不貞と慰謝料 不倫相手への慰謝料請求


 離婚に関連して、不倫相手への慰謝料請求についてご相談を頂く機会は非常に多いです。

 離婚と「セット」で知っておいたほうがいい情報が多いので、この「やさしい離婚」シリーズで、不倫相手への慰謝料請求についても解説させてもらいます。

 今回の記事は、「第12回:離婚による慰謝料 7つのポイント」の記述を前提にしている箇所が多いです。先にそちらから読んで頂いたほうが、スムーズに読み進められるかもしれません。


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 0.不倫相手への慰謝料請求-ポイント

 今日の記事のポイントは以下のとおりです。

1.不倫相手が「知っていた」場合、慰謝料請求できる
2.肉体関係以外の行為で慰謝料が発生する可能性も
3.先に婚姻関係が「破綻」していたら慰謝料請求できない
4.子どもは原則として慰謝料請求できない
5.不倫相手のほうが慰謝料請求することも
6.不倫相手に慰謝料請求する方法
7.不倫相手が負担する慰謝料額の相場
8.どちらかが弁済をしたら-不真正連帯債務の処理
9.慰謝料の消滅時効
10.慰謝料に対する遅延損害金の起算点は

 上に挙げた順番に沿って、説明をしていきます。

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 1.不倫相手が「知っていた」場合、慰謝料請求できる


 配偶者に不倫をされてしまった場合、その配偶者だけではなく、不倫相手にも慰謝料を請求できる可能性があります。

不貞行為の相手方への慰謝料請求

 その法的な根拠は、配偶者への請求と同じように、不法行為に基づく精神的損害の賠償です(民法709条、710条)。大事なことが書いてあるので、民法の条文も引用しておきます。

【民法】

 (不法行為による損害賠償) 
第709条
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 (財産以外の損害の賠償) 
第710条
 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。


 夫婦は、それぞれ、婚姻共同生活の平和安全・幸福を維持するという法的な権利利益をもっています。

 結婚している人と不倫をしてしまうということは、そういう権利利益を侵害することを意味しています。

 不倫をした二人の関係が自然の愛情に基づいて生まれたとしても、不倫関係を持ってしまった以上、それは権利・利益の侵害になってしまいます(最高裁昭和昭和54年3月30日第二小法廷判決・民集33巻2号303頁)。つまり、慰謝料請求ができるのは、不倫相手が配偶者を誘惑したとか、罠にはめたとかいう悪質な場合に限定されるわけではないのです。

 上の条文に書いてあるとおり、不法行為による損害賠償が認められるためには、不倫相手に「故意又は過失」がないといけません。

 ここでいう「故意」とは、「交際相手に配偶者が居ることを知っている」という内心の状態です。

 「夫婦関係を壊してやろう」とか、「あの男を困らせてやろう」とかいう積極的な意図=害意がなくても、「この人は結婚している」と認識しつつ不倫に至れば、原則として「故意」があったことになります。

 「過失」というのは、「交際相手に配偶者が居る」と知っていて当然だったという場合です。「普通は分かるよね」という場合には、故意がないとしても、注意義務違反としての過失が認められる可能性があります。「わざとじゃないの」というだけでは、言い逃れできない可能性があるわけです。

 逆にいうと、「交際相手が結婚していることを知らなかったし、気付きようもなかった」というケースでは、不倫をしてしまった場合でも、故意・過失がないので、不法行為責任を負わないことになります。





 一応、(私自身の備忘のために)歴史の話をすると、最高裁の前身・「大審院」の時代から、配偶者の一方と肉体関係を持った第三者は、他方の配偶者に対して不法行為責任を負うと判断されていました(大審院明治36年10月1日判決、大審院明治51年3月30日判決、大審院大正15年7月20日決定、大審院昭和2年5月17日判決)。

 最高裁も、大審院の考え方を受け継いでいます(最高裁昭和34年11月26日第一小法廷判決・民集13巻12号1562頁、最高裁昭和41年4月1日第二小法廷判決・裁判集民事83号17頁、最高裁昭和54年3月30日第二小法廷判決・民集33巻2号303頁)。


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 2.肉体関係以外の行為でも


 ここまで、「不倫」という表現を使ってきました。一般的によく使われる表現だと思ったので。

 実際の裁判では、不法行為の内容を表す言葉として、

  ◇ 「肉体関係」
  ◇ 「男女関係」
  ◇ 「情交関係」
  ◇ 「不倫」
  ◇ 「不貞行為」
  ◇ 「姦通」
  ◇ 「逢瀬」

など、色んな言葉が飛び交っていると思います。

 ここで、一つの疑問が湧いてきます。具体的には、どんな行為があったときに、慰謝料請求が可能になるのか、という点です。

 直球の表現を使うと私が恥ずかしくなるので、古典的なA・B・Cの概念(A=Kiss)を使わせてもらうと、

  ☑ 「C」のときだけなのか
  ☑ もっと範囲が広いのか

確認しておく必要があると思います。

 参考になる文献として、「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」(判例タイムズ・1278号45頁)では、次のように分析されています。かなり噛み砕いて紹介します。

 そもそも、不倫が不法行為(民法709条、710条)になるのは、それが婚姻共同生活の平和という権利・利益を侵害するからです。

 そうなると、純粋に「C」ではなくても、常識で考えてみて、婚姻共同生活の平和を侵害するような行為であれば、不法行為になり得ると考えられます。

 「そんなことしたら、そりゃ夫婦仲は壊れるよね」という行為であれば、「C」に限らず、不法行為になっておかしくないというわけですね。

 具体的には、

① C 又は Cに類似する行為
② 同棲
③ その他婚姻を破綻に至らせる蓋然性(がいぜんせい)のある交流・接触

であれば、不法行為になると考えられます。

 これは、第4回:離婚裁判の流れと注意点で紹介した、離婚原因としての不貞行為(民法770条1項1号)よりも、範囲が広いといえます。

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 3.先に婚姻関係が「破綻」していたら?


 「■第12回:離婚による慰謝料 7つのポイント」でも説明させて頂いたとおり、不倫の前に、既に婚姻関係が破綻していた場合には、不倫相手に対して慰謝料の請求はできないと考えられています。

 婚姻関係が破綻している状態で不倫に至った場合には、相手の権利・利益を侵害した(民法709条)とはいえないからです(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁)。

 ここでいう「破綻」とは、婚姻関係が完全に復元の見込みのない状態に立ち至っていることだと理解されています(田中豊・最高裁判例解説<民事篇>平成八年度233頁以下)。

 単に、夫婦の一方が婚姻を継続する意思がない、もはや婚姻生活を修復する意思がないというだけでは、婚姻関係が破綻しているとは認められません(渡邉泰彦「婚姻破綻の判断要素」判例タイムズ1298号85頁)。

 夫婦の片っぽが「もう離婚するつもり。別れる。」などと考えていたり、それを口に出したりしていても、それだけで婚姻関係が破綻していたとはいえないのです。

 実際には婚姻関係が「破綻」していなかったという場合でも、事情によっては、不倫相手の故意・過失が否定される可能性はあります。

 すなわち、不倫相手が、「この人は結婚しているけれど、婚姻関係が破綻している」と認識していて、しかも、そのような認識を持ったことに不注意もないという場合には、故意・過失がないことになるので、不法行為は成立しません。つまり、慰謝料請求はできないことになります。

 もっとも、「婚姻関係が破綻している」と信用することについて、過失が全くないといえるためには、それだけの合理的事情が必要だと思います。


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 4.子どもが不倫相手に慰謝料請求することは?


 親が不倫をした場合に、子どもが受ける精神的ダメージは本当に大きいです。

 ですが、夫婦間の未成年の子どもが、自分の親と不貞行為をした第三者(不倫相手)に対して、慰謝料請求をすることは、原則としてできません(前掲最高裁昭和54年3月30日第二小法廷判決・民集33巻2号303頁)。

 その不倫相手が、害意をもって子どもに対する監護を積極的に阻止していたなど、よっぽどの事情がない限り、子どもに対する不法行為にならないのです。

 なぜかというと、①不貞行為をするかどうかと、②子どもに愛情を注いで監護・教育をできるかどうかは、別の問題だからです。

 異論を差し挟む余地(つっこみどころ)があるのはもちろん承知していますが、不倫相手が居ても、親は、子どもに愛情を注げるはずです。

 なので、不倫によって子どもが事実上不利益を被っても、それは親の頑張りが足りないだけで、不倫相手の行為とは因果関係がないと考えられているわけですね。

慰謝料請求できる人


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 5.不倫相手のほうから慰謝料請求?


 少し脇道にそれますが、逆に、不倫相手のほうが、交際相手=不倫をしたほうの配偶者に対して、慰謝料請求をするというケースは、想定できないわけではありません。

 不倫をしたほうの配偶者がひどい嘘をついていたような場合です。

 最高裁昭和44年9月26日第二小法廷判決(民集23巻9号1727頁)では、次のとおり判断されています。

 「男性に妻が居ることを知りながら、女性がその男性と肉体関係を持ったとしても、その動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の肉体関係を持った動機、詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比して男性側における違法性が著しく大きいものと評価することができるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は許されるべきである。」


 書いてあるとおりですが、浮気をした男性側の違法性が著しく大きいと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求ができるというわけです。

 あとは、交際相手が結婚していることを知らなかったような場合で、結婚の約束(婚約)までしていたときには、婚約不履行に基づく損害賠償請求ができる可能性もあると思います。


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 6.不倫相手に慰謝料を請求する方法


 どうやって不倫相手に慰謝料の支払を求めるかというと、色々な方法があります。

 不倫をした配偶者への請求と同時進行にすることもできますし、不倫相手への請求だけを進めていくこともできます。ご自分に合った方法を選べばいいと思います。

 以下、(1)交渉をする、(2)不倫相手だけに対して調停・訴訟をする、(3)配偶者と不倫相手を同時に調停の相手方にする、(4)離婚訴訟に不倫相手への訴訟を併合させる、(5)離婚後、配偶者と不倫相手を被告とする訴訟を起こす、という5つの手段について説明をさせて頂きます。

 なお、不倫の証拠の集め方については、自分が担当している個別事件への影響を考え、ここでは言及しません。

 (1)交渉


 面談・電話・手紙などの方法により、まず自分で不倫相手と交渉をしてみるのは、一つの手です。

 その交渉の経過も、後で裁判になったときのために、記録に残しておいたほうがいいと思います。

 こんなことを言うのは心苦しいのですが、ご注意頂きたいのは、「脅迫」になってしまうような言動をとらないことです。

 「脅迫」とは、相手の生命・身体・財産・名誉などに危害を加える旨を告げることです。

 「××に言いつける」「××をしてやる」というようなきつい表現は、避けたほうがいいでしょう。

 ご希望があれば、弁護士が代理人になって交渉をすることも可能です。


 (2)不倫相手だけに対して調停・訴訟


 配偶者が不倫をしてしまった場合に、「それでも離婚しない」という結論をとる人は少なくありません。

 愛情が残っている場合もあるでしょうし、子どものために我慢する場合もあるでしょうし、経済的な事情で耐え忍ぶ場合もあるでしょう。

 不貞をはたらいた配偶者と離婚をするにしても、親権・養育費・面会交流・財産分与など、争点がたくさん生まれてしまって、解決が長引くことは多いです。

 そこで、配偶者との離婚トラブルとは切り離して、不倫相手だけに対して裁判を進めて行くことは、結構よくあります。

 うまく話がまとまるか疑問もありますが、一つの方法として、不倫相手だけを相手方にして、調停を申し立てることが考えられます。簡易裁判所に民事調停を申し立てることも、家庭裁判所に家事調停を申し立てることも可能です。

 あとは、不倫相手を被告にして、地方裁判所又は簡易裁判所に、民事訴訟を提起するという方法を選ぶことも考えられます。「調停前置主義」という建前はとられていないので、調停を経ずに、いきなり民事訴訟を起こしても構いません。話し合いをしても時間の無駄になりそうな場合には、最初から訴訟を起こしたほうがいいと思います。

 なお、不倫相手だけを被告にする場合は、「人事訴訟」(家族法上の身分関係などを定める裁判)にはなりません。


 (3)配偶者と不倫相手を同時に調停の相手方にする


 配偶者を相手取って離婚調停をするときに、同時に、不倫相手に対する慰謝料請求の調停をすることは可能です。

 が、上で紹介したとおり、配偶者との離婚調停では、親権・養育費・面会交流・財産分与など、慰謝料とは別の争点について調停が長引くことも十分に起こり得ます。

 なので、不倫相手の資力や財産状況にもよりますが、不倫相手への請求と配偶者への慰謝料請求とで、別々に話を進めていくことも検討されたほうがいいと思います。

 なぜ不倫相手の資力等を考えるかというと、後でお話する「不真正連帯債務」の処理が関係してきます。


 (4)不倫相手を被告とする訴訟を離婚訴訟に併合させる


 第3回:「離婚までの流れ~調停~」、第4回:「離婚までの流れ~訴訟~」で説明したとおり、離婚調停が不調に終わったとき、それでも配偶者との離婚を希望するのであれば、離婚訴訟を起こす必要があります。

 この離婚訴訟に、不倫相手を被告とする慰謝料請求の訴訟をくっつけることが可能です。

 方法としては、①最初から一緒に提訴する方法と、②途中で併合してもらう方法の二つがあります。

 すなわち、①離婚訴訟を起こすときに、不倫相手に対する慰謝料請求の訴訟を一緒に起こして、一つの手続にまとめることが可能です(人事訴訟法17条1項)。

 また、②先に離婚訴訟を起こしている場合に、不倫相手に慰謝料を請求する訴訟を同じ家庭裁判所に起こし、二つの訴訟を併合してもらうことも可能です(人事訴訟法17条2項)。

【人事訴訟法】
(関連請求の併合等)
第17条 人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とは、民事訴訟法第百三十六条の規定にかかわらず、一の訴えですることができる。この場合においては、当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2 人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求を目的とする訴えは、前項に規定する場合のほか、既に当該人事訴訟の係属する家庭裁判所にも提起することができる。この場合においては、同項後段の規定を準用する。


 (5)離婚後に配偶者と不倫相手を被告とする民事訴訟を起こす


 これも第4回:「離婚までの流れ~訴訟~」でご説明差し上げましたが、配偶者と離婚するときは慰謝料について決めないでおいて、離婚後に、別途慰謝料だけを求める調停や訴訟を起こすことがあります。

 この場面の訴訟は、家庭裁判所に提起する人事訴訟ではなく、地方裁判所(金額によっては簡易裁判所)に起こす一般的な民事訴訟です。

 離婚後に配偶者を相手取って損害賠償を求める民事訴訟を起こすときに、不倫相手も同時に被告にすることは可能です。


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 7.慰謝料額の相場


 前回の説明と重複しますが、慰謝料の額を決定する場合には、様々な事情を考慮して妥当な金額を導き出すことになります。

 考慮の対象にされることが多いのは、次のような事情です。

 ◇ 関係者の年齢
 ◇ 婚姻期間の長さ
 ◇ 婚姻生活の状況
 ◇ 不倫をされてしまったほうの配偶者の落ち度
 ◇ 子どもの有無、子どもへの影響の度合い
 ◇ 離婚に至ったかどうか
 ◇ 不倫ないし離婚前後の当事者の経済状況
 ◇ 不倫相手の認識、意図
 ◇ どちらが不倫を主導したか
 ◇ 不倫が続いた期間
 ◇ 不倫の内容、頻度
 ◇ 不倫発覚後の行動、謝罪の有無

 各種文献によると、実際の裁判で認められるの慰謝料の額としては、数十万円~300万円程度が多く、平均は200万円前後のようです。

 不倫をした配偶者に命じられる慰謝料よりも、不倫相手に命じられる慰謝料のほうが少なくなる傾向があるとの指摘がなされることもありますが、事情によりけりだとは思います。


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 8.どちらかが弁済をしたら-不真正連帯債務の処理


 不倫をされてしまったほうの配偶者から見ると、①不倫相手と、②不倫をした配偶者は、二人とも加害者です。

 法的には、この二人の加害者によって、共同不法行為(民法719条)が行われたと捉えることになります。

 二人の加害者(共同不法行為者)の責任は、連帯責任です。二人が負っている債務は、「不真正連帯債務」と呼ばれています。

 不倫をされてしまったほうの配偶者に、これから書く内容をお伝えするとき、しのびない気持ちになるのですが、不倫相手と、不倫をした配偶者に、「どっちも満額」支払ってもらうのは、かなり難しいです。

 加害者二人のうち、どちらかが慰謝料の支払=弁済をしたときには、もう一人も、その弁済額に応じて免責されてしまうからです。

 例えば、①不倫相手を被告とする民事訴訟で慰謝料200万円の支払が命じられ、②不倫をした配偶者を被告とする離婚訴訟で慰謝料300万円の支払が命じられたとします。

 通常、この場合に、①不倫相手から200万円、②配偶者から300万円、合計500万円をもらえるわけではありません。

 (1)先に不倫相手が200万円を支払ったら、配偶者からもらえるのはあと100万円です。

 (2)先に配偶者が300万円を支払ったら、不倫相手からはもうお金をもらえません。

 (3)先に配偶者が200万円の一部弁済をしたときは、不倫相手からあと100万円支払ってもらうことが可能です。


 三つ目の場合の処理は少し意外かもしれませんが、債権者は、損害額全部(上の例でいうと300万円)の満足を得られるまで、各連帯債務者に対し、それぞれの限度債務額(上の例の不倫相手の場合は200万円)までは請求できます。

 なので、配偶者が200万円の一部弁済をしたときは、配偶者にも不倫相手にもあと100万円を支払うよう要求できる状態になります。どちらかが100万円を支払ったら、両方免責されます。




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 9.慰謝料の消滅時効はいつから進行する?


 繰り返しになりますが、不倫相手への慰謝料請求=不法行為に基づく損害賠償請求です。

 不法行為による損害賠償債権は、「損害及び加害者を知った時から3年間」で、時効によって消滅します(民法724条)。

 ただし、3年間が経つ前に訴訟を起こすなどすれば、時効は中断(リセット)されます。

 不倫をされてしまったとき、いつ「損害及び加害者を知った」といえるかというと、事案によって異なります。

 ここでは、(1)不倫によって被った精神的苦痛を埋め合わせるための慰謝料と、(2)離婚を余儀なくされたことによって被った精神的苦痛を埋め合わせるための慰謝料(離婚をした場合に限られます)とを、分けて考える必要があります。

(1)不倫そのものによる慰謝料


 不倫によって受けた精神的苦痛を償うための慰謝料は、不倫関係を知った時点から、消滅時効が進行を始めます。下で引用する最高裁判決は「同せい」についてのものですが、不倫一般に当てはまるといえるでしょう。

 夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である(最高裁判所平成6年1月20日第1小法廷判決・裁判集民171号1頁)。


 上の判決でややこしいのが、「それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行する」という表現です。

 逆にいうと、それまでの間の」ではないもの、つまり、「知った時」より後に受ける精神的苦痛に対応する慰謝料請求権は、不倫関係が継続されるなら、その後、随時消滅時効が進行していくということになります。

 例えば、不倫関係を「知った時」から4年間我慢して、その後に慰謝料請求に踏み切ったと仮定します。

 もし、その4年間、不倫関係が続いていたなら、3年分の精神的苦痛に対する慰謝料は請求できることになります。それより前の分は、時効により消滅します。

 他方で、もし、「知った時」から半年で不倫関係が終わっていたときには、全部時効によって消滅してしまうことになるので、不倫自体についての慰謝料は請求できません。

(2)離婚による慰謝料


 離婚したことに対応する慰謝料の時効がどうなるかというと、前回紹介した最高裁昭和46年7月23日判決が参考になります。

 本件慰藉料請求は、「婚姻関係の破綻を生ずる原因となった虐待等」の「個別の違法行為を理由とするものではなく」、「有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は、離婚が成立してはじめて評価されるものであるから」、「相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときにはじめて、離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなる」(最高裁判所昭和46年7月23日判決・民集25巻5号805頁)。


 要するに、離婚をやむなくされて精神的苦痛を被ったことに対応する慰謝料は、離婚が成立した時から消滅時効が進行を始めるわけです。

 ただし、離婚より3年以上前に、既に婚姻関係が破綻していた場合には、不倫自体を理由とする慰謝料請求権は時効により消滅するので、その分を加味した請求をすることがきません。その場合、婚姻関係が破綻した後である以上、離婚そのものによる慰謝料は高く評価されないことになってしまうと思われます。

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 10.慰謝料に対する遅延損害金はいつから?


 「慰謝料を支払う」という金銭債務の履行が遅れたら、債務者=加害者は、慰謝料そのものだけではなく、慰謝料に対して年5%の割合で計算される遅延損害金を支払わなければなりません。

 遅延損害金がいつから計算されるかというと、不法行為が終了した日です。

 不法行為が終了した日の翌日ではありません。初日算入です。

 では、いつ不法行為が終了したことになるかというと、次の3つに場合分けできます。

(1)夫婦の関係が破綻したり、夫婦が離婚したりする前に、不倫関係が終わったという場合には、不倫関係が終わった日から遅延損害金が起算されます。

(2)夫婦が離婚をしたときは、離婚の日から遅延損害金の計算をスタートすることになります。

(3)離婚する前に、夫婦の婚姻関係が破綻した場合には、破綻した日から起算されます。

 なんで(3)の場合に、破綻した日が不法行為の終了日になるかというと、いったん夫婦関係が破綻した以上は、権利・利益の侵害=不法行為が続いているとはいえないからです。

 ただし、上でもご説明したとおり、婚姻関係が破綻していたという認定は、そう簡単にされるものではありません。



やさしい離婚(ト音)
赤の傘■第1回:離婚するときに何を決める-離婚の準備
橙の傘■第2回:離婚までの流れ~協議~
黄の傘■第3回:離婚までの流れ~調停~
緑の傘■第4回:離婚までの流れ~訴訟~
水の傘■第5回:離婚と家事審判-何が審判になって、何が人事訴訟になる?
青の傘■第6回:DVと離婚 保護命令の活用と手続の流れ
紫の傘■第7回:婚姻費用-知っておきたい6つのこと
赤の傘■第8回:離婚と親権-親権者はどうやって決まる?
橙の傘■第9回:養育費-離婚後の子どもの成長のために知っておきたいこと
黄の傘■第10回:離婚・別居と面会交流
緑の傘■第11回:離婚と財産分与-何をどうやって分ける?
水の傘■第12回:離婚による慰謝料 7つのポイント
青の傘■第13回:不倫相手への慰謝料請求
紫の傘■第14回:離婚と年金分割