スサノヲくんとかいう、味方にも敵にもやりたい放題の奴

――学園都市第七学区・第十九戦域

《暁光・・・ 苦しむ君の明日を》

 閃光、眩いばかりに乱舞する。XDの姿へと変わった未来の攻撃がスサノヲとサイキカル、双方に対して真っ向から挑みかかるように光放っていく。

 先ほど未来が武装していた原典の魔術礼装を彷彿とさせるかのような巨大な鏡が未来の背部に無数に出現し、それら11つが全く異なる原典の力となって、両者へと攻撃を放っていく。

 その攻撃の合間を拭うように空中を動いていくのが立花響だ。神殺槍として完全な覚醒を果たしたガングニールを共に、スサノヲへと至るための空中の道を駆け上がっていく。

「未来が一緒に戦ってくれている。それだけで私は此処まで来ることができる!」

「小癪という他ないな。だが、此度ばかりはその蛮勇を許すとしよう。貴様の右腕にあるその槍こそが我を昂らせている。神代のかつてに打ち捨てられたはずの槍をよくぞここまで研ぎ澄ませた。貴様という人間風情に我はその一点を以て興味を得た。喜ぶがいい、貴様は今この瞬間にこの破壊の神に目を止められた人間となったのだから」

「別にそんなものはいりませんけれど、褒め言葉としてだけ受け取らせてもらいます!!」

 その響を祝福するとばかりに放たれるスサノヲの一閃は龍の咆哮と同時に響へと襲い掛かるが、響はそれをガングニールを横に振り払う形で断面として切り裂いていく。

 その姿たるやまさしく神の頂へと手を伸ばす者の一人の威容である。外から闘いを眺めるものからすれば響の一騎当千の戦いは驚嘆に値する者だろう。

(凄い力だ。でも、高まっていくフォニックゲインと反比例するように凄い勢いで消耗を持っていかれてしまっている。たぶん長くは続かないよね、これ)

 未来自身にも戦っているからこそ分かった。自分と響の戦闘は長くは持たない。これは二人のフォニックゲインが高まった結果として生じた一時的な力の増加に過ぎないのだと。

 もしも、その瞬間を越えてしまえば、もはやスサノヲとサイキカルを倒すための手段は完全に失われてしまうと分かるからこそ、攻撃の手を止めるつもりはなかった。

《永愛・・・ 嘆く過去の涙を》

 降りそそぐ神獣鏡の光はサイキカルの攻撃に合わせる形で光を空間を砕く力が発現する場所へと放つことで、強制的にPSIの力を無力化している。

 砕け、砕けと未来よりもむしろ響に向けて攻撃を仕掛けているサイキカルにとっては鬱陶しい以外のなにものでもない。この局面、ガングニールという力の正体が明らかになった時点でサイキカルは排除しなければならない対処はむしろ響であると判断を下したのだ。

 ここでスサノヲを倒されることがあれば、それこそがワールドリジェクターにとっての敗北の兆しとなることが明らかであると考えているからであり、未来からすればそんな響を守り通す事こそがこの場においては最大の優先事項

《照らし乾かすような 存在になりたい》

I need you… I need you…

 手数の上ではどうしたって響はサイキカルの援護に敵うことはできない。スサノヲとの基礎スペックも考えれば絶対的に響が不利であることは言うまでもないのだ。

 それでも戦えているのは偏に、サイキカルの放つ正体不明のPSIの力を完全な形で何度も何度も無力化している未来の存在が後ろにあるからに他ならない。

 それをサイキカルも確かに自覚し始めていた。

(こちらは破壊の王の支援をするために立花響に攻撃をせざるを得ない。だが、千里未来という少女がいることによって、私の空間操作能力が全く意味を成していない。こちらは攻撃が通らずに、あちらは最大限のパフォーマンスを仕掛けようとしている。このままでは―――)

 それは戦闘をする上で自分が何をしなければならないのかということに関して明確な答えを見出しているかどうかの差でもあった。サイキカルはスサノヲと共に戦う者として響を倒すことに専念する必要があると半ば、未来を無視する形での戦闘へと移った。

 しかし、未来はあくまでも響を信じるスタンスを変えずに、何処までも響のために戦う支援スタイルを徹底している。

 それはどちらに正解があるかという話ではない。自分の信条のカタチがそのまま行動として映し出されただけであり、ゆえにこそ、互いに利用し合うだけの関係であるサイキカルとスサノヲはここで完璧なコンビネーションを発揮することができない。

「響、乗って!」

 空中にてスサノヲへとあと一歩まで近づいた響の足元に神獣鏡の鏡が水平方向に傾いて、到達するための足場を作る。その足場を踏み抜くことで、響は一気にスサノヲの下まで跳躍し、拳を力強く握る。

《例えどの世界の 違う君に出会ったとしても待ってる いつでも 必ず》

I love you…

「この拳は、私だけの力じゃない!! 未来が力をくれる。四四八君たちが頑張っている。アウレオルスさんやブルクハルトさんたちが力を貸してくれて、そして遥か過去から繋がれてきた私たち人間の可能性という想いのカタチなんだ!!」

「笑止、人が神の頂に手を伸ばすなど愚劣極まりない。貴様たちは統治されていればいいのだ。身分相応の在り方であろうとしなかった始まりの七神が失敗したように、神の領域を貴様たちが犯すのならば、必ず貴様たちは再び墜落する。

 それは誰が言わずとも理解できる。神の加護亡き世界など、度し難いほどの愚かさだ!!」

「だとしてもッ、私たちはその可能性に賭けたい!! 神代からずっと歴史を眺めつづけているあなた達の言う言葉は正しいのかもしれない。所詮、私は十数年だけ生きた小娘に過ぎないのかもしれない。だけど、たとえ、どんな現実を突き付けられたとしても、それでも私は可能性に賭けたい!」

 それこそが自分たちの勝利のカタチ、先ほどの戦いで女神に示した手を繋ぐことができない理由なのだから。それすらも見失い、捨て去ってしまったのならば、その時こそ、ロビンフッドの敗北の瞬間なのだろうと思うから。

「神の時代は私たちの先人が終わらせました。それを私たちは引き摺るんじゃない。終わった先の時代を見据えてそのために動き続けて行かなければいけないんです。だから、人の歴史は人が創っていきます!!」

「人間風情が神の目線で世界を語るでないわッ!!」

《絶対譲らないと 再び君に歌う》

《守られるのではなく 守るために歌う》

《信じて》

 互いの援護を受けながらも響とスサノヲは真っ向から打ち合う。攻撃が互いにぶつかり合った瞬間にガングニールと天叢雲が互いに拒絶し合うように大きくきしみを上げるが、それでもなお、互いに相手を倒すという意志を翻そうとはしない。

 響は疲労困憊であることを否定しない。しかし、それでもここでまだ戦っていられるのは自分の握るガングニールが自分だけの力で動かされているわけではないと理解しているからこそ。

 より多くの遥か過去から様々な人間たちの願いを受け継ぎながら、より良い未来を求めて願いを託され続けてきたバトンであると改めて理解できたからこそ、響はガングニールから力を与えられているのだと、挫けそうな体を心の強度で支えていく。

 その姿にスサノヲはかつての神代に見た彼らの姿を幻視した。到底理解できる形ではなかったが、それでもその眩い在り方だけは信じることができたあの英雄とも呼べる七人の姿を。

「愚問だな、我は全てを壊すとしている。ならば、何が相手であろうとそれを貫くだけ。壊すか、壊されるか。我らの間にある関係などそれらだけで十分すぎる」

スサノヲは人の感情など理解はできない。彼は生まれた時から神であり、常に何かと戦い続けてきた神であるから。故に判断基準はただ強いか弱いかであり、己を壊すことができるかどうかだ。その判断基準の上で、確かに響は一定以上の認められるだけの価値があるとするのはやぶさかではない。

己を壊すことができるかもしれない存在、故に全力で破壊してやろうと、龍と剣が再び光を放ち始める。

「もう少しだッ、もう少しで届く。何があっても届かせて見せるッ!」

・・・

「そうだ、何があろうとも届かせるんだ、俺達で、こいつに勝つぞッ!!」

 響の声に呼応するように四四八は、今や周囲全体を石の世界へと変貌させようとする無界に対して声を上げる。身体は既に末端から石へと変わり始めている。もしも、この状態で身体を砕かれるようなことがあればその身は簡単に砕けると分かっているが、四四八は己の身体を、石へと変貌する身体を動かす。

全身に解法の力と楯法の力を混ぜ合わせ、晶や仲間たちの助力を経ることで何とか、身体を、文字通りの重い体を動かしていく。

「無駄なことを。総ては石ノ世界へと変わる。お前たちはそれをただ遅くしているだけだ。それで何が変わる? 何も変わりはしない。それとも、我に人の可能性でも見せようというのか?」

「人の可能性、か……、確かに俺達はお前に勇気を以て向かい合わなければならないのだろうな。夢魔の割にはいいことを言うじゃないか」

「友が我に語った言葉よ、あれは未知を求め続け、己を破ることができるかもしれない存在をただひたむきに探し続けた。……そう思えばこそ、我もまたそうであるのかもしれない」

「はっ、アンタは人に恐怖を与えるんでしょう? だったら、どうしてそんな奴が人の可能性を求めているっていうのよ。普通は逆でしょうが」

「果たしてそうかな? こうしてお前たちのような強者たちと何度も何度も向かいあい、我はどうして己がこのようなことをしているのかを顧みた。何故、悪夢の象徴であるはずの己がなぜ、強者と戦うことを目的としているのかを」

 一歩、また一歩と歩を進めていく。無界はその四四八に対して周囲に転がる無数の石を放つが、それらは背後から放たれた銃弾によって防がれた。

「夢魔は人の夢から生まれた存在。恐怖とは人によっていつかは乗り越えられなければならない存在。だからこそ、百鬼陣にとってもいつか人に乗り越えられることこそが本望。あなたは人の可能性という言葉からその域に辿り着いたんじゃないの?」

 既に下半身部分が石へと変わり、上半身も石へと変わる恐ろしさを覚えながらも歩美は無界に対して正確無比な銃弾を放つ。しかも、その銃弾一つ一つから周囲へと飛散した咒法と創法が石化にほんの僅かな時間のロスを生み出した。

「くく、左様。我はきっとそれをこそ求めている。そのためにワールドリジェクターに入り、多くの者の戦いを見届け、こうして己も戦っている。総ては人の輝きというモノを見届けるために。それを美しいと思えばこそよ」

「栄光くん!!」

「任せろッ!」

 既に体の半分が石化に覆われているはずの栄光が突如として、その状態変化を無力化すると地面に向かって手を翳し、解法の力が地面を伝って無界の放った空間へと送り込む。石化の龍、未だ止まらず。しかし、致命的にその石化の影響が薄れ始めてきたのだ。

 その変化が生じた瞬間を見逃さずに晶が楯法による回復を全員に一斉にかける。傷の修復を行いたいと思っている以上、その道理が通用しないことはありえず、全員がほんの僅かではあるが、石化の呪いから解放される。

「無界、お前は確かに人にとっての恐怖だった。この身が石と変わること、実際に経験してこれを恐怖と思わない存在はきっといないだろう。だが、それでも、俺は今、仲間たちと共にそれを踏破しようとしている。これこそがお前たち百鬼陣が望んでいることだと?」

「我々の総てがそのように考えているわけではないだろう。所詮、我らは人に恐怖を与えるために存在しているのだ。根本的には我々は人を軽視する。我がこのように至ったのは同じ立場でありながらお前たちに興味を持つ友があったからだ」

「そうか、だがお前のおかげで俺も改めて理解することができた。夢とは即ちすべてが俺達人間から生まれた者だ。そこに夢の大小、夢の強弱といった概念は確かに存在をするのだろう。しかし、それらも含めてすべてが俺達から生まれたものだ。ならば―――夢という事象に蓋をすることができるのも、夢をどのように扱うのかも全ては俺達が決めていく。

 俺達が生み出した者であれば俺達がその責任を受ける。万仙陣を生み落としてしまったことも含めてこれは俺達の闘いだ。

 いい加減にお前たちは夢の世界で俺達の眠りを待て!!」

 夢に存在する者たちは打倒することができない未知の存在などでは決してないのだ。結局のところは人の心や記憶から生まれ出た存在。人より生まれた存在であればそれを斃せるのもやはり人でしかないだろうと。

 これは人の物語だ。人と夢の住人達の物語ではなく、人が生み落とした物語なのだ。ならば収束させるための方法は当然にあり得ると改めて四四八はそこを理解することができた。

「ならばこそ、俺達の恐怖の象徴よ、ここより去れッ! もはや俺達はお前を恐怖と思うことはない。ただ乗り越えるべき障害として俺達に道を譲るがいい!!」

 何度も何度もその石の世界を自らが石へと変わるという恐怖と戦いながら四四八は踏み越え、そして今、無界の目の前へと足を踏み込んだ。振り払うのは己の真実、絶大なる一撃。自身の武器を秋月凌駕によって穿たれた無界の身体へと狙い過つことなく放った!

「ぬぐああああああ」

「おおおおっっっ!!」

 砕くための一撃、石とはすべからく砕く物であると四四八は己の夢にその想いを乗せて無界へと叩き付ける。無論、無界という存在は四四八から見れば格上の存在である。簡単に倒せるような相手でないことは明白である。

 しかし、これは四四八だけで成した戦いであるとは言えないだろう。戦真館の仲間たち、そしてこれより以前に無界に明確なダメージを与えていた凌駕、彼らの活躍がなければ為し得なかった勝利であると言えるだろう。

 四四八は決して無界を弱い相手であったとは思わない。むしろ、彼もまたワールドリジェクターに名を連ねるだけの絶対的な戦士であったと思っている。

「くく、既に踏破をしたがために最後の最後で我が恐怖としての力が薄れたか。お前たちの可能性を確かめるなどという自分の欲望を優先することがなければ、勝利は我が手にあった訳だが……」

「お前はそれよりも選んだんだろう?」

「であればこその夢だ。我はワールドリジェクターに強者を求め、そして彼らは我の力を求めた。ならばこの結末がそれがもたらす一幕であったというだけだろう。何のことはない、お前たちは知恵を振り絞って、我を倒した。石化の恐怖はただの気合で耐えられるものではない。お前たちは真実、人の勇気を振り絞って、我の恐怖を乗り越えた。

 百鬼陣とはな、いずれ乗り越えるべき恐怖だ。原初のサータ・ホーグラを除けば、我らは全て人によっていつかの時代に乗り越えられてきた恐怖なのだ。

 恐怖とはすべからく類型化された者、四柱や空亡でなければ、お前たちの可能性を止めること叶わずか」

 自分が四四八たちを斃せなかったことを残念に思いながらも潔く無界は敗北を受け入れた。彼の言う通りにいつかの乗り越えられる瞬間、そこに人の可能性を見出したからこそ、彼は彼なりの己の目的を果たして消えていく。

「上里、グスタフ、サイキカルよ――――先に逝くぞ。お前たちの悲願、叶えてみせい。その姿、夢の果てより見届けよう。そして願わくば―――新世界で再びお前たちに呼ばれることを願っているぞ!!」

 最後に共に戦った仲間たちへと激を飛ばし、無界はまるで砂へと変わるかのようにその姿を消失させていく。

 恨み言など一切必要ない、そんなものは必要ないと最初から分かっているのだから。こういう契約の下に戦い、そして敗北して散っていく。いわばそれだけのことである。

 そもそも、上里達の願いは上里達が叶えなければならないことなのだから。あくまでも手を貸す者としてはここらが潮時であろうと無界は自らが消えていくことに何のためらいもない様子だった。

「くく、実によく素晴らしき体験だった。ではな、人間たちよ。あぁ、マガキ。お前が我を誘った理由がよく分かった。これは確かに……夢界だけでは為せぬ愉悦であったことだろうよ」

 砂となり、無界の姿がここに消え去る。三つの戦いの内、最初の一つは四四八たちが何とか勝利を獲得するに収まった。

 ほんの少しでも流れが変わっていれば、あえなく四四八たちは敗北を喫していただろう。

 しかし、勝ちを拾ったのだ。ならばそれでいいのだろう。自分たちだけで百鬼陣の中でも有数の実力者の一人を葬ることに成功したのだから。

「馬鹿な、無界が……」

 四四八たちの勝利、それを後ろから見、無界によってこれより先の闘いへとエールを向けられた上里は目の前で起こった戦闘の結果に衝撃を覚えた。

 彼にとっては所詮手駒の一つ程度にしか考えていなかったが、それであっても無界の実力自体は圧倒的であると信用していた。石化の力、そしてその膂力、どれをとってもこの戦いの中で十分に通用する存在であると。

「敗因は秋月凌駕との闘いか。この戦いでもダメージは負っていたようだが、それよりも以前の奴との戦いが強く身に沁みたという事か。奴の様子から問題がないとばかりに想っていたが……」

「ありえない。まだ戦いは始まったばかりだっていうのに、ここでの脱落なんて……」

「だが、まだ破壊の神がいる。彼さえいれば、戦況など幾らでも覆すことができる」

 無界の敗北を信じることができない上里に対して、レナードは自分たちにはスサノヲがいることを改めて告げる。無界は確かに替えの利かない戦力ではあったが、それでも破壊の神スサノヲの前ではその実力も霞む。

上里達にとっては制御が効くかどうかも怪しい存在であるため、どこまで信用をしていいのかということもあるわけだが……レナードの言葉は確かに一つの真実だ。スサノヲが勝利する展開を信じるしかないだろう。

(こいつは気付いているのか。あの神は僕たちの世界を肯定するつもりなんてないことを。いいや、そんなことは関係ないのか。こいつは世界が変わりさえすればそれでいいと思っているんだから)

 レナードにとっては自分が気に入らないこの世界が変わってくれればそれで後は構わないとさえ思っている。だから、どこまでも無責任とも取れるような発言を繰り返すことができるのだ。しかし、そんな在り方をこそ、上里はどうしてか苛立ちを覚えててしまう。

 しかし、それが現実の戦況である以上、それを変えることはできない。

「後は母さんたちが……!」

 空中で行われている響と未来、その戦いの趨勢を以てこの場での戦いは終わりを迎える。

 だが、それこそがこの局面における最難関、破壊の神スサノヲを撃破するにはその破壊をも超えるほどの力を放たなければならないのだから。

「響には触れさせないッ!!」

 エクスドライヴにより与えられる力には時間制限がある。防戦を主体としておきながらも、響目掛けて放たれる攻撃を邪魔することによってサイキカルを結果的に消耗させることに未来は成功していた。

 ここまで、響を止めるために常にサイキカルは、己の新たに発言した力を全力で振るい続けてきた。しかし、PSIとはいくらでも勝手に湧き上がってくる者では決してない。

 サイキカル自身の脳にある有限の力を使って力をねん出している以上、何度も何度も攻撃を使っていれば当然のように限界が訪れることは言うまでもない。

「ぐっ、ぬぅぅ」

「攻撃の手が緩まってきた。だったら、こっちはそれを利用させてもらうだけだ!!」

 未来がそれを見越して戦闘をしていたのかまでは定かではない。魔導書の力を使う彼女はある程度魔術に対してのリスクを理解しているがために、無限に攻撃を続けることができないだろうと踏んでいた可能性は高い。

 ある種、未来自身に決め手がなく、時間との戦いであったこのエクスドライヴを纏っての迎撃戦。焦りからぼろを出してしまったとしても何らおかしくない状況でありながら、未来は見事にサイキカルの疲弊を呼びこんで見せた。

「ふざけるな、この程度で私は、まだやれる……」

 サイキカル自身も自分の身体が限界を迎え始めていることを薄々と察してはいた。だが、ここで攻撃の手を緩めることは致命的なまでに戦力のバランスを崩すこととなる以上、手を抜くことなど許せない。

(消耗をしているのは私だけではない。他の2人、立花響と千里未来も消耗をしている。これが我慢比べであるのならば―――)

 サイキカルはこれまでに起こった日々を思い出す。あのグリゴリにおける実験の日々、それを思い返せば、こんな苦しみなど何の障害にもなりはしない。

 そちらが消耗を待つ作戦であるというのならば、こちらもそれに付き合うまでと、消耗し始めている身体で挙動を引き起こそうとするが、

「邪魔だ」

「――――――」

 たった一言、消耗しながらもなお響たちへと攻撃を敢行しているサイキカルの身体が鈍い痛みを覚えるとともに地上へと一気に落下していく。

 何が起こったのか、それを理解した瞬間に自分自身の身体が何かに切り裂かれたことを理解した。

「馬鹿な、破壊の神よ、何故だ、何故このようなことをォォォォォォ」

「告げたはずだぞ、邪魔だと。我は今この戦いを愉しんでいる。貴様の無粋な介入など必要ない。我は我の力を以て人間風情と安心院なじみの武器に勝とうとしているのだ。貴様の介入など不要であると知れ!!」

 響の拳と最早何度も撃ち合っているスサノヲは完全に勝負の世界に入れ込んでいた。もはやサイキカルによる援護ですらもスサノヲからすれば邪魔以外の何者でもない。自分の楽しみを奪うな、貴様は何様だとでも言いたいばかりの態度を浮かべるスサノヲに、サイキカルはやはり自分たちとスサノヲが分かり合える間柄ではないことを痛感させられ、

「後悔するぞ、貴様がいくら神を口にしようとも、それはお前を噛み千切るための―――」

「響の邪魔はさせないッ!」

 落下し、スサノヲに向けて恨み言を零すサイキカルの周囲を光が巡る。それが神獣鏡より放たれた光であることを理解した時にはもはや遅かった。

 隙を伺う状況を作ろうとしていたのは未来も同じこと。それが例えスサノヲの手によって生み出されたことであったとしても、この勝利できるかもしれない瞬間を見逃すほど未来も甘くはない。

 眩い閃光が包んだとき、サイキカルは己の敗北を認めざるを得なかった。

「どうして、自分の仲間を攻撃したんですか!」

「仲間? 笑わせるな、あれは我を利用し、己たちが天を掴もうとした者たちだ。目的は一致している。だからこそ、邪魔なものを排除している。それだけだ。そんな者たちに何の配慮をしてやる必要があるのだ?」

「それは……誰も幸せにしない!」

「尺度の問題ではないし、そもそも誰かを幸せにするなどという言葉を我に吐く時点で致命的に間違っている。何故なら我は破壊の神、壊すことでしか世界を変革することはできん。壊すことで幸福を得るものは世界を呪っている者たちだけだ。お前たちのような世界を守護するという観点の者たちには到底理解できん。お前たちの尺度で我を理解することができないように」

「それは、あなたが最初から理解しようとすることを放棄しているから」

「そうだな、我は神、お前たちは人。その線引きを確かに我は徹底している。だが、それは悪いことか? ことここに至れば、もはや我とお前の主張、どちらが正しいのかなど些末事だ。結局のところは勝った方が世界に理を流す。

 何が正しかったのかなど、後の世界で決めればいい。我はただ神としての矜持を果たすだけだ。この星はお前たち人間のものではなく、もはや先史文明の者たちなど話にもならない。我が世界を壊し、新たなる世界を統治する」

「手を取り合う方法だってッ!」

「そんなものはない、貴様たちのやろうとしていることは自分の思想に他者を取り込もうとしているだけだ。頂点を掴み上げることができるのは1人、そして願いが乱立しているのならば、そこに脱落者が生まれるのは必然だ。貴様たちが為すべきことは手を取り合うなどという事ではない。他者の願いを踏み越えて勝利を掴み続けることだけ。それだけが破壊を為す貴様たちに許された真実だッ」

 結局、響たちが為していることだって、自分と何一つ変わらないのだとスサノヲは通告する。結局は誰かの願いを壊すしかない。

 世界が人間の数だけ存在しているのならば、そういった荒業も成功するかもしれないが、人に影響を与えることができる理を流せるのは1人しかいない。

「この場に何の願いもなく、誰かに願いを託すことができるなどという軟弱者は1人たりともおらんだろうに! 貴様たちの迎合に今更耳を貸す者など」

「それでも、だとしてもを、言い続けると私は決めているんだ。それだけは私にとっての譲れない生き方だから。拳で解決できることが簡単なことばっかりだったとしても、私は最後まであきらめない!!」

「ふん、立派な心がけだな。それで勝利を手にすることができるのならば」

 無論、自分が相手をしている以上は与えないとスサノヲは再び剣と龍の咆哮を持って響の攻撃の手を止めようとする。

「響ぃぃぃぃ」

 しかし、その龍の咆哮による一撃を、響とは違う側面から、未来の神獣鏡の光が阻む。サイキカルが脱落したことにより、未来はこれから響の援護に完全に廻ることができる。エクスドライヴの限界は刻一刻と近づいているが、あと少しの時間を最大限に活用するために未来は、自分がスサノヲに狙われる可能性を受け入れてまで、響を援護するために攻撃を繰り出した。

「響、それは例えかつては神であったとしても今ではタタリに過ぎない。だから、心配しないで、夢の存在にでも響の拳は届くんだから!!」

「大丈夫だよ、未来。未来が作ってくれたこのタイミングを絶対に無駄になんてしないんだ」

「ちょこざいなッ!」

 龍の動きが止まったとしても、スサノヲは未来の攻撃1つで止まるはずがない。ガングニールというスサノヲに対して絶対的な相性を持ち得る武器であるからこそ、なんとか均衡を保てている。ガングニール以外であればまともにダメージを与えることもできない筈だ。

 それを未来は分かっていても引くつもりなど毛頭ない。ここで自分が退かない時間だけ響の時間を作ることができると分かってしまえば、未来にとっては自分が引く理由を考える方が難しくなるのだから。

「未来に手を出すなんてこと許さないッ!」

 右腕を覆う形で槍の形状を成しているガングニールが大きく回転を始める。まるで本物のドリルのように回転する槍の力を受けながら響は、スサノヲへと自らの渾身の力を振り絞って突貫する。

「ガングニール、私は貴方の総てを知っているわけじゃない。だけど、もしも、貴方が本当にあの人の言うように神を打倒するための槍であるというのならば―――どうか、私の友達を助けるための力を貸して!!」

 響は願う。ここまで死力を尽くし、当に自分の限界など越えてしまっている。それでも、振り絞る力をねん出するために最後の最後で、その可能性に賭けるのだ。

「私に神を打倒するための可能性を!! 私たちが自分たちの手で歴史を作っていけるようにと!! あなたが人の可能性を紡ぐための聖遺物であるというのならば!!」

 それはほんのわずかなずれでしかなかった。未来の攻撃がスサノヲへと直撃したことにより、ほんの僅かにスサノヲの視線は響から未来へと移っていた。

 しかし、スサノヲという神はまさしく戦いの神である。この場での優先順位とはどんなものなのかを正確にわかっている。

 未来など所詮は端役に過ぎない。エクスドライヴに至っているとしても、優先するべきはガングニールを併せ持っている響なのだ。それを再確認し、改めて響へと継続した攻撃を放つために視線を動かした瞬間に龍の咆哮が響き、スサノヲは現実を理解した。

 そう、ガングニールの力を最大限、死中に活を見出すとばかりに開放した響が突貫してくる姿を目撃していたのだ。

「ぐっ、うううううううううう、どこにまだこれほどの力がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

―――――直撃、僅かな可能性を繋ぎ合わせながら、我慢に我慢を重ね続けた結果として、生み出されたのがこの瞬間だった。この戦い、ここに至るまでに何度も何度も危険な場面は存在していた。実際に響が敗北しかけたところもあった。それでも、この場にあるありとあらゆる力を手繰り寄せながら戦った結果がこの瞬間の一撃。

 すなわち―――可能性の槍が生み出した未来に他ならず、それを手繰り寄せたのは立花響の不屈の心であったこと、誰が言わずとも理解できるだろう。

 そして、この均衡状態が崩された以上、神殺槍はその力を十全に発揮する。スサノヲという神を穿つための力としての本領である。

「ぐぅ、うああああああああああああああああああああ!!」

 空に神の絶叫が迸った。無界同様にスサノヲもまたまどかとの戦闘の余波は引き摺っている。だが、それ以上に、この場での響の力によって与えられた回転するガングニールの一撃によって、与えられたダメージによる絶叫であったのだ。

「―――――ふん、さすがは安心院なじみの生み出した力ともいうべきか。ここまでされてしまっては認めざるを得ないか。破壊されたのは我であったのだと」

 純粋なる力と力のぶつかり合い、そして、スサノヲの腹に穿たれた孔、それはまさに響のガングニールによって与えられた神を穿つための一撃であったことに他ならない。

「貴様の勝ちだ、小娘。その人の可能性とやら、実に我の身体に沁みたわ」

「私が勝ったの……?」

「響!」

 その実感すらもないままに、響は空中から落下していく。まさしく総ての力を使い果たした。死力を尽くしてやっと得た僅かな一瞬、それであっても、穴を穿つことしかできなかったという現実。

 しかし、神が口にした言葉は絶対。この場での勝敗は立花響へと傾いたこと、それだけは事実だった。

 

邯鄲再世戦争―――第十九戦

壱 柊四四八 対 無界

→無界脱落

弐 千里未来 対 サイキカル

→サイキカル敗北(残り敗北可能数1)

参 立花響  対 スサノヲ

→スサノヲ敗北(残り敗北可能数1)

 

響&四四八陣営 立花響(残り敗北回数2)、柊四四八(残り敗北回数2)

千里未来(残り敗北回数2)、アウレオルス・イザード(残り敗北回数1)

 

上里陣営 上里翔流(残り敗北回数1)、グスタフ(残り敗北回数1)

サイキカル(残り敗北回数1)、スサノヲ(残り敗北回数1)

 

――学園都市第七学区・第十八戦域――

邯鄲再世戦争――第十八戦

壱 白儀響        対 天魔・夜刀

→天魔・夜刀敗北(残り敗北可能数2)

弐 ペトロヴナ      対 天魔・禍津

→ペトロヴナ敗北(残り敗北可能数1)

参 『黒き刃』のタキオス 対 天魔・飯綱

→タキオス脱落

 

天魔陣営 

天魔・夜刀(残り敗北回数2)、天魔・五馬姫(残り敗北回数2)

天魔・憂流迦(残り敗北回数1)、天魔・飯綱(残り敗北回数1)、天魔・禍津(残り敗北回数1)

 

白儀陣営 白儀響(残り敗北回数3)、ペトロヴナ(残り敗北回数1)

エルクレス(残り敗北回数1)、ントゥシドラ(残り敗北回数1)

 

「やれやれ、タキオスは押しきられてしまったか。人によって願われた天魔、僕を通じて呼び出されているとはいえ、あれは厄介だねぇ。何せ、人の想像力から生み出されただけに強さに際限がない。逸話をクリアさえしていれば、どこまでも力を発揮できる存在なんてのが現れてしまえばそりゃ、エターナルだって困ってしまうよね。同じタタリであったとしてもさ」

 既にその場に天魔の姿はない。白儀を倒すことができるのは夢の力を持たないものだけであるという制約がある限り、どれだけ天魔が奮闘をしたところで絶対に白儀を討つことはできない。

 不毛な戦いに終始するよりも自分たちの戦いを一つでも多くこなすことを目的として天魔たちは災厄を齎す者たちに相応しくない撤退という行動を示したのだ。

「誤算があるとすれば、タキオスを倒した勢いのままにントゥシドラにまで手を出されたことかな? あの空を覆っている天魔は長く残し続けていればそれだけ面倒な存在になってしまう。どこかで退場してもらわないといけないね」

 撤退の直前、白儀側へのけん制を行う目的で放たれた空よりの雷はントゥシドラへと襲い掛かり、その身にダメージを与えて動きを止めたのだ。何せ、戦闘をこなしていなかったエターナルがいる状況での撤退など難易度としては最上級だ。

 それを実行するための必要な行動であったとする見方もあれば、偶然という見方もある。最も、それに白儀が怒りを覚えているなどということは全くない。何せ、闘っているのだから。死力を尽くして戦い、その結果として攻撃を受けたなどということは当たり前のこと。本来であれば総力戦となるはずの戦いが、万仙陣の影響もあってか、総ての戦力に直接的なダメージが行き渡っていないだけであれば、こういうこともありえるだろうと割り切っている。

「申し訳ありません、響様。御見苦しい所をお見せしてしまいました」

「いいよ、君にとっては鬼門だっただろう。それに、君が二度も敗北するとは思っていない。次こそは百鬼陣四柱の意地を見せてくれよ」

「ええ、必ずや」

「火火、軟弱な樹木風情に何処までのことができるのかは疑問だがな、おお、それよりも、今度は俺が暴れさせてもらうぜ。夢界に送り返されてからどうにも暴れ足りなくてよ。こうして呼び戻してもらえたからには門番とあの小僧に借りを返してやらないとなァ、火火」

「君の好戦的な在り方は気に入っているよ、エルクレス。是非とも存分にその力を発揮してくれ。そのための相手は間もなくここに来るようだからね」

「――――」

 白儀はその向かってくる相手を感じて、思わず笑みを零してしまった。天魔たちとの戦いも実に面白かったが、次の闘いも実に格別のものとなるだろう。

 何せ、彼らもまた天魔には劣るともこの世界に置いては屈指の実力者たちなのだから。

 そして、エルクレスにとってはある意味での運命の相手ともいえる。

 その来訪する姿を灯台よろしく発見したエルクレスは思い切り高笑いを浮かべた。

「火、火火火火火火火火火火火火火火ィィィィィィィィィ、おおそうか、そうか。お前がいたのか。そうだな、これは失礼、失礼。あの小僧などよりも先にお前に感謝を示してやらなければいけなかったなァ、よぉ、我が親愛なる宿主様ァ!!」

「勝手に友好的な物言いをするな。俺の身体に寄生しただけの奴が。しかし、この状況には感謝しているよ、今度こそは、俺自身の手でお前と決着をつけることができるんだからな、エルクレス!」

 対峙する者同士、互いに避けては通ることのできない絶対的な運命を感じ取ったうえで両社は互いに声を交わしあった。

「歓迎しよう、秋月凌駕、そして他の戦士たちも。僕は誰の挑戦も拒まない。総ての戦士の挑戦を受けてその上で僕こそが天を掴むに相応しいと証明して見せるとも」

「白儀響―――、夢路が言っていたわね、あんたが夢界そのものだって」

「そうだね、夢路から話を聞いているのなら説明が省けてありがたいよ。それでどうする? 秋月凌駕はエルクレスと戦うようだけど、他の三人は?

 言っておくけれどね、ントゥシドラは生半可な相手ではないよ?」

 先の戦いで負傷したペトロヴナを後ろに下げるつもりなのか、ダメージを負っているとはいえ、ントゥシドラが前に出る。その戦闘の合図を前に、シルヴィはアルティへと視線を向ける。

「アルティ、きつい相手だけど」

「やるよ。私達の目的は遊撃。だったら、夢路君たちが辿り着くまでに少しでも戦力を減らさないと」

「そうね、例え敵わなくたって夢路に何かを残すことができれば」

 それで自分たちの勝利に繋がる。ならば戦える。そう考えるからこそ無謀な戦いにも飛び込んでいけるのだ。

 

邯鄲再世戦争――第二十戦

壱 白儀響         対 御坂美琴

弐 エルクレス       対 秋月凌駕

参 『業火』のントゥシドラ 対 ガーネット姉妹

 

 新たなる戦い、しかし、連戦という状況でありながらも白儀はその顔に笑みを張りつかせている。だって、そうだろうよとばかりに。

「あぁ、素晴らしいね。誰も彼もが願いのために争っている。そしてその渦中に僕がいる。僕とサータ・ホーグラ、そのどちらの願いも今や叶えられようとしている。そうさ、これこそが僕の願った理想郷、僕は誰の願いも断ちはしない。ただ迎え入れるだけだ。君たちの願いをぶつけ、そしてそれを受け止めた上で、僕は自分の願いを叶えよう。

 だってそうじゃないか、願いを叶えようとすることを諦めてしまったらそこで話は終わってしまうんだから」

 機会は均等に渡す。だからこそ、その機会を見事、自分のものとして見せろと告げるのだ。自分はそれを拒みはしない。自分を敗北の淵へと追いやる者がいるのならば、そのまま退場することとしよう。

 しかし、それが誰にもできないというのならば……、

「その時には僕が皆の願いを叶えてあげられる世界を創ろう。誰もが願いを叶えることができないこんな世界は変えてあげるとも」

 

――学園都市第七学区・第十九戦域――

 戦いは終わりを迎えた。ワールドリジェクター上里派の二人は敗北し、スサノヲもまた響を相手に己の敗北を口にした。結果的に響たちは四度目の戦闘とは言え、ここに初めての全勝を上げたのだ。

 無論、その勝利を引き替えに持てる力の総てを出しきったといっても過言ではない。消耗は甚大、ここまでに四度の戦いを経験してきた響を筆頭に、未来はエクスドライヴを解除し、無界との戦闘で全員が消耗した四四八たち、アウレオルスも決して消耗がないとは言えない。

 大局的に見ればこの金星は確かに大きい。覇道神であるまどかですらも打倒できなかったスサノヲに大きなダメージを与えたのだ。後に続くロビンフッドメンバーにとってスサノヲ打倒が目に見える場所にまで来たといえるだろう。

 だが……

「さて、では続きと行こうか」

「―――――――」

 相手を破壊しない限り絶対の勝利などありえない。まるでそう告げるかのようにスサノヲは第二ラウンドの始まりを宣言した。

「何を驚いている。まさか、我が敗北を口にしたからそれで終わりだなどと? 確かに先程の一連の戦いは敗北であるといってもいい。お前たちはそれほどに奮闘した。それは我も認めよう。だが、我はまだ存在している。砕けていない。

 ならば、何故、それで戦いが終わったなどと言えるのだ?」

「万仙陣なんて関係ないって腹積もりだね、まったく、我々に味方してくれる神は……」

「しかし、好機ではある。立花響、まさか破壊の神までもを退ける力を発揮するなんて、もはや生かしておくこと自体が危険だ」

 スサノヲはサイキカルを己の気分1つで攻撃した。その点に関して、上里はどうしても拭いきれない不信感を覚えている。しかし、同時に、無界を失ってしまった以上、スサノヲという絶対的な力を持つ存在を制御しなければ、自分たちがこの先も戦い抜くことはできないと分かっているからこそ、ここでスサノヲが立花響を倒すことを許容するべきであると判断したのだ。

 それこそが正解であると分かっているし、そうすべきであると彼自身も思っているから。

 そこには何の問題もないと思っているのに、どうしてか……、胸に刺さる物があった。

「はぁ……はぁ、くそ、もう力が……」

 対して響はまさしく満身創痍といった様子だった。それも無理はないだろう。何せ、此処までに幾度となく自分の限界を超えるような形で戦いを展開してきたのだ。もうそれもいい加減、終わりが近づいてきているという事だろう。このままいけば、スサノヲとのもう一度の戦いで響が敗北するのは目に見えている。

 どれだけやせ我慢をしたところで、人間には限界というモノが存在するのだ。それを超えることができない以上は、ガングニールがいかに神を殺すための槍であったとしても、立花響自身は神になることはできない。

 ガングニールは人間が人間のままに神を打倒することをができるようにという願いの下に生み出された槍であるのだから。

 しかし、スサノヲはそんな響の状態を知っていても手を抜くことはないだろう。彼は戦の神。万仙陣という絶対的なルールが支配している状況でなければ、当然のごとく闘いは実行され続けているのだ。中断などありえない。どちらかが命を絶つまで死闘は続くのだから。

 さぁ、もう一度を果たそうではないかと、叢雲の剣が光を生み出す。その一閃の下に総てを捻じ伏せるとばかりの閃光が生み出されることを予感させて。

「だとしてもっ、私は――――」

 もう一度、あと一度でいい。立ち上がる力をくれと。ガングニールに響は祈りを込める。だが、それで立ち上がれるのならば誰もが勇気を胸に立ち上がることができるだろう。

 実際にはそんなことは不可能であり―――

「響ぃぃぃぃぃ」

「母さんッッ!!」

 未来と四四八の声が虚しく空に響く。スサノヲの光から何の防御もなく切り抜けることができるなどと考えられないと分かっているからこそ、それは虚しく空に響くばかりであるのだ。

「―――――懐かしいものを見た。ああ、久方ぶりの光だ。まさか、この時代にて再びのその槍の光を見ることになるとは思ってもいなかった。そして遥か時の彼方にて認めよう。確かにそれは可能性の槍だった」

「―――――」

 だからこそ、その耳に届いた声に響もそして四四八も自分の耳を疑った。この破壊の神と戦っている戦場に聞こえた声は、ロビンフッドの仲間たちの物などではなく、聞き覚えのない声だったから。

「その光によって我らは導かれた。故にこの気紛れは一度だけだ。

 後は任せろ―――我が友が創りし槍の神髄、しかと見届けた」

 一閃が、スサノヲによって放たれた一閃を真っ向から相殺する。世界すらも破壊する槍の光を破壊できる力がガングニール以外にあるのか。

 当然の事実として存在する。何故ならそれは―――同じ力であるのだから。

 そう、彼が握るもまた天叢雲剣―――スサノヲでも上条でもミコトでもなく、彼こそが、その剣を持つに相応しかったもう一人の破壊の神の名を持つ者。

 確かにこの場に立ち、そして歩みを進める足音にスサノヲの視線はその相手へと届いた。

「久しいな、スサノヲ。遥か神代より共にこうして呼び出されたのだ。刃を交えず、消えるなどとそんなことではつまらんだろう」

 名を―――始まりの七神が一人、ジルオル。かつての神代におけるスサノヲの師である。

「まさか、」

「どうした、まさかとは。師を相手に怖気づいているわけではなかろうな」

「愚問――――――この身は、今、かつてないほどの昂りを覚えている!!」

 爆発する神気、その力の解放はスサノヲが響との戦闘以上に本気となったことを証明していた。先ほどまでの戦闘ですらも本気ではなかったという事実こそが、響たちにとっては脅威であり、同時にこれより目にするのは音に聞きし、神代の闘いであると否応なく理解させられる。

「下がっていろ、ロビンフッド。本来、我らはお前たちの敵であるが、我が友の計らいだ。この瞬間だけは、貴様たちの力となろう。何せ―――貴様たちも、排除対象ではあるからな、ワールドリジェクター」

 

邯鄲再世戦争―――第二十一戦

壱 焔王鬼&敷浪道眼&弥勒影斎 対 上里翔流&グスタフ&サイキカル

弐 『始まりの七神』ジルオル  対 『破壊の神』スサノヲ

 

 廻れ、廻れ、万仙陣。観衆の誰もが望んでいる。勝利するのは師弟のどちらか。古の神々の戦いを見せてくれと。

 観衆は誰もが望んでいる。焔王鬼と上里、共に異能を持つ者たちを率いる者としてお前たちのどちらが勝っているのかを我らに見せろと昂っている。

 もはや立花響たちなど不要、いいや、それさえもこの戦いの前には前座でしかないだろう。

 既に戦は二十を数えた。これこそが新たなるターニングポイントとなるだろう。

「三人全員で掛かってくるがいい。貴様たちと我ら、そのどちらがこれより先に進むに相応しいか、己の実力を以て示して見せるがいい」

「くっ、グスタフ、サイキカル……!」

「ああ、分かっている」

「かはは、満身創痍で戦とは悲しいモノよのぉ」

「負けるわけにはいかんのだ、我らに悲劇を敷いたこの世界を変えるまではッ」

「理由なんざ知ったことじゃないわ。疾く果てろ」

 焔王鬼と上里、それらを主とする者たちの視線が絡みあい、既に響たちを追撃する余裕を彼らは奪われた。

 上里翔流という男、理想送りという力、その真価が第六天の世界より呼び出された英雄によって問われる。

「俺はお前の主張の善悪を問うことはない。ただ、ぶつけて俺を凌駕しろ。できなくば斬るだけだ、単純で実にいいだろう?」

 異能亡き世界を生み出す、それを叶えることができるかどうかの絶対的な瀬戸際を乗り越えることができるかどうか。今ここでその真価が問われる。

 

To be continued

次回――邯鄲再世戦争第二十五話「理想の果て」