはこの世に誰もいないってわけだ)


759:2015/08/17(月) 20:01:18.77 ID:
長門「この時、情報制御空間にノイズが侵入すると思われる。それは、シュタインズゲート世界線への改変を拒む記憶と意識」

キョン「……ついに黒幕の登場ってわけだ。それはSERNか? あるいはその親玉か?」

古泉「とにかく、僕たちの敵であることは明確ですね」

長門「ゆえに朝倉涼子によって展開された情報制御空間をオーバーラップする形でもう一つの情報固定浸透膜を喜緑江美里とわたしが展開し、その内部にあなたと、古泉一樹、朝比奈みくる、涼宮ハルヒの意識を構築する」

キョン「長門が封印した自分の力をあの2年生宇宙人に開放させないといけないレベルの事態なのか……。とにかく、俺たちは力を合わせてラボメンを守ればいいんだな」

キョン「だがハルヒが居て大丈夫なのか? 確かにあいつが居れば頼もしいことこの上ないが」

古泉「そこはある意味夢の世界ですからね。去年の5月の時と同様だと思えばいいのでは?」

長門「わたしの意識はそこに存在できないが、あなたの記憶の中の存在として出現させる」

キョン「そうだな、長門がいると思えるだけで安心感が違う。その時は万難を排して臨んでほしい」

古泉「まぁ、たぶん大丈夫ですよ。涼宮さんがいる限り、世界はつまらなくなるわけがありませんからね」

古泉「あとは岡部さんがβ世界線へ移動することを決心してくだされば問題ありません。それまで僕たちは涼宮さんたちと合流して、コミマを楽しむことにしませんか?」

古泉「α世界線崩壊まで残りわずか。ここで出会える僕たちさえ刹那の夢だと言うのならば、後ろめたくないくらい楽しみを感じても、悪いことにはならないでしょう」

キョン「そんな悠長な……」


760:2015/08/17(月) 20:02:34.98 ID:
2010.08.15 (Sun) 13:51
東京ビッグサイト


その後俺たちは古泉のにやけ面に唆されてホントにコミマまで来てしまった。元気になった長門に会えたハルヒはその愁眉を開き、同時に内燃機関に蓄積された熱エネルギーを運動エネルギーに変換させた。

この日はどういうわけか椎名さんには会えなかった。結局俺は秋葉原に来た初日以来椎名さんと出会うことができずにいる。これが世界線の収束だっていうなら、それはポニーテール萌えへの挑戦状である。いつでもかかってきやがれ、こっちにはハルヒがいるんだぜ。

フブキとかいうレイヤーに椎名さんのことを聞いたところ、忘れ物があるから実家の池袋に帰ったのだという。

古泉『お盆の時期ですからね。もしかしたらお墓参りでもしているのかも知れません』

小遣いの許す限り、ヘンテコな小物、ちょっとヤバそうな本、イロモノCD、その他色々を買い漁ったハルヒの荷物持ちとして連れまわされた俺と古泉は疲労困憊、一昔前の言葉で言うとグロッキー状態となってようやく帰路に着くことができた。


761:2015/08/17(月) 20:05:42.56 ID:
さて、ついに物語の進行は岡部さんの判断に全てが託されたようだ。

後はあの人を信じて待つばかりという状況だ。

だけど俺には一つ引っかかっていることがあった。

確かにIBN5100は発見した。ハルヒもそれを確認している。

だが、これでハルヒは満足なのか?

あんな無造作に置いてあるものをただ見つけただけで、本当にそれで満足なんだろうか。

あいつなら、冒険の果てに宝物と出会うことを望んでいるんじゃないかと思うのだが。


 


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