1:2011/06/26(日) 09:35:25.27 ID:iNmol0qk0

唯たちHTTメンバーが学園都市の暗部組織に属しているSSを投下します。
禁書本編開始より2〜3年前の話です。プロローグはそのさらに数年前、唯の小学生時代です。

以下注意点
・禁書キャラは登場しません。けいおんキャラとモブのスキルアウト等が登場します。
・第六位が登場します(けいおんキャラ)。
・自分だけの現実、AIM拡散力場、能力者の魔術使用について独自解釈があります。
・敵のモブのみ、ややグロい死に方をします。
・HTTの曲の歌詞について、暗部的な独自解釈があります。
・鬱注意

初投降です、よろしくお願いします。


2:2011/06/26(日) 09:37:13.24 ID:iNmol0qk0

プロローグ

学園都市のとある「置き去り」の初等教育施設。
音楽の授業中、ダイナミックな動きでカスタネットを叩く児童を教師が褒める。

「唯ちゃんはカスタネットお上手ね〜……あら?」

教師は目を疑った。唯と呼ばれた少女がカスタネットを叩くたび、音符が具現化してふわっと浮いてくるのだ。
教師が音符に触れてみると、ぷにっとした感触があった。幻ではない。
音符はしばらくするとスーッと消えていった。

「ゆ、唯ちゃん、これどうやって出しているの?」

「えーっ、わかんないよ。でもたのしいよ!」

「……もしかして、能力に目覚めたのかしら?」

後日、教師は唯にさまざまな楽器を弾かせてみた。いずれの場合も、唯が楽しんで演奏していると音符が現れる。
その中でも、ギターを特に気に入ったようなので、教師は唯にそのギターを与えることにした。

それから唯は家でギターの練習を続け、みるみる上達していく。
今日は友達と妹の前でお披露目だ。

「みてみて〜、うい、のどかちゃん! じゃかじゃん♪」

ギターからカラフルな音符がたくさん飛び出す。初めのころに比べ、音符の量とバリエーションは格段に増している。

「おねえちゃん、すごいよ!」

「すごいわ、唯。どうやってるの?」

「ん〜、よくわかんないけど、たのしいとででくるんだよ!」



3:2011/06/26(日) 09:39:26.45 ID:iNmol0qk0

一方、この不思議な能力は「身体検査」ではエラーとなり、正しく測定できなかった。
精密な測定のため、放課後に研究所に通う日々が続く。しかし、いかなる測定法をもってしてもその本質をつかむことはできなかった。

「はい唯ちゃん、お疲れ様。今日は終わりだよ」

と、研究者の男性が優しく告げる。

「はーい、さようなら!」

バタン、と扉が閉じるのを確認すると、研究者の優しい笑顔が消え、同僚の男に粗暴な口調で話しかける。

「おい、どうするあのガキ。このままじゃいつまでたっても能力を解明できねえぞ」

「おそらく原石だろうね。もっと突っ込んだ人体実験でもしないかぎり、今のぬるっちい実験じゃわかりっこないさ」

「だがどうする? 『置き去り』とはいえ、一応まともな施設に入ってんだ。障害が残ったりしたら問題になるぞ」

「……仕方ないな、強行手段に出るか」



4:2011/06/26(日) 09:41:41.02 ID:iNmol0qk0

ある朝、ギターを背負って登校中の唯の前に研究者が現れた。

「おはよう、唯ちゃん」

「あ、けんきゅうじょのおじさん!」

「ちょっと、来てくれるかな? 急遽確認したいことがあるんだ」

「え、でもがっこうが……え?」

唯は研究者の表情がいつもの優しい笑顔から引きつった醜い笑顔に変わっていくのに気づき、恐怖を覚える。

「いいんだよ、唯ちゃん……もう学校には通わなくていいから」

研究者が一歩、また一歩と迫ってくる。

「い……いや! こないで! だ、だれかたすけむぐっ」

麻酔薬を嗅がされ、唯は意識を失った。

「これでよし、と。
へへへ、このガキはここで誘拐されたんだ、あくまで俺らとは別の単独犯によって、な」

研究者たちは、唯が誘拐事件によって行方不明になったことにし、研究所に唯を監禁することで非道な人体実験を行おうとしていた。



5:2011/06/26(日) 09:44:46.92 ID:iNmol0qk0

研究所のとある部屋に運び込まれた唯が目を覚ますと、すでに頭には無数の測定器が取り付けられていた。目の前には愛用のギターも置かれている。

「……ここは、どこ?」

唯があたりを見回していると、部屋に取り付けられているスピーカーから音声が響く。

『おっ、起きやがったか。さあ、さっさとギターを弾け。実験を始めんぞ』

ガラス越しに、隣の部屋に研究者が見える。がらりと態度が変わった研究者を見て、先ほどの恐怖が呼び起こされる。

「い、いや! やめてよ……おうちにかえして!」

『うだうだ言ってねえでさっさとしやがれ!』

「うう……ひっく……うい……のどかちゃん……たすけてよぉ」

『チッ……』

痺れをきらした研究者が扉を乱暴に開け、唯のいる部屋へと入ってきた。

「このガキ……痛い目に遭わないとわかんねえみたいだな……」

その手には、スタンガンが握られている。

「さあ……おとなしくしな」

「こ、こないで……
おねがいギー太、たすけてぇぇっ!!!」

恐怖で混乱した唯は、叫びながらギターを思いっきりかき鳴らす。すると、ギターからどす黒いオーラが噴出し始めた。

「な、なんだと!?」

「こないでこないでこないでぇぇぇっ!!!」

唯が連続でギターを弾くと、ギターから無数の黒い光弾が発射される。
光弾は着弾すると同時に爆発し、壁に穴を開け、ガラスを粉々に割り、研究資材を大破させた。
部屋の中がけたたましい騒音に包まれる。

「ぐはあ……!」

光弾を腹に受けた研究者は、内臓に致命傷を負い、その場で絶命した。


6:2011/06/26(日) 09:47:11.53 ID:iNmol0qk0

「何事だ!?」

爆発音を聞きつけた他の研究員たちが集まってくる。
めちゃくちゃに破壊された実験室と、倒れている同僚を見て、驚愕の表情を浮かべる。

「な……こいつ、こんなに強力な能力を隠してやがったのか……捕まえるぞ!」

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

再び唯が激しくギターをかき鳴らすと、今度はあらゆる方向に黒いレーザーが発射される。
レーザーはいとも簡単に壁、天井、床を、そして数名の研究員を貫いた。

「くそっ……対能力者用の装備を持って来い!」

研究員たちが一旦退く。
その隙に、唯は壁に空いた小さな穴から外へと逃げ出した。

「はあ、はあ……おうちに、かえらなきゃ」

しかし、周りの光景に見覚えがない。
どうやら、いつも通っているところとは別の研究所に連れてこられたようだ。

「ここは…どこ!?」

そうこうしてるうちに、壁の穴が爆破され、駆動鎧に身を包んだ研究員たちが外へと出てくる。

「見つけたぞ……待ちやがれ!」

「ひっ……!」

唯は道もわからないまま、ギターを弾きながらがむしゃらに駆け出す。
後方へと発射される光弾が、駆動鎧の進路を妨害する。

「くそっ、てこずらせやがって!」

唯は建物の隙間の細い道へと駆け込んだ。駆動鎧が一体ぎりぎり通れる程度の幅である。
それでもなお駆動鎧が追跡してくるが、唯が発射した光弾が建物の壁を破壊し、瓦礫が進路を塞いだ。

「ちっ……そう遠くまでは逃げられまい、回り込んで探せ!」

駆動鎧たちは思い思いの方向へと四散していった。


7:2011/06/26(日) 09:49:23.90 ID:iNmol0qk0

「ここ……どこ……もうあるけない……」

薄暗い路地裏にて、疲れ果てた唯が壁にもたれかかって座っている。

「うい……ぐすん」

唯が絶望しかけたそのとき、物陰から一人の少年が現れた。

「お前、いい能力もってんな。見させてもらったぜ」

「だれ……?」

「あの研究者の連中とは関係ないから安心しな。
なあ、奴らはもうこのあたり一帯を取り囲んでる。お前が見つかるのも時間の問題だ。
捕まったら、酷い人体実験の日々が待っている。死んじゃうかもなぁ?」

「ひっ……!」

「そこで、だ。俺たちの仲間にならないか? 俺たちは強い。仲間になってくれたら、あいつらを蹴散らしてやる。
それに、俺たちはお前を実験台にしたりはしない。ただお前のその能力で、俺たちの仕事の手伝いをしてほしいんだ」

少年はわざと恐怖を煽るような言葉を使い、唯を追い詰め、仲間になるように誘導する。
この少年は学園都市の暗部に身を置く者であり、唯の持つ能力を利用しようとしていた。

「どうだ?」

少年が手を差し伸べる。
決して触れてはいけない、魔の手。
しかし、憔悴しきった唯に考える力は残されていなかった。

「おねがい……たすけて」

唯がその手をつかむ。
かくして、唯は一度入ったら二度と戻って来れない世界へと足を踏み入れた。


8:2011/06/26(日) 09:52:37.95 ID:iNmol0qk0

#1 結成!



それから数年。

学園都市のとある人気のない裏路地。
黒いスーツにサングラス、拳銃を持った「いかにも」な男たちが、建物と建物の間の細い道を、息を切らしながら駆け抜けていた。
男たちはある一人の少女から逃げていた。

「はあ、はあ……チッ、なんなんだあのガキは! 肉体強化系の能力者か?」 

「レベル4ぐらいか? 誤算だったな。まあ、ここまで逃げれば大丈夫だろう」

しかし、曲がり角に差し掛かった瞬間――

「おりゃーーーーーっ!!!」

逃げ切ったはずの少女が突如現れ、とてつもないスピードでドロップキックを放ってきた。
先頭を走っていた男はなすすべなく顔面に蹴りを食らい、そのまま壁に叩きつけられた。
頭蓋が砕ける鈍い音が響き、男はその場に崩れ落ちた。

「なっ……いつの間に回りこんだ!?」

「へっへーん……このあたしのスピードをなめんなよ」

「くそっ!」

二番目に立っていた男が銃を構えようとした瞬間、少女はすでに男の懐にいた。

「な、速――」

最後まで言い切る前に、少女の手刀が男の首をポンと軽く叩く。
しかし、その軽さに対して不自然に強い衝撃が男の首に伝わり、頚椎を砕いた。
ドサッ、と倒れた男を踏みつけて乗り越え、少女は残りの男たちのほうへと迫っていく。

「さーて、あと五人か……」

「く、くそっ、化け物め! 逃げるぞ!」

男たちは戦意を喪失し、元来た方へと逃げてゆく。


9:2011/06/26(日) 09:55:52.05 ID:iNmol0qk0

「逃がすかってーの!」

少女が常人の数倍はあろうかという速度で男たちに迫る。
しかし、後方を走っていた一人が突然振り向き、銃弾を発射した。
油断していた少女は避けることができず、額に命中する。

「痛ってぇーーーーーーーーーーーっ!!!」

しかし、銃弾は少女の脳天を貫くことなく、地面にポトリと落ちた。
銃弾を放った男は驚きのあまり立ち止まって唖然としている。

「う、嘘だろ……確かに命中したのに」

「……てっめええ、許さんっ!」

少女が瞬時に間合いを詰め、男の首めがけて回し蹴りを放つ。
全力の一撃を食らった男の首はもげ、鮮血が噴き出した。

「はあ、はあ……うーわ、やっちまった。きったねー……」

返り血を浴びた少女は本気を出したことを後悔する。

「さて……おーい澪! そっち行ったぞー!」
 
残りの逃げた男たちが狭い路地を抜け、ひらけた場所に出る。
そこには黒髪の少女が立っていた。

「チッ、こいつも仲間か!」

男が銃口を向けようとした瞬間、澪と呼ばれた少女は左手を前へ掲げ、パチッと指を鳴らした。そして――

――ドゴオォォォォォォォォォッッ!!!

あたりに轟音が響き、周囲の建物の窓ガラスが割れる。
少女の発した小さな音は増幅されて衝撃波となり、音速の空気の壁が男たちの骨を砕き、吹き飛ばす。
そのまま壁へと打ち付けられ、全員が絶命した。



10:2011/06/26(日) 10:01:28.82 ID:iNmol0qk0

「……ふう」

「澪、おつかれ〜」

先ほどの少女が耳栓を外しながら登場する。

「ああ、お疲れ律。……って」

澪が律と呼ばれた少女の方を振り返ると、彼女は血まみれであった。

「――い、いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「な、どうした澪!?
……ああ、この血か。返り血だよ、あたしのじゃないから安心しろって。ちょっと本気出しちゃってさ〜」

「そ、そうか、びっくりした……」

「……ったく。こんだけ人殺しまくってるくせに、相変わらず自分自身とかあたしの血には慣れないよな〜」

「しょうがないだろ! もともとこういうのは苦手なんだから……
……こいつらは、もう人間だと思わないようにしてる。そうじゃないと、やっていけないから。
だけど、やっぱり自分とか律の血は……怖いよ」

「……悪かったな、澪。
じゃ、これからは血出さないように、寸止め首折りキックの練習しとくからな!」

「そんな生々しく言うな! さあ、早く回収して帰るぞ。『警備員』が来る」

律が男たちの持っていた金属製のケースを回収し、二人は走り出す。

「うわ、ベコベコじゃん、このケース。相変わらず澪の能力は強いな〜。
けど音がでかいのが難点だよな、使ったら即退散しなきゃいけねーし」

「範囲を狭めるように努力はしてるんだけどな……」

「ま、ここんとこ無敗だし、いいってことよ!」

二人は路地裏を抜けて道路へと出る。
そこにはあらかじめ用意してあったバイクがあり、律が前、澪が後部座席にまたがり、去っていった。


11:2011/06/26(日) 10:05:13.52 ID:iNmol0qk0

ケースをしかるべきところへ届け、仕事が終了した律と澪の二人は、二人が住む部屋へと戻っていた。

部屋の中には電子ドラムやアンプなど、音楽関係の機材が所狭しと並んでいる。
二人は数年前にバンドのライブ映像を見たことをきっかけに、楽器を始めた。
音波を操る能力を持つ澪はもともと音楽の才能があり、ベースの腕はかなりのもの。
一方の律は、能力により軽く叩くだけで大きな音が出せるという利点からドラムを始め、同じくその腕はかなりのものである。

「ふい〜、疲れたぁっと! あたし風呂行ってくるよん」

返り血を浴びていた律はすぐさま服を捨て、浴室へと直行する。
すると、律の携帯電話が鳴った。

「ん?」

澪が確認すると、外側の小さなディスプレイに『電話の女』と表示されている。
この人物は、二人の仕事を電話で指示してくる上司のようなものだが、名前も姿も知らない。
おそらく今回の仕事のことに関する電話だろうと思い、澪は携帯をとった。

「もしもし」

『もしもし、りっちゃん?』

「いえ、澪です」

『澪ちゃん? まあどっちでもいいわ。さっき任務の完了を確認したわ、お疲れ様。報酬は振り込んでおいたから』

「ありがとうございます」


12:2011/06/26(日) 10:06:49.07 ID:iNmol0qk0

『相変わらず律儀ねえ……礼なんてする必要ないのに。この世界には珍しいタイプね。
それはそうと、今日はあなたたちにもうひとつ良い知らせがあるの』

「なんですか?」

『あなたたち、最近調子いいじゃない。その能力が評価されて、正式に暗部組織として独立することになったわ』

澪と律は、これまでは別の暗部組織の下部組織として、主に実動部隊として仕事の依頼を受けていた。

「ほ、本当ですか!?」

『ええ。しかも機密度は最高レベルよ。報酬もばばーんとアップ! 私も鼻が高いわ〜』

「報酬アップ……」

その言葉に澪の表情が緩む。澪の脳内には、新しい機材や楽器など、欲しいものが浮かんでは消えていく。

『それで、メンバーもあと二人増えて、四人のグループになってもらうから』

「え……?」

澪の顔から笑顔が消える。
暗部へと入って以来ずっと律と二人で組んできた澪は、他のメンバーとやっていけるかどうか不安だった。

『どうしたの? とにかく、あとの二人はもうそっちに向かってるから。あと一時間ぐらいで着くかしら。
全員集まったら改めて仕事の説明をするわ。それじゃあ、また後でね』

電話が切れる。

「……律、早く上がってきてくれ……」


13:2011/06/26(日) 10:08:26.64 ID:iNmol0qk0

しばらくして、律が浴室から出てくる。

「律!」

「どーした澪、暗い顔して……なんかあったか?」

「さっき、『電話の女』から連絡がきて…私たち、昇進だってさ」

「マジ!? すげーじゃん! ってことは報酬もアップ!? いやっほーい!」

「で、でも律! 今度から、新しい人が二人加わるって……しかも、あと三十分ぐらいでここに来るって!」

澪は涙目になって律にしがみつく。

「え? あー澪、そんな心配してんのか……別に大丈夫だって! どーせ仕事だけの付き合いなんだからさ!」

「うう……」

「まったく……落ち着けって。別にあたしがいなくなるわけじゃないだろ」

「そうだけど……」

「そうだ、澪、久しぶりに合わせるか?」

「え?」

「ちょっとは気が紛れるだろ。あと三十分することないしな」

「……ああ」

二人はそれぞれの楽器の準備を始める。

「あたしたちの昇進記念ライブってとこだな! ま、リズム隊しかいないけど。
それじゃ行くぞ〜、1、2、3、4――」


14:2011/06/26(日) 10:10:42.63 ID:iNmol0qk0




「律、ありがとう。だいぶ落ち着いたよ」

「おう、よかったな! って、そろそろ来るころか?」

ちょうどそのとき、部屋の呼び鈴が鳴る。
澪の表情が再びこわばる。

「……来たな」

「ほーら、大丈夫だって! はいはーいどちらさまですか〜?」

『ごめんください、ここは律さんと澪さんのお宅ですか?』

インターホン越しに、優しそうな女性の声が聞こえてくる。ガラの悪い男ではなかったことに澪は安堵した。

「そうでーす、そちらは私たちの仲間になってくれる方ですか〜?」

『ええ、そうですよ』

「どうぞ、いらっしゃ〜い!」

澪を置いて律が玄関に向かい、勢いよく扉を開けると、そこには気品漂う金髪の少女が立っていた。
ぽわ〜んとした雰囲気の、いかにもお嬢様という感じのルックスである。
日々殺戮を繰り返す暗部組織には不釣合いな人物の登場に、律は面食らっていた。


15:2011/06/26(日) 10:11:59.32 ID:iNmol0qk0

「え〜……っと、本当に私たちの仲間になって、一緒に仕事してくれるんです……よね?」

律が思わず確認する。

「ええ。……あ、私では何か問題がありましたか?」

「い、いやいやそうじゃないけど! ……仕事の内容、どんなんだか知ってんのか?」

「詳しくは聞いていませんが、問題行為をはたらいた組織を殲滅する、のでしょう?」

金髪の少女は笑顔でさらりと答えた。

「はは……なんか大丈夫そうだな。ま、これからヨロシク! そういや、名前は?」

「私は紬よ。ムギ、って呼んでね」

「ムギ、か。よろしく! ほら、澪も隠れてないで挨拶しろよ」

廊下の向こうからこっそり覗いていた澪がおそるおそる出てくる。

「えっと、よろしく……ムギ?」

「ええ♪よろしくね」

緊張しながらも安堵の表情を見せる澪を見て、律はにやつきながら紬のほうを向き、

「澪のヤツ、こわーい奴が来ると思ってさっきまでビビってたんだぜ〜?」

と澪をからかう。澪はそれを聞いて顔を真っ赤にし、

「こ、こら、律! 勝手にバラすな!」

と、ゴチン! といい音を立てて律に鉄拳制裁を下す。

「いったーい! ぶつことねーじゃんかよぉ」


16:2011/06/26(日) 10:13:04.86 ID:iNmol0qk0

二人のやり取りをほほえみながら見ていた紬は、廊下の向こう、部屋の中にベースと電子ドラムを見つけた。

「あら……二人とも、音楽をやってるの?」

音楽の話題が出たことで、澪の表情から緊張の色が消える。

「ああ、私はベース、律はドラムなんだ。
 ……なあ、ムギが背負ってるそれ、もしかしてキーボードか?」

「ええ、そうよ。すごい偶然ね」

「おお、バンドできるじゃん! 一緒にやろーぜ、ムギ!」

「是非とも〜♪」

偶然にもキーボード、ベース、ドラムが揃う。となれば、あとは一つ。
そんな都合のよいことは起こらないとわかりつつも、律は希望を述べる。

「これでもう一人がギターなら完璧なんだけどな〜」

もう一人来ることをすっかり忘れていた澪は、「あ……」と呻き再び表情が曇ってしまう。

「まーた澪が固まっちゃったよ。ほらほら、大丈夫だって」

「あ、ああ。そういえば、遅いな。もう一人」

「もう一人も、指定時刻は私と同じのはずだけど…」


17:2011/06/26(日) 10:15:03.28 ID:iNmol0qk0

三人は部屋に戻り、律がインターホンに出る。

『あ、え、えっと、律さんと澪さんのお宅ですか?』

たどたどしい感じの女性の声が聞こえ、再び澪は安堵した。

「そうでーす、私たちの仲間になってくれる人かな〜?」

『はい! 遅れてごめんなさい、ちょっと道に迷っちゃって……』

「いいっていいって、開けますよ〜」

律が扉を開けると、そこにはギターケースを背負った少女が立っていた。

「って、マジでギターかよ!?」

狙ったような展開に、思わず律が突っ込みを入れる。ギターの少女は何のことかわからず、きょとんとしている。
奥の部屋から澪と紬が駆けつけ、少女の背負っているギターを見て驚く。

「ほ、ほんとにギターが来た……!」

「奇跡、じゃないかしら……」

「え? え? ギー太がどうかしたんですか!?」

「あ〜、えっと、あたしたちな――」

置いてけぼりになっているギターの少女に律が事情を説明する。

「えぇ〜っ!? みんな楽器やってるの!? すごいよ!!」

「ああ、これでバンドの完成だぜっ!」

澪は涙ぐみながら、

「なんか……夢みたいだ。暗部組織やってて、バンド組めるなんて……。一生、無理だと思ってたから……」

と感慨深く語る。闇に生きる人間である以上、表の世界の人間とバンドを組めば、その者たちにも闇の影響が及びかねない。
他の組織に楽器経験者がいたとしても馴れ合うことはできない。一つの組織でバンドが組めることは奇跡に近かった。

「そういえば、あなたのお名前は?」

紬がたずねると、ギターの少女はVサインしながら元気よく答える。

「わたしは唯だよ! よろしくね、みんな!」


18:2011/06/26(日) 10:16:53.43 ID:iNmol0qk0

四人は音楽という共通の趣味があることから意気投合し、初対面とは思えないほど会話が弾む。
その姿はさながら普通の女子高生であり、人殺しの集団には見えない。

しばらく談笑していると、律の携帯が鳴った。ディスプレイにはまた『電話の女』と表示されている。

「お、仕事の話かな? もしもーし」

『みんな、揃ってる?』

「おうよっ、揃ってるぜい」

『じゃぁ、みんなに聞こえるようにしてくれるかしら?』

律が携帯の音量を上げ、机に置く。

『さて、早速だけどあなたたちの仕事の説明をするわ』

『あなたたちの組織の名前は「ユニゾン」。
暗部組織の仕事の中でも、特に機密度の高いものや、難易度の高いものを専門にこなすために作られた、
少数精鋭の高位能力者グループ、という肩書きよ』

『最近、学園都市の極秘実験が本格化し始めたらしくて、それに応じて情報漏洩や反抗組織に対する警戒が強まっているわ。
その対策のひとつとして、少数精鋭の極秘部隊を試験的に導入することになったの。
あなたたちがうまくやってくれるようなら、これから似たような部隊を増やして仕事を分担させるらしいわ』

『「ユニゾン」の機密度は最高レベル。他の下部組織はその存在すら知らないわ。
仕事内容は今までとだいたい同じだけど、特に機密情報の漏洩に関わった者の処分、学園都市に反抗する組織の壊滅がメインね。
場合によっては、他の暗部組織や、一般人がターゲットになりうるわ』



19:2011/06/26(日) 10:18:41.42 ID:iNmol0qk0

一般人、という言葉に澪は思わず、

「一般人だって…!? 殺せって言うんですか!?」

と声をあげる。今まで散々、裏社会の人間を殺してきたとはいえ、一般人に手を出したことはなかった。

『殺す殺さないは任せるわ。要は情報が漏れなければいいの。監禁するなりこっちに引き込むなり好きにしてちょうだい』

この先、罪のない一般人を手にかけるときが来るのか。それを想像し、重い空気が流れる。

『とにかく情報漏れに気をつける、それが今までと違うところよ。証拠隠滅は徹底してやること。
 仲間割れされて情報が漏れたりすると困るから、せいぜい仲良くやりなさい。そのために、楽器できる人材を集めたんだから』

その言葉に皆がはっとする。
ギター、ベース、キーボード、ドラムが揃ったのは偶然ではなく、『電話の女』の計らいによって集められたのだ。
皆が目を合わせ、微笑む。先ほどの重い空気はすでに消え去っていた。

「なるほどな〜。どうりで都合よく揃ったわけだ……なんか、ありがとな」

『礼には及ばないわ。


……くぅぅぅ〜〜っ! これよ、これを待ってたのよ〜〜〜!!!』

珍しく律から賞賛を受けた『電話の女』の喜びの声が聞こえてくる。小声で言っているようだが、まる聞こえだった。
興を削がれた一同が苦笑いする。

『ゴホン! まあとにかく、今日は仕事はないからあとは好きに過ごしてちょうだい。明日また連絡するわ。それじゃ、またね』

電話が切られる。


20:2011/06/26(日) 10:21:40.35 ID:iNmol0qk0

携帯電話をたたむと、律はさっそくある提案をする。

「ふふ〜ん……さーて、せっかくだしみんなで合わせるか?
って言いたいところだけど、この部屋じゃさすがに四人で演奏するのは狭いな……アンプも足りないし。
面倒だけどスタジオ借りにいくか〜」

律の発言を聞いて、澪があることを思いつく。

(ムギってお嬢様っぽいよな……もしかしたらスタジオ付きの高級マンションとかに住んでたりして)

澪は思い切って紬に尋ねてみる。

「なあムギ、スタジオ付きの部屋とか……」

「ありますよ♪」

「「あるんかい!!」」

「ちょっと待ってね、今用意するから」

(((今……?)))

紬は携帯を取り出し、電話を始めた。

「もしもし斉藤? ちょっと頼みがあるんだけど――」


21:2011/06/26(日) 10:22:57.67 ID:iNmol0qk0

紬の電話の相手は家の使用人なのだろうか、ときおり紬から命令形の言葉が飛び出す。
澪の予想通り、紬はお金持ちの家の娘のようだ。

紬が電話をしているのを見ながら律はふと疑問を口にする。

「なあ澪、ムギの親は娘が暗部だって知ってんのかな? 家族ぐるみで暗部ってことは……さすがにないか」

「わからないぞ。もし親が学園都市の大企業の社長とかだったら、暗部に関わってても不思議じゃない」

すると二人の話を聞いていた唯が突然立ち上がり、

「じゃあ聞いてみようよ〜!」

と、紬のほうに向かおうとするが、澪があわてて唯を止める。

「よせ、唯! 暗部の人間の素性を探ろうとするな!」

「え〜、ムギちゃん優しいし大丈夫だよ〜」

暗部らしからぬ気の抜けた行動に律は呆れる。

「ったく、のんきだなあ唯は……お前本当に今まで暗部でやってきたのか〜?」

「むっ、これでもわたしベテランだよりっちゃん!?」

二人が言い争っていると、紬の電話が終わり、こちらへ戻ってきた。

「お待たせ! スタジオ付きの部屋を五つ用意できたわ」

「「「五つ!?」」」


22:2011/06/26(日) 10:25:07.41 ID:iNmol0qk0

第八学区のとある高級住宅街にて。
一同は紬の所有する一軒家を訪れていた。

「高級マンションどころか、一軒家だなんて……」

唖然としている澪を置いて、律と唯ははしゃぎ回っている。

「うおおおおおっ、超広ぇぇぇぇ!!」

「すごいよムギちゃん! ほんとにこんな部屋使っていいの!?」

「ええ、存分に使ってくださいな♪
あと、スタジオは二階にあるわ」

紬に案内され、一同は二階のスタジオへと足を運ぶ。

「「「おおおお〜っ!」」」

スタジオはかなり広く、高級な機材が並んでいた。
職業柄、今までろくな環境で演奏したことのなかった三人は歓喜する。

「すごい! こんな大きなアンプ初めてだ……」

「うっはー! ピッカピカのドラムだぜ〜!」

「ねえ、さっそく演奏してみようよ!」

「ええ♪」


23:2011/06/26(日) 10:26:21.38 ID:iNmol0qk0

それからしばらく、四人は澪が適当に持ってきた譜面をかじりながら軽くセッションをして過ごした。
その後、冷蔵庫に入っていた豪華な食材を使ってみんなで夕食を作り、今は食べ終えて居間でくつろいでいるところである。

「いや〜、極楽だねえ……わたしここに住みたいよ、ムギちゃん」

「ええ、どうぞ♪」

「「「えっ、いいの!?」」」

三人が目を見開いて紬を見る。

「もちろんよ。むしろ、『ユニゾン』のアジトとして使ってほしいの。
 他の四つの部屋も、同じぐらい広くとってあるから」

「やったあ〜! 毎日おいしいものが食べられるよ〜」

「ははっ、食い物のことばかりだな〜唯は。
いや〜しかし助かるぜ、ありがとなムギ!」

「どういたしまして〜♪ 荷物を持ってくるのは明日にして、今日はもうお風呂に入って寝ましょう?」

「「「さんせ〜い!」」」


その夜、四人は修学旅行のようなやりとりを深夜まで続けた後、やっと寝静まった。



24:2011/06/26(日) 10:29:38.22 ID:iNmol0qk0

#2 初陣!


「……う、い……」

(……? なんだ、寝言?)

翌朝、澪はすすり泣くような声を聞いて目が覚めた。

「うい……、のど……ちゃ…」

(……唯か? うなされてるみたいだ。誰かの名前を呼んでいる? 起こしてやるか……)

「ほら、唯、起きて」

「ん……うい?」

(うい? さっきからうい、ういって……)

なんとなく、澪は悟っていた。先ほどから唯が呼んでいる名前は、きっと唯の大切な誰かなのだろう。
そして、おそらくその人とはもう――

「唯、私だよ、澪だよ」

「……ああ、みおちゃん。おはよお〜」


25:2011/06/26(日) 10:30:33.19 ID:iNmol0qk0





支度を終え、居間に一同が集合しくつろいでいると、タイミングよく律の携帯が鳴った。

「おっ、来た来た〜。初仕事だな〜!」

『もしもしりっちゃん? みんな集合してるかしら?』

「おうよ!」

律が携帯の音量を上げテーブルに置く。

『それじゃ仕事の説明をするわ。いきなりだけど、結構ヘビーな仕事よ。心して聞きなさい』

「おお、いきなり責任重大ですな、りっちゃん隊長!」

「ああ、だが我々は無敵だ、心配な〜い!」

そのやりとりを紬がニコニコしながら、澪が苦笑しながら見つめる。

『……あなたたち、すっかり仲良くなったみたいね。ま、いいことだわ』

任務の説明が始まる。
今回のターゲットは、学園都市が秘密裏に進めている実験の情報を入手し、ばら撒いたとある暗部崩れの男。
及びその情報を既に入手した、学園都市の闇に抵抗する三つの組織だ。

『その男はレベル4。三つの組織にもレベル3〜4の能力者が確認されているわ。
情報の拡散を防ぐために、今日中にすべて始末すること。そいつらのアジトの場所を送るから、すぐに出発しなさい』



26:2011/06/26(日) 10:32:04.61 ID:iNmol0qk0

電話が切られる。

「どうする、律? 手分けするか?」

「ん〜……高位の能力者もいるみたいだし、とりあえずまとまっていくか。
よ〜し、さっそく出発だ〜!」

「「お〜!!」」

唯と紬は元気に返事をし、それぞれの楽器を構えた。

「「え……?」」

その行動を律と澪は理解できず、ぽかんとしている。

「あ、言ってなかったね。わたし、ギー太を使って戦うんです! レベル4だよ、えっへん!」

「このキーボードは演算補助効果があるのよ。
私の能力はレベル3の肉体再生。他人の傷も治療できるの〜」

「は、はあ……なんかすげえな、お前ら。
よし、気を取り直してしゅっぱ〜つ!」


27:2011/06/26(日) 10:34:03.18 ID:iNmol0qk0





まず一同は、三つの反抗組織のアジトから当たることにした。

一つ目のアジトは、アジトと呼んでいいのかわからない単なる路地裏。
そこにはスキルアウトと思われるチンピラの類が十名ほどたむろしていた。
とても統制されている組織には見えない。

「ただのチンピラじゃないか……こりゃ四人で来なくてもよかったかな〜」

そう言って律はスキルアウトたちの前へと歩いて行く。
全員が律のほうをギロッと睨み、リーダー格と思われる男が律を挑発する。

「あんだ? てめえは」

リーダー格の顔は送られてきた写真と一致した。やはり彼らが情報を入手したようである。

「あ〜、あんたら最近、とってもヤバイ情報を入手したよな?」

それを聞いたリーダー格の表情が厳しくなる。

「てめぇ……なんでそれを知ってやがる」

「アニキ、なんのことっすか?」

「黙ってろ!」

リーダー格以外の下っ端はこのことを知らないようだ。
律は何も知らずにこれから殺される運命にある下っ端たちを哀れみ、ため息をつく。

「はぁ……お気の毒に。悪いけど、仕事だからあんたら全員始末するわ」

律の言葉を聞いた下っ端たちはぽかんとした表情を浮かべ、次の瞬間笑い出す。

「はっはっは! 聞きやしたかアニキ!? このガキが俺たちを始末するってよ」

「……」

リーダー格は厳しい表情のまま黙っている。


28:2011/06/26(日) 10:34:50.00 ID:iNmol0qk0

一方、残りの三人は離れたところから一連のやりとりを見ていた。

「リーダー以外は下衆だな……律一人で楽勝そうだからここで見ていよう」

「りっちゃんはどんな能力なのかしら?」

「あ、気になる! 澪ちゃん解説よろしく!」

「あぁ、ちょうどいい機会だし、一人一人の能力を知っておいたほうがいいな。
……始まるぞ」


29:2011/06/26(日) 10:36:11.54 ID:iNmol0qk0

「ようお嬢ちゃん、あんま調子こいてると痛い目みんぞ?」

先頭にいたスキルアウトが律へと近づくが、律は余裕の表情を崩さない。

「はいはい、強がりはいいからさっさとかかってきなって」

「……あんだと? へっ、じゃぁお望み通りぶちのめしてやんよぉぉぉ!!」

男が殴りかかる。しかし律は肘で軽々と男の拳を受け止めた。

「……あん?」

男があっけにとられている間に、律は男の腕を軽くポンと叩く。
それだけで、男の腕はありえない方向に折れ曲がった。

「があぁぁぁぁぁ!!」

さらに律は間髪入れずにうずくまる男を蹴り上げる。

「ぐぼぉっ!」

助走もつけずに適当に蹴っただけにもかかわらず、男の体は数メートルの高さまで跳ね上げられた。
そして、足元にあった小石を拾って空中の男にめがけて投げつける。
律の手元を離れた瞬間、石は銃弾のごとく加速し、男の脳天を貫いた。

もはや悲鳴を発することもない男の亡骸が、ドサッと音を立ててスキルアウトたちの前に落下する。

「はい、いっちょあがり〜!」

リーダー格を除く下っ端たちの顔は驚愕と恐怖で引きつっていた。


30:2011/06/26(日) 10:38:15.78 ID:iNmol0qk0

「すご〜い、何が起こってるのか全然わかんなかったよ」

「肉体強化系、かしら?」

「近いけどちょっと違うんだ。律の能力はレベル4の『衝撃増幅(アンプリファイア)』っていって、
自分自身や、自分に触れたものの運動エネルギーを増減できるんだ。
軽く叩いただけでも、その瞬間に相手の運動エネルギーを増幅させれば、強く叩いたのと同じことになる。
逆に相手の攻撃が命中した瞬間にそのエネルギーを減少すれば、ダメージを受けない。銃弾をくらっても『痛い』程度らしい」


31:2011/06/26(日) 10:39:42.48 ID:iNmol0qk0

澪が話しているうちに、下っ端たちは混乱に陥っていた。

「ひいい! バケモノだ、逃げろおお!」

「ちょ、待て、逃げんな! あ〜もう、一人目から派手にやりすぎたか……そらよっと!」

律は逃げ惑う男たちの頭上をすさまじいスピードで飛び越え、いとも簡単に回り込む。
両腕を大きく広げ、一気に前に向かって振り下ろすと、腕の動きに合わせて律の左右から突風が発生し、
散らばっていた男たちが一か所へと集められた。


32:2011/06/26(日) 10:40:29.77 ID:iNmol0qk0

「あれは空気の運動エネルギーを増幅して風を起こしたんだ」

「ふむふむ、なるほど……りっちゃーん、ファイト〜!」

「すごいわりっちゃん、がんばって〜!」

「ちょ、おまえら……」

目の前で殺戮が行われているにもかかわらず呑気な二人に澪は驚く。


33:2011/06/26(日) 10:41:56.90 ID:iNmol0qk0

「さっきからうるさいぞ外野〜! ちょっとは手伝えよ!」

そう言いながらも、律は次々と男たちの首を折り、着々としとめていく。
残りはあっという間にリーダー格一人になっていた。
先ほどから黙ってまったく動かないリーダー格に律が話しかける。

「さて……と。さっきからあんたは全然動じないな、リーダーさん?」

「ふん、てめえが只者でないことぐらい見ればわかる。驚くほどのことでもない。だが、この俺をそう簡単に倒せると思うなよ?」

リーダー格は両手を前へと突き出し、律に対して気功を送るようなポーズをとる。

「へえ、やっぱりあんたは能力者か。最近はスキルアウトのくせに能力者が多くて困るぜ〜……って、なんだコレ」

律が体に違和感を感じ始める。

「なんか、疲れてきたような……」

「へっ、効き始めたようだな。俺の能力でてめえの筋肉に乳酸を溜めて、しかもその分解を遅らせてんだよ。
肉体強化系のてめえには相手が悪かったな」

疲労はどんどん溜まっていき、ついに律はその場に座り込んでしまった。

「……ハァ、ハァ……めっちゃ疲れた、動けね〜」


34:2011/06/26(日) 10:43:09.39 ID:iNmol0qk0

「え、え、りっちゃん座っちゃったよ? あの人、なんて言ったの? 能力者だよね?」

リーダー格がぼそぼそと能力を説明していたため、唯たちのいる場所からは聞き取れなかった。
しかし、音波を操る能力者の澪はかすかな声を認識し、聞き取っていた。

「筋肉に乳酸を溜めて疲れさせる能力らしい……あいつ、律を肉体強化だと勘違いしているな。
筋力が落ちても、運動エネルギーを直接操っているから影響はないし、大丈夫そうだ」


35:2011/06/26(日) 10:44:02.67 ID:iNmol0qk0

座り込んだ律にリーダー格が近づく。

「残念だったな。死ね!」

律の顔面に蹴りがクリーンヒットする。
しかし、律はまったくダメージを受けていなかった。

「……なんだと」

「……あたし、筋肉増強、してるわけじゃ、ないんだよね〜」

律は力の入らない手でリーダー格の足首をつかみ、やんわりと握り締めると、足の骨が砕けた。

「ぐああああああああっ!」

「あ〜マジ疲れた……能力、説明してやるのも、おっくうだわ。さっさと、死んでくれい」

そのまま足首を引きちぎる。

「がああああああああああああっ!」

足を失ったリーダー格はバランスを崩し、あおむけに転倒する。

「よっこらしょっと」

律が重い腰を上げ立ち上がり、絶叫しながら倒れているリーダー格の頭上にもぎ取った足を掲げる。
そのまま顔面に向けて急加速して投げつけると、悲鳴が止んだ。


36:2011/06/26(日) 10:46:25.58 ID:iNmol0qk0

「終わったな……行こう」

澪たちが駆けつける。

「りっちゃ〜ん、大丈夫!?」

「ああ、全然大丈夫だけど……疲れた! もう歩けん!」

律は座り込んだまま、動こうとしない。

「ちょっと待ってね、今回復するから」

すると紬がおもむろにキーボードを弾きはじめた。
聞いたこともないような、電子音のような音。リズムと言っていいのかわからない微妙なタイミング。
和音とも不協和音とも言えないような奇妙なハーモニー。
それは美しい旋律などではなく、「記号」のような「模様」のような、一秒間に満たない不思議な音楽であった。

「あれ……治ったよ。サンキューな、ムギ」

効果は確実に現れ、律の疲労は全快する。
澪は紬のキーボードに興味を示す。

「演算補助のためのキーボードか……確かに、普通の音楽とは違う機械的な音だったな。
なんにせよ、回復役がいてくれるのは助かるよ。これからもお願いな、ムギ」

「ええ、お安い御用よ、澪ちゃん」


37:2011/06/26(日) 10:47:43.91 ID:iNmol0qk0

唯も紬のキーボードに興味津々で、じっと見つめていた。

「う〜ん、わたしのギー太と似てるかも?」

紬も唯も楽器を使って能力を使用するという事実に澪は、

「そういや唯もギターで戦うんだっけか……なんかすごい集団だな、私たち」

と苦笑いする。

「ま、おもしろくっていいんじゃん? そうだ澪、あたしらも楽器で戦うか?
 あたしはスティックで敵をタコ殴り! 澪はベースから衝撃波!」

律の冗談混じりの提案に唯は、

「おお〜、なんかすごくかっこいいよ、それ! 楽器戦隊みたい!」

と素早く賛同する。

「お、それならあたしはレッドだな、リーダーだし!」

「ええ〜、わたしがギターだからレッドだよう〜」

二人のやりとりを本気にした澪は顔を真っ赤にして反論する。

「わ、私は嫌だからな! 恥ずかしいし、ベースが壊されたりしたら困るし!
 だいたい、秘密組織なのに楽器戦隊とか目立ちすぎだろ!」

「お、澪、顔がレッドだぞ〜」

「うるさい!!」

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。ほら、早く行かないと人が来ちゃうわ」


やいのやいのと騒ぎながら、一同は第二のアジトへと向かっていった。


38:2011/06/26(日) 10:49:18.56 ID:iNmol0qk0





第二のアジトは閑散とした工場地帯の中の廃工場だった。
入口の大きな扉は開けっ放しになっており、中には数十名にも及ぶスキルアウトの集団が見える。

「おお〜、たくさんいるねぇ〜」

「『電話の女』からのメールによると、この学区で最大のグループの幹部の集会らしいぜ〜。スキルアウトのくせに、能力者も十人ぐらいいるとか」

「それは厄介ね……あんなにたくさん、いっぺんに相手できるかしら」

「私に任せてくれ」

澪が前に出る。

「いよっ、澪ちゅわん! こりゃ澪のためにあるような仕事だな」

「あぁ、すぐに終わらせてくるよ」

澪は工場に向けて歩き出す。一人で向かった澪を唯と紬が心配するが、律は澪の勝利を確信しているようで、

「ほら、あたしらは安全なところへ離れるぞ」

と、二人を連れて工場から離れ、遠くから見物することにした。


39:2011/06/26(日) 10:50:44.30 ID:iNmol0qk0

澪が工場の入口へと到着すると、一斉に数十人の目がこちらを向く。

(うわっ……これだけたくさんの人に睨まれるとさすがにゾッとするな)

中央にはボスと思われる人物が椅子に座っていた。
ボスはゆっくりと立ち上がり、口を開く。

「何の用だ?」

「心当たりがあるんじゃないのか?」

澪は毅然とした態度を崩さず言い放つ。

「ほう……もう情報が漏れたか。お前は上層部の手先だな?」

手先、という言葉に澪は眉をひそめる。

「……そんなところだ。お前たち全員、始末させてもらう」

その言葉に、スキルアウトたちが一斉に武器を構える。
澪は左手をゆっくりと前に出し、能力を発動しようとする。

しかし、ボスはまったく動じず、さらに話しかけてきた。

「ふん……学園都市の犬め。貴様はそれで満足か?
上層部の言いなりになり、日々汚い仕事をこなすだけの、人形のような人生に、なんの価値がある」

「なっ……!?」

思わぬ挑発に、澪はびくっと反応してしまう。
澪自身、そんなことはわかっていた。暗部とはそういうものだ。だが、抜け出せないのだ。
最近は、抜け出そうと思うことすら忘れ、なすがままに生きていた澪は、スキルアウトの言葉に大きく動揺した。

「答えられないか。哀れだな。貴様のような人間に、生きる価値などない」

(落ち着け……スキルアウトなんかの言うことに耳を傾ける必要はない。演算に集中するんだ……!)

「ふん、スキルアウト風情が、とでも思ったか?
だが、我々には我々のやりたいことがある。たとえ力がなくても、こうして目的に向かって団結し、進んでいる。
貴様らのような連中こそ、我々から見れば唾棄すべき存在なのだよ」

「――黙れぇぇぇぇっ!!!」


40:2011/06/26(日) 10:51:57.93 ID:iNmol0qk0

遠くの建物の屋上から見物していた律たちは、
轟音とともに工場の壁や天井が吹き飛ぶのを目の当たりにする。

「うっひゃ〜。澪のやつ、派手にやったな」

「すご〜い、工場が吹っ飛んだよ! あれが澪ちゃんの能力なの?」

「ああ、澪の能力は『波動増幅(ショックウェーブ)』。音波を一気に増幅して、衝撃波にするんだ。
レベル4だけど、威力だけならレベル5級らしいぞ」

「だから、澪ちゃん一人で行ったのね」

「そ! 何十人いたって、あんだけひとかたまりになってれば澪の能力で一掃できるからな。
ただ、威力はすごいんだけど弱点が多いんだよな〜。
範囲は狭められないからいちいちあたしは避難しなきゃいけないし、音がすごいから人が集まってきちゃうし。そんでもって――
……っ!!」

突如、何かに気づいた律が建物から飛び降り、全速力で工場へむけて走り出した。

「え、ちょっと、りっちゃ〜ん!? 置いてかないでよ〜!」


41:2011/06/26(日) 10:54:28.33 ID:iNmol0qk0

(はあ、はあ……よかった、なんとか能力が発動した……
敵は……全員、倒したな)

澪は工場内を見渡す。あたりに生きている者はいない。
正面を見ると、ボスが座っていた椅子が遥か遠くに吹っ飛んでいるのが確認できた。
が、その直線上にはボスの遺体がない。

(……おかしい、ボスはどこへ行った?)

その瞬間、澪は自分の足元の床が不自然にうごめいていることに気づく。

(!! ……地面に潜ってるのか!)

刹那、床からボスが飛び出してきてアッパーを繰り出す。
とっさに身を翻した澪はなんとかかわすが、その拳は頬を掠めた。

「ひっ……!」

澪は慌てて距離をとり、もう一度能力を発動しようとするが、焦ってしまい、演算に集中できない。

「無駄だ、撃てまい。貴様の能力は強大なかわりに不安定で、演算には集中力が必要なのだろう?」

「な……なぜ、それを……」

弱点を見透かされた澪は動きが止まり、立ち尽くしてしまう。
ボスはじわじわと近づきながらさらに話を続ける。

「ふん、カマをかけてみたがやはりそうか。
我々数十人に対し一人で丸腰で突っ込んでくるからには、相当のレベルの能力者だとは予想できた。
だが貴様は私の挑発で動揺し、それを必死に抑えようとしていたように見えた。
すなわち、その強大な能力を制御するためには、冷静になり演算に神経を集中する必要があるということだな」


42:2011/06/26(日) 10:55:35.49 ID:iNmol0qk0

「く、来るなっ……!」

澪が左手を掲げるが、その手は震えており、能力は発動できない。
ボスはひるむことなく近づいてくる。

「ふん、そのうろたえぶりでは能力は使えまい。
思ったよりも威力が高く、私以外全滅したのは誤算だったが……
そいつらの分まで、苦しんでもらおう。くらうがいい、上層部の犬め!」

ボスは澪に向かって走り出し、拳を掲げる。
しかし、次の瞬間――

「おりゃーーーーーっ!!!」

澪の頭上を飛び越えて、律が高速で蹴りをしかけてきた。
しかし、ボスがとっさに地面に潜ったため空振りに終わり、律は瓦礫の山に突っ込む。

「うわっ!! あっぶね……なんだよ、地面に潜る能力か?」

「律っ!!」

「ちっ……まだ犬がいたか。ふん、まあいいだろう。一人はもう使い物にならん。まずは貴様から始末してやる」

「ハッ、このあたしに勝てると思ってんのか〜?」



43:2011/06/26(日) 10:57:43.10 ID:iNmol0qk0

ボスと律の戦闘が始まる。
律はボスが潜っている場所を狙って高速で蹴りを叩き込むが、ボスが地面を移動するスピードもかなり速く、うまく捕らえられない。

「どうなってんだ、こいつ……地面と同化してんのか?」

『その通りだ。私を構成する分子の連結情報を保ちつつ、地中に拡散している』

地中からボスの声が響く。

(だったら……地面ごと破壊すればいいのか? でもあたしの攻撃が当たらないし……よし)

「澪! 撃て!!」

「えっ……!?」

すっかり腰が抜けて動けなくなっていた澪は、律の言葉で我に返った。
しかし、まだ動揺していて演算に集中できない。

「落ち着け、澪! こいつはあたしが引きつけておくから!」

『無駄だ! そいつはもはや能力を使えない』

ボスは地中をすばやく移動し、あたりに散乱している銃器のなかから、壊れていないものを回収していく。
地面から器用に銃口だけを出し、律に向けて発砲を始めた。

「澪、深呼吸だ! ……いてててて! てっめえ!」

『銃弾が効かないだと? ふん、ならばこれならどうだ』

ボスはバズーカ砲を回収し始める。律にとって銃弾は痛い程度でしかないが、爆発による炎は防げない。



44:2011/06/26(日) 10:58:37.15 ID:iNmol0qk0

(このままじゃ……律が)

澪は精神を集中させようとするが、うまくいかない。

「澪! しっかりしろ! じゃないとお前の作ったポエムを今ここで音読するぞ!!」

「う、うわあああ! それはやめろおおっ!!
……あ」

いつものやりとりによって、澪の精神状態はいつのまにか元に戻っていた。
深呼吸し、演算に集中する。

「……バカ律! 行くぞ!」

「澪……へへっ。
よっしゃ〜! やっちまえいっ!」

『何っ――』

澪は思いっきり地面を足で踏みつける。
地中を伝わる音波が増幅され衝撃波となり、一瞬にして地面が張り裂け、粉塵となって舞い上がる。
連結情報を保てなくなったボスの体は、地面とともに粉砕した。

高くジャンプして衝撃波を避けていた律が着地し、澪のもとへ駆け寄る。

「み〜おっ、お疲れ」

「……りつぅぅぅぅぅ!」

澪は緊張の糸が切れたのか、律に泣きつく。

「ったく、澪はやっぱ一人じゃ不安だな〜」

律が澪を撫でていると、唯と紬がやっとのことで駆けつける。

「も〜、置いてくなんてひどいよりっちゃん! わたしたちも建物から下ろしてくれれば間に合ったのに」

「いや〜、悪い悪い……澪が殴られそうになってんのを見たら、頭に血がのぼっちゃってさ」


45:2011/06/26(日) 11:00:02.56 ID:iNmol0qk0





次のアジトへと移動する途中、澪が律にこっそりと話しかける。

「なあ、律……」

「ん?」

「私たちって、なんのために生きてるのかな……」

「……お前、あのスキルアウトになんか言われたのか?」

「……うん。
あいつらは自分たちの意思で学園都市に喧嘩を売ってる。やりたいことをやってるんだ。
でも私たちはただ学園都市の言いなりだ。自分の意思のない人形みたいなやつだ、って言われた……。
私、自分がなんなのか、わかんなくなってきた。自分を嫌いになりそうだよ」

澪と律も、かつては暗部を抜け出すために上層部に反抗しようとしたことがあったが、失敗に終わった。
それが無謀なことだと知り、いつしか反抗しようなどという思考はなくなっていた。

「……ふーん。じゃあ澪、あたしたちのやりたいことって何だよ。
やりたいことってのは何も学園都市に喧嘩売ることに限られるわけじゃないだろ?
あたしらはもう暗部がどうこうとかは興味ない。言いなりだろうがどうでもいい、単なる生きていく手段だ。
で、もう一度訊くぞ。あたしらがやりたいことって何だ?」

「私が、やりたいこと……『音楽』、かな」

「……だろ? だったらそれをやればいいじゃん! 意思がないだの人形だの、勝手に言わせときゃいいさ。
あたしらだって、本能に従ってやりたいことを楽しんでるんだ。それでいいじゃん」

「そっか……そうだな! 律、ありがとう」


46:2011/06/26(日) 11:01:13.54 ID:iNmol0qk0





三つ目のアジトは、寂れた町の薄暗い廃ビル。
ここを拠点として活動するレベル3の能力者三人組がいるらしく、
このあたりでは有名な凄腕の集団で、様々な依頼を受けているという。

廃ビルの一階は広いホールのようになっており、正面は全面ガラス張りだったようだが、すべて割れていた。
一階の真ん中には事前情報の通り三人の男が座り込んでいた。
中央に座っている、赤い服を着た赤髪の男が立ち上がり、威勢のいい声で言い放つ。

「誰だ貴様らは! さては上層部の手の者だな!?」

その風貌を見た唯が思わず、

「おお、真っ赤だよ!」

と発言し、他のメンバーが噴き出してしまう。
よく見てみれば、他の二人も緑の服に緑の髪、黄色の服に黄色い髪である。

「き、貴様ら……バカにしやがって!」

赤い男が大げさな身振りで悔しがっていると、クールな表情の緑の男がそれをたしなめる。

「落ち着けレッド。たかが女四人。我らの敵ではないさ」

その言葉にさらに唯が反応する。

「レッド!? なんだかヒーローっぽいね!」

「ぷっははははは!! あたしらもさっき戦隊物をやろうって言ってたけど、客観的に見てみると笑えるな、コレ」

「ぷっ、くくくく……だからやめようって言っただろ、律……くく」

「うふふ……残りの二人はグリーンさんにイエローさんかしら?」



47:2011/06/26(日) 11:02:20.78 ID:iNmol0qk0

四人の笑いは止まらず、レッドは顔色まで真っ赤になってくる。

「く、くそう……! 貴様ら、聞いて驚け! 俺はレベル3の発火能力者、レッドだ!」

「ふん、我はレベル3の風力使い、グリーン」

「ククク、ワタシはレベル3の電撃使い、イエロー」

「どうだ! 俺たち三人のコンビネーションの前に敵はない!」

レベル3は学園都市の中では優秀な部類であり、見た目はどうあれレベル3の三人組とあらば普通は恐怖の対象になるだろう。
しかし、レベル4がごろごろいる集団にとっては笑いを誘うものでしかなかった。

「あ〜笑いがとまんね〜! こりゃたいしたことなさそうだな。
よ〜し、大砲の澪と回復役のムギは下がっててくれ。唯、あたしらでちゃちゃっと片付けちゃおうぜ」

「了解ですりっちゃん隊長! ついにギー太もデビューだね!」

まかせたぞ、と言い残し澪と紬は廃ビルの向かいの建物の下まで下がる。
律と唯がまだ笑いながらも臨戦態勢に入る。

レッドは完全に頭に血が上っているが、グリーンとイエローは余裕の表情だった。

「ふん、バカにしていられるのも今のうちだ。イエロー、あれを」

「ククク、了解。さあ、さっそくですが死んでもらいましょう。油断大敵、ってところですかね」

イエローは右手を律の方へとかかげ、電撃を放つ。
律は余裕でその電撃をかわす……はずだった。
しかし、電撃は律の頭上を越え、向かいの建物の屋上付近に直撃し、そこにあった何かが爆発した。


48:2011/06/26(日) 11:03:43.08 ID:iNmol0qk0

「……え?」

振り返った律が目にしたのは、建物の屋上にあったコンテナや金属の板などの瓦礫が、
真下にいる澪と紬に向かって降り注ごうとしている瞬間だった。

(――しまった!)

油断していた。だが、律はこのような危機は幾度となく脱してきた。
落下する瓦礫へと飛びかかり、蹴散らせばいいだけの話だ。
しかし、今までは澪一人を守ればよかったのに対し、今回は二人だということが決定的な違いだった。

いっぺんに二人を守りきれるだろうか、それでもなんとかしなくては――と律が飛び出そうとした瞬間、
なぜか澪がその場から消えていることに気づく。

それに疑問を感じている暇もなく、律は高速でジャンプし、紬の上空の瓦礫を遠くへと蹴り飛ばした。
澪がいたはずの場所へ大きなコンテナが落ち、すさまじい音が鳴り響く。

ほっとした律が落下しながら下を確認すると、なぜか紬もその場にはいなかった。
澪も紬も、本来の場所から数メートル離れた場所に、まるで最初からいたかのように立っていた。

「……どうなってんの?」

状況を理解できない律がぽかんとした表情で着地する。澪も唯もぽかんとしている。
紬は気まずそうな表情で目をそらしていた。


49:2011/06/26(日) 11:04:45.36 ID:iNmol0qk0

沈黙する四人をよそに、レッドたちがこの事態の解析を始めた。

「くそう! 惜しかったな。まさかあのデコ女があそこまでのスピードだとは……」

「ふん、よく見てなかったのか、レッド。デコ女の能力の有無にかかわらず、下の二人は脱出していた。
どうやらあの黒髪の女は空間移動の能力者らしいな。しかも自分自身を移動できるということはレベル4だ。これは厄介だな」

「ククク、違いますよグリーン。あの黒髪は自分で移動したのではありません。
ワタシは見ましたよ、となりの金髪が黒髪の体に手を触れたのを。金髪こそが空間移動です。
そして、自らは走って逃げていた。ということはレベル3です」

「バカな。金髪の走るスピードは常人のものではなかった。奴は肉体強化だ。
……いや待て、そもそもあの二人は『主砲と回復役』だとあのデコが言っていなかったか?」

「どうなってるんだ! さっぱりわからんぞ!」

さっぱりわからないのは律たちも同じだった。どう考えても、紬の能力が説明できない。
紬は肉体再生の能力者でありながら、空間移動で澪を移動させ、肉体強化で高速移動したことになる。
一人の能力者が二つの能力を保持する『多重能力(デュアルスキル)』は、理論上不可能。しかも三つなど、到底ありえない。
そんな「常識」が彼女らを混乱させる。


50:2011/06/26(日) 11:06:10.27 ID:iNmol0qk0

だが、その「常識」を知らない唯は、あえて誰も言わなかったことを単刀直入に訊く。

「ムギちゃん、たくさん能力使えるの?」

まさか、と思う一同の予想に反して、ビクン、と紬の肩が揺れる。
そして観念したのか、ゆっくりと語りだす。

「……ごめんなさい、今まで隠していたわ。私、肉体再生以外にも、たくさんの能力を使えるの。
ちゃんとあとで全部説明するから……この場は、私に任せてくれないかしら」

紬は今まで隠していたことへの罪悪感からか、申し訳なさそうな表情で言った。
ほかの三人は言葉が出ずに立ち尽くしていた。
それを肯定と受け取った紬はレッドたちのほうへ向かっていく。

「多重能力は不可能だと証明されたはずです。
アナタたちの雇い主でもある学園都市の闇が、たくさんの罪もない子供たちを犠牲にして、ね。
ふざけた冗談はやめてほしいものです、ククク」

イエローの挑発を無視し、紬は無言でキーボードを構える。

「ふん、おおかたそのキーボードがこのトリックのタネだろう。ならばそれを破壊するまでだ」

「一人で俺たちにかかってくるとはバカな奴だ! 食らえ、多重能力もどきめ!」

レッドが右手を高く掲げ、火炎弾を生み出す。
紬はひるむことなく、笑顔で言い放つ。

「ふふ。多重能力じゃなくて、『多才能力(マルチスキル)』よ」


51:2011/06/26(日) 11:08:04.58 ID:iNmol0qk0

レッドの炎が紬に向けて放たれると同時に、紬はキーボードを素早く弾く。
不思議な音が鳴り、突如、壁際にあった水道の蛇口及び排水溝から水が噴き出す。
その水は意思を持ったように空中を移動し、レッドの炎を直撃して消し去った。

「なにぃっ、水流操作だと!?」

「ふん……食らえ!」

グリーンが風を操り、あたりに散乱している廃材などを巻き上げる。
さらに間髪いれずにイエローが電撃を放つ。
紬はまた不思議な音を奏で、今度は念動力を発動すると廃材を空中で止め、それを集めて即席の壁を作り、電撃を防いだ。

「ククク、どうやら一筋縄ではいかないようですねえ」

「だが、防御だけでは勝てんぞ! ようし、総攻撃だ!!」

三人がそれぞれの能力を発動しようと構えた瞬間、空気中の水分を集めて発生した霧がレッドを包む。

「うおっ!?」

炎を出せないレッドをよそに、グリーンが風の反動を利用して自らを突撃させる。
しかし紬はそれを肉体強化で難なくかわすと、すぐさま地形操作で床を隆起させ、イエローから飛んできた電撃を防ぐ。

「ふん、ちょこまかと……食らえ!」

紬の背後にまわったグリーンが真空の刃を放つ。
が、紬は隆起した床に触れ、その一部を空間移動により紬の背後に移動し、真空の刃を消滅させた。

「そこだあっ!!」

隆起した床に出来た隙間を狙い、霧から抜け出したレッドの火炎弾が飛んでくる。
紬に命中したかに見えたが、それは偏光能力による残像だった。
残像はしばらくすると消え、紬の姿は見当たらない。


52:2011/06/26(日) 11:08:45.56 ID:iNmol0qk0

「くそっ、どこに隠れた!?」

「うふふ、こちらからもいきますよ?」

その言葉とともに、レッドの正面に突如紬が現れる。

「うおおっ!?」

レッドの危機に、グリーン、イエローがすぐさま紬に向けて攻撃を放つ。
しかしそれは残像であり、すぐさま消えると、かわりにその場所に空間移動によって強制移動させられたレッドが現れた。

「ぐああああああああっ!!!!」

電撃と真空の刃を同時に受けたレッドは致命傷を負い、倒れた。

「なに!? ……ふん、貴様、ただでは――」

激昂したグリーンが突風を起こそうとした瞬間、彼の眼前にアルミ缶が出現した。
量子変速により爆弾と化したアルミ缶が至近距離から炸裂し、顔面が破壊され仰向けに倒れた。

「ふざけたマネを……キエエエエエエッ!」

相次ぐ仲間の死に自暴自棄となったイエローは、最大出力の電撃を放つため演算を開始する。
その隙に紬は素早く距離を詰め、足元にあった小さな瓦礫の破片を拾い上げる。
それをイエローの脳内へと直接転移させると、白目を剥いて倒れた。


53:2011/06/26(日) 11:09:31.31 ID:iNmol0qk0

息ひとつ切らさない紬が三人のもとへと帰ってくる。
律と澪はまだぽかんとしていた。唯だけが目をキラキラと輝かせている。

「ムギちゃん、すごいよ! かっこよかったよ!」

唯の賞賛に対し、紬は苦笑いで応える。

「あはは、え〜と……」

ふと時計を見ると、ちょうど正午を回ったところであった。
ここまで順調に進んできたおかげで、残り時間は十分にある。

「……お昼、食べる?」


54:2011/06/26(日) 11:10:51.74 ID:iNmol0qk0

一同は『ユニゾン』の第二のアジトとなる第七学区のとある高層マンションへと到着した。
ジムや温水プール、レストラン、音楽スタジオなど、あらゆる設備が備わっている高級マンションであるが、
紬の多才能力のことで頭がいっぱいの一同はそれに感動する気分でもなく、
館内のコンビニで買った昼食を持って、寄り道することなく紬の所有する部屋へと入る。

「ええと、何から話したらいいかしら……」

先ほどからずっと申し訳なさそうにしている紬に対し律が、

「なあ、ムギ……無理に話さなくてもいいんだぜ? あたしらも暗部なんだし、秘密なら別に追求するようなことはしないって。
ただちょっとその多才能力ってのが気になるから、ほんの上辺だけでも仕組みを教えてくれればな〜……って」

と気づかうが、紬の決心は変わらない。

「ううん、いいの、話させて。多才能力のことも、私の正体も、全部」

三人はそれぞれの昼食を食べる手を止め、真剣な面持ちで紬を見る。

「……『魔術』って、知ってる?」

紬は淡々と魔術について語り出す。
十字教をはじめとする宗教や、神話に基づく魔術が存在すること。
魔術とは、術式を用いて神の世界の法則や現象を現実世界に現す技術であること。
そして現在、世界は魔術サイドと科学サイドがいがみ合い、冷戦状態にあること。

「マジかよ……にわかには信じられないな。知ってたか、澪?」

「いや……ずっと暗部にいても、魔術だなんて聞いたこともなかった」

「無理もないわ。魔術はその存在自体が禁忌で、魔術サイドも科学サイドも知っている者は一部の上層部だけのはずよ。
それで……」

紬の表情が曇る。
そして、数秒間の間をおいて、突如立ち上がり、意を決した表情で言い放つ。


55:2011/06/26(日) 11:11:38.11 ID:iNmol0qk0

「――私は、魔術サイドのスパイなの!」

「「「……え?」」」

突然の告白に、三人はぽかんとした表情を浮かべる。
自らスパイであることを告げた紬に、三人はどう反応していいかわからなかった。

「でも、私はあなたたちに危害を加えにきたわけじゃないの! これだけは信じて!
みんなとは、これから仲良くやっていけるかなと思ったから……隠し事したくなかったの。
でも、私が科学の敵だって言ったら、この先やっていけなくなるんじゃないかって不安で……
結局、話せずに迷っているうちにこんなかたちでバレちゃって、ごめんなさい」

仲良くなりたいからという理由で自らの秘密をしゃべるようなスパイはいない。
暗部とは思えない、あまりにも優しすぎる紬の性格に、一同に自然と笑みがこぼれる。
律が立ち上がり、紬のそばに寄り優しくポンポンと肩をたたく。

「はは……ムギはスパイに向いてないんじゃないか?」

「うっ……」

「あたしたちに敵意があるわけじゃないんなら、別にスパイだろうと何だろうと関係ないって。なあ唯?」

「うん、ムギちゃんはムギちゃんだよ!」

「みんな……」

「それにな、ムギ」

澪が続ける。

「私たちだって、必ずしも学園都市の味方ってわけじゃない。
今まで散々、闇を見てきたからな……だから、ムギが学園都市の敵だからって、何とも思わないよ」

「そだな。正直魔術と科学がバトってようがどうでもいい。あたしらはあたしらのやりたいように生きるだけだ」

だろ、澪? と律が澪に視線を送り、澪もそれに微笑む。

「わたしは、ムギちゃんと、みんなとバンドできればそれでいいよ?」

「みんな……ありがとぉ〜……」

「ムギちゃんよしよし……」


56:2011/06/26(日) 11:13:07.12 ID:iNmol0qk0

ばらくして紬が落ち着き、説明が再開する。

「それで……魔術サイドの最も大きな勢力は十字教だけど、その他の宗教や神話に基づく少数勢力もたくさんあって、
互いに警戒、牽制し合っているわ。私の父が経営する琴吹グループは、そのうちの一つ」

琴吹グループという単語に澪が反応する。

「琴吹グループって……もしかして10GIAとかの?」

「ええ、そうよ」

「よく知ってんな、澪」

「有名じゃないか。他にも音楽関係の会社がたくさんあるぞ。レコード会社とか……
じゃあ、ムギはその会社の社長令嬢ってことか」

「だからお金持ちだったんだね〜ムギちゃん」

うふふ、と軽く微笑み、紬は説明を続ける。

琴吹グループは、北欧のとある魔術勢力と密接な関わりをもち、実質、その勢力の一員として協力体制をとっている。
そして、学園都市内にもシェアを拡大して、上層部や暗部とも関わりを持つことによって、学園都市を監視する。

その一方で、最大の魔術勢力である十字教を監視するという意味では、学園都市と目的が一致するため、
琴吹グループからも魔術サイドの情報を学園都市に提供している。
お互いに利害関係が一致しているため、紬のようなスパイが入り込んでいることは学園都市は知っていながら黙認している状態だった。


57:2011/06/26(日) 11:14:31.59 ID:iNmol0qk0

「うちの勢力は十字教に比べればかなり小さいほうだから、秘密を知られても影響力は少ない、と思われてるのかも」

「なるほどな……で、それと多才能力がどうつながんだ?」

「学園都市は、魔術を使えなくするようなフィールドを展開する技術を開発しているらしいの。
それに対抗するために、魔術師が超能力を使えるようにしたのが、このキーボード――『合成魔術(シンセサイザー)』よ」

琴吹グループは、魔術と超能力は本質的に同じであるという独自の理論に基づき、『合成魔術』を完成させた。
魔術が神の住む天界から術式を用いて超常現象を引き出すように、超能力も『自分だけの現実』から超常現象を引き出す。
そのための術式に相当するものが、能力開発によって脳に刻み込まれる。
能力者は、自らの体そのものが術式と化しており、能力者が魔術を使用すると、異なる世界の術式が混線して拒絶反応を起こす。

ならば、その術式を脳内ではなく外部で組み立てれば、能力開発を受けずとも他人の超能力を使え、魔術を使用しても拒絶反応が出ない。
その考えをもとに、琴吹グループは魔術の知識を用い、魔方陣を描くように能力者の脳内回路を再現することに成功した。
さらに、その魔方陣を即席で作れるようにしたのが、紬の持つキーボードである。

「このキーボードは音程や波形を細かく調節できるように作られてるんだけど、これでたくさんの音波を合成して、
まわりの空間に意味を持つ模様を作ると、これが術式となって対応する『自分だけの現実』に接続できるの。
模様を少しずつ変えていけば、理論上は虚数学区に存在するあらゆる『自分だけの現実』に適応できるはずよ」

「なんだかすげーな……それでホイホイと能力が変わってたのか。ん、ってことはもしかして、あたしたちの能力も使えんの?」

「ええーっ!? それじゃわたしたちの出番なし!?」

「そんなことないわ! 『合成魔術』はまだ開発中で、レベル3までの能力しか使えないの。
音波の模様だけで脳内の回路を再現するのには限界があるわ。
それでもなんとか、レベル3までのほとんどの能力は引き出せるようになったから、
これからは攻撃に回復に補助に、いろんな能力でみんなをサポートしていくね」

「それは頼もしいな……改めてよろしくな、ムギ」

「ええ♪」

「よ〜し、気を取り直して出発だ〜! あと一人、ちゃちゃっと片付けるぞ〜っ」

「「「お〜!!」」」


58:2011/06/26(日) 11:16:49.63 ID:iNmol0qk0





最後のターゲットは、今回の騒動の発端となった、機密情報をばら撒いた暗部崩れの男である。
その男が潜んでいるのは、廃墟と化したとある研究所跡だった。

「情報によると、ターゲットはレベル4の『念動力』使いらしいぜ〜。おっ、いたいた、あいつだな」

廃墟の中に一人たたずむ男の姿が見える。

「四人でかかれば楽勝だろ。よし、行くぞ〜」
 
「……待って」

一歩踏み出した律の腕をつかんで止めたのは唯だった。

「……唯? どうした?」

唯は普段の呑気さからは想像できないような暗い表情を浮かべていた。

「……わたしが行くよ」

ただならぬ雰囲気の唯に圧倒された律は言葉を返せず、唯がゆっくりと男のほうへ向かっていくのをただ眺めているしかなかった。

「どうしたのかしら唯ちゃん……まるで別人だったわ」

「さあ……よくわかんねーけど、見てるしかなさそうだな……危なくなったら助けに入ろう」


59:2011/06/26(日) 11:18:06.97 ID:iNmol0qk0

唯の姿に気づいた男が振り返る。

「ん? ……ほう、こいつはおもしれえな。まさかお前が俺の始末に来るとは。久しぶりだなあ、平沢?」

「……なんで生きてるの」

「なんだ、感動の再会だってのに冷たいねえ。確かにあの時、俺は瀕死の重傷を負ったが、なんとか逃げ延びた。
それからは暗部もやめて、こうして上の情報を盗んでは売って暮らしてたんだよ」

この男こそ、唯を暗部に引き込んだ張本人。あのときの「少年」であった。
彼らの暗部組織は当時、上層部に反抗すべく戦力を必要としており、唯を利用した。
しかし、その作戦はあえなく失敗。用済みとなった唯は捨てられ、闇を転々とする生活を送ることになる。

その後、彼らのグループは別の暗部組織によって壊滅させられたと唯は聞いていたが、この男は生き延びていたようだ。

「暗部を……やめたの?」

唯の人生を身勝手な理由で狂わせた人物が、ぬけぬけと表の世界で生きている。
その事実に唯の表情がゆがみ、ギターが黒いオーラに包まれ始める。

「ああ、俺は一応死んだことになってたからな。やすやすと抜けられたわけよ。
あんなクソな世界、できるものなら一秒たりともいたくはねえ」

「その世界に……わたしを引き込んで、捨てて、しかも自分は暗部を抜けてゆうゆうと暮らしてるなんて!
そんなの……勝手すぎるよ!!」


60:2011/06/26(日) 11:19:13.16 ID:iNmol0qk0

唯がギターを思いっきりかき鳴らし、無数の真っ黒なエネルギー弾が発射される。
しかし、男は自らの体を念動力で操り、空中浮遊して難なく避けた。

「知ったことかよ。どのみち、あのとき俺が暗部に引き込んでなければお前は死んでいたはずだ。
お前こそ、いつまで上層部の犬をやってるんだ?
いいか平沢、お前が俺を殺すってことは、クローンだのなんだの言ってるあのイカレた実験を擁護するってことになるんだぞ、ああん!?」

男はあたりに転がっている瓦礫を操り、唯へ向かって高速で放つ。

「効かないよ!」

唯がとっさにギターを軽く鳴らすと、唯を中心に球状のバリアーが展開される。
瓦礫はバリアーにすべて阻まれ、唯に届くことなく落下した。

「けっ、相変わらず何でもありな能力だな。だがお前の攻撃パターンはすべてお見通しなんだよ。
なんたって、この俺が育ててやったんだからなあ!」

男はさらに瓦礫をバリアーへと叩き込む。だんだんとバリアーにはヒビが入っていき、ついには音を立てて崩壊した。
すぐさま唯がギターのネックを男のほうへと向けかき鳴らすと、六本の弦に沿って黒いレーザーが発射される。
しかし男はレーザー攻撃を読みきっており、飛び回って避けながらさらに瓦礫を唯へと投げつける。
唯は再びバリアーを出し、戦いは振り出しに戻る。


61:2011/06/26(日) 11:20:14.82 ID:iNmol0qk0

両者決め手のない戦闘を眺めながら、律はあることに気づく。

「さっきから平沢、平沢って、唯の苗字か? ということは唯のフルネームは平沢唯……なーんかどっかで聞いたことあるような」

「「!!」」

その言葉に澪と紬が反応する。

「ん? どうした澪、知ってるのか?」

「……いや、唯じゃないけど、似た名前なら……知ってるだろ?
――学園都市第六位、平沢憂」

「あ、そうそうそれ! 一文字違いか〜似てるな」

「いや……まあ、そうなんだけど」

澪は唯の寝言に出てくる「うい」という人物のことを思い出していた。

(まさか……唯と第六位は)

「みんな、これを見て」

紬が携帯電話の画面を見せる。そこには、唯とそっくりな人物の顔写真。
画面の下には、「学園都市第六位 平沢憂」と表示されている。澪の予想は的中していた。

「うそっ、唯じゃん!? ん、いや、姉妹か?」

「やっぱりか……律、唯は第六位の姉妹で間違いないと思う。中学三年って書いてあるから、唯が姉か」

「まじかよ……いや待て、本人が化けてるって可能性はないか? 唯の能力ってわけわかんないし、レベル5ならありえるんじゃね?」

「ううん、うちのグループで第六位の動向はつかんでいるけど、普通に中学校に通っているわ。同一人物ってことはないと思う」

「っちゅーことは姉は暗部、妹は表でしかもレベル5……こりゃ〜厄介だな、いろいろ」

「唯が寝言で言ってたんだ、『うい』って……あれは間違いなく、第六位のことだろうな。
唯とあの男の会話からすると、唯はあの男に暗部に引き込まれて妹と生き別れになったってことか……」


62:2011/06/26(日) 11:21:36.71 ID:iNmol0qk0

唯と暗部崩れの男の戦いは長期化し、唯の能力の精度が落ちてきていた。

「へっ、そろそろ限界か。お前の能力は強力だが、技を知り尽くしている相手じゃあさすがに分が悪かったな」

「……だったら」

唯は一旦距離をとり、ギターを構えなおす。

「今、新しい技を作ればいいんだよ!」

唯がポン、ポンと優しい音を出すと、唯の顔ほどの大きさがある黒い音符が多数出現した。

「……あ? なんだそれは」

「いっけえ〜!」

唯の声とともに、音符が男めがけて飛んでゆく。そのスピードは決して速くはなく、軽々と男に避けられてしまう。
しかし、音符はUターンして再び男を追跡し始めた。

「ちっ、追尾だと!?」

男は空中を逃げ惑うが、音符はしつこく追尾してくる。だが、唯から離れすぎるとコントロールを失い、
軌道を外れた衛星のようにあさっての方向へ飛んでいき、やがてスーッと消えた。



63:2011/06/26(日) 11:22:35.39 ID:iNmol0qk0

「……へっ、たいしたことはねえな。離れちまえば――」

「逃がさないよ!」

距離を置こうとした男に対し、唯はさらにレーザーを打ち込む。不意打ちを避け切れなかった男の肩をレーザーがかすめる。
さらに、唯は新しい音符をどんどん生み出し、男を追い詰めていく。

「くっ……! ならこれでどうだ!」

一気にたたみ掛けようと考えた男は、全演算を集中し、大量の瓦礫を唯めがけて投げつける。
唯はバリアーを張るが、精度が落ちてきているため男の全力の攻撃に耐えられず、一撃で破られる。

「くらいな、平沢あぁぁ!!」

バリアーが破られた隙をつき、男が拳を掲げながら突撃してきた。

「ここでもういっちょ新技!」

唯が大きく腕を振り回しながらウインドミル奏法でギターを激しく鳴らすと、竜巻が発生した。
空中にいた男はそれに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

「な、なんだと――」

そして、吹き飛ばされた先には追尾してきた音符があった。
音符の正体は爆弾であり、男に触れると爆発し、さらに後続の音符も巻き込んで大爆発を起こした。


64:2011/06/26(日) 11:23:54.41 ID:iNmol0qk0

唯の能力に律が驚く。

「うわあっ! すげーなオイ……どうなってんだあの能力? ムギ、そのキーボードで唯の能力を調べたりできないのか?」

紬の『合成魔術』はレベル4の能力を使用できないとはいえ、
『自分だけの現実』に接続してどんな能力かをある程度調べることは可能だった。

「ええ。さっき唯ちゃんの『自分だけの現実』にアクセスできたんだけど……
単純に、何か一つのものだけを操る能力みたい。なんであんなにいろんなことができるのかしら?」

唯の多彩な能力は、とても一つの物理法則を操るだけでは説明できそうにない。一同は首をかしげる。
さらに、紬はもう一つ気になることがあった。

(唯ちゃんが能力を発動するたびに『自分だけの現実』が広がって、解除すると元に戻るみたい。どういうこと……?)


65:2011/06/26(日) 11:25:39.24 ID:iNmol0qk0

爆発によって発生した煙が晴れ、倒れている男の姿があらわになる。
男は右手、右足を失い、もはや虫の息であった。
唯はゆっくりと男のもとへ近づいていく。

「た……すけて、くれ……」

男は命乞いを始めた。

「ひら……さわ……たすけて、くれ。いままで、やってきた、ことは……あや、まる……」

唯の顔が引きつり、ギターが再び黒いオーラに包まれ始める。

「おねがい、だ……なあ、おれが、そだてて、やっただろ……? その、おんを――」

この男によって、唯は幸せな生活から一転して暗部に堕ち、人殺しを強要させられてきた。
もともと優しい性格の唯は、その膨大なストレスをうまく発散できず、溜め込む。
そして、自分の人生を狂わせたこの男の、身勝手で醜い姿に、唯のストレスは限界に達し――


66:2011/06/26(日) 11:26:31.06 ID:iNmol0qk0

「――あ、あは、あははははははははははは!!!」

ついに発狂した唯の能力が暴走する。
その瞬間、唯から不可視の衝撃波のようなものが発せられた。

「「!?」」

それは物理的なものではなく、周囲の物体にまったく影響はない。
しかし、律と澪はその瞬間、強烈な違和感を覚えた。

「澪、感じたか、今の!?」

「あ、ああ……なんか、自分の精神が吹き飛ばされそうになるような感覚が……
いや、今も感じる。唯から、何かが暴風のように吹き出ている?」

「あは、あははは!!」

暴走する唯の周囲10メートル程には黒いオーラがうずまき、無秩序な爆発が連続して起こる。
近くにいた男の体は不可視の斬撃により切り刻まれ、内部から爆裂し、もはや肉塊と化していた。


67:2011/06/26(日) 11:27:36.51 ID:iNmol0qk0

一方、紬は自らの体には何も感じていなかったが、先ほどから接続していた唯の『自分だけの現実』の変化を感じ取る。

「唯ちゃんの『自分だけの現実』がどんどん膨張してる……むしろ、蒸発し始めてる!? このままじゃ、危ないわ!!」

『自分だけの現実』がなくなれば、無能力者になってしまう。
それどころか、一度脳に刻み込まれた超能力が無理に失われれば、精神に異常をきたす可能性もある。
唯の暴走を止めるため、律と澪が唯のもとへ駆け寄ろうとするが――

「……なんだコレ!? 頭がぼーっとする……能力がうまく使えねー!!」

「近づけば近づくほど、『自分だけの現実』が不安定になるな……あんまり近づくと、私たちも……くそっ!」

唯から発せられる何らかの力により、能力者の『自分だけの現実』が反発を受ける。
近づきすぎると『自分だけの現実』を吹き飛ばされてしまう――そんな感覚を、二人は感じ取っていた。

「私にまかせて!!」

能力者ではない紬は、唯から暴風のように吹き荒れる何かの影響を受けない。
しかし、唯の周囲の黒いオーラの勢いは止まらず、とても近寄れる状況ではなかった。


68:2011/06/26(日) 11:28:27.38 ID:iNmol0qk0

「唯ちゃん! もうやめて!!」

紬はギリギリの位置まで近づき、唯に向かって叫ぶ。

「あはははは!! なんで〜ムギちゃん? この人、ひどい人なんだよ!? これぐらいしておかないと――」

爆発により巻き上げられた粉塵が紬に襲いかかるが、ひるまずに叫び続ける。

「その人のことはもういいの! 唯ちゃん、そんなことしてるとあなたの精神が壊れちゃうわ!!
お願い、やめて! 私たちは、唯ちゃんを失いたくないの!!」

紬の言葉に、唯の周りの黒いオーラが収まり始める。

「唯ちゃん。つらいんだったら、私たちを頼ってくれていいのよ?」

「……」

唯の表情から狂気が消え、それに伴って黒いオーラも霧散する。唯の暴走は完全に収まった。
『自分だけの現実』に影響を受けなくなった律と澪も駆けつける。

「そうだぞ、唯! あたしたちは、お前と違って最初から暗部にいたから、
気持ちは半分ぐらいしかわかってやれないかもしれないけど……それでも、力にはなれると思う」

「言える範囲内でいいから、唯の話、聞かせてくれないか? ……話せば、少しは楽になるんじゃないかな」

「……うん、ありがとう、みんな」


69:2011/06/26(日) 11:29:12.11 ID:iNmol0qk0





アジトへと戻り、任務完了の報告を済ませた一同は、リビングにて唯の話を聞いていた。

唯は置き去りであったものの、妹や親友とともに比較的幸せな学校生活を送っていたこと。
ある日、能力が発現し、それが解析不能だったために研究所に通いつめていたこと。
そして、研究者に拉致され、人体実験をされそうになったときに能力が覚醒し、研究所を破壊して逃げ出したこと。
疲れ果てて動けなくなっていたところを、あの「男」に保護され、暗部入りしたこと。

唯は全てを話した。また、その話しぶりから、どうやら妹がレベル5になっていることは知らないようである。

「唯……ひとついい?」

澪には、訊いていいのか悪いのかわからないが、どうしても確認しておきたいことがあった。
唯がうなずくのを確認すると、一呼吸おいて話し始める。

「妹さんに……会いたい? 気に障ったらごめん」

唯は特に顔をしかめる様子もなく、優しく微笑んで答える。

「大丈夫だよ、澪ちゃん。会いたくないっていったら嘘になるけど、そんなことしたら憂も不幸にしちゃうもん。
もう絶対に会わないって、決めたから」

表の世界に生きる憂と闇に生きる唯が接触すれば、当然憂にも闇の影響が及ぶ。
それを考慮せずに唯が憂と会いたいと思っているのではないかと澪は恐れていたが、それは杞憂だったようだ。

「それに、みんなに会えたから。もうさみしくないよ!」

唯にいつもの笑顔が戻る。それにつられて、皆も自然と顔が緩む。


70:2011/06/26(日) 11:30:11.52 ID:iNmol0qk0

ここで、律がひとつの提案をした。

「なあ澪。この際だから……」

「……ああ、そうだな。私たちのことも話そう」

「へへっ。まあ唯やムギに比べたら大して劇的じゃないけどな〜。
あたしたちは置き去りどころか、そもそも学園都市内で生まれて、物心つく前から実験台だったんだ。
で、能力が発現したらさっさと脱走して、一人で乞食みたいな生活してたんだ。
実験で痛い思いするよりマシだったからな」

「私は律とは別の研究所にいたんだけど、能力が発現した瞬間に暴走して、衝撃波で研究所を吹き飛ばしちゃったんだ。
それで、瓦礫の中で一人で泣いていたところを律に助けられて……」

「そ! 澪を拾ってからは、二人でなんとか生きてきたんだ。
んで、よく覚えてないけどいつのまにか暗部に入ってたな〜。たぶんエサにでも釣られたんだろ。
あのころはガキだったし、良いも悪いもわかんなかったしな」

「幸い、私も律も最初からレベル4だったから、暗部でも比較的重宝されたし、今まで五体満足で生きてこれた。
もし、あのとき律に助けられてなかったらって考えると……
律、その、あ、ありが……」

「お、澪ちゅわんデレましたな〜?」

「……うるさいっ!」

「あだっ!!」

「あらあら、うふふ……澪ちゃんに叩かれるときは能力使わないのね、りっちゃん」

「えっ!? ああ、まあ、な……いちいち使うのめんどくさいし!? あははは〜……」


71:2011/06/26(日) 11:31:25.66 ID:iNmol0qk0

しばらくして、話題は唯の能力のことにも及ぶ。

「唯ちゃん。暗部に入ってから、唯ちゃんの能力については何かわからなかったの?」

唯の『自分だけの現実』の不思議な挙動を体感した紬は、気になっていたことを唯にぶつける。

「ううん、あれからもいろいろ調べられたけど結局わかんなかったんだ〜。
わたし、ギー太がないと能力使えないし、本当は無能力者なのかも?」

それを聞いた三人は違和感を覚える。唯の能力が暴走したときのすさまじいオーラは、とうてい無能力者に出せるものではない。
そもそも昔はギター以外の楽器でも音符が出ていたはずだ。

(ギターがないと能力を使えない、と思い込んでるのかしら? ますますわからなくなってきたわ……)

紬は難しい顔をして考え込む。それを見た律は笑いながら、

「ま、気にしてもしょうがないだろ、ムギ? 暴走しないようにすればいいんだし。
またあんな野郎がでてきたらボコボコにしてやるからな、なあ唯?」

「うん! えへへ、わたしはもう大丈夫だよ。ありがとう、みんな」

「……うふふ、そうね。気にしすぎてたわ」



その後も、一同は夜遅くまで話し続けた。
闇に生きる者同士ながら、お互いに素性を知り、心を許しあう。『ユニゾン』は、学園都市の闇には珍しい、絆の深い組織となった。


82:2011/06/26(日) 12:28:18.58 ID:iNmol0qk0

#3 デビュー!

それからというもの、唯たちの仕事は順調そのものであった。
互いの能力だけでなく、素性まで深く理解しあった仲良し四人組のコンビネーションは絶妙であり、
武装集団だろうが能力者だろうが、向かうところ敵なしだ。

今日のお相手は、能力者を含むとある反政府武装組織。
組織の縄張りである薄暗い裏路地で、数十名の男たちと律が対峙していた。
律の5メートルほど後方には唯と紬も待機している。

「……っちゅ〜わけで、あんたら始末するわ。悪く思うなよ」

律が宣戦布告し、開戦の火蓋が切って落とされる。

「たった三人で俺たちに勝てると思っているのか? 死ね!」

先頭に立っていた数名が律に向けて発砲を始める。

「へへっ、当たんねーし!」

律は素早い動きで銃弾を避け、発砲している者を一人、また一人と確実に仕留めていく。
何発かは命中しているようだが、「痛っ」という声が時折聞こえてくる程度でほぼ効果はない。

「ちっ、バケモノかこいつ……ならこれを食らえ!」

後方にいた男がバズーカのようなものを発射する。
律はすぐさま後退し、唯の後ろへ隠れた。

「唯、頼んだ!」

「了解です! ギー太バリア〜!」

バズーカの弾がバリアーに衝突し、大爆発を起こす。
しかし、バリアーにヒビが入った程度で、唯たちはまったくの無傷であった。



83:2011/06/26(日) 12:29:52.46 ID:iNmol0qk0

「ついでにギー太ビ〜〜ム!!」

敵が驚きでぽかんとしている隙に、唯が六色に輝く六本の光線をなぎ払うように放ち、数名を貫いた。
さらに律が再び攻撃を開始し、敵をどんどん倒していく。
劣勢に立たされた男たちには焦りの色が見え始め、統率が取れなくなってきていた。

「くそっ、一旦退くぞ!」

「逃がさないよん♪」

男たちが逃げようとするが、律がすぐさま大ジャンプで回り込み、それを許さない。
しかし、縄張りの奥へと入り込んだ律にはトラップや狙撃の危険が伴う。

「唯ちゃん、向こうの建物のあの窓に一人、その下の箱に爆弾、あと反対側の建物の屋根の上にたくさん、お願いね」

「了解〜! ふんすっ」

紬は透視などの探知能力を駆使し、隠れている敵や罠の場所を割り出して唯に指示する。
唯は指定された場所に正確にレーザーを打ち込み、狙撃者を撃破、爆弾を破壊した。
さらに、建物の屋根を音符爆弾で破壊すると、隠れていた数名の敵が落下してきた。

その様子を見ていた発電能力者の男が紬の能力に気づき、唯が攻撃している隙を狙って紬に向けて電撃を放とうとする。

「あのキーボード女が司令塔か……食らえ!」

「くらいませ〜ん♪」

しかし、すかさず紬が水流操作で男とその周囲を水浸しにしたため、近くにいた数名が感電するのみだった。



84:2011/06/26(日) 12:32:10.14 ID:iNmol0qk0

「さて、あとはいないかしら?」

紬がさらに索敵を続けていると、前にいた唯が突然紬の方を振り返った。

「……唯ちゃん、どうかしたの?」

「……透明人間がいるよ!」

唯は紬の背後の何もない空間にレーザーを打ち込む。

「――ぐあああっ!! な、なぜわかった!?」

すると、レーザーが命中し、隠れていた男が姿を現す。
電波や可視光など、あらゆる電磁波を透過させて姿を消す能力者だったため、紬の探知能力では察知できていなかった。

「へっへ〜ん、なんとなくわかっちゃうんです!」

唯がとどめの光弾を放ち、男は絶命する。
具体的には、唯は半径100メートル以内にいる能力者の居場所を感知する能力を持っていた。

「助かったわ、唯ちゃん。ふふ、ほんとに不思議な能力ね」


85:2011/06/26(日) 12:33:42.84 ID:iNmol0qk0

紬と唯の協力攻撃により、あたりに隠れていた組織員はすべてあぶり出した。
既に半数程度は撃破しているが、まだ十数名残っている。

「りっちゃん、これで全員よ!」

「お〜し、こっちに来い!」

紬は偏光能力で唯と自らの姿を隠し、男たちの間を通り抜けて律のいるほうへと移動する。

「よっしゃ、唯、ムギ、アレをやるぞ!」

「おっけ〜りっちゃん!」

「ええ♪」

「「「せーのっ!」」」

律は両腕を振り下ろし風の運動エネルギーを増幅する。
唯はウインドミル奏法で竜巻を発生させる。
紬は風力使いの能力を使用して風を起こす。
三人が同時に放った突風は合わさってレベル5級の威力となり、縄張りの外に向かって男たちを数十メートルも吹き飛ばした。

そして、吹き飛ばされた先には澪が待っていた。

「お疲れ、みんな」

澪は、遥か遠くで唯と紬を両脇に抱えて大ジャンプする律の姿を確認し、とどめの一撃を放った。


86:2011/06/26(日) 12:36:47.46 ID:iNmol0qk0




仕事が終わった一同がアジトへと戻ると、時刻は午後三時をまわったところだった。

「いや〜今日も楽勝だったな! ムギ〜、お茶!」

「は〜い、今淹れるから待っててね」

最近、日課になりつつあるのが、仕事の後のティータイム。
紬がどこからか仕入れてくる高級なお菓子と紅茶を堪能しながら、おしゃべりを楽しむ。
仕事のない日も、昼間はみんなで遊びに行き、帰ってきてからお茶にすることが多かった。

そして、もう一つ日課になっていることが、ティータイムの後の練習だった。
練習を始めようと言うのは、だいたいいつも澪からである。

「さあ、そろそろ始めよう」

「ええ〜、もうちょっとおしゃべりしようよ〜」

そして、唯と律はぐだぐだしてなかなか練習を始めようとしない。
これも、いつもの光景であった。

「まったく……せっかくバンド組んだんだから、練習しないと意味ないだろ」

「ってもな〜、誰かに披露するわけでもないし、いまいちやる気が出ないというか……
『目指せ武道館!』って言っても、うちら顔出せないから無理だし」

「そりゃそうだけど……」

暗部組織である彼女たちは、人前に出てライブなどを行うことはできない。
バンドを組んだからには誰かに披露したいものだが、それができないために目的意識が低いことも、
練習に身が入らない原因の一つであった。

そこで、紬がある提案をする。

「じゃあ、顔を非公開でデビューってのはどうかしら?」


87:2011/06/26(日) 12:38:08.84 ID:iNmol0qk0

「「「!?」」」

デビューという言葉に食いつき、全員がいっせいに紬のほうを見る。

「うちの会社を通せば、顔ももちろん、私たちが暗部組織だっていう情報も、完全に封鎖した状態でデビューできると思うの」

「それだっ!!」

さっきまでだらけていた律が急に立ち上がる。

「『突如現れた謎の美少女バンド、初登場ながら他の強豪を差し置いて堂々の売り上げ一位獲得ッ!!』ってか? っは〜、いいねえ!!」

「おお〜!! ついにわたしたち……プロのミュージシャンになるんだね!!」

律と唯は早くもデビュー後のことを想像して盛り上がる。

「ちょっ、こら! まだなれるって決まったわけじゃないぞ!
……でも、いいかもな。なんか、やる気が出てきた」

「うふふ、うちのコネを使ったからって、誰でもデビューできるわけじゃないから、ちゃんと練習しなくちゃね」

「いよ〜っし、そうと決まれば練習だ、練習だ〜!!」


88:2011/06/26(日) 12:39:46.86 ID:iNmol0qk0





その日の練習終了後。

「そういや、デビューするからには、オリジナル曲を作んなきゃな〜」

律が提案すると、澪はそわそわし始める。

「……そうすると作詞作曲の担当を決めなきゃだな。その、作詞なんだけど……」

「はいはいはいっ! 私作詞したいです!」

「ほお〜唯が!? 随分やる気だな〜。よっし、採用!」

「いっえ〜い♪ わたし、がんばるよ!」

「あ、あの……わ、私も……」

「澪もか? ふふ〜ん、でも澪の詩はメルヘンチックすぎるからな〜。
 たとえば――」

「わあああああ!!! やめろ律〜!!!」

「なんだよ、作詞したいんだろ? だったらみんなに披露することになるんだぞ?」

「もうあの頃とは違うんだっ! 今回はちゃんといい詩を書ける気がするから……」

「ほほ〜う、そこまで言うなら澪に任せようか。んで、作曲はどうする?」

「私、やりたいで〜すっ」

「おっ、ムギか。ムギなら安心だな。よっしゃ、任せた!」

「がんばりま〜す♪ あっ、詩を見てから作りたいから、唯ちゃん澪ちゃん、待ってるね」

「まかせて! ふんすっ」

「あ、ああ……がんばるよ」


89:2011/06/26(日) 12:41:28.11 ID:iNmol0qk0




そして数日後。
唯と澪が歌詞を発表する日がやってきた。

「さ〜て、二人とも、歌詞はできたか〜?」

律が呼びかける前から、唯は早く発表したいと言わんばかりに目を輝かせ、
澪は恥ずかしがって目をそらしていた。

「はいっ、できましたであります隊長!」

「私も……一応、できた、かな」

「いよ〜っし! 早速見せてくれっ」

「ええっ、もう!?」

「もうって……どうせ見せることになるんだからいいだろ」

「じゃあ、唯ちゃんから先にお披露目はどうかしら?」

無駄にハードルを上げていることに気づかず、澪は首を縦に振る。

「はいっどうぞ! 力作です! ふんすっ」

唯の歌詞が披露される。

「どれどれ〜? Chatting now……ふむふむ。終業チャイムまで……ん? チャイム?」

そこに書いてあったのは、放課後ライフを楽しむ高校生の生き様だった。

「えへへ……変かな? 私たち、歌の中ぐらいだったら、普通の高校生でもいいよね」

普通の高校生として、なんでもない普通の学生生活を送ることに、唯は憧れていた。
そんな唯が描く放課後の世界は、本物の学生よりもむしろ学生らしく、幸せにあふれていた。
さらに、今彼女たちがやっているティータイムやバンド活動などは、本質的には部活動と変わりない。
そんな経験があるからこそ、唯の詩はリアルな学生らしさを表現できていた。

「唯ちゃん、すごくいいわ……」

「ああ。学生じゃないとはいえ、今の私たちそのものだな」

「いや〜、正直驚いたよ。いい詩書くじゃん、唯」

「それほどでも〜、えへへ」


90:2011/06/26(日) 12:45:46.86 ID:iNmol0qk0

「……さ〜て、次は澪の番だな」

「うっ……」

唯の詩に魅入っていて緊張を忘れていた澪が現実に引き戻される。

「ほ〜ら、観念しなって」

「わ、わかったよ……はい」

「ふっふ〜ん、どれどれ? Please don't say……ふむふむ。本能に従順忠実……澪、これって」

「……ああ。あの時律と話してから、いろいろ考えたんだ。その気持ちを描いてみた」

"人形"と罵られたその日から、澪は律の言葉をもとに、自分たちのありかたについて考え続けていた。
その詩には、暗部の環境にいながらも自らを愛し、やりたいことをやり、日々生き抜いていくためにもがき続ける、
そんな自分たちの姿が描かれていた。

「……なるほどな。あたしたちは単なる怠け者じゃない、必死にもがいてるんだ、ってか?
いいじゃん澪、昔のとは大違いだな〜」

「む、昔のことは言うなっ!」

「これ、いいよ澪ちゃん! すごくかっこいい!」

唯が目をキラキラさせて澪を賞賛する。

「あ、ありがとう……」

澪が恥ずかしそうにしていると、しばらく黙って詩を読んでいた紬が急に立ち上がり、力強く言い放つ。

「……うん、二人ともすごくいい詩ね! イメージがどんどん湧いてくるわ!」

「おっ、曲作れそうか、ムギ?」

「ええ、まかせて!! すごいの作ってくるから!」


91:2011/06/26(日) 12:47:50.33 ID:iNmol0qk0




そしてさらに数日が過ぎ、紬の作った曲が披露される。
二曲とも、歌詞が描く世界にマッチしていて好評を得たものの、
はりきりすぎてしまったためか難易度が高く、今まで以上の練習が必要だった。

しかし、仕事をあっさりと片付けてしまう彼女たちには時間が豊富にあり、
一月もすれば、外に出しても問題ないレベルにまで仕上がった。

そして、ついに琴吹グループのレコード会社へとデモ音源を提出。
今日は、その合否が帰ってくる日。
午前中の仕事を神速で片付けた一同は、アジトにて紬に電話がかかってくるのを今か今かと待っていた。

「どきどき……緊張するねえ」

「なあ、大丈夫だよな……律?」

「はは、こればっかりはわかんないな〜、こんなの初めてだし……」

暗部の仕事に対しては自信満々な一同も、今回ばかりはいまいち自信がもてなかった。
そして、次の瞬間、紬の携帯が鳴る。

「「「!!!」」」

「はい、もしもし斉藤!?」

紬はワンコールで電話に出る。緊張しているのか、声は上擦っている。
そして、斉藤執事の声が部屋に響く。

『お嬢様、おめでとうございます。大変すばらしい出来とのことで、デビューが決定いたしました』

数秒間の沈黙。

「「「「……やった〜〜〜っ!!」」」」


92:2011/06/26(日) 12:49:50.70 ID:iNmol0qk0

かくして、彼女たちのデビューが決定した。
バンド名は『放課後ティータイム』。どこかの高校に所属する軽音部で、学業に影響が出ないように顔は非公開という設定だ。
録音、編集はすべて琴吹グループの暗部関係者が行い、彼女たちがどこの誰なのかという情報はレコード会社の社員ですら知らない。
キーボード担当のMugiの正体が社長令嬢の琴吹紬であるということすら、である。

そして、二作同時発売となったデビューシングル『Cagayake!GIRLS』『Don't say"lazy"』は大ヒットを記録し、
売り上げ1位、2位を独占する快挙となった。
彼女たちのプレイヤーとしての技術はプロ級ではあるが、他と比べて抜きん出でいるほどではない。
それでもヒットにつながった理由は、謎の高校生バンドというミステリアス性もさることながら、
暗部として数々の死線を潜り抜けてきた経験からくる大人っぽさや、結束の強さが若者の心を惹きつけたことにあった。


93:2011/06/26(日) 12:51:57.56 ID:iNmol0qk0

そしてその活躍は、この人物にも知れるところとなる。

『ちょっとあんたたち! 何勝手にデビューしてるのよ!? 自分たちが秘密組織だってこと、わかってるの!?』

律の携帯から怒号が響く。

「へへっ、別にいいじゃんか。ちゃんと情報は封鎖してんだからさ。なあムギ?」

「ええ、絶対にバレませんから、ご心配なく♪」

『……本当なの? あなたまさか……なるほど、そういうことだったのね。
確かに、他の組織でまだ気づいている者はいないわ。私はあなたたちの名前を知ってるから分かったけど』

紬の正体が琴吹家の令嬢だということに気づいた『電話の女』は、一応の理解を示す。
一同は改めて、琴吹家の影響力に感心した。

『でも……暗部組織がデビューなんて、前代未聞……ってわけじゃないかもしれないけど、とにかく、ありえないことよ!』

「……律、ちょっと貸して」

澪が律の携帯を借り、一呼吸置いて真剣な声で言い放つ。

「私たちは、私たちのやりたいことをやります。それを束縛はさせません。仕事のことでご迷惑はかけませんから」

『……まあいいわ。そこまで言うならしょうがないわね。でも今まで以上に情報管理を徹底すること』

「はい、気をつけます」

「んじゃ、あたしら今から10GIA行ってくるから、またね〜」

『あ、ちょっと――』

電話が切られる。

「さ、行こうぜ!」


94:2011/06/26(日) 12:54:47.03 ID:iNmol0qk0

一同が訪れた楽器店のCD売り場は、放課後ティータイム一色だった。
店内には彼女たちのデビュー曲が繰り返し流れている。
売り上げ一位、二位の棚には「オススメ」のポップとともに大量のCDが置かれていた――はずだったが、
もう半分近くなくなっている。いまだに売れ行きは好調なようだ。
さらに雑誌のコーナーには、放課後ティータイムを特集した雑誌が早速登場していた。
表紙には四人のシルエットが描かれている。

「あっ、これこないだ受けたインタビューだね〜!」

インタビューといっても、琴吹家を通して紬に質問状が送られ、それに返答するという形であった。
澪は雑誌を手に取ると、食い入るように表紙を見る。その雑誌は音楽界でも有名なものだった。

「私たちがこの雑誌のトップを飾るなんて……夢みたいだ」

「ってもシルエットだけどな。いや〜、あたしらも有名になったもんだ。ほんとムギ様様だぜ」

「そんなことないわ。うちの会社は、暗部でもデビューできるよう手助けしただけ。
こうやってみんなに受け入れられたのは、私たちががんばったからよ」

実際、暗部組織ということもあり、琴吹グループは放課後ティータイムの過剰な宣伝は控えていたが、
自然と学生たちの間で広まったことで爆発的に売れ行きが伸び、いまや社会現象と言えるほどになっていた。


95:2011/06/26(日) 12:55:45.98 ID:iNmol0qk0

「あっ、見てみてみんな! あの子、CD買ってくれそうだよ!」

唯が指し示す方向を見ると、ギターを背負ったツインテールの少女が放課後ティータイムのCDを手にとって眺めていた。

「ちっちゃいくてかわいい子だねえ……中学生ぐらいかな?」

「ふふ〜ん……よし買え、さあ買え〜!!」

「こら律、聞こえちゃうだろ!」

「あっ、レジのほうへ持っていくわよ」

少女はデビューシングル二枚を持ってレジへと向かった。

「ファン一人ゲットだね♪」

その光景を見て満足した彼女たちは店を後にした。


96:2011/06/26(日) 12:58:36.75 ID:iNmol0qk0

#4 新メンバー!


それから数ヶ月後。時は春。

第七学区、桜ヶ丘女子高等学校。
ここは能力開発において比較的レベルの高い学校であり、常盤台中学や長点上機学園ほどではないにせよ、
多くのレベル4、レベル3の学生を抱える名門校である。
そのわりには能力開発のカリキュラムはそれほど厳しくもなく、部活動などが盛んで自由な校風が好評を得ていた。
そしてこの春、学園都市に7人しかいないレベル5の一人が入学したこともあり、今話題の高校であった。

校内では早速、様々な部活が新入生の勧誘活動を行っていた。
そんな中、ジャズ研究会の部室から一人の少女が出てくる。
ギターを背負い、ツインテールのその少女の表情は暗い。

(うーん、なんか本物のジャズとは違う感じかな……)

ふと少女が足を止め、階段の上を見上げると、そこには別の二人の生徒が音楽室の前に立っているのが見えた。

(音楽室……? あそこは、軽音部だったっけ。でも、なくなっちゃったんだよね)

少女はそのまま去っていった。


97:2011/06/26(日) 13:01:43.14 ID:iNmol0qk0

音楽室の前にいた二人の生徒は困惑の表情を浮かべていた。

「あっれ〜、誰もいないや。やっぱなくなっちゃったのかな〜?」

「うーん、勧誘してる先輩もいないし、チラシもないし、そうなんじゃないかなぁ」

「あ、憂、和先輩に聞いてみればわかるんじゃない?」

「そっか、和さんなら知ってるかも」

憂と呼ばれた少女が携帯を取り出そうとすると、一人の教師が現れた。

「あなたたち、どうしたの?」

「あっ、えっと……音楽の山中先生ですか?」

憂が応える。

「ええ、そうよ。音楽室に何か用かしら」

「ええと、こちらの子、純ちゃんが軽音部に入部希望で……」

「見学に来たんです! けど、もしかしてなくなっちゃってたりしますか?」

「ええ、残念だけど軽音部は去年廃部になっちゃったのよ」

「やっぱそうかぁ〜……」

「残念だったね、純ちゃん」

「あなたたちが部員を四人集めれば、新しく作ることもできるわよ?」

「い、いや、さすがにそこまでは……あはは」

「ありがとうございました、山中先生」

「ええ、いい部活が見つかるといいわね」

二人が去った後、音楽教師の笑顔が消える。

「……学園都市第六位・平沢憂、か。よく似てるわね……」


98:2011/06/26(日) 13:02:30.17 ID:iNmol0qk0




ある日の放課後。
結局部活に入らなかったツインテールの少女が教室に一人佇んでいた。

(はぁ……いいバンド、ないかなぁ。ジャズ研はなんか違うし、軽音部は存在すらしないし。
外バンは散々やってきたけど……上手いバンドはあるけど、何かが足りない気がするんだよね)

少女はカバンから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを装着して聴き始める。
曲は放課後ティータイムの『Don't say"lazy"』だった。

(放課後ティータイムみたいなバンド……ないかな)

この少女の心を射止めたバンドは放課後ティータイムだけだった。
しかし、このバンドはかなり特殊な環境下で生まれたものであり、これと似たようなバンドはそうそういない。

(……誰もいないし、ちょっと弾いていこうかな)

少女はギターをケースから取り出し、曲に合わせて弾き始める。


99:2011/06/26(日) 13:04:51.54 ID:iNmol0qk0

ちょうどそのころ、廊下を歩いていた憂のもとへ、向こうから純が走ってきた。

「憂〜!」

「純ちゃん? ジャズ研行ったんじゃなかったの?」

純は結局、かっこいい先輩がいるという理由でジャズ研へと入部を決めていた。

「へへ、忘れ物しちゃって……ん?」

二人が教室の前に到着すると、中からギターの音が聴こえてきた。
しかも、エフェクトがかかった音である。

「え、教室でアンプ使ってんの? 誰だろ……」

純と憂が教室の中をのぞくと、ツインテールの少女がギターを弾いているのが見えた。
しかし、教室内を見渡してもアンプがどこにもない。シールドすら繋がっていなかった。

「上手だね……」

憂が聴き入っていると、純がすかさず突っ込みを入れる。

「いや、ちょっと待って! なんでアンプないのにそんな音出せんの!?」

純の声に気づいた梓がこちらを振り向く。

「「「あ……」」」

目が合った三人の間に沈黙が流れる。
初めに沈黙を破ったのは憂だった。

「あの、ごめんなさい、練習の邪魔しちゃって」

「い、いえ、こちらこそごめんなさい。勝手に大きな音出して……」

謝る少女に対し、純が明るく話しかける。

「いいよいいよ! それより、何もないのにどうしてアンプ繋いだ音がするの?」

「あ、これは私の能力で…『空中回路(エリアルサーキット)』って言って、空気中に電子回路を再現できるんです。
だからアンプがなくても、アンプの中で起きていることを空気中に再現すれば、あとはスピーカーさえあれば音が出せるんです」

そう言って少女は壁に取り付けられた校内放送用のスピーカーを指さす。

「へぇ、すごい能力だね! いいな〜アンプいらないなんて。いつでもどこでも練習できるじゃん。
……えっと、同じクラスだよね? たしか……」

「――中野梓、です」


100:2011/06/26(日) 13:08:22.42 ID:iNmol0qk0

それからしばらく、三人は自己紹介などを交え、梓の悩みについて聞いていた。
レベル4の『空中回路』という能力を持つ梓は、電子機器がなくても空気中にそれを再現できるだけでなく、
半径10メートル以内の電子機器の回路を認識し、遠隔操作することもできる、電子機器のエキスパート。
それゆえ音響関係の機材には非常に詳しく、もともとのギターの技術の高さもあいまって、かなりレベルの高いギタリストであった。

そのため、今まで様々なバンドに所属し、そのテクニックを振るってきたのだが、
最近、技術以外の「何か」が足りないと感じるようになっていた。

それを満たしているバンドこそ、『放課後ティータイム』だと、梓は語る。

「確かに、いいよね放課後ティータイム! なんかよくわかんないけど、惹き付けられるっていうか」

純も放課後ティータイムのファンであり、賛同する。

「純ちゃん、放課後ティータイムって?」

憂はあまり音楽に詳しくないようであり、今話題のバンドですら名前を知らなかった。

「えっ憂、知らないの? 超有名なのに。
顔を隠して活動する謎の女子高生バンドだよ。すごいかっこいいよー、特にベースのMio!」

「ふふ、純ちゃんもベースだもんね」

「ま、憂は主婦業で忙しいもんね〜。知らなくてもしょうがないか」

「えっ!? 結婚してるの憂!?」

梓が驚愕するが、憂がすかさず否定する。

「ち、違うよ! もう、誤解を招くような言い方しないでよ、純ちゃん……」

「あっはは、ゴメン。でも似たようなもんでしょ。
憂はここの2年生の『風紀委員』の先輩とルームシェアしてて、先輩が仕事で忙しいから憂が家事担当なんだ」

「そうなんだ……ふふ、確かに主婦みたいだね」


101:2011/06/26(日) 13:11:02.73 ID:iNmol0qk0

「うう〜……そんなんじゃないってば」

「憂の料理、すんごくおいしいんだよ? 家事は完璧、しかもレベル5! こんな完璧な嫁なかなかいないよ」

「……レベル、5?」

梓がぽかんとしている。

「え、知らなかったの? 入学前から噂になってたじゃん!
へへ〜ん、聞くがいい、梓! ここにおわすは学園都市第六位、レベル5の『能力複製(デュプリケイター)』、平沢憂様であるぞ〜」

「ちょっと、もう、やめてよ、純ちゃん……」

憂は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

「……ええぇぇぇぇぇぇーーっ!?」

音楽一直線で、レベル4ながらあまり能力開発に興味のない梓は、学校一の有名人の存在を知らなかった。


102:2011/06/26(日) 13:12:42.25 ID:iNmol0qk0




帰宅した梓は、放課後ティータイムの曲を聴きながらぼーっとしていた。
今日はレベル5の友人ができたというイベントはあったものの、結局、悩みは解決していない。

(どうしよう……)

煮詰まってきた梓は、なんとなく今日出来たばかりの友人にメールを送ってみる。

『純、なにかいいバンド知らない?』

返事はすぐに返ってきた。

『まだ悩んでたの? もう放課後ティータイムに入れば? なんてね〜』

純の冗談交じりのメールに、梓ははっとする。

(そっか……放課後ティータイムに入ればいいんだ! なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう)

無謀なことを言っているように見えるが、梓の能力は情報処理に関しては『超電磁砲』に並ぶほどの精度を誇る。
ハッキングを駆使して、隠れている放課後ティータイムの居場所を突き止めることは容易だと梓は考えた。

『そっか、そうだよね! ありがと純!』

『えっ、マジで言ってんの? ……ん〜、まあがんばってね』

「……よーし、がんばるぞ〜!」

梓は早速パソコンに向かい、キーボードに触れることなく画面とにらめっこし始めた。
能力によって直接電子回路に干渉し、セキュリティを突破して関連会社にハッキングしていく。

(まず、レコード会社のサイト……っと)

梓の長い夜が始まった。


103:2011/06/26(日) 13:14:32.22 ID:iNmol0qk0

一方、帰宅した憂は夕食の支度を終えると、和が帰ってくるまでの間の時間つぶしのため、
純がオススメと言って半ば押し付けてきた放課後ティータイムのCDを聴くことにした。

(CDなんて、聴くの久しぶりだな……)

憂にとって、音楽を聴くことは行方不明になった姉のことを思い出させるため、今まで自然と避けてきた。
家にある音楽プレイヤーも、何年も前の型のものが一つ、押入れの奥に閉まってあっただけであった。

(あったあった……よいしょ。
えっと、CDをここに入れて……)

再生ボタンを押すと、一曲目『Cagayake!GIRLS』が流れ始める。
聴こえてくるギターの音はなんだか懐かしい感じがして、憂は姉のことを思い出さざるを得なかった。

(お姉ちゃん……)

そして、前奏が終わり、歌が入る。

『Chatting now――』

(――えっ!?)

その瞬間、雷に打たれたような衝撃が走る。


104:2011/06/26(日) 13:16:47.54 ID:iNmol0qk0

その声を、聞き間違うはずがない。何年経とうとも、忘れることはない。
まぎれもなく、その声は最愛の姉・唯のものだった。

(う、うそ……えっ、あ――)

混乱した憂は、ただひたすらボーカルの声に聴き入っていた。もはや曲は聴こえてこない。
その場で硬直したまま、一曲目が終了した。

そのまま憂が唖然としていると、二曲目『Happy!? Sorry!!』が流れ始める。
このボーカルもやはり、姉の声であった。

二曲目も終了し、我に返った憂がCDに付属の歌詞カードを読み漁る。
そこに書いてあったのは――

『vox/guitar Yui』

「おねえちゃん……!!」

放課後ティータイムのギターボーカル、Yuiの正体は姉・平沢唯である。
姉は生きている。そう確信した瞬間、憂の目から涙がこぼれた。


105:2011/06/26(日) 13:17:27.07 ID:iNmol0qk0




しばらくして和が帰ってくる。

「ただいま、憂」

「……和ちゃん〜!!」

帰ってくるなり、涙で顔がぐちゃぐちゃの憂がいきなり飛びついてきた。

「ちょっ、どうしたの憂!?」

「和ちゃん! おねえちゃんが、おねえちゃんが……」

「えっ……唯が?」




落ち着いた憂から事情を聞き、和も例のCDを聴く。

「唯……!! 間違いないわ……」

和の目からも、涙がこぼれる。
その後、二人はしばらく抱き合って泣いていた。

そして、二人の今後の目標が定まる。
放課後ティータイムの居場所を探し出す、と。


106:2011/06/26(日) 13:20:27.77 ID:iNmol0qk0




翌日、登校した純が見かけたのは、グロッキーになっている梓と憂の姿だった。

「おはよ〜……って、どうしたの二人とも?」

「うう……寝不足……」

梓は夜通しハッキングにいそしんでいたが、思わぬ苦戦を強いられた。なにせ、相手は琴吹グループ。
そもそもレコード会社自体が、放課後ティータイムに関する情報を知らないため、まったく手がかりは得られなかった。
そのバックにつく琴吹グループが怪しいというところまでは突き止めたものの、尋常ではない堅さのセキュリティに阻まれ、
梓の能力を持ってしても破ることはできなかった。

「まさか梓、本気で放課後ティータイムに入ろうとして探してたの!?」

「……うん」

「うわー、やっぱマジだったんだ。ホント好きだねえ。
憂はどうしたの、珍しいね? CD聴いた?」

「……ちょっと眠れなくて。CDは聴いたよ、すごくよかった。
はい、これありがとう」

「でしょ〜?」

よかった、の意味はややズレていたが、満足げに純は憂からCDを受け取る。

憂は結局一晩泣き明かし、一睡もしていなかった。
そして今新たに発覚した問題について、徹夜明けの頭を回転させ考える。

(梓ちゃんも、放課後ティータイムを探してるんだ……)

梓と協力して探す、ということはなんとなく気が引けた。

憂は昨晩、和と話し合う中で、放課後ティータイムがなぜ顔を隠すのかについて不自然さを感じていた。
行方不明になった唯が、なぜわざわざ顔を隠して活動する必要があるのか。
居場所を公開してくれれば、憂や和と再会できる。
それができないような何らかの事情があるのでは、というのが二人の見解だった。

そもそも唯が行方不明になった事件では、研究所が破壊されたり、そこの研究員が謎の死を遂げるなどしておきながら、
それに関する捜査は非公開で、意図的に情報を隠すようなことが見受けられた。
そのころから憂と和は学園都市の『闇』の存在を疑い始め、それを暴くために和は『風紀委員』を志した。

唯がその『闇』が関連する事件に巻き込まれたのは明らかだ。
だからこそ今回も、唯がその存在を隠さなくてはいけない理由に『闇』がからんでいるのではないかと考え、
それに梓を巻き込むのはまずい、と考えた。

(梓ちゃんには悪いけど、隠しておこう……なんとか先に見つけなきゃ)


107:2011/06/26(日) 13:21:32.83 ID:iNmol0qk0

その日から、梓と憂は放課後すぐに帰宅し、それぞれ放課後ティータイムについて調べる日々が始まる。
しかし、音楽に関しては素人な憂はどこから調べていいか検討がつかず、初動が遅れる。

一方の梓は琴吹グループ本社にハッキングすることは諦め、ネット上で情報収集していた。
既に放課後ティータイムの正体に関して考察するサイト、スレッドは山ほどあり、様々な噂が流れていた。

(『放課後ティータイム打ち込み説』? ばかばかしい……打ち込みであんないい演奏できるわけないでしょ。
こっちは……『デスデビル再結成説』? へえ、昔にも顔を隠したバンドってあったんだ。
でも、元はデスメタルなのに今は放課後ティータイムとか……さすがにないでしょ)

どれも憶測に過ぎず、有力な情報は得られない。

(『キーボードのMugiは琴吹グループ令嬢の琴吹紬』……これはありえるかも。
でもあの会社調べても無理だし……あ〜もう、思い出したらイライラしてきた)

情報処理能力に自信のあった梓にとって、先日の琴吹グループへの敗北はプライドを傷つけるものだったようである。

その後も梓は全精力をあげて徹底的に調べ上げる。

(そうだ、インディーズ時代の活動を調べれば!)

しかし、放課後ティータイムに下積み時代はない。

(じゃあ、全国の高校の軽音部を調べれば)

学園都市内外のすべての高校の軽音部とそのメンバーを調べ上げるも、該当するものはなさそうだった。

(なら、スタジオの使用履歴を調べれば……)

放課後ティータイムは全ての練習・録音を琴吹家の個人所有のスタジオで行っているため、
一般及びレコード会社のスタジオの使用履歴にそれらしいバンドはいなかった。

(あ〜もう! どうなってんの……)

力尽きた梓はそのまま机に突っ伏して眠りについた。


108:2011/06/26(日) 13:22:33.22 ID:iNmol0qk0




数日後の放課後。
日に日に目の下のクマが増していく梓と憂を心配する純をよそに、梓は校舎をあとにした。

(こうなったら、最終手段――)

梓は『放課後ティータイムっぽい四人組を見かけた』という目撃情報のあったところへ直接出向く作戦に出た。
しかしそのほとんどはハズレであり、一向に手がかりが得られる気配はない。

その後も何日もかけて学園都市中を駆け巡ったが成果はなく、手持ちの目撃情報はすべてなくなってしまった。



そして、とある日。
もはや万策尽きた梓は、放課後ティータイムには何の関係もない、単なる噂話を調べていた。

(『第八学区の高級住宅街に女子高生っぽいのが住んでる』……か。
あてになんないけど……行ってみよう。えっと確か近道が……)

第八学区は、教員などの社会人が多く住む地域。大人や小さい子供の姿は多いが、学生向けの寮、娯楽施設はほとんどない。
そこの高級住宅街に女子高生が住んでいるというのは、確かに不自然だ。

梓は手早く近道を調べ上げ、第八学区へと向かった。



109:2011/06/26(日) 13:24:46.41 ID:iNmol0qk0





その数十分後。
第七学区、とある路地裏にて。
学園都市の闇に抵抗する組織に属する二人の男が立っていた。

「……どうだ?」

「ダメです、もう一時間も連絡ありません」

部下の男が先ほどから何度も電話をかけているが、相手はまったく出ない。
その相手は、彼らと協力関係にあるとある組織。その組織が任務を完了し、連絡が来るのを男たちは待っていたが、
約束の時間を一時間過ぎても音信不通だった。

これが意味することは、その組織は学園都市の闇によって葬られたということである。

「ちっ、またか……くそっ!」

「また、『例の組織』ですか?」

「おそらくそうだろうな……」

『ユニゾン』の快進撃は、彼らのような反抗組織の間では恐怖の対象となっていた。
少しでも上層部の情報を得ようものなら、その組織は翌日には圧倒的な強さでもって速やかに壊滅させられる。
生き残りが一人としていないため、敵組織の情報もほとんど得られない。
おそらく、恐ろしく強い少数精鋭の組織が暗躍しているのでは、という程度の予想しか彼らにはできなかった。


110:2011/06/26(日) 13:26:11.42 ID:iNmol0qk0

「このままじゃ計画がまったく進みませんよ。なんとかそいつらを見つけて始末するしかないんじゃ……」

「だが、情報がない。今までに奴らに関して得られた有益な情報は、これだけだ」

そう言って、上司の男は携帯の画面を見せる。

「これは先週、別の協力組織のやつが任務中に送ってきたメールだ。これ以降そいつらとは連絡はとれていない。
このメールを送信した直後、やられたんだろう」

メールの本文には“ギター女、きーぼーd”とだけ表示されていた。
さらに、建物の屋上から地上にいる四人の女を撮影した写真が添付されていた。
画像はブレており顔は不鮮明だが、本文の通りギターを持った女とキーボードを持った女がいるのが辛うじて分かる。
そして、キーボードを持った女は、明らかにこちらを見ている。

「これが……その『組織』?」

「おそらくな。能力者の女4人ってところだろう。この写真を撮ったやつは屋上に隠れていたにも関わらず、
キーボードの女に気づかれている。しかも本文が入力途中ってことはこの直後にやられたということだ。
探知能力に、遠距離射撃、ってとこか。どうりで一人残らず殺されるわけだ」


111:2011/06/26(日) 13:27:21.33 ID:iNmol0qk0

「しっかし……なんで楽器なんですかね?」

「それはわからんが、それがこいつらの最大の特徴だ。それを手がかりに探すしかないだろう……ん?」

そのとき、男の視線の先にギターを背負ったツインテールの少女が走っていくのが見えた。

「ギター……か」

「え? ……ああ、あのガキっすか。ギター持ってるやつなんていくらでもいますって、しかも制服来てるじゃないですか」

「そりゃそうだが……いや待て。なぜこんな路地裏にギターしょったガキがいる?
この辺は俺らみたいなやつらしか知らない抜け道だ。しかも向こうは第八学区。教師どもが住む学区だ。
制服着たガキが行くようなところじゃねえ」

「さあ、援交とかじゃないっすか?」

「わざわざギター持っていくか? どんなプレイだよ……
しかも今はちょうど学校が終わった時間だろう。ギター持ってんだったら部活に出てるはずだ。
教員どもとバンド組んでるとも思えねえしな。わざわざあっちに行く理由がわからん」

「そうすると……あのガキが例のギター女だと?」

「可能性はある。つけるぞ。やつの素性も調べておけ」

男たちは梓の追跡を開始する。
部下の男は携帯電話で遠方から梓の写真を何枚も撮り、それを組織の情報端末へと送信する。
その写真は、彼らが不正に入手した能力者データバンクと照合され、外見や制服の特徴が一致する学生がすぐに割り出される。

「――出ました。桜ヶ丘女子高一年、中野梓、能力はレベル4の『空中回路』」

「ほう、レベル4か……よし、要注意人物リストに追加しておけ」


112:2011/06/26(日) 13:29:09.58 ID:iNmol0qk0




第八学区、高級住宅街。
梓は噂のあった付近を歩いていた。

(このへんのはずだけど……どの家だろう? 出てくるまで待ってようかな)

あたりの家に住むエリート教員たちはまだ仕事の時間であり、住宅街は閑散としていた。
幼い子供が遊ぶ声が遠くから時折聞こえてくる。

(おっきな家……いいなあ)

梓が家を眺めていると、あることに気づく。

(あれ……この家、二階にスタジオがある)

能力により、二階部分に音響機材の存在を感じ取った梓は、その種類や配置などからスタジオだと判断した。
さらに、機材の内部の構造からそのメーカー、グレードまで判別する。

(すごっ……いい機材ばっかじゃん。さすがお金持ち)

レベル4である梓も相当お金は持っているほうだったが、この家においてある機材は格が違った。
そんな高級機材の電子回路を舐めるように堪能していると、突然電流が流れ始める。
演奏が始まったのだ。

スタジオは完全防音であり、外にまったく音は漏れていなかったが、梓は電流の流れ方を感じ取って自らの脳内で曲を再生する。
そしてその曲は――

(……うそ、『Don't say"lazy"』!?)

まさか、本当に放課後ティータイムがこの中にいるのか。
梓は、単なるコピーバンドである可能性を考えた。

(いや、でもこのクセのあるギターは、どう聴いてもYui……。ほんのちょっとだけ走るドラムは、Ritz。
正確だけど、たまに熱がこもるキーボードは、Mugi。そして、このベースと歌声は……間違いなくMioだ!)

(本物だぁ……本物の放課後ティータイムだ!)

次の瞬間、梓はインターホンを押していた。


113:2011/06/26(日) 13:30:41.74 ID:iNmol0qk0

一方、呼び鈴が鳴り響いたスタジオ内には一気に緊張が走る。
職業柄、予定にない来客は敵襲の可能性を考慮しないといけない。

「……ムギ、どうだ?」

律が低い声で紬に訊ねる。
家にいる際、紬は常に探知能力を使用し、外を監視していた。

「……さっきから、うちの前でギターしょった女の子が立ってて、ずっとこっちを見ていたわ。防音のはずなんだけど……
見た目からして暗部がらみには見えないけど、微妙なところね」

「ギター? っちゅーことはファンとかか?」

「そうかもしれないけど、一般人だとすると何でここが分かったのかしら……。どちらにしろ、確認する必要があるかも」

そう言うと紬は、スタジオ内に取り付けてあったインターホンのボタンを押す。
画面に梓の姿が映される。

「どちらさまですか?」

『あっ、え、えーと、その……放課後ティータイムさんのお宅ですかっ!?』

梓は明らかに焦っていて、声が裏返っている。
その姿に皆が苦笑する。

「はは……こりゃ暗部の線は薄いか〜? 明らかにただのファンだろ〜」

「でもそうすると、ムギの言った通りどうやってこのアジトの場所を突き止めたのか確認しなきゃな。
もし暗部にやられてたらと思うとぞっとするよ……」

一同は梓を一旦迎え入れ、話を聞くことにした。

「はい、そうですよ。今開けるから待っててくださいね〜。
……行ってくるね。念のため、キーボードを持っていくから、みんなも後ろで待機しててもらえる?」

インターホンを切ると、紬はキーボードを構えたまま、階段を降り玄関へと向かう。


114:2011/06/26(日) 13:31:56.16 ID:iNmol0qk0

(まだかな〜まだかな〜)

紬が出てくるまでの数十秒間は、梓にとって永遠にも感じられていた。
そして、玄関に向かってキーボードが移動してくるのを能力で感じ取る。

(――来たっ、放課後ティータイムのMugiだ!! 本当に会えるなんて……!)

「いらっしゃ〜い」

「こ、こんにちは! いきなり押しかけてすみません! あ、あの、私――」

「うふふ、緊張しないで。どうぞあがってください、中でお話しましょう?」

「え……いいんですか!?」


115:2011/06/26(日) 13:32:39.79 ID:iNmol0qk0

そのやりとりを、遠方から双眼鏡で見ている者たちがいた。

「……キーボード女! これはビンゴかもな。
よし、仲間に連絡しろ、総動員だ。あと、赤外線スコープも持ってこさせろ。中に他のメンツもいるはずだ」


116:2011/06/26(日) 13:33:35.93 ID:iNmol0qk0




居間に通された梓にお茶が出される。

「あ、すみません、こんなにしていただいて……」

「いいのよ〜。さ、みんなどうぞ」

奥の部屋から残りの三人が登場する。

(うわあぁぁ、本当に放課後ティータイムだ〜……!)

メンバーの顔は見たことはないものの、だいたい梓のイメージ通りの人物であった。
一人ずつ、自己紹介を始める。

「よく来たな〜! あたしがリーダーで、ドラムの律だ」

「ようこそ。私はベースの澪」

「いらっしゃ〜い、わたしがギターの唯です!」

(えっ……憂!? そっくりだ……偶然だよね? 憂にお姉さんっていたっけ……)

梓は憂にそっくりな唯の顔を見て驚く。

「……ん? わたしの顔に何かついてるかな?」

「い、いえ、なんでもないです! 私は中野梓と申します、よろしくです」

「私はムギよ。あらためてよろしくね、梓ちゃん」


117:2011/06/26(日) 13:35:30.78 ID:iNmol0qk0

全員が着席したところで、早速、律が切り出す。

「……なあ、梓ちゃん。どうしてここがわかった?」

「え、あ、えっと……」

「りっちゃん、いきなりじゃだめだよ〜! 梓ちゃん怖がってるじゃん」

「あ、ああ、すまん……だって気になるじゃ〜ん」

「いえ、こちらこそすみません。勝手に調べて押しかけて……」

梓は自らの能力、そしてここにたどり着いた経緯について語りだす。
話が進むにつれ、皆の、特に紬の表情が驚きへと変わっていく。
琴吹家の情報管理能力に自信のあった紬は、アジトを特定されたことに少なからずショックを受けていた。

「そ、そんな……うちの情報管理もまだまだ甘いわね。すぐに改善させなきゃ……
すごいわ梓ちゃん、うちの技術部に欲しいくらいよ」

「い、いえ、偶然ですよ……実際、本社のセキュリティはどうしても破れなかったですし……」

互いに謙遜し、おだて合うが、二人の間には静かに火花が散っていた。


118:2011/06/26(日) 13:37:10.08 ID:iNmol0qk0

「いや〜しっかし、すごい執念だな……そこまで調べ上げるなんて。最後のほうなんか、ほとんど手当たり次第じゃん」

「それだけ愛されてるってことだ。ありがとう、梓ちゃん」

澪の言葉に、梓の表情がぱあっと明るくなる。

「……は、はい! 放課後ティータイム愛なら誰にも負けません!」

「おお〜っ、可愛いねえ〜♪」

思わず立ち上がって満面の笑みで愛を叫んだ梓に対し、突然唯が抱きつく。

「に゛ゃっ!? ちょっと、Yuiさん!?」

「おっ、唯の抱きつき癖が始まったか。こりゃ逃げられないぜ〜、梓ちゃん」

「初対面なのによくやるよ……」

「…………いいわあ〜」

誰一人として唯の抱きつき攻撃を止めるものはいなかった。

「よしよし……梓ちゃんほんと可愛いねぇ〜」

(わ……私、放課後ティータイムのYuiにハグされてる!? 撫でられてる〜!?)

ボン、と音を立てて、梓は陥落した。

「「「……あ、堕ちた」」」


119:2011/06/26(日) 13:38:13.91 ID:iNmol0qk0

梓が復活した後、今度は梓からの質問タイムが始まった。
といっても、どこの高校に通っているかとか、何者なのかという質問には答えられない。
成り行き上、紬が琴吹家の令嬢であることはバレてしまったが。

「……すいません、やっぱり答えられないですよね」

「ごめんな〜。一応、あたしたちも秘密を保たなくちゃいけないからさ」

「はい。ところで、みなさんは高校2年生なんですよね?」

「えー、あ〜っと……」

「ええ、そうよ」

設定を忘れかけていた律をすかさず紬がフォローする。
小声で澪の檄が飛ぶ。

(こら、律! ちゃんと覚えておけ!)

(てへへ〜、すまん。あぶねあぶね)

「じゃあ、先輩って呼んで良いですか!?」

「せ、せんぱい……!? ああ、いいっ……」

高校生活に憧れている唯は、先輩という言葉に身をよじらせて喜びに浸る。

「先輩方にお願いがあるんです。
あの……一緒に演奏してくれませんか!!」

梓の提案を、一同は快諾する。

「せっかくギター持ってきてもらったしな。よ〜し、やろうぜ!」

「スタジオに案内するわ。どうぞ、梓ちゃん」

「は……はい! ありがとうございます!!」


120:2011/06/26(日) 13:41:22.26 ID:iNmol0qk0

スタジオに移動した一同が楽器の準備をしていると、紬があることに気づく。

「そういえば、梓ちゃん用のアンプがないわ……奥に予備があったかしら」

「あ、大丈夫です。私の能力で、アンプがなくても演奏できますから」

そう言って梓はカバンの中からアンプの部品のようなものを取り出し、床に置く。
ギターの弦を鳴らすと、エフェクトのかかった音が部屋中の壁から響いた。

「おおっ、わたしと同じだね!」

「ええっ、唯先輩もですか!?」

実は唯もアンプなしで演奏できる。しかも部品等も必要なく、音色も自在に変更できる上に、その音はギター自体から響いてくる。
ただ、能力使用に気をとられて演奏がおろそかになることが多かったため、普段はアンプをつないでいた。

「こいつの能力はなんでもありだからな〜。本人も原理はよくわからないらしいし」

「むぅ、なんかずるいです……」

対抗意識を燃やす梓に澪は、

「でも、梓の能力もすごいと思うよ。電気の流れ方が手に取るように分かれば、細かい音作りもやりやすいだろうし。
機材の種類まで分かるなんて、うらやましいな」

と褒める。放課後ティータイムのMioに特に憧れていた梓は、その本人から褒められたことに頬を染める。

「あ、ありがとうございます……澪先輩は、音響機材にも詳しいんですよね? 雑誌のインタビューで見ました」

「まあ、他のみんなよりは、かな。梓もかなり詳しそうだな。たとえば――」

澪と梓のマニアックなトークが始まり、ついていけなくなった唯と律がぶーぶー言い始める。

「澪ちゃん〜、はやくやろうよ〜」

「そーだそーだ〜っ」

「――はっ! ゴメン。じゃあ梓、やろうか」

「はいっ!! みなさんに比べたら、全然へたくそですけど……よろしくお願いします」



121:2011/06/26(日) 13:42:00.53 ID:iNmol0qk0

梓は唯のパートを全て記憶していたため、唯は最近作った別のギターパートを担当し、演奏を開始する。

(す、すごい……これが、放課後ティータイム……! た、楽しい! 私、ついていけてるかな……?)

そして、確信する。やはり自分には、放課後ティータイムしかない。
梓の求めている何かが、そこにはあった。



122:2011/06/26(日) 13:43:03.46 ID:iNmol0qk0

やがて演奏が終了し、テンションが上がりきっている梓がやや息を切らしながら言う。

「す、すごかったです……ありがとうございました! すみません、私……みなさんの足を引っ張っちゃって」

梓は自分の技術が至らないと謝るが、一同は驚きの表情を浮かべていた。特に唯は顔面蒼白である。

((((う、うまい……))))

技術においては、梓は放課後ティータイムのメンバーに並ぶどころか、明らかに唯より上手かった。
なぜか本人は気づいていないが。

「ま、まあまあかな!? あは、あははは……」

「おいこらっ、唯!?」

焦って思わず見栄を張ってしまった唯を横目に、澪と紬は素直に梓を賞賛する。

「驚いたよ、梓。すごく上手いじゃないか」

「足を引っ張るだなんて、全然そんなことなかったわ。ふふ、むしろリードされちゃったかしら……?」

「そ、そんなことないです! みなさん本当にすごく上手で……」

立場が危うくなってきた唯がその場にへたれこむ。

「あうぅ……」

「はは、こりゃ〜やられたな、唯。あきらめて練習しろって。まず本を読め」

ギターを片時も離さず生きてきた唯の技術も相当なレベルであったとはいえ、完全な自己流だったため、
知識豊富な梓にはかなわないところがあった。


123:2011/06/26(日) 13:44:21.51 ID:iNmol0qk0

その場でしばらく話をしていると、完全下校時刻を伝える放送がスタジオ内のスピーカーから聞こえてきた。

「あ……」

梓が残念そうな表情をする。

「そろそろお別れね、梓ちゃん」

「梓ちゃん、今日はありがとね! わたしたちも楽しかったよ〜」

「あ……はい」

しかし、ここで帰るわけにはいかない。まだ、梓の本来の目的は果たされていなかった。

(言わなきゃ……言うんだ私!)

「あ……あの!
――私を、放課後ティータイムに入れてくださいっ!!」


124:2011/06/26(日) 13:45:17.53 ID:iNmol0qk0

答えはNOと決まっている。
しかし、それを即答できる者はいなかった。
先ほどの梓を交えての演奏は、放課後ティータイムのメンバーにも影響を与え、
皆、少なからず梓と一緒に演奏したいという感情が芽生えていた。

沈黙が支配するスタジオ内に、キーボードの奇怪な音が一瞬、響く。紬は、念話能力を発動した。

(みんな、聞こえる? 私……少し揺らいじゃった)

(私もだ、ムギ……さっきの演奏、すごく楽しかった)

(ってもな〜……入れるわけにはいかねーし。
暗部組織だってことだけ隠して、たまにアジトに呼んで一緒に演奏するとかはどうだ?)

(でもりっちゃん、もしバレちゃったら……)

もしバレれば、梓にも暗部の手が及ぶ。
自らと同じ思いをさせたくないという思いから、唯は一般人に被害が及ぶことに対しては敏感だった。

(……そだな。残念だけど、却下だ、却下。
唯、言ってあげな)

(……うん)


125:2011/06/26(日) 13:46:37.47 ID:iNmol0qk0

「……あ、あの。すいません、やっぱり迷惑でしたよね」

沈黙をNOと受け取った梓は、申し訳なさそうに言う。

「梓ちゃん」

「は、はい!」

「……ゴメンね、梓ちゃん。入れてあげることはできないよ」

「……っ、はい」

「でも、梓ちゃんとの演奏、楽しかったよ。私はちょっとビビっちゃったけどね、えへへ……
こんな可愛くて、ギターが上手で、私たちのことを慕ってくれる後輩が入ったら、もっと楽しいだろうなって思った。
梓ちゃんに入って欲しいって、みんな思ってるんだ。これは本当だよ」

「え……」

「でもね、どうしてもそれができない理由があるんだ。それが、私たちが顔を隠してる理由でもあるんだけど……
だから――」

ごめんなさい。
唯がそう言おうとした瞬間――

「――唯ちゃん、バリアー!!」



――ドゴオォォォォォォォォォッッ!!!


126:2011/06/26(日) 13:48:32.72 ID:iNmol0qk0





「な……なにがあったの?」

突然の轟音に思わず目をつぶっていた梓がその目を開くと、信じられない光景が飛び込んできた。

「えっ……か、壁が、ない……」

二階に位置するスタジオの壁は吹き飛んでいて、外の光景が見えた。
よく見ると、唯を中心に半径5メートルほどの透明なバリアーが展開されており、その外側にある壁、床、天井は跡形もなく消え去っている。
外からバズーカのようなものを撃ち込まれたようだ。
対して、バリアーの内側はまったく被害はなく、彼女たちは全員無事だった。

「ちっ……敵襲かよ!?」

「敵は表に十人! バズーカを持っているのが一人、あとはマシンガンよ!
あと、裏口にも五人いるわ!」

探知能力を駆使して事前に敵の存在を察知していた紬が、敵の構成を報告する。
その報告通り、直後にマシンガンの弾丸の雨が唯のバリアーを襲う。
バリアーにヒビが入り始めた。

「あわわわ、もうもたないよ!?」

「私に任せてくれ! バリアーが消えた瞬間に衝撃波で一気に仕留める!」

「よし、任せた澪! あたしと唯は裏口にまわる。ムギは梓を頼む」

「ええ、わかったわ。さあ、梓ちゃん、こっちよ」

「……え……あ……」

目の前で起こっていることに理解が追いつかずに呆然としている梓の目をふさぎ、奥の安全な部屋へと連れて行く。


127:2011/06/26(日) 13:49:26.38 ID:iNmol0qk0

唯のバリアーは、もう限界近くまで達している。
澪は床をほふく前進しながら、床が存在するギリギリのところまで進み、左手を上げて能力の発動の準備をする。
下を見ると、紬の言った通り九人の男がこちらにむかってマシンガンを撃っており、
中央には駆動鎧を着てバズーカを装備したリーダーとおぼしき男がいた。

「澪ちゃん、バリアーを消すよ! 3、2、1――」

「――今だっ!!」

バリアーが消滅した瞬間に、澪の衝撃波が発動。
轟音とともに、男たちは吹き飛ばされ、向かいの家の壁ごと破壊する。
あたりの家の窓ガラスも割れ、遠くからは住民の悲鳴も聞こえてきた。

「よし、唯、行くぞ!」

「了解りっちゃん!」

律は唯を小脇に抱えると、壁や床を破壊しながら高速で移動し、最短距離で裏口へと到着する。

「大胆だねりっちゃん……」

「……どうせこの家はもうだめだしな」

裏口へ到着した二人に紬から声が届く。

(裏口にいる五人は扉の外で銃を構えて待ち伏せしてるわ。
表をバズーカで破壊して、裏から逃げたところを狙い撃ちしようとしてるみたい)

「へっ、そんなんであたしらがやられるかっつーの。突撃だ!」

「くらえ〜、ギー太ビーム!」

唯が裏口の扉に向かって六本のレーザーを放つと、貫通して外の数名に命中したようで、悲鳴が聞こえてきた。

「おりゃ〜!!」

律が扉を突き破って外へと出ると、一人は胴を真っ二つにされて既に絶命しており、一人は腕を失って戦闘不能となっていた。
残る三人の銃撃をものともせず、的確に一人ずつ首の骨を折り、あっさりと戦闘は終了した。


128:2011/06/26(日) 13:50:56.93 ID:iNmol0qk0

一方、澪は玄関から出て先ほど倒した男たちを確認しに行く。
向かいの家の壁にめり込んでいる九人は、既に死亡していた。
そして、駆動鎧に身を守られていたリーダーは、まだ息があった。

「これは好都合だな……ムギ! 聞こえてる?」

念話能力で澪の声を聞き取っていた紬が玄関から出てくる。

「澪ちゃん! どう?」

「リーダーはまだ生きてる。どうやってここを見つけたのか、聞き出そう」

「ええ、わかったわ」

紬は空間移動の能力を用い、駆動鎧だけを地中に転移させる。
さらにリーダーを手馴れた手つきで拘束すると、車庫に止めてあった車のトランクへと転移させた。

「幸い、向かいの家には誰もいなかったみたいね」

「ああ。でも、一般人を巻き込んでしまった……」

「……今回の被害の後始末は、うちの会社に任せて。今はここを離れましょう。
家の中の始末はもう終わったから」

紬は梓を安全な部屋に誘導したあと、家の中にあった重要な物を処分してまわっていた。

さらに、証拠隠滅のため、紬は男たちの遺体を手早く地中へと転移させていく。
澪は車庫にある車のエンジンをかけ、逃げる準備をする。
すると、裏口の処分を終えた律と唯が梓を連れて現れた。

「よっしゃみんな、逃げるぞ!」

律が運転席に乗り込み、澪は助手席に移動する。
唯と紬が梓をはさむように後部座席に乗り込むのを確認すると、律は猛スピードで車を発進させる。

「梓ちゃん、目をつぶっててね?」

呆然としていてもはや言葉も出ない梓の目を唯が優しく手で覆い隠す。

紬が何かの端末のようなもののスイッチを入れると、アジトから爆発音が聞こえ、火の手が上がった。


129:2011/06/26(日) 13:52:44.62 ID:iNmol0qk0




一同は第八学区を離れ、第七学区を越えて第十学区のアジトへと逃げ込んだ。
このアジトの周りには寂れた廃ビルや、怪しい施設が立ち並び、遠くにはスラム街のような地域が見える。
アジト自体、一見すると廃墟のように見えるが、中はきれいに改装されており、他のアジトと同じく高級感にあふれる部屋が並ぶ。

第八学区の高級住宅街から来た高級車はこの学区の雰囲気に明らかにマッチしないため、
律は皆を下ろした後、車を別の場所に隠してきた。

律がアジトに戻ると、澪が待っていた。

「お、澪。他のみんなは?」

「ムギは敵のリーダーから話を聞きだしてる。ってもほとんど拷問だけど……」

奥の部屋では、紬が精神感応系の能力を駆使してリーダーから情報を引き出している最中だった。
しかしレベル3程度の能力では不十分なようで、それを補うための拷問が行われているのだろうか、悲鳴が時折聞こえてくる。
第十学区は、このようなことを行うのに適していた。

「ムギって、お嬢様なのに意外とえぐいことするよな〜……唯は?」

「唯は梓についてるよ。……梓、さっきからずっと放心状態だ」

「まあそうだろうな、一般人がいきなりあんなの見せられたら……。
で、どうする、澪? ……梓に、ばれちまったな」

一般人である梓に、放課後ティータイムの正体だけでなく、暗部組織であることまで知られてしまった。
当然ながら、証拠隠滅をしなければならない。



130:2011/06/26(日) 13:53:49.17 ID:iNmol0qk0

「……梓を殺すなんて、考えたくもないよ」

最も残酷で簡単な方法は梓を殺害することだが、その選択肢を澪はすぐに否定した。

「……口封じして、表に返すか? 今回のことでショックを受けてるだろうから、そう簡単にペラペラしゃべっちまうとは思えないしな」

「それは、危険よ」

リーダーから情報を引き出し、処分を終えた紬が奥の部屋から現れた。

「この組織は、梓ちゃんがギターを背負ってたから唯ちゃんだと勘違いして、つけていたみたいなの。
幸い、私たちの正体やアジトの場所は他には漏れなかったけど、梓ちゃんの素性はもう調べられていて、要注意人物として他の組織にも広く知れ渡ってるみたい……
だから、元の生活に帰したら、この組織を壊滅させた犯人として、まっ先に狙われることになるわ」

「「……」」

残る答えは、梓を仲間に引き入れ、保護することだった。
放課後ティータイムに入りたいという梓の願いは、最悪の形で叶えられることになる。

「……行こうぜ、唯と梓のところへ」


131:2011/06/26(日) 13:56:18.15 ID:iNmol0qk0

律たち三人が部屋の扉を開けると、中にはうつむいている梓と、彼女を抱きしめている唯の姿があった。

「……梓、聞いてくれ。唯もだ」

「りっちゃん……」

唯が不安そうな目で律を見る。

「梓、見てなんとなく分かったと思うが、あたしらはこういう組織だ。……人殺しだ。
ま、好きでやってるわけじゃないけどな」

梓はうつむいたまま答えない。

「そんで、お前はさっきの奴らにつけられてたみたいで、顔も割れているらしい。
たとえ今日のことをきれいさっぱり忘れて元の生活に戻ったとしても、ずっと奴らに狙われ続けることになる。
だから、お前は今日からあたしたちが保護する、というか……仲間になってもらうしかないんだ」

「そんな、りっちゃん!! 他に方法はないの!?」

一般人からの暗部堕ちという悲劇を二度と繰り返したくない。その思いから、唯が必死に反論する。
しかし、他にいい方法は思い浮かばなかった。

「すまん、梓、唯……わかってくれ」

「うう……そんな……!! ごめんね、梓ちゃん、ごめんね……!!」

唯は泣きながら、梓をさらに強く抱きしめる。
すると、梓がついに口を開いた。

「……いいんです」

「「……え?」」

梓の言葉は、意外なものだった。

「いいんです。どうせ私には、放課後ティータイムしかなかったんですから。憧れの放課後ティータイムに入れて、むしろ嬉しいですよ。
……ああ、そうだ。さっき私は、あの組織に襲われて死んだんですよ。死んだはずの人間が、こうやって新しい命を与えられて、
しかも好きなバンドをやって過ごせるんですよ? あは、そう考えたら、なんか楽になってきました。
むしろ私、幸せ者じゃないですか。あは、あははは――」

梓の狂った笑いは、いつぞやの唯を思い起こさせる。

「梓ちゃん……泣きたかったら、泣いていいんだよ?」

「う……あ……あああぁぁぁぁぁぁ!!!」


132:2011/06/26(日) 13:57:21.60 ID:iNmol0qk0




数日後、桜ヶ丘女子高にて。

この日、梓が行方不明になったことを告げる全校集会があった。
さらに、学校周辺に不審者の目撃情報が多発しているとのこと。その不審者は、梓を狙ってきた組織の者であった。

事件を受け、『警備員』及び『風紀委員』は警戒を強化。和は仕事に追われていた。

憂は結局、梓より先に放課後ティータイムを見つけることはできなかった。
和と協力し、インターネットなどで調べるなどしても、梓と同じ道をたどっただけで手がかりは得られない。

そして、梓は行方不明になった。
おそらく、放課後ティータイムの居場所に関して有力な情報を得てしまい、『闇』に巻き込まれたのだろう、と憂は推測した。



133:2011/06/26(日) 13:58:31.63 ID:iNmol0qk0

この日、すべての部活動は中止。
誰もいなくなった放課後の教室に、憂と純がたたずんでいた。

「憂……話って何?」

「……梓ちゃんのこと」

梓が行方不明になったことを受け、憂は純にすべてを話すことにした。

「前に、私のお姉ちゃんのこと、話したよね。あの話には、続きがあって――」

学園都市の『闇』の存在。放課後ティータイムのYui。それと今回の事件の関係について。
レベル5でありながら友達を救えなかった自責の念にかられ、ときおり泣きそうになりながらも、淡々と話した。
そして、話を聞き終えた純が激昂する。

「……憂のバカっ!! なんで今まで黙ってたのさ!!」

「……っ!
ごめんね、純ちゃん……純ちゃんまで、危ないことに巻き込みたくなかったから……」

「だからって!? 友達でしょ!? そりゃ私は、レベル5に比べたら役に立たないかもしれないけど……
私だって、知ってたら梓や憂のために協力したかったのに……!」

「ご、ごめん……ね……うぅ……」

ついに憂は泣き出してしまう。

「まったく……憂はいつもそうやって一人で抱え込むんだから。ちょっとは友達を頼ってよ」

「うん……うん……!」

「私も、協力するからね。梓も、憂のお姉ちゃんも、絶対に見つけ出そう?」


134:2011/06/26(日) 13:59:42.40 ID:iNmol0qk0





梓が暗部に入ってから数週間が過ぎようとしていた。

梓はまだ精神的に不安定な状態で、あれから一度も全員で演奏はしていない。全員でのティータイムもまばらだ。
仕事のときは、梓の能力は戦闘に向いていないため、基本的にはアジトに残って情報収集を担当していた。

(なんか、いまだに実感わかないな……私は放課後ティータイムの一員、そして、人殺しの組織の一員)

ギターを弾く気も起きなければ、人殺しに加担する気も起きない。
常に憂鬱な気分で、パソコンで仕事を適当にこなすだけの日々が続いていた。

(だめだ……こんなんじゃ、先輩たちの足を引っ張るだけだよ)

実際、その先輩たちはそんなことは微塵も思っていない。仕方ないよ、休んでていいよ、と優しく接してくれている。
しかし、自分がいるせいで放課後ティータイムの音楽活動が止まってしまうのが許せなかった。

(……決めた。人殺しでもなんでも、やってやるんだ。立派な、放課後ティータイムの一員になるんだ)

大好きな放課後ティータイムのため、梓はついに心も闇に染めることを決心した。



135:2011/06/26(日) 14:01:21.28 ID:iNmol0qk0

次の日、梓から仕事へ同行させてほしいと申し出があった。

「……ほんとうにいいの、梓ちゃん?」

唯が心配そうな表情で訊く。

「はい。もう、みなさんに迷惑かけられません」

「……ま、今日の仕事は殺しの予定はないからな。初陣にはちょうどいいんじゃないか?」

律が許可し、梓の同行が決まる。
今日の仕事は、とある研究所に忍び込み、ある『薬品』を盗むこと。警備に見つからないかぎり、無血で済む任務だった。


136:2011/06/26(日) 14:02:40.76 ID:iNmol0qk0

その日の深夜、無人となった研究所の前に一同が集合する。
各人の役割を律が説明する。

「梓には、うちのパソコンからここのシステムにハッキングしてセキュリティを落としてもらう予定だったんだ。
ま、来てくれたからには直接やっちゃってくれ」

「はい、やってやるです!」

「あたしが唯とムギを抱えて研究所に突入。唯は念のためバリアー、ムギは透視でターゲットを探してくれ」

「「了解〜!」」

「澪は梓と留守番な。大丈夫だと思うけど、もし警備が来たらぶっ飛ばしてくれ」

「え……ここで待つのか?」

今は深夜。真っ暗闇の中で長時間待つことを澪は怖がる。

「ははーん……澪、怖いのか〜?」

「そ、そんなわけあるか!? 梓は私が守るからな!」

「み、澪先輩……?」

「す〜ぐ帰ってくるから安心しろって。じゃ、梓、頼む」

「あ、はい!」

梓が研究所の門へ近づき、入口にあったセキュリティシステムから研究所内全体のシステムへとハッキングする。

(うわ……たいしたことない……お金ないのかな、この研究所)

あっという間に解析は終わり、全てのシステムがダウンした。

「終わりました!」

「早っ! サンキュー梓。行くぜ!」

律が豪快に門を蹴破ると、何も反応はない。セキュリティは完全に停止していた。
ヘッドライト付きのカチューシャを装着し、唯と紬を両脇に抱えると、高速で研究所内へと侵入していった。

残された澪は、ガタガタ震えながら梓に話しかける。

「あ、梓……緊張しなくてもいいぞ!? 律たちがすぐ終わらせてくれるからな〜!?」

「は、はあ……」

(澪先輩って、怖がりなんだな……ふふ、意外)

放課後ティータイムのMioといえば、かっこいいイメージで世間に知られている。
メンバーだけが知ることが出来るMioの意外な素顔を見れた梓は、ちょっぴり優越感を感じていた。


137:2011/06/26(日) 14:04:34.70 ID:iNmol0qk0

真っ暗な研究所内をライトで照らしながら、律が高速で駆け抜けていく。
左脇に抱えた唯を中心として球状のバリアーが展開されているが、今のところ迎撃システムからの攻撃はない。
梓のハッキングは完全に成功したようだ。

「あったわ! 三階の一番東の部屋よ!」

紬は電波、赤外線を駆使してターゲットの場所を探し当てた。
律は天井を蹴破り、三階へ速やかに移動し、目的の部屋に到達する。

「ここか。変なトラップ作動しないでくれよ!」

扉を破壊し、中へと侵入する。特に罠は作動しなかった。
奥にある金庫を力ずくでこじ開けると、10cm四方の箱がいくつか敷き詰めてあった。
箱の中には白い粉が入っている。

「一つだけもらえばいいんだったっけか?」

「うん。全部いただいちゃうと、ここの研究が進まなくなっちゃうらしいから。
そこまでする必要はないから、一つ拝借すれば十分とのことよ」

紬はその一つを取り出す。

「やさしい依頼者さんなんだね〜!」

「やさしさなのか……? ここの研究も一応価値はあるから残しておいてやるけどその薬ちょっとよこせ、みたいな感じじゃないか?
まあどうでもいい、帰るぞ!」


138:2011/06/26(日) 14:06:00.56 ID:iNmol0qk0

一方、梓はセキュリティの貧弱さについて考えていた。

(う〜ん、なんであんなにしょぼかったんだろ……上層部が欲しがるほどの薬品の研究をしてる研究所なのに。
もしかして、わざと? だとすると……)

その瞬間、あたりがまぶしくライトで照らされる。

「動くな!!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁ!! って、駆動鎧!?」

突然のことに悲鳴を上げた澪だったが、相手が幽霊ではなく駆動鎧だとわかると即座に恐怖心を忘れ、戦闘体制に入る。
逆に、梓は敵の不意打ちに驚き、恐怖する。

「あ……ああ……」

「大丈夫だ、梓。後ろに隠れてて」

怯える梓をかばうように澪が前に立つ。

「動くなと言ってんだろう?」

駆動鎧の胸の部分から放たれるライトのまぶしさに目が慣れてきて、その姿がはっきりと見えてくる。
駆動鎧はかなり大型であり、こちらに銃口を向けて立っていた。その銃口には既に炎の球のようなエネルギーの塊が現れており、今すぐにでも発射できる状態だ。

(あのエネルギーの弾……もし発射されたら、やばいな)

目の前のエネルギーの塊がかなりの威力を持っていることを、澪は直感で感じ取る。
衝撃波を放てば敵は倒せるだろうが、暴発して弾が発射されてしまえば、こちらも無傷ではすまないため、身動きがとれずにいた。

「ケッ、こいつの威力がわかったようだな? こいつはなぁ、『超電磁砲』を解析して作られたんだよ。
まだ試作品だが、てめえらをぶっ飛ばすには十分だろうよ」

エネルギーの塊がさらに大きくなる。


139:2011/06/26(日) 14:07:30.66 ID:iNmol0qk0

「セキュリティを弱くしといて待ってたら、本当に釣れるとはな。
てめえら、能力体結晶を狙ってきたんだろ? ったく、俺らの研究を無意味だの悪あがきだの散々罵ってくれた上に、
能力体結晶をよこせだあ? ふざけるのも大概にしやがれ」

「……なんの話だか知らないが、私たちは依頼を受けてきただけだ」

「ケッ、下っ端かよ。面白くねえな。さっさと死ね!」

(まずい! いちかばちか、やるしかない――)

澪が能力を発動しようとした瞬間、今まで黙っていた梓が突然口を開いた。

「解析終わりました。スイッチオフです」

「――え?」

突然、大きな音を立てて駆動鎧が膝から崩れ落ちた。照明が消え、あたりが再び真っ暗になる。
銃口にあったエネルギーの塊は既に消えていた。

「な、馬鹿な!故障だと!?そんなことがあるはずが――」

ぽかんとしている澪に梓が激を飛ばす。

「何やってるんですか! 今です!」

「……あ、ああ!」

澪がすかさず衝撃波を放つ。至近距離からの直撃を受けた駆動鎧は大破し、吹き飛ばされた。

「……ふう、なんとかなったな。ありがとう、梓」

「……いえ。本当は、無理やり電源を落とそうとしたんですけど、銃が暴発したらまずいと思って……
解析して安全にスイッチを切ろうとしたんですが、あの機械、すごく複雑で時間がかかってしまいました、すみません」

「お〜い、澪、梓、大丈夫か〜!?」

律たちが駆けつける。

「ああ、梓ががんばってくれたおかげで撃退できたよ」

「梓ちゃん、大丈夫? よかった〜」

唯が梓に抱きつく。

「ちょ、ちょっと唯先輩!?」

「うふふ、無事で何よりね」


140:2011/06/26(日) 14:08:21.71 ID:iNmol0qk0

一同は、吹き飛ばされた駆動鎧にライトを当てて確認する。
中に入っていた男は全身の骨を砕かれ、絶命していた。

「うっ……!!」

初めて間近で見る惨殺死体に、梓が吐き気を催す。

「梓ちゃん、大丈夫〜……?」

唯の心配をよそに、梓は強がりを見せる。

「だ、大丈夫です……私は、立派な、放課後ティータイムの一員に……ううっ」

「無理しなくてもいいんだぜ、梓?」

「で、でも……」

「梓。お前が私たちについてこようとしてくれるのは、嬉しいよ。
でも、それでお前が壊れてしまったら意味がない」

「そうよ、梓ちゃん。ゆっくりでいいの。私たちもサポートするから、ね?」

「は、はい……ありがとうございます……」

「梓ちゃん……」

唯がまだ心配そうな目で梓を見つめている。

「大丈夫ですよ、唯先輩。ちょっとずつ慣れて、そのうち私もみなさんと同じラインに立ってみせます。
それまで……よろしくお願いします」

「うん……わかった。よろしくね、梓ちゃん」

唯が梓を優しく抱きしめる。
梓が闇に染まることを最も嫌がっていた唯だが、梓の決意を聞いてついにそれを認めたようだ。

「あ、あの……毎回抱きつかれるのはどうにかならないんですか?」

「そいつはあきらめるんだな〜、梓」

「ああ。あきらめろ、梓」

「そう。あきらめて、梓ちゃん」

「……ええぇ〜!?」


141:2011/06/26(日) 14:09:16.34 ID:iNmol0qk0

ふと、梓があることに気づく。

「あ、この銃……まだ使えますね」

駆動鎧に装備されていた、『超電磁砲』を模して作られた銃。奇跡的にも、損傷が少なくまだ使える状態だった。

「使えるっつっても……そんなでっかいの持ち歩けないだろ?」

「いえ、必要な部品だけあれば能力で回路は再現できます。これなら、多分手持ちサイズにできるはずです」

「おお……梓ちゃんの武器ゲットだね!」

「ほほ〜、なるほど。ようし、じゃあ持って帰るか!」

律が巨大な砲身をひょいと持ち上げ、一同はその場を後にした。


142:2011/06/26(日) 14:11:53.33 ID:iNmol0qk0

#5 絶頂期!




それ以降、梓は任務に毎回参加するようになる。
日々の殺戮に最初こそ拒絶反応を示していたものの、放課後ティータイムの一員になるという思いを支えに、徐々に慣れていった。

それに応じて、少しずつ全員で演奏をする機会が増えていき、ティータイムの雰囲気もなごやかになってきた。

しかし、いささかなごやか過ぎてしまったようで、

「みなさん、練習しないんですか……?」

と梓は戸惑う。

「「ほ〜げぇ〜」」

唯と律は特にだらだらしていて、紬も一緒にのほほんとしている。澪は少し離れた場所で音楽雑誌を読みながらくつろいでいた。

「梓ちゃんもおいでよ〜、おいしいよ〜」

唯が梓にケーキを差し出し、手招きする。

「は、はあ……」

腑に落ちない様子の梓だが、いざケーキを食べるとぱあっと幸せな表情を浮かべる。

(……はっ! このままじゃ私、ダメになる……!)



143:2011/06/26(日) 14:13:05.90 ID:iNmol0qk0

そのとき、律の携帯が鳴り響いた。

「んあ? 『電話の女』? 今日の仕事はもう終わったっつーのに……何だろ。はいもしもーし」

『もしもしりっちゃん? さっき郵便物を送ったから、そろそろ着くはずよ。爆発物じゃないから安心してね。じゃ』

それだけ言うと、電話は切られた。

「なんだ急に……郵便? ムギ、どうだ?」

「あ、今ちょうど郵便屋さんが来たわ。行ってくるね」

紬は表に業者が現れたのを探知能力で確認し、玄関へと向かう。
ポストには大きな封筒が入っていた。中に何か立体的なものが入っているのか、厚みがある。
爆弾でないことを確認し、それを開けると、手紙が出てきた。

『中野梓さんへ
暗部には慣れたかしら? 気の毒だけど、せいいっぱい生きて。
ささやかだけど、プレゼントよ。ネコミミとか似合いそうだと思ってたのよね』



144:2011/06/26(日) 14:14:19.88 ID:iNmol0qk0

紬が部屋に戻ると、唯と律が出迎える。

「ムギちゃん、どうだった〜?」

「ふふ。『電話の女』さんから、梓ちゃんにプレゼントよ」

「え、私にですか!?」

「ええ。じゃ〜ん」

紬がネコミミを取り出し、高く掲げる。

「「おお〜〜〜!!」」

「ええっ!?」

唯と律は目を輝かせているが、梓はなぜこれがプレゼントなのか、と驚いている。

「早速つけてみてよ、梓ちゃん!」

唯にネコミミを渡され、梓はそのまましばらく硬直していたが、唯の期待に満ちた視線に負け、しぶしぶ装着した。

「「「かわいい〜〜!!」」」

大好評のようである。
さらに、恥ずかしがっている梓に唯が、

「ねえ、にゃあって言ってみてよ!」

と追いうちをかける。

「え、ええっ!?」

「ねぇ〜お願い」

「……に、にゃあ〜」

「「「きゅるりぃ〜ん!」」」

梓の可愛さに一同がノックアウトされる。
本を読んでいた澪もいつのまにかこっちを見ていた。

「あだ名はあずにゃんに決定だね!!」


145:2011/06/26(日) 14:15:29.82 ID:iNmol0qk0





その日の夜。

第二十二学区の地下にあるこのアジトは、非常に静かであり、さらに五人全員分の個室があるため、
一人の時間を過ごすにはもってこいの場所であった。

梓は自分の部屋に戻ろうと廊下を歩きながら、考え事をしていた。

(はあ……放課後ティータイムってなんであんなに練習しないんだろう)

一世を風靡したバンドだからこそ、日々厳しい練習を積んできたのだろうと予想していた梓は、
現実とのギャップに戸惑っていた。

(唯先輩は全然用語とか知らないし、律先輩もCDで聴いてたのよりも走るし……
それなのに、全員で演奏が始まってしまえばやっぱりすごくいい音楽になる……どうして?)

梓が澪の部屋の前を通りかかると、扉が少し開いていて、中から光がもれていた。
隙間からこっそりのぞくと、澪がヘッドホンをつけ、パソコンに向かいながら何かを書いている。作詞にいそしんでいるようだ。

(澪先輩はすごくうまくて、真面目なのに……なんとも思わないのかな)

「ふう、一息つくか……ん?」

コーヒーを入れようと立ち上がりこちらを向いた澪が梓に気づく。

「あ、すいません……お邪魔しました」

「梓……ちょっと、おいで」

澪は梓の抱えている不安をなんとなく感じ取ったようだ。

「あ、はい……失礼します」

部屋に入った梓にお茶を出し、小さいテーブルを囲んで向かい合わせに着席する。
しばらく梓は黙ったままだった。

「梓、何か悩んでる?」

「……はい」


146:2011/06/26(日) 14:16:54.95 ID:iNmol0qk0

梓はゆっくりと悩みを吐き出していく。
自分が放課後ティータイムに感じていた、技術ではない「何か」。
それに惹かれて放課後ティータイムに入ったものの、練習をあまりせずにだらけているバンドからなぜそれが生み出されるのか、
逆にわからなくなってきていた。

「私、わからなくなって……! どうしてあんなに感動したのか、わからなくなって……!」

泣き出す梓に、澪はやさしく語りかける。

「……私さ、このメンバーで演奏するのが好きなんだ」

「……え」

「私たちは、みんな不幸な過去を抱えてるし、人殺しだし……他人を欺き合い、殺し合う世界に生きている。
そんな中でも、こうやってお互いに分かり合えて、楽しく一緒に過ごせる仲間に出会えた。
私たちがバンドを組んで、同じサウンドの中にいること自体……奇跡だと思うんだ」

「だから、私はみんなとの時間を大切にしたい。バンドだけじゃなく、一緒に過ごす時間ぜんぶ。
ティータイムの時間も、私たちにとっては必要なんだと思う。
きっと、みんなもそう思ってて……だから、いい演奏になるんだと思う」

「……!!」

「梓も、もう私たちの大切な仲間だよ。一緒に、いい音楽を作ろう?」

「……はい!!」


147:2011/06/26(日) 14:18:16.67 ID:iNmol0qk0





放課後ティータイムの演奏の持つ魅力は、その絆の深さ。
それを理解した梓は、ゆったりとしたティータイムに戸惑うことはなくなり、

「もう、みなさん! 練習しましょうよ!」

と自分のキャラを発揮するようになってきた。これもまた、彼女たちの大切な日常である。

そして、放課後ティータイムは本格的に音楽活動を再開。
シングル第二段「GO!GO!MANIAC」「Listen!!」を同時リリースする。

デビュー以来しばらく音沙汰のなかった放課後ティータイムの待望の新作とあって、
またもや売り上げ一位と二位を独占。音楽市場は大いに盛り上がりを見せた。

そしてもうひとつ、盛り上がりの一旦となったビッグニュースは、新メンバー「Az」の加入である。

Azのギターテクニックはバンドの中でも突出していたが、バンドのサウンドから浮くことはなく、
むしろ、奔放なYuiと正確なAzの対照的なギタリストがいいコンビネーションを発揮し、よい演奏を生み出していた。


148:2011/06/26(日) 14:19:54.40 ID:iNmol0qk0

だが、Azのデビューは音楽業界以外にも衝撃を与える。
行方不明となった中野梓の所属する桜ヶ丘女子高では、梓=Az説がすぐさま広まった。
さらに、学園都市の闇に抵抗する組織の間には、組織を壊滅させた犯人の一人とされている中野梓=Az、
すなわち放課後ティータイム=暗部組織であるという解釈が広まった。

こうなることは予想できていた。それにもかかわらず、本人たちの強い意志により、
偽名を使わずAzという露骨に分かりやすい名前でデビューさせた。



149:2011/06/26(日) 14:21:58.44 ID:iNmol0qk0

さっそく、『電話の女』からお咎めが入る。

『てめぇら……なんてことしてくれんじゃぁぁぁ!! 私の首が飛びかけたぞゴラァァ!』

絶対秘密の組織であるはずが、その存在を知られてしまったことにより、彼女は上司から大目玉を食らったようだ。
突然の豹変ぶりに、一同は一瞬たじろぐが、すぐに紬が言い返す。

「すみません、でもうちで何とか情報は封鎖してしのいでますから……!」

反抗組織からの放課後ティータイム及びそのバックにつく琴吹グループに対するマークは厳しくなっていたが、
グループは警戒を強め、情報の流出は防いでいたため、実際の被害はいまのところない。

『そういう問題じゃねえんだよ! だいたいなあ、デビューすること自体危険だったんだよ! そのせいで一般人巻き込んだんだろうが!
しかもあんなバレバレな名前でデビューさせやがって……
隠れてコソコソと曲を出しとけばまだよかったものを、自ら正体をバラす暗部組織がどこにいるんだ、ああ!?』

「――私たちは!!」

澪が叫ぶ。

「私たちは、あなたたちの言いなりにはならないっ!! 私たちのやりたいことをやる!! 私たちの歌を聴いてもらいたいんだ!!」

さらに律が続く。

「そうだっ、バレたって構わない、全部返り討ちにしてやるぜ! だからあえてこうしたんだよ。
どうせいつ死ぬかわかんないんだからな、全力で生きたいんだ」

『電話の女』は、それを聞いてしばらく黙りこむ。そして、もとの穏やかな口調で話し出す。

『……それでいいの、梓ちゃん?』

「はい。みんなで決めたことです。これが私たちの意志です」

『まったく、あんたたちときたら……わかったわよ。最期まで付き合ってあげる』



150:2011/06/26(日) 14:22:53.74 ID:iNmol0qk0





一方の桜ヶ丘女子高には、Azのデビューを受け、行方不明の中野梓に関する取材が多く来るようになっていた。
これでも、琴吹グループの情報操作でかなり抑えているほうである。

職員は日々対応に追われ、夜になってから本来の仕事を片付けなければいけない状況であった。

「はあ……ああは言ったものの、疲れるわね……」

音楽教師、山中さわ子もその一人。職員室にて遅くまで仕事をしていた。

「書類片付けなきゃ……ん、『風紀委員』の依頼書?」

さわ子が手に取った書類は、他校の能力者を捜査のために入校させるための許可証で、風紀委員から提出されたものだった。

「なになに……中野梓の行方を調査するため、遺留品から記憶を読み取る能力者を呼んで捜査に協力してもらう?
差出人は真鍋さんか……考えたわね。まあ、無駄だと思うけど……」

さわ子は許可証にサインをした。


151:2011/06/26(日) 14:24:39.74 ID:iNmol0qk0

憂、和、純の三人による放課後ティータイムの捜索は難航していた。

憂と純はネットワークを用いての捜査を続けていたが、琴吹グループが警戒を強化したことでそれはほぼ不可能になってしまう。
和は風紀委員の仕事のかたわら、かねてから行っていた『闇』についての調査を行っていたが、それも実らない。

そして今回、和の権限で捜査のために別の能力者の協力を仰ぐことに成功した。

放課後、校門の前で三人が来客を待つ。

「今回来てくれるのは、物から記憶を読み取ることができる精神感応系能力者よ。
梓ちゃんが日ごろ使っていたもの……机とか文房具、あとは家に残されていたものを調べてもらうわ」

だが、最も記憶を読み取りやすいのは普段持ち歩いていた携帯電話やギターなどであり、それらは梓とともに行方不明になってしまった。
しかも、梓の家からはいつの間にかパソコンなどの重要なものがなくなっており、たいしたものは残っていなかった。

「机なんかで大丈夫ですかね……? 机に梓の思い入れがあるとは思えないんですけど」

「正直、それはわからないわね。だから最初、『心理掌握』に頼もうと思ったのだけど、さすがに無理だったわ。
ただ、今回その子のレベル4の友達が来てくれることになったから、実力は確かよ」


152:2011/06/26(日) 14:26:10.06 ID:iNmol0qk0

一同が話していると、一人の少女が現れた。
少女は小〜中学生ぐらいに見えたが、気品にあふれ、高校生に対して物怖じすることなく堂々とした口調で話しかけてきた。

「ごめんあそばせ。あなたが真鍋さんでしょうか?」

「ええ。あなたが協力してくれる能力者の方ね。私が『風紀委員』の真鍋和。
こちらは中野梓ちゃんの友人の、平沢憂、鈴木純よ」

「「よろしくおねがいします」」

ふたりが会釈をすると、少女は一瞬、憂のほうを鋭い目つきで見た。
そして、すぐにもとの表情に戻る。

「よろしくお願いしますわ。では早速参りましょう」

いかにもお嬢様といった態度に、純は露骨に嫌な顔をする。

(うわ、勝手に仕切ってるよ……感じ悪っ。
てか、さっきからずっと憂のこと見てるし……『心理掌握』の友達っていうか、差し金なんじゃないかなこの子。憂の偵察に来たとか……?)



153:2011/06/26(日) 14:26:58.76 ID:iNmol0qk0

一同は教室に移動し、梓の机の上に文房具などのありったけの品を置く。

「これで全部よ。たいしたものは残ってないけれど……お願いするわ」

「わかりましたわ。それでは……」

少女は演算に集中し始める。

「……うっすらと、見えてきました……机に座って、放課後を今か今かと待ち望んでいる記憶が。
この後、放課後ティータイムのことを探しにいこうという思いが非常に強いですわね」

「……でも、どこを探しても見つからない、もう手がかりがないと嘆いていらっしゃいます。
そして、記憶が途切れる最後の日……」

一同が固唾を呑んで少女の言葉に耳を傾ける。最後の日、梓はどこに向かったのか。それが一番欲しい情報であった。

「……ごめんなさい、強い思いなら感じ取れるのだけど……どこに行こうかとか、細かい情報は読み取れませんでしたわ。
せめて、もっと本人の思いが込められた品であれば……」

やはり、レベル4の能力者をもってしても、記憶を読み取ることはできなかった。

「そう……いえ、仕方ないわ。協力してくれてありがとう。食蜂さんにも伝えておいてくれるかしら」

「ええ。お役に立てず、申し訳ございません。それでは」

和が少女を送り、教室から出て行く。


154:2011/06/26(日) 14:28:24.48 ID:iNmol0qk0

純は、少女が見えなくなるのを確認すると、すかさず憂に小声で話しかける。

「……憂、やっちゃいなよ」

「……うん」

憂は『能力複製』を発動する。

能力を発動すると憂のAIM拡散力場は半径100メートルにまで拡大され、その範囲内にすっぽり収まった少女のAIM拡散力場を介し、
『自分だけの現実』を隅々まで"見る"ことが可能になる。
そして瞬時に、それを観測するための演算式を独自に構築。少女のもつ精神感応系能力をレベル5級の演算で行使し、机から情報を読み取る。

(見える……! あの日梓ちゃんは、噂話を追って第八学区の住宅街に行こうとしてたんだ!
詳しい場所と、近道は……っと)

憂は読み取った内容を素早くメモしていく。その様子を見て純は感心する。

「お〜、さっすが憂……やっぱレベル5はすごいよ。
“第六位の前では『自分だけの現実』はもはや自分だけのものではない”だっけ。確かにって感じ」

憂の能力はあくまでAIM拡散力場の拡大であり、コピーすることは能力に含まれない。
他人の『自分だけの現実』を瞬時に理解し使いこなすという離れ業は、憂のもつ恐るべき理解力、のみこみの速さによるものであった。

『自分だけの現実』を本人よりも深く理解し、レベル5の演算にて行使する。それをやられた能力者は完膚なきまでにプライドを打ち砕かれてしまう。
そのため、高位の能力者は自然と憂を避けるようになり、憂自身も他人が傷つくことを恐れて能力の使用を控え、他者との深い交流をもつことを遠慮していた。
そんな中、能力を気にせず分け隔てなく接してくれる純や梓は、憂にとって大切な友達であった。

「……終わった!」

少女が半径100メートルの範囲から出る前に、憂は読み取りを終える。
他人の『自分だけの現実』を自らの脳にコピーしたわけではないため、相手が範囲から出てしまうと能力を使用できなくなってしまうのが『能力複製』の欠点であった。

「おつかれ、憂! どうだった?」

「うん、場所がわかったよ! 早速行こう!」


155:2011/06/26(日) 14:31:14.25 ID:iNmol0qk0

憂と純は校門にて、和と合流する。

「憂、場所はわかった? なるべくゆっくり歩いて時間は稼いだつもりだけど……」

「うん、分かったよ! ありがとう和ちゃん」

「よかった……やっぱり、レベル4でもダメだったわね。憂がいてくれて助かったわ。
さあ、行きましょう」


156:2011/06/26(日) 14:32:41.20 ID:iNmol0qk0

一同は第七学区から近道を通って第八学区へと向かう。
道中、先ほどの少女の話題が出た。

「それにしてもなんなのさっきの子! 超ムカついたんだけど」

「すごいお嬢様、って感じだったわね。『心理掌握』も相当なお嬢様で、かなり大規模な派閥を作ってるらしいわ」

「うわぁ……あーやだやだ、そういうタイプ」

憂はしばらく黙ってそのやりとりを聞いていたが、突然口を開く。

「実は、その子のことなんだけど……私の記憶を読み取ろうとしてきたの」

「うそっ!?」

「なんですって!? いつの間に?」

憂の告白に、純と和は驚き、歩みを止めて憂のほうを見る。

「……最初に会った瞬間から。なんか、私が『闇』に関わっているかどうか調べたかったみたい。
別に調べられても大丈夫だから、そのまま放っておいたけど。あ、でもお姉ちゃんの記憶は隠したよ」

放課後ティータイム、行方不明の梓、その友人の学園都市第六位。
そこに『闇』の存在を疑った『心理掌握』は、第六位が『闇』に関わっているのではと考え、あえて依頼を受けて取り巻きの少女を向かわせたようである。
憂本人は関係ないとはいえ、『闇』に関わっていると思われる姉・唯の情報を知られたくなかった憂は、
瞬時に少女の能力をコピーし、気づかれない範囲で妨害を行っていた。

「うっひゃー、憂のことジロジロ見てたのはそういうことだったのか……」

「ごめんなさい、憂。不用意にレベル5の関係者を招くべきではなかったわね……」

「ううん、大丈夫だよ。おかげで、場所も分かったし。行こう!」

手がかりが得られたことで、憂はいつになく嬉しそうであった。
一同は駆け足で先を急ぐ。


157:2011/06/26(日) 14:33:24.30 ID:iNmol0qk0

第八学区の高級住宅街に着いた一同は、目的の場所を探し始める。

「え〜と、ここを曲がって……このあたりのどれかの家だよ」

あたりは閑静な住宅街。しかし、一ヶ所だけ不自然な空き地があった。

「なんでここだけ家がないのかしら……」

その空き地こそ、かつて放課後ティータイムのアジトがあった場所。
今は完全な更地になっており、何も残されていなかった。

不信に思った和は、周辺の家に聞き込みを行う。
ほとんどの家は留守であったが、何軒目かで主婦と思われる女性が応じてくれた。

「けっこう前に、あそこにあった家で爆発事故があったのよ。周りの家の窓ガラスが割れて大変だったわ。
その家は事故後すぐに取り壊されて、今は何もなくなったわ」

「誰か目撃者はいなかったんですか?」

「このへんの家に住んでるのはみんな教師で、事故当時は仕事で誰もいなかったのよ。
私は子供がいたからすぐに裏から避難したし、目撃情報はないわ、ごめんなさい。
ただ、一回目の爆発のあとに、ダダダダっていう音が聴こえて……その後二回目の爆発が起こって、ガラスが割れたのよね。
あの音はなんだったのかしら……」

(……銃声?)


158:2011/06/26(日) 14:34:38.28 ID:iNmol0qk0

得られた情報を総合すると、ここであった事故は単なる爆発事故ではなさそうだ。
おそらく、銃を使った戦闘が繰り広げられ、それに梓が巻き込まれた可能性が高い。
その後、証拠隠滅のために家を跡形もなく消し去ったのだろう。

なによりも、和自身、風紀委員でありながらこの事故の存在を知らなかった。何らかの情報操作が加えられたのは間違いない。

しかし、そこまで分かったといってもここには何も情報は残されていなかった。
わかったのは、唯や梓が危険なことに巻き込まれているという事実だけ。捜査は再び振り出しに戻る。

三人の間に、重い空気が流れる。

「うう……お姉ちゃん、梓ちゃん……」

憂は泣き出してしまった。失意のまま、三人は帰宅する。
帰り際、和が純に耳打ちする。

「純ちゃん……ちょっと話があるから、明日の放課後残ってくれる?」



159:2011/06/26(日) 14:36:13.30 ID:iNmol0qk0





翌日の放課後。憂が帰宅したのを確認すると、誰もいない教室で和と純が落ち合う。

「話って何ですか、和先輩?」

「憂の能力のことよ」

「憂の……『能力複製』、ですか?」

和は小さいころの憂について説明を始める。
憂は早くから能力を習得していたが、本人も周りもそれに気づいていなかったという。

「あの子は結構小さいころから、無意識のうちに唯の『自分だけの現実』をコピーしていたらしいの。
でも、憂は唯の能力をコピーしても使うことはできなかった」

「憂でもコピーできないなんて……そんな能力があるんですか?」

「ええ、唯の能力は研究者でも解明できないほど複雑で……それでおそらく事件に巻き込まれたんでしょうけど。
とにかく、唯の能力を憂は使えなかったから、憂はずっと無能力者だと思われていたのよ」

「それでも憂は能力なんかに興味はなかった。唯の『自分だけの現実』をコピーし続けて、唯の存在を間近で感じているだけで幸せだったの。
唯が能力範囲外に出ようものなら、『お姉ちゃんはどこ』って言って泣き出すぐらいだったわ」

「そこまでお姉ちゃん大好きだったんだ……」

「そう、それがネックなのよ……あの子、あまりにも唯に依存しすぎていて……
唯が行方不明になったとき、あの子の能力が暴走してしまったの」

「『能力複製』が暴走……いまいち想像できないんですけど」

「これは研究者が言ってたことの受け売りなんだけれど……
憂の能力の本質は『能力吸収(AIMグラビティ)』。重力を自由に変えられる星のようなものらしいわ」

大きな質量を持つ星が周りの時空をゆがめて重力場を作るように、『自分だけの現実』という異世界の存在は周りの現実世界の法則をゆがめる。
このときに生じるのがAIM拡散力場だと考えれば、憂の能力が説明できる。そう研究者は語った。


160:2011/06/26(日) 14:38:30.93 ID:iNmol0qk0

「あ〜、相対性理論ってやつでしたっけ? ちゃんと勉強しとけばよかったなあ……」

「ま、あくまで仮説よ。そう考えればつじつまが合う、ってだけ」

憂の『能力吸収』は、『自分だけの現実』による現実世界のゆがみの程度を自由に増減できる。すなわち、AIM拡散力場を広げたり縮めたりできる。
その結果、相手の『自分だけの現実』が自らのAIM拡散力場の影響下に入り、それを観測することができる。

本来はそれだけの能力であり、半径100メートル以内の能力者の居場所がわかる程度。
即座に演算式を組み立てて相手の能力を使用できるのは憂自身の理解力によるものである。

「それで、『能力吸収』が暴走、すなわち重力を自在に変化させられる星が暴走したら――」

「――ブラックホール、ですか?」

「そう。憂の能力が暴走すると、あたりにいる能力者の『自分だけの現実』を強く引き付けはじめる。
そして、最終的にはブラックホールになって、完全に吸収してしまうのよ。
あのときの感覚は今でも覚えているわ……まるで自分が幽体離脱して、憂に吸い込まれていくような感じだった」

「和先輩も巻き込まれたんですか!?」

「ええ。あの時は必死に憂を抱きしめて、唯は帰ってくるから大丈夫、私もいるから大丈夫、あなたは一人じゃない、って言い続けたわ。
そうしたらなんとか落ち着きを取り戻して、暴走は止まってくれたけど……」

その事件により、憂の能力は研究者の興味を惹き、唯と同じように研究所通いになってしまう。
ただ、すんなりと解析が進んだことで非道な実験に巻き込まれることはなかった。

研究者によれば、もし和があのまま『自分だけの現実』を吸収された場合、無能力者になったうえ、精神に異常をきたしていたという。
そして、そのまま暴走を続ければ、憂の『自分だけの現実』は自重で潰れ、憂の人格も崩壊していたらしい。

「唯が危険なことに関わっている以上、最悪の事態も考えられるわ。
もし憂がまた暴走したら……純ちゃん、憂を抱きしめて救ってあげて。 憂、あなたのことをかなり信頼してるようだから」

「……はい、まっかせてください!!」


161:2011/06/26(日) 14:39:50.12 ID:iNmol0qk0





苦戦する憂たちとは対照的に、放課後ティータイムは仕事も音楽も絶頂期にあった。

とある小さな研究所にて。
学園都市が行う極秘の実験に携わっていた研究者が、一人パソコンに向かっていた。

「よし……反乱分子どもはうまく動いているようだな。あとは混乱に乗じて逃げ出せば……」

この研究者は、実験の情報を反抗組織に流出させて研究所を襲撃させ、その隙に重要なデータを持ち去って逃亡し、現在隠れ家の個人研究所に潜伏中であった。
上層部は反抗組織の討伐に既に動いているようだが、研究所から避難した研究者がデータを持ち逃げしていることにはまだ気づいていないようである。

作戦の成功を確信した研究者は、データディスクをポケットにしまい、小研究所を出ようと立ち上がる。
しかしその瞬間、照明が消え、すべての電気系統がダウンした。

「なんだ、停電か!?」

「そんなわけないでしょう」

動かなくなった自動ドアを手でこじ開けながら、梓が部屋に侵入してきた。
その右腕には、小型化された砲身だけの『超電磁砲』が装備されている。

「ば、バカな! どうしてここがわかった!? まだ気づかれていないはずだったのに……!」

「ええ。まだ気づいてませんよ、上層部は」

梓の情報処理能力は時に上層部をも上回り、先に真犯人を特定してしまうことも珍しくなかった。
他のメンバーは、現在手分けして反抗組織の討伐を行っている。


162:2011/06/26(日) 14:41:32.89 ID:iNmol0qk0

「くっ……」

研究者がポケットの携帯端末に手をかけ、助けを呼ぼうとする。

「無駄です」

しかし、ボタンを押しても反応がない。研究者が確認すると、端末の電源は既に落とされていた。

「き、貴様……ならこれでどうだ! これが欲しいんだろう!?」

研究者はデータディスクを取り出すと両手で持ち、いつでも折ることができるとアピールする。

「研究所の方のデータは全て消してやった! 残るはこれだけだ! さあ、これを破壊されたくなかったら大人しくするんだ」

「メモリー解析完了です」

梓はあっさりとデータを読み取ると、自らの携帯端末にデータを複製する。

「な……化け物め! 貴様、今データを読み取ったんならわかるだろう? この実験がどれだけヤバいかを!!」

「さあ……? いちいちデータを解読して盗み見る趣味はありません。0と1の羅列をコピーしただけです」

「二万だぞ!? 二万人を殺すんだぞ!? そんなのに加担してられるかよ!! 貴様はそれでいいのか!?」

「知りません。私たちは、ただ好きなことをしているだけです。それには、これは必要なことなんです。
こればっかりは、ゆずれません。死んでください――『超電磁砲』!!」

「お、鬼――」

研究者の体を『超電磁砲』が貫く。
もともと試作品であるため本家に比べればかなり劣るものの、レベル4程度の威力はあり、実戦には十分であった。

「……鬼でもなんでもかまいません。どうあがいたって、どっちについたって、どうせ二万ぐらいは簡単に死んじゃうんです。
そして、私たちもいつか……。だったら"今"、楽しんだもん勝ちですよ」


163:2011/06/26(日) 14:43:33.18 ID:iNmol0qk0





その日のティータイムにて。

「今日はお手柄だったねあずにゃん!!」

早速唯が梓に抱きつく。

「もう、唯先輩……」

梓もまんざらでもない様子で、他の三人が生暖かい目で見ていた。

「あずにゃん〜んちゅちゅ……いやあ幸せだねぇ……」

最近は仕事も音楽も非常に充実しており、皆が幸せをかみしめていた。
幸せすぎるあまり、唯はふと不安になる。

「こんな好きなことばかりやってていいのかなあ……ダメになっちゃうかなぁ……」

どこかで聞いたようなセリフを吐く唯にすかさず澪が突っ込みを入れる。

「『つーかダメんなるわけない。』だろ? 自分で書いた歌詞を忘れるなよ……」

「おお!! そうでした……でへへ」

「ふふ……でも唯先輩、だらけすぎてたらダメになっちゃいますよ?」

「そ、それはイヤ! あずにゃん、練習しよう!!」

「はい♪」

「うふふ……梓ちゃん、唯ちゃんの扱いがうまくなってきたわね」


164:2011/06/26(日) 14:44:32.63 ID:iNmol0qk0

唯、梓がスタジオへと向かい、紬もそれに続く。
澪もスタジオに行くため席を立つと、ソファーに寝転がったまま天井をぼーっと見つめている律が目に入った。

「律、行くぞ」

「……なあ澪」

「……なに?」

「さっきの唯じゃないけどさ、最近、楽しいよな」

「ああ、そうだな。すごく充実してる」

「いつまで、続くのかな」

律もまた、幸せすぎる日々が終わる日が来ることに漠然と不安を感じていた。

「……どうしたんだ律、らしくないぞ。
私たちはいつ死んでもおかしくないんだ、未来のことを考えたってしょうがないだろ。
そう言ってたのは律じゃないか」

律はしばらく無表情で黙っていたが、やがて起き上がり、いつもの笑顔に戻る。

「……ま、そうだな。あたしたちは今しか生きられない。さっさと仕上げようぜ、新曲」


165:2011/06/26(日) 14:45:15.83 ID:iNmol0qk0

放課後ティータイムは、第二段シングルの熱も冷め切らないうちに、第三弾シングル『Utauyo!!MIRACLE』『No,Thank You!』を同時発売。
空前の大ヒットを記録し、音楽業界は放課後ティータイム一色となった。



166:2011/06/26(日) 14:46:08.74 ID:iNmol0qk0

#6 落日!



そして、その日は突然訪れた。


『今日の仕事は、風紀委員にアジトを特定されちゃったおバカな暗部組織の殲滅よ』

情報を流出させたり、裏切ったりした同業者の始末も、彼女たちの仕事である。

『風紀委員の攻撃が開始されるのは今から一時間後。それまでにアジトから組織員をおびき出し、別の場所で処分。
アジトはもぬけの殻にすること。風紀委員に一切の情報を与えてはいけないわ。時間がないから、早速出発してちょうだい』

急な依頼に、一同は急いで出発し、第七学区にある目的のアジトへと車を飛ばす。

「ったく、一時間以内とか無茶なこと言いやがって……もっと早く見つけろよな〜」

「敵は私と唯ちゃんでおびき出すのはどうかしら」

ギター女、キーボード女が現れれば、たいていの組織は放課後ティータイムだと判断して攻撃してくる。

「よっしゃ、それで行こう。梓、このあたりで人目につかないところは?」

梓は携帯端末を操作し、人気のない場所を速やかに調べ上げる。

「ええと……あ、そこを曲がってください、今は使われてない資材置き場があります」

梓に指定されたところに着くと、コンテナが立ち並ぶかなり広い資材置き場があった。
周囲はコンテナで視界を遮られており、人気もない。

「よし、ここにおびき出すぞ! んじゃ、澪と梓はここで待機。あたしは唯とムギを送ってくから」

律は唯と紬を抱え、高速でアジトへと向かった。


167:2011/06/26(日) 14:48:07.27 ID:iNmol0qk0

一方、ほぼ同時刻、桜ヶ丘女子高にて。

放課後、帰宅しようとした憂に和から電話が来る。

「もしもし、和ちゃん?」

『もしもし。憂、今日これから時間あるかしら』

「うん、大丈夫だよ。どうかしたの?」

『学園都市の闇にかかわる組織の居場所を突き止めたわ。今からそこを押さえに向かうのだけど、
激しい戦闘が予想されるから、一応憂にも来てもらって後方で待機しててほしいの。許可はとってあるわ』

「……本当!? わかった、すぐ行くね!」

『闇』に関わる者との戦いとなれば、大きな危険が伴う。そのため、緊急事態に備えてレベル5である憂のサポートが求められていた。
早速出発しようとすると、純が現れた。

「憂〜? どうしたの、そんなに焦って」

「あ、えっとね……」

憂は一瞬、純を巻き込んでいいのか迷う。だが、包み隠さず話すことにした。

「……『闇』に関わる組織のアジトを和ちゃんが見つけたんだって。それの手伝いに今から行くんだ」

「マジで!? こうしちゃいらんない、私も行くよ!!」

やはり、この友人は一緒についてくるようだ。
憂は申し訳なさと嬉しさが混じった表情でほほえむ。

「……ありがと、純ちゃん。行こう!」


168:2011/06/26(日) 14:49:07.90 ID:iNmol0qk0

第七学区の路地裏にて。
憂と純が到着すると、既に多数の風紀委員が集結していた。
和がその中から姿を現す。

「待ってたわ、憂。……ふふ、やっぱりあなたも来たのね、純」

「あはは……すいません、つい」

「まあ、順調に行けば二人には戦闘に参加してもらうことはないわ。
今から私たちが突入して組織員を拘束するから、あなたたちはここで待機してて。じきに『警備員』も到着するわ。
もし、私たちが危険な状況になったら、あなたたちにも加勢してほしいの」

「うん、わかった。……何か情報が得られるといいね」

「そうね……じゃ、行ってくるわね」

そう言うと和は風紀委員たちのほうへと戻っていく。

「行くわよ、みんな!」

和の号令で、一斉に風紀委員たちがアジトへ向けて走り出した。


169:2011/06/26(日) 14:50:18.71 ID:iNmol0qk0

人気のない路地裏を風紀委員たちが素早く抜けていき、目的地に到着する。
目的のアジトは、なんの変哲もない小さなアパートだった。
入口付近に集結した風紀委員たちが戦闘態勢に入る。

「アジトは一階の奥の部屋。他の部屋の学生は全員外出中よ。
準備はいい? ……突入!」

和の合図とともに、一斉に風紀委員たちが突撃する。
肉体強化の能力をもつ盾役の委員が素早くアジトの扉を破壊し、皆がいっせいに室内へとなだれこむ。

「『風紀委員』よ!! あなたたちを――」

和が腕章を見せながら突入するが、しかし。

「……やられたわね」

アジトは、既にもぬけの殻だった。


170:2011/06/26(日) 14:51:08.71 ID:iNmol0qk0

(危なかった……風紀委員はすぐそこまで迫ってたわね)

ギリギリでアジトの証拠隠滅を終えた紬は、敵を誘導している唯に追いつくため、肉体強化を使用して駆け出す。
前方に、バリアーを張りながら走る唯と、それを追う数名の男たちが見えてきた。

唯は反撃せず、バリアーで男たちの攻撃を防ぐのが精一杯であるように見せかけている。
それに気づかない男たちは、誘導されているとも知らず、醜い笑い声を上げながら唯を追跡していく。

目的の資材置き場が見えてきた。

(あとはあそこに追い込んだ組織員を殲滅。ふふ、今日も任務成功ね。帰ったら新曲の続き書かなきゃ♪)

紬に笑みがこぼれ、軽い足取りで皆が待つ資材置き場へと向かっていった。


171:2011/06/26(日) 14:53:14.71 ID:iNmol0qk0

一方、『闇』の摘発に失敗した和たちは、失意のまま、帰宅するため路地裏を歩いていた。

「参ったわね……何一つ証拠が残っていないなんて」

「惜しかったですね、和さん……。あ〜あ、また振り出しかあ〜。
またがんばろうね、憂。……って、あれ?」

さっきまで純の横を歩いていた憂の姿がない。後ろを振り返ると、憂は立ち止まって建物の壁をじっと見ていた。

「どしたの、憂? 壁に何かあるの?」

憂は壁を見つめたまま、

「……いる」

「え?」

「いる、この向こうに! お姉ちゃんと、梓ちゃんが!」

「うそぉ!?ホントに?」

「憂、感じるのね? 『自分だけの現実』を」

「うん……この感じ、間違いないよ。お姉ちゃんと、梓ちゃんの『自分だけの現実』だ!!」

憂は建物を越えて100メートル先にある資材置き場に、唯と梓、そして律と澪の『自分だけの現実』を感じとっていた。
憂はすぐさま律の『衝撃増幅』をコピーすると、

「お姉ちゃん! 梓ちゃん! 今行くね!!」

と言い残し、突然凄まじい勢いで真上にジャンプする。

「うわっ、憂!? どこいくの!?」

「憂、待ちなさい!」

しかし憂は二人の呼びかけに応えず、そのまま建物の屋上に着地すると、また大ジャンプしてあっという間に見えなくなってしまった。

「追うわよ、純!」

「は、はいっ!」



172:2011/06/26(日) 14:54:33.67 ID:iNmol0qk0

資材置き場での戦闘は、一方的な展開になっていた。
おびき出され、逃げ場を失った男たちは、レベル4(相当)の五人組になすすべなく次々と撃破されていく。
あっという間に、残りは一人。足を潰され、もはや動けない男は地面に這いつくばる。

「く、くそ……化け物め……」

唯が男を見下ろし、ギターを構える。

「放課後ティータイムのために死んでくださいっ!」

唯がとどめの一撃を放とうと、ピックを持った右手を振り下ろそうとした瞬間、
紬は何者かがすさまじいスピードで近づいてくるのを探知能力で感じ取る。

「待って! 誰かが来る――」

「――えっ?」

とっさのことに唯の手は止まらず、レーザーが発射され、男の体を貫く。
同時に、まるで隕石が落ちてきたように、何者かがすさまじい勢いで上空から飛来し、
唯たちの10メートルほど前方に着地して砂煙を上げた。

「ぐああああああああああっ!!!」

男の体から血飛沫が上がる。よそ見をしながら唯が発射したレーザーは急所をはずれ、死に損なった男がのた打ち回る。

砂煙が晴れ、襲来した者の姿が明らかになる。
唯とそっくりな顔立ちで、髪を後ろで束ね、桜ヶ丘高校の制服を着た少女。
学園都市第六位、平沢憂だった。


173:2011/06/26(日) 14:57:45.14 ID:iNmol0qk0

その姿を見て、真っ先に反応したのは梓。

「あ……ああ……そんな……憂……!?」

闇に堕ちた自分を、見られてしまった。
表の世界とは決別すると決心したはずであったが、その表の世界に住むレベル5との再会に大きく動揺し、恐怖で体が震える。

(((第六位……!?)))

律、澪、紬の三人は、最も出会ってはいけない敵の襲来におののく。
見られてしまったからには、このレベル5を処分しなければならない。しかし、レベル5を倒すのはかなりの難題だ。
さらに、第六位は唯の妹であり、梓の親友。倒せたとしても、殺すのははばかられる。
どうすればよいのか。とっさに判断できず、三人は動けずに硬直してしまう。

唯はまだ状況を飲み込めていないのか、憂を見つめながらぽかんとしていた。
憂もまた、返り血を浴びて血まみれの姉を見つめ、ぽかんとした表情を浮かべていた。

「がああああっ!! あああ、ああああ……」

対峙する一同の間に、男の断末魔だけが響く。
次第にその声は小さくなっていき、やがて沈黙があたりを支配すると、唯がやっと口を開いた。

「……うそ……憂、なの?」

姉の声を聞いて我に返った憂は、事態を理解し、その表情が曇っていく。
しかし、すぐに意を決したように顔を上げると、姉をまっすぐに見つめて話し始めた。

「……久しぶりだね、お姉ちゃん。ずっと、会いたかった。ずっと、探してた。
でもやっぱり、『闇』にかかわっていたんだね。こうなることを、覚悟はしてたよ。
さあ、お姉ちゃん、梓ちゃんも、一緒に帰ろう? 罪を償って、また一緒に暮らそう?」

憂は、目の前で人を殺した唯に対してもなお慈悲を見せ、更正して表の世界に戻るように求める。

「……できないよ、そんなこと。そんなことしたら、憂も……狙われちゃうんだよ?」

「大丈夫だよ。私が、みんなを守るから」

「無理だよっ!! 学園都市の闇は……そんなに甘くないんだよ?」

「だからって! お姉ちゃんと梓ちゃんに、こんなこと続けさせられないよ!!」


174:2011/06/26(日) 14:59:58.19 ID:iNmol0qk0

押し問答を始めた姉妹の間に、律が割って入る。

「……ちょっと待ちな、第六位さん。あたしらの存在を忘れてないか?」

「あなたは……Ritzさんですか」

「そ。あのな、第六位さんよ。こっちにもいろいろ事情があるんだ。あたしらはただの犯罪者ってわけじゃない。
あたしが悪うございました〜、自首します、で済む話じゃないんだよ。
さらに言うなら、あたしらの秘密を知ったあんたは今すぐに処分しなきゃいけないわけだ」

律が圧力をかけるが、憂はまったく動じる気配がない。
直立不動で、まっすぐに律を見つめてくる。

(ちっ……余裕かよ。しかし、処分とか言ったはいいもののどうしたもんかな……
とりあえず総攻撃をかければ拘束ぐらいはできるか? 説得して仲間に加えるのは無理そうだし……)

結局、両者は動けずにその場に立ち尽くすのみ。
しかし、さらなる危機を紬が感じ取った。

「……まずいわ! あと二人、こっちに向かってくる!」

「「なんだって!?」」

澪と律は驚きの声を上げる。
憂を追ってきた和と純がすぐそこまで来ていた。


175:2011/06/26(日) 15:01:49.70 ID:iNmol0qk0

「どうする、律!? これ以上人に見られたら……」

「それはやばいな。収拾つかなくなる……くそっ! レベル5を速攻で倒せってか!?」

「いいえ、見られる前に向こうの二人を倒しましょう! 今、あそこのコンテナの裏を走っているわ!」

「よっしゃ、行くぜ!!」

「させません!」

律がジャンプしようとした瞬間、まるでテレポートしたかのごとく、目の前に憂が現れた。

「うっ!?」

突然のことに、律はひるみ、ジャンプできずに後退する。

「あたしの能力……コピーしてんじゃねーよ!!」

律が全速力で憂を振り切ろうとするが、律の能力をコピーし、レベル5の演算で行使する憂のスピードはすさまじく、まったく前へ進めない。

「……ちっくしょー!!」

「りっちゃん、援護するわ!」

紬が火炎弾を憂に向けて発射する。
その瞬間、憂が驚きの表情を浮かべたのを紬は見逃さなかった。

(やっぱり……コピーできないみたいね)

しかし、火炎弾はあっさりとかわされ、状況は変わらない。
そうこうしてるうちに、和と純が資材置き場へと入ってきてしまった。


176:2011/06/26(日) 15:02:37.65 ID:iNmol0qk0

「「憂!」」

その言葉を聞き、憂は後方へとジャンプして二人と合流する。和は唯の姿を、純は梓の姿を見つけ、驚きの声を上げる。

「唯……ほんとに唯なのね!?」

「和ちゃん……なの?」

「梓!! よかった、生きてた……」

「純……!!」

しかし、喜びもつかの間。憂が状況を伝える。

「二人とも、お姉ちゃんと梓ちゃんはもう……」

和、純の二人とも、この事態は覚悟していただけあって、すぐに真実を受け入れ、戦闘態勢に入る。

「……そう。残念ね……唯。あなたの幼馴染として、風紀委員として、あなたを拘束するわ。覚悟しなさい」

「そんな、梓……。
ううん、もう決めたんだ。あんたが闇に堕ちたら、ぶん殴ってでも連れ戻してやるって。友達だからって、手加減しないよ?」

事態は最悪の方向へと向かっている。唯の妹、梓の親友のレベル5、憂。唯の幼馴染、風紀委員の和。梓の親友の純。
この三人をすみやかに拘束し、殺害または監禁しなければならない。唯と梓はこの相手に対してはもはや戦闘不能であり、実質動けるのは三人。
『ユニゾン』結成以来、最も難しいミッションが始まってしまった。


177:2011/06/26(日) 15:04:50.78 ID:iNmol0qk0

和はすぐさま携帯電話を取り出す。
和のつけている腕章を見た律は、風紀委員の応援を呼ぼうとしていると判断した。

「まずい、梓、やれ! 電話させるな!」

「え、あ……はい!」

梓が和の携帯の電源を落とすため近づこうとするが、またもや憂が高速で移動し、梓の前に立ちはだかる。

「ひっ……!」

動揺している梓は十分に能力を使用することすらできない。
それを見かねた律が憂に攻撃を開始するが、まったく当たらない。

「くそっ! 澪、やれえっ!!」

焦った律は、梓を抱えて大ジャンプし、切り札である澪の能力の使用を促す。
もはや、相手を殺さずに拘束することなど考えていられない。このままでは、こちらが全員拘束されてしまう。
律の考えを汲み取った澪は、左手を掲げ、演算に集中し始めた。

「「――澪ちゃん、ダメ!」」

後ろから唯と紬の声が聞こえたが、澪は構わず能力を発動する。

「……ごめん、唯、梓。行くぞ!!」

澪の衝撃波が発射され、轟音が響き、粉塵を巻き上げ、あたりのコンテナが吹き飛ばされる。
しかし――

「……そんな!? 衝撃波を……消された?」

憂がいた地点から後方へ、きれいな扇形ができていた。
その外側は衝撃波ですべてが吹き飛ばされ、その内側はまったくの無傷。
澪の『波動増幅』をコピーした憂は、澪が音波を増幅して放った衝撃波を直接減衰させ、消滅させていた。


178:2011/06/26(日) 15:06:53.64 ID:iNmol0qk0

「うわ、すご……何今の。くらってたらヤバかったよ」

純は澪の能力の威力に驚くが、和は冷静に電話を続け、応援の要請を終了する。

「……じきに風紀委員が来るわ。警備員もね。
おとなしく投降しなさい。今、わかったでしょう? レベル5の力を」

「そんな……そんなはずない! もう一度だ!!」

「ダメよ、澪ちゃん、やめて!」

衝撃波を打ち消されたことが信じられない澪は、紬の制止も聞かず、再び衝撃波を放とうとする。
しかし、澪の足元で突然爆発のようなものが起こり、砂煙が澪に降りかかる。

「うわあっ!?」

何が起きたのか理解した澪の顔が青ざめる。澪にはできない、衝撃波の威力や範囲の調整。
それを憂はいとも簡単に成し遂げ、空気砲のような小型の衝撃波を澪の足元に向けて放ったのだった。

「うそ、だろ……」

自信を喪失した澪が膝から崩れ落ちる。
もはや打つ手のなくなった律も、言葉を失い立ち尽くしていた。

唯は先ほどから呆然と突っ立っているだけで、まったく戦意が感じられない。
梓は恐怖でガタガタと震え、右手に装備された『超電磁砲』を構えることすらできない。


179:2011/06/26(日) 15:07:34.51 ID:iNmol0qk0

万事休すの状況だが、紬だけはまだ希望を失っていなかった。
念話能力を発動し、律と澪にだけ作戦を伝える。

(りっちゃん、澪ちゃん、聞いて)

(ムギ……何か作戦があるのか?)

返事をしたのは律だけで、澪は黙ったままだった。

(一つだけ、方法があるの。誰も死なずに、みんなが元の生活に戻れる方法が)

(あいつらを殺したり監禁したりしないでもいいってことか? どういうことだ?)

(……記憶を消すの)

(そうか! ムギの多才能力なら記憶操作もできるな! 
ってもまずはあいつらをおとなしくさせなきゃいけないんだが……)

その会話に違和感を覚えた澪がようやく発言する。

(……待って、ムギ。レベル3の能力で、完全に記憶を消せるのか?)

(……できないわ。でも、それをできるようにする方法が、あるの)

紬の表情が曇る。

(おいムギ、お前まさか……)

(……これは、賭けよ。でもこれしかないの。お願い、任せて)

紬は何か、話したくないことがあるようだ。
しかし、他に案は思いつかない。律と澪は、紬の作戦に任せることにした。

(……わかったよ、やるしかねーな!)

(頼んだぞ、ムギ)

(うふふ、ありがとう。
私は唯ちゃんと梓ちゃんを逃がすから、りっちゃんと澪ちゃんは別の方向に逃げて。
そうすれば、第六位はこっちに、残りの二人はそっちを追うはず。
その二人は殺さず、動けない状態にして拘束してほしいの。こっちが終わったら、すぐに向かうから)

((了解!))

(どうか無事でね、二人とも)


180:2011/06/26(日) 15:09:56.72 ID:iNmol0qk0

「よっしゃ、逃げるぞ澪!」

テレパシーでの会議が終わるや否や、律は澪を抱えて高速で逃げ出そうとする。
しかし、憂がすぐさま律を上回るスピードで移動し、回り込まれてしまった。

「って、早速こうなんのかよ……こんの、食らえぇっ!!」

作戦を妨害され苛立った律は、澪を降ろすと、憂に向けて全力で飛び蹴りを放った。
憂は避けようともせず、律の攻撃を正面から受ける。

「――ああっ!!」

律が悲鳴をあげる。
律の蹴りがヒットした瞬間、憂は律の運動エネルギーを減少させたため、ダメージをまったく受けない。
かわりに、急激に動きを止められた反動が全て律の足にかかり、足をくじいてしまった。

「くうっ……! てんめえ……澪、アレだ!」

律はよろめきながら、地面を指差す。

「わかった、行くぞ!」

澪が地面を踏みつけると、地中を伝わる音波が衝撃波となり、激しく粉塵を巻き上げる。
憂の姿は粉塵で見えなくなった。


181:2011/06/26(日) 15:11:31.08 ID:iNmol0qk0

「よし、今だ!」

視界が悪くなった隙を突き、律は苦痛に耐えながらも澪を抱え、もくもくとたちこめる粉塵を回り込むように走り出す。

(ダメよ……! 視界を遮っても、第六位は『自分だけの現実』の位置を察知できるはず。なんとかして阻止しなきゃ!)

紬は、走っている律と平行に、盾になるように真空の刃を何個も発射する。
すると予想通り、憂は律の位置を正確に捉え、煙の中から飛び出してきた。

「逃がしませ――うっ!?」

憂の顔面すれすれを紬の発射した真空刃がかすめる。
視界を遮られていた憂は、『自分だけの現実』の位置は分かれど、飛んでくる攻撃までは察知できなかった。
憂がひるんだ隙に、律たちは逃走に成功した。

「逃がさないわよ!」

思惑通り、和は律たちを追い、駆け出した。

「……純ちゃん、和ちゃんを助けてあげて!」

「えっ? わ、わかった! 気をつけなよ!」

単身で敵の追跡を始めた和をサポートするため、純が後を追う。
残されたのは、唯と梓をかばうように立ちはだかる紬と、第六位・平沢憂。


182:2011/06/26(日) 15:13:12.71 ID:iNmol0qk0

「……何をたくらんでいるんですか、Mugiさん?」

憂の言葉に紬は答えず、ただ静かに立っているのみ。

「そこをどいてください……お姉ちゃんも、梓ちゃんも、戻ってきてよ!」

「そろそろいいかしら?」

紬は、律たちが憂のコピー可能範囲から出るのを待っていた。

(これで、この場にいる能力者は唯ちゃんと梓ちゃんだけ。さらに二人が範囲外に出れば、私の勝ち)

紬は唯と梓の方へと歩いていくと、小声で二人に話しかける。

「二人とも、私が合図したら、向こうへ全力で逃げて。第六位がコピーできる範囲から出て」

「ムギちゃん……憂をどうするの?」

「……安心して。殺したりはしないわ。私に考えがあるの。
私たちも、憂ちゃんたちも、きっと今まで通りの生活に戻してみせるから」

そう言って紬が両手で二人に触れると、二人は数メートル先へと転送された。

「さあ、唯ちゃん、梓ちゃん、逃げて!!」

唯と梓が後方へ向けて走り出す。


183:2011/06/26(日) 15:14:52.38 ID:iNmol0qk0

「……っ! 逃がさない!」

「そうはさせないわ!」

紬が地形操作で壁を作り、進路を塞ぐ。
対する憂は紬の能力をコピーしようと何度も試すが、失敗に終わる。

(やっぱり、コピーできない……この人、『自分だけの現実』が……ない? なのにどうしていろんな能力を……)

「残念ね、憂ちゃん。私は能力者じゃないのよ」

(能力者じゃないんだったら、何かの道具を用いて能力を使ってるはず……ならきっと!)

憂は梓の『空中回路』をコピーし、紬のキーボードに向けて電撃を放つ。
しかし、梓の能力は電子機器の精密操作に特化していて、電撃を用いて攻撃するのは不得手。
レベル5の演算をもってしても、電撃の威力はレベル3程度であり、いとも簡単に防がれてしまった。

(ダメだ……なら、お姉ちゃんの能力を……今ならできるかな?)

憂は唯の能力をコピーする。しかし、かつてのようにそれを使用しても何も起こらなかった。
さらに、憂は唯の『自分だけの現実』の「位置」に違和感を覚える。

(おかしいな……お姉ちゃんの『自分だけの現実』、ちょっと位置がずれてる? 
まさか……ギー太?)

何度サーチしてみても、唯の『自分だけの現実』が唯の脳内から感じられず、そばにあるギターから感じられた。
それに疑問を感じている間もなく、紬が発射した火炎弾が憂に襲いかかり、すんでのところで回避する。

「どうやら、唯ちゃんの能力もコピーできないみたいね。梓ちゃんの能力だけで勝てるかしら、超能力者さん?」


184:2011/06/26(日) 15:16:51.84 ID:iNmol0qk0

紬は念動力で瓦礫を操り、憂へと投げつける。
しかし憂はすぐに梓の能力に切り替えると、磁力を操って周囲の金属製のコンテナへと飛び移り、避けた。
コンテナからコンテナへと飛び移りながら、紬の作り出した壁を乗り越え、梓が範囲外に出ないように前方へ進んでいく。

「さすがレベル5ね。でも行かせないわ!」

紬は発電能力者に対し有利な能力を選び、憂を攻撃する。
二人の戦いは平行線で、いつしか資材置き場を出て、路地裏へと入っていった。

しかし、戦闘向きではない梓の能力しか使えない憂はやや劣勢で、しだいに唯・梓との距離が離れていく。

(ダメ……突破できない。だったら!)

憂は梓の能力を用い、紬のキーボードの電源を直接落とすため干渉を始めた。

「……キーボードの電源を落とすつもり?」

梓の能力を知っている紬はこのような事態を想定済みであり、発電能力を駆使して電磁場の「盾」を何重にも張り、憂の干渉を妨害する。
対して、憂はレベル5の演算能力をフル回転させて「盾」を解析し、一つ、また一つと突破していく。
しかし、唯と梓は憂の能力範囲を越える寸前まで迫っていた。


185:2011/06/26(日) 15:17:55.22 ID:iNmol0qk0

(お願い……間に合って!)

「そろそろかしら……あなたの負けよ、憂ちゃん」

梓が範囲外に出るのに合わせ、紬がとどめの一撃を放とうとキーボードに手をかける。
しかしその瞬間――

「――終わったっ!!」

キーボードから火花が散り、いくつかの鍵盤が弾けとんだ。

「きゃあっ!?」

憂の解析はギリギリで間に合い、「盾」を突破してキーボードの回路をショートさせ、使用不能にすることに成功する。
尻餅をついた紬は、驚愕の表情を浮かべていた。

「驚いた……やっぱり驚異的な演算力ね、レベル5。でも、梓ちゃんはもう行ってしまったわよ?」

紬の多才能力を封じたとはいえ、能力範囲内に誰も能力者がいなくなってしまった憂は無能力者も同然だった。

「それでも……お姉ちゃんたちを追います。そこをどいてください!」

憂が紬に向かって駆け出す。紬は壊れたキーボードを投げ捨てると、憂を迎え撃つ。
無能力者となった二人の肉弾戦が始まった。


186:2011/06/26(日) 15:19:07.88 ID:iNmol0qk0






一方、律と澪は和と純を誘導しながら、人気のない路地裏へと逃げ込む。
憂のコピーできる範囲からは十分に離れたはずだ。

「はぁ、はぁ……こんだけ離れれば大丈夫だろ……っつう……!」

律は立ち止まり、澪を降ろす。

「律、足大丈夫か……?」

「ああ、たいしたことないって……。はあ、ムギに回復してもらってから来ればよかったな」

ほどなくして、追ってきた和と純が到着する。

「……見つけたわよ! 殺人の現行犯で、あなたたちを拘束するわ」

和が腕章を見せつける。

「……ハッ、もうレベル5はいないんだぜ? あたしらに勝てると思ってんのか〜?」

律は痛みを隠しながら相手を挑発するが、和も純もひるむ様子はない。

「私たちだってレベル4ですよ、なめないでください!!」

(ちっ、レベル4かよ……まいったな〜)

律は思わず舌打ちする。
普段ならレベル4が相手だろうとなんとも思わないのだが、今回は相手を殺してはならないという制限付き。
即死級の威力を持つ澪の能力は使えない。怪我をした律一人だけでレベル4二人を相手にするのはかなり不利だ。


187:2011/06/26(日) 15:21:19.64 ID:iNmol0qk0

(……速攻だ。まず足を潰す!!)

律は何も言わずに、突然、和に向けて猛スピードで突撃する。

「――まずはあんただ、風紀委員っ!!」

「……」

和は避けるそぶりを見せず、黙って能力を発動する。
律が和に残り5メートルほどまで迫った瞬間、律は全身が焼けるような感覚を覚えた。

「――あっちいいいっ!!」

思わず律が後退する。
炎が出ているわけではなく、和の周りの空気が、かなりの高温になっていた。少し離れた律のところまで、温風が吹いてくる。

「なんだよ、発火能力者か何かか? このっ!」

律が和に回り込むようにいろんな方向から突撃するが、やはり高温の「壁」に阻まれて攻撃できない。
分子レベルの運動エネルギーを操れない律は、熱による攻撃を無効化できない。相性の悪い相手だった。

「観念しなさい。こっちから行くわよ!」

今度は和が律に向けて駆け出す。


188:2011/06/26(日) 15:22:59.59 ID:iNmol0qk0

(……今だ!)

律は和を十分に引きつけると、和の頭上を飛び越え、後方にいた純に狙いをさだめ突撃する。

「――次はあんただ、もふもふ頭!!」

「しまった! 純、避けて!!」

「え、ちょ、いきなり!? ――く、くらえ、バクハツ!!」

純が手をかざすと、その前方5メートルほどの地面が突如爆発し、律の進撃を止める。

「うわっ、なんだよ!? ……これならどうだ!」

律は素早い動きで純をかく乱し、距離を詰めていく。

「ちょっ、こ、来ないでよ〜!!」

対する純は何度も地面を爆発させて律を近づけないようにするが、和のように範囲攻撃ではないため、次第に追い詰められていった。
純を救うため、和は能力を使用し、全速力で駆け出す。

「純、今行くわよ!
……前方を−50℃、後方を100℃」

和の後方から前方へ、温度差による追い風が吹き荒れ、和を加速する。
すぐに、律に追いついた。

「――冷てええっ!!」

−50℃の冷気にさらされた律は思わずジャンプし、和を飛び越えて澪のいるほうへと戻る。

「ふ〜、危なかった……すいません、和さん」

「いいのよ。私から離れないで、純。Ritzは私には近づけないわ」

熱に冷気。二種類の攻撃を受けた律は困惑する。

「……どうなってんだ、多重能力者か?」

「私が操っているのは温度よ。『温度制御(ヒートコマンダー)』、覚えておきなさい」


189:2011/06/26(日) 15:24:22.05 ID:iNmol0qk0

「へ〜、温度ねえ……それだけか、安心したぜ」

律がにやりと笑う。

「じゃ、これで終わりだな。くらいな!!」

律は足元にあった砂利を掴み取ると、和と純の足をめがけて高速で投げつけようと振りかぶる。

「――まずいわ、純、爆発させて!」

「は、はい!」

純が地面を爆発させると、和は温度差を利用した逆風を起こし、巻き上がった粉塵を律に向かって吹きつける。
しかし、律が放った砂利は銃弾のように加速されているため、逆風や粉塵では完全に防ぐことはできない。

「うっ!!」

「いったぁーっ!!」

和と純の足に鋭い痛みが走る。とっさの防御策のおかげで威力は軽減されていたため、一撃で歩けなくなることは免れた。

「ありゃ、防がれたか……ま、次でおしまいだ。ふう、なんとかなったな……」

一時は劣勢に立たされていた律が安堵する。


190:2011/06/26(日) 15:25:53.52 ID:iNmol0qk0

その隙に、和は純に小声で話しかける。

「くっ……次撃たれたらまずいわね。純、Mioを狙って。
どうも、向こうは私たちを殺さずに捕まえようとしているみたいだわ。なら、さっきの戦闘からして、Mioはあの強力な能力を使えないはず」

和は律たちの思惑を、弱点を見破っていた。

「いたたた……わかりました。はあ、まさか憧れのMioに攻撃することになるなんて……」

純が前に出て、右手を高く掲げる。

「――くらえっ、私の『炭素粉刃(アダマントブレード)』!!」

すると、純の周囲に無数の小さなダイヤモンドの結晶が出現した。その結晶は、先がとがっていて、小さな刃のようになっている。
純が手を振り下ろすと、きらめく無数の刃が澪に向かって発射される。

「!? 澪っ!!」

「――えっ?」

攻撃の矛先が澪だとわかった律は、すぐさま高速移動して澪をかばい、ダイヤモンドの刃を受ける。

「いってええええっ!!」

「り、律っ!?」

普段なら刃物で切りつけられても効かない律が、痛みを訴える。
足をくじいたことに始まり、ダメージを受け続けてきた律の能力の精度が落ちてきていた。

「もういっちょ〜!!」

純は周囲の地面を爆発させる。再び右手を掲げると、ダイヤモンドの刃が出現し、澪に向けて発射された。
澪ばかりを狙われては、律は身動きがとれない。痛みに耐え、刃を受け続ける。


191:2011/06/26(日) 15:27:46.67 ID:iNmol0qk0

「くうっ、いてて……!! どうなってんだ、爆発女じゃなかったのかよ……?」

「爆発女って言うな〜!! 私の能力は炭素原子を操ってるんですよ!」

炭素原子限定の念動力。純は周囲の地面に含まれる炭素原子だけをもぎ取り、それを再結合させてダイヤモンドを作っていた。
急激に炭素を奪われた物体は、残された水素、酸素、窒素などの原子が激しく反応し、爆発を起こす。

このままではらちがあかない。律は澪をかばいながらも、純の攻撃の合間に足元の小石を拾い、再び投げつけようとする。
しかし、既に和が目前にまで迫ってきていた。

「同じ手は食わないわよ!」

「しまっ――」

瞬間、律の意識が飛びそうになる。和は、律の脳の温度を直接上昇させた。

「うあ……? て、めえ、何を……」

意識が朦朧とした律は、ふらふらとよろめき、澪にもたれかかる。

「律っ! しっかりしろ!!」

「あ、あたまが……ぼーっとする……」

「あなたたちの負けよ、Ritz、Mio。おとなしく投降して」

和がゆっくりと迫ってくる。


192:2011/06/26(日) 15:29:34.15 ID:iNmol0qk0

「澪……もういい、やっちまえ……」

みんなが生きて元の生活に戻るという紬の作戦は達成できそうにない。しかし、このまま捕まるわけにはいかない。
律の言葉を受け、澪は律をその場に座らせると、和のほうへ向き直り、左手を掲げた。

「ちょ、和さん、まずいですよ!」

澪の即死級の攻撃が来ることを察知した純は焦り始める。

「……あなたたちは私たちを殺さずに捕まえようとしているんでしょう?」

下手に動いて衝撃波を発射されることを恐れた和は、澪に思いとどまらせるため、話しかける。

「……そうだ。でも、それができないなら、こうするしかない」

「唯や梓ちゃんが悲しむわよ?」

「……っ!」

和の精神攻撃に澪は動揺する。和は一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。

「来るな! 撃つぞ!」

「お願い、あきらめて。あなたたちも、唯と同じように『闇』に巻き込まれたのでしょう?
唯と一緒に、やり直しましょう。今なら、まだ間に合うわ」

「だ、黙れ! 暗部は、そんな生易しいものじゃない! そんなことしたら、みんな殺される!!
それに……私たちの放課後ティータイムを……闇に住む私たちの唯一の居場所を失うわけにはいかないんだ!!」

澪が演算を開始する。

「和さん、ヤバいですって! 逃げてください!」

純は近くの建物の窓ガラスを割り、中へ逃げるよう促す。

「……そのようね」

澪が止まる気配はない。
即座に澪に攻撃をしかけたとしても、衝撃波の発射を止めることはできないと判断し、風を起こして一旦身を引く。


193:2011/06/26(日) 15:31:15.00 ID:iNmol0qk0

しかし、澪は衝撃波を放つことをためらっていた。

(私が、衝撃波の威力を抑えることさえできれば……!)

澪の脳裏に憂の姿が浮かぶ。

(それさえできれば、私たちも、唯や梓の大切な人たちも、守ることができるのに……! なんで、私は……っ!!
思い出すんだ、さっきの第六位の小さな衝撃波を……!)

澪の様子を見て、律は澪のしようとしていることに勘付く。

「や、やめろ……澪、無理するな……」

「律……私は、私は……みんなを守ってみせる!」

澪は全演算を集中し、和に狙いを定め、「小さな衝撃波」を放とうとする。

「――くらえっ!」

しかし、無理に範囲を狭めたことで一極集中した膨大なエネルギーはコントロールを失い、澪の目の前の地面に衝撃波が直撃。
けたたましい音が響き、地面はえぐれ、反射波によってあたりの建物の窓ガラスが割れる。
反射波をもろに受けた澪は、後ろにいた律を巻き込んで吹き飛ばされた。


194:2011/06/26(日) 15:32:41.87 ID:iNmol0qk0

「う、ぐうっ……!」

地面に落下し叩きつけられた澪が悲鳴をあげる。
衝撃波により全身に打撲傷を負ってしまい、もはや立つことはできなかった。

「澪……! ばかやろう……」

かろうじて能力で衝撃を軽減した律は無事だったものの、ダメージを受けていた。
ふらつきながらも、すぐさま澪のもとへ駆け寄る。

「ごめん、律……ダメだった」

「しゃべるな、澪……!」

建物の中に隠れていた和と純が出てくる。

「……私たちを守ろうとしてくれたのかしら。礼を言うわ。お願いだから、これ以上抵抗しないで……」

「もういいでしょ、Mioさん、Ritzさん。もうやめようよ……」

「やられる……もんかよ。あたしたちの、放課後ティータイム……つぶさせねえ!」

もはや律と澪の二人に戦う力は残っていないが、なおも譲ろうとはしない。
傷ついてもなお譲らない二人を見て、和と純もさすがに耐え切れなくなってきていた。

「さあ、おとなしくして」

和が近づいてくる。もはや、逆転勝利することは不可能。

(捕まる、ぐらいなら……)

律は澪を抱える。

「……! 逃げる気!?」

「――ムギ、すまん!!」

律は最後の力を振り絞り、遥か遠くへと大ジャンプした。


195:2011/06/26(日) 15:34:31.28 ID:iNmol0qk0





紬と憂の格闘戦は、紬の勝利に終わった。

「はあ、はあ……やっとおとなしくなったわね」

「くうっ……!」

紬が憂を地面へと叩き伏せ、拘束する。

「格闘に関しては素人のはずなのに……どうなってるのかしら、この子」

幼いころからスパイとして暗部とかかわってきた紬は、格闘術もマスターしている。
しかし、憂は紬の動きを見てその場で習得していたようで、思わぬ苦戦を強いられた。

「第六位の前では『自分だけの現実』はもはや自分だけのものではない、だったかしら?
確かに、恐ろしいまでの飲み込みの速さね」

「私を……どうするんですか」

「記憶を消すの。あなたが、唯ちゃんや梓ちゃんを見つけたことは、なかったことにするの」

「……そんな! 離してください!! せっかく、せっかく見つけたのに!!」

「憂ちゃん。唯ちゃんと梓ちゃんは、学園都市の闇に深く染まってしまったの。一緒にいても、お互いに不幸になるだけよ。
今日のことは忘れて、今までの生活に戻って」

「それでも、それでも……! 私は、お姉ちゃんと――」



「お〜い、憂〜〜!!」



196:2011/06/26(日) 15:36:01.76 ID:iNmol0qk0

「「!!」」

遠くから、純の声が聞こえてくる。和と純が駆けつけたのだ。

「離してくださいっ!」

すぐさま純の能力をコピーした憂は、近くの地面から炭素を抜き取り爆発を起こす。
そして、10センチほどの長さのダイヤモンドの短剣を作り出し、紬に向けて発射した。

「きゃあっ!」

紬は思わず憂を拘束していた手を解き、飛んできた刃を回避する。
自由になった憂は一旦後退し、和たちと合流する。

「憂、大丈夫?」

「うわ、アザだらけじゃん!?」

「……えへへ、大丈夫。来てくれてありがとう、和ちゃん、純ちゃん。助かったよ」

形勢は一気に逆転した。もはや多才能力を使えない紬に対し、かたやレベル5が一人とレベル4が二人である。



197:2011/06/26(日) 15:36:50.24 ID:iNmol0qk0

「そんな……りっちゃんと澪ちゃんは……?」

「……彼女たちには逃げられたわ」

律と澪が無事だったことに安堵するも、作戦は失敗。
紬一人で、この三人を相手しなくてはいけないという絶望的な状況に陥った。

「もうあなたに勝ち目はないわ。おとなしく降伏して」

「……そのつもりはないわ」

「なんでみんなあきらめが悪いかなあ……もうやめようよ! これ以上やっても傷つくだけですよ!?」

純の必死の訴えにも、紬はまったく動じる様子はない。
さらに憂が前に出て、畳み掛ける。

「もうあなたは能力は使えません。道を空けてください、私たちはお姉ちゃんと梓ちゃんを追います!」

「いいえ、それはできない。
唯ちゃんと梓ちゃんは、あなたたちにとって大切な存在なのでしょうけど……
それは私たちにとっても、同じことなの!」


198:2011/06/26(日) 15:39:10.23 ID:iNmol0qk0

紬は先ほど投げ捨てた壊れたキーボードを拾い上げると、その場に正座し、膝の上にキーボードを置く。

『――我が膝より世界の卵は零れ落ち天地を創造する』

すると、膝の上のキーボードが輝きはじめ、突如バラバラに砕け散り、破片があたりの地面に規則正しく突き刺さる。
輝きを放つ破片からは蒼いオーラが噴出し、紬の周りを覆う。

『――我が歌は万物を操る魔法となる』

紬の声が何重にも重なり、また、紬のものではない声も聴こえてくる。
聖歌のような、呪いのような、不思議な『歌』があたりに響き渡った。

「えっ、なんなのアレ? ちょっと憂、あの人能力を使えなくなったんじゃなかったの!?」

「……そのはずなんだけど。ダメ、あれもコピーできない……Mugiさんは、超能力以外の何かを操っているみたい」

超能力とは相容れない異質の存在である「魔術」。科学の結晶である超能力にはないその神秘性に、能力者である一同は直感的に気味の悪さを感じていた。

(『ワイナミョイネンの歌』は魔法の歌であらゆる現象を操る魔術。でも私の知識と信仰心じゃ単なる『歌』にしかならないわ……
ふふ、『万物を操る』とはよく言ったものね。でも、これを使えば……)

『合成魔術』の開発に力を入れていた琴吹グループは、魔術の使用に関しては本職の魔術師には劣る。しかし、紬にはある秘策があった。

(魔術的な要素を含む『歌』は、ただの音波じゃない。この『歌』を使って『合成魔術』を使えば、もっと複雑な術式を組み立てられる――
レベル4までの能力が使えるはずよ!)

これこそが、紬の作戦だった。魔術の『歌』を用いてレベル4の精神感応系能力を使用し、憂たちの記憶を消す。
そうすれば、誰も死ぬことなく任務は完了し、皆がもとの生活に戻れる。
律、澪の敗北によって一対三の状況にはなってしまったが、強化された多才能力を用いればなんとか撃退できるはず、と紬は考えていた。



199:2011/06/26(日) 15:41:12.66 ID:iNmol0qk0

紬の歌声が、謎の声とからまりさらに何重にも重なる。
単なる音波では成し得なかった、三次元以外の要素を含む複雑な術式を組み上げ、『虚数学区』へと接続する。しかし――

「――ぐっ、ごほっ、ごほっ!!」

紬は血を吐き出した。
魔術を発動しながらの超能力の使用により、二つの異世界が紬の体の中で混線する。
もはや『合成魔術』の例外からは漏れ、魔術を使用した超能力者と同じように、拒絶反応が紬の体を襲う。

血を吐き出す紬の姿を見た和と純に、先ほどの律と澪の姿が思い起こされる。
彼女もまた、無理をしてまで放課後ティータイムと憂たち三人を守ろうとしているようだ。

「……またなの!? やめなさい! どうして自分を傷つけてまで……!!」

「……ふふ、私、欲張りだから。
私の大好きな放課後ティータイムのみんなも、唯ちゃんと梓ちゃんの大切な人たちも、全部……この身のすべてをかけてでも、守ってみせるわ!!」

紬は足元に落ちていた鍵盤の破片を拾うと、一歩前に踏み出し、高らかに宣言する。

「聞きなさい――我が名は、Intimus076!!」


200:2011/06/26(日) 15:42:42.39 ID:iNmol0qk0

次の瞬間、先頭に立っていた憂のふくらはぎに、鍵盤の破片が突き刺さった。

「――うっ!?」

「「憂!!」」

その場に崩れ落ちた憂に駆け寄ろうとした和と純の前に、テレポートしてきた紬が出現する。
突然現れた紬に驚き、二人の動きが止まった一瞬の隙に、紬が両手で二人の体に触れる。その部分が噴射点となり、突風で二人は勢いよく吹き飛ばされた。

「「きゃああああっ!!」」

憂が振り向き、状況を理解したときには既に和と純は憂のコピー可能範囲の外へ出てしまい、憂はもはや反撃できない。勝負は一瞬でついた。

「……うっ、げほっ! ……さあ、憂ちゃん。まずは、あなたの、記憶を……」

紬は口から血を吐き、血の涙を流し、服のあらゆるところを血に染めながら、ゆっくりと憂に近づいてくる。
連続でレベル4の強力な能力を使用した紬の体は、早くも限界に達していた。

憂は能力も使えず、足の痛みで立ち上がることもできない。
禍々しいオーラに包まれ、この世のものではない歌声を発しながら血まみれで迫ってくるその姿に、レベル5は初めて恐怖を覚えた。

「……お姉ちゃん……!」

紬は右手を憂の頭へと伸ばす。憂はもはやどうすることもできず、目をつぶった。
『歌声』が重なり、能力が発動する。

しかし、その手は憂の頭に触れることはなく、ドサッと音を立てて、憂の横に紬の体が倒れこんだ。

「――えっ?」

憂が目を開けると、横には血まみれで倒れている紬の姿。『歌声』は既に消えていた。 


201:2011/06/26(日) 15:43:37.22 ID:iNmol0qk0






誰もいなくなった資材置き場に、風紀委員の応援が到着する。

「うっ……ひどい状況だな」

澪が二度放った衝撃波により地面はえぐれ、破壊されたコンテナの瓦礫があたりに散乱している。
そして、中心部には虐殺された男たちの死体。

風紀委員の男性が死体を確認する。
和からは、アジトから逃げ出した『闇』の組織員を発見したとだけ聞いていたのだが、それだけではこの状況を説明できない。

「どういうことだ? 誰がこいつらを……
……! この人、まだ息があるぞ! 救急を呼んでくれ!」

一人だけ、瀕死の状態でかろうじて生き残っている者がいた。唯が急所を外し、仕留め損ねた男だった。
その手には、携帯電話が握り締められており、メールを送信した状態で止まっていた。

「……なんだこれ、暗号か?」

その内容は暗号化されており、読み取ることはできなかった。


202:2011/06/26(日) 15:44:33.03 ID:iNmol0qk0








薄暗い路地裏の、建物と建物の間の狭い場所に、律と澪の二人が壁にもたれかかって座っていた。

「澪、大丈夫か……?」

「……ごめん、もう立てそうにない。律こそ、さっき着地のときに……」

「はは、情けね〜よな。あたしが着地失敗だなんて」

度重なるダメージで演算能力が低下した律は、大ジャンプの着地の衝撃をうまく軽減できず、もはや澪と同じく立てない状態になっていた。

「なんか、こうしてると昔を思い出すよな〜」

「言うなよ……」

幼いころ、暗部に入る前に二人で乞食のような生活を送っていたころの記憶がよみがえる。

「ムギ、どうなったのかな……」

律が携帯を取り出し、紬に電話をかける。しかし、電話が通じることはなく、コール音が延々と鳴り続けるのみだった。

「……ははは……あたしらみたいな人殺しが、いっちょまえに人を『救う』なんてマネをしようとしたから、こうなったのかもな」

普段なら容赦なくターゲットを殺していたが、相手を救うために戦ったのは初めて。
不慣れな戦い方が隙を生み、『ユニゾン』結成以来の敗北を喫した。


203:2011/06/26(日) 15:45:41.47 ID:iNmol0qk0

「どうする、律……?」

「さあな。もう何も考えられない」

どうすればいいかわからないし、動けないのでどうすることもできない。そんな二人に、さらなる絶望が襲う。

「――ケケケ、見つけたぞぉ」

「「!?」」

狭い通路に、男が侵入してきた。その手には拳銃が握られている。

「……黒髪ロングに、カチューシャか。報告通りだな。てめえらが噂の放課後ティータイムってわけだ」

生き残っていた組織員からの連絡により、協力する組織が一斉に放課後ティータイムを探して動き始めていた。
動けずに一か所にとどまっていた律たちは、あえなく見つかってしまう。

「てめえらは俺たち暗部組織の中でもやっかいな存在だったんだよ。ちょっとでもしくじったり、言うことを聞かなかったりしたら即皆殺しだもんなあ。
その恨みを晴らせるときがついにきたってわけだ、ケケケ」

男が銃を構える。

「く、くそおっ!!」

律は小石を拾うと、なけなしのパワーを注ぎ込み、男の脳天めがけて投げつける。

「ぐはっ!?」

小石は男の頭を貫くことはなかったが、男は気絶し仰向けに倒れる。男の持っていた銃がこちらへ飛んできて、律の足元に落ちた。



204:2011/06/26(日) 15:46:27.49 ID:iNmol0qk0

「はあ、はあ、なんとかなったか……」

「り、律ぅぅぅ!?」

「……え?」

突然絶叫した澪に驚き、律が自分の体を見ると、腹のあたりから血が流れ出ていた。
銃弾は既に発射されており、もはや威力を軽減できない律の体を貫いていた。

「……あ、うそ、だろ……」

一気に血の気が引いていく。

「い、いやああぁぁぁぁぁ! りつうぅぅぅぅ!!」

澪は律の血を見てパニックに陥っている。

「お、おちつけ、澪……あたしは、大丈夫……じゃないかも、てへっ」

律の意識が薄れていき、もはや残された時間が少ないことが感じられた。

「澪、聞いてくれ……」

「イヤだ! 聞きたくないっ!!」

律が最期の言葉を言おうとしていると感じた澪は、それを拒否する。律が死ぬことを認めたくなかった。

「いいから、聞けよ……なあ、澪、お前と逢って、今までずっと一緒にやってきて。バンド、組んでさ」

「やめろ……やめてくれ……!」

澪は耳をふさぐようなポーズをとるが、聞こえているようだ。
律は澪に這い寄ると、やさしく澪の手を耳から離す。

「放課後、ティータイム、楽しかったな。思えば、あたしらみたいな人殺しが、あんなしあわせな、せいかつ……できた……だけ……」

「りつぅ……!」

「いままで、ありがとな……みお。じゃあな」

そのまま律は澪にもたれかかると、もう言葉を発することはなくなった。


205:2011/06/26(日) 15:48:03.73 ID:iNmol0qk0

「う……うああああああああああああ!!!!!」

澪が絶叫し、能力が暴走する。
澪の声が衝撃波となり、全方向に発射され、瞬く間に周囲の建物を吹き飛ばす。

かつて澪が律に出会ったときのように、瓦礫の中で澪と律がぽつんと残された。

「律……イヤだ……私を置いていかないでくれ!」

満足に動かせない手で律の体を揺さぶるが、反応がない。

「そんな……私は、律がいなきゃ……」

ふとあたりを見渡すと、先ほどの男が持っていた拳銃が目に入った。

「……ごめん、みんな」

澪は拳銃を手に取る。

「後を追ったりしたら、きっとみんなに怒られるな……でも、私は律がいなきゃだめなんだ。律がいたから、今まで生きてこれた。
これからも、ずっと一緒にいてよ……律」

澪は左腕で律を抱きしめると、右手で拳銃を持ち、目をつぶり、自らの頭に押し付ける。
そして、躊躇なく、自らの頭を撃ち抜いた。


206:2011/06/26(日) 15:49:50.09 ID:iNmol0qk0






紬に言われるままひたすら走り続けた唯は、道中、これからどうすべきなのかをずっと考えていた。

(ムギちゃんから連絡来ないなぁ……なんか作戦があったみたいだけど、ダメだったのかな……。
憂……どうして、こんなことになっちゃったんだろ)

いまだに、現状を信じきれない。憂、和、そして梓の親友の純に見つかってしまった。その三人を、本来なら殺すなり監禁するなりしなければならない。
しかし、そんなことはできるわけがない。

(わたしたちが捕まっちゃったら、牢屋から出てくるまでは安全だけど……出てきたら、狙われるよね。
憂たちも、私たちをかくまおうとしたら……きっと)

秘密を知っただけでもこれから暗部に付け狙われる可能性が高いのに、憂たちは一緒に暮らす気だった。
そんなことをすれば当然、暗部からの激しい襲撃を受けるに違いない。

(逃げ切ったとしても、わたしたちは任務失敗でクビになっちゃうよね。文字通りに。
憂たちもあきらめる気なさそうだし、たぶんまた暗部に首をつっこんできて……やられちゃう)

どう考えても、憂たちは暗部の攻撃を受けることになる。ならば、最も被害が少なくて済む方法はどれか。

(憂が……わたしのこと嫌いになればいいのかな)

憂たちが唯たちに興味を失えば、これから暗部に関わってくることもないだろう。
暗部からの初動の攻撃をなんとかしのぎ切れば、その先は危険にさらされることはないかもしれない。

(そうだ、それがいいよ。憂や和ちゃんに嫌われるのは悲しいけど、それで救われるなら、わたしは――)

「――先輩、唯先輩!!」

先ほどから梓が呼びかけていたが、考え事に集中していた唯は気づいていなかった。


207:2011/06/26(日) 15:51:08.13 ID:iNmol0qk0

「……え?」

「唯先輩……聞いてください」

「……何、あずにゃん?」

「……自首しましょう」

梓は、唯がまったく考えていなかった選択肢を提案してきた。

「あずにゃん……何を言っているの? そんなことしたら……憂たちもやられちゃうんだよ?」

「他に何があるんですか!? このまま逃げたって、同じことです! だったら、憂たちと一緒に暗部と戦ったほうが……!」

まだ暗部に入って日の浅い梓は、学園都市の恐ろしさをよく知らない。上に逆らって成功した者は、今だかつて存在しない。
レベル5ですら、五体満足で上層部を打倒することは難しいだろう。

「ムリだよあずにゃん! そんなの、自分から憂たちを殺しに行くようなもんだよ……!」

「やってみなきゃわからないじゃないですか! 私たちは今まで暗部で戦ってきて、ずっと負けなかったんですよ!? 
レベル5の憂も、レベル4の純と和先輩もいます!」

「そんなに甘くないよ、あずにゃん!!」

甘いことを言う後輩に唯はついムキになってしまう。

「……っ! もう唯先輩なんか知りません! 私は戻ります!!」

「……行かせないよ!!」

唯が素早くギターをカッティングすると、事切れたように梓がその場に倒れた。
梓は唯の能力により、深い眠りに落ちた。

「ごめんね、あずにゃん……」

梓が倒れたことにより、唯はその場から動けなくなってしまう。
突っ立ったまま、静かに「その時」を待つ。


208:2011/06/26(日) 15:52:35.98 ID:iNmol0qk0

(……来た)

100メートル先に、憂、和、純の存在を感じ取る。建物の影から三人が現れ、憂と目が合った。

「……お姉ちゃんっ!」

憂は足を引きずりながらもこちらへ駆け寄ってくる。和と純も、痛みに耐えているように見えた。
そして、唯の足元に倒れている梓を見つけてそれぞれが驚愕の表情を浮かべる。

「あ、梓……!」

純の表情が驚きから怒りへと変わり、唯を睨み付ける。

「……唯。その子をどうしたの?」

「寝て……いや、わたしが、殺した、よ」

唯は憂たちの気持ちを遠ざけようと、非情な殺人犯を演じようとする。

「そんな……! 梓ぁっ!」

純が唯に向けて能力を発動しようと一歩踏み出す。それを見た憂が慌てて純の腕を掴み、制止する。

「純ちゃん、落ち着いて!」

「こんなの落ち着いてらんないよ! 梓が、友達が殺されたんだよ!? いくら憂の姉ちゃんだからって、いくら深い事情があったって……許さない!」


209:2011/06/26(日) 15:53:52.78 ID:iNmol0qk0

純が憂の制止を振り切り、能力を発動する。純の前方の地面が爆発を起こし、周囲に無数のダイヤモンドの結晶が現れ、唯に襲いかかる。
しかし、唯のバリアーで防がれ、結晶は唯の足元に落ちた。

「ちっくしょおおお!!」

怒りに狂う純が攻撃を連発する。がむしゃらに能力を発動したため、だんだんとダイヤモンドは黒鉛が混ざって黒ずんでいく。唯のバリアーにヒビが入り始めた。
さらに、和も前へ出る。

「唯。真偽はともかく、私は風紀委員としてあなたを拘束するわ。覚悟してちょうだい」

和が冷たい声で宣戦布告する。唯は黙ったままだった。

「……なんか、なんか言ったらどうなの、この人殺し!」

純がまくし立てるが、唯は俯いたまま応えない。

「このっ…!」

「行くわよ、唯」

二人が能力を発動しようと構えるが、憂が制止する。

「待って、純ちゃん、和ちゃん!」

「なによ、憂! まだ言うの!?」

「梓ちゃんは……まだ死んでないよ」

「えっ!?」

「感じるもん……梓ちゃんの『自分だけの現実』。すごくうっすらとだけど……多分、深く眠っているんじゃないかな」

「唯が眠らせたって言うの?」

「うん、多分……お姉ちゃんの能力で。お姉ちゃんの能力、何でもできるから」


210:2011/06/26(日) 15:55:37.19 ID:iNmol0qk0

憂は二人の前に出ると、唯をまっすぐに見つめる。

「ねぇ、お姉ちゃん……何で殺したなんて嘘をつくの? お姉ちゃんは、友達を傷つけることなんてできない、よね?」

「……う、うるさい……憂、さっき見たでしょ? わたしは、人殺し、なんだよ」

唯がついに口を開く。表情は前髪に隠れて伺い知れないが、声は明らかに動揺していた。

「そうしなきゃいけない事情があったんだよね、お姉ちゃん。じゃなきゃ、優しいお姉ちゃんがあんなことできるはずないもん」

やはり、この妹はこれくらいでは唯のことを嫌いになることはないようだ。どんなに唯が闇に堕ちても、手を差し伸べてくる。

(ダメ、憂に嫌われなきゃ……嫌われなきゃ……)

憂たちに嫌われ、これ以上関わらせないようにする。唯の最後の悪あがきが、早速失敗の危機を迎えている。
混乱し始めた唯は、ひたすら嫌われることだけを考えていた。

「ね、お姉ちゃん? だから一緒に――」

「――うるさい! わたしは、人殺しだよ? 友達も、妹も、傷つけてもなんとも思わない……人殺しだよ!!」


211:2011/06/26(日) 15:56:26.09 ID:iNmol0qk0

唯が乱暴にギターをかき鳴らすと、空砲のようなものが発射される。それは憂の横を通過し――

「きゃあっ!?」

「純ちゃん!?」

純が後方へ弾き飛ばされ、倒れた。
憂が駆けつけると、純は意識を失っていたが、特に傷はない。唯は無意識のうちに手加減し、意識だけを能力で奪ったようだ。

「――唯、見損なったわよ!!」

和が温度差による風を起こし、高速で唯へと突撃する。

「和ちゃん、来ないでぇぇ!!」

唯が後ずさりながらギターを鳴らし、再び空砲が発射される。和は逆風で打ち消そうとするが――

「うっ!?」

「和ちゃん!!」

唯の発射したものは風ではない何かであり、和の起こした風をすり抜けて直撃し、吹き飛ばされた。
憂が和のもとへ駆け寄るが、純と同じく傷はなく、眠らされただけのようだった。


212:2011/06/26(日) 15:57:54.64 ID:iNmol0qk0

「はあ、はあ……憂、わかったでしょ。わたしは、悪い人になっちゃったんだよ?」

「……」

憂は黙ったまま、ゆっくりと唯の方を見る。

「――ひっ!?」

その視線に射抜かれた唯は恐怖を覚える。その目を、唯は知っている。憂は、完全に怒っていた。

「信じてるよ、お姉ちゃん。私を遠ざけるためにこんなことしたんでしょ? 今だって、手加減してくれたもんね。
でもね、お姉ちゃん……? だからって、友達を攻撃するのは――」

憂が手を前に出し、親指を突き立てる。

「――めっ」




――ドゴオォォォォォォォォォッッ!!!


213:2011/06/26(日) 16:00:28.36 ID:iNmol0qk0

「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

憂と唯の間の空間で大爆発が起こり、唯はとっさにバリアーを張るも一撃で破られ、吹き飛ばされる。
憂は和の『温度操作』を使い、空気の温度を瞬時に1000℃まで加熱。空気が一気に膨張し、衝撃波とともに爆発を引き起こした。

「あうっ……!!」

勢いよく飛ばされた唯はゴロゴロと転がっていき、ギターが何度も地面に打ち付けられるが、ギターは無傷だった。
唯が起き上がると、憂が無傷でこちらへ歩いてくるのが見える。
憂の向こう側には爆発の形跡がない。憂は、自分側の空気は瞬時に冷却することで、爆風を防いでいた。

「こ……来ないで!」

唯は再びバリアーを張り、後方へと逃げ出す。

「逃がさないよ、お姉ちゃん」

憂は背後に液体空気を作り出すと、それを一気に常温まで加熱。ジャンプして常温の爆風に飛び乗り、唯のもとへ一気に詰め寄った。
すぐさま純の『炭素粉刃』をコピーすると、逃げる唯の前方の地面が広範囲にわたって爆発を起こし、唯を足止めする。
間髪いれずに、上空に発生した無数のダイヤモンドのつららが、雨のように唯のバリアーに降り注いだ。

「くうっ……!!」

最後のダイヤモンドが突き刺さった瞬間にちょうどバリアーが割れる。どうやら、憂は唯がギリギリで防げる威力の攻撃を行っているようだ。


214:2011/06/26(日) 16:01:41.78 ID:iNmol0qk0

「来ないでって、言ってるでしょ!」

唯は憂の方を振り向くと、威嚇のためレーザーを放つ。
しかし、威嚇だとわかっている憂は避けようともせず、そのまま近づいてくる。

「ひっ……! わ、わたしは……妹を傷つける、悪者なんだからね!!」

唯がついに憂に当たるように光弾を発射する。憂は梓の『空中回路』をコピーすると、近くの建物に磁力を用いて飛び移り、避けた。

「だから! 来ないでよお……! わたしのこと、嫌いになってよお!!」

唯がめちゃくちゃにレーザーを発射し始める。憂はそれを器用にかわしながら、あっという間に距離を詰め、唯のギターをがっしりと掴んだ。

「い、いや! やめてよ! ギー太を返して!!」

「ダメ! ギー太は没収だよ!!」

唯はピックを持った右腕も掴まれ、能力を発動できない。

「やめてええ!!」

唯が叫ぶと、ギターを弾いていないにも関わらず、能力が発動。ギターから謎の爆風が発せられ、憂を吹き飛ばした。

「きゃあっ!?」

その隙に、唯は全力で走って逃げ出す。

「……待ってよ、お姉ちゃん!」

憂は建物の壁に飛び移ると、磁力で加速しながら壁の上を駆けていく。すぐに唯に追いつき、飛び降りようとした瞬間。
憂は突然壁から落下し、地面に打ち付けられた。

「ううっ!!」

「――えっ?」

唯が振り向くと、憂は地面に倒れ伏していた。走っているうちに、憂の能力範囲から梓たちが出てしまい、コピーできなくなっていた。


215:2011/06/26(日) 16:02:53.19 ID:iNmol0qk0

「う、憂……コピー、できなくなったんだね?」

「……」

憂は無言で立ち上がるが、先ほどの紬との戦闘で受けた足のダメージがさらに悪化したようで、苦痛に顔をゆがめながら何とか立っている状態だった。

「憂……もう、あきらめてよ……わたしは、憂に傷ついてほしくないよ。もう、暗部なんて関わらないで。わたしのことなんか、嫌いになって、忘れてよ……」

「いやだよ、お姉ちゃん」

憂は能力を使えなくなったにもかかわらず、まったく臆することなく近づいてくる。

「どうしてわかってくれないの!? わたしと憂が一緒にいたら、みんな殺されちゃうんだよ!?」

「守って、みせるから……私は、お姉ちゃんと一緒にいたい」

憂はまっすぐと唯を見る。

「ひっ……!」

唯のギターから黒いオーラが噴出し始める。

(わたしのせいで、憂が……わたしのせいで……。嫌われなきゃ、嫌われなきゃ)

混乱している唯はもはや、嫌われることしか頭にない。しかし、いくらやっても憂は嫌いになってくれない。
そして、その間にも憂がどんどん傷ついていく。憂を救うためにやっているのに、自ら傷つけてしまっている。唯のストレスが、限界に達していた。

「う、うい……はは、あはは……
あは、あははははははははははは!!!」


216:2011/06/26(日) 16:04:51.02 ID:iNmol0qk0

ついに唯は発狂し、能力が暴走する。
『自分だけの現実』を吹き飛ばす、不可視の衝撃波が憂を襲う。

「っ!?」

強烈な違和感を感じた憂は、本能的に、即座に自らの『能力吸収』を発動する。それにより、『自分だけの現実』が飛ばされることは免れた。
そして、ついに憂は唯の能力の正体を理解した。

(お姉ちゃんの能力……私と、同じだったんだ!)

まったく同じ能力で、符号が逆。唯の能力は『能力放出(AIMリパルジョン)』だった。
現実世界のゆがみを増幅し、AIM拡散力場を広げる。違うのは『自分だけの現実』を引きつける引力場なのか、反発する斥力場なのかだけ。
憂は唯の能力をコピーすると、引力と斥力が打ち消しあってAIM拡散力場が消えてしまうため、使用することはできなかった。
そして今も、暴走しホワイトホールと化した唯から発せられる斥力をある程度打ち消したため、『自分だけの現実』を飛ばされることはなかった。

(ここは……お姉ちゃんの『自分だけの現実』の中? なつかしい……昔、ギターを弾いてるお姉ちゃんに抱きついたときの感じだ……)

あたりは黒いオーラが吹き荒れ、地獄のようになっているが、憂はあたたかさを感じていた。

(そっか。この中はお姉ちゃんの思いのままの空間。だから何でもできたんだね)

斥力により膨張した唯の『自分だけの現実』は、唯の周囲の空間を覆い、あらゆる現象を思いのままに引き起こすことができる。
さらに、その周りの空間も強い影響を受けるため、発射したレーザーなどをある程度制御することができる。

そして、暴走によりさらに膨張した『自分だけの現実』は、激しい斥力によりだんだんと蒸発していく。


217:2011/06/26(日) 16:05:58.82 ID:iNmol0qk0

(このままじゃお姉ちゃんが……助けなきゃ!)

いつのまにか、足の傷は治っていた。憂は唯のもとへと駆け寄る。

「お姉ちゃん!」

「あはははは!! 来ないでよ、憂!! 来たら、わる〜いお姉ちゃんが、殺しちゃうよ!?」

憂めがけて黒いオーラが吹き荒れる。一瞬たじろぐも、憂は再び歩みを進める。

「……お願い、やめてよお姉ちゃん!! このままじゃ、お姉ちゃんも……!」

しかし、憂の声は唯に届かない。謎のオーラによって作られた大きな「手」が、憂の首を絞め、持ち上げる。

「うぐぅっ……!!」

「あはははは!! 憂、わたしはこんなことしちゃうんだよ! 妹を殺してもなんとも思わないんだよ!
ねえ、嫌いになったでしょ!? あは、あはは!」

「う……ぐ……!!」

憂は必死に言葉を発しようとするが、首を締められているため声にならない。だんだんと、意識が朦朧としてくる。

(お姉ちゃん……殺すだなんて、嘘。こんな弱い力じゃ、死なないよ?
こんなになってまで、私のこと、考えてくれる、優しい、お姉ちゃん……大好き、だよ)

意識が薄れてくるのは、首を絞められたことによるものなのか、それとも唯の能力なのか。
そのまま、憂は意識を失った。


218:2011/06/26(日) 16:07:19.65 ID:iNmol0qk0

「あはは……え?」

あたりをうごめいていたオーラが、時間が止まったように一斉にストップする。
憂の首を絞めていた「手」が消え、憂の体がドサッと落下する。

「うそ……わたし……なんて、ことを」

オーラは霧散し、唯がフラフラした足取りで憂に近づく。揺さぶっても、反応がなかった。

「あ……ああ……憂……」

唯の顔から血の気が引いていく。まだ憂は生きているのだが、ショックで気が動転してしまった唯はそれに気づいていない。

「あはは……バカだよ……わたし。憂を助けようとして、憂を殺しちゃった。これで、本当に嫌われちゃったね」

唯は後ずさりしながら、憂から離れていく。

「もう、そっちに逝っても、会えないよね? わたしは本当に、わるい人になっちゃったんだから。
いいんだ。もう憂とは会わないって決めてたんだから……」

唯がギターを構え、ピックを持った右手を上げる。

「憂……ごめんね、ごめんね……!! バカなお姉ちゃんで、ごめんね……!
永遠に、お別れだよ。さようなら、憂――」

唯が渾身の力を込めて、ギターを弾く。
しかし、和音が鳴り響くことはなく、すべての弦がブチッ、と切れた。

人形のように生気を失った唯の体は、そのまま仰向けに倒れた。


219:2011/06/26(日) 16:08:24.27 ID:iNmol0qk0






「――はっ! 憂は!?」

突然目が覚めた純があたりを見回すと、同じように目覚めたばかりの和と梓が目に入った。しかし、憂と唯の姿はない。

「梓! 大丈夫!?」

「あ、純……和先輩……」

梓は気まずそうに目をそらす。和は起き上がると、梓のほうへ近づいてきた。

「梓ちゃん……いいわね?」

「はい……そのつもりで来ました」

梓の腕に手錠がかけられる。

「よく戻ってきてくれたわね、梓ちゃん」

「梓……もう離さないからね!」

「うん、ありがとう……そしてごめんなさい」



220:2011/06/26(日) 16:09:38.29 ID:iNmol0qk0

一同は立ち上がってあたりをよく見回すと、爆発の痕跡が随所に見られ、唯と憂の激しい戦闘があったことが見受けられた。

「憂と唯はどこに行ったのかしら……向こうに行ってみましょう」

三人が歩き出そうとした瞬間、何かが収縮したような感覚が三人を襲う。

「!?」

この感覚を、和は知っている。

「まずいわ……憂の能力が暴走してる!!」

「「ええっ!?」」

『自分だけの現実』が、吸い寄せられるような感覚。間違いなく、憂の『能力吸収』が暴走している。

「そんなっ、憂っ!!」

和が動くより先に、純が駆け出した。それを見て和は、すべてを純に託す決心をする。

「純っ! 憂を救ってあげてっ!!」

和は温度差を利用し純に追い風を起こす。純もまた、自らの体を構成する炭素原子を前方へと引っ張り、加速する。
結合を切らないように炭素を動かすのは慣れておらず、分子レベルのダメージを受け、体のあちこちが悲鳴をあげる。

「つっ……! 憂ーーーーっ!!!」

純が憂の100メートル以内に突入すると、強烈な違和感が襲う。

(うっ……! これが、和さんの言ってた感覚!? やばい、意識飛びそう……)

その感覚は、近づくにつれて大きくなる。次第に、憂の姿が見えてきた。

「――ああああああああああああああああ!!!!!! おねえちゃああああああああああん!!!!!!」

憂の悲痛な叫び声が聞こえてくる。憂は唯の亡骸を抱え、絶叫していた。
姉の死を目の当たりにし、暴走した『能力吸収』はブラックホールと化し、あたりの『自分だけの現実』を吸い込んでいく。

(ちっくしょーーー!! 間に合えーーーーーーーっ!!!)

感覚的にはもう憂のすぐそばまで来ているのに、体は遥か後方を走っている。そして、純の意識は憂の中へと入っていく。
そのとき、すぐ近くに誰かがいるような感覚を覚えた。

(だめ……かも。ごめん、憂……まに、あわない――)


221:2011/06/26(日) 16:10:55.80 ID:iNmol0qk0






「――純、純っ!」

「……え?」

純が目覚めると、和と梓の姿があった。体を起こしてあたりを見渡すと、50メートルほど前方に憂が立っているのが見える。

「私、助かったの?」

意識が戻ったということは、憂の暴走が止まったということ。三人は、足並みをそろえて憂のもとへ向かう。
向こうを向いて立ち尽くす憂の周りにはきらめくオーラが渦巻いていて、なぜか唯のギターを持っている。ギターの弦はすべて元通りになっていた。

そして、憂の視線の先には、傷一つなく、眠ったように死んでいる唯の姿があった。

「唯っ!!」

「唯先輩!?」

和と梓が唯の亡骸へと駆け寄る。

「そんな……唯! イヤよ! せっかく、会えたのに……!!」

「あ……ああ……唯先輩……私のせいで……」

純は、立ち尽くす憂に何と言葉をかけていいかわからず、とりあえず憂の前に回りこんで表情をうかがう。
すると、憂の目は遠くを見つめていて、心ここにあらずといった感じだった。


222:2011/06/26(日) 16:11:39.35 ID:iNmol0qk0

「う……憂? あのさ……」

「わたしは……唯?」

「――え?」

純は憂の言った意味がわからず、きょとんとしてしまう。

「そうだよ、わたしは唯だよ? えっと、キミは……憂のお友達だね! えへへ、いつも憂と仲良くしてくれてありがと〜」

「……は? ちょっと憂、何言ってんの?」

和と梓も振り向き、憂の言動に驚く。

「憂、どうしたのよ……? 唯は、ここに……」

「あっ、和ちゃ〜ん! 久しぶりに会えたね! 何年ぶりかな〜」

「やめてよ、憂! 唯先輩は、もう……!」

「あずにゃ〜ん! 今日もかわいいねえ」

憂は梓に駆け寄ると、抱きしめる。梓は違和感を覚えた。

(なんで、私のあだ名を……?)

三人は、姉の死を受け入れられない憂が唯になりきっているのかと考えたが、どうも様子がおかしい。
その目つきや挙動はまるで唯そのものだし、唯しか知りえない情報も知っている。

「まさか、憂、あなた……」

和は嫌な予感がしていた。先ほど憂の能力が暴走し、純は間に合わなかったにもかかわらず、暴走は止まった。
そして今、憂は謎のオーラを発しながらギターを構え、その性格はほとんど唯。

「唯の『自分だけの現実』を、吸収したのね……?」


223:2011/06/26(日) 16:13:17.41 ID:iNmol0qk0

「え? ん〜よくわかんないや。なんか記憶があいまいで……」

「憂は、どこに行ったの!?」

「の、和ちゃん、こわいよ……えっとね、憂は、わたしの中にいるよ、多分。うっすらとだけど、感じる」

憂はギターに宿っていた唯の『自分だけの現実』を吸収し、姉の存在を感じた憂の暴走は止まる。
しかし、暴走を続けた憂の『自分だけの現実』は、自重でほとんど押しつぶされてしまった。そのかわりに、憂の脳内は唯の『自分だけの現実』で満たされる。

とはいっても、『自分だけの現実』だけでは完全な記憶は引き継げず、性格や習性など、本人のアイデンティティに強くかかわる要素や、強い記憶だけが残っていた。
憂の記憶は失われていないが、精神が唯に変わってしまってため、それを完全に引き出すことはできない。

一同が状況を飲み込めず呆然としていると、憂の周りのオーラが消え、あっけらかんとしていた表情は真剣なものに変わっていく。

「……少し、思い出してきたよ。わたしは、みんなと一緒にはいられない」

「「「!?」」」

唯の強い思いが残っていたようだ。憂はきびすを返すと、三人から離れていく。

「待ちなさい、憂!」

「ごめんね、和ちゃん。なんかわかんないけど、そう感じるんだ。一緒にいちゃ、みんな不幸になっちゃうんだよ」

「そんなことないわよ! 憂、お願い、行かないで……あなたまで、失いたくない!!」

憂は振り返らない。


224:2011/06/26(日) 16:15:02.06 ID:iNmol0qk0

「憂! 目を覚ましてよ! なんで憂までいなくなんなきゃいけないのさ!!」

「純ちゃん、だよね? ごめんね。あずにゃんを、よろしく」

「そんな……!!」

憂はさらに歩みを進めていく。

「……唯、先輩」

梓に「唯」と名を呼ばれた憂は、立ち止まる。

「あずにゃん。あずにゃんは、そっちに戻る決心をしたんだよね?」

「……はい」

「じゃあ、わたしが、守ってあげるから。あずにゃんも、和ちゃんも、純ちゃんも。
だから――二度と、わたしを追わないで」

憂が駆け出す。

「「「憂!!!」」」

三人が後を追うが、憂が軽くギターを鳴らすと、全員が圧倒的な力で地面に叩きつけられた。
レベル5の演算で使用する唯の能力は、もはや思ったことを何でも叶える能力と化していた。

「う……憂ーーーーっ!!!」

和の叫び声が響く。憂は超人的な勢いでジャンプすると、建物を軽く飛び越え、あっという間に見えなくなってしまった。


――学園都市第六位「能力複製」は、この日を境に行方不明となった。


225:2011/06/26(日) 16:16:05.77 ID:iNmol0qk0






とあるマンションの一室にて。

仕事を終え帰宅した教師・山中さわ子は、先ほどから携帯で電話をかけ続けているが、相手は電話に出ない。

「……こりゃ『ユニゾン』は全滅ね。
 教え子に自分たちと同じ道をたどらせちゃうなんて……教師失格ね、私」

次の瞬間、携帯の呼び出し音が鳴り響く。
しかし、ディスプレイに表示された名前は『ユニゾン』のメンバーのものではない。
それは彼女の上司を示す名であった。

「あ〜あ、とうとうお迎えが来ちゃったか……」

その電話は、彼女が『ユニゾン』の壊滅の責任を取らされ、粛清されることを意味していた。
それを一瞬で理解した彼女は電話に出ることなく、壁へと投げつける。
その衝撃で通話ボタンが押され、携帯から上司の怒号がかすかに聞こえてくるが、遠くて聞き取れない。

「……うるせえんだよ」

彼女はゆっくりと立ち上がり、床に落ちた携帯を思い切り踏みつける。携帯は真っ二つに折れ、声は途切れた。
そのまま、クローゼットのほうへと歩いていき、中の引き出しから拳銃を取り出す。
さらに、奥にしまってあった愛用のフライングVも取り出し、優しく抱きしめた。
ギターを抱いたまま、彼女は自らの頭に銃口を押し当てる。

だが、次の瞬間。

「――ヒャーッハッハッ!! 山中さわ子はいるかあ!?」


226:2011/06/26(日) 16:18:12.84 ID:iNmol0qk0

醜い笑い声とともに、玄関のドアを破壊して三人の男が乱入してきた。

「……あぁ?」

水を差されたさわ子は、鋭い目つきで侵入者を睨みつける。

「ヒャハッ、いたいた。さっそくだけどなあ、あんた死んでもらうわ」

「悪く思うな。これも仕事だ」

「そ。僕らに狙われたら最後。あきらめるんだね」

男たちは中学生ぐらいの年齢に見えた。おそらく、さわ子を処分する依頼を受けた暗部関係者だろう。

「言われなくても死ぬつもりよ。
……てめえらを、ぶっ潰した後になあぁぁぁぁぁ!!!」

「「「!?」」」

さわ子の突然の豹変に男たちは驚く。
その一瞬の隙を突き、さわ子は持っていたフライングVをフルスイングし、先頭にいた男の顔面を殴りつけた。

「グヒャァッ!?」

男は一撃で意識を失い、豪快に吹き飛び壁に激突する。

「てめえら……せっかく人がきれいに死のうとしてたのに……空気読めやゴラアァァァ!!」

さわ子は修羅の顔でフライングVを振りかぶり、男たちに襲いかかる。


227:2011/06/26(日) 16:19:12.07 ID:iNmol0qk0

「……甘く見るなよ。食らえ!」

二番目に立っていた男がエネルギー弾を連射する。
しかし、さわ子はそれを超人的な動きでかわし、素早く懐にもぐりこむと、男の鳩尾に拳を叩き込んだ。

「ぐふっ!? ……き、貴様、肉体強化系か?」

「はあ? ……なんでもかんでも能力、能力。最近のガキは能力に頼らないと女一人倒せねえのか、ああ!?」

さわ子は男の腕をつかむと軽く投げ飛ばし、既に恐怖で立ち尽くしていた三番目の男にぶつける。

「ぐはあっ!」

「うわああっ!?」

「てめえら、それでも暗部か? ひょろっちい体しやがって……このデスデビルのキャサリンが、本物の暗部ってのを見せてやるよ!!」

「な、貴様、あの伝説の……ぐうっ!?」

言い終わる前に、さわ子は男の首を片手で締め上げ、持ち上げる。
そのまま壁へと投げつけると、男は後頭部を強打し意識を失い、うつ伏せに倒れた。

「う、うわあああ!!」

最後に残った男は念動力を使い、部屋にある物をがむしゃらにさわ子に向けて飛ばす。
さわ子はその一つをフライングVで打ち返すと、ネックが折れ、飛んでいったボディが男の顔面を直撃した。

「ぶっ!?」

鼻血を出し、尻餅をついた男に、さわ子が指をポキポキと鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

「ひ、ひいいいっ!」

男はついに戦意を失い、背を向けて逃走する。しかし、さわ子はすぐさま距離を詰め、男を後ろから羽交い絞めにした。

「た、助けてくれ! 僕は命令されて来ただけなんだ! 僕は悪く――」

「シャラァァァァァァーーーーーーーーーップ!!!!!」

チョークスリーパーが決まり、男はその場に倒れ伏した。


228:2011/06/26(日) 16:19:55.87 ID:iNmol0qk0

「……ふう。まったく、とんだ邪魔が入ったわ……。
ふふ、でもまあ、久々に暴れたらすっきりしたわね」

さわ子は再び拳銃を手に取り、銃口をこめかみに押し当てる。

「クリスティーナ、デラ、ジェーン。……やっとそっちに逝けそうだわ。
ねえ、着いたらさっそく合わせない? 唯ちゃんたちを見てたら、うずうずしてきちゃったの」

――そして、引き金を引いた。



229:2011/06/26(日) 16:20:51.54 ID:iNmol0qk0

エピローグ





とある収容施設にて。
牢屋、というほど薄暗くなく、比較的きれいで設備の整った独房の隅に、一人の少女が縮こまって座っていた。
その少女は、かつて放課後ティータイムのメンバーとして一世を風靡し、暗部組織『ユニゾン』のメンバーとして闇の世界に君臨していた、中野梓。
しかし今は見る影もなく、もともと細い体はさらにやつれ、腕には引っ掻いた痕が多数見受けられる。

(私……なにやってんだろ)

梓は収監されてからずっと、同じことを悩み続けていた。

(放課後ティータイムに憧れて、場所を探し当てて、事件に巻き込まれて。
最初は人殺しなんて嫌だったけど、先輩達に迷惑かけないようにって、闇に堕ちることを決心した……はずだった)

(なのに、憂に見つかった瞬間、頭が真っ白になって……先輩たちを裏切って、自首しようなんて言って。
私の覚悟なんて、その程度のものだったんだ。最後まで暗部として戦った先輩たちに比べたら、私なんて……。私のせいで……唯先輩は……!!)

(……ああもう、これはもう考えないようにしようって決めたじゃない! こんなこといつまでも考えたってしょうがない。もう先輩たちは、戻ってこない……
だから、私は私の決めた道を行くしかないんだ。表に戻って、暗部と戦うって……でも)

(ダメ。私、死にたいって考えてる。そんなこと、考えちゃいけない。私は、生きなきゃ……死にたい……会いたいよ、唯先輩……
早く、みなさんのところに逝きたいです……もう嫌です……!)

表の世界で生きると決心したはずであったが、長期にわたる孤独で単調な日々が梓の心を蝕んでゆく。
自責の念が積もりに積もり、何度も自殺未遂を起こしていた。

(憂……ごめんね、私のせいで、唯先輩も、憂の心も……!)

梓が腕を引っ掻き始める。すると、聞きなれた声が独房内に響く。

「梓、来たよ」

それは今の梓にとって聞きたいようで聞きたくない声。純の声だった。
梓がゆっくりと顔を上げると、面会用の窓の向こうに純と和の姿があった。


230:2011/06/26(日) 16:23:37.11 ID:iNmol0qk0

「……純、和先輩」

梓はその場を動かず、横目で二人のほうを見る。
純は、梓の腕がたった今引っ掻いた傷で真っ赤になっているのを見逃さなかった。

「梓、またやったね……?」

「……別に」

「このバカ……!」

梓のあいまいな返事に純は怒るが、和がそれを止める。

「純、今日の目的はそれじゃないわよ」

「……すいません。
梓、ちょっと来て。見てほしいものがあるんだ」

純が紙切れをペラペラさせ、梓に見せる。梓はしぶしぶと立ち上がり、純のもとへと向かった。

「はい、コレ見て」

「これは……えっ!?」

その紙には、こう書いてあった。

“放課後ティータイム突然の解散!! そしてYui衝撃のソロデビュー!!”


231:2011/06/26(日) 16:24:34.09 ID:iNmol0qk0

「まさか……憂!?」

梓が記事を読み進めていく。
それによれば、放課後ティータイムはメンバーそれぞれが違う進路を目指すため、解散を決定。Yuiだけが、音楽の道に進むことに決めたという。
所属するレコード会社は、今まで通り琴吹グループのものであった。

「そ。憂で間違いないよ」

「憂……よかった……」

一人で闇の世界に帰っていった憂の無事が確認され、梓は安堵する。

「所属が琴吹グループってことは、憂が琴吹グループと接触しているのは間違いないわ。
手がかりは、相変わらず全然つかめないけど……調査の方向性が分かっただけでも大きな進展ね」

「多分、私たちが放課後ティータイムをやってたころと同じように、琴吹家の援護を受けてるんだと思います。これなら、しばらくは安心ですね……」

「へ〜、やっぱそんなにすごいんだ、そのグループ。ま、それはさておき」


232:2011/06/26(日) 16:25:42.75 ID:iNmol0qk0

純が身を乗り出す。

「目標ができたね、梓。憂を絶対に見つけ出して、記憶を取り戻して……私たちで、バンド組もうよ!!」

「――!!」

梓がびくっとする。学園都市の闇に対抗し、憂を見つけ出し、そして好きな「音楽」をやる。
それは梓が決心した「表の世界で生きる」ということそのもの。失われつつあった心が、輝きを取り戻し始める。

「わ、私が……人殺しで裏切り者の私が、音楽なんてやっていいのかな……」

「いいに決まってんじゃん! さっさと出所して、探しに行くよ!」

「で、でも……また、暗部の襲撃を……!」

「それが、あれからまったく暗部からの攻撃がないのよ。私たちは秘密を知ってしまったんだから、覚悟していたのだけれど。
多分、憂が……守ってくれているんだと思うわ」

憂の最後の言葉が思い起こされる。彼女が言っていた「守る」とは、こういうことだった。

「二度と関わるななんて言われちゃったけどさ。そう簡単にあきらめられるかってわけだよね〜」

「そう、だね……純。危険な目に遭っても、やりたいことをやる。それが、放課後ティータイムだもん」

「お、のってきたな〜梓?」

「私も、全力でサポートするわ。あなたたちの演奏、もう一度聴かせて」

「――はいっ!!」

梓に笑顔が戻る。
目的と仲間を得た梓は、もはや自殺未遂を起こすことはなかった。


233:2011/06/26(日) 16:27:35.11 ID:iNmol0qk0







梓の罪は証拠不十分のため比較的軽く、後日、出所する。
施設の入口の前で、純と和が出迎えた。

「おかえりっ、梓!!」

「……ただいま、純。和先輩も、これからよろしくお願いします」

「ええ。こちらこそよろしく。はい、これYuiのデビュー曲よ」

和が梓にCDを手渡す。タイトルは『U&I』と書いてあった。

「ありがとうございます。この曲名、もしかして……憂のこと、ですか」

「そうよ。唯から憂への想いが詰まった曲。一緒に住んでいたころの記憶が残っていたのね」

「唯先輩……私たちが憂の心を取り戻したら、唯先輩は……」

「……唯は、もう亡くなったわ。唯の精神が消えてしまうとしても、憂の心を取り戻してあげましょう」

「……はい。唯先輩とは、お別れします。決めました」

「梓……つらいと思うけど、しっかりしなよ?」

「うん、ありがとう、純。私はもう大丈夫」


234:2011/06/26(日) 16:28:10.31 ID:iNmol0qk0

三人は、デビューしたYuiこと憂を探し、再び一緒に暮らせることを夢見て、新たな一歩を踏み出した。

「憂、唯。私はあきらめないわよ。もう二度と、あなたたちを失いたくない。必ず見つけて、『闇』を暴いてみせるわ」

「憂、新曲聴いたよ。いつの間にギター弾けるようになってんだか……私もベースうまくなったから、一緒にやろうね!」

「憂、私のことずっと探しててくれたんだね。ありがとう。今度は私たちが絶対に見つけ出して、憂の心を取り戻してみせるから!
唯先輩、そして、放課後ティータイムの先輩方……。私、自分で選んだ道を……貫き通します。だから、どうか見守っていてください!」




おわり


239:2011/06/26(日) 17:21:30.38 ID:iNmol0qk0

原作あずにゃん編の新キャラをまじえて、続編を書きたいとは思っているのですが、
これを書くのに半年かかるぐらい遅筆なので、書くとしても一年以上後になってしまう気がします。すいません

スレが余ったので、唯たちの能力まとめを投下します。
厨二黒歴史ノートみたいになってますが気にしないでください


240:2011/06/26(日) 17:23:09.71 ID:iNmol0qk0

唯 レベル4 能力放出(AIMリパルジョン)
PRによる現実世界のゆがみの程度を増大し、AIM拡散力場(斥力)を半径100メートルに広げる能力
唯のPRは周囲1mほどに膨張し、その中は唯の思うがままの世界になる
さらにその周囲5mほどの空間もPRから強い影響を受け、ある程度思い通りの世界になる
半径100m以内の他人のPRを認識できるが、憂のような理解力がないため『能力複製』は使用できない

暴走すると斥力が極限にまで達しホワイトホール化、PRは周囲5mに膨張、その周囲10mに事象の地平ができる
5〜10m範囲内にいた者はPRを吹き飛ばされて廃人になる
10〜100m範囲内ではPRが強く押し戻され意識がもうろうとする
AIM拡散力場は1kmに拡大
暴走し続けるとPRが蒸発して廃人になる



主な使用方法
・六弦レーザー
・光弾
・ホーミング音符爆弾
・バリアー
・竜巻
・アンプなしで演奏
・眠らせる
・自殺
その他、思った事ならある程度何でもできる。気分により色が変化する。

もともとはギターがなくても能力使用可能だが、ギターのおかげで能力が使えると思い込み続けたせいでPRがギターに移動してしまう。
脳は演算のみ行い、ギターのPRに接続して能力を使用する。ギターを離しても遠隔接続可能だが、離れすぎると切断され廃人になってしまう。
ギターは壊れないと無意識に思っているため、ギターはほぼ無敵。

※憂がコピーすると斥力と引力が打ち消し合いAIM拡散力場が消失するので使用できない

元ネタ;ギー太に首ったけ


241:2011/06/26(日) 17:24:00.43 ID:iNmol0qk0

律 レベル4 衝撃増幅(アンプリファイア)
皮膚に触れたものの運動エネルギーを増減する能力

主な使用方法
・殴った瞬間に対象の運動エネルギーを増大し威力を上げる
・物を投げた瞬間に物の運動エネルギーを増大し加速する
・自分の運動エネルギーを増大し高速移動する
・空気の運動エネルギーを増大し突風を起こす
・敵の攻撃が当たった瞬間に運動エネルギーを減少しダメージを軽減する

※憂がコピーすると威力、スピードアップ

元ネタ;打楽器→打撃系 girly storm 疾走 stickより、疾走とstorm


242:2011/06/26(日) 17:24:45.28 ID:iNmol0qk0

澪 レベル4 波動増幅(ショックウェーブ)
音波の振幅を大きく増幅し衝撃波にする能力

攻撃力はレベル5級
空気中の音波だけでなく、水中や地中でも衝撃波を出せる
範囲、威力は一定で変化できない
演算に集中力が必要で、焦ると発動できない

※憂がコピーすると威力や範囲の細かい調整や、衝撃波の打ち消しなどが可能

元ネタ;heart goes boomのboomより


243:2011/06/26(日) 17:26:09.40 ID:iNmol0qk0

紬 合成魔術(シンセサイザー) 
能力者の脳内で起こっていることを外部で再現し、PRに接続して能力を使用する技術
魔術の原理を用いているがやっていることは超能力そのものなので拒絶反応はない
キーボードから出る音波の模様を術式とする
レベル3までの能力なら全て使える(多才能力)

フィンランド神話に基づく魔術も使用可能だが、レベルは低い
ワイナミョイネンの歌は魔法の歌によりさまざまな現象を起こす魔術だが、紬は単なる歌しか発動できない
歌を用いて合成魔術を発動するとレベル4まで使用可能になるが、拒絶反応が出る
魔法名はIntimus076(わが身のすべては親愛なる友のために)

※多才能力で使用する他人のPRは別の場所にあるため、憂はコピーできない

元ネタ;鍵盤の魔法→鍵盤の魔術師


244:2011/06/26(日) 17:27:19.77 ID:iNmol0qk0

梓 レベル4 空中回路(エリアルサーキット)
電流の精密な操作に特化した発電能力

主な使用方法
・空気中に電子回路を再現し、機械がなくても必要な部品さえあれば使用できる
・半径10m以内の電子機器の認識及び遠隔操作
・ハッキング(超電磁砲に並ぶレベル)
・電撃はレベル2程度


※憂がコピーすると機器の操作だけでなくショートさせて破壊も可能。電撃はレベル3程度

元ネタ;楽器がうまいという設定


245:2011/06/26(日) 17:29:34.00 ID:iNmol0qk0

憂 レベル5 能力複製(デュプリケイター) 本質→能力吸収(AIMグラビティ)
PRによる現実世界のゆがみの程度を増大し、AIM拡散力場(引力)を広げる能力
憂のPRは収縮するため唯のような思い通りの空間はできない
半径100m以内の他人のPRを認識でき、驚異的な理解力を持つため瞬時に相手のPRを相手よりも深く理解し、レベル5級の演算で行使する
相手が100m範囲外に出ると使用できなくなる

暴走すると引力が極限にまで達しブラックホール化、憂の脳内に事象の地平ができる
100m範囲内ではPRが強く引っ張られ意識がもうろうとする
PRが完全に吸収されると廃人になる
AIM拡散力場は1kmに拡大
暴走し続けるとPRが潰れて廃人になる
暴走が止まった場合でも、事象の地平の中に入ったPRは憂のPRと融合し人格が混ざる

唯のPRを吸収後は憂のPRがほぼ潰れているため、人格は唯になる
唯の記憶はほとんどないが強い思いだけが引き継がれている
演算、理解力などのスペックは健在なので、能力放出をレベル5の演算で使用できるほか、能力複製も使用可能


元ネタ;飲み込みが早いという設定


246:2011/06/26(日) 17:30:31.09 ID:iNmol0qk0

元ネタ;飲み込みが早いという設定

和 レベル4 温度制御(ヒートコマンダー)
半径5m以内の物体の温度を瞬時に操作する能力(-100〜100℃)

主な使用方法
・周囲の空気を加熱または冷却してバリアを張る
・温度差を利用して風を起こす
・相手を直接加熱または冷却して攻撃する(脳の温度を上昇させて意識を朦朧とさせる)


※憂がコピーすると-273〜1000℃。液体・固体空気や大爆発が使用可能

元ネタ;coolly hotty tension hi


247:2011/06/26(日) 17:31:31.12 ID:iNmol0qk0

純 レベル4 炭素粉刃(アダマントブレード)
炭素原子の移動及び結合の切断・再編

・有機物から炭素原子のみを無理やり引き抜くことで、残った他の原子が激しく反応して爆発する(主に水素爆発)
・集めた炭素原子を結合させダイヤモンドの小さな刃を作り、投げつける
(商品化できる純度のダイヤモンドを作るにはレベルが足りない)


※憂がコピーすると爆発が広範囲になり、ダイヤモンドも10センチほどの短剣になる

元ネタ;純情bomberとミッドナイトスーパースターより、爆発+キラキラ


248:2011/06/26(日) 17:32:55.91 ID:iNmol0qk0

以上です。お付き合いいただきありがとうございました!


250:2011/06/26(日) 18:15:23.51 ID:LM9Lh57DO

一気に読めてよかった




252:2011/06/26(日) 22:58:02.04 ID:/cq/iEyDO

面白かったよ

やるせない気持ちでいっぱいです


SS速報VIPに投稿されたスレッドの紹介です。
元スレ:
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309048525/