1:2016/05/29(日) 23:16:58.11 ID:g+qXs6Au0

失くしたものを拾い集めて、子どもの消えた砂場を歩く
これからきっと、雨が降るだろう
鈴によく似た声を震わす

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2:2016/05/29(日) 23:18:13.68 ID:g+qXs6Au0

梅雨の時期、私がこの町に来て1年と少し経った。相変わらず寝坊はなおらないけど、ここでの生活も慣れてきて毎日がとても楽しい。それでも雨の日は、あの日を思い出す。


家を出てこの町に来る前、雨が強く電車が止まり1日だけ違う町にある親戚の家に泊まらせてもらった。今いる町と景観は似てるけど、もっとずっと建物に色味がなく、灰色の町だった。夕刻、雨の中親戚の家まで走り、ようやくたどり着いた。

「明日まで、よろしくお願いします!」

「雨の中大変だったね。さあ、入って。温かいお風呂を用意してるよ」

「ありがとうございます!」

私は親戚のおばさんに挨拶を済ませ、お風呂を借り、今は仕事でこの町を離れているいとこの部屋を貸してもらった。この家の内装はコンクリート調でカーペットが敷いてある、冷たい部屋だった。天気が気になって、部屋の窓から外を見つめる。

(雨…すごいなぁ。明日までにやむといいけど)

その時、家の前にある公園のブランコに黒い髪に水色のワンピースを着た小さな女の子が座っているのを見た。


3:2016/05/29(日) 23:19:44.22 ID:g+qXs6Au0

ココア(え…!?こんな雨の日に!?)

立ち上がった瞬間に女の子の姿は消えていた。

ココア(あ、あれ?おかしいな?疲れてるのかな)

その日は夕食をいただいて、眠りについた。夜も雨の音が止むことはなく私の耳に響き続けた。


4:2016/05/29(日) 23:21:30.12 ID:g+qXs6Au0

次の日の朝、雨は止み、雲が空を覆っている。まだ8時だというのに随分暗い。


おばさん「ココアちゃん〜朝ごはんできたわよ〜」


ココア「はーい!」


私は朝ごはんを食べ、出発の支度をする。


ココア「1日泊めていただきありがとうございました!」


おばさん「いいのよ。またおいでね。あ、あとまた雨が降りそうだから傘を渡しておくわね」


お礼を言って傘を受け取り、おばさんに別れを告げ私は駅へ向かおうとする。ふと公園を見るとブランコに小さな女の子が座っていた。


ココア(あの子は…)


私は近づいて、声をかける。心にある違和感を隠して。



5:2016/05/29(日) 23:22:58.84 ID:g+qXs6Au0

ココア「ねぇねぇ、こんなところで何してるの?ブランコ濡れてるし、雨も降りそうだよ?お母さんは?お家はどこ?」


少し質問攻めしすぎちゃったかな。あぶない人みたい。


女の子「・・・・・」


女の子はこちらをちらりと見るだけで答えようとしない。どどどうしよー!


ココア「な、なんでも言って!私が解決してあげる!」


女の子「・・・・・」


ココア「・・・・・(うう)」


私が心折れかけた時、


女の子「あやとり」


ココア「え?」

女の子「あやとりしよ?」



6:2016/05/29(日) 23:24:24.50 ID:g+qXs6Au0

か細い声だった。なんだろう。チノちゃんよりずっと声量がないにもかかわらず妙に響く声だった。女の子は水色のワンピースのポケットから糸を取り出した。青い、糸だった。


ココア「あやとり?よしやろう!あ!私ココア!ココアおねえちゃんと呼んでね!あなたは?」


女の子「…ハナ」


ココア「ハナちゃんね!いい名前!あやとりってどうやって二人でするの?」


私の問いは返ってきていない。何にせよ、まずこの子と仲良くなるのが先かもしれない。


ハナ「わたしがこうするから、こことここを取って」


言われるがまま、糸を取る。意外と難しいな〜。そういえば二人あやとりってしたことないなぁ。


ココア「こ、こう!?」


ハナ「そう。そのままこの指を動かして、そう、その形。」


ココア「ハ、ハイ!!」


私たちはそのまま二人あやとりをし続けた。



7:2016/05/29(日) 23:25:45.89 ID:g+qXs6Au0

ハナ「形は覚えた?もう一周やってみようか」


ココア「ヒィーー!ちょっと整理する時間をください!もう頭パンクしちゃうよ〜!!」


ハナ「…ふふ」


ココア「あっ….笑った!」


ハナ「…え?」


ココア「わーいわーい!ハナちゃん笑った!ずっとムスーっとしてたから、楽しくないのかなぁって」


ハナ「ううん。わたし、楽しい。こんなに楽しいの久しぶり」


ココア「そう!よかった〜!」





ココア「…そういえば、ハナちゃんはここで今日何してたの?」

問いを、投げた。



8:2016/05/30(月) 00:08:56.92 ID:xPHUiqy50

ハナ「お母さんを待ってるの」


ココア「お母さん?お仕事?」


ハナ「うん。帰って来るまで待ってるの」


ココア「そっか!んーじゃあお母さんが帰って来るまで私もー」


その次の言葉を紡ごうとした瞬間、何かが私を縛った。言えない。
言ってしまえば私はもう戻れなくなる。そんな思いが溢れ出て、言葉はそこで止まった。


ココア「わ、私はそうだ!隣町まで行かなきゃだめだったんだ…」


ハナ「…そっか。」


ココア「…ねえ、もういっかいあやとりしよ!もう覚えたから、完璧にやってみせるよ!」


ハナ「…うん!」


私たちはまたあやとりをする。青い糸が私たちを繋げ、離し、最後は一人の手に戻る。
何度か繰り返しているうちにプツンと、糸がちぎれた。


9:2016/05/30(月) 00:10:09.85 ID:xPHUiqy50

ハナ「あっ…」


ココア「だいじょーぶ!糸は結べば元通り、だよ!」


私はハナちゃんから糸を取ろうとする。


ハナ「いいの」


ココア「え?」


ハナ「このままでいいの。糸は結わなくて、いいの」


ココア「で、でもそれじゃ」


ハナ「あやとりはここでおしまい。ココアお姉ちゃんは行くところがあるんでしょ?」


ココア「そうだけど…まだ時間はあるし!」


ハナ「なら、お母さんが戻って来るまで、わたしと一緒にいてくれる?」



消え入りそうな表情だった。私は固まったまま、首を縦にも横にも振ることができなかった。


10:2016/05/30(月) 00:11:22.68 ID:xPHUiqy50

ハナ「冗談だよ」


ココア「え…」


ハナ「冗談。意地悪なこと言って、ごめんね。いいよ、隣町に行くんでしょ?」


ココア「う…うん、それじゃあね!楽しかったよハナちゃん!」


ハナ「うん。ありがとう。わたしも楽しかった」


私は立ち上がって、ハナちゃんに手を振り公園を出ようとする。私は振り向いてハナちゃんの元へと歩き出す。少しびっくりした顔でハナちゃんが見つめる。


ココア「これ!傘!おばさんから貰ったものだけど、ハナちゃんに!雨降りそうだし、ハナちゃん傘持ってないから、お母さん待ってる間に雨降ってきたらこれを差してね!」


ハナ「…!…ありがとう」


もう一度手を振って私は公園を出た。駅に着いて列車に乗り込み、この灰色の町から抜け出していく。


11:2016/05/30(月) 00:12:11.80 ID:xPHUiqy50

走る列車の中、私は、自分という人間が臆病者に思えてならなかった。手を差し伸べるような言葉を放ったくせに何も解決できず、ただ傘を差し出しただけの私に、あの子から逃げた私に、どうしようもなく嫌な気分になった。


(ココアおねえちゃんって、呼んでもらえなかったな…)


私の選択は間違っていたんだろう。あの時、待ってあげると一言言うだけで何かが変わっていたのかもしれない。失くしたものを拾い集め、心の糸を手繰り寄せ、結いであげることができたのかもしれない。心に降る雨とは裏腹に、列車の進む先には、晴れやかな空が待っていた。




12:2016/05/30(月) 00:13:07.03 ID:xPHUiqy50

今でも雨の日は思い出す。あの日の出来事を。鈴によく似た声を。


「ココアさんココアさん、ボーッとしてないで仕事してください」


「なんだ?寝不足か?ココア」


「あ…ううん!元気元気!雨の日でも、私はバリバリ働くよー!」


きっとこの先も雨の日は思い出す。


あの日の気持ちが雨に溶けるまで。



13:2016/05/30(月) 00:14:32.94 ID:xPHUiqy50

非常に短いのですが以上となります。
初スレ立て、初SS投稿でしたのでお見苦しい点多々あると思います。すみません。



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