税理士法人名南経営 国際部ブログ

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2022年11月

 コロナウィルスの感染状況も落ち着きを見せており、今後出向等で海外に長期滞在する場合も増えてくるかと思います。
 その際、国外転出時課税制度により所得税の納付が発生する場合があります。今回はこちらの制度を取り上げたいと思います。


1.国外転出時課税制度の概要
 国外転出時課税制度とは、海外出国後に含み益のある資産を売却することによる課税逃れを防止するための制度です。
内容としては、一定の居住者が所有している有価証券等の価額の合計額が1億円以上ある場合、国外転出時にその有価証券等の含み益対して所得税を課税するというものです。

 1億円以上の有価証券等と聞くと、あまり関係のない制度のように思えてしまうかもしれませんが、相続対策として子や孫に自社の株式を保有させている状況において、その子や孫が海外への留学や海外法人への出向等を行う場合、本制度が適用されてしまう恐れがあります。
 また、海外の子や孫へ対象資産が贈与や相続された場合についても、本制度の対象とされています。

 本制度が適用された場合の申告納付期限は、納税管理人の届出が提出されているかどうかによって異なります。
  • 納税管理人の届出あり・・・翌年の確定申告期限まで
  • 納税管理人の届出なし・・・国外転出の時まで


2.納税猶予制度
 国外転出時課税制度において、下記要件のいずれも充たす場合には5年間の納税猶予が認められています。
  • 納税管理人の届出を行っていること
  • 確定申告期限までに一定の書類を添付した確定申告書を提出し、所得税及び利子税の額に相当する担保を提供していること

 この猶予期間中の各年3月15日までには、継続届出書の提出が必要となります。
 継続届出書を提出し忘れた場合には、その提出期限から4か月以内に猶予されていた税額を納付しなければならないため注意が必要です。

 納税猶予期間が満了した場合や対象資産の譲渡を行った場合には、その満了日から4か月以内に猶予されていた所得税及び利子税を納付する必要があります。

 非上場株式の担保提供については株券での担保提供が必要とされているため、株券発行会社への移行手続きが必要となる場合があります。
この手続きの煩雑さが国内企業の海外進出への妨げになっているとも言われており、令和5年度税制改正要望においてその利便性向上が求められています。


 9月1日に最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方に関する研究会 報告書(METI/経済産業省)が公表されました。最低税率課税制度というのはBEPSプロジェクト2.0の2つの柱のうち第2の柱に基づくもので日本での導入と、同制度の導入による現行の外国子会社合算税制の改正が注目されています。

1.最低税率課税制度の概要
 主に途上国で法人税率の引下げや優遇税制による外国企業の誘致をする動きがあり、各国の税収基盤の弱体化につながる恐れがあることから全世界的な最低税率制度の導入が2021年10月OECDで合意されました。具体的には、各国の最低税率を15%と設定し、子会社の所在国の実効税率が15%を下回るような場合には不足分を親会社にて課税するというもので、進出先国の税制にかかわらず最低限一定水準の税負担が確保されることから低課税国へ進出する誘因を低下させる効果が期待されています。なお、年間総収入が7.5億€(約1000億円)以上の多国籍企業が同制度の対象となります。

2.外国子会社合算税制の今後
 一方で、現在日本では低課税国を用いた租税回避を防止するため外国子会社合算税制が設けられており、最低税率課税制度と共通する点も多いと考えられています。両制度が併存することにより、日本企業が海外に進出した際の事務負担が海外進出の阻害要因となることがないよう両制度の関係整理と外国子会社合算税制の簡素化が求められます。

 現行の外国子会社合算税制は判定手順が複雑な上、確認が必要な企業の数と実際に課税される企業の数に大幅な乖離がある、経済活動基準が現代のビジネス実態に即していない等の指摘もあり今後大幅な改正が想定されます。最低税率課税制度が適用されるのは年間総収入が7.5億€以上の大企業に限られるため中小企業様においてはこちらの改正の影響が大きいのではないでしょうか。

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