税理士法人名南経営 国際部ブログ

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カテゴリ: ベトナム

 日本では、物価高や賃上げへの対応として、所得税の基礎控除や給与所得控除の金額が改正されました。いわゆる「103万円の壁」への対応です。ベトナムにおいても、基礎控除や扶養控除に関する改正が予定されています。

 ベトナム財務省は、個人所得税の改正案「13536/BTC-CST」を発表しました。主な内容は、税率の見直し、基礎控除額の見直し、課税対象の明確化、納税義務者の定義、申告手続きの改善などとなります。ここでは、所得に直接影響する税率の見直しと基礎控除についてご説明いたします。

〇税率区分の見直し
現状では、5%~35%の税率を5%刻みの7段階です。
改正案では、5%~35%の税率を5~10%刻みの5段階に変更されます。

改正案(月額課税所得)
  • 1,000万VND以下:税率 5%
  • 1,000万VND超~3,000万VND以下:税率 15%
  • 3,000万VND超~6,000万VND以下:税率 25%
  • 6,000万VND超~1億VND以下:税率 30%
  • 1億VND超:税率 35%
〇基礎・扶養控除の見直し
現行→改正案

基礎控除の額(月額):1,100万VND(約6.1万円)→1,550万VND(約8.7万円)
扶養控除の額(月額):440万VND(約2.4万円)→620万VND(約3.4万円)
(※為替レートは178 VND/JPYで計算しております。)


 上記改正案が決定されれば2026年度に適用される見込みです。赴任者の手取り保障や従業員の給与計算に影響が出る見込みです。詳細は専門家に確認することをお勧めいたします。

 日本では賃上げや物価高騰を背景に最低賃金が大幅に引き上げるよう議論がされておりますが、ベトナムでも同様に最低賃金の見直しが議論されております。現在の最低賃金案の内容と今後のスケジュールに関してご説明いたします。

毎月の最低賃金は2026年1月から下記の通りになる見込みです。

  • 地域1:5,310,000 VND(350,000VND増(7.1%増))、約30千円
  • 地域2:4,730,000 VND(320,000VND増(7.3%増))、約27千円
  • 地域3:4,140,000 VND(280,000VND増(7.3%増))、約24千円
  • 地域4:3,700,000 VND(250,000VND増(7.2%増))、約21千円

各地域の主要都市は以下の通りです。

  • 地域1:ハノイ市、ハイフォン市、ホーチミン市等
  • 地域2:ダナン市、バクニン省、ドンナイ省、カントー市等
  • 地域3:フンイエン省、ゲアン省等
  • 地域4:その他の地域

 今後上記の最低賃金案を協議し、2025年末までに首相の承認を受け、正式に公布される見込みです。最低賃金の引き上げは工場の労働者の給与に直接影響あるばかりでなく、最低賃金より多くの給与を受給している都市部の労働者にとっても、給与交渉の材料となりうるため、最低賃金の動向には注意が必要です。


<参考リンク>
税理士法人名南経営国際部チャンネル
「ベトナムの最低賃金改正」
https://youtu.be/Basa2qqfWHU


 スマートフォンアプリ「VNeID」は、ベトナム公安省が開発した個人電子IDシステムです。2024年よりベトナム国籍の方を対象に提供されていましたが、2025年7月1日より外国人も利用可能となりました。

 本システムは、行政手続きのオンライン化による迅速化、透明性および安全性の向上を目的としており、将来的には行政手続きにとどまらず、銀行取引などへの活用も見込まれています。

 これまで企業の各種電子申告に使用されていた企業アカウントは、今後は使用できなくなります。今後は、法定代表者の個人電子IDと紐づけられた企業アカウントを用いて電子申告を行う必要があります。そのため、法定代表者が外国人1名である企業においては、個人電子IDの取得が必須となります。


個人電子IDの申請手続きについて

 個人電子IDの取得手続きは、以下の必要書類を管轄の出入国管理局へ持参して行います(2025年7月10日現在)。申請手続き自体は、通常、最長で半日程度で完了しますが、申請後、結果が申請者のスマートフォンに送付されるまでには、約7営業日を要するようです(ハノイの場合)。

【必要書類】
  • パスポート原本
  • 一時滞在許可証(TRC/レジデンスカード)
  • 申請書(所定様式)
  • 申請者名義のベトナムの携帯電話番号

 法定代表者の個人電子ID取得後は、当該個人電子IDを用いて、法定代表者のスマートフォン上で企業IDの登録を行います。企業IDの登録が完了した後、各種行政手続きがオンラインで可能となります。

 2025年4月12日、ベトナムで地方行政区画の大規模な再編が決定されました。内容は全国の省(日本でいう県)を64から34(28省+6市)へ統合することと、行政単位を省・郡・社の3層構造から省・社の2層に再編することです。

 再編の目的として行政の簡素化と効率化があげられております。この再編により行政の人件費や管理コストを削減することが可能となり、財政資源を集約することが期待されております。新しい省の行政単位は2025年7月1日から運用を開始する予定です。

 統合に関して日系企業に影響が大きい地区としてハイズン省、ビンズン省とロンアン省があげられます。外資系企業も多い地区ですが、ハイズン省はハイフォン市に、ビンズン省はホーチミン市に、ロンアン省はタイニン省にそれぞれ合併されます。

 今までの行政手続きの窓口が変わることが想定され、混乱も予想されます。企業面では最低賃金が地域ごとに分けられていますが、新しい行政単位で最低賃金を確認し、給与テーブルや就業規則、労働契約書等の見直しが必要になります。また、細かいところですと名刺やホームページの住所の更新が必要になります。

 最新の動向に関しては専門家に相談することをお勧めします。


 2025年4月2日、トランプ大統領は米国の貿易赤字是正を目的とした大規模な関税政策を発表しました。この政策により、ベトナムからの輸入品には46%の「相互関税(reciprocal tariff)」が課されることとなりました。ただし、この関税は2025年7月まで一時的に適用が停止されています。

 米国は長い間、ベトナムの輸出先国・地域の中で最大の輸出先国となっており、正式に上記関税が課されることとなると、輸出が経済をけん引しているベトナムにとっては大きな影響があると考えられます。なお、ベトナムから米国へ輸出される主な品目は履物、衣料品、コンピューター・電子機器及び機械設備ですが、上記発表までにこれらに課されていた関税率は約14~20%となっています。

 ベトナムは自由貿易協定(FTA)の積極的な活用を通じて、国際経済への統合を加速させています。近年ではCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)やEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)など、高水準のFTAを相次いで締結しています。これらのFTAにより、ベトナムは多くの国との間で関税の撤廃や投資環境の整備を実現し、製造拠点としての競争力を高めています。

 ベトナムが加盟するFTAはベトナム経済の持続的成長を支える基盤となっており、企業にとっても国際市場への参入機会を広げていますが、このような状況を変える可能性のある米国との関税交渉は要注目です。

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