アメリカでは警察ドラマが昔から大流行を続けている。それだけ長い歴史があるからこそ、そうそう毎週、斬新な犯罪を考えつくことは難しいだろう。だからこそ、警察ドラマでは主要な登場人物の個性が面白さを左右することになり易いと思う。自分の場合はレギュラー陣となる捜査官らが、ユーモラスな警察ドラマが好きだ。立て続けに発生する事件を、刑事らがシリアス一辺倒で解決する警察ドラマはあまり好みじゃない。犯罪大国のアメリカが舞台ともなると、事件数の多さから警察のメンバーがアル中になってしまったり、精神的な問題を抱えるというリアルな警察ドラマで優秀な作品も多いとは言え、どっちを取るかと言われたら、やっぱり私の場合は少々リアリズムに欠けるとしても、笑えるエピソードが含められている警察ドラマの方が捨て難い。

l_458253_00995811そこで、シリアスとコミカルが絶妙のバランスで描かれている警察ドラマとしてお勧めしたいのが『クローザー』(原題:"The Closer" 05年~米)。このドラマも大人気で『デクスター』のように、現在も放送が継続中。だが、このシリーズは現地で正しく今、番組完結への最後の六つのエピソードが放送されようとしている。とは言え、それは不人気になってしまったからではないことが、『クローザー』のスピンオフとして "Major Crimes" という新たな番組が近日中に放送開始されることが証明している。『クローザー』の完結は、作中で私生活の状況もどんどん変わって行く、主人公のブレンダ・リー・ジョンソン重大犯罪課本部長補佐に何らかの転機が訪れてのことだと個人的には予想している。この番組は、全米でも犯罪率が特に高いロサンジェルスを舞台にしており、ロス市警の副本部長であるポープに、ブレンダが新設された重大犯罪課の事実的リーダーとして抜擢され、アトランタから赴任して来るところから始まる。 重大犯罪課は原則として殺人のみを扱う部署…それまでにロサンジェルスで起こってきた殺人事件を扱ってきた刑事達の中からそのリーダーが選ばれなかったことにロス市警の刑事らは不満で一杯。ブレンダはCIAにいたキャリアもあり、特に容疑者を自白へと導く尋問術に長けていたが、ロス市警のメンバーらにしてみればよそ者で、しかも女 ―― ファースト・シーズンでは重大犯罪課の面々の誰もが彼女を‘チーフ’と呼ばねばならないことに苛立っていた。けれども、ブレンダもかなりのつわものだ。部下らが自分に嫌々従っていることを知りつつも、そんな事実など気にもかけずに自分流の捜査法でガンガン事件を解決してしまう。その様子に部下らも舌を巻き、やがては彼女に一目置いては慕うようにさえなって行く。これは嬉しい展開なのだが、嫌われ者だった当初のブレンダと部下らの皮肉交じりのやりとりも、なかなか笑えて楽しめた。ブレンダはアトランタ出身とあって、南部訛りの英語で喋っており、それを茶化して彼女の物真似をしていた部下がブレンダ自身に見つかるシーン等、可笑しな場面がいくつもあり、ファースト・シーズンはそんな部下にも飽くまで笑顔で指令を下すブレンダが視聴者には頼もしく映ったことだろう。

重大犯罪課が扱う事件は実に様々。日本とは異なり、アメリカのドラマでは必ずしも毎回同じ脚本家が脚本を書いているわけではないため、エピソードの一つ一つに書き手の渾身のアイデアや台詞が込められており、似たような詰まらない事件が続くことがない。ブレンダは殺人となれば如何なる類のものでも、重大犯罪課が扱うべきだという姿勢で、緻密に仕組まれた計画殺人から、ストリート・ギャングの抗争事件に至るまで捜査の権利を主張する。麻薬絡みでも、殺人が起これば麻薬捜査課に事件を渡すことを拒み、FBIが元々追っていた容疑者が関わっている事件でも、ロス市警の管轄で起きた殺人ならば、自分の縄張り内だとして優先的に捜査を進めてしまう。なので、部下達からは信頼と尊敬を得るようになっても、他の部署やFBIからは相変わらず嫌われ者…やっかいな女というイメージがブレンダから拭い去られることはない。それでも彼女はアトランタの優雅な貴婦人のように、‘サンキュ~!サンキュ~、皆さん!’と誰にも彼にも、容疑者までにも愛想を振りまきながら、裏では好き勝手に事件の捜査を行い続ける。しかも、本人は全く自覚が無いが、服装趣味も田舎のお嬢様風で、実に刑事らしからぬもの ―― そんなブレンダを部下達は初めのうちは、‘スカーレット・オハラ嬢’などと馬鹿にして呼んでいた点がまた可愛い。

殺人現場が屋外の場合も、カリフォルニアの日差しを避けるために奥様向けっぽいつばが大きく広がった帽子を被って登場するブレンダは、重大殺人課のリーダーにはとても見えない。まるで刑事達に紛れて普通の主婦がその場にいる様相だ。加えてブレンダは方向音痴で、慣れないロサンジェルスの右も左も分からず、車で現場に辿り着くのも一番最後(この問題は、後にカーナビという新兵器を入手して解決されるが…)。だが、こと容疑者の尋問になると、彼女の脳内は研ぎ澄まされた刃物のように鋭くなるのだ。アメリカは日本よりも科学捜査が進んでおり、自白よりも物的証拠が重視されていると思われがちだが、やはり事件の早期解決を狙うなら犯人に自白させることが一番だ。ブレンダの自白のさせ方は、物証を並べて言い逃れができない方向へと容疑者を追い込むような単純なものではない。物証が無くても、彼女は上手く容疑者らを調子に乗せたり、刑に関する取引きをするように見せかけては、彼らを見事に自白させるのが十八番なのだ。この番組のタイトルは、そうした意外な方法で容疑者を告白させては事件の幕を閉じる役割を‘クローザー(閉じる者)’と呼ぶことに因んでいる。よってブレンダが各エピソードの後半で容疑者と一対一で対決するシーンこそが、この番組の最大の見所。それでいて、決してワン・パターンに陥らず、毎回のように思わぬ方法で自白を引き出してくれるのが素晴らしい。こうしたポイントが非常に巧みに脚本に盛り込まれているので、事件そのものが密室殺人や猟奇殺人等の奇抜なものである必要がないことも、『クローザー』というドラマの大きな特徴だ。この番組内で起こる殺人の数々は、概ねどこでも起こり得るような、悪く言えば平凡で、良く言えばリアルな事件がほとんど。それでいながら、『クローザー』が一度観始めると次のエピソードも観たくなる一話完結型ドラマなのは、キレ者ながらちょっとズレてる敏腕チーフのブレンダのキュートな魅力と、彼女の一癖も二癖もある部下らの存在もあってのこと。ブレンダは番組内で私生活では普通に恋愛、同棲、結婚にまで至るが、更年期障害にも苦しんだりと、普通の女性である一面もしっかり描かれている。そうした彼女と、尋問室での彼女の落差がまたイイ味を出しているわけだ。また、ブレンダは甘い物中毒で、常にジャンク菓子を机の引き出しにしまっており、捜査中も関係者の家でケーキやクッキーを出されると遠慮なく頬張っては、土産としてお持ち帰りまでしてしまう始末。これほど、‘らしくない’女刑事はなかなかいないだろう。事件そのものはシンプルでも、本当の謎はブレンダがいかにして犯人を落とすかにあり、ユーモアは登場人物らの個性に満載されてる。ありがちなようで、実はちょっとした異色作の『クローザー』は、見逃すには余りにも惜しい警察ドラマだ!

作品関連情報リンク集:Wikipedia

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『クローザー』最終シーズンTV予告