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  一年で一番好きな季節はどれかと問われたら、私は迷いなく秋だと答えます。

 冬は寒すぎて夏が恋しくなるし、夏は暑すぎて冬が恋しくなりますが、秋は秋のままでいいと思えるので。

 あと、春は花粉が飛んでくるのが耐えがたいので。

 どういうわけか、今年は、いきなり夏から冬にタイムスリップした感がありましたが、もうちょっと季節にくっきり区切りをつけて欲しいですね。秋の物悲しさを味わう時間がないと、どうも調子が狂います。おかげで、徒にブログ更新を繰り返すという愚行に走ってしまいました。

 さて、民法改正勉強ノートはというと、今日で、くっきり一区切りです。「代理」関係の条文を取り扱うのは、今日が最後なのです。なんだか寂しくなりますね。

 ここ数日に登場した、代理権濫用(新民法107条)、自己契約・双方代理(新民法108条)、表見代理三兄弟(新民法109条以下)。

 これらの規定とセットで知っておいたほうがいいのが、無権代理人の責任について定めた民法117条です。

 民法117条は、改正前も、改正後も、無権代理人の責任について規定しています。

 間違い探しをやる感覚で、ビフォー・アフターの条文を見比べてみてください。

【改正前民法】
(無権代理人の責任)
第117条
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。
【改正後民法】
(無権代理人の責任)
第117条
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。



<<解説>>

1.民法117条1項


 民法117条1項のどこが改正されたか、すぐ分かりましたか?

 もう一度抜き書きをしますね。

 改正前は、「自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは」責任を負う、という規定でした。

 改正後は、「自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き」責任を負う、という規定に変わりました。

 これって、何か違うところがあるんでしょうか・・・論理学っぽい問題ですね。ロースクールに入る前に受験した「適性試験」を思い出します。

 改正前・改正後のどちらの場合も、自己の代理権を証明できたら、責任は負わない。

 どっちも、自己の代理権を証明できなくても、本人の追認を得ることができたら、責任を負わない。

 どっちも、自己の代理権を証明できなくて、本人の追認を得ることもできなかったら、責任を負う。

 論理的には、同じこと、ですよね・・・?(どきどき)

 無権代理人は、契約の相手方に対し、契約どおりの履行をするか、損害賠償(お金での解決)をしないといけません。どっちにするかを選べるのは、相手方のほうです。


<<解説>>

2.民法117条2項


 もう少し変化が分かりやすいのが、民法117条2項です。

 改正前の「代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったとき」という言葉を、1号~3号に分けつつ、やや修正をかけています。

 「又は」と「若しくは」の違いが気になる方は、以下の記事をお読みください。

(関連記事)
ボルト音記号「又は」と「若しくは」 公用文での使い方の違い


 改正前も改正後も、民法117条2項は、①相手方の悪意、②相手方の過失、③無権代理人の行為能力の制限、という3つのどれかを根拠に、無権代理人を免責する規定です。

 ②に関しては、今回の改正で、ただし書が付加されました。無権代理であることを相手方が知らなかったことについて過失があるときでも、無権代理人自身が悪意であるときは、無権代理人は免責されません(改正後の民法117条2項2号ただし書)。

 ③は、無権代理人が「行為能力を有しなかったとき」という文言だったのですが、「行為能力の制限を受けていたとき」と直されました。制限行為能力者は、できること・できないことの幅が人によって違うので、改正後の文言のほうが、より精密だといえますね。


(第20回)
31民法120条(取消権者)

へ つづく