1:2010/08/09(月) 14:20:09.30 ID:BXCVHyQo

 注意書き。

・浜滝を期待した人、回れ右したほうがいいかもです。
 けれどNTRではありません。念のため。前提として付き合っていない状態です。

・滝壺理后の設定、能力に僅かながら齟齬や勝手に付け加えた設定があります。
 能力についてだけ述べると、『体晶』を使わなければ能力を使えない→『体晶』を使わなくても正確度が下がるが能力は使える。ということになっています。

・その他もろもろ原作とは異なる点があります。


 以上を踏まえた上でどうぞご覧ください。


2:2010/08/09(月) 14:20:53.88 ID:BXCVHyQo

 ………………。
 ここはどこだっけ。
 ああそうだ。施設だ。確か『AIM拡散力場制御実験』っていう名目で使われた施設だ。
 それで、どうして私はここにいるんだっけ。
 ああそうだ。確か研究者が何か粉の入ったケースを持って、私たちに渡したんだ。

研究者「これを使えばレベル6に近づくことができる」

 レベル6。
 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。
 学園都市の最終目的。
 それに近づくことができると聞いて、皆は瞳をキラキラと輝かせた。

研究者「やってくれるね?」

 皆が頷いた。だから私も頷いた。
 一人は嫌だったから。居場所が欲しかったから。
 その後、AIM拡散力場を図る装置だという私達は横に並べられたカプセルに入って、その粉を飲み込んだ。
 瞬間、世界が変わったように思えた。


 ――この実験については緘口令を布く。実験はつつがなく終了した。

 ――君たちは何も見なかった。いいね?

 遠くで、何か声が聞こえた気がした。
 他の子供達が運ばれていくのがわかった。
 どうして運ばれていくんだろう?私は大丈夫だったのに。
 大丈夫以上に、今まで感じていた以上の何かができるような気がしたのに。

 ――木原さん……一人だけ、意識のある子が……

 ――ほぅ?それはそれは……しかし、その存在が公になると困ることになるな……

 木原、と呼ばれた初老の研究者は顔を歪ませた。
 私でもわかるくらいに、醜く。

 ――……学園都市に売ってしまおう。手はずを整えたまえ。

 ――……は、はい!

 結局。
 結局、私はひとりぼっちで、闇に堕ちていく――――


3:2010/08/09(月) 14:21:48.27 ID:BXCVHyQo


「――滝壺、起きろよ」

「――滝壺さん、超起きてください」

滝壺「!」

 私は肩を揺すぶられつつ名前を呼ばれて、滝壺理后はようやく眼を覚ます。
 顔を伏せているのはいつものファミレス。どうやら夢を見ていたらしい。
 ぼんやりとした頭で顔をあげると、声を掛けてくれていた絹旗と浜面が少し心配そうにこちらを見ていた。

絹旗「全く、少し唸ってましたから超心配しましたよ。ほら、バカ面は会計を済ませてきてください」

浜面「なっ……!?お前あとで泣かす!絶対泣かす!!」

絹旗「浜面の超貧弱なテクニックじゃ一生かかっても出来ませんよ。下っ端は下っ端らしく、言われたことをしていればいいんです」

 反抗しても自分が負けることは分かっているからなのか、浜面はくっそ、といいながら渋々会計に向かう。
 しかしながらどうせ『アイテム』の経費から落とされるので、面倒といえば会計をすることだけなのだが。
 滝壺はそういえばと思って周りを見渡すと、意識が落ちる前に座っていた麦野とフレンダはいつの間にかいなくなっていることに気づいた。
 彼女の様子から誰を探しているのか気がついたようで、絹旗は手をうって答えてくれる。

絹旗「……ああ、麦野とフレンダはとっとと帰りましたよ。今回は滝壺さんが相手する相手は超居ないので半日オフだと言っていました」

滝壺「お休み……」

絹旗「はい。まぁ、滝壺さんもたまには一人で買い物とかいいんじゃないでしょうか。そのピンクのジャージじゃ色気も何もありませんし、服とか見てみては?」

 滝壺は小さく、服、と繰り返した。

絹旗「……面倒なら無理にとはいいませんけど。暇だって言うんなら、私の担当の仕事に付いてきますか?今なら無能の浜面もいますよ」

浜面「誰が無能だ……」

絹旗「おや浜面いやアホ面。超早かったですね」

浜面「なんでわざわざ悪口の方に言い直したんだよ!?」

滝壺「大丈夫。私は浜面がアホ面でも応援してる」

浜面「そんなんで応援されても嬉しくねぇよ!?」


4:2010/08/09(月) 14:22:30.83 ID:BXCVHyQo

 このまま店の中で騒いでも迷惑になるだけだったので、外に出て話の続きをする。
 丁度真上に昇った太陽が彼女たちを燦々と照らした。少しだけ暑い。
 目の前の信号が赤くなり、車が行き来する。

浜面「……で、何話してたんだ?」

滝壺「私のお休みについて」

絹旗「やることなくて暇なら私に超ついてきてもかまいませんよ、という話です」

浜面「っ、滝壺!是非ついてきてくれ!頼む、お願いだ!絹旗と二人きりとか恐ろしいし、俺の身がもた――痛い痛いイタイ!!」

 浜面が悲鳴をあげたので足元をみると、絹旗の踵が浜面の指を的確に踏んでいた。
 どうやら絹旗の逆鱗に触れたらしい。確かに彼女と麦野に怖いだのなんだのいうのはNGな気がする。

絹旗「浜面、私と二人でいいですよね?」

 そう言いながら絹旗が浜面に笑いかけた。その影にはどす黒いオーラが溜まっているようにも見える。
 それに対して、浜面は顔を赤くしながら言う。

浜面「だっ、だれがおまえなんかと二人きりでぇぇぇぇえええええええっっ!!」

絹旗「おや、よく聞こえませんでした。もう一度お願いし・ま・す・ね?」

浜面「わ、わかった!二人でいい!二人で!!」

絹旗「超よくできました、浜面」

 絹旗はにこやかにそういうと、ようやく踵を浜面から外した。
 心底痛そうに足を抑える彼を尻目に、絹旗は滝壺へとふりかえった。

絹旗「すいません、滝壺さん。浜面がどうしても超二人きりがいいというので、」

浜面「だ、誰もそんなこと……ひぃっ、すいません、二人きりでお願いします」

絹旗「……だ、そうなので。休暇を超堪能してください」

滝壺「うん、わかった。じゃあね、絹旗、浜面」

絹旗「はい、ではまた今度」

 信号が青く変わった。
 絹旗は浜面を引きずるようにして道路を渡り、そして視界から消える。

滝壺(はまづら……頑張れ。心から応援してる)

 滝壺は殉死する兵士よろしく死地に赴く浜面に心の中で敬礼を送った。


5:2010/08/09(月) 14:23:00.27 ID:BXCVHyQo

 ……それで私はどうしよう、と滝壺は考える。
 半日お休み、と言っても特にやることはない。
 いつも通り公園でAIM拡散力場浴でもしてようかな、等と思っていると脳裏に過るものがあった。

 ――そのピンクのジャージじゃ色気も何もありませんし、服とか見てみては?

 それはつい先ほどに絹旗が言っていたこと。
 彼女はそれを反芻し、自分の身体を見下ろした。
 代わり映えしないピンクのジャージ。何か別に思い入れがあるわけではないがこれを着ているのは楽だから、ということに他ならない。
 ……それでも買う買わないは別にして、洋服を見に行く、というのはいい考えではある。

滝壺「うん。じゃあ、行こう」

 意気込んで、彼女も信号を渡ろうとする。
 が、一歩を踏み出す前に赤になった。

滝壺「………………」

 まぁ、いいか。
 時間は沢山あるし。
 滝壺は太陽に手をかざしながら、そう思った。


 それにしても、随分と懐かしい夢だった気がする。
 私が暗部に落ちた所以。
 『AIM拡散力場制御実験』、本当の名前は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』。
 しかし、それすらもあの人にとっては隠れ蓑に過ぎない。
 本来の目的は、ファーストサンプル『能力体結晶』の改良版である『体晶』を開発するための実験。
 殆どの人は自分の能力を制御できなくなる中、私だけは違った。
 暴走状態において普段より自分の能力を制御することができていた。私以外の人はできていなかった。
 たったそれだけ、それだけの違いで私と彼らは袂を分けた。


6:2010/08/09(月) 14:23:45.73 ID:BXCVHyQo

 居場所を無くして学園都市の奴隷になることと、意識を無くして皆と共に目覚めるまで永久の時をすごすこと。
 どちらがよくてどちらが悪いことなのか、私にはよくわからない。
 ただ私は利用価値があってここにいる。
 逃げようとは思わない。逃げたいとも思わない。
 だって、私の居場所は『アイテム』にしかないのだから。
 ……逃げる場所も、隠れる場所もないのだから。

 ――いつか他にも滝壺の居場所ができるといいね。

 フレンダの言葉を思い出した。
 ここ以外の私の居場所。
 一瞬だけ想いを馳せて、首を軽くふる。
 そんなのはありえない。そんなのは幻想。
 きっと私はここで、死ぬまで使い捨ての奴隷として扱われていくのだから――


 ぼーっとした表情で街中を歩く。
 ピンク色のジャージは少しばかり人の眼を引くが、彼女自身はあまり気にしたりはしない。
 人目を引く、というのは道端で転ぶのと同じこと。
 『今転んだ人カッコ悪いねー』という会話が『あれピンクのジャージだー珍しいねー』という内容に変わるというだけの話。
 つまり言いたいことは、人の目を引いたとしても余程万民に知られている有名人などではない限りその場限りだけということだ。
 極一部の例外を除いて。

男1「うわ、何このピンクピンクしてんの。何、君の趣味?」

男2「かわいい顔してんのにもったいないねー、すこーし付き合ってくれたら、服買ってあげるけど?」

 ……訂正、極一部の、例外《バカ》を除いて。
 この男二人組は所謂ナンパというものを滝壺へ仕掛けていた。しかし、二人なのに一人をナンパとはいかがなものだろうか。
 確かに彼女はダウナー系とはいえ黙っていれば可愛い部類に入るだろうし、お持ち帰りしたい気持ちもわからなくはない。
 が、如何せん相手は滝壺だ。まともにとり合ってもらえると思わない方がいい人物だ。
 滝壺は二人の顔を数秒間眺めて、言う。

滝壺「……ナンパ?だとしたら、ごめんなさい。私用事があるから」

男1「いやいや、少しだけ少しだけ、な?」

男2「そうそう、あまり時間取らせないから」


7:2010/08/09(月) 14:24:28.91 ID:BXCVHyQo

 男たちは滝壺の前に立ちはだかって逃げられないようにしてから口上を並べ始める。
 それに対して滝壺は逃げる素振りすら見せない。
 だが、その顔には淡くだが間違いなく迷惑だというような表情が浮かんでいた。
 周りの人もそれに気づいてはいるが、誰も助けようとはしない。
 助けがないのは、表の世界でも暗部の世界でも同じことらしかった。

滝壺(……早く飽きないかなぁ)

 彼女的には事を荒らげたくはなく、ただ嵐のように過ぎ去ってくれるのをまつだけだ。
 しかしながらこういったナンパというのは意外にもしつこく、こちらが無関心を決め込んだとしても興味をもつまでつきまとってくる。
 そうした場合には無視して去るのが一番なのだが、今更遅い。

男1「〜〜〜〜〜〜」

男2「〜〜〜〜〜〜」

滝壺(……北北西から信号が来てる……これは……『電撃使い』かな……)

 ペラペラと喋るのを滝壺は華麗に受け流す。
 しかしいつまでたっても大した反応を見せない滝壺を面倒だと感じたのか、ぐっ、と滝壺の手首を掴んだ。
 それまでぼーっとしていた彼女もこれには僅かな危機感を覚える。
 危機感、とはいっても、『アイテム』の仕事においてのようなものではないが。

滝壺「!」

男1「ほらほら、ちょっとそこでお茶でも飲みながらさ、ね?」

 男は力強く引っ張り、ここで滝壺は初めて抵抗してみせた。
 ぶん、と軽く振っただけで外れたのは彼女が今まで何もしなかったからだろう。
 少しだけ驚いてみせる男の顔をちらりとみて、滝壺はポケットに手を突っ込んだ。
 手探りで動く指が、その四角いケースの外縁をなぞった。
 ああ、めんどうだ。
 これを使うのは身体に強く負担がかかる。
 けど、仕方がない。退けるためだから。自分の身を守るためだから。

滝壺(――ここは、私の居場所じゃないから)

 だから、やっぱり去らなきゃいけない。
 滝壺はそう考え、それを取り出そうとした、まさにその瞬間。

「こんなところにいたのか!いやーすまんすまん!遅れちまったな!」

 一人の男子高校生が割り込んできた。


8:2010/08/09(月) 14:25:19.21 ID:BXCVHyQo

 その少年はさりげなく男の手を滝壺から払い、逆に彼女の手を掴む。
 しかしその手に何かしらの意図は感じられない。
 彼は単純に彼女を助けに割り込んだだけだからだ。

少年「じゃ、失礼しましたー」

 そう言って彼は当初の目的通り滝壺を連れて離脱しようとするが、数メートル離れたところで彼らもようやく我に返った。

男1「おいまてよコラ」

男2「なんだよお前、邪魔してんじゃねーよ」

 そして勿論それは見破られ、明らかなる敵意を投げかけられる。
 男子高校生は愛想笑いを貼りつけたまま冷や汗を掻いて数秒、仕方がないとばかりにそのツンツン頭をぽりぽりと書きつつ、これ見よがしに溜息を吐いた。

少年「……お前らさ、恥ずかしくないのか?」

 彼の言葉がいきなり、鋭利な刃物のように尖る。

少年「こんな女の子一人相手に無理に連れていこうとしてさ、困ってたじゃねーか。男として恥ずかしいとおもわないのか!?」

男1「……なんだこいつ?」

男2「……そういや聞いたことあるぞ。女の子が絡まれてたら割って入ってきて助ける高校生。こいつのことじゃね?」

少年「ぎくっ!?え、俺そんなに有名になってるんですか!?」

男2「……ってことは、マジみてぇだな」

男1「……ま、いいや。ここで逃してもめんどうだし、潰しちまうべ」

 そう吐き捨てるように男が言うと、彼が向けた掌に赤く滾る炎弾が出現する。
 少年はそれを見て腰を落として右手を構えた。

男1「お前の能力がどの程度かは知らないが、俺の能力はレベル3の『発火能力』。この至近距離で受けたら人間なんざ一撃だ」

 脅すように言うが、少年は一歩も引かない。
 それどころか、助けようとした少女を自分の後ろに追いやって庇う素振りまで見せている。
 彼の顔には余裕はないが、その態度に何かイラッと来た。

男1「そうか、わかった。病院送りにして、や……る…………?」

男2「ちょっ……あぶねぇぞお前」

 轟、と彼が言い終わる前に、その掌の炎弾が大きく膨張する。隣の男もぎょっとした表情で思わず距離をとった。
 そして、それが半径十五センチほどまで膨らんだ次の瞬間。
 ドゴン!とそれは爆発した。


9:2010/08/09(月) 14:26:05.19 ID:BXCVHyQo

男1「うあぁっちやぁああああああっ!?」

 それで被害を食うのは近くにいた男。自分で言っていたぐらいだから、その威力はそこそこはあるはずだ。
 それを見て彼の連れも少年も呆然とする。
 自信満々に言っておいて、自分の能力で勝手に自滅したのだから。
 何今の爆発、やら、風紀委員か警備員呼んだほうがいいんじゃない?と周辺から声が漏れ始めた辺りで少年の服の裾を滝壺が引っ張る。

滝壺「早く逃げよう」

少年「え、お、おう」

 滝壺に言われ、ようやくチャンスだと思ったのかしかし少年は先程の男をチラチラと気にしながら滝壺に引っ張られていくのだった。


 しばらくして。
 人通りの少ない公園まで辿り着いた彼らは自販機で飲み物を購入しベンチに座った。

少年「ふー……なんかよくわからんけど、助かったな……」

 少年はそういうが、滝壺に理由は分かっていた。
 なぜなら自分が『体晶』を使わない範囲であの男の『自分だけの現実』をかき回し、自滅させたのだから。
 だがそれをいうと面倒なこととなるのでとりあえず適当に頷く。

滝壺「そうだね」

 言って、滝壺は首を傾げる。
 なんだかよくわからなかったのは自分だ。アレを使おうとしたところにいきなり割り込まれたのだから。
 自分を助ける人など誰もいないと思っていたところに助けてくれた善人が現れたのだから。
 他にも気になることは幾つかある。

滝壺「……AIM拡散力場がない」

少年「ん?何か言ったか?」

滝壺「ううん、なにも」

 しれっ、とした表情(とはいってもいつもとはあまり変わらないが)で滝壺は答え、続けて謝礼を述べた。

滝壺「それよりも、さっきはありがとう」

少年「あーいや、気にすんなって」

 少年は言って、手の中のヤシの実サイダーを一気に煽る。



10:2010/08/09(月) 14:26:39.76 ID:BXCVHyQo

滝壺「でも、どうして助けてくれたの?」

 彼女が一番聞きたいのはここだ。
 誰も見て見ぬふりだった。遠巻きにみている人は何人もいたが、誰も声すらかけてくれなかった。
 それなのに彼は突然現れて颯爽と助けてくれた。
 この救いようのない世界だというのに。

少年「んー、なんでって言われてもなぁ……アイツらにも言ったとおり、困ってたから、じゃダメなのか?」

滝壺「困ってた?」

少年「ああ。俺の友達にも無表情の奴……ああいや、気を悪くしたらすまん」

滝壺「大丈夫。慣れてるから」

少年「そっか。それで、無表情の奴がいるんだけど、そいつもよく見てると今どんな気持ちかわかるんだよな」

少年「それで、そいつが困ってる時と似たような雰囲気をお前から感じたからさ」

 彼女が聞きたいのはそういうことではない。
 いや、どうして困っているかどうかわかったのも気になったことではある。が、こちらには及ばない。
 どうして自分の利益にもならないことをするのか、ということだ。
 自分の利益になるのなら誰だって善いことをするだろう。しないのはそれが何の益にもならないからだ。
 しかし彼は、困っているから、という理由だけで助けてくれた。
 だからこそ解せない。

滝壺「そのジュースのお金、払う」

少年「いやいいっていいって!この程度ならなんでもありませんから!」

 試すように問いかけてみると、全力の否定が返ってきた。
 これはいよいよ善人と認めないわけにはいかないかもしれない。
 と、そこで少年は通りかかった掃除ロボットにジュースの缶を回収させ、立ち上がった。


11:2010/08/09(月) 14:27:29.57 ID:BXCVHyQo

少年「さてと、今何時だ……って、え!?」

滝壺「?」

 彼は公園の中にある時計を見て驚いたように叫ぶ。

少年「まてまて、今がこの時間でここからあそこまでの距離がこのくらいで……ってヤベェ!?」

少年「タイムセールが終わっちまう!不幸だ――っ!」

滝壺「あっ」

 呟き、駆け出す。
 それでも数歩で止まったのは滝壺が咄嗟に声を出したからだろう。

少年「今度からは気をつけろよ!お前結構可愛いからさ!」

 彼はそう言って走り去る。
 可愛い、と言われたことに対して少しばかり顔を赤らめるが彼女の言いたいことはそういうことではなかった。
 ベンチ。彼が今さっきまで座っていた場所。そして滝壺が今現在座っている場所のすぐ横。
 そこに折りたたみ式の黒い財布が転がっていた。

滝壺「……どうしようかなこれ」

 追おうにも足の速さでは追いつけないだろう。
 追跡しようにも彼のAIM拡散場はなぜか感じることができなかった。
 彼は去り際に不幸だといっていたが、果たして財布をなくすこととどちらが不幸なのだろうか。

滝壺「とりあえず持ってなきゃ盗まれちゃうよね」

 持ち上げると、スルリとカードらしきものが滑り落ちた。どうやら先程飲み物を買ったときにちゃんとしまっていなかったようだ。
 そのカードを拾い上げるとまず十二桁から連なる番号が眼に入った。
 IDカード。学園都市において、所属する学校や住宅の学区など、身分を証明するモノ。
 勿論名前も書いてあり、自然にそれが視界に入る。

滝壺「かみじょう、とうま……」

 上条当麻。
 彼女は彼のことがどうしてか、気にかかった。



――――――――――――――――――――――

 とりあえず書きためた導入部は終了。
 次からぼちぼちと書いていきます。


14:2010/08/09(月) 14:46:58.07 ID:BXCVHyQo

上条「不幸だ……」

 上条当麻は落ち込んでいた。
 なんとかタイムセールには間に合った。激安肉などのものも手に入った。
 しかし、それを買うための重要なお金が一切合切消え失せていたのだ。
 ……財布ごと。

上条「うぅ……一応米とか素麺とかまだ残ってるから餓死せずにはいられるものの……あれにはIDカードも入ってたのに……」

 もし拾った相手が電気系統の能力者ならカードさえあればパスワード等がなくても容易にお金を引き出せる。
 ただでさえそのお金が命綱なのにそれすらなくなったら生きていけない。
 自分の何倍も食べる居候もいることだし。
 というか、目下の問題はそれだった。

上条「おかずないとインデックスに絶対噛まれるよなぁ……不幸だ」

 それだけではなく、明日の弁当にも不具合が生じる。
 まさかこの時代で日の丸弁当を自分で実践することになろうとは思ってもみなかった。

上条「それにしても、どこで落としたんだろうな……ジュース買ったときはあったし、普通に考えると公園からスーパーまでの間か……」

 自分の行動を思い出しつつ、思う。

上条「そーいえばあの子、なんとなく姫神に似てたなー」

 男二人に絡まれて困っていた女の子。
 年齢的にはきっと自分と同じ程度だろうが、無表情だが可愛い顔をしていた。
 ……ピンク色のジャージがなんとなく全てを台無しにしている気がしたが。

上条「ま、同じ学区に住んでるんならまた会えるだろ」

 上条は滝壺のことを脳の隅に追いやり、そして財布のことを思い出してまた憂鬱になる。
 やはり彼は不幸だった。


16:2010/08/09(月) 15:14:57.97 ID:BXCVHyQo

 ドン、とビルが爆発した。
 爆発した、とはいってもそれは内部の一部であり、ビル自体が崩壊したというわけではない。
 そしてその爆発に巻き込まれたのも、ターゲットではない。
 『アイテム』のフレンダが自分で仕掛けた罠を逆手にとられてハメられたのだ。

麦野「……あーもうなにしてんのよフレンダ」

 麦野沈利はその痴態に呆れ混じりに言い、爆発時に吹き飛んだ彼女の帽子を彼女にかぶせる。
 金髪碧眼の少女、フレンダは苦笑いと恐怖を半分ずつ顔面に貼りつけながら我らがリーダーに謝罪する。

フレンダ「ごめんごめん……」

麦野「チッ……あとでオシオキね。やっぱ滝壺こっちにまわしゃよかったな……能力者いるんならいるっていえってーの」

 麦野は後悔するように呟き、電話の相手への悪態を吐く。
 情報が入った時自体では問題はなかったのだ。その後に護衛として雇われたのがそこそこに腕のたつ能力者だった、という話。
 しかしそれならそれでさっさと連絡しろよ、と麦野は思った。
 『アイテム』のリーダーは麦野だが、滝壺はそれの『核』たる能力の持ち主だ。
 『能力追跡』。それだけを聞けばただ能力者を追跡するようにしか思えないが、本領を発揮すると多様に渡って応用がある。
 例えば、昼間『発火能力』にしたような暴走の誘発など。
 やろうと思えば麦野の『自分だけの現実』から逆算し、能力を乗っ取ることも可能だ。
 それをしないのはする必要がないというのと、それをするために必要なものが身体に大きな負担を与えるものだからだ。
 『体晶』。無理に能力を底上げするものが毒でないわけがない。
 例えるならコンピューターのパフォーマンスをあげると、バッテリーが持たなくなるということだ。
 使い続ければ、滝壺はいつか崩壊する。麦野はそれをわかってて、呼んだほうがよかったといっている。

フレンダ「……ねぇ、麦野」

 フレンダは未だに女の子座りをしながら麦野に話しかける。

フレンダ「滝壺さ、このままだと結局崩壊するわけよ」

麦野「それで?」

フレンダ「だからさ、そろそろ滝壺を休ませてあげてもぉっ!?」

 言うやいなや、フレンダの身体は強い力で引っ張り上げられた。
 それをしたのは、勿論麦野。

麦野「アイツが潰れようが潰れまいがどっちでもいい。別に『能力追跡』でなくとも別ルートで追える能力者がいればいいの」

麦野「だからそんな甘ったれた考えを持つんじゃない、フレンダ」

 グッ、と更に胸ぐらに力が込められ、息が苦しくなる。
 そんな状態でフレンダは必死に縦に頷いた。
 麦野はふん、と鼻で息を吐いて彼女から手を離した。フレンダは咳払いを何度もして息を整える。

麦野「そもそも、私たちに暗部以外の居場所があるわけないでしょうが。……ターゲットを追うわよ。とっとと起きなさいフレンダ」

 麦野はつまらないことでもいうように吐き捨てて、闇の中へと消えた。


22:2010/08/09(月) 16:00:10.96 ID:BXCVHyQo

絹旗「……で、結局何も買わないで帰ってきたんですか?」

 その言葉にうん、と一度。
 麦野とフレンダはターゲットを逃がしたとやらでまだ帰ってきていない。
 ちなみに彼女たちがいるのはファミレスではなく『アイテム』の潜伏所の一つだ。
 ファミレスも確かに夜中までやっているところも少なくはないが、この時間にいくのは危険な気がする。

滝壺「ところではまづらは?」

絹旗「あのバカ、知り合いの『警備員』に超補導されたんですよ。お陰で歩いて帰ってくるはめになりました」

 はぁ、と呆れたように両手の掌を上にむけ、首を振る。
 そこではたと絹旗は何かに気付いた顔をした。

絹旗「なんで浜面なんか超気にするんです?」

滝壺「この人と知り合いだったら返してほしいなって思って」

 そう言って滝壺は上条のIDカードを出す。
 絹旗はそれを受け取って上下左右から観察した。

絹旗「……例の、ナンパから助けてくれた男の人のですか?」

滝壺「そう。多分困ってると思うから、早く返してあげないと」

絹旗「わざわざ浜面なんか通さなくても、自分から返してあげればいいじゃないですか」

 彼女は部屋の隅にあるパソコンを指さし、

絹旗「IDカードリーダーならすぐに準備できますし、そこにあるパソコンから学園都市の一部を除く学生のデータぐらいなら簡単に閲覧できるはずですよ」

 それを聞いて滝壺は少し考える素振りを見せる。
 そしてまたうん、と頷いて訊ねる。

滝壺「ねぇ、きぬはた。AIM拡散力場がない能力者って、存在するのかな」

絹旗「は?……いえ、知りませんけど……AIM拡散力場なら滝壺さんのほうが超詳しいのでは?」

滝壺「うん、そうだよね。……そうだよね」

絹旗「?」

 繰り返す滝壺に絹旗は怪訝な表情を浮かべる。
 しかし滝壺は何か考えに耽っているようで、全くそれには気がつかなかった。

滝壺(じゃあ、あの人の能力は一体なんなのかな――?)

 滝壺は答えのでない問いに雁字搦めに縛られた。


27:2010/08/09(月) 16:40:04.07 ID:BXCVHyQo

 励まし、ありがとう。
 頑張るよ。

 ――――――――――――――――

 窓のないビル。
 そう聞けば皆が同じ方向を指さすだろう。
 早朝明け方からそこに呼ばれた土御門元春は機嫌が悪く、しかし仕方が無しに仕事の頭に切り替えた。
 そして、目の前の『人間』に対して呼びかける。

土御門「……今度は何を企んでいる、アレイスター」

アレイスター「別に企んでなどいない。丁度いい機会だから幻想殺しに自身の正体へと近づけようとしているだけだよ」

土御門「幻想殺しの正体……?アレは原石だろう。正体も何もあったもんじゃない」

アレイスター「そう思っているうちは君はまだ甘いな」

 つい、とその手を泳がせる。
 するとアレイスターの顔の前にウインドウが出現し、それは土御門の方を向いていた。

アレイスター「昨日のものだ。君は彼女が誰か知っているだろう?」

土御門「……滝壺理后。『アイテム』の一人だな。面識はないが」

アレイスター「その通り。そしてその能力は『能力追跡』。彼女自身は既に気づいているのではないかな」

土御門「何がいいたい、アレイスター」

 苛立を感じてきた土御門はタンタン、と地面を足で叩く。
 アレイスターはそんなことにはまるで興味がないらしく、あくまで自分のペースで喋る。

アレイスター「なあに、簡単なことだ。君には幻想殺しと彼女を結びつけて欲しいというわけだ」

土御門「……この資料を見る限り、滝壺理后は幻想殺しにもう一度接触するようだが」

アレイスター「そうではない。幻想殺しと彼女が親密な関係になるようにしろ、ということだ。このためには決定的な事件が必要不可欠。君にならわかるだろう」

土御門「……そういうことか」

アレイスター「分かっているとは思うが、聞かなかった場合は――」

土御門「わかっている」

 土御門は即答し、サングラスの奥の瞳でアレイスターを憎々しげに見つめた。

土御門「わかっている、クソッタレめ」


34:2010/08/09(月) 20:51:24.39 ID:BXCVHyQo

 姫神秋沙は、朝からグデングデンになっている上条当麻を見た。
 不思議に思って話しかけようとすると、土御門元春と青髪ピアスが静止を促してきた。
 それでも話しかけようとすると今度は吹寄制理が止めてきた。
 やっと諦めずに話しかけると、上条はカッ!と魂が飛んでいた眼が開き、

上条「ギャ――――――![ピーーー]ッッッ!!」

 思わずグーパンで殴ってしまった。
 後ほど土御門に聞いた話によると、晩飯の量がすくなかったからインデックスが切れて、背に黒い羽が見えたのだという。
 そのあと夜通し噛まれ続け、いまや誰が話しかけてもこんな状態らしい。

吹寄「全く、上条当麻は。先生が来る前に治さないと大変なことになるわよ」

青髪「それはそれでもいいんやないかなー、小萌せんせーの補修ならうれしいで?」

吹寄「そもそも補修自体がほめられるものではないでしょうがっ!!」

小萌「はーい野郎どもー子猫ちゃん達ー席についてくださーい」

 しまった、と吹寄が顔を少しばかり歪ませたが、しぶしぶ席につく。
 教卓に上がった小萌は可愛い(手のかかる)教え子、上条がつっぷしていることに気がついた。
 全くもー、朝からねて仕方がありませんねーと言わんばかりにニコニコしていた小萌は当然のように話しかける。

小萌「かーみじょうちゃーん、ホームルーム始まりますよー?」

 皆がヤバイ、と思ったときにはもう遅い。
 上条は顔を上げて叫ぶ。

上条「この、[ピーーー]野郎ッッッッッ!!」

 瞬間。
 音が消えた。
 神の力の『一掃』だとか、アックアの本気の一撃などの比ではない。
 もっと恐ろしい何かが動き出す、まさに嵐の前の静けさのような。

上条「…………はっ!?あれ、ここ学校!?昨日の夕食辺りから記憶ないんだけど!?」

 上条はようやくここで正気に返る。
 が、周りの様子がおかしいことに気が付いた。

小萌「か〜みじょ〜うちゃ〜ん?今なんていいましたですか〜?」

 即ち。
 月詠小萌が怒りに震え満ちているということに。

上条「え、ええと……すいませんでした――――!?」

小萌「……一週間一人教室の掃除おねがいしますねー☆」

 上条の土下座もむなしく。
 不幸だ――――といういつもの絶叫が響き渡った。


35:2010/08/09(月) 20:52:05.02 ID:BXCVHyQo

麦野「うーん、今日のシャケ弁は昨日のシャケ弁より美味しい気がする」

 いや、気のせいだろ、と浜面は心の中で突っ込む。
 隣のフレンダは背もたれによしかかりながらサバカレーを口に含む。

フレンダ「あー、結局サバカレーシリーズにも飽きてきたわけよ……他にサバ入ってる奴知らない?」

浜面「知らねぇよ……つかサバカレーシリーズってどんなシリーズだよ……」

 げんなりしつつも浜面は突っ込みを入れて今度は絹旗を見た。
 彼女はいつも通りに映画のパンフレットを見ている。
 その時、ちらりとこちらを見た。

浜面「……いや、もう誘うのはやめろよ?」

絹旗「前も超いいましたけど、同じ学生証を二人持っていたほうがバレにくいんです。ですので何か観たいのがあったらよろしくおねがいしますね」

浜面「……そうかよ」

 また気分を落としつつ、最後に滝壺を見た。
 いつもどおりどこを見てるかわからない……のかと思いきや、窓の外をじっと眺めていた。
 まるで、何かを考えるように。

滝壺「………………?」

浜面「……なんかあったのか?」

滝壺「……ううん、別に」

絹旗「別にわざわざ突っ込むことも超ないんじゃないんですか?滝壺さんだって一端の女の子なんですから、悩みぐらいありますって」

 割り込んできた絹旗にそういうお前は悩みなさそうだよな、と突っ込みかけて押しとどめる。
 そんなことしたら今度こそ地獄を見そうだ。
 それよりも不自然に絹旗が割り込んできたような気がした。
 それについて浜面が突っ込もうとしたのに被せるように麦野は手を叩く。

麦野「今日は仕事の打ち合わせじゃなくてギャラの分け合い。ま、一応『アイテム』全体のものだから、滝壺にも少しだけあるから」

麦野「そんなわけで、浜面。明細来てるだろうから送って」

浜面「おう」

 ピピピ、と浜面は携帯を操作して四人にデータを転送する。
 携帯がそれぞれの着信音を奏でると同時に彼自身もそのデータを開いた。
 そこには。
 やはりというか、なんというかバニー姿の女性が写っていた。


36:2010/08/09(月) 20:52:50.03 ID:BXCVHyQo

 彼女たちはパタン!と携帯を閉めると心のシャッターを閉めて更に核シェルターにまでひきこもる。

浜面「いっ、いや待て、これは何かの間違いだ!誰かの陰謀だッ!!」

麦野「アンタを陰謀にはめてなんになるっていうのよバ浜面」

フレンダ「結局、浜面は初めの頃となんにも変わんないわけね」

絹旗「そのキモさも相変わらずですね。そんなのだから浜面は超浜面なんですよ。というかとことんバニー好きなんですね」

 三人に爆撃を受けて浜面はよろよろと数歩よろめいた。
 最後に滝壺のフォローを求めるが、滝壺は携帯をじっと見つめている。
 そしてその口が開かれる。

滝壺「ねぇ、はまづら」

浜面「……な、なんだ?」

滝壺「男の人って、みんなバニー好きなのかな」

 ガン!と彼の頭に衝撃が走る。
 バニーが好きな人もそれなりにいるにはいるだろうが、多いとはいえないだろう。
 だから遠まわしにバニー好きなんてキモイと言っているのかと思ったのだ。
 今度こそ浜面はよろめくだけでなく、ファミレスだということも忘れて跪いた。

麦野「……ショックを受けるのは構わないんだけど、ちゃんとデータ送ってからにして頂戴」

浜面「うぅ……この組織で唯一の癒しが……ぬくもりが……」

絹旗「うわ、超キモイ」

 辛辣な言葉すらも耳はいらず、浜面は今度こそメールを送る。


37:2010/08/09(月) 20:53:16.62 ID:BXCVHyQo

フレンダ「うわ、すくなっ」

 それを見た瞬間フレンダが漏らす。
 ギャラは全体の一割程度……滝壺よりも少々多いぐらいだった。

麦野「当たり前でしょ。今回ミスやらかしたんだから」

フレンダ「オシオキだけで済んだと思ってたのに……何この仕打……結局私、ダメな子なわけね……」

浜面「フレンダはまだいいだろ!?俺なんて、なんだよこれ、ゼロって!」

 明細を見て見事復活を果たした浜面は麦野に詰め寄る。
 その明細には明らかに、〇という数字が示されていた。

浜面「俺だってちゃんと運転手やってんだぜ……!?」

 はぁ、と麦野はこれ見よがしに溜息を吐いて、

麦野「浜面。アンタは今回補導されて私の手を煩わせたんだからその手間賃よ。隠蔽代もかかって、マイナスになんなかっただけ感謝しなさい」

浜面「こんなのって……ねぇよ……諦めきれねぇよ…………!」

麦野「……ってことで大まかには私と絹旗が3,5、滝壺とフレンダが1、残りは下部組織って感じね」

 浜面が再び沈んだのをスルーして麦野は告げ、パン、と一度手を叩いた。

麦野「んじゃ、今日は解散。あ、浜面会計よろしく」

 麦野がそう告げた瞬間、ガタン!と立ち上がる音がする。
 麦野も、フレンダも、絹旗も。沈んでいる浜面も思わずそちらを見遣った。
 滝壺理后。

滝壺「……それじゃあ、また今度。きぬはた、よけてくれる?」

絹旗「あ、はい……さようなら、滝壺さん」

滝壺「さようなら」

 そう短く言うと、滝壺は振り返りもせず店を出て行く。
 絹旗はなんとなく事情を知っているが、麦野とフレンダは少しばかり怪訝に思った。

フレンダ「……そういえば、今日滝壺少し変だったわけよ」

麦野「……何かあったの?」

絹旗「いえ、超知りませんね」

 しれっ、と嘘を言う絹旗は心の中で滝壺にエールを送った。


50:2010/08/10(火) 23:17:56.90 ID:GjM2lHQo

 >>43
 『能力の使用のためには『体晶』を用いてわざと暴走を誘発する必要がある。』
 とある魔術の禁書目録 Index、『能力追跡』より抜粋。

 ―――――――――――――――――――

土御門「カミやんも大変だにゃー」

上条「そういうなら手伝ってくれよ……」

土御門「お断りだぜい。そんなことしたら俺まで小萌先生の雷が落ちるからにゃー」

 どうやら友達というのは無償で助け合ってこそではないらしい。ちなみに青髪は既に帰った。
 はぁ、不幸だ、とまた溜息を漏らしつつ、上条は机を並べる。

土御門「でもまぁ、これだけで済んでよかったんじゃないかにゃー」

上条「どうしてだよ?」

土御門「本当なら一ヶ月補修……それも専門能力じゃないものをやらされてもおかしくないような気がしたし」

 ちなみにそれは『すけすけみるみる』や『コロンブスの卵』などといったものだ。
 レベルどころか能力すらない上条には到底できっこない芸当。

上条「……そう、だな…………」

 その未来図を予想したのか、上条はやはりこれでよかったと思う。

土御門「それよりもカミやん。財布は見つかったのか?」

上条「いんや、どこにも。『風紀委員』にも届けられてないってさ……不幸だ……」

土御門「まぁIDカードにはチップも埋め込まれてるし、頼めばすぐに見つかるはずだけどにゃー」

上条「上条さんの不幸からしたら恐らく戻ってきたときには中のお金全部なくなってると思いますハイ!」

 上条は自分で言ってむなしくなり、掃いていた箒を支えにしてしゃがむ。
 なんとなく、今の彼の雰囲気を受けるだけで不幸になる気がした。


51:2010/08/10(火) 23:18:58.92 ID:GjM2lHQo

土御門「じゃあ、今日も財布をさがすのかにゃー?」

上条「ああ……じゃなかったら、今度こそインデックスにクワレル……」

 ぶるり、と上条は身震いをする。
 昨日のことは真の恐怖に値する。いや、今朝の小萌も十分に恐ろしかったが。

土御門「……まぁ、カミやんが食われても俺がこころ苦しいし、舞夏に少し多く作ってくれるように打診しておくぜい」

上条「ああ……サンキュな」

 ちりとりで塵をかき集め、ゴミ箱に捨てたら終了。
 上条は作業を終えて背伸びする。ゴキゴキ!と不健康な音が教室の隅まで響く。

土御門「んじゃ、帰りましょうかー」

上条「おう」


 男二人で学園都市の街道を歩く。
 太陽は傾き、僅かに赤く染まったビルの影が彼らを覆った。

土御門「……ま、案外ひょっこり見つかったりするもんだぜい」

上条「不幸な上条さんに関してそれはないといいきれる」

土御門「それはどうかにゃー、例えば、IDカードが入ってたから、わざわざ『風紀委員』に届けないで自分から届けようとか思った人がいるかもしれないぜい」

 可能性として有り得ない話ではないのだがIDカードからデータを読み込むには専用の機械が必要だ。
 表面からわかる情報としては名前と番号のみ。それでさがすのはいくらなんでも無理がある。
 ……普通の人ならば。


52:2010/08/10(火) 23:19:52.99 ID:GjM2lHQo

 唐突に土御門が立ち止まる。
 上条も数歩遅れて立ち止まり、彼を見た。
 土御門はいつもの通学路とは関係の無い、少し外れの方へと繋がる道を見ていた。

土御門「……カミやん、なんとなくこっちにありそうな気がするぜい」

上条「ん?……いや、ないと思うんだが」

土御門「いいからいいから。騙されたと思って行ってみようぜい」

 土御門は上条の背後に素早く回りこんで彼の背を押して無理に反れようとする。
 仕方がなしに抵抗をやめて上条もその道に入り込んだ。
 段々と人気が少なくなり、音も無くなる。
 カラスの鳴く声だけが閑静な森林に木霊した。

上条「……こんな人の少ない場所でも、ちゃんと道路が舗装されているのがすごい」

土御門「ま、学園都市だからにゃー多分殆ど未開の地はないんじゃないと思うぜい」

 適当に話しながら進むと、少し広い広場のような場所に出た。
 滑り台やブランコなど、子供の遊び場だ。日々の疲れを癒すには確かに丁度いいかもしれない。
 ……日も傾いているから、子供の声は全く聞こえなかったが。
 そんな中、土御門は一つの方向に指を指した。
 厳密には、そこにボーと無気力で座っている女の子へと。

土御門「……カミやん、アソコの女の子、姫神になんか似てるような気がするんだぜい」

上条「……あ」

 上条は見た瞬間理解する。
 昨日ナンパされていた、ピンクのジャージを来たダウナー系の少女。
 そして一緒にジュースを飲んだ女の子。

 滝壺理后が、そこにいた。


57:2010/08/11(水) 23:21:47.82 ID:pF3OY2Ao

上条「ほんっとにありがとう!マジで助かった!!」

 上条は土下座をする勢いで滝壺に頭を下げる。
 それに対して滝壺は冷静に首を左右に振る。

滝壺「かみじょうには、私も助けてもらったから」

 曰く、彼女は本当は放課後校門の前でボーとしていたらしい。
 しかしながら上条は一人で掃除をしていたため、今の時間まで時間がかかった。
 だから一度他のところでのんびりしてから行こうとしてたところに彼が現れた、ということだった。
 果たして土御門の勘は当たっていたというわけだ。
 その土御門は『おじゃまみたいだから俺は退散するぜい』と微笑をたたえたまま去っていった。
 上条は滝壺の横に座って安心したように息を吐いた。

上条「……それにしても、どうしてわざわざ届けに来たんだ?『風紀委員』に渡せばよかっただろ」

滝壺「私は直接データ見ることができるから。それじゃあなかったら、学校もわからなかった」

 そっか、と上条は半分すごいんだなーと思いつつ言う。
 よく良く考えてみると、すごい以前に個人情報を見られてしまうのだからそれについ敵旗艦を覚えるべきだが。

滝壺「それに、」

 続け、彼女は横の上条に視線を移す。
 その瞳には穏やかながらも彼を観察するような様子があった。

滝壺「かみじょうに、少し興味があるから」

 どき、とした。
 仮にも滝壺は可愛い少女だ。年は幾つかは知らないが、まぁ同年齢ぐらいだろう。
 そんな女の子から興味ある、といわれてどきりとしないはずがない。
 上条当麻も、一端の男子高校生なのだ。
 一陣の風が二人の間を駆け抜ける。

上条「あ、え、えっと……どんなところに?」

 しどろもどろになりながら問いかける。
 うん、と一度滝壺は頷く。


58:2010/08/11(水) 23:22:21.97 ID:pF3OY2Ao

滝壺「かみじょうに」

 彼女は簡潔に、先ほどと同じようにそう答える。
 上条の思考は明後日に一瞬だけ飛んだ。
 彼女の言っている意味がよく理解できなかったからだ。
 上条のどこどこが、なになにが、或いは言っていたことが、とかそういうのならわかりやすい。それについて答えればいいだけなのだから。

上条「えーっと……それはどういう意味でせう、姫?」

滝壺「……私は姫じゃない」

上条「そこはいいの!はいはい、さっさと答える!」

 滝壺は?と頭に浮かべ、少々俄然としないながらも口を開いた。

滝壺「かみじょう自身に。全部」

 それは、捉え方を間違えたら告白のようにも受け取ることが出来たかもしれない。
 だが上条はそれはないと否定する。
 彼女のようなタイプはあまり見ないが、それでも一目惚れなどをするタイプではないだろう。

上条「だから、どういう意味なんだよ、えっと、あー……」

 再び問いただそうとして、ここでようやく気付いた。
 彼女の名前を知らない。
 上条の様子を見て滝壺もようやく気づいたらしく、驚いたように手で口元を押さえた。
 表情の変化が些細だからあまりそうは見えないが。

滝壺「ごめんなさい。こっちが名前知っていたから、教えた気になってた」

 前髪が微かに揺れる。
 どうやら頭を下げたらしい。


59:2010/08/11(水) 23:23:03.47 ID:pF3OY2Ao

 上条的には名前の事よりも届けてもらったことのありがたみの方が大きいので、そんなことで頭を下げられても困ったりする。
 だから激しく顔の前で手を振った。

上条「いやいやいや、そんなこと全然気にしないって!」

滝壺「……そう?」

 滝壺は軽く上目遣いで上条を見た。ちなみに彼女は全くこれっぽっちも計算などしていない。
 それでもやはり上目遣いというのは効果抜群なようで、上条も少し視線を逸らしながら続ける。

上条「ああ。今から教えてくれれば、そんなのなんも関係ないからな」

滝壺「ありがとう、かみじょう」

 言い、彼女は淡く微笑を顔に貼りつける。
 その顔をみて、上条は思わず自分の顔が赤くなるのがわかった。
 どうしてだろう、なんてことない愛想笑いのはずなのに。そんなことを思っている間に彼女の表情は元のそれへと戻る。

滝壺「それじゃ、改めて。私は滝壺理后。名前の感じは、理科の理に、皇后の后で理后」

上条「なんだか賢そうな名前だな……じゃあ俺の名前は……って、知ってるんだっけ」

 上条がそういうと滝壺は首を振る。

滝壺「私は一方的に知っただけだから、かみじょうにも自己紹介して欲しい」

上条「……そっか。じゃ、こっちも改めて。上条当麻だ。当たるに麻で当麻。よろしくな滝壺」

滝壺「うん、よろしく」

 上条が軽く差し出した手に滝壺もゆっくりと手を伸ばす。
 彼女の手が上条に触れた瞬間、少しばかりひやり、とした。

上条(…………?冷たい?)

 しかしすぐに人の温もりが伝わってきて、気のせいか?と思い直す。


60:2010/08/11(水) 23:23:37.00 ID:pF3OY2Ao

上条「……それで滝壺。俺の全部って……何が気になるんだ?」

滝壺「簡単に言えば、『自分だけの現実』。それが解析できればその人の全てがわかるから」

 能力者である以上持っている『自分だけの現実』。
 その人の根幹にあるもの、信念、或いは信条。はたまた心の支え。
 解析すれば確かにそれがわかる。

上条「……よくわかんねーけど、そういうのって病院にある機械とか必要なんじゃないのか?」

滝壺「ううん。私自身がその機械の役割を果たすから、大丈夫なの」

 普通は、と小さく付け足す。
 上条はなんだかすごいトンデモスキル持ってんだなーと感心する。

上条「……なら、それで俺の『自分だけの現実』ってやつを解析すればいいんじゃないか?」

滝壺「私は『能力追跡』だから」

上条「エーアイ……なんだって?」

滝壺「AIMストーカー。私はAIM拡散力場がないと、それを観測できないの」

上条「そっか……そういえば俺って無能力者だからなぁ……」

 それに対しても滝壺はううん、と首を振った。

滝壺「……無能力者でも、AIM拡散力場がないっていうのはありえない。だって、眼に見えないだけで何かしらの能力には目覚めているはずだから」

上条「……ん?ってことは、俺は能力自体がないってことになるけど……」

 それはない、と上条は確信している。
 異能の力ならば何でも打ち消す右手、『幻想殺し』がそれを証明してくれる。



61:2010/08/11(水) 23:24:02.94 ID:pF3OY2Ao

 滝壺は少し興奮しているように上条に詰め寄った。

滝壺「それが有り得ないこと。だから、かみじょうを知りたい。今までこんな人いなかったから、かみじょうを――――」

 言いかけ。
 ピリリリリリ――――と大気が振動した。
 けたたましい飾りのない着信音を奏でるのは上条の携帯ではない。
 今まさに上条に近づいていた滝壺の携帯だ。

滝壺「……ごめんね、かみじょう。ちょっと待ってて」

 そう言ってピッ、と通話ボタンを押す。
 うん。うん。わかった。とそれだけ答え、彼女は通話を切る。
 僅か十数秒の出来事だった。
 ふぅ、と滝壺は小さく溜息を吐いて、隣に座る彼に申し訳なさそうに向き直る。

滝壺「ごめんなさい。急な用事が入ったから……」

上条「いや、いいっていいって、そんなかしこまらなくても。ほら、もう空も赤一色だし、俺もそろそろ帰らなきゃって思ってたしな」

 謝罪を重ねる滝壺に上条はさりげなくフォローを入れる。
 そんな上条の言葉を聞いて滝壺はほっ、と胸をなで下ろす。

滝壺「……出来れば、話の続きをしたい。連絡先、教えてくれる?」

上条「……ああ、いいぞ」

 上条もさっ、と携帯を差し出すと、ものの数秒で連絡先の交換が終わる。
 それを受け取って中身を確かめた後、滝壺は携帯を大事そうに胸に抱えた。

滝壺「……それじゃあね、かみじょう。ばいばい」

上条「ああ、またな」

 うん、と滝壺は頷いて立ち上がる。
 ちらり、と上条を見て、数歩歩いてまたちらり、と上条を見る。
 上条が手を振ると、少し恥ずかしそうに、しかしうれしそうに滝壺も小さく手を振り替えしてくれた。
 その後は振り返らず、滝壺はゆっくりと公園から出て行った。
 そしてそのまま公園には上条だけが残り、彼は首を傾げながら彼女を想う。

上条「滝壺か……不思議な娘……なのか?」

 誰も聞かないそれは一人言として、紅い空に消えた。


67:2010/08/12(木) 23:58:57.97 ID:86V5hCoo

絹旗「――ふっ!」

 ドゴン!と彼女が振るった拳がコンクリートに当たると同時、そこはクレーター状に凹む。
 それを真横にうけた男は力なく崩れた。
 どうやら直撃したと思い気絶したらしい。
 全部が終わった後、滝壺は一人の男が持っていた銀のアタッシュケースを拾う。

滝壺「……これ?」

麦野「そうみたいね。んじゃ、ウチらの仕事はここまでってわけで」

 そう言うと麦野はコキコキ、と首を鳴らした。

フレンダ「……結局、四人も集まる必要なかったわけよ」

 実質的な戦闘にはまるで参加しなかったフレンダが言う。
 彼女の基本的な戦術は爆弾など。それが真に生かされるのは迎撃時。
 しかし今回のような遊撃戦になると意外に出番は少ない。いや、それでもそれなりに体術の心得はあるわけだが。
 触れただけで制圧できる絹旗と第四位の麦野がいればそれは殆ど意味はない。
 そんなフレンダの声に麦野から声が飛ぶ。

麦野「んなこといったって、今回はマジに緊急収集じゃないの。他の暗部組織も全部可動中って話よ」

麦野「そんな中私たちだけ逃がしたらたまったもんじゃないわ。だから予測の自体があった時のために皆を呼んだってこと」

麦野「……昨日逃がしたあとも後片付けは面倒だったしね」

絹旗「昨日のはそんなに面倒だったんですか……それは超災難でしたね」

麦野「そーよ。……思い出したらまたムカツイてきた」

フレンダ「え、もしかして私もう一度オシオキなわけ?」

麦野「……そーね、それもいいかもね」

 フレンダは藪を啄いたら蛇が出たと、麦野の発言に慄く。


68:2010/08/12(木) 23:59:25.29 ID:86V5hCoo

麦野「……冗談よ。昨日は昨日で済ませたんだから。それよりもとっとと帰るわよ。また運転手が補導されてちゃたまったもんじゃない」

 やれやれと言わんばかりに麦野は首を振る。
 皆それに続き、滝壺もアタッシュケースを抱いて追う。
 しかし絹旗は滝壺が並ぶまで待ち、そのアタッシュケースの取手をつかんで彼女から引き離した。

絹旗「私が超持ちますよ。滝壺さんには途中でお呼出してしまいましたからね」

滝壺「いい、気にしない」

絹旗「いいですから。早く行きましょう」

 滝壺は絹旗と後二回ほど押し問答を繰り返し、それで諦める。
 結局今日は呼び出されるだけ呼び出され、何の役目もなく終わったから荷物ぐらいは持とうと思っていたのだ。
 表の通りから程良く離れた場所に止まっていた車に四人は乗り込み、それは静かに発進する。

浜面「……で、今日の仕事ってなんだったんだ?」

 浜面は運転手の方から後ろの三人と、助手席に座る麦野に話しかける。

麦野「あー、データを盗もうとしてた奴の粛清」

 ズバン、とねとジェスチャーで麦野は軽く説明する。
 実はものすごく残酷なことを言っているのに、彼女たちにはこれが普通だから誰も気にしない。
 勿論、運転手の浜面も。

麦野「浜面もデータ盗んだら、知り合いのよしみとして私が殺してあげるから」

浜面「普通に殺すのかよ……」

麦野「当たり前のことに何いってんだか」

 浜面は溜息さえつかない。
 麦野の言っていることは恐らく真実だから。
 もしも自分が裏切るような真似をしたら真っ先に始末しにくるのがこの女だと彼は確信していた。


69:2010/08/13(金) 00:00:08.45 ID:3SyCpjso

浜面(……こえぇな、麦野沈利……出来れば一生敵に回したくないもんだ)

 彼は心の中でつぶやいて、ハンドルをきった。
 裏に続く道はいつの間にか抜け、表のビルが立ち並ぶ道路に出る。
 白い光を放つ街灯がそれを実感させた。 
 ふぅ、と一度息を吐いて、浜面はバックミラーで後ろの三人を見た。
 そこで一人の少女が目に留まる。

浜面「……滝壺が携帯いじってるなんて珍しいな」

 彼は意外そうにそういい、後部座席の真ん中に座るフレンダも声をあげた。

フレンダ「あ、それ私も気になってた。滝壺はゲームするタイプじゃないし、かと言ってメールする友達も……いるの?」

滝壺「うん。最近出来た」

フレンダ「へぇ、そうなんだ……でも結局、滝壺ってそんなに人とかかわらないタイプじゃなかったっけ?どうやって交換したの?」

絹旗「……別に超気にすることないんじゃないですか?滝壺さんにだって滝壺さんのコミュニティがあるでしょう」

フレンダ「いや、まぁそんなんだけどさ」

 フレンダの追求に絹旗がフォローを入れて、フレンダは矛を収める。
 しかし気になって仕方がないという面持ちだ。
 麦野も浜面と同じくバックミラーで三人を、特に滝壺を見る。
 携帯の光に照らされるその顔は僅かながら赤くなっているようにも見えた。
 たったそれだけの情報で麦野は回答に辿りつく。

麦野「……男、か」

 ぼそ、と呟いたそれは狭い車内で当然のことながら全員の耳に入る。
 絹旗は僅かに顔を強ばらせ、フレンダは驚きに目を開く。
 浜面も動揺し、僅かにハンドル操作を誤った。


70:2010/08/13(金) 00:01:15.00 ID:3SyCpjso

フレンダ「え、マジ!?男!?」

滝壺「……男の子。だけど、友達」

 バレてしまっては仕方がない、と滝壺はフレンダや麦野の反応を肯定しつつ、それでいて皆が期待することを否定する。
 そういった話に食いつくのは何も女子だけでなく、男子も多少は気になる。

浜面「……ってことは、昼間速攻でいなくなったのも?」

滝壺「……うん。彼に会いにいってた」

 ほー、と浜面は意外そうな声をあげた。
 なんとなく滝壺が友達とは言ったものの、人に対して積極的になるとは思っていなかったからだ。
 それじゃあ今日悪いことしちゃったのかなーとフレンダはさりげなく思う。
 そんな滝壺に質問いく中、麦野は絹旗に言及する。

麦野「絹旗。アンタ、知ってたでしょ?」

絹旗「なんの話ですか?私も超初耳でしたけど、滝壺さんも一端の女性ですしそうでもおかしくはないと思いますよ」

 そのさらりと受け流す彼女の返答に、麦野は苛立を覚えた。
 自分にしか聞こえない程度でチッ、と舌打ちをする。

麦野(……ま、こっちはいいか……別に。それよりも問題は……)

 渦中の滝壺理后の方。
 そう考えて、麦野は釘を打つべく彼女の名前を呼んだ。

麦野「……滝壺。一応って言っておくけど、」

滝壺「わかってる」

 しかし滝壺は麦野の発言を遮って言う。
 ぱちん、と携帯電話を閉じて、外を眺めつつもう一度繰り返す。

滝壺「わかってる」

 それは、どこか憂いや諦めを孕んだ声で。
 今日も『アイテム』は学園都市の闇を駆ける――――


79:2010/08/13(金) 23:45:17.09 ID:3SyCpjso

 >>76-78
 別に浜面→滝壺に好意もたせてるわけじゃないんですが……
 アイテムでそれなりにこなれた状態で且つ浜面が話しかけやすい相手は滝壺か絹旗になるのでそう見えるのかもしれませんけど……事実そう見えてしまってすいません。
 ……ですが、今更態度変えるのもおかしいのでこのまま行きます。ご了承ください。

 ―――――――――――――――――――

『今日はごめんね。いきなり用事入っちゃって』

『あの時も言ったけど、別にいいって。それより用事はもう済んだのか?』

『うん。結局私が行ってもあまり関係なかったけど。
 それより、明日は開いてる?今日のことの続きを話したいから』

『明日?これはまた急だな』

『だめ?』

『……ええい、わかった!上条さんが一肌脱ぎましょう!
 何時にどこで集合する?』

『それじゃあ、場所は――――』


「……お前には明日、一つ仕事をしてもらう。成功したら命は助けてやってもいい」

「あァ?オマエ何勝手に決めてンだよ。こんなクズ、とっとと殺しちまえば済むことだろォが」

「俺には俺で、組織とは別な仕事がある。上の奴直々のな」

「上、か……チッ、尻尾振って機嫌取りか、めんどくせェ」

「そう言うな、一方通行。お前にはあまり関係のないことだ。それに、こいつを使う許可も貰ってる」

「……さっさと言え、か。そんなに助かりたいのか?まぁいい、仕事は簡単だ。一つの場所で一つの事件を起こしてくれればいい」

「その場所は――――」


80:2010/08/13(金) 23:45:46.70 ID:3SyCpjso

 昼ごろ、上条は街中を歩いていた。
 理由はただひとつ、昨夜来たメールで待ち合わせたからだ。

上条「えっと……ここらへんだよな」

 待ち合わせは第七学区とは言っても、それなりに広い。
 上条がよく行く場所といえば、朝の登下校時に通る場所とか、稀に服とか買いに街に出る程度のものだ。
 よくもまぁ、そのたびに不幸に巻き込まれているとは思う。
 話を戻そう。
 そんな上条当麻でも、その広い第七学区を網羅しているわけではない。
 寧ろわからないところの方が多いくらいだ。
 待ち合わせ場所も、またその一つ。

上条「……ここの公園か?」

 昼間ということもあり、子供もそれなりに多い。
 その公園の砂場では自分の背丈の倍はあろうかという城を作っていたり、またブランコや滑り台で和気藹々と遊んでいた。
 そこを見渡すと、また見慣れたジャージ姿が目に映る。

上条「……よっ、滝壺。待ったか?」

滝壺「私もいま来たところ。とりあえず、おはよう」

上条「ああ、おはよう……ってかもう昼な気がするけどな」

 時計台の下で棒立ちだった滝壺に近づき、挨拶を交わす。
 そして上条も彼女の見ている光景を見る。
 数秒前とさして変わらず、彼らは、彼女らは遊んでいた。

滝壺「……いいな」

 滝壺がぼそりと漏らした。
 上条は上条なりにそれの意味を分析し、彼女に問いかける。

上条「子供とか好きなのか?」

滝壺「違うよ、そういう意味じゃないの」

 そして話は切れる。
 空高くをヘリコプターが飛び、付近の電工テレビ画面では天気予報がやっていた。


81:2010/08/13(金) 23:47:25.46 ID:3SyCpjso

 上条に滝壺の心理は計り知れない。
 当然、という人もいるかもしれない。
 なぜなら彼女と出会ってからまだ数日しか経過していないのだから。
 しかし、上条はそんな言い訳の上に胡座をかきたくはなかった。
 だから彼は彼女の言ったことの意味を聴こうと口を開く。

上条「……なぁ、滝壺?」

滝壺「……なに?」

 彼女は視線をそらさない。それは暗に拒否を示していた。
 上条は思う。まだ早い、と。
 もっと、もっと親しくなってからでは話してはもらえないだろう、と。
 果たして彼はまた別の事に対して口開く。

上条「早速なんだけど、昨日の続き……聞いてもいいか?」

滝壺「……うん。いいよ」

 滝壺は緩い顔を上条に向ける。

滝壺「まず……能力者は全員微弱ながらも『自分だけの現実』を持ってる。だからAIM拡散力場が生まれる。それはわかる?」

上条「ああ。つまりあれだろ。自分が『電気を出せる現実』を持ってればその『電気を発するための力場』が生じるってことだよな?」

滝壺「そう。それは今も言ったとおり、能力者なら例え無能力者だろうと持っているもの」

 けれど、と滝壺は紡ぎ、それに対して上条がつなげる。

上条「俺にはそのAIM拡散力場がなかった、と……」

滝壺「……うん」


82:2010/08/13(金) 23:48:13.62 ID:3SyCpjso

 数秒の沈黙。
 口を開くのは知識が足りない上条ではなく、勿論滝壺の方だった。

滝壺「私の能力はAIM拡散力場を観測する能力」

上条「……ああ、それは昨日聞いた気がする」

滝壺「だから、それを感じられないかみじょうに興味がある」

 なるほどな、と改めて上条は思った。
 つまりは知的好奇心。
 自分の知らないことに対して興味をもつのは人として当然の反応とも言える。
 それも、自分の根底に関わるものだとすれば尚更。
 いつの間にか滝壺は顔だけでなく体全体をこちらに向けて、詰め寄っていた。

滝壺「だから、かみじょう。私と、付き合って欲しい」

 上条は、構わない、と思った。
 できる事ならば彼女が隠していることも知りたいし、彼女の力になってあげたい。
 ……けれど、それよりも滝壺理后の知りたいことの理由にもっと早く答えてあげられるかもしれない。

上条「……あのー、少しいいですか滝壺さん?」

滝壺「どうしたの?」

上条「えーっと……俺の能力についての話なんだけど…………実は俺、」

 刹那。
 癇癪玉のような悲鳴が響き渡る。
 弾けたように彼らはその中心を見ると、子供が高校生ぐらいの男に手を引っ張られていた。
 その男のもう片方の腕には女の子が一人抱えられている。

男「テメェもこいっ!」

子供「やだやだ!放してっ!!」

 男の目が細まる。
 上条がやばい、と思い、駆け出したときには既に遅かった。
 一瞬にして、フッ、と男と子供達が目の前から消失する。


83:2010/08/13(金) 23:49:23.81 ID:3SyCpjso

上条「なん――――ッ!?」

 誘拐。
 すぐに理解できた。
 学園都市は非道だ。上条当麻は『妹達』の件でそれをよく理解している。
 きっと、今から『風紀委員』や『警備員』に連絡しても捕まらない可能性が高い。
 追わないと。彼はすぐにそう判断する。

上条(今の瞬間移動を見るに、相手は『空間移動』……ルートがわからねぇ!)

上条「くそっ!」

 上条は力任せに地面を殴ろうと拳を振り下ろす。
 が、しかし。
 それは地面に衝突する直前にて止められる。

滝壺「大丈夫」

 滝壺は呟く。
 その言葉に確たる芯を込めて。
 今までになかった響きに、上条はゆっくりと顔を上げて、滝壺の顔を見た。

上条「滝……壺?」

滝壺「大丈夫」

 繰り返す。
 そこにある顔は、先程までの眠たそうな表情ではない。
 瞳に光があり、声もはっきりしている。
 まるで、こちらこそが正常な、本当の滝壺理后であるというように。
 彼女は機械的に、そして上条に希望を与えるように、告げる。

滝壺「私は、AIMストーカーだから」

 追跡が、始まる。


88:2010/08/15(日) 23:41:36.91 ID:ygQLvwgo

男「ふぅ……楽な仕事だったぜ……人目につくってのがネックだったが、同じ能力の『風紀委員』が来る前に終えられたからな」

 『空間移動』の男は人気のないビルの屋上で公園を見下げて哂った。
 外界ではいきなり男が児童を誘拐したことで軽い騒ぎになっている。
 その児童は彼の両腕の中でぐったりとしていた。

男「……ま、いいか。とっとと指定の場所に運ぶとするか……これで助かるってんなら楽なもんだ」

 ブン、と再び彼は虚空に消えた。


滝壺「道路渡って左、二つ向こうの交差点を右に曲がって一つめのビルの屋上」

 上条と並走しながら淡々とそれを告げる。
 ああ、と上条は信号が点滅し始めたのを確認して一気に横断歩道を駆け抜けた。
 すぐさま左に曲がるが、

上条「っ……と、これはこっち行ったほうが早いか……?」

 上条はここらの地理には詳しくない。
 だから隣の滝壺を見ると、彼女は走りながらも器用に手に零した粉を舐めとって数秒おく。

滝壺「……うん。また移動した。ここから右に曲がって、四つ目の角を左」

 上条にはどういう理論かはわからないが、彼女はこの粉を接種することで能力を使うらしい。
 まぁ実際的には彼女の能力は観測という今年か聞いていないため、他の使用用途は全くわからない。
 『能力追跡』。その名の通り、相手のAIM拡散力場を記憶し、その相手が生きている限り例え銀河の果てにいようと追跡が出来る能力。
 しかし、それは正しく一番ポピュラーな使用法であって、他の使い方がある。
 例えば。
 相手のAIM拡散場――つまり、『自分だけの現実』を乱して能力の暴発や乗っ取りを狙ったり。
 広がりから見極めて、攻撃を予測してみたり。
 AIM拡散力場に対することならばエキスパート。彼女以上にそれについて知る者は少ないだろう。


89:2010/08/15(日) 23:42:20.23 ID:ygQLvwgo

 だからこそ、観測できない上条に興味を持った。
 本来ならそれが普通なのだが、特別の中にいればその普通が特別になるのだ。
 実際には上条当麻はその特別の中でも一際『特別』な存在なのだが。

滝壺「はぁっ……はぁっ……」

 十数分走ったところで、滝壺の動きが鈍り始めた。
 普通に考えれば確かに鈍り始める距離を走ったのだが、それでも様子がおかしい。
 上条は眉を顰め、彼女に心配するような口調で話しかける。

上条「……大丈夫か?すごい汗だけど……」

滝壺「……へいき」

 いつもと変わらず、しかし僅かに力なく告げ、続ける。

滝壺「それより、動きが止まった。二、三回検索してみたけど、動かない」

上条「……どこだ?」

滝壺「……そこ。屋上」

 滝壺が指さしたビルに上条は無言でうなずき、駆ける。
 彼もそれなりの距離を走って疲れているはずなのに、そんなものを微塵も見せない。

滝壺(……危ない)

 彼女は思う。
 彼は無能力者だ。
 今の状態から見て、体力はそこそこあるだろうし、腕っ節も人並みではあるのだろう。
 しかし。
 相手は『空間移動』だ。
 まず、勝てない。レベル5でも不意打ちなら負けるかもしれない相手。
 そんな能力者に無能力で挑むなど、愚の骨頂でしかない。

滝壺(止めないと)

 止められるのは、あらゆる能力者に対してジョーカーな自分だけ。
 体晶の使いすぎで結構疲労しているが、そんなこと関係ない。
 滝壺は付近にあったエレベーターのボタンを押し、上条がやられていないことを願った。



90:2010/08/15(日) 23:42:53.50 ID:ygQLvwgo

 上条は階段を二段飛ばしで駆け上がる。
 許せない。
 無力な子供を狙うのは勿論なことだが、それを簡単にやってのけるその精神が。
 上条当麻は善人だ。
 善人ぶっているのではなく、彼が感じ思い起こしたことが善人だと周りから認められているだけなのだが、善人だ。
 だから彼は誘拐犯のしたことを、そして誘拐犯自信を許せない。
 それが彼が彼である所以だから。
 扉が迫る。
 上条は登ってきた勢いのまま、ズバン!とドアを蹴り開いた。

男「っ、誰だ!?」

 男がいた。
 上条達が公園で見た男。
 彼の足元には二人の子供が意識を失って倒れている。
 外傷は見えないため、恐らくは気絶させただけなのだろう。
 それでも上条はその事実に歯を噛み締める。
 彼は一体、その子供たちを使って何をしようとしていたのだろうか。

男「……なんだよ、脅かすなよ……『風紀委員』がもう嗅ぎつけてきたのかと思っただろ……」

上条「…………」

男「……何のようだ?隠れ家的なものできたなら、帰ったほうがいい。じゃなかったら俺が」

上条「お前」

男「……あん?」

上条「お前……その子たちに何をするつもりなんだ……?」

 男は一瞬怪訝な顔をするが、すぐに合点がいったのか上条を鼻で嘲笑う。


91:2010/08/15(日) 23:43:24.83 ID:ygQLvwgo

男「はっ、なんだお前。まさかこのガキどもを助けるためにわざわざ追ってきたってのか?」

男「どうやって追ってきたのかは知らねぇが、まぁ無駄だな」

上条「……どういうことだ?」

 男は無知な上条を嗤い、両手を広げて宣伝するように告げる。

男「学園都市だよ」

男「底からの依頼だ。この子供は学園都市の礎になる。どういうふうに使われるかはしらないがな」

男「俺も多分カメラとか、お前みたいな人に姿を見られてるが……場所も指定してきたからな。隠蔽はしてくれるだろ」

男「……で?お前はどうするんだ?」

男「ここで俺に襲いかかったとしても返り討ち、『風紀委員』や『警備員』に今から頼っても意味が無い」

男「さぁ、どう「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」

 上条は男を一刀両断する。
 彼の言葉には刃があった。剣呑と暮らしているただの高校生には宿り得ない言の刃が。

上条「お前がどれだけ強かろうと、それが誰の依頼だろうと、そんなの関係ねぇ」

上条「そこに、危険なやつがいるんだ。助けすら求めれないやつがいるんだ。なら、お前を倒す理由はそれだけで十分」

 拳を握り締める。
 あらゆる絶望を、悲愴を、妄言を、悲劇を、絶対を――――
 そして、『幻想』を打ち砕くその右手を。

上条「どんなことでも、お前が何かその子達に危害を加えようとしてるっていうんなら――」

 上条当麻は叩きつける。
 どんな無情な運命を、奇跡をひっくり返すための、初めの一言を。

上条「まずはその幻想をぶち殺す!」


100:2010/08/16(月) 23:35:55.96 ID:RXdFnB2o

 静寂。
 地上より遥か高いビルの上で二人の男が向きあう。
 一触即発の状態。
 先に動くのは、否、消えるのは。

上条「がっ……!?」

 ガン、と一撃。
 子供たちを置いて一瞬にして消えた彼は上条の頭に強烈な踵落としをくわえる。
 そのまま地面に降り立った彼は怯んでいる敵を追撃にかかった。

男「本来なら俺がテメェの座標にテレポートすりゃいいだけだが、それじゃああまりにつまらないからなぁ!」

 仰け反った上条の胸ぐらを掴み、引き寄せ、同時に自分の額をぶつける。
 衝撃の連打に上条は一瞬だけ意識を手放すが、不幸中の幸いか痛みが彼の精神を引き戻す。
 今何が起こっているかも理解しないまま、上条は右手を振るった。
 まさしく時を同じくして、男も同じように拳をとばす。
 奇しくもクロスカウンターの形。
 互いに等しくダメージを受けた少年たちは数歩距離をとった。

上条「っつ……『空間移動』、か……遠距離からいたぶるような事をしないとこからみると、飛ばせるのは自分と、その触れているものってとこか……?」

男「……中々洞察力あんじゃねぇか」

 上条に殴られた部分を男は手で拭った。

男「そうだよ、俺の『空間移動』は俺自身とその時触れているモノしか飛ばせない。だから格闘にしか頼らなくちゃいけないんだが……」

 再び、彼は飛ぶ。
 今度は上条の上ではなく、背後へと。


101:2010/08/16(月) 23:36:35.04 ID:RXdFnB2o

上条「――――っ!」

 息が詰まる。
 そのまま前に投げ出され、上条は無様にも転んだ。

男「まぁ基本的に能力とケンカの仕方さえわかってれば相手がアイツらみたいなイレギュラーじゃない限り負けないけどな」

 あいつら?と上条は思考を巡らすが、この場に置いては全く関係がないために隅に追いやる。
 何度か大きく咳をし、足腰や手に力を入れて立ち上がった。

上条(『空間移動』なら……触れさえすればいい)

 白井黒子のように触れたものをどこかに移動するわけではない。
 自分も伴ってなければ移動できない。そこに穴がある。
 もしも白井のように触れただけで移動させるなら、早速上条に触れて移動させようと試みるだろう。しかし移動させることは出来ない。ここで上条は能力を消す能力を持っていると聡い人なら理解する。
 しかし、自分も移動しなければならないとなれば相手をつかんで移動だなんて滅多にしようとは思わないだろう。
 だから上条の右手に触れてはいけないと、気付けない。

上条(触れさえすれば――――!)

男「ぼやっとすんなよ。もうちょっと踊ろうぜ」

 ブンッ、と目の前に飛翔した男はキックを繰り出す。
 反射的に胸部に腕を構え、それを防ぐことに成功はするもののビリビリと腕が振動する。
 それを無視して一歩踏み出し、右手を振るうがそれが届くより早く男は掻き消える。
 手が空を切った直後、背中にドロップキックが直撃した。

上条「く、――――っ!」

 転んで数秒ロスするのは痛い。
 前向きに態勢を崩しながらも、上条は前と後ろを入れ替えてギリギリで踏ん張る。


102:2010/08/16(月) 23:37:18.91 ID:RXdFnB2o

男「あー……なんていうか、努力は認める。普通なら戦意喪失してもおかしくねぇからな」

 男は呆れたように頭を掻きつつ、言う。

男「でもさ……手応えないわ、お前」

 ヒュン、と消えて。
 次の瞬間には上条の腹部に拳が食い込んでいた。

上条「ぐっ……」

 上条は距離を取るように飛び退き、しかし殴られた部分を押さえたまま膝をつく。
 彼の顔色は真っ青に染まっている。
 人体には、幾つかの急所がある。
 顎の先、人中、半規管、後頭部、男性ならば股間。
 上条が食らったのは、鳩尾。へその少し上ぐらいにある狙われやすい部分。
 脳震盪や半規管に衝撃を食らった時とは違って気力で頑張ろうと思えば動けるだろうが、それでも激痛だ。

男「とっとと去れ。じゃなかったら……殺すぞ?」

 それは、脅しではない。
 上条は苦痛に顔を歪ませながらも男を見上げた。
 その瞳には冷酷なまでの意志が伴っている。

上条「……くそ…………」

 守れない。
 そうだ、と実感した。
 子供たちは未だに気絶していて、動く気配はない。
 しかし、動いていたからどうだというのか。
 そんな希望に頼っている時点で、上条は既に負けている。

上条「くそ…………!」

 激痛と、そして救えない自分の不甲斐なさに苛まれ、上条は顔を酷く顰め、
 そこに。

滝壺「かみじょうっ!」

 ――最後の希望が辿り着いた。


105:2010/08/18(水) 23:29:53.21 ID:uO7UhnAo

上条「滝……壺」

上条は声で振り返り、唇を噛みしめる。
滝壺理后は女の子だ。『超電磁砲』などの例外ならまだしも、普通の少女は非力に他ならない。
だから上条は彼女が辿り着く前に決着をつけたかったわけだ。
今となっては叶わなかった幻想で、負けそうになっている状態での最後の希望というわけだが。
 それでも上条はその希望に頼りたくはなかった。

男「ちっ……次から次へと増えやがって」

男は面倒くせぇという言葉を飲み込んだ。
上条相手に速攻決着をつけなかったのは自分の落ち度で、二人になった事態は自分が招いたものだからだ。
それに、滅多な自分が負けそうな能力者は頭に叩き込んである。自分の記憶では彼女はそれに該当しない。
この少年少女相手に負ける気はしない。子供たちを取りに来る前に終わらせればいいのだ、何ら問題はない。
しかし、滝壺はそんな考えなど関係ないとでも言うように上条に駆け寄って心配そうに顔をのぞき込んだ。

滝壺「かみじょう、大丈夫?」

上条「滝壺……下がれ、あぶねぇから……」

 肩に優しくかかった手を掴みながら上条はゆっくりと立ち上がり、庇うようにして男と向きあう。
 滝壺の能力は知っている。
 『能力追跡』、相手のAIM拡散力場から場所を特定して追いかける能力。
 そもそも彼女がいなければここまで辿りつくことなど到底不可能だっただろう。
 だからここからは自分の仕事だ。
 全部が全部、相手に頼ってしまうわけにはいかないのだから。

上条「すぐに終わらせる……滝壺はあの子供たちを連れて逃げてくれ……」

 幾撃もくらい、フラフラになっている上条は背に向けて放つ。
 滝壺は見えないと分かっていても、首を横に降った。

滝壺「……駄目だよ、かみじょう」


106:2010/08/18(水) 23:31:27.16 ID:uO7UhnAo

滝壺「かみじょうはもうボロボロになってまで、私が来るまでの時間を稼いでくれた」

滝壺「これ以上動いたら、もっとボロボロになっちゃう。……だから、今度は私の番」

 滝壺に、上条は前から警戒心を失わずにちらりと後ろを見て言う。

上条「待てよ……お前の能力は相手を追跡する能力で、直接的な攻撃力はないだろ……?」

上条「だったら、基本的に滝壺より丈夫な俺がやるべきだ。まだ、いける」

 そういう上条の足は僅かに揺れている。
 背に二発、腹、しかも鳩尾に一撃。初撃においては頭にだ。ダメージが蓄積していない方がおかしい。
 それでもたち、闘士を見せるのは今までくぐり抜けてきた修羅場の賜物か。

男「……で、どうなの?」

 そんな二人の対話をつまらなさそうに眺める男は言う。

男「どっちが先に、沈むの?」

 それは、あまりに冷静で。
 上条は息を飲んでその一歩を踏み出そうとし。
 滝壺はその時に揺れた手を掴みとり、引っ張って自分が立ち上がると同時に上条を自分の後ろへと追いやった。

上条「んなっ」

 バランスを崩し、後ろに転びそうになる上条は滝壺がこちらをみていることに気付く。

滝壺「大丈夫」

 少女は淡く笑う。
 その言葉を彼に浸透させるように。

滝壺「私は大能力者だから。かみじょうを、あの子達をきっと救ってみせる」


107:2010/08/18(水) 23:32:14.68 ID:uO7UhnAo

 それを聞くと同時。
 滝壺の後ろに男が出現する。
 上条に背を向けた状態で。

 ドッ、とローキックで滝壺を吹き飛ばした。

 上条はそれに怒りを覚える。
 傷つけられたから。
 子供たちを攫うという業だけでなく、無関係のものに手をあげたという行為に。
 上条は前へと飛ぶ。
 態勢が崩れることなど気にしない。ただ、前へ、前へ!
 背を向けている男へと右腕を振るう。
 丁度振り向いた胸に当たる。そうわかったときには既に上条の腹部にカウンターのように膝が食い込んでいた。

上条「がっ……!」

男「全く、うぜぇんだよ」

 男はその上条に止めを刺そうと、再び、飛ぶ。
 否。
 飛ぼうと、した。

男「は……?」

 飛べない。
 能力自体が発動しない。
 さっきまではそんなことはなかった。だから、先程の女が何かをしたのか!?と驚きに塗れつつ少女の方を見る。
 しかし、その彼女自身も地に手をつきながら目を見開いてこちらを見ている。

上条「つかまえたぜ」

 その少年の声は、とても近く、しかし酷く遠くに聞こえた。
 右手は膝蹴りを腹部に食らったとしても、その胸ぐらをつかんで離していなかった。
 つかまえた。
 男はその言葉の意味を、数秒遅れて知る。
 それ以上に言葉など必要なかった。

 次の瞬間。
 上条の頭突きが無防備な相手の額に激突する。


108:2010/08/18(水) 23:32:56.96 ID:uO7UhnAo

 一撃だけでは終わらない。
 それまでの仕返し、とでもいうように掴んでいた右手を引いては撃ち、引いては撃つ。
 まともな思考回路が与えられないまま一方的に男は何度も何度も上条に攻撃を加えられた。
 やがて、血が出始める頃。
 勝負は決する。

上条「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 上条は右手からゆっくりと力を抜いた。
 すると男は糸の切れた人形のように、受身も取らずにドサッ、と地面に伏す。
 少年の額からも血が滴っているが、それは彼自身のものではなく攻撃を与えた相手のものだ。
 しかしながら彼自身も何度も頭をぶつけているため、目が虚ろになっていた。

上条「滝、壺……大丈夫か?」

 そんな中、彼はゆっくりと目を動かし、少女を確認して話しかける。

滝壺「え……う、うん。大丈夫」

上条「そっか」

 上条は笑った。
 心底安心したというように。
 そのまま、前触れもなく彼もふらりと横に倒れる。

滝壺「かみじょう!」

 気を失う前に少女の声を聞いた。
 が、上条の意識を押しとどめるまでには至らない。
 そのまま太陽の元で意識が反転する。



114:2010/08/20(金) 23:17:12.22 ID:GLkwXVwo

 気がつくと、目の前がピンク色だった。
 ……厳密にはピンク色のそれが視界の半分を埋めていて、残りは心配そうに見る二つの目が覗いていたのだが。

滝壺「……気がついた?」

 彼女は上条が目を開けたのを確認して問いかける。
 目が開いているのだから覚醒はしているのだと思うのだが、一応念のため。
 そこで上条は自分がようやくどんな状況に置かれているのかを理解した。
 慌てて起き上がろうとするが、途中で無理に頭を押さえつけられて元の場所へと戻る。

上条「……あのー、滝壺さん?」

滝壺「なに?」

上条「どうしてわたくし上条めはあなた様の膝の上に頭をおいているのでせうか?」

滝壺「それは、かみじょうが気絶していたから」

上条「さいで……気がついたからもう起き上がってもいいかと思うのですが、いかがでしょう」

滝壺「だめ」

 即答で言われ、上条は仕方無しにそのまま空を見上げる。
 背中の感触からすると、移動はしていないらしい。広がる空も只管に広い。

上条「……さっきのヤツら、どうしたんだ?」

滝壺「知り合いに連絡してそれ経由で『警備員』に届けてもらった。私たちが直接やると聴取とかで時間くいそうだったから」

 その知り合いというのは『アイテム』の下部組織なわけだが、それを知らない上条はなるほど、と感心した。
 ということは子供たちも無事、というわけだ。


115:2010/08/20(金) 23:17:39.84 ID:GLkwXVwo

上条「……まぁ、多少痛い思いしただけの価値はあったってことだな」

滝壺「うん。……かっこよかったよ」

 そう言うと滝壺は上条の頬を伝い、頭を撫でる。
 子供扱いかよ、と彼は思ったが、不思議と悪い気はしなかった。

滝壺「ところで」

上条「ん?」

滝壺「一瞬、あの男のAIM拡散力場が消えたんだけど……何かしたの?」

 滝壺の驚いていた原因はそれだった。
 上条に能力は見当たらなく、その上で特に特別なことをしないで相手の能力を封じたのだから。
 上条は頭をポリポリとかきつつ、申し訳なさそうにいう。

上条「あー……そういえばさ、公園でも言おうとしてたんだけど」

滝壺「?」

上条「俺の右手は『幻想殺し』って言いまして……異能の力なら超電磁砲だろうがオカルトだろうがなんでも打ち消す能力が宿っていまして」

上条「拡散力場がないっていうのは、きっとこの能力が打ち消す性質を持ってるからじゃないのでしょうか?」

 沈黙。
 上条的には何も悪いことはいっていないのだが、こんな空気になるとなんとなくそんな気分になる。
 対応に困り、そろそろ起き上がろうとしたところで滝壺は不意に上条の手を握った。
 びくっ、と一瞬震えた上条を気にせず、そのままふにふにと確かめるように手を探る。

上条「た、滝壺?」

滝壺「……本当」

 彼女の表情は揺るがず、しかし確かに驚いたように言った。


116:2010/08/20(金) 23:18:19.24 ID:GLkwXVwo

滝壺「かみじょうの手を掴んでると、私も能力が使えない」

上条「だろ?つまり、これが俺の能力の正体。……開発じゃなくて天然で、その上身体測定でも測定できてないからレベル0扱いなんだけどな」

滝壺「………………」

 それを聞いても、相も変わらず彼女は上条の手を揉むように小さな女の子というような手を動かす。
 しかし、それをしている彼女の心は此処にあらず、別のことを考えていた。
 即ち、上条の能力について。

滝壺(でも……AIM拡散力場はどんな能力においても等しく発されるもの)

滝壺(かみじょうの能力が例え『能力を消す能力』なら、かみじょうからは『AIM拡散力場を消すAIM拡散力場』が出ているはず)

滝壺(それなのにない…………?)

 先程も言ったとおり、彼女はAIM拡散力場についてはエキスパートだ。
 それについてはそれの集合体である風斬氷華と同等と考えてもいいだろう。
 だからこそ、彼女は困惑している。
 能力があるのにそれの余波がないというその状況。
 彼は自分が開発じゃなくて天然――つまり生まれつき、原石だと言った。
 例えば、同じく原石『吸血殺し』の姫神秋沙がいる。彼女には『吸血鬼を呼び寄せてしまう匂い』がしているらしい。
 それは本人の意志は介入せず、意図せずして。まさしく、AIM――無自覚の拡散力場。
 つまり、原石だからという理由はないことについて当てはまらないのだ。

滝壺(それなら)

 AIM拡散力場がないというなら、なんだというのか。
 それは能力が本当にない無能力者である。
 しかしそうでないことはあの『空間移動』との戦い、そして自分が触れて確認している。
 能力があるのに、AIM拡散力場がない。
 相反する二つの特徴。

滝壺(それなら)

 滝壺理后は考える。

滝壺(『幻想殺し』は能力ではない――――?)



117:2010/08/20(金) 23:19:09.55 ID:GLkwXVwo

 考え、打ち消す。
 超能力でないというなら、なんなのか。
 彼女が学園都市――科学サイドだけでなく、もう一つのサイドについても精通していたならばこう考えただろう。

 魔術、と。

 魔術サイドに聖人という存在がある。
 世界に二十人といない、神の子に性質が似た人のことだ。
 それは超人的な力をもつが、絶対的に能力ではない。そう断言できる。

 そして。
 今世界に二十人と言ったが、世界に一つしかない『幻想殺し』は果たして、どれほどの意味があるのだろうか。
 神様の奇跡すら殺す『右手』。
 『右』という言葉自体にも特別な意味があるのだが、彼女はそれを知らない。
 だから追求したい。知りたい。これの正体がなんなのか。

滝壺「……やっぱり、気になる」

上条「へ?」

 ぽつり、と滝壺は漏らし、上条はそれに目ざとく反応する。
 それに対して滝壺は何も慌てず、ようやく上条の手を解放した。

滝壺「かみじょうの能力がどこから来たのか」

上条「……っても、俺のこれはさっき言ったとおり生まれつきだしなぁ」

滝壺「うん。だから、調べる」

 滝壺は一拍おき、蒼い空を見上げた。

滝壺「かみじょうのそれは右手に宿っているのか、かみじょうに宿っているのか」

滝壺「前者ならそれはどうして右手だけなのか」

滝壺「後者ならそれはかみじょうの『自分だけの現実』と直結しているのか、そうでないのか」

滝壺「疑問は疑問を呼ぶ。好奇心は謎を生み出す」

滝壺「私はかみじょうを知りたい。ううん、能力だけじゃなくて、かみじょう自身も。それは、さっきと何も変わってない」


118:2010/08/20(金) 23:20:33.27 ID:GLkwXVwo

滝壺「……だから、もう一度聴く」

 彼女は、再び膝の上の上条を見る。
 首をほんの小さく傾げて、まるで親に許しを乞う幼児のように。

滝壺「私と、付き合って欲しい」

 淡々というものだから、上条はついその言葉に頷きそうになった。
 いや、実際頷いても構わない。
 上条自身もこの右手がどんなものなのか多少は気になっていた。今まで何もしなかったのはそうする必要性がなかったからだ。
 例え『幻想殺し』があってもなくても上条当麻は上条当麻。それは記憶を失う前後で何ら変わらない彼が証明している。
 だからこの申し出も必要ないといえば必要ない。

上条(――だけど)

 滝壺理后。
 見ていてなんだか危なっかしい少女。
 上条当麻には、この申し出を断ると二度と彼女に会えなくなり、そして致命的な何かを見逃してしまうような気がした。
 だから上条当麻は。
 自分になんら利益にならないと知っていても。

上条「ああ、いいぞ」

 それに、応えるのだった。

 滝壺は僅かに顔を綻ばせる。
 確実に言える。それは彼女なりの笑顔だ。

滝壺「ありがとう、かみじょう。これからよろしく」

上条「ああ、よろしくな滝壺」

 ふわり、と彼らの間を風が吹き抜ける。
 滝壺はくすぐったそうに、また照れたように目を瞑った。



 ……彼女は、まだ知らない。
 今まで興味のあることなどそれほどになかったから、知らない。
 この心に小さく生えた芽が、どんな意味を持つかということに、まだ気づかない。


124:2010/08/24(火) 22:40:06.91 ID:zN4PAsUo

アレイスター「……ふむ、ようやく第一段階が終了か」

 『人間』、アレイスターはほくそ笑む。
 多少の遅れはあるものの、無事にその計画――いや、プランといったほうがいいだろう、プランが進み始めたからだ。
 ……しかし、こうして他の人間に対して自分から命をくださねばならないということは甚だしい。

アレイスター「……『禁書目録』、か」

 彼のプランにその存在というのはあまり左右されない。
 だがイレギュラー分子として利用し、プランの進行を早めることはできる。
 彼女は『禁書目録』、新しく創りだされた魔術でもない限りどんな魔術でも正体を看破する魔術のエキスパートだ。

アレイスター「彼女だけなら、『幻想殺し』もその正体に気がつかなかっただろうが」

 それも道理。
 なぜならそもそも上条は自分の能力を『超能力』であり『魔術』でないと始めから思っているから。
 そこで、超能力の正体について詳しい存在が必要だったのだ。

アレイスター「『能力追跡』……彼女が証明すれば、『幻想殺し』は嫌でも正体に近づかざるを得ない」

 滝壺理后と出会ったのは、ただの偶然。
 だがアレイスター・クロウリーはその偶然で長い時間を掛けて完成するはずのプランを短くしてきた。

アレイスター「……『幻想殺し』の少年が記憶を失っていなければこんな苦労をせずともよかったのだろうか」

 『人間』が開くのはとある夏休みの一日。とあるカエル顔の名医が務めている病室のワンシーン。 
 『滞空回線』……彼がこの街で物事を見逃すのはめったに無い。
 だから上条当麻が記憶を失っていることも、見逃してはいない。
 ……記憶を失う前の上条当麻が『幻想殺し』の正体に気づいていたのかは、今となっては不明だ。だから『人間』も憶測を投げることしか出来ない。

アレイスター「まぁ……過ぎ去ったことなどどうでもいいな」

 『人間』はあっさりとそれを投げ捨て、そして考えを移行させる。
 今は『禁書目録』と『能力追跡』が『幻想殺し』にどんな結果を齎すか、ということだ。

アレイスター「……さて、『幻想殺し』は一体何を証明するのか……それを見せてもらおうではないか」

 アレイスター・クロウリーは微かに、笑った。


126:2010/08/27(金) 23:03:19.70 ID:WcI6Yw.o

麦野「んじゃ、今日もこれで終わりってことで――――」

 麦野は手をパン、と叩き、全員を一瞥する。
 最後の滝壺で瞬間的に視線を止め、目を瞑った。

麦野「解散」

 かたん、と滝壺が立ち上がると同時に浜面、絹旗も素早く道を開ける。
 じゃあね、という滝壺に答え、その背中を麦野を除く三人して見送った。
 ふー、とフレンダが目を外して椅子にもたれかかった。

フレンダ「滝壺、通い妻っぽいわけよ……」

絹旗「そうですね……この様子じゃあ集会がない日も例の男友達と超会ってるっぽいですし」

浜面「人って言うのはわからないもんだな……あの滝壺が……」

絹旗「そうですか?滝壺さんはおそらく恋人にべったりなタイプですよ。多分、相手が浮気している全長があったら超ストーキングして『貴方は私のもの』とかいって刺し殺しそうですし」

浜面「……マジか」

フレンダ「強ちない、とは言えないわ……いつもは消極的な滝壺だからこそ、積極的になったときに暴走しちゃいそう」

 ひそひそ、こそこそと周りに迷惑をかけない程度に話しあう。
 それほどまでに最近の滝壺は今までのものに比べて異常だった。
 ……これこそが本来の彼女なのかもしれないが。

フレンダ「……ま、結局うちらと滝壺は仲間だけど、それは仕事、ギブアンドテイクの関係だし、人間関係に兎や角いう必要はないわけよ」

麦野「そうね。きちんと仕事さえ果たしてくれれば、それで問題はないわ」

 麦野はそう言うとドリンクバーのお茶をズズズ、と一気に啜った。
 フレンダと絹旗はその言葉に寒気を覚え、この話題をここで打ち切る。


127:2010/08/27(金) 23:03:54.63 ID:WcI6Yw.o

 話題が止まったので絹旗も帰ろうと思い、浜面に提案する。

絹旗「浜面浜面。超映画に行きましょう」

浜面「またかよ……どうせB級だろ?」

絹旗「いいえ、今日はもっと潜らなきゃいけないC級です」

浜面「前のアレより酷いのか……!?」

 と談笑していると麦野が何かを思いついたかのようにん、と漏らす。
 そして二人をシャケ弁を食べていた箸でピッ、と刺す。

麦野「ちょいまち。二人にはちょろーんとやってほしいことがあるのよね」

 私は関係ないなー、とフレンダは席を立とうとして、グイッ、と襟首を掴まれて無理に席に座らされる。
 麦野は動くな、と視線で告げて二人に続ける。

麦野「滝壺を追って」

浜面「追ってって……ストーキングでもするのか?」

麦野「そう。そんで、その時の滝壺の様子とか相手の男の性格とか精密に教えて」

 浜面にはどうして麦野がそこまでしようとするのかわからない。
 だからそこについて言及しようとすると、肩に絹旗の手が置かれた。
 それは『反抗するな』と告げているように思える。

絹旗「わかりました」

浜面「っ、おい絹旗」

絹旗「浜面は超黙っててください」

 ピシャリ、と絹旗は浜面の言葉を聞きすらせず、荷物を持った。

麦野「いいね、絹旗。私そういう理由とか聞かないところ好きよ」

絹旗「それはどうも。では早くしないと超見失うので、失礼しますね」

 絹旗は麦野の言葉に感情ない言葉で返し、浜面の手を取る。
 それは別に浜面と二人きりになろうと引っ張っていこうとしているわけではない。
 逃がそうとしているのだ。このまま残した場合に起こるであろう災厄から。

絹旗「では、また今度」

 そう言い残し、彼女らはファミレスから去る。
 麦野はそんな彼女ら――主に絹旗を、見えなくなるまで凝視する。


128:2010/08/27(金) 23:04:27.51 ID:WcI6Yw.o

浜面「きぬは、絹旗っ、なんなんだよ一体!?」

 理由も聞けず、文句も言えないまま連れだされた浜面は何かわかっているであろう絹旗に事情を問おうと引っ張られながら必死に話しかける。
 しかし絹旗は答えず、浜面の方も見ないでどんどん進む。
 道行く人は彼氏彼女だと思っているのか生暖かい目や、独り身の嫉妬を主に浜面がビンビンに受ける。

浜面「お、おいきぬ」

絹旗「っと、浜面静かに」

浜面「うぶっ!?」

 突然止まったかと思えば、絹旗は浜面の口をふさぐ。
 何かと思うと、その先には歩いている、しかし僅かに速っている滝壺がいた。
 どうやら目標を捉えたから止まったらしい。

絹旗「……尾行の仕方、知ってますか?」

浜面「いや……しらんけど」

絹旗「じゃあ超簡単に教えますけど。一に相手の足を見る。二に足を下ろすタイミングを揃える。三に歩幅を一緒にする。相手がプロでない限り滅多にばれません。勿論距離は超必要ですが」

 足を下ろすタイミングを揃えることで後ろに誰もいないように思わせる。
 そして歩幅を一緒にすることで一定の距離を保つことができる。
 プロにはもっと別な技術――例えば自分が辿ってきたような証拠すらも消すなど――あるが、素人にできる簡単追跡方法、といったところか。

浜面「……いや、でもAIM拡散力場からバレたらおわりじゃないか?」

絹旗「大丈夫ですよ。基本的に滝壺さんはターゲットの拡散力場しか記憶してませんから、さがそうとする気にならなければ探さないと思います」

 絹旗は簡潔に告げ、先程浜面に言った方法を実践するように移動を始める。
 浜面も見習い、それを追った。


129:2010/08/27(金) 23:05:05.12 ID:WcI6Yw.o

絹旗「それで……なんですか?」

浜面「ん?何がだ?」

 聞き返す浜面に、絹旗はジト目で呆れたように溜息を吐く。

絹旗「さっきなんなんだよって超きいてきたじゃないですか。そんなのも忘れるなんてやっぱり浜面は超浜面なんですね」

浜面「超浜面ってのがなんなのかわからないけどとりあえずバカにしていることだけはわかった」

 絹旗の物言いに浜面は僅かに苛立ちを覚える。
 しかしそれについて言っても仕方が無いので、本題に戻る。

浜面「どうして麦野が滝壺を追えっていったのかってことと、お前がそれを聞かないで大人しく従ったのかってことだよ」

絹旗「ああ……そのことですか」

 角を曲がる滝壺に絹旗も角へ素早く移動し、影からいなくなっていないかと確かめる。
 浜面が追いついてきたのを確認してから続ける。

絹旗「……麦野は滝壺さんを訝しんでいます」

浜面「どういうことだ?」

絹旗「つまり、滝壺さんが仕事に超支障が出るくらいにその男にはまってしまうかもしれない、と思っているわけです」

 浜面はまだわからない。
 それに何が問題があるのか、と思っているらしい。

浜面「別にいいじゃねぇか。それで暗部を抜けることになっても、万々歳だろ?」

絹旗「……これだからバ浜面は……」

 これ見よがしに溜息を吐く絹旗に、浜面は反射的にムッ、としてしまう。
 だが聞いてみないことにはわからないので黙って続きを促した。

絹旗「麦野は、滝壺さんを死ぬまで使い続けるつもりなんですよ」

 は?と瞬間浜面の頭が考えることを放棄する。


130:2010/08/27(金) 23:05:45.16 ID:WcI6Yw.o

絹旗「滝壺さんの能力は『能力追跡』……これ以上ない超珍しい能力です。実質、私たち『アイテム』の核……だから仕事を抜けてもらっては困る、というわけです」

浜面「い、いや……まてよ。さっきの『死ぬまで』につながらないんだが……」

絹旗「私も詳しくはわかりませんけど……滝壺さん、能力を使うたびに顔が青くなり、動機が激しくなるんです。気づきませんでしたか?」

 言われ、浜面は思い返す。
 確かにそうだったかもしれない。単純に精神力を使うからそうなってるだけなのか、と思っていたが。

絹旗「……いつ倒れるか、私も気が気でないです」

浜面「ま、まて……本当にわかんねぇ……『アイテム』の核なら、尚更死んでもらっちゃ困るんじゃないのか……?」

絹旗「麦野は『能力追跡』自体にはそれほど執着をいだいてません。違う方式でもいいと思ってますが、それを探すのも超面倒がかかりますからね。だから抜けてもらっては困る、と言ったところでしょうか」

浜面「……ってことは、あれか?つまり、滝壺が使い物にならなくなってたら……」

絹旗「ええ、きっと――その原因を超取り除こうとするでしょうね」

 ブル、と浜面は身震いをした。
 取り除く、と簡単に絹旗は言った。
 しかしそれは――殺す、ということだ。その存在を抹殺する、ということだ。

浜面「……なんだよ、それ…………」

絹旗「私だって超納得できませんよ。ここで、浜面の二つ目の質問の答えについての問題です。私も納得していないのにどうして私は黙って麦野の言うことを聞いたでしょうか」

 浜面は押し黙る。
 わからないから、ではない。
 その理由を今はもう察してしまったからだ。

絹旗「……そうですよ」

 ぽつり、と少女は呟く。

絹旗「私や浜面の代わりなんて、超いくらでもいるんですから。……つまり、そういうことですよ」

 それは、とても寂しそうに。
 そして、諦めを含んで。


143:2010/09/02(木) 23:40:32.29 ID:12gQVWAo

 >>142
 テストは本当にヤバイのでうpできません……
 ……何が冗談なのか、よくわからないです。

―――――――――――――――――――――――――――

絹旗「っと、止まりましたよ」

 ぐいっ、と浜面を押しのけて素早く影に入り込む。
 止まった、ということはそこが待ち合わせの可能性が高い。
 つまりその場で辺りを見渡す可能性が高いのだ。
 浜面も絹旗の更に影に隠れ、彼女に話しかける。

浜面「……それで、例の男ってやつはいるのか?」

絹旗「いえ……まだきていないようです……って、丁度来ましたきました」

 目の前で近づいてきた男と二、三言はなし、そして歩き始めた二人に絹旗は慌てて言う。
 浜面もそこでようやく滝壺の方を覗き込んだ。

浜面「……一体、どんな奴なんだ?」

絹旗「ほら、あの髪の毛つんつんの」

 髪の毛つんつん?と怪訝に思いながらも滝壺を捉え。
 そして、その隣に並び立つ男子高校生をみて。
 浜面仕上は驚愕した。

浜面「なっ、あいつはっ!?」

 浜面には見覚えがある。
 当然だ。なにせ、彼のせいで闇に落ちる止めを刺されたといっても過言ではないのだから。

絹旗「知っているんですか?」

浜面「ああ……一度だけしか会ったことないけどな……名前は確か…………」

 と、そこで浜面の発言が止まる。
 何事か、と思い彼を見てみるが、やはり止まっている。


144:2010/09/02(木) 23:41:02.19 ID:12gQVWAo

絹旗「……浜面?名前……は、どうしたんですか?」

 一拍おいた後、彼は気まずそうに応える。

浜面「……知らねぇ」

 思い出してみた。
 あいつと会ったのは敵同士だった一度きり。
 それもこっちはチンピラで、あっちは知り合いだってだけで助けに来る正義のヒーローときたもんだ。
 そして一触即発。
 そんな状況で名前を聞ける方がおかしい。
 だが絹旗にとってそんな事情など正直どうでもいいので、はたはた役に立たない下っ端に呆れる。
 しかし攻めるでもなく、嘆息と共に呟くだけ。

絹旗「バ浜面……」

 そんな言葉がなんとなく噛み付かれるより心に響いた。
 身近にある壁に手を叩きつけつつ、嘆く。

浜面「くそう……くそう……っ!!」

絹旗「ほらほら、そんなバカやってないで超おいますよ。見失います」

浜面「っ、ちょ、ちょっとまてよっ」

 くやしがる浜面を尻目に絹旗は先へと進み、浜面もやはり後を追う。
 ……先程の会話から鑑みるに、まだ聞かなければならないこともある。

浜面「……なぁ、絹旗」

絹旗「超なんですか?」

浜面「さっきの話の続きだけどさ……」

 聞き、またも溜息。
 今度は呆れを含んだように。


145:2010/09/02(木) 23:41:31.00 ID:12gQVWAo

絹旗「実は浜面って超Mだったんですね」

浜面「なんでだよ!?」

絹旗「いえ、超普通に考えて。さっきの話の流れでは、私も浜面も換えの効く消耗品という意味だったんですが……」

 それを確かめようとするなんて、と絹旗は続ける。
 それは確かに意味の分からない行動でしかない。

浜面「確かにな……ってそうじゃねぇよ!誰が好んでそんなこと聞くか!」

 浜面は全力を掛けて否定する。

浜面「絹旗、お前俺を何だと思ってやがる!?」

絹旗「え……いっていいんですか?」

浜面「やっぱりやめてくださいすいませんでした」

 何を言われるのか理解したのか、浜面は土下座をする勢いで頭を下げる。
 それにもまた、絹旗は息を漏らさずにはいられない。
 一体どうしてこんな根性なしが暗部に落ちてきたのか……
 しかし彼女は頭を振ってその考えを打ち消した。
 誰がどうして暗部に落ちてきたか、なんてそんなことはどうでもいいのだ。何か悪いことをしたのだとしても、不運にも闇に飲み込まれてしまったにしても。
 結果として、ここで何かをすることに変わりはないのだから。
 だから絹旗は浜面を軽く一度だけたたき、話を戻す。

絹旗「……ま、何が聞きたいのかは大体想像がつきます。本当に見たままを超報告するのか、ということでしょう?」

浜面「え……なんでわかったんだ?」


146:2010/09/02(木) 23:42:10.31 ID:12gQVWAo

 やっぱり、といった面持ちで絹旗はジト目で浜面を見る。

絹旗「浜面、意外にも少しだけお人好しですからね。あくまで、少しだけ」

 絹旗は念を押すように二度繰り返した。
 そうだ。浜面仕上はあくまで、少しだけ、お人好しなのだ。
 性格的にはそこらのチンピラ、カッコいいスポーツカーを見ると盗みたくなったりする一面もある。
 だが、基本的に関わった人間――敵以外で――には、仲間意識を持ち安全を思ってみたりもする。

浜面「……まぁな。それに、滝壺は変人ぞろいの『アイテいててててっててててててっ!!?」

 浜面が言い終わる前に、彼のコメカミに絹旗の手がグリグリと硬く擦られる。

絹旗「誰が超変人ぞろいなんですか?」

 彼女は笑顔だが、心では笑っていない。絶対。
 このままだといろんな意味でヤバイ状況になりそうなので浜面は激痛から逃れるために必死で頭を回転させる。

浜面「だっ、だいじょうぶっ!絹旗はましなほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっぅぅぅぅっっっっ!!!!」

絹旗「私はっ!全くっ!超変人じゃっ!ありませんっ!!」

 だから『超』がつくその口調が――と言いかけて、墓穴を掘ることに気づき口をつぐむ。
 それでも絹旗はやめず、いい加減もう痛みがなくなってきた。
 それはなれたわけではなく、意識が飛びそうなだけなのだが。

 瞬間。
 バチンッ!と歩いている歩道に強烈な電撃が走った。

 絹旗は浜面を反射的に手放し、自分と一緒に地面に押し付ける。
 素早く辺りを見渡すが、どうやら怪我人はいないようだった。


147:2010/09/02(木) 23:42:56.21 ID:12gQVWAo

浜面「いっつつ……な、なんだ?」

絹旗「……よくわかりませんけど、周りに超配慮した上で特定の誰かに向けた電撃みたいですね……」

 絹旗は素早く立ち上がり、浜面を引っ張り上げる。
 そして物陰に隠れながら道の先を見ると、滝壺とその連れの男が立ち止まっていた。
 絹旗と浜面は結構じゃれ合っていたから、もう少し遠くにいてもいいのに。

絹旗「……んー……?」

 よくよく見てみると、男を後ろにするように滝壺が前に立ち、そしてその先にいる制服姿の女子生徒と口論を交わしている。
 滝壺の声は小さいからその女子生徒の声しか響いていないのだが。

浜面「……あれ、常盤台の制服じゃねぇか」

絹旗「そう、みたいですね……」

 滝壺がうろたえていないところをみると、どうやらさっきのは誰にも当てるつもりのない威嚇のようなものだったようだ。

絹旗「滝壺さんの知り合いに常盤台の人がいるなんて聞いたことありませんし……ということは、例の男の人の知り合いでしょうか」

浜面「え、アイツ無能力者だって言ってたぞ?そんなのが常盤台に知り合いいるとか……」

 と、その時常盤台の女子生徒の前髪で火花が飛び散る。
 やばい、と思った瞬間には再び電撃が迸っていた。
 それでも――周りの人に当たることはない。

絹旗(っ……この威力で、この制御力……もしかして、あの人は……第三位の『超電磁砲』……!?)

 浜面の言ったことを鵜呑みにするなら、あの男子生徒は無能力者らしい。
 それで常盤台の生徒と知り合いというだけでも驚きなのに、それがよりにもよって『超電磁砲』ときた。

絹旗(一体、あの人は超何者なんですか……?)

 『アイテム』の絹旗最愛でも、そう思わずにはいられなかった。


153:2010/09/07(火) 22:57:02.61 ID:I37nvpAo

 少し戻り。
 上条が滝壺より一歩遅れて待ち合わせ場所に到着する。

上条「滝壺!」

 例のごとく立ち尽くしているのを見かけ、駆け寄る。
 それに対して滝壺は反応しない――かと思いきや、ピクリ、と耳を動かした。
 そして近づいてきた上条に視点を合わせる。

滝壺「こんにちは、かみじょう」

上条「あ、ああこんちは……すまん、どのくらい待った?」

滝壺「ううん、全然待ってないよ。私もいま来たところ」

上条「そっか。それならよかった」

 軽く息を整え、どちらがでもなく歩き出す。
 上条の右手のことを調べる――とは言っても、そんなすぐさま行動に移せるわけではない。
 滝壺は暗部で、それなりのツテというものはあるにしても手配には僅かながらも時間がかかるためだ。
 だからその準備が整うまで、専ら道行く能力者の拡散力場を消すことができるか出来ないか、という作業じみたものになっていた。

上条「……それで、今日はどの辺に行ってみるんだ?」

滝壺「……学び舎の園付近、とか。高レベルでも消せるのかってことを」

上条「学び舎の園……」

 上条の脳裏に、一人の少女が過る。
 正直苦手なタイプで、会うことはご遠慮したい部類の人物だ。


154:2010/09/07(火) 22:57:33.44 ID:I37nvpAo

滝壺「? どうしたの?」

 黙った上条から違和感を感じ取ったのか、滝壺は首を傾げて問いかけてきた。

上条「い、いやなんでもないぞー女子生徒ばかりだと上条さんの理性が保てるかどうか心配になっただけだからなー」

 隣人の妹の口調を咄嗟に真似してしまう。
 明らかにごまかしだが、滝壺にはそちらよりもその言葉の真偽が気になった。

滝壺「……かみじょうって、女の子好き?」

上条「は?あ、え?いや、そりゃあ好きか嫌いかで言われれば好きかもしれませんがこう表立って女好きって言ったら誤解が生じる可能性がなきにしもあらずで御座いますがいかがでしょう姫?」

 上条の言葉にはまるで付き合わず、滝壺は淡々と思うことを質問する。

滝壺「じゃあ、私にもそう思うの?」

 どきん、と上条は飛び跳ねそうになった。
 いつもならこんな質問をしてくるのは同居人のインデックスだ。
 是か否か。その二択を出され、上条はまず否定を選ぶ。大切な人であって、そんな対象にみたら昔の自分に怒られかれないからだ。
 だがしかし、その結果はいつも噛まれることとなる。
 また、是を選んだところでこの先一緒に済んでいくことにおいて支障を起こしかねない。
 どちらを選んだとしても、上条には微妙な結果しか残っていないのだ。

 ……今回は目の前の少女がそう問いかけてきた。
 彼女は最近知り合ったばかりだが、親交は恐らく一言二言交えるぐらいのクラスメイトよりは上だろう。
 それでも、まだそんな好きか嫌いかなどと言える場面ではない。
 是を選んだら協力が終わるまで微妙な空気で接しなければならず、否を選んだなら何がおこるかわからない。
 インデックスは噛み付くとわかっているからまだいい。彼女はそんな直接的な暴力を振るうようには見えず、何をするかわからないのがネックなのだ。
 ……例えば。
 彼女がもしも自分に好意を持っていたとして、自分が彼女にそんな気持ちがないと言えば。
 彼女はその気持ちを帰るために誘惑――例えば、そう、例えばキスなどしてくるかもしれないのだ。

上条(…………!)

 いや、それはないと思うのだが、それ以上のレベルのことはしてくる。
 インデックスが肉体的苦痛だとするなら滝壺は精神的苦痛で。
 ……なんとしてでも、それだけは避けたい。


155:2010/09/07(火) 22:58:08.51 ID:I37nvpAo

上条「あー、えーっと……」

 上条はなんとか誤魔化そうと頭を捻るが、如何せん赤点ギリギリレベルの頭では何も出てこない。
 時間を稼ごう、他に注目を向けさせようと辺りを見渡すが。
 ぐいっ、と両手で顔を抑えこまれた。
 彼女にしては珍しい、ジト目のようなものが彼を射抜く。

滝壺「答えて」

 それには有無を言わさぬ迫力がある。
 うっ、と少年は詰まる。
 針の筵を通るか、或いはまだ見ぬ罰を受けるか。
 究極の二択。

上条「――――あ」

 果たして、彼が選んだ答えは。

上条「あぶねぇっ!!」

 滝壺を左手で力いっぱい引き寄せて、胸に抱く。

滝壺「!?」

 突然少年の胸に抱かれ、少女は思わず目を見開く。
 視界の端で、少年の右手が振るわれた。
 ――幻想殺し。あらゆる異能を打ち消す、天災の能力。
 それが振るわれる時といえば、まさしくその名のごとく幻想――『自分だけの現実』を殺すときだけ――

 バチン!と。
 飛んできた雷の槍が霧散した。


156:2010/09/07(火) 22:58:40.62 ID:I37nvpAo

上条「っ……間一髪、ってとこだな……」

 少しでも遅れれば、それは滝壺か或いは自分に突き刺さっていたことだろう。
 殺す、まではいかないだろうが。

「……アンタねぇ、真昼間から道端でなにやってんのよ!そ、そんな顔近づけて……っ!!」

 滝壺は上条の腕の中で見る。
 その雷撃を発した能力者を。
 前髪から電撃を迸らせる少女を。

 見覚えがある。
 それは『アイテム』の依頼で。
 フレンダが一人では危うく負けそうになり、麦野と自分が手を組んでもとらえ切れず、最終的に麦野とのタイマンでも逃した電撃使い。
 そして、終わった後に麦野からその正体について教わった。

滝壺「……レール、ガン」

 学園都市超能力者序列第三位、『超電磁砲』御坂美琴。
 そんな彼女がどうして彼に簡単に口を聞いているのだろうか。
 美琴は滝壺が何故自分のことを知っているのか、と今までの記憶から知識をフル動員して。

美琴「っ!?」

 思い出す。
 滝壺が思い出したのと、全く同じ光景。
 あの戦いの中で、ある意味第四位より危険な匂いを感じた少女だと。

美琴「あ、あん、アンタ……!」

上条「……?」

美琴「さっさとそいつから離れなさい!危ないわよっ!!」


157:2010/09/07(火) 22:59:18.79 ID:I37nvpAo

 美琴は叫ぶ。
 しかし、上条には意味が分からない。
 少なくとも滝壺は自分に危害を加えない。それはわかっていることだ。
 だから彼はいつもと同じ調子訊ねる。

上条「……御坂、お前何言ってるんだ?」

美琴「っ……」

 その言葉で美琴は顔を歪ませた。
 自分が絶対能力進化計画を止めたことに対して上条は知っている。
 が、その事は決して胸を張って話せることではない。
 そして出来ればそんなことは言わずにすみたい。

滝壺「……かみじょう」

 滝壺はとんとん、と彼の腕を叩き、離してくれ、と言外に訴える。

上条「え、あ、ああすまん」

 言われ、上条は滝壺を開放する。
 そして彼を守るように前に立って、美琴と向き合う。

滝壺「私は、別にかみじょうに危害は加えない。あなたが思っているようなことはしない」

美琴「……どうだか。あの計画に加担するような人間が何を言っても信じられないわ」

 美琴の皮肉をうけても、滝壺の表情は崩れない。

滝壺「それなら、どうしたら信じてもらえるの?」

美琴「簡単よ……こうすんのよ!」

 バチン!と再び雷撃が迸る。
 辺りの通行人は思わず足をとめ、その合間を火花が縫った。
 しかし、それは余波。
 本命はまっすぐに、滝壺へと向かっていく。



158:2010/09/07(火) 22:59:49.54 ID:I37nvpAo

 だが、少女は避ける素振りすら見せず。
 その雷撃は彼女のすぐ横に墜落した。

滝壺「……これで、いいの?」

 滝壺は何もしていない。
 至極単純、美琴は試しただけだ。反撃をしてくるのかどうか。
 あの時戦った他の女なら、美琴の知り合い――つまり上条を人質にとってもおかしくはなかった。
 しかし滝壺はなにもしなかった。危害をくわえるつもりはない、という言葉はどうやら本当らしい。

美琴「……っ」

 どうしよう、と思考を巡らせる。
 喧嘩腰になってしまった以上、引くわけにはいかない。彼女にも彼女なりのプライドというものがあるのだ。
 滝壺も何もいわない。なんとなくだが、心中は察しているつもりだ。
 三人中二人が硬直したら、残りは一人しか動けない。
 即ち、上条が。

上条「御坂、わかったなら引いてくれないか……?ちょっと俺たち、用事あるからさ」

美琴「……用事?何よそれ」

滝壺「実験」

 実験、という響きに美琴は構えずにはいられない。
 学園都市での実験は、基本的に危ないものが多いからだ。
 『暴走能力の法則解析用誘爆実験』然り、『絶対能力進化実験』然り。
 そんな美琴に、滝壺は思いついたように声をあげる。

滝壺「そうだ。『超電磁砲』にも手伝ってもらおう」

美琴「はぁっ!?」

 突然な事に、美琴は思わず素っ頓狂な声をあげた。


169:2010/09/12(日) 19:52:21.96 ID:isaew0Uo

美琴「実験って、こういうことだったのね……」

 美琴はどことなく覇気のなくなった声を漏らした。
 彼らがいるのは人通りの多い交差点。
 美琴の通う常盤台中学だけではなく、上条の通う高校など第七学区の学生がうろついている。

美琴「結局……こうしてぶつけるだけでいいわけっ!?」

 美琴の手から雷が飛び出す。
 上条は反射的に右手を振るってその雷撃をかき消した。
 しかしその顔色はすぐれない。

上条「い、いきなりやらないでくださいますか!?心臓バクバクなんですけど!?」

美琴「そう言っても、いつも簡単に消すわよね」

 上条の態度に美琴は若干機嫌が悪くなる。
 それもそうだ。彼女はレベル1からレベル5まで上り詰めたまるで模範のような能力者。
 その努力の結晶をいともたやすく消されてはたまったものではない。

滝壺(……レベル5でも、だめなんだ)

 彼らのやりとりを近くで見つつ、滝壺は分析する。
 単に物質量だけの問題じゃない。

滝壺(なら、今度は持続的に……処理能力の限界があるのかどうかを調べよう)

 そう思いちらりと上条と美琴を見る。
 彼らはまだ言い合っている。
 とはいったものの、美琴が上条に噛み付いて、上条はそれを受け流したり反論したりといったものだが。


170:2010/09/12(日) 19:52:56.01 ID:isaew0Uo

滝壺「………………」

 何故だろうか。
 滝壺理后には、そのやりとりが、なんだかとてつもなく楽しいものに思えたのだ。
 手を伸ばせば、届く距離に二人はいる。

 それなのに――遠い。

 日常世界の人間と、その裏側の人間の差。
 恐らくは、御坂美琴は分かっていることだろう。
 その彼女と接する上条当麻も、片鱗ぐらいは知っていることだろう。
 だが、それでもやはり彼らは表の人間なのだ。
 裏の世界の人間とは、絶対的に違う。

上条「……ん?滝壺、どうしたんだ?」

 上条はそんな表情に陰りが入った彼女に目ざとく反応する。

美琴「まだ話は終わってないわよ!」

 はいはいそうですね、と上条は適当にあしらいつつ、滝壺に再び問いかける。

上条「それで、どうかしたのか?」

滝壺「ううん、なんでもないよ。どうして?」

上条「いや……なんとなく暗いような気がしてさ……ってもしかして俺の右手に何か異常があったとか!?」

 そんな風に喚く上条に滝壺は口元をほんの少しだけつり上げた。
 微笑ましく子供を見守る母親のように、純粋な上条を羨ましく思っただけだ。


171:2010/09/12(日) 19:53:41.96 ID:isaew0Uo

滝壺「ううん、特に異常はないよ」

上条「そ、そっか、よかった……」

 安心したように上条は溜息をはき、滝壺は再び微かに笑う。
 それでもやはり、見慣れているものでないとわからないようなものだが。

美琴「ひ・と・の・は・な・し・を・き・け―――――――――――ッッッ!!!」

 ズドン!と先程までの比にならない雷が上条を襲った。
 しかし周りに全く被害の与えないことはやはりレベル5の制御力、といったところか。
 だが、その上条を襲った電撃すらも地面に直撃してコンクリートをぶち壊した。
 上条は右手を構えていて、予想外にズレた雷にえぇ――――ッ!?と驚きを隠せない。
 それは撃った当の本人も同じ。

美琴「え、あ、あれ?はずれた?」

上条「っていうか痛ぇ!?電撃が直撃するより破片がぶつかるほうがいたいんですけど!」

美琴「あっ、えっ、ごめん!じゃなくて、外すつもりはなかったのよ!」

 上条がコンクリートの破片を間近に喰らってしゃがみ、悶え苦しむのを美琴は慌てて弁解する。
 それにしても、外すつもりはなかった、は理由としてどうかと思うが。
 破片があたった足を抑える上条に視線を合わせるように滝壺もしゃがむ。

滝壺「……ごめんね、かみじょう」

上条「っつつ……い、いや、滝壺のせいじゃなくて、御坂が勝手に……」

滝壺「そうじゃなくて」

 遮るように言い、

滝壺「かみじょうに電撃が当たらないように干渉したのが、私だから」

 お前かよっ!?というふたり分の突っ込みが辺りの奇異の視線の中響いた。


172:2010/09/12(日) 20:12:55.21 ID:isaew0Uo

麦野「……で、どうだったの?」

 第三学区にある高層ビルの一角。
 『二つ星』以上のVIP用サロン――といえば、上流階級の人はすぐにわかるだろう。
 そこに麦野、フレンダ、絹旗、浜面……つまりは滝壺を除く四人が雁首を揃えていた。
 そこで麦野が聴くのは、昼間の成果。
 滝壺理后を追跡した結果のこと。

絹旗「…………」

 絹旗は何かを言おうと僅かに口を開いたまま硬直する。

浜面「……お、おい絹旗」

絹旗「浜面は黙っててください、いま超頭の中でまとめてるところなんですから」

 いい、直後うん、と自分のその構成した分に対して頷き、報告する。

絹旗「滝壺さんと会っていた少年はなんてことのない普通の少年でした」

絹旗「少し違うところといえば、超強引というぐらいですね」

絹旗「まぁその程度で、滝壺さんが一方的に話されている、といった感じで確かに気にはなっているようですが一方的な約束を超されていたので感情的には半々といったところですね」

絹旗「勿論、それが仕事の邪魔になるとは考えられません」

 一気に言い切り、絹旗は息を吐く。
 勿論、これは嘘だ。約束を交わしているのは滝壺だし、あちらの少年は強引というより善人だ。
 ……本来、絹旗がこんな嘘をつく必要はない。しかし、それでもついたのは『アイテム』の中で一番人情に厚い彼女だからこその理由がある。

絹旗(滝壺さんの『居場所』……超壊したくありませんからね)


173:2010/09/12(日) 20:24:53.01 ID:isaew0Uo

 絹旗最愛に、滝壺理后は楽しそうに見えたのだ。
 少年と接するとき。話すとき。隣を歩くとき。
 感情を特に示すことのない彼女が少しでも、楽しそうに思えたのだ。

絹旗(だから、このぐらいの嘘は超いいでしょう?あくまで私の主観だったといいはればオシオキも軽減されるはずですし)

 絹旗はそこまで考えて、嘘の報告を告げたのだ。
 麦野はそんな彼女のそれに対して目を細めて、次に浜面を見る。

麦野「浜面は?」

浜面「……絹旗と、同じだ」

 数秒の沈黙の後、そう答える。
 当然ながら絹旗と浜面は口裏を合わせてある。バレてしまっては困るから。
 それでも浜面は最後まで渋っていたが。

麦野「……ふーん」

 興味なさそうに言い、立ち上がる。
 そして彼女は二人の座るソファーの前に気楽な調子で移動し、

 ズバン!と。
 絹旗最愛の米噛み付近を回し蹴りで強烈に射抜く。

 食らった本人はただでは済まない、ノーバウンドでサロンの壁に叩きつけられた。
 鈍い音が響く。

浜面「なっ!?」

 突然のことで面食らった浜面は絹旗が壁に衝突する音でようやく思考能力をとりもどした。
 立ち上がり、直ぐ目の前にいる麦野と壁に衝突しながらもゆっくりと立ち上がる絹旗を見比べる。

浜面「む、麦野!?どうしてこんな」

麦野「うるさい、黙ってろ。お前はお前で嘘をついた言い訳を考えてりゃいいんだよ」

 投げやりにそういうと、麦野は絹旗の方へと向き合う。
 ふらふらと立ち上がった絹旗には傷ひとつない。
 『窒素装甲』の自動展開されている盾の賜物だろう。


174:2010/09/12(日) 20:39:16.32 ID:isaew0Uo

絹旗「ご機嫌……斜めみたいですね、麦野。超どうしたんですか?」

麦野「しっらじらしい。テメェらが嘘をついてるってことぐらい知ってんだよ」

 麦野の言葉に殺意が宿っている。
 どうやら、彼女には確実といえる理由があるらしい。
 麦野沈利は仮にも、学園都市第四位の人間だ。感情論に任せるところも或るにはあるが、冷静さは滅多に欠かない。

絹旗(……一体、どこでバレたんでしょうかね)

 あまりにも否定的なことを言い過ぎたか。
 真実味を追求するなら、もっと滝壺の意志があることを言えばよかったか。
 そんなことを考えながら周りを一瞥すると、あわあわと口元を抑えているフレンダが目に入った。

絹旗(……フレンダ?)

 そういえば、自分たちが命を受けたときフレンダは立ち去ろうとした。
 しかし、麦野がそれを抑えつけたのだ。お前にも用がある、と言わんばかりに。

 絹旗が嘘をついていた、ということに確実な証拠を見出すのはそれほど難しいことではない。
 なぜならば。
 その現場を見ていればいいのだから。

絹旗「尾行していた私たちに、更に尾行ですか……超やられましたね、嘘をつくこともおみとおしだった、というわけですか」

 その結論に達した絹旗に、麦野は口笛をヒュウ、と鳴らす。

麦野「その通り。だからわざわざ足手まといになるであろう浜面をつけたんだからな」

 いつも暗部に浸っている絹旗なら、きっと一人なら尾行しているフレンダに気づいたことだろう。
 だから麦野は、その彼女に浜面にも気を配らせることでその余裕をなくした。
 しかし、絹旗はそこで一つの疑問に辿り着いた。


175:2010/09/12(日) 20:48:47.55 ID:isaew0Uo

絹旗「……フレンダが超嘘をつくことは考えなかったんですか?」

 そうだ。
 絹旗が嘘をついたように、フレンダがもし嘘をついたとしたら。
 フレンダも絹旗ほどとは言えないにしても仲間意識が強い人間だ。そんな可能性がなかったわけではないだろう。
 その疑問に対して、麦野はハッ、と鼻で笑う。

麦野「いいや、フレンダは嘘はつかないわ」

絹旗「……なんでですか?」

 ぐにゃり、と麦野は酷く顔を歪め、

麦野「すこーし、おはなしさせてもらったからにゃーん」

 その言葉にフレンダは過剰に反応した。
 何かに怯えるように左手でその右腕を撫でる。
 そこにそれがあることを確かめるかのように。

絹旗「……なるほど」

 フレンダは、確かに仲間意識は強い。
 しかし。
 同時に、自分のことを一番に考えるのも彼女なのだ。
 自らの身が危険になったら例え仲間でも売る。それが彼女、フレンダという少女。
 それは逆に言えばそれを言っても大丈夫だという信頼の裏返しでもあるわけだが、それでも裏切りには変わりない。
 その性格を知っている麦野なら、簡単に情報を引き出せる。
 例えば。
 その能力でビームサーベルのようなものをつくり、彼女の腕に押し当てたとしたら。

絹旗(そんなことをされたら……私でも超話してしまうかもしれませんね)

 自分でもそう思うのだ、その傾向が強いフレンダがしないはずがない。


176:2010/09/12(日) 21:10:46.72 ID:isaew0Uo

絹旗「……それで、私たちをどうするんですか?」

 一番気になるのはここだ。
 自分は、リーダーの命令を破った。
 このリーダーは裏切り者には基本的に容赦はしない。
 ヘタをすれば、殺す可能性だってあるのだ。

麦野「……そうね」

 ピッ、と麦野は人差し指を立てる。
 それを自然に、浜面へと向けた。

浜面「っ!?」

 その指先が、光り輝く。
 能力使用の前兆――――
 思った瞬間。
 浜面の頬を浅く切り裂き、放たれた光は向こう側の壁を貫通していた。

麦野「こーんなふうにしてもいいんだけどね。奇遇にも、もうすぐ欠員が出そうだし二人も補充するの面倒だから生かしておいてあげる」

 そう言い、麦野はその手を誰に向けることもなく下ろした。
 その言葉に偽りはない。
 欠員が出そうだというのも、面倒だから生かしておくというのも。
 つまりは、その欠員がでそうでなかったなら殺されていたのだ。

麦野「――あ、そうそう」

 黙る絹旗と浜面に、麦野は告げる。

麦野「次はないから。そんじゃ、解散」

 ――二度目は、ないと。


190:2010/09/13(月) 22:56:14.18 ID:DqmBhi.o

 麦野だけが去り、残りは三人になる。
 その中で動くのは、やはり彼女。

フレンダ「えっと……ごめんね、絹旗、浜面」

浜面「ごめんね、じゃないだろ!お前、仲間なら――」

絹旗「浜面」

 堰を切ったかのように溢れ出した浜面の感情を、絹旗はただ一言で抑える。
 勿論濁流がせき止められている堤防などに力強くぶつかるように、行き場のない怒りは彼女へと向かう。

浜面「でも、絹旗!こいつ、俺達を」

絹旗「浜面!」

浜面「っ」

 是が非でも、言わせない。
 浜面は絹旗の言葉のしたに隠されたものを悟り、黙る。
 誰も悪くなんてない。
 誰も酷くなんてない。
 なら、この言いようのない怒りはどこにぶつければいいのだろうか。
 答えは誰も知らない。
 恐らくは、神様でもなければ。


191:2010/09/13(月) 22:56:49.67 ID:DqmBhi.o

フレンダ「……ま、まぁ結局色々しゃべっちゃったわけなんだけど……『超電磁砲』と別れたあとのことは言ってないから」

絹旗「そう、ですか……超安心しました」

フレンダ「あったりまえよ、流石に赤の他人を殺す決定打を言うのは少し、ね……」

 フレンダにも流石に良心の呵責、というものはあるらしい。
 確かに健全に表の世界で歩んでいて別に悪いこともしてない人間を間接的とは言え殺してしまうのは引ける。

浜面「……まー、あそこが一番幸せそうだったからな」

絹旗「あれ、浜面にもわかったんですか?」

浜面「いや、あれは本人たち意外大体の人は理解していたと思うぞ」

フレンダ「そうね……あれは私でも少し引いちゃったわけよ」

 浜面の言葉にフレンダは同調し、二人同時に溜息を漏らす。
 遅れて絹旗もそれをし、こんなことがあることを知らない最後のメンバーに想いを馳せた。

絹旗「……今頃、滝壺さんは何をやってるんでしょうかね」

フレンダ「さぁ?」

浜面「ま、あの様子から見るに……よろしくやってるんじゃねーのか?」

絹旗「そうですね。ま、兎にも角にも……」

 パン、と一度手を鳴らす。

絹旗「滝壺さんのご武運を超祈りましょうか」



192:2010/09/13(月) 22:57:18.73 ID:DqmBhi.o

 また、時は僅かに遡る。
 日も赤くなりかけた頃、今日は収穫もないから解散の運びとなった。

上条「じゃーな御坂」

美琴「ええ……アンタ、その子に迷惑かけるんじゃないわよ!?」

 答えつつ、初めは俺に離れろとか言ってなかったっけ……?と上条は思う。
 言われた滝壺はきょとん、とした顔をして首をかしげた。
 二人きり

上条「それじゃ……送るぞ」

滝壺「それじゃあ、いつもと同じところまで」

上条「おう」

 そういい、どちらともなく歩き出す。
 夕方になっても人の多さは変わらない。
 学園都市は眠らない……わけではないが、完全下校時刻を過ぎても外にいる人も少なくはないのだ、この時間帯で人がいなくなっても困りものだ。

滝壺「そういえば、足大丈夫?」

上条「あ、ああ問題ありませんとのことよ、上条さんはこのぐらいなら、」

 言いかけて。
 よそ見をした上条の足に、ずがん、と駐輪場からはみ出た自転車が激突した。

上条「ぉぉぅ」

 無様な声を発して、苦悶に顔をひきつらせる。
 その様子を見て、滝壺は我慢しきれずにわびを入れた。

滝壺「……ごめんね」


193:2010/09/13(月) 22:57:54.78 ID:DqmBhi.o

上条「いっ、いやいや!この程度は問題ないから!」

 上条的に、女の子(ただし美琴は除く)に罪悪感を抱かせるのはいただけない。
 だからついつい、心配させまいとするが、

滝壺「……えい」

上条「」

 悶絶する。
 上条の治癒力なら恐らく一日で全力疾走可能、二日で完治するだろうが直後は痛い。
 そんな上条を見て滝壺は無表情のまま、考える素振りを見せた。

滝壺「……決めた」

上条「っ……な、なにをでしょうか」

滝壺「今日は、私がかみじょうを送る」

 一瞬、上条は凍った。

上条「……いやいやいやいやいや!今日は他によるところもあるのでというか女の子に送ってもらうって言うのは男としてどうかと!?」

滝壺「大丈夫、私は大能力者だから。……寄るところ?」

上条「……もう冷蔵庫の中身がなくなっていまして……丁度タイムセールがあるんですよ」

 たいむせーる、と滝壺は口の中で繰り返す。
 タイムセールは上条のような無能力者の苦学生にとって必要不可欠とも言える。
 それを理解して、滝壺はうん、と頷いた。


194:2010/09/13(月) 22:58:38.34 ID:DqmBhi.o

滝壺「それじゃあ、それにも付き合う」

上条「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」

 タイムセールは学生たちが多いために多くの場合戦場と化す。大人の教師も交じることもある。
 そんな場所に慣れていない、しかもひ弱そうに見える女の子をつれていくわけにはいかないのである。

滝壺「大丈夫」

 滝壺は自分の胸を一度ぽん、と叩く。
 そして、誇らしそうに言った。

滝壺「私は、大能力者だから」

 その可愛らしい行動に上条は思わず見とれ。
 次の瞬間に我に返ってツッコミを入れる。

上条「っていうか滝壺の能力、物的力ないよな!?それからその『大丈夫、私は大能力者だから』ってフレーズ気に入ったのか!?」

滝壺「………………」

上条「お願いですからその俺の足を蹴ろうとする足を下ろしてくれませんでしょうか?」

 心から懇願され、滝壺はやはり表情を動かさずに足を地面に突いた。
 だが滝壺はじっ、と上条の顔を覗き込む。
 うっ、と上条はたじろぎ、しかし滝壺は尚もそれを続け、沈黙が訪れた。
 結局、根負けするのは上条。

上条「……わかったよ、お願いする。だから――――っ」

 瞬間。
 上条の視界に、微笑みが映った。

 それは、単に口の端を釣り上げたとか、そういうものではなくて。
 確かに、『笑った』といえるもので。
 さっきの行動より、もっと、もっと綺麗で、淡く、可憐なもので。

 上条は、思わずどきっとしてしまったのだった。


195:2010/09/13(月) 22:59:37.06 ID:DqmBhi.o

 次には、もう既に元の顔に戻っていた。

滝壺「それじゃあ、行こう?」

 そう言って、滝壺理后は何気なく右手を差し出す。
 行こう、というのはそのタイムセールのあるスーパーへ、だろう。
 何ら特別な意味はないはずだ。

上条「…………」

 いつもなら、上条はこれを華麗にスルーしたりなんだかんだ言い訳をつけて取らないだろう。
 しかし。
 さっきの表情が頭から抜け落ちない。

 今まで感じたことのない感情。
 柄にもなく、心臓が脈を打ち、外にも聞こえているんじゃないか、と錯覚する。
 その上、差し出された手。

上条(……俺、もしかしたら)

 脳裏に、ただ一文字の漢字が過る。
 もしかしたら、それは違うものかもしれない。
 もしかしたら、それは錯覚なのかもしれない。

 それでも。
 滝壺が『幻想殺し』の正体に興味をいだいたように。
 上条がこの想いの正体に興味をいだいてもおかしくない。

 だからこそ、上条当麻は。
 彼の、その右手で。
 彼女の、右手を。

上条「よし、行くか」

 掴んだ。

 幻想なんかじゃない、紛れもない本物。
 それはとても暖かな、現実だった。


205:2010/09/16(木) 22:27:24.69 ID:pJIai7wo

上条「なんかもう色々と申し訳ないんですが……何分お金まで出してもらったりして……」

滝壺「気にしないで。いつも付き合ってもらってるお礼だから」

 買い物帰り。
 荷物を二分して、彼らは上条の寮へと向かっていた。
 中身はどっしりと。それも滝壺がお金を払ってくれたお陰なのだが。

上条「でもなぁ、なんていうか……釣り合わないような気がするんだよな」

滝壺「そんなことないよ、かみじょう。かみじょうが付き合ってくれてるだけで十分なことなんだから」

上条「だから、上条さん的には付き合ってる『だけ』なんだよ。今日もやったことといえば、御坂の相手ぐらいだろ?」

 そうだ。
 滝壺には上条がいるだけで成果が出るのかもしれないが、上条はただそこにいるだけなのだ。
 何かやっている実感があるわけではない。
 それなのにこうしてお礼をもらう。どうしてか釈然としない。

上条「うーん」

 更に返せるもの、或いは返せること。
 ペンダント、だとか。
 いやいや、それは何か違う。
 自分が貸して、返してもらった分が多いから更に返すのではないのだ。お釣りのお釣りを出すわけではない。
 自分に返してくれる分を減らしてくれればまぁ、問題はない気がする。

上条「……あ、そうだ」

滝壺「?」

 上条は思いつく。
 とても至極単純なことだ。
 食材を買ってもらったのなら、その食材を引き受けるのではなく減らす手伝いをしてくれればいい。

上条「ついでに、家で夕飯食べていかないか?」

 滝壺は呆気にとられる。が、すぐに頭を働かせる。
 この後にアイテムの集まりはないだろうし、恐らく問題ないだろう。
 そう判断する前に、反射的に彼女は頷いていた。

滝壺「うん」

上条「おう、じゃあさっさと俺の家いくか」

 そんなわけで、二人そろって上条家へと向かうのだった。


206:2010/09/16(木) 22:28:15.96 ID:pJIai7wo

禁書「……で、その子は誰なのかな、とうま?」

 ぎにゃー!と上条は頭を抱えた。
 そうだ、この居候シスターさんの存在を全くもって忘れていた。
 なぜかはよくわからないが女の子関係にすごく敏感であり、そしてその結果噛み付いてくる存在。
 そして今が滝壺を連れて帰った結果。それは言うまでもないだろう。

滝壺「…………?」

 滝壺はどうやらまだ理解が追いついていない様子だった。
 それはそうだ。
 ここは学校に通っている生徒の『男子』寮。そんな中に女の子がいるだなんて普通は思わない。
 それも、科学の街学園都市において真逆の場所に位置する教会のシスターさんときた。
 まぁ隣人もよく義妹を部屋に入れて寝泊まりさせたりもしているが、この二部屋は一般から漏れた例外的なものだ。

上条「あー、えーっと、その、ご飯代を奢ってもらったわけで、それでその……あー!とりあえず飯だ飯!インデックス!とっととテーブルの上片付けろ!」

禁書「え、あうん。……とうま?何か誤魔化そうとして」

上条「さぁ飯だ飯だ。滝壺はベッドにでも座ってくつろいでてくれ」

滝壺「う、うん」

 禁書の言葉を封じ、滝壺を案内する。
 そして落ち着いたのを確認して台所へ向かう途中。

 ガブッ、と。

 いつもの通りに、上条の頭に擬音がした。
 一歩遅れて、夜暗い中なら数十メートルは響くだろう悲鳴が木霊する。


207:2010/09/16(木) 22:28:57.24 ID:pJIai7wo

禁書「全くもう、とうまったらまた女の子に手を出して……」

 奥からずんずんとインデックスが怒った風に現れる。

滝壺(……この子も、拡散力場がない?)

 滝壺はインデックスの頭の先から爪先まで見下ろす。
 金の刺繍が入った帽子や修道服。しかしそれらは銀色の針が貫いている。
 まさに、針のむしろ。
 ……まぁそれはさておきとして、彼女にとっては拡散力場がないことが重要だった。
 上条の例もあることだし、一応聞いてみる。

滝壺「あなたも、『幻想殺し』なの?」

禁書「え?ううん、違うかも。そもそも私はこの街の超能力者じゃないからね」

 超能力者じゃない、と滝壺は確認するように繰り返す。
 なるほど、それならなんとなくと納得する。シスター服の制服なんてこの都市にはないから。
 その彼女は三毛猫を抱いて、自分の横に座って話しかけてきた。

禁書「……えっとね、私はインデックス。和名では禁書目録っていうんだよ」

滝壺「インデックス?」

禁書「うんっ」

 その言葉を呼ぶと、彼女は元気に頷く。
 どうやら聞き間違いではなく、本当にインデックス――禁書目録――目次、というらしい。

禁書「あなたは?」

滝壺「たきつぼ。たきつぼりこう」

禁書「それじゃ、りこうって呼ぶね」

 いきなり名前で呼ぶことに滝壺は面食らう。
 しかしこの純粋さを感じる少女なら或いは、と思った。


208:2010/09/16(木) 22:29:30.90 ID:pJIai7wo

禁書「……ねぇ、りこう。とうまに何か変なこととかされてない?」

 開口一番の質問がこれだった。
 何か、というのは色々あるだろう。
 例えば、上条の不幸に巻き込まれてセクハラされただとか。
 例えば、何かの偶然で裸を見られただとか。
 だが滝壺にはそんなことをされた試しがないため、全く別のこと――助けてくれたこととかが思い浮かぶ。

滝壺「……変なことはされてない、かな」

 助けてくれたことは変なことには当てはまらない。
 だから彼女はそういった。

禁書「それなら……じゃあ、どうしてとうまの右手のことを知ってるの?」

 この質問になら容易に答えることができる。
 先ずは馴れ初め。
 ナンパされていたところを助けてくれたこと。
 自分が能力を感じ取ることができる能力をもっていること。
 それによって上条当麻の能力を感知できなくて、興味を持ったこと。
 誘拐されかけた子供を助けたこと、などなど。
 つまりは上条と滝壺が会ってからの出来事。
 ところどころでインデックスの歯がきらんと輝いた気がしたが、遂に彼女は言及することはなかった。
 話し終わり、滝壺が一息付いているところでインデックスは呟く。

禁書「そっか。とうまにしては、まだ普通な方なんだね」

滝壺「普通?」

禁書「ううん、なんでもないかも」

 聞こえた単語を聞き返すと、インデックスは首を左右に振ってなんでもないと、つまり言わない意を示す。
 少しばかり気になったが、滝壺はそのことについて問い詰めはしなかった。

滝壺「私からも、一ついい?」

 インデックスの質問が途切れたところで、攻守交替。
 別にインデックスにも断る理由はないため、簡単に頷く。

禁書「うん、いいよ。なんでも聞いて欲しいかも」

滝壺「それじゃあ……どうしてかみじょうの家にいるの?」

 ?とインデックスの頭の上にクエスチョンマークが踊った。


209:2010/09/16(木) 22:30:18.62 ID:pJIai7wo

禁書「私が此処に住んでるからだよ?」

滝壺「ううん、そうじゃなくて。どうしてかみじょうの家に住んでいるのか、その理由を知りたいの」

 それは誰でも聞きたいことだ。
 見た限り、血がつながっているというわけでもない。そして学園都市の人間ですらない。
 そんな人がどうしてこんなところにいるのか。
 シスターなら普通は協会にいるものじゃないのか。
 滝壺もそう思ったわけだ。
 インデックスは瞬刻、考える。これを言ってもいいものかどうか。
 ……自分も聞いたのだ。それならば答えなければならない。そう考えた彼女は上条がまだこちらに来ないことを確認して、ぽつりぽつりと語り始める。

禁書「……とうまはね、私を助けてくれたんだ」

 それは、大切なもの。
 心の奥底に仕舞い込んだ大事な思い出。

禁書「命をかけて。死ぬことも恐れないで。私を地獄の底から救いだしてくれたんだよ」

 彼女は、知った。
 インデックスがどんな状況にいたのか、ということを。
 いや、詳細までわかるわけではない。しかし、『地獄』とまで例えられたその状況を察したまでだ。
 そして。
 それから救いだした、上条当麻という人物のことを。

滝壺「そっか。ありがとう」

禁書「ううん、お礼を言われるようなことはしてないかも」

上条「ご飯できたぞー」

 落ち着いたところで、上条がタイミングよくご飯を運んできた。
 二人の間に漂う、優しく落ち着いた雰囲気を不思議に思ったのか、上条は訊ねる。

上条「……何のはなししてたんだ?」

 それに対して、二人そろって答えた。
 曰く、

滝壺「ひみつ」禁書「ひみつかも!」

 上条家の夜は、更けていく。


210:2010/09/16(木) 22:30:52.05 ID:pJIai7wo

 彼は思いめぐらせる。
 上条当麻。滝壺理后。
 二者の関係と、そして齎すだろう結果について。

土御門「……難しいな」

 アレイスターの考えていることに近づこうとするが、届かない。
 そもそも『幻想殺し』の正体とはなんだ。
 アレは原石だ。生まれ持っての才能だ。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

土御門「その原石に対して……能力を感知する『能力追跡』を当てる」

 そうするとどうなる?
 原石のAIM拡散力場から、どういう風に上条の『自分だけの現実』が組まれているかわかるだけではないのか?
 そう考えるのも無理はない。
 なにせ彼は知らないのだから。『幻想殺し』にAIM拡散力場が存在しないことを。

土御門「……とにかく、第二段階までは終了だな」

 ピッ、と携帯を操作して幾つかのデータを纏めて削除する。
 そして次のデータ――今まで開いていなかったファイル――を開き、サングラスの奥の目で見やる。

土御門「なるほど……確かに、こうなるだろうな」

 それはアレイスターから送られてくる予言のようなもの。
 そして同時に指令でもあるもの。
 こうなるから、こうしろ。そういうものだ。
 土御門はそれをどうすればうまく行くか考えつつ、背伸びする。
 ゴキゴキ、と不健康な音が鳴った。

土御門「……さてと。今日も今日とて、頑張りますかにゃー」

 どこまで重要人物に察されずに行動できるか。
 多角スパイの腕の見せ所だった。


217:2010/09/20(月) 23:20:44.74 ID:V56XwFko

 コツ、と一つ。
 足音だった。
 それに目ざとく彼女は反応する。
 そもそもここにいるのは彼女一人きりだ。そしてその彼女は動いていない。
 それなら反応するのも道理だ。
 最も、先日から断りはきているのだが。

 コツ、と二つ。
 それはさっきの音よりほんの少しだけ遅れて。
 察するに、前の足音に付いてきた、という感じだろう。
 どうやらここを知らない人物らしい。
 思わず彼女は笑う。
 普通の人が知らない場所まで堕ちてしまった自分に対して。

 ノックされた。
 それに彼女は答える。

少女「鍵なんかかけてないわ。namely、押せば開く」

 聞くやいなや、ガチャン、とノブが落とされた。
 そこから現れるのは二人の少年少女。
 それを彼女はその特徴的な――ギョロッ、とした目で一瞥した。

少女「……あら、二人だけ?」

 その言葉に対して、少女の方――滝壺はいつもどおり、首を傾げた。

滝壺「……?」

少女「知らないなら構わないわ」

 ギシッ、と背にある機械――常任には理解しがたい数値などが記入されたモニターを操作するもの――にゆっくりと腰掛ける。


218:2010/09/20(月) 23:21:10.62 ID:V56XwFko

滝壺「今日やることは、」

少女「大体の概要は聞いてるわ。そちらの『幻想殺し』についての情報も少なからず集まっているし」

 滝壺の言いたいことを先回りして少女は言う。
 それにしても、と一度区切り、やはり皮肉げに笑った。

少女「私を堕とした貴女達に協力しなければならないなんてね」

滝壺「……それは」

少女「however」

 しかしながら、と。
 彼女はやはり、滝壺の言葉を遮って告げる。

少女「こんな仕事でも回ってこなければ、私は用なしとして御免なだけでしょうからね」

 沈黙。
 ここまで話がすすんで、ようやく件の『幻想殺し』――上条当麻は口を開く。

上条「あのー……なんの話でせうか?上条さんには全くこれっぽっちも意味がわからないのですが……」

少女「貴方は気にしなくていい。because、これは私の問題であるから」

 上条の質問をズバッと切り捨てる。
 それでもはぁ、とだけ上条は返して、結局よくわからない顔をするのだから鈍感だと言われるのだろう。

少女「布束砥信」

 彼女は自らの名前を脈絡なく言う。

布束「今日の貴方の実験を実行する人物。ちなみに先輩だからタメ口は不許可」


219:2010/09/20(月) 23:21:47.94 ID:V56XwFko

布束「貴女はそこで適当に座ってて。『幻想殺し』の彼はこっちへ」

上条「あ、ああ」

 上条の第六感が僅かに危機を告げて、本当に大丈夫なのか、と滝壺へと視線を送る。
 その滝壺は『大丈夫、私は色々失った上条も応援してる』と言わんばかりに熱烈な視線を返す。
 ……なんというか、締まらない二人だった。

 上条は布束につれられ、ガラスで囲まれた部屋――よくある実験するためのもの――の中に入る。
 真ん中にいかにも、というような人ひとりを固定する椅子。

上条「……あのー、先輩」

布束「?」

上条「つかぬことをお聞きするのですが、まさかその固定具にわたくしめを取り付けたりなんかは……」

 微かに彼女の口が動き、音が発せられる。
 それは、great、と聞こえた。

上条(やっぱりか――――ッ!?なんだか今までと違って痛い目にあう気がプンプンするんですけど――――――ッ!!)

 不幸だ――――!と上条は久しぶりに胸中で叫ぶ。
 だがそんな言葉が聞こえるはずもなく、聞こえたとしてもやめるはずもなく、上条はやはり流されて順に固定される。

布束「安心して」

 そんな上条の緊張を和らげるように布束は言う。

布束「死にはしないから」

上条「それって死にはしないけど死にそうな目にはあうかもしれないってことですよね!?」

 答えず、その眼力の強いそれをそらす彼女に上条は再び抗議の声をあげた。
 勿論通ることはなかったが。


220:2010/09/20(月) 23:22:14.89 ID:V56XwFko

 カチン、と最後の手の固定具がハメられた。
 ここまで来るともう諦めざるを得ない。

上条「……はぁ……不幸だ…………いや、協力するっていったのは俺だけどさ……」

 ぼそ、と呟く。
 確かに協力するとはいったが、こんな目にあうなどとは思いもしないだろう。
 その声が聞こえていたのか、布束はじっ、と上条をその目で見つめた。

上条「……な、なにか御用……でしょうか?」

布束「いえ、貴方には一応言っておくべきだと思って」

 布束は続ける。
 感謝の礼を。

布束「ありがとう」

 上条は考える。
 この目が特徴的な少女など、一度見たら忘れないだろう。即ち、お礼を言われるような事があれば忘れはしない、ということだ。
 ならば、記憶喪失前だろうか。なるほど、それなら納得が行く。
 ……が、初めに名乗った、ということは見識がないことも指す。

布束「貴方と私の間に面識はないわ」

上条「それなら、どうして……」

布束「because、貴方は実験を止めてくれたから」

 実験。
 上条当麻に、その言葉に思い当たるものは一つしかない。
 だが、目の前の先輩サマとの関連が全く見えてこないのが事実だった。


221:2010/09/20(月) 23:23:18.59 ID:V56XwFko

布束「気にしなくていいわ。今のは私の自己満足みたいなものだから」

上条「はぁ……」

 上条は後ろ手を振って部屋から出て行く彼女を見送る。
 いや、別のことを仕様にも固定されているのだから何もできそうにないのだが。

上条(……別に、能力をぶつけるってわけじゃないよな……)

 上条の両腕は腕掛けに、両足は椅子に固定されている。
 もし『幻想殺し』に能力をぶつけるだけならば、果たして腕を前につきだして空中で固定するだろう。

上条(だったら、一体なんなんだ……?くそ、滝壺に少しでも聞いておけばよかったか)

布束『マイクテスト。聞こえるかしら』

 部屋に響いた声に、上条は唯一自由に動かせる首を上にあげた。
 そこには無論、スピーカーが設置されている。
 当然だ、先程出て行った人の声がまだ部屋から聞こえてくるとそれはそれで怖い。
 ……学園都市だから、そんな能力がないとは言い切れないが。

布束『今回行う実験は能力でなく科学で生み出した擬似能力による実験よ』

 擬似能力。
 『能力』を打ち消すために『擬似能力』などと言っているが、実際は逆だ。
 実際にあるモノ――例えば、炎だとか電気だとか――を能力で生み出しているのだから、つまりは元からある炎や電気のこと。
 つまり。

上条(それって、ライターとか電源とかの火や電気を俺が直接受けるようなものじゃないのか?)

布束『well始めるわ』

上条「まって!まってくれまってください三段活用!そんなことしなくても『幻想殺し』は超能力や魔術しかうちけさないって決まって――ッ!!?」

布束『実験というのは、一つの事情に対してある一つ――今回はぶつけるものの起源――を変えて行うことでようやく意味があるものよ』

 上条の検討むなしく。
 次の瞬間、ビリッ、とした痛みが上条の全身を駆け巡った。


225:2010/09/25(土) 23:11:21.59 ID:ejSk1O2o

>>223
あい、間違いなくわたくしでございます。

―――――――――――――――――――――――――

布束「……ふむ」

 キィ、と背もたれによしかかり、錆びた部位が悲鳴をあげる。

布束「興味深いわ」

 布束は知っている。
 目の前で既に体力の限界を迎えた少年が学園都市第一位を倒したことを。
 それなのに。
 あらゆるベクトル操作を打ち消せるのに、数ミリアンペア、数ボルトの電撃すら防げない右手。

布束「well、次は――」

滝壺「ぬのたば」

 次のボタンを押そうとして、後ろから声がかかる。
 それは依頼主。
 『アイテム』の滝壺理后。

滝壺「そろそろ、やめて。かみじょう限界みたいだから」

 その言葉に秘められた感情を微かに悟る。
 このまま続けようとしても、依頼主には逆らえないし、逆らったところで返り討ちに合うのが関の山だ。

布束「わかったわ」

 だから素直に彼女は従い、ガラスで遮られた部屋の鍵を開ける。


226:2010/09/25(土) 23:21:28.39 ID:ejSk1O2o

 滝壺はまっすぐにドアを開いて駆け寄る。
 布束は今更ながら、少しやりすぎた気がしないでもなかった。

布束(……さて)

 データを統合する。
 事前に仕入れたもの――超電磁砲や一方通行を倒したこと。
 そして、滝壺自身がしていたというAIM拡散力場による実験の結果。
 追加して、今回の実験の結果。

布束(……ますます、興味深いわね)

 一応の研究者として、『幻想殺し』はとても興味深い研究材料だ。
 しかしながら。
 そんな都合よく、超能力だけを打ち消す超能力なんて、発現するだろうか。

布束(……differ。『幻想殺し』は原石)

 それでも、やはりおかしい。
 原石は世界に何十とないものだ。
 『吸血殺し』、第七位の能力など、確かにそれは奇抜である。
 だがしかし。
 そんな奇抜である能力を消すためだけに『幻想殺し』があるのは、やはりおかしいのだ。

布束(result)

 『幻想殺し』が能力を消すための能力だということはありえない。
 それ以外の能力が備わっているのか、或いは。

布束「……超能力でないか、ね」


227:2010/09/25(土) 23:27:16.56 ID:ejSk1O2o

 見ると、ようやく全ての拘束を外して、バテバテになりながら歩いてくる二人の姿があった。
 突拍子かもしれないが、報告しなければならないだろう。

布束「お疲れ様」

上条「おつかれってレベルじゃねーですことよ!?」

滝壺「大丈夫。そんなかみじょうを私は応援してる」

 応援されても困るだけだ――――ッ!と上条は叫ぶ。
 さて。
 こんな仲睦まじい二人の表情を濁らせるのも嫌だが、仕事は終わらせねばなるまい。

布束「それで、私が情報を統合した結果についてなんだけど――」

 淡々と、彼女は結果について語り始める。


228:2010/09/25(土) 23:38:12.10 ID:ejSk1O2o

 そんな彼女らを、ただ観察する影があった。
 バレないように、カメラを仕掛けて遠距離から傍観する。
 本来なら身近に見るのが一番だったのだが、如何せん、滝壺の能力でバレる。

麦野「一応、消すにしても自分の眼で見ておかないと」

 気に入らない奴は蹴散らす。
 だが、感情論に任せれるのも暗部の話だ。
 裏と全く接点のない人がいきなり消える――事件になる。
 それに、超電磁砲と知り合いときたもんだ。それが嗅ぎつけて来る可能性もなくはない。

麦野「ま、負ける気はないけどね」

 麦野は実験が終わったことを確認し、ブツン、と画面を切る。
 自分の眼で見た結果は、言うまでもない。

麦野「……この様子じゃ、邪魔してくる可能性もなくはないけど……しゃーないか」

 どうせ、もうすぐ替える予定なのだから。
 割り込んできたら、容赦なく――

麦野「潰すか」

 グシャッ、と中身を飲み干した空き缶を麦野は握りつぶした。


231:2010/09/30(木) 20:29:30.43 ID:ndOjZaQo

 ぼんやりと、私は低い天井を見上げた。
 いつものワゴン車の中。人が六人ぐらい座れそうなスペースがある。外見からは、すこし想像できない。
 外では、レーザー砲のようなものが宙を舞っていた。
 むぎの、やっぱり絶好調。
 私はバックアップ。とはいっても、多分出番はあまりないだろうと思うけど。

 今日行った研究施設。どことなく、昔見たことがあるような気がした。
 多分、そんな気がしただけ。
 あそこはおそらく、もうないだろうから。

 さて。
 ところで、『幻想殺し』の話をしよう。
 かみじょうとうま。漢字にすると、上条当麻。
 私を偶然にも、ナンパから助けてくれた人。
 そして、私が感知できない人。
 最初は、だから気になった。
 最初は、知的好奇心だった。
 私が感知できない超能力、『幻想殺し』。その正体。そして、それをもつ彼の『自分だけの現実』。


232:2010/09/30(木) 20:39:23.56 ID:ndOjZaQo

 そして、それの正体を突き詰めた。厳密には、総合した結果。
 曰く。『幻想殺し』は超能力でない。
 奇しくも、私が初めに想像したとおりのものだった。
 これが本当の真実なのか、それはわからない。だって、彼自身も驚いていたのだし、知らないのだろう。
 確かめる術は、ない。
 実験をする口実も、ない。

 つまるところ。
 私と、かみじょうの関係はもう既に終わってしまった、というわけ。

 …………。
 寂しい。
 そう思うのは、なんでだろう。
 嫌だ。
 そう考えるのは、どうしてだろう。

 決まっている。
 途中から目的が入れ替わっていた。ただそれだけ。
 『幻想殺し』の秘密を調べるから、ではなく。
 それを口実に、『上条当麻』に会いに行っていた、というだけの話。

滝壺「…………」

 思わず、フレンダが置いていったぬいぐるみを抱きしめる。
 どうしようもなく、心が空虚になった。
 きっと、かみじょうは私が会いたいといえば会ってくれる。
 実験なんて理由がなくても、ただ会って、話して、付き合ってくれる。


233:2010/09/30(木) 20:45:15.56 ID:ndOjZaQo

 でも。
 それは、許されない。
 少しだけのお願いで、研究施設まで使わせてもらった。
 これ以上の我儘は、許されない。

 こんこん、とドアを叩く音がした。
 鍵を開けて開くと、きぬはたがいる。

絹旗「滝壺さん。麦野が呼んでますよ」

 来た。
 恐らくは、私の力がないと追えない能力者が現れたのだろう。
 きっと、体晶を使う。
 ……来ないことを、願ってたのに。

滝壺「……?」

 ……私、今なんて考えた?
 来ないことを、願っていた。
 どうして?
 どうして?
 どうして、来ないことを願ったの?

絹旗「……滝壺さん?」

 きぬはたの声が、私の覚醒を促す。
 それに軽く返事をして、ワゴン車を出た。


234:2010/09/30(木) 20:59:15.22 ID:ndOjZaQo

 施設の中に入る。
 血まみれや、頭が壁に埋まっている身体が幾つもあった。
 それでも、死んでいない。
 思わず、ぞっとしてしまう。
 ……今まで、こんなもの、散々見てきたというのに。

麦野「ああ、遅かったわね」

絹旗「超すいません。少し迷ってしまいまして」

麦野「まぁ、いいわ。滝壺。この中からテレポーターのモノ、追える?」

 むぎのはやっぱり、そういう。
 私に体晶を使え、という。
 確かに、私は体晶がなければこういう暗部では全く使い物にならない。体晶があるからこそ、生きていられるところもある。
 だけど、体晶は私の身体を蝕んできている。
 このペースで使い続けると、長くは持たない。
 けれど。
 私の居場所は、ここだけ――――

 不意に。
 とある少年の顔が、私の脳裏をよぎった。


235:2010/09/30(木) 21:06:39.11 ID:ndOjZaQo

 上条当麻。
 私を、僅かでも大した危機じゃなくても助けてくれた人。
 上条当麻。
 自分に大した利益がないことでも、私のお願いを聞いてくれた人。

 彼と一緒に街を歩いていたとき、自分を忘れることが出来た。
 彼と一緒に世界を歩いていたとき、とても楽しかった。

 今更ながらに、気がついた。
 かみじょうは、私の道しるべになっていたことに。
 闇の隙間から差す光になっていたことに。
 私の、もうひとつの居場所だったことに――――

麦野「滝壺」

滝壺「……うん」

 麦野に促されて、掌に落とした体晶を舐める。
 スゥッ、と頭が冴え渡る。
 何もかもを見通せそうな気分。
 ……自分の未来すらも。


 ……最後に。
 もう一度だけ、会おう。
 多分、それが最後になるだろうから。


244:2010/10/05(火) 20:01:06.18 ID:eqIsbRMo

 上条当麻は考える。
 右手を頭上にかざしつつ。
 とはいったものの、そこは電気の消えた風呂場、全くもって見えないのだが。

上条「幻想殺しは超能力じゃない、ね……」

 思い出すのは昼間のこと。
 今までのデータ統計結果、それを得られたのだと言っていた。
 曰く。
 幻想殺しは超能力ではない。

 理論はわからない。
 いや、きっと聞いたところで自分の頭ではわからないだろう。
 研究者――いや、滝壺もわかっていたようだが、そういった専門知識のない上条に理解するのが難しい話だった。
 ただ一つだけわかるのは、やはり一つの真実。

上条「……だから、どうしろってんだよ」

 右手を下ろして、額を抑える。
 超能力でないなら、なんだというのだ。
 別に超能力であろうとそうでなかろうと、上条当麻いう一個人には影響を与えない。
 が、それならどうして上条はここにいるのか、という疑問に陥る。


245:2010/10/05(火) 20:14:57.16 ID:eqIsbRMo

 確かにおいそれと超能力ではない、と断定できないかもしれない。
 だがしかし……科学の街学園都市がそんな簡単に見逃したりするだろうか。
 この能力はきっと知られているはずだ。
 超能力でない、ということもおそらくは。
 それなのに、何も措置がない……その理由がわからない。

上条「……そもそも、俺は無能力者扱いだったな」

 今更ながらに思った。
 そう、上条当麻は無能力者。それは、単純に『幻想殺し』単体が何も生み出さないからだと思っていたのだが。
 滝壺理后の『能力追跡』……あれも、『超能力がなければ役に立たない』能力である。それなのに、上条とは違い大能力――レベル4扱い。
 全く能力のないレベル0――微小ながらも能力のあるのではなく、本当に無いレベル0――には研究価値がない。
 学園都市に住まうことはできても、なんらかの措置……例えば、実験などで使い潰されるはずだ。
 それなのに、上条には何も無い。

 ……その事実・憶測を統合すると、とある一つの仮定が見えてくる。
 つまり。
 『幻想殺し』をあまり人目に晒したくはなく、だが強い価値があるのでこの街に残しておきたい、という。

上条「確かに、超能力を打ち消すっていうのは魅力的だけど……超能力ですらない能力を研究することに意味があるのか……?」

 そもそも、研究を申し出されたことすらない。
 結局、わからないままだった。


246:2010/10/05(火) 21:08:32.84 ID:eqIsbRMo

 突然、風呂場に異音が響く。
 バイブモードにしてある携帯が風呂場の地面とぶつかり合い、ちょっとした騒音になっていた。
 上条はたまらず、素早く携帯を回収する。

上条「っ……耳いてぇ……」

 顔をしかめながら、こんな時間にメールを送ってくるのは誰か、と携帯をあける。
 暗さに目が慣れた状態で携帯を開けるとどうなるのかは当然。

上条「ぎゃあぁあああっ!?」

 眩しさに目が潰れる。
 不幸だ……と上条はつぶやくが、ただの馬鹿な行動のせいだった。
 薄目を開けて徐々に視界を慣らす。

上条「えっと……ん……?滝壺…………?」

 誰からメールが来たのかを確認すると、それは今日も共に活動をした滝壺理后だった。
 一先ずは文字をまとめると、概ねこういう事になる。

滝壺『かみじょうへ。
   今日で実験は終わり。お疲れ様、あとありがとう。
   それで、最後にお礼しようと思うの。だから、付き合ってもらえる?』



247:2010/10/05(火) 21:19:35.34 ID:eqIsbRMo

 いやに簡潔に感じた。なんというか、色々と感情を押し込めているような。
 特に、『最後』、という文字。
 別に、最後、ということ自体にはおかしなところはない。
 だが――上条には、この言葉が何か特別変に思えたのだ。

上条「…………」

 滝壺理后。
 自分がナンパから助けて、それから自分の能力に興味を持って、その追求に付き合ってあげた女の子。
 そして、付き合っているうち、知り合い、友達――それ以上の感情を抱いた女の子。
 その想いの正体は、結局未だに、分からずじまいだ。

 上条は僅かに……ほんの僅かに、どう返そうか考えた上で、やはり肯定のメールを返す。
 一分もしないうちに、携帯が再び手の中で光った。
 中身はやはり簡潔に、『ありがとう』とだけ。

上条「…………」

 最後。その言葉の意味を再び考える。
 多分、きっとその通り。これで、上条当麻と滝壺理后の縁を切ろう、という宣言。
 ……なんというか、らしくない、気がした。
 未練を感じている自分にも、そしてわざわざそんなことを告げる滝壺にも。
 ――おそらくは、変わったのだ。自分も、彼女も。互いが互いの存在によって、変わったのだ。
 だから上条は、ようやく襲ってきた眠気に沈む前に、呟く。

上条「――――――――」

 その呟きは響きやすい風呂場で反響すらせず。
 夜の闇に消えた。


253:2010/10/09(土) 20:38:13.20 ID:22eM99Qo

 朝早くから、チャイムが鳴った。
 財布など適当にポケットに詰めて玄関へと向かう。
 それを見たインデックスが目ざとく反応した。

禁書「とうま、今日学校休みなのに、どこかいくの?今ちゃいむ鳴らした人?」

 そう、今日は日曜で学校は休日である。
 だからこそ、相応しい。
 しかしながらインデックスにはそれが理解出来ないために、聞くしか無い。

上条「ああ。今日はきっと、一日留守にする。昼食は冷蔵庫入ってるし、夜ご飯は……いつ帰るかわからないから、お腹すいたら小萌先生のところに行っててくれ」

 手早く身だしなみを整え、上条はインデックスへそう投げかける。
 その言葉にインデックスは色々と複雑そうな表情を示し、また返す。

禁書「……りこう?」

 そう名前を問いかける。
 インデックスにとって、彼女が最近来た上条当麻の新しい女性の知り合いだ。
 最近帰りが遅い時期とも知り合った時期がまた重なっている。
 だからこうして早い時間に出る理由は、彼女しか無い、と思ったのだ。

上条「ああ、滝壺だ」

 隠す必要もないから、上条はただそう答える。


254:2010/10/09(土) 20:46:27.55 ID:22eM99Qo

 それに対して、インデックスはやはり、少しだけ寂しそうな顔をした。
 そっか、と言った呟きは、上条には届かない。

禁書「……それじゃあ、行ってらっしゃい。鍵はいつもどおりに郵便受けに入れておけばいいんだよね?」

上条「ああ、よろしくな」

 上条は靴を履いて、ちらりとインデックスへと笑いかける。
 彼女も同じく返し、上条は扉を開いた。
 登り始めた太陽の日が玄関から僅かに入ってくる。
 眩しさに目をつむりそうになるが、その向こう側には確かに、以前に見た顔があった。

上条「――――?」

滝壺「――――」 

 玄関口で何かを話す。
 普通なら聞こえるはずのそれ。なのに、今日は嫌なくらい遠くに聞こえた。
 それでも、インデックスは二人へ笑いかける。
 そうであることが自分の役目だと思ったから。

 無常にも、扉は閉まった。
 外から男女の会話が聞こえて、そして遠ざかっていく。
 足元にはスフィンクスが寄り添って、『どうしたんだー』とでも言いたげに彼女を見上げて鳴いていた。

禁書「……わたしは、とうまの選んだ答えに恨みはないよ」

 誰に言うでもなく。
 彼女はただ、漏らす。

禁書「でも、選んだ相手を泣かせたら……赦さないんだから」

 去ってしまった背中に対して、誓わせるように。


255:2010/10/09(土) 21:06:21.05 ID:22eM99Qo

 二人は第七学区の道を歩く。
 休みの日の午前中はまだ人は疎らだ。遊んでいるのは小学以下の児童と、或いは遊びに出ているグループ。
 勿論、上条と滝壺は後者に分類される。

上条「なぁ滝壺、今日はどこいくんだ?」

 上条は電光掲示板のニュース……『第七学区:晴れ』などの物を眺めながら、隣歩く少女に問いかける。
 付き合う、とは言った。だが、何に、とは訊いていない。
 滝壺はうん、と頷いて一拍おく。

滝壺「洋服とか見に行きたい」

 洋服、と上条は繰り返す。
 今まで滝壺との用事の中に、そんな正しく『それ』らしい用事はなかった。
 だから変にもぞ痒く感じ、違和感を覚える。

上条「そんなのでいいのか?っていうか、俺男だし、そういうのに疎いんだが……」

滝壺「ううん、違うの。ただ洋服を見に行くだけなら、一人でも行けるから」

 ふっ、と淡い笑みが滝壺に浮かぶ。

滝壺「かみじょうと行くことに、価値があるの」

 思わず、生唾を飲む。
 そこまで言われてしまっては、一男子である以上付き合わないわけにはいかない。
 ……そもそも、自分と行くことに行くことになんの価値があるのか上条にはわからない。
 だが、彼にしては珍しく、『俺がいることで楽しめるって意味だといいな』、と僅かな望みを心に灯した。


256:2010/10/09(土) 21:19:43.42 ID:22eM99Qo

上条「……なら、なんの役に立つかわからないけど……付きあわせていただきませう、姫」

 そして、また珍しく、エスコートをするように滝壺に手を差し伸ばす。
 気まぐれ、といえばそうなのだろう。しかし彼はそんなことを普通はしない。
 ……憎からぬ想いをい抱いている相手でなければ、そうは。

滝壺「…………」

 滝壺はその手を見つめる。
 そして、恐る恐るといったかんじに手を近づけた。
 瞬間、二人の視線が交差する。
 止まった一瞬を見逃さず、上条は強引に、滝壺が伸ばした手を掴みとった。

滝壺「!」

上条「一度繋いでるんだからさ、二度も三度も、同じことだろ」

 言いながら、上条は自分がAIM拡散力場を発していなくてよかった、と思った。それがあり、滝壺に感知されていたら、上条のそれは有り得ない動きをしていたことだろう。
 胸がばっくんばっくん心臓を叩く。それはもう、飛び出しそうなほどに。
 男子高校生とは言っても、中々身近に刺激がないと一度手を繋ぐだけでも心臓が高鳴る。

上条「……じゃ、じゃあ行くか!」

滝壺「…………うん」

 見ると、滝壺も無表情ながら、顔を真赤に染めていた。
 相手も恥ずかしがっていたことに安堵し、彼らはたどたどしくも歩みを進める。


257:2010/10/09(土) 21:42:44.31 ID:22eM99Qo

 大通りを通る。
 上条は先程も言ったとおり、装飾屋に詳しいわけではない。
 だから一先ずは見て回って、適当なところがあったら入る、という戦法をとろうと思ったのだ。

上条「……そういえばさ、滝壺っていっつもそのジャージだよな」

 服といえば、で思い出して話しかける。
 首を傾げる滝壺をすとん、と見下ろす。
 ゆったりとしたピンク色のジャージ。色気も何もあったものではない。

上条(いや!上条さん的には色気とはどうでもいいんですけどね!)

滝壺「それがどうかした?」

 なしげもなく、滝壺は返す。
 口調からして、上条の質問の意図がわからない、と言っているようだ。

上条「いやさ、俺、滝壺の他の姿見たことないし……もしかしていつもはジャージ以外の姿、とか?」

 ふるふる、と首を横に。

滝壺「いつもこれ。暑い時は脱いでTシャツで、逆に寒い時は中に一枚着る」

上条「だろ?なのに、服を見に行くっていったからさ……もしかして新しいジャージとか?」

 再び、首を横に。
 滝壺はようやく上条の言いたいことを理解して、納得の行くように説明をつなげる。

滝壺「……いつもは動きやすいこれだけど、たまには他のもいいと思って」

 ――それが、かみじょうの気に入るものなら、なおさら。
 言外に告げるが、上条には届かない。
 自分の気持ちには気づきかけていても、やはり恋愛経験値の足りないお子様なのだ。


258:2010/10/09(土) 21:59:41.46 ID:22eM99Qo

滝壺「そういえば、ここらへんだったよね」

 話が飛び、上条は慌てて滝壺の言葉を咀嚼する。
 ここらへんだった。
 何が、と思って周りを見渡す。
 車が走り、自動清浄機が歩道を行き来する。人の流れは少ないが普通の道路といえた。

上条「……何かあったか?」

 少なくとも、上条の記憶には見当たらず、首を傾げるのみ。
 彼にとって、ここは単なる通学路に他ならない。
 その反応に僅かながら、滝壺はジト目で上条を睨むように見た。
 人目もはばからず、反射的に土下座へと移行する。その間僅か一秒にも満たない。

上条「申し訳ございませんっ!……よろしければ、何卒教えていただきたく存じます……!」

 慣れているその行動に少々呆れつつも答える。

滝壺「……かみじょうと、初めて会ったところ」

 あ、と思い出す。
 確かに、この場所は見覚えがある――というのも、此処は基本的に色々な学校の生徒が入り乱れる交差点だからだ。
 つまり、平日にはナンパだとか絡むだとか、そういったものが後を絶たない場所でもある。上条はそういうのを見かけるたびに首を突っ込んでいる。
 だから、簡単に気付くことができなかった。ナンパから助ける、というのは恐らく相手にとっては特別なことだが、上条に取っては日常茶飯事だったから。

上条「あー……すまん、忘れてた。確かに、ここだったな……初めて会った場所」

 女の子というのはそういった記念日とか思い出の物を大事にするという話を聞いたことがあるので、素直に謝り、そして過去に想いを馳せる。


259:2010/10/09(土) 22:22:32.85 ID:22eM99Qo

 所在なさ気に、ぼーっとしていた危なげな少女。
 それがあの時の第一印象だった。
 普通ならスルーして日常に帰るのだろうが、上条はそうはしなかった。
 それが彼が彼である所以だから。

上条「……最も、こんなふうになるなんて思っても見なかったけどな」

滝壺「私も助けてくれる人がいるなんて思ってもなかったよ」

 表の世界でも暗部の世界でも、手を差し伸ばしてくれる人はいないと思っていたから。
 だから、善人な上条当麻に惹かれた部分も少なからずはあるのだろう。

滝壺「……今さらだけど、もう一度いうね、かみじょう」

 滝壺は繋いだ手に僅かながら力を込める。
 それだけで彼女の緊張が上条にも伝わった。
 滝壺は至近距離で、少々背の高い上条の瞳を見て、今一度、お礼を言う。

滝壺「ありがとう、かみじょう。嬉しかったよ」

 やはり、どきっ、と、心臓が一際大きく脈を打つ。
 インデックスではこうはならない。
 御坂美琴ではそれよりも疑心が先立つ。
 姫神秋沙やその他の人でも――おそらくは。

 ここにきて、ようやく、遂に、上条はこの想いに確信を持つことができた。

 つまり、これは。
 『それ』だ、と。


264:2010/10/09(土) 23:49:54.95 ID:22eM99Qo

上条「……っ、た、大した事はしてねぇよ」

 顔を背けて、滝壺の言葉に答える。
 しかしきっと、上条の顔は滝壺に負けず劣らず、赤くなっていることだろう。
 なぜなら、ただ立っているだけで顔が熱くなっているのを感じるのだから。

上条「そんなのでいいなら……いくらでも助けてやる。どれだけ困難でも助けてやる」

上条「だから……困ったときには、遠慮なんてすんなよ?」

 言い終わると、やはり滝壺は笑い。
 上条は恥ずかしいことを言った、と更に顔を赤くした。
 厚顔無恥が自分のとりえだというのに、自分で言ったことを恥ずかしがっていてはわけがない。

滝壺「……早くいこう?きっと混んじゃうから」

 笑いの余韻を残しながら、滝壺は繋いだ手をくいくい、と引っ張る。
 上条はそれに答えず、しかし並び立つことで意志を示した。

上条「よし、それじゃあ滝壺にとびっきり似合う服を不肖わたくし上条当麻が選んでさしあげましょう!」

滝壺「うん、期待してる」

 手を繋いで歩く彼らは、傍から見たらまるで恋人のようだった。


265:2010/10/10(日) 00:06:02.54 ID:XYt/V2co

 平たく言えば、上条当麻は抜け殻だった。
 どこかに飛んでいった、と言ってもいい。その結果、霊魂だけが抜けた状態のようになっているのだ。
 周りにある世界は、全て服。
 そして――下着。
 男子生徒にとって、これ以上無いぐらいの地獄の場所である。人があまりいなくても、その人がこちらをチラチラと窺っているのだから。
 つまり、今の上条当麻は抜け殻だった。
 ベンチに座り、天井を見上げて考えることをやめた、ただの――――。

滝壺「かみじょう、かみじょう」

上条「……………………」

滝壺「……………………」

 ストン、と横に座る。
 つつつー、と魂が抜けた上条の耳元に自らの顔を近づけて。

滝壺「ふっ」

上条「っ!?」

 ガタン!とはじかれたように耳を抑えて、立ち上がる。
 今までとは別の意味で、注目を集めることになった。
 何がおこったのかよくわからない上条に、滝壺は小さく溜息を吐いて手に持った袋を見せる。

滝壺「終わったよ。次は服」

上条「お、おう、わかった」

 言われるがまま、上条は滝壺の後を追って移動を開始する。


266:2010/10/10(日) 00:15:59.69 ID:XYt/V2co

滝壺「……今度は、ちゃんと見てくれるよね?」

上条「いや勿論見るっていうか下着みるなんて上条さんは思ってませんでしたよ!?男性が女性の下着を一緒に物色してたらどう考えても気まずいでしょうが!」

 滝壺の言葉に、上条は猛烈に反撃する。
 彼らがいるのは、セブンスミストとはまた違う洋服屋。
 あそこは基本的に女性ものばかりだが、こちらには男性物もある。
 つまり、カップル御用達、ということだ。
 そこに入って真っ先にいく場所が下着、というのもどうかと思うが。

滝壺「……でも、次はちゃんと」

上条「わかってるって。ちゃんと滝壺に似合う奴を選んでやるから」

 その言葉をきいて、滝壺は満足したようにずんずんと先を行く。
 上条はどんなのが似合うかなー、と頭の中で想像しつつ、彼女の後を追う。

 季節の移り変わりの時期。
 洋服売り場には秋物はそこそこ、冬物が数多く出揃い始めている。
 上条は早速視線を素早く動かして物色し始めた。


267:2010/10/10(日) 00:27:20.14 ID:XYt/V2co

上条「うーん……滝壺にはなんとなく、白系のものが似合いそうな気がするんだよな」

 確かにピンクのジャージも似合っているといえば似合っているのだが、それは違う気がする。
 夏場なら薄い生地のワンピース。春、秋ものならミニまでとは言わなくとも、膝位まであるスカートにハイソックス。
 今言ったとおり、白を基調にして組めばどことなく清楚なお嬢様風だ。

上条「だから……少し早いけど、このコートとか……って服じゃないな、忘れてくれ」

 首元が毛のようなもので覆われている、白のコート。
 上条的にはこれにプラスして毛糸調の帽子でも被らせれば最高なのだが、だがそれはあくまで外出用だ。
 服とは、また遠い。
 放っておいたら、ジャージの上に着そうだし。

上条「それじゃあ……こんなのはどうだ?」

 上条が選ぶのは、ふわふわのニットのワンピース。
 簡単に言うなら、絹旗が着ているようなものと考えればいいだろう。
 勿論、滝壺も真っ先に彼女を連想した。だが、彼女より大分長いものだが。

滝壺「……とりあえず、来てこようかな」

上条「ああ、俺はまだ他にも見ておくから」

 上条の手からそれを受け取り、滝壺は試着室へと消える。


268:2010/10/10(日) 00:37:12.86 ID:XYt/V2co

 さて、ここで問題。
 Q1,試着室に着替え中の女の子が居ます。
 そこに男の子が見繕った他の服を持っていった場合、何が起こるでしょう。
 ヒントは男の子は不幸とも幸運とも言えないラブコメじみたイベントを引き起こす体質を持っています。
 正解は――――


滝壺「…………」

上条「…………」

 時が二人の間で止まる。
 下着状態の滝壺が上条が選んだ服を今まさに着ようとしている瞬間。
 同時、上条が幾つか似たようなものを滝壺に持ってきた瞬間。
 ストーン、と。
 試着室のカーテンが落ちた。

滝壺「………………」

上条「………………」

 数秒、数十秒、或いは数分。
 その間固まっていた彼らを誰も見ていなかったのは、奇跡に近い僥倖、不幸中の幸い、と言ってもいい。
 そして、その次の瞬間。
 世にも珍しい、少女の悲鳴が響いた。


288:2010/10/23(土) 21:50:07.14 ID:oFueuQ.o

上条「…………」

滝壺「…………」

 あの滝壺悲鳴事件の後。
 二人は何を言うでもなく、街を歩いていた。
 彼らの間に会話はない。
 正しく、『何を言うでもない』のだ。

上条(きっ!気まずい!!)

 上条的には激しく不安に駆られてならない。
 例えばインデックス。
 もしあんな状況になったら、頭にガブリとくるだろう。
 例えば御坂美琴。
 もしあんな状況になったら、迷わずに電撃を飛ばしてくるだろう。
 しかしながら、それが終わったあとは――何だかんだグチグチ言いながらも会話をするものだ。

 それがどうだろう。この滝壺理后、なんのアクションも示さない。
 とりあえずは購入した服をぶら下げて、チラチラと上条の方を見ては目をそらす。
 傍から見ていると、ほんのり赤くなっているようにも思える。
 しかし、それでも会話がないのは気まずいのだ。

上条(あーもうっ!!どうしてなんにも制裁がないんですかぁ――――ッ!?)

 上条当麻は決して、Mなどではない。
 しかしながら、制裁がないと居づらいのは事実。
 そう考えると、なんというかインデックスの行動は二人の間に変な空気を漂わせない潤滑油になっていたんだなー、と実感する。


289:2010/10/23(土) 22:01:50.04 ID:oFueuQ.o

『ただいま、十二時をお知らせします』

 空を飛ぶ飛行船が時刻を告げる。
 今朝早くから出ていたはずなのに、いつの間にかこんな時間になっていた。
 気がついたら急激にお腹が空いてきた気がする。

上条「…………た」

滝壺「…………?」

上条「……なんでもありません」

 一言告げると彼女は素早く上条の方を振り向く。
 しかし上条はその反応にこそ何かあると思ってしまい、萎縮し、黙らざるを得なかった。
 そんな反応を見せると滝壺も何やら安心したような、或いは寂しいような表情を見せて、再び街中を歩く。
 静寂という名の均衡が続く。

 だが、そんな中でも。
 やはりそれは壊されるものだ。

 キュ〜と鳴る。
 それは決して上条当麻のものではなくて、隣の少女から。
 彼女はハッとしたような表情をして下げていた袋を抱えるようにして上条の様子を伺った。

上条「…………あー」

 察した上条は周りを見渡して。
 ピッ、と一つのファミレスを指差す。

上条「……飯、食うか?」

 答えるように、もう一度鳴る。


291:2010/10/23(土) 22:19:21.77 ID:oFueuQ.o

 定員が迎えてくれたファミレス内はそこそこに混んでいた。
 それはまぁ昼時だからであり、そんな中ですぐに通されたのは幸運の他何も無いわけだが。

上条(……嫌な予感がする)

 なんとなく、上条には不幸の予感しかしないわけであり。
 上条は身構えて、素早く見渡す。
 それはモノを落としそうなウェイトレスなどではなく、いやそれも警戒すべきだが注文を持ってきたあとでも遅くはない。
 彼がみるのは、客。
 知り合いがいるかもしれないという可能性を考慮した上での、警戒。
 勿論滝壺にはそれが不審極まりない行動に見えるわけで。

滝壺「……どうしたの?」

上条「……いや、なんでもない……多分、大丈夫だよな……」

 一見して何も問題はなかった。
 だからといって安心出来るわけではないが、一先ずは大丈夫。

上条「えっと……注文決めたか?」

滝壺「うん」

 確認をとると、ウェイトレスを呼び上条は適当にハンバーグを注文する。
 対する滝壺はちょいちょいとウェイトレスを側に呼び寄せて、耳打ちするように。

上条(恥ずかしいのかな?)

 まぁ、確かになんとなく自分の注文を他人に聞かれるというのは僅かに気恥ずかしいものがあるから、上条は深く突っ込まなかった。


292:2010/10/23(土) 22:27:22.45 ID:oFueuQ.o

 数分置いて上条の頼んだものをウェイトレスが持ってきた時に上条は警戒したが、危惧するようなことは起こりはしなかった。
 しかし違和感――不幸の前兆は拭えない。
 なんだ、なんだと考えるたびに泥沼にはまりそうなので、上条は一先ず話題を振る。

上条「お、俺のは来たけど、滝壺のはまだなんだな?」

滝壺「うん。先に食べてていいよ」

 こらえきれなくなったように微笑を浮かべて、滝壺は言う。
 そこで上条は自然な流れで先程の意味を聞く。

上条「何頼んだんだ?」

滝壺「……えと」

 上条の問いに、彼女は所在なく視線を漂わせた後、答える。

滝壺「……ひみつ」

 それ以上聞くのは野暮というものだ。
 上条はそっか、とだけ返して、ハンバーグの片付けにとりかかった。


293:2010/10/23(土) 22:38:28.00 ID:oFueuQ.o

上条「……結局、来なかったわけだけど」

 上条は最後の一切れを口の中に放り込む。
 しかし、目の前にあるのは上条が食べたハンバーグの鉄板のみ。
 滝壺は彼が食べているのをじっと見つめるだけで、居心地が悪かった。

上条「もしかして、何も頼んでないとか?」

滝壺「ううん、頼んでるよ。ただ、それと一緒に食べるべきでないから――来た」

 滝壺の言葉に呼応し、上条が振り向く。
 先導したウェイトレスが素早く上条の皿を下げる。
 そして、次の瞬間。
 ドン!と大きくテーブルが振動する。
 その正体は、噂には聞き及んでいるが彼自身は食べている人を見たことがないもの。

上条「ジャンボ……パフェ?」

 中にはフルーツやウェハースなど、具材は普通のパフェと何ら代わりはない。
 しかし、驚くべきはその量。
 通常のパフェのおよそ三倍。

滝壺「それじゃあ、いただきます」

 疑いたかったが、やはりこれを頼んだのは滝壺だったらしい。
 用意された二つのスプーンのうち、一つをとって早速食べ始める。


294:2010/10/23(土) 22:53:51.72 ID:oFueuQ.o

上条(それにしても……スゴイ量だ……)

 その大きさには圧巻の一言しかない。
 パフェというものはなんとなく軽いものだと思っていたが、認識を改めなければならないかもしれない。
 確かにこれは、ハンバーグと一緒に食べることはできない。

上条(……全部、はいるのか?)

 気になるのはそこだ。
 女の子のお腹で、甘いモノが別腹、というのはよく聞くことだ。
 だが細い滝壺にこれが全て入るとは思えない。
 そんな心配な視線を送る上条に気が付いたのか、滝壺はようやく彼を見て、そして置かれたもうひとつのスプーンに目を落とした。

滝壺「……食べないの?」

上条「え、いや、これ滝壺の頼んだものだろ?こっちのスプーンだって、二刀流とかする人ようじゃないのか?量多いし」





295:2010/10/23(土) 23:06:28.43 ID:oFueuQ.o

 滝壺はううん、と首を振る。

滝壺「だって、これカップル用」

 ガタン!と上条は大きな音を立てて立ち上がる。
 辺りからの奇異の視線が彼を貫くが、そんなことはどうでもいい。
 問題は――そう、問題は。

上条「どうしてカップル用なんて頼んでいるんだよ!?」

 その一言に尽きる。
 いや、確かに滝壺とカップル……なんて、嬉しくないはずがない。むしろ嬉しい。
 しかし、こんな堂々とは流石に恥ずかしいものがあるし、そもそも滝壺はそれでいいのかと。

上条(滝壺はそれで……)

滝壺「…………だめだった?」

上条(……いいん、だろうなぁ…………)

 きっと彼女は周りからどう見られか、など考えてはいないのだろう。
 こうなれば、彼も腹をくくる。
 


296:2010/10/23(土) 23:20:17.60 ID:oFueuQ.o

 座り、スプーンに手を伸ばした瞬間。
 スススッ、と滝壺がそのスプーンを取り上げる。

上条「え」

 彼は何か言おうとして上を向く。
 そこにあったのは、口元に寄せられたスプーンだった。

 上条は再び、思考が停止する。
 別にスプーンが宙に浮いて上条の口元に寄せられているわけではない。
 それの先を辿ると、辿りつくのは勿論滝壺。

上条「あ、あのー……滝壺、さん?」

 思わず一歩引くと、その分寄せてくる。顔をそらしてみても、それに付いてくる。
 つまるところ、これが指すところは一つ。。

滝壺「……あーん」

 それは、漫画やアニメに置いてよくあるシーン。
 カップルなどが食べさせ合いをするもので――つまり、このパフェにはうってつけのシチュエーション。


297:2010/10/23(土) 23:34:01.06 ID:oFueuQ.o

 嫌な予感。
 それがプンプンした。
 これを食べることではない、食べた後に起こる何か、それに対して。

上条「いやいや、待ってください滝壺さん!」

上条「そもそも量が欲しかったからカップル用を頼んだということで説明がつくのであって、カップル用だからそんなことをしなきゃいけないというわけではありませんですよ!?」

上条「そっちのスプーンを渡してくれたら、上条さんも普通に食べますかr」

滝壺「あーん」

上条「…………」

 どうやら聞く耳を持たないらしい。
 一つのパフェに対して、二回腹を括る事になるなど思っても見なかった。
 上条は観念して、その出されたスプーンを咥える。
 瞬間、間接キスという単語が脳裏をよぎった。


298:2010/10/23(土) 23:46:21.25 ID:oFueuQ.o

滝壺「……どう?」

上条「……うん、おいしいってか甘い」

滝壺「それじゃあもう一回」

上条「それだけは勘弁して……くだ…………」

 上条の言葉が途切れる。
 それは、滝壺からは見えない背後。
 窓、そしてその外。
 そこにいたのは、ただのクラスメート。
 しかし、節操のないことを全くもって赦さない、実行委員には目がない(実行委員をしている男に目がないというわけではない)委員長属性を持つ少女。
 そしてその隣には、もう一人、黒髪長髪の少女が立っている。
 その少女は驚いたように見ているだけだが、隣の委員長属性少女は今にも恨みだけで人を殺せそうな眼で上条を睨んでいた。

上条「は、はは、ははは……」

 乾いた笑い。
 インデックスや御坂美琴よりは問題はない。
 ……が、制裁を加えられる点では何ら代わりがない。

上条「不幸だ――――――――――ッ!!!」

 久々に、大声でこれを叫んだ気がする。


300:2010/10/24(日) 00:09:06.30 ID:LQhcO4Eo

上条「……疲れた…………」

 時刻は夕方。
 街角で彼らは一息入れる。
 昼間遭遇した吹寄制理、姫神秋沙を皮切りにして、様々な人と遭遇した。
 土御門元春、青髪ピアス。
 御坂美琴、白井黒子。
 月詠小萌。
 土御門舞夏。
 御坂妹、打ち止め。
 恐らくは、上条が知っている学園都市の知り合いほぼ全員と会ったのではないだろうか。
 幸運なのは、一方通行に出会わなかったことだろう。
 それでも……一度会うたびに一悶着あっては、疲れるのも道理だ。

滝壺「……かみじょうって、女の子の知り合い多いんだね」

上条「んー……?そうか?ふつうじゃないか?」

 普通、ではないと思う。
 彼ぐらいに友好関係が広いのは、そうそう居ないだろう。
 滝壺は空を見上げた。
 そこには夕焼けが広がっている。きっと明日は晴れだ。天気予報でもそう言ってる。

上条「……そろそろ、お開きにするか?」

 上条はそう提案する。
 もう暗くなる。一度ご飯を食べに来たことはあったが、今回それはないだろう。
 なら、別れるなら早いほうがいい。
 滝壺は数秒空を見つめた後、いつもの表情で上条を見遣った。

滝壺「……行きたいところがあるの」

 最後に――と付け加えたのは、風に消える。


301:2010/10/24(日) 00:18:52.74 ID:LQhcO4Eo

 道路から外れる。
 人の気配が消える。
 彼らが行くのは、そんなところ。

上条「……ここは」

 過去に、来た覚えがある。
 学校帰りになんとなくこっちに行きたくなって、来て、そして再開した――公園。
 人は居ない。前は子供が遊んでいたはずなのに。
 そんなことを思いながら立つ上条の手を、極自然に滝壺はつなぎ、引く。

滝壺「座ろう」

上条「……ああ」

 流されるまま……ではないが、少年と少女は、そのままベンチに座る。
 周りの木々が夕焼けの光を浴びて、燃えているようにも思えた。

滝壺「…………」

上条「…………」

 今日、幾度目かの沈黙。
 しかし、これは今までのとは気色が違う、と上条は感じた。


302:2010/10/24(日) 00:31:38.64 ID:LQhcO4Eo

滝壺「……ここで、かみじょうと再会したんだよね」

 滝壺はぽつり、という。
 上条はそうだな、とつぶやいて、続ける。

上条「あの時は驚いたよ、ほんと。風紀委員を通してじゃなくて、直接届けにきてくれたんだから」

滝壺「まだ、私達はお互いを知らなかったからね」

 くす、と彼女は笑う。
 なんだか、上条と会ってから感情表現が多くなった気がした。

滝壺「かみじょうは不思議だったから。皆通りすぎていくのに、私を助けてくれた」

上条「いや、困ってる奴がいたら助けるだろ、普通……」

滝壺「ううん、かみじょうは普通じゃないよ。かみじょうにとっては普通なのかもしれないけど、現に助けれくれたのはかみじょうだけだったから」

 そうして、また静寂。
 人の訪れることのないこの場所では、彼らの発する声と、あとは風の音ぐらいしかない。


303:2010/10/24(日) 00:44:05.35 ID:LQhcO4Eo

滝壺「……今日まで、ありがとうね」

 それは、つい先日までのことについて。
 『幻想殺し』の検証という名目で行った実験、その協力。

上条「いや、だから大した事してないって。……それに、痛かったのも最後だけだしな」

 最後の科学的なものを用いた攻撃を除き、あとは立っていて話たりする程度だった。
 だから、上条的には何かした、という実感はない。
 それどころか、自分の為に動いていたような気もしている。

滝壺「でも、言わせて」

 キュッ、と上条の手に力が加わる。
 それは滝壺が勢いつけて言うためにつないでいた手を握りしめたから。
 そして、彼女は告げる。

滝壺「ありがとう」

 滝壺の、淡い笑顔。
 上条はそれをみて、うつむき、やはり――と思う。
 ああ、やっぱり――自分は、この目の前の少女を――――、と。

上条「……滝壺、俺は、」

 顔を上げてそう言いかけた言葉。
 それを、上条は止めざるを得なかった。

 別に予想外の出来事が起こり、息が詰まったというわけではなく。
 攻撃されて、言葉を紡げなくなった、ということでもない。

 単純に、物理的に口を塞がれた。
 目の前に或るのは滝壺の目を瞑った顔。
 塞いでいるのは同じものと誇張しているような近さ。
 つまり、それは。
 キス、というものだった。


304:2010/10/24(日) 00:54:16.53 ID:LQhcO4Eo

 それは、たった数秒のことだっただろう。
 滝壺は寂しそうな笑みを浮かべたまま身を離し、手を放し。
 そして、紡ぐ。

滝壺「じゃあね、かみじょう」

 タンッ、と地面を足が叩く。
 少年へと背を向ける。
 もう、二度と会うことがないだろう少年から離れていく――。

 パシン、と腕を掴まれた。
 驚きに心臓が止まるかと思った。
 振り向くと、少年も驚いた顔でこちらをじっと見つめていた。
 しかし、チャンスと思ったのか、彼も言葉を言う。

上条「……また、な」

 少女の胸が引き絞られた。
 それは、約束。
 二度と会わない、という挨拶をした少女を縛る、もう一度あおう、という約束。

 少女はその彼の手を振って。
 そして、紅い公園の中を駆け抜けていく。

 少年はただ少女を見送って。
 そして、少女に不意打された唇をなぞる。


322:2010/10/26(火) 22:18:46.76 ID:mmUPI6Ao

土御門「なるほど、なるほど……」

 土御門元春はやっと合点が言ったように呟いた。
 手元にあるのは一枚の資料。
 彼がさんざん調べた結果手に入れたモノ。

土御門「確かに、『幻想殺し』をそうでない、と認識させるには彼女でなくとも、とは思っていたが……」

 『幻想殺し』を超能力であると否定するのは、別に『能力追跡』でなくとも構わない。
 なぜなら、その筋のプロフェッショナルが彼と親睦を深め、それを調べ、そう言うだけでいいのだ。
 事実、結論を出したのは布束砥信であり、滝壺理后ではなかった。

土御門「……確かに、これは。俺でも、魅力的には感じるにゃー……」

 ポス、と投げやりにそれを投げる。
 別にここは自分の部屋で、隠れ家だ。誰に見られる心配もない。
 それには、こうある。
 『滝壺理后超能力者進化計画』。
 それは、一人で学園都市の全てを補える能力への進化方法。

土御門「確かに、同時に進めるならこれ以上ない逸材同士だ。特にカミやんのフラグメイカーは筋金いりだからな……」

 肝心の『幻想殺し』の秘密がわからなかったが、まぁそれはかまわない。
 なんとなく自分には確信があるからだ。上条当麻は、そんなつまらないことに惑わされない、と。滝壺理后のことも、『幻想殺し』についても。
 だから土御門はおもむろに携帯を取り出して、コールする。
 三回コールしたところで、ブツッ、と音が、続いて返事が返ってくる。
 そんな彼に、土御門は告げる。

土御門「もしもしカミやん?学園都市第四位『原子崩し』って知ってるかにゃー」


323:2010/10/26(火) 22:33:59.71 ID:mmUPI6Ao

 彼女らの仕事、というのは毎日あるわけではない。
 それでも集会は頻繁にあるわけだが。
 だがその仕事も、最近はなんとなく連続しているように思えた。

滝壺(だけど……私にはただやるだけだから、関係ないけど)

絹旗「滝壺さん、隣いいですか?」

滝壺「表は?」

絹旗「ここから飛び出しても大して変わりませんよ」

 そう言って車内に入り込んだ
 今日はどこからかの防衛戦らしい、フレンダが既に防衛地に入って爆弾を仕掛けている。
 麦野はそれが零した奴の駆除。
 フレンダは優秀だが、爪が甘いからよくひとりふたり見落とすため、バックアップが必要なのだ。
 更に絹旗、滝壺がそれのフォロー。ここまで来ることは滅多にありはしないのだが。

絹旗「……今日はどうだったんですか?」

滝壺「……なにが?」

絹旗「例の少年のことですよ。今日も行ってきたんでしょう?」

 絹旗の言葉に、滝壺は黙る。
 確かに、行っては来た。だがそれは語るようなものではない。
 デート、だなんて愛らしいものではなく、最後のお別れだったから。


324:2010/10/26(火) 22:47:56.45 ID:mmUPI6Ao

滝壺「別に、なにも」

 平静を装ってそう返す。
 感情に乏しいためか、絹旗は気付かなかった。

絹旗「春、ですね。もうすぐ超冬ですけど」

 絹旗は窓の外を眺めながら言う。
 外からこちらの様子は見えない、特殊仕様のガラスだ。
 この中にいると、さながら出られない檻に閉じ込められている気分になる。
 さながら、間違ってはいないが。

絹旗「浜面もそろそろ彼女ぐらい超探したらどうです?」

浜面「簡単に探せるんなら苦労しねぇよ!」

絹旗「それもそうですね」

 運転席へと呼びかけ、絹旗はくすくすと笑う。

絹旗「兎にも角にも、私たち的には滝壺さんに幸せになって欲しいと思ってますよ。……麦野は、すこしわかりませんけど」

浜面「そうだぜ、滝壺。もしお前を泣かせることがあったら、あんなヤツぶっとばしてやるからな」

滝壺「……うん、ありがとう」

 彼女はお礼を言う。
 今は、 自分の幸せを願ってくれている二人に対して、心からそう思った。


325:2010/10/26(火) 22:56:52.65 ID:mmUPI6Ao

滝壺「……でも、私は――」

 もう、彼とは会わないから。
 そう言おうとした瞬間に、ガラッ、とドアが開く。

フレンダ「ふぃー……つかれたー」

 ぐでっ、としたフレンダが車のシートにもたれかかる。
 絹旗は超お疲れ様です、と言って、もう一人の姿を探す。
 ……が、それは影も見えなかった。

フレンダ「あー、滝壺ー、麦野がアッチで呼んでたよー」

滝壺「むぎのが?」

フレンダ「うん、なんか色々あるんだってさ」

 フレンダは言葉を濁し、自分が今来た方向を指す。
 いつもならば、能力者が逃げたから、というのが彼女を呼ぶ理由だろうが。
 今日に限っては、なにやら違う気がした。

滝壺「……わかった、行ってくる」

絹旗「気をつけてくださいね」

 絹旗の言葉を背に受けて、滝壺は施設の中へと向かう。
 違和感を胸に秘めたまま。


326:2010/10/26(火) 23:06:58.96 ID:mmUPI6Ao

 滝壺が去った後、数秒の沈黙が訪れる。
 それを壊すのは、絹旗。
 確認するようにフレンダに言う。

絹旗「……フレンダ、もしかして、麦野は……」

フレンダ「あー……うん、そう」

 肯定。
 最後まで言わずとも、理解はできる。
 麦野は滝壺の居場所を奪うつもりだ、と。
 それをわざわざ滝壺に告げる意味は単純明快だ。
 縛るため。
 或いは、脅すため。
 もう会わないと約束しないと。或いは、能力をちゃんと使えと。
 もしくは、その両方。麦野ならきっと、両方を選ぶ。

浜面「……なんていうか、俺らにはどうしようもないことなのかな」

絹旗「……少なくとも、私たちにはとめる権利は超ありませんね」

 一度見逃されている身の上。
 逆らったら、間違いなく死が待つだろう。

絹旗「願わくば、滝壺さんが無事であることを――――ん?」

フレンダ「どうしたの、絹旗?」

絹旗「……いえ、なんでも」

 駆け抜けていく影のようなものが見えた気がしたのは、きっと気のせいだろう。
 絹旗はそう片付けて、滝壺の無事を祈った。


327:2010/10/26(火) 23:20:33.73 ID:mmUPI6Ao

 こつこつ、と足音が反響する。
 辺りには重器材が惜しげもなく置いてある。
 もっとも、ここを戦場にする時点で重要なものは移しているためにここにあるのは全く必要ないものなのだが。
 他には天井が崩れたあとの瓦礫――フレンダがツールで落としたもの――が沢山落ちている。
 その奥に、彼女はいた。
 動かない人間の中心にありながら、返り血一つ浴びている様子もなく。

麦野「ああ、やっときたか」

 そこにいつもの軽い口調はない。
 いやキレている時に比べれば今は随分とマシなものだが、それでも、だ。

滝壺「どうしたの、もう終わってるみたいだけど」

麦野「あー、これ関係ないから気にしないで」

 うん、と答えてからおかしく思う。
 動かない人間を気にしないで、等というのはおかしいだろう。
 そして、それに躊躇いもなくうん、と答えれる自分もどこか人としてズレている。

滝壺「それで……どうしたの?」

麦野「あい、んじゃ、単刀直入にいうわ」

 麦野は一拍置いた後、告げる。

麦野「滝壺の知り合いの、あの上条当麻とかいうの、殺すことにしたから」


330:2010/10/26(火) 23:29:58.41 ID:mmUPI6Ao

 自分はいま、どんな顔をしたのかわからなかった。
 唖然としているのか、呆然としているのか。
 怒っているのか、悲しんでいるのか。
 或いは、いつもどおりに無表情なのか。
 それほどまでに、滝壺は自分の中に沸き起こる感情が制御できなかった。

滝壺「どうして」

 思わず、口をついてそうでていた。
 それが間違いだと気付くのは言ってから。

麦野「やっぱ、ねぇ……」

 麦野は足元の動かないそれを掴み、投げ飛ばす。
 それは受身すらとらず、地面を赤く染めながら転がる。

麦野「今のが答えよ、滝壺。反射的にどうして、なんて口に出るくらい、あれの事が大事大事ってことでしょ」

麦野「このままだったら、この先の仕事に支障が出かねない。だから、殺るの」

 それは、前々から麦野が散々思っていたこと。
 どうせ後数回で壊れるかもしれないが、使えるものは限界まで使うのが彼女だ。
 だから邪魔な存在を破壊する。当然だ。



331:2010/10/26(火) 23:39:57.44 ID:mmUPI6Ao

 滝壺は気持ちを落ち着ける。高ぶった感情をぶつけても意味はない。だから数回深呼吸して返す。

滝壺「その心配は、ないよ」

麦野「なんで?」

滝壺「だって、かみじょうとは……今日、別れを告げてきたから」

 そうだ。
 自分は上条当麻とは、もう既に接点を絶った。
 彼を殺す理由は、何一つないのだ。

麦野「ふぅん……なるほど、なるほどねぇ……」

 タンタン、と足先だけを動かして音を響かせる。
 思考までの場つなぎ。

麦野「……じゃ、今すぐ殺すのはやめにするとしても、一応保険かけておくわ」

滝壺「保険?」

麦野「そ」

 滝壺の鸚鵡返しに麦野は短く答える。
 そして、指を二つだけ立てた。

麦野「一つ。上条当麻と、もう二度と会わないこと。二つ、能力を使う際にためらわないこと」

麦野「これを守れなかったら、即アレを殺す。今ここで守れないっていっても、今から殺しに行く」

 その言葉には、ありありと本気が見て受け取れた。
 彼女は、やるといったらやる。

麦野「さぁ、滝壺。誓いなさい」


332:2010/10/26(火) 23:46:57.05 ID:mmUPI6Ao

滝壺「――――」

 誓う。
 誓える。
 上条当麻とは関わりを持たないのだから、誓える。

滝壺「――――――」

 ……だというのに。
 喉は震えず、自分の言うことを聞かず、それを誓わせない。


『――また、な』


 リフレイン。
 夕焼け、別れ際。
 また今度、と言う意味の、別れの言葉。
 大切な人と交わした、交わされた、約束。

滝壺「――――――――」

 どれだけ、麦野に誓おうとしても。
 それは、全く叶わない。

 当たり前だ。
 大切な人と、大切になった人と別れの言葉一つだけで別れることなど元から出来はしないのだから。
 それが、更に約束を交わしたとなれば、尚更。


333:2010/10/27(水) 00:00:02.04 ID:OdA.cwQo

 そんな彼女を、麦野はやっぱり、と言った面持ちで見つめる。
 彼のために誓おうとして、しかし誓えない彼女を冷たい視線で射抜く。

麦野「……もういいわ、滝壺」

 こうなれば、やはり当初の予定通りに決行する。
 そうすれば、滝壺の居場所は奪われ、能力を使うのに躊躇う理由もなくなるのだから。

麦野「殺るわ、あいつ」

 滝壺が息を飲むのがわかった。
 だが彼女はそんなことを意にも快せず、髪を掻き上げて彼の元へと向かおうとする。


 約束を守らないならば、彼が殺される。
 けれど、約束を守ることなどきっとできない。
 ならば、どうする?どうすればいい?
 答えは、一つしかない。
 そうだ。
 彼にも言ったはずだ。
 『私は、大能力者だから』。
 『私は、AIMストーカーだから』。
 だから、無能力者の上条を守ってみせる、と。


滝壺「……行かせない」

 当然、彼女は立ちふさがる。
 麦野は最初から、それすらも想定している。

麦野「だったら、滝壺を倒してテメェの前でアイツをぶっ殺してやるよォォオオオオオオオオッ!!」

 滝壺は一直線に向かってくる麦野に対して。
 ポケットからそのケースを取り出し。
 中の粉を、嚥下した。


343:2010/10/30(土) 21:22:44.25 ID:F6kfzBMo

 上条当麻は走っていた。
 それは、つい先ほど来た土御門元春からの電話によって。

 滝壺と別れて、数十分。
 適当に食材を買って帰り、インデックスと食事をとり終えた後。
 ふとテーブルに置いておいた携帯を拾い上げたその瞬間に見計らったかのようにベルが鳴った。
 表示されるのは、隣人の名前。
 怪訝に思いながらも通話ボタンを押し、自分だと言うことを示す。

上条「はいはい、こちらカミジョーですよ」

土御門『もしもしカミやん?学園都市第四位『原子崩し』って知ってるかにゃー』

 開口一番、そんなワケの分からない質問が飛んできた。
 内容を理解するのには三秒とかからないが、どうしてそんな質問をしてくるのかが理解できない。

上条「……はぁ?第四位って……あれだよな、御坂が第三位だから……」

土御門『そうだぜい、第四位は『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』に続く二三〇万人の上から四番目の存在だぜい』

上条「……で、その……めるとだうん?さんが俺に何か関係あるのか?」

土御門『いやいや、カミやんにというより、カミやんが最近親しくなった人、かにゃー』

 ついでにメルトダウンじゃなくて、『原子崩し』だぜい、という言葉を遠くに、上条は思考する。
 最近親しくなった人物。その存在といえば、一人しか存在しないだろう。


344:2010/10/30(土) 21:40:08.40 ID:F6kfzBMo

上条「……土御門が、どうして滝壺のこと知ってるんだ?」

土御門『土御門元春ことつっちーさんはスパイですよ?いまや危険度の高い上条勢力を把握しておくのは当然だとおもうんだがにゃー』

 なるほど、とは思う。
 『御使堕し』の時にそれは既に知っている。優秀だということも。
 上に報告する、しないにしてもそういった情報を取得しておくのは極自然なことだと理解した。

土御門『ま、それはそれとして……その滝壺さんがピンチだって知ったらカミやんどうする?』

上条「え、どういうことだ!?」

 当然の大声に、テレビの前を陣取っていたインデックスは思わず彼を見上げる。
 上条はそんなことを介にせず、続けた。

上条「どうして滝壺がピンチなんだよ!?土御門、何か知ってるのか!?」

土御門『まーまー、落ち着けよカミやん。いや、今は一分一秒が大事だが、それよりも冷静になる方が先決だぜい』

土御門『とりあえず続けるのがご所望みたいだから続けるが、一度しか言わないからな?』

 上条は途端に喉を鳴らす。
 一言一句聞き逃すまいと耳に神経を集中させる。

土御門『滝壺理后とその第四位は……そうだな、依頼を受けるチームとでも思ってくれればいい、そのチームメイトなんだ』

土御門『基本的にそのチームというのは……活動はいいか、とにかくまぁ、おおっぴらには出来ないものと認識してくれ』

上条「……それがどうして滝壺の危機に繋がるんだ?」

土御門『話はまだ途中だ。とにかく全部聞けよ』

 逸る上条を土御門は戒める。


345:2010/10/30(土) 21:53:31.78 ID:F6kfzBMo

土御門『滝壺はそのチームの中でも一際重大な役割を担っている。その理由は珍しい能力ゆえに』

 『能力追跡』。一度補足した能力者は、例え太陽系の外に逃げても位置を確認することが出来る能力。
 それが珍しい能力だということは上条は聞いた時から分かっていた。

土御門『……滝壺はその能力を全力で使うには、とある物質を利用しなければならない』

上条「とある、物質?」

土御門『カミやんには聞き覚えがないだろうが……『体晶』っていう奴だ。意図的に能力暴走を引き起こす物質。身近なもので言うと大麻みたいなものだ』

 能力暴走――と、声に出さず紡ぐ。
 それがどんなことを意味するか、上条はあまり理解出来ない。だが、大麻と同義から危ないことだということはわかる。

土御門『それを使わずともそこそこは能力を使用できるが、彼女はそれを使って初めて、大能力者というレベルになる』

土御門『……そこまでしなければ、実戦では使えない。それはカミやんでも理解できるだろう?』

上条「……日常で役に立つレベルがレベル3で、戦術的な価値を持つようになるのがレベル4……だろ?」

土御門『その通り。そして、彼女らのチームの依頼というのは、主に戦闘……つまり、そこでいう戦術的な価値が必然的に求められるわけだ』

上条「っ」

 ここまで言われれば、馬鹿でも気がつく。

上条「ってことは、その『体晶』って奴を滝壺は何度も使ってるってことなのか!?身体に悪いのを承知で!?」

土御門『ああ、そうだカミやん』

 上条の驚きと怒りを秘めた言葉を、土御門は静かに肯定する。


346:2010/10/30(土) 22:05:24.49 ID:F6kfzBMo

土御門『だが、聞け。彼女はそれを使いたくない、と最近思い始めてきたんだ』

土御門『今までは思わなかったが、身体が壊れてしまうのが恐ろしいと。大切なものを目の前にして、その考えが浮かんできた』

土御門『その大切なモノ……何かわかるよな?ここでわからないとかほざいたら一撃入れに行くぞ』

上条「……俺、か」

 言って、空気にそぐわず、なんとなく嬉しくなる。
 自分が思っていたように、相手も自分を思ってくれていたんだ、と。
 ただのギブアンドテイクの関係ではなかったんだ、と。

土御門『だが第四位は非情だ』

 上条の耳に、そんな声が響く。

土御門『アイツは自分以外の人間がどうなろうが、知ったこっちゃない。その身が滅びようが、死ぬまで能力を使い続けさせるつもりだ』

土御門『その為に邪魔な存在は、消す。つまり、カミやんを消そうとしていたわけだ』

上条「……え?」

 妙に現実味のない言葉があった。
 消す。
 土御門はさらりといってのけたが、それは異常なことではないか。
 引き離すでも別れさせるでもなく、消す。
 文字通りの意味以外に捉えるには、あまりにも難しい文字。

 そこで、カチン、と合点が言った気がした。
 滝壺は何か思いつめていたような表情をしたこと。
 じゃあね、という単語が嫌に重く感じたこと。
 またな、と言ったときに悲しそうな顔をしたこと――――


348:2010/10/30(土) 22:20:51.20 ID:F6kfzBMo

上条「滝壺は……俺を守るために、別れた?」

土御門『……お前たちの間に何があったのかわからないが、そう感じたならそうなんだろう』

土御門『しかしながら。第四位はそんなことでは納得しない。きっと彼女はこう言う』

土御門『「もし、能力を全力で使わなければ、お前の大事なものを奪う」、と』

 何故、という言葉が浮かぶ。
 滝壺が意を決して、守るために別れたというのに。
 どうして、そこまで念入りに押し込む必要があるというのか。

 芽生えるのは、怒り。
 携帯を持っていない手に思わず力が入り、爪が手に食い込んで小さく血が流れる。

土御門『このまま滝壺理后が『体晶』を使い続けると、彼女はおそらく死ぬ』

土御門『それを止めたいか?彼女を取り戻したいか?』

上条「ったりまえだ!そんな人間を使い捨てな道具としか思ってない奴に滝壺を任せていられるか!!」

 土御門はそうか、といい。
 一つの場所を告げる。

土御門『……そこで、今彼女らのチームが仕事をしている』

土御門『彼女を救いたいなら、助けたいなら。行け、カミやん』

上条「……サンキューな、土御門」


349:2010/10/30(土) 22:26:48.11 ID:F6kfzBMo

 上条は短くそう言って、電話を切る。
 そのままそれをポケットに滑り込ませ、上着を羽織った。

禁書「……とうま、どこかにいくの?」

上条「ああ、少しな。すぐ戻ってくる」

 少し冷淡かな、と言ってから思った。
 しかしインデックスはそれに対して睨みもせず、文句も言わず、ただ言う。

禁書「とうま。別にケガするな、とか、私も連れてって、とかはいわないかも」

禁書「だけど、これだけは約束して」

 インデックスは真剣な顔をして、上条を見詰める。
 そこに、様々な感情も込めて。

禁書「絶対に、りこうを連れて帰ってくるって」

 インデックスは、言う。
 大事な人を連れ帰ってこないと赦さない、と。

 上条はそれに一瞬だけ呆気にとられて。
 そして、頷く。

上条「勿論。絶対に滝壺は連れて戻ってくる」

 それだけ言い。
 夜の街に、彼は飛びこんだ。


354:2010/10/31(日) 00:05:12.51 ID:AyXQmREo

 バシュン、と頬をそれが掠める。
 本来ならそれは肩を貫いていたはずだ。その事実に麦野は舌打ちをする。
 乱されている。

滝壺「っ」

 至近距離、真横に振るわれた拳を滝壺は屈んで避ける。
 顔面に膝が迫る。
 思わず手で受け止めようと試みるが、その勢いのまま真正面から膝蹴りを受けた。

 がしゃん、とポケットからスタンガンがこぼれ落ちる。
 彼女の武器だ。
 いくら後衛と言ったって、戦闘に巻き込まれることはある。それが野戦というなら尚更。
 だから絹旗は危なっかしい滝壺には余程使用法を間違えなければ自滅もしないこれを手渡した。
 しかしながら、目の前の女性にこれは効かない。電子を操る存在に、効くほうがおかしい。

麦野「……へぇ」

 麦野は足元まで転がってきたそれを拾いあげて、試しに手元でスイッチを入れる。
 バチバチバチ!と市販のそれより強い電気が爆ぜた。
 僅かに、暗闇を照らす。

麦野「……滝壺。アンタのせいでさ、無闇矢鱈に能力使えないのよね」

麦野「能力乗っ取ろうとしてさ、AIM拡散力場乱しやがって……アンタを[ピーーー]つもりはないんだから、大人しく――ッ!」

 ブゥン、と眼前にそれが出現した。
 麦野は思わず首を無理矢理に反らす。
 『原子崩し』。麦野沈利の能力。それなら、避ける必要などない。
 しかし。
 今は、何の意識もしていなかった。


355:2010/10/31(日) 00:06:21.89 ID:AyXQmREo

 バシュン、と頬をそれが掠める。
 本来ならそれは肩を貫いていたはずだ。その事実に麦野は舌打ちをする。
 乱されている。

滝壺「っ」

 至近距離、真横に振るわれた拳を滝壺は屈んで避ける。
 顔面に膝が迫る。
 思わず手で受け止めようと試みるが、その勢いのまま真正面から膝蹴りを受けた。

 がしゃん、とポケットからスタンガンがこぼれ落ちる。
 彼女の武器だ。
 いくら後衛と言ったって、戦闘に巻き込まれることはある。それが野戦というなら尚更。
 だから絹旗は危なっかしい滝壺には余程使用法を間違えなければ自滅もしないこれを手渡した。
 しかしながら、目の前の女性にこれは効かない。電子を操る存在に、効くほうがおかしい。

麦野「……へぇ」

 麦野は足元まで転がってきたそれを拾いあげて、試しに手元でスイッチを入れる。
 バチバチバチ!と市販のそれより強い電気が爆ぜた。
 僅かに、暗闇を照らす。

麦野「……滝壺。アンタのせいでさ、無闇矢鱈に能力使えないのよね」

麦野「能力乗っ取ろうとしてさ、AIM拡散力場乱しやがって……アンタを[ピーーー]つもりはないんだから、大人しく――ッ!」

 ブゥン、と眼前にそれが出現した。
 麦野は思わず首を無理矢理に反らす。
 『原子崩し』。麦野沈利の能力。それなら、避ける必要などない。
 しかし。
 今は、何の意識もしていなかった。



356:2010/10/31(日) 00:07:14.85 ID:AyXQmREo

 バシュン、と頬をそれが掠める。
 本来ならそれは肩を貫いていたはずだ。その事実に麦野は舌打ちをする。
 乱されている。

滝壺「っ」

 至近距離、真横に振るわれた拳を滝壺は屈んで避ける。
 顔面に膝が迫る。
 思わず手で受け止めようと試みるが、その勢いのまま真正面から膝蹴りを受けた。

 がしゃん、とポケットからスタンガンがこぼれ落ちる。
 彼女の武器だ。
 いくら後衛と言ったって、戦闘に巻き込まれることはある。それが野戦というなら尚更。
 だから絹旗は危なっかしい滝壺には余程使用法を間違えなければ自滅もしないこれを手渡した。
 しかしながら、目の前の女性にこれは効かない。電子を操る存在に、効くほうがおかしい。

麦野「……へぇ」

 麦野は足元まで転がってきたそれを拾いあげて、試しに手元でスイッチを入れる。
 バチバチバチ!と市販のそれより強い電気が爆ぜた。
 僅かに、暗闇を照らす。

麦野「……滝壺。アンタのせいでさ、無闇矢鱈に能力使えないのよね」

麦野「能力乗っ取ろうとしてさ、AIM拡散力場乱しやがって……アンタを殺すつもりはないんだから、大人しく――ッ!」

 ブゥン、と眼前にそれが出現した。
 麦野は思わず首を無理矢理に反らす。
 『原子崩し』。麦野沈利の能力。それなら、避ける必要などない。
 しかし。
 今は、何の意識もしていなかった。



358:2010/10/31(日) 00:15:41.99 ID:AyXQmREo

 瞬間、麦野の顔があった部分を、それが射抜いた。
 一歩でも遅れていたら自分の目が刳り抜かれていたことだろう。
 能力の暴走、或いは乗っ取り。
 考えられるのはそのどちらか。そして、そのどちらも目の前で立ち上がる少女に可能なこと。

滝壺「……かみじょうのところへは、いかせない」

 口の端から血が垂れる。
 先程の膝蹴りでどこか切れたのだろう。受け止めたはずの左手も真っ赤に腫れている。
 それでも、立ちふさがる。
 今までの滝壺理后には見られない兆候。
 それほどまでに、その男が大事なのか。

麦野(……もういっそ、ここで捨てたほうがいいか?)

 自分の身を犠牲にしてまで守りたい男を殺すと、別の意味で彼女は壊れてしまうかもしれない。
 ならば、いっそ彼女も、その男も両方共殺してしまうというのはどうだろう。
 ああ、それは名案だ。なにせ、照準がズレているからといって『原子崩し』を封印する理由にはならない。

麦野「……そうだな、そうしよう」

 麦野沈利は冷静さを欠いていた。
 どちらかを殺せばもう片方は片付ける必要はないというのに、彼女は今感情に任せている。



359:2010/10/31(日) 00:30:29.46 ID:AyXQmREo

麦野「喜べ滝壺。一緒にあの世に送ってやるよ」

 麦野はふらふらとして今にも倒れそうな滝壺へと一歩踏み出す。
 彼女の血の気は引いて、回避行動も取れなさそうだ。
 つい、と手を伸ばして、そこに『原子崩し』を生み出す。
 酷く照準がずれている。だが第四位の演算能力を以てすれば、そんなものどうにでもなるだろう。

麦野(……射出方向左に69°、上に53°修正)

 えらく手間がかかるが、まぁ仕方があるまい。
 どうせ避けられないのだから、時間をかけてもいいだろう。
 狙いは、頭。

麦野「……射出」

 ズバン!と打ち出された『原子崩し』は自分の足元、脇腹にも飛び、焼けるような痛みが走った。
 しかし、滝壺へと放ったそれは真っ直ぐに、彼女の頭に吸い込まれる。
 殺した、と思った。
 しかし前触れもなく、彼女はふらっ、とそれを避ける。

麦野「なんっ、」

 追撃しようと駆け出しかけるが、彼女は重力に逆らわず、地面へと叩きつけられた。
 今のは避けたわけではない。その答えは至極単純。
 限界が来たのだ。


360:2010/10/31(日) 00:43:04.21 ID:AyXQmREo

麦野「…………」

 滝壺はもう動かない。
 恐らくは、もう一、二度能力を使うだけで崩壊するだろう。
 利用価値など殆どない。

滝壺「……いか、せ。な…………い」

 荒い息の中で、滝壺はしきりに呟く。
 しかし、動かない。動けない。
 既に、麦野沈利を邪魔するものはなくなっていた。

麦野「はっ」

 彼女は鼻で笑う。
 コツコツ、とわざとらしく地面と脚をぶつけて、至近距離で彼女を見下ろした。

麦野「ざまぁねぇなぁ滝壺。私を止めようとして、逆らった結果が自分の破滅か!」

麦野「このまま殺してもいいが……放っておいても死にそうだからな。そうだな、やっぱり当初の予定通り、上条当麻を殺しに行くとするか!」

 ぴくり、とだけ滝壺は反応する。 しかし、それだけだった。
 ケラケラケラ、と麦野は笑う。
 心底、面白そうに。

麦野「ほら、ホラァアアあああああああっ!!もっと抗ってみろよォオオオオおおおおおお、殺させねぇんだろォオオオオおおおおおおおおおお!?」

 ガッ、と滝壺の肩に脚を引っ掛ける。
 そして、ゆっくり、ゆっくりと万力のように力を加えていく。
 滝壺の顔が悲痛に歪み、その肩はミシミシと音を立てる。

滝壺「っ…………ぐ、ぁ……っ……!」

麦野「ふっ」

 麦野は力を乗せ、踏み込んだ。
 なんとも、形容しがたい音が鈍くして。
 滝壺の絶叫が短く響いた。


361:2010/10/31(日) 00:56:33.37 ID:AyXQmREo

麦野「……運がよかったねぇ。『ハズレタ』だけですんで」

 麦野はその腕を、軽く蹴る。
 それだけで激痛が走るのか、滝壺は悲鳴をあげた。

滝壺「あ、ぐ……ぅ…………」

麦野「『あぐぅ』って萌えキャラかよ。それなら、もっと愉快にしてあげましょうかねぇ?」

 ガッ、と滝壺の顔をアイアンクローで掴み、そして引き上げる。
 それだけでも滝壺から声が漏れる。
 ……いや、もはや声とも言えない。呻き声に他ならない。

麦野「さぁて……死にかけのお前の前で大事な大事な彼を殺すのと、お前の顔をぐっちゃぐっちゃにして、それをその彼の前に差し出すの、どっちがイイ?」

 それはもはや、選択ですら無い。
 どちらを選んでも、向かう方向は決まっているのだ。
 即ち、絶望。

滝壺「……ぁ」

 滝壺は漏らす。
 痛みに苦しみながらも、それを伝えようと。

麦野「ん?」

滝壺「かみ、……――……」

麦野「……言いたいなら、もっとはっきり言えよ」

滝壺「――かみ、じょ…………だめ」

 麦野がはぁ?と言うと、彼女の肩に、手が乗せられて。
 それに呼ばれて、振り向くと同時。
 彼女の右頬に、強烈な右ストレートが入る。


363:2010/10/31(日) 01:06:50.23 ID:AyXQmREo

 麦野はそれの勢いで数メートル、吹き飛ばされる。
 滝壺は彼女の手から解放されて、地面に崩れる前にその少年の手に受け止められる。
 温かい、腕の中。
 駄目、と言ったが、それだけで安心したような気分になる。

 手の中の彼女から伝わる体温は、思っていたものよりずっとずっと低いものだった。
 生きている人間とは思えないほどの低さ。
 そして、口の端や、倒れた時にこすったいたる所から赤いそれが垂れていた。

上条「滝壺……お前……」

滝壺「……ごめんね、かみじょ……わたし、まもりきれなかった…………」

上条「いい、喋るな」

 言いたいことは、沢山ある。
 どうして何も相談してくれなかったのか。
 どうして勝手に自分を犠牲にして俺を守ろうとするのか。
 訪ねたいことも、沢山ある。
 けれど、それよりも、なによりも。
 上条当麻は見据える。その、数メートル先にいる化け物を。
 それは、彼に殴られた部分を拭って、人を殺せそうな視線で彼を睨んでいた。
 しかし、上条はそれに臆せず、拳を向けて、ただ宣言する。

上条「滝壺を傷つけた分。やり返させてもらうぜ」


373:2010/11/02(火) 22:43:58.13 ID:5hG4BSoo

ペッ、と麦野沈利は地面に唾を吐き捨てる。
 赤いものが混じった唾。
 それこそ、今の一撃をまともに受けたと他ならない。
 それに、麦野は苛立を隠せない。

麦野(ただの、無能力者如きに)

 彼女はそういった『序列』にこだわっている節がある。
 三位と四位の違いは殆どないにしても、自分が下であることに苛立を持っているのは確実だし、無能力者に対してはゴミ同然にしか思っていない。
 それどころか、レベル4の滝壺や絹旗でも簡単に見捨てるような性格の持ち主だ。
 無能力者から打撃をもらい、こんなザマになっていることに怒りを感じない方がおかしい。
 最も、ただの無能力者ではないことは重々承知している。
 ただのそれなら滝壺が興味をもつはずはないし、こんなタイミングよく現れることもない。

 だが、そんなことは関係ない。
 相手が何者だろうが、例え能力者だったとしても。
 自分が殺すことには、何ら変わらないのだから。

麦野「やりかえさせてもらう、ねぇ……」

 ブン、と煌めくそれを宙に浮かせ、次の瞬間には高速でそれを打ち出していた。

麦野「こっちの台詞だっつぅのっ!!」

 滝壺に乱された『自分だけの現実』から、またあらぬ方向に幾つか反動のように飛んでいくが、そんなことはいい。
 ただ一直線に打ち出した『原子崩し』、それは闇を切り裂いて、滝壺を抱く上条へと迫った。




374:2010/11/02(火) 23:02:49.46 ID:5hG4BSoo

 それに対して、上条はたった一言。

上条「邪魔、だ」

 パァン!と裏拳気味で横薙ぎに右手を払う。
 たったそれだけ。それだけの行動で、彼女が放った『原子崩し』は横へと反れ、宙へと霧散する。

麦野「は?」

 思わず、間抜けな声が漏れてしまった。
 普通じゃない、普通じゃないとは思っていた。でも関係ないと思った。
 だがしかし。
 素手で『原子崩し』を弾き、消しとばすなど、あまりにも『普通じゃない』。

麦野「……っ、アンタ、一体何モンよ……」

 彼女にしては警戒深く、慎重に訊ねる。
 しかし、上条にそんなことはどうでもいい。
 ただ右手に宿る『幻想殺し』が麦野の『原子崩し』を打ち消したことなど、どうでもいい。

上条「……すまん滝壺、少しだけここで寝ててくれ」

 上条は左腕で抱いていた滝壺をそっと床に倒し、そしてそれと麦野の間に立つように立ちはだかる。


375:2010/11/02(火) 23:32:59.97 ID:5hG4BSoo

 そうして向き合い、数瞬の間が経過する。
 聞こえるのは滝壺の荒い息遣いぐらいのものだった。

麦野「……黙り?まぁ、それでも関係ネェか……」

 先程の答えが待つのをいい加減に飽きた麦野は能力の誤差を確かめながら続ける。
 そうだ。どちらにしても、関係はない。
 能力が消えるのがあまりに不意だったから動揺してしまったが、アッチから攻撃を仕掛けてくる様子はない。
 つまり、あれは偶然か、或いは道具か。はたまた、隠し持っていた特別な能力だとしても、それは防御専用だということ。

麦野「こねぇんなら……こっちからいくぜぇっ!!」

 ダンッ、と麦野は僅かな痛みが走る脚を踏み出し、上条へと迫る。
 上条は素早く小慣れたファイティングポーズをとって、同じく踏み出した。
 先手を打つのは勿論麦野。
 ブンッ、と右方向から横薙ぎに振るわれたフックを上条は腕を盾にしてガードする。

上条「っ!」

 ピリピリと、腕に振動が走った。その勢いで軽く横に払われる。
 ただの女性の攻撃ではない。能力にしがみついているだけの能力者の攻撃力じゃない。

 上条は払われた後バランスを立て直し、そのまま反発力を利用して地面を叩き、足をバネのようにして麦野へと跳びかかる。
 真正面の、ストレート。
 顔面を捉えたと思われたそれは、紙一重で身体ごと横に回避される。
 殴るつもりで身体ごと跳びかかってそれが交わされたとなれば、何も彼を受け止めるものはなく、無防備に麦野の前へ躍り出ることになる。

麦野「ふっ、と!」

 麦野の長髪が、舞う。続いて、ドゴン!と上条の腹部にそれはクリーンヒットした。
 遠心力を利用した回し蹴り。あの状態では、どうしてもかわせない。


376:2010/11/02(火) 23:44:36.02 ID:5hG4BSoo

 投げられた野球ボールが打たれたとき、遠くに飛んでいくように。
 ボクシングなどの格闘技でカウンターが通常より強い威力を誇るように。
 全速力とは言わずともスピードの出ていた上条に反対の力が加わるとどうなるかぐらいは予想がつく。

上条「がぁっ!?」

 数歩の距離、無様に背面に腹部を押さえて転がる。
 しかし上条の直感が告げていた。このまま倒れていてはいけない、と。
 彼は横に転がりながら立ち上がる。
 次の瞬間、上条のいた場所を光が貫いていた。

上条「っ……」

 息を飲む。背筋に悪寒が走った。
 あのまま倒れ伏していたなら、オレンジ色に焼けていたのは自分だった、と。

麦野「チッ……本来ならその程度、簡単に修正できてたハズなんだけど……滝壺も余計なことをしてくれたわ」

 調子の悪い腕時計を確認するように麦野はその右手を振る。
 実際に調子がわるいのはその能力だが、大差はないだろう。
 上条は麦野の動向に警戒しつつ、腹部の調子を触って確かめる。骨まではいっていない。自分の身体の丈夫さに今は感謝する。


377:2010/11/03(水) 00:01:29.10 ID:s8YRY9Qo

上条(戦い、慣れてる)

 一番最初のフックの威力、そして冷静に攻撃を見極め、そしてカウンターに繋げる思考。
 明らかに喧嘩慣れをしている動き。
 単純に能力を盾にしている者の動きではなかった。
 どこぞの魔術師に見習わせてあげたかった。

上条(……俺も、殴り合いなら慣れてるはずなんだけどな)

 一応不幸により絡まれやすい彼はそこそこの強さはある。
 だからこそ、麦野の強さがよくわかった。
 能力と格闘を合わせて使う奴ほど、厄介な相手はいない。
 能力にしても格闘にしても、どちらかならばそのどちらかに警戒していれば済む話だ。幸運にも、上条は『幻想殺し』などというジョーカーを持っているのだから。
 しかし、合わせて使われる場合に圧倒的不利な状況に追い込まれる。
 至近距離で能力を使われ、それをまともに喰らったとしたら一溜まりもない。だから常にそれを前提条件として行動しなければならない。
 だから一歩、どうしても遅れてしまう。
 致命的な差。それに上条は歯噛みする。

上条「ちくしょう……」

麦野「無駄口を叩いてる暇は、あるの?」

 タンッ、という軽快な音と同時。
 麦野は再び彼との距離を詰める。


378:2010/11/03(水) 00:15:15.83 ID:s8YRY9Qo

上条「くそっ!」

 今度は防戦一方。反撃する暇などない。
 ジャブ、ジャブ、フック、ストレート。
 ボディ、アッパー、ハイキック。
 麦野は素早く技を繰り出しながら翻弄し、その中に時折本命の一撃を混ぜる。
 それすらも上条は回避する。そのかわりに、反撃の糸口は一切見つからず、攻撃を捌く今年か出来ていないが。

麦野「――っ!」

 キュガッ!、と麦野は右足を軸に自分の身体を一回転させ、高く振り上げた左足の踵で上条の側頭部を狙う。

上条「っと!」

 咄嗟に上条は後ろに跳び、距離をとる――
 その彼の身体が、揺らいだ。

上条「なっ!?」

 足元に大きな石のような何かが引っかかったような感触。
 それは上条が来る前、『アイテム』の仕事でフレンダが作り上げた天井の欠片。
 バランスを崩し、そして尻をつくように転ぶ。
 無論、その隙を見逃す彼女ではない。

上条(しまっ――――っ!!)

 バシュン!と一閃。
 右手以外ではまるで防ぐ余地のない、『原子崩し』が上条当麻へと放たれた。


381:2010/11/03(水) 00:31:13.54 ID:s8YRY9Qo

 チリッ、と髪の毛を僅かに削りとる。
 しかし、それだけだ。
 上条当麻へ致命的なダメージを与えることはできなかった。

上条「…………!」

 上条も素早く立ち上がるが、麦野が追撃を仕掛けてくる気配はない。
 今彼女は上条ではなく、他のことに気をとられているようだった。
 当然だ。
 今の彼女の計算は完璧だった。上条当麻の眉間を確実に射抜く『原子崩し』を発したはずだった。
 それなのに、『原子崩し』は斜め上にずれて、僅かに数ミリ髪の毛を削っただけ。
 これの指すところは、ただひとつ。

麦野「また、アンタか……とことん、邪魔しやがって……」

 麦野は言う。しかしそれは目の前の上条へ向いていない。
 彼女の背後。たん、たん、とゆっくりとした一定のペースで近づく足音。
 闇の中から、スローペースで姿を現すのはこの戦いの中心人物。

上条「滝、壺……!?」

 息を荒らげながら彼らを見る彼女は、滝壺理后に他ならない。
 ここまで来たら、上条ですらいくらなんでも理解する。
 先程の『原子崩し』が外れた理由。
 能力を使用する際に、何かに割り込まれたと考えるのが正しい。
 『自分だけの現実』を再び乱され、照準を滅茶苦茶にされた、等。


382:2010/11/03(水) 00:51:02.40 ID:s8YRY9Qo

 それを行うには、通常の滝壺のスペックでは足りない。底上げするものが必要なはずだった。
 からん、と彼女の手からシャープ芯入れのようなケースが滑り落ちる。
 中に入っていたものは、『体晶』と呼ばれる暴走を誘発する薬。そして、その中身は空。
 意味するところは一つ。

滝壺「だめ……」

 それは、掠れるような声で。

滝壺「かみ、じょうは…………――――っ」

 彼女は結局、最後まで言い切れず、身体は傾く。
 時が止まったように思えた。
 上条が触った時、滝壺の身体は冷え切っていた。
 弱りきり、まだ生きているということがすごいと思えるほどだった。
 つまり、その時点で限界だったのだ。
 それなのに、彼女は力を振り絞り、その上『体晶』も使い切った。
 彼女は、滝壺理后は限界を超えた。

 上条当麻は、一度こんな光景を見たことがある。
 それは、姫神秋沙がアウレオルス=リザードに『死ね』と命じられたとき。
 身体中から力が抜けて、正しく『死ん』だ彼女の光景が、今の滝壺と重なる。

上条「た、き――――――」

 思わず、声が飛び出す。
 彼女をここで倒れさせてはいけない、と身体が言っているように。

上条「滝壺ぉおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――ッッ!!!」

 上条当麻は吠える。
 時が動く。
 同時に一直線に駆け出す。
 麦野沈利が再び、蹴りで押し返す。
 彼も地面に転がり、そして。

 無残にも。
 滝壺理后は地面に崩れた。


383:2010/11/03(水) 01:23:36.68 ID:s8YRY9Qo

麦野「……くく……」

 静寂が訪れた研究所内に、含み笑いが響く。
 そして、徐々にそれは大きく、耳障りな程の笑い声へと変わる。

麦野「くくくく……あはははは、あっはははははははははははっ!!なんだこりゃ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 麦野はただ狂喜する。
 当然だ。
 彼女にとって、これ以上ない結末だから。

麦野「テメェが守りに来たヤツが、テメェを救う為に死んでちゃワケねぇよなァッ!!アハハハハハハハハハハハッッ!!」

 そんな狂気じみた笑い声も、上条には届かない。
 うつ伏せに倒れ、俯いたまま彼は動かない。
 いづれ、麦野もその様子に気づき、笑うのをやめた。
 それは別に上条に同情したわけではない。彼女はそんな気持ちを欠片も思ってはいない。
 単純に、反応のない上条に飽きただけだ。

麦野「あーあー……ま、やけにあっさりとした終わりだし、結局テメェの能力は分からず仕舞いだが……まぁいいか」

 ぼりぼりと後頭部を掻き、そのまま手を伸ばす。
 ポウ、と四つほど光が踊る。
 それでも反応を示さない上条に、麦野は目を細めて告げる。

麦野「じゃーねー」

 つい、と手首だけを動かして。
 四つの閃光は上条を襲った。


384:2010/11/03(水) 01:33:41.96 ID:s8YRY9Qo

 四つの閃光は、それぞれ、四肢を切断して終わり。
 そのはず、だった。


 ゴォ、と風が吹く。
 室内に、吹くはずのない風が。


 は?と麦野は再度、唖然とする。
 何が起きたのか理解が追いついていない。
 当然ともいえる。そもそも、『幻想殺し』さえ知らない彼女が一体どうして、この事態を予測することができようか。
 彼女にとっての不運は、その右腕を初めに切断してしまったことだろう。

 上条当麻はゆっくりと立ち上がる。
 右手を除いてその腕と脚はある。
 しかし、そのないはずの右腕に、何かがあるように感じることが出来た。

 知らず知らず、麦野沈利は距離を取るようにその足を後ろに下げていた。
 膨大なその存在感に蹴落されて。

麦野「……っ、おいおい……何の冗談よ…………」

 それに気づき、麦野はまたもや愕然とする。
 ありえない。
 何かが、とは何もわからないが、何かありえないことが起きていることだけはわかる。
 死んでいるはずなのに。
 殺したはずなのに。
 生きているだけでも異常なのに。
 それ以上に見逃せない、信じることの出来ない何かが起きている。


385:2010/11/03(水) 01:40:31.50 ID:s8YRY9Qo

上条「――テメェは」

 上条の口が動き、麦野は身体を硬直させた。
 しかしすぐにそれが自分を指しているものではないと知る。

上条「テメェが、何者か、なんてことはわからねぇ」

 上条当麻は言う。
 その自分の右腕から溢れ出るそれに。

上条「テメェが、どんなことをできるな、なんてしらねぇ」

 上条当麻は言う。
 その自分の中に秘められていたそれに。

上条「だが、お前が俺で、そして『幻想殺し』の正体だっていうんなら」

 その、見えない何かは。
 上条当麻の意志に沿うように、彼の目の前、水平に伸びた気がした。


 そして、彼は告げる。

上条「――この『幻想』を喰い殺せ」

 ――――こんな『幻想』は否定すると。


386:2010/11/03(水) 01:48:35.60 ID:s8YRY9Qo

 何かが、変わった。
 何が、というのは麦野には判別がつかない。
 だが『何か』。
 まるで、決定した事項が書き換えられたかのような。

 ――次の瞬間、麦野沈利は有り得ない事態を目にする。

 もぞり、と背後で動く気配がした。
 彼女はホラー番組を見た後、突然音がした時のように振り返る。

滝壺「う……」

 滝壺理后が、意識を取り戻していた。

麦野「んな…………」

 有り得ない。
 先程、滝壺は限界を超えて倒れた。崩壊した。それは間違いなかったはずだ。
 それなのに。
 どうして、彼女がこうして再び動いている?

麦野(……実は滝壺は崩壊していなくて、単純に気絶していただけ。そして、今意識を取り戻した。そうじゃないと、辻褄があわない……!)

 麦野は滝壺が倒れるシーンを見ていない。最初から最後まで振り向かず、音と上条の反応だけしかみていない。
 だからそう考えることで、自らを平静に保った。

 しかし。
 彼女のその『幻想』は目の前へと視線を戻した瞬間に打ち壊される。


387:2010/11/03(水) 01:59:27.01 ID:s8YRY9Qo

 ズルズルと。
 上条当麻の右肩から、右腕が伸びてきた。
 細胞分裂をどのようにするとこんな元に戻るのか、彼女には全くもって、検討もつかなかった。
 『肉体再生』という能力がある。
 それは能力がある限り、名の通り自分の肉体を再生する、というものだ。
 それでも、こんなスピードで回復するものなど見たことはない。
 『有り得ない』。
 もう、何度目にもなるこの言葉。
 この科学の街学園都市において、こんな事象があるなどと信じたくなかった。

上条「――おい」

 その言葉に、麦野は見てわかるぐらいに跳ねる。
 今度こそ、それは自分へと向けられた言葉。
 今まで感じたことのない言いようのない恐怖が、彼女を埋め尽くす。
 それでも。
 超能力者として、暗部組織『アイテム』のリーダーとして、彼女は虚勢をはる。

麦野「ンだよ、まだ殺るって?いいぜ、だったらとっととブチ――――」

上条「……もう、やめないか」

 その聞こえてきた声に、麦野は思わず自分の耳を疑った。


388:2010/11/03(水) 02:13:16.58 ID:s8YRY9Qo

上条「お前、よくわかんねぇけど……組織のリーダーなんだろ?」

上条「滝壺が『体晶』とかいうヤバイ薬を使って、もう『崩壊』寸前だったことは聞いた」

上条「なんで、そこで限界まで使わせる必要があるんだよ。リーダーなら、仲間や部下のことを気遣うのが普通じゃないのか?」

 上条当麻は続ける。
 これ以上、滝壺も、麦野も誰も傷つけなくて済むように。

上条「……そうすると、元から争う必要なんてなかったんじゃねーか」

上条「どうして、邪魔者を排除しようとしてまでそうして壊そうとするんだよ」

 確かに普通ならそこまでする必要はない。
 だが、上条はどこか履き違えている。
 ここは暗部だ。無事に表に帰ろうと思う方が間違いなのだ。
 だから麦野は、そもそも自分が帰ることの出来ない表舞台に誰かが帰るのを許せないだけ。
 結局、滝壺を使い潰そうとしたことも、上条を殺そうとしたことも、麦野の独りよがり。
 本来なら、それでよかった。暗部では強いものこそ全て、それ以外は使われるだけなのだから。

 しかしながら、麦野はその自分の目で見てしまった。
 自分より遥かに強く、恐ろしい存在を。


389:2010/11/03(水) 02:24:40.80 ID:s8YRY9Qo

 アレと戦うぐらいなら、いっそ――という弱気な考えが彼女の頭を過る。
 だが、すぐに打ちけす。
 今目の前にいるのは、あの化け物じゃない。ただの無能力者だ。

麦野(そして、私は誰?)

 麦野沈利。
 学園都市の学生二三〇万人の頂点に立つ超能力者、その上から四番目。
 麦野は自問自答する。
 ただの無能力者などに、負ける要素は無い、と。
 ふと、上条から視線を外して背後を見やる。
 そこにいるのは滝壺。しかし、意識を取り戻したとはいったものの、息は未だに荒い。
 戦況は何も変わっていない。
 ここで引く理由などない。

麦野「……ハッ、何を言ってるのやら」

 故に麦野沈利は、上条の提案を一蹴する。

麦野「取引っていうのは、自分と相手が同等の立場において初めて成り立つモンなんだよ」

 だから乗る必要はない、と。
 上条はその答えに、そうかとだけ答え、その右手を構えた。

上条「……いいぜ、お前がどうしても、滝壺を逃がさない、そのための邪魔者は潰すって言うんなら」



上条「――その幻想を、ぶち殺す」


390:2010/11/03(水) 02:44:51.22 ID:s8YRY9Qo

 上条当麻は踏み出す。
 それを見て、麦野沈利は大きく顔を歪ませた。
 彼女は右手を前に付き出して、『原子崩し』を放つ。

 ダン!と上条はそれが発射される前に左右に素早く動き、それを回避する。
 いつもの状態ならまだしも、照準の出鱈目になっている今の状態では上条の回避先を割り出して当てるのは難しい。

麦野(だったら)

 彼女は開いている片手でカードのようなものを懐から取り出す。
 『拡散支援半導体』。弾幕を張るタイプでない『原子崩し』の弱点を補強する、彼女の用意しているアイテム。
 自らも動いて距離をとりつつ、ピンッ、とそれを自らの目の前に弾き、それに『原子崩し』を当てる。
 瞬間、バシュンッ!と『原子崩し』が拡散し、上条を襲う。

上条「うぉおおおおおおっ!?」

 上条は右手を前に延ばし、前に力いっぱい飛び込んだ。
 間違いではない。単純に後ろに飛ぶよりは有効だ。近距離というのが幸いする。なぜなら、近ければ近いほど、拡散前の『原子崩し』を『幻想殺し』で潰すことができるのだから。
 だが、全てとはいかない。
 上半身に当たるものは潰すことが出来たが、太ももから付近を幾つものレーザーが貫通する。


391:2010/11/03(水) 02:54:22.54 ID:s8YRY9Qo

上条「―――――ッ!!」

 それでも、前へ。
 貫通した脚部が悲鳴をあげる。
 踏み込んだ足に力が入らなく、ガクン、と身体が一段階下がった瞬間に、その頭上を『原子崩し』が過ぎた。
 不幸中の幸い。
 安堵したと同時、すぐ近くから舌打ちが聞こえた。

 ドゴン!と跳び膝蹴りが上条の顔面を捉えた。

上条「がっ――――!!」

 意識が飛びかける。視界が瞬く。
 しかし、それでも。
 空を泳いだ右手は、麦野沈利の胸ぐらを掴んだ。

麦野「っ!」

 パンッ!と上条が反撃をするより早く、麦野は拳を真っ直ぐに叩き込んだ。
 鼻の奥が切れた気がした。
 しかし、上条はその右手を放さない。


392:2010/11/03(水) 03:07:05.55 ID:s8YRY9Qo

麦野「このクソ――――っ!」

 下からすくい上げるような裏拳で、ボディに一撃。
 だが、怯みすらせず。

 次の瞬間、麦野の脳が揺さぶられた。

 別に、拳を受けたというわけではない。それなら、この至近距離でも避けたり止めたりする自信がある。
 いま受けたのは、頭突き。
 額同士のぶつかり合い。

麦野(クソ、た)

 考える間さえ与えられず、一瞬、意識が飛ぶ。

麦野(こ、)

 幾度も。
 幾度も幾度も幾度も。
 幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も――――――




393:2010/11/03(水) 03:20:45.29 ID:s8YRY9Qo

麦野(は――――)

 麦野は僅かも与えられない思考の中、漠然と思う。
 なんだこれは。
 どうしてこんな一方的にやられているのだろう。
 私は第四位、『原子崩し』。無能力者など、果たして瞬殺できるはずだというのに。
 なんだこの体たらくは。

 ドン、とようやく脳を揺さぶる衝撃から解放されて、距離が開く。
 足元がふらつく。恐らく、あと一撃重いのを受けたら終わる。
 目の前の少年が吼えた。
 朦朧とする意識の中、自分にも少年とはまた別の感情が湧き上がる。
 無能力者なんかに負けたくないという、強い想いが。

 麦野の腕が闇のなかで光り輝く。
 『原子崩し』がその腕の周りを延々とループしているのだ。
 当たれば、正しく一撃必殺。

 だがしかし、上条はそれに全く臆せず。
 その右手を振り抜いた。


395:2010/11/03(水) 03:30:24.60 ID:s8YRY9Qo

麦野(あ――――)

 上条にその拳が届く前に、その光は力を失った。
 負け。その二文字が、脳裏に浮かぶ。
 最後まで勝利に執着したというのに、結局、無能力者の一人にも勝てなかった。

麦野(……いや、違う――)

 本来なら、もっと優勢だ。
 『自分だけの現実』を乱されていなければ、もっと優位に進めて、勝っていた。
 これは、つまり。
 滝壺と、少年に負けた、ということだ。

麦野(……そっ、か)

 なんとなくだが、大切な人同士を思う力というのを思い知った。
 ……自分もそんな人間を作ろう、というのは思わなかったが、少しだけなら認めてもいい気がした。

 視界が黒く染まっていく。
 五感が失われる。
 思考が止まる。

上条「――滝壺の借りは、返したぞ」

 そんな中なのに、嫌にはっきりとその声は聞こえ。
 そして、麦野沈利は意識を落とした。


412:2010/11/04(木) 15:40:22.33 ID:RJLXNwso

 ――夢を見た。
 はるか遠い、過去の夢。
 私が闇の彼方に堕ちる理由となった記憶。
 どこにも、私の居場所などなくて。
 どこにも、光が射す道などなくて。
 結局、私はもがきもせず、足掻きもせずただ堕ちていくだけの夢。

 直前のことを覚えている。
 少女が少年に止めを刺そうとした。
 だから、私は『体晶』を使い、その上で能力を使った。
 身体はとうに限界を超えていたけれど、構わなかった。
 少女の能力は少年から外れて、危機を救うことが出来た。
 これでいい。
 これでよかった。
 だって、道を示してくれた大事な人を守ることが出来たのだから。
 私は、もう一向な闇に堕ちても、構わない。

 夢のなかで、私はカプセルの中に入っていた。
 粉を飲み込んで、意識がいつもよりはっきりして。
 そして、闇の中に堕ちる夢――


 空が割れた。
 まるで、そんな過去の遺物を見る必要など無いとでもいうように。
 床が抜けた。
 堕ちる、と思ったけれどそんなことはなく、何かに支えられているように。

 ――この『幻想』を喰い殺せ。

 夢の中で消え行く思考の中、そんな声だけを聞いた気がした。
 まるで、絶望しか無い袋小路をこじ開けるような、そんな声を。

 ……私の、ヒーローの声を。


413:2010/11/04(木) 15:51:13.99 ID:RJLXNwso

 カラカラ、とスライド式の扉が開く。
 窓が空いているのか、すぅ、と彼女の首を風が撫でた。
 壁、ベッド、カーテン。全てが白で統一された部屋に入り、今のその部屋の主の名を少女は呼ぶ。

滝壺「……かみじょう」

上条「……おう」

 上条は窓の外の景色から視界を外し、少女を見る。
 その少女も入院着を着ている。至極当然のことではあるが。

上条「検査、一応終わったのか?っていうか……よく俺がここにいるってわかったな」

滝壺「わかるよ。だって、かみじょうだもん」

 上条だから、という理由がどうしてここにいるのかという理由にはならないと思うが、上条はそれを突っ込まなかった。
 なにせ不思議ちゃんだ。何を考えているかは多少わかるようにはなったが、未だにわからないこともある。

上条「……ちょっと、用足してくる。少し待っててもらえるか?」

滝壺「うん、わかった」

 上条は滝壺とは入れ違いに病室を出た。


416:2010/11/04(木) 16:01:54.58 ID:RJLXNwso

 用を足すのは勿論だったが、彼はその足ですぐには病室に戻らない。
 そこに行くのを見たから。
 看護師とすれ違う度に少し頭を下げつつ、階段を上がる。
 踊り場でタイルが外れ、ズルッと滑り転んだ。
 不幸だ、と漏らしつつも彼は階段を登り続けて、その先にある扉をこじ開ける。

 パタパタと白いシーツが風に揺れていた。
 その奥。
 そこに、朱色が靡く。
 柵に腕をよしかけて、その横には松葉杖が立てかけられている。
 入院着で見えないが、そこにある足は包帯まみれらしい。
 その背中に、上条は声を投げかける。

上条「……よぉ」

麦野「あぁ?……テメェか」

 一瞬だけ上条を見て、彼女は前へと戻す。
 上条はそれに無防備に近づいていく。
 そして、両者が互いに一撃で決められる距離までつめると、麦野は呆れたように吐く。

麦野「……オマエは何がしたいんだっつの。負け犬に慰めの声でもかけに来たんですかぁ?」

上条「そんなんじゃねぇよ」

 上条は麦野の背を見ず。
 麦野は上条のほうを向かず、話を続ける。


417:2010/11/04(木) 16:13:04.00 ID:RJLXNwso

上条「……仲間ってのはさ、大事なもんだと思うんだ」

麦野「はぁ?」

 麦野が何いってんだこいつ、とでも言いたげに声を上げる。
 それでも彼は意に介せず、続ける。

上条「自分を支えてくれる存在。自分が支える存在」

上条「俺達はどんな力をもっていようと完璧じゃなくて、まるで不完全で完成してるんだ」

上条「だから、仲間を求める、特別を求める」

上条「自分が立っていられるように。困難に立ち向かえるように」

上条「お前は、それを少し間違えただけなんだ。自分を助けることを強制させ、支えることをしなかった。ただそれだけの話なんだ」

麦野「……で、それが何だって?私にえっらそうに説教でも垂れてるつもり?」

上条「いや、そうじゃない。たださ、少し変えるだけでいいっていう話。例えば――」

 カチャン、と再びドアノブが回る。
 そこから三人の男女が姿を表した。
 上条は微笑し、そちらの方を振り返る。
 そして、決定づけるように言う。

上条「慰めにきた、お前の仲間みたいにさ」


418:2010/11/04(木) 16:27:15.59 ID:RJLXNwso

 見知らぬ少年――いや、見たことはあるが、それほど話したことはない少年が屋上から立ち去った後、彼らは僅かに驚く麦野に近寄る。

絹旗「病室にいないんで超探し回りましたよ。全く、安静にしてなきゃ駄目じゃないですか」

 呆れたように、絹旗は肩を竦める。
 フレンダは同調するように笑い、

フレンダ「ま、結局麦野はジッとしていられない性格なわけよ。ウチのリーダーサマが安楽椅子に座っている状況なんて思い浮かばないし」

浜面「そうだなぁ……っていうかお前ら少しは荷物持てよッッ!!結局最後まで俺が持ってきてんじゃねぇか!!」

絹旗「あ、浜面さっき病室ついたときにおいてきてよかったのに」

フレンダ「別に持ってくる必要なかったし」

浜面「そう言って持ってこなかったら『なんでおいてきたんだ』とか言って弄るつもりなんだろ!?」

 先程まで全く静かだった屋上が、嫌なくらいに騒がしくなる。
 それを麦野は唖然として眺める。
 そして彼らは、ガサガサ、と音を立てて、ビニールの中から果物とナイフ、それから皿を取り出した。

絹旗「もう超面倒なので、ここで食べちゃいましょう。ほら、浜面とっとと剥いてください」

浜面「いやいやいや!なんで俺がそこまでやらなきゃいけないわけ!?」

 和気藹々と、マットも敷かずに床に座り込む三人。
 見ながら、ただ立ち尽くす麦野に気付いた彼女らは、ぽんぽん、と空いている場所を叩く。

フレンダ「ほら、麦野。早くこっちに座って」

絹旗「そうですよ。浜面の剥いた果物を超食べましょう」

 仲間なんて、使い捨てだ。
 仲間なんて、ただの道具だ。
 けれど。

麦野「ほら、とっとと皮ムケよ浜面」

 こんな空気も、悪い気はしなかった。


420:2010/11/04(木) 16:42:29.96 ID:RJLXNwso

上条「ただいまー」

 部屋に戻り、声をかけるが返事がない。
 不思議に思いつつも踏み入れ、ベッドの近くまで足を運ぶ。

上条「滝壺ー?っているじゃんか」

 その滝壺は、ベッドの横に置いた椅子に座ったまま、まっすぐに前を向いていた。
 上条が近寄ると、ようやく彼女の視線は彼へと向く。
 心なしか、なんとなく苛立っているようにも思え、

滝壺「……屋上で、何してたの?」

 その言葉で、心臓が止まるかと思った。
 いや、別段やましいことはしていないが、そうズバリ言い当てられると焦る。

上条「い、いやっ、別に何も……」

滝壺「麦野と、何話してたの?」

 ギャーッ、とここまでくると流石に怖い。
 上条は焦り、頭の中が混乱しつつも彼女に質問を投げかける。


421:2010/11/04(木) 16:52:37.56 ID:RJLXNwso

上条「なななな、なんで屋上に行ったこと知ってるんですか滝壺さん!?」

滝壺「……上条の右手は、能力を――そして、その能力の副産物であるAIM拡散力場すら消してしまうから」

滝壺「だから、どこにいるか探知せずとも逆にわかりやすいの」

 なるほど、と思い、同時に疑問に思う。
 つまりは、滝壺から自分は逃げられないのではないか?
 その疑問に肯定するように、滝壺は笑みを浮かべる。

滝壺「……ねぇ、かみじょう」

上条「……ナンデショウカ」

滝壺「かみじょうが、例えどこに行っても、どんな遠いところにいなくなっても――私は、かみじょうを追いかける」

 それは、宣言だ。
 他の子にうつつを抜かしたり、浮気したりして、逃げても。
 どこまで行っても、追い詰めると。
 しかし、上条は別段それに恐れは抱かない。

上条「大丈夫だよ、滝壺。俺はお前を見捨てない。ずっとずっと、守ってやる。お前が例え嫌だって言っても、絶対に」

滝壺「……うん、わかってる」

 それでも、これだけは覚えておいて。
 そう滝壺は続けて、釘を差す。
 天然フラグメイカーにはきっとあまり意味はないだろうが、それでも。


滝壺「――私は、AIMストーカーだから」

 例え地球の裏側までも、共に行く、と。


422:2010/11/04(木) 16:55:15.44 ID:RJLXNwso

fin.


とりあえず終了です!

ご清聴……というかご観覧ありがとうございました!


440:2010/11/08(月) 21:01:54.44 ID:86BKeugo

なにこの速さこわい。
でも嬉しい。

ならばこそ、緊急でもないアンケート!
1、滝壺の転入
2、BAD END〜ヤンデレ〜
3、ある日の浜面
4、その他

例え慣れ合いと言われようとも、ニーズに答えるのが作者の役目であると思います。
でも、全部とかなしね!時間の都合上!


442:2010/11/08(月) 21:11:11.58 ID:ulWS6qwo

1だな
ほのぼの


448:2010/11/08(月) 21:55:15.10 ID:lh.kOgAO

1 と 4 だな。
是非よろしくお願いしまつ


451:2010/11/09(火) 01:24:13.36 ID:yCSgXUwo

1に一票


454:2010/11/09(火) 20:33:06.67 ID:mihvp4oo

やっぱり、1ですね。

それでは、明日辺りから書き始めます。


456:2010/11/10(水) 22:56:19.08 ID:tuzTw7co

ポケモン育ててると時間が立つのを忘れてしまう。

色々他にやることがあるのに……

『とある少女の転校初日』、始まります。


457:2010/11/10(水) 23:09:29.38 ID:tuzTw7co

 朝、とある学校。
 例のごとく、ロリ教員、月詠小萌の担当するクラスは騒がしい。

青髪「――だから、ロリメイドが最高なんやでーッ!!」

 ――片や、デルタフォースの似非関西人、本名不明の青髪ピアス。

土御門「ハッ、笑わせてくれるにゃー!義妹メイドが他を寄せ付けずに孤高の頂点に決まってるんだぜい!!」

 ――片や、同じくデルタフォースの金髪サングラス、義妹ラブの土御門元春。

 彼らは学校のホームルームが始まる直前のこの時間に、何故かメイドについて議論を交わしていた。
 委員長属性を持つ吹寄制理は腰に手を当てて呆れ顔。影が薄く、しかしクラス内では目立つ側の姫神秋沙は何を考えているかわからない無表情でそれを見ている。
 他のクラスメイトもいつものことなので、我関せずと騒ぎから外れつつ、遠巻きにそれを眺めながら何かを話している。
 そして、デルタフォース……三馬鹿の最後の一人、上条当麻は。

上条「………………」

 椅子に座り、ぼーっと、空を眺めていた。
 そのすぐ隣で友達二名が取っ組み合いを始めているのに全く気にもかけず。
 ……しかしまぁ、仕方が無いことなのかもしれない。
 彼にとって今大事なことは、今朝退院したはずの少女のことなのだから。


458:2010/11/10(水) 23:28:21.87 ID:tuzTw7co

 いや、普通に退院する分には左程問題はないのだ。
 問題は彼女の今は安定しているがいつ崩れるのかわからない身体と、あのぼーっとしているアブなさだ。

上条(……理后、大丈夫かな)

 滝壺理后。
 上条の生まれて初めての彼女、と呼べる存在。
 それを互いに確かめ合ったことに伴い、これからは苗字ではなく名前で呼ぶことを強制したのは滝壺だった。
 彼女にとっての特別な居場所、ということらしい。

上条(初めて会ったときみたいに変なやつに絡まれていなきゃいいけど)

 同時に、あの絹旗とかフレンダとかがいるから大丈夫かな、と思う。
 滝壺は結果的、崩壊寸前で『アイテム』を抜けるはめになったわけだが、それで縁を切るほどそのメンバーも薄情ではなかった。
 病室に戻って滝壺と互いを確かめ合った後、麦野を除く『アイテム』の三名が挨拶に来たのだ。
 中には昔スキルアウトな一度だけ殴り合った顔もあり僅かに戦慄したが、別に大事には至らず、正しく挨拶だけだった。
 つまるところ、滝壺と彼らの関係は今でもつづいている、というわけだ。上条も含めて。
 そう考えつつも、やはり上条は溜息を吐く。




459:2010/11/10(水) 23:36:36.04 ID:tuzTw7co

吹寄「ちょっと、上条当麻!」

 ドン、と机を叩くは、青ピと土御門を呆れて眺めていた吹寄。
 そこで上条はようやく、教室内の惨状を知った。

吹寄「貴様の類友でしょう!?アレ、とっとと止めなさい!!」

 殴り合い――しかし本気ではない――まで発展している二人。
 時計をみると、既に小萌先生が来てもおかしくない、予冷寸前の時間。
 しかしながら、だ。
 机や椅子はひっくり返り、まるで泥仕合のようにぐしゃぐしゃになっている二人に割り込むのは、相当に勇気がいる。

上条「………………」

吹寄「何よその見捨てられたような子犬の目は。ご飯はないわよ」

上条「朝はいつもどおりしっかり食べたし、上条さんにあの中に入って止めろっていうのは少し無茶すぎです吹寄センセー!!」

吹寄「いつも貴様もあんなかに入ってんでしょうがッッッ!!!」

 二つ目の論争勃発。
 クラスメイトは止めるはずの人間が新しい紛争を起こしたこともいつものことのように眺めつつ、動き続ける秒針を追う。


460:2010/11/10(水) 23:52:12.39 ID:tuzTw7co

 チャイムが鳴り響く。
 それに皆、ふと動きを止めて教室の扉に注目した。
 ――――何も、起こらない。
 小萌は秒刻みの体内時計を持っている。だから、チャイムが鳴ると同時に入ってくるはずなのだ。
 なの、だが。

土御門「……小萌センセー、こないにゃー」

青髪「あの『警備員』もやってる先生に足止めでもくらってるんちゃう?仲ええみたいやし」

吹寄「それでも、いつもだったら誤差数秒じゃない。これほどまでになると……って貴様ら!とっとと倒した机を片しなさい!!」

 二人が正気に戻ったのを好機と判断したのか、吹寄は此処ぞとばかりに叫ぶ。
 うぃー、にゃー、等とふたりはやる気無さ気に返事をしつつも、素早くそれらを立て直す。
 吹寄の攻撃は、並の能力者のそれよりも痛いのだ。

 机を全部立て直し、席を離れていた生徒が全員席に座って。
 それでも、月詠小萌は現れない。
 本来のHRの時間はとっくに始まっている。彼女の性格からして、これはありえない、とクラスの全員が思った。
 ならば。
 何か小萌先生は、トラブルにでも巻き込まれているのではないか?
 誰もがそう考え始めた瞬間、ようやく引き戸が開かれた。
 そこにいるのはいつもどおりに見慣れた、小さなロリ先生。

小萌「お待たせしましたですよー、ごめんなさい、少し急用が入ってしまいましてー」

 その姿に、皆して安堵する。
 その先生が台付きの教壇に登り、ようやくHRが始まりを告げた。


461:2010/11/11(木) 00:04:04.63 ID:5Ag.YGoo

小萌「今日はー、記録術が六限目にあるので――」

 小萌はいつもどおりに時間割と連絡を告げる。
 そう、いつもどおりに。
 普通なら、先程の急用のことがどこかではいるはずなのだ。
 彼女は自分のことならきっと後回しにするだろう。そんな生徒が大好きな先生だから。
 だから、疑問に感じるまま、HRは進み――

小萌「それじゃー、今日のHRを終わりますよー。委員長、礼――」

 それが終わろうとした瞬間、小萌の顔が笑顔に変わる。

小萌「の前に、転校生のご紹介ですよーっ!」

 上条当麻も、土御門素晴も、青髪ピアスも、姫神秋沙も、吹寄制理も。
 そして、突拍子なことになれたクラスの面々も。
 その彼女のいきなりのサプライズに数秒だけ時が止まって。
 次の瞬間、ワッ、と湧く。

青髪「せ、センセー!その転校生は男と女、どっちかわかります!?」

男子「女子ならスリーサイズとかは!?」

姫神「これで。私の影が。また薄くなる……」


462:2010/11/11(木) 00:16:16.45 ID:5Ag.YGoo

 そんな生徒達の様子に満足しながら、小萌は一つ答える。

小萌「今回も、女の子ですよー、おめでとう野郎ども、残念でした子猫ちゃん達ー」

 おぉぉおおおおおおおおおっっ!!と青髪ピアスを筆頭として、男子陣が再度湧く。

小萌「では、いいですよー」

 小萌のその声に、扉の向こう側から静かに、『はい』、という返事が聞こえて。
 上条当麻は、その声に聞き覚えがある、というより最近よく聞いている大切な人の声だと判断が追いつく前に。
 その扉が開き、少女が姿を現す。

 この学校指定のセーラー服。
 肩にかかるぐらいの髪。
 幸薄そうな雰囲気。
 そしてなにより、あまり動くことのない表情でありながら――美少女、と例えて良い容姿。
 彼女は。

上条「理后……!?」

 上条のそれに答えるように、滝壺はクラス中を一瞥し、最後に上条に目を止めて言う。

滝壺「……たきつぼりこう。これからよろしくお願いします」

 名乗りと同時に、ペコリと頭を下げる。
 HRの終了を告げるチャイムが鳴り、学校が動き始める。


481:2010/12/09(木) 21:45:31.46 ID:5fjJusEo

 ……さて、ここで一つ問題がある。
 デルタフォースを含め、お祭り騒ぎが大好きであるとある高校の小萌組。
 何かの事件中ならいざしらず、そんな中に転校生を放りこむとどうなるだろうか。
 答えは一つ。

青髪「さぁーって、恒例の質問タイムや―――――っ!!」

 男子陣が再び沸き起こる。
 その中心には件の転校生滝壺理后。
 勿論彼女と親しくなろうとする女子も幾人……どころか、同じぐらい交じっている。
 そんな輪から外れて二人。

土御門「……っていうか、青ピ、前にあの子がカミやんと一緒にいるのをみてるはずなんだけどにゃー」

上条「忘れてんだろ、きっと。結構都合の良い頭をしてるし」

土御門「違いないにゃー……それより、あれ止めないでいいのか、カミやん?」

 あれ、と指すのは人工が嫌に高い一角。
 ざわざわとしていて、渦中の人物は全く見えない。
 それでも、上条にはなんとなく彼女のしている表情に予想がついた。
 ――困りながらも、僅かに嬉しそうな、そんな表情だ。

上条「ああ、ああいうのは無闇矢鱈に止めたら、クラスに馴染めないだろ?行き過ぎの質問はちゃんと止める奴もいるし――あ、殴られた」

 丁度その時、吹寄が青ピを殴り飛ばしたところだった。
 調子にのるんじゃない、だとかもう少し抑えろ、だとか吹寄以外の追撃も食らう。
 しかし、当の青ピは『もっと!もっと蹴って!』などと見を悶えさせていた。
 上条はそれから視線を外し、見なかったこととして処理する。


483:2010/12/09(木) 21:55:29.11 ID:5fjJusEo

上条「しっかし……それにしても、本当に驚いたな……」

土御門「俺もだぜい。いや、組織を抜けたことは情報として回ってきたが、まさか同じ学校に転入するなんてにゃー」

 二人して、顔を合わせる。
 一体誰が手配したのか、とは思うけれどそんなことはどうでもいいだろう。
 今はただ、彼女がそこにいるという事実だけで十二分だった。

 と、次の瞬間。
 密集地帯だった滝壺の席の周りが、まるでモーセの滝の如く真ん中から真二つに割れる。

土御門「……なんだ?」

 そして、滝壺の机に向かって真正面から、一人の少女が歩く。
 黒い長髪を揺らして。
 彼女に似合わず、威風堂々と。
 割れた二つの集団から、奇異の視線が向けられる。無論、上条と土御門も変わらない。
 ――その視線を向けられた少女の名前は。

姫神「………………」

 姫神秋沙。
 その彼女は、転校生滝壺理后の正面に立つ。
 彼女も椅子に座ったまま、彼女へと視線を向けた。


485:2010/12/09(木) 22:05:00.40 ID:5fjJusEo

姫神「………………」

滝壺「………………」

 姫神秋沙、滝壺理后。
 互いに似た雰囲気を持ち、しかし存在感はまるで真逆でもある二人。
 そんな彼女らが出会ったのなら、こうなるのは必然だったのかもしれない。
 さっきとは打って変わって静まり返った教室内。
 そんな中で彼女は静かに、口を開く。

姫神「姫神、秋沙」

 続け、

姫神「――私、魔法使い」

 胸を張って、そう告げた。
 だからどう、というわけではない。実際に彼女がもっているのは、魔法の杖(電撃走る特殊警棒)や魔法の筒(ゴキブリも二秒で[ピーーー]殺虫剤)だ。
 それでも、彼女にとっては負けられない、一種の下克上であり、聖戦。
 ――大層なレッテルをもっているほうが、存在感のある証明。

 その言葉を受けて、滝壺も彼女の目を見つめ返す。

滝壺「……たきつぼりこう」

 同様に、名乗り。
 そして、二の句を――

滝壺「――――」

 告げない。


486:2010/12/09(木) 22:14:32.49 ID:5fjJusEo

 それはそうだ。
 彼女は今は別に暗部組織ではなく――暗部組織であったとしても言えないが――ただの一般生徒。
 それも、禄に能力を使えない能力者。
 肩書きなどその使えない能力がレベル4だということぐらいしかない。

姫神「…………」

 姫神秋沙は僅かに唇の端を吊り上げる。
 ざわ……ざわ……と、周囲がざわめいた。
 これで、滝壺が答えられなければ下克上は成立することになる。
 つまり――影の薄さが入れ替わる。
 それでも上条はきっと変わらず接してくれるだろうが、そんな状態ならば寝取られることもありえるのかもしれない。
 ――負けられない。

滝壺「――――」

 つい、と視線を漂わせて。
 すこし外れた場所にいる、上条が目に入った。
 その瞬間、まるで神が舞い降りたかのように一つのアイデアが降りてきた。

 ガタン、と椅子を揺らして立ち上がる。
 そして彼女は一直線に、輪から外れている二人の元へと歩み寄り、

上条「り、理后……っ!?」

 その戸惑いの声を聞かず。
 無理矢理に口を塞いだ。


488:2010/12/09(木) 22:25:34.39 ID:5fjJusEo

 空気が凍る。
 先ほど、姫神が滝壺に向かい合った時の緊張感が張り詰めた静寂とは違い、『凍った』といえる空気だった。
 そのまま、たっぷり十秒。
 そこまでして、ようやく滝壺は上条から身を離した。
 そして彼女は少しばかり誇らしげに振り返る。

滝壺「――私は、たきつぼりこう」

 並びに。

滝壺「とうまの、彼女」

 ――それは、このクラスにおいて。
 いや、とある学校。 否、第七学区。
 はたまた、学園都市。 或いは、世界において。
 衝撃を与える宣言。

 ガクン、と姫神秋沙は膝から崩れ落ちる。
 キャラや出番だけじゃない――もっと違う、もっと大切なものまで奪われて、彼女は膝をついて俯いた。
 


492:2010/12/09(木) 23:01:09.21 ID:5fjJusEo

 そんなことがあったのが、もはや今朝のこと、と割り切れるくらい前のことだ。
 あの後何が通じ合ったのかはよくわからないが滝壺と姫神は結局和解し(ただし滝壺の『上条の彼女』というポジションは揺らがない)、友だちになったようだ。
 そんなこんなで、今は既に放課後となっている。

滝壺「おまたせ」

上条「おう、じゃあ帰るか」

 人気のなくなった放課後。
 滝壺は最後の手続きとかで先程まで職員室にいて、上条は玄関でその彼女の帰りを待っていた。
 それも、今終わったのだが。

 長くなった二つの影が揺れて、寄り添う。
 それでもくっつくのかくっつかないのか、という絶妙な位置だが。

上条「……それにしても、今朝は本当に驚いたぞ。いきなり転校してくるなんて思ってもみなかったからな……」

 上条がそういうと、滝壺はくすり、と笑う。

滝壺「とうまを、驚かせたかったから」

上条「……大成功だったな」

滝壺「うん」

 頷き、微笑み、彼女は彼の腕へ寄り添う。
 離れていた二つの影は混じり合って一つになった。


493:2010/12/09(木) 23:17:27.98 ID:5fjJusEo

滝壺「とうま」

 彼女は名を呼び、彼はん、とだけ返す。
 滝壺は縋りつくように彼の制服を握り、少し高い位置にある彼の顔を見上げる。

滝壺「……とうまは、やっぱり危ない。周りに女の子が多い」

上条「……何をおっしゃるやら、理后さん。知り合いに多くても、イコールモテルとは繋がりませんとのことよ」

滝壺「ううん、とうまが気づいていないだけ。ひめがみにしてもそうだし、ふきよせ……は、少しわからないけど、クラス内外でも結構いるみたいだった」

 はいはい、と上条はそんな滝壺の言葉を冗談だと思って聞き流す。
 そういえばこういう人だったなぁ、と滝壺は自らの彼氏を再認識して、コンクリートの道を行く。
 同じように腕を組んであるくカップルや、話しながら歩く女子生徒とすれ違いながら、彼らはのんびりと行く。
 そんな心地良い空気の中を歩きながら、上条は口を開いた。

上条「……理后さ、そんな慌てなくても大丈夫だよ」

滝壺「!」

 滝壺の目が僅かに見開く。
 それは上条の言葉が彼女の気持ちをついていたからに他ならない。
 上条はそれを確認した上で続ける。


494:2010/12/09(木) 23:38:42.51 ID:5fjJusEo

上条「自惚れかもしれないけど、俺の周りに女の子が沢山いて、目移りしないかが心配なんだろ?」

 一度、頷く。
 見抜かれていたことに、滝壺は僅かながらも驚きを隠せなかった。
 現に皆の前でキスをして、交際宣言したのは周りの女の子を牽制させるためでもあったのだ。

上条「ったく……なにもあんな事しなくたって、別に俺には誰も言い寄ってこないし、俺からも誰にも言い寄るつもりはねーよ」

滝壺「でも……それでも、怖い」

 ――居場所を、失うことが。
 言外に滝壺はそう言っていた。
 上条は目を瞑って考えるように後頭部を掻き、そして一度だけ溜息を吐く。

上条「……大丈夫だっての」

 ぐい、と寄り添っていた滝壺に肩を回して、更に引き寄せる。
 互いの息遣いまでわかりそうなほどの、距離。


上条「俺は、『幻想殺し』だから。きっと、理后のそんな『幻想』を殺してやるよ」


 滝壺は、少し唖然としたような表情で彼を見上げて。
 また安心したように微笑む。
 そのまま彼らの距離は再び近づいていき……そして。


 影だけでなく、身体が交わるのは、本日二度目となる。




 ……それをとある『超能力者』中学生に見られて逃避行を繰り広げるのは、また別の話。

 おわり。


495:2010/12/09(木) 23:46:13.57 ID:5fjJusEo

多分、おしまい。おそらく。メイビー。

後日談、ということで本当に軽くまとめさせてもらいました。

一番書きたかった、滝壺VS姫神が書けたから私的には満足です、はい。


此処から先の『幻想追跡』はそれぞれの心のなかに……ということで、一応は。

続きを書くにしても何にしても、前に行ったとおり受験を控えている身なので最低でもそれが終わってから、ということになりますね。

……では、とりあえずまた会う日まで。


496:2010/12/10(金) 00:14:49.41 ID:JVNrygAO

>>495
超乙です。絶対戻ってこいよ
いろいろ大変な時期の更新に感謝!
そんな>>1に ある名言を贈る。

「自らの意志が、強固であるほど
様々な試練に苛まれるものだ。
 無論、試練を目前に避ける事も出来れば、逃げる事も出来る。だが、試練の真意は
そんな己の心を克服することにある。」

では! ノシ
>>1 の前途に幸(さち)多からんことを。


503:2010/12/30(木) 15:47:56.07 ID:1vGYQn60


 続きが来てるとは思わなかった!
やっぱこの話最高だね

 作者さんはここ来てないだろうけど、受験頑張って!
と去年その渦中にあった俺は声援を送ります!!


504:2011/01/12(水) 11:02:29.83 ID:fy6cdnXg0


 もの凄く綺麗なストーリーだったから
これで終わっても、とは思ってたけど、
やっぱり続きが読みたい。
 >>1は絶対帰ってきて、書いてほしいと思ってしまいます……
センターなんかぶっ飛ばせ!!