『「物語」の世界』はひとことでいって、難解である。「物語」という卑近な素材を扱っているにもかかわらず、である。

 ここでいう「物語」はわれわれが普段使っている「ストーリー」という意味の「物語」だけではない。「もののけ」などの「もの」という意味や、『源氏物語』に頻用される「乳児の言葉以前の声」などという、「語源」というよりも、さらに根源的な意味の「物語」概念が語られる。

 さらに記号論の概念も紹介される。記号論はもともと分かりにくい。分かりにくい概念を分かりにくい文章で書いている。まさに最悪の文章といえる。しかし、私はこの『「物語」の世界』は好きか嫌いかでいえば、「好き」である。それはなぜか。

 評論ではよくあることなのだが、いわゆる「煙に巻く」というところがこの文章にはないのである。「煙に巻く」というのがどういうことかというと、難しい文章で、いかにも新しい知見や世界の原理を語っているかのように見えて、実は「なんだ、そんなことか、そんなこと知ってるよ」と思える評論が、巷にはたくさん存在する。そんな評論は読んでも時間の無駄であるし、読んでいて腹が立ってくる。腹が立つといえば、書いてある内容は「なるほど」と思えるのだが、文章が下手すぎて何をいいたいのかよく分からないという評論にも閉口する。

 『「物語」の世界』はそういう評論ではなく、難解ではあるが、新しい知見が述べられているし、よく読んでいくと「なるほど」と思える。「なぜか」と問題提起だけしておいて、なぜに答えないまま終わってしまう評論もある中で、この評論はしっかりと納得できる答えが書かれている。

 しかし、それにしても難解である。もう少し、分かりやすく書いてほしいと思うが、この私の思いは、この評論を読んでテストを受けなければならない全国の高校生の気持ちと同じであろう。