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 民法改正勉強ノート、嵐を呼ぶ第14回。

 今日は、代理権濫用法理を明文化した改正後民法107条をテーマにします。

 まず、新しい民法107条の姿を見てもらいます。重要なポイントが目白押しなので、赤字ばっかりになってしまいました。

【改正後民法】
(代理権の濫用)
第107条
 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす

 旧民法105条が削除され、旧民法106条が新民法105条に、旧民法107条が新民法106条に移動した結果、新しい民法107条がぬけがらになっていました。そこに受肉したのが、代理権濫用法理です。

 これまでは、代理権の濫用が問題になる場面について、ぴったりと当てはまる条文がありませんでした。

 そこで、裁判実務では、心裡留保について定めた民法93条ただし書を類推適用するというテクニックが使われていましたが、これからは、単に民法107条を適用すればOKです。


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1.代理権濫用の問題場面


 一応、代理権の濫用がどんなときに問題になるのか、概要をお伝えします。

 代理人が、本人から与えられた権限の範囲の契約などをしたら、「無権代理行為」というものになります。原則として、無権代理行為の効力は本人に及びませんが(民法113条)、一定の場合には表見代理という仕組みによって相手方が保護されます。

 これに対し、代理人が、権限の範囲のことをしても、本来、「無権代理行為」とは呼べません。だって、権限があるんですもん。無権じゃないですもん。

 とはいえ、代理人が、権限の範囲で自分にできる行為を、まんまと悪用して、本人ではなく代理人等の利益を図るような場合は、ありえます。こういう場合であっても、無権代理行為にならない以上、代理人がした行為は本人にも効力が及んでしまうのが原則です。

 でも、そういう代理人の目的を、法律行為の相手方も分かっていたような場合はどうでしょうか。相手方と本人とを見比べて、どっちを保護してあげたくなるかというと、本人ですよね。

 そこで、このような場面では、相手方が、代理人の意図を知っていたときや、知らないことに過失があったときに限って、民法93条ただし書を類推適用して、本人を保護しようと考えられてきました(最高裁昭和42年4月20日第一小法廷判決・民集21巻3号697頁)。

【最高裁昭和42年4月20日第一小法廷判決・民集21巻3号697頁】
 代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、民法九三条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じないと解するを相当とするから(株式会社の代表取締役の行為につき同趣旨の最高裁判所昭和三五年(オ)第一三八八号、同三八年九月五日第一小法廷判決、民集一七巻八号九〇九頁参照)、原判決が確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告会社に本件売買取引による代金支払の義務がないとした原判示は、正当として是認すべきである。


 こういう判例法理を明文化したのが、民法107条です。

 なお、今までの判例は、代理人の「意図」とか、「濫用の事実」とかいう表現を用いていましたが、民法107条には、代理人の「目的」という文言が使われています。


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2.代理権濫用の効果


 しつこいですが、今まで、代理権が濫用されたケースで活躍していたのは、民法93条ただし書の類推適用です。

(第5回)
015民法93条(心裡留保)

 おおもとの民法93条ただし書は、「相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」と定めています(※改正後の条文です)。

 これに対し、代理権濫用の法的効果について、民法107条は、「無効」だとは書いていません。

 「代理権を有しない者がした行為とみなす」というのが、民法107条の答えです。無権代理行為だと法的に決めつけるわけですね。

 代理権を有しない者がした契約については、民法113条で処理されます。民法113条は、今回の改正の対象になっていません。

【民法】
(無権代理)
第113条  ※改正なし
1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生じない
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

 要するに、代理権の濫用によって代理人がした行為は、本人が追認をしない限り、本人には効力が及ばないわけです。

 細かい話ですが、無権代理行為の法的な効果については、「無効」だと書いてある教科書もありますが、「効果不帰属」だと書いてある教科書(四宮=能見、内田など)もあります。民法107条を新設するにあたって、民法93条ただし書の「無効」という表現をそのまま輸入しなかったのは、「効果不帰属」派の学者さんの采配によるものだろうと推測しています。私も、こっちのほうがしっくりきます。

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3.法定代理人は?


 民法107条の文言を読むと、「任意代理人」であるか、「法定代理人」であるかを問わず、「代理人」一般が対象になっていることが分かります。

 ただし、法定代理人については、特別な注意が必要です。

 民法107条の新設は、今までの最高裁判例を変更するようなものではないと思います。

 従来の判例法理からすると、法定代理人である親権者が子を代理してする行為であって、利益相反行為に当たらないものについては、「親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情」がない限り、本人(=子)は保護されません(最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決・民集46巻9号2727頁)。


【最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決・民集46巻9号2727頁】
 親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばないと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇二五号同四二年四月二〇日第一小法廷判決・民集二一巻三号六九七頁参照)。
  ・・・しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、それが子自身に経済的利益をもたらすものでないことから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用に当たると解するのは相当でない。


 もっとも、判例が特段の事情の例として挙げているのが、「子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的として」いる場合なので、民法107条の文言とそんなに大きな違いはないのかもしれません。


(第15回)
26民法108条(自己契約・双方代理)

へ つづく




民法の基礎から学ぶ 民法改正
山本 敬三
岩波書店
2017-09-27