1:2012/05/10(木) 20:11:18.85 ID:gGMCjN8AO

P「765プロの後継者? 俺と律子が、ですか?」

高木「うむ。どちらか一人に会社を継いでもらいたいと思っている」

律子「そんな突然言われましても」

高木「まあ、いきなり明日から社長をやれと言っているわけじゃないよ」

高木「まずは一週間、君たち二人の適性を見させてもらう」

P「適性?」

高木「現在、我が社に所属するアイドル十二名。彼女たちを半分に分け、君と律子君のチームを作る」

高木「六対六で競い合い、勝ったチームのプロデューサーが765プロの後継者だ」

律子(そんな決め方でいいのかしら……)

P「アイドルたちは何で勝負するんです? 歌ですか。それともダンス?」

高木「何を言っとるのかね、キミィ」

高木「忍法勝負に決まってるじゃないか」



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3:2012/05/10(木) 20:15:21.47 ID:gGMCjN8AO

P「社長はああ言ってたけど、どうする?」

律子「どうするったって、私にも分かりませんよ」

律子「まさかうちのアイドルたちが忍法を使えるなんて」

P「だよな。プロフィールにも書いてなかったし」

律子「特技に忍法なんて書くアイドルいるわけないでしょう!」

〜回想〜

高木「君たちには知らせてなかったが、我が765プロのアイドルは全員忍法の使い手だ」

高木「無論、アイドル同士もお互いの術を知らない」

高木「それを踏まえた上で、君たちには六人のアイドルを各々選んで欲しい」

高木「この巻物に名を書き、一週間後に提出してくれたまえ」

〜回想終了〜

P「とりあえず誰を取るか決めるか」

律子「そうですね」




4:2012/05/10(木) 20:22:14.48 ID:gGMCjN8AO

P「よし、これでいいな」

Pチーム
天海春香
菊地真
四条貴音
双海真美
高槻やよい
星井美希


律子チーム
水瀬伊織
三浦あずさ
双海亜美
萩原雪歩
我那覇響
如月千早

P「やっぱり竜宮小町は入れるんだな」

律子「そりゃあ、私のプロデュースしてるユニットですから」

P「とりあえず、仕事に戻るか」

律子「私はこれから竜宮の収録に行きますので」

P「そうか、頑張れよ」

律子「はい……」


5:2012/05/10(木) 21:03:30.11 ID:gGMCjN8AO

小鳥「プロデューサーさん、社長からのお話ってなんでした?」

P「ああ、実はですね……」

P(あれ? 巻物がない。どっかに落としたか?)

P「いや、たいした話じゃなかったですよ。今後のプロデュースについてだとかで」

小鳥「なーんだ、そうだったんですか」

P(まあ、忍法勝負なんていきなり言ってもなあ)

P「そういえば、あいつらの忍法を知っておく必要があるな」


8:2012/05/28(月) 00:46:20.11 ID:kgOuei4AO

――スタジオ

AD「お疲れさまでしたー!」

亜美「ねぇねぇ、りっちゃん。この後は→?」

律子「今日の仕事は、この撮影で終わりよ」

伊織「じゃあ、直帰してもいいわね」

律子「いえ、このまま事務所に戻るわよ」

あずさ「打ち合わせか何かですか?」

律子「はい。詳細は移動中に話しますから、着替えてきて下さい」




9:2012/05/28(月) 00:46:52.45 ID:kgOuei4AO

――車内

伊織「何よ、これ?」

あずさ「巻物、よね……」

亜美「みんなの名前が書いてあるNE」

律子「社長がね、私とプロデューサーに忍法勝負をしろって言ったのよ」

伊織「!!」

亜美「り、りっちゃん……」

律子「私も知らなかったわ。あなたたちが忍法を使えるなんて」

あずさ「でも、仕方ないんですよ。律子さん」

律子「分かってますよ。やっぱりそういうの、秘伝って言うのかしら」




10:2012/05/28(月) 00:57:15.05 ID:kgOuei4AO

律子「忍法ってどういうものなのか。まず竜宮小町のあなたたちから訊きたかったのよ」

あずさ「それは……」

伊織「いいわ。教えてあげるわよ」

亜美「いおりん?」

伊織「その前に、あいつと律子が忍法勝負ってどういうことよ?」

律子「六対六。勝った方が765プロの次期社長になるのよ」

亜美「それで、巻物に名前が分かれて書かれてるんだ」

亜美(真美と別れちゃった……)

伊織「忍法勝負で後継者争いなんて、社長も酷なこと考えるわね」



11:2012/05/28(月) 01:09:20.98 ID:kgOuei4AO

――事務所

P(あれー? 上着のポケットにも無いし事務所の中にも無いぞ)

P「まずいぞ。社長に提出するよう言われてるのに」

春香「プロデューサーさん、探し物ですか?」

P「春香、いや、ちょっと書類をな」

春香「お仕事の物は、ちゃんと整理しなきゃダメですよ」

P「はは、面目ない」

小鳥「はい、お電話ありがとうございます。765プロでございます」

小鳥「はい、はい……」

小鳥「プロデューサーさん、レコード会社の方からお電話です」




12:2012/05/28(月) 01:34:36.81 ID:kgOuei4AO

P「はい、お電話代わりました。Pです。お世話になっております」

P「はい、それでは。失礼致します」

P「春香、準備してくれ。現場に行くぞ」

春香「はい!」

やよい「春香さん、いってらっしゃい!」

春香「うん! やよい、行ってくるね」

P「音無さん。春香を送ったら俺はレコード会社に向かいますので」

小鳥「分かりました。春香ちゃんはそのまま直帰ですね」

P「やよいもレッスン終わったら今日はあがっていいぞ」

やよい「はい。プロデューサー、いってらっしゃいです!」




13:2012/05/28(月) 01:49:22.28 ID:kgOuei4AO

律子「正直、信じられないわ……」

あずさ「そうでしょうね。私たちも互いの術を知らなかったですから」

伊織「私たちの術を聞いて、まだ勝負をやる気?」

亜美「亜美、真美や事務所のみんなと戦いたくないな……」

律子「巻物は一つじゃないのよ。これはプロデューサーの分」

伊織「……」

律子「一週間後、巻物を社長に先に提出した方が勝ちよ」

伊織「本気なのね」

律子「さあ、事務所に着いたわよ」




14:2012/05/28(月) 02:02:18.30 ID:kgOuei4AO

――事務所

律子「ただいま戻りました」

小鳥「律子さん、お疲れさまです」

律子「小鳥さん、プロデューサーは?」

小鳥「あ、プロデューサーさんは春香ちゃんと現場に。その後、レコード会社へ」

律子「そうですか」

やよい「うっうー! 伊織ちゃん、おかえりー!」

伊織「やよい、ただいま」

伊織(よりによって、やよいから……)

小鳥「私、お茶淹れてきますね」

律子「伊織、やるわよ」

伊織「くっ……!」




15:2012/05/28(月) 02:30:09.76 ID:kgOuei4AO

やよい「伊織ちゃん、どうしたの?」

亜美「……」

 躊躇する伊織を見かねたか、亜美の手から“縄”が放たれた。
その縄がやよいの首を易々と絡め取ったときに初めて、
やよいは事務所の蛍光灯に照らされた縄の輝きを見た。

やよい「な、なに……亜美?」

亜美「ごめんね。やよいっち」

やよい「伊織ちゃん……うっ!?」

 伊織の手に握られた短刀が、やよいの腹部に深々と刺さる。
やよいのトレーナーに血の染みが徐々に広がっていく。

伊織「やよい、こういうことよ」

やよい「伊織、ちゃん……」

伊織「やよ、ああっ!! あがあああ!!」

 やよいが伊織に抱きつくと、伊織は苦悶の叫び声を上げた。掴まれた肩、噛みつかれた首筋。
そこから伊織の皮膚は枯葉のように渇き、
やがて悶絶する伊織はミイラのようになって事切れた。




16:2012/05/28(月) 02:52:30.87 ID:kgOuei4AO

亜美「いおりん!」

律子「待って。もう終わったわ」

小鳥「ど、どうしました!? キャアアア!!」

 ミイラと化した伊織の亡骸を抱きしめたまま、やよいは動かなくなった。
亜美が縄を引き戻すと、やよいの首から鮮血が飛び散った。

律子「まず一人ね」

 巻物を取り出し、事務所の床に散った血を律子は指でぬぐった。
巻物に書かれた、高槻やよいの文字を朱の線で塗り潰した。

律子「他のアイドルは仕事で出てるかオフだから、明日以降よ」

あずさ「千早ちゃんたちと合流しなきゃいけませんね」

小鳥「り、律子さん……なんで……」

律子「音無さん、社長から聞いてないんですか」

「あアあ!」

 やよいの亡骸のそばで物音がした。まるで眠りからさめた人間の、あくびのような気味悪い声が。

伊織「忍法勝負よ」

 ワンピースを真っ赤に染めた伊織が、そこに立っていた。




17:2012/05/28(月) 03:06:03.61 ID:kgOuei4AO

小鳥「わ、ワケが分からない、ピヨ……」

亜美「あ、ピヨちゃん気絶しちゃったYO!」

伊織「ほっときなさい。知らないなら、その方が幸せよ」

あずさ「そうね。音無さんには辛いわね」

律子「さあ、ちゃんとやよいを葬ってあげましょう。事務所も片付けなくちゃ」

律子(同じ巻物。二つは要らないわね)

 プロデューサーの知らぬうちに、奪われた巻物は律子の手により処分され、さらにやよいが倒された。

律子「あと五人……」

犠牲者 高槻やよい 残り六日




18:2012/05/28(月) 03:31:08.81 ID:kgOuei4AO

――事務所

真「おはようございます、プロデューサー!」

P「おはよう、真。今日も元気いいな」

雪歩「プロデューサー。お、おはようございますぅ」

P「雪歩も、おはよう」

P「今日は音無さんはまだ来てないな。それに律子たちも」

P「まあいい、みんなは各自スケジュールを確認しておいてくれ」
美希「あふぅ。美希、今日はレッスンだけなの」

春香「千早ちゃん、遅刻かな? お仕事昼からなのに」

P「そうだ、ちょっと訊いておきたいことがあるんだが」




19:2012/05/28(月) 03:42:46.11 ID:kgOuei4AO

美希「なになに? ハニー」

美希「美希の好きな人? そんなのハニーに決まって」

P「社長から聞いたんだが、お前たち忍法なんて使えるのか?」

美希「……」

春香「ぷ、プロデューサーさん」

P(なんだ、この空気)

真「使えますよ、忍法」

P「お、やっぱりそうなのか」

真「でも、どうしてそんなことを?」

P「社長がな、アイドルたちを二つに分けて忍法勝負をするって言うんだよ」




20:2012/05/28(月) 03:54:11.39 ID:kgOuei4AO

春香「それ、本当なんですか?」

P「俺と律子でそれぞれチームを作ったんだよ。昨日な」

真「昨日!?」

P「え? ああ、昨日から始まったんだ。まあ、律子もまだ動いてないだろうけどな」

真美「兄ちゃん……」

P「なんだ? 真美」

真美「亜美がね、昨日から帰ってきてないんだ」

P「なんだって? 昨日は竜宮は撮影でそのまま……」

春香「プロデューサーさん! チームは、プロデューサーさんと律子のチームはどうやって分けたんですか!?」

P「ちょ、ちょっと待て、いま説明するから」



21:2012/05/28(月) 04:04:12.07 ID:kgOuei4AO

P「俺のチームは春香、真、美希、真美、貴音、やよいだ」

春香「そんな……」

雪歩「ま、真ちゃん。わたし……」

真「雪歩、落ち着いて。まだボクたちが争うと決まったわけじゃ」

P「ど、どうしたんだ。みんな」

美希「ハニー……」

美希「忍法ってね、人を[ピーーー]術なんだよ」

P「人を?」

美希「うん。だから、みんなハニーに黙ってたんだよ」




23:2012/05/28(月) 04:13:55.52 ID:kgOuei4AO

P「いくらなんでも嘘だろう? お前たちがそんな術を」

美希「美希、ハニーに嘘ついたことある?」

真「プロデューサー、美希の言ってることは本当ですよ」

真「忍法で勝負するってそういうことなんです」

P「社長は、そんなことを俺たちにやれってのか……」

真美「律っちゃんと竜宮小町はもう動いてるんだよね?」

春香「やよい……プロデューサーさん! やよいは!?」

P「朝から、連絡が取れないんだ」

真美「まさか、もう律っちゃんたちが」


25:2012/05/28(月) 04:33:51.10 ID:kgOuei4AO

――某ホテル

千早「この巻物はどういうこと? 律子」

律子「見ての通りよ。昨日から始まった忍法勝負。まず、やよいを討ったわ」

伊織「……」

響「やよいが、死んだのか?」

千早「私にプロデューサーや春香と殺し合えと言うの? 律子の出世の為に」

律子「私の為に戦えなんて言わない。これはあなたたちの為よ」

律子「勝ったチームのアイドルは、今後優先的に且つ大々的に売り出す。本人の意向に沿った活動を約束する」

律子「竜宮小町だけじゃないわ。千早と響も雪歩も、勝った暁にはトップアイドルよ」

響「自分たちがトップアイドル……」

律子「千早、あなたも歌手として勝負できるのよ。バラエティもドラマもやらずに歌に専念できるわ」

千早「でも……」

伊織「あんたたちがやらなくても竜宮小町はやるわよ」

伊織(もう、やよいを手に掛けたんだから。後には退けないわ)




26:2012/05/28(月) 04:44:26.71 ID:kgOuei4AO

あずさ「そういえば雪歩ちゃんが居ないわねぇ?」

伊織「事務所に行ったんでしょ。二人と合流できただけで充分よ」

伊織(それに、雪歩の術って大したことなさそうだし)

千早「分かったわ。やるわ、律子」

律子「響は?」

響「じ、自分もやるぞ。貴音と戦わなきゃならないのは嫌だけど」
ハム蔵「ヂュ、ヂュ!」

響「ハム蔵……甘いかな、自分の考え」

律子「これから全員で事務所に向かうわよ。雪歩と合流して、それから」

伊織「昨日のやよいと同じね……」


27:2012/05/28(月) 04:54:49.78 ID:kgOuei4AO

――事務所

亜美「……よし、行くぞ」

〜回想〜

律子「亜美が事務所に入って五分経ったら私たちが行くわ」

亜美「時間差ってヤツだNE」

伊織「事務所にいる連中の気を引くのよ」

亜美「ガッテン承知♪」


亜美「おっはよ→!」

亜美「あれ? 誰も居ない……」



28:2012/05/28(月) 05:08:57.19 ID:kgOuei4AO

 事務所のドアを開いて室内に入った瞬間、亜美は背後の壁に引っ張っられ背中を打ちつけた。

亜美「な、なに!?」

 壁と同じ色をした腕が、亜美の首を背後から絞め上げた。

真美「亜美……」

亜美「真美? 真美なの!?」

真美「答えて。やよいっちを殺したのは誰?」

亜美「なんのこと、ワケわかんな」

 壁から伸びる真美の手に力がこもる。骨の軋む音が亜美の首から聞こえた。

真美「忍法勝負のこと、もう真美たちも知ってるんだよ」

亜美「……そう、なんだ」

亜美「亜美だよ。いおりんがビビってたから、亜美が殺したんだ」



29:2012/05/28(月) 05:24:14.25 ID:kgOuei4AO

真美「!!」

亜美「ねぇ、離してよ。亜美、正直にしゃべったじゃん」

亜美「助けてくれたら、真美のことも律っちゃんに頼んでチームに入れてもらえるように……」

 壁から生えた腕が強ばった瞬間、亜美の首は鈍い音を立てた。
だらりと全身を脱力させ、亜美は息絶えた。
双子である真美の手によってだ。

真美「誰かに殺されるなら、真美がやってあげる」

真美「ごめんね、亜美……ごめんね……」

 事務所の壁に人間の形が朦朧と浮き出した。
双海真美の忍法とは、壁や地面に縦横無尽に紛れるこの隠形の術であった。
壁から現れた真美は、亜美の亡骸を見下ろしながらすすり泣いていた。



30:2012/05/28(月) 05:57:53.44 ID:kgOuei4AO

五分後

千早「やけに静かね」

響「だ、誰も居ないのか?」

伊織「亜美!?」

亜美「あ、みんな遅いよ→」

律子「亜美、事務所のみんなは?」

亜美「真美が居ただけ。あとは誰も居なかったYO」

あずさ「真美ちゃん……」

伊織「死んでるの?」

亜美「首の骨を、折ったから」

律子「そう、ご苦労だったわね」

亜美「律っちゃん、巻物貸して。真美の名前、亜美が消したいから」




31:2012/05/28(月) 06:09:54.38 ID:kgOuei4AO

律子「はい、これよ」

亜美「サンキュ→」

千早「……待って、律子」

千早「そいつは亜美じゃないわ!」

律子「え?」

真美「チッ、バレたか」

亜美「でも、巻物は貰ったよ!」

 亜美?が律子から巻物を奪った途端、床に転がっていた真美が跳ね起きた。

伊織「ちょっと、どういうことよ!?」

P「こういうことだよ」

 開け放たれた事務所のドアからPたちが室内に足を踏み入れる。
忍法勝負が始まって以来、両軍初の顔合わせであった。




32:2012/05/28(月) 06:18:25.34 ID:kgOuei4AO

律子「プロデューサー殿……」

P「律子、巻物は返してもらうぞ」

千早「あなた、亜美じゃないわね」

亜美?「さすがだね、千早ちゃん」

千早「最初は双子の亜美と真美が入れ替わってるのかと疑ったわ」

千早「でも、それじゃあ髪の長さがちがう説明がつかない」

千早「それに私をちゃん付けで呼ぶのは一人しかいない」

伊織「春香ね」

千早「まあ、どういう術を使ったかは、なんでもいいけど」




33:2012/05/28(月) 06:26:18.92 ID:kgOuei4AO

P「律子、今からでも遅くない。こんな馬鹿げたこと止めよう」

律子「プロデューサー殿、それは出来ない相談ですよ」

律子「既にやよいが死に、亜美もきっと……」

真美「……」

雪歩「そ、そんな、やめましょうよ!」

あずさ「雪歩ちゃん、こっちにいらっしゃい」

伊織「そうよ。あんたこっち側じゃないの!」

雪歩「でも、わたし、真ちゃんと戦えない……みんなと争うなんて出来ない……」


34:2012/05/28(月) 06:36:39.19 ID:kgOuei4AO

雪歩「仲間だから。わたしたち765プロは、みんな仲良く……」

律子「それは違うわよ、雪歩」

雪歩「えっ?」

律子「アイドル、芸能界とは競争社会。たとえ同じ事務所でもライバルには代わりないわ」

響「そうだぞ、トップアイドルになるには……仲間とも戦わなきゃ……」

律子「プロデューサー、巻物を渡して下さい」

P「交渉決裂だな。みんな、行くぞ」

伊織「こら、待ちなさいよ!」

真「……」

伊織「な、何よ……」




35:2012/05/28(月) 07:04:57.50 ID:kgOuei4AO

律子「誰か、巻物を取り戻しなさい!」

響「真、邪魔するなら容赦しないぞ!」

 踊り出た響が口を尖らせた。
彼女は何物も吹きもせず、飛ばしもしなかった。
 響の忍法――吸息旋風カマイタチ――。強烈な吸息で旋風を作る。
その旋風が生み出す真空が、カマイタチの如く対象を八つ裂きにする。

雪歩「やめて、響ちゃん!」

響「雪歩、そこを退くさー!」

 響の前に、真をかばうように雪歩が立つ。雪歩の瞳が向けられると、旋風を発生しかけた響が吸息を止めた。

響「退かないなら、雪歩ごと……」

真「……」

響「!!」

 真と眼が合った瞬間、響は身の毛がよだつような恐怖を感じた。
異様な音が空中で鳴った。顔をおさえた響の両手の間から、鮮血が噴き出す。
発生しかけた旋風は、響の顔面をザクロのように切り裂いた。




37:2012/05/28(月) 14:17:21.55 ID:kgOuei4AO

響「――――!!」

雪歩「あ、ああ……キャアアア!!」

律子「響!」

P「真、行くぞ」

真「はい、プロデューサー」

雪歩「ああ、ま、待って……真ちゃん……」

真「雪歩、できれば雪歩とは戦いたくなかった」

真「でも、亜美とやよいが死んだのに、それでも律子たちがやるって言うなら」

真「ボクはプロデューサーと一緒に戦う」

雪歩「そんな、行かないで!」

伊織「雪歩! いい加減に」

雪歩「イヤ、真ちゃん、行かないで……」

律子「使えないわね……」




38:2012/05/28(月) 14:33:28.95 ID:kgOuei4AO

数時間後

――事務所

あずさ『もしもし、律子さん?』

律子「はい、響はどうでした?」

あずさ『手術は終わりました。命に別状はないそうですが、目がいけません』

律子「失明ですか」

あずさ『はい。しばらく入院する必要があるって、お医者さまが』

律子「分かりました。千早に代わって下さい」

千早『もしもし』

律子「響の入院手続き、お願いできるかしら。必要な物はこっちで揃えるから」

千早『響を一人にして大丈夫なの?』

律子「看病は、あずささんに頼むわ。プロデューサー殿も病院にまでは来ないでしょ」

千早『分かったわ』




39:2012/05/28(月) 14:46:48.29 ID:kgOuei4AO

律子「さて……」

伊織「……ふん」

雪歩「……」

律子「雪歩、さっきのはどういうつもり?」

雪歩「あの、えっと……」

伊織「あんたが邪魔しなかったら、響は真を倒せたかもしれなかった」

律子「雪歩、あなたの術は何なの?」

雪歩「それは……」

律子「私たちは仲間よ。仲間の術も知らずに戦えない」

雪歩「わ、私の術は、見た者の忍法を消しちゃうんです」

雪歩「破幻の瞳って言うんだそうです」




40:2012/05/28(月) 15:01:39.22 ID:kgOuei4AO

伊織「じゃあ、それを使えば向こうの忍法は恐くないじゃない!」

律子「でも、肝心の雪歩がこれじゃ」

雪歩「うぅ……私、真ちゃんたちと戦えません……」

伊織「あんた、どっちの味方なのよ!」

雪歩「ご、ごめんなさい」

伊織「謝るなら響に謝りなさい! いいえ、これからあいつらと戦うのが何よりの償いよ」

律子「伊織、少し落ち着きなさい」

伊織「ふんっ!」




41:2012/05/28(月) 15:33:41.76 ID:kgOuei4AO

雪歩「ごめんなさい……ごめんなさい……」

律子「まったく……ん、プロデューサーから着信?」

伊織「あいつから!?」

律子「もしもし?」

P『律子か?』

律子「はい。そちらから電話が来るとは思いませんでしたよ」

P『律子、事務所のドアの前に巻物を置いてある』

律子「伊織」

伊織「あったわ!」

P『響は無事なんだろ? こっちは貴音と合流した』

P『これで五対五。これ以上犠牲者は出したくないが、お前たちが仕掛けてくるなら俺たちも黙ってっちゃいない』

律子「……」

P『それだけ言っておきたかった』

律子「切れたわ」

伊織「ちょっと律子、見なさいよこれ」




42:2012/05/28(月) 15:49:32.71 ID:kgOuei4AO

天海春香
菊地真
四条貴音
双海真美
―――――
星井美希


水瀬伊織
三浦あずさ
――――
萩原雪歩
我那覇響
如月千早


律子「亜美の名前が消されてるわね」

伊織「あいつ、どういうつもりよ。これをこっちに返すなんて」

律子「果たし状、のつもりかしらね」

律子(プロデューサー殿、覚悟を決めたみたいね)

 律子陣営に返された人別帖。そこには新たな血の一線が引かれていた。

雪歩「やよいちゃん、亜美……うぅ……」

犠牲者 双海亜美 残り五日




43:2012/05/28(月) 17:03:55.14 ID:kgOuei4AO

――アパート

貴音「面妖な……。忍法勝負などと」

真美「でも、お姫ちんも使えるんでしょ→?」

貴音「ええ。ですが、わたくしのは少々特殊なのです」

春香「プロデューサーさん、これからどうするんですか?」

P「残り五日、お前たちの仕事やレッスンは全てキャンセルする」

真「まあ、それどころじゃないですからね」

P「事務所には律子たちが居るし、自宅で一人でいると襲撃に遭うかもしれない」

P「ホテルの部屋を取るのも考えたが、不特定多数の人間が自由に出入りする場所もまずい」

美希「だからハニーのアパートなんだね!」

美希「ハニーのベッド、フカフカなの〜♪ あふぅ」




45:2012/05/29(火) 14:31:04.21 ID:ioageu3AO

真「美希、もっと緊張感を持ちなよ」

春香「ハハハ、でも美希らしいね」

美希「おやすみなの」

P「まあ、やることがないなら休んでいてもいいぞ」

P「今日を入れてあと五日は、俺たちは動かないからな」

真美「それ、どういうこと兄ちゃん?」

P「最終日まで待つ。待って、社長に真意を問う。忍法勝負が始まった日から社長が姿を消した」

真「高みの見物ですか」

P「事務所で戦いが起きると分かっていたら、呑気に出社して来ないだろうさ」

P「律子たちが来るなら別だが、こちらからは仕掛けるつもりはない。つまり、今は待機だ」




46:2012/05/29(火) 14:52:14.43 ID:ioageu3AO

春香「じゃあ、プロデューサーさんの部屋にお泊まりしていいんですか?」

P「アイドルを部屋に泊めるのもどうかと思うが、非常事態だからな」

真「へへっ、やっりぃ〜!」

P「必要な物は、これから買い出しに行こう」

貴音「あなた様、らぁめんを買ってもよいでしょうか?」

P「買うのはいいが、食べるのは一日一つにしておけよ」

貴音「……あなた様はいけずです」




47:2012/05/29(火) 15:00:15.42 ID:ioageu3AO

P「一緒に行くのは真と春香、貴音か?」

美希「ZZZ……」

貴音「真美、こちらへ」

真美「なあに? お姫ちん」

貴音「わたくしは、らぁめんを買いに行かねばなりません」

真美「ん? う、うん」

貴音「ですから、一人で何処かへ行ってはいけませんよ」

真美「だ、大丈夫だよ。真美、留守番くらいできるって」

貴音「それならよいのです」

P「よし、三人共行くぞ」




48:2012/05/29(火) 15:02:29.36 ID:ioageu3AO

真美「いってらっしゃ→い!」

真美「……」

美希「ZZZ……」

真美(お姫ちん、気づいてたんだ。真美の考えてること)

美希「……ZZZ……ZZZ」

真美「兄ちゃん、あと五日も待ってらんないよ」

真美「待ってる間に、また襲われるに決まってるじゃん」

真美(それなら、律っちゃんたちが来る前に終わらせちゃえばいいんだ)

真美「ミキミキ、真美ちょっと出てくるね」

真美「ちゃんと、帰ってくるからさ」




49:2012/05/29(火) 15:17:44.01 ID:ioageu3AO

――テレビ局・控え室

伊織「忍法勝負の最中でも仕事は入れるのね」

律子「当然でしょ。勝負が終わった後もあなたたちを売り出すなら、仕事に穴を開けるわけにはいかないわ」

あずさ「律子さん、これから竜宮小町はどうなるんですか?」

律子「亜美はしばらく病気の為、休業ということにしておきます。全てが終わったら、引退に。ほとぼりが覚めた頃、ちゃんと死を公表します」

あずさ「なんだか、大切なものが欠けちゃったみたいね……」

律子「……」

伊織「亜美の為にも勝たなきゃいけないのよ。あずさ、しっかりしてよ」

あずさ「ええ、分かってるわ。伊織ちゃん」

律子「さあ、この後も雑誌の取材が入ってるわ。出ましょう」




50:2012/05/29(火) 15:42:53.77 ID:ioageu3AO

――駐車場

律子「二人共乗って。出すわよ」

律子「後部座席でもシートベルトしてね」

伊織「分かってるわよ」

 律子がエンジンを掛けた、その時であった。シートベルトを締め終えた伊織が、不意に苦悶の声を上げた。

伊織「はぁ! ぐがっ……」

 その息が止まり、すぐに顔面から血の気が引いた。伊織の首に絡まる、後部座席のシートから伸びる細腕。
 絞殺された伊織は頭をがっくりと垂れ、白眼をむいた。脈がなくなったのを確かめてから腕はシートに吸い込まれるように消え失せた。

あずさ「伊織ちゃん!?」

律子「あずささん、車から離れて!」




51:2012/05/29(火) 15:58:19.14 ID:ioageu3AO

律子「一体、誰が!?」

あずさ「律子さん、後ろ!」

律子「えっ!?」

 なんと奇妙な光景か。アスファルトと同化していた“それ”は、駐車場の地面から伸びるように現れ、次第に人間の裸身になっていった。

律子「ま、真美!」

真美「律っちゃんが居なくなれば……ああ!」

 律子に飛び掛かろうとした真美の目に、信じられものが映った。
先程の車内で殺したはずの伊織が、悠々と後部座席から降りてきたのだ。

伊織「真美、さすがね」




52:2012/05/29(火) 16:23:12.87 ID:ioageu3AO

真美「そんな……いおりん……」

伊織「あんた一人? となると、あいつの差し金じゃないわね」

真美「ま、マズイYO……」

 再びアスファルトに消え、逃走を図ろうとした真美に向かってあずさが叫んだ。

あずさ「真美ちゃん、逃がさないわよ」

 あずさの顔面、露になっている肩や腕から幾千万の血の滴が真美に降り掛かった。
あずさの忍法、それは自身の意思で一切の怪我もなく毛穴から血を噴くものだった。
駐車場に血の霧が広がる。その霧が晴れたとき、駐車場の柱に動く赤い人影があった。

伊織「もらった!」

 柱に同化しかけていた真美だったが、血を浴びてその姿は一目瞭然。真美は伊織の短刀によって、心臓を突かれ絶命した。

真美「いお……りん……」

伊織「真美、向こうで亜美と仲良くしなさいね」

真美「兄、ちゃ……亜美……」




53:2012/05/29(火) 16:38:44.50 ID:ioageu3AO

――スーパー

P「もしもし?」

美希『ハニー! どこに居るの!?』

P「どうした、美希」

美希『美希が起きたら、誰も居ないの!』

P「買い出しに来てるんだ。あれ? そっちには真美が居るだろ」

美希『え、居ないよ?』

P「なんだって!」


――駐車場

伊織「これで、あと四人ね」

あずさ「律子さん、大丈夫ですか?」

律子「え、ええ……あずささん、その血」

あずさ「ああ、これ怪我したわけではないので」

伊織「一旦事務所に行きましょ。あずさの着替えと、それから真美をどうにかしないと」

律子「そうね……」

 単独行動を取り、返り討ちに遭った真美。人別帖のP陣営から、また一人の名が消された。

犠牲者 双海真美 残り四日




55:2012/05/30(水) 01:35:05.17 ID:9+o3IISAO

――病室

『関東は午前中に雨が降りますが、夜には止むでしょう。続いて東北の天気……』

響「雨か……」

千早「我那覇さん。私、そろそろ帰るわね」

響「うん、千早。お見舞いありがとう!」

千早「いいえ、また来るわね」

千早(お見舞い、というより護衛なのだけれど)

千早(我那覇さんは失明。萩原さんは塞ぎこんで事務所にも顔を出さない)

千早(実質戦えるのは私と竜宮小町の二人だけね)




56:2012/05/30(水) 01:42:42.07 ID:9+o3IISAO

――病院前

千早(今日はもう用事ないし、帰ろうかしら)

P「おい、千早」

千早「!! ぷ、プロデューサー!」

P「そんなに身構えるなよ。俺一人だ」

千早「どうして、ここに……」

P「律子に聞いたんだよ」

千早「律子に?」

P「千早、忍法勝負は終わりだ。」

P「俺は765プロを辞める」




57:2012/05/30(水) 01:49:52.32 ID:9+o3IISAO

千早「えっ?」

P「俺が居なくなれば、後継者は自動的に律子になる。もう争わなくていいんだ」

千早「プロデューサーは、それでいいんですか?」

P「お前たちを最後までプロデュースできないのが心残りだがな」

千早「辞める必要あるんでしょうか?」

P「なに?」

千早「たとえ律子が社長になっても、プロデューサーは私たちのプロデューサーとして」

千早「765プロに残ればいいんじゃないでしょうか?」




58:2012/05/30(水) 02:11:19.44 ID:9+o3IISAO

P「だけど、俺は……」

千早「もう一度、私をプロデュースしてくれませんか?」

P「俺は、お前たちの敵だったんだぞ」

千早「プロデューサー、もう忍法勝負は終わったんですよね?」

P「まだだよ」

P「千早ちゃん」

 千早の目の前で、Pの顔が歪んだ。その顔はやがて男性的な顔立ちから、柔和で、あどけない顔に変貌した。
 その不気味な変貌ぶりと、後から現れた顔に、千早は小さく叫んだ。その声は降りしきる雨音にかき消された。

千早「は、春香!?」

春香「ごめんね、千早ちゃん」

 春香のナタが、千早の薄い胸を突き刺した。雨に混じって、血が地面に流れ出す。致命傷を負って尚、千早は両手で印を結んでいた。

千早「春香……! 許さない!」

春香「千早ちゃんの忍法、雨の日は使えないんじゃないかな?」

千早「くっ……!」

春香「雨の日に、蟲たちは飛べないよ」




59:2012/05/30(水) 02:30:11.74 ID:9+o3IISAO

千早「春香、どうして? どうして、あの人に」

春香「この騙し討ちは、プロデューサーさんが考えたんだよ」

千早「そんな……」

春香「こっちも、やよいと真美を殺されてるからね」

千早「そう、真美も死んだのね……」

春香「千早ちゃんが外で歌ってるとき、たまに周りに蝶々が飛んでたりしてたよね」

春香「不思議だったなあ。でも、それが千早ちゃんの忍法だったんだね」

千早「そう、蛇や蟲たちを操るのが……私の……」

千早「春香、そんなの、よく覚えてたわね……」




60:2012/05/30(水) 02:36:45.57 ID:9+o3IISAO

春香「だって、千早ちゃんはわたしの親友だもん」

千早「親友、か」

春香「千早ちゃん。忍法勝負は地獄だよ」

春香「たとえ相手が友達でも、家族でも戦わなきゃならない」

千早「分かってた、つもりよ……」

千早(プロデューサー……もう一度、あなたに……)

千早(私の歌を……プロデューサー……)

 雨の中で息絶えた千早のそばに、二匹、三匹、弱々しく蝶が花びらのようにまとわりついて、いつまでも離れなかった。




61:2012/05/30(水) 02:54:58.24 ID:9+o3IISAO

――アパート

P「春香、ご苦労だったな」

春香「はい……」

P「千早が病院にいたそうだな」

春香「はい、〇〇病院です。きっと、響が入院してるんだと思います」

P「分かった。夜になったらそこに行く。もう一働きしてもらえるか?」

春香「はい!」

美希「ハニー、美希も行くの」

P「美希……」

美希「真美を行かせちゃったの美希だから。ごめんなさいなの」

P「いや、俺の責任だ」

貴音「わたくしにも責任があります。あの時、真美にもっと強く釘を刺しておけば」




62:2012/05/30(水) 03:07:07.63 ID:9+o3IISAO

P(甘すぎたんだ。俺は最初から律子の後手に回っていた)

P(これが殺し合いだって覚悟が、足りなかったんだ。今の今まで)

P「律子、もうお前たちは敵だ」

――事務所

伊織「千早と連絡が取れないですって?」

律子「響の見舞いに行った後からよ。響からは千早が帰ったと連絡が来たから」

あずさ「まさか、その後で」

伊織「響のいる病院、行くわよ」

律子「雪歩にも連絡を」

伊織「あんなの足手まといよ!」



63:2012/05/30(水) 03:24:40.36 ID:9+o3IISAO

――病院内・廊下

貴音「面会時間はとうに過ぎていますが」

貴音「どうやって我々が入ったか。それは、とっぷしぃくれっとです」

真「貴音、ふざけてないで行くよ」

貴音「はい、真」

真「えっと、響の病室は……」

貴音「! 真、早速敵が現れましたよ」

真「ど、どこ!?」

貴音「もうすぐ、この廊下を走って我々の前に来ます」




64:2012/05/30(水) 03:34:45.90 ID:9+o3IISAO

貴音「真、あなたはプロデューサーと合流しなさい」

真「なに言ってるのさ!」

貴音「心配無用です。足音から察するに相手は一人。わたくしだけで戦えます」

貴音「むしろ、向こうの春香と美希。二人の術では、プロデューサーを守るには心許ないのではないでしょうか」

真「確かに。春香はともかく、美希は」

貴音「さあ、行きなさい。後で必ず合流します」

真「貴音。死なないでよ」




65:2012/05/30(水) 03:44:14.53 ID:9+o3IISAO

伊織「エレベーターは使えないし、廊下は暗いし、まったく響の部屋はどこよ!」

伊織「あっ!」

貴音「おや、伊織でしたか」

伊織「た、貴音」

貴音「思えば忍法勝負が始まってから、こうして話をするのは初めてですね」

伊織「私は立ち話をしに来たんじゃないわよ」

貴音「わたくしもそうです」

伊織(四条貴音。こいつの術はまだ解らないのよね)




66:2012/05/30(水) 03:57:22.40 ID:9+o3IISAO

貴音「わたくしの術は、まだこちらの陣営にも内緒にしていますから」

伊織(なんで私の考えてることが分かるのよ!)

伊織「いいわ。あんたがどんな忍法を使おうが、私は負けないんだから!」

貴音「なんと、強気ですね」

貴音「真と離ればなれになったのは失敗だったでしょうか」

伊織「にししっ♪ 真が居ないならこっちのものよ! 厄介な術はあいつの眼だけよ」

貴音「そうですか。真の眼が」

貴音「水瀬伊織」

伊織「な、何よ」




67:2012/05/30(水) 04:08:23.47 ID:9+o3IISAO

貴音「見よ……!」

 貴音の両眼が金色に輝いた。その眼を見た伊織は、隠し持っていた短刀の刃を、あろうことか自らの首筋に当てた。

伊織「た、貴音、あんた……イヤ、キャアアア!!」

 断末魔の叫びが廊下に響いた。頸動脈を自ら切り裂いた伊織は、血しぶきを上げて倒れ込んだ。

貴音「菊地真の瞳術、実はわたくしにも使えるのです。もっとも、わたくしは夜にしか使えませんが」

貴音「まこと、忍法とは不思議なものですね」

貴音「む、また足音が……。こちらに走ってきますね」




68:2012/05/30(水) 04:19:03.43 ID:9+o3IISAO

春香「ハァハァ……貴音さん!」

貴音「春香、どうしたのですか?」

春香「真が、貴音さんの所へ行けって」

貴音「そうですか。今、ちょうど伊織を倒したところです」

春香「伊織……」

貴音「春香、プロデューサーの元へ参りましょう」

春香「貴音さんは先に行っててください」

春香「わたしは伊織に用がありますから」

貴音「分かりました。では、また後ほど」




70:2012/05/30(水) 04:31:15.90 ID:9+o3IISAO

――病院内・個室

P「ここが響の病室か」

真「美希、行くよ」

美希「うん!」

美希「あれ?」

P「どうした、美希?」

真「プロデューサー、響が居ません!」


――病院内・廊下

貴音「……」

響「だ、誰か居るのか……?」

貴音「響」

響「貴音か!?」

貴音「その包帯、どうしたのです?」




71:2012/05/30(水) 04:40:29.40 ID:9+o3IISAO

響「これは、真にやられたんだ……」

貴音「そう、ですか」

貴音(目をやられたのですね)

響「貴音、今日は雨だったさ」

貴音「はい、そうでしたね」

響「自分、目が見えないから、雨の音ばかり聞いてたんだ」

貴音「でも、もう雨は上がっています」

響「うん。そうだね」

貴音「響、月が綺麗ですね」




72:2012/05/30(水) 05:01:59.22 ID:9+o3IISAO

――病院・中庭

 中庭の土は昼間降った雨で泥のように柔らかくなっていた。その土をこねて山のように盛ってから、春香は伊織の顔を土に押し付けた。

春香「さて、やるか」

 春香が土の窪み、つまり伊織のデスマスクに自分の顔をしっかりと押し込むと、なんと春香の髪が徐々に長く伸びていくではないか。
この奇怪な行動こそが、律子陣営を翻弄した春香の忍法の恐るべき正体である。
 やがて、土から顔を上げたのは伊織と瓜二つの姿をした春香だった。

伊織「プロデューサーさんたちと合流しなくちゃ」




75:2012/05/31(木) 00:46:03.41 ID:eGug8BKAO

――病院内・廊下

響「月、綺麗なのか?」

貴音「はい、とても」

響「自分にはもう見えないさー」

響「トップアイドルになる為に戦うって決めたのに」

響「もう何も見えない。真っ暗さ。これから、どうしたらいいか分からない」

貴音「わたくしも同じです。先のことなど分かりません」

貴音「ですが、自分の運命は自分の手で切り開くしかないのです」

響「貴音は、強いね……」




76:2012/05/31(木) 00:47:01.79 ID:eGug8BKAO

貴音「響、視力を失ったくらいで嘆くことはありません」

貴音「わたくしたちは最初から何も持っていないのです」

貴音「故郷を離れてこの街に来た、あの頃から」

響「何も持ってない、か」

貴音「そうです。ただし、唯一持っているとしたら」

響「忍法……」

貴音「はい」

響(貴音とも戦わなきゃならないんだよね)

響(勝てない、今の自分じゃ)

貴音「どうしたのです? 響」

貴音「あなたは完璧なのでしょう?」




77:2012/05/31(木) 00:47:41.44 ID:eGug8BKAO

ハム蔵「ヂュヂュ!」

響「えっ、ハム蔵。でも」

ハム蔵「ヂュ!」

貴音「なんと言ってるのです?」

響「ハム蔵が自分の目になるから、貴音と戦えって」

ハム蔵「ヂュヂュー!」

響「……よし、やろう」

貴音「わたくしと戦えますか? 響」

響「うん! 自分、いや自分たちは完璧だからな」

貴音「やっと、響の雨も上がったようですね」

貴音「響、やりましょう」

貴音「わたくしたちの忍法勝負を」




78:2012/05/31(木) 01:14:04.57 ID:eGug8BKAO

響「ヒュルルルル」

 響の吸息が旋風を作る。窓ガラスが音を立て、壁を抉った。貴音はカマイタチを軽々とかわしていく。

ハム蔵「ヂュー!」

響「そっちか!」

貴音「響、なかなかやりますね」

響「ヒュルルルル」

響(なんでだ? 貴音はなんで忍法を使わないんさ)

ハム蔵「ヂュヂュッ」

響(貴音、そこか!)

貴音「響、見よ!」

 貴音の両眼が、金色の輝きを放った。だが、完全に盲目となった響には
貴音の必殺の忍法も通じなかった。旋風が、貴音の目の前で広がっていく。

貴音(響、目が見えないからこそ、あなたはわたくしに勝ったのです)

貴音「まこと、忍法とは不思議なものですね」




79:2012/05/31(木) 01:27:25.72 ID:eGug8BKAO

 風切り音が鳴った。貴音の顔面をカマイタチが切り裂き、鮮血と幾束かの銀髪が辺りに飛び散った。

響「た、貴音?」

ハム蔵「ヂュ!」

響「終わった、死んだのか?」

響「貴音……」

伊織「響、よくやったわ」

響「だ、誰だ!?」

伊織「伊織よ。声で分かりなさいよね」

響「伊織か。ご、ごめん」

伊織「まあ、いいわ。貴音を倒すなんて大金星じゃないの」




80:2012/05/31(木) 01:46:40.19 ID:eGug8BKAO

響「ハム蔵のおかげさー。自分たちは完璧だからな」

伊織「そう、目が見えないあんたが勝てたのは」

伊織「ハム蔵が原因なのね」

 伊織の左手が暗闇の中に閃いた。ナタが、ハム蔵を響の右肩ごと叩き切った。
 返す刀で伊織が響の首を切り裂くと、響は叫びが声にならないのか
口をパクパクさせながら無惨にも倒れた。

伊織(まさか響ちゃんが貴音さんを倒すなんて)

伊織(これで二人が死んだ。いや、三人か……)




81:2012/05/31(木) 01:53:18.20 ID:eGug8BKAO

P「春香、無事か!」

伊織「プロデューサーさん、ここです!」

美希「うっ、貴音に響なの……」

P「くそっ、遅かったか」

伊織「プロデューサーさん、これを」

P「巻物か」

伊織「伊織が持っていました」

真「伊織に化けてるってことは、伊織はもう……」

伊織「うん、貴音さんが倒したんだよ」

P「そうか。貴音、よくやったな」




82:2012/05/31(木) 02:06:18.98 ID:eGug8BKAO

天海春香
菊地真
――――
――――
――――
星井美希

水瀬伊織
三浦あずさ
――――
萩原雪歩
――――
――――

P「半分になっちまったな……」

美希「ハニー、でこちゃんの名前は消さないの?」

P「春香には伊織になりすまして律子たちを撹乱してもらう」

P「消さずにおいた方が都合がいいのさ」

春香「あとは、あずささんと雪歩だけですね」

美希「終わりが見えてきたの」

真(雪歩……)




84:2012/05/31(木) 15:24:38.45 ID:eGug8BKAO

――病院内・廊下

真「誰か来ます!」

P「まずい、二人の遺体をどうにかしないと」

伊織「待って。走ってくる。足音は二人……たぶん、残りの二人ですよ」

P「律子とあずささんか?」

美希「ハニー、隠れた方がいいの」

P「春香。お前は伊織として、向こうの陣営にこのまま潜り込んでくれ」

伊織「はい、分かりました!」

P「頼んだぞ」




85:2012/05/31(木) 15:25:29.52 ID:eGug8BKAO

あずさ「律子さん、あれっ」

律子「伊織!」

伊織「律子とあずさ、遅かったわね」

律子「響に、こっちは貴音ね。間に合わなかったか」

伊織「どこほっつき歩いてたのよ」

律子「響の病室を知ってるのは千早とあずささんだけだったから」

あずさ「ごめんなさい。道案内をしようと思ったら迷っちゃって」
律子「でも、二手に別れて探した方が早いって走っていったのは伊織じゃない」

伊織「そ、そうだったかしら」




86:2012/05/31(木) 15:34:41.72 ID:eGug8BKAO

律子「それにしても、響が貴音と相討ちになるなんて」

あずさ(もし私が早く駆けつけていたら、助けてあげられたのかしら……?)

律子「伊織、二人の勝負を見ていたの?」

伊織「私が見つけた時には、もう二人共この状態だったわ」

律子「そう……」

律子(プロデューサー殿、やってくれましたね)

律子「伊織、巻物は?」

伊織「ちゃんとここにあるわよ」

律子「これで三対三ね」




87:2012/05/31(木) 15:45:33.37 ID:eGug8BKAO

律子(千早の名前が消えてる。連絡がない以上、無事ではないわね)

律子(プロデューサー殿に初めて先を越された)

律子「でも、伊織。あなたが無事でよかったわ」

伊織「フン! このスーパーアイドル伊織ちゃんが死ぬわけないじゃない」

伊織(本当は、もう貴音さんに殺されたけど)

あずさ「そうですよ、律子さん」

あずさ「伊織ちゃんが死ぬわけないじゃないですか」

律子「まあ、そうですね。今までもそうだったですし」




88:2012/05/31(木) 15:55:24.61 ID:eGug8BKAO

伊織(え? どういうこと?)

あずさ「律子さん、二人を弔ってあげましょう」

律子「そうですね。響、よくやったわ。もう、戦わなくていいのよ」

伊織(伊織は確かに死んでたはず……)

律子「伊織、なにしてるの。手伝って」

伊織「わ、わかってるわよ」


P(どういうことだ? 伊織が死ぬわけないって)

真(貴音が仕留め損なうとは思えませんよ。それに、春香が化けてるわけだし)

美希(たぶん、律子……さんは、でこちゃんをそれくらい信頼してるんじゃないかな?)

真(ボクもそういう意味だと思いますよ)




89:2012/05/31(木) 16:06:35.18 ID:eGug8BKAO

律子「さあ、撤収しましょう」

伊織(プロデューサーさん、とりあえずわたしは行きますね!)

P(ああ、上手くやれよ)

P「……行ったな」

美希「ハニー、美希たちも帰ろ」

P「ああ。今日は引き上げよう」

P(貴音、お前の死は無駄にしない)

 貴音と響。二人の命は月夜の下に散った。一方、同じ月光を浴びながら、闇にあの不気味な声が聞こえた。

伊織「あアあっ!」

伊織「……何度生き返っても、寝覚めは最悪ね」

犠牲者 如月千早、四条貴音、我那覇響 残り三日




94:2012/06/01(金) 01:43:02.37 ID:Zx+6F7LAO

とりあえず生存者の現状はこうなっております

Pと行動を共にしてるのは真と美希

律子と行動してるのは、あずさ。雪歩は引きこもり中
伊織に化けてる春香は律子と一緒にいる

本物の伊織は、はぐれて単独行動中




95:2012/06/01(金) 06:33:28.34 ID:Zx+6F7LAO

――萩原家

雪歩(事務所に行かなくなってから二日しか経ってない……)

雪歩(まだ終わらない……あと、今日を入れて三日……)

雪歩(また、誰か死んじゃったのかな)

雪歩「イヤだよ。誰にも死んで欲しくない、戦いたくない……」


――事務所

律子「ちょっと気になることがあるんだけど」

伊織「なによ?」

律子「今日、美希に取材が入っているの」

あずさ「それが、どうかしたんですか?」

律子「今までプロデューサーは仕事を全部キャンセルしてました。でも、今日だけは仕事を入れてるんです」




96:2012/06/01(金) 06:44:04.83 ID:Zx+6F7LAO

伊織「美希のワガママじゃないの?」

律子「私たちを誘ってる可能性もあるわ」

伊織「フン! あいつがどんな手を使ってこようが関係ないわよ」

伊織「誘いなら乗ってあげるわ。その取材、どこでやるのよ」

律子「場所は都内の撮影スタジオになってるわ」

伊織「あずさ、行くわよ」

あずさ「いいんですか? 律子さん」

律子「私も行くわ」

伊織「律子は雪歩を連れ出してきてちょうだい」

律子「雪歩か……」

伊織「あんなのでも頭数にはなるわ」




97:2012/06/01(金) 07:02:33.47 ID:Zx+6F7LAO

――事務所前

あずさ「そのスタジオ、どこにあるのかしら?」

伊織「場所は知ってるわ。タクシーで行くわよ」

あずさ「あ、タクシー。あら、なかなか止まってくれないわね」

伊織(あずささん、お客さん乗ってたら止まりませんよ……)

伊織「流しのタクシーなんか使わないわよ」

伊織「もしもし?」

――撮影スタジオ

P「お、春香からだ」

伊織『タクシー一台用意してちょうだい。場所は、たるき亭の前よ。早くしなさいよね」

P「分かった。春香、気をつけてな」

P「春香とあずささんがこっちに来るぞ」

P「美希、気を抜くなよ」

美希「ハニー、美希に任せてなの」

P「あ、すいません。タクシーお願いしたいんですが。はい、たるき亭前に……」




98:2012/06/01(金) 07:14:28.66 ID:Zx+6F7LAO

――タクシー・車内

あずさ「ごめんね、伊織ちゃん」

伊織「な、何よ。いきなり」

あずさ「私、伊織ちゃんや律子さんに助けてもらってばかりだなあって」

あずさ「道には迷うし、タクシーも止められないし」

あずさ「響ちゃんの時もそうだったわ……」

伊織(病院の時のことか)

あずさ「伊織ちゃんは、私より年下なのにしっかりしてて偉いわねぇ」

伊織(あずささん、謝らないといけないのはわたしです)

伊織(わたしは春香です。伊織じゃないんですよ)

伊織(わたしって騙し討ちばっかりだなあ……千早ちゃんも、響ちゃんも騙して……)

あずさ「伊織ちゃん? どうしたの?」

伊織「ど、どうもしないわよ! あずさ、あんたも今さらそんなこと謝らなくていいのよ」




99:2012/06/01(金) 07:23:14.99 ID:Zx+6F7LAO

あずさ「伊織ちゃん……」

伊織「あずささんのそういう、のんびりしてるところ、みんな好きですから」

あずさ「うふふ、ありがとう」

あずさ「でも、なんで敬語なのかしら?」

伊織「べ、別になんとなく……そう、なんとなくよ!」

あずさ「あらあら」

伊織「あ、運転手さん。そこ、そこの建物よ!」

あずさ(伊織ちゃん、ありがとう)

あずさ(あなたと律子さんと雪歩ちゃん。必ず勝たせてあげるわね)




100:2012/06/01(金) 08:22:33.09 ID:Zx+6F7LAO

――スタジオ

美希「あずさ、来たね」

あずさ「あら? 美希ちゃん一人なの?」

伊織(美希、いいね)

美希(春香、オッケーなの)

美希「あずさとでこちゃんなんて、美希一人で楽勝なの!」

あずさ「あらあら。すごい自信ね」

あずさ「でも、甘く見てると痛い目見るわよ」

 あずさが二メートルほどの距離を一気に駆け、美希の虚を突いて拳を繰り出す。
普段の様子からは想像もつかないあずさの身のこなしは、流石忍法の使い手と言えるだろう。
連打を防ぎながら美希は後ろに跳び下がった。




101:2012/06/01(金) 08:27:13.06 ID:Zx+6F7LAO

美希「くぅ!」

あずさ「逃がさないわよ」

 血の霧が、美希の視界を覆った。身をひるがえして逃げようとする美希を、赤い血煙が追うように漂ってくる。

あずさ「私の忍法、食らいなさい」

 血の霧に飛びこもうとしたあずさの背中に衝撃が走った。
衝撃の正体は伊織、いや正しくは春香である。短刀を手に体ごとぶつかってきたのだ。

あずさ「い、伊織ちゃん?」

伊織「……」

あずさ「な、なんで……」




102:2012/06/01(金) 08:33:26.55 ID:Zx+6F7LAO

美希「あずさ、それは春香なの」

美希「でこちゃんに変身して、あずさをここまで連れてきてもらったの」

あずさ「なんですって」

伊織「あずささん……」

伊織「あずささんのこと、好きだって言ったのは嘘じゃありません」

伊織「ごめんなさい……」

あずさ「そう、そうだったの……」

 自身の血煙と、流血の中にあずさは倒れた。
真っ赤な血にまみれながらも、あずさの顔は穏やかであった。
それは最後に、伊織の顔を見たからか。春香の言葉を聞いたからか。




103:2012/06/01(金) 08:41:31.00 ID:Zx+6F7LAO

美希「これで、あとは雪歩だけなの!」

伊織「……」

美希「春香。嬉しくないの?」

伊織「たった五日だよ。たったそれだけしか経ってないのに」

伊織「仲間同士で殺し合って……」

美希「先に仕掛けてきたのは律子の方だよ」

伊織「それでも、美希みたいに喜べないよ」

美希「美希はね、ハニーに勝って欲しいの」

美希「その為なら美希、なんだって出来るって思うな」




104:2012/06/01(金) 08:48:44.45 ID:Zx+6F7LAO

――事務所

伊織「戻ったわよ」

律子「あ、伊織……あずささんは?」

伊織「知らないわよ。一緒じゃないの?」

律子「あんたと一緒に美希のいるスタジオに行ったでしょう」

伊織「何よ、それ。私は響がいた病院から歩いてここまで帰ってきたのよ」

律子「え?」

伊織「ん?」

律子「じゃあ、さっきの伊織は……」

伊織「どうやら、私以外に私がいたみたいね」

伊織「ナメた真似してくれるじゃないの」




105:2012/06/01(金) 14:04:27.35 ID:Zx+6F7LAO

――路上

美希「じゃあ、美希はハニーのところへ戻るの」

伊織「うん、気をつけてね」

美希「春香、バイバイなのー」

律子(見たわね?)

?(ええ、見たわ)

律子「伊織」

伊織「り、律子。どうしたのよ!?」

律子「雪歩を連れて来たわ」

?「……」

伊織「そう、ご苦労だったわね」

律子「伊織、あずささんは?」

伊織「……死んだわ」

?「!!」




106:2012/06/03(日) 23:49:33.37 ID:EAq7kb2AO

律子「死んだですって!?」

伊織「そうよ。美希にやられたわ」

律子「その美希は仕留めたの?」

伊織「逃げられちゃったのよ。残念だけどね」

律子「……ふうん、まあいいわ。伊織が無事でよかった」

伊織「私がそんなヘマするわけないじゃない」

律子「そうよね。あんたが死ぬわけないものね」

伊織「あ、当たり前よ」

伊織(また? 伊織は死んでるのに)




107:2012/06/03(日) 23:50:04.15 ID:EAq7kb2AO

?「……そう、伊織ちゃんが死ぬわけない」

伊織「ま、まあね!」

?「伊織ちゃんは死んでも生き返るから。そうでしょ、律子」

律子「ええ、そうよ。何度殺されても生き返る。それが伊織の忍法」

伊織(な、嘘でしょ!?)

?「この伊織ちゃんは生き返るのかしら?」

伊織「例えばこんな風に刺しても」

伊織「い、伊織!?」

 奇妙な光景だった。路上に水瀬伊織が二人いるのである。
その姿は瓜二つだが、しかし片方はまさしく死人を見たように驚愕の表情を浮かべていた。

伊織「春香、私に化けて色々とやってくれたようね」

伊織「でも残念ね。私に化けたのが運の尽きよ」



108:2012/06/03(日) 23:50:57.23 ID:EAq7kb2AO

春香「伊織……! くっ、死んだはずなのに」

伊織「言ったでしょ。私は生き返るって。あんた、姿は似せられても術までは無理でしょう」

伊織「許さないわよ。私に化けて、あずさを殺したあんたに地獄を見せてやるわ!」

 そこから先は凄惨極まるものだった。伊織は自分と同じ姿をした春香を刺しては斬り、斬っては刺した。
竜宮小町を失った伊織の憎悪が刃となって春香に向けられた。

律子「伊織、伊織! もういいわ!」

律子「もう、死んでるわよ」

 律子には、まるで伊織が不死身の自分自身を殺そうとしているように見えた。

犠牲者 三浦あずさ、天海春香 残り二日




109:2012/06/04(月) 00:15:42.77 ID:jrM/tUSAO

――路上

伊織「美希!」

美希「あれ? 春香、どうしたの。さっき美希と別れたばかりだよ?」

伊織(こいつ、私のこと春香が化けてるって思ってるわね)

伊織「私と一緒に事務所に行くのよ」

美希「でも、事務所には律子が居るよ?」

伊織「残りは雪歩だけになって、律子は降伏したわ」

美希「コーフク?」

伊織「つまり、敗けを認めたってことよ。ぷ、プロデューサーさんから連絡が来たわ」




110:2012/06/04(月) 00:16:27.99 ID:jrM/tUSAO

美希「じゃあ、ハニーが勝ったんだね!」

伊織「ええ、そうよ」

伊織「これから事務所にみんな集まるように言われたわ」

美希「美希、ハニーが律子に勝って嬉しいの!」

律子「へぇ、そう……」

美希「!!」

美希「り、律子…………さん?」

律子「あんた、敬語を使えってなんべん言えば分かるのよ」

 背後から律子が現れ、そこで美希の意識は途絶えた。
美希を担ぎ入れ、律子と伊織を乗せた車は事務所とは別の方角に走り去っていった。



111:2012/06/04(月) 00:37:49.12 ID:jrM/tUSAO

――廃工場

律子(あずささん……)

伊織「……何よ、泣いてるの?」

律子「そ、そんなわけないでしょう」

伊織「無理しなくていいのよ。あんたが初めてプロデュースしたユニット、無くなっちゃったんだから」

律子「まだよ……まだ、伊織がいるじゃない」

伊織「律子……」

律子「泣くのは、勝負に勝った時よ」

 涙を堪えながら、律子は自分の人差し指を噛んだ。
流れ出た血で、人別帖のあずさの名に朱の線を引いた。
この巻物を持っていた春香にも朱の線が引かれ、これで双方二人ずつを残すのみとなった。



112:2012/06/04(月) 00:45:34.84 ID:jrM/tUSAO

律子「それにしても、よくこんな場所知ってたわね」

伊織「水瀬財閥のグループ会社の、その孫受け業者の工場らしいわ。まあ、私も詳しくは知らないけど」

伊織「今じゃこの有り様。潰れたのは不況の煽りってやつね」

伊織「ところで、あいつまだ寝てるの?」

律子「元々よく寝る子だけど、嗅がせた薬の量を間違えたかしら」

美希「むにゃむにゃ……ZZZ……」

律子「まあ、おかげで縛り上げるのも楽だったし」

伊織「それに起きたら最後、地獄が待ってるわ」



113:2012/06/04(月) 00:58:23.51 ID:jrM/tUSAO

――アパート

“プロデューサー殿へ。美希を助けたければ、真を連れて下記の住所へ来てください”

P「何だよ、これ……」

 律子からのメールに添付された画像を見て、Pは戦慄した。
柱に縛りつけられた美希と、あの人別帖。

真「これ、美希じゃないですか!」

P「クソ! 春香の名前も消されてる」

真「プロデューサー、行きましょう! 美希を助けなきゃ」

P「ああ、行くぞ!」




120:2012/06/05(火) 16:53:23.41 ID:YMY6fBeAO

――廃工場

 美希が拉致されてから一夜が明け、Pにメールが送信された頃。
眠りから覚めた美希は、噛まされた猿轡ごしに苦痛の叫びを上げていた。

美希「むぐうううぅぅぅ!!!」

伊織「動くんじゃないわよ。狙いが外れるでしょ」

 伊織が数本の針をくわえると、美希に向かってプッと吹いた。
露になった美希の腹に針が刺さる。そこには銀色に光る「竜」の一文字が美希の腹に刻まれていた。
今、吹いた針が「呂」を刻み、腹の二文字目は「宮」となった。

伊織「これで二文字目ね。さあて、あいつは何文字目に来るかしら」

律子(美希の身体に文字、しかも毒を塗った針で。趣味の悪いことをするわね)

美希「うぅ……」

伊織「簡単には殺さないわ。あんたも春香とグルになってあずさを罠にはめたんでしょ」

伊織「あんたが誰を殺したか忘れないように、その身体に書いといてあげる」




121:2012/06/05(火) 16:55:22.60 ID:YMY6fBeAO

 また伊織が針を吹く。美希の腹に刻まれる「小」。文字が縦に並ぶ肌に、うっすらと血が滲んでくる。
柱に縛りつけられた美希は針が刺さる度に、毒による激痛に身悶えた。

美希「――――!!」

伊織「にししっ♪ 声も出なくなったわけ?」

伊織「あいつが来る前に死ぬんじゃないわよ?」

律子「伊織、私ちょっと外に出てるわね」

伊織「……別にいいけど、あいつが来る前に戻ってきなさいよ」

律子「分かってるわ」

律子「伊織の精神状態もそろそろキツいわね。あの子も呼んでおく必要があるか」

律子「もしもし?」

雪歩『……はい』

律子「雪歩、今どこに居るの?」

雪歩『今は、家に居ます』

律子「すぐに来て欲しいの。場所はメールで教えるから」

雪歩『律子さん、あの……』

律子「雪歩、もうすぐ終わるわ。あなたは戦わなくていいの」





122:2012/06/05(火) 17:01:37.92 ID:YMY6fBeAO

雪歩『ほ、本当ですか?』

律子「ええ、あとは伊織と私で片付けるから。雪歩も来なさい」

律子「真に会えるのもこれが最後よ」

雪歩『……!!』

律子「切るわよ。すぐにメールするから、必ず来なさい」


――萩原家

雪歩「真ちゃんに会えるのが最後って……」

雪歩「ひゃっ! め、メール、律子さんから」

雪歩「行かなきゃ……。真ちゃんが、殺されちゃう」


――廃工場

伊織「何よ。早かったわね」

律子「ええ、雪歩に電話しただけだから」

伊織「ああ、雪歩。そういえばまだいたわね」

 毒針をくわえた伊織を見ると、美希は次に来る激痛を想像して恐怖に身を震わせた。
針が腹に刺さり、やや小さく「田」という文字を刻んだ。




123:2012/06/05(火) 17:17:52.91 ID:YMY6fBeAO

P「ここか!?」

真「プロデューサー、急いで下さい!」

P「美希! どこだ!」

律子「プロデューサー殿、来ましたね」

伊織「遅いわよ。伊織ちゃんを待たせないでよね」

美希(ハニー、真クン……助けて……)

P「くっ、美希! 律子、お前美希に何をした」

律子「落ち着いて下さい。まだ生きてますよ」

律子「少々、傷がついてますけどね」

伊織「そこで見てなさい。もうちょっとで完成よ」

 伊織が最後の針を吹いた。先程の「田」の右に「丁」が刻まれる。
縦に並ぶ四文字を読んでPは絶句していた。
美希の白い肌に刻まれた針の文字。銀色に輝く“竜宮小町”の文字を!




124:2012/06/05(火) 17:28:34.67 ID:YMY6fBeAO

伊織「あんたたちが誰を敵にして、誰を殺したか教えてあげる」

美希「―――――!!!!」

真「美希!」

P「伊織、律子。お前ら……」

伊織「律子、あんたは外に出てなさい」

律子「馬鹿言わないで。私も」

伊織「巻き添え食らって死にたくないでしょ。大丈夫、私は死なないわよ」

律子「伊織……。分かったわ」

真「プロデューサー、律子が逃げます!」

P「待て、美希を助けるのが先だ。お前は伊織を頼む」

真「くっ、分かりましたよ」

真「伊織! ボクと勝負しろ!」



125:2012/06/05(火) 18:59:43.54 ID:YMY6fBeAO

伊織(来なさい。もっと近くに)

伊織(狙いが外れないように……)

伊織(今だ!)

真「――――!?」

 伊織に向かって走っていた真が、顔を手で押さえて苦悶の声を上げながら足を止めた。
隠し持っていた毒針を、真の目を狙って伊織が吹き出したのだ。

伊織「にししっ♪ これであんたの目は潰れたわ!」

真「くぅ! 伊織、よくも!」

伊織「痛い? 苦しい? でも、私の苦痛はそんなもんじゃなかったわ」

伊織「[ピーーー]ないのよ! あんたたちに何回も殺されて、その度に生き返る。仲間だったあんたたちに殺されてよ!」

伊織「おまけにあずさや亜美まで殺されて、私はひとりぼっち。仲間と一緒に死んでやることすらできない」




126:2012/06/05(火) 19:00:51.72 ID:YMY6fBeAO

伊織「でも、私にも生きる理由ができたわ」

伊織「あんたたち全員の名前を巻物から消して、あずさと亜美への手向けにするのよ」

真「……」

伊織「そして、律子と一緒に栄光を掴んでみせるわ」

真「伊織……」

伊織「真、死になさい!」

 伊織が短刀を振りかざした。真は未だに顔を押さえている。しかし、指の隙間から見えた右目が、金色に輝いていた。
 真の目は、少なくとも右目は潰れていなかったのだ。
伊織が吹いた毒針は真の左目を潰したものの、片方の針は額を掠めていた。

伊織「な、何で! イヤ、イヤ……」

真「伊織、見ろ!」

伊織「キャアアア!!!」

 真に向けた殺意、敵意といったものが、そのまま伊織自身に刃を向けさせる。
 真の右目に捉えられた伊織は、自ら短刀を深々と頸動脈に刺した。

真「伊織、ごめん!」

 真は刺さったままの短刀の柄を握ると、力任せに大きく横一直線に伊織の首を裂いた。




128:2012/06/05(火) 19:02:25.38 ID:YMY6fBeAO

P「美希! おい、美希!」

美希「むぐぅ、うう」

P「待て、今ほどくから」

美希「ぷはぁ……ハニー、助けに来てくれたんだね」

P「当たり前だ! 誰が見捨てるもんか」

美希「ミキ、死ぬかと思ったの。痛くて、苦しくて堪らないの……」

P「喋らなくていい。すぐに病院に連れてってやるからな」

美希「ミキの身体、でこちゃんにキズモノにされちゃった。これ、痕残るかな?」

P「大丈夫だ。こんなの綺麗に消えるさ……」

美希「ハニー、優しいね。でもミキには分かるの。傷も残るし、それにミキ今にも死にそうなの」

P「馬鹿なこと言うな」

美希「ハニー、ミキと一緒に……」

P「美希、何を……!」

 美希がPに顔を寄せて息を吐いた。少女の甘い息を吸ったPは、たちまち昏倒した。



129:2012/06/05(火) 19:22:26.85 ID:YMY6fBeAO

――工場前

雪歩「律子さんが言ってた場所、ここなのかな……」

雪歩「扉が開いてる。は、入っていいのかな」

雪歩「あ、あれは……」

雪歩「美希ちゃん、プロデューサー!」


――工場内

美希「ハニー、ミキの忍法はね。女には効かないの」

美希「男の人には、ミキの息は毒になるの。だから、ハニーには言えなかったんだよ」

美希「ミキはハニーとキスしたりできないの。それに、こんな身体になっちゃったし」

美希「ハニー、ミキと一緒に死んで……」

雪歩「美希ちゃん、プロデューサー!」

 気を失ったPに死の接吻をしようとした瞬間、美希は不意に声のした方を見た。
 美希は雪歩を見た。雪歩も美希を見た。
 雪歩の忍法を知らなくても、美希は何か得体の知れない力が、自分に働いているのを感じていた。
雪歩の破幻の瞳が、美希の息から毒を消し去った。

美希「は、ハニー……」

 針に塗られた毒がついに美希の命を奪った。死の間際、美希はPに最初で最後のキスをして息を引き取った。




130:2012/06/05(火) 19:37:55.33 ID:YMY6fBeAO

真「律子! どこだ、返事をしなよ!」

真「伊織は死んだ! 勝負は終わったんだ!」

律子「まだよ……」

真「律子!」

律子「伊織は死なない。私が、伊織を死なせない」

律子「伊織の夢は、私の夢よ」

 姿を見せた律子は伊織を抱き起こし、半分裂かれた首を押さえつけた。
筋繊維や血管が、まるで縫い合わせたかのように繋がり
伊織の首の傷が両端から徐々に塞がっていく。

真「そんな馬鹿な……!」

 真はもう一度、伊織を右目で睨んだ。金色の輝きが伊織に向けられる。
しかし、伊織の方に敵意や殺意がない以上、真の瞳術は効果がなかった。




131:2012/06/05(火) 19:49:52.49 ID:YMY6fBeAO

律子「伊織、生き返るのよ。こんなところで負けてられないわ」

律子「あんたと私で、頂点に立つんだから」

 伊織の瞳に命の火が灯り始めた。その両眼は首を切り裂いた真を睨んでいる。

雪歩「真ちゃん……」

真「雪歩!?」

 真は振り返った。うつ向いたまま、雪歩が伊織と律子の前まで歩み寄って来る。

律子「雪歩、来てたのね。真を倒しなさい」

雪歩「……」

律子「伊織が生き返るまで、あなたしかいないの。雪歩!」




132:2012/06/05(火) 20:13:09.40 ID:YMY6fBeAO

雪歩「伊織ちゃん……」

伊織「……あ、う」

 真を睨んでいた伊織の眼が、雪歩に向けられた。その視線に臆することなく、雪歩は涙を溜めた目で見つめ返した。

雪歩「伊織ちゃん。もう止めよう」

 なぜ雪歩は泣くのか。伊織が恐いのではない。哀しいのだ。

雪歩「亜美たちのところへ、行っていいんだよ……」

 生き返ろうとする伊織の生命の糸を、雪歩は破幻の瞳で断ち切ろうとしていた。

律子「ゆ、雪歩、やめなさい!」

 雪歩の瞳術を思い出した律子だったが、時すでに遅し。
伊織の瞳は怒りと怨みに一瞬だけ燃え上がったが、やがてゆっくりと、眠るように瞼を閉じた。




133:2012/06/05(火) 20:24:31.36 ID:YMY6fBeAO

律子「伊織、伊織!」

律子「嘘でしょ、ほら、生き返りなさいよ!」

律子「伊織……伊織……」

真「雪歩」

雪歩「真ちゃん、プロデューサーを病院に連れて行ってあげて」

真「でも……」

雪歩「真ちゃんの目も見てもらわないと」

真「わ、分かったよ」


 ついに不死身の伊織が倒され、人別帖に名を残すは真と雪歩の二人だけとなった。
そして、両陣営のプロデューサーが不在のまま、忍法勝負は決戦の朝を迎える。

犠牲者 星井美希、水瀬伊織 残り一日




137:2012/06/05(火) 23:03:01.42 ID:YMY6fBeAO

――病院

真(ボクの左目は完全に失明してた。プロデューサーは、このまま入院か)

真(そして……)

雪歩「真ちゃん」

真「雪歩、どうしたの」

雪歩「これ、律子さんが。もう必要ないからって」

真「巻物か。あっ!」


――――
菊地真
――――
――――
―――――
――――

――――
―――――
――――
萩原雪歩
――――
――――

真「美希と、伊織の名前が消されてる」




139:2012/06/05(火) 23:04:27.56 ID:YMY6fBeAO

雪歩「ねぇ、真ちゃん」

真「なに? 雪歩」

雪歩「もう私たち、戦わなくていいのかな」

真「その事だけど、ボクもずっと考えていたんだ」

真「残ったのはボクたち二人。プロデューサーは入院してるし、それに律子は勝負を放棄した」

真「でも、ボクたちにはやらなきゃいけないことがあると思う」

雪歩「うん……」

真「雪歩、事務所に行こう」

真「ボクたちで、この忍法勝負を終わらせるんだ」




140:2012/06/06(水) 00:41:52.60 ID:7znGuZeAO

――765プロ

雪歩「なんだか、静かだね」

真「たった一週間で、十人。皆、死んだんだよ」

雪歩「やよいちゃん、亜美、真美……」

『うっうー! 伊織ちゃん、おかえりー!』

『ごめんね。やよいっち』

『誰かに殺されるなら、真美がやってあげる』

真「春香、千早、響、貴音……」

『だって、千早ちゃんはわたしの親友だもん』

『もう一度、私をプロデュースしてくれませんか?』

『うん! 自分、いや自分たちは完璧だからな』

『響、月が綺麗ですね』

雪歩「あずささん、美希ちゃん、伊織ちゃん……」

『伊織ちゃん、ありがとう』

『ハニー、ミキと一緒に死んで……』

『そして、律子と一緒に栄光を掴んでみせるわ』




141:2012/06/06(水) 00:42:22.48 ID:7znGuZeAO

雪歩「みんな、大切な仲間だったのに……」

真「雪歩、泣いちゃダメだよ」

雪歩「うん、分かってる」

真「さあ、やろう。最後の忍法勝負」

 人別帖を机の上に置くと、真は雪歩から離れた。
真は、唯一残った右目で雪歩をキッと睨んだ。
だが、雪歩はうつ向いたまま、ただ事務所の床に視線を落としていた。

雪歩(ここで出会ったんだよね。真ちゃんと。765プロのみんなと)

雪歩(アイドルとしての私も、忍法勝負も、ここで始まったんだ)

雪歩「真ちゃん」

雪歩「さよなら……」

 隠し持っていたナイフで雪歩は自分の左胸、乳房の下辺りを差した。
そして、そのまま声を出さずに倒れ込んだ。

真「雪歩!!」




142:2012/06/06(水) 00:43:14.58 ID:7znGuZeAO

真「雪歩、どうして!?」

雪歩「私の忍法と真ちゃんの目じゃ、決着つかないんだよ」

雪歩「だから、終わらせるにはこうするしかないの」

真「だったら、ボクを刺せばいいじゃないか!」

雪歩「真ちゃんに、死んで欲しくないから……」

真「馬鹿! 雪歩の、馬鹿……」

雪歩(本当は、償いなの……みんなが戦ってたのに、私だけ逃げてた……)

雪歩(とっても痛いけど、恐くないよ……みんな、待ってるから……)

雪歩(みんな、また私と友達になってくれるかな……)




143:2012/06/06(水) 00:55:30.05 ID:7znGuZeAO

 抱きしめていた雪歩が動かなくなったのを見ると、真はゆっくりと彼女を床に横たえた。

真「これで……」

 雪歩の血を指でぬぐい、人別帖から自分と雪歩の名に朱の線を引いた。

真「終わったよ。みんな」

 真は雪歩の胸からナイフを抜くと、同じように、今度は自分の胸を刺した。
 真と雪歩。二人は寄り添うように、事務所の床に倒れた。

真(雪歩、痛いよ……臆病な雪歩が、よくこんなことできたね……)

真(いや、雪歩だけじゃない……みんな、戦いたくなかったはずだ。死にたくなかったはずだ……)

真(プロデューサー。ボクたちはどうして、こんなことになっちゃったんでしょうね……)




144:2012/06/06(水) 01:16:54.48 ID:7znGuZeAO

小さな芸能事務所で起きた一週間の悲劇。

その真実を知る者は、既にこの世にはいない。

残された者たちは皆、一様に口を閉ざし、この件について語ろうとはしなかった。

ある者は行方をくらまし、ある者は自ら命を絶ったからだ。

人別帖――アイドルたちが命を懸けて戦った証――。

そこには、765プロ所属のアイドル十二人の名は全てなかった。

約四百年前、彼女たちの祖先が戦った忍法勝負の時と同じように。





765プロ忍法帖   完




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元スレ:
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336648278/