1:2018/06/23(土) 12:07:36.22 ID:Rs9/yfEgO

モバマスSS
短い

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2:2018/06/23(土) 12:08:05.00 ID:Rs9/yfEgO

モバP

初夏を通り越して、暑くなりつつある街の中、俺の足取りは重い。
外回りはこの季節、特に厳しい。曇っていて今にも崩れそうな天気に、この温度。

気分の重い俺に、誰かが、なにかが、肩を叩くように注意を逸らさせた。

街の中を歩いていると、雑踏に紛れて歌が聞こえてきた。
それは幻聴のようにも思われた。
ふと気づくと、俺は歩みを止めて、その歌と思しきものに耳を傾けていた。

少女が歌っているのだろうか。か細い声で、それでも懸命に歌っているように聞こえてくる。
そのように聴こえる。

ああ、ああ、ああ。歌詞を伴わないハミングは、清流のように俺の耳に入ってくる。

やがて、ああ、聞こえなくなって行く。雑踏にかき消されて。
きっといい娘だったかもしれないのに、惜しいことをした。

そして俺は歩き出す。自分のやるべきことを見失わないように。そしてその歌を忘れないように。

足取りが軽くなる。重いものを持っていたのを放り投げるように。
気がつけば俺も、歌を口ずさんでいた。その少女から、バトンを引き継ぐように。

ああ、なぜ、俺は歌を忘れてしまうのだろう。
あの歌はなんだったっけ、と、少しの悔し涙とともに、俺は外回りを続ける。
涙声の鼻歌は、少し篭って、響いた。


3:2018/06/23(土) 12:08:33.18 ID:Rs9/yfEgO

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高森藍子

梅雨の曇り空の下、散歩の足取りもちょっとぐずついて。
湿った地面に湿った空気。これ以下とないコンディションの中、どうして散歩に出かけてしまったんだろうってちょっと後悔したりもして。

写真に撮りたいような景色もないなか、私はぶらり、ぶらりと宛てもない散歩をだらだらと続けている。

帰ろうか、でも今帰っても。そういう心の迷いが、私を突き動かしていた。

ふと、気づくと誰かの歌声が聞こえてくる。いや、風の音がそうさせたのかもしれない。
その声は涙交じりで、悔しそうに聞こえてきたけれど、それでも力強く前に進もうという気持ちを感じた。

負けないで。

いつのまにか、私はただの勘違いかもしれないその歌声に聞き入っていた。聞き入って、そしていつの間にか、その声の主に対して声援を送っていた。

でも、消えていく。かすれていく。私はそれが悲しかったけれど、でも、その声の主を応援することをやめなかった。

らんらんらん、らんらんらん。
気がつけば私も、名前のない歌を歌っていた。
ららら、るるる。るらら、るらら。

私に散歩を続けさせてくれた、いるかもわからないその歌声の主に届けと言わんばかりに、私は精一杯明るく歌い続けた。

気がついたら、雲が晴れて、傾いた太陽が私を照らしていた。

この歌はなんだったっけ。なんて思いながら、私の散歩は続いていく。
歌声は、小さなビル街の間で相応に小さく響いた。


4:2018/06/23(土) 12:09:06.22 ID:Rs9/yfEgO

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市原仁奈

遊んだ後のゆうがたの空は、すごくさびしくて、ひとりぼっちをこれでもかーっておしつけてくる。
友達とバイバイした後の帰り道は、どこまでも一人だけの時間。

家に帰っても、誰もいないのに。それでもになは帰らないといけない。

そのくらーい気持ちが、になを帰り道のアスファルトに釘付けにして、すこしも動かしてくれなかった。

一人はいやだ。一人はさびしい。だれかといつまでも一緒にいたい。
でも、それはもう叶わない。明日になるまで、になはずっとひとりぼっち。

帰りたい、帰らなきゃ、帰れない。
あんなに近くても、気がつけば、おうちがすごく遠く感じた

そんなときに、季節外れの虫のこえがきこえたような気がした。

虫のこえじゃないかもしれない。誰かの歌声。ららら、るるる。
確かにリズムを持った歌声は、になに「一人じゃないよ」と教えてくれるようだった。

だれかいるのでごぜーますか。そう尋ねても、歌は知らんぷりで、止まらないで歌い続けるばかりだった。

でも、歌はになに「一人じゃないよ」と教えてくれるように、そばに一緒にいてくれるようだった。

一人じゃない。明日になれば、またみんなにあえる。ママにも会える。

なみだを拭いて、になは自転車を押してまた歩き始めた

になも負けないぞと、らんらんらーと歌を歌ってみせた。
それはちょっぴりへたっちょだったかもしれないけれど。誰もいない、もう暗くなった帰り道に、らんらんと響いた。


5:2018/06/23(土) 12:09:47.14 ID:Rs9/yfEgO

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向井拓海

どうしようもなくイライラしていた。だから自慢のバイクでそこら中に爆音を撒き散らしながらあたしはそれを発散させていた。
時間帯や迷惑など知ったことではない。とにかくイライラを解消したくて、あたしは爆走を続けた。

すると途端に虚しくなってきた。何をやっているんだか。

ふっ、と魂が抜けたようになったあたしは、にわかにスピードを落として、路肩にバイクを寄せた。

それでもイライラは収まらねえ。

街路樹に謂れもない蹴りをくれてやって、足の痛みに若干後悔しながら、あたしは歩道で管を巻いていた。

その時、何か笑い声のようなものが聞こえてきた。
笑い声。違う。歌だ。

少し調子っぱずれなその歌は、あたしの耳に確かに響いてきた。
行き交う車の音とは確実に違う、人間の声のように聞こえた。

大丈夫だよ、大丈夫だよ。

そう言っているような気がした。
そうして、なんだかなだめられているような気分になった。

はっ、幻聴に宥め賺されるだなんて。
自嘲と呆れの混じった笑いが、いつのまにかあたしからこぼれていた。

なお止まない歌にのせられて、あたしはまたバイクにまたがって発進させた。

爆音にかき消されるのをいいことに、あたしもまた歌を口ずさんでいた。

アイツが歌っていた歌。なんだっけな、と思い出しながら途切れ途切れに口ずさまれるその歌は、エンジンの音にかき消され、響くことはなかった。


6:2018/06/23(土) 12:10:16.87 ID:Rs9/yfEgO

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歌は巡る。歌は響く。
あなたが歩くとき、あなたが息を吸うとき、あなたが眠りにつくとき。
そっと耳をすませてごらん。
聞こえてくるでしょう、風が、波が、鳥が、虫が、歌っているのが。

あなたは夢中。生きることに夢中。だから気づかない。
でも、心は聞こうとしている。
耳を傾けてみて、世界のメロディー。
ひしめきさんざめく音の中、ひとつだけの音。あなたの歌。

心も耳もひとつとふたつだけ。
どうしても響きあえないふたつのこころ。
それでもほんの少しだけ、揺れた空気。
あなたが揺らした響きが、誰かの心を揺らすかも。





7:2018/06/23(土) 12:10:47.61 ID:Rs9/yfEgO

ここまで読んでくださってありがとうございます。
もろに「遠い音楽」のパクリになってしまった。
ひさびさに落ち着いたSSです。
歌はいいものだなぁと思ったら書きあがってました。

参考楽曲
遠い音楽/ZABADAK
http://youtu.be/04BUoX6_8zk

才悩人応援歌/BUMP OF CHICKEN
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm29597182


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