1:2018/09/16(日)22:05:31 ID:Y5f

 気付いた頃には艤装を身に付け海を駆けていた。大人達の言われるがままに敵を殺す。大人達は繰り返す。大義は我らにあり。悪を潰せ。

 鉄の船を沈め続け幾つもの季節を乗り越えた。

「よくやった」

「流石だな」

 敵を殺せば大人達は褒めてくれた。美味しいものも食べさせてくれた。気持ちよくなるお菓子もくれた。敵を殺す事。大人達に褒められる事。この二つが僕の世界の全てだった。


2:2018/09/16(日)22:06:07 ID:Y5f

 僕と同じモノは沢山いた。そいつらは決まって少女。それは僕にとってありがたい事だ。海に浮かんでいるモノ。鉄の船は敵で、少女は敵では無い。分かりやすい。

 少女は鉄の船を沈めるモノなんだ。大人達もそう教えてくれた。

 でも、ある時見てしまった。写真に写る少女。その少女は僕らとは違って白くて柔らかそうで汚れていない。僕らと同じ様には見えない。

 少女は鉄の船を沈める存在なんじゃ無いのか。大人達に問うと。

「これはお前達とは違う存在だ」

「お前達は特別なんだ。選ばれしものもなんだ」

 僕らは特別な存在。鉄の船を沈める、唯一の存在なんだ。


3:2018/09/16(日)22:06:36 ID:Y5f

 また季節を乗り越えた。その頃から鉄の船は強くなった。と言うより、僕ら側が弱くなったと言うべきかもしれない。

 弾がなく、艤装もボロボロ。お金が無いらしい。それと、僕と同じモノ達が減り始めた。出撃する度に、1人、また1人と。

 大人達の顔は険しくなり、食事も不味くなった。お菓子もくれなくなった。それでも僕のする事は変わらない。鉄の船を沈めること。

 だけど、同じモノ達が減るのは寂しかった。よく分からないけど言い様の無い孤独感が僕を包んだ。

 


4:2018/09/16(日)22:07:15 ID:Y5f

 サミシイ。遂に僕と同じモノは居なくなり、僕だけになった。特別な少女は僕しかいない。僕だけなんだ。

 世界でたった1人。救い用のない孤独に陥った。大人達が何か言うが、僕は脇目もふらず泣いた。もうおしまいだ。僕は孤独なんだ。

 僕は出撃を拒み泣き続けた。こんな世界、生きていたって仕方がない。

 だけどーーある日。

「お前の仲間が見つかった。プレゼントを持って迎えに行ってくれ」


5:2018/09/16(日)22:07:46 ID:Y5f

 僕は喜びで胸がいっぱいになった。僕と同じモノがまだいる。

 僕は大人達に渡されたプレゼントを背負い、久しぶりに海に出た。足取りが軽い。こんなにワクワクするのは久しぶりだ。

 会いたい。早く会いたい。そしてーー。

 水平線の向こうから現れたのは、僕と同じモノだった。沢山いる。姿形は違うが分かる。あれは紛れもなく同じモノだ。

 あまりの嬉しさに目から涙が溢れる。良かった。僕は孤独じゃないんだ。僕は1人じゃない。

 プレゼントから光が迸った。ああ、祝福の光か。僕はーーーーーー。



6:2018/09/16(日)22:11:33 ID:Y5f

完結


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