dendeke終わりあってこそ愛おしい青春

大林宣彦監督の作品で最も好きな作品の一つが『青春デンデケデケデケ』だ。原作は芦原すなおの同名小説(河出書房新社)で、この作品は第27回文藝賞と第105回直木賞を受賞している。原作に忠実に映像化をする監督として有名な大林監督が、この青春小説を映画化にあたって担当してくれたのは、運命的としか言いようがないほど見事な組み合わせと言えるだろう。大林監督は原作の面白さを殺すことなく、懐かしの1960年代を映像のややくすんだ色彩からも再現し、主人公らの高校時代の想い出を生き生きと蘇らせた。物語は1965年の春休みに、香川県観音寺市に両親と共に暮らす、高校入学を控えた藤原竹良こと愛称:ちっくんが、昼間に家でうたた寝していた最中に、ラジオから流れてきたベンチャーズの“パイプライン”という曲に衝撃を受けるというシークエンスから始まる。それまではさして打ち込むような趣味を持たなかったちっくんは、‘デンデケデケデケー!’という有名なギターのフレーズを耳にしては、落雷に打たれたかのように感激し、それをもって高校に入ったらロックバンドを結成しようと心に誓う。彼は親しい仲間を勧誘して集め、町の住職の息子である合田富士男にベース、魚屋の息子である白井精一にリード・ギター、練り物屋息子である岡下巧にドラムを割り当て、ちっくん自身はサイドギター兼ボーカリストとして夢のバンドを難なく作り上げることに成功…しかし、彼らは楽器を持っていなかった。ちっくんらは相談して高校生活初の夏休みに、個々にアルバイトをして楽器購入のためのお小遣い稼ぎをする。家族や町の人々の助けもあり、このアルバイト作戦も無事に遂行。お金を貯めた彼らは、町に一軒だけあった楽器店から、店主の好意もあって何とか楽器を揃えることができた。バンドの名前はロッキング・ホースメンに決定 ―― 物静かなインテリ肌の白井が玩具のロッキング・ホースにひっかけて考えついたなかなかイケてるバンド名だ。これでいざバンド活動開始となるが、しかし、彼らには揃って練習できる場所がない。仕方なく屋外で練習を始めると、急な雨に襲われるという悲劇もあった。メンバーらは基本的にそれぞれの自宅で練習し、合田の寺の境内で主に合同練習をすることで何とか活動を続けるが、彼らの学校の音楽教師も練習場所を提供してくれた。彼らの小さな町に‘デンデケデケデケー!’が初めて轟いた時、町の人々もその電気ギターの音に驚いて、ロッキング・ホースメンの存在は町中に知れ渡る。彼らの同級生で町一番の裕福な医者の息子である谷口静夫もバンドに興味を示し、機械いじりが得意の秀才だった彼はロッキング・ホースメンのために手製のアンプを作って渡す。これによって彼はロッキング・ホースメンの技術顧問として名誉会員となる。ちっくんらのバンドのデビュー公演は町のスナックの開店記念パーティーで華々しく行われ、彼らは学内での活動も認められることになり、女子ファンも現れ出す。

takahasidekedeke1そのファンの一人に、引地めぐみという少女もいた。ファンと言っても、バンドそのものではなく、彼女は白井一人にぞっこんだった。当時流行していた白いスピッツ犬を連れて、白いワンピースを着た彼女は、ストーカーのように白井家の店先を電柱の後ろに隠れながら毎日のように見つめ、‘八百屋お七のように放火でもするんじゃないか?’と白井家の人々をゾッとさせる。彼女のせいで落ち着いて白井が練習できないのは問題だとして、ロッキング・ホースメンらは事態を深刻に検討するようになり、ちっくんにポルノ雑誌を度々貸していた豪傑の合田が、めぐみの想いを断ち切る妙案を考えつく。何とそれは、白井とちっくんが同性愛で結ばれていると偽るという過激なものだったが、合田はそうだから諦めろとめぐみに寺の息子らしく説いて聞かせ、彼女を説得してしまうシーンは爆笑ものだ。その合田に‘女にモテるぞ’と唆されてブラスバンド部からロッキング・ホースメンの仲間入りをした岡下にも、実は石山恵美子という意中の女子がいた。だが、岡下は‘明石のタコ’と仇名されるほどナヨナヨしており、自分から彼女にアプローチなどできるわけがない。それを周知しているメンバーらは、町の夏祭りで二人を鉢合わせさせる作戦を計画。恵美子のハートを射止めるまでにはならなかったものの、祭りの群衆の中で岡下はつんのめった勢いでラッキーにも彼女と唇を合わせてしまう。そのシーンの後にちっくんのナレーションによって、恵美子が後に岡下以外の男と結婚して平凡な三児の母となったことが明らかとなるが、岡下にとっては忘れ得ぬ夏祭りの甘酸っぱい想い出ができたわけだ。一方、ちっくんにも唐本幸代という初恋のほのかなロマンスもある。以前からそれなりに友達だった幸代が、大胆ながらも自然にちっくんに一緒に海に遊びに行こうと誘うのだ。海はちっくんの家の目と鼻の先にあった。二人が水着で、誰もいない海辺で子供同士のように水遊びに興じるだけでその一日は終わるものの、ちっくんは幸代の姿に欲情して勃起してはそれを隠すのに四苦八苦する様子が可愛くも可笑しい。

_3_3こうしてそれぞれのメンバーが思春期も満喫する中、ロッキング・ホースメンは文化祭での公演に向けて練習を本格化しようと一致団結。白井の店に出入りする業者のトラックに楽器を詰め込んで、強化合宿と称して山にキャンプに行くことに…ちなみにトラックの持ち主の青年は白井の姉に惚れているようで、ロッキング・ホースメンと名誉会員の谷口がワイワイと盛り上がっている状況の裏で、大人同士の恋も彼らの存在のお陰で進展しようとしていた。強化合宿は練習の他にも、自分達で食事を作っては食べ、夜は仲良く寝袋に潜り込んで並んで野宿という、初めての体験の数々に溢れていた。大自然の中で演奏する彼らは当初よりかなり腕前も上達しており、なかなか様になっている。谷口の妹は合宿で食べてもらってくれとクッキーを焼いてくれていた…ちっくんは谷口の家で何度か会った物静かな彼女を想い出し、自分達が周囲の様々な人々によって支えられていることを実感するのだった。大林監督は、ロッキング・ホースメンを見守っている人物達をも、実に丁寧に愛情を持って描写している。 ‘マクドナルドすらない’小さな町を舞台としながらも、この作品の登場人物は数多い。前述した白井の姉と出入り業者の青年の芽生えつつある恋愛関係などが、ロッキング・ホースメンの周りで、さり気ない日常の出来事として起こっている様子が作中の至る部分に盛り込まれている。ロッキング・ホースメンこそ勿論、この映画の主役なのだが、観音寺市そのものが彼らの存在を可能にしていることが明らかに感じて取れるように描かれているのだ。ちなみに、この映画を撮影するにあたって、俳優陣らは実際に観音寺市にしばらく滞在して、香川弁が口に馴染むようにしたらしい。映像の中には俳優達だけでなく、観音寺市に実際に住んでいる人々の姿もそのまま撮影されており、そうした手法が一層リアリズムを生み出し、町の空気がそのまま伝わってくるような作品へとこの映画を仕上げている。

760de4294a4859b9faf4daff748ecc47さて、ロッキング・ホースメンは文化祭の公演で大好評を博す。会場は盛り上がり、生徒達だけでなく町の人々も彼らを観ようと大勢が押しかけた。そこで彼らは全ての始まりとなった、ベンチャーズの“パイプライン”も披露する。‘デンデケデケデケー!’が誇らしく小さな町に響き渡って行く。誰もがその音に魅了され、最高にハッピーな一時は大成功のうちに幕を閉じる。けれども、こうした場面を映画の後半以降で観続けるにつれ、観客は何気なく淋しい気持も感じ始めるはず ―― 何れちっくんらは高校生活を終え、それと共にロッキング・ホースメンの活動も終焉を迎えるだろうことが予想できるからだ。『青春デンデケデケデケ』は趣味のバンド活動を、将来の仕事にしたいと願う少年達のストーリーではない。彼らは一種のクラブ活動のような趣きで、仲間と過ごす時間を楽しみながら音楽を続けていたに過ぎず、誰もが卒業後は各メンバーが違った道を歩むだろう現実を初めから認識しているのだ。作品のラストでは、高校を卒業した後にちっくんだけが町を離れて進学することとなり、ロッキング・ホースメンは別れを惜しみながらも、いつもの活気をもって彼の門出を祝福する。残ったメンバーらは、それぞれの実家の稼業を受け継いで生きて行くのだ。勿体なくも感じられるが、今時の若者のようにプロのミュージシャンを目指そうという展開にこの映画はならないのだ。しかし、だからこそこの映画は美しく、幸せに満ちているのだ。青春は終わりがあるからこそ何物にも代え難く、愛おしい。そうした原作者と監督の青春に対する視点が根底に流れているからこそ、ただただ面白く、ただただ笑えて、ただただ幸福なばかりのこの作品は、単なる娯楽作品以上の余韻を観る側の心に残してくれるのだ。大林監督の映画は好き嫌いが分かれ易いが、この『青春デンデケデケデケ』だけは彼の他の作品が苦手な方でも充分に堪能できるに違いない。ロッキング・ホースメンと同じような青春を送った方々、そして、ロッキング・ホースメンのような青春を送りたかった方々…双方に是非ともご覧いただきたい日本映画の大傑作だ。

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『青春デンデケデケデケ』予告編