1:2016/07/18(月) 10:42:28.59 ID:skBVJL2y0

*ガルパンのSS作品です。
*完結済み作品の投稿です。
*時系列上オリジナルキャラクターが登場しますが、それっぽい元キャラクターと同一人物と思って下さい。
*パンプキンシザーズがカメオ出演しています。(設定のみ)
*一応シリアス系。
*世にも珍しい西住しほメインのSSです。

前作
エルヴィン「私が隊長ですか!?」
ttp://elephant.2chblog.jp/archives/52161989.html

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1468806148



2:2016/07/18(月) 10:43:26.09 ID:skBVJL2y0

----大会優勝後一週間

沙織「はぁ…、私たち優勝しちゃったんだねぇ」
華「沙織さんったら、最近そればっかりですね」
麻子「無理もない。私だってまだ半信半疑だ」
麻子「まぁでも、廃艦の話も無くなってこれで私もゆっくりと眠れるというものだ」
沙織「麻子はいつも寝てるじゃん」
麻子「寝心地が違う」
みほ「麻子さんらしいですね」
優花里「でも私も一週間経った今でもなかなか興奮が収まりません!」
優花里「こんなジャイアントキリングはないとネットでも話題になっていますよ!」


3:2016/07/18(月) 10:45:25.80 ID:skBVJL2y0

沙織「だよねだよねー、私たちやっぱり有名人になっちゃうよねぇ」

沙織「テレビに出ちゃったらどうしよー」

沙織「ファンとか出来ちゃうかも!」

麻子「捕らぬ狸の皮算用は辞めた方が良いと思うぞ」

沙織「でもわからないんじゃん!」

沙織「初めての出場校が優勝しちゃうなんて、きっと前代未聞だよ!」

みほ「ね! みぽりん!」

みほ「うーん、まぁ珍しいかなぁ」

華「その話しぶりでは、ありえなくもないというお話でしょうか」

みほ「戦車道の歴史も長いので、色々お話に聞くことは」


4:2016/07/18(月) 10:46:39.42 ID:skBVJL2y0

みほ「今でこそ黒森峰、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダースが強いですが、この体制が出来上がったのはここ15年くらいと聞いています」

みほ「それ以前は、結構色々な学校が優勝してたりしたそうですよ」

優花里「俗にいう戦車道戦国時代というやつですね」

沙織「ゆかりん知ってるの?」

優花里「勿論です。今から20年前は色々な学校が浮いたり沈んだりで、まさしく戦国時代のような様相を呈していました」

優花里「今の強豪でも、それこそ西住しほ殿が黒森峰で活躍したのもその時期ですし」

優花里「他にも日本選抜に選ばれるような素晴らしい選手が出てきたのもこの時期です」

沙織「へ〜、その頃ってまだ大洗女子学園も戦車道やってたんだよね」

みほ「うん、ベスト4なら何度か進んだことはあるみたいだよ」

優花里「といっても、昔はもっと戦車道が盛んでしたので、ベスト4でも凄いことなんですよ」


5:2016/07/18(月) 10:47:10.95 ID:skBVJL2y0

沙織「へぇ〜、じゃあアンツィオなんかも強かったの?」

みほ「」ピクッ

優花里「アンツィオですかぁ…」

優花里「そういえば、25年前に準優勝しているのがアンツィオの最高記録でしたね」

華「準優勝ですか」

沙織「あのCV33で準優勝までいったの?」

優花里「当時はどうだったか分かりませんが」

優花里「そういえば、その時の優勝校は黒森峰で、副隊長は西住しほ殿ですよね」

優花里「西住殿なら、しほ殿から何か聞いてるんじゃないですか?」

みほ「うーん、聞いているのは聞いてるんだけど…」


6:2016/07/18(月) 10:48:06.38 ID:skBVJL2y0

しほ「それは私から説明しよう」

沙織「うわびっくりした!」

華「しほさん?」

優花里「西住流家元です!」

麻子「zzzz…」

みほ「お母さん! なんでこんなところに!?」

しほ「なに、ちょっとした散歩だ」

みほ「ここ航海中の学園艦だよ!?」

しほ「西住流に行けない場所など無い」

しほ「しかしアンツィオか…、懐かしい名前だ」

しほ「あれからもう25年か」


7:2016/07/18(月) 10:48:39.25 ID:skBVJL2y0

優花里「家元殿が相手なら、どんな敵でも一撃ではなかったのですか?」

しほ「当然だ」

しほ「撃てば必中、守りは固く、進む姿に乱れ無し」

しほ「西住流が、いや私が率いるチームに敗北の二文字はない」

しほ「…しかし、何度か『負けるのでは』と思った試合ならある」

しほ「その一つがあのアンツィオ戦だ」

しほ「そう、あれは25年前、私が副隊長として、黒森峰のフラッグ車を任された時のことだ」


8:2016/07/18(月) 10:49:46.48 ID:skBVJL2y0

----------------25年前 奄美大島

 25年前の全国戦車道決勝戦。当時から有力校だった聖グロリアーナとの死闘を制した我々は、決勝の相手がアンツィオと聞いて安堵した。何故ならアンツィオといえば当時から無名の弱小校。今のように「勢いに乗らせると手強い」等という評判もないころだ。

 どういう幸運かは知らないが、運だけで勝ち上がってきた弱小校。正に今年の大洗女子学園のような評価だったアンツィオに、伝統ある黒森峰戦車道部員が危機感を持つはずがなかった。当時の部長や車長を含めた全員が本年度の優勝を確信していた。私ともう一人、逸見エリカの母親であり私の狩るティーガー?の操縦手、逸見ユリカを除いては。

 会場は夏の奄美大島。まさかこの美しい島で、あのような死闘が待っていることなどつゆ知らず、大会の前日から部員たちは優勝後のバカンスばかりを気にしていた。


9:2016/07/18(月) 10:50:23.72 ID:skBVJL2y0

ユリカ「西住先輩、果たしてアンツィオは運だけで勝ち上がってきたのでしょうか」

 ユリカがそう漏らしたのは、決勝戦前日の夕食のことだった。宿の食事会場は試合前日だというのに、優勝祝賀会のような賑わいぶりだった。

しほ「どうしたユリカ、お前らしくもない」

ユリカ「べ、別に負けるとは思いません。アンツィオなど、我等西住流の前にはちり芥と同じ」

ユリカ「しかしながら、考えれば考える程奇妙でなりません」

ユリカ「アンツィオの主力は私の知る限りセモヴェンテとCV33」

ユリカ「それが1回戦でサンダース付属を破り、2回戦で大洗… そして準決勝ではプラウダを破っています」

ユリカ「それに、私プラウダに友達が居るんですけど…」

ユリカ「その友達、準決勝のことは全然話さなくて」

しほ「それはそうだろ、負けた試合のことなど暫くは話したくないさ」

ユリカ「そういうのじゃないんです。何というか、怯えている、というか…」

しほ「…考えすぎだ」


10:2016/07/18(月) 10:51:17.26 ID:skBVJL2y0

 しかし私もユリカと同意見だった。

 戦車には絶対的な能力差がある。
 89式がゼロ距離で砲撃しようがエレファントの正面装甲を破れないのと同じように、CV33の機関銃がプラウダのIS-2の装甲を打ち破れるはずがない。ではどうやってアンツィオはプラウダを破ったのだ。その道理が分からない。何しろ、戦車の知識だけなら同世代の誰よりも詳しいと自負している私が、どう勝てるのか皆目見当もつかないのだ。

 二人の間に沈黙が流れた。
 周りの部員の膳は既に空になり、歓談の声があたりを包む中で、私たち二人の膳は食事が手つかずで残り、一人用の鍋を温める固形燃料はとうの昔に燃え尽きていた。

 考えすぎだ、そう思う一方で一抹の不安だけが、いくら振り払っても取れない蜘蛛の糸のように私の身を包んでいた。


11:2016/07/18(月) 10:51:58.83 ID:skBVJL2y0

部員「せんぱーい、雨降ってきましたー」

 部員の一人が窓の外を見てそういった。
 窓の外を見ると、光一つない真黒な空にポツポツと雨が降り出しているのが見えた。それが音を立てて降るようになるのに、そう時間はかからなかった。

しほ「雨か――」

 暗闇に目を浮かべると、闇が見つめ返しているような気がして、私は室内に視線を戻した。


 明日は嫌な予感がする、そう直感した。


12:2016/07/18(月) 10:53:04.04 ID:skBVJL2y0

--------------------------決勝戦当日

審判「両チーム隊長、副隊長前へ!」

 降りしきる雨の中、審判の声がこだました。

しほ(――2人、2人、3人、3人)

 向かってくるアンツィオの隊長らをしり目に、私はアンツィオの隊員を数えていた。
 集まり毎がチームだと想定すれば、2人チームと3人チームしかいない。
 となると、やはりCV33とセモヴェンテがチームの主力。
 我々の戦車を破るような戦車であれば、どうあっても4名以上の要員が必要になるはず。

しほ(車両数は10輌、人数からしてセモヴェンテ3輌に、他はCV33か。…やはり杞憂か、いや逆に疑惑が強まっただけか――)


13:2016/07/18(月) 10:54:16.67 ID:skBVJL2y0

しほ(車両数は10輌、人数からしてセモヴェンテ3輌に、他はCV33か。…やはり杞憂か、いや逆に疑惑が強まっただけか――)

??「君があの西住流かい?」

 声を掛けられて前を見ると、相手の副隊長が目の前に立っていた。
 雨合羽のフードで顔が隠れているが、髪は黒いショートカットなのが分かる。
 背は私より一回り小さく、腰回りには古ぼけたランタンをつり下げていた。

しほ(ランタン? 他の学生は短刀のようなものをぶら下げているのに)

??「いい試合をしましょう」

 彼女が差し出す手を握ると、その手に銃ダコのようなものが出来ているのが分かった。
 普通の戦車乗りならまずそうならない手だ。

審判「一同、礼!」

 審判がそういう中で、私はその副隊長から目が離せなかった。それを察するように、彼女も私の顔をずっと見続けていた。
 私はこのとき確信した。
 この女だ。この女がアンツィオをここまで連れてきたのだ。

安斎「西住ぃ、戻るぞー」

しほ「…はい」

 私が手を放すと、彼女がクスリと笑ったような気がした。
 そのとき、腰に下げたランタンから青い光が漏れた。
 その光が雨にぼやけて、私にはそれが人の命を吸い取る、青い人魂のように見えた。


14:2016/07/18(月) 10:55:04.15 ID:skBVJL2y0

 試合開始後、黒森峰は安斎隊長の指示により隊列を組みながらアンツィオがいると思われる森林地帯へ南進した。
 編成はティーガー?、ティーガー?を主力とし、脇を?号戦車・?号駆逐戦車・ヘッツァーで固めていた。
 CV33のような小回りの利く戦車の対策として、こちらも中型戦車を投入したというわけである。

 しかし降り続く雨は、我々の進軍を阻害するのには十分だった。
 前日より降り続いた雨が肥沃な奄美大島の大地をぬかるませ、足の重い重戦車の行く手を阻んでいた。

ユリカ「これはスタックせずに進むので精いっぱいですね」

しほ「慎重でいい、フラッグ車が動かなくては元も子もないからな」


15:2016/07/18(月) 10:56:02.43 ID:skBVJL2y0

 キューポラから外を覗くも、視界不良で数十メートル先すら見えない。
 我々は隊の後方にいたのだが、フラッグ車の護衛である手前のティーガー?が漸く見える程度で、先を行く?号戦車の姿など姿かたちも見えなかった。
 敵も見えなければ味方も見えない。

通信手「聞こえますかー、こちらフラッグ車… おかしいな…」

しほ「どうした?」

通信手「先ほどから無線の調子が…」

ユリカ「この雨だから、電波がうまく通じないんじゃない?」

通信手「いえ、この程度の雨なら練習時でも経験していますが、こんなことは初めてです」

しほ「故障か?」

通信手「分かりません。復旧に努めます」

しほ「頼むぞ、この視界不良の中で無線すら途絶えたら洒落にならないからな」


16:2016/07/18(月) 10:57:08.61 ID:skBVJL2y0

 とその時、雨音を劈くように砲撃音が辺りに響いた。

しほ「この音は、?号の長砲身か」

通信手「あ、無線戻りました。前方の?号中隊、アンツィオのセモヴェンテと会敵したとのこと」

通信手「?号戦車、セモヴェンテを1輌撃破。アンツィオ森林地帯に撤退します」

通信手「安斎隊長より、我々フラッグ車は護衛のティーガー? A・Bチーム2輌を残し、全車森林地帯へ進軍するとのこと。フラッグ車チームはB105地点にて待機との指示」

しほ「ここで勝負をつけるつもりか」

ユリカ「少し早急じゃないでしょうか。陽動の可能性があるのでは」

しほ「おそらくそうだろう」

しほ「しかしこの雨の中だ。罠であろうと会敵した機会を生かし、物量で押しやるつもりなのだろう」

しほ「敵はセモヴェンテとCV33ならば、ティーガーであればゼロ距離以外で抜かれる事は無いだろう」

ユリカ「まぁそうですが…」

しほ「気になるか?」

ユリカ「そうですね、ですが私よりも西住先輩のほうが思うところがあるのでは?」

しほ「…鋭いな」

ユリカ「伊達に長い付き合いではありませんから」


17:2016/07/18(月) 10:58:00.86 ID:skBVJL2y0

 ユリカに言われる通り、私はあの副隊長のことが頭から離れずにいた。
 アンツィオの副隊長、青い光のランタン、銃だこの手。

 副隊長ということは、2年か3年だろうか。
 しかし去年のアンツィオにあんな生徒が居たような覚えはない。
 そもそも去年のアンツィオは、1回戦でマジノ女学院に手も足も出ずにやられていたはずだ。
 私の知る限り、アンツィオが決勝戦に進めるような戦力を保持していた記録はない。

通信手「撃破報告。安斎隊長が更にセモヴェンテ1輌撃破、他CV33を3輌撃破」

通信手「こちらへの損害はゼロとのこと」

通信手「しかし今だフラッグ車見つからず。フラッグ車は森から出てくる車両が居ないか注意すべし、とのこと」

装填手「やりましたね隊長」

砲手「流石勢いに乗らせたら無敵の安斎隊長。この調子ならフラッグ車も時間の問題ですね」

ユリカ「…我々の心配は杞憂でしたか」

しほ「…」


18:2016/07/18(月) 10:58:41.50 ID:skBVJL2y0

 雨音に紛れて、ティーガーの88mm砲の発射音が聞こえる。
 それに交じって時折88mm砲より小さな砲撃音と、機銃掃射の音が頼りなく響いていた。
 それがだんだんと小さくなり、10分余りが過ぎると雨音以外には聞こえなくなった。

装填手「砲撃がやみましたね」

砲手「フラッグ車を撃破したんでしょうか?」

ユリカ「なら試合終了のブザーが鳴るだろ」

ユリカ「とりあえず隊長と連絡を取ってみたらどうだ?」

通信手「そうですね……」

通信手「……やっぱりさっきからノイズが酷くて繋がりません」

しほ「出発前整備は行ったんだろうな?」

通信手「も、もちろんです。その時は何ともなかったんですけど…」


19:2016/07/18(月) 10:59:33.70 ID:skBVJL2y0

ユリカ「…西住先輩」

しほ「何だ?」

ユリカ「森から、何か出てきまいた」

しほ「何だと…!?」

 私はキューポラから顔を出し、森の方へ目を向けた。
 先ほどまで何も無かった場所に、一輌の戦車が止まっているのが確かに見える。
 雨ではっきりと見えないが、大きさからして中戦車。
 ?号か? いや…

しほ「…フラッグがついている」

ユリカ「敵車輌ですか!?」

しほ「恐らく… あの戦線を抜けてきたのか?」

通信手「どうしますか? 私たちでやりますか?」

砲手「こっちはティーガー3輌、あっちはイタリアの中戦車1輌、どう考えてもこちらに分があります」


20:2016/07/18(月) 11:00:08.75 ID:skBVJL2y0

しほ「通信はまだ回復しないのか?」

通信手「未だノイズしか聞こえません」

しほ「隊長からの指示なくして攻撃を開始する等ありえん、まずは敵の様子を伺いながら――」

ユリカ「西住先輩! 護衛のティーガーABが前進を始めました」

しほ「何!?」

ユリカ「あぁもう、持ち場を放棄する気かあのバカ達は!」

ユリカ「どうしますか! ここで待機しますか、追いますか!?」

しほ(前の二台は隊長との通信が繋がっているのか?)

しほ(であれば進軍したのは隊長からの指示と考えるのが妥当)

しほ(やはり通信が出来ないのは我々の戦車だけなのか)

しほ(…相手は中戦車、仮に攻撃されたとしてもティーガーの正面装甲を抜くことなどまず無理)

しほ(であれば……)


21:2016/07/18(月) 11:01:19.73 ID:skBVJL2y0

しほ「…仕方がない、我々も追うぞ」

ユリカ「了解、前進します!」

 重いティーガーが泥を掻きながら前進を始める。
 先に前進を始めた2輌は既に500m先へ進んでいた。

ユリカ「敵のフラッグ車も前進してきます」

装填手「逃げないんですね」

砲手「まさかティーガー3輌と正面からやりあうつもりでしょうか」

通信手「突撃の美学というやつでしょうか」

しほ「…」

 突撃で散ろうとするのであれば、森の中にごまんと戦車が居たはずだ。
 しかし奴らはそれを抜けてきた。ということは、少なくとも奴らは闘う気でいるということだ。

 と、凄まじい砲撃音が辺りに響いた。
 ティーガーの88mm砲だ。前方を進むティーガー2輌からの行進間射撃である。

 この距離であればどのような中戦車でも正面から抜ける。
 ましてや、イタリア製の脆弱な戦車なら尚更である。


22:2016/07/18(月) 11:02:25.70 ID:skBVJL2y0

砲手「我々も撃ちますか?」

しほ「いや、極力発砲は避ける」

 その間もティーガーの88mmが轟音を上げる。
 しかしながら、フラッグ車を仕留めるには至らない。

 黒森峰において、ティーガーに乗るということはエースの証だ。
 つまりそれは、高校でも指折りの能力を持っていると言っても過言ではない。
 砲手であれば500m以内であれば、行進間射撃であっても十分に敵を撃破できる能力を持っている。
 その砲手の放つ弾丸を、この足場が悪い中で、敵戦車は必要最小限の動きで砲撃を避けている。
 完全にティ―ガーの装填速度と、砲手の撃つタイミングを計った上での動きだ。

 この反応にこの動き、相当な熟練者に違いない。


23:2016/07/18(月) 11:03:10.86 ID:skBVJL2y0

ユリカ「敵フラッグ車、前方のA車・B車まであと300m」

砲手「そういえば、敵戦車はまだ一回も撃ってきませんね」

装填手「至近距離じゃないと抜けませんからね。いや、至近距離でも正面はまず抜けませんけど」

通信手「…あ、通信繋がりました!」

しほ「漸くか」

通信手「安斎隊長から…、こちらフラッグ車」

通信手「敵フラッグ車ですか? 安斎隊長? え、それはどういう…」

しほ「どうした?」

通信手「西住先輩、安斎隊長から緊急伝達、敵フラッグ車を発見次第… 速やかに逃げるようにとの指示です!」

しほ「逃げろ?」


24:2016/07/18(月) 11:04:12.54 ID:skBVJL2y0

DOOOOOOOOM!!!

装填手「砲撃音!?」

ユリカ「何だと…」

しほ「ユリカ、どうした?」

ユリカ「敵フラッグ車、ティーガーAチームへ砲撃… 撃破されました」

装填手「ティーガーが!?」

ユリカ「すれ違いざまに側面下部に至近距離から1撃、装甲の薄いところを突かれたようです」

砲手「完璧なタイミングでした、あれは装填手・操縦手・運転手の息が合わないと出来ませんよ」


25:2016/07/18(月) 11:05:09.23 ID:skBVJL2y0

 私はキューポラから身を乗り出た。撃破されたティーガーから黒煙が上がっている。

 その横に、敵フラッグ車の車体が見えた。

しほ「M16/43…サハリアノか!?」

 M16/43。イタリアの幻の中戦車。
 北アフリカ戦線での英軍クルセイダーに太刀打ちできなかったイタリア軍が、同じく高速かつ低姿勢を目標に作成された試作戦車。
 しかし、P40の開発が急がれたことで生産は試作車1台に留まったと聞く。

ユリカ「敵フラッグ車、Bチームへ接近」

しほ「! 我々も攻撃を開始する!」

砲手「了解! 撃ちます!」

 我々の88mm砲が火を噴くも、敵フラッグ車はそれをひらりとかわす。

砲手「完璧にとらえたはずなのに!」


26:2016/07/18(月) 11:05:46.89 ID:skBVJL2y0

ユリカ「敵フラッグ車、Bチームの側面へ……」

DOOOOOM!!

ユリカ「…Bチームの白旗を確認」

ユリカ「悪い夢でも見ているというの…?」

通信手「副隊長、安斎隊長から連絡です! その、直接話がしたいとのこと」

しほ「分かった、回してくれ」

安斎『西住! 敵のフラッグ車は見えたか! いいか、私たちが行くまで絶対に交戦するんじゃないぞ』

しほ「それは…」

安斎『あのサハリアノの車長は化け物だ! こちらはフラッグ車以外は全部叩いたが、そいつらは全部囮だった』

安斎『そいつ一台に、こちらの戦車は全滅だ。私を含めて何台かは履帯を外されただけで済んだがな』

安斎『いいか! 我々が修理を終えて合流するまで、交戦は絶対に避けるんだぞ!』

安斎『二重包囲して確実に奴を仕留める!』

安斎『おい聞いてるのか西住! おい…… にS…… み……』

安斎『………』


27:2016/07/18(月) 11:06:24.55 ID:skBVJL2y0

 無線のノイズがやけにくぐもって聞こえる。

 しかしその時の私には、安斎隊長の忠告など頭に入ってこなかった。

 ユリカの操縦桿を持つ手がこわばっているのが見える。
 砲手の照準器を見える目が、一瞬とも瞬きをすることなく敵を捕らえている。
 装填手は7KGもある弾丸を抱えながら身を固める。
 通信手の唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。

 その中で私は、あのM16/43中戦車の砲塔がゆっくりと回るのを、唯、無言で見つめることしかできなかったのだ。


28:2016/07/18(月) 11:07:13.05 ID:skBVJL2y0

-------------------------------

みほ「…」


沙織「…」

華「…」

優花里「…って、えこれ実話なんでありますか?」

しほ「至って実話だ」

沙織「あれぇ…、戦車ってこんなに怖いものだったっけ?」

麻子「…お、起きてみたらしほさんが怖い話をしてるんだが、何があったんだ?」

みほ「お母さん、アンツィオのウィル・オ・ウィプスの話は辞めようよ」

華「アンツィオのウィル・オ・ウィプス?」

優花里「まさか、ウィル・オ・ウィプスってあの戦車乗りの伝説のことですか?」


29:2016/07/18(月) 11:07:50.62 ID:skBVJL2y0

優花里「まさか、ウィル・オ・ウィプスってあの戦車乗りの伝説のことですか?」

沙織「伝説って?」

優花里「戦車乗りの間では有名な話です。『焼硬鋼(ブルースチール)のランタンを持った歩兵と会ったら、味方と思うな。だが決して敵に回すな。そのランタンは持ち主の魂をくべる炉。奴らは蒼い鬼火(ウィル・オ・ウィプス)と共にやって来る』」

優花里「第二次世界大戦の欧州で、アメリカ軍の絶対的な物量の前に追い詰められたドイツ軍は、とんでもなく馬鹿げた計画を打ち出しました」

優花里「それは一般兵単身による戦車の撃破」

優花里「当時生身の人間に対しては絶対的優位にあった戦車に対し、大口径の銃を持った兵士が単身接近。装甲の弱い戦車上部を破壊し、乗組員を直接射殺するという大胆不敵にして最も馬鹿げた作戦です」

優花里「その兵士の共通点が、腰に青い光のランタンをぶら下げていたこと」

優花里「正式名称を対戦車猟兵部隊901ATT(ANTI TANK TROOPER)。通称ウィル・オ・ウィプスです」


30:2016/07/18(月) 11:08:33.43 ID:skBVJL2y0

沙織「でもそういうのって、よくある作り話なんじゃないの?」

優花里「そうですね、私もそう思っていましたが、しかし家元殿のお話に出てきたアンツィオの副隊長は確か腰に青い光のランタンをぶら下げていたんだとか」

しほ「そう、私は確かに開始の挨拶の際、彼女の腰に青い光のランタンを見た」

しほ「今でも青い光を見ると、あの時の戦いを思い出す」


31:2016/07/18(月) 11:09:27.48 ID:skBVJL2y0

 私が意識を取り戻したのは、M16の砲撃がティーガーの横をかすめ、数100メートル後ろに着弾したときだった。

ユリカ「西住先輩! しっかりしてください!」

しほ「ユリカ…」

 M16の砲撃を、ユリカが間一髪のところで避けた。
 正面からの一撃、当たったとしてもティーガーの100mmの装甲を抜けるはずがないのだが、私はその一撃に冷や汗が滲み出ていた。

砲手「西住先輩! 発砲の許可を!」

しほ「…勿論だ、一撃で決めろ!」

砲手「了解!」

 ティーガーの88mmが、雨を劈いて放たれる。しかしM16はそれを見据えたかのように右方向へ転回した。

砲手「何であれが避けれるの!」

しほ「ユリカ! 敵に側面を取らせるな! 一定距離を保ちつつ、常に相手の砲が正面に来るように転回しろ!」

ユリカ「了解しました!」


32:2016/07/18(月) 11:10:47.19 ID:skBVJL2y0

 全くもって理解できない現象が、今目の前で起こっている。
 M16/43がティーガー?2輌を撃破し、今まさに我々を狙っている。
 我々は88mm砲と前面100mmの分厚い装甲を持ちながら、75mm砲と僅か40mmしかない装甲の戦車を前に右往左往しているのだ。

しほ「せめてもう2輌、いや1輌いればどうにかなったものを」

 戦力というものは、ランチェスターの法則に従えば、乗数効果が発生する。
 簡単に言えば、2対1の場合戦力差は2倍ではなく2の2乗で4倍という訳である。
 詰まる所、我々が当初3輌でM16に迫った時には(戦車のスペック差を無視したとしても)9倍の戦力差が発生してたことになる。

 しかしながら通信不能と、慢心による結果我々の9倍の戦力差は僅か2回の砲撃により崩された。
 これがせめて通信手段が通常通り生かされていれば、おそらくは別の結果が出ていたに違いない。


33:2016/07/18(月) 11:11:40.36 ID:skBVJL2y0

しほ(ならば安斎隊長の援軍を待つか)

しほ(いや、この雨で履帯の修理がいつ終わるかなんて到底見当がつかない)

しほ(向こうの戦力はすべてやられたと考えるのが妥当)

しほ(ならば我々は、単身でこの化け物を倒す必要があるということだ)

しほ(しかし、さて、どうやって倒そうか)

ユリカ「少し気になってたんですけど、サハリアノって47mm砲ですよね」

ユリカ「ならゼロ距離でも我々ティーガーの装甲を貫くのは現実的に不可能では?」

しほ「そうだな、しかし今アレに搭載されているのはおそらく75mmだ」

ユリカ「それってレギュレーション違反では?」

しほ「私も聞いたことがある限りだが、元々75mmを搭載する計画もあったんだそうだ。まぁ47mmにせよ75mmにせよ、基本的に我々の装甲が貫かれるはずはない」


34:2016/07/18(月) 11:12:11.55 ID:skBVJL2y0

しほ「しかし、駆動系へのダメージは別だ。履帯への修復不可能なダメージは『走行不能』と捕らえられて撃破扱いとなる」

しほ「奴は側面へ回り込み、駆動系が最もダメージをこうむる場所をピンポイントに撃破している」

しほ「どんな手練れかは知らないが、第二次世界大戦なら英雄モノだぞ」

ユリカ「ははは…、我々は何を相手にしているんでしょうね」

 何を、か。それは私が今一番知りたことだよ。

しほ(しかし、我々がこうしている間にも奴は着実に距離を詰めてきている)

しほ「…一度森に逃げ込む」

しほ「ユリカ、雨の中だが煙幕を焚けるだけ焚いてくれ」

ユリカ「了解しました! 煙幕発煙後森へ転進します!」

しほ(さて、鬼が出るか蛇が出るか)


35:2016/07/18(月) 11:12:42.60 ID:skBVJL2y0

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しほ「我々は煙幕を投下後、森林地帯へと移動した」

しほ「しかしながら、雨の中ティーガーのような重く大きな車両が走れば、自ずとその『跡』は残ってしまう」

しほ「勿論、その跡をサハリアノの車長が見逃すはずはなかった」

しほ「私は彼女らとの戦いが終わりに近づいているのを感じた」

しほ「次の会敵ですべてが決まる、それは恐らくティーガー?の車内に居た誰もが感じている事だった」

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36:2016/07/18(月) 11:13:24.30 ID:skBVJL2y0

通信手「ティーガーの偽装完了しました」

通信手「といっても、回りの木々をかき分けただけなので、近付けば直ぐ分かっちゃうと思いますけど…」

しほ「いやいい、ご苦労だった」

ユリカ「はいタオル、風邪ひくからちゃんと拭きなさいよ」

通信手「ありがとうございます」

通信手「…で、サハリアノは?」

ユリカ「まだ見えないわ。真っすぐ向かえばそろそろ見えてくるはずなんだけど」

しほ「…」

 此方の様子を探っているのか、しかし奴とて我々がフラッグ車だということは知っているはず。
我々も奴を倒さなければ勝利も無いが、それは奴も同じということだ。


 必ず、必ず仕掛けてくる。


37:2016/07/18(月) 11:14:26.88 ID:skBVJL2y0

しほ「…来たな」

 霧掛かった森に、履帯の動く音が聞こえる。
 今動けるのは我々と奴のみ。

 しかし、音は聞こえど姿は見えない。
 入り組んだ森の構造が、前から声が聞こえるのか後ろから声が聞こえるのか分からなくする。

砲手「…うぅ」

 1年の砲手が声を上げる。
 そろそろ集中力も限界かも知れない。
 しかし、この暑さに湿度、そして得体のしれない敵と対峙してよくここまで持っていると褒めてやってもいいだろう。

ユリカ「…見えました! 11時の方向にサハリアノ!」

砲手「確認! 撃ちますか!?」

しほ「いや待て、もう少しひきつけろ!」

 11時を見ると確かにサハリアノが居る。砲塔をこちらに向けているということは、奴もこちらに気付いている。


38:2016/07/18(月) 11:14:58.41 ID:skBVJL2y0

しほ(仕掛けてこい…、そこがお前の…)

 DOOOOOOOM!!

しほ「何!」

 サハリアノの砲撃にティーガーの車内が揺れる。
 この距離から、しかも正面からの砲撃で何をしようというのか。

ユリカ「しまった! 履帯をやられました!」

しほ「!」

 成程、先にこちらの機動力を奪いに来たのか。

砲手「サハリアノ、砲撃と同時に此方へ直進します!」

しほ「っち、撃て!」


39:2016/07/18(月) 11:15:48.94 ID:skBVJL2y0

 DOOOOM!!

 私が言い終わるかどうかのタイミングでティーガー?の88mmが火を噴いた。
 しかし、その衝撃で車体が大きく揺れる。

 砲弾はサハリアノの右側面へ逸れ、後方の木々へ着弾した。

砲手「履帯が外れたから車体が安定しない!」

しほ「砲塔回転! 奴らは必ず側面を突いてくるはずだ!」

 サハリアノが、ここが森であろうということを忘れているような動きで接近してくる。
 砲塔の回転が奴の足回りについていけない。

 我々の左側面、今履帯が外れた側面への攻撃が狙いか。

装填手「装填完了しました!」

しほ「撃て!」


40:2016/07/18(月) 11:16:25.35 ID:skBVJL2y0

 DOOOOM!!

 第二射も奴の進行方向後方へ外れる。
 どうやったら森で、戦車でああいう風に動けたものか。

しほ(次が最後、になるか)

 装填手が慌ただしく次弾を装填しているが、私はその装填がこの試合最後になることを確信していた。

しほ(いや、それも撃てるかどうかも分からん)

 サハリアノがティーガー側面へ標準を定める。その距離は既に50mもない。

しほ「砲塔回転急げ!」

 ティーガーの砲塔が、いつもよりゆっくりと回転しているように感じる。
 そしてその刹那、砲撃音が森に響いたのだった。


41:2016/07/18(月) 11:16:54.64 ID:skBVJL2y0

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優花里「お、おぉぉぉぉぉぉ」

沙織「それでそれで、その砲撃で決着がついたの!?」

優花里「アンツィオは準優勝ですから、やはりしほ殿の砲撃が決まったのでしょう」

しほ「いや、私の砲撃は外れた」

沙織「え?」

しほ「私の砲撃も、そしてサハリアノの砲撃も外れた。そして――」

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42:2016/07/18(月) 11:18:01.97 ID:skBVJL2y0

しほ「外れた!?」

 両者の砲撃はどちらも少し脇に逸れ外れた。着弾の振動が直でティーガーの車内を揺さぶる。

砲手「すみません、やはり履帯が外れた影響が…」

しほ「次弾そうて…!」

 DOOOOOOOOOOOOM!!!
 その直後、凄まじい爆音が辺りに響いた。

しほ(やられ…てない?)

ユリカ「サハリアノ被弾! …白旗が上がっています!」

しほ「何だと! 一体誰が…」

通信手「あの…、通信が入っています」

しほ「…変わってくれ」


43:2016/07/18(月) 11:18:42.41 ID:skBVJL2y0

安斎『おー、間に合って良かったな、西住ぃ』

しほ「安斎隊長!?」

ユリカ「え? やられたんじゃなかったの?」

安斎『逸見ぃ、聞こえているぞ』

安斎『全く、私が合流するまでは動くなと言っていたのに』

安斎『まぁ上手くいったんだから良しとするか、うん』

 この人はいつもこんな調子だ。

安斎『しかし、お前らが近くでドンパチやり始めたのには驚いたぞ』

安斎『少し動けば射線上に入りそうだったんでな。悪いが最後の最後に持っていかせてもらったぞ』

しほ「気づいていたんですか…人が悪い」

安斎『先輩としては後輩に華を渡そうと思ったんだがなぁ』

安斎『まー、やっぱり私が居ないと駄目だということだな。ナハハハ〜』

しほ(全く、この人は…)


44:2016/07/18(月) 11:19:12.68 ID:skBVJL2y0

安斎『さー優勝だ! 終わったらバカンスだからなバカンス!』

安斎『西住ぃ、お前ちゃんと言ったとおり、際どいビキニ持ってきた――』ブツ

しほ「切れたな、やはり通信が悪いのか」

ユリカ(あれ、今自分で切ったわよね)

砲手(自分で切りましたね)

装填手(切りました)

通信手(突っ込んだら駄目なんだろうなー)

しほ「しかし…」


45:2016/07/18(月) 11:19:56.04 ID:skBVJL2y0

 私はサハリアノへ視線を向ける。
 撃破されたサハリアノが、うなだれるように砲身を下げ、白旗を上げていた。

しほ「少し出るぞ」

ユリカ「え、あぁ…はい」

 こうして終わってしまったとはいえ、ここまで私を追い詰めたサハリアノの車長に合わずに帰るのは礼に反するだろう。
 私はキューポラを空けると、サハリアノへ足を進めた。

 こうして近くで見ると、思ったより小さな車体だと感じる。
 クルセイダーをベースに作られたということからか、車高も低い。

しほ「あー、サハリアノの車長に話がある」

しほ「雨の中悪いが、出てきてくれないか」


46:2016/07/18(月) 11:20:36.81 ID:skBVJL2y0

 その時、ふと私は思い出した。

 そういえば、整列時アンツィオのチームは3名か2名のチームだけだった。
 このサハリアノの必要要員は4名。
 車輌の数も考えると計算が合わない。

しほ(通信手を兼務して、3名で乗り込んでいたのか?)

 いや、応援席にもアンツィオの応援が居たのを考えるとわざわざ兼務する必要はないだろう。
 そうであれば――

 そう考えていると、キューポラが開いた。
 そしてそこから現れたのは――


47:2016/07/18(月) 11:21:11.40 ID:skBVJL2y0

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優花里「アンツィオのウィルオウィプスだったんですか?」

しほ「いや、怯えた1年の装填手一人だった」

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48:2016/07/18(月) 11:21:45.67 ID:skBVJL2y0

アンツィオ生「あの…、その…」

しほ「ん、まさか君がこのサハリアノの車長なのか?」

アンツィオ生「いえ、そうじゃないんです。そうじゃないんですけど…」

アンツィオ生「ご、ごめんなさい!」

しほ「? 謝る必要はないと思うが」

アンツィオ生「でも… すみませーーん!」

 そう言うと、アンツィオ生は走って何処かへ行ってしまった。
 不審に思った私が車体に上り、車体の中を見ると私は言葉を失った。

しほ「これが―― ウィルオウィプスの正体か」



49:2016/07/18(月) 11:22:22.42 ID:skBVJL2y0


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しほ「目の前にあったのは、改造され機器の数々だった」

しほ「試合後大会運営本部にばらさない、という条件付きでアンツィオの隊長に聞いたところ、全ては副隊長の案だったという」

しほ「不振にあえぐアンツィオの前に、彼女がふらりとやってきた」

しほ「『私のサハリアノと貴方達全員で勝負して、私が勝ったら試合に出させて』そう言った彼女に、部長をはじめアンツィオ生全員が面食らったという」

しほ「しかし試合結果はサハリアノが圧勝。結果彼女を迎え入れることになった」

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50:2016/07/18(月) 11:22:56.51 ID:skBVJL2y0

隊長「しかし条件が3つあった」

隊長「それは、サハリアノをそのまま使用すること」

隊長「サハリアノの整備に関しては、自分でやるからアンツィオ生は近付かないこと」

隊長「あと、装填手として1人だけ、口の堅い奴を貸してほしいということ」

隊長「不思議な条件だったが、戦力も乏しく整備の予算すら無い我々にとっては願ってもない条件だった」

しほ「それは、例の内部機器をばらされたくないからということでしょうね」

隊長「そうだな」

隊長「西住さんが気になっているだろう、あの機器の件だが――」

隊長「あれは彼女が一人で戦車を動かすために取り付けたものだ」

しほ「一人で、ですか?」


51:2016/07/18(月) 11:23:29.69 ID:skBVJL2y0

隊長「あぁ、全てが終わった後装填手に話を聞いたところ、彼女は運転・砲撃・通信の全て、というよりも装填作業以外のすべてを自分で行っていたらしい」

隊長「そのせいかアイツの手は、よく分からんタコがいつも出来ていた」

しほ「馬鹿な、一人で戦車を動かすなんて、そんなことが出来るわけが無い」

隊長「しかし、実際にあの戦車にはそれを行うための機器が積まれていた」

隊長「アンツィオの名誉に誓って言うが、サハリアノそのもののスペックを上げるような改造は施されてないぞ」

隊長「あの改造ですら、WW?の技術力でも出来るレベルの改造だ」

隊長「とはいっても、レギュレーションには違反しているかもしれないがな」


52:2016/07/18(月) 11:24:08.07 ID:skBVJL2y0

隊長「とはいっても、レギュレーションには違反しているかもしれないがな」

しほ「…彼女は、今どこにいるんですか?」

隊長「知らん」

隊長「あれから戦闘フィールドを探し回ったが、何処にもいなかった」

隊長「それどころか、いつの間にかサハリアノも何処かへ行ってしまった」

隊長「…ということは、まぁ何処かで生きているということだ」

しほ「彼女は、何が目的だったんでしょうか」

隊長「自分の力を試したかったのか、それとも――」

しほ「それとも?」
隊長「――いや、何でもない」

隊長「それと、これはやはり大会本部へ報告するよ」

隊長「これで準優勝が取り消しになるかもしれないが、それでもいい」

隊長「このような形だが黒森峰と、決勝で闘うことができて私は満足しているよ」

隊長「出来るのであれば、サハリアノの彼女の事を忘れないでほしい」

隊長「きっと彼女もそれを望んでいるはずだ」



53:2016/07/18(月) 11:24:35.85 ID:skBVJL2y0

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しほ「――結局、アンツィオはこの報告を大会運営本部に報告したが、準優勝の取り消しは無かった」

しほ「そもそもそのサハリアノ自体が消失していたこともあったが、『一人で戦車を動かす』ということのメリット自体大会運営本部は無いと判断した」

しほ「これが25年前のアンツィオ準優勝の真実、というわけだ」

優花里「そんな凄い戦車戦だったんですねぇ」

華 「思わず身体が震えてしまいました」

みほ「小さいころ戦車道が嫌で私がダダこねると、絶対この話するんだから」

みほ「弱いままだとアンツィオの亡霊に食われるぞ、って」

優花里「この話は小さい子供には応えるでしょうねぇ」


54:2016/07/18(月) 11:25:14.02 ID:skBVJL2y0

優花里「でも、結局副隊長は誰だったんでしょう」

しほ「さぁ、それは今でも分からないわ」

しほ「でも同年代なのだから、今頃は貴方達くらいの子供が居てもおかしくはないと思うわ」

しほ「少し長居してしまったようね、私はこれで帰るわ」

みほ「帰るってお母さん、ここ海の上だよ…」

しほ「覚えておくのね、みほ」

しほ「西住流に不可能は無い、ということを―― それでは皆さん、これからもみほと仲良くしてあげてね」

沙織「あ、はい…」

しほ「じゃ、身体に気を付けるのよみほ」


55:2016/07/18(月) 11:25:49.93 ID:skBVJL2y0

優花里「……行ってしまいました」

麻子「私はアンツィオの亡霊より、しほさんの方が怖いんだが」

華 「一体どうやって学園艦から降りるんでしょうか?」

優花里「西住殿も将来ああいう風になるんでしょうか」

みほ「ならないから! 絶対にならないから!」

沙織「こんなに激しく否定するみぽりん初めて見たよー」

華 「でも怖いお話を聞いたら、何だかお腹がすいてきました」

沙織「どういうロジックなの!?」

優花里「それなら丁度、あのあたりに屋台が―」



56:2016/07/18(月) 11:26:21.98 ID:skBVJL2y0

??「お、あんこうチームの面々じゃないか!」

みほ「あの人は確か――」

優花里「アンツィオのペパロニさんですね」

ペパロニ「奇遇だね、って大洗の学園艦で出店やってて奇遇も何もないか」

ペパロニ「どうだい、アンツィオ特製鉄板ナポリタン食べていかないかい!?」

沙織「わーい! これ私大好きなんだよねぇ!」

華 「では5皿頂きましょうかしら」

沙織「――華、それ一人分じゃなくて皆の分、ってことだよね」

華 「さぁ、どうでしょう?」

みほ「そういえば、今日はカルパッチョさんやアンチョビさんはいないんですか?」

ペパロニ「そうだね、今日は学校の屋台じゃなくて私の家の商売の一環だから」


57:2016/07/18(月) 11:26:56.88 ID:skBVJL2y0

みほ「商売?

ペパロニ「そう、私の家学園艦でイタリアンレストラン経営してるんだ」

ペパロニ「ほら、これが店名ね」

みほ「アズーロ・ランテルーナ?」

ペパロニ「お洒落だろ? 青いランタンって言う意味なんだけど…」

一同「」ピクッ

ペパロニ「母さんが命名したらしいんだけどさぁ」

ペパロニ「家には結構古めのランタンとか置いてあるんだぜ」

みほ「ね、ねぇペパロニさん」

ペパロニ「何だ?」

みほ「もしかしてペパロニさんのお母さんって――」



FIN



58:2016/07/18(月) 11:32:07.25 ID:skBVJL2y0

 これにて終了です。
 変わらずですが、戦車戦ってやっぱり難しいですね。
 ウィルオウィプスが気になる方は、パンプキンシザーズを是非ご一読ください。

 では、これからもあんこうチーム以外にフォーカスした作品を書いていきます。
 ありがとうございました。


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