民法1015条 遺言執行者の行為の効果


 民法(相続法)改正勉強ノート第19回。

 本日は、「遺言執行者の行為の効果」について定める改正後民法1015条に刮目してみます。

 このたびの法改正で、「遺言執行者の地位」という見出しだった旧1015条とは、お別れすることになります。

 今のうちに、この条文にさよならを言う練習をしておきましょう。

〔改正前民法〕
(遺言執行者の地位)
第1015条
 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
【改正後民法】
(遺言執行者の行為の効果)
第1015条
 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。




 遺言執行者は、遺言の内容を実現するために存在します(改正後民法1012条1項)。本来は、遺言者の代理人のような立場だといえるでしょう。

 ですが、遺言の効力が生じるそのとき、遺言者はもうこの世に居ない(法主体性を喪失している)ので、「居ない人の代理人」というのも法的には観念できません。それで、遺言者の地位を承継する相続人の代理人だと擬制してしまう、そういう風に決めつけちゃう、というお話でした。

 ですが、「代理人とみなす」ということの法的な意味は、そんなに明確ではありませんでした。

 そこで、「相続人の代理人とみなす」という文言の実質的な意味を明らかにするために、民法1015条は、全面的にリニューアルされました。

 すなわち、遺言執行者が、与えられた権限内で、遺言執行者であることを示してした行為は、そのまま相続人に法的な効力をもたらします(改正後民法1015条)。

 ポイントは、①権限内の行為であること、②遺言執行者であることを示してした行為であること、ですね。

<<解説>>

1.権限内の行為


 まず、遺言執行者の権限の範囲に関するルールを復習しておきます。

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(改正後民法1012条1項)。

 遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、遺言執行者の権利義務も、その部分に限定されます(改正後民法1014条1項)。

 遺贈の履行をすることが必要なとき、誰がやるかというと、遺言執行者です(改正後民法1012条2項)。遺言執行者がいれば、ですが。

 遺言が特定財産承継遺言だったら、遺言執行者は、対抗要件を具備するために必要な行為をすることができます(民法1014条2項)。とくに、その対象財産が預貯金債権だと、払戻し・解約も可能です(民法1014条3項)。

【改正後民法】
(遺言執行者の権利義務)
第1012条
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(第16回)★★
306民法1012条(遺言執行者の権利義務)
【改正後民法】
(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条
1 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(第18回)★★★
民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)

 このような権限の範囲内の行為であることが、民法1015条を適用する前提になっています。


※ 遺言執行者が権限の範囲外の行為をしたときに、相続人に対する関係で、絶対に効力が生じないのかというと、表見法理との関係で、さらに検討する余地があると思います。

(関連記事)
28民法110条(権限外の行為の表見代理)


<<解説>>

2.遺言執行者であることを示してした行為


 民法1015条の第二のポイントは、「遺言執行者であること」を示すことが要求される点です。

 一般的に、「代理人」という立場の人が、代理行為をするためには、本人のためにすることを示す必要があります(民法99条)。法学の世界で、「顕名」と呼ばれている行為です。

【民法】
(代理行為の要件及び効果) ※改正なし
第99条
1 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
(本人のためにすることを示さない意思表示) ※改正なし
第100条
 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
【改正後民法】
(代理行為の瑕疵) new!
第101条
1 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

(関連記事)
020民法101条(代理行為の瑕疵)


 遺言執行者は、「相続人のためにすることを示す」のではなく、「遺言執行者であることを示す」というわけですね。

 遺言執行者は、必ずしも相続人の利益のために職務を行うわけではなく(最高裁昭和30年5月10日判決・民集9巻6号657頁参照)、「遺言の内容を実現するため」に存在する(改正後民法1012条1項)という理念が、ここにも表れていますね。





 以上、民法1015条について学びました。

(第20回)★★
307民法1016条(遺言執行者の復任権)
(第21回)★
民法1025条(撤回された遺言の効力)

へ つづく

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