十字軍
2019年08月18日 22:23
ボードワン4世(1161−1185)。
エルサレム国王(位1174−1185)。当時は不治の病、ハンセン病にかかりながら、13歳で、イスラム勢力に囲まれた十字軍国家・エルサレム王国の王に即位。
イスラムの英雄サラディンの10倍の兵力と先頭に立って戦い、時に命を危険にさらしつつも、国をぎりぎりのところで守り抜きます。その間にも病気は進み、馬に自分の体を縛りつけて指揮をとったこともあったそうです。親族にも恵まれず、後継者問題にも心を痛めました。
当時ハンセン病患者は忌み嫌われていましたが、王の部下には感染を恐れて近づかなかった者はいなかったそうです。
24歳で死去。公私ともに展望の開けない中、よくくじけずに王の責務を全うしたと思います。1187年、王の死後まもなく王国はサラディンによって滅ぼされます。
ボードアン4世は、塩野七生さんの『十字軍物語』第二巻の登場人物です。ほぼ無名の人ですが、難病と戦いながら、必死に国を守る姿は読者を感動させることでしょう。
2019年08月04日 17:31
『十字軍物語 第一巻 神がそれを望んでおられる』/塩野七生/新潮文庫
十字軍と言えば、世界史の教科書にも出てくる大事件で、キリスト教国とイスラム教国の聖地エルサレムをめぐる戦いのことです。その影響は現代までも続いています。当時エルサレムはイスラム教国の支配下にありました。
本書は全四冊のうちの第一巻。第一回十字軍が苦難の末にエルサレムを奪取して、国を確立するまでを扱っています。
ローマ法王が十字軍を提唱したのは、どうも「聖地を異教徒から解放せよ」という信仰心からというより、神聖ローマ帝国皇帝に対抗するためだったようです。つまり十字軍の提唱によって、法王の権威を高めようとしたそうで、第一回十字軍の成功によりその狙いはみごとに当たります。法王は皇帝を圧倒し、皇帝は失意の死を遂げます。
恐ろしいのは、自分の権力の強化のために、信仰の名を借りて何十万という人の命を奪うこととなる事業を始めてしまったことです。
本書には実に様々な人物が登場します。生涯けちな俗物であり続けたビザンツ帝国皇帝。英雄として喝采を浴びていたのに、最後の最後につまらぬことに手を出して生涯を台なしにした領国の主。年長者なのにいっこうに成熟せず周囲に馬鹿にされていたのに、晩年突如立派に戦って死んだ貴族・・・。資料不足で不明な点もありますが、本当に人間、十人十色です。
登場人物が多くて、誰が誰だか分からなくなるかもしれませんが、歴史に興味のある人は大いに楽しめると思います。