アメリカのドラマが好きとは言え、実は『ビバリーヒルズ高校白書』(原題:"Beverly Hills, 90210" 90~00年米)系のリッチで美男美女揃いの若者による青春ドラマは苦手だ。この手のドラマはどう頑張っても登場人物らに愛着が抱けない(概ね、羨ましさによる妬みが原因かもしれないが…)。そもそも、若者中心となれば、決まって恋愛要素がかなり絡んで来る。恋愛映画ならばまだ耐えられる作品もあるが(長くても恋愛だけの映画なら精々2時間で済むから)、ドラマ・シリーズで他人の晴れた惚れたを延々と見せつけられるのはご免こうむりたい体質なのだ。だが、そんな中で大好きなティーンエイジャー・ドラマが一つだけある。主人公は高校生だが、このドラマは全くもって彼女の普通ではない日常を描いているからだ。そして、物語は基本的に一話完結型でありながら、大前提として主人公はどんなに元気に見えても、実は憐れな過去を背負ったまま、学校ではどんなグループともつるまない孤独な一匹狼…アメリカ・ドラマでは珍しいタイプの女子高生なのだった。

VERonICA_MARS_jpg=600このドラマのタイトルは主人公の名前をそのまま取って、『ヴェロニカ・マーズ』(原題:"Veronica Mars" 04~07年米)となっている。物語はカリフォルニア州の海辺に近いネプチューンという架空の街。そこには映画俳優等の豪邸に住む大金持ちと、そうではない貧困層の人々が住んでいる。当然、彼らの子供達が通う地元のネプチューン高校にも、日本で言うところのいわゆる‘セレブ’家庭の生徒らと、そうでない中流あるいは貧困家庭の生徒らが真っ二つに分かれるような雰囲気で通っている。主人公のヴェロニカの父親は街の警察署長だったため、彼がある事件に巻き込まれるまでは、彼女も中流家庭の普通の女の子でありながら、‘セレブ’系のグループの仲間入りを果たしていた。ヴェロニカは顔も性格も頭もいいリッチな家庭出身の彼氏であるダンカン・ケインと付き合っており、同時に彼の姉である奔放なリリーとは友達…リリーの彼氏でダンカンの親友であるローガンを含めて、四人は仲良くダブル・デートするほどの間柄だった。だがある日突然、ダンカンは理由も語らずにヴェロニカとの関係を一方的に解消してしまった。しかも、それに大ショックを受けたヴェロニカには、更なる悲劇が待ち受けていた。何とリリーが何者かに撲殺されてしまったのだ。ヴェロニカの父親は、リリーの家族の誰かが彼女の殺人に関与しているのではないかと疑い、それが原因で大手ソフトウェア企業の社長であるダンカンとリリーの父親が裏で糸を引き、ネプチューン警察署長の座を追われる破目になる。以降、彼はキース・マーズ個人として事務所を開き、私立探偵として生計を立てるようになった。しかし、街の裕福層からの非難に耐えられず、アル中となってしまったヴェロニカの母親は夫と娘を見捨てて失踪してしまう。ヴェロニカはリリー殺害事件に関する父親の見解を信じたくないながらも支持し、その決断によって‘セレブ’系の生徒達からは完全に疎外されてしまった。そして、以前は常に招待されていた彼らのパーティーに、意地を見せて参加した際にレイプ用の睡眠薬を飲み物に仕込まれて、ヴェロニカは‘セレブ’グループの何者かに強姦されてしまう。意識が無かったので犯人が誰だかは不明のまま。警察に訴え出ても、新しい署長は彼女の父親とは犬猿の仲だったため、何の捜査もしてくれなかった。だが、ここまでは『ヴェロニカ・マーズ』の本編が始まる前のお話で、第一話から回想シーンとして紹介されている部分に過ぎない。ヴェロニカは彼氏を失い、親友を失い、母親を失い、処女までも失った悲しみを堪えながら、裕福、中流、貧困を問わず、全ての生徒達から奇異の目で見られながらも、父親の探偵業を手伝いながら、ネプチューン高校に通い続けていた。このドラマは、涙無しには語れない過去を持つ主人公の、‘それから’を描いた番組なのだ。

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