禍津は蓮太郎などの特定のキャラ以外で戦うとほぼ強制敗北に近い形だったから、早々に蓮太郎が当たったのはほんと幸運だった。

――学園都市第七学区・第二十二戦域――

 放つ、耐える、受ける、躱す、凌ぐ。目まぐるしいほどに代わっていく戦場の中で、上条水希と焔王鬼の戦いはいよいよ最終局面に入ろうとしていることをお互いが認識していた。

 水希にとっては、これ以上の時間加速を行うことはできないほどの極限域まで自らの夢を扱っている。対して焔王鬼も自分自身が対応できる速度の限界が近づいていることを察しており、焔王鬼が自分自身の気力と執念をそこに付与させることで何とか水希に追いつこうとしている段階であった。

 ゆえに、どうあったとしても、終わりはいよいよやってくることとなる。その結末がどちらへと傾くのかは互いに分らないが、全力を出すため、絶対に負けないために水希はこの状況を全力で利用することを決めていた。

 すなわち、焔王鬼と自分自身の間で発動する協力強制、それを実行するつもりでいるのだ。

(私の急段は共に先を見たいという願いが合わさった時に発動する。元々の急段と同様に戦いの中で相手とシンクロすればするほどに発動する可能性は高まっていく。だったら、狙う事ができるはずだ。互いに認め合っている私と焔王鬼ならば!)

 ここまで水希に対して向けてきた感情そのものが嘘であるとすればその前提は一気に崩れ去ってしまうかもしれないが、水希はおそらくそれは起こりえないだろうと確信を覚えていた。

 焔王鬼という男はそこまで器用な男ではない。彼は誰よりも真摯に戦に向き合っており、きっと誰よりも世界のことに関心を向けていたのだろう。天狗の理の世界に存在しておきながら発生したそのイレギュラーの意味を水希は実際に体験したわけではないから、半分も理解は出来ていなかったが、彼という存在は確かに歴史にとっての大きな分岐点だったのだと思う。

 もしかしたら、ほんのわずかに歴史が異なっていたら、焔王鬼という男は真の英雄になることができていたかもしれないのだから。

「こうして争っている者に聞くのもなんだが、お前ほどの強者に出会えた運命に感謝しよう。俺は今―――かつての東征戦争の自分と同じように昂っている。一発、一発、次に来る攻撃が必殺かもしれないという緊張感が、タタリでありながら、俺の心をかつてへと引き戻そうとしている」

「そういう気持ちよくなっているのは自分一人だけでしていなさいよ。最初に言ったでしょ、私は貴方なんて眼中にないんだから! 勝って先へと進む。それだけなんだから!」

「結構、最終的には俺も同じだ。俺達は共に、相手を潰して先へと進むことを共有する戦士同士だ。それで充分すぎるだろうさ」

「ええ、そうね。私たちは互いにその先を知りたいと願っている。だったら、それで十分すぎるのかもしれない。世界のこととか、これからの未来のこととか、そういう難しいものを決めることができる決断力もリーダーシップも私は持ち合わせていない。柊君や他の皆にも言われたもの。私は戦闘要員だって」

 それを屈辱的な物言いであるなどとは水希は考えない。人間にはどうしたって向き不向きというモノがあることを彼女も良く理解している。

 自分が生まれつきの才覚を以て戦闘向きの力を持っているのと同様に柊四四八がリーダーシップを発揮できる性格であることから、人の上に立つのが向いている。そんな個性の差程度でしかない。

 上条水希は何もかもをカバーできる超人などではないし、そんな者になれなくていいと思っている。自分自身の出来ることと両親から与えられた力、それだけがあれば十分であると考えているからこそ、焔王鬼に対して余計な思考を挟まずにすんでいる。

 そう、共に未来を見据えているというその一点だけを共有することができればそれで十分だ。例えこの場で争うことになった縁もゆかりもない相手であったとしても、その一点を抱えているのならば、それでいい。

(そして、きっとこの想いを抱えているっていうことは、貴方もまた自分の欲望だけで存在しているわけじゃないってことを証明しているんだと思っているから)

 きっと、焔王鬼もまた……。そう思う気持ちがあればこそ、報われるところもあると思えるから。

「急段・顕象――――」

 水希は今こそ確かに嵌った条件に、協力強制を取り繋ぐ。焔王鬼ですらもまだ出くわしたことのない協力強制の発動に、彼は完全に面を喰らっている。

 初撃は必ず直撃させることができるだろうという確信を覚えているからこそ、絶対に外しはしない。

「何かをするつも―――」

「もう遅いよ。気付いた時にはすべてが終わっている」

 上条水希の能力とは即ち、時間超越。かつては心の奥底に眠っていた後悔から、遥か過去へと戻る形の急段が生み出されたが、今の水希は違う。

 その目線は未来へと向いており、父と母が生み出したこの世界こそが自分たちのこれより先も生きていく時代であると証明するために戦っている。だからこそ、一切の迷いなく未来へと進むための力を放つことができるのだ。

「そうか、貴様は――――」

「焔王鬼、貴方は強かった。これまでに私が戦ってきた人たちの中でも間違いなく最強に近い人だった。でも、勝敗を分けることがあったとすればそれは私と貴方の異能、そのどちらがより戦いに向いていたのか。それに尽きるわ」

 時間操作というある意味での反則的な力を持ち合わせていた水希が総合力の点で焔王鬼に勝っていたということ。

 焔王鬼に敗因があるとすれば、それは水希を出し抜くためにあえて徹底的にその攻撃をその身で受けてしまったがための消耗であろう。

その消耗が知らずの内に焔王鬼へと付け入るための隙を水希に与えてしまった。結果として引き起こされた急段の一撃が過つことなく、焔王鬼へと襲い掛かる。いいや、気付いた時にはもはや遅い。総てが終わってしまっていたのだ。

「くく……見事」

 焔王鬼の身体に袈裟切りに放たれた刀傷が生まれるとすぐさま、そこから真っ赤な鮮血がほとばしる。それは決着の証であるのか、いいや、決着であるはずだ。

何せ受け身も防御も取ることができない。水希が一閃を放った時間は文字通り、消滅してしまっているのだ。焔王鬼の認識からすれば、能力が発動した瞬間には身体を斬られていたということに等しい。そのような攻撃を受け切るための術など存在しえないに決まっているだろう。

「大将がやられただと……?」

 思わず影斎が声を上げてしまうほどにそれは衝撃的なことだった。自分たちがその命を預けている相手はあの焔王鬼、第六天世界に置いても無類の強さを発揮した男である。

 そんな人物が、この明らかに第六天よりも劣っている世界においての敵とぶつかって敗北するなどということは考えられない。

「何を驚いているのよ。これは戦いよ、そういう結末だって当然にあるでしょ。私たちだって同じように闘っているんだから!」

「しゃらくさいよッ!」

 吼える影斎の式影が紗雪へと無造作に向かっていく。瞬間魔力換装を使った行動によって紗雪はその攻撃を次々と避けて行きながら、紗雪は焔王鬼に決定的な一撃が与えられたことによって動揺している影斎を一気に倒すために動く。

(きっと、これが正真正銘の最後の機会。水希が私にくれたこの機会を無駄にするわけにはいかない)

 そうだ、紗雪は改めて二度の失敗は許されないと自分の心に言わしめる。上条水希、上条当麻と立華奏の娘、自分にとっては姪にあたる少女が紡いでくれた想いに応えられないなんて嫌だと思う。

(あの子は私たちの悲しい運命を乗り越えた先にいる子、あの子が笑って生きることができる未来を生み出すことが、兄さんと姉さんの幸せを願う事に繋がるのならッ!!)

 自分自身の少しばかりの無理など、何のこともない。グスタフに与えられたダメージなどこの瞬間には忘れた。そんなものは影賽を倒した後に思い出せばいい。

 自分の中に備わっているすべての集中力をこの瞬間に爆発的に膨れ上がらせることこそが目的だ、紗雪の中に眠っている彼女自身ですらも分かっていない魔力の流れを一つのカタチへと紡いでいくこと。それこそが、この場においては必要なことであると彼女も分かっているからこそ―――

(弥勒影斎を倒すための流れは既に構築した。後はこの私の能力と魔術がそれを紡ぐことができるかどうか……ううん、できる。私はどんな状況でもひっくり返すことができる数多の武装を使える立華奏の妹だもの。その武器を生み出すことだって―――)

 それを可能と出来るはずだと考え、紗雪は二つの拳銃を交差させその銃身を重ねあわせる。さながらそれは、二つの銃を一つにするような様子であり、影斎もこれまでに紗雪が行ってこなかった行動を始めたことによってその警戒心をむき出しにする。

「一体、何をするつもりさね!」

「お前を倒す。ただそれだけのための武器を生み出す」

 二つの拳銃はそれぞれが紗雪の魔力によって生み出された銃である。ならばその形を一つとして相手を破壊するための銃を生み出すことだってできるはずだろうと強く強く魔力を錬成する。

(そう、本来ならあの時に―――有塚陣を倒す時に私が手にしなければならなかった力。球磨川さんに決着を委ねることがなければ、私はこの力を以て彼の不死を踏破するはずだったから……)

 スコールとハティは空間を超越する力。空間を超越し。その上で攻撃を届かせるための力なのだ。ならば、その特性を変えてしまえばいい。自分の力が何処までも何かを跳躍するための力であるのならば―――相手の不死性そのものを超越する銃弾をここに!!

「あの時に手にすることができなかった力をッ!!」

「わけのわからないことを、貴様は何処を見て戦っている!!」

「それはこっちの台詞よ!!」

 二つの銃が光を放ち始める。それは真実、二つの銃が一つの銃へと変わるための儀式のようであって、立華紗雪の力が再びの変化を始めたことを弥勒影斎へと認識させた。

「そう、いつだって何かを想う力は人間の限界だって突破して見せる。紗雪ちゃんが一度は手放そうとした力、でもそれは今だってちゃんと彼女の胸の中に残っていたから」

「憐れね、弥勒影斎。あなたは呼び出さなくてもイイものまでもを呼び出してしまった。水希への想い、そして貴女を越えなければならないという想いが紗雪に自分の殻を破らせたのよ」

「あらゆる不滅を滅するための一撃―――リンドヴルム。それは世界すらも呑み込む龍の咆哮」

 紗雪の口より零れた龍の口の形をした銃身が名を与えられたことによってその銃口に光を灯す。相手を滅するための光、何もかもを滅ぼすために与えられた立華紗雪の持てる力の総てを振り絞った一撃が影斎の放った式影に向かって真っ向から飛び込んだ。

「―――――馬鹿なッ」

 目の前で起こった出来事に思わず影斎は思わず目を疑った。そんなことはありえないだろうと思わず考えたのだ。式影はあらゆるエネルギーの攻撃を呑み込み、それを力へと変える。

 だが、紗雪の放ったリンドヴルムはあろうことか、その式影の影響力すらも乗り越えて、式影を貫く形で影斎の身体を貫いたのだ。

「馬鹿な――――」

「馬鹿も何もあったモノじゃないわね。これが結果よ。自分で言ったじゃない。その式影という異能こそが弥勒一族の総てなんだって。だったら、それを破られた時点であなたたちの敗北が決まってしまうのも仕方ないことなんじゃないの?」

 無論、このまま戦闘を続けていれば、どのように状況が転がっていくのかはわからない。

 しかし、絶対の自信を持っている式影を破られたという事実そのものが影斎へと与える影響はあまりにも大きい。銃弾は影斎の身体を貫き、精神的な動揺と肉体的な痛みによって崩れるその身体に紗雪の蹴りが目にも止まらぬ速さで直撃する。

「ごっ――――」

「これで終わりよッ!!」

 もう一度影斎の意識を刈り取るために後頭部へと叩き付けられた蹴りが、紗雪の目論み通りに影斎の意識を刈り取る。

 どのように状況が転ぶのかもわからない以上、ここで最善を打っておくことこそが肝要。グスタフとの戦闘で最後の最後で揺らぎを見せてしまったがために敗北したあの時の屈辱を忘れないために紗雪は影斎という相手の意識を確実に刈り取るために攻撃を放つ。

「くっそたれがぁぁっ」

 瞬間、影斎の姿が消失し、そして紗雪を狙っていた式影の反応が一気に消える。それは影斎がこの場での戦闘を放棄したことを意味しており、実質的に紗雪が勝利したことを意味していた。

 何せ、あれほど自分の力に誇りを持ち、絶対的な勝利を信奉していた式影を下がらせるなど、あの弥勒影斎には考えられない。

 奇襲や不意打ちに使うことはあったとしても、一度目の前に展開した式影を引っ込ませるなど、それは影斎にとっては何物にも代えがたい屈辱であるはずだから。

「………よかった」

 紗雪はほっと胸を撫で下ろした。正直、グスタフ以上に勝てるかどうかわからない相手だった。変幻自在の影術使い、一瞬でも気を抜けば呑み込んできたであろう式影、それらを全て掻い潜り、偶然であろうとなんであろうと彼女を貫くための一撃を放つことができた。

 そしてその一撃を前にして影斎は撤退を余儀なくされた。それがこの場での結果である。そのほかの展開にはどうしたってなりえるはずがない。

「くく、まったく影斎めが。あれほどの自信を持っておきながら結局この有り様とは。何とも笑える結末よのぉ」

「それは貴方もでしょうが。ただ、何にしてもこれで全ては終りね。焔王鬼を水希が倒した今、あなたたちの闘う力は―――」

「果たしてそれはどうかのぉ」

「――――――!」

 道眼の意味深な言葉、それにほむらは気配を感じ取った。道眼もまたその気配を感じ取っていたのだろう。確信とでもいえばいいのかもしれない。

「上条水希、今すぐその男に最後の一撃を放ちなさい!!」

「えっ―――――――ごっっっ」

「見事、見事だよ、上条水希。お前の一撃、我が身体を貫くだけの武力を持ち合わせていた。だが、そこに一つだけ文句をつけることがあるとすれば、それは俺自身が一度は鬼籍に入ったことがある者であるということだ。一瞬の間際、生と死の狭間、一度は命を失い、亡者となって甦ったこの身には、その命が消える一瞬の灯を確かに見極めることができたぞ」

 一閃を放った水希の後頭部を掴み上げると、焔王鬼はその水希を力任せに地面に叩き付ける。水希は叩き付けられた衝撃で口から血を噴きだし、すぐさま反撃に移ることができない。なんとか、身体に楯法を展開して、ダメージだけは抜き取ろうとするが、それは焔王鬼からすれば致命的なまでの選択ミスである。

「お前は今この瞬間に、まずは体力を元に戻す事こそが肝要だと考えたのかもしれないな。しかし、戦場に置いて最後まで体力を残したままに戦えるものなど存在しない。お前がやっていることは自分の命を優先して機先を制することができない死んでいく兵士の論理でしかない!!」

「そんなのは―――――」

 焔王鬼は戦場の論理を説いている。確かに上条水希は圧倒的な力を以てこれまでの戦場で勝利を重ねてきたのだろう。それは焔王鬼自身も認めるばかりのことである。

 彼女は強い、きっと天狗の理に支配された焔王鬼たちの本来の世界に置いても、彼女は有数の戦士へと変貌していたことだろう。

 しかし、あくまでも彼女は戦乱の世界の人間ではない。戦い方は指導されたし、多くの実戦を経験してきたのだろう。だが、その才覚があればこそ、彼女は多くの戦いを綺麗な形で勝利を重ねてきている。焔王鬼が行っているこの泥臭いまでの戦いは彼女が経験をほとんどすることができなかった闘いであるのだ。

「おかしいと思っているのか。だがな、実際にはあるんだよ。戦場には自分自身の力や理屈すらも超えた執念という魔物が。悶えるほどの勝利への飢餓と期待に応えなければならないという強迫観念。そして絶対に勝利をするという執念。それらが組み合わさっていくことによって人間は、不可能と言われるような生と死の狭間を観察し、そこに活路を見出すことができる。一度、死んでしまった俺ならば尚更だ!!」

 熱が入っている、使命以上のものを以て、自分は上条水希を蹂躙しようとしていることが焔王鬼自身も分かっていた。しかし、その身体を止めるようなことはしない。

 命を脅かされ、自分自身が認識できない瞬間に敗北していたなどという愚かとしか言いようがない結末で許せるのか?

 許せるはずもなく、故にこそ焔王鬼は立ち上がる。この絶望的な状況を執念1つで変えるために動き出したのだ。それはまさしく執念の勝利と表現すべき事象であり、不意打ちを受け、流れを完全な形で引き戻された水希に底から抗うための時間をねん出することはほぼ不可能に近いことだった。

「かはは、我らが大将はな、確かに他の者たちに劣る力量であるかもしれん。だがな、あれは背負っておるのだ。300年の歳月を経て外法七人衆として甦った時から、300年前と300年後の世界の行く末総てを背負って駆け抜けておる。貴様たちの中にそうした世界を背負う覚悟があるモノがどれだけおるのか知らぬが、焔王鬼を斃せる者は、そうした背負った者を凌駕できる者でなければ不可能であろうよ」

 そして、上里翔流はその背負ったものを懸けた戦いに置いて敗北を喫した。そして死を迎えた。故に上条水希も同じく、焔王鬼という男の牙に砕かれるのみ。

「貴様は強かった。だからこそ加減など出来ぬ。俺はお前たちに倒されるための障害でしかなかったとしても、自分の意思を捻じ曲げてまで敗北することなど絶対に許せぬ」

 まだ動ける状態であった以上、焔王鬼が手を休める理由など何処にもない。再び掴んだ水希の身体へともう片方の腕で掴んだ斬天の刃が煌めき、一閃が水希の身体へと入り込んでいく。

「がっはァ――――」

「水希ちゃん!!」

「これで動きは止まったな、ならば、後は―――」

 首を跳ねてそれでこの戦いを終わらせる。極大の殺意と戦意を以て焔王鬼は水希という強大な敵を討つための一撃を放つまで止まらない。

 不幸なことは、上条水希という規格外の少女の相手をしたことによって焔王鬼という強大なる戦士の血をたぎらせてしまったことだろう。指揮官であり同時に戦士でもある彼にとって、これほどの戦いは譲れない。

 例え自分たちが部外者であったとしても、勝利への飢餓が、執念が水希に勝てと焔王鬼を突き動かしていく。

「貴様の首貰い受けるッッ!!」

 瞬間、奔った斬撃は、その狙いを間違えることなど一切なく、上条水希の首下へと飛び込み、その命を絶ったとばかりに鮮血を迸らせたのだった。

 

――学園都市第七学区・第二十三戦域――

 それは戦いと呼ぶにはあまりにも原始的過ぎるものだった。単純に言えば殴り合い。

 里見蓮太郎と天魔・禍津の戦闘はこれまでのどの闘いとも全く異なる単純な殴り合いを以て決着を迎えるための戦いとなっていた。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

「もっとだ、もっとやれるだろう、君は。そうでなかったら、君が学んだ天童式戦闘術は何だったっていうんだよッ!」

「天童式戦闘術二の型十四番――隠禅・玄明窩!!」

「そうだ、それでいいッ! もっと僕にぶつけてみろよ。君が持ちうる君が自分の力で培ってきた技術って奴をさ!!」

 蓮太郎の拳が、蹴りが次々と禍津に刺さり、禍津はその攻撃をそのまま受け止めると同時に、己の拳を用いて蓮太郎を吹き飛ばす。先ほどまで使っていたネジは使っていない。

 いや、使うつもりすらもないのかもしれない。禍津は今、現在行われている蓮太郎との原始的なまでの殴り合いこそ歓迎している様にすら見えてくるのだから。

「どういうつもりだ、何故奴は、わざわざ蓮太郎の戦いに付き合っている」

「そういう流れを彼が好きこのんでいるからでは解答にならないかしら?」

「馬鹿な。そんなことに何の意味が……」

「時には合理的な戦いよりも自分の主義や信念を重んじる者もいる。あなたたち人間にだってそんな人はいるはずよ。だったら……天魔にだってそんな奴がいてもおかしくはない。そうではないかしら?」

 五馬姫の言葉は口から出まかせを口にしているわけではないと和光は思えた。合理性よりも主義や主張を優先してしまうというのは自分でも理解があるし、そういう在り方をしているとでも言われない限り理解ができない。

 天魔とは天上の存在、蓮太郎では逆立ちしたって勝利することができない相手であるというのに、この肉弾戦等による殴り合いに移行したことによってその勝利の目がわずかながらではあるが生じ始めているのだ。

「ああ、まったく最高だな。君の拳、結構痛いぜ」

「天魔が、何をふざけたことを言っているんだよ。いつまでこっちのことをおちょくっていれば気が済むんだ」

「勘違いするなよ、僕は別に君を馬鹿になんてしていないし、そんなことをするつもりは一切ない。だってそうだろう。こうして闘っていることこそが、何よりも僕の願ったことなんだから!!」

 天魔・禍津はかつて天狗の理の世界の中で、とある戦士と遭遇した。その戦士はかつての世界で強大な力を持った者の末裔であり、常に己の中に存在するかつての力を使うように願われていた。それは禍津との戦いでも同じである。その力を使えば、勝利することができる。だから使えと悪魔のささやきのように告げられる言葉を常に耳に受けながら、その戦士は最後の最後までその力を使わなかった。

 むしろ、そんな力を使わないからこそ、自分は人間でいられるのだと己を鼓舞したのだ。

 その様子は合理性だけを見るものからすれば、あまりにも馬鹿な話しであっただろう。どうしてみすみす勝利ができるかもしれない状況で、そんな悪手めいたことをしたのかと。

 だが、禍津にはそれが、正直に言えば衝撃だった。天狗の理に支配されている世界に置いて芽吹いた、自分以外の誰かを助けたいと思う気持ち。それに気づけたからこそ止まることができたこと。総てが素晴らしく、そしてそんな生き方ができるモノが現れることをずっと自分は待ち望んでいたのだと、そんな生き方ができる人間が姿を現したことこそが天狗の理を崩すきっかけになるのだと彼は考えていたからこそ。

「別にかつてに限ったことだけではないんだよ。真面目に生きていない奴のことを、僕は絶対認めねぇ。現実に嫌気差したからって、神様に甘えて、神様になれれば世界を救えるなんて思っているのなんてクソ喰らえだ。そいつが、今まで持ち続けていた矜持って奴を全部かなぐり捨ててそれで、天に座って、世界を変えて。そんな奴を憎んでいたんじゃないのかよ、どうしてお前が同じになるんだよ、違うだろう、本当に大切なことは。

 そんな世界に嫌気がさしたのなら、その世界の中で変えて見せろよ。それが―――その世界に生きている人間の責任って奴じゃないのかよ!!」

 その在り方こそが禍津が願っている人の在り方なのだろう。だから、彼は蓮太郎に対してあえて、彼がこの展開になることができるようにと願ったのだ。

 里見蓮太郎は安易に神を目指すわけではなく、自分の脚で自分に出来ることを遂行するために、そうして世界に貢献していこうとする蓮太郎の心根が分かっていればこそ、禍津は本気で向かってくる蓮太郎の拳を受けてみたいと思ったのだ。

 だって、仕方がないじゃないか。自分はそういうのが好きなのだから。こればっかりは自分の闘うスタイルとして譲れない。きっとそれを彼も分かってくれていると理解しているからこそ、禍津は止まらない。

 これが所詮は夢の続きでしかないことを理解していても、ここだけは譲れないと吠え立てる。

「神様に安易に力を恵んでもらって、それで自分が強くて凄いだなんて、そんなのはガキの妄想と何が違うんだよ。何も変わりはしねぇんだよ! ただ人間様の力がどうしようもなく弱いってことを自分で証明しているだけじゃねぇかよ。そうじゃないだろ、僕たちは人間として、一人のこの星に生きる者として―――」

「人のまま、この世界を変えていかなければいけない。おまえはそう言いたいんだな」

「そうは思わないのかよ!」

 放った禍津の拳を蓮太郎が掴み上げる。何度も何度もこぶしを受けて来て、蓮太郎もその速度や癖を見抜き始めていた。

「ああ、そうだな。実際、お前の言う通りだと思うよ。俺達は人間だ。人間で十分なんだ。人を超越して、全く違う存在になったからって俺達は元々人間であるっていう所から逃げることなんてできないんだ。俺達の考え方は人間がベースであるわけだし、どうしたってその価値基準だって変わらない。神様の視点なんてものは俺には実際の所、よくわからないけれど……、1つだけ言えることは、俺達は自分がなることができなかった者にはなれないってことだけだ」

「ああ、そうだよ、その通りだ。共感を覚えてくれて嬉しいぜ、里見蓮太郎!」

 蓮太郎に拳を握られ、もう一つの拳が空薬きょうを弾きながら禍津の顔面へと人間の速度では考えられないほどの速さで叩き付けられる。

 あからさまに、身体をぐらつかせた禍津は、しかし、自分の身を心配するようなそぶりは見せない。明らかに闘い始めた頃に比べれば弱り始めているというのに、そんなことには全くの無頓着のまま、蓮太郎へと再び向かってくる。

 その向けられた戦意をそのまま弾き飛ばすように、蓮太郎は足のカードリッジを激発させて、地上から空中へと跳び上がる。

「天童式戦闘術二の型十一番――隠禅・哭汀・全弾撃発!!」

 空中でオーバーヘッドキックの態勢へと入った蓮太郎はそのまま、禍津の身体に吸い込むように機械による義足の一撃が放たれた。

「ごっ―――まだまだァ!!」

 禍津はその攻撃を受け、怯みながらも拳を放つことを辞めない。もはや天魔として世界に破滅を呼び込む存在というよりは蓮太郎という存在を認め、対等の相手として勝ちたいという意志が伝わってくるような態度で攻撃を放っているのだ。

 その様子に蓮太郎はもはや困惑の様子を浮かべない。相手が何を想って、何を願って戦っているのかを理解できた。ならば、これ以上、何かを告げることも指摘することも無粋であると思うのだ。

「一つだけ決着がつく前に言わせてくれ。ありがとう、お前には大切なことを教えられたよ」

「はっ、何がだよ」

 わざと禍津は問いを投げる。その言葉の意味を他ならぬ君の口から聞かせてほしいと言わんばかりの態度で。その態度の意味が分かるからこそ、蓮太郎も口を開く。

「レムル・レムルとの戦いを通じて、いいや、もっと前から、俺は知らず知らずのうちにポルシオンの力に頼りきりになりかけていた。この万仙陣の戦いの中でも、自分の力が通用しないのならポルシオンの力を使えばそれで解決する。そんな風に感じてもいた。

 でも、違うんだ。そんなやり方じゃ、俺は自分の目的を見失ってしまうだけだった」

 だってそうだ、いくらポルシオンが里見蓮太郎だけが持ち得る武器であったとしててもそれは里見蓮太郎の力ではない。誰かから与えられた借り物の力に過ぎず、それを行使していたところで蓮太郎自身が培ってきた何かを使っているわけではないのだから。

 それを痛感させられた。禍津の語った言葉には何一つ間違いはない。初志貫徹であろうとした心すらも場を支配する強大な力というモノによって変化を与えられていた。

「ははっ、よくわかっているじゃないか。だからさ、その想いを決して忘れてくれるなよ。別に僕は君を助けるためにこんなことをしたわけじゃない。君がその願いを見つけることができなかった場合には容赦なく排除するって決めていたからね」

「だったら、どうして……!」

「言ったろ、人間が好きなんだよ、僕は。ままならなくて、飽いて餓えて、見果てぬ夢に焦がれて、それでも自分の両手に収めきれるだけの何かを掴もうとする人間の矮小であり、誇るべき心が何よりも大好きなのさ」

 だから、そんな輝きを見れる相手ならば助言もするさとばかりに再び拳が放たれる。しかし、蓮太郎の身体に触れるその拳には先ほどまでの勢いはない。明らかにここまでの蓮太郎の攻撃によって禍津は弱っている。

「ああ、そうかよッ。だったら、それを素直に受け取って、俺は先に行くぞ。まだまだやらなくちゃいけないことがある。延珠を取り戻す。そして、未来であいつらが自分に誇りを持って生きて行ける世界を創る。そのために此処で踏みとどまっているわけにはいかないんだッ!!」

「ははっ、いいな、それ。面白いじゃないか。叶えて見せろよ、誰かに願うわけでもない。自分の脚で大地を踏みしめて、そして世界を変えて行こうとする生き方、きっとそれこそが―――」

 世界を変えるためには必要なことなのだろうと禍津は思う。かつて神の玩具として、観測者として運命を押し付けられていた者は今更、世界をどうこうしようなどとは思わない。

 そんな思いを自分たちが抱くこと自体が愚かしいとしか思えないと考えているからこそ、上里やミュカレとは同じ方向には進まない。

「そうさ、僕はそれでいい。夢の残滓として呼び出されたって何かが変わるわけじゃない。僕は僕だ。だから、結局はあの時と同じことしかできない。けどさ―――」

 異邦人でしかなくて、誰かに怖れられる存在でしかないとしても、こうして誰かの心に爪痕を残すことができるのならば、きっとそれは意味のある存在だったといえるのではないだろうかと思うのだ。

 ならばそれでいいと禍津は思う。四肢の力は弱まっている。己の異能として与えた力の対価としてこうした肉弾戦闘にはあまりにも弱い自分自身だが、蓮太郎の拳を受ける自分自身の姿を恥じるなんてことはない。

 自分の足で歩き続け、きっとここまでにさまざまな困難を自分で乗り越えてきたのだろう。その拳の痛みからはそんな感情が浮かび上がってくると分かっていたから。

「はは、かっこいいじゃないか、里見蓮太郎」

「天童式戦闘術二の型四番―――隠禅・上下花迷子・全弾撃発!!」

 そして、叩き付けられた蓮太郎の踵落しが、脳天に直撃し、禍津は血を噴きだしながら後ろへと倒れていく。それはただの人間のようであり、この際に天魔であるとは思えないような様子だった。

「はぁ……はぁ」

「はは、実感がないって感じだね。安心しろよ―――君の勝ちだ」

 禍津の身体が徐々に薄らいでいく。まるで役目を果たしたからこそ、もうここに存在している必要はないとばかりに、里見蓮太郎の勝利を祝福しながら、自分のもといた場所へと戻るために、夢から覚めるために。

「俺にはわからない。お前たちは俺達を滅ぼすために戦っていたんじゃないのか? だってのに、こんなことをして」

「別にそういうつもりだったわけではないよ。ただ知らしめてやりたかっただけさ。僕たち、天魔という存在を。こんな醜悪な存在がいるんだぞって世界に証明してやりたかった。ただそれだけだよ、僕たちがしたかったことなんてさ」

「そんなことに―――」

 何の意味がある口にしようとしたところで蓮太郎は口をつぐむ。それ以上の言葉は許さない。もはや死に体でありながら禍津の視線は真っ直ぐに蓮太郎を撃ちぬいたのだ。

「ま、それは君や僕が言うべきことじゃない。なぁ、そうだろう。何処までも暴れまわって、泣いて叫んで、そうして満足した時に来ればいいさ。また今度も同じように待っている。大丈夫だよ、確信した。彼らなら大丈夫だって。だから、君たちも……」

 もはやかつての面影など何も残っていないかもしれないけれど、かつての記憶もおぼろげかもしれないけれど、それでもこの夢の続きには確かな意味があったと信じて。

「大丈夫さ、僕たち三人がこうして協力しているんだ。できないことなんてきっとないよ」

 笑って告げたその言葉と共に天魔・禍津はその姿を消失させた。その存在はまるで最初から存在していなかったかのように。

 それは誰が言うまでもなく大きな偉業。

 里見蓮太郎は、この場に生じたまさしく災害の如き存在である天魔を初めて討伐した者となったのだ。五つの災厄ともいうべき存在達、その一つでしかなかったとしても、天魔を討ち取ったという功績はあまりにも大きい。

 何せ、実際の所、おそらく蓮太郎でなかったとすれば限りなく禍津を討ち取ることはできなかったであろうと考えられるからである。禍津は決して異能以外の力でなければ斃すことができない。この夢の世界を巡る戦いの中で異能以外を使って戦うというその発想からして、特殊な存在であったのだから。

 

邯鄲再世戦争――第二十三戦

壱 天童木更  対 天魔・五馬姫

→天童木更敗北(残り敗北可能数1)

弐 天戯弥勒  対 天魔・夜刀

→天戯弥勒敗北(残り敗北可能数1)

参 里見蓮太郎 対 天魔・禍津

→天魔・禍津脱落

 

蓮太郎陣営 里見蓮太郎(残り敗北回数3)、天童木更(残り敗北回数1)

天童和光(残り敗北回数2)、天戯弥勒(残り敗北回数1)、リタ(残り敗北回数2)

 

天魔陣営 夜刀(残り敗北回数2)、五馬姫(残り敗北回数2)

     憂流迦(残り敗北回数1)、飯綱(残り敗北回数1)

 

「一度退くぞ、蓮太郎。これ以上はこちらの身が持たん。奴が静観をしているうちにな」

 天にて絶えず稲妻と焔を放っていた憂流迦は禍津が消滅したことに対して何か感じているものがあるのか、様子見をしているような状態であった。

 今は絶好の好機、それを和光だけではなく他の三人も共通の認識として理解している。

「逃げるなら早々に逃げろ。この一度ばかりはお前たちを見逃してやる」

 そして何よりも、夜刀自身が蓮太郎たちを見逃すと口にした。その様子は災害ともいうべき天魔にしてはあまりにも物わかりが良すぎる状態であるように思え、蓮太郎は思わず聞くべきではないと分かっているのに問いを投げてしまう。

「どうしてだよ、どうして俺達を見逃すなんて……」

「別に。ただ、俺の友に餞をしてくれたお前たちに免じているだけだ。俺達の気が変わらないうちに早々と何処かに行くがいい」

 もしも、自分が掛けている情けを無視するようであれば、これ以上は何の加護も与えはしないと言わんばかりの態度に、蓮太郎たちは四の五のを言う暇も与えられずに、弥勒の力を使ってその場から撤退する。

 総合的な面で身えば、惨敗であることは明らかだ。しかし、蓮太郎は禍津を討ち、知らずのうちに忘れかけていた自分の原典というモノを思い出すことができた。

 それは言うまでもなく収穫である。里見蓮太郎という少年が、原初の悪夢であるグリム・グリムと相対する時に絶対に必要になるであろう力なのだから。

 そこまでを禍津が考えて蓮太郎に戦闘を仕掛けたということはないだろう。あくまでもここでの出会いは偶然以外の何者でもない。

 しかし、得てして人間の運命とは偶然の連続によって形作られていくモノである。

 それを考えて行けば、蓮太郎にとって天魔・禍津という男と戦うことは運命であったのだろう。人間であるからこそ、救える運命がある。

 かつて、第六天の空を打ち破る最大の原動力となったのは神の力でも何でもなく、ちっぽけな人間の目指した幸福のカタチであった。

 世界は違えども、同じように起こりえることを禍津は確信していたのかもしれない。

「お前に言われるまでもないさ。俺は俺を貫き通す。天魔であることこそが今の俺だ。最後の瞬間に朽ち果てるまで、俺はそれを貫いていくだけだ」

 そして、ささやかに夜刀は禍津という友の消滅を偲ぶ。所詮は夢の泡沫に過ぎないと分かっていたとしても、自分の呼びかけに答えてくれた友の消滅を悼んでやることができなければそれは嘘になるだろうと。

「結局彼はいつだって最初にいなくなってしまうのね」

 呟いた五馬姫の声にはどこか寂しげな感情が宿っていた。空想の存在であったとしても彼女もまた同じ存在として甦った大切な人に対して想うことはあったのだろうから。

「次へ向かうぞ。俺達には立ち止まっているような暇はない」

 進む、天魔として覆滅されるその瞬間まで。

 そう、その視線は既に新たなる相手の下へと向かっている。

 

――学園都市第七学区・第二十二戦域――

「邪魔をするか、暁美ほむら。邪魔をするのならば貴様であろうとも容赦はしないぞ」

「言ってくれるわね。誰が相手であろうと容赦なんてしない癖に。だけど、お生憎様。私はまどかと一緒にこの子を天魔の下まで連れていくと決めているの」

「天魔の下に……」

「ええ、その道中で貴方を倒すことができなかったのは痛いけれど、教訓にはしてもらえると思っているわ。だから、ここはこれで手打ちとしなさいよ、英雄。それとも、水希との戦いで傷ついた状態で、私ともう一戦繰り広げる余裕があるかしら?」

 むき出しの殺気。これ以上、水希に手を上げるつもりであるのならば、自分は焔王鬼の打倒へと動くというスタンスを明確に示し、焔王鬼はそれまで張り巡らせていた殺気を僅かに霧散させる。

「くだらんな、お前と戦った所で得られるもの何もないだろう。結末を知り、そして共に異邦人であれば、何の意味も齎すことはできない。手打ちとすることを受け入れよう。影斎、道眼、ジルオル。潮時だ。一度、この場を離れるぞ」

「良いのか?」

「ああ、これ以上は意味のない戦いとなる。こちらにも被害が出ている以上、一度は仕切り直すべきだろう。それに……堪能するべきものは十分に堪能した」

 それが水希との戦いを意味しているのだとすれば焔王鬼が上機嫌である理由も良く分かるというモノだろう。結局のところは彼も戦士であるのだから。

「次に見えるときはお前たちと戦えることを楽しみにしていよう。第五天の神々たちよ」

「私は……出来る事なら戦いたくないなぁって」

「ふっ……」

 此度は戦いを観戦するだけであったジルオルは最後にまどかとほむらに次にぶつかる時があれば全力での戦いを求めると告げた。ほむらとは以前に第六天の世界でも戦闘を行ってはいるが、ジルオルからすれば一対一で戦ってみたいという意味なのだろう。

「まったく……本当にこれだから戦闘に狂っている奴らは嫌いなのよ」

 去っていくその背中を見つめながらほむらは最後まで悪態をつく。その様子に自分は及ばなかったものの戦いは終わりを迎えたことを理解し、水希は自分の目尻から冷たいものが流れることに気付いた。

 それが涙というモノであることを。

「くそぅ……」

「その言葉を口に出来るのなら上出来よ。真に天魔の下に辿り着きたいのなら今回の敗北を糧としなさい。あなただって、天上に轟く最強の戦士ではないのだから、こういう結末だってあり得るわよ」

「わかっている、分かっているけれど……」

 それでも勝つ必要があったのだと水希は思う。天魔を倒すと決めている自分が焔王鬼という時代の中では敗北者に過ぎない存在へと勝ちを譲ってしまったことは後々を考えれば彼女にとって大きな影を落としかねないと思ったからこそ。

「そう思えることこそが貴方の異常さの表れでもあるんだけどね」

「え……?」

「少し休める場所に行くわよ。まだ戦いは続いている。少しは回復してもらわないといけないでしょ。これからも馬車馬のように働いてもらうんだから」

 第六天の世界の存在を相手にして、自分はそんな相手に勝つことができるとほんの僅かでも信じてやまなかった事実こそが水希という少女の特異性なのだ。普通であれば、あれだけの圧倒的な力を示されれば人間は諦めてしまうというのに、決して水希はそうはしなかった。その在り方こそが天魔を穿つために必要な素質であると思い、ほむらはもう少しだけ彼女たちに付き合うことを改めて心の中で誓ったのだった。

 

邯鄲再世戦争――第二十二戦

壱 上条水希  対 焔王鬼

→上条水希敗北(残り敗北回数2)

弐 立華紗雪  対 弥勒影斎

→弥勒影斎敗北(残り敗北回数1)

参 暁美ほむら 対 敷浪道眼

→敷浪道眼敗北(残り敗北回数1)

 

水希陣営 上条水希(残り敗北回数2)、クリームヒルト(残り敗北回数2)

立華紗雪(残り敗北回数1)、鹿目まどか(残り敗北回数1)、暁美ほむら(残り敗北回数2)

 

焔王鬼陣営 焔王鬼(残り敗北回数2)、ジルオル(残り敗北回数2)

道眼(残り敗北回数1)、影斎(残り敗北回数1)

 

「戦いも中盤戦に差し掛かっている。みんな無事だといいけれど」

「そうだね、きっと、みんななら――――!?」

 瞬間、水希は理解した。その見知った感覚を。そしてそれが意味する存在のことを。

 ああそうだ、忘れていたわけではない。だが、しかし、何故だ、力は小規模、その殺意と勢いもかつてほどではないように思えるのだが、その内に秘められた怒り、嘆き、その深度たるや、かつて自分たちが対峙した際の比ではない。

「一体何が……?」

 何が起こっているのか。今、この学園都市の中で何者かが、かつての荒廃した神と対峙していることを否応なく痛感させられた。

 

――学園都市第七学区・第二十四戦域――

「よいよのぉ、幽雫ァ。お前が思っておる通りの展開になったんは。それとも、昔の女の尻見て欲情しておるんか? 滾っちょることだけはよぉ、わかるがのぉ!」

「黙れ。お前の下賤な言葉など聞いている気ではないのだ。ああ、そうだ、俺はずっと待ち望んでいた。二つの選択肢のうちの一つ、それがようやく俺の目の前に現れたのだから。

 なぁ、お前も感じ取っているだろう。俺は―――未来のお前だよ、幽雫宗冬」

「ああ、何となくそんな予感はしていたよ」

 対峙するのは、世にも珍しいといえばいいのか、そんなことは実際は起こりえないというべきなのか、幽雫宗冬と幽雫宗冬、全く同じ人物が未来と過去の姿に分れて対峙している。どちらが明確に口にしたわけではない。だが、互いに自分たちはこの相手を倒さなければならないのだろうというある種の運命的な物を二人は感じ取っていたのだ。

 そう、これこそが辰宮百合香と共に消滅をすることなく残り続けた幽雫宗冬の未練。

 もはや未来では終わってしまった存在ではあるが、そんな自分にもやれることが残されているというのならば、それはきっと伝えるという事だけなのだろうと思うから。

 過去と未来の自分の対峙、それがあらゆる奇跡を凌駕したうえで実現する。

 だが、そんな宗冬の想いを無視するように、いいや、最初からそんな者は視界の隅にすら入れていないかのように暴虐の化身たる地響きが巻き起こる。

 こちらも言うまでもないだろう。それはすなわち、龍の咆哮。荒廃した星の化身とも呼ぶべき存在が、サータ・ホーグラと並ぶ最強の百鬼陣が、タタリとして再びこの場に顕現したのだ。

「空亡は怒っちょる。それは何故かいうんなら、答えは一つよのぉ。おまえさんの抱える信念、それが星からすれば看過できんちゅう話じゃろうに。

 なぁ、全人類の勇者様。その名を気取るゆうんなら、己の信念ぶつけて、星の化身に納得させてみろや!!」

 

邯鄲再世戦争――第二十四戦

壱 幽雫宗冬     対 幽雫宗冬

弐 オルフィレウス  対 キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジュワ

参 結城友奈     対 百鬼空亡

 

「百鬼空亡……」

「オン・コロコロセンダリマトウギソワカ。其は忠成るや?」

 さぁ、忠を示せ。お前が真実、世界を救いたいと願っているのならば、その真価を自分に示して見せろと敗亡の龍が咆哮を上げる。

「きっと受けて立たなければいけないことなんだよね。私が私の口ずさむ道を進むためには。この星にも協力してもらわなければいけないから」

 人類だけではバァルに対抗できない。自分たちを支えてくれているこの母なる大地にも協力してもらわなければ絶対に成立しないと分かっているからこそ。友奈はかつて未来世界に置いて絶対的な破壊の化身であったそれに真っ向から対峙することを決めた。

「勇者部五か条――なるべく諦めない。為せば大抵何とかなる!」

 その言葉を胸にこの万仙陣における結城友奈の初めての戦いが幕を開ける。

 敵はタタリと言えども、星の化身。人間には絶対に打倒することのできない恐るべき破壊の化身。それを相手に、どのように調伏するのか。戦いを見守る狩摩はそれを以て友奈という存在を図ろうとしている様子だった。

 

――学園都市第七学区・第二十五戦域――

 そして、もう一つ、友奈たちと空亡たちとの戦いが始まる頃、大規模な戦闘が始まろうとしていた。

 最もその一つの戦いは既に終わりを迎えようとしていた。

「天座失墜・小彗星ッ」

 天より落下してくるのは巨大なる名状しがたき存在の一つ、外なる神の眷属たる存在であるダゴンが、自身の身の丈よりもはるかに小さな銀の流星によって天より蹴落とされ、その命脈を絶たれたことの印であった。

「ほぉ、やりおるな。ダゴンは確かに圧倒的な力を持つ輩ではなかったにしてもこうもあっさりとは。なかなかどうして奴らの中にもやりおる者がいるではないか」

 その戦況を見てタイタス・クロウは笑みを零す。面白い、実に面白い。ならば、自分もこの戦場に再び馳せ参じることこそが肝要であろうと踏み込む矢先に―――

「主よ、出過ぎた真似かもしれませんが、此度はお任せを戴きたい。何せ――これは私にとっても因縁深きものであるがために」

 カチカチ、カチカチ、時計の音、時計の音がその場に静かに響く。何一つ揺るぐことはないように白銀時計の主は己の相手を見据える。

「現在時刻を観測した。総てはカストディアンの統治する世界のために。歴史は何一つ変わらない。上条当麻、立華奏、お前たちは此処で私が仕留めよう」

 

邯鄲再世戦争――第二十五戦

壱 湊斗光      対 ダゴン

弐 アレイスター   対 テムオリン

参 上条当麻&立華奏 対 クロック・クラック・クローム

 

「ふふ、上条当麻と立華奏は我らにとっても重要な人物。楽しんでしまうタイタス・クロウに比べればクロックに相手をしてもらう方が確かに正解ですね。勝ち筋は見えたと言えましょう。どうせ、貴方は私には一矢報いること泣出来ないのですから、アレイスター、憐れな敗残者」

「邪神の使徒……、貴様は何があろうとも放ってはおかん!」

「勝てない癖に笑わせますね」

 テムオリンは嗤う。目の前の憐れな魔術師を。誰よりも自分たちを憎みながら、誰よりも自分たちに勝てる可能性のない相手を。

 さぁ、絶望の宴を始めよう。次もまた再び、向かってくる彼らに絶対の絶望を叩きつけるのだ。それこそが役目。ロード・アヴァン・エジソンの願い。

 ナイアルラトホテップに心血を捧げた法王の願いだと。

「笑わせるなよ、邪神ども。最後に勝つのは、この私だ。アレイスター・クロウリーだ」

To be continued

 

次回――邯鄲再世戦争第三部第二十七話「ホシトハナ」