1:2012/06/27(水) 11:27:41.93 ID:CN6ChBUU0

社長「ついに我がプロダクションからも、ランクCのアイドルが誕生した」

律子「おめでとう春香!」

春香「は、はいっ! ありがとうございます。これも支えてくれたプロデューサーさんをはじめ、みんなのお陰です」

真「そんなことないよ。ボク達もみんな、春香が努力している所を見てきたからね」

雪歩「そうですぅ。春香ちゃんは、レッスンでも営業でも、いつも一生懸命でした」

美希「ミキもはやく春香に追いつくのー!」

伊織「私も負けないわよ」

響「自分だって完璧だからな! 春香もうかうかしていると、自分追い越しちゃうんだぞ」

仲間の躍進に、事務所は活気にあふれる。
そう。それはとても喜ばしい事だ。
ましてその相手は、私の親友なのだ。
嬉しくないはずがない。

だけど……

P「やったな、春香」

春香「プロデューサーさん……」

頬を染め、プロデューサーと見つめ合う親友。

その表情だけで、私には親友の感情が手に取るようにわかる。
わかってしまう。

千早「っ……」

胸が痛い。

春香が羨ましい。

着実に芸能界で、アイドルとしての成功を収めていく春香。

そして、プロデューサーの期待に応えられる春香が……

私は羨ましい。

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2:2012/06/27(水) 11:29:41.21 ID:CN6ChBUU0

P「だけど春香、ランクCはまだまだ通過点に過ぎないぞ」

春香「はい! 夢は……トップアイドルですからね!!」

P「そうだ。ランクCになりながら、そこで消えていったアイドルもたくさんいる。春香! 気を引き締めてがんばるんだ!!」

春香「あっ……」

千早「…………」

プロデューサーが、春香の手を取りしっかりと握る。

胸の痛みに加え、目眩のような衝撃が頭にはしる。

いたたまれない想いで、自分がいっぱいになる。

できる事なら、この場から走って逃げ去りたい。

千早「春香、おめでとう」

春香「あ、千早ちゃん……えへへ。ありがとう」

だけど、さすがに私も無言でこの場を走り去ることの、空気の読めなさぐらいはわかる。
私は春香に声をかけた。


3:2012/06/27(水) 11:31:15.08 ID:CN6ChBUU0

春香「次は、千早ちゃんの番だよ」

千早「そんな……私なんてまだまだ」

私のランクはE。
謙遜でもなんでもない、文字通り春香には差をつけられてしまっている。

春香「千早ちゃんの歌はすごいもん。きっとそのうち、千早ちゃんは歌でトップアイドルになれるよ」

千早「そう、だといいけれど……」

春香が、心にもない事を言うはずがない。
この言葉は、彼女の本心。
だけど今は、そう言われるのが辛い。

早くここから逃げ去りたい。
いなくなりたい。

そんな私の心を、無視するかのようにプロデューサーが言った。

P「千早、後でちょっと話がある」

千早「あ、はい」

真美「お→!? 千早姉ちゃん、お説教かな→?」

亜美「なにやったの→? むっふっふ→」

あずさ「あらあら〜千早ちゃんは、2人みたいにイタズラなんてしないわよ〜うふふ」

響「言えてるぞ!」

仲間達の笑い声を背に、私はプロデューサーの後を歩き会議室に入る。


4:2012/06/27(水) 11:32:06.01 ID:CN6ChBUU0

P「俺は当面、春香の担当を外れる事になった」

予想外の言葉。
私は耳を疑った。

千早「どうしてですか? さっきプロデューサーは、春香にがんばっていこうと言ったばかりじゃないですか」

P「もちろん、事務所としてバックアップはしていく。ただ担当を外れるだけだ」

千早「春香がそれを知ったら、なんて言うか……」

春香はきっと、プロデューサーが好きだ。
だから……

P「もう知っている」

千早「え?」

P「事情を話したら、納得してくれた」

千早「事情ってなんですか?」

嫌な予感と、不可解な期待感が胸に渦巻く。

P「しばらく俺は、千早をメインにプロデュースする。もちろん、人手不足のウチの事務所じゃあ専属というわけにはいかないが、今までよりも千早に力を入れてやっていく」

千早「そんな……」

P「嫌か?」

嫌なわけがない。
プロデューサーが、私を主だって担当してくれる。
嬉しさで、どうかなってしまいそうだ。

だけど、その一方で春香や他のみんなに対して申し訳ないという気持ちもある。


5:2012/06/27(水) 11:32:51.60 ID:CN6ChBUU0

千早「それは私が、おちこぼれ……だからですか?」

ああ……
まただ。
また私は、こんな口の利き方をしてしまう。

どうして私は、優しい素直な口の利き方ができないんだろう?
たとえ奔放であっても、感情に素直な分、真美や亜美の方がよっぽど好感が持てる言い方をしているのに。

P「確かに765プロでランクがEなのは、今や千早だけだ」

千早「だから……」

P「違う」

プロデューサーの言葉が、耳に優しく響く。

P「千早は本物だ。千早の歌は、いい。あの歌が売れないのは……俺の責任だ」

千早「! そんな……」

P「千早の歌は、千早はもっと売れる。絶対に売れる。売れないのは俺が悪いからだ」

千早「違う、違います」

P「春香のランクが上がって、事務所の経営も一息付けた。今だ、今こそようやく千早に集中してプロデュースができる」

千早「……」


6:2012/06/27(水) 11:34:22.81 ID:CN6ChBUU0

P「千早の歌を初めて聴いた時、俺は心が震えた。初めて会った時だ、覚えているか?」

千早「CHEXライブでの前座の仕事ですね」

P「あの時言った千早の言葉、俺は今でも忘れない……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

P「あの言葉を言った事、千早も覚えているか?」

千早「はい。その想いは、今も変わっていません」

P「そうか。俺も忘れていない。あの言葉を聞いた時の、自分の気持ちを」

覚えていた……

P「だから俺は、千早をトップアイドルにする」

プロデューサーも、あの時の事を覚えていてくれた……

P「しなくちゃいけないんだ」

覚えていてくれたんだ……

P「一緒に頑張ろう。千早」

千早「……はい」

その日、そのまま家に帰った私は、声を上げて泣いた。
嬉しいのか、悲しいのか、みっともないのか……
こうまで自分で自分の感情がわからずに、泣いた事はなかった。

それが私、如月千早が挫折しながらもトップアイドルへの道を目指し始めた、第2のスタート1日目の出来事だった。


7:2012/06/27(水) 12:17:26.64 ID:CN6ChBUU0

後に聞いた話によると、この時期の私の立場は微妙なものだったらしい。

アイドルでありながら、歌の活動しかやりたがらず、その歌の売り上げも今ひとつでパッとしない。

自覚はあったものの、文字通りのおちこぼれだったわけだ。

ビジュアル重視への活動へ、シフトした方がいいという声もあったらしいが、プロデューサーが頑として認めなかった、とこれも後で聞いた話だ。

私とプロデューサーが、再び誓いを交わしあった数日後。
プロデューサーが歌の仕事を持ってきた。

P「NHKの仕事だぞ! しかも歌だ!!」

千早「ほんとですか?」

P「うっ、疑いの眼差しは止めてくれ。まあ……確かに単純には喜べないかもしれないが……」

千早「やっぱり。どんな仕事なんですか?」

P「NHKの教育放送で、子供向けの童話番組があるんだ」

千早「ああ。子供の頃、私も見ました」

P「そこで童話と共に流れる歌をうたう仕事だ。確かにCD化とかは望めないし、千早本人が出演するわけでもない」


8:2012/06/27(水) 12:18:37.45 ID:CN6ChBUU0

千早「それは気にしませんが、子供向けの童話の歌ですか……」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! 子供向け番組の歌でも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」

千早「あ……」

プロデューサーの手が、私の肩に触れる。

私は恥ずかしさと、赤くなっているであろう自分の顔をプロデューサーに見られたくなくて、下を向いた。


9:2012/06/27(水) 12:19:10.73 ID:CN6ChBUU0

P「それにNHKでいい仕事をすれば、またすぐに使ってもらえる。あそこはそういう局だ。そしてそうして仕事をしているうちに、ヒットが出れば……紅白も夢じゃない!」

千早「紅白……」

歌をうたう者として、憧れの番組だ。

千早「やります! がんばります!」

P「よし。これがその曲だ」

千早「『パンを踏んだ娘』?」




11:2012/06/27(水) 12:22:54.97 ID:CN6ChBUU0

P「ざっとあらすじを話すと、高慢な少女インゲルが奉公先から実家に帰る途中、水たまりで服が汚れるのを嫌い、お土産に持たせてもらったパンを踏んで水たまりを渡ろうとしたんだ」

P「だがパンを踏んだ途端、底なし沼のようにインゲルは地の底へ落ちていき、地獄に行くことになる……」

千早「なんだか重い話ですね」

P「そうだな。しかし童話というのは、もともと残酷だったり暗い面を持っている」

千早「そうですか?」

P「日本の昔話でも、色々と残酷な話はあるしな。教訓という面もあるわけだし」

P「日本人には馴染みがないが、キリスト教圏ではパンはキリストの肉体と位置づけられていて、神聖な物なんだ」

P「今回はそういう暗かったり怖かったりする雰囲気も含めて、千早に歌い上げて欲しい」

千早「難しいですね」

P「無理か?」

千早「いいえ。俄然、やる気が出てきました。聞いてください」


12:2012/06/27(水) 12:23:58.85 ID:CN6ChBUU0

千早「♪ パンを〜踏んだ〜娘〜♪……」

私は持ちうる技術を注ぎ込んで歌った。

声の調子もいい。

自分なりにこの歌を自分のものに出来た。
その手ごたえを感じられた。

千早「どうですか?」

P「さすがだな」

プロデューサーの言葉に、私は有頂天になりそうになる。

P「楽譜どおりの音程、雰囲気に合った声質、共に文句ない」

千早「はい!」

P「だけどそれじゃあダメだ」

千早「えっ……」

P「この歌、パンを踏んだ娘は、千早の歌になっていない」

千早「そんな! どこがいけないんですか!?」

P「上手く言えないが……強いて挙げるなら、心に響いてこない」

千早「……え?」

P「パンを踏んだ娘の罪、業、そして踏まれたパンの意味。そうしたものが心に響かないんだ」

千早「意味がわかりません!」

ついプロデューサーに食って掛かってしまった。
まただ。
私の悪い癖。

私のことを思って言ってくれる人に、わかっていても反射的に反発してしまう。

だけどプロデューサーは、そんな事を意にも介さない様子で微笑んだ。

P「しかし逆に言えば、問題点はそこだけだ。そこさえ千早が自分のものにできれば……この歌はもう、千早のものだ」

千早「……」

P「がんばってくれ」


13:2012/06/27(水) 12:24:42.35 ID:CN6ChBUU0

私は項垂れて、レッスンルームを出た。

そう、歌自体はうたえているのだ。

問題はこの歌の解釈。
この歌の心。

千早「でも、どうすれば……」


事務所に戻っても、頭の中はパンを踏んだ娘の事でいっぱいだ。

インゲルという少女は、何を思ってパンを踏んだのか?

千早「パン……か」

春香「あれー? 千早ちゃん、ついに味に目覚めた?」

気がつけば、春香が傍にやって来ていた。

貴音「なんと、それは良きことです。食べることは喜び、それを蔑ろにしていてはよき歌もうたえませんからね」

食べることは喜び?

千早「!」

その瞬間、私の頭になにかが煌いた。

なにかはわからない。

だけど、答えの一端が姿を見せたような気がしたのだ。

春香「そうですよね。作ったり食べたりって、とっても楽しいですもんね。そういう楽しさが、アイドルとしての活動にも……」


14:2012/06/27(水) 12:26:18.59 ID:CN6ChBUU0

千早「春香っ!」

春香「え? な、なに? 千早ちゃん」

千早「春香はパンとかも作れるの?」

春香「ええ? う、うん。焼き菓子もパンも作れるよ。あ! もしかして」

千早「お願い。私にパンの作り方を教えて! この通りよ」

春香「や、やめてよ千早ちゃん。そんなことしなくても教えるから」

春香は私の肩にそっと触れ、頭を上げてくれる。

春香「それにしても……そっか、千早ちゃんもついにそういう事に関心が出てきたんだ。ふふっ」

なぜか嬉しそうに、春香は笑う。

春香「よーし! じゃあ気合を入れて、パンを作ろう。ね!」

千早「ええ。お願いするわ、春香」

私の、歌の為に……


15:2012/06/27(水) 12:27:01.14 ID:CN6ChBUU0

春香「今日は私もグラビアの撮影だけだし、夜ならいいんだけど……千早ちゃんのウチって、オーブンなんて無かったよね」

千早「電子レンジじゃ、ダメ?」

春香「うん……じゃあ、そうだ! 炊飯器はあったよね。あれで焼こうか」

千早「炊飯器でパンを?」

春香「うん。ケーキだって作れるし、この間はチーズケーキも作ったよ」

予想外だ。春香にとって炊飯器は、ご飯を炊くだけの機械では無いらしい。

千早「わかった。準備する材料とかあったら教えて。仕事が終わるまでに、用意しておくから」

春香は何も見ずに、サラサラとメモを書いてくれた。
どうやらレシピは、いつも頭の中にあるようだ。

アイドルとして活躍しながら、こういう家庭的な事もしっかりできる親友に、私はまた少し嫉妬してしまう。

千早「プロデューサーも、そういう彼女とか奥さんがいいわよね……」

1人になり、改めてメモを見ながらそう言ってしまってから、私は後悔する。

そういった事の全てを、頭を振って追いやると、私は春香の書いてくれたメモを持って街へ出た。

材料はすぐに買い揃えられたが、メモの端に『ボールと泡だて器も要るんだけど』と書かれており、それを買うのに苦労をした。

なんとボールとは、投げるあの球の事ではなく、銀色の洗面器のような物だった。
泡だて器というのも、洗濯機のような物を想像していたが、金属製のブラシのような形状の物だった。


16:2012/06/27(水) 12:28:03.61 ID:CN6ChBUU0

春香は戻ってくると、すぐに私の家に来てくれた。

春香「さすが千早ちゃん、抜かりないね。じゃあ始めよっか」

千早「ええ。お願いするわ」

数時間後には、私達はパンを焼き終えた。
焼きたてのパンは、ふかふかで美味しそうな匂いを漂わせている。

春香「初めてにしては上出来だよ、千早ちゃん」

千早「ええ! じゃあさっそく……」

春香「? 千早ちゃん?」

千早「よっ……と。じゃあ踏んでみるわね」

春香「えええええええ!? ちょ、ちょっと待って! 待ってよ千早ちゃん!!」

千早「なに? 春香」

春香「な、なんで踏むの? せっかく一生懸命焼いたパンを」

千早「だからこそよ。この丹精込めたパンを踏めば、パンを踏んだ娘の気持ちがわかるかも知れないわ!」

春香「え?」

千早「それじゃあ失礼して、さっそく……」


17:2012/06/27(水) 12:29:18.77 ID:CN6ChBUU0

春香「いや、待って待って! 待ってってば千早ちゃん!!」

千早「なに?」

春香「丹精込めたんだよ? 一生懸命焼いたんだよ? それを踏んじゃだめだよ」

千早「え?」

春香「もっと愛を込めて、ぎゅっとぎゅっとね、こねこねしようよ!」

千早「ごめんなさい春香。ちょっと私には意味がわからないわ」

春香「私だって千早ちゃんの言ってる事の意味が、わかんないよ」

千早「そう……春香は、今こうしてこのパンを踏むのに反対なのよね」

春香「そ、そうだよ」

千早「それはなぜなのかしら……?」

春香「いや、考えなくてもわかるよね? 当たり前の事だよね?」

千早「! そうか、わかったわ春香」


18:2012/06/27(水) 12:58:14.41 ID:CN6ChBUU0

春香「わかってくれたんだ。ふう、良かったあ……」

千早「水たまりね!?」

春香「え?」

千早「そうよ! 水たまりで踏まなければ意味がなかったわ!! さすが春香ね」

春香「え? あ、ちょっ……千早ちゃん!? 千早ちゃー……」

P「待て! 春香」

春香「プロデューサーさん? なんでここに」

P「事務所からずっと見ていた。春香、千早は今ようやく何かを掴もうとしている。だから見守ってやってくれ」

春香「で、でもパンが……」

P「安心しろ!」ガシッ

春香「は、はひっ!?」

P「踏まれた後のパンは、俺というスタッフが美味しくいただく予定だ。無駄にはしない」

春香「プロデューサーさん、そこまで千早ちゃんに……」

私はその日、存分にパンを踏んだ。
踏んだ瞬間、直感のような閃き、いや感情がわき起こった。

そうだ。

これだ。

これを、歌にこめるんだ……


19:2012/06/27(水) 12:58:50.78 ID:CN6ChBUU0

千早「♪ パンを〜踏んだ〜娘〜♪ パンを〜踏んだ〜娘〜♪  パンを〜踏んだ〜罪で〜♪ 地獄に〜お〜ち〜た〜♪」

P「おお! 見える……見えるぞ千早!! 美しくも罪深い少女がパンを踏む情景が、俺の脳裏にありありと浮かんでくる……!!!」

千早「プロデューサー! 私、やりました!!」

P「ああ! ついにやったな千早。千早はこの歌を完璧に自分の物にした。素晴らしい歌だ」

プロデューサーの目から、涙が溢れる。

私自身も、心が震えるのを抑えられなかった。

ここまで歌に没頭した事は無かった。

歌と一体になれた事は無かった。

自分と歌の、新たな関係を私はようやく築けたような気がしていた。

ちなみに余談だが、この後3日間ほどなぜかプロデューサーは謎の腹痛で入院することになるのだが、あれはなんだったのだろう?


20:2012/06/27(水) 12:59:26.93 ID:CN6ChBUU0

私の歌が使われた、童話番組は一世を風靡した。
NHKには「子供が怖くて泣いた」「思い出すだけで不安になる」「トラウマを刻み込まれた」との声が殺到したそうだ。
しかし話題になった事で、視聴率は跳ね上がった。
曲も、番組使用曲としては異例のCD化まで決定した。

そして私はこの曲で、ランクDへとランクアップした。


21:2012/06/27(水) 12:59:56.64 ID:CN6ChBUU0

P「NHKさんは大喜びだ。良かったな、千早」

千早「はい。でも、なんだか売れてはいますが評判が、その……」

P「確かに心ない声もある。しかし逆に考えろ、それだけあの歌には力があるんだ」

千早「はい……私としても新境地に至れた大事な歌です」

P「そして前に言っていた通りになった」

千早「え?」

P「またNHKからの仕事だ!」

千早「……はいっ!!」

自信を持ってやった仕事が評価され、また仕事を頼まれる。
そんな普通の事が、なんて嬉しい事か。

P「今度は『みんなのうた』だ。そこで千早の歌が流れる!」

千早「みんなのうた……嬉しいです」

P「これがその曲……『おしりかじり虫』だ」

千早「……え?」

P「おしりかじり虫だ!」

千早「……ええ??」

P「ともかく楽譜をみてくれ。その方が早い」


22:2012/06/27(水) 13:00:29.76 ID:CN6ChBUU0

なるほど、最初は面食らったもののコミカルで子供に好かれそうな歌だ。
しかし、私のキャラクターと合っているのだろうか……?

千早「ちょっと私には合わないんじゃないで……」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! 子供向けキャラクターの歌でも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」

千早「あ……」

プロデューサーの手が、私の腰に触れる。

私は恥ずかしさと、赤くなっているであろう自分の顔をプロデューサーに見られたくなくて、下を向いた。


23:2012/06/27(水) 13:01:16.75 ID:CN6ChBUU0

P「早速だが歌ってみてくれ」

私は頷くと、歌い始めた。

千早「♪ おしりかじり虫〜♪ おしりかじり虫〜♪」

コミカルな曲調であり、私もそれに声質を合わせる。
悪くない。

歌える。

私はこの曲を歌える。

千早「〜♪ ……どうですかプロデューサー?」

P「さすがだな」

プロデューサーの言葉に、私は有頂天になりそうになる。

P「楽譜どおりの音程、雰囲気に合った声質、共に文句ない」

千早「はい!」

P「だけどそれじゃあダメだ」

千早「えっ……」

P「この歌、おしりかじり虫は、千早の歌になっていない」

千早「そんな! どこがいけないんですか!?」

P「上手く言えないが……強いて挙げるなら、心に響いてこない」

千早「……え?」

P「おしりかじり虫の気持ち、業、そしてかじられた人の意味。そうしたものが心に響かないんだ」

千早「意味がわかりません!」

ついプロデューサーに食って掛かってしまった。
まただ。
私の悪い癖。

私のことを思って言ってくれる人に、わかっていても反射的に反発してしまう。

だけどプロデューサーは、そんな事を意にも介さない様子で微笑んだ。

P「しかし逆に言えば、問題点はそこだけだ。そこさえ千早が自分のものにできれば……この歌はもう、千早のものだ」

千早「……」

P「がんばってくれ」

私は項垂れて、レッスンルームを出た。


24:2012/06/27(水) 13:02:17.37 ID:CN6ChBUU0

千早「実在のパンとかならともかく、架空のキャラクターの気持ちなんて……無理よ」

呟く私に、四条さんが声をかけてくれる。

貴音「どうしたのですか? 如月千早。なにやら思案顔をしているようですが」

心配そうな四条さんの顔。

765プロは、仲間全員が優しい。

千早「歌の事で……悩んでいるんです」

貴音「歌で……なるほど。しかし根を詰めてばかりでは、何も解決いたしません」

千早「そうでしょうか?」

貴音「そろそろ昼食の時刻。どうですか、私と共に参りませんか? ここに籠もっているよりも、なにか解決の糸口が見つかるやも知れませんよ」

正直、食事どころではなかったが、優しくされた嬉しさもあり私は頷いた。

千早「そうですね。おねがいできますか四条さん」

貴音「承知しました。ですが、如月千早。四条さんでは堅苦しいと思います。せめて下の名前で『貴音さん』で呼んで下さい」

千早「……じゃあ四条さん、いいえ貴音さんも私を千早と呼んで下さい」

貴音「それもそうですね。ふふ、わたくしとした事が。では参りましょう」

たわいもないやりとりだが前よりも一層、貴音さんと距離が縮んだ気がする。

少し気が楽になったようにも感じられる。


25:2012/06/27(水) 13:02:48.06 ID:CN6ChBUU0

千早「貴音さんの言う通りですね。なんだか気分転換できたみたいです」

貴音「それは重畳」

貴音さんの後ろを歩いていると、ふと貴音さんの身体に目がいく。

いや、正確にはそのお尻だ。

自分には胸が無いが、それだけではない事を思い知らされる。

同姓とはいえ、確かに貴音さんは魅力的だ。
歩を進める度、左右に揺れる二つの円球の動きは見ていてドキッとする。

女同士でもそう思えるのだ。男性からは、さぞ魅力的に映るんだろう。

千早「プロデューサーも……きっと……」

貴音「どうかしましたか? 千早」

千早「貴音さん、後ろ姿も綺麗ですね。羨ましい……です」

貴音「ふふっ。光栄ですね。ですが千早も魅力的ですよ。秋月律子もいつもすたいるを褒めていますから」

千早「私なんて……この間も真美と亜美に『ポッキー』だ、ってからかわれました」

貴音「はて? ぽっきぃとはなんですか?」

千早「棒状の……くっ……お菓子です」

貴音「面妖な」


26:2012/06/27(水) 13:03:35.39 ID:CN6ChBUU0

会話をしながらも、私の視線はずっと貴音さんのお尻に注がれている。
いや、目が離せなくなっていた。

この魅力的なお尻……お尻?

千早「た、貴音さん!」

貴音「どうしたのですか千早? 急に大きな声を出して」

千早「あの……その、わ……私に貴音さんのお尻をかじらせてもらえませんか!!!」

数秒間の制止の後、ようやく貴音さんは口を開いた。

貴音「面妖な……」

千早「こ、これには訳があって! そ、その変な気持ちで貴音さんのお尻を……」

貴音「ち、千早!」

千早「かじらせて欲しいというわけじゃなくて……え?」

貴音「声が……大きいです」

千早「あ……」

結局、とりあえず昼食をという事になったが、正直食事中も私は気が気ではなかった。

ラーメンを食べ終えると、私達は事務所に戻った。
幸い誰もいない。


27:2012/06/27(水) 13:04:01.72 ID:CN6ChBUU0

貴音「さて、それでその……わたくしのお尻を囓りたいとの事ですが……」

千早「すみません、変な事を言って……」

貴音「良いのです。千早が意味もなくあのような事を言うはずがないことは、わたくしにもわかります。それは、先ほど言っていた歌の悩みと関係あるのですね?」

千早「……はい」

貴音「わかりました。多くは聞かない事にしましょう。ではどこで?」

千早「え?」

貴音「どこでその……わたくしのお尻を囓るのですか?」

千早「そ、それって、その……いいんですか?」

貴音「わたくしは、千早の力になりたいのです」

千早「……ありがとうございます」

私は涙が出そうになるのを、必死でこらえた。
これでお尻がかじれる!

貴音「やましい事では無いとはいえ、事務所では少し問題がありますね」

千早「じゃあ良ければ私の家で」

貴音「承知しました」


28:2012/06/27(水) 13:04:50.09 ID:CN6ChBUU0

部屋で2人きりになると、妙な気恥ずかしさで真っ赤になる。
貴音さんも同様なようで、私から見ても緊張しているのがわかる。

貴音「で、では……」

千早「は、はい?」

貴音「ぬ、脱ぎますね」

千早「あ、はい。お願いします」

貴音さんがスカートに手をかける。
と、そこでじっと私を見る。

貴音「千早……その……」

千早「え?」

貴音「できれば脱ぐ所を、見ないで欲しいのですが……」

千早「ご、ごめんなさい!」

慌てて目をそらす私。
貴音さんはフッと微笑んだような気がした。

布がすれる音が少しして、貴音さんが私の肩に手を触れた。

貴音「どうぞ、千早」

下半身だけとはいえ、一糸まとわぬ姿の貴音さんはかなり恥ずかしそうにしている。

普段、優雅で自信にあふれている姿からすると、可愛らしささえ感じてしまう。


29:2012/06/27(水) 13:05:15.61 ID:CN6ChBUU0

貴音「それで? どうすれば良いのですか?」

千早「あ、じゃあ……布団にうつぶせに」

貴音「わかりました」

でーん。
目の前の光景は、まさにそんな感じだった。

白磁のような白さ、それも艶やかな暖かさを感じる色合い。
張り出した二つの円球に、思わず私は手で触れる。

貴音「あっ……」

千早「あ、いや、その……」

貴音「良いのです。続けてください」

千早「……すごい」

貴音さんのお尻は、柔らかくて、でも弾力があって。

千早「私と全然違う……」

比較しても仕方ないが、つい本音が漏れる。

貴音「その……千早、本日はわたくしのその……囓るのではなかったのですか?」

千早「そうでした。すみません……」


30:2012/06/27(水) 13:05:45.21 ID:CN6ChBUU0

本末転倒。
私は意を決して、貴音さんのお尻に口をつけた。

貴音「んあー」


P「……あれは貴音の叫び声。千早、やったな!」

私はその日、存分に貴音さんのお尻をかじった。
かじった瞬間、直感のような閃き、いや感情がわき起こった。

そうだ。

これだ。

これを、歌にこめるんだ……


31:2012/06/27(水) 13:06:25.95 ID:CN6ChBUU0

千早「♪ おしりかみちぎり虫〜♪ おしりかみちぎり虫〜♪」

P「おお! 見える……見えるぞ千早!! おしりかじり虫がおしりをかじる情景が、俺の脳裏にありありと浮かんでくる……!!!」

千早「プロデューサー! 私、やりました!!」

P「ああ! ついにやったな千早。千早はこの歌を完璧に自分の物にした。素晴らしい歌だ」

プロデューサーの目から、涙が溢れる。

私自身も、心が震えるのを抑えられなかった。

またここまで歌に没頭できた。

歌と一体になれた。

自分と歌の、新たな関係を私は再び築けたような気がしていた。


32:2012/06/27(水) 13:07:14.88 ID:CN6ChBUU0

私の歌が使われた、童話番組は一世を風靡した。
NHKには「意味不明だがおもしろい」「不条理だがおもしろ」「歌のせいで子供にお尻をかみちぎられた」との声が殺到したそうだ。
しかも話題になった事で、視聴率は跳ね上がった。
曲も、CD売り上げは好評だった。

そして私はこの曲で、ランクCへとランクアップした。


33:2012/06/27(水) 13:07:56.78 ID:CN6ChBUU0

社長「ついに我がプロダクションから、2人目のランクCのアイドルが誕生した」

律子「おめでとう千早!」

千早「あ、ありがとうございます。これも支えてくれたプロデューサーさんをはじめ、みんなのお陰です」

真「そんなことないよ。ボク達もみんな、千早が努力している所をみてきたからね」

雪歩「そうですぅ。千早ちゃんは、歌のレッスンでいつも一生懸命でした」

美希「ミキもはやく千早さんに追いつくのー!」

伊織「私も負けないわよ」

響「自分だって完璧だからな! 千早もうかうかしていると、自分が追い越しちゃうんだぞ」

春香「やったね! やっぱり千早ちゃんの歌はすごいよ」

貴音「まことに見事。やりましたね千早」サスサス

やよい「あれー? 貴音さんどうしてお尻をさすってるんですかー?」

貴音「まだ少々痛みが……」

やよい「?」


34:2012/06/27(水) 13:08:28.09 ID:CN6ChBUU0

ランクアップした事は、間違いなく嬉しい。
だがしかし、私には悪い予感があった。

春香がランクCになった時、プロデューサーは春香の担当を外れた。
まだランクアップしていない者、つまり私を重点的にプロデュースするためだ。

そして私はランクCになった。

それはつまり……

案の定、ランクアップ報告の後、私はプロデューサーに呼ばれた。



35:2012/06/27(水) 13:09:10.26 ID:CN6ChBUU0

P「千早、おめでとう」ギユッ

千早「……ありがとうございます」

あの時あれほど羨ましかった春香。
それと同じように手を握られているのに、少しも嬉しくない私。

何かを得る喜びよりも、何かを失う悲しみの方が私にとってはウエイトが大きい。

P「それで、次の仕事だが」

千早「……はい」

俺は千早の担当を外れる

おれはちはやのたんとうをはずれる

オレハチハヤノタントウヲハズレル……

私は私が一番聞きたくない言葉を、なぜか必死で頭の中で繰り返す。

P「新曲だ。この曲で、ランクBに駆け上がるぞ!」

千早「……え?」

P「久々にワンコーナーものじゃない、純然たる新曲だ。オリコン上位を狙っていくからな」

予想外の言葉。


36:2012/06/27(水) 13:09:57.49 ID:CN6ChBUU0

千早「プロデューサーは、私の担当を……続けてくれるんですか?」

P「? 当たり前だろ?」

千早「だって……」

P「嫌か? 千早は俺がプロデュースするのが」

千早「嫌じゃありません!!!」

P「うおっ!」

千早「あ……すみません」

P「千早。俺は言ったはずだ。お前を歌でトップアイドルにする、と」

千早「……はい」

P「それまで、俺はお前のプロデューサーだ。お前が俺を要らない、と言うまではな」

千早「はい! ……はい……」

涙目になる私。
その私を……
プロデューサーが抱きしめた。

千早「! ぷ、プロデューサー?」

P「千早……千早は俺の、歌姫だ」

千早「! ……はい」

私もプロデューサーの背中に手を回す。

こんなに安らいだ気持ちになれたのは、初めての事だった。


37:2012/06/27(水) 13:10:36.09 ID:CN6ChBUU0

P「さあ、それじゃあ仕事だ」

千早「あ……はい」

P「これがその曲……『揺れる想い』だ」

千早「……素敵……」

歌詞、曲、すべてが素晴らしい。
本当にこの曲を、私がうたっていいんだろうか?
でも……

千早「私にはもったいない曲です。でも青春の恋心……私なんかに歌いきれるでしょうか?」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! 未経験の恋の歌でも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」


38:2012/06/27(水) 13:11:12.33 ID:CN6ChBUU0

千早「あ……」

プロデューサーが、再び私を抱きしめる。

私も不安でしがみつくように、プロデューサーに手を回した。

P「早速だが歌ってみてくれ」

私は頷くと、歌い始めた。

千早「♪ 揺れ〜る〜♪ 想〜い〜♪」

明るい中にも切なさの漂う曲調であり、私もそれに声質を合わせる。
悪くない。

歌える。

私はこの曲を歌える。

千早「〜♪ ……どうですかプロデューサー?」

P「さすがだな」

プロデューサーの言葉に、私は有頂天になりそうになる。

P「楽譜どおりの音程、雰囲気に合った声質、共に文句ない」

千早「はい!」

P「だけどそれじゃあダメだ」

千早「えっ……」

P「この歌、揺れる想いは、千早の歌になっていない」

千早「そんな! どこがいけないんですか!?」

P「上手く言えないが……強いて挙げるなら、心に響いてこない」

千早「……え?」

P「青春の中で恋に戸惑う気持ち、業、そして自分の気持ちに対する決意。そうしたものが心に響かないんだ」

千早「意味がわかりません!」

ついプロデューサーに食って掛かってしまった。
まただ。
私の悪い癖。

私のことを思って言ってくれる人に、わかっていても反射的に反発してしまう。

だけどプロデューサーは、そんな事を意にも介さない様子で微笑んだ。

P「しかし逆に言えば、問題点はそこだけだ。そこさえ千早が自分のものにできれば……この歌はもう、千早のものだ」

千早「……」

P「がんばってくれ」

私は項垂れて、レッスンルームを出た。


39:2012/06/27(水) 13:11:44.11 ID:CN6ChBUU0

千早「青春の恋……揺れる……想い……そんなの私には……」

ため息をつく。

私だって好きな人はいる。

だけど……

あずさ「あらあら〜どうしたのかしら? 千早ちゃん」

千早「あずささん……」

あずさ「また歌のこと?」

千早「はい……」

あずさ「う〜ん。千早ちゃん、たまには気分転換しないとダメよ〜」

千早「わかってはいるんですけど……」

小鳥「みんなー差し入れのケーキよー!」

真美「やったあ!」

亜美「これはGO→きなお客さんがいたもんですな→」

真「雪歩ーお茶をいれてよー!」

雪歩「はいですぅ」

ケーキ、か。

嫌いじゃないけれど、今はみんなみたいにははしゃげない。


40:2012/06/27(水) 13:12:21.27 ID:CN6ChBUU0

あずさ「ほらほら〜」ブルンブルン

はしゃぐあずささん。

はしゃぐとその大きな胸が、いつもより更に弾む。

あずさ「千早ちゃんも〜」ボインボイン

千早「揺れる……」

あずさ「ケーキですってよ〜」ズーン

千早「重い……」

!!!

千早「これだわっ!!!」


54:2012/06/28(木) 11:33:26.66 ID:GsptpCWE0

あずさ「? ほらほら〜千早ちゃんも食べましょ〜」

千早「あずささん!」

あずさ「はい〜?」

千早「あずささんのその胸! 私にさわらせてください!!!」

あずさ「……はい?」

千早「もちろんこれは、やましいとかそういう変な気持ちはなくって、純粋な歌の……」

あずさ「ふふっ。いいわよ〜」

千早「歌のためで……え?」

あずさ「女の子同士なんだから気にしなくていいわよ〜」

千早「あ、ありがとうございます」

あずさ「でも〜」

千早「え? で、でも?」

あずさ「ケーキ。食べちゃってからね〜」

千早「……あ、はい」

正直、その時のケーキの味を私は覚えていない。

何を食べてもミルク味だったような気がする……


55:2012/06/28(木) 11:34:15.02 ID:GsptpCWE0

あずさ「ふう〜美味しかったわね〜」

千早「は、はい……」

あずさ「ふふっ。じゃあはい、いいわよ〜」

あずささんは、両腕で自分の胸を支えるようにして、私の横で座ってくれる。

自分にはどうやってもできない事だ。

羨ましい……

千早「えっと。じゃあ……えっと……」

亜美「おりょりょ→なにしてんの梓姉ちゃ→ん?」

あずさ「あのね〜千早ちゃんが私の胸を触りたいっていうのよ〜」

亜美「え→! 亜美も亜美も!!」

真美「揉まない、揉みます、揉む、揉む時、揉めば……揉めっ!」

亜美「Yes! ユア・はいで→す!!」

あずさ「あらあら〜ちょっと〜」

亜美が無遠慮にあずささんの胸をさわりまくる。
いや、揉みしだいている。

亜美の手に力が入る度、あずささんの胸は抵抗なく形を変える。

手偏に柔らかいと書いて、揉む。
よくいったものだと、変な事に感心する。

あんな柔らかいものが胸についていて、どうやって生活ができるんだろう?

おそらく自分には、この先も縁のない疑問。

あずさ「こらあ〜亜美ちゃん。もう〜怒るわよ〜」

律子「こーらー! あんた達、なにしてんのー!!」

真美「ヤバい! なにし天皇の御幸でおじゃるよ! 双海の亜美卿」

亜美「! ここで一句うかんだYO! 揉みしだく 胸の大きさ 亜美たちも いずれはなりたや 名峰あずさ」

律子「季語が無ーい!!!」スパコーン

真美・亜美「いたあああぁぁぁーーーいいい!!!」

律子「まったくもう! 大丈夫ですか? あずささん」


56:2012/06/28(木) 11:34:57.96 ID:GsptpCWE0

あずさ「はい〜ありがとうございます〜」

千早「ご、ごめんなさい。私が変な事を言ったから……」

あずさ「うふふ〜気にしないの〜。さあ、いいわよ〜」

千早「……いいんですか?」

あずさ「……はい」

あずささんは、自分から私の手を取って胸に触らせてくれた。

千早「うわ……」

あずささんの胸は、予想よりずっと弾力があった。
もっと柔らかいものかと思っていたけど……

あずさ「どう?」

千早「すごいです」

正直な感想しか出てこない。
そして全体に触れると弾力が強いけれど、指先だけでそっと触れるとその指が沈み込むような柔らかさを感じた。

なんて不思議な触り心地だろう。

私の手の中で、あずささんの胸が私の手の動きに合わせて揺れる。
そして手に伝わるその質感……なんていう重さだろう。

P「千早……うらやま……いや、やったな!」

私はその日、存分にあずささんの胸を揉んだだ。
揉んだ瞬間、直感のような閃き、いや感情がわき起こった。

そうだ。

これだ。

これを、歌にこめるんだ……


57:2012/06/28(木) 11:35:26.79 ID:GsptpCWE0

千早「♪ 揺れる〜♪ 重〜い♪」

P「おお! 見える……見えるぞ千早!! 千早の胸に心の巨乳が……美しいふたつの球体がバインバインに揺れる光景が、その質感が、俺の脳裏にありありと浮かんでくる……!!!」

律子「……白昼夢ですか?」

千早「プロデューサー! 私、やりました!!」

P「ああ! ついにやったな千早。千早はこの歌を完璧に自分の物にした。素晴らしい歌だ」

プロデューサーの目から、涙が溢れる。

私自身も、心が震えるのを抑えられなかった。

またしても歌に没頭できた。

歌と一体になれた。

自分と歌の、新たな関係を私はまたまた築けたような気がしていた。

ちなみに余談だが、この後3日間ほどなぜかプロデューサーは鼻血を流しながら仕事をしていたが、あれはなんだったのだろう?


58:2012/06/28(木) 11:35:54.90 ID:GsptpCWE0

私の歌は、一世を風靡した。
所属レーベルには「青春の切なさを感じた」「恋する気持ちをありがとう」「千早タン、歌ってる時はマジ巨乳! ふしぎふしぎ」との声が殺到したそうだ。
タイアップも大成功、スポンサーからもとても感謝された。
CDは、夢だったモリオンを達成。

そして私はこの曲で、ランクBへと昇進した。


59:2012/06/28(木) 11:36:40.06 ID:GsptpCWE0

社長「ついに我がプロダクションから、ランクBのアイドルが誕生した」

律子「おめでとう千早!」

千早「あ、ありがとうございます。これも支えてくれたプロデューサーさんをはじめ、みんなのお陰です」

真「そんなことないよ。ボク達もみんな、千早が努力している所をみてきたからね」

雪歩「そうですぅ。千早ちゃんは、歌のレッスンではいつも、一生懸命でした」

美希「ミキもはやく千早さんに追いつくのー!」

伊織「私も負けないわよ」

響「自分だって完璧だからな! 千早もうかうかしていると、自分が追い越しちゃうんだぞ」

春香「やったね! やっぱり千早ちゃんの歌はすごいよ」

あずさ「やったわね〜千早ちゃん〜」ブルンブルン

やよい「あれー? あずささん、また胸が大きくなったんじゃないですかー?」

あずさ「ううん〜これは違うのよ〜まだちょっと、腫れが〜……」

やよい「?」


60:2012/06/28(木) 11:37:07.11 ID:GsptpCWE0

事務所の中では、私が一番の出世頭となった。

とはいえ、他のみんなだって活動は順調で、春香もランクBは目前。貴音さん、美希、雪歩、伊織もランクCへとランクアップしている。残りのみんなも、ランクアップは確実な情勢だ。

事務所全体が活気づいている。
確かな成功を手に収めた時よりも充実した、成功を手にできる期待感が事務所を包んでいた。

765プロは、破竹の快進撃を遂げていた。


61:2012/06/28(木) 11:37:36.75 ID:GsptpCWE0

P「千早……俺の、歌姫……」

千早「プロデューサー……」

会議室でミーティング。
そこで私は、プロデューサーの胸に飛び込み、2人は抱き合った。

身体が幸福で包まれる。
恋も仕事も順調。
そんな言葉が自然と頭に浮かぶ。
まさか自分に、こんな幸せが訪れるなんて……

P「さあ、それじゃあ仕事だ」

千早「あ……はい」

P「今や千早の歌の実力は、世間も認めてくれている」

千早「そんな……」

P「事実だ。だからこういう仕事のオファーがきた。ついに……きたんだ」

珍しく興奮気味のプロデューサー。

千早「なんですか?」


62:2012/06/28(木) 11:38:02.83 ID:GsptpCWE0

P「サッカー日本代表の最終予選が国立競技場で行われる」

千早「そう、ですか」

P「千早にそこで、国歌斉唱をして欲しいというオファーだ」

千早「!」

心臓の鼓動が、早鐘のように鳴った。
足が震える。

歌う曲はたった一曲。

決して長い曲ではなく、一番しかない。

聞いてくれるのは、自分の歌を目的に来る人達ではない。

五万人の大観衆、国の威信をかけた国歌を私が歌う……

千早「私にはもったいない名誉です。でもそんな重大な仕事……私なんかに歌いきれるでしょうか?」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! たとえ国の威信をかけた国歌の斉唱でも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」

千早「あ……」

プロデューサーが、再び私を抱きしめる。

2人の頬がふれ合う。
ディープハグだ。


63:2012/06/28(木) 11:38:49.39 ID:GsptpCWE0

P「さあ千早、歌ってみてくれ」

私は頷くと、歌い始めた。

千早「♪ き〜み〜が〜よ〜お〜は〜♪」

厳粛な中にも威厳の漂う曲調であり、私もそれに声質を合わせる。
悪くない。

歌える。

私はこの曲を歌える。

千早「〜♪ ……どうですかプロデューサー?」

P「さすがだな」

プロデューサーの言葉に、私は有頂天になりそうになる。

P「楽譜どおりの音程、雰囲気に合った声質、共に文句ない」

千早「はい!」

P「だけどそれじゃあダメだ」

千早「えっ……」

P「この歌、君が代は、千早の歌になっていない」

千早「そんな! どこがいけないんですか!?」

P「上手く言えないが……強いて挙げるなら、心に響いてこない」

千早「……え?」

P「君とはすなわち国の頂点を指す。その国の頂点の気持ち、業、そして国の頂点を称える気持ちと決意。そうしたものが心に響かないんだ」

千早「意味がわかりません!」

ついプロデューサーに食って掛かってしまった。
まただ。
私の悪い癖。

私のことを思って言ってくれる人に、わかっていても反射的に反発してしまう。


64:2012/06/28(木) 11:39:29.29 ID:GsptpCWE0

だけどプロデューサーは、そんな事を意にも介さない様子で微笑んだ。

P「しかし逆に言えば、問題点はそこだけだ。そこさえ千早が自分のものにできれば……この歌はもう、千早のものだ」

千早「……」

P「がんばってくれ」

私は項垂れて、レッスンルームを出た。


65:2012/06/28(木) 11:40:08.17 ID:GsptpCWE0

所詮一般庶民でしかない私に、そうした気持ちなんてわかるわけがない。

千早「国の頂点に立つ人の気持ち……」

伊織「どうしたのよ? 元気ないじゃない」

千早「水瀬さん……ちょっと歌の事で」

伊織「ふう、千早ってばいつでも悩みは歌の事なのね」

千早「私にはそれしか……水瀬さんは違うの?」

伊織「ちょっと、水瀬さんは止めてよ」

千早「え?」

伊織「千早の方がランクも歳も上だし、せめて伊織って呼んで」

千早「……いいの?」

伊織「私だって千早、って呼んでるでしょ?」

千早「それもそうね」

私はちょっと可笑しくなった。

伊織「ふふ、いい笑顔よ。千早もそうじゃないとね」

ああ、この娘はこういう気遣いのできる娘なんだ。
優しく、そして心が強い。

容姿だけじゃない、内面も王者のような高貴さを……



千早「これだわっ!!!」


79:2012/06/29(金) 20:49:46.11 ID:gZV/BKaR0

伊織「な、なによ? どうしたの?」

千早「伊織さん、今夜あなたと一緒に過ごしたいのだけど、だめかしら?」

伊織「一緒に? 今夜?」

小鳥「ピヨッ!」ガタッ

伊織「……変なこと言ったら、その机の中の薄い本を白日の下にさらすわよ」

小鳥「ピヨォ……」↓

千早「もちろん変な意味じゃないの。私、伊織さんから色々と学びたいの」

伊織「……いいわよ」

千早「本当に!?」

伊織「べ、別に千早と一緒に夜更かしして楽しみたいとか、そんな理由じゃないんだからね! た、たまには……アイドル同士、歌とかについてディスカッションもいいかなと思っただけなんだから」

真っ赤になりながら、言い訳のように必死で話す伊織さん。

可愛い。
私は素直にそう思う。

そうだ、こんな風に思ったことと裏腹な事を言っているとわかっていても、こんなに愛おしさを感じるようにできる人もいるんだ。

私にもそれができるだろうか?

やよい「千早さん、伊織ちゃんの家にお泊まりするんですかー?」

伊織「そうよ」

千早「え? あの、そんな申し訳ないわ。むしろ私の家に……」

伊織「あら、私から色々と学びたいんでしょ? じゃあ私の家にいらっしゃいよ」

やよい「伊織ちゃんと千早さんが一緒かあ。いいなあ、私も行きたいですー!」

伊織「いいわよ。ね、千早もいいでしょ? やよいがいても」

千早「それは別にかまわないけれど……」

伊織「はい、じゃあ決定ね。今日は三人で楽しく過ごしましょう」

やよい「うっうー! うれしいですー!!」


80:2012/06/29(金) 20:51:47.38 ID:gZV/BKaR0

なんだか妙な事になってきた。

だげどこうして、事務所の仲間と共に過ごすのも悪くはないという気持ちもある。

ランクがアップして、心に少し余裕もでてきたのだろうか?

私は一旦家に戻ると、お泊まりの用意をして伊織さんの家へと向かった。

伊織さんの家は、予想以上の大邸宅。
いや、もう何かの公共施設ではないかと思ってしまう館だった。

おずおずと、インターホンを押して名前を告げると、本物のメイドさんが出てきて私を案内してくれた。

伊織「早かったわね。ま、くつろいで」

千早「ええ……ありがとう」

通されたのは、 映画とかで見るような大広間。

伊織「なによ? 荷物それだけ?」

千早「着替えとかだけなんだけど、変かしら?」

伊織さんは、ちよっと笑って言った。

伊織「いいえ。千早らしいわ。何か足らないものとかあったら言ってね? すぐに用意させるから」

千早「悪いわ」

伊織「千早は今日はお客様よ。お客様に不便な思いをさせたら、水瀬の沽券にかかわるわ」

こんな時でも、伊織さんは優雅で堂々としている。

そう、私は彼女のこの態度を学びに来たのだ。


82:2012/06/29(金) 20:53:21.63 ID:gZV/BKaR0

やよい「うっうー! おまたせしましたー」

ほどなく高槻さんもやってきた。
私達3人は、伊織さんの部屋で談笑を始める。

千早「どうしたら私も、伊織さんみたいになれるのかしら?」

伊織「……私は、千早みたいになってみたいとも思うわよ?」

千早「え?」

伊織「歌に没頭して、生活……いいえ人生を歌に捧げているように見える。すごいわ」

やよい「えへへ。伊織ちゃん、今日はいつもより正直だねー」

伊織「な、なによやよい! まるで普段は……素直じゃないみたいじゃない」

やよい「うーうん。伊織ちゃんは、いつもとーっても素直だよー」ナデナデ

伊織「……ありがと」

伊織「と、ともかく! 私になりたいって言われても、どうすればいいのかはわからないわ」

千早「さっき、水瀬の沽券にかかわるって言ってたわよね?」

やよい「こかん?」

伊織「沽券、よ。そうね、私は水瀬の人間だから、いつも水瀬を背負っているつもりよ」

千早「そういう使命感……といっていいかわからないけれど、そういう心構えを私も得たいの」

伊織「そう言われてもね……これは染み付いたものだから……お兄様達は、イートンで叩き込まれたみたいだけど」

千早「イートン?」

伊織「イギリスの名門高校。留学してたのよ」

やよい「いい豚? うわー、なんかとってもいい豚肉みたいでうれしくなってくるねー! うっうー!」

伊織「違うんだけど……なんかそう言われたら、食べたくなってきたわね」

やよい「うんー!」

伊織「ディナーのアントレは、ポークにするよう言っておくわ。千早もそれでいい?」

千早「私はなんでも……」

伊織さんは、肩を竦めてメイドさんに指示を出した。


83:2012/06/29(金) 20:55:45.08 ID:gZV/BKaR0

伊織「そうねえ……韓非子とかパパに読むように言われたけど、実際あんまり読んでないし……昔の外国の政治家の演説を、これもパパに見させられたけど……」

千早「どんなの?」

伊織「……いい? 私の本心とかじゃないからね」

伊織さんは、少し複雑そうな表情になると、演説口調で喋りだした。

伊織「大衆は豚だ!」

千早「……え?」

伊織「ちょ、ちょっと! 真顔で聞き返さないで。こういう演説なの!」

千早「そ、そう」

伊織「もう、聞いたのは千早なんだから、私の後について復唱して」

千早「ええっ!?」

伊織「参考にするんでしょ?」

意趣返しだとは思ったが、伊織さんに恥をかかせるのも悪い。
それに真っ赤になって、演説口調で喋る伊織さんが可愛らしく、私もその気になった。

やよい「うわー! 私もいっしょにやりますー!!」

伊織「そうね。多いほうが恥ずかしくないし……じゃあいくわよ?」

伊織「大衆は豚だ!」

千早「た、大衆は豚……だ」

やよい「チャーシューは豚ですー!」


伊織「ドイツは純粋なアーリア系のゲルマン人で占められなければならない!!」

千早「ど、ドイツは……純粋なアーリア系のゲルマン人で占められなければならない!!」

やよい「ちんれつケースは純粋な黒毛の国産牛でしめられなければならないんですー!!」


伊織「大きい嘘は信じてもらえる一定要素がある。民衆は小さい嘘より大きい嘘の犠牲になり易い!!!」

千早「大きい嘘は信じてもらえる一定要素がある。民衆は小さい嘘より大きい嘘の犠牲になり易い!!!」

やよい「大きいお肉は買ってもらえるいっていようそがありますー。お客さんは小さい肉より大きい肉を買って、保存した方が安いからですー!!!」


84:2012/06/29(金) 20:57:32.07 ID:gZV/BKaR0

こうして私達は、夜がふけるまでドイツ労働者党の食肉政策について議論を重ねた。
議論が白熱するにつれ、直感のような閃き、いや感情がわき起こった。

そうだ。

これだ。

これを、歌にこめるんだ……


千早「♪ き〜み〜が〜よ〜お〜は〜♪」

P「おお! 見える……見えるぞ千早!! 千早が大群衆に向かい、手を振る様が……そしてその群集が千早に熱狂する光景が、その声援が、俺の脳裏にありありと浮かんでくる……!!!」

千早「プロデューサー! 私、やりました!!」

P「ああ! ついにやったな千早。千早はこの歌を完璧に自分の物にした。素晴らしい歌だ」

プロデューサーの目から、涙が溢れる。

私自身も、心が震えるのを抑えられなかった。

またしても歌に没頭できた。

歌と一体になれた。

自分と歌の、新たな関係を私はまたまたまた築けたような気がしていた。



85:2012/06/29(金) 20:58:32.42 ID:gZV/BKaR0

私の国歌斉唱は、大反響を巻き起こした。
放送局には「荘厳な歌声だった」「あらためて日本が好きになった」「たいへん歌がおじょうずですね」との声が殺到したそうだ。
日本代表も大勝利108対0で相手国を下した。

そして私はこの一件で、ついにランクAへと昇進した。


86:2012/06/29(金) 21:00:09.92 ID:gZV/BKaR0

社長「ついに我がプロダクションから、ランクAのアイドルが誕生した」

律子「おめでとう千早!」

千早「あ、ありがとうございます。これも支えてくれたプロデューサーさんをはじめ、みんなのお陰です」

真「そんなことないよ。ボク達もみんな、千早が努力している所をみてきたからね」

雪歩「そうですぅ。千早ちゃんは、歌のレッスンではいつも、一生懸命でした」

春香「私もはやく千早ちゃんに追いつくからね!」

貴音「私も負けてはいられません」

響「自分だって完璧だからな! 千早もうかうかしていると、自分が追い越しちゃうんだぞ」

あずさ「よかったわね〜! やっぱり千早ちゃんの歌はすごいわ〜」

伊織「やったわね! 千早」

やよい「私たちとの特訓のせいかだねー! うっうー!!」


87:2012/06/29(金) 21:01:42.08 ID:gZV/BKaR0

会議室でのミーティング。
そこで私は、プロデューサーの胸に飛び込み、2人は抱き合った。

身体が幸福で包まれる。
恋も仕事も順調。
これはまぎれもない現実。
ああ、まさか自分に、こんな幸せが訪れるなんて……

P「さあ、それじゃあ仕事だ」

千早「あ……はい」

P「また新曲だ。目指すは……わかるな?」

千早「はい! ランク……Sで、す……」

さすがに口にすることがためらわれる。

無謀だという人もいるだろう。

生意気だと笑う人もいるだろう。

だけど私は……いや、私達は頂点を目指してやってきた。

その頂点が、ついに垣間見えたのだ。

ランクSという頂点が。

P「これが新曲『LOVE LOVE LOVE』だ」

千早「すごい……!」

これまでのどの歌とも違う。

大人の愛の歌。

愛する切なさがにじみ出るその心情が、歌詞と楽譜だけで私の目頭を熱くする。

千早「ぷ、プロデューサー……私、無理です。こんな大人の愛の歌、私にはうたえる自信がありません」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! 大人の愛の歌でも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」

私達は再び抱き合った。

こうしていると、二人の心がひとつになるようだ。

P「じゃあ早速だが歌ってみてくれ」


88:2012/06/29(金) 21:02:38.77 ID:gZV/BKaR0

私は頷くと、歌い始めた。

千早「♪ ねぇどうして〜♪ すっごくすごく好きなこと〜♪」

スローテンポで切なさの漂う曲調であり、私もそれに声質を合わせる。
悪くない。

歌える。

私はこの曲を歌える。

千早「〜♪ ……どうですかプロデューサー?」

P「さすがだな」

プロデューサーの言葉に、私は有頂天になりそうになる。

P「楽譜どおりの音程、雰囲気に合った声質、共に文句ない」

千早「はい!」

P「だけどそれじゃあダメだ」

千早「えっ……」

P「この歌、LOVE LOVE LOVEは、千早の歌になっていない」

千早「そんな! どこがいけないんですか!?」

P「上手く言えないが……強いて挙げるなら、心に響いてこない」

千早「……え?」

P「会いたい人に会えない気持ち、業、そして自分の気持ちに対する疑問。そうしたものが心に響かないんだ」

千早「意味がわかりません!」

ついプロデューサーに食って掛かってしまった。
まただ。
私の悪い癖。

私のことを思って言ってくれる人に、わかっていても反射的に反発してしまう。

だけどプロデューサーは、そんな事を意にも介さない様子で微笑んだ。

P「しかし逆に言えば、問題点はそこだけだ。そこさえ千早が自分のものにできれば……この歌はもう、千早のものだ」

千早「……」

P「がんばってくれ」

私は項垂れて、レッスンルームを出た。


89:2012/06/29(金) 21:04:39.78 ID:gZV/BKaR0

そう、歌自体はうたえているのだ。

問題はこの歌の解釈。
この歌の心。

千早「でも、どうすれば……」

美希「おはようなのー千早さん」

千早「おはよう、美希」

悩んでいると、美希がやってきた。

律子「美希……いま何時かしら」ヒクヒク

美希「えっと……午後1時なの」

律子「ほおー。それで? 約束は何時だったかしら?」

美希「あふう。えっと……」

律子「12時ジャストよ! 12時!! なんで一時間も遅刻するのよ!!!」

美希「ミキね。寝坊しちゃったの」

律子「そんなこと聞いてません!」

美希「律子が聞いたの、なんでって」

律子「年上にはさんをつけなさーい」スパコーン

美希「うう。痛いの……」

相変わらずの光景。

美希も今やランクAが間近。大事な時期だ。

しかし美希は変わらない。マイペースで、寝坊や遅刻はしょっちゅうだ。



千早「そうだわ……これよ……これだわっ!!!」


103:2012/06/30(土) 21:07:59.03 ID:ooXTTCkj0

美希「千早さん、どうしたの?」

千早「美希! あなたにお願いしたいことがあるの」

律子「あの……これから私と美希はミーティングなんだけど」

美希「なの。ごめんなさいなの、千早さん」

千早「そう……その後は? なにか予定があるの?」

律子「美希は夕方からの生放送があるんだけど、千早も歌番組の収録でしょ、同じぐらいの時間から」

美希「それまでミキ、ソファーで寝てるのー」

千早「それ、私も一緒にいいかしら?」

美希「あふぅ……え?」

千早「私も一緒に寝たいの」

美希「嬉しいのー! ミキね、千早さんとぐうたらできたら素敵かな、って思うな」

千早「じゃあミーティングが終わったらお願いね」

律子「じゃあ行くわよ、美希」

2人が出ていくと、私は自分のスケジュールを確認する。

今が午後の1時過ぎ、収録は6時からなので、4時ぐらいには事務所を出たい。いや、今日は美希につきあい昼寝をするとなると、起きて身支度も必要かも知れない。


104:2012/06/30(土) 21:11:07.00 ID:ooXTTCkj0

あれこれ考えているうちに、美希が戻ってきた。

美希「じゃあ千早さん、お昼寝しましょうなのー」

千早「待って美希。私、色々と考えていたんだけど」

美希「? なにを、なの」

千早「とりあえず3時までは寝るとして、その後身支度をして出かけないと。今は1時32分だから、1時間28分間の睡眠がのぞめるわけね」

美希「……千早さん?」

千早「寝る前にそうしたスケジュール調整が必要だと思うの。時間を決めて、キッチリしっかりとダラダラしましょう!」

美希「そんなの本当のダラダラじゃないの」

千早「そうでないと……え?」

美希「ダラダラってね、そういう雑念にとらわれてちゃダメだって、ミキ思うな」

千早「でも、遅刻したら大変だし、寝坊とかしないように色々と」

美希「千早さん」

優しい眼差しで、美希が穏やかに私に話しかける。

美希「本当のダラダラってね、そんな気持ちじゃ得られないの」

千早「そう……なの?」

美希「ダラダラしてる時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんていうか救われてなきゃダメなの。独りで静かで、豊かで……なの」

千早「そうなの……知らなかったわ」

美希「あはっ☆ 今日はミキが千早さんのせんせーなの。ほらほら、千早さんもこっちきて、なの」


105:2012/06/30(土) 21:12:03.77 ID:ooXTTCkj0

美希の招きで、私達はソファで一緒に横になる。
正直、ちょっと狭い。

美希「千早さーん、ミキの体に手を回して」

千早「え?」

美希「その方がゆったりできるの」

私はおずおずと、美希を抱きしめる。

美希も同じように私の身体に手を回す。

胸と胸が触れ合う。
あずささん程ではないが、やはり大きい。
そしてハリというか、弾力がある。

美希「千早さんとミキ、恋人同士みたいなの」

無邪気な言葉。
美希が言うと、ちっともわざとらしくない。

この自然体が、美希なのだろう。

そうしている間に、美希は寝息をたてて寝始めた。

その可愛らしい寝顔を眺めていると、自然に私の意識も白くぼやけていった。

そうか、この感じ。

この幸せな感じが、美希の言って……いた……

本……当の……ダラダ……ラ……


106:2012/06/30(土) 21:12:47.30 ID:ooXTTCkj0

律子「ちょっと美希! 千早! あんたたちまだいたの!? なんで寝てるのよ!!」

悲鳴にも似た叫び声に、目が覚める。

時計に目をやると、ちょうど5時。

5時?

千早「ええっ! あっ、えっと!」

律子「2人ともはやく支度して! 車の用意するから!!」

私は、まだ寝ぼけ眼の美希を引きずるようにして、一緒に支度をすると車に乗り込んだ。

不覚だ。

寝坊なんて初めての経験。

局についてからも、私は思いっきり走った。

走って、走って。

それでもやはり遅刻だった。

大物ディレクターからは苦言を呈され、共演の大物歌手からは「千早ちゃんも偉くなったわね」と嫌味を言われた。

しかし、大変な思いをしながらも、私は充実していた。

というのも、遅刻しそうになり走っている時に私は閃いたからだ。

遅刻しそうなこの気持ち……

そうだ。

これだ。

これを、歌にこめるんだ……


107:2012/06/30(土) 21:13:35.79 ID:ooXTTCkj0

千早「寝坊して〜♪ 遅刻、遅刻好きなこと〜♪」

P「おお! 見える……見えるぞ千早!! 千早のトロンとした寝ぼけ眼の表情が……そして慌てて身支度する光景が、その普段真面目なだけにギャップを感じる可愛らしさが、俺の脳裏にありありと浮かんでくる……!!!」

千早「プロデューサー! 私、やりました!!」

P「ああ! ついにやったな千早。千早はこの歌を完璧に自分の物にした。素晴らしい歌だ」

プロデューサーの目から、涙が溢れる。

私自身も、心が震えるのを抑えられなかった。

またしても歌に没頭できた。

歌と一体になれた。

自分と歌の、新たな関係を私はまたまたまたまた築けたような気がしていた。


108:2012/06/30(土) 21:14:07.24 ID:ooXTTCkj0

私の歌は、一世を風靡した。
所属レーベルには「愛する人を想う切なさが伝わった」「涙が止まらない」「千早タン、真っ赤になって慌てる姿マジ天使!」との声が殺到したそうだ。
タイアップも大成功、スポンサーからもとても感謝された。
CDは、夢だったミリオンを達成。

そして私はこの曲で、ついに念願のランクSへと昇進した。


109:2012/06/30(土) 21:15:14.72 ID:ooXTTCkj0

社長「ついに我がプロダクションから、ランクSのアイドルが誕生した」

律子「おめでとう千早!」

千早「あ、ありがとうございます。これも支えてくれたプロデューサーさんをはじめ、みんなのお陰です」

真「そんなことないよ。ボク達もみんな、千早が努力している所をみてきたからね」

雪歩「そうですぅ。千早ちゃんは、歌のレッスンではいつも、一生懸命でした」

美希「ミキもはやく千早さんに追いつくのー!」

伊織「私も負けないわよ」

響「自分だって完璧だからな! 千早もうかうかしていると、自分が追い越しちゃうんだぞ」

春香「やったね! やっぱり千早ちゃんの歌はすごいよ」

P「千早……」

千早「プロデューサー……私、私……」

P「何も言うな。今だけは、今だけは何も考えず、素直に喜ぼう。この勝利を、この喜びを……」

千早「! あっ……」

事もあろうに、いや人もいるのに、プロデューサーは私を抱きしめた。

みんなは驚く。

が、やがてみんなは笑顔で私達を祝福してくれた。

春香も、美希も……

こんな幸せってあるだろうか?

私なんかにこんな幸せがやってきていいんだろうか?

もしかして、これは夢か何かじゃないだろうか?

不意に私は怖くなり、プロデューサーをしがみつく様に抱きしめた。


110:2012/06/30(土) 21:16:08.26 ID:ooXTTCkj0

P「さあ、それじゃあ仕事だ」

千早「あ……はい」

いつものようにプロデューサーは言う。

春香「えーっ! ついにランクSになって、2人も公認の間柄になったのにもうですか!?」

美希「千早さんがかわいそうなの!」

P「次はこの歌を、千早に歌ってほしい」

千早「はい……『てんとう虫のサンバ』?」

小鳥「ふふっ。昔から変わらない、結婚式ソングよ」

千早「ええっ! そ、そんな歌……わ、私……」

P「千早!」

千早「な、なんですか!? プロデューサー」

P「忘れたとは言わせないぞ」

千早「えっ?」

P「あの時の、千早のあの言葉だ……」

『どのような歌であろうとも常に真剣に取り組みたいです。私がそうでないと歌に対しても、聞いてくれる人にも失礼だと思うので』

ああ……

そうだ。

そうだった……

私は自分の言った、大切な事を忘れる所だった。

千早「そうでした。私はどのような歌であろうとも常に真剣に取り組みます! たとえ結婚式ソングでも!!」

P「そうだ千早、その意気だ!」


111:2012/06/30(土) 21:17:00.50 ID:ooXTTCkj0

真美「むっふっふ→だけど、千早姉ちゃんこの曲も今までみたいに→」

亜美「そ→そ→! 誰かと一緒にがんばらないと自分のものにできないんじゃないかな→?」

千早「え? ええっ?」

春香「あーあ。親友に先をこされちゃうのかー」

千早「あ、あの……それって……」

美希「ミキ、悔しいけれど千早さんとハニーはお似合いだと思うな」

千早「み、美希まで……も、もう、からかわないで……」

P「千早」

千早「は、はいっ」

P「このてんとう虫のサンバを、千早に歌わせてやれるようにできるのは……俺だけだと思うんだが……」

千早「ぷ、プロデューサー……それって……」

P「俺と結婚して、この歌をうたえるようになってくれないか?」

一同「「きゃーーーっっっ!!!」」

雪歩「千早ちゃん、返事はどうするんですぅ?」

真「すばーっと言っちゃってよ」

貴音「ひゅうひゅう、ですね」

千早「……はい、プロデューサー。私と結婚して、ください」

一同「「やったあああぁぁぁーーーっっっ!!!」」


112:2012/06/30(土) 21:19:36.62 ID:ooXTTCkj0

こうして私は……

いや、私達は歌でトップアイドルになった。

そして、私達は夢を叶えた。

いや、これからも夢を叶え続けていく。

歌と、二人の愛で……

これからもずっと、私達はパートナーとして支え合い、過ごしていこう。


おわり


114:2012/06/30(土) 21:25:00.05 ID:ooXTTCkj0

以上で終わりです。
おつきあいいただき、読んでくださったりレスをくださった方、本当にありがとうございました。


116:2012/06/30(土) 22:41:53.99 ID:2uF3Yyn/o

おつー


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元スレ:
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1340764061/

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