アルティメット凌駕さんはもう永遠神剣級とかそのレベルの奴じゃないと相手できないから今回の話し限定やで。

――学園都市第七学区・第二十七戦域――

 あらゆる距離を超越する虚数空間の力を是とした緋文字礼の力、あらゆるエネルギーを制御することに長けた秋月凌駕の力、しかし、それら二つを掛け合わせたとしても勝利をすることはできなかった。天魔・憂流迦にはもう一つの心装真理へと至った力を下地としたものがあったからだ。

 神格としての力を得ているのと同時に既存科学では絶対に打倒することができないその力を得ているからこその絶対性を獲得しており、それは刻鋼人機であったとしても崩すことはできない。いつかは打倒されるにしても今は打倒されることはないであろうという絶対的な在り方を獲得しているからこそ、それは常にこの戦場に置いての優位性を獲得してきた。

 だが、その絶対性を獲得した本来存在しえない天魔はこの瞬間に、直感ともいうべき判断を下して己の持ち得るあらゆる技を駆使して、目の前に立ちはだかった、あまりにも矮小な人間一人を駆逐するための攻撃を次々と繰り出していく。

 そう、目の前に立つ男は秋月凌駕、超越者と呼ばれ、憂流迦の攻撃を前にして一度は挫けようとした男が再び立ち上がったのだ。

「天魔、お前の来歴を俺は知らない。どうしてお前がそんな風になったのか、もしもの世界の中で俺とアイツが何を選んでそうなったのか、それは知らない。知った方がいいのかもしれないし、知る必要などないのかもしれない。

 だが―――その上で言わせてもらう。お前はこの世界には不要だ。いつまでも、本来存在してはいけない奴がのさばり続けているんじゃない!!」

 天魔・憂流迦が咆哮を上げると同時に自然現象として引き出された無数の雷と焔が凌駕へと襲い掛かり、同時に憂流迦がその巨体を以て再び光速にて凌駕の五体を今度こそは粉砕するために突貫を仕掛ける。

「ああ、そうだな。次にまともに受ければ俺の身体は砕ける。今だって満身創痍だ。いつ意識が途切れてもおかしくはない」

 だが、その途切れる前に何があってもこの天魔だけは仕留める。その決意だけは揺るぐことなく。

「だがな、捕捉できると思うなよ!!」

凌駕へと憂流迦が触れようとした瞬間に、凌駕の姿が全く異なる次元へとその姿を映し、対して触れたという事実だけを残した虚影が憂流迦の身へと森羅万象の制御の力を叩きこむ。

「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」

 思わず憂流迦は初めてこの戦いの中で絶叫を上げた。それは相手を屠るための絶叫に非ず、自らが初めて明確に誰かによって傷つけられたことへの衝撃と自分の命を脅かすかもしれない存在がついに姿を現したことへの衝撃だった。

 何故、先ほどまで触れることすらできなかった憂流迦へと触れることができるようになったのか、それは単純明快な話しである。

美琴の心装心理をも制御して取り込んだ凌駕は次元間に動き回ることによって攻撃を回避していた憂流迦と全く同じ立ち位置へと自分を押し込めることに成功したのだ。

結果として何が起こるのかは言うまでもない。憂流迦が何処にいるのかを捕捉することさえできれば、その次元へと移動することさえできてしまえば、あらゆる距離も、どんな力であろうとも秋月凌駕は制御することができてしまうのだから。

 対して憂流迦はあらゆる距離への攻撃を行うことができない。それは仕方のないことだ。たった1人、憂流迦はその相手を具現化の際に取りこんではいないのだ。全く同じ能力、全く同じ人物の闘いと形容されたこの闘いではあるが、実際の所は違うのだ。

 秋月凌駕は三人の力を抱えている。彼の力だけではなく、彼にとって最も大切であった2人の人物が彼の戦いに手を貸してくれている。倒れそうなその背中を支えてくれている。たった二人の存在を編成した存在に対して三人で戦っているのだから、それが上回るきっかけになるのは至極当たり前のことだ。

 勿論、心装真理を持ち得ているからだという捕捉は必要であるのかもしれないが……

 そして、攻撃が通用した時点で凌駕は自分がこの戦いに勝利できるであろうことを確信した。凌駕と憂流迦を分ける最大の焦点はその次元間移動を彼が捕捉することができるかどうかという一点であった。憂流迦はそれを捕捉することができるが、天魔はあえてそれを使っていなかった。

 何故であるのか、合理的に考えればその力を使う事こそが天魔にとって最も楽な勝利をするための方法であり、むしろ、どんな相手がいたとしてもその巨体も相まって勝利をすることが可能だっただろう。

 しかし、できなかったのは―――天魔・憂流迦という存在が天魔という存在に縛られていたからである。

 憂流迦は創作上の存在、どれ程の矛盾を抱えていたとしても、人々の妄想によって生み出された存在であるがために、最大公約数の妄想が形となって出現する。

 その中で観衆たちはこう考えたのだ。天魔とは絶対的な力を振るう存在、であれば小手先の技術などを使わずに、強大なる力を振るって敵を滅ぼす存在でなければならないと。

「何となくだが分かるよ、お前も結局は被害者なんだろうけどな」

その発想の何と傲慢なことだろうか。そもそも観衆たちは憂流迦という存在を生み出す中で、夜刀に勝てる存在などというモノを求めていない。

あくまでも夜刀に従属する存在として生み出されている憂流迦は限界を突破し、最強の存在へと変貌することも許されていない。生まれた時から限界を定められているのは人間も同じかもしれないが、憂流迦は明確に誰かの意思がそこに介在してしまっているのだ。

それを悲劇と呼ばずになんと呼べばいいのだろうか……

「さぁ、終わりにするぞ!」

 終局は突如としてやってくる。それが呆気ないと貴方は考えるだろうか? しかし、極限の戦いなどこんなものである。秋月凌駕と憂流迦はある種の同族、そこに全く異なる要素を入れ込んだ者が存在するのであれば、それがプラスに作用する限り、絶対に敗北することはありえない。ましてやそれが天上の存在であるのならば。

 この瞬間に秋月凌駕は確かに天上の存在、天魔と呼ばれる者たちが存在しているステージにまで超越者としての格を昇らせたのだ。

二人の心装真理を掛け合わせたことによって、時計の王を超越した時のように、三人の心装真理を掛け合わせたことによって、今、秋月凌駕は、1つの限界を突破した。

 時計の王と友誼を誓った男が口にしたように、限界進化すらも超えて、秋月凌駕という超越者が引きだせる力の限界の限界までをも搾り出しているのだ。

 それは一時のドーピングまがいの行動でしかない。もう一度、後に再現をしろと言われても絶対に不可能だろう。元々、緋文字礼との力を重ねあわせることですらも実際には不可能に不可能を重ねあわせたからこそできた力であり、そのさらに上を行く行為など起こりえない。

 だが、起こってしまった。無数の失敗の選択肢をすべて排除したうえでたった一つだけの正解を掴みとったのは彼がもはや距離と次元、その二つの概念すらも制御できる、およそ世界そのものへと干渉をすることができる存在へと変貌を遂げ始めていたからに他ならない。

 言うなれば、秋月凌駕は今や彼の制御能力の使い方一つで因果律にまで干渉することも可能となったのだ。森羅万象を制御し、あらゆる距離という概念と次元をも超越し、虚数区間という可能性すらも掌握した。

 もはや彼の掌に掴めぬ者など何もない。それを神と呼ばずになんと呼べばいいのだろうか。凌駕はこの憂流迦との戦いの末にその領域にまで至ってしまったのだ。

「っっっ!!」

 しかし、それが凌駕にとっては重荷になっていることも事実だ。

 今、この瞬間に至った存在としての強度を保つことに凌駕は腐心する。むしろ、憂流迦という存在を霧散させるために使う力よりも己の存在を確立させることに腐心しなければならないほどに今の自分自身は中庸とはかけ離れている。

(身体が気を抜けばバラバラになってしまいそうだ。どれだけ心を安定させようとしても、次の瞬間にはすべてが吹き飛んでしまいそうなほどに、身体が言う事を聞こうとしない。礼の可能性世界の心装真理と俺の制御を使ってようやく自分を保たせているのが精いっぱいだとは……)

 それが神という存在の立ち位置にまで登り上げようとする人間に対して世界が向けた仕打ちであるとすれば理解もできるだろう。

 結局、どれ程の超越者となりえる存在であったとしても人間には、神という存在へと昇りあげることは分不相応ということなのだ。だからこそ、歩くような速さで進んでいくことを凌駕は認め、もう一人の超越者から決別を果たした。

(俺の選択は正しかった。こんなバランスを保つこともできないような存在が進化の果てに至る可能性だったとしたのなら、俺はそんなものは必要ない。そんなものにはなりえない、ただの人間で十分だ!!)

制御を施しながら、憂流迦という存在を解体していく。これまで、無双を誇ってきた天に坐する絶対的な雷鳥は、その存在をあまりにも呆気なく崩壊させていく。

しかし、それは決して楽な道ではなかっただろう。

もしも、闘っていたのが凌駕と美琴でなければ、この天魔を倒すためにどれ程の犠牲を払わなければならなかったのだろうか。

 絶大なる戦力、しかし、それを屠るのは結果的にそれを凌ぐほどの絶大な力を手にした存在であったのだ。

「お前が何を求めていたのかを知らない。そんな劇的な出会い方をしたわけでもなく、俺達は最後までただの敵と味方だった。だから、俺はお前を理解できない。どんな存在だったのか、どんな末路を辿ったのかもわからない。

 でもいいだろ、俺とお前は本来出会うことだってないんだから」

 凌駕は憂流迦が空想上の存在であることすら知らない。しかし、それを求めることはない。出会う事がなかった以上、これはただの夢でしかなく、頓着する必要もない。

 ただこの相手が自分たちにとっての最後の相手であり、出しきらなければ勝利することができなかった相手でしかない。

観衆たちにとってはそれは物足りないかもしれないが、そんな作られた因縁で戦えるほど、自分は戦いというモノが好きではないのだ。

 何処までも中庸を求め続けた秋月凌駕にとっての真の因縁はやはり時計機構に連なる者たちであり、天魔・憂流迦という存在は余計なものでしかなかった。

 それこそが―――観衆たちによって生み出されたこの天魔にとっての最大の意趣返しであったのかもしれない。

 それを夢の続きと思う事は出来ただろうか……憂流迦の姿が崩壊していく。干渉され、存在という根本的な在り方を崩壊させられていく様子は総てを知る観衆たちからすれば、憐れという他ないが……、そこでその流れを覆せなかったのが憂流迦の限界という事だろう。

 天魔・憂流迦―――秋月凌駕によって覆滅される。

 それが結末、最初からまるで存在していなかったかのようにその姿を消した憂流迦を確認して、凌駕はまるで憑き物が落ちたかのように、地上へと墜ちていく。

 その落下速度や質量、あらゆる者を操作したうえで、着地するように落下した凌駕の傍には、やはり総ての力を使い果たして倒れている美琴の姿があった。

 本当はその顔を観たかったが、凌駕にはもう首を動かす力もなかった。

「お疲れ様……」

「観ていてくれたのか……」

「当たり前でしょ、あんたが勝つ姿を、見ないまま意識を飛ばせるかっての……ごめんね、力になれなくて」

 そう言葉を紡ぐ美琴ではあるが、既に体は全く動きそうになかった。これから自分たちがどうなるのかはわからないが、もはや戦闘をすることはままならないことだけは良く分かる。

 それは凌駕にとっても同じことであり、このまま意識が飛ぶのを待つことしかできない。まさしく総てを出しきった。もはや立ち上がる力も残っていない。

 ここで自分たちは脱落するのだという事だけは確信を持てた。

 まだ戦いは終わっていない。斃さなければならない相手は多く残っている。自分たちはあくまでも天魔の一つを倒したにすぎず。これから先に他の天魔たちや白儀たちカストディアンとの決着もつけることは出来ていない。

 だが、それで立ち上がるほどの気力はもう出せないと何より、自分たちが良く分かっていたから。

「託そう、後は俺達の仲間がなんとかしてくれる。そうやって思う事ができる仲間たちがいることが俺達にとっては何にも代えがたい幸福なんだ」

「ええ、そうね、後は任せましょうよ。私たちが自分で言ったことじゃない。私たちは暴れるだけ暴れて皆の援護をするだけだって。その役割は十分に果たすことができたでしょ?」

「ああ、心残りはあるけれど……」

 そう、それこそ彼女と共に最後までこの戦場の終わりを観たかった。そしてその結末を背負って、これから先の未来を見据えていたかったけれども、もはやそれは敵わないと分かってしまったからこそ。

「ねぇ、凌駕……」

「ああ」

「今度、目を覚ました時もちゃんといてね。いなくなったら承知しないから。どこまでもどこまでも探し回ってやるから。絶対に離さないでよ」

「俺からもお願いだ。これでも結構脆い所もあるんだ。だから、支えてくれ。気付かないうちに変な方向に進んでしまう事ばかりだから、秋月凌駕が人間としてありつづけることができるように、傍でさ」

「そうね、あんた、私がいないとダメだものね」

「そうさ、俺なんてそんなものでしかない」

 超越者であったとしても、秋月凌駕は人間だ、人間で十分だと思っている。それ以上を望む必要なんて何処にもないのだと分かっているからこそ、後の総てを次に託すのだ。

 そうして、彼らの意識は消え、万仙陣の中へと融けこんでいく。その行方がどうなるのか、それはこの戦いが終わらなければわからない。

 迎えるのは新世界か、万仙陣という夢の現か。それとも……、未来はまだわからない。

 まだ決まっていないからこそ、誰もが戦っているのだから。

 

シルヴィ陣営 シルヴィ(残り敗北回数2)

 

天魔陣営 天魔・夜刀(残り敗北回数2)、天魔・五馬姫(残り敗北回数2)

     天魔・飯綱(残り敗北回数1)

 

――学園都市第七学区・第二十八戦域――

 光が迸った。それは天魔・憂流迦と秋月凌駕の決着の光であり、天魔たちの命が零れたのだということをシャノンとジルオルは同時に理解した。

「ふふっ、彼らも必死だね。これで二つか。私たちにとっても君たちにとっても好ましいかね、それとも自分たちで滅ぼそうとしていた相手が唐突にいなくなってしまうことはやはり気分としてはあまりよろしくないのかな?」

「良く動く口だな!」

 一閃、シャノンの身体が両断されるがすぐさま復活し、無数の風の刃が嵐のごとくジルオルへと迫る。それは当然のようにジルオルへと届く前に破壊されるが、シャノンにとってはあくまでも陽動でしかない。本命たるものはジルオルですら捕捉することができないままに、ジルオルの体内より襲いかかってきた。

「ぐがぁぁぁぁぁ」

「さてさて、見えるものだけを迎撃しているなどと目が節穴になってしまったのか。私の能力は何も風を操るなどというモノではないよ。私が操っているのはサイコキネシスだ。さすれば大気中に私の力を織り込ませたうえで自在にその力を君の中へと忍びこませるくらいのことは――――」

「言いたいことはそれだけか!!」

 ジルオルの刃は何度でもシャノンを切り裂く、意味があるかどうかなど関係ない。彼は破壊神と呼ばれたほどの存在であり、相手を倒す力がある。であれば切ることだけだ。

「貴様は何もわかっていない。ただ自分の進化のことしか考えていないからわからないだろう。どうでもいいのだ、貴様が技の博覧会でもするというのならば勝手にやっているがいい。俺はそれを全て潰すだけだ!! 何を貴様は勘違いしている。まるで童が自分の手柄を必死に認めてほしいというように声を上げているかのようだ。

 そんなにも己の進化を認められなければ満足できないか。阿頼耶識という存在に変質しておきながら、貴様はやはり己の妄執を捨てきることができていない!」

「言ってくれるものだ」

 ジルオルとて決して楽な戦いをしているわけではない。シャノンの攻撃は絶えずジルオルの身体を貪っており、身体の内外それぞれからジルオルは攻撃を受けている。

目に見える攻撃をしているジルオルに対してシャノンはまさしく自分の進化の功績を見せつけるかのようにあらゆる想定外の攻撃を続けており、総てに対応できているわけではない。耐久力も時間を置けば置くほどにシャノンは高まっている。

 まさしく怪物だ、進化をするというたった一つの目的のために何処までも進化をしていく存在、他の誰かと共に何かをしたいのではなく、ただ己が高みに昇りたいというただ1人の欲求を何処までもどこまでも追及してしまった結果として生まれた怪物。

 そんな男が人類の普遍的無意識のガイド役として選ばれたこと甚だ皮肉としか言いようがないだろうとジルオルは思う。

「なぁ、シャノン・ワードワーズよ、ただ進化することだけを求めた者よ。貴様がこのまま存在し続けることによって愚かな野心を抱かぬと何故言える。俺はタタリとしてこの世界の敵となることを選んだ。だが――お前だけはやはり切り捨てなければならないと確信した。この刃で武を重ねあわせたことで強く理解したぞ、お前はやはり世界に存在していてはならないものだと」

「心外な言葉を何度も何度も重ねられるな、今の私もまたタタリだよ、既に願いなど使い尽くしたというのに」

「果たしてそうか―――?」

 ジルオルははっきりと、彼の中で推測にしか過ぎないがある種の確信を覚えた上で言葉を発した。

「貴様の限界はかつての大戦で露呈した。だが、あの時のお前は夢という力を使えていたわけではない。二つの世界が一つになることによって人間が夢を使いこなすことで限界を突破できるのならば、ほんの僅かでも進化の可能性があるのならば、貴様は再び彼女たちの敵になるよ。断言しよう、貴様はこの世界に存在していてはならない!」

 ジルオルは断言する、彼女は結城友奈に選ばれた守護者などでは断じてない。ほんの僅かでも自分にとって利する何かを見つけたのならば即座に自分のためにそれを執行する存在なのだと。言われずとも理解ができる存在だからこそ許せない。

「シャノン・ワードワーズ、俺が言えた義理ではないが、お前の道理に世界を付き合わせるな、彼女たちの純真は貴様に穢されてイイものではない」

「くく、それが君の本心か。なるほど、少女の無垢な願いに世界を付き合わせようとした善の心を信じる者はやはりいう事が違うな」

「―――――――貴様はッ!!」

 天叢雲が光り輝く、それはジルオルをして最強と言わしめた叢雲の力、イモータルウィルと呼ばれるその力をジルオルは怒りのままに発した。それは平時であれば隙でしかない行動だったかもしれない。

 だが、ジルオルの怒りはもはや前後を失わせるようなものではなかった。むしろそれは決意だ。この邪悪はタタリや陣容というモノの如何を問わずにここで消滅させるほかないという絶対の決意が力となって生じる。

「困ったものだな、私はただ私の真実を語っているだけに過ぎないというのに、それを全く理解しようともしてくれないとは。これでは私がただの道化のようではないか。しかし、それで君の全力をさらに上回る一撃が来るのならば、それを歓迎しよう。

 さぁ、私の進化のために更なる力を見せてくれ!!」

「貴様は何処までもォォォォォォ、イモータルウィル!!」

 破滅させるための一撃が放たれる。それはあの破壊の神スサノヲすらも吹き飛ばした絶対的な一撃である。シャノンは己の全身周辺に強力な防壁を編み上げるとともに己の生み出したサイコキネシスによる迎撃のための術式を編み上げると、それをもってジルオルの攻撃の後の先を制するための一撃を放つ。

「―――――――――」

 だがしかしである。それはあくまでもシャノンが想定しうる攻撃であればである。予想も出来ていなかった。考えもしていなかった。自分が張り巡らせた防壁も何もかもが一瞬にして蒸発し、自身の進化のために施した力の総てがまるで浄化されていくかのように力を失っていくのだ。

「貴様は忘我しているようだな、天叢雲は全てを切り裂く。貴様がいくら進化しようともそれが永遠神剣の力によるものであるのならば我が刃は切り裂く。他の誰にも使いこなすことができなかったとしてもイモータルウィルを使いこなすことができる俺だけはそれができる!!」

 ただ1人、天叢雲剣という聖遺物の総てを使いこなすことができる存在、聖遺物に真実の意味で選ばれた男、彼だけが使える浄戒という力、その力の真価を発揮すれば、例えどれ程の進化をシャノンが施したとしても全ては泡として消えていく。

 残るのはただその場に存在するシャノン・ワードワーズという裸の魂だけだ。その個人の総てを曝け出された魂は、これまでの総てを断罪するとばかりに力の総てが吹き飛ばされていく。

「くく、はは、素晴らしい、実に素晴らしいな、ジルオル。ああ、理解してしまったよ、私は君には敵わない。どれ程の進化、どれ程の別の可能性を手繰り寄せたとしても、こうして向かい合った時点で――――」

 自分はこの破壊神に勝つことはできないのだと理解させられた。それは進化を求め続けたシャノンが認めたくもない事実ではあるが、向かい合わなければならない障害であったのだ。

「良いだろう、今は負けを認めよう。私は君には勝てない。しかし、次は、必ず、必ずや――――」

「次などない。最早俺もお前も再び逢いまみえることなどないさ。俺達は所詮、この世界には必要のない部外者同士。それが二度も繋がることなどあるはずがないのだからな」

 圧倒的な力の差を見せつけた上で、再起を望む言葉をも斬り捨てる。それにて決着はついた。ジルオルは己の勝利も相手の敗北も讃えない。相手を破壊したことを喜ぶこともしない。

 高潔なる戦士であった彼にとって、この戦いはただの醜いシミでしかなかったかのように、振り返ることなく闘いを終わらせたのであった。

 そう、ジルオルも焔王鬼の気持ちを汲んでいる。既に彼が結城友奈という少女に見出した可能性に基づいて戦っていることをジルオルは深く理解しているからこそ、余計に自分が目の前で戦っている黒幕気取りの男を許すことができなかったのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

 焔王鬼の放つ焔と斬撃を満開第二階層の損傷を無視しながらも友奈は前へ前へと進んでいくために破砕点を狙い続ける。破砕点を狙うという行為そのものが彼女にとっての弱点となりえる、そう焔王鬼は考えて動いたが、実際の所は違うのだ。

(そもそも、彼女の言う破砕点なるものが何処に存在しているのかなど俺には分からない。攪乱なのかどうかも分からない攻撃、されど、それが一撃必殺になりえるかもしれない攻撃がこう何度も何度も迫ってくることがこれほど厄介なことであるとは)

 天魔たちのような理解することもできない極限域の攻撃が飛んできているわけではない。あくまでも理解できる範疇内での攻撃が飛んできているわけだが、理解ができるからこそ、脳がその攻撃を受けるということを阻害する。

 結城友奈という少女はおよそ闘い向けの性格をしている少女ではない。怖れを抱き、身体を震わせ、自分のために戦うことができない少女だ。戦場という過酷な地獄の中で誰かの支えがなければ生きていくことができないちっぽけな存在でしかないだろう。

 だが、その闘う条件が揃ってさえいれば、彼女は何処までも羽ばたくことができる勇者へと変貌する。忘れてはならない。未来世界におけるIP序列第三位高嶋友奈と結城友奈はあくまでも同じ存在であるということを。

「その気合い、その意思、受け取った。だが、貴様はそれを貫き続けることができるか! 己が背負った者たち、己がその背に背負うと決めた意思の力、それがお前を突き進めている時は構わん。総てを力に変えればいい。だが、お前は必ず気付く。その力がお前を苛むことになることを」

「そんなのは、本人から言われて分かっている!!」

「―――――ッ!?」

 さしもの焔王鬼もその言葉には意味を理解することができなかった。結城友奈という少女は自分の未来を知っている。高嶋友奈というもう一人の自分によって告げられた未来予想図、そこにいるのは誰かの想いを背負い続けた結果として壊れてしまっただけの女性だった。お前も必ずそうなる。そうならないことなんて絶対に有り得ないと呪いじみた言葉を吐かれたことは友奈にとってもある種の転換点だった。

「だけど、それでも私は選んだんだ。その選択がいいって見つけたんだ! 誰かに頼らなければ未来を決めることができないなんて嫌だ、

私は私たちで未来を決めるんだ。迫ってくる怖い存在がいるのなら、勇気を出して立ち向かっていく。それは私たちが教えられてきたことで、遥か昔から、私達の未来を護るために誰かがやってきたことなんだ。

 怖い、苦しい、嫌だ、止めたい!―――でも、そのバトンを手放す事だけはしたくない!!」

 受け継がれてきたものがある、それを手放していい理由にはならない。だったら、皆で乗り越えて行こうと声を高らかに歌い上げたあの瞬間のことを忘れてはいない。自分の運命が戦い続ける限り、必ず悲劇に向いていくのなら、その悲劇を受け入れて進む。

 それで守れる命があるし、悲観なんてさせない。

「だから私は――――勇者なんだ!!」

 それを遂行できるのが勇者だという言葉を前に進むための最大の燃料道具として、驚きによって思考が空白となった焔王鬼へと破砕点となる場所への拳を叩きつける。

「がっ――――まだだ!!」

 だが、倒れない。その程度で倒れるような無様さを焔王鬼は認めない。まだ倒れるわけにはいかない。

「焔王鬼さん、貴方の言うことは正しい。きっと、私と同じことを想って、同じように進んで、私が知らない結末を迎えた人、私を理解できる人。

だからこそ、貴方の言葉はとても重い。今の私にはすべてを理解できているわけではないけれども―――それでも、私は進みます。貴方がそれほどの言葉を掛けてくれたことが、私の信じる勇気が間違っていないことだと思いたいから!!」

「戯言を。俺はそのようなことなど考えてはいない。総ては徹頭徹尾、俺の覇道をやり直すために。そうだ、俺は――――」

 ああ、あの日に穢土へと向かうことを決めた日、東征軍総大将になると決めた日、清々しさと同時に感じた背負った重み、いつかこれが自分を擂り潰すであろうと僅かな予感を覚えていたあの頃、英雄としての名声を積み重ねていけばいくほどに背負った重みに押しつぶされかけるのを大いなる克己心で跳ね返していた。

 それを彼女は――――それこそが自分を進ませる原動力であると語るのか。

 似ているようで非なる在り方。どこまでも誰かに付き添う自己犠牲と紙一重の考え方。天狗の理に生まれた存在には決して抱くことはできないであろう考え方ではあったが、

「なるほど、それがお前の魂の向かう先か。それはそれで面白いな」

 受け止めていた刃の穂先が僅かにずれる。それは破砕点を逸らすための行動に似ていたが、友奈はその一瞬に、破砕点へと届く道筋を見出した。焔王鬼とは思えないような身体の動かし方だった。

(誘っている――――? でも!)

 されど、この千載一遇の機会をみすみす逃すことなど出来るはずもなく、友奈の拳はまるで呑み込まれていくかのように焔王鬼へと飛び込んでいく。

「見事だ」

 その言葉を受けたその時に友奈は確かな叩き付ける感覚を覚えた。それはこれまでに圧倒的な猛威を振るってきた相手であるというのに、それはあまりにもあっさりとしすぎてしまっていたからなのか、現実感を喪失してしまっているかのように思えたのだ。

 しかし、膝から崩れ落ちる焔王鬼の姿に徐々に現実味を覚え始めている。自分がこの目の前の男を倒したのだという確信に近い思いをしっかりと抱くことができるようになり始めていたのだ。

 現実感はあまりにもない。しかし、それが紛れもないほどの現実だったのだ。

「どうした、敵を下したのだ。もっと喜べばいいではないか」

「だって、それは―――」

「言っておくが、わざと負けたなどというなよ。俺はお前に負けた。これが事実だ。それ以外の何一つとしてない。俺の中で創り上げた聖約の上では俺は負けたのだ。だったら、それが全てだ。天狗の理の中で、あのような行為に走った者として、この聖約だけはどんな矛盾をはらんでいたとしても俺は撤回するつもりはない」

 例え、友奈がどんなことを口にしようとも焔王鬼は絶対にその言葉を取り崩すことはないとばかりの反応だった。彼の中でどんな帳尻合わせが行われたのかは正直な所、友奈にも分からない。しかし、彼がそれを盾にしただまし討ちなどをする相手ではないことは良く分かっている。

「早く行くがいい。お前以外の二つはこちらが取らせてもらったようだが、何、大局を見ればそうそう悪い結果でもないだろう。お前が俺を越えたという事実、それは必ず後々に響いてくる。だから、今は己の抱えた事実を以て先へと進め。雄々しく、それがお前の語る勇者なのだろう?」

 焔王鬼は自らの脚でもう一度立ち上がり、攻撃をしたことで残心の態勢にあった友奈の横を立ち上がり通り過ぎるとそう告げた。振り返る友奈はその背中に明確に告げられる。

 ―――お前の道を進め、と。きっと誰よりも結城友奈の歩む茨の道の険しさを知る先人である男は、己の戦士としての勝敗すらも度外視して彼女を先に進めるという選択をした。

 その選択が決して軽い気持ちによって行われるわけではないことは友奈でも理解できる。この戦いで出した決断にもまた彼の生きざまは乗せられているのだ。ここで彼の言葉を理解できないことは、彼の生きざまを否定することに繋がると思うからこそ、友奈は戦闘が終わった宗冬やシャノンの下へと一目散に駆けた。

 その一瞬に僅かに交差した視線と視線、言葉すら交わす必要はなかった。同じ思いを抱き、同じように戦った戦士だからこそその視線に理解できる物があったのだ。

 ――お前は貫け、そう短く、されど絶対の意思を込めた視線が共有されたのであった。

 

邯鄲再世戦争――第二十七戦

壱 幽雫宗冬 対 弥勒影斎

→幽雫宗冬敗北(残り敗北可能数1)

弐 シャノン 対 ジルオル

→シャノン敗北(残り敗北可能数1)

参 結城友奈 対 焔王鬼

→焔王鬼敗北(残り敗北可能数1)

 

友奈陣営 結城友奈(残り敗北回数3)、幽雫宗冬(残り敗北回数1)

    シャノン(残り敗北回数1)、オルフィレウス(残り敗北回数2)

 

焔王鬼陣営 焔王鬼(残り敗北回数1)、ジルオル(残り敗北回数2)

      敷浪道眼(残り敗北回数1)、弥勒影斎(残り敗北回数1)

 

「どうした? まだ戦えただろう。上条水希との戦いの時のように、限界ギリギリにまで体を酷使すれば、お前はまだ武器を振るう事が出来たはずだ」

「ああ、できたな。だが……俺の心が負けを認めることを許した。ならば、それで終わりだろう」

 戦いは終わった、シャノンとの激戦を終えたジルオルは共に傷ついた体のままに姿を見せた相棒である焔王鬼に敗北の意味を問い、焔王鬼はそう答えた。

「俺は戦士だ、己が勝利を貪るためには己の限界以上の力すらも振り絞ることを辞さない。だが、あくまでも俺は泡沫の存在でしかないのだ。真に未来へと進む意志があると認めた者の足を己の妄執で止めることは許されない。

 俺にとってこの世界は背負う必要のある何かが存在する場所ではないのだからな」

 共に同じように背負う者の意味を知るモノであるからこそ、誰よりも全力でその意味を問いただした。その上で、そこに意味があると見出すことができたのならば、道を譲ることこそが正道であるのだとこの男は確かに理解をしている。

 そこに女であるとか、少女であるなどということは一切関係がないことを焔王鬼はよく理解している。

 タタリとして蘇り、ロビンフッドの敵として立ちはだかった。だが、心までもをカストディアンにくれてやったつもりは毛頭ない。

 彼は彼の思想と信条の下に戦いを繰り広げる。資格がない相手であれば容赦なく屠ることを辞さないし、全力を持って戦うことを誓ってはいるが、それは最終的に自分が勝利者になるための闘いではないのだ。

 必ずそれを越えてくれる者が現れるだろうと信じ、自分の苛烈なまでの試練を超える者がいれば、それに道を譲ることを大前提としているカラの闘いなのだ。

 そして漸く焔王鬼は、そんな相手を見つけることができた。ならばこその敗北であり、そこに一切の後悔はない。

「この世界と呼び出したカストディアンへの義理はこれで果たしただろう。ここからは俺の道を進む。お前はそれでいいか、セイバー」

「釈然としない思いはある、出来る事ならば最後までこの戦いの行く末を見届けたいという想いはあるが……ふん、相棒の願いならば聞き入れないわけにもいくまい。俺のやるべきことは十分だ。十分に因縁は晴らした。後はこの世界の強さに託すさ。お前のようにな」

「苦労を掛ける」

 告げて焔王鬼たちも歩みを進めていく。それが何処に進んだのかは誰にもわからない。

 唯一つ明らかであることは、最早彼らがロビンフッドの障害として表舞台に立つつもりはないということ。それを証明するように彼らはこの戦いよりしばし姿を消していくこととなる。

 彼らが再び姿を現すのは、彼らにとっての因縁の終着点たる相手の場所であるのだから。

 

――学園都市第七学区・第二十九戦域――

「合流して早々に悪いね、僕としてもありがたいよ。あの天魔たちの相手をすることになるとどうしても、手間がかかってしまうからね。君たちが逃げるための手引きをしてくれたのはありがたかったよ」

「なぁに、たまたま近くにおったからそうしただけっちゅうことよ。俺らも今となっては弱小もいい所じゃからのぉ。あの暴れ馬を背負ったままに道中2人っきりなんちゅうんは背筋が寒くなって仕方がないからのぉ。大将を利用させてもらったっちゅうことよ」

 夢界六勢力、辰宮と空亡、双方が倒れたことによって残っているのは盲打ちと鋼の女王だけであった。彼らはその少ない勢力のままにネスツが潰滅の憂き目にあい、再びそのメンバーの数を減らしていた白儀の下へと参じていた。

 二度目の合流を果たすことになる白儀側としてはそれを受け入れないと告げる道理は一切ない。むしろ、彼の性格からすればそれを受け入れることが当たり前程度の反応を示す事だろう。

 誰が相手であろうと白儀響という少年の反応は変わらない。味方には味方への、敵には敵なりの反応を行っており、それが誰か懇意の物であるから、憎しみを覚えているからといった対外的なものである変わるはずがない。

 彼は世界そのものなのだ、夢界という巨大な力の渦の中に存在しているのだから、そこに貴賤が存在するはずもない。

 よって、狩摩としては実にやりやすい相手だった。総ての策に勝手に嵌ってくれる相手など盲打ちからしてみれば、これほど相手をしやすい者もいない。

(まぁ、もっとも、あんならとて、こんならの考えていることなんざお見通しじゃと思うがのぉ)

「さて、壇狩摩。別に僕は君を咎めるつもりは一切ない。僕はこの戦いを心の底から楽しんでいるからね。だから、どんな相手が来たとしても、どんな罠が潜んでいたとしてもすべてを認めて、総てに付き合うつもりでいるよ。その上で問おう。君は誰の前に僕を立たせたいんだい?」

 白儀響は理解している、夢の主としてタタリとして呼び出された者たちの思惑などはっきりと理解している。壇狩摩という人物の在り方、それは彼が盲打ちであるという事実、そして、変わることなく彼が……、カストディアンにとっては敵であるという事実に他ならない。

「くはっ――――最初からわかっておったが、あんた、随分と狸じゃのぉ。全部わかったうえで俺の策に乗るんいうんは。少し馬鹿にし過ぎじゃろうに」

「そうでもないさ。これでも楽しみにしていたんだ。どんな手を打とうとも絶対に勝利をするという盲打ち、壇狩摩の一手。それが――僕という存在に対してどこまで有効なのかを知りたいと僕は思っているんだからね」

 そうだ、これもまた好奇心の一つに過ぎない。自分は果たしてどこまでやれるのか。世界は夢界という存在に抗いきれるのか。それを知りたくて仕方がないから。

「そうかい。なら味わってみればええわ。壇狩摩が打った打ち手がお前さんにとってどう映るのかをなァッ!!」

 そうして、告げた言葉に呼応するように、白儀響という男の首筋に銀の刃が奔り、そこから血が一瞬にして噴き出した。

 それは言うまでもなく一瞬のうちに起きた殺人術、必勝を期した埒外からの攻撃に白儀響は自分の身体が傷ついたという事実を受け入れつつ、実に興味深いという表情を浮かべて嗤った。

「ああ、そうか。そういうことか。なるほど、確かに彼らならば勝ちの目もあるかもしれないね。ようこそ、歓迎しようか。冥王、そして月女神」

「ちっ、やっぱり効果はほとんどないってか」

「随分と上機嫌じゃない、夢界(カナン)。そんなに嬉しいのかしら。自分が目論んでいたことが全部成就しようとしているっていうのは。そんな者は少しらいままならないものが存在するからこそ映えるものではなくて?」

「ああ、そうだね、上機嫌だよ、かつて僕たちの時代より存在する君と人間たちの普遍的無意識によって生み出された僕。そのどちらが優れているのか、どちらが世界を呑み込むのにふさわしいのかそれを決する時が来たんだからね」

 奇襲による一撃必殺、それが失敗したことを理解するとすぐに対象であった白儀より距離を取り、仕掛け人であるゼファーとヴェンデッタは臨戦態勢へと突入する。

 そう、別に狩摩はゼファーたちと内通をしていたわけではない。だが、狙うべきところは両者ともに共通している。

ゼファーにとってはカストディアンの一人として確実に始末をしなければならない相手であり、狩摩の視点から見ても、ゼファーは白儀を討つことができる数少ない存在の一人であると考えたからこその采配であった。

「いいよ、やろうか。僕としても君たちに痛手を負わせることができるのならば、悪くはない。何せ、僕だけでは世界を完全に塗りつぶしてしまうんだ。僕が求める世界を生み出すには神座システムを使って僕を安定化させるしかない。だから、最終的には君が必要なのさ」

 もっとも、白儀が執着しているかと言われればそうでもない。誰かが神座システムを確保したならばいずれ広がっていく自分と決着をつけることになると分かっているからこそ、あえて積極的に動かなかったが、目の前に現れたのならばその機会を放り投げるつもりはない。

「奴はゼファーに任せるのが得策か。であれば、私はアドラーでのやり残しを終わらせるとするか。なぁ、そうだろう。グルジエフ。貴様、今にも飛び込んできそうなほどの殺気を、私に向けるのはやめてもらいたいのだがな」

「貴様、チトセ・朧・アマツかァァァァァ」

「そうだよ、キーラ・グルジエフ大佐。客将として御身には世話になった。だが、御身は第三次関東会戦で名誉の戦死を遂げられたとヴァルゼライドからは聞かされている。そんな言い方をされるくらいだ、決して表に出せるような終わり方をしたわけではないのだろう。だからこそタタリなどという姿でここに出てきてしまったのだろう?

 いいよ、付き合ってやる、共に肩を並べあった仲だ。貴様が抱えていた闇諸共、私が吹き飛ばしてくれよう」

「少し優秀な星辰奏者風情が調子に乗ってくれたなァァァァ!!」

「少し? おいおい、評価はキッチリとやってもらいたいものだな、相当だよ、私は」

「では、私は―――」

「待ってくれ、ペトロヴナ。ここは一つ覚醒するかどうかを見てみようじゃないか。なぁ、君もこのまま終わらせるつもりはないだろう? 総てを失ったかもしれない。それでも、君自身はまだタタリとして存在している。その意味、その真価を僕に見せてはくれないのかい、イグニス」

「………我はまだ為すべきことを為していないと?」

「君がそうしてネスツが潰滅したとしても、まだ生きているということ。それ自体が答えだと僕は思っているよ。君はまだ生きなければならないと自分自身に言い聞かせているんじゃないのかい?」

「そうだな、そう、我はまだ何も成し遂げてはいないのだから」

「空気が変わったぞ、気を付けろよ、ミコト。あの男、身体中に傷を負ってはいるが、決して楽な相手ではないぞ」

「ああ、分かっているよ」

 

邯鄲再世戦争――第二十九戦

壱 チトセ・朧・アマツ    対 キーラ・グルジエフ

弐 ミコト・姫・アマテラス  対 イグニス

参 ゼファー&ヴェンデッタ  対 白儀響

 

「分水嶺じゃのぉ。これで勝てんようなら、希望なんざありゃせんわ……」

 1人呟く狩摩の言葉は盲打ちをして、酷く状況が悪いことを示していた。これまでに誰一人として白儀に土をつけることはできなかった。夢を扱う者では彼を倒すことは決してできない。

 であれば、夢を扱わないゼファーとヴェンデッタにその期待が寄せられるのはある種当たり前のことであった。

 ここで勝てるかどうか、それが白儀たちの勢いを強めるか殺すのかを完全に決定づけるのであろうと戦いの重要性を彼は強く認識していたのだ。

 

――学園都市第七学区・第三十戦域――

「嘘だろ、凌駕さんたちがそんな……」

「嘘だって言えれば、私だってそう言いたいよ。だけど、真実だ。凌駕達は天魔との戦いに残った。私とアルティを逃がすために、さっき、向こうの方であのドデカい天魔が消えていくのを皆も見たでしょ? それはたぶん、凌駕達がやってくれたんだと思う」

「で、でも、あんなのを倒すのはそんな簡単なことじゃないじゃない。凌駕達は――」

「言うまでもねぇよ。あんなの死力を尽くさなくちゃ斃せねぇさ。あいつらが天魔どもとの戦いで命を繋いだとしても、これ以上戦えるわけもない」

 グラナの冷静な言葉は残酷な事実を周囲に知らしめる。しかし、それが事実だ。この誰が何処から襲撃を仕掛けてくるのかもわからないような道中の中で、あれほどの死力を尽くさなければ勝利できない相手との戦いを強いられたとなれば、その後がどうなるのかくらいは誰にでもわかる。

「だったら、今すぐにでも助けに行こう! アタシたちは幸い、まだ全然動ける。シルヴィがここに来てくれた今ならアタシたちは凌駕を助けに―――」

「ダメだ、夢路、メリー。アンタたちと合流したからこそダメだ。アルティを本部へと返さないといけないことだけはお願いさせてもらうけれど、凌駕達を助けに行くことは認められない」

「どうしてよ!! シルヴィ、あんた、まさかいも―――」

「メリー、それ以上は言うんじゃねぇよ。俺とメリーが切り札になるかもしれないからってことだろ?」

 夢路はメリーが勢い余って、シルヴィにとって負い目を感じさせる言葉を吐こうとしたために制止の声を上げる。夢路にも分かっている。シルヴィの意図、何故、彼女が自分たちを助けてくれた凌駕と美琴を見捨ててでも、夢路たちの安全を優先しようとしているのか。

「白儀響は夢を扱う存在には斃せない。運よくそういうのを使わないような奴らとばかり出くわしてくれればいいけれど、そいつらだって倒すことができるかどうかなんてわからない。だけど、夢の門番であるメリーと白儀と深く繋がっている夢路、アンタたちだけはわからない。切り札になるかもしれないアンタたちをみすみす危険な場所に連れていくわけにはいかないんだ」

 シルヴィは自分の拳を強く握りしめて、むしろ、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

 本当は誰よりも早く自分が凌駕達を助けに行きたいと思っているのだ。しかし、自分で口にした理由によりそれができないと彼女は分かっている。分かっているからこそ、奥歯を噛みしめてでも、その流れに持ち込もうとする自分を押さえつける。

「あんたたちは出来る限り、最短の道を進んで、白儀響と当たらなくちゃいけない。勿論、この戦いの中でそれがどれだけ難しいことなのかは私もよく分かっている。だけど、それが必要なんだ。私たちにとっては」

「……だろうな、俺も同じ気持ちだよ。正直、俺もメリーもあんまり長ったらしく時間稼ぎをしていられるような状態じゃない」

 夢路はそう言って自分の右手を掴む。そこにはもはや隠しきることもできないほどの痛みが常に走り続けている。それをやせ我慢で痛みが奔っていないようにしているつもりではあるが、そんな演技がいつまでも続くわけがない。

 夢と現実の世界が一つになりかけていることの影響なのだろう。門が崩壊しかけていることで体調が最悪にほど近いメリー同様に夢路とてベストなコンディションではない。

 シルヴィの言う通り、寄り道をすることはそのままこのチームの死活問題になりかねない・

「俺もグラナも以前の戦いで傷を負っている。正直、俺達のチームは全員が手負いと言ってもイイ。そこで無謀な突撃を繰り返すことは間違いなく自分たちの首を絞めることになるだろうな」

 アゲハも夢路やシルヴィの意見に賛成した。実際の所、それで拒否をしても何の意味も無いことが分かっていたからこその反応ではあるのだが、アゲハとグラナというこの場における重要な戦力が首を縦に振ることには彼らが思っている以上の意味があるのだ。

「なら、決まりじゃねぇか。さっさと動いた方がいいだろ。じゃねぇと、いつ敵が来るのかも―――――いや、もう手遅れだったか」

 呟いたグラナは諦めの息を零した。今更動こうとも逃げることはできない。完全に捕捉されてしまっていると分かったからこそ、あえてグラナは言葉に出したことで戦闘態勢に入れと全員に告げたに等しいのだった。

 だが、それよりも早く戦闘態勢に入ったモノが一人いた。それはある種の直感、そして確信だった。

 そう、自分たちは必ず激突することになると誓っていたし、信じていたからこそ、もうこれ以上の寄り道ができないというのならば――――

「ようやく見つけたよ、よかった、手遅れになる前じゃなくて」

 ここで決着をつける他ないだろう。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。こっちこそ待ちくたびれたぜ。ずっとずっとお前とこうして決着をつける時を待っていた」

「私もだよ、その想いは今ようやく実る。誰にも邪魔させない。誰にも止めさせない。

 さぁ、どちらかがこの夢の果てに消え去るその瞬間まで―――」

「「勝負しようか!!」」

 

邯鄲再世戦争――第三十戦

壱 メリー・ナイトメア 対 『嫉妬』の鈿女

弐 グラナ       対 女神天子

参 藤原夢路      対 『暴食』のザトラツェニェ

 

 それは約束された因縁の闘い、必ず決着を付けようとあの日の夜に誓いあった関係であるからこそ、それが寄り道であると分かっていたとしても避けることはできない。

 何処までも深く繋がったその因縁を発散するために、先へと進むのがどちらなのかを見定めるために夢路とザトラ、共に相手の力を吸収する者同士の決戦がついに始まる。

 

To be continued

 

次回――邯鄲再世戦争第三部第三十話「名前のない夢」