1.概要(東京地裁令和5年12月7日判決)

 内国法人Xは、タイの製造販売子会社Sへ部品の輸出販売を行っている。そのほか、XとSの間で、棚卸資産取引、無形資産取引、役務提供取引が行われていた。これらの取引につき、XがSから支払いを受けた対価の額が、独立企業間価格に満たないとして、移転価格税制に基づく更正処分等を受けたものです。本件のうち、比較可能性に関する判断を取り上げます。

2.比較可能性に関する判断

 裁判所は、TNMM(取引単位営業利益法)に準ずる方法と同等の方法の適用に際し、国外関連者と比較対象法人の差異につき、(1)売上高営業利益率の相違に重要な影響を与えないか、(2)当該差異が与える影響を取り除くために相当程度正確な調整が可能か、という2つの論点から比較可能性を検討しました。その結論として、下記のように説示しました。

(1)の売上営業利益率に対しては、双方の事業内容・保有する無形資産・リスクを比較し、売上高営業利益率の相違に重要な影響を与えるような差異であるということはできない。

(2) 差異調整の可否に対しては、双方の市場占有率・需要を比較し、売上高営業利益率の相違に重要な影響を与えるとし、市場の状況に関する差異が売上高営業利益率の相違に与える影響を取り除くための相当程度正確な調整は可能ではない。

3.まとめ

 移転価格税制の基本的な考え方は、独立企業間価格であり、価格に対しての比較可能性が求められます。本事案においては、市場占有率と需要の差が営業利益に重要な差異を与えるとし、TNMMの適用が違法と判断されました。

 比較可能性は、「取引実態の的確な事実認定とその経済的な分析評価が重要」※1 であります。しかし、厳密に比較すればするほど比較対象は絞られるうえ、比較対象法人の情報入手は、例えばホームページ等で公開されている情報に限られます ※2

 事例判決ながらも、独立企業間価格を算定するのに際し、最も適切な算定方法はどの算定方法であるか 、比較可能性があるか否か、といった最も適切な算定方法をより慎重に検討する必要性を示す一例となりました。


※1 田中俊久「移転価格課税における比較可能性の要件について」 (税大論叢71号、平成23年6月28日)333頁。
※2 別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集 (国税庁HP、https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/010601/pdf/bessatsu.pdf、11頁参照。最終確認2025年2月。)
※3 本判決を不服として、国側が東京高等裁判所に控訴しておりましたが、2024年12月に控訴棄却となっています。