遺産分割調停


 この記事では、「遺産分割調停」という手続がどんなものなのか、説明をさせて頂きます。


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1.おさらい-遺産分割とは


 前回は、遺産分割の事前準備や、遺産分割協議の方法などについて説明させて頂きました。

 簡単におさらいをしましょう。

 人が亡くなったときに、「遺産分割」という手続が必要になるのは、

 ①相続人が複数で
 ②遺言では行き先の決まらない遺産があって
 ③遺産共有の状態を解く必要がある

という場合です。

 そして、遺産分割の方法としては、法律上、

 ❶協議(当事者間で話し合う)
 ❷調停(裁判所で話し合う)
 ❸審判(裁判所が決める)

という3つが用意されています。 


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 「遺産分割の対象」になるのは、被相続人に属した財産のうちで、遺産共有の状態に置かれるものです。ただし、相続人全員が合意をすれば、本来遺産分割の対象に含まれないものも、遺産分割の対象にすることが可能です。

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遺産共有関係の解消


 相続人どうしの話し合いで解決ができなかった場合に、それでも、「遺産分割の対象」になる財産の分け方をきちんと決めたいと望むのであれば、裁判所に頼るしかありません。

 まずは、遺産分割調停の申立てをするのが通常です。


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2.調停とは


 調停は、ひとことで表すと、「裁判所を介して話し合う手続」です。

 TVで目にするようなおごそかな法廷ではなく、ゆったりした応接室、小会議室のような部屋で、当事者の話を聴いてもらいます。

 調停を求めるほうの当事者は「申立人」、その反対の当事者は「相手方」と呼ばれます。

 前回もお伝えしたとおり、遺産分割は、法定相続人全員が参加する必要があります(相続放棄をした相続人を除きます)。

 なので、遺産分割調停では、法定相続人は、申立人か相手方のどちらかに、必ず名を連ねることになります。

 法定相続人が3人以上居る場合、複数の人が「申立人」になったり、「相手方」になったりします。

※ 遺産分割調停が成立した後に、他に共同相続人が居たことが判明した場合には、たとえその相続人が権利放棄した実状にあっても、調停は無効だと考えられています(家月9巻6号119頁)。

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 通常は、申立人側と、相手方側とで、別々に部屋に呼ばれて、交代で話を聴いてもらうという運用になっています。15分~30分程度で交代することが多いです。

  申立人と相手方とで、裁判所に呼び出される時間も15分~30分程度ずらしてあって、待合室も別になっているのが通常です。

 相手方が複数のときは、ばらばらに話を聴くこともありますし、相手方を全員まとめて部屋に呼んで、同じ機会に話を聴くこともあります。事案によりけりです。


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3.調停委員会-調停委員と家事審判官


 調停は、2人以上の調停委員と、1人の裁判官(家事審判官)を介して、話を進めていきます。2名以上の調停委員と裁判官とを合わせて、「調停委員会」と呼びます。

 裁判官によっても対応が違いますが、裁判官は、調停にいつも同席しているわけではありません。当事者から詳しく話を聴くのは、調停委員という非常勤の職員の方々です。

 ジェンダーバランスを考えて、男女1名ずつ(合計2名)の調停委員がその事件を担当することが多いです。ただ、離婚事件と比べると、遺産分割事件では、調停委員2名の性別が同じである確率は高いというのが私の実感です。

 基本的には、同じ調停委員が、一つの調停事件を担当し続けます。期日ごとに別の調停委員が待っているわけではありません。

 豊富な社会経験をお持ちの方が望ましいので、40歳~70歳の方を調停委員に任命することになっています。弁護士、司法書士、元教員、元銀行員、社長など、いろんな方が調停委員になっています。

 法的に難しい検討課題が多いので、遺産分割調停や遺留分減殺請求調停は、離婚事件よりも、司法書士や弁護士などの法律実務家が調停委員になる確率は高いと思います。

 調停委員には、裁判官との評議の秘密や、関係者の秘密を守る義務があり、違反すると罰せられます(家事事件手続法248条、292条、293条)。ですから、調停のとき、「これは相手に伝えて欲しくない、秘密にしてほしい」と言っておけば、知られたくないことを相手に漏らされるということはないはずです。




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4.どうやって調停を申し立てるか


(1)申立書


 家庭がらみのトラブルについて裁判所で調停をすることを、「家事調停」といいます。

 遺産分割調停、寄与分を定める処分の調停、遺留分減殺請求調停なども、家事調停の一種です。

 家事調停の申立てをするときは、申立書を家庭裁判所に提出することになっています(家事事件手続法255条)。

 申立書の書式は、通常、家庭裁判所に行けば、手続案内の書類などと一緒に渡してもらえます。

 裁判所のホームページからダウンロードした書式を自分で印刷する方法もあります。

 今の法制度だと、紙媒体で申立書を提出する必要があります。「Web申立」のような仕組みは用意されていません。

 申立書には、当事者や代理人を書くほかに、何の調停を求めるのか(申立の趣旨)、なんで調停を求めるのか(申立の理由)を書くことになっています。必要なことが書いてあれば、裁判所が公開している書式を使わなくてもOKです。

 申立ての趣旨の内容は具体的である必要はありません。被相続人の遺産の分割を求める、などと書いてあれば十分です。

 自分で調停を申し立てるときは、手に入れた書式に自分で書き込みをして、裁判所に提出をします。押印が必要ですが、普通は実印でなくても大丈夫です。

 提出をするときは、申立書を裁判所に持参するか、郵送してください。

 弁護士に依頼をして調停の申立てをするときは、弁護士が「手続代理人」として代わりに申立書を作って、家庭裁判所に提出します。


(2)添付書類-どんな資料が必要か


 遺産分割調停を申し立てる場合には、

☑当事者等目録
 (被相続人や相続人の本籍等を記載したもの)
☑相続関係図
☑遺産目録
 (遺産分割の対象になる財産等の一覧)

を提出するのが通常です。

 また、こうした目録等がきちんとしているかどうかを確認するために、裏付けになる資料を提出します。

 当事者等目録に関連して、法定相続人が誰かを確定するために、被相続人の生まれてから死ぬまでの戸籍(戸籍全部事項証明書、戸籍謄本、改製原戸籍など)と、各相続人の戸籍が必要です。

 2017年5月から、法務省の法定相続情報証明制度(→法務省WEBページ)が始まりました。まだ情報は未確定ですが、今後は、法定相続情報一覧図に登記官が認証文を付したものの写しを利用すれば、遺産分割調停の申立て可能になるのではないでしょうか。

法定相続情報証明制度(法務省パンフレットから)

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 必須ではないと思われますが、被相続人と法定相続人の住民票も、申立書に添付することが多いです。

 それと、遺産目録に関して、次のような資料が必要です。

 不動産については、名寄帳、固定資産評価証明書、登記全部事項証明書(登記簿謄本)等を提出します。不動産にどのくらいの値打ちがあるか問題になる場合には、鑑定書や査定書などを添付することもあります。

 預貯金については、残高証明書、通帳、取引明細書などを提出します。

 このほか、株式、貸金債権などについて、その存在や価値が分かる資料を提出します。

 前回お伝えしたとおり、葬式費用は、原則として遺産には含まれませんが、相続人全員が遺産分割の計算に入れることに応じた場合は、一緒に取り扱うことができます。本来遺産分割の対象にならないプラス・マイナスの財産についても遺産分割調停の中で取り上げたい場合には、併せて資料を提出しておいたほうがいいと思います。


(3)調停の費用


 調停1件ごとに、1200円分の収入印紙と、郵便切手が必要です。郵便切手は、裁判所ごとに違うと思われます。当事者が多いと、切手も多く必要になる可能性があります。

 被相続人が複数居て、それぞれの遺産について遺産分割調停が必要な場合には、被相続人一人ごとに1件とカウントされて、印紙・切手を用意する必要があります。

※ 「代襲相続」や「再転相続」があるだけで、事件数のカウントが増えるわけではありません。誰名義の財産があるかが問題です。


 弁護士に依頼をする場合には、これとは別に、弁護士費用がかかります。

 ここでいう弁護士費用には、①着手金、②実費、③成功報酬金などがあります。着手金や報酬金は、経済的利益の大きさ(遺産の額)などによって上下します。

 遺産分割は、弁護士によって、費用にばらつきのある分野かもしれません。セカンドオピニオンで相談を受けたとき、結構びっくりする金額を耳にすることもありますので。

 遠方の家庭裁判所に出頭する必要がある場合には、他に④旅費日当が必要になる可能性があります。

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(4)どこの裁判所に申立てをするか


 家事調停の申立てをするのは、原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法245条)。

 相手方が東京に一人、大阪に一人、福岡に一人居るときは、そのいずれかを管轄する家庭裁判所(東京家裁、大阪家裁、福岡家裁)に申立てをすることになります。

 当事者の間に合意があれば、合意で決めた家庭裁判所にも管轄が認められます(同条)。

 なお、調停を経ず、遺産分割審判から申し立てる場合は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属します(家事事件手続法191条)。

【家事事件手続法】
(管轄)
第191条
1 遺産の分割に関する審判事件(別表第二の十二の項から十四の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 前項の規定にかかわらず、遺産の分割の審判事件(別表第二の十二の項の事項についての審判事件をいう。以下同じ。)が係属している場合における寄与分を定める処分の審判事件(同表の十四の項の事項についての審判事件をいう。次条において同じ。)は、当該遺産の分割の審判事件が係属している裁判所の管轄に属する。
(管轄等)
第245条
1 家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
2 民事訴訟法第11条第2項及び第3項の規定は、前項の合意について準用する。
3 第191条第2項及び第192条の規定は、遺産の分割の調停事件(別表第二の十二の項の事項についての調停事件をいう。)及び寄与分を定める処分の調停事件(同表の十四の項の事項についての調停事件をいう。)について準用する。この場合において、第191条第2項中「前項」とあるのは、「第245条第1項」と読み替えるものとする。

 管轄がない家庭裁判所に調停の申立てがされたときでも、特に必要があると家庭裁判所が認めてくれれば、その家庭裁判所が自ら事件を処理することが可能です(家事事件手続法9条)。


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5.調停申立て後の手続の流れ


 家事調停の申立書を家庭裁判所に提出して、事件を受け付けてもらえたら、1か月前後くらいの間をあけて、第1回調停期日が指定されます。1回で話し合いが済まなければ、第2回、第3回・・・と期日が続いていきます。

 調停の場では、次のようなことを確認します。

 ①相続人の範囲
 ②遺産の範囲
 ③特別受益はあるか
 ④以上を踏まえて、遺産を誰がどのように取得するか

 そのために、調停の中では、当事者がお互いの言い分を主張し合ったり、各自資料を提出したりします。

 とくに、遺産がたくさんあるような事案や、被相続人から生前に特別な受益をしていた人が居る(居るかどうか争いになっている)ような事案だと、調停が1~2年続くことも珍しくありません。

 預貯金だけでは公平に配分できない場合には、当事者の誰かに代償金を支払わせて解決をする「代償分割」という方法がとられることがあるのですが、その代償金の額をめぐって、争いが長引くこともあります。


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6.相続分の譲渡と手続からの脱退


 相続放棄はしていなかったものの、とくに遺産は要らないという人は、他の誰かに相続分の譲渡をすることもできます。

 その場合、「脱退届」「相続分譲渡証書」という書類を家庭裁判所に出せば、調停事件・審判事件から抜け出すことができます。


脱退届
相続分譲渡証書


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7.寄与分を定める調停との関係


 被相続人の財産の維持・形成のために特別の貢献をした人は、「寄与分」があることを主張して、本来の法定相続分よりも多めに遺産を取得できる可能性があります。

 遺産分割調停の中で、寄与分について話し合うことは制限されていません。寄与分があることを前提に遺産分割調停を成立させることも可能です。

 しかし、寄与分について、当事者の間で話がまとまらなかった場合には、裁判所に寄与分を定めてもらわなければいけません。

 意外に思われる人も居るかもしれませんが、「遺産分割」の調停・審判では、裁判所が寄与分を定めることはできません。

 寄与分を定めるためには、寄与分を定める調停・審判という別の手続が必要です。

 ある家庭裁判所に遺産分割調停が申し立てられているときは、寄与分を定める調停も同じ家庭裁判所に申し立てられなければいけません(家事事件手続法191条2項)。一緒に処理するために、遺産分割調停と寄与分を定める調停は、併合されます(同法192条)。


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8.具体的相続分の算定


 最終的に、遺産をどのように分けるかを検討するときに大切なのが、「具体的相続分」です。

 具体的相続分とは、法定相続分(又は被相続人が指定した相続分)に、特別受益と寄与分を考慮して修正をした上で算定する最終的な相続分率です。

 法定相続分が「3分の1」で、遺産総額が4000万円、特別受益の額(生前贈与を受けた額)が500万円の人を例にとると(他の相続人は特別受益なし、寄与分は全員なし)、

①みなし相続財産(本当ならこのくらいあったはずだよねという遺産)は、4000万円に500万円をプラスした4500万円です。

②その3分の1にあたる1500万円が、本来の相続分に対応する額です。

③ただし、生前贈与で500万円を受け取っているので、その分はもうもらえません。

④というわけで、この人の具体的相続分の額は1000万円です。具体的相続分率は9分の2ということになります。


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9.代償金による解決-代償分割


 現存する遺産を分けるだけでは、公平な解決ができない場合は少なくありません。

 例えば、誰か一人が取得する不動産の価値が高くて、わずかな預貯金を分け合うだけでは、法定相続分に見合った配分ができないような場合です。

 こういう場合、価値の高い不動産を取得する相続人に「代償金」を支払わせることで、平等な状態を作り出すことがしばしば行われています。これが「代償分割」というものです。

 預貯金でうまく調整できる場合でも、とりあえず相続人のうち誰か一人が預貯金を取得して、その人が払戻手続をして、「代償金」というかたちでみんなにお金を配ったほうが、便利なときもあります。そういうときにも代償分割は行われます。

 このように、いろんな場面で潤滑油として機能するので、代償分割という方法は、実務では結構よく利用されています。

 代償金を支払う側は、代償金の支払能力があることを他の当事者や裁判所に示して、納得をしてもらう必要があります。


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10.調停の成立-調停調書


 いよいよ話がまとまれば、裁判官(家事審判官)にお互いの意思を最終的に確認してもらって、調停が成立します。

 合意できた内容は、「調停調書」という公的な文書に残してもらえます。

 調停調書の中の「調停条項」というのが、合意の内容です。裁判官が口頭で内容を確認してくれます。

 調停が成立したとき、当事者が調停調書に署名押印をするわけではありません。

 ほかでもない裁判官が意思確認をするのですから、わざわざ当事者に判を押させなくてもいいと考えられているのです。

 やや裏技っぽくなりますが、当事者が色んな地方に居て、全員が裁判所に集まるのが難しいときは、「調停に代わる審判」によって、同様の効果を生むこともあります。


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11.調停がうまくいかない-審判への移行


 お互いの言い分がある程度出そろった段階で、まだ意見の対立が続いているとき、すぐに「審判」という手続に移行するかというと、そうでもありません。

 ひとまず、裁判所から調停案を出して、当事者の意見に変化があるかどうか、確認をすることが多いです。裁判所が、事実上調停案を示すこともあれば、「調停に代わる審判」を出すこともあります。

 そうやって、調停による解決の可能性を模索してみて、それでも無理だったときには、調停の手続を終わらせて、「審判」に移行することになります。

 遺産分割調停の申立てをしていた場合、それとは別に、改めて審判の申立てをする必要はありません。

(第6回)
月明かり紫遺産分割審判
につづく